(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋼板の熱間圧延、特に仕上げ圧延においては、圧延上がりの板の板厚が、高い歩留まりで目標通りの板厚となるように、板厚制御を行うことが必要である。
板厚制御方式としては種々の方式が知られているが、鋼板の熱間圧延においては、圧延中の圧延荷重を検出し、板厚及び塑性係数(変形抵抗)との関係から、圧延機の出側の板厚を把握して、上下のロール間の間隔(ロールギャップ)を制御する、いわゆるAGC制御(Automatic Gauge Control)方式が広く適用されている。また、AGC制御方式を適用する場合、それに併せ、ロール位置を検出して圧延中のパスラインを一定に保つようにロール位置を制御する、いわゆるAPC制御(Automatic Position Control)を適用することが多い。
【0003】
このような熱間仕上げ圧延機におけるAGC―APC制御の従来の一般的な制御システムの一例を、
図1に概略的に示す。
【0004】
図1において、圧延機10は、被圧延材である鋼板20、例えばステンレス鋼板20が噛み込まれる上下一対のワークロール11A、11Bと、これらのワークロール11A、11Bをバックアップするための上下のバックアップロール12A、12Bとを有する構成とされている。そして上下のワークロール11A、11Bは、それぞれ図示しない回転駆動装置によって逆方向に回転させられて、鋼板20を所定の板厚まで圧下するように構成される。ここで図示の例では、上側のバックアップロール12A及びワークロール11Aと、下側のバックアップロール12B及びワークロール11Bは、それぞれ上下位置調整可能に図示しないチョックに支持されている。そして本例の場合、上側のバックアップロール12A及びワークロール11Aは、図示しない電動モータによって上下位置が調整されるようになっている。一方、下側のバックアップロール12B及びワークロール11Bは、油圧シリンダ13によって上下位置が調整されるようになっている。
【0005】
油圧シリンダ13は、油圧ポンプ14からの油圧がサーボバルブ15を経て加えられ、そのサーボバルブ15を制御することによって、下側のバックアップロール12B及びワークロール11Bの上下方向の位置が調整されるようになっている。また油圧シリンダ13にはその上下方向の位置を検出するための位置検出器16が付設されている。ここで、油圧シリンダ13は、下側バックアップロール12Bを介して下側ワークロール11Bに間接的に接しているから、実質的に下側ワークロール11Bの上下方向位置を検出していることになる。
【0006】
一方、上側バックアップロール12Aには、そのバックアップロール12Aに加わる荷重(圧延時に被圧延材から加えられる反力)を検出するためのロードセル17が付設されるとともに、上下のワークロール11A、11Bの間隔、すなわちロールギャップsを検出するための開度計18が付設されている。なおこの開度計18は、実際には位置検出器によってバックアップロール12Aの位置を検出して、前述の下側の位置検出器16による検出位置との関係から、ロールギャップ(開度)を算出するのが通常である。
【0007】
一方、各検出信号などに基いてサーボバルブ18の動作を電気的に制御するための制御部分は、基本的には、上下のロール間の間隔(ロールギャップ)を制御するためにサーボバルブ18のゲインを設定するAGC制御部30と、そのゲインに応じて、また同時に圧延中のパスラインを一定に保つようにロール位置を制御するAPC制御部40とによって構成されている。
【0008】
そして、上述のような位置検出器16、開度計18からのロール位置もしくはロールギャップ開度sの検出値に関する信号は、AGC制御部30に与えられて、そのAGC制御部30内の第1のロックオンメモリ31を介して第1の演算器(引き算器)32により、開度sの変化分Δsが算出される。一方、ロードセル17により検出される実測荷重(実測反力)Fは、同じくAGC制御部30に与えられて、そのAGC制御部30内の、目標板厚部の実測反力FLを記憶した第2のロックオンメモリ33介して第2の演算器(引き算器)34により反力変化分(F−FL)が算出され、更に第3の演算器(割算器)35により、図示しない計算機から与えられるミル定数Mによる補正がなされて、(F−FL)/Mの値が算出される。
【0009】
さらに、第1の演算器32からの開度sの変化分Δsと、上記の第3の演算器35からの(F−FL)/Mの値とが第4の演算器36に与えられて、目標とする板厚からの板厚推定偏差分Δhが求められ、更にその第4の演算器36から得られる板厚推定偏差分Δhと、塑性係数Qとの関係から、第5の演算器37により、(M+Q)/Mの値が演算される。そしてこの(M+Q)/Mの値が、AGC制御部38に与えられて、油圧シリンダ制御用のAGC指令信号(ゲイン信号)GとしてAGC制御部38に与えられ、更にそのAGC指令信号Gは、APC制御部40内のAPC制御部41に与えられ、油圧シリンダの断面積や油圧系応答時間などによる補正を行い、最終的なサーボ動作信号SBが前述のサーボバルブ16に与えられる。
このようにして、仕上げ圧延機の出側板厚を圧延中に一定に保つとともにパスラインを一定に保つための制御がなされる。
【0010】
ところで、仕上げ圧延機によって圧延された材料は、その長さ方向(圧延方向)両端部分が中央部分(定常圧延部分)よりも厚くなる傾向を示すことが知られている。すなわち両端部分では板厚偏差が大きくなる。特に、高強度を有していて変形抵抗が大きく、また圧延パス数が一般的な炭素鋼よりも多くなるステンレス鋼板などの仕上げ圧延では、両端部分の板厚偏差が大きくなるのが通常である。ここで、板厚偏差が大きい両端部分は、不良箇所として切り捨てるのが通常であるが、両端部分の板厚偏差が大きくて、目標板厚に対する許容範囲内(公差内)から外れる部分の長さが長ければ、製品歩留まり低下を招く。また板厚偏差が大きければ、突合せ溶接して使用する用途では溶接不良を招くなど、製品品質が低下する問題もある。
【0011】
ここで、上述のように両端部分の板厚偏差が大きくなる原因は、一つの圧延パスで見たときの、圧延機のロールバイトに噛み込まれた直後の部分、すなわち噛み込み側端部(圧延方向を基準として先端側の部分に相当するから、以下では“先端部”という)と、圧延機のロールバイトから噛み出される直前の部分、すなわち噛み出し側端部(圧延方向を基準として尾端側の部分に相当するから、以下では“尾端部”という)とでは、共通するところもあるが、若干異なっている。但し、ステンレス鋼厚板の熱間圧延においては、圧延方向を交互に逆転させて、多数回のパスの繰り返しによって圧延するリバース式圧延を適用することが一般的であり、その場合、実際上は、あるパスにおける上記の噛み込み側先端部での板厚偏差の増大と噛み出し側尾端部での板厚偏差の増大が重畳され、仕上げ圧延上がり板の両端部分で、板厚偏差が大きくなる傾向を示す。
【0012】
このように熱延上がり板での両端部分での板厚偏差の増大の状況を、
図2に模式的に示す。
図2において、横軸は圧延上がり板の長さ方向を示し、縦軸は板厚を示す。
図2に示しているように、長さ方向両端部分P1、P2を除いた長さ方向中央側の定常圧延部分P0では、目標板厚t
0に対する板厚変動が比較的少ないのに対して、長さ方向両端部分P1、P2では、局所的に板厚が大きくなり、許容板厚上限t
cを大きく超えてしまうことがある、本発明者等の経験によれば、ステンレス鋼(SUS304)についての仕上げ目標板厚22mm、板長13000mm、板幅2600mmの熱間仕上げ圧延においては、長さ方向両端部分P1、P2に、最大0.5〜1.0mm程度の板厚偏差の部分が、長さ500〜1000mm程度にわたって生じることが確認されている。
【0013】
ところで、上記のように熱延上がり板での噛み込み側端部(先端部)で板厚偏差が大きくなる原因としては、ロールバイトに被圧延材が噛み込まれる際の衝撃荷重の影響が大きいと考えられる。
【0014】
すなわち、最近の熱間圧延機では、上下の圧延ロールのうち、少なくとも一方側のロールは、
図1の例でも記載したように、油圧シリンダによって上下位置調整可能に支持されていて、ロール位置を油圧によって調整し得るように構成しているのが一般的であり、そのため噛み込み時の衝撃荷重によって油圧シリンダ内の油が瞬間的に圧縮されて、油圧シリンダが沈み込み、下側のロールの位置が、ロールギャップを開ける方向に変動してしまう。その結果、ロールギャップが瞬間的に大きくなってその部分で板厚が過大となってしまう。特に被圧延材が高強度のステンレス鋼であってその板厚も大きい場合には、上記の衝撃荷重も大きく、その衝撃荷重による、油圧シリンダ内の油の瞬間的な圧縮量も大きくなり、ロールギャップの開きも大きくなって、板厚偏差量が過大となるとともに、その過大部分の長さも長くなってしまう。
【0015】
なお、圧延機の構成によっては、油圧シリンダにより上下位置が調整されるロールが上側のロールである場合もあるが、一般には下側のロールが油圧シリンダによって支持される圧延機が多く、そこで以下では、
