特許第6322517号(P6322517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6322517硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322517
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/68 20060101AFI20180423BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C01F7/68
   B01D21/01 102
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-160637(P2014-160637)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-37410(P2016-37410A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】樋口 深佳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範行
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−024694(JP,A)
【文献】 特開昭51−066299(JP,A)
【文献】 特開昭61−286219(JP,A)
【文献】 特開昭53−100194(JP,A)
【文献】 特開平10−245220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00−17/00
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アルミニウムとアルミン酸ソーダとの反応により得られ、塩基性硫酸アルミニウムが溶解している塩基性硫酸アルミニウム水溶液を用意し、
前記塩基性硫酸アルミニウム水溶液と塩基性塩化アルミニウム水溶液とを混合し、
上記の混合液に、炭酸カルシウムの水性スラリーを、CaO換算でのCa量がSO換算でのSトータル量100質量部当り30〜45質量部となる量で添加し、
次いで、50℃以下の温度で1時間以上、撹拌下で熟成し、
次いでろ過により副生した石膏を分離すること、
を特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性硫酸アルミニウム水溶液は、Al換算でのAl濃度が8〜14質量%の範囲にあり且つ硫酸根(SO2−)濃度が14〜20質量%の範囲にあり、前記塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al換算でのAl濃度が10〜20質量%の範囲にあり且つ塩基度が30〜63%の塩基性塩化アルミニウム水溶液の範囲にある請求項1に記載の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムとして、中位径(D50)が30μm以下の微粒子を使用する請求項1または2に記載の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤として使用される硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩基性塩化アルミニウムは、水の浄化等に使用する凝集剤として、硫酸バンドと呼ばれることもある硫酸アルミニウムなどと共に広く使用されている。
このような塩基性塩化アルミニウムは、[Al(OH)Cl6−n]で表される単位が連なった重合を有する形態を有しており、このOHのAlに対する結合割合を表す塩基度が45%以上のものが高い凝集力を示すことが知られており、さらに、硫酸根を含むものは、より高い凝集能力を示すことが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。また、特許文献4には、塩基性塩化アルミニウム水溶液に溶けているAlの状態をNMRで定性的に規定する方法が提案されている。
【0003】
ところで、このような塩基性塩化アルミニウムは、高い凝集力を有していたとしても、保存安定性に問題があり、例えば、水溶液の形態で保存しておくと、白濁、結晶析出や沈降分離を生じてしまうという問題があり、特に硫酸根が多く導入されているものほど、この傾向が強い。
