【実施例】
【0016】
以下に、点火制御装置にかかる実施例について、図面を参照して説明する。
本例の点火制御装置1は、
図1、
図2に示すように、放電用電圧を発生させる点火コイル2と、放電用電圧によって放電を発生させ、内燃機関の気筒6内に取り込まれた混合気Gに点火する点火プラグ3と、点火コイル2の動作を制御する制御回路4とを備えている。制御回路4には、点火プラグ3における放電電流Iを、所定の検出間隔T1で検出する検出器5が接続されている。点火制御装置1は、所定の検出間隔T1で複数回検出を行った放電電流Iの値に基づいて、放電電流Iの大きさの時間的変化である傾きαを算出し、傾きαが所定の変動範囲を外れて変化した時に、混合気Gの燃焼が開始されたと判断するよう構成されている。
【0017】
以下に、本例の点火制御装置1について詳説する。
図1、
図2に示すように、点火制御装置1は、内燃機関としてのエンジンの各気筒6における燃焼の制御を行うよう構成されている。点火制御装置1は、制御回路4における制御動作によって、点火コイル2における一次コイル21への通電及び通電の遮断を行うタイミングを制御するよう構成されている。
点火コイル2は、制御回路4に接続されたスイッチング回路41によって通電及び通電の遮断が行われる一次コイル21と、一次コイル21と同心円状に配置され、一次コイル21への通電が遮断されたときの誘導起電力としての二次電圧を発生させる二次コイル22とを有している。エンジンの燃焼サイクルにおける圧縮工程K1又は膨張工程K2において、放電用電圧を発生させるための一次コイル21への通電及び通電の遮断が行われる(
図4参照)。
【0018】
図2に示すように、点火プラグ3は、点火コイル2における二次コイル22の高電圧側端部に接続される中心電極31と、シリンダヘッドのプラグホールに取り付けられ、グラウンド電位に接続されるハウジングとを有している。ハウジングには、中心電極31の先端部との間に、放電用間隙Cを形成する接地電極32が設けられている。
制御回路4は、ECU(エンジンコントロールユニット)における点火制御を行う部分として構成されている。検出器5は、二次コイル22の高電圧側端部に接続されており、二次コイル22から点火プラグ3に流れる放電電流Iを検出するよう構成されている。
【0019】
図3は、横軸に時間をとり、縦軸に二次コイル22及び点火プラグ3に流れる二次電流としての放電電流Iをとって、放電電流Iの時間的変化を示す。同図において、一次コイル21への通電を遮断した直後には、二次電圧が急激に上昇し、二次電圧が点火プラグ3における放電電圧に達したときには(図中のt1の時点)、点火プラグ3における放電用間隙Cにおいて火花放電が発生する。また、火花放電とともに放電電流Iが発生する。この放電電流Iには、点火コイル2における二次コイル22側の静電容量に起因した突発的な成分としての容量放電成分I1と、二次コイル22側の電磁エネルギーに起因した持続的な成分としての誘導放電成分I2とが含まれる。突発的な容量放電成分I1は、気筒6内における混合気Gの流れによる、放電の吹消えが生じたときに発生していると考えられる。また、持続的な誘導放電成分I2は、時間とともに徐々に減衰していく。
【0020】
そして、放電電流Iが流れる途中において、放電用間隙Cに発生する火花放電によって、混合気Gに点火が行われ、燃焼が開始される。このとき、放電用間隙Cに存在する混合気G中の酸素、窒素、燃料としての炭化水素等の成分がイオン化し、放電用間隙Cに放電が発生しやすい状況が形成される。そして、燃焼質量割合が0%である、燃焼が開始された時点t2において、誘導放電成分I2の時間的変化を示す傾きαの変曲点Xが出現する。この変曲点Xが出現する時点が、傾きαが所定の変動範囲を外れて変化した時として検出される。傾きαは、変曲点Xを境にして、燃焼開始前の傾きαの大きさ(直線L1によって示す。)に比べて、燃焼開始後の傾きαの大きさ(直線L2によって示す。)が小さくなる。燃焼開始後の傾きαの大きさが小さくなるのは、放電用間隙Cに放電が発生しやすい状況が形成されたことにより、放電時間が引き延ばされるためである。
【0021】
図4は、横軸に時間をとり、縦軸に、一次コイル21におけるIGt信号(点火信号)、一次コイル21における一次電流、二次コイル22における二次電流(放電電流I)をとって、点火制御装置1の点火動作におけるIGt信号、一次電流及び二次電流の時間的変化を示す。