図1に関して説明したように、上側ロールが電動シリンダで上下位置調整可能に支持されていて、下側のロールが油圧シリンダにより上下位置整可能に支持されている場合を想定して説明するものとする。すなわち、被圧延材がロールバイトに噛み込まれる際に加えられる瞬間的な衝撃荷重によって、下側のロールの油圧シリンダの油が圧縮されて(すなわち油柱が沈み込んで)、下側ロールの位置が下方に瞬間的に移動し、その結果、ロールギャップが瞬間的に開いてしまうこととして、説明を進める。
【0016】
熱間仕上げ圧延延上がり板での両端部分で板厚偏差が増大する原因としては、上記のような噛み込み時の衝撃荷重のほか、圧延時の材料温度の長さ方向でのばらつきも大きく影響していると考えられる。
すなわち、一般にステンレス鋼厚板の熱間仕上げ圧延においては、リバース方式によって圧延を複数回繰り返すのが通常であり、その間には、次第に被圧延材の温度が低下する傾向を示すが、とりわけ長さ方向の両端部分では、長さ方向中央部分と比較して温度低下が激しくなる。すなわち長さ方向の両端部分は過冷却された状態となる。このような過冷却部分は、材料の変形抵抗が大きいため、上下のワークロールによって潰されにくくなり、また同時に噛み込み時における衝撃荷重も大きくなるためロールギャップの開きも大きくなってしまう。そしてこれらが相乗的に作用して、被圧延材の両端部、とりわけ噛み込み側の先端部分で過大な板厚偏差が生じてしまうものと考えられる。
【0017】
特にステンレス鋼は、普通鋼よりも材料強度が高くて、熱間圧延温度でも普通鋼より変形抵抗が大きく、そのため上記の両端部分の過冷却の影響が強くなる。また、ステンレス鋼は、そもそも普通鋼よりも変形抵抗が大きいところから、熱間仕上げ圧延のパス数も、普通鋼よりも多くするのが通常であり、その場合、仕上げ圧延の間における両端部分の温度低下も、普通鋼よりも大きくなる。そのため、上記のような両端部分の過冷却が激しくなって、最終的に両端部分の板厚偏差も、更に大きくなってしまうと考えられる。
【0018】
本発明者等の経験によれば、ステンレス鋼(SUS316)についての仕上げ目標板厚4mm、板長19000mm、板幅1220mmの熱間仕上げ圧延最終パスにおいて、長さ方向中央部分の温度が1100℃である場合に、両端部分の温度は700〜800℃程度まで低下し、その場合の両端部分の変形抵抗は、普通鋼の数倍となってしまうことが確認されている。
【0019】
一方、熱間仕上げ圧延における噛み出し側の尾端部では、噛み込み側の先端部とは異なり、噛み込み時の衝撃荷重は作用しないが、前述のように被圧延材の長さ方向の端部での過冷却が生じる点では、噛み込み側の先端部と同様である。そのため特に変形抵抗が大きく、しかも圧延パス数も多くなりがちなステンレス鋼の仕上げ圧延では、噛み出し側でも過冷却によって板厚変動が生じてしまう。このように、仕上げ圧延における1パスについてのみ考慮すれば、噛み込み側の先端部では、前述のように噛み込み時の衝撃荷重と長さ方向温度分布のばらつき(噛み込み側先端部分の過冷却)とに起因して、大きな板厚偏差が生じ、一方噛み出し側の尾端部では、主として長さ方向の温度分布のばらつき(噛み出し側尾端部分の過冷却)に起因して、かなりの大きさの板厚偏差が生じることになる。このような1パスについてのみ考慮した板厚偏差発生状況を、
図3に模式的に示す。但し既に述べたように、ステンレス鋼厚板の熱間圧延においては、圧延方向を交互に逆転させて繰り返し圧延するリバース式圧延を適用することが一般的であり、したがって各パスごとに、噛み込み側先端部と噛み出し側尾端部とが逆転するから、最終的に仕上げパス後の板としては、
図2に示したように、板の両端部分に、ほぼ同程度の大きな板厚偏差が存在する状態となるのが通常である。
【0020】
ところで噛み込み側先端部において、衝撃荷重によって瞬間的に下側ロール(油圧側のロール)を支持する油圧シリンダの沈み込みが生じて、ロールギャップが瞬間的に開いてしまった場合でも、ある時間が経過すれば、油圧シリンダの油柱が初期設定状態に戻され、ロールギャップが初期設定値に戻るように(すなわち目標板厚が得られるはずのロールギャップに)、下側ロールが復帰(上昇)する。但し、その際に何ら制御を行わなければ、初期設定位置に戻るまでに、かなりの時間(例えば0.2〜0.3sec程度の時間)を要するから、板厚公差を越える過大偏差部分が、前述のようにかなりの長さ(例えば500〜1000mm)にわたって生じてしまう。
【0021】
ここで、従来の一般的なAGC−APC制御方式では、パスライン制御(APC制御)のために下側ロールの位置を位置検出器が検出し、パスラインが常に正常な位置を保つように下側ロールの位置を制御する構成としているのが一般的である。この場合、上記のような衝撃荷重による下側ロールの油圧シリンダ沈み込み量が、予め定めた閾値を超えたことが位置検出器によって検出されれば、その検出信号がAGC制御部を経てAPC制御部に与えられ、正常なパスライン位置に復帰するように、下側ロールを上昇(復帰)させる機能が働く。しかしながら、下側ロールの沈み込み量が、予め定めた閾値を超えたことを検出してから、実際に下側ロールが復帰するまでにはかなりの時間を要し、そのため、実際上は、噛み込み側の先端部分の板厚偏差過大部分の長さを短くすることは困難であって、かなりの長さにわたって、板厚偏差過大部分が残ってしまう。
【0022】
一方、噛み込み時のロールギャップの瞬間的な開きを補償するために、噛み込み開始時においてはAPC制御をオフにしておくとともに、噛み込み開始前における下側ロールの位置を、正常な圧延時のパスラインよりも所定の高さだけ上げておき、これによって噛み込み時に油圧シリンダの沈み込みによる先端部板厚過大化を防止しようとすることも従来から行われている。これは、いわゆる“噛み込み時沈み込み補償方式”、俗に“ゲタ履かせ方式”と称される手法であり、噛み込み時に衝撃荷重によって油圧シリンダが沈み込んでも、その分、予め下側ロールの位置を高くしておく(ゲタを履かせておく)ことにより、衝撃荷重が加わった時にロールギャップが過剰に大きくならないようにすることによって、前述の噛み込み時の先端部分板厚偏差を小さくしようとするものである。なおこの場合、一般には、予め、過去の実績などから、ゲタを履かせる高さ及びその期間を予測して、それらの予測値を制御部に設定しておき、ゲタ履かせ期間が経過したら、APC制御を機能させて、下側ロールの位置を正常パスラインの位置に制御するのが通常である。
【0023】
しかしながら、上述のようなゲタ履かせ方式では、次のような問題があった。
すなわち、噛み込み開始時における下側ロールの位置を、正常な圧延時(定常圧延時)のパスラインよりも所定の高さだけ上げておくことは、ロールギャップを定常圧延時よりも小さく設定しておくことを意味する。これは、かえって噛み込み時の衝撃荷重を大きくする結果となるから、実際上は、衝撃荷重を小さくして、前述の問題を確実に解決するには限界があった。
【0024】
また、実際の圧延工場においては、変形抵抗が異なる種々の鋼種、種々の板厚の鋼板を圧延する必要がある。一方、材料固有の変形抵抗の差や、板厚の相違などによって、噛み込み開始時の初劇荷重による油圧シリンダの沈み込み量は、大きく異なる。したがって、あらゆる鋼種、板厚について、適切なゲタ履かせ量を予測して、適切にゲタ履かせ量及び時間を適切に設定することは極めて困難である。そのため、常に最適な制御が行われるとは限らず、実際上は前述のような先端部分板厚偏差過大発生を確実に抑制することは困難であった。
【0025】
さらに、ゲタ履かせ方式では、前述のようにゲタ履かせ期間が経過したら、APS制御を機能させて、下側ロールの位置を正常パスラインに対応する位置まで上昇させる制御を行うが、予測によるゲタ履かせ量が過大であった場合には、ゲタ履かせ終了時に下側ロールが正常位置よりも高い位置まで上昇してしまって、いわゆるハンチング(波打ち)が生じ、板厚が変動して、板厚公差内であっても板厚不均一により不良品となってしまうことがある。
【0026】
したがってこれらの事情から、いわゆるゲタ履かせ方式も、先端部板厚偏差を抑えるための最良の対策とは言えず、より確実かつ安定して噛み込み側先端部分の板厚偏差を小さくするための根本的な解決策が求められている。
【0027】
また一方、噛み出し側の尾端部の板厚偏差については、噛み出し側の過冷却部分(変形抵抗が大きい部分)がロールに噛み込まれる際に大きな荷重(反力)が作用し、そのため噛み込み側先端部と同様に、下側ロールを支持する油圧シリンダの沈み込みが生じて、ロールギャップが開いてしまう。この場合でも、ある時間が経過すれば、下側ロールが復帰(上昇)する。但し、その際に何ら制御を行わなければ、初期設定位置に戻るまでに、かなりの時間(例えば0.2〜0.3sec程度の時間)を要するから、その間には噛み出し側尾端部がロールギャップを通過してしまい、したがって尾端部分の板厚偏差の発生を防止することは、実際上は困難である。
【0028】
また、前述のように従来の一般的なAGC−APC制御方式を適用した場合は、噛み出し側の過冷却部分の大きな変形抵抗による下側ロールの油圧シリンダ沈み込み量が、予め定めた閾値を超えたことを位置検出器によって検出されれば、その検出信号がAGC制御部を経てAPC制御部に与えられ、下側ロールを押し上げる機能が働く。しかしながら、下側ロールの沈み込み量が、予め定めた閾値を超えたことを検出してから、実際に下側ロールが復帰するまでにはかなりの時間を要し、そのため、実際上は、噛み出し側の先端部分の板厚偏差を小さくすることは困難であった。