従って、粉末の形態での保存が考えられるのであるが、この場合、輸送コスト等の点でメリットはあるとしても、実際の使用に際して、処理すべき液中に投入する作業が行い難いという問題があるばかりか、元々、水溶液の形態で製造される塩基性塩化アルミニウムから水分を除去するという作業を行うことは、生産コストの増大をもたらしてしまう。従って、水溶液の形態のまま保存や輸送に供され、そのまま処理液中に投入するという手法が多く採用されている。
【0004】
ところで、上記の特許文献2の従来技術の欄にも記載されているように、塩基性塩化アルミニウムと炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムとを用いて、高塩基度の塩基性塩化アルミニウムを製造する方法が知られている。この方法では、予め、硫酸アルミニウムと炭酸カルシウムとを反応させて塩基性硫酸アルミニウムを生成させ、この反応液中に塩基性塩化アルミニウムを加えることにより、塩基性塩化アルミニウム中にOH基が導入され、その塩基度が高められるというものである。
即ち、上記方法は、塩基性硫酸アルミニウムを塩基化剤として使用するものであるが、反応後にさらに炭酸カルシウムを添加して未反応の硫酸根を石膏として分離しなければならず、多量の石膏が生成するため、排液処理にかかる負荷が大きいという問題がある。また、得られた石膏ケーキや洗浄水に同伴してアルミニウム成分が流出するといった損失がある。しかも、この方法で得られる高塩基度塩基性塩化アルミニウムの水溶液も、保存安定性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−71818号公報
【特許文献2】特開平7−172824号公報
【特許文献3】特開2000−264627号公報
【特許文献4】特開2009−203125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、硫酸根が共存する硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、優れた凝集性を発揮することができ、しかも水溶液の状態で沈降分離することなどがなく、安定に保存される硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、硫酸根が共存する塩基性塩化アルミニウムの水溶液の保存安定性について多くの実験を重ねて検討した結果、硫酸アルミニウムとアルミン酸ソーダとから得られる塩基性硫酸アルミニウムを用いて硫酸根を導入する場合には、余剰の硫酸根を除去するために炭酸カルシウムを用いたとしても、副生する石膏の量が著しく少ないばかりか、凝集力を損なうことなく、保存安定性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明によれば、硫酸アルミニウムとアルミン酸ソーダとの反応により得られ、塩基性硫酸アルミニウムが溶解している塩基性硫酸アルミニウム水溶液を用意し、
前記塩基性硫酸アルミニウム水溶液と塩基性塩化アルミニウム水溶液とを混合し、
上記の混合液に、炭酸カルシウムの水性スラリーを、CaO換算でのCa量がSO換算でのSトータル量100質量部当り30〜45質量部となる量で添加し、
次いで、50℃以下の温度で1時間以上、撹拌下で熟成し、
次いでろ過により副生した石膏を分離すること、
を特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の製造方法においては、
(1)前記塩基性硫酸アルミニウム水溶液は、Al換算でのAl濃度が8〜14質量%の範囲にあり且つ硫酸根(SO2−)濃度が14〜20質量%の範囲にあり、前記塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al換算でのAl濃度が10〜20質量%の範囲にあり且つ塩基度が30〜63%の塩基性塩化アルミニウム水溶液の範囲にあること、
(2)前記炭酸カルシウムとして、中位径(D50)が30μm以下の微粒子を使用すること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により得られる硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液(以下PACSと略記する)は、優れた凝集力を示すと同時に、その保存安定性が極めて高く、例えば、45℃の温度に19日間保持した場合においても白濁を生じない。
