特許第6322433号(P6322433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322433
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】パンタグラフ異常検知方法及び検知装置
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/28 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   B60M1/28 R
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-26218(P2014-26218)
(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公開番号】特開2015-150997(P2015-150997A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】小山 達弥
(72)【発明者】
【氏名】池田 充
(72)【発明者】
【氏名】臼田 隆之
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−187432(JP,A)
【文献】 特開2014−028535(JP,A)
【文献】 特開平08−324302(JP,A)
【文献】 特開昭63−192653(JP,A)
【文献】 特開2007−241583(JP,A)
【文献】 実開平05−082644(JP,U)
【文献】 国際公開第2008/056393(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物の間に架け渡された吊架線から垂下するハンガーに吊られたトロリ線と摺動しながら集電するパンタグラフの異常を検知する方法であって、
前記パンタグラフと摺動するトロリ線を平面視レール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具にかかる荷重を測定し、
該荷重の絶対値が所定の閾値を超えるか、又は、該荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定することを特徴とするパンタグラフの異常検知方法。
【請求項2】
前記荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えたか否かを判定するために、前記荷重の測定波形に波形処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフの異常検知方法。
【請求項3】
さらに、
前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定し、
該加速度の変動に基づいて、前記パンタグラフの異常可能性を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のパンタグラフの異常検知方法。
【請求項4】
さらに、
前記トロリ線の平面視レール直角方向の変位を測定し、
該変位に基づいて前記トロリ線の振動を検知し、この振動に基づいて、前記パンタグラフの異常可能性を判定することを特徴とする請求項1、2又は3に記載のパンタグラフの異常検知方法。
【請求項5】
営業鉄道路線の本線に合流する合流線の合流点手前にパンタグラフ異常検知区間を設けておき、
このパンタグラフ異常検知区間で、前記本線に進入しようとする列車のパンタグラフの異常を検知することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のパンタグラフの異常検知方法。
【請求項6】
複数のパンタグラフ異常検知区間において、前記曲線引金具又は前記振止金具にかかる荷重を測定し、
該荷重の絶対値が所定の閾値を超えるか、又は、該荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えた頻度を計測し、
前記頻度が所定値を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のパンタグラフの異常検知方法。
【請求項7】
支持構造物の間に架け渡された吊架線から垂下するハンガーに吊られたトロリ線と摺動しながら集電するパンタグラフの異常を検知する装置であって、
前記パンタグラフと摺動するトロリ線を平面視レール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具にかかる荷重を測定する手段と、
該荷重の絶対値が所定の閾値を超えるか、又は、該荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定する手段と、
を備えることを特徴とするパンタグラフの異常検知装置。
【請求項8】
前記荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えたか否かを判定するために、前記荷重の測定波形に波形処理を施す波形処理手段をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のパンタグラフの異常検知装置。
