(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋼板の熱間圧延、特に仕上げ圧延においては、圧延上がりの板の板厚が、高い歩留まりで目標通りの板厚となるように、板厚制御を行うことが必要である。
板厚制御方式としては種々の方式が知られているが、鋼板の熱間圧延においては、圧延中の圧延荷重を検出し、板厚及び塑性係数(変形抵抗)との関係から、圧延機の出側の板厚を把握して、上下のロール間の間隔(ロールギャップ)を制御する、いわゆるAGC制御(Automatic Gauge Control)方式が広く適用されている。また、AGC制御方式を適用する場合、それに併せ、ロール位置を検出して圧延中のパスラインを一定に保つようにロール位置を制御する、いわゆるAPC制御(Automatic Position Control)を適用することが多い。
【0003】
このような熱間仕上げ圧延機におけるAGC―APC制御の従来の一般的な制御システムの一例を、
図1に概略的に示す。
【0004】
図1において、圧延機10は、被圧延材である鋼板20、例えばステンレス鋼板20が噛み込まれる上下一対のワークロール11A、11Bと、これらのワークロール11A、11Bをバックアップするための上下のバックアップロール12A、12Bとを有する構成とされている。そして上下のワークロール11A、11Bは、それぞれ図示しない回転駆動装置によって逆方向に回転させられて、鋼板20を所定の板厚まで圧下するように構成される。ここで図示の例では、上側のバックアップロール12A及びワークロール11Aと、下側のバックアップロール12B及びワークロール11Bは、それぞれ上下位置調整可能に図示しないチョックに支持されている。そして本例の場合、上側のバックアップロール12A及びワークロール11Aは、図示しない電動モータによって上下位置が調整されるようになっている。一方、下側のバックアップロール12B及びワークロール11Bは、油圧シリンダ13によって上下位置が調整されるようになっている。
【0005】
油圧シリンダ13は、油圧ポンプ14からの油圧がサーボバルブ15を経て加えられ、そのサーボバルブ15を制御することによって、下側のバックアップロール12B及びワークロール11Bの上下方向の位置が調整されるようになっている。また油圧シリンダ13にはその上下方向の位置を検出するための位置検出器16が付設されている。ここで、油圧シリンダ13は、下側バックアップロール12Bを介して下側ワークロール11Bに間接的に接しているから、実質的に下側ワークロール11Bの上下方向位置を検出していることになる。
【0006】
一方、上側バックアップロール12Aには、そのバックアップロール12Aに加わる荷重(圧延時に被圧延材から加えられる反力)を検出するためのロードセル17が付設されるとともに、上下のワークロール11A、11Bの間隔、すなわちロールギャップsを検出するための開度計18が付設されている。なおこの開度計18は、実際には位置検出器によってバックアップロール12Aの位置を検出して、前述の下側の位置検出器16による検出位置との関係から、ロールギャップ(開度)を算出するのが通常である。
【0007】
一方、各検出信号などに基いてサーボバルブ18の動作を電気的に制御するための制御部分は、基本的には、上下のロール間の間隔(ロールギャップ)を制御するためにサーボバルブ18のゲインを設定するAGC制御部30と、そのゲインに応じて、また同時に圧延中のパスラインを一定に保つようにロール位置を制御するAPC制御部40とによって構成されている。
【0008】
そして、上述のような位置検出器16、開度計18からのロール位置もしくはロールギャップ開度sの検出値に関する信号は、AGC制御部30に与えられて、そのAGC制御部30内の第1のロックオンメモリ31を介して第1の演算器(引き算器)32により、開度sの変化分Δsが算出される。一方、ロードセル17により検出される実測荷重(実測反力)Fは、同じくAGC制御部30に与えられて、そのAGC制御部30内の、目標板厚部の実測反力FLを記憶した第2のロックオンメモリ33介して第2の演算器(引き算器)34により反力変化分(F−FL)が算出され、更に第3の演算器(割算器)35により、図示しない計算機から与えられるミル定数Mによる補正がなされて、(F−FL)/Mの値が算出される。
【0009】
さらに、第1の演算器32からの開度sの変化分Δsと、上記の第3の演算器35からの(F−FL)/Mの値とが第4の演算器36に与えられて、目標とする板厚からの板厚推定偏差分Δhが求められ、更にその第4の演算器36から得られる板厚推定偏差分Δhと、塑性係数Qとの関係から、第5の演算器37により、(M+Q)/Mの値が演算される。そしてこの(M+Q)/Mの値が、AGC制御部38に与えられて、油圧シリンダ制御用のAGC指令信号(ゲイン信号)GとしてAGC制御部38に与えられ、更にそのAGC指令信号Gは、APC制御部40内のAPC制御部41に与えられ、油圧シリンダの断面積や油圧系応答時間などによる補正を行い、最終的なサーボ動作指令信号SBが前述のサーボバルブ16に与えられる。
このようにして、仕上げ圧延機の出側板厚を圧延中に一定に保つとともにパスラインを一定に保つための制御がなされる。
【0010】
ところで圧延機のロールバイトに噛み込まれた直後の部分、すなわち噛み込み側端部(圧延方向を基準として先端側の部分に相当するから、以下では“先端部”という)の板厚は、定常圧延部分よりも大きくなる傾向を示すのが通常である。すなわち先端部では板厚偏差が大きくなる。特に、高強度を有していて変形抵抗が大きいステンレス鋼板などでは、先端部の板厚偏差が大きくなることが知られている。板厚偏差が大きい部分は、不良箇所として切り捨てるのが通常であるが、先端部の板厚偏差が大きくて、目標板厚に対する許容範囲内(公差内)から外れる部分の長さが長ければ、製品歩留まり低下を招く。また板厚偏差が大きければ、突合せ溶接して使用する用途では溶接不良を招くなど、製品品質が低下する問題もある。