【0029】
また、前述のような“噛み込み時沈み込み補償方式”、俗に“ゲタ履かせ方式”と称される手法は、噛み出し側の尾端部分には適用することができない。すなわち、ゲタ履かせ方式は、噛み込み時の沈み込み量を見積もって、あらかじめ噛み込み直前における下側ロールの位置を、定常圧延状態の位置よりも上げておこうとするものであるから、定常圧延に引き続いて生じる噛み出し側の尾端部の板厚制御には適用することができない。
【0030】
ところで、圧延機の板厚を目標値に確実に近づけることを目的とした圧延機の板厚制御方法として、特許文献1(特開2013−81969号)の技術が提案されている。
この特許文献1の板厚制御方法は、基本的には、圧延機の動特性を考慮しつつ、ゲージメータ式を満足する圧延荷重変動値ΔP´を算出し、その動特性圧延荷重変動値ΔP´を用いて、ロールギャップ修正量ΔSを求め、その修正量ΔSを圧延機に適用するものとされている。ここで、ゲージメータ式は、ミル定数を含むものであり、したがってこの方法では、ロール自体の伸びなどの圧延機本体に関する要素を考慮して制御することとしている。したがって、衝撃荷重によるロールギャップの瞬間的な開きによる噛み込み側先端部分や、実質的にミル定数に関係しない噛み出し側尾端部分の板厚増大に対しては有効でないと考えられる。またこの特許文献1の技術では、仮に噛み込み時や、尾端側の過冷却部分の到来による荷重を検出したとしても、瞬間的なロールギャップの開きに対しては応答が遅れ、実際上は、噛み出し側の尾端部分を含め、両端部分の板厚増大を抑制することは困難と思われる。
【0031】
また特許文献2(特許第3350140号)には、板圧延の噛み込み端部の板厚制御方法が提案されている。この特許文献2の技術は、基本的にはAGC制御を前提としながらも、前パスの実測値から次パスを予測して、その次パスにおけるロール開度を制御しようとするものである。このような前パスからの予測による制御技術では、変形抵抗が異なる種々鋼種、種々の板厚の圧延には、必ずしも適切な制御を行い得ないという問題がある。またこの特許文献2の方法では、噛み出し側の尾端部の板厚偏差には対処できないという問題がある。
【0032】
さらに特許文献3(特許第2885601号)には、AGC制御を前提とし、予測に基づいて噛み込み時のロール開度を正常圧延時の開度よりも大きく設定することによって、噛み込み時の衝撃荷重による油圧シリンダの沈み込みを補償しようとするものである。この技術は、噛み込み時のロール開度を、前述のようなゲタ履かせ方式とは逆方向に設定しておくものであり、この技術では、噛み込み開始時の衝撃荷重が小さくなって、油圧側ロールの沈み込み量も少なくなると考えられるが、逆にその設定が不適切であれば、噛み込み側先端部の板厚がむしろ増大してしまうおそれがある。また、噛み込み時の沈み量は特許文献2の技術と同様に、以前のパスからの予測に基づいているため、変形抵抗が異なる種々鋼種、種々の板厚の圧延には、必ずしも適切な制御を行い得ないという問題がある。さらにこの特許文献3の方法でも、噛み出し側の尾端部の板厚偏差には対処できないという問題がある。
【0033】
また特許文献4(特許第3278120号)には、噛み込み側端部の板厚制御のための方法として、噛み込み時のロール開度を大きくしておく(いわゆるゲタ履かせ)を行ない、AGC制御することが開示されているが、この技術では、前記したゲタ履かせ方式について述べた種々の問題点があり、また既に述べたようにこの方式が適用され得るのは、噛み込み側の先端部分に限られ、噛み出し側の尾端部の板厚偏差には対処できないという問題がある。
【0034】
さらに特許文献5(特開2000−288613号)には、AGC制御方式を前提とした板厚制御方法として、圧延中におけるロールギャップ変動量、ロールギャップ値、及びロールギャップ変動速度(すなわちロールギャップ変動量の時間微分値)を、ロール位置制御装置(AGC制御部)にフィードバックすることにより、ロールギャップを自動調整し板厚偏差を少なくする方法が提案されている。この提案の方法では、ロールギャップの変動量ではなく、ロールギャップ変動速度(微分値)によってロールギャップをフィードバック制御するため、ロールギャップの変動量によってフィードバック制御する場合と比較すれば、比較的応答性が良好となると考えられるが、実際上は、噛み出し尾端側の板厚偏差発生部分のロールギャップ通過時間(過冷却による尾端側偏差の発生開始から尾端がロールギャップから抜け出るまでに時間)は極めて短いから、噛み出し尾端側の板厚偏差を確実に抑えることは困難であった。すなわち、特許文献5の技術では、ロールギャップの変動が生じれば、その変動速度(微分値)が算出されて、その値がAGC制御部に与えられ、更にそのAGC制御部からの制御信号によって油圧シリンダのサーボ系が制御され、これによって油圧シリンダが動作して、最終的にロールギャップが修正(調整)されることになるが、このような制御方式では、過冷却により噛み出し側尾端部分で偏差の発生が開始されてから、実際にロールギャップが調整されるまでの間には、尾端がロールギャップから抜け出てしまって、実際上尾端部分の板厚偏差を抑えることは困難と考えられる。すなわち、特許文献5の制御方式では、いまだ応答性が充分に良好ではなく、噛み出し側の尾端部分の板厚偏差を確実には抑制し得ない問題があった。
【0035】
また、特許文献5の制御方式では、上記のように応答性が充分に良好ではないため、噛み込み側の先端部板厚偏差についても、確実には抑制し得ない問題、があった。すなわち、噛み込み時における衝撃荷重によるロールギャップの開き(下側ロールの沈み込み)は、前述のように急激かつ瞬間的な現象であるため、たとえ噛み込み時における衝撃荷重によるロールギャップの開きを早期に検出したとしても、実際に油圧シリンダが動作してロールギャップの調整が開始されるまでには、ロールギャップの開きが大きくなってしまっていることが多く、そのため、噛み込み側の板厚偏差も、確実には小さく抑えることが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたもので、ステンレス鋼で代表されるような変形抵抗が大きい高強度の鋼板を熱間仕上げ圧延するにあたって、噛み出し側尾端部における板厚偏差を、確実かつ安定して抑制し、これによって製品歩留まりを向上させるとともに、板厚のばらつきの少ない良好な品質の熱延板製品を確実かつ安定して製造し得る板厚制御方法を提供することを第1の課題としている。また、噛み出し側尾端部における板厚偏差を抑制すると同時に、噛み込み側先端部の板厚偏差も確実かつ安定して抑制し、これによって、最終的な仕上げ圧延上がりの板の両端部分の板厚偏差を小さくし、ひいては、圧延上がり板の長さ方向両端部の板厚過大部分の長さを小さくして製品歩留まりを向上させるとともに、板厚のばらつきの少ない良好な品質の熱延板製品を確実かつ安定して製造し得る板厚制御方法を提供することを第2の課題としている。そして、特に、変形抵抗が異なる種々の鋼種、種々の板厚の被圧延材についても、噛み出し側尾端部もしくはそれを含む両端部分における板厚偏差の発生を、確実かつ安定して抑制し得る板厚制御方法を提供することをも、主要な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0038】
前述のような課題を解決するため、本発明者らが種々実験、研究を重ねた結果、噛み出し側尾端部の板厚制御としては、仕上げ圧延パス中の尾端の位置を検出し、その位置が、上下のロールバイトに所定距離まで近接した時点からの、ロールギャップ開度の変化速度(ロールギャップ開度変化量の微分値)を求め、そのロールギャップ開度変化速度(ロールギャップ開度変化量の微分値)を打ち消すように、ロールギャップ開度変化速度の値に応じた制御信号を油圧シリンダのサーボ系に直接与え、油圧シリンダをロールギャップ閉方向に制御(したがってロールの位置移動を制御)することによって、早い時点でロールギャップを修正(ロールギャップを小さくする)ことが可能となり、その結果、噛み出し時における噛み出し側尾端部の過冷却等に起因する板厚偏差を最小限に抑制し得ると同時に、不良部分として切り捨てるべき板厚偏差過大領域の長さを最小限に抑え得ること、更に変形抵抗の異なる鋼種や板厚の異なる被圧延材にも、共通して適用し得ることを見い出した。
【0039】
すなわち、変形抵抗が異なる鋼種、板厚が異なる被圧延材では、噛み出し時におけるロールギャップの変動の大きさは異なるが、ロールギャップ変動のパターン自体は、実質的に同じであることを新規に認識した。
【0040】
すなわち、あるパスでの圧延末期において被圧延材の尾端がロールバイトに近接したことを検出して、実際に変形抵抗が大きい部分(過冷却部分)が上下のロール間に噛み込まれれば、ロールギャップの開度拡大が開始されて板厚の増大も開始されるが、その板厚増大の開始は、ロールギャップの開度拡大の変動量の微分値(変化速度)として直ちに現れる。例えば、長さ方向中央部分の定常圧延状態では、厚みの変動は実質的になく、その状態では上記のロールギャップの開度拡大の変動量の微分値は実質的にゼロであるが、その状態からさらに被圧延在の圧延が進行して、上記のように尾端側の変形抵抗が大きい部分(過冷却部分)のロール間への噛み込みによりロールギャップの開度拡大が開始されれば、上記の微分値はゼロから急激に一定方向に変化するというパターンとなる。このようなパターンは、鋼種や板厚を問わず、実質的に共通することを認識した。
