(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化セルロースを0.05〜1.5質量%及びリン酸エステル0.01〜5質量%を少なくとも含有する水性インク組成物を充填したインク収容体を備え、前記インク収容体の一端には、少なくとも下記A群から選ばれる基油を含有するインク追従体が充填されたことを特徴とする筆記具。
A群:ポリブテン、鉱物油、シリコーンオイル
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具は、酸化セルロースを0.05〜1.5質量%及びリン酸エステル類0.01〜5質量%を少なくとも含有する水性インク組成物を充填したインク収容体を備え、前記インク収容体の一端にはインク追従体が充填されたことを特徴とするものである。
【0011】
<水性インク組成物>
本発明の筆記具のインク収容体に充填される水性インク組成物は、少なくとも酸化セルローを0.05〜1.5質量%及びリン酸エステル0.01〜5質量%を含有するものである。
(酸化セルロース)
用いる酸化セルロースは、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース〔(C
6H
10O
5)n:多数のβグルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子〕を構成するβグルコースの水酸基(−OH基)の一部がアルデヒド基(−CHO)およびカルボキシル基(−COOH基)の少なくとも一つの官能基で変性したものであれば特に限定されず、例えば、上記βグルコースの少なくともC6位の水酸基(−OH基)を酸化しアルデヒド基(−CHO)およびカルボキシル基(−COOH基)に変性したものが挙げられる。
【0012】
本発明に用いる酸化セルロースは、I型結晶構造を有する天然物由来のセルロース固体原料を表面酸化し、ナノサイズにまで微細化した繊維である。一般に、原料となる、天然物由来のセルロースは、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが多束化して高次構造を取っているため、そのままでは容易にはナノサイズにまで微細化して分散させることができないものである。本発明の酸化セルロースでは、セルロース繊維の水酸基の一部を酸化しアルデヒド基およびカルボキシル基を導入し、ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めて、分散処理し、ナノサイズにまで微細化したものである。
【0013】
好ましくは、酸化セルロースの数平均繊維径が2〜150nmとなるものが望ましい。
インク中での分散安定性、該分散安定性向上によるインク追従体の更なる経時安定性の向上の点から、更に好ましくは、数平均繊維径が3〜80nmとなるものが望ましい。この酸化セルロースの数平均繊維径を2nm以上とすることにより、分散媒体としての機能を発揮せしめ、逆に数平均繊維径を150nm以下とすることにより、セルロース繊維そのものの分散安定性を更に向上させることができる。
本発明において、上記数平均繊維径は、例えば、次のようにして測定することができる。すなわち、セルロース繊維に水を加え希釈した試料を分散処理し、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、数平均繊維径を測定算出することができる。
また、上記特定のセルロース繊維を構成するセルロースが、天然物由来のI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0014】
本発明に用いる酸化セルロースの製造は、例えば、天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、および水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程の少なくとも3つの工程により得ることができる。
【0015】
上記酸化反応工程では、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。ここで、天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、BC、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロ
ースなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。天然セルロースは好ましくは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。さらに、天然セルロースとして、単離、精製の後、ネバードライで保存していたものを使用するとミクロフィブリルの集束体が膨潤し易い状態であるため、やはり反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができ、好ましい。
反応における天然セルロースの分散媒は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬の十分な拡散が可能な濃度であれば任意であるが、通常、反応水溶液の重量に対して約5%以下である。
【0016】
また、セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物は数多く報告されている(「Cellulose」Vol.10、2003年、第335〜341ページにおけるI. Shibata及びA. Isogaiによる「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」と題する記事)が、特にTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPOは水中常温での反応速度において好ましい。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0017】
