(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
図1(a)及び
図2(a)〜(c)、
図3(a)〜(c)に示された第1実施形態の補強材は、
(A)長手方向に沿って間隔をおいて複数の放出孔47が設けられ、各放出孔47を塞ぐようにゴムスリーブ41を取り付けられた注入管40と、
(B)地盤100に削孔した孔111へ第1回目の注入(置換用注入)された置換用注入材が、注入管40の配置により、孔111と注入管40との隙間の空間と置換されて管状に造成され、さらにそれが固化された固化物により造成される置換管状定着体30と、
(C)注入管40内からの、第2回目の膨出用注入材が、注入管40の長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられた各放出孔47から、地盤100中へ放出されて、さらにそれが地盤中の土砂と共に固化された固化物である地盤中の膨出部と注入管とが一体に結合されて造成される膨出部である二次膨出定着体31と、
(D)注入管40内に注入された注入材が固化された固化物により造成されるインナー定着体60と
(E)注入管40内に配置される芯材70と
を含み、
(F)膨出部である二次膨出定着体31が、長手方向に沿って注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部である第1位置の二次膨出定着体31a、第2位置の二次膨出定着体31b、第3位置の二次膨出定着体31c
により造成される。
【0023】
上記した本実施形態の場合の注入管40の材質としては、例えば、日本工業規格(JIS)G3444に規定された一般構造用炭素鋼管鋼(STK)のSTK400等を用いることができる。また、芯材70の材質としては、例えば、日本工業規格(JIS)G3112に規定された異形鉄筋、異形棒鋼(SD)のSD295、SD345等を用いることができる。
【0024】
注入管40には、
図1(a)に示すように長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられた各放出孔47を塞ぐ閉塞部材として、生ゴムや合成ゴム等のエラストマー製で、注入管40の外側に密着させて取り付け可能なスリーブ状に造成されたゴムスリーブ41が設けられる。ゴムスリーブ41は、形状を注入管40の周囲を密着して覆うスリーブ形状として、注入管40の各放出孔47を覆うように配置し、注入材の注入時には、各放出孔47の注入材から受けた圧力によって弾性で膨らむことにより、各放出孔47からゴムスリーブ41の開放端部までに注入管40とゴムスリーブ41との間の隙間ができ、問題無く注入材を放出させることができる。ゴムスリーブ41は、注入管40の各放出孔47を塞ぐことにより、外部からの圧力に対しては各放出孔47に押圧されてより密着するので外部からの注入材の逆流や水の侵入を防ぐことができる。また、ゴムスリーブ41は、注入管40を削孔111に配置する際には、突出量を必要最小限にできるので、必要以上に突出して配置時に邪魔することがない。
【0025】
ゴムスリーブ41の材質としては、例えば、ポリイソプレン(天然ゴム、合成天然ゴム)、ブタジエン・スチレン共重合体(スチレンブタジエンゴム)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、ポリクロロプレン(クロロプレンゴム)、イソプチレン・イソプレン共重合体(ブチルゴム)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(ニトリルゴム)、ポリウレタン(ウレタンゴム)、有機ポリシロキサン(シリコーンゴム)等を用いることができる。ゴムスリーブ41の厚み寸法としては、注入管40内部から注入用パッカー50〜52を用いて注入材を注入する際に、ゴムスリーブ41が薄すぎると、注入材の注入後にゴムが縮まらない減少が発生する場合がある。逆にゴムスリーブ41が厚すぎると、注入管40とゴムスリーブ41との間の隙間ができにくくなる。また、ゴムが縮まらない場合は、2回目の注入材の注入ができなくなるので、複数回の繰り返し注入ができなくなる。より具体的には、例えば、天然ゴムで、好ましくは硬度65°のものを使用する場合、ゴムスリーブ41の厚みは2.0mm以下であると注入材の注入後にゴムが縮まらない可能性が有るので、2.5mm以上とし、隙間ができやすい4.0mm以下が好ましい。より好ましくはゴムスリーブ41の厚みは3.0〜3.5mmとするとよい。