【0041】
そして、ロールギャップの開度拡大の変動量自体ではなく、ロールギャップの開度拡大の変化速度(微分値)を制御のため出発因子として用いれば、尾端側の過冷却部分がロール間に達したごく初期の段階で、早期にロールギャップの開度拡大を検出して油圧シリンダの動作制御を開始することができ、その結果ロールギャップの開度拡大を、無制御の場合よりも格段に小さくし得ること、しかも鋼種や板厚の相違に影響されることなく、適切に制御し得ることを認識した。
【0042】
さらに、上記のように被圧延材の噛み出し時において、ロールギャップ開度を検出し、その変化速度(開度変化量の微分値)を求め、その変化速度を打ち消すように、油圧シリンダの動作を制御するにあたっては、求められた位置変化速度から得られた油圧シリンダの動作を制御する信号(制御指令信号)を、油圧シリンダのサーボ系に直接与えること、すなわち、いわゆるAGC制御部ではなく、油圧シリンダ制御系の末端(一般にはAPC制御部)に与えることが好ましく、これによって、制御の応答性をより一層向上させて、噛み出し側先端部分の板厚偏差および板厚偏差過大領域の長さを、確実かつ安定して最小限に抑え得ることを見い出し、噛み出し側尾端部の板厚制御方法についての発明をなすに至ったのである。
【0043】
また一方、噛み込み側先端部の板厚制御についても、同様な考え方を適用し得ることを知見した。すなわち、圧延機のロール間ロールバイト圧延機への被圧延材の先端部分の噛み込み時における油圧シリンダの位置を検出して、その位置変化の速度(位置変化量の微分値;したがってその油圧シリンダにより位置調整可能に支持されている側のロールの位置変化量の微分値)を求め、その位置変化速度(位置変化量の微分値)を打ち消すように、油圧シリンダをロールギャップ閉方向に制御(したがってロールの位置移動を制御)することによって、早い時点でロールギャップを修正(ロールギャップを正常圧延時のロールギャップまで閉方向に戻す)ことが可能となり、その結果、噛み込み時における衝撃荷重及び長さ方向両端部の過冷却に起因する、油圧シリンダの沈み込み量の絶対量の最大値を最小限に抑えることが可能となり、ひいては、圧延上がり材における噛み込み側の先端部分の板厚偏差を最小限に抑制し得ることを認識した。またこの場合も、噛み込み側尾端部と同様に、変形抵抗の異なる鋼種や板厚の異なる被圧延材にも、共通して適用し得ることを見い出した。
【0044】
すなわち、変形抵抗が異なる鋼種、板厚が異なる被圧延材では、既に述べたように、噛み込み時における前述のような油圧シリンダの位置変動(沈み込み)の大きさやその継続時間は異なるが、油圧シリンダの位置変動(沈み込み)のパターン自体は、実質的に共通することを新規に認識した。すなわち、被圧延材の先端がロールバイトに噛み込まれた瞬間から上記の位置変動が急激に発生するが、その位置変動の速度(したがって位置の時間微分値の絶対値)は噛み込みの瞬間から急激に大きくなり、位置変動速度が極大を越えれば漸次位置変化速度が小さくなり、位置変動量が最大値に達した後、APC制御によって噛み込み時の衝撃に起因する油圧シリンダの位置が目標位置に収束される、という沈み込みパターンとなること、そしてその沈み込みパターンにおける上記の位置変化速度の絶対値が極大となる時点は、沈み込み量が最大値となる時点よりも早いことを認識した。そしてこのような噛み込み時のパターンは、変形抵抗が異なる鋼種、板厚が異なる被圧延材でも基本的に共通であることを認識した。
【0045】
したがって噛み込み側の先端部の板厚制御としても、油圧シリンダの沈み込みの大きさ(位置変化量)自体ではなく、沈み込みの変化速度(位置変化速度)を制御のため出発因子として用いれば、噛み込み開始のごく初期、すなわち無制御の場合における沈み込み量が最大となる時点以前の段階で、早期に油圧シリンダの動作を制御して、沈み込み量の最大量を無制御の場合よりも格段に小さくし、かつ沈み込みにより板厚偏差が大きくなる領域の長さ(噛み込み側先端位置から圧延板長さ方向への長さ)を短くし得ること、しかも鋼種や板厚の相違に影響されることなく、適切に制御し得ることを見い出した。そしてこのような噛み込み側先端部についての板厚制御と、前述の噛み出し側尾端部の板厚制御とを併用すれば、リバース式圧延機によって仕上げ圧延された圧延上がり板として、両端部分の板厚偏差が少なく、かつ許容公差を越えるような両端部の大きな板厚偏差領域の長さを短きし得ることを知見し、両端部分の板厚制御方法についての発明をなすに至ったのである。
【0046】
また、上記のように被圧延材の噛み出し直前や噛み込み時において、油圧シリンダの位置を検出し、その沈み込み(位置変化)の速度(位置変化量の微分値)を求め、その位置変化速度(微分値)を打ち消すように、油圧シリンダの動作を制御するにあたっては、求められた位置変化速度から得られた油圧シリンダの動作を制御する信号(制御指令信号)を、油圧シリンダのサーボ系に直接与えること、すなわち、いわゆるAGC制御部ではなく、油圧シリンダ制御系の末端(一般にはAPC制御部)に与えることが好ましく、これによって、制御の応答性をより一層向上させて、噛み出し側尾端部分や噛み込み側先端部分の板厚偏差および板厚偏差過大領域の長さを、確実かつ安定して最小限に抑え得ることを見い出した。
【0047】
そしてこのような噛み込み側の先端部分の板厚制御と、前述のような噛み出し側の尾端部分の板厚制御とを併用することによって、圧延材の両端の板厚偏差を最小限に抑制し得ることを見い出した。
【0048】
すなわち本発明の基本的な態様(第1の態様)の熱間圧延機における圧延材料の噛み出し側尾端部の板厚制御方法は、
仕上げ圧延パス中において、ロールギャップ開度を検出するとともに、
仕上げ圧延パス中の圧延材料の、圧延方向に対し後方側の尾端の位置がロールバイトに予め定めた距離まで近接したことを検出して、
その尾端検出時以降における前記ロールギャップ開度の変化を時間微分してロールギャップ開度の変化速度を求め、
ロールギャップ開度調整可能となるようにロールを位置調整可能
に支持している油圧シリンダを駆動するサーボ系に対して、前記ロールギャップ開度の変化速度を打ち消すように、油圧シリンダ動作制御指令信号を与えることを特徴とするものである。
【0050】
さらに以下の第
2〜第
5の態様では、上記の第
1の態様の熱間圧延機における圧延材料の噛み出し側尾端部の板厚制御方法で記載した噛み出し側尾端部の板厚制御に併せて、噛み込み側先端部の板厚制御をも行う方法、すなわち圧延材料の両端部の板厚制御方法を規定している。
【0051】
すなわち第
2の態様の熱間圧延機における圧延材料の両端部の板厚制御方法は、前記第
1の態様の熱間圧延機における圧延材料の噛み出し側尾端部の板厚制御方法によって噛み出し側尾端部の板厚制御を行い、
しかも、噛み込み側先端部の板厚制御として、
油圧シリンダにより位置調整可能に支持されている側のロールについて、圧延機のロールバイトへの被圧延材の噛み込み時における、前記油圧シリンダの位置を検出し、
前記油圧シリンダの位置検出値を時間微分して上記油圧シリンダの位置変化速度を求め、
上記位置変化速度を打ち消すように、上記油圧シリンダの動作を制御すること、
を特徴とするものである。
【0052】
また本発明の第
3の態様の熱間圧延機における圧延材料の両端部の板厚制御方法は、第
2の態様の両端部の板厚制御方法において、
前記噛み込み側先端部の板厚制御として、
前記位置変化速度を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するにあたっては、求められた前記位置変化速度から得られた油圧シリンダの動作制御の指令信号を、油圧シリンダのサーボ系に与えることを特徴とするものである。
【0053】
さらに本発明の第
4の態様の熱間圧延機における圧延材料の両端部の板厚制御方法は、第
2、第
3のいずれかの態様の両端部の板厚制御方法において、
前記噛み込み側先端部の板厚制御として、
前記油圧シリンダの位置変化速度を求めるにあたり、少なくともその位置変化速度の絶対値が最大となるまでの期間内で、位置変化速度を求め、
少なくとも前記期間において前記位置変化速度を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御することを特徴とするものである。
【0054】
さらに本発明の第
5の態様の熱間圧延機における圧延材料の両端部の板厚制御方法は、第
4の態様の両端部の板厚制御方法において、
前記噛み込み側先端部の板厚制御として、
前記油圧シリンダの位置変化速度の絶対値が最大となった時点で、その位置変化速度を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0055】
