(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1〜
図8は、本開示の一態様に係るシート貼付方法の実施形態を模式図的に示す。図示のシート貼付方法は、半導体素子の材料であるウエハに可撓性を有するシート(本願で可撓性シートと称する)を貼り付ける方法であって、例えば、インゴットを切断して得たうねりや反りを含むウエハを平板に加工する前に行う前処理として実施できる。なお、本開示に係るシート貼付方法の用途は、これに限定されない。
【0014】
図示のシート貼付方法では、
図1に示すように、ウエハ10と、可撓性シート12と、平坦な支持面14とを用意する。ウエハ10は、第1主面(図で下面)16及びその反対側の第2主面(図で上面)18を有する円板状要素である。ウエハ10は、例えば、単結晶シリコン等からなる円柱状のインゴットを薄板状に切断した状態のものであって、切断作業に起因してうねりや反りが生じている場合が有るものである。うねりや反りを有するウエハ10は、それ自体に外力が加わらない状態で、第1主面16及び第2主面18の少なくとも一部分に曲面を含んでいる。
【0015】
可撓性シート12は、ウエハ10の第1主面16を実質的に被覆可能な形状及び寸法を有する。「実質的に被覆可能」とは、第1主面16の外縁に沿って僅かに被覆できない領域(例えば第1主面16の表面積の約5%以下の領域)が存在し得ることを意味する。また可撓性シート12は、ウエハ10の第1主面16と同一か又は第1主面16よりも大きな形状及び寸法を有することもできる。可撓性シート12は、第1面(図で上面)20及びその反対側の第2面(図で下面)22を有し、例えば、ウエハ10と同一又は相似の円板状の形状、及びウエハ10よりも薄い厚みを有することができる。また可撓性シート12は、任意の物体の面に平坦に広げて置いたときに当該面の形状に追従可能な可撓性を有することができる。可撓性シート12は、例えば、樹脂フィルム、紙、布、木、金属等からなることができる。
【0016】
支持面14は、任意の構造を有するシート支持部24の1つの面であって、可撓性シート12を平坦に広げた状態で支持するとともに、可撓性シート12を支持した状態で軸線14aを中心に回転することができる。支持面14は、可撓性シート12の、少なくともウエハ10に貼り付けられる部分の略全体を、平坦に支持できる形状及び寸法を有する。支持面14は、ウエハ10の輪郭と同一又は相似の円状の輪郭を有することができる。支持面14は、外力に抗して可撓性シート12を平坦に支持した状態を維持し得る剛性を有することができる。支持面14を有するシート支持部24は、例えば円形テーブルであることができる。
【0017】
図示のシート貼付方法は、可撓性シート12の第1面20を露出させた状態で第2面22を支持面14に付着させて、可撓性シート12の、少なくともウエハ10に貼り付けられる部分の略全体を、支持面14に平坦に支持するステップ(
図2A)を含む。
図2Aに示す実施形態では、支持面14は、可撓性シート12よりも僅かに小さな寸法を有し、可撓性シート12の外縁に沿った環状の領域(例えば外縁から径方向約1mm幅以内の領域)を除く部分を平坦に支持する。環状の領域を除くこの部分において可撓性シート12の第2面22は、支持面14に密着した状態に保持される。
【0018】
図示のシート貼付方法は、ウエハ10の第1主面16又は可撓性シート12の第1面20に液状接着剤26を与えるステップ(
図2B)を含む。
図2Bに示す実施形態では、支持面14に平坦に支持された可撓性シート12の第1面20の中央領域に、所定量の液状接着剤26が供給される。
【0019】
図示のシート貼付方法は、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20とを互いに対向させて、第1主面16と第1面20との双方を液状接着剤26に接触させるステップ(
図2C)を含む。
図2Cに示す実施形態では、支持面14に平坦に支持された可撓性シート12に対し、ウエハ10を略平行な所定の相対位置関係に位置決めした状態で、可撓性シート12の第1面20の中央領域に供給されている液状接着剤26に、ウエハ10の第1主面16の中央領域を接触させる。