【0026】
第1実施形態の補強材31は、以下の工程により造成される。
(1)地盤100にケーシング管10とロッド11で孔111を削孔する工程:
図2(a)と、
(2)孔111に注入管20を配置して注入材を注入する工程:
図2(b)と、
(3)注入材を注入した孔111に、注入材が固化する前に注入管40を配置し、注入管40の周囲に置換管状定着体30を造成する工程と、
(4)注入管40の各放出孔47を塞ぐように取り付けゴムスリーブ41と注入管40との隙間から注入材が放出されるように注入管40内に加圧して注入材を一回で加圧注入し、注入管40の全ての放出孔47から地盤100中へ注入材を放出する工程:
図2(c)と、
(5)注入管40内に注入材を充填する工程
図3(a)と、
(6)地盤100に露出した注入管40の余長部分に、定着材であるアンカープレート80とナット81を取り付ける工程と、
を含んでいる。
なお、(5)では、注入材が充填された注入管40内に、棒状の芯材70を配置してもよく、その場合、
(6)では、芯材70における地盤100に露出した余長部分に、定着材であるアンカープレート80とナット81を取り付ける:
図3(c)。
【0027】
本実施形態では、
図4(a)〜(c)に示したように、注入管40の全放出孔47から地盤100中への注入材の放出が終了すると、
図3(a)に示したように、注入用パッカー50〜52が抜き出されて、注入管40内に注入管20が配置され、注入材が充填される。その後、
図3(b)に示したように、注入材が充填された注入管40内に、鉄筋等の高強度の棒状の芯材70が配置される。さらに、
図3(c)に示したように、芯材70における地盤100に露出した余長部分に、定着材であるアンカープレート80を嵌め込みナット81で固定する。
【0028】
なお、注入管40は、周囲の孔との間隔を一定に維持する寸法のスペーサを用いることで周囲の置換管状定着体30の厚みを一定にできる。また、注入管20は、注入管40で代替え可能である場合には省略することができる。その場合、孔111に注入管40を配置して、加圧して周囲に注入材を放出し、一旦置換管状定着体30を造成し、その後、さらに加圧して注入材を注入し、地盤100中へ注入材を放出してもよい。
【0029】
注入管40からは、ある程度固化した時点の置換管状定着体30を突き抜けるように二重管ダブルパッカーを用いて加圧して注入材を放出し、固化させることで、膨出部である二次膨出定着体31を造成すると共に、それと置換管状定着体30と、注入管40とを結合して一体化させることができる。その場合の注入材の注入量(規定量)は、一般的に例えば最大で30L程度であるが、孔11の直径や深さ、土壌/地盤の種類等によって変動する。また、その場合の注入材の注入圧力(規定圧)は、一般的に例えば2MPaであるが、これも孔11の直径や深さ、土壌/地盤の種類等によって変動する。注入時には、その何れかの値に達するまで注入材を注入し、達したら終了する。
【0030】
上記したように本実施形態の補強材では、注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の略球根形状の膨出部31a〜31cを長手方向に並ぶように一体化して串団子形状にさせ、注入管40と一体に結合させて補強材を造成することで、比較的小規模な法面地盤の地すべりを補強する際に、上記したグラウンドアンカーを用いる方法と比べて、補強材の構造の簡易化と数と直径の抑制、補強材の施工量の抑制、補強材の施工に用いる基材や装置の小型化と使用時間の抑制、それらによる材料コストと工数の低下及び施工工期の短縮等により、定着体の引き抜き力に対する支圧抵抗力をグラウンドアンカー並みに増大させることができ、補強材や施工規模の大型化等によるコストアップを抑制できる。補強材の構造の簡易化とは、例えば、地盤表面の定着材への引張線等の接続等が不要になることである。
【0031】