【0011】
なお、後に改めて説明するように、ロールバイトから噛み出される直前においても、その噛み出し側端部(圧延方向を基準として尾端側の部分に相当するから、以下では“尾端部”という)の板厚も、定常圧延部分よりも大きくなる傾向を示す。そして、ステンレス鋼厚板の熱間圧延においては、圧延方向を交互に逆転させて繰り返し圧延するリバース式圧延を適用することが一般的であり、その場合、実際上は、上記の噛み込み側での板厚偏差の増大と噛み出し側での板厚偏差の増大が重畳され、仕上げ圧延上がり板の両端部分で、板厚偏差が大きくなる傾向を示す。
【0012】
このように熱延上がり板での両端部分での板厚偏差の増大の状況を、
図2に模式的に示す。
図2において、横軸は圧延上がり板の長さ方向を示し、縦軸は板厚を示す。
図2に示しているように、長さ方向両端部分P1、P2を除いた長さ方向中央側の定常圧延部分P0では、目標板厚t
0に対する板厚変動が比較的少ないのに対して、長さ方向両端部分P1、P2では、局所的に板厚が大きくなり、許容板厚上限t
cを大きく超えてしまうことがある、本発明者等の経験によれば、ステンレス鋼(SUS304)についての仕上げ目標板厚22mm、板長13000mm、板幅2600mmの熱間仕上げ圧延においては、長さ方向両端部分P1、P2に、最大0.5〜1.0mm程度の板厚偏差の部分が、長さ500〜1000mm程度にわたって生じることが確認されている。
【0013】
ところで、上記のように熱延上がり板での両端部分で板厚偏差が増大する原因、特に噛み込み側端部(先端部)で板厚偏差が大きくなる原因としては、ロールバイトに被圧延材が噛み込まれる際の衝撃荷重の影響が大きいと考えられる。
【0014】
すなわち、最近の熱間圧延機では、上下の圧延ロールのうち、少なくとも一方側のロールは、
図1の例でも記載したように、油圧シリンダによって上下位置調整可能に支持されていて、ロール位置を油圧によって調整し得るように構成しているのが一般的であり、そのため噛み込み時の衝撃荷重によって油圧シリンダ内の油が瞬間的に圧縮されて、油圧シリンダが沈み込み、下側のロールの位置が、ロールギャップを開ける方向に変動してしまう。その結果、ロールギャップが瞬間的に大きくなってその部分で板厚が過大となってしまう。特に被圧延材が高強度のステンレス鋼であってその板厚も大きい場合には、上記の衝撃荷重も大きく、その衝撃荷重による、油圧シリンダ内の油の瞬間的な圧縮量も大きくなり、ロールギャップの開きも大きくなって、板厚偏差量が過大となるとともに、その過大部分の長さも長くなってしまう。
【0015】
なお、圧延機の構成によっては、油圧シリンダにより上下位置が調整されるロールが上側のロールである場合もあるが、一般には下側のロールが油圧シリンダによって支持される圧延機が多く、そこで以下では、
図1に関して説明したように、上側ロールが電動シリンダで上下位置調整可能に支持されていて、下側のロールが油圧シリンダにより上下位置整可能に支持されている場合を想定して説明するものとする。すなわち、被圧延材がロールバイトに噛み込まれる際に加えられる瞬間的な衝撃荷重によって、下側のロールの油圧シリンダの油が圧縮されて(すなわち油柱が沈み込んで)、下側ロールの位置が下方に瞬間的に移動し、その結果、ロールギャップが瞬間的に開いてしまうこととして、説明を進める。
【0016】
熱延上がり板での両端部分で板厚偏差が増大する原因としては、上記のような噛み込み時の衝撃荷重のほか、圧延時の材料温度の長さ方向でのばらつきも大きく影響していると考えられる。
すなわち、一般にステンレス鋼厚板の熱間仕上げ圧延においては、リバース方式によって圧延を複数回繰り返すのが通常であり、その間には、次第に被圧延材の温度が低下する傾向を示すが、とりわけ長さ方向の両端部分では、長さ方向中央部分と比較して温度低下が激しくなる。すなわち長さ方向の両端部分は過冷却された状態となる。このような過冷却部分は、材料の変形抵抗が大きいため、上下のワークロールによって潰されにくくなり、また同時に噛み込み時における衝撃荷重も大きくなるためロールギャップの開きも大きくなってしまう。そしてこれらが相乗的に作用して、被圧延材の両端部、とりわけ噛み込み側の先端部分で過大な板厚偏差が生じてしまうものと考えられる。
【0017】
特にステンレス鋼は、普通鋼よりも材料強度が高くて、熱間圧延温度でも普通鋼より変形抵抗が大きく、そのため上記の両端部分の過冷却の影響が強くなる。また、ステンレス鋼は、そもそも普通鋼よりも変形抵抗が大きいところから、熱間仕上げ圧延のパス数も、普通鋼よりも多くするのが通常であり、その場合、仕上げ圧延の間における両端部分の温度低下も、普通鋼よりも大きくなる。そのため、上記のような両端部分の過冷却が激しくなって、両端部分の板厚偏差も大きくなってしまうと考えられる。
本発明者等の経験によれば、ステンレス鋼(SUS316)についての仕上げ目標板厚4mm、板長19000mm、板幅1220mmの熱間仕上げ圧延最終パスにおいて、長さ方向中央部分の温度が1100℃である場合に、両端部分の温度は700〜800℃程度まで低下し、その場合の両端部分の変形抵抗は、普通鋼の数倍となってしまうことが確認されている。
【0018】