共酸化剤として、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸などが本発明において使用可能であるが、好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムである。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属、たとえば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度において好ましい。この臭化アルカリ金属の添加量は、N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。一般に共酸化剤の添加量は、天然セルロース1gに対して約0.5〜8mmolの範囲で選択することが好ましく、反応は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0018】
精製工程においては、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水以外の化合物を系外へ除去するが、反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99質量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。該精製工程における精製方法は遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどんな装置を利用しても構わない。
こうして得られる反応物繊維の水分散体は絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10質量%〜50質量%の範囲にある。この後の工程で、ナノファイバーへ分散させる場合は、50質量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0019】
さらに、本発明では、上述した精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を溶媒中に分散させ分散処理を施すことにより、酸化セルロースの分散体を得ることができ、この分散体を乾燥させて用いる酸化セルロースとすることができる。
ここで、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)やN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を使用してもよい。また、これらの混合物も好適に使用できる。さらに、上述した反応物繊維の分散体を溶媒によって希釈、分散する際には、少しづつ溶媒を加えて分散していく、段階的な分散を試みると効率的にナノファイバーレベルの繊維の分散体を得ることができることがある。操作上の問題から、分散工程後の状態は粘性のある分散液あるいはゲル状の状態となるように分散条件を選択することができる。用いる酸化セルロースは、上記酸化セルロースの分散体でもよいものである。
なお、本発明で用いることができる酸化セルロースは、上記製造法などに限定されるものでなく、上記セルロースの水酸基(−OH基)の一部がアルデヒド基(−CHO)およびカルボキシル基(−COOH基)の少なくとも一つの官能基で変性したものであればその製造法は特に限定されるものではない。
【0020】
本発明において、上記酸化セルロースの含有量(固形分量)は、用いる水性インク組成物中(全量)に対して、0.05〜1.5質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは、0.1〜1.0%とすることが望ましい。
この酸化セルロースの含有量が0.05%未満では、本発明の効果が得られないことがあり、一方、1.5%を超えると、インクの粘度が高くなり筆記性能が低下する場合があるので好ましくない。
【0021】
(リン酸エステル)
用いるリン酸エステルとしては、筆記具用の水性インク組成物として、書き味やボール座の摩耗の抑制、潤滑性などを向上するために用いられているリン酸エステル(系界面活性剤)であれば、特に限定されるものでなく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、リン酸トリエステル、或いはその誘導体が挙げられるが、これらのリン酸エステルは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
本発明では、HLB値が18以下のリン酸エステルの使用した場合において本発明の効果が得られるが、親油性を有する、すなわち、HLB値の低いリン酸エステルを配合したインクを使用した筆記具において特に効果的である。このようなインクを使用すると筆記感を軽くする効果が得られるものの、油成分の分離を引き起こしやすい傾向がみられた。具体的には、HLB値が10以下(0≦HLB値≦10)のリン酸エステルを配合する場合において、特に顕著な効果が得られる。
なお、本発明における「HLB値」は、川上法〔HLB値=7+11.7log(MW/MO)、MW:親水部分の分子量、MO:親油部分の分子量〕から求めることができる。
【0022】
