特許第6322469号(P6322469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322469
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】基板加工方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/00 20180101AFI20180423BHJP
   C09J 201/02 20060101ALI20180423BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20180423BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180423BHJP
   C03C 27/10 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C09J7/00
   C09J201/02
   C09J5/06
   C09J11/06
   C03C27/10 E
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-91039(P2014-91039)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-209471(P2015-209471A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】長尾 あゆ美
(72)【発明者】
【氏名】河原 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 博行
(72)【発明者】
【氏名】山本 正芳
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/084953(WO,A1)
【文献】 特開2009−120743(JP,A)
【文献】 特開2000−355684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有しており前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力が低下する感温性粘着シートを介して複数の基板を積層し、第1積層体を得る工程と、
前記第1積層体を加工して第2積層体を得る工程と、
前記感温性粘着シートの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にして前記感温性粘着シートの粘着力を低下させ、前記第2積層体を構成している加工された前記複数の基板のそれぞれを前記感温性粘着シートから剥離する工程と、
を備え、前記複数の基板がディスプレイ用ガラス基板である、基板加工方法。
【請求項2】
前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度の温水中に前記第2積層体を浸漬することによって前記加工された複数の基板のそれぞれを前記感温性粘着シートから剥離する、請求項1に記載の基板加工方法。
【請求項3】
前記感温性粘着シートが発泡剤をさらに含有し、
前記感温性粘着シートの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ前記発泡剤が膨張ないし発泡する温度にして前記感温性粘着シートの粘着力を低下させる、請求項1または2に記載の基板加工方法。
【請求項4】
感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有しており前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤層をフィルム状の基材の両面に有する感温性両面粘着テープを介して複数の基板を積層し、第1積層体を得る工程と、
前記第1積層体を加工して第2積層体を得る工程と、
前記感温性両面粘着テープの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にして前記感温性両面粘着テープの粘着力を低下させ、前記第2積層体を構成している加工された前記複数の基板のそれぞれを前記感温性両面粘着テープから剥離する工程と、
を備え、前記複数の基板がディスプレイ用ガラス基板である、基板加工方法。
【請求項5】
前記感温性粘着剤層が発泡剤をさらに含有し、
前記感温性両面粘着テープの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ前記発泡剤が膨張ないし発泡する温度にして前記感温性両面粘着テープの粘着力を低下させる、請求項に記載の基板加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ用ガラス基板等の基板加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレット端末、測定機器等に使用されるディスプレイ用ガラス基板の加工方法として、複数のガラス基板を積層して加工する方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。また、複数のガラス基板を積層するときに光硬化性の接着剤を使用することが知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
しかし、複数のガラス基板の積層に接着剤を使用すると、以下のような問題がある。
【0003】