本発明の熱間圧延機における圧延材料の噛み出し側尾端部の板厚制御方法によれば、ステンレス鋼で代表される熱間圧延温度での変形抵抗が大きい鋼板を熱間仕上げ圧延するにあたって、噛み出し側尾端部における板厚偏差の発生を、確実かつ安定して抑制することができる。また、本発明の熱間圧延機における圧延材料の両端部の板厚制御方法によれば、噛み出し側尾端部のみならず、噛み込み側の先端部での板厚偏差の発生を、確実かつ安定して抑制することができる。したがって各発明の板厚制御方法によれば、圧延上がり板の長さ方向端部の板厚過大部分の長さを小さくして製品歩留まりを向上させるとともに、板厚のばらつきの少ない良好な品質の熱延板製品を確実かつ安定して製造することが可能となり、また変形抵抗が異なる種々の鋼種、種々の板厚の被圧延材を対象とした場合でも、各端部における板厚偏差の発生を、確実かつ安定して抑制して、長さ方向端部の板厚過大部分の長さが小さく、かつ板厚のばらつきの少ない良好な品質の熱延板製品を確実に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
次に本発明の各実施形態について詳細に説明する。
[第1の実施形態]
この第1の実施形態は、前述の第1、第2の態様の噛み出し側尾端部の板厚制御方法に対応する実施形態である。ここでは、本発明の第1の実施形態の板厚制御方法の前提として、従来の無制御の場合の噛み出し側尾端部での油圧シリンダの沈み込み状況およびそれに伴うロールギャップ開度の変動状況と、板厚変動状況を
図4に模式的に示し、それと比較しての、本発明の第1の実施形態の板厚制御方法による噛み出し側尾端部での油圧シリンダの沈み込み状況およびそれに伴うロールギャップ開度の変動状況と、板厚変動状況を、
図5に模式的に示し、更に
図6には、
図4と
図5とを重ねあわせて示す。また
図7には、第1の実施形態を実施するためのシステム構成の一例を示す。
【0058】
図4は、従来の、無制御の場合の噛み出し側尾端部での油圧シリンダの沈み込み状況およびそれに伴うロールギャップ開度の変動状況と、板厚変動状況を示している。
図4に示すように、被圧延材における噛み出し側尾端部付近の過冷却による変形抵抗が大きい領域がタイミングT1においてロールバイトに達すれば、そのタイミングT1から油圧ロールの沈み込みが開始され、通常は次第にその沈み込み量が増大し、それに伴ってロールギャップ開度が大きくなり、板厚偏差も大きくなる。すなわち噛み出し側尾端部の板厚が目標板厚よりも大きくなり、板厚偏差が許容公差を越えることもある。
【0059】
ここで、
図4に示す過程、とりわけ変形抵抗が大きい領域がロールバイトに達したタイミングT1の直後の油圧シリンダの沈み込みに伴うロールギャップ開度の変化の挙動を詳細に観察すれば、そのロールギャップ開度の変化速度(したがってロールギャップ開度の変動量の時間微分値)は、タイミングT1まではほぼゼロの状態を保ち、タイミングT1の瞬間から急激に大きくなって、その後、ロールギャップ開度の変動速度が極大(タイミングT2)を越えれば、急激にロールギャップ開度の変動速度が小さくなり、ゼロもしくはそれに近い値に戻る。
このような噛み出し側尾端部でのロールギャップ開度の変動パターンにおける上記の開度変動速度の絶対値が極大となるタイミングT2は、変形抵抗が大きい領域がロールバイトに達したタイミングT1に極めて近いことが分かる。
【0060】
そこで本発明の噛み出し側尾端部の板厚制御方法では、噛み出し側尾端部の板厚偏差が大きくならないうちに、早期に板厚偏差の増大を抑制するために、ロールギャップ開度の変動量を時間微分して、得られる微分値、すなわちロールギャップ開度変動速度の値によって油圧シリンダの動作を制御する(具体的には、その変動速度を打ち消して、変動速度をゼロに向かわせる制御を行う)こととしている。
なお上述のような噛み出し側尾端部のロールギャップ開度の変動のパターン、とりわけ変形抵抗が大きい領域がロールバイトに達したタイミングT1付近でのパターンは、変形抵抗が異なる鋼種、板厚が異なる被圧延材でも基本的に共通であるため、鋼種や板厚にかかわらず、適用可能となる。
【0061】
図5には、上述のようなパターンに基いた、本発明の第1の実施形態の板厚制御における噛み出し側尾端部での油圧シリンダの沈み込み状況及びそれに伴うロールギャップ開度の変動状況と、板厚変動状況を示している。
この第1の実施形態の場合、変形抵抗が大きい尾端側の領域がロールバイトに近い位置まで達したことを検出(タイミングT0)してから、ロールギャップ開度の変動速度(微分値)に応じて、その変動速度を打ち消す方向に油圧シリンダの動作を制御する。すなわち本実施形態では、ロールギャップ開度が大きくなる方向へのロールギャップ開度変動の速度が零となるように、したがって油圧シリンダの沈み込み方向(下降方向)への位置変化速度が零となるように油圧シリンダを制御する制御指令信号を、後述するように、油圧シリンダのサーボ系に与える。そして実際に油圧シリンダの沈み込み速度が小さくなり、さらに沈み込み速度が零となってロールギャップ開度の変動速度が零となれば(タイミングT3)、油圧シリンダの沈み込み動作が停止される。この時点(T3)において、シリンダ沈み込み量(絶対値)が最大となり、結果的にロールギャップ開度が最大となる。このときの油圧シリンダの最大の沈み込み量を、ΔGaとする。
ロールギャップ開度が最大となった時点、すなわちシリンダ沈み込み量が最大のΔGaとなった時点(T3)以降は、従来と同様なAPC制御機能によって、油圧シリンダを上昇させ、最終的にロールギャップが定常圧延時の開度もしくはそれに近い開度に復帰する。
【0062】
なおここで、上記の制御のためには、変形抵抗が大きい尾端側の領域がロールバイトに近い位置まで達したことを検出(タイミングT0)すること、言い換えれば、圧延パス中における尾端の位置がロールバイトにある程度近接したことを検出して、その検出時点(T0)から、ロールギャップ開度の変化量の微分値による油圧シリンダの動作制御を開始する必要がある。すなわち、定常圧延時に若干の板厚変動があった場合、そのわずかな板厚変動でも、ロールギャップ開度の変化量の微分値は大きな値として現われる。そのため、変形抵抗が大きい領域がロールバイトに達するよりも、かなり以前の段階で上述のような微分値による制御を開始すれば、定常圧延時の若干の板厚変動の影響によりハンチングが生じて、かえって板厚偏差が大きくなったり、板厚偏差が許容公差内であっても板厚偏差品質が悪くなってしまう。このような悪影響をできるだけ回避するためには、変形抵抗が大きい領域がロールバイトに達するタイミングT1にできるだけ近いタイミングT0から、上記の制御を開始することが望ましい。そのためには、圧延速度に応じて、過去の実績などから、尾端側における過冷却により変形抵抗が大きくなる領域の長さを予測し、尾端からの長さが上記の予測長さよりわずかに長い箇所がロールバイトに達した時点から、上述の微分値により制御を開始することが望ましい。
【0063】
上記の
図4に示される従来の無制御の場合のパターンと、
図5に示される第1の実施形態によるパターンとを、時間軸を同一尺度として重ねあわせれば、
図6に示すようにあらわされる。
図6から明らかなように、本発明第1の実施形態の方法において、ロールギャップ開度が最大となって油圧シリンダの沈み込み量が最大値ΔGaとなるタイミングT3での、油圧シリンダの沈み込み量(ΔGa)は、本発明法を適用しない場合における最大の沈み込み量(ΔGb)よりも格段に小さい沈み込み量となる。すなわち噛み出し時における板厚偏差の最大偏差が小さくなる。これは、本発明の場合、ロールギャップ開度の変動量によって制御するのではなく、ロールギャップ開度の変動の変化の速度(微分値)によって制御していることに起因する。
【0064】
このような第1の実施形態の板厚制御方法を実施するためのシステムは、AGC−APC制御システムを前提とし、ロールギャップ開度の検出値(開度変動量)を微分してロールギャップ開度の変動速度を求める機能、及びその微分値に応答して油圧サーボ系の制御部分(通常はAPC制御部)に、ロールギャップ開度変動速度を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御する制御指令信号SDを与える機能を付与するとともに、噛み出し側尾端の位置がロールバイトに近接したことを検出する尾端位置検出器を組み込んだ構成とすればよく、それ以外は特に限定されないが、
図1に示した従来の代表的なAGC−APC制御システムにこれらの機能、及び尾端位置検出器を組み込んだシステムの構成を
図7に示す。なお
図7において、
図1に示される要素と同一の要素については、
図1と同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0065】
図7において、仕上げ圧延パス中の尾端部の位置を検出し、その位置が、ロールバイトに所定距離まで近接した時に、尾端部のロールギャップ開度変動量の微分値による制御を開始する。例えば
図7に示すように、ロールバイトの入側(噛み込み側)におけるロールバイトから所定の距離だけ離れた位置に、尾端位置検出器70を配設しておき、その尾端位置検出器70が尾端を検出したタイミングT0(
図5参照)から、第4の演算器36から得られる板厚推定偏差分Δhが、微分器である第7の演算器71に導かれる。ここで、上記の板厚推定偏差分Δhは、ロールギャップ開度の変動分に相当するから、微分器である第7の演算器71には、ロールギャップ開度変動量が与えられることになる。そして第7の演算器71により、ロールギャップ開度変動量の微分値が算出され、得られた微分値が、制御指令信号発生部72に導入され、上記の微分値に応じた制御指令信号(ロールギャップ開度変動速度を打ち消すための制御指令信号)SDがAPC制御器41に与えられ、そのAPC制御器41からのサーボ動作信号SBによってサーボバルブ15が制御される。