【0020】
図示のシート貼付方法は、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させて、第1主面16と第1面20との間の間隙28に液状接着剤26を行き渡らせるステップ(
図2D、
図2E)を含む。
図2D及び
図2Eに示す実施形態では、支持面14を有するシート支持部24を軸線14aの周りで高速回転させて、支持面14に密着支持した可撓性シート12を回転させるとともに、液状接着剤26を介して可撓性シート12に対向配置されたウエハ10を、可撓性シート12に引きずられるようにして回転させることができる。或いは、可撓性シート12を支持したシート支持部24を軸線14aの周りで高速回転させると同時に、ウエハ10を支持したウエハ支持部(図示せず)をシート支持部24に同期して高速回転させる構成とすることもできる。ウエハ10と可撓性シート12とが高速回転するに伴い、液状接着剤26は遠心力により、第1主面16及び第1面20の中央領域から外縁に向かって放射状に流動し、間隙28の全体に行き渡る。液状接着剤26が間隙28に行き渡るに伴い、ウエハ10が可撓性シート12に接近して間隙28の寸法が減少する。
【0021】
図示のシート貼付方法は、液状接着剤26を固化させて、ウエハ10の第1主面16に、支持面14に平坦に支持した可撓性シート12を固着させるステップ(
図3A)を含む。
図3Aに示す実施形態では、液状接着剤26(
図2E)として光硬化型接着剤(例えば紫外線硬化型接着剤)を使用し、ウエハ10及び可撓性シート12の回転を停止した状態で、ウエハ10を通して液状接着剤26に光(例えば紫外線)30を照射することにより、液状接着剤26を固化させる。固化した液状接着剤26は、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20との間に介在する接着層32となる。接着層32は、可撓性シート12を支持面14から分離した後、外力に抗して可撓性シート12を平坦な形態に保持し得る剛性を有する。
【0022】
或いは、光硬化型接着剤からなる液状接着剤26を固化させる際に、
図3Bに示すように、ウエハ10及び可撓性シート12を軸線14aの周りで、間隙28に液状接着剤26(
図2E)を行き渡らせるための速度よりも遅い速度で回転させた状態で、ウエハ10を通して液状接着剤26に光(例えば紫外線)30を照射することもできる。この構成によれば、液状接着剤26の全体を一様な速度で固化させて接着層32を形成することができる。
【0023】
上記構成を有するシート貼付方法では、可撓性シート12の、少なくともウエハ10に貼り付けられる部分の略全体を、平坦な支持面14に平坦に広げて支持した状態で、ウエハ10と可撓性シート12との間に配置した液状接着剤26を固化させている。可撓性シート12が平坦な状態で液状接着剤26が固化することにより、ウエハ10の第1主面16に曲面部分が存在する場合であっても、可撓性シート12は、少なくともウエハ10に貼り付けられる部分において、平坦な形態を維持した状態で、ウエハ10の第1主面16を被覆する。したがって、ウエハ10がインゴットを薄板状に切断した状態のものであって、切断作業に起因してうねりや反りが生じているものである場合にも、接着層32によりウエハ10の第1主面16に固着された可撓性シート12の第2面22は、平坦面となる。
【0024】
他方、液状接着剤26が固化するまでの間、ウエハ10は実質的に変形せずに初期の形状を維持する。したがって、可撓性シート12を貼付する前のウエハ10がうねりや反りを含む場合、接着層32を介して可撓性シート12を第1主面16に貼付したウエハ10もうねりや反りを含んだものとなる。そして、上記シート貼付方法の後工程で、可撓性シート12の平坦な第2面22を基準面として、ウエハ10の第2主面18を平坦に研削でき、さらにこの研削面を基準として、可撓性シート12及び接着層32を除去しながらウエハ10の第1主面16を平坦に研削できる。
【0025】