即ち、後述する実施例及び比較例に示されているように、硫酸アルミニウムと炭酸カルシウムの反応により得られた塩基性硫酸アルミニウムを用いた場合には、得られたPACSを45℃の温度に保存したとき、13日後に白濁を生じてしまい、さらに、副生する石膏の量もPACS1kg当たり約395gと多いが(比較例1)、本発明にしたがってアルミン酸ソーダを用いて得られた塩基性硫酸アルミニウムを用いた場合には、白濁が生じるまでの期間は19日とかなり長くなっており、副生する石膏の量もPACS1kg当たり約56gと著しく少ない(実施例1)。
【0011】
従って、このPACSは、そのままの状態で凝集剤として販売され、そのまま、濁水等に投入され、水の浄化等に使用される。
【0012】
また、過剰の硫酸根の導入は、保存安定性を悪化させるため、炭酸カルシウムを用いて過剰の硫酸根を石膏(硫酸カルシウム)として沈降分離するのであるが、本発明においては、副生する石膏の量が著しく少ない。即ち、本発明では、硫酸根による保存安定性への悪影響が緩和されるとともに、石膏生成量を大幅に低減でき、これにより、排液処理にかかる負担も大幅に軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<塩基性硫酸アルミニウム水溶液>
本発明の製造方法においては、硫酸根の導入化剤として、塩基性硫酸アルミニウム水溶液(以下BASと略記する)が使用されるが、このBASはそれ自体公知であり、例えば特開昭57−17425号公報に記載されているように、硫酸アルミニウムとアルミン酸ソーダとを反応することにより得られたものである。
【0014】
BASに含まれる硫酸根は、その一部が単量体のAlに配位した状態で存在し、残りが安定なナトリウム塩の状態で存在している。この結果、この塩基性硫酸アルミニウムを硫酸根導入剤として用いたときは、硫酸アルミニウムを用いたときに比べて石膏の生成量を大幅に減少させることが可能となったものと思われる。
【0015】
本発明において、上記のBAS中には、通常、過剰の硫酸アルミニウムが存在しているが、本発明においては、かかるBAS中のAl換算でのAl濃度が8〜14質量%、特に10〜12質量%の範囲にあり、硫酸根(SO2−)濃度が14〜20質量%、特に15〜18質量%の範囲にあることが望ましく、さらに水酸基濃度を示す塩基度が40〜95%の範囲に調整されていることが好ましい。即ち、これらの濃度や塩基度が上記範囲外である場合には、凝集特性或いは保存安定性が低下する傾向にある。
【0016】
<塩基性塩化アルミニウム水溶液>
本発明において、上記のBASとの反応に供する塩基性塩化アルミニウム水溶液(以下BACと略記する)として、それ自体公知のものを使用することができるが、一般的には、塩基度が30〜63%のものが好適に使用される。例えば、この範囲外の塩基度のものを使用した場合には、特に凝集性能が不満足となる傾向がある。即ち、塩基度が過度に低いものを用いた場合には、前述したBASとの反応により得られるPACSの塩基度が低く、この結果として、凝集性能の低下を生じ易く、一方、塩基度が必要以上に高いものを用いた場合には、前述BASとの反応性が乏しく、この結果として、保存安定性を向上させることが困難になるものと思われる。
【0017】
本発明において、上記のような塩基度のBACは、それ自体公知であり、例えば特開平6−16416号公報や特開2000−271574号公報に記載されているように、水酸化アルミニウムと塩酸とを加圧下で反応させることにより得られる。
反応温度は100〜150℃程度の範囲であり、圧力は0.1〜0.5MPa程度であり、反応時間は、温度や圧力に応じて、塩基度が上記範囲内となる程度の時間、例えば2〜24時間程度であり、このような反応はオートクレーブを用いて行われる。
【0018】
尚、BASとの反応に用いるBACは、Al換算でのAl濃度が10〜20質量%、特に11〜14質量%の範囲にあることが望ましい。即ち、Al濃度が上記範囲よりも低い場合には、得られる水溶液が硫酸アルミニウムを主体とするものとなってしまい、優れた凝集能が損なわれるばかりか、保存安定性も損なわれる傾向がある。また、Al濃度が上記範囲よりも高い場合には、硫酸根の導入による凝集性能の向上が不満足となる傾向がある。
【0019】
<塩基性塩化アルミニウム水溶液への硫酸根の導入>
本発明において、上述したBASとBACとを混合することにより、該BAC中に硫酸根が導入される。
このような硫酸根導入のための液の混合は、酸性液同士の混合であることから同時注加でも一方注加でもかまわない。