(a)ディスプレイ用ガラス基板の表面には、通常、有機膜がコートされているため、接着剤を直接塗布するとブロックしてしまい加工後に剥離できなくなる。それゆえ、全てのガラス基板に前処理としてプライマーコートを施す必要があり、結果として生産性が低下し、コストも高くなる。
(b)互いに隣接するガラス基板間に気泡が発生するのを防ぐため、接着剤を余分に塗布する必要がある。そのため、複数のガラス基板を積層接着したとき、余分な接着剤が積層体の外周部からはみ出してしまう。はみ出した接着剤は、廃棄になることから、材料ロスが発生してコストが高くなる。
(c)接着剤層の厚みに厚薄差(バラツキ)が大きく、厚み精度が悪いことから、加工精度が低下し易い。
(d)スマートフォン、タブレット端末等の印刷パターン部には、紫外線を十分に照射できず、それゆえ接着剤層の硬化部位にバラツキが発生し易い。その結果、ガラス基板を接着剤層から剥離したとき、接着剤層の未硬化部分が剥離したガラス基板上に残る糊残りが発生する。糊残りが発生すると、洗浄工程および検査工程がさらに必要になり、結果として生産性が低下し、コストも高くなる。
(e)複数のガラス基板を積層後、直ちにガラス基板の加工を行うことができない。すなわち、複数のガラス基板を積層接着した後、紫外線を照射して接着剤層を硬化させる必要があることから、工程数が多くなり、ガラス基板の加工をスムーズに行うことができない。また、接着剤層の硬化に高額な紫外線照射装置等が必要になることから、コストが高くなる。
(f)接着剤の溶媒に使用されている有機溶剤等が、呼気または皮膚等を介して作業者の体内に侵入することによって健康被害が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−2436号公報
【特許文献2】特開2009−256125号公報
【特許文献3】特開2013−76077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、加工精度および安全性に優れるとともに、低コスト化が可能であり、しかも効率よく基板を加工することができる基板加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有しており前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力が低下する感温性粘着シートを介して複数の基板を積層し、第1積層体を得る工程と、前記第1積層体を加工して第2積層体を得る工程と、前記感温性粘着シートの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にして前記感温性粘着シートの粘着力を低下させ、前記第2積層体を構成している加工された前記複数の基板のそれぞれを前記感温性粘着シートから剥離する工程と、を備える、基板加工方法。
(2)前記複数の基板がガラス基板である、前記(1)に記載の基板加工方法。
(3)前記複数の基板がディスプレイ用である、前記(1)または(2)に記載の基板加工方法。
(4)前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度の温水中に前記第2積層体を浸漬することによって前記加工された複数の基板のそれぞれを前記感温性粘着シートから剥離する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の基板加工方法。
(5)前記感温性粘着シートが発泡剤をさらに含有し、前記感温性粘着シートの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ前記発泡剤が膨張ないし発泡する温度にして前記感温性粘着シートの粘着力を低下させる、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の基板加工方法。
(6)感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有しており前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤層をフィルム状の基材の両面に有する感温性両面粘着テープを介して複数の基板を積層し、第1積層体を得る工程と、前記第1積層体を加工して第2積層体を得る工程と、前記感温性両面粘着テープの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にして前記感温性両面粘着テープの粘着力を低下させ、前記第2積層体を構成している加工された前記複数の基板のそれぞれを前記感温性両面粘着テープから剥離する工程と、を備える、基板加工方法。
(7)前記感温性粘着剤層が発泡剤をさらに含有し、前記感温性両面粘着テープの温度を前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ前記発泡剤が膨張ないし発泡する温度にして前記感温性両面粘着テープの粘着力を低下させる、前記(6)に記載の基板加工方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加工精度および安全性に優れるとともに、低コスト化が可能であり、しかも効率よく基板を加工することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態に係る基板加工方法を示す工程図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る基板加工方法に使用する感温性粘着シートを示す概略説明図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る基板加工方法に使用する感温性両面粘着テープを示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<基板加工方法>