特に上記シート貼付方法では、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20との双方を液状接着剤26に接触させた状態で、支持面14に支持した可撓性シート12をウエハ10と共に回転させて、第1主面16と第1面20との間の間隙28に液状接着剤26を行き渡らせている。ウエハ10と可撓性シート12とを回転させることで、液状接着剤26が間隙28の全体に迅速かつ円滑に行き渡り、液状接着剤26の途切れによる空隙の発生を回避できる。また、記述の特許文献1に記載される手法のように、ウエハ10を可撓性シート12に押し付けて液状接着剤26を間隙28に行き渡らせる手法では、ウエハ10に内部応力が残留しないように、液状接着剤26を固化させる前にウエハ10を初期のうねりや反りを含む形状に自動的に復元させるための時間が必要になる。また、ウエハ10を初期形状に自動的に復元させることで、間隙28の容積が増加して液状接着剤26が不足し、液状接着剤26が局部的に途切れて空隙が発生する懸念が有る。これに対し、上記シート貼付方法では、シート貼付工程の間にウエハ10は実質的に変形しないから、液状接着剤26が間隙28に行き渡った直後に液状接着剤26を固化させることができ、よって、ウエハ10を平板に加工する前に行う前処理に要する時間を短縮できるとともに、液状接着剤26の途切れによる空隙の発生を防止できる。
【0026】
上記シート貼付方法において、支持面14は、1μm以下の面内平面度を有することが望ましい。ここで「面内平面度」は、支持面14を2つの平行な絶対平面(すなわち幾何学的に正しい平面)の間に挟んだ場合のそれら絶対平面間の距離として定義される。このような平面度を有する支持面14は、金属、ガラス、セラミックス等の素材から機械加工により作製できる。
【0027】
また支持面14には、鏡面仕上げを施すことができる。鏡面仕上げを施した支持面14は、可撓性シート12の第2面22に密着し易くなる。このとき、任意の液体を支持面14に滴下又は噴霧することにより、支持面14と可撓性シート12の第2面22との密着状態を向上させることができる。或いは、支持面14を多孔質に形成し、真空吸着により可撓性シート12の第2面22を支持面14に密着させる構成とすることもできる。
【0028】
上記シート貼付方法において、光硬化型接着剤からなる液状接着剤26を固化させる際に、ウエハ10が光を透過し難い素材からなる等の場合には、可撓性シート12を通して光30を液状接着剤26に照射することもできる。この場合、透明な樹脂フィルムからなる可撓性シート12を用いることができる。また、シート支持部24をガラス等の光透過性素材から形成し、シート支持部24及び可撓性シート12の双方を通して光30を液状接着剤26に照射することもできる。
【0029】
上記シート貼付方法では、支持面14と同期して回転する複数の位置決め部材34を用意することができる。この場合、
図4に示すように、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させる間(
図2D及び
図2Eのステップ)に、複数の位置決め部材34の少なくとも1つをウエハ10の外縁10a及び可撓性シート12の外縁12aに当接して、ウエハ10と可撓性シート12とを予め定めた相対位置関係に位置決めすることができる。この相対位置関係は、可撓性シート12がウエハ10の第1主面16の所要部位を正確に被覆できるように、ウエハ10及び可撓性シート12の形状や寸法に応じて予め定められるものである。
【0030】
図4に示す実施形態では、シート支持部24の外周部の所定位置から径方向外方へ、略L字状の位置決め部材34が突設される。位置決め部材34は、
図5Aに示すように、シート支持部24から水平に延長される腕部36と、腕部36の末端で鉛直上方へ立設される柱状の当接部38とを有する。位置決め部材34は、当接部38がウエハ10及び可撓性シート12の双方の外縁10a、12aに当接することにより、ウエハ10と可撓性シート12とを予め定めた相対位置関係に位置決めする。
【0031】
支持面14がウエハ10及び可撓性シート12よりも大きい構成では、