また、本発明において導入される硫酸根は、BACのAl原子などと反応する必要はないため、両液の混合温度も低温でよく、例えば50℃以下の温度でよい。
【0020】
<炭酸カルシウムの混合及び熟成>
本発明においては、上記のBASとBACとの混合後、この混合液に炭酸カルシウムスラリーを加え、この液を熟成する。
即ち、上記の液中に炭酸カルシウムを加えることにより、遊離状態の硫酸根をカルシウム塩(石膏)として析出させるものであり、これにより、過剰の硫酸根を除去することができる。
【0021】
ところで、上記の混合液中に残存する硫酸根は、Ca2+と共存するNaによって安定化されているため、硫酸アルミニウムへの結晶析出化が抑制されていると共に、その多くは、CaSO・NaSO(glauberite)として存在しているものと考えられる。しかも、このCaSO・NaSO(glauberite)の水に対する溶解度は、石膏(CaSO)よりも高く、この結果、炭酸カルシウムとの反応により析出する硫酸根の量は著しく少ないものとなると信じられる。
【0022】
上記の説明から理解されるように、本発明においては、用いる炭酸カルシウムの量は極めて少量でよく、例えば、CaO換算でのCa量がSO換算でのSトータル量100質量部当り30〜45質量部の量(後述の実施例ではCa量と略記する)で使用すればよい。即ち、これよりも過剰量の炭酸カルシウムの使用は、技術的に意味がなく、コストの増加や、有効成分であるBAC成分量の減少につながり、凝集剤としての性能低下をもたらすに過ぎない。
【0023】
また、本発明においては、混合液中に存在する少量の遊離硫酸根の分離に炭酸カルシウムを用いるため、かかる炭酸カルシウムは、水に分散された水性スラリーの状態で使用される。即ち、水性スラリーの状態で、上記の混合液に添加することにより、より迅速に混合液中に均一に分散され、少量の遊離硫酸根を石膏として析出させ、効果的に分離することができる。
【0024】
さらに、本発明では、上記と同様の理由により、用いる炭酸カルシウムスラリー中の炭酸カルシウムは、その中位径(D50)が30μm以下、好ましくは5〜30μmの微粒子であることが望ましい。即ち、微粒の炭酸カルシウムが分散されたスラリーを使用することにより少量の硫酸根をより確実に石膏として短時間で析出させることが可能となる。
【0025】
炭酸カルシウムスラリーを加えての熟成は、50℃以下、好ましくは20〜50℃の温度(通常、前記混合温度と同じでよい)で1時間以上、特に2〜24時間、撹拌下で行われる。即ち、かかる熟成により、用いたBACの重合組成の変化と水酸基の導入とが行われ、且つ硫酸根が共存するPACSを得ることができる。この場合、本発明においては、以下の説明から理解されるように、硫酸根は単量体のAlとは結合しておらず、Alから遊離した状態で水溶液中に存在することとなる。即ち、かかる熟成では、Alと硫酸根とを結合する必要はなく、従って、上記のように低温領域で且つ短時間で熟成を行えばよい。
尚、熟成の終了は、反応液上面が白濁から半透明に見えるようになることにより確認することができる。
【0026】
<固形分の分離>
上記のように熟成が終了した後は、ろ過により、固形分を除去し、これにより、目的とするPACSが得られる。
【0027】
かかるPACSでは、元素分析等により硫酸根の存在を確認することができ、通常、硫酸根導入化剤として用いたBASに含まれる硫酸根の30〜70%の量の硫酸根の存在を確認することができる。即ち、このことから、この液中に析出し且つろ過により分離される石膏の量が著しく少量であることが理解される。
尚、上記のろ過は、必要により、複数回にわたって繰り返し行うこともできる。
【0028】
また、驚くべきことは、27Al−NMR測定において、単量体のAl−OSO2−を示す−4〜−2ppmの化学シフトは実質上ゼロである。即ち、本発明の製造方法により得られるPACSでは、硫酸根は、単量体のAlとは結合しておらず、Alとは分離した遊離の状態で存在していることを意味する。このような硫酸根は、Naによって安定化され、硫酸アルミニウムへの結晶化が抑制されていると共に、石膏よりも溶解度の高いCaSO・NaSO(glauberite)の形態で存在しているものと考えられ、かくして、硫酸アルミニウムや石膏として析出分離していないことに加え、凝集性能の向上と保存安定性の向上が達成されるものと信じられる。即ち、Alと結合している硫酸根の量が多いと、保存安定性が低下し、ゲル化や析出分離を生じ易いが、本発明における硫酸根が、Alと結合せずに存在していることから、凝集性能の向上をもたらしつつ、保存安定性を向上させるわけである。