【請求項9】
さらに、
前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定する手段と、
該加速度の変動に基づいて、前記パンタグラフの異常可能性を判定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載のパンタグラフの異常検知装置
【請求項10】
さらに、
前記トロリ線の平面視レール直角方向の変位を測定する手段と、
該変位に基づいて前記トロリ線の振動を検知し、この振動に基づいて、前記パンタグラフの異常可能性を判定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項7、8又は9に記載のパンタグラフの異常検知装置
【請求項11】
営業鉄道路線の本線に合流する合流線の合流点手前にパンタグラフ異常検知区間が設けられており、
このパンタグラフ異常検知区間で、前記本線に進入しようとする列車のパンタグラフの異常を検知することを特徴とする請求項7〜10いずれか1項に記載のパンタグラフの異常検知装置。
【請求項12】
前記トロリ線の上下及び/又は左右方向の加速度を測定する加速度センサ、あるいは前記トロリ線の平面視レール直角方向の変位を測定する変位計が、前記トロリ線の前記曲線引金具から離れた位置に設置されており、すり板の平面視レール直角方向中央部における段付摩耗等の異常を高感度に検知することが可能であることを特徴とする請求項9又は10記載のパンタグラフの異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフのすり板に発生する段付摩耗やすり板の脱落などの、パンタグラフ異常を検知する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道のパンタグラフのすり板は、トロリ線と摺動しながら集電している。そして、図10に示すように、トロリ線Tは、軌道中心線Cをあるピッチで繰り返し横切るようにジグザグに架設されており、すり板とトロリ線との摺動位置が分散するようになっている。このようにして、すり板に局部摩耗が起こらないようにしている。左右偏位の具体例は、±250mm、周期100mである。図6図10に示すように、トロリ線Tの左右偏位の屈曲点9には、曲線引金具45が配置されており、トロリ線Tをレール直角方向に引っ張るようになっている。曲線引金具45は、支持構造物5に支持されている。なお、曲線引金具は、トロリ線T左右偏位の屈曲点9の他に、電車線中心線の屈曲点(カーブや分岐・合流)にも設けられている。また、曲線引金具45の類似のものに、振止金具(図示されず)がある。
【0003】
支持構造物5は、例えば、図6に示される電柱50や、電柱50に支持された水平パイプ51などを含む。曲線引金具45は、この水平パイプ51に取り付けられることがある。あるいは、曲線引金具45は、電柱50に針金(図示されず)を介して取り付けられたり、下束(図示されず)に取り付けられたりする。このような曲線引金具45は、トロリ線の横張力やトロリ線に作用する風圧荷重などの引張力に耐えうる強度を有する。
【0004】
図7は、パンタグラフの上部(舟体付近)の構造の例を示す正面図である。
このパンタグラフ1は、トロリ線Tと摺動するすり板11を保持する舟体10を備える。舟体10は、電気鉄道車両の屋根に起立倒伏可能に設置された枠組(図示されず)に支持されている。
【0005】
舟体10は、車体の幅方向(車幅方向)に沿って延びる箱状体である。舟体10の上面には、すり板11が取り付けられている(この例では三枚に分割されている)。すり板11は、一例で鉄系や銅系の焼結合金、あるいは、カーボン系材料等で作製される。このすり板11がトロリ線Tに直接接触する。舟体10は、両端付近で左右の舟支え13に支持されているものや、中央付近で支持されているもの(図示されず)がある。左右方向を外方向に延びるホーン14は、舟支え13に取り付けられているものや、舟体10に取り付けられているもの(図示されず)がある。
【0006】
トロリ線Tとパンタグラフすり板11の摺動時に、異常なアークの発生などの何らかの原因により、すり板11に局所的な摩耗が発生する場合がある。このような摩耗が進むと、すり板11の表面に局所的な凹部が形成される(図8の符号11b参照)。すり板11の表面にこのような凹部が存在すると、トロリ線Tが嵌り込んで、トロリ線Tのスムーズな左右移動を阻害する。さらにこの状態が継続すると、この凹部が、すり板の他の部分よりも一段低くなった溝(段付摩耗)に発達するおそれがある。このような段付摩耗は、すり板の破損やトロリ線の切断など、事故につながる危険がある。パンタグラフすり板は、レール直角方向に複数枚に分割されているのが一般的であるが、分割されたすり板のうちの一枚が脱落すると、上記の段付摩耗類似の事態になりうる。
【0007】
本発明者らは、上記すり板の段付摩耗を検知する方法について、下記文献に記載の研究開発・提案を行っている。
【特許文献1】特許5242538「パンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法及び装置」