図5Bに示すように、支持面14の所定位置に取り付けられる位置決め部材34´を用いることができる。位置決め部材34´は、支持面14に沿って水平に配置される腕部36´と、腕部36´の一端で鉛直上方へ立設される板状の当接部38´とを有する。位置決め部材34´は、当接部38´がウエハ10及び可撓性シート12の双方の外縁10a、12aに当接することにより、ウエハ10と可撓性シート12とを予め定めた相対位置関係に位置決めする。
【0032】
複数の位置決め部材34(34´)は、ウエハ10と可撓性シート12とを所定の相対位置関係に位置決めできることを条件として、ウエハ10及び可撓性シート12の外縁10a、12aに沿った任意の位置に分散して配置できる。ウエハ10の外縁10aに、ウエハ10の結晶方位を明示するノッチ40が設けられている場合、
図6A及び
図7Aに示すように、複数の位置決め部材34(34´)のうちの1つを、当接部38(38´)がノッチ40に係合する位置に配置することができる。この構成によれば、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させる間(
図2Dのステップ)に、1つの位置決め部材34(34´)からウエハ10の外縁10aにトルクを伝達することができ、ウエハ10と可撓性シート12とを正確に同期して回転させることができる。なお、可撓性シート12は、ノッチ40に対応する切欠き部分を外縁12aに有することができる。
【0033】
また、ウエハ10の外縁10aに、ウエハ10の結晶方位を明示するオリフラ(オリエンテーションフラット)42が設けられている場合、
図6B及び
図7Bに示すように、複数の位置決め部材34(34´)のうちの2つを、当接部38(38´)がオリフラ42に係合する位置に配置することができる。この構成によれば、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させる間(
図2Dのステップ)に、1つの位置決め部材34(34´)からウエハ10の外縁10aにトルクを伝達することができ、ウエハ10と可撓性シート12とを正確に同期して回転させることができる。なお、可撓性シート12は、オリフラ42に対応する切欠き部分を外縁12aに有することができる。
【0034】
上記シート貼付方法では、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させる間(
図2D及び
図2Eのステップ)に、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20との間の間隙28から余剰の液状接着剤26aを遠心力で排出することができる(
図2E)。この構成によれば、接着層32を介してウエハ10の第1主面16に固着された可撓性シート12の第2面22を平坦に維持するために用いられる液状接着剤26の量を、必要最小限にすることができる。間隙28から排出された余剰の液状接着剤26aは、ウエハ10の第1主面16又は可撓性シート12の第1面20に与えられる液状接着剤26として再利用できる。
【0035】
間隙28から余剰の液状接着剤26aを遠心力で排出する上記構成では、前述した位置決め部材34(34´)の当接部38(38´)は、間隙28から排出される液状接着剤26aから受ける衝突力を軽減可能な形状を有することができる。
図8に示すように、当接部38(38´)は例えば、ウエハ10及び可撓性シート12の径方向(つまり液状接着剤26aの排出方向)に直交する幅Wが、約0.5mm以上、約2mm以下であることができ、ウエハ10及び可撓性シート12の外縁10a、12aに対向する部位が、約60°以上、約120°以下の角度θを成す一対の外面38aを有することができる。これら外面38aの交線は、可及的に鋭利なエッジを形成することができるが、曲率半径約0.1mm程度の面取りを施すことで、当接部38(38´)がウエハ10及び可撓性シート12の外縁10a、12aを損傷することを防止できる。
【0036】
上記シート貼付方法では、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させる間(