具体的に用いることができるリン酸エステルとしては、市販のプライサーフシリーズ(第一工業製薬社製)、フォスファノールML−220、同RB−410、同RD−510Y、同RD−720N、同RL−210、同RL−310、同RS−410、同RS−610、同RS−710(以上、東邦化学工業社製)、NIKKOL DLP−10、DOP−8N、DDP−2、DDP−4、DDP−6、DDP−8、DDP−10(以上、日光ケミカルズ社製)などが挙げられる。
プライサーフシリーズの中では、プライサーフAL(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、HLB値:5.6)、同A208B〔ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテルリン酸エステル、HLB値:6.6〕、同A208F〔ポリオキシエチレン(3)アルキル(C8)エーテルリン酸エステル、HLB値:8.7〕、同A212C〔ポリオキシエチレン(6)トリデシルエーテルリン酸エステル、HLB値:9.4〕、同A215C〔ポリオキシエチレン(10)トリデシルエーテルリン酸エステル、HLB値:11.5〕、同A219B〔ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテルリン酸エステル、HLB値:16.2〕等が挙げられる。これらはそのままでも、アルカリ金属や有機塩基で中和した塩としても使用できる。また、2種以上を併用しても良い。
【0023】
これらのリン酸エステルの含有量は、用いる水性インク組成物中(全量)に対して、0.01〜5%、好ましくは、0.05〜3%が望ましい。
この含有量が、インク組成物全量に対し、0.01%未満であると、インク中で所望の潤滑性等が得られないおそれがあり、一方、5%を越えると、インクの経時が不安定性になるおそれがある。
【0024】
本発明の筆記具に用いる水性インク組成物には、上記酸化セルロース、リン酸エステルの他、少なくとも着色剤、水溶性溶剤が含有される。
用いることができる着色剤としては、顔料及び/又は水溶性染料が挙げられる。顔料の種類については特に制限はなく、従来水性ボールペンなどの筆記具用に慣用されている無機系及び有機系顔料の中から任意のものを使用することができる。
【0025】
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラックや、金属粉等が挙げられる。
また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などが使用できる。
また、スチレンやアクリル樹脂の粒子から構成されているプラスチックピグメントも使用できる。さらに、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は白色顔料として、または、発色性、分散性に優れる後述する塩基性染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)等も使用できる。
【0026】
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも用いることができる。
直接染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトエロー4、同26、同44、同50、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、同15、同71、同86、同106、同119などが挙げられる。
酸性染料としては、例えば、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.アシッドエロー7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同127、同135、同141、同142、C.I.アシッドレッド8、同9、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同87、同92、同94、同115、同129、同131、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオレット18、同17、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同22、同23、同25、同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同103、同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27などが挙げられる。
食用染料としては、その大部分が直接染料又は酸性染料に含まれるが、含まれないものの一例としては、C.I.フードエロー3が挙げられる。
塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシックエロー1、同2、同21、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックブラウン12、ベーシックブラック2、同8などが挙げられる。
また、塩基性染料で染色した樹脂粒子としては、アクリロニトリル系共重合体の樹脂粒子を塩基性蛍光染料で染色した蛍光顔料などが挙げられる。具体的な商品名として、シンロイヒカラーSFシリーズ(シンロイヒ株式会社)、NKW及びNKPシリーズ(日本蛍光化学株式会社)などが挙げられる。
【0027】
これらの着色剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよく、水性インク組成物全量中の含有量は、通常、0.5〜30%、好ましくは、1〜15%の範囲である。