すなわち上記の制御指令信号SDに基づくサーボバルブ15の動作によって、油圧シリンダ13の動作が制御されて、その沈み込み速度が遅くなる。したがってロールギャップ開度の変動速度が遅くなる。その後、油圧シリンダの上昇が停止されて、ロールギャップ開度の変動が停止される(
図5のタイミングT3)。このタイミングT3以降は、APC制御によって油圧シリンダの下降が開始され、ロールギャップが定常圧延時の開度もしくはそれに近い開度に戻される。
したがって、第1の実施形態によれば、尾端部分の板厚偏差が大きくなることが抑制され、同時に許容公差を越える尾端側の領域の長さが短くなり、歩留まりも向上する。
【0066】
なお、尾端位置検出器70の具体的構成は特に限定されないが、例えば、HMD(Hot Metal Detector)、あるいはレーザー位置検出器などを用いた構成とすればよい。
またここで、尾端位置検出によってロールギャップ開度の変動速度による制御を開始するタイミングは、圧延速度によって変えることが望ましく、そこで尾端位置検出器70も、尾端の検出位置を圧延方向に沿って調整し得るように設けることが望ましい。
【0067】
ここで、上記の実施形態では、噛み出し側尾端部についての制御指令信号SDは、サーボバルブ15を直接制御するためのAPC制御器41の箇所、言い換えればサーボバルブ制御のための制御部分の末端であるサーボ系に直接加えられるため、制御指令信号SDに対する応答時間が極めて短い。すなわち、従来の一般的なAGC−APC制御では、ロールギャップ開度の変動に伴う油圧シリンダの位置の制御は、AGC制御部30の全体を経て行われているため、応答性が悪く、高速で圧延される被圧延材の噛み出し側尾端部分の板厚制御を確実に行うことは困難であったが、直接サーボ系(APC制御器38)に制御指令信号SDを与えることによって、応答性を向上させることが可能となった。そして前述のように、尾端側の変形抵抗が大きい領域(過冷却領域)がロールバイトに至った瞬間から変化するロールギャップ開度の変動速度を捉えて制御することと相俟って、従来よりも格段に早期に油圧シリンダを制御して、噛み出し側尾端部の板厚偏差が大きくなることを、確実に抑制することが可能となった。
【0068】
[第2の実施形態]
前述の第1の実施形態では、噛み出し側尾端部分の制御についてのみ示したが、噛み出し側尾端部分の制御(第1の実施形態)の単独ではなく、噛み込み側先端部の制御をも併用することによって、リバース式圧延で交互に逆方向に噛み込まれる圧延方式での、両端部分の板厚偏差を、より一層確実に小さくすることが可能となる。そこでこの併用方式を、第2の実施形態として、
図8〜
図11を参照して説明する。なお、噛み出し側尾端部についての板厚制御は、前述の第1の実施形態と同様であればよく、そこで、ここでは、噛み込み側先端部の板厚制御に関してのみ説明する。
【0069】
第2の実施形態の板厚制御方法の前提として、従来の無制御の場合の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を、
図8に模式的に示し、それと比較して、本発明の第2の実施形態の板厚制御方法による噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を、
図9に模式的に示し、さらに
図10には、
図8と
図9を重ねあわせた様子を示す。また
図11には、第2の実施形態を実施するためのシステム構成の一例を示す。
【0070】
図8は、従来の、無制御の場合(但し、一般的なAGC―APC制御は行っているものとする)の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示している。
図8に示すように、噛み込みの瞬間(N1)に、衝撃荷重によって油圧シリンダの沈み込み(油柱の沈み込み)が発生する。この沈み込み中の期間(N2)では、板厚偏差が増加する。すなわち目標板厚よりも板厚が大きくなる。板厚偏差が最大となった時点(N3:谷点と記す)の油柱の沈み込み料の最大値をΔGnとする。そして谷点N3から、APC制御により、APC制御によってシリンダ位置を目標位置に復帰(収束)させるように油圧シリンダが上昇し(N4)、それに従って板厚偏差が減少し、最終的に目標板厚に到達する。
【0071】
上記の
図8に示す過程、とりわけ噛み込みの瞬間(N1)から谷点(N3)に達するまでの油圧シリンダの沈み込みの挙動(位置の変化)を詳細に観察すれば、その沈み込みの速度(したがって位置の時間微分値)は噛み込みの瞬間から急激に大きくなり、沈み込み速度(位置変化速度)が極大を越えれば、次第に沈み込み速度(位置変化速度)が小さくなり、その後、谷点(N3)に到達する、というパターンとなること、したがってその沈み込みパターンにおける上記の位置変化速度の絶対値が極大となる時点は、沈み込み量が最大値となる時点(谷点N3)よりも早いことを認識した。そこで本発明では、噛み込み側先端部の板厚偏差を早期に抑制するために、油圧シリンダの沈み込みの変化(位置変化)を微分して、得られる変化速度の値によって油圧シリンダの動作を制御することとしている。また上述のような噛み込み開始初期の沈み込み量の変化速度のパターンは、変形抵抗が異なる鋼種、板厚が異なる被圧延材でも基本的に共通であるため、鋼種や板厚にかかわらず、適用可能となる。
【0072】
図9には、上述のようなパターンに基いて、本発明の第2の実施形態の板厚制御における噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示している。なおこの場合、従来の一般的なAGC−APC制御方式を前提として、噛み込む時における本発明特有の制御方式を付加(導入)している。
【0073】
この第2の実施形態の場合も、噛み込みの瞬間(C1)に、衝撃荷重によって油圧シリンダの沈み込み(油柱の沈み込み)が発生し、この沈み込みは、時間の経過とともに急激に大きくなる。そして、その沈み込みの速度(位置変化速度)は、噛み込みの瞬間から急激に大きくなる(C1〜C2)。ここで、油圧シリンダの位置を、油圧シリンダに付設された位置検出器によって検出して、その変化量を時間によって微分し、変化速度(沈み込み速度)を求める(C3)。そしてこの変化速度が最大値となった時点Cpにおいて、油圧シリンダの変化速度を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するための指令信号が油圧シリンダのサーボ系に与えられる(C3〜C4)。すなわち本実施形態では、油圧シリンダの沈み込み方向(下降方向)への位置変化速度が零となるように、油圧シリンダを制御する。なお、変化速度が最大値となる時点Cpのタイミングは、変化速度の微分値が零となることによって検出することができる。
【0074】
上記のようにしてCpにおいて、変化速度の微分値が零となって油圧シリンダの変化速度の絶対値を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するための指令信号が、油圧シリンダのサーボ系に与えられた後、実際に油圧シリンダの沈み込み速度が小さくなり、さらに沈み込み速度が零となれば(C4)、沈み込み動作が停止される(C5)。この時点(C5)において、シリンダ沈み込み量(絶対値)が最大となる。このときの最大の沈み込み量をΔGcとする。
【0075】
シリンダ沈み込み量が最大のΔGcとなった時点(C5)以降は、従来と同様なAPC制御機能によって、油圧シリンダを上昇させ(C6〜C7)、最終的にロールギャップが目標とする開度となる(C8)。
【0076】
なおC6〜C7の期間においてある程度ロールギャップが目標開度に近づいたときに、圧延速度を、噛み込み開始時の低速状態から、定常圧延速度に向けて上昇させる指令を与えるのが好ましい。
【0077】
また、上記のCpのタイミングにおいて、変化速度の微分値が零となって油圧シリンダの変化速度の絶対値を打ち消すように油圧シリンダの動作を制御するための指令信号が一旦油圧シリンダのサーボ系に与えられた後には、特に変化速度の微分値による制御を積極的に行わなくても、上記の指令信号とシリンダのAPC制御の機能によって、油圧シリンダを上昇させることができる。言い換えれば、変化速度の微分値が零となった後は、微分値による制御はおこなう必要がなくなるから、それ以降は、微分値の算出及びその算出値に制御は不要となる。
【0078】
上記の
図8に示される従来の噛み込み側での制御方法の場合の噛み込み側でのパターンと、
図9に示される第2の実施形態による噛み込み側でのパターンとを、時間軸を同一尺度として重ねあわせれば、
図10に示すようにあらわされる。
図10から明らかなように、本発明第2の実施形態の方法において、噛み込み側の先端部分における油圧シリンダの沈み込み量が最大値ΔGcとなるタイミングCpは、本発明法を適用しない場合において沈み込み量が最大値ΔGnとなるタイミングCnよりも格段に早いタイミングとなる。そのため、本発明第2の実施形態の方法における沈み込み量の最大値ΔGc自体も、本発明法を適用しない場合における沈み込み量の最大値ΔGnよりも小さくなり、その結果、噛み込み時における板厚偏差の大きさ(最大偏差)も小さくなる。これは、油圧シリンダの沈み込みの変化量によって制御するのではなく、噛み込み開始の瞬間から直ちに現れる沈み込みの変化の速度(変化量の微分値)によって制御していることに起因する。