点火制御装置1の動作において、圧縮工程K1において混合気Gが圧縮されるときには、スイッチング回路41によるIGt信号の印加によって一次コイル21への通電が開始される。そして、一次コイル21に一次電流が流れ、一次コイル21が充電される。次いで、混合気Gに点火を行うタイミングに合わせて、一次コイル21への通電が遮断されると、二次コイル22に誘導起電力としての二次電圧が発生するとともに、二次コイル22に二次電流としての放電電流Iが流れる。放電電流Iは、一次コイル21への通電を遮断した直後に最も大きくなり、その後、徐々に減衰していく。そして、放電電流Iが点火プラグ3における放電用間隙Cに流れる間に、混合気Gへの点火が行われる。
【0022】
図1に示すように、制御回路4には、一次コイル21への通電及び通電の遮断のタイミング、検出器5による放電電流Iの値の検出等を行うための点火制御プログラムPが構築されている。点火制御プログラムPにおいては、検出間隔T1よりも長い間隔であって、検出間隔T1の整数倍の間隔になるように、算出間隔T2が設定されている。
図5には、検出器5による各検出時点tを示し、検出間隔T1と算出間隔T2との関係を示す。
【0023】
図6には、点火制御装置1における点火制御プログラムPの流れを概念的に示す。
点火制御プログラムPは、エンジンの燃焼サイクル中において、放電用電圧を発生させるための一次コイル21への通電及び通電の遮断A1と、放電の遮断を行うための一次コイル21への通電の開始A2とを行う(
図4参照)。
まず、点火制御プログラムPは、エンジンの燃焼サイクルにおける点火時期に応じて、一次コイル21への通電を開始し(同図のステップS1)、所定時間経過後に(S2)、この通電を遮断する(S3、
図3、
図4の時間t1)。
【0024】
そして、点火制御プログラムPは、一次コイル21への通電開始後にこの通電を遮断するときには、一定の検出間隔(時間間隔)T1で、二次コイル22の高電圧側端部及び点火プラグ3に流れる放電電流Iの検出を開始する(S4)。そして、放電電流Iの検出を複数回行ったときの算出間隔T2の経過時に(S5)、複数回検出を行った放電電流Iの値を平均して、放電電流Iの大きさの時間的変化である傾きαを算出する(S6)。
【0025】
このとき、傾きαは、検出器5による放電電流Iの値のうち、所定の放電電流Iの値を超える容量放電成分I1を除く残りの放電電流の値に基づいて算出することができる。容量放電成分I1は、突発的な放電電流Iの成分であって、混合気Gの点火に貢献しない成分であり、傾きαを算出する際の誤差の要因となる。一方、誘導放電成分I2は、持続的な放電電流Iの成分であって、混合気Gの点火に貢献する成分である。そのため、容量放電成分I1を可能な限り除いて傾きαを算出することにより、容量放電成分I1が傾きαに与える影響をできるだけ小さくして、混合気Gの燃焼が開始された時点の判断の精度を高めることができる。
【0026】
点火制御プログラムPにおいては、傾きαが所定の変動範囲を外れて変化した時(変曲点Xが出現した時)に(S7)、混合気Gの燃焼が開始されたと判断し、点火コイル2における一次コイル21へ放電遮断用の通電を開始することにより(
図3、
図4の時間t2)、点火プラグ3における放電を遮断する(S8)。なお、傾きαが所定の変動範囲を外れて変化した時には、傾きαの変曲点Xが出現したと判断する(
図3参照)。また、放電の遮断を行うための一次コイル21への通電の遮断は、所定時間経過後に(S9)、燃料サイクル中における排気工程K3において行う(S10、
図3、
図4の時間t3)。なお、この通電の遮断は、吸気工程において行うこともできる。
【0027】
放電の遮断を行うための一次コイル21への通電は、点火プラグ3における放電用間隙Cに放電を発生させるための通電ではない。そして、この通電を遮断したときに放電用間隙Cに発生する放電は、不要な放電となる。そのため、
図4に示すように、放電の遮断を行うための一次コイル21への通電の遮断を排気工程K3において行い、不要な放電によって、混合気Gの燃焼に影響が生じないようにすることができる。
【0028】
本例の点火制御装置1の制御回路4における点火制御プログラムPは、上述したように、点火プラグ3の放電用間隙Cにおいて放電電流Iが発生するときに、傾きαの算出及び監視を行い、傾きαが所定の変動範囲を外れて変化した時に、混合気Gの燃焼が開始されたと判断する。そして、この時、点火コイル2における一次コイル21へ放電遮断用の通電を開始することにより、点火プラグ3における放電を遮断する。これにより、混合気Gが点火されて混合気Gの燃焼が開始された後においては、混合気Gの点火に不必要になった放電を停止することができる。
そのため、点火プラグ3の放電時間を適切に短くすることができ、点火プラグ3の消耗を抑制することができる。また、燃焼が開始される前に、放電電流Iが制限されることがなく、失火の発生を抑えて、燃焼を安定化させることができる。
【0029】
それ故、本例の点火制御装置1によれば、点火プラグ3の消耗の抑制及び混合気Gの燃焼の安定化を両立させることができる。