図2D及び
図2Eのステップ)に、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20との間の間隙28に液状接着剤26が行き渡るに伴って、重力により第1主面16と第1面20とを互いに自動的に接近させることができる。この構成によれば、液状接着剤26が間隙28の全体に確実に行き渡るようになり、液状接着剤26の途切れによる空隙の発生を防止できる。
【0037】
重力により第1主面16と第1面20とを互いに接近させる上記構成では、前述した位置決め部材34(34´)の全てがウエハ10及び可撓性シート12の外縁10a、12aに常に当接するのではなく、幾つかの位置決め部材34(34´)の当接部38(38´)とウエハ10及び可撓性シート12の外縁10a、12aとの間にある程度の隙間gが形成されることが有利である(
図8)。隙間gは、ウエハ10と可撓性シート12との所定の相対位置関係の許容誤差に相当し、例えば約1mm以下である。また隙間gを設定することにより、複数の位置決め部材34(34´)の間の空間にウエハ10及び可撓性シート12を挿入する作業、及び接着層32形成後のウエハ10及び可撓性シート12を同空間から取り出す作業が容易になる。
【0038】
上記シート貼付方法で用いられる液状接着剤26は、硬化又は固化することでウエハ10の第1主面16に可撓性シート12の第1面20を強固に固定した状態に保持する接着力を発揮できるものである。液状接着剤26の素材としては、(a)ゴム、エラストマー等を溶剤に溶解したゴム系接着剤、(b)エポキシ、ウレタン等をベースとする一液熱硬化型接着剤、(c)エポキシ、ウレタン、アクリル等をベースとする二液混合反応型接着剤、(d)ホットメルト型接着剤、(e)アクリル、エポキシ等をベースとする紫外線又は電子線硬化型接着剤、(f)水分散型接着剤等を使用できる。特に好適には紫外線硬化型接着剤を使用でき、その材料として、(i)ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等の重合性ビニル基を有するオリゴマーと、(ii)アクリル又はメタクリルモノマーとの、少なくとも一方に、光重合開始剤及び必要に応じて添加剤を添加したものを採用できる。添加剤としては、触媒、促進剤、硬化剤、連鎖移動剤、粘度調整剤(例えば低粘度モノマーもしくは低粘度オリゴマー含む)、チクソトロピー(例えば、溶融シリカ含む)、充填剤(例えば、電気伝導性フィラー、熱伝導性フィラー含む)、可塑剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、難燃剤、熱老化防止剤、紫外線老化防止剤等を使用できる。また、上記シート貼付方法での使用に適した液状接着剤26の粘度は、例えば約0.5Pa・s(約500cp)以上、約5Pa・s(約5000cp)以下であることができる。紫外線硬化型接着剤の一例として、住友スリーエム株式会社(東京都品川区)から入手可能な液体−紫外線硬化型アクリル系液体接着剤LC−3200(商品名)を挙げることができる。
【0039】
図9A〜
図12は、本開示の他の態様に係るシート貼付装置の実施形態を模式図的に示す。図示のシート貼付装置50は、半導体素子の材料であるウエハに可撓性シートを貼り付ける装置であって、前述したシート貼付方法を実施できるものである。
図9A〜
図12では、シート貼付方法で説明した構成要素に対応する構成要素に、共通する参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0040】
シート貼付装置50は、第1主面16及び第2主面18を有するウエハ10を支持できるウエハ支持部52と、第1面20及び第2面22を有する可撓性シート12の、少なくともウエハ10に貼り付けられる部分の略全体を、第1面20を露出させかつ第2面22に付着した状態で支持できる平坦な支持面14を有するシート支持部(例えば円形テーブル)54と、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20とを互いに対向させた状態で、ウエハ支持部52とシート支持部54とをそれぞれに回転させる回転駆動部56、58とを備える(