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る基板加工方法について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1および図2に示すように、本実施形態では、複数の基板11Aの加工に感温性粘着シート(以下、「粘着シート」と言うことがある。)1を使用する。本実施形態の粘着シート1は、基材レスの粘着シートである。シートとは、シート状のみに限定されるものではなく、本実施形態の効果を損なわない限りにおいて、シート状ないしフィルム状をも含む概念である。本実施形態の粘着シート1は、感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有している。
【0011】
感圧性接着剤は、粘着性を有するポリマーであり、その具体例としては、天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン/ブタジエンラテックスベース接着剤、アクリル系接着剤等が挙げられ、例示したこれらのうちアクリル系接着剤が好ましい。
【0012】
アクリル系接着剤を構成するモノマーとしては、例えば2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートのことを意味するものとする。
【0013】
アクリル系接着剤の具体的な組成としては、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレートおよび2−ヒドロキシエチルアクリレートを重合させることによって得られる共重合体等が挙げられる。また、上述した各モノマーは、2−エチルヘキシルアクリレートを42〜62重量部、メチルアクリレートを30〜50重量部、および2−ヒドロキシエチルアクリレートを3〜13重量部とする割合で重合させるのが好ましい。
【0014】
アクリル系接着剤には、反応性ポリシロキサン化合物を共重合させることができる。反応性ポリシロキサン化合物とは、反応性を示す官能基を有し、かつ主鎖にシロキサン結合を有するポリシロキサン化合物のことを意味するものとする。反応性を示す官能基としては、例えばビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロキシ基等のエチレン性不飽和二重結合を有する基;エポキシ基(グリシジル基およびエポキシシクロアルキル基を含む)、メルカプト基、カルビノール基、カルボキシル基、シラノール基、フェノール基、アミノ基、ヒドロキシル基等が挙げられる。反応性ポリシロキサン化合物は、市販のものを用いることができ、具体例としては、例えば信越化学工業(株)製の片末端反応性シリコーンオイル「X−22−174DX」等が挙げられる。反応性ポリシロキサン化合物を共重合させる場合には、2−エチルヘキシルアクリレートを42〜62重量部、メチルアクリレートを30〜50重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレートを3〜13重量部、および反応性ポリシロキサン化合物を3〜13重量部とする割合で重合させるのが好ましい。
【0015】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が採用可能である。溶液重合法を採用する場合には、上述したモノマーを溶剤に混合し、40〜90℃程度で2〜10時間程度攪拌すればよい。
【0016】
上述したモノマーを重合させることによって得られる重合体、すなわち感圧性接着剤の重量平均分子量としては、35〜65万であるのが好ましい。これにより、粘着シート1を加工された基板11Bから剥離したときに粘着シート1が基板11B上に残る、いわゆる糊残りが発生するのを抑制することができる。また、粘着シート1の凝集力が高くなりすぎて粘着シート1の粘着力が低くなるのを抑制することができる。重量平均分子量は、重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0017】
一方、側鎖結晶性ポリマーは、融点を有するポリマーである。融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態になる温度であり、示差熱走査熱量計(DSC)によって10℃/分の測定条件で測定して得られる値のことを意味するものとする。
【0018】
側鎖結晶性ポリマーは、上述した融点未満の温度で結晶化し、且つ融点以上の温度では相転位して流動性を示す。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こす感温性を有する。これにより、融点未満の温度では、側鎖結晶性ポリマーが結晶状態にあることから、粘着シート1は粘着力を確保することができる。また、融点以上の温度では、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって上述した感圧性接着剤の粘着性を阻害し、結果として粘着シート1の粘着力を低下させることができる。このとき、感圧性接着剤に反応性ポリシロキサン化合物を共重合させたアクリル系接着剤を採用していると、側鎖結晶性ポリマーによる粘着力の低下に加えて、ポリシロキサン化合物に起因する離型性が加わることから、粘着力をより低下させることができる。
【0019】
側鎖結晶性ポリマーの融点としては、50℃以上であるのが好ましい。これにより、室温(23℃)において側鎖結晶性ポリマーが結晶状態にあることから、粘着シート1が室温で粘着力を確保することができ、結果として作業性を向上させることができる。また、側鎖結晶性ポリマーの融点の上限値としては、70℃であるのが好ましい。