この着色剤の含有量が、0.5%未満では、着色が弱くなったり、筆跡の色相がわからなくなってしまうことがあり、一方、30%を超えて含有した場合に、筆記不良を生じることがあるので好ましくない。
【0028】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、筆記具用水性インク組成物全量中、5〜40%とすることが望ましい。
【0029】
用いる水性インク組成物には、上記酸化セルロース、リン酸エステル、着色剤、水溶性溶剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0030】
着色剤として顔料を用いた場合には、分散剤を使用することが好ましい。この分散剤は、顔料表面に吸着して、水との親和性を向上させ、水中に顔料を安定に分散させる作用をするものであり、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0031】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0032】
用いる水性インク組成物は、上記酸化セルロース、リン酸エステル、着色剤、水溶性溶剤、その他の各成分を適宜組み合わせてミキサー等、更に、例えば、強力な剪断を加えることができるビーズミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧湿式メディアレス微粒化装置等を用いて撹拌条件を好適な条件に設定等して混合攪拌することによって、調製することができる。
また、用いる水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5〜10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6〜9.5とすることが望ましい。
【0033】
<インク追従体>
本発明に用いるインク追従体としては、インク収容体(リフィール)に収容されると共に、該インク収容体内に充填された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質であり、基油(油成分)を主成分として用いるものであれば、従来から用いられるインク追従体が、特に制限なく使用でき、例えば、常法により、基油、または、基油に、増粘剤を配合し、増粘させたものが用いることができる。
【0034】
インク追従体に用いる基油としては、水に不溶もしくは難溶となる、例えば、ポリブデン、鉱油、シリコーンオイル等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、微粒子シリカ、リン
酸エステルのカルシウム塩、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは単独で、または二種以上を組み合わせて用いることもできる。その他必要に応じて、例えば、増粘助剤(粘土増粘剤、金属石鹸など)、インク追従体の追従性向上剤(界面活性剤など)、酸化防止剤等を配合することができる。
インク収容体の内径が太めの場合は、インク追従体中に、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の材質の円柱状、パイプ状、球状などの樹脂成形部材等を入れることにより、落下衝撃耐性を向上させることも可能である。
【0035】
好ましくは、油成分の分離抑制と追従性とのバランスの点から、用いるインク追従体の粘度値は、1000〜10000mPa・sであるものが望ましい。
追従性などの性能を発現させるために、インク追従体の粘度を低く設定する場合がある。このようなインク追従体は油成分の分離が発生しやすい。特に粘度値が7000mPa・s以下の場合において、その傾向が顕著になるが、本発明によれば、上記の粘度値であっても油成分の分離が発生しない。
本発明において、上記粘度値は、測定温度25℃において、E型回転粘度計による剪断速度200sec
−1における粘度をいう。
なお、上記インク追従体の粘度値の調整は、用いる増粘剤を適量配合し、適切な増粘方法を採用することで、調整することができる。
【0036】
<筆記具>
本発明の筆記具は、上記組成の水性インク組成物を充填したインク収容体を備え、該水性インク組成物を充填したインク収容体の一端に上記のインク追従体が充填されたものであれば、筆記具の材質・形状・構造(ノック式、キャップ式等)、インク収容体の材質・形状・構造などは、特に限定されないので、種々の形態を採用することができる。
【0037】
例えば、ボールペンタイプの筆記具では、上記組成の水性インク組成物、インク追従体を、直径が0.18〜2.0mmのボールを備えたインク収容体となる水性ボールペン体にそれぞれ充填し、軸体(軸筒)となる本体(キャップ式)に取り付けることにより作製することができる。
用いる水性ボールペン体として、直径が上記範囲のボールを備えたものであれば、特に限定されず、特に、上記水性インク組成物、インク追従体をポリプロピレンチューブのインク収容管に充填し、先端のステンレスチップ(ボールは超鋼合金)を有するリフィールの水性ボールペンに仕上げたものが望ましい。上記ボールペン以外にも、ノック式ボールペン(単色式、2色式、3色式、4色式等)、また、ボールペン以外の筆記具と組み合わせた多機能式であってもよいものである。
【0038】
このように構成される本発明の筆記具にあっては、インク収容体に酸化セルロースを0.05〜1.5%及びリン酸エステル0.01〜5%を少なくとも含有する水性インク組成物及びインク追従体をそれぞれ充填したインク収容体を備えたものであり、用いる酸化セルロースが水性インク組成物中に0.05〜1.5%の低粘度であっても高い粘性を示し、かつ、セルロースに固有の高いチキソトロピーインデックスを示し、インク流出安定性などの筆記性能を損なうことなく、レオロジーコントロール効果を発揮するため、水性インク組成物中に含有したリン酸エステルがインク追従体へ関与することができず、結果として、インク追従体の経時安定性に優れる筆記具が得られることとなる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0040】