さらに、上記のように沈み込み量の最大値ΔGcが小さくなって、噛み込み側での最大の板厚偏差量が小さくなるに伴い、板厚偏差が教養公差を越える領域の長さも小さくなるのである。
【0079】
このような第2の実施形態の板厚制御方法を実施するためのシステムは、AGC−APC制御システムを前提とし、前述のような第1の実施形態の制御(噛み出し側尾端部の制御)のための機能に、噛み込み側での油圧シリンダの位置検出器の検出値(位置変動量)を微分してシリンダ位置変化速度を求める機能、及びその微分値(シリンダ位置変化速度)に応答して油圧サーボ系の制御部分(通常はAPC制御部)に、沈み込み変化速度を打ち消すような指令信号SCを与える機能を与えた構成とすればよく、それ以外は特に限定されないが、
図7に示した噛み出し側尾端部の板厚制御のためのシステムに、これらの噛み込み側先端部分の制御のための機能を組み込んだシステムの構成を
図11に示す。なお
図11において、
図1あるいは
図7に示される要素と同一の要素については、
図1、
図7と同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0080】
図11において、位置検出器16によって、油圧シリンダ13の位置が検出される。この油圧シリンダ13の位置は、下側ワークロール11Bの上下方向の位置に対応するから、位置検出器16から出力される検出信号は、ロール位置検出信号に相当することになる。そしてこのロール位置検出信号が微分器である第6の演算器61に導かれ、その微分値が指令信号発生部62に導入され、上記の微分値に応じた指令信号(噛み込み時における沈み込みの変化速度を打ち消すための指令信号)SCがAPC制御器41に与えられ、そのAPC制御器41によってサーボバルブ15が制御されるようになっている。
なおここでは、位置検出器16から得られる油圧シリンダの沈み込み量の変化速度そのものではなく、ロールギャップ開度sの変化分Δsを微分しているが、ロールギャップ開度sの変化分Δsの変化速度(微分値)は、油圧シリンダの沈み込み量の変化速度に対応する。したがってこのようなシステムにより、第2の実施形態の制御方法を実施することができる。
【0081】
ここで、第2の実施形態でも、噛み込み側先端部の板厚制御のための指令信号SCは、サーボバルブ15を直接制御するためのAPC制御器41の箇所、言い換えればサーボバルブ制御のための制御部分の末端であるサーボ系に直接加えられるため、指令信号SCに対する応答時間が極めて短い。すなわち、従来の一般的なAGC−APC制御では、油圧シリンダの位置の制御は、AGC制御部30の全体を経て行われているため、応答性が悪く、高速で圧延される被圧延材の噛み込み側先端部分の板厚制御を確実に行うことは困難であったが、直接サーボ系(APC制御器38)に指令信号を与えることによって、応答性を向上させることが可能となった。そして前述のように、噛み込みの瞬間から変化する沈み込み量の変化速度を捉えて制御することと相俟って、従来よりも格段に早期に油圧シリンダを制御して、噛み込み側先端部の板厚偏差が大きくなることを、確実に抑制することが可能となった。
【0082】
[第3の実施形態]
さらに、噛み出し側の尾端部の板厚制御と噛み込み側先端部の板厚制御とを併用する場合において、噛み込み側先端部分板厚制御については、前述の噛み込み時沈み込み補償方式(ゲタ履かせ方式)と併用することができる。この場合の実施形態について、第3の実施形態として、
図12及び
図13を参照して説明する。なお
図12は、前述の第2の実施形態において説明した噛み込み時の板厚制御を適用せず、AGC−APC制御を前提として従来の一般的なゲタ履かせ方式を実施した場合の、噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示し、
図13に、第3の実施形態として、AGC−APC制御を前提とし、本発明に従った噛み込み時の板厚制御方法とゲタ履かせ方式を併用した場合の噛み込み側先端部での油圧シリンダの沈み込み状況及び板厚変動状況を示す。但し、噛み出し側尾端部分の板厚制御については第1の実施形態と同様であるが、噛み込み側の先端部の制御にはゲタ履かせ方式は適用できないため、噛み出し側については第1、第2の実施形態と同様であることとし、その説明は省略する。
【0083】
従来の一般的なゲタ履かせ方式は、噛み込み時のロールギャップの瞬間的な開きを補償するために、噛み込み開始時においてはAPC制御をオフにしておくとともに、噛み込み開始時における油圧シリンダの位置を、定常圧延時よりも所定の高さだけ上げておき(したがってロール開度を定常圧延時よりも小さく設定しておき)、これによって噛み込み時に下側ロールの沈み込みを補償し、沈み込みによる先端部板厚過大化を防止する手法である。すなわち噛み込み時に衝撃荷重によって油圧シリンダが沈み込んでも、その分、予め油圧シリンダの位置を高くしておく(ゲタを履かせておく)ことにより、衝撃荷重が加わった時にロールギャップが過剰に大きくならないようにするものである。なおこの場合、予め、過去の実績などから、ゲタを履かせる高さ及びその期間を予測して、それらの予測値を制御部に設定しておき、ゲタ履かせ期間が経過したら、APC制御を機能させて、油圧シリンダの位置を、定常圧延時のロールギャップが得られる位置に位置させる。
【0084】
上述のような従来の一般的なゲタ履かせ方式では、既に述べたように、ゲタ履かせ量(沈み込み補償量)を大きくすれば、それに伴って、ロールギャップの開度が小さくなってしまい、そのため、かえって噛み込み時の衝撃荷重が大きくなってしまい、
図12に示しているように、噛み込み開始後の初期に、油圧シリンダの急激な上下動が生じて、跳ね上がり状の板厚偏差が生じてしまうことが多い。しかるに、噛み込み側先端部分の板厚制御として、第2の実施形態に記載した方式とゲタ履かせ方式とを組み合わせた第3の実施形態の制御方法とすれば、ゲタ履かせ量(沈み込み補償量)を小さくしても、噛み込み側先端部分の上述のような従来のゲタ履かせ方式における跳ね上がりによる板厚偏差の発生を、より確実に抑制することができる。すなわち、油圧シリンダ沈み込み速度(微分値)による制御とゲタ履かせ方式と組み合わせることにより、ゲタ履かせ方式での噛み込み時のロールギャップ開度を過剰に大きくする必要性を減じ、ゲタ履かせ方式のデメリットを最小限に抑えつつ、噛み込み側先端部分の板厚偏差の減少を図ることができるのである。
【0085】
なお、本発明が適用される鋼種は、基本的には限定されないが、特に熱間圧延温度での変形抵抗の大きい鋼種、例えばステンレス鋼、そのほか耐熱鋼、超合金等に適用することが効果的である。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、2相ステンレス鋼、析出効果型ステンレス鋼、そのほかいずれの鋼種にも適用可能である。
また、熱間仕上げ圧延の上がり目標板厚は特に限定されないが、ステンレス鋼の場合、一般には4mm〜100mm程度である。
さらに1パス当たりの平均圧下率、平均圧延荷重、圧延速度も特に限定されず、通常の熱間仕上げ圧延における値と同程度とすればよく、ステンレス鋼の場合、一般には1パスでの圧下率は10%〜25%程度であり、圧延荷重は1000ton〜6500ton程度であり、圧延速度は0.5m/sec〜5.0m/sec程度である。
【0086】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに記す。なお以下の実施例は、本発明の作用、効果を明確化するためのものであり、各実施例に記載した条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0087】
〔実施例1〕
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316鋼の熱間粗圧延上がりの原板について、リバース式圧延機により10パスにて仕上げ圧延を行った。原板の寸法は、長さ3000m、幅1500mm、板厚150mmであり、最終パス上がりの目標板厚は、12mmとし、良品と認められるべき板厚許容公差は、±1.5mmと設定した。仕上げ圧延直前の原板の温度は、平均で1000℃である。また各パスでの平均圧延速度は2.0mm/sec、平均圧下率は20%、平均圧延荷重(目標板厚とするための設定圧延荷重)は3500tonである。
以上のような条件で、第1の実施形態として記載した噛み出し側尾端部の板厚制御方法を適用しながら熱間仕上げ圧延を行った。
なお、尾端位置検出器は、尾端がロールバイトに3000mmの距離まで接近した時に尾端を検出して、尾端板厚制御を開始するようにした。
【0088】