【0020】
上述した融点は、側鎖結晶性ポリマーの組成等を変えることによって調整することができる。側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマーとしては、例えば炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、極性モノマー等が挙げられる。
【0021】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、極性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有するエチレン不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するエチレン不飽和単量体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
側鎖結晶性ポリマーは、上述した各モノマーのうち少なくとも炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートを重合させることによって得られる重合体であるのが好ましい。上述した各モノマーは、例えば炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートを30〜100重量部、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを0〜70重量部、極性モノマーを0〜10重量部とする割合で重合させるのが好ましい。
【0023】
側鎖結晶性ポリマーの具体的な組成としては、ベヘニルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルアクリレートおよびアクリル酸を重合させることによって得られる共重合体等が挙げられる。また、上述した各モノマーは、ベヘニルアクリレートを35〜45重量部、ステアリルアクリレートを30〜40重量部、メチルアクリレートを15〜25重量部、およびアクリル酸を1〜10重量部とする割合で重合させるのが好ましい。
【0024】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が採用可能である。溶液重合法を採用する場合には、上述したモノマーを溶剤に混合し、40〜90℃程度で2〜10時間程度攪拌すればよい。
【0025】
側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量としては、3,000〜30,000であるのが好ましい。これにより、粘着シート1を基板11Bから剥離したときに糊残りが発生するのを抑制することができる。また、側鎖結晶性ポリマーが融点以上の温度で流動性を示したときに、粘着シート1の粘着力を十分に低下させることができる。重量平均分子量は、側鎖結晶性ポリマーをGPCによって測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0026】
側鎖結晶性ポリマーは、固形分換算で感圧性接着剤100重量部に対して0.5〜10重量部の割合で配合されているのが好ましい。これにより、側鎖結晶性ポリマーが融点以上の温度で流動性を示したときに、粘着シート1の粘着力を十分に低下させることができる。
【0027】
上述した本実施形態の粘着シート1には、例えば架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を添加することができ、例示した添加剤のうち架橋剤を添加するのが好ましい。架橋剤としては、例えばイソシアネート化合物等が挙げられる。架橋剤は、固形分換算で感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜10重量部の割合で添加するのが好ましい。これにより、粘着シート1の凝集力を適度に向上させることができ、糊残りが発生するのを抑制することができる。
【0028】
本実施形態の粘着シート1の厚さとしては、10〜200μmであるのが好ましく、20〜100μmであるのがより好ましい。
【0029】
また、図2に示すように、本実施形態の粘着シート1は、粘着シート1の片面1aおよび他面1bに積層されているセパレーター2,2を有する。これにより、粘着シート1の片面1aおよび他面1bをそれぞれ保護することができる。
【0030】
セパレーター2,2としては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等からなるフィルムの表面に、シリコーン、フッ素等の離型剤を塗布したものが挙げられる。また、セパレーター2,2のそれぞれの厚さとしては、10〜110μmであるのが好ましい。セパレーター2,2は、互いの組成、厚さ等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
上述した粘着シート1を使用する本実施形態の基板加工方法では、まず、図1(a)に示すように、粘着シート1を介して複数の基板11Aを積層し、第1積層体10を得る。すなわち、本実施形態では、複数の基板11Aの積層に粘着シート1を使用することから、上述した接着剤による問題を解決することができる。具体的には、基板11Aの前処理(プライマーコート)の必要がなく、リードタイムを短縮することができる。また、余分な接着剤を使用することによる材料ロスの発生を抑制することができる。接着剤層の厚み精度が悪いことによる加工精度の低下を抑制することができる。粘着シート1の使用により、通常、厚み精度を接着剤層よりも1桁向上させることができる。具体的には、接着剤を使用すると第1積層体10の厚薄差が最大100μmになるのに対し、粘着シート1を使用すると第1積層体10の厚薄差を最大30μmに抑制することができる。紫外線照射装置等の高額な装置が不要になる。複数の基板11Aを積層後、直ちに基板11Aの加工を行うことができ、タクトタイムを短縮することができる。有機溶剤等による健康被害の発生を抑制することができる。工程数およびコストを削減することができる。