【特許文献2】特許公開2011-244663「パンタグラフの摺り板の局所的凹部検知方法及び装置」
【非特許文献1】臼田隆之,他1名,「トロリ線の振動測定によるすり板段付き摩耗の検出」,鉄道総研報告,Vol.25,No.4,2011年4月
【0008】
ここで、特許文献1に記載の「パンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法及び装置」について簡単に説明する。
まず、図8を参照して、すり板に段付摩耗などの凹部が発生した場合のトロリ線の挙動を説明する。図8(A)に示すように、トロリ線Tがすり板11の平坦部11aから凹部11bへ移行する場合には、トロリ線Tには上下方向の衝撃がかかり、トロリ線Tの上下加速度と左右加速度にインパルス状の信号が発生する。一方、図8(B)に示すように、トロリ線Tがすり板11の凹部11bから平坦部11aへ移行した直後には、トロリ線Tが凹部11bの側壁に押圧されていた状態から解放されるので、弦が弾かれたような状態となり、トロリ線Tに左右方向の自由振動が発生する。
【0009】
このように段付摩耗によってトロリ線の挙動が変化し、段付摩耗に固有の加速度の変動が発生する。つまり、トロリ線の加速度の変動を測定することにより、段付摩耗の発生が検知できる。
【0010】
図9は、特許文献1に開示されている段付摩耗検知装置の概要を示す図である。この装置では、トロリ線Tの加速度を計測するために、車両20のパンタグラフのすり板11が摺動するトロリ線Tに加速度センサ22a、22b、22cを取り付ける。図9(B)に示すように、センサ22a(センサ22b、22cも同様)は、トロリ線Tの上下方向加速度を計測する加速度計22Vと左右方向加速度を計測する加速度計22Hからなる。一般的には、加速度計は感度方向が決まっているので、同じ加速度計を各々感度方向が上下方向及び左右方向となるように配置すればよい。図9(B)に示すように、加速度計22V、22Hは、トロリ線Tに取り付けられた支持部材31に絶縁部材32を介して固定することができる。なお、図9(A)中のトロリ線T上に描かれている縦線3はトロリ線Tを吊るハンガーであり、同ハンガー3上の横斜め線2は吊架線である。
【0011】
加速度センサ22a、22b、22cは、信号線23を介して、例えば支持構造物5に設置された測定器24(テレメータなど)に接続しており、各センサ22a、22b、22cで計測された信号は測定器24に入力される。測定器24は、電波や光ファイバなどの信号線を介して駅などに設置された処理装置(図示されず)に接続している。
【0012】
図8(A)に示すように、トロリ線Tがすり板11の平坦部11aから凹部11bへ移行した場合には、前述の様にトロリ線Tには上下方向及び左右方向のインパルス状の加速度が発生する。この加速度信号を処理装置で処理して評価値を求める。図8(B)に示した、トロリ線Tがすり板11の凹部11bから平坦部11aへ移行した場合については、前述の様にトロリ線Tは左右方向に自由振動する。この際の加速度信号を処理して評価値を求める。
【0013】
特許文献1の「パンタグラフの摺り板の段付摩耗検知方法及び装置」において、複数の計測点を設ける場合の例が図10に示されている。図10は、トロリ線の架設状態を模式的に示す平面図である。複数の計測点を設ける場合は、レール方向において、すり板の有効偏位幅W内に分布して加速度センサ22a、22b、22cを配置する。
【0014】
このように、特許文献1ではトロリ線に設置した加速度計により,パンタグラフのすり板に生じた段付摩耗を検知する手法が示されている。一方、特許文献2には(具体的な紹介は省略する)、トロリ線に設置した変位計により,パンタグラフのすり板に生じた段付摩耗を検知する手法が示されている。これらはいずれも段付摩耗により生じるトロリ線の振動を測定し,段付摩耗特有の振動を捉えることで段付摩耗の有無を検知している。特許文献1では,上述のように、トロリ線の上下加速度を計測して検知する手法(手法1)と,主にトロリ線の左右振動(レール直角方向振動)を計測して検知する手法(手法2)について記載されている。特許文献2では,トロリ線の左右振動を計測して検知する手法(手法3)について記載されている。
【0015】
手法1(上下加速度計測)では,段付摩耗のレール直角方向位置によらず段付摩耗を検知することが可能であるが,高速走行において検知ができない場合もある。また,手法2,手法3ではトロリ線の左右方向振動を検知していることから,すり板(舟体)の左右方向中央付近にある段付摩耗(トロリ線と偏位区間の中央部で接触する)については検知可能であるものの,大きな電車線偏位の箇所(すり板の左右方向周辺部)にある段付摩耗については、電車線金具の曲線引金具によりトロリ線の左右振動が抑制されるため検知が難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、大きな電車線偏位の箇所にある段付摩耗などについても検知できるパンタグラフ異常検知方法及び検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のパンタグラフの異常検知方法は、 前記パンタグラフと摺動するトロリ線をレール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具にかかる荷重を測定し、 該荷重の絶対値が所定の閾値を超えるか、又は、該荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定することを特徴とする。