図9A、
図9B)。
【0041】
ウエハ支持部52は、ウエハ10の第2主面18を真空吸着等により固定して支持できる支持面60を有する。
図9Aの実施形態では、ウエハ支持部52は支持面60で、第2主面18の略中央領域を支持する。シート支持部54は支持面14で、可撓性シート12の、少なくともウエハ10に貼り付けられる部分の略全体を、平坦に支持する。シート支持部54とウエハ支持部52とは、前者の平坦な支持面14と後者の支持面60とを互いに実質的平行に対向させる位置に配置できる。
図9Aの実施形態では、支持面14は、可撓性シート12よりも僅かに小さな寸法を有し、可撓性シート12の外縁に沿った環状の領域を除く部分を平坦に密着して支持する。この構成によれば、ウエハ10及び可撓性シート12の回転中に第1主面16と第1面20との間の間隙28から排出される余剰の液状接着剤26a(
図9B)が、支持面14に接触することなく、ウエハ10及び可撓性シート12の外縁10a、12aから外方へ円滑に飛散する。
【0042】
回転駆動部56は、例えばサーボモータを含み、ウエハ支持部52を所定速度で軸線14aを中心に回転させる。回転駆動部58は、例えばサーボモータを含み、シート支持部54を所定速度で軸線14aを中心に回転させる。回転駆動部56、58は、指令に従い、ウエハ支持部52とシート支持部54とを互いに同期して回転させることができる。回転駆動部56、58がウエハ支持部52とシート支持部54とを同期して回転させることにより、前述したシート貼付方法の、シート支持部24と可撓性シート12とウエハ10とを回転させて第1主面16と第1面20との間の間隙28に液状接着剤26を行き渡らせるステップ(
図2D、
図2E)を実施できる。また、回転駆動部56、58は、それら自体が本質的に有する心出し回転機能により、ウエハ支持部52とシート支持部54とを、軸線14aを共有する同軸位置に保持できる。
【0043】
図10A及び
図10Bに示すように、シート貼付装置50は、ウエハ支持部52とシート支持部54とを、同軸状態で互いに接近する方向へ移動できるように担持する担持機構62を備えることができる。
図10A及び
図10Bの実施形態では、担持機構62は、支持面14を上向き水平に配置したシート支持部54に対し、支持面60を下向き水平に配置したウエハ支持部52を鉛直方向へ移動可能に担持する。担持機構62は、軸受64を介してウエハ支持部52を軸線14aの周りで回転可能に担持する本体66と、本体66を鉛直方向へ案内するリニアガイド68とを備える。担持機構62は、可撓性シート12をウエハ10と共に回転させるとき(
図2D及び
図2Eのステップ)に、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20との間の間隙28に液状接着剤26が行き渡るに伴って、第1主面16と第1面20とを互いに接近させることができる。
【0044】
間隙28に液状接着剤26が行き渡るに伴って、重力により第1主面16と第1面20とを互いに自動的に接近させることができるようにするために、担持機構62は、リニアガイド68に沿って鉛直方向へ移動する可動部分全体の重量を相殺するカウンタバランサ70を備えることができる。カウンタバランサ70は、例えばばね、エアシリンダ、釣合錘等によって構成でき、間隙28に液状接着剤26を行き渡らせる間、担持機構62の可動部分全体の重量がウエハ10に加わることを防止する。担持機構62の重量がウエハ10に加わらなければ、シート貼付工程の間のウエハ10の変形を防止できる。
【0045】
シート貼付装置50が、ウエハ支持部52を担持する担持機構62を備える構成では、
図10A及び
図10Bに示すように、ウエハ支持部52の回転駆動部(すなわち第2の回転駆動部)56(