【0032】
基板11Aとしては、所望のものを採用することができ、特に限定されないが、ガラス基板であるのが好ましく、ディスプレイ用であるのが好ましい。
【0033】
本実施形態の第1積層体10は、積層方向の両端にダミー材12,12をさらに積層している。ダミー材12としては、例えばガラス基板等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
次に、第1積層体10を加工して、図1(b)に示す第2積層体20を得る。加工方法としては、例えば切断、研削、研磨、エッチング加工等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態では、第1積層体10を切断することによって複数の第2積層体20を形成しており、複数の第2積層体20のうちの1つを図1(b)に示している。
【0035】
次に、粘着シート1の温度を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にして粘着シート1の粘着力を低下させ、第2積層体20を構成している加工された複数の基板11Bのそれぞれを粘着シート1から剥離する。本実施形態によれば、上述した粘着シート1を使用していることから、接着剤層を硬化させることによる硬化部位のバラツキ発生がなく、それゆえ接着剤層の未硬化部分が剥離した基板11B上に残る糊残りの発生を抑制することができる。その結果、洗浄工程および検査工程を省略することができ、生産性を向上させてコストを削減することができる。
【0036】
本実施形態では、加工された複数の基板11Bの剥離を、図1(c)に示すように、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度の温水30中に第2積層体20を浸漬することによって行う。温水30の温度は、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度である限り、特に限定されない。具体例を挙げると、側鎖結晶性ポリマーの融点が50℃であるとき、温水30の温度は、50℃以上であればよい。温水30中への第2積層体20の浸漬時間としては、3〜5分が好ましい。
【0037】
なお、粘着シート1の温度を加熱手段によって側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にして、加工された複数の基板11Bを剥離してもよい。加熱手段としては、例えばヒータ等が挙げられる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る基板加工方法について説明する。本実施形態では、上述した粘着シート1が発泡剤をさらに含有し、粘着シート1の温度を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ発泡剤が膨張ないし発泡する温度にして粘着シート1の粘着力を低下させる。
【0039】
発泡剤としては、一般的な化学発泡剤および物理発泡剤のいずれもが採用可能である。化学発泡剤には、熱分解型および反応型の有機系発泡剤ならびに無機系発泡剤が含まれる。
【0040】
熱分解型の有機系発泡剤としては、例えば各種のアゾ化合物(アゾジカルボンアミド等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等)、ヒドラジン誘導体[4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等]、セミカルバジド化合物(ヒドラゾジカルボンアミド等)、アジド化合物、テトラゾール化合物等が挙げられ、反応型の有機系発泡剤としては、例えばイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0041】
熱分解型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸塩・炭酸塩(炭酸水素ナトリウム等)、亜硝酸塩・水素化物等が挙げられ、反応型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウムと酸との組み合わせ、過酸化水素とイースト菌との組み合わせ、亜鉛粉末と酸との組み合わせ等が挙げられる。
【0042】
物理発泡剤としては、例えばブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ジクロロエタン、ジクロロメタン等の塩化炭素水素類、フロン等のフッ化塩化炭化水素類等の有機系物理発泡剤;空気、炭酸ガス、窒素ガス等の無機系物理発泡剤等が挙げられる。
【0043】
また、他の発泡剤として、マイクロカプセル化された熱膨張性微粒子である、いわゆるマイクロバルーン発泡剤を採用することができる。マイクロバルーン発泡剤は、熱可塑性または熱硬化性樹脂によって構成されているポリマー殻の内部に、固体、液体または気体からなる加熱膨張性物質を封入したものである。言い換えれば、マイクロバルーン発泡剤は、マイクロオーダーの平均粒径を有する中空状のポリマー殻と、ポリマー殻の内部に封入されている加熱膨張性物質と、を備えるものである。マイクロバルーン発泡剤は加熱によって体積が40倍以上に膨張し、独立気泡形式の発泡体が得られる。したがって、マイクロバルーン発泡剤は、通常の発泡剤に比べて、発泡倍率がかなり大きくなるという特性を有する。このようなマイクロバルーン発泡剤は、市販のものを用いることができ、例えばEXPANCEL社製の「461DU20」、「551DU40」等が好適である。