【0018】
本発明のパンタグラフの異常検知装置は、 前記パンタグラフと摺動するトロリ線をレール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具にかかる荷重を測定する手段と、
該荷重の絶対値が所定の閾値を超えるか、又は、該荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定する手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
曲線引金具に装着したセンサにより曲線引金具に作用する左右方向荷重を測定し,荷重が閾値を超えたときなどに,段付摩耗等の異常ありと判定する。ただし、この手法のみでは,舟体中央付近(トロリ線の偏位区間の中央部)の段付摩耗を検知するのにやや難がある。というのは、トロリ線の偏位区間の中央部は、曲線引金具から電車線長手方向に離れている(例えば100m)ので,曲線引金具に装着したセンサの感度が落ちるからである。そこで、本発明の手法に、前述の特許文献1の手法2や特許文献2の手法3といった、トロリ線の左右方向振動を計測する手法とを組み合わせて,すり板のレール直角方向全域を検知対象とすることが好ましい。これにより、車両の速度条件や段付摩耗のレール直角方向位置によらず,段付摩耗を検知することが可能となる。
【0020】
なお,横風によってもトロリ線に左右方向荷重が作用するため,その影響を取り除くために,曲線引金具に作用する荷重測定波形に波形処理を施すことが好ましい。段付摩耗による左右方向荷重の変動は横風による変動よりも早い現象であるため,風圧荷重の変動周波数以上の周波数帯を通過させるハイパスフィルタ処理や,波形を時間微分し微分値が大きい時間帯を抽出する処理,波形の尖鋭度を計算し尖鋭度が大きい時間帯を抽出する処理などが考えられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大きな電車線偏位の箇所にある段付摩耗などについても検知できるパンタグラフ異常検知方法及び検知装置を提供することができる。これにより,段付摩耗のあるパンタグラフを搭載した電車を抑止し,パンタグラフおよび電車線の大きな破損を未然に防ぐことで,列車の安定輸送に寄与できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のパンタグラフ異常の検知方法及び検知装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知方法及び検知装置において用いられる曲線引金具を示す正面図である。
図2】本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知方法及び検知装置の概要を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知方法における、段付摩耗判定部などの作用を示すフローチャートである。
図4図1図3のパンタグラフ異常検知方法等と他の手法との使い分けの概要を説明するための平面図である。
図5】営業鉄道路線における、図4のパンタグラフ異常検知区間の好ましい設置場所の例を示す平面図である。
図6】電車線及びその支持構造物の一部を示す斜視図である。
図7】パンタグラフの上部(舟体付近)の構造の例を示す正面図である。
図8】すり板に段付摩耗などの凹部が発生した場合のトロリ線の挙動を説明する図である。
図9】特許文献1に開示されている段付摩耗検知装置の概要を示す図である。
図10図9の装置において複数の計測点を設けた場合における、トロリ線の架設状態を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0024】
T;トロリ線、C;軌道(電車線)前後方向中心線
1;パンタグラフ、2;吊架線、3;ハンガー、5;支持構造物、9;屈曲点
10;舟体、11;すり板、13;舟支え、14;ホーン、
21;パンタグラフ異常検知区間
22a、22b、22c;加速度センサ、22V、22H;加速度計
23;信号線、24;測定器
43;信号線、45、45−1、45−2、45−3;曲線引金具
50;電柱、51;水平パイプ、52;支持金具、53;イヤー、54;アーム
57;電車運行指令、59;引手金具部
61;歪ゲージ、65;FMテレメータ
71;受信機、72;波形処理部、73;段付摩耗判定部
81;本線、82;合流点、83;合流線、85;車両基地