図9A)を省略することができる。この構成では、回転駆動部58がシート支持部54を回転させることにより、シート支持部54と共に回転する可撓性シート12に、ウエハ10が液状粘着剤26を介して引きずられるように回転する。ウエハ10が可撓性シート12に追従して回転する間、ウエハ10は担持機構62によって前述したように担持され、ウエハ10の第1主面16と可撓性シート12の第1面20との間の間隙28に液状接着剤26が行き渡る。なお、ウエハ支持部52を担持する担持機構62を備える構成において、ウエハ支持部52の回転駆動部56を装備することもできる。
【0046】
図10A及び
図10Bに示すように、ウエハ支持部52は、支持面60を包囲するように配置されるOリング72を有することができる。ウエハ10がうねりや反りを有している場合、支持面60とウエハ10の第2主面18との間の密着性が低下する危惧が有るが、Oリング72が第2主面18のうねりや反りに沿うように弾性変形することで、密着性の低下を補償できる。特に、ウエハ支持部52が真空吸着によりウエハ10を支持面60に固定して支持する構成では、Oリング72は、その内側で支持面60と第2主面18との間が減圧することにより弾性変形し、第2主面18に強固に密着する。Oリング72が第2主面18に強固に密着すれば、ウエハ支持部52が高速回転する間も、うねりや反りを有するウエハ10を支持面60に安定して支持することができる。
【0047】
光硬化型の液状接着剤26を使用する場合、
図11に示すように、シート貼付装置50は、ウエハ支持部52に支持したウエハ10の第1主面16とシート支持部54に支持した可撓性シート12の第1面20との間の間隙28に行き渡った液状接着剤26を固化させることができる光照射部74をさらに備えることができる。光照射部74を備えることにより、前述したシート貼付方法の、液状接着剤26を固化させて接着層32を形成し、ウエハ10の第1主面16に支持面14に平坦に支持した可撓性シート12を固着させるステップ(
図3A)を実施できる。
【0048】
図12に示すように、シート貼付装置50は、シート支持部54と同期して回転する複数の位置決め部材34をさらに備えることができる。それら位置決め部材34の各々は、ウエハ支持部52に支持したウエハ10の外縁10aとシート支持部54に支持した可撓性シート12の外縁12aとに当接してウエハ10と可撓性シート12とを予め定めた相対位置関係に位置決めできる当接部38を有する(
図5A)。支持面14がウエハ10及び可撓性シート12よりも大きい構成では、位置決め部材34に代えて、
図5Bに示す位置決め部材34´を備えることができる。
【0049】
位置決め部材34(34´)は、ウエハ10と可撓性シート12とが同一又は相似の形状を有する場合に、比較的単純な形状の当接部38(38´)を有することができる。ウエハ10と可撓性シート12とが同一又は相似の形状を有さない場合(例えばノッチ40やオリフラ42を有するウエハ10に円形の可撓性シート12を貼付する場合)は、ウエハ10及び可撓性シート12の双方の外縁10a、12aに当接することができる形状に、当接部38(38´)を形成する。またこのような場合、位置決め部材34(34´)を使用せずに、ウエハ支持部52の支持面60に対しウエハ10を高精度に位置決めして固定的に支持するとともに、シート支持部54の支持面14に対し可撓性シート12を高精度に位置決めして固定的に支持することで、ウエハ10と可撓性シート12とを予め定めた相対位置関係に位置決めできる。
【0050】
シート貼付装置50が複数の位置決め部材34(34´)を備える構成では、
図12に示すように、ウエハ支持部52の回転駆動部56(すなわち第2の回転駆動部)を省略することができる。この構成では、回転駆動部58がシート支持部54を回転させることにより、シート支持部54と共に回転する可撓性シート12に、ウエハ10が液状接着剤26を介して引きずられるように回転する。ここで、シート支持部54が回転する間、例えば液状接着剤26の作用により可撓性シート12とウエハ10との相対位置関係が維持される場合は、
図12に示すように、ウエハ支持部52を省略することもできる。なお、複数の位置決め部材34(34´)を備える構成において、ウエハ支持部52及びその回転駆動部56を装備することもできる。
【0051】