上記実施例1により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿って、長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は12mmで、長さ方向の尾端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み出し側に相当する部分)における最大厚み偏差は0.12mmであることが確認された。さらに、許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。また、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は12mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.05mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0089】
〔実施例2〕
実施例1で用いたと同様な熱間粗圧延上がりの原板について、前記の第2の実施形態として記載したように、各パスの噛み込み側の先端部について板厚制御を適用するとともに、各パスの噛み出し側の尾端部についても制御して、熱間仕上げ圧延を行った。なお、各パスの噛み出し側の尾端部についての制御の条件は、実施例1に記載した条件と同じである。
【0090】
上記実施例2により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿って、長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は12mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚みは0.68mmで、長さ方向の尾端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み出し側に相当する部分)における最大厚みは0.1mmとなっていることが確認された。さらに、前記先端側の部分において、前記許容公差を上回る領域の長さは0mm、前記尾端側の部分において、前記許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。また、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は12mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.04mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0091】
〔比較例1〕
実施例1で用いたと同様な熱間粗圧延上がりの原板について、各パスの噛み出し側の尾端部に本発明の板厚制御を適用せず、かつ各パスの噛み込み側の先端部にも前述の板厚制を適用せずに、
図1に示す従来の一般的なAGC制御―APC制御方式を適用して熱間仕上げ圧延を行った。なお、本発明の板厚制御方法を適用しなかった点以外は、実施例1に記載した条件を適用した。
【0092】
上記比較例1により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿って、長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は12mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚みは0.86mmで、長さ方向の尾端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み出し側に相当する部分)における最大厚みは0.26mmとなっていることが確認された。さらに、前記先端側の部分において、前記許容公差を上回る領域の長さは0mm、前記尾端側の部分において、前記許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。また、クロップ不良部の領域を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は12mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.18mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0093】
上記の実施例1、実施例2の結果と比較例1の結果を比較すれば明らかなように、実施例1及び実施例2の場合は、本発明の板厚制御方法を適用しなかった比較例1と比べて、熱間仕上げ圧延上がり板における長さ方向両端部分の板厚偏差が格段に小さくなった。また実施例1及び実施例2の場合は、板厚許容公差を上回らない中央部分の領域の板厚偏差も、比較例1の場合よりも小さく、したがって製品の板厚品質も良好となることが明らかである。
【0094】
〔実施例3〕
マルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS410鋼の熱間粗圧延上がりの原板について、リバース式圧延機により12パスにて仕上げ圧延を行った。原板の寸法は、長さ3200mm、幅1250mm、板厚250mmであり、最終パス上がりの目標板厚は、16mmとし、良品と認められるべき板厚許容公差は、±1.9mmと設定した。仕上げ圧延直前の原板の温度は、平均で900℃である。また各パスでの平均圧延速度は2.0m/sec、平均圧下率は22%、平均圧延荷重(目標板厚とするための設定圧延荷重)は2250tonである。なおこの実施例3では、実施例1と同様に、各パスの噛み込み側の先端部には前述の板厚制御を適用せずに、各パスの噛み出し側の尾端部についてのみ、本発明の板厚制御方法を適用して熱間仕上げ圧延を行った。また尾端位置検出器の位置は、実施例1と同じとした。
【0095】
上記実施例3により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿って、長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は16mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚みは0.62mmで、長さ方向の尾端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み出し側に相当する部分)における最大厚みは0.10mmとなっていることが確認された。さらに、前記先端側の部分において、許容公差を上回る領域の長さは0mm、前記尾端側の部分において、許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。さらに、クロップ不良部を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は16mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.03mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0096】
〔比較例2〕
実施例3で用いたと同様な熱間粗圧延上がりの原板について、本発明の板厚制御方法を適用せずに、
図1に示す従来の一般的なAGC制御―APC制御方式を適用して熱間仕上げ圧延を行った。なお、本発明の板厚制御方法を適用しなかった点以外は、実施例3に記載した条件を適用した。
【0097】
上記比較例2により仕上げ圧延最終パスを経て得られた板について、板幅中心線に沿って、長さ方向の板厚分布を、シミュレーションにより算出したところ、長さ方向の全長の平均板厚は16mmで、長さ方向の先端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み込み側に相当する部分)における最大厚みは0.77mmで、長さ方向の尾端側の部分(最終仕上げ圧延パスにおける噛み出し側に相当する部分)における最大厚みは0.21mmとなっていることが確認された。さらに、前記先端側の部分において、前記許容公差を上回る領域の長さは0mm、前記尾端側の部分において、許容公差を上回る領域の長さは0mmであることが確認された。さらに、クロップ不良部を除いた部分を除いた部分(長さ方向中央部分;切り捨てずに製品とされる部分)の長さ方向の平均板厚は16mmで、かつその部分の板厚偏差は、上記の長さ方向中央部分の平均板厚に対して最大で+0.16mm、−0mmの範囲内となっていることが確認された。
【0098】
鋼種が実施例1、実施例2と異なる、マルテンサイト系ステンレス鋼である場合(実施例3)においても、上記の実施例3の結果と比較例2の結果を比較すれば明らかなように、本発明の板厚制御方法を適用しなかった比較例2と比べて、熱間仕上げ圧延上がり板における長さ方向両端部分の板厚偏差が小さくなった。またクロップ不良部を除く中央部分の領域の板厚偏差も、比較例2の場合よりも小さく、したがって製品の板厚品質も良好となることが明らかである。
なお、以上の実施例で示した鋼種以外の鋼、例えばフェライト系ステンレス鋼や析出硬化系、オーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼で場合においても、上記と同様な効果が得られることが確認されている。
【0099】
以上、本発明の好ましい実施形態および実施例を説明したが、本発明はこれらの実施形態、実施例に限定されないことはもちろんである。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。