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知方法及び検知装置において用いられる曲線引金具を示す正面図である。図1中において、符号51は水平パイプ、52は支持金具、53はイヤー、Tはトロリ線、54はアームである。水平パイプ51は、電柱などの構築物に支持されている。水平パイプ51に支持金具52が固定され、さらにこの支持金具52にアーム54が鉛直平面上で自由な回転ができるように支持されている。アーム54の先端にはイヤー53が接続されており、このイヤー53によってトロリ線Tが把持される。従って、トロリ線Tは、引張力に対する水平方向の動きは固定され、鉛直方向の動きは自由になっている。
【0026】
本実施形態において、曲線引金具45のアーム54の曲線部54bには、荷重センサとしての歪ゲージ61が貼られている。荷重センサは、歪ゲージの他に、ロードセルやFBGセンサなどを用いることができる。荷重センサは、曲線引金具45のアーム54の直線部54aやイヤー部53、引手金具部59などに取り付けることもできる。
【0027】
歪ゲージ61には信号線(有線)43が接続されており、同信号線43は曲線引金具45近くのFMテレメータ65まで延びている。FMテレメータ65は、図1に示す水平パイプ51あるいは電柱50(図6参照)の上などに固定されている。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知装置の概要を示すブロック図である。パンタグラフ異常検知装置は、上述の歪ゲージ61及びFMテレメータ65の他に、受信機71と、段付摩耗判定部73とを含んでいる。パンタグラフ異常検知装置は、さらに、波形処理部72を含んでもよい。パンタグラフ異常検知装置は、さらに、上述の加速度センサ22a等を含んでもよい。FMテレメータ65は、無線で歪信号を近くの受信機71まで送信する。受信機71は、電柱の近くなどに配置されている。
【0029】
受信機71は、歪信号を、段付摩耗判定部73に送信し、同部73は、歪信号に基づいて段付摩耗(異常可能性)の有無を判定する。段付摩耗判定部73の機能は、コンピュータ装置(図示されず)のプロセッサーが、記憶媒体(図示されず)に記憶されたプログラムをロードして実行することにより、実現される。段付摩耗の有無の判定結果は、電車運行指令57に送られる。
【0030】
図3は、本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知方法における、段付摩耗判定部などの作用を示すフローチャートである。まず、上述の歪ゲージ61などにより曲線引金具に作用する荷重を測定し、段付摩耗判定部73により、この荷重が所定の閾値を超過したか否かを判定する(S1)。「超過(YES)」の場合は、パンタグラフに段付摩耗ありと判定する(S2)。
【0031】
曲線引金具に作用する荷重が所定の閾値を超えていない場合(S1;NO)は、上述の加速度センサ22a、22b、22cによってトロリ線Tの振動を測定し、段付摩耗判定部73により、その振動(特に、段付摩耗特有の振動)が所定の閾値を超過したか否かを判定する(S3)。「超過(YES)」の場合は、パンタグラフに段付摩耗ありと判定する(S4)。「超過せず(NO)」の場合は段付摩耗なしと判定する(S5)。
【0032】
ただし,上述のS1において、横風による左右方向振動がある場合は,曲線引金具に作用する荷重の絶対値を見るだけでは段付摩耗を検知することが困難な場合がある。そこで、曲線引金具に作用する荷重測定波形に波形処理を施して、荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えたか否かを判定してもよい。例えば,風荷重の変動周波数より大きい周波数の波形のみを通過させるハイパスフィルタを用い,ハイパスフィルタの出力波形の振幅が閾値を超える場合を段付摩耗ありと判定してもよい。また、例えば、波形を時間微分し、微分値の最大値が閾値を超えている場合を段付摩耗ありと判定してもよい。また、例えば、波形の尖鋭度を計算し尖鋭度が閾値を超えている場合を段付摩耗ありと判定してもよい。このような波形処理を施す場合は、受信機71は、歪信号を波形処理部72に送信し、波形処理部72が、波形処理の結果を段付摩耗判定部73に送信する。
【0033】
図4は、図1図3のパンタグラフ異常検知方法等と他の手法との使い分けの概要を説明するための平面図である。図中、上下方向中段部において図の左右方向に延びる一点鎖線は、軌道及び電車線のレール直角方向中心線Cである。この軌道中心線Cを図の上下に横切るように、トロリ線Tはジグザグに架設されている。図4においては、トロリ線Tが曲がる複数の屈曲点9にそれぞれ配置された曲線引金具を、符号45−1、45−2、45−3によって区別する。ただし、曲線引金具45−1、45−2、45−3の構成及び機能は図1を参照しながら説明した通りである。曲線引金具45−1、45−2、45−3の各々は、トロリ線Tをレール直角方向に引っ張るようになっている。図4(A)に示される例では、二個の曲線引金具45−1、45−2の間の、トロリ線Tの左右偏位の約半周期分の区間が、パンタグラフ異常検知区間21となっている。
【0034】