上記構成を有するシート貼付装置50は、前述したシート貼付方法を実施することで、ウエハ10を平板に加工する前に行う前処理に要する時間を短縮できる。特にシート貼付装置50は、ウエハ10を可撓性シート12に押し付けて液状接着剤26を間隙28に行き渡らせるための構造を必要としないので、装置構成が簡略化される。
【0052】
図13A〜
図13Cは、本開示のさらに他の態様に係るウエハ加工方法の実施形態を模式図的に示す。図示のウエハ加工方法は、その前処理として前述したシート貼付方法を実施できるものである。
図13A〜
図13Cでは、シート貼付方法で説明した構成要素に対応する構成要素に、共通する参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。なお
図13A及び
図13Bでは、ウエハ10がうねりや反りを含む形態を誇張して示す。
【0053】
図13Aに示すように、前述したシート貼付方法の、液状接着剤26を固化させて接着層32とし、ウエハ10の第1主面16に可撓性シート12を固着させるステップ(
図3A)により得られた積層体を、図示しないワークテーブルに載置して固定する。このとき、可撓性シート12の平坦な第2面22をワークテーブルに対面させ、ウエハ10の第2主面18を上向きに配置する。この状態で、
図13Bに示すように、可撓性シート12の第2面22を基準として、ウエハ10の第2主面18を研削して、第2面22に平行な平坦面18aに加工する。
【0054】
ウエハ10の第2主面18を平坦面18aに加工した後、積層体をワークテーブル上で反転して、ウエハ10の平坦面18aをワークテーブルに対面させ、可撓性シート12の第2面22を上向きに配置する。この状態で、可撓性シート12及び接着層32をウエハ10の第1主面16から除去するとともに、
図13Cに示すように、平坦面18aを基準としてウエハ10の第1主面16を研削して、平坦面18aに平行な平坦面16aに加工する。このようにして、うねりや反りを除去した平板状のウエハ80が作製される。
【0055】
上記構成を有するウエハ加工方法によれば、前処理として前述したシート貼付方法を実施することで、内部応力が残留していない平板状のウエハ80を作製できるので、経時でウエハ80にうねりや反りが再現することを回避でき、また、ウエハ10を平板状のウエハ80に加工するに要する総時間を短縮できる。
【実施例】
【0056】
上記したウエハ加工方法の実効性を検証するべく、
図9A〜
図12に示すシート貼付装置50を用いて、以下の条件(実施例1〜3)で、ウエハ10に可撓性シート12を貼付した後に、
図13A〜
図13Cの手順を経て平板状のウエハ80を作製した。
【0057】
〔共通条件〕
ウエハ10・・・サファイア製(直径150mm)、インゴットを厚み1.5mmに切断
可撓性シート12・・・円形のPETフィルム(直径150mm)、厚み75μm
シート支持台54・・・円形テーブル(直径150mm)
支持面14・・・面内平面度1μm以下
液状接着剤26・・・液体−紫外線硬化型アクリル系液体接着剤LC−3200(商品名)(住友スリーエム株式会社(東京都品川区))、粘度3Pa・s(3000cp)、供給量5g
回転駆動部58・・・回転数750rpm、駆動時間90秒
【0058】
〔実施例1の条件〕
装置構成・・・
図9A
ウエハ10・・・反り118μm(JISK6911(1995年)5.6に記載の「最大そり」に相当。以下同。)
回転駆動部56・・・回転数750rpm、駆動時間90秒
【0059】
〔実施例2の条件〕
装置構成・・・
図10A
ウエハ10・・・反り114μm
回転駆動部56・・・無
【0060】
〔実施例3の条件〕
装置構成・・・
図12
ウエハ10・・・反り115μm
回転駆動部56・・・無
【0061】
検証結果は以下の通りである。
〔実施例1〕
ウエハ80・・・反り7μm
〔実施例2〕
ウエハ80・・・反り8μm
〔実施例3〕
ウエハ80・・・反り8μm
【0062】
このように、実施例1〜3のいずれにおいても、うねりや反りを有するウエハ10から、
図13A〜
図13Cの手順を経て、反りが極めて小さい平板状のウエハ80を作製することができた。