本実施形態の補強材では、各放出孔47を塞ぐようにゴムスリーブ41が取り付けられた注入管40から地盤100中へ放出する注入材により、孔111の外部に地盤中の土砂と共に固化されて膨出する膨出部を含んで造成される二次膨出定着体31(第1位置の二次膨出定着体31a、第2位置の二次膨出定着体31b、第3位置の二次膨出定着体31c)が造成される。この二次膨出定着体31が補強材に造成されることにより、引き抜き力に対する補強材の支圧抵抗力を増加させることができ、比較的小規模な地すべりを簡便かつ安価に抑止することが可能となる。また、注入材の加圧注入を一回で行うので、材料コストと工数と装置の使用時間を抑制して工期を短縮できる。
【0032】
<第2実施形態>
以下、上記した第1実施形態に対して、さらに注入用パッカーを用いて、放出孔毎に個別に且つ任意の順番の放出を可能にした本発明の第2実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
図1(a)、
図2(a)〜(b)、
図3(a)〜(c)、
図4(a)〜(c)に示された第2実施形態の補強材は、
(A)注入管40と、
(B)地盤100に削孔した孔111へ第1回目の注入(置換用注入)された注入材が、注入管40の配置により管状に造成され、さらにそれが固化された固化物により造成される置換管状定着体30と、
(C)注入管40内に配置される、長手方向の複数の注入孔57と注入用パッカー51と52とを有する内側管50からの、第2回目の膨出用注入材が、注入管40の長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられた放出孔47から、地盤100中へ放出されて、さらにそれが地盤中の土砂と共に固化された固化物により造成される膨出部である二次膨出定着体31と、
(D)注入管40内に注入された注入材が固化された固化物により造成されるインナー定着体60と、
(E)注入管40内に配置される芯材70と
を含み、
(F)膨出部である二次膨出定着体31が、長手方向に沿って注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部である第1位置の二次膨出定着体31a、第2位置の二次膨出定着体31b、第3位置の二次膨出定着体31c
により造成される。
【0033】
第2実施形態の補強材31は、以下の工程により造成される。
(1)地盤100にケーシング管10とロッド11で孔111を削孔する工程:
図2(a)と、
(2)孔111に注入管20を配置して注入材を注入する工程:
図2(b)と、
(3)注入材を注入した孔111に、注入管40を配置し、注入管40の周囲に置換管状定着体30を造成する工程と、
(4)注入管40に注入用パッカー50〜52を配置する工程と、
(5)注入用パッカー50〜52を通じて注入材を加圧注入し、注入管40の最奥の一の放出孔47から地盤100中へ注入材を放出する工程:
図4(a)と、
(6)注入用パッカー50〜52を注入管40の長手方向に沿って移動させ、注入用パッカー50〜52を通じて注入材を加圧注入し、注入管40の他の放出孔47から地盤100中へ注入材を放出する工程:
図4(b)〜(c)と、
(7)注入用パッカー50〜52を抜き出して、注入管40内に注入材を充填する工程:
図3(a)と、
(8)注入材が充填された注入管40内に、棒状の芯材70を配置する工程:
図3(b)と、
(9)芯材70における地盤100に露出した余長部分に、定着材であるアンカープレート80とナット81を取り付ける工程:
図3(c)と、
を含んでいる。
【0034】
注入管40の中には、
図1(c)、
図4(a)〜(c)に示すように注入用パッカー51と52が取り付けられた内側管50が配置される。内側管50には、長手方向に沿って注入材を注入する注入孔57が設けられる。注入用パッカー51と52は、注入管40の各放出孔47毎に、注入管40の内部領域を隔離できる位置に配置される。内側管50は、二重管構造等により、注入材を圧送する経路と、注入用パッカー51と52を膨張させるための水又は空気等の流体を圧送する経路とが独立して設けられる。注入用パッカー51と52の移動は、固定した内側管50に対して注入用パッカー51と52のみを間隔を維持しながら移動させる方法であっても、注入用パッカー51と52が固定された内側管50を引き抜きながら移動させる方法であっても良い。注入管40の内部で、上記したように注入用パッカー51と52を移動させることで、注入管40の目的とする放出孔47のみから注入材を送出することが可能となる。
【0035】
上記した(5)と(6)の注入管40の一の放出孔47から地盤100中へ注入材を放出する工程(