パンタグラフ異常検知区間21の両端の曲線引金具45−1、45−2には、前述の荷重センサ61が取り付けられており、各曲線引金具45−1、45−2にかかる引っ張り荷重(あるいは曲げ荷重も)を測定している。この曲線引金具45−1、45−2にかかる荷重の変化により、上述のようにパンタグラフすり板の異常(段付摩耗など)を検知している。この曲線引金具荷重測定によるすり板の異常検知は、曲線引金具45−1又は45−2に近い部分21a及び21cが感度がよい。したがって、曲線引金具45−1又は45−2に近い部分のトロリ線Tと接触するすり板部分、すなわち、すり板の左右方向周辺部の段付摩耗の検出感度がよいことになる。
【0035】
図4のパンタグラフ異常検知区間21内のトロリ線Tには、トロリ線Tの加速度を計測するための加速度センサ22a、22b、22c(あるいはトロリ線Tのレール直角方向の変位を測定する変位計)も取り付けられている。この例では、左右偏位区間の中央のトロリ線Tが軌道中心線Cと交わる交差点あたりに加速度センサ22bが取り付けられており、その交差点と各曲線引金具45−1、45−2との真ん中あたりにも加速度センサ22a、22cがそれぞれ取り付けられている。これらの加速度センサ22a、22b、22cは、曲線引金具45−1又は45−2から遠い部分21bにおけるトロリ線Tの左右振動を検出して、主に、すり板のレール直角方向中央部における段付摩耗等の異常を高感度に検知する。
【0036】
この2種類のセンサ・手法を併用することにより、すり板の中央部及び周辺部における段付摩耗等の異常可能性を精度良く検知できる。なお、ここでは、特許文献1の例との併用を具体的に説明したが、特許文献2の例とも併用できる。
【0037】
また、図4(B)に示されるように、曲線引金具45−1、45−2の間だけでなく、曲線引金具45−2、45−3の間も、パンタグラフ異常検知区間21に含まれることとしてもよい。すなわち、曲線引金具45−2、45−3の間にも、加速度センサ22d、22e、22fが取り付けられ、曲線引金具45−3にも、荷重センサ61が取り付けられてもよい。加速度センサ22d、22e、22fによって、曲線引金具45−2又は45−3から遠い部分21dにおけるトロリ線Tの左右振動を検出し、曲線引金具45−3に取り付けられた荷重センサ61によって、曲線引金具45−3に近い部分21eにおけるトロリ線Tと接触するすり板部分の段付摩耗を検出できる。この構成によれば、トロリ線Tがレール直角方向のうちの一方向に左右移動するときだけでなく、トロリ線Tが反対方向に左右移動するときにも、段付摩耗を検出できる。
【0038】
また、段付摩耗の有無だけでなく、複数の車両20(図9参照)に備えられた複数のパンタグラフ1の何れに段付摩耗があるかを特定する処理が追加されてもよい。例えば、軌道中心線CをX軸とし、複数の車両20の先頭部分が第1の位置xを通過した時刻を第1の時刻tとする。また、第2の位置xに設置された歪ゲージ又は加速度センサが、段付摩耗に起因するとみられる荷重変化又は振動を検出した時刻を、第2の時刻tとする。車両20の速度をvとする。この場合、複数の車両20の先頭部分と段付摩耗のあるパンタグラフとの距離Lは、ほぼ、以下の式で与えられる。
L=v(t−t)−(x−x
この距離Lから、複数のパンタグラフ1の何れに段付摩耗があるかを、ほぼ特定することができる。
【0039】
図5は、営業鉄道路線における、図4のパンタグラフ異常検知区間21の好ましい設置場所の例を示す平面図である。この図には、営業鉄道路線の本線81と、それに合流する合流線83が示されている。合流線83の先には、車両基地85や貨物ターミナル、他社線などが存在する。合流点82手前の合流線83には、図4と同様のパンタグラフ異常検知区間21が設けられている。このパンタグラフ異常検知区間21で、本線81に進入しようとする列車のパンタグラフの異常を検知する。
【0040】
もしも異常が検知された場合には、次のような処置を行う。
ア)運転指令から当該列車の運転士に無線で連絡し、列車を停止させた上でパンタグラフの目視点検を行う。
イ)一度、車両基地や貨物ターミナルに列車を戻して、パンタグラフの点検を行う。
ウ)その列車に予備パンタグラフがある場合には、問題のパンタグラフを不使用として、予備パンタグラフに切り替える。
エ)重大な異常が疑われる場合には、例えば貨物列車の場合、電気機関車を交換する。
オ)重大な異常が疑われる場合には、問題のパンタグラフを不使用として、徐行運転を行う。
【0041】
また、図4に示されるようなパンタグラフ異常検知区間21を複数設け、これら複数のパンタグラフ異常検知区間21において、曲線引金具又は振止金具にかかる荷重を測定してもよい。そして、該荷重の絶対値が所定の閾値を超えるか、又は、該荷重の増加若しくは減少が所定の程度を超えた頻度を計測する。この頻度が所定値を超えた場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定する。例えば、第1のパンタグラフ異常検知区間においては所定の程度を超える荷重変化が検出されたが、第2及び第3のパンタグラフ異常検知区間においては所定の程度を超える荷重変化が検出されなかった場合には、パンタグラフに異常可能性有りとは判定しない。こうして、再現性の高いものだけを抽出することにより、正常なパンタグラフを異常とみなす誤検知を防止することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10