なお、熱間仕上げ圧延における噛み出し側の尾端部では、噛み込み側の先端部とは異なり、噛み込み時の衝撃荷重は作用しないが、被圧延材の長さ方向の端部での過冷却が生じる点では、噛み込み側の先端部と同様である。そのため特に変形抵抗が大きいステンレス鋼では、過冷却によって噛み出し側でも板厚変動が生じてしまう。したがって、仕上げ圧延における1パスについてのみ考慮すれば、噛み込み側の先端部では、前述のように噛み込み時の衝撃荷重と長さ方向温度分布のばらつき(長さ方向端部の過冷却)とに起因して、大きな板厚偏差が生じ、一方噛み出し側の尾端部では、主として長さ方向の温度分布のばらつき(長さ方向端部の過冷却)に起因して、かなりの大きさの板厚偏差が生じることになる。このような1パスについてのみ考慮した板厚偏差発生状況を、
図3に模式的に示す。但し既に述べたように、ステンレス鋼厚板の熱間圧延においては、圧延方向を交互に逆転させて繰り返し圧延するリバース式圧延を適用することが一般的であり、したがって各パスごとに、噛み込み側先端部と噛み出し側尾端部とが逆転するから、最終的に仕上げパス後の板としては、
図2に示したように、板の両端部分に、ほぼ同程度の大きな板厚偏差が存在する状態となるのが通常である。
【0019】
ところで噛み込み側端部において、衝撃荷重によって瞬間的に下側ロール(油圧側のロール)を支持する油圧シリンダの沈み込みが生じて、ロールギャップが瞬間的に開いてしまった場合でも、ある時間が経過すれば、油圧シリンダの油柱が初期設定状態に戻され、ロールギャップが初期設定値に戻るように(すなわち目標板厚が得られるはずのロールギャップに)、下側ロールが復帰(上昇)する。但し、その際に何ら制御を行わなければ、初期設定位置に戻るまでに、かなりの時間(例えば0.2〜0.3sec程度の時間)を要するから、板厚公差を越える過大偏差部分が、前述のようにかなりの長さ(例えば500〜1000mm)にわたって生じてしまう。
【0020】
ここで、従来の一般的なAGC−APC制御方式では、パスライン制御(APC制御)のために下側ロールの位置を位置検出器が検出し、パスラインが常に正常な位置を保つように下側ロールの位置を制御する構成としているのが一般的である。この場合、上記のような衝撃荷重による下側ロールの油圧シリンダ沈み込み量が、予め定めた閾値を超えたことを位置検出器によって検出されれば、その検出信号がAGC制御部を経てAGC制御部に与えられ、正常なパスライン位置に復帰するように、下側ロールを上昇(復帰)させる機能が働く。しかしながら、下側ロールの沈み込み量が、予め定めた閾値を超えたことを検出してから、実際に下側ロールが復帰するまでにはかなりの時間を要し、そのため、実際上は、噛み込み側の先端部分の板厚偏差過大部分の長さを短くすることは困難であって、かなりの長さにわたって、板厚偏差過大部分が残ってしまう。
【0021】
一方、噛み込み時のロールギャップの瞬間的な開きを補償するために、噛み込み開始時においてはAPC制御をオフにしておくとともに、噛み込み開始前における下側ロールの位置を、正常な圧延時のパスラインよりも所定の高さだけ上げておき、これによって噛み込み時に油圧シリンダの沈み込みによる先端部板厚過大化を防止しようとすることも従来から行われている。これは、いわゆる“噛み込み時沈み込み補償方式”、俗に“ゲタ履かせ方式”と称される手法であり、噛み込み時に衝撃荷重によって油圧シリンダが沈み込んでも、その分、予め下側ロールの位置を高くしておく(ゲタを履かせておく)ことにより、衝撃荷重が加わった時にロールギャップが過剰に大きくならないようにすることによって、前述の噛み込み時の先端部分板厚偏差を小さくしようとするものである。なおこの場合、一般には、予め、過去の実績などから、ゲタを履かせる高さ及びその期間を予測して、それらの予測値を制御部に設定しておき、ゲタ履かせ期間が経過したら、APC制御を機能させて、下側ロールの位置を正常パスラインの位置に制御するのが通常である。
【0022】
しかしながら、上述のようなゲタ履かせ方式では、次のような問題があった。
すなわち、噛み込み開始時における下側ロールの位置を、正常な圧延時(定常圧延時)のパスラインよりも所定の高さだけ上げておくことは、ロールギャップを定常圧延時よりも小さく設定しておくことを意味する。これは、かえって噛み込み時の衝撃荷重を大きくする結果となるから、実際上は、衝撃荷重をちいさくして、前述の問題を確実に解決するには限界があった。
【0023】
また、実際の圧延工場においては、変形抵抗が異なる種々の鋼種、種々の板厚の鋼板を圧延する必要がある。一方、材料固有の変形抵抗の差や、板厚の相違などによって、噛み込み開始時の初劇荷重による」油圧シリンダの沈み込み量は、大きく異なる。したがって、あらゆる鋼種、板厚について、適切なゲタ履かせ量を予測して、適切にゲタ履かせ量及び時間を適切に設定することは極めて困難である。そのため、常に最適な制御が行われるとは限らず、実際上は前述のような先端部分板厚偏差過大発生を確実に抑制することは困難であった。
【0024】
さらに、ゲタ履かせ方式では、前述のようにゲタ履かせ期間が経過したら、APC制御を機能させて、下側ロールの位置を正常パスラインに対応する位置まで上昇させる制御を行うが、予測によるゲタ履かせ量が過大であった場合には、ゲタ履かせ終了時に下側ロールが正常位置よりも高い位置まで上昇してしまって、いわゆるハンチング(波打ち)が生じ、板厚が変動して、板厚公差内であっても板厚不均一により不良品となってしまうことがある。
【0025】
したがってこれらの事情から、いわゆるゲタ履かせ方式も、先端部板厚偏差を抑えるための最良の対策とは言えず、より確実かつ安定して噛み込み側先端部分の板厚偏差を小さくするための根本的な解決策が求められている。
【0026】
ところで、圧延機の板厚を目標値に確実に近づけることができる圧延機の板厚制御方法として、特許文献1(特開2013−81969号)の技術が提案されている。