図4(a)〜(c)参照)では、まず注入管40の中に内側管50を配置して、注入用パッカー50〜52は一番奥の位置に配置する。この状態で
図3(a)のように注入管40の一番奥の放出孔47から、ゴムスリーブ41と布製スリーブ状のシート材43を介して、地盤100中へ注入材を放出し、略球根形状の膨出部である第1位置の二次膨出定着体31aを得る。次に注入用パッカー50〜52を奥から2番目の位置に配置する。この状態で
図3(b)のように注入管40の奥から2番目の放出孔47から、ゴムスリーブ41と布製スリーブ状のシート材43を介して、地盤100中へ注入材を放出し、略球根形状の膨出部である第2位置の二次膨出定着体31bを得る。最後に注入用パッカー50〜52を奥から3番目(最も手前側)の位置に配置する。この状態で
図3(c)のように注入管40の奥から3番目(最も手前側)の放出孔47から、ゴムスリーブ41と布製スリーブ状のシート材43を介して、地盤100中へ注入材を放出し、略球根形状の膨出部である第3位置の二次膨出定着体31cを得る。各二次膨出定着体31a〜31cは、第1回目の置換用注入材による置換管状定着体30と混然一体化しており、各二次膨出定着体31a〜31cが注入された注入材により長手方向に並んで一体化して串団子形状となっている。
【0036】
注入用パッカー50〜52は、二重管ダブルパッカーであり、本実施形態では、内側管50の先端に固定されたパッカー51と52を、地表側に引き上げながら内側管50の放出孔57毎に注入する。その際には、各放出孔57の位置で、注入材の注入量(規定量)が一般的に例えば最大で30L程度で、注入材の注入圧力(規定圧)が一般的に例えば2MPaとして、その何れかの値に達するまで注入材を注入し、達したら終了する。ただし、この場合の注入量は孔11の直径や深さ、土壌/地盤の種類等によって変動し、注入材の注入圧力(規定圧)も孔11の直径や深さ、土壌/地盤の種類等によって変動する。
【0037】
その他の構成及び動作については、第1実施形態の補強材と同様である。従って、第2実施形態の補強材においても、二次膨出定着体31が補強材に造成されることにより、引き抜き力に対する補強材の支圧抵抗力を増加させることができ、比較的小規模な地すべりを簡便かつ安価に抑止することが可能となる。また、注入材の加圧注入を任意の放出孔の位置で行うことができるので、地盤の状況と材料コスト等に対する自由度を上げることができる。さらに、第2実施形態の補強材では、注入用パッカー50〜52により、注入管40の任意の一の放出孔47から地盤100中へ注入材を放出することができるので、最奥側の放出孔から順に実施して無駄を無くしたり、手前側の放出孔から順に実施して地盤表面側から噴出を防止したり、一箇所のみ又は二箇所のみ等の任意の数の放出孔からのみ注入材を放出して必要数のみの膨出部で効率を向上させ、コストを下げたりすることができる。
【0038】
<第3実施形態>
以下、上記した第1実施形態に対して、さらにゴムスリーブを介して放出された注入材を受けて膨張するスリーブ状(袋状)のシート材43を用いて、注入材が膨出し過ぎる土壌においても制御された放出を可能にした本発明の第3実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
図1(a)〜(b)、
図3(a)〜(b)、
図5(a)〜(d)に示された第3実施形態の補強材は、
(A)注入管40と、
(B)地盤100に削孔した孔111へ第1回目の注入(置換用注入)された注入材が、注入管40の配置により管状に造成され、さらにそれが固化された固化物により造成される置換管状定着体30と、
(C)注入管40内に配置される、第2回目の膨出用注入材が、注入管40の長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられた放出孔47から、膨張するスリーブ状(袋状)のシート材43を介して、地盤100中へ放出されて、さらにそれが地盤中の土砂と共に固化された固化物により造成される膨出部である二次膨出定着体31と、
(D)注入管40内に注入された注入材が固化された固化物により造成されるインナー定着体60と
を含み、
(E)膨出部である二次膨出定着体31が、長手方向に沿って注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部である第1位置の二次膨出定着体31a、第2位置の二次膨出定着体31b、第3位置の二次膨出定着体31c