【0029】
また、本発明において、上記のようにして得られるPACSでは、27Al−NMR測定において、−4〜−2ppm、−1〜1ppm、3〜6ppm、8〜13ppm及び60〜65ppmでの化学シフトの積分値を、それぞれ、AS、A0、A4、A10、A13とし、且つ検出されなかった高重合度ポリマーの積分値をAPとしたとき、AS+A0+A4+A10+A13+AP=Σと表記して下記条件;
1>A0/Σ≧0.19
0≦A10/Σ≦0.07
0≦AS/Σ<0.001
0≦A13/Σ≦0.001
を満足している。即ち、PACSは、ポリ塩化アルミニウムとも呼ばれ、Al−O−Alの連鎖を含んでいるが、このようなAlの連なりが上記の条件を満足するように調整されているわけである。
【0030】
具体的に説明すると、上記の条件式において、−4〜−2ppmの化学シフトASは、硫酸根と結合した単量体のAl、即ち、Al−OSO2−を示すものであり、−1〜1ppmの化学シフトA0は、Alの単量体及び二量体を示し、3〜6ppmの化学シフトA4はAlの3〜9量体、8〜13ppmの化学シフトA10は、10量体以上のAl、60〜65ppmの化学シフトA13は13量体の中心Alを示すものである。
このことから理解されるように、上記の条件は、10量体以上のAlの含有量が抑制されており、特に13量体のAl量が著しく制限されている(好ましくはゼロ)し、Alに直接結合した硫酸根量も著しく制限されている(好ましくはゼロ)。
【0031】
尚、上記の条件式において、27Al−NMR測定により検出されなかった高重合度ポリマーの積分値は、後述する実施例に示されている方法で算出することができる。
【0032】
本発明の製造方法で得られるPACSは、上記条件を満足するように、高重合度(特に13量体)のAlと硫酸根が直接結合したAlの含有量がともに少なく設定されていることに関連して凝集力を損なうことなく、保存安定性を大きく向上することが可能となる。
このような高重合度のAlの含有量と硫酸根が直接結合したAlの含有量とを制限することにより上記のような効果が得られることは、多くの実験の結果、現象として認識されたものであり、その理由は明確に解明されるには至っていないが、本発明者等は、次のように推定している。
即ち、Alの重合度は、塩基度(OH含有割合に相当)にも関連しているが、Alに直接結合した硫酸根は遊離の硫酸根に比べて重合触媒活性が高いため保存期間中にAlを容易に高重合度化し、凝集剤として使用する時点では凝集力にさほど寄与しないAlの存在割合が多くなるし、高重合度化したAlの特に13量体は凝集力に寄与せずしかも水溶液中で時間が経過するにしたがって結晶として析出し易くなるため、上記のような条件を満足するように、高重合度のAlの存在を制限することにより、凝集力を損なわずに、その保存安定性が向上するものと信じられる。
【0033】
また、本発明の製造方法で得られたPACSの塩基度は、通常、45〜65%の範囲にある。即ち、本発明の製造方法では、Alの重合(ゲル化)が制限されるため、この範囲よりも高い塩基度は得られず、一方、この塩基度が上記範囲よりも小さいと、凝集力が不満足となってしまい、例えば懸濁粒子のフロック化が不十分となる傾向がある。
【0034】
このようにして得られたPACSは、優れた凝集性と保存安定性を有しており、そのまま、凝集剤として適宜、保存、輸送され、水処理等に使用される。また、濃縮或いは希釈により、Al換算でのAl濃度を10〜12質量%程度或いは硫酸根濃度を1.0〜3.5質量%程度の範囲に調整して使用に供することもでき、これを各種の排水等に添加してのフロック化により、各種の金属不純物を捕捉し、水を浄化することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、以下の実験で行った各種の測定は、次の方法により行った。
【0036】
(1)凝集試験;
カオリンNUSURF(Engelhard製)0.2gを水道水10Lに添加し(20ppm)、2%NaOH水溶液を2.00ml加えてpH8.5に調整した供試水を用い、JWWA K 154:2005−2水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して行った。マイクロフロック形成時間とフロックの大きさから、凝集性能が優れた物を◎、可とする物を△で評価した。
【0037】