この特許文献1の板厚制御方法は、基本的には、圧延機の動特性を考慮しつつ、ゲージメータ式を満足する圧延荷重変動値ΔP´を算出し、その動特性圧延荷重変動値ΔP´を用いて、ロールギャップ修正量ΔSを求め、その修正量ΔSを圧延機に適用するものとされている。ここで、ゲージメータ式は、ミル定数を含むものであり、したがってこの方法では、ロール自体の伸びなどの圧延機本体に関する要素を考慮して制御することとしている。したがって、主として噛み込み時における衝撃荷重によるロールギャップの瞬間的な開きに起因する噛み込み側先端部分の板厚増大に対しては有効でないと考えられる。またこの特許文献1の技術では、仮に噛み込み時における衝撃荷重を検出したとしても、急激かつ瞬間的なロールギャップの開きに対しては応答が遅れ、実際上は噛み込み側先端部分の板厚増大を抑制することは困難と思われる。
【0027】
また特許文献2(特許題3350140号)には、板圧延の噛み込み端部の板厚制御方法が提案されている。この特許文献2の技術は、基本的にはAGC制御を前提としながらも、前パスの実測値から次パスを予測して、その次パスにおけるロール開度を制御しようとするものである。このような前パスからの予測による制御技術では、変形抵抗が異なる種々鋼種、種々の板厚の圧延には、必ずしも適切な制御を行い得ないという問題がある。
【0028】
さらに特許文献3(特許第2885601号)には、AGC制御を前提とし、予測に基づいて噛み込み時のロール開度を正常圧延時の開度よりも大きく設定することによって、噛み込み時の衝撃荷重による油圧シリンダの沈み込みを補償しようとするものである。この技術は、噛み込み時のロール開度を、前述のようなゲタ履かせ方式とは逆方向に設定しておくものであり、この技術では、噛み込み開始時の衝撃荷重が小さくなって、油圧側ロールの沈み込み量も少なくなると考えられるが、逆にその設定が不適切であれば、噛み込み側先端部の板厚がむしろ増大してしまうおそれがある。また、噛み込み時の沈み量は特許文献2の技術と同様に、以前のパスからの予測に基づいているため、変形抵抗が異なる種々鋼種、種々の板厚の圧延には、必ずしも適切な制御を行い得ないという問題がある。
【0029】
また特許文献4(特許第3278120号)には、噛み込み側端部の板厚制御のための方法として、噛み込み時のロール開度を大きくしておく(いわゆるゲタ履かせ)を行ない、AGC制御することが開示されているが、この技術では、前記したゲタ履かせ方式について述べた種々の問題点がある。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に本発明の各実施形態について詳細に説明する。
[第1の実施形態]
この第1の実施形態は、前述の第1〜第
3の態様の板厚制御方法に対応する実施形態である。ここでは、本発明の第1の実施形態の板厚制御方法の前提として、従来の無制御の場合の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を、
図4に模式的に示し、それと比較して、本発明の第1の実施形態の板厚制御方法による噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を、
図5に模式的に示す。さらに
図6には、第1の実施形態を実施するためのシステム構成の一例を示す。
【0044】
図4は、従来の、無制御の場合(但し、一般的なAGC―APC制御は行っているものとする)の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示している。
図4に示すように、噛み込みの瞬間(N1)に、衝撃荷重によって油圧シリンダの沈み込み(油柱の沈み込み)が発生する。この沈み込み中の期間(N2)では、板厚偏差が増加する。すなわち目標板厚よりも板厚が大きくなる。板厚偏差が最大となった時点(N3:谷点と記す)の油柱の沈み込み料の最大値をΔGnとする。そして谷点N3から、APC制御により、APC制御によってシリンダ位置を目標位置に復帰(収束)させるように油圧シリンダが上昇し(N4)、それに従って板厚偏差が減少し、最終的に目標板厚に到達する。
【0045】
上記の
図4に示す過程、とりわけ噛み込みの瞬間(N1)から谷点(N3)に達するまでの油圧シリンダの沈み込みの挙動(位置の変化)を詳細に観察すれば、その沈み込みの速度(したがって位置の時間微分値)は噛み込みの瞬間から急激に大きくなり、沈み込み速度(位置変化速度)が極大を越えれば、次第に沈み込み速度(位置変化速度)が小さくなり、その後、谷点(N3)に到達する、というパターンとなること、したがってその沈み込みパターンにおける上記の位置変化速度の絶対値が極大となる時点は、沈み込み量が最大値となる時点(谷点N3)よりも早いことを認識した。そこで本発明では、噛み込み側先端部の板厚偏差を早期に抑制するために、油圧シリンダの沈み込みの変化(位置変化)を微分して、得られる変化速度の値によって油圧シリンダの動作を制御することとしている。また上述のような噛み込み開始初期の沈み込み量の変化速度のパターンは、変形抵抗が異なる鋼種、板厚が異なる被圧延材でも基本的に共通であるため、鋼種や板厚にかかわらず、適用可能となる。
【0046】
図5には、上述のようなパターンに基いて、本発明の第1の実施形態の板厚制御における噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示している。なおこの場合、従来の一般的なAGC−APC制御方式を前提として、噛み込む時における本発明特有の制御方式を付加(導入)している。
【0047】