用いる水性インク組成物、インク追従体を下記方法等で調整した。
〔水性インク組成物の調製:インク1〜10〕
下記物性となる酸化セルロースを用いて、下記表1に示す配合組成、具体的には、リン酸エステル、着色剤などの配合組成により各水性インク組成物の所定量を高圧湿式メディアレス微粒化装置(吉田機械興業社製、ナノヴェイタ)を用いて撹拌条件(剪断力、圧力、撹拌時間)を適宜変動させて湿式法で混合撹拌し、10μmのバッグフィルターで濾過することにより調製した。
【0041】
〔用いた酸化セルロース〕
乾燥重量で2g相当分の未乾燥の亜硫酸漂白針葉樹パルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維から成る)、0.025gのTEMPOおよび0.25gの臭化ナトリウムを水150mlに分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、固形分量25質量%の水を含浸させた反応物繊維を得た。
次に、該反応物繊維に水を加え、2質量%スラリーとし、回転刃式ミキサーで約5分間の処理を行った。処理に伴って著しくスラリーの粘度が上昇したため、少しづつ水を加えていき固形分濃度が0.15質量%となるまでミキサーによる分散処理を続けた。こうして得られたセルロース濃度が0.15質量%の酸化セルロースの分散体に対して、遠心分離により浮遊物の除去を行った後、水による濃度調製を行ってセルロース濃度が0.1質量%の透明かつやや粘調な酸化セルロースの分散体を得た。この分散体を乾燥させて得られた酸化セルロースを用いた。なお、表1の各実施例等に示した酸化セルロースは、上記で製造したものを各実施例等の固形分濃度で表示したものである。
【0042】
上記で得た酸化セルロースの数平均繊維径は、下記方法により、確認、測定した。
<数平均繊維径>
酸化セルロースの数平均繊維径を、次のようにして測定した。
すなわち、酸化セルロースに水を加え希釈した試料をホモミキサーを用いて12000rpmで15分間分散した後、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、数平均繊維径を測定算出した。その結果、数平均繊維径は約140nmであった。
【0043】
<セルロースI型結晶構造の確認>
用いる酸化セルロースがI型結晶構造を有することの確認を次のようにして行った。
すなわち、広角X線回折像測定により得られた回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことからI型結晶構造を有することを確認した。
【0044】
〔インク追従体の調製:インク追従体1〜3〕
インク追従体1及び2については、下記2に示す配合組成で、調合し、常温でミキサーにて高速で約120分間撹拌し、その後ロール処理を1回行い、真空脱泡し、インク追従体1、2を得た。
インク追従体3については、下記2に示す配合組成で、調合し、150℃〜180℃でミキサーにて高速で約120分間撹拌し、室温まで冷却後、ロール処理を1回行い、インク追従体3を得た。
【0045】
得られたインク追従体1〜3について、下記方法で粘度値を測定した。得られた粘度値を下記表2に示す。
測定装置 :E型回転粘度計DIGITAL VISCOMETER DUV−E(東京計器株式会社製)
測定条件(周波数依存性):
コーン:3°*R14
剪断速度:200sec
-1
測定定時間:600sec
測定温度:25℃
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
〔実施例1〜8及び比較例1〜6〕
下記方法により水性ボールペンを作製して、下記評価方法でインク追従体の油分離及び逆流性の評価を行った。
これらの結果を下記表3に示す。
【0049】
(水性ボールペンの作製)
上記表1で得られた各水性インク組成物(インク1〜10)、上記表2で得られたインク追従体1〜3を用いて、下記表3に示す組み合わせで水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径4.0mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容体とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.7mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各水性インク1〜10を充填し、インク後端に上記表2に示すインク追従体1〜3を装填し、水性ボールペンを作製した。
【0050】
(インク追従体の油分離及び逆流性の評価方法)
各ペン体を50℃、湿度65%の条件でペン先(キャップ側)を上向きにして一ヶ月間放置し、取り出し後リフィールを目視で観察し、インク追従体の油のインク中への混入、及びリフィール外への油の漏れだしの有無を下記評価基準で評価した。
評価基準:
○:油のインク中への混入、あるいはリフィール外への漏れだしが認められない。
×:油のインク中への混入、あるいはリフィール外への漏れだしが認められる。
【0051】
【表3】
【0052】
上記表3の結果から明らかなように、本発明となる実施例1〜8の筆記具は、本発明の範囲外となる比較例1〜6の筆記具に較べ、インク追従体が搭載された筆記具におけるインク追従体の経時安定性に優れた筆記具が得られることが判明した。