【0044】
発泡剤は、固形分換算で感圧性接着剤100重量部に対して5〜50重量部の割合で配合されているのが好ましく、10〜30重量部の割合で配合されているのがより好ましい。これにより、発泡剤が膨脹ないし発泡したときに、粘着シート1の粘着力を十分に低下させることができる。
【0045】
発泡剤が膨脹ないし発泡する温度は、通常、側鎖結晶性ポリマーの融点よりも高い温度である。また、発泡剤が膨脹ないし発泡する温度としては、90℃以上であるのが好ましい。
【0046】
発泡剤の平均粒径としては、特に限定されるものではないが、通常、5〜50μmであるのが好ましく、5〜20μmであるのがより好ましい。平均粒径は、粒度分布測定装置で測定して得られる値である。
【0047】
本実施形態において、温水30中に第2積層体20を浸漬することによって加工された複数の基板11Bの剥離を行う場合、温水30は、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ発泡剤が膨張ないし発泡する温度にすればよい。具体例を挙げると、側鎖結晶性ポリマーの融点が50℃、発泡剤が膨張ないし発泡する温度が90℃であるとき、温水30の温度は、90℃以上であればよい。温水30中への第2積層体20の浸漬時間としては、3〜5分が好ましい。
その他の構成は、上述した第1実施形態に係る基板加工方法と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る基板加工方法について、図3を参照して詳細に説明する。
【0049】
本実施形態では、複数の基板11Aの加工に、上述した粘着シート1に代えて、図3に示す感温性両面粘着テープ(以下、「粘着テープ」と言うことがある。)3を使用する。本実施形態の粘着テープ3は、感温性粘着剤層4,4をフィルム状の基材5の両面に有する。
【0050】
本実施形態の感温性粘着剤層4,4は、感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有しており側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力が低下する。感温性粘着剤層4,4は、互いの組成等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
感温性粘着剤層4,4を基材5の両面に積層するには、例えば感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを溶剤に加えた塗布液を、コーター等によって基材5の両面に塗布して乾燥させればよい。コーターとしては、例えばナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーター等が挙げられる。
【0052】
感温性粘着剤層4,4のそれぞれの厚さとしては、10〜100μmであるのが好ましく、10〜50μmであるのがより好ましく、15〜45μmであるのがさらに好ましい。感温性粘着剤層4,4のそれぞれの厚さは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
一方、本実施形態の基材5は、フィルム状である。フィルム状とは、フィルム状のみに限定されるものではなく、本実施形態の効果を損なわない限りにおいて、フィルム状ないしシート状をも含む概念である。
【0054】
基材5の構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂が挙げられ、例示した合成樹脂のうちポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0055】
本実施形態の基材5は、単層体または複層体のいずれであってもよく、その厚さとしては、5〜250μmであるのが好ましく、12〜188μmであるのがより好ましく、25〜125μmであるのがさらに好ましい。基材5の表面には、感温性粘着剤層4,4に対する密着性を高める上で、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施すことができる。
【0056】
また、本実施形態の粘着テープ3は、感温性粘着剤層4,4の表面4a,4aに積層されているセパレーター2,2をさらに有する。
その他の構成は、上述した第1,第2実施形態に係る基板加工方法と同様であるので、説明を省略する。
【0057】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る基板加工方法について説明する。本実施形態では、上述した粘着テープ3が発泡剤をさらに含有し、粘着テープ3の温度を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり且つ発泡剤が膨張ないし発泡する温度にして粘着テープ3の粘着力を低下させる。感温性粘着剤層4,4のそれぞれに含有されている発泡剤は、互いの組成等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
その他の構成は、上述した第1〜第3実施形態に係る基板加工方法と同様であるので、説明を省略する。
【符号の説明】
【0058】
1 感温性粘着シート
1a 片面
1b 他面
2 セパレーター
3 感温性両面粘着テープ
4 感温性粘着剤層
4a 表面
5 基材
10 第1積層体
11A 基板
11B 加工された基板
12 ダミー材
20 第2積層体
30 温水
図1
図2
図3