この第1の実施形態の場合も、噛み込みの瞬間(C1)に、衝撃荷重によって油圧シリンダの沈み込み(油柱の沈み込み)が発生し、この沈み込みは、時間の経過とともに急激に大きくなる。そして、その沈み込みの速度(位置変化速度)は、噛み込みの瞬間から急激に大きくなる(C1〜C2)。ここで、油圧シリンダの位置を、油圧シリンダに付設された位置検出器によって検出して、その変化量を時間によって微分し、変化速度(沈み込み速度)を求める(C3)。そしてこの変化速度が最大値となった時点Cpにおいて、油圧シリンダの変化速度を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するための指令信号が油圧シリンダのサーボ系に与えられる(C3〜C4)。すなわち本実施形態では、油圧シリンダの沈み込み方向(下降方向)への位置変化速度が零となるように、油圧シリンダを制御する。なお、変化速度が最大値となる時点Cpのタイミングは、変化速度の微分値が零となることによって検出することができる。
【0048】
上記のようにしてCpにおいて、変化速度の微分値が零となって油圧シリンダの変化速度の絶対値を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するための指令信号が、油圧シリンダのサーボ系に与えられた後、実際に油圧シリンダの沈み込み速度が小さくなり、さらに沈み込み速度が零となれば(C4)、沈み込み動作が停止される(C5)。この時点(C5)において、シリンダ沈み込み量(絶対値)が最大となる。このときの最大の沈み込み量をΔGcとする。
【0049】
シリンダ沈み込み量が最大のΔGcとなった時点(C5)以降は、従来と同様なAPC制御機能によって、油圧シリンダを上昇させ(C6〜C7)、最終的にロールギャップが目標とする開度となる(C8)。
【0050】
なおC6〜C7の期間においてある程度ロールギャップが目標開度に近づいたときに、圧延速度を、噛み込み開始時の低速状態から、定常圧延速度に向けて上昇させる指令を与えるのが好ましい。
【0051】
また、上記のCpのタイミングにおいて、変化速度の微分値が零となって油圧シリンダの変化速度の絶対値を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するための指令信号が一旦油圧シリンダのサーボ系に与えられた後には、特に変化速度の微分値による制御を積極的に行わなくても、上記の指令信号とシリンダのAPC制御の機能によって、油圧シリンダを上昇させることができる。言い換えれば、変化速度の微分値が零となった後は、微分値による制御はおこなう必要がなくなるから、それ以降は、微分値の算出及びその算出値に制御は不要となる。
【0052】
上記の
図4に示される従来の制御方法の場合のパターンと、
図5に示される第1の実施形態によるパターンとを、時間軸を同一尺度として重ねあわせれば、
図6に示すようにあらわされる。
図6から明らかなように、本発明第1の実施形態の方法において油圧シリンダの沈み込み量が最大値ΔGcとなるタイミングCpは、本発明法を適用しない場合において沈み込み量が最大値ΔGnとなるタイミングCnよりも格段に早いタイミングとなる。そのため、本発明第1の実施形態の方法における沈み込み量の最大値ΔGc自体も、本発明法を適用しない場合における沈み込み量の最大値ΔGnよりも小さくなり、その結果、噛み込み時における板厚偏差の大きさ(最大偏差)も小さくなる。これは、油圧シリンダの沈み込みの変化量によって制御するのではなく、噛み込み開始の瞬間から直ちに現れる沈み込みの変化の速度(変化量の微分値)によって制御していることに起因する。
さらに、上記のように沈み込み量の最大値ΔGcが小さくなって、噛み込み側での最大の板厚偏差量が小さくなるに伴い、板厚偏差が教養公差を越える領域の長さも小さくなるのである。
【0053】
このような第1の実施形態の板厚制御方法を実施するためのシステムは、AGC−APC制御システムを前提とし、油圧シリンダの位置検出器の検出値(位置変動量)を微分する機能、及びその微分値に応答して油圧サーボ系の制御部分(通常はAPC制御部)に、沈み込み変化速度を打ち消すような指令信号SCを与える機能を与えた構成とすればよく、それ以外は特に限定されないが、
図1に示した従来の代表的なAGC−APC制御システムにこれらの機能を組み込んだシステムの構成を
図7に示す。なお
図7において、
図1に示される要素と同一の要素については、
図1と同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
図7において、位置検出器16によって、油圧シリンダ13の位置が検出される。この油圧シリンダ13の位置は、下側ワークロール11Bの上下方向の位置に対応するから、位置検出器16から出力される検出信号は、ロール位置検出信号SPに相当することになる。そしてこのロール位置検出信号SPが微分器である第6の演算器61に導かれ、その微分値が指令信号発生部62に導入され、上記の微分値に応じた指令信号(沈み込みの変化速度を打ち消すための指令信号)SCがAPC制御器41に与えられ、そのAPC制御器41からのサーボ動作信号SBによってサーボバルブ15が制御されるようになっている。
【0055】
ここで、上記の実施形態では、上記の指令信号SCは、サーボバルブ15を直接制御するためのAPC制御器41の箇所、言い換えればサーボバルブ制御のための制御部分の末端であるサーボ系に直接加えられるため、指令信号SCに対する応答時間が極めて短い。すなわち、従来の一般的な」AGC−APC制御では、油圧シリンダの位置の制御は、AGC制御部30の全体を経て行われているため、応答性が悪く、高速で圧延される被圧延材の噛み込み側先端部分の板厚制御を確実に行うことは困難であったが、直接サーボ系(APC制御器38)に指令信号を与えることによって、応答性を向上させることが可能となった。そして前述のように、噛み込みの瞬間から変化する沈み込み量の変化速度を捉えて制御することと相俟って、従来よりも格段に早期に油圧シリンダを制御して、噛み込み側先端部の板厚偏差が大きくなることを、確実に抑制することが可能となった。