(2)保存安定性;
50mL透明ガラス瓶に、試料液約30mLを入れ、蓋をした。温度45℃の恒温槽の中に入れ、白濁または結晶析出するまでの日数を調べた。
【0038】
(3)化学分析:
アルミニウム含有量(Al換算)〔質量%〕:JWWA K 154:2005−2水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して行った。
ナトリウム含有量(NaO換算)〔mg/L〕:炎光光度法により測定した。
硫酸根含有量(SO換算)〔質量%〕:硫酸バリウム生成による重量法で行なった。
【0039】
(4)塩基度〔%〕:JWWA K 154:2005−2水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して行った。
【0040】
(5)27Al−NMR測定;Bruker製Avance III 600MHz型のNMR装置を用い下記の条件で測定を行った。
【0041】
(6)NMRスペクトルの解析
Al濃度(Mr)の硝酸アルミニウム水溶液を標準液、水を空試験液として用いNMR測定を行い、−20〜120ppmの範囲における標準液の積分値(Ar)と空試験液の積分値(Ab)をそれぞれ求めた。
各試料についても同様の測定条件で−20〜120ppmの範囲における試料液積分値(At)を求めると共に、Al濃度(Ms)を測定した。
下記式:
(At+AP−Ab)/Ms=(Ar−Ab)/Mr
を満足するAPを求め、これをNMRで検出できなかったポリマー成分の積分値とした。
また、日本電子製DELTAを用い波形分離して得られた化学シフトが−4〜−2ppm、−1〜1ppm、3〜6ppm、8〜13ppm、60〜65ppmの各ピークIntegral値を、それぞれ、AS、A0、A4、A10、A13とした。
【0042】
(7)中位径(D50
Malvern社製Masterizer2000を使用し、溶媒に水を用いてレーザ回折散乱法で体積基準での中位径(D50)を測定した。
【0043】
(実施例1)
硫酸アルミニウム(Al:7.9%)100質量部とアルミン酸ソーダ(Al:24%)26質量部との反応により得られたBAS(Al:11.1%、SO:16.8%、塩基度66%)17.3kgへ、BAC(Al:11.8%、塩基度37%)31.0kgを、反応槽に導入し撹拌した。反応槽の温度は30℃に調節した。ここへ固形分65%で中位径が12.2μmの炭カルスラリーを3.38kg注加し、懸濁液を10時間攪拌熟成した(Ca量:42質量部)。反応後に、懸濁液をろ過した。得られたろ液(PACS)は53kgで、副生した石膏の量は約3.0kg(PACS1kg当たり約56g)であった。生成物の特性および性能を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
硫酸アルミニウム(Al:8.7%、SO:22.8%)23.1kgに固形分65%で中位径が12.2μmの炭カルスラリーを4.0kg加え、BAS(塩基度50%)を得た。ここへ、BAC(Al:12.5%)25.7kgを、反応槽に導入し撹拌した。反応槽の温度は30℃に調節した。ここへ固形分65%の炭カルスラリーを3.9kg注加し、懸濁液を10時間攪拌熟成した(トータルのCa量:55質量部)。反応後に、懸濁液をろ過した。得られたろ液(PACS)は40kgで、副生した石膏の量は16kg(PACS1kg当たり約395g)であった。生成物の特性および性能を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
特開2009−203125の実施例1に準拠し、以下の様に調製した。BAC(Al:12.6%、塩基度:40%)263gに、LAS(Al:8.2%)272gを混合した液を調製した。ここへ固形分65%の炭カルスラリー71.7gを加えPACS(Al:10.9%、塩基度63%)を429g得た。これを水で希釈してAl:10.3%に調製した。次に、この水溶液を75℃にして撹拌しながら、21%炭酸ナトリウム溶液を30分かけて添加し、添加後75℃で1時間熟成させ、塩基性塩化アルミニウム溶液(Al:12.1%、塩基度71.5%)を製造した。これを水で希釈してAl:10.1%に調製した。この水溶液の特性および性能を表1に示す。この製造方法では、得られた塩基性塩化アルミニウム溶液のA13/Σが実施例1よりも高い値であったことから、高重合度のAlが多いために、凝集性、安定性とも劣る結果であった。
【0046】
【表1】