【0056】
[第2の実施形態]
この第2の実施形態は、前述の第1の実施形態として記載した噛み込み側先端部分の板厚制御方法を適用するとともに、噛み出し側尾端部についても、油圧シリンダの沈み込み量(位置変化量)の微分値、すなわち沈み込み速度(位置変化速度)による油圧シリンダの制御を行う実施形態である。なおこの第2の実施形態では、噛み込み側先端部分についての板厚制御は、前記第1の実施形態と同様であればよいから、その詳細は省く。
この第2の実施形態を、
図8、
図9を参照して説明する。なお
図8は、噛み出し側尾端部の板厚を、第2の実施形態にしたがって制御した場合の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込みによる板厚変動状況(実線)を、従来の無制御の場合の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込みによる板厚変動状況(破線)と比較して示す。また
図9には、第2の実施形態を実施するための制御システムの概要を示す。
図9において、
図7に示した第1の実施例の制御システムと同じ要素については、
図7と同じ符号を付し、その説明は省く。
【0057】
第2の実施形態の場合、仕上げ圧延パス中の尾端部の位置を検出し、その位置が、ロールバイトに所定距離まで近接した時に、尾端部の制御を開始する。例えば
図9に示すように、ロールバイトの入側(噛み込み側)におけるロールバイトから所定の距離だけ離れた位置に、尾端検出器71を配設しておき、その尾端検出器71が尾端を検出したタイミングT0(
図8参照)から、第4の演算器36から得られる板厚推定偏差分Δhに基づく尾端部の板厚制御が実行される。すなわち、開度計18及び位置検出器16の検出値によって得られるロールギャップsの値に基づき、第4の演算器36から得られる板厚推定偏差分(板厚推定変動分)Δhが、第7の演算器(微分器)71に与えられて、その値が微分される。すなわち、板厚変動の速度が求められる。そしてその微分値(板厚変動速度)が予め設定した閾値を超えたタイミングT1において、板厚変動速度を打ち消すように、油圧シリンダ13の動作を制御する指令信号SDが、指令信号器72から、APC制御部41に出力される。
そしてその指令信号SDに基づくサーボバルブ15の動作によって、油圧シリンダ13の動作が制御されて、その沈み込み速度が遅くなり、その後、油圧シリンダの上昇が停止される。このタイミング以降は、APC制御によって油圧シリンダの下降が開始され、目標板厚を得るためのロールギャップに戻される。
したがって、第2の実施形態によれば、尾端部分の板厚偏差が大きくなることも抑制され、同時に許容公差を越える尾端側の領域の長さが短くなり、歩留まりも向上する。そして、前述の噛み込み側先端部分の制御(第1の実施形態)の単独ではなく、噛み出し側尾端部の制御をも併用することによって、リバース式圧延で交互に逆方向に噛み込まれる圧延方式での、両端部分の板厚偏差を、より一層確実に小さくすることが可能となる。
【0058】
[第3の実施形態]
さらに、本発明の噛み込み時の先端部分板厚制御方法は、前述の噛み込み時沈み込み補償方式(ゲタ履かせ方式)と併用することができる。この場合の実施形態について、第3の実施形態として、
図10及び
図11を参照して説明する。なお
図10は、本発明の噛み込み時の板厚制御方法を適用せず、AGC−APC制御を前提として従来の一般的なゲタ履かせ方式を実施した場合の、噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示し、
図11に、第3の実施形態として、AGC−APC制御を前提とし、本発明の噛み込み時の板厚制御方法とゲタ履かせ方式を併用した場合の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示す。
【0059】
従来の一般的なゲタ履かせ方式では、噛み込み時のロールギャップの瞬間的な開きを補償するために、噛み込み開始時においてはAPC制御をオフにしておくとともに、噛み込み開始時における油圧シリンダの位置を、定常圧延時よりも所定の高さだけ上げておき(したがってロール開度を定常圧延時よりも小さく設定しておき)、これによって噛み込み時における下側ロールの沈み込みを補償し、沈み込みによる先端部板厚過大化を防止する手法である。すなわち噛み込み時に衝撃荷重によって油圧シリンダが沈み込んでも、その分、予め油圧シリンダの位置を高くしておく(ゲタを履かせておく)ことにより、衝撃荷重が加わった時にロールギャップが過剰に大きくならないようにするものである。なおこの場合、予め、過去の実績などから、ゲタを履かせる高さ及びその期間を予測して、それらの予測値を制御部に設定しておき、ゲタ履かせ期間が経過したら、APC制御を機能させて、油圧シリンダの位置を、定常圧延時のロールギャップが得られる位置に位置させる。
【0060】
上述のような従来の一般的なゲタ履かせ方式では、既に述べたように、ゲタ履かせ量(沈み込み補償量)を大きくすれば、それに伴って、ロールギャップの開度が小さくなってしまい、そのため、かえって噛み込み時の衝撃荷重が大きくなってしまい、
図10に示しているように、噛み込み開始後の初期に、油圧シリンダの急激な上下動が生じて、跳ね上がり状の板厚偏差が生じてしまうことが多い。しかるに、本発明の制御方法とゲタ履かせ方式とを組み合わせた第3の実施形態の制御方法とすれば、ゲタ履かせ量(沈み込み補償量)を小さくしても、噛み込み側先端部分の上述のような従来のゲタ履かせ方式における跳ね上がりによる板厚偏差の発生を、より確実に抑制することができる。すなわち、本発明の油圧シリンダ沈み込み速度(微分値)による制御とゲタ履かせ方式と組み合わせることにより、ゲタ履かせ方式での噛み込み時のロールギャップ開度を過剰に大きくする必要性を減じ、ゲタ履かせ方式のデメリットを最小限に抑えつつ、噛み込み側先端部分の板厚偏差の減少を図ることができるのである。
【0061】
なお、本発明が適用される鋼種は、基本的には限定されないが、特に熱間圧延温度での変形抵抗の大きい鋼種、例えばステンレス鋼、そのほか耐熱鋼、超合金等に適用することが効果的である。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、2相ステンレス鋼、析出効果型ステンレス鋼、そのほかいずれの鋼種にも適用可能である。
また、熱間仕上げ圧延の上がり目標板厚は特に限定されないが、ステンレス鋼の場合、一般には4mm〜100mm程度である。
さらに1パス当たりの平均圧下率、平均圧延荷重、圧延速度も特に限定されず、通常の熱間仕上げ圧延における値と同程度とすればよく、ステンレス鋼の場合、一般には1パスでの圧下率は10%〜25%程度であり、圧延荷重は1000ton〜6500ton程度であり、圧延速度は0.5m/sec〜5.0m/sec程度である。
【0062】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに記す。なお以下の実施例は、本発明の作用、効果を明確化するためのものであり、各実施例に記載した条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0063】
〔実施例1〕
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316鋼の熱間粗圧延上がりの原板について、リバース式圧延機により10パスにて仕上げ圧延を行った。原板の寸法は、長さ3000mm、幅1500mm、板厚150mmであり、最終パス上がりの目標板厚は、12mmとし、良品と認められるべき板厚許容公差は、±1.5mmと設定した。仕上げ圧延直前の原板の温度は、平均で1000℃である。また各パスでの平均圧延速度は2.0mm/sec、平均圧下率は20%、平均圧延荷重(目標板厚とするための設定圧延荷重)は3500tonである。
以上のような条件で、本発明の板厚制御方法を適用しながら熱間仕上げ圧延を行った。噛み込み側の先端部について本発明方法を適用するにあたっては、
図7に示す制御システムにより、前述の第1の実施形態に従い、ゲタ履かせを行わずに行った。かつ油圧シリンダの位置変化速度が最大となったタイミングで、その位置変化速度を打ち消すような油圧シリンダ動作の指令信号を出力し、その後は通常のAPC制御を行うこととした。なお第3の実施形態として記載したようなゲタ履かせ方式との併用は行わなかった。
なお、噛み込み直後の油圧シリンダの位置変化速度の最大値は40mm/secと推定され、またその油圧シリンダの位置変化速度の最大値が最大となったタイミング(位置変化速度を打ち消すための油圧シリンダ動作指令信号を与えるタイミング)は、噛み込み開始から約20msecが経過した時点であると推定される。これは、噛み込み側の先端位置から100mmの位置に対応する。
【0064】
上記実施例1により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿っての長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は12mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚み偏差は0.68mmであることが確認された。さらに、許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。また、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は12mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.32mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0065】
〔比較例1〕
実施例1で用いたと同様な熱間粗圧延上がりの原板について、各パスの噛み込み側の先端部に本発明の板厚制御方法を適用せず、かつ各パスの噛み出し側の尾端部にも前述の好ましい形態の板厚制御方法を適用せずに、
図1に示す従来の一般的なAGC制御―APC制御方式を適用して熱間仕上げ圧延を行った。なお、噛み込み側の先端部について本発明の板厚制御方法を適用しなかった点以外は、実施例1に記載した条件を適用した。
【0066】
上記比較例1により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿う長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は12mmで、長さ方向の一端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側の先端部に相当する部分)における最大厚み偏差は0.86mmとなっていることが確認された。ここで、許容公差を上回る領域の長さは0mmであったが、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分;本例では実施例1と同様に長さ方向の平均板厚は12mm)の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.58mm、−0mmであることが確認された。
【0067】
上記の実施例1の結果と比較例1の結果を比較すれば明らかなように、実施例1の場合は、本発明の板厚制御方法を適用しなかった比較例1と比べて、熱間仕上げ圧延上がり板における板厚偏差が格段に小さくなった。また実施例1の場合は、クロップ不良部を除いた部分の板厚偏差も、比較例1の場合よりも小さく、したがって製品の板厚品質も良好となることが明らかである。
【0068】
〔実施例2〕
マルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS410鋼の熱間粗圧延上がりの原板について、リバース式圧延機により12パスにて仕上げ圧延を行った。原板の寸法は、長さ3200mm、幅1250mm、板厚250mmであり、最終パス上がりの目標板厚は、16mmとし、良品と認められるべき板厚許容公差は、±1.9mmと設定した。仕上げ圧延直前の原板の温度は、平均で900℃である。また各パスでの平均圧延速度は2.0m/sec、平均圧下率は22%、平均圧延荷重(目標板厚とするための設定圧延荷重)は2250tonである。なおこの実施例2では、実施例1と同様に、各パスの噛み出し側の尾端部には前述の好ましい形態の板厚制御方法を適用せずに、各パスの噛み込み側の先端部についてのみ本発明の板厚制御方法を適用して熱間仕上げ圧延を行った。
噛み込み側の先端部について本発明方法を適用するにあたっては、
図7に示す制御システムにより、前述の第1の実施形態に従い、ゲタ履かせを行わずに行った。かつ油圧シリンダの位置変化速度が最大となったタイミングで、その位置変化速度を打ち消す指令信号を出力し、その後は通常のAPC制御を行うこととした。
なお、噛み込み直後の油圧シリンダの位置変化速度の最大値は40mm/secと推定され、またその油圧シリンダの位置変化速度の最大値が最大となるタイミング(位置変化速度を打ち消す指令信号を与えるタイミング)は、噛み込み開始から約20msecが経過した時点であると推定される。これは、噛み込み側の先端位置から150mmの位置に対応する。
【0069】
上記実施例2により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿っての長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は16mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚み偏差は0.62mmであることが確認された。さらに、許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。また、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は16mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.29mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0070】
〔比較例2〕
実施例2で用いたと同様な熱間粗圧延上がりの原板について、各パスの噛み込み側の先端部に本発明の板厚制御方法を適用せずに、
図1に示す従来の一般的なAGC制御―APC制御方式を適用して熱間仕上げ圧延を行った。なお、噛み込み側の先端部について本発明の板厚制御方法を適用しなかった点以外は、実施例2に記載した条件を適用した。
【0071】
上記比較例2により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿う長さ方向の板厚分布を、シミュレーションによって算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は16mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚み偏差は0.77mmであることが確認された。
ここで、許容公差を上回る領域の長さは0mmであったが、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分;本例では実施例2と同様に長さ方向の平均板厚は16mm)の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.52mm、−0mmであることが確認された。
【0072】
鋼種が実施例1と異なるマルテンサイト系ステンレス鋼である場合においても、上記の実施例2の結果と比較例2の結果を比較すれば明らかなように、実施例2の場合は、本発明の板厚制御方法を適用しなかった比較例2と比べて、熱間仕上げ圧延上がり板における板厚偏差が小さくなった。またクロップ不良部を除く中央部分の領域の板厚偏差も、比較例2の場合よりも小さく、したがって製品の板厚品質も良好となることが明らかである。
なお、以上の実施例で示した鋼種以外の鋼、例えばフェライト系ステンレス鋼や析出硬化系、オーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼で場合においても、上記と同様な効果が得られることが確認されている。
【0073】
以上、本発明の好ましい実施形態および実施例を説明したが、本発明はこれらの実施形態、実施例に限定されないことはもちろんである。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。