により造成される。
【0039】
注入管40には、
図1(b)に示すようにゴムスリーブ41(閉塞部材)の外側に、そのゴムスリーブ41を介して放出された注入材を受けて膨張するスリーブ状(袋状)のシート材43が、ゴムスリーブ41を覆うようにして、注入管40の長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられ、そしてシート材43の全周囲の端部が注入管40に密着固定されるようにして取り付けられる。換言すれば、シート材43は、放出孔47から放出された注入材により地盤100に削孔した孔111の直径よりも大きな直径を有する寸法まで膨張可能の寸法であるように、放出孔47の周囲の領域を含んで注入管40の周囲の領域を管状に覆い、注入管40の長手方向のシート材43の両端部が注入管40に密着固定される。
【0040】
ゴムスリーブ41がスリーブ状であるので、シート材43はそれよりも一回り以上大きいスリーブ状に造成され、スリーブ状(袋状)のシート材43の両開放端部が密着固定用の結束バンド45により注入管40の外側全周にわたり密着固定される。このように、各放出孔47のゴムスリーブ41の外側を、そのゴムスリーブ41を介して放出された注入材を受けて膨張できるように造成されたシート材43で覆い、その全周囲の端部を密着固定することで、注入材が覆われたシート材の内部に留まってシート材を球面状に膨張させることができる。これにより、結果的に注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部を、砂地地盤等の場合に得られるような略球根形状に類似する形状にすることができる。注入管40の各ゴムスリーブ41の外側に上記したようにスリーブ状のシート材43を密着固定用結束バンド45で固定することで、二次膨出定着体の形状を略球根形状の連続する串団子形状とさせることができる。
【0041】
本実施形態のスリーブ状のシート材43の材料は、透水性を有する布製である。その両開放端部は、上記したように結束バンド45により注入管40に密着固定されているので、注入用パッカー50〜52を通じて注入材を加圧注入し、注入管40の他の放出孔47から注入材を放出させると、布製のシート材43は、透水性を有していても透過する際の抵抗があるので、注入材から一部の水分を外部に放出させながら次第に膨らみ、限界まで膨らむと、注入材からの水分のみが布製のシート材43から外部に放出される。その際に、注入材から水分のみが減少することで注入材の固造成分が濃縮される。これにより、結果的に注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部が、布製スリーブの膨らんだ形状となって略球根形状に類似する形状にすることができる。この布製スリーブの膨らんだ形状は、スリーブ状のシート材43の設置位置毎に造成されるので、二次膨出定着体の形状を略球根形状の連続する串団子形状とすることができる。
【0042】
第3実施形態の補強材31は、以下の工程により造成される。
(1)地盤100にケーシング管10とロッド11で孔111を削孔する工程:
図5(a)と、
(2)孔111に注入管20を配置して注入材を注入する工程:
図5(b)と、
(3)注入材を注入した孔111に、注入材が固化する前に注入管40を配置し、注入管40の周囲に置換管状定着体30を造成する工程:
図5(c)と、
(4)注入管40の各放出孔47を塞ぐように取り付けゴムスリーブ41と注入管40との隙間から注入材が放出されるように注入管40内に加圧して注入材を一回で加圧注入し、シート材43を地盤100に削孔した孔111中で膨張させると共に、注入管40の全ての放出孔47から地盤100中へ注入材を、シート材43を介して放出する工程:
図5(d)と、
(5)注入管40内に注入材を充填する工程
図3(a)と、
(6)地盤100に露出した注入管40の余長部分に、定着材であるアンカープレート80とナット81を取り付ける工程と、
を含んでいる。
なお、(5)では、注入材が充填された注入管40内に、棒状の芯材70を配置してもよく、その場合、
(6)では、芯材70における地盤100に露出した余長部分に、定着材であるアンカープレート80とナット81を取り付ける:
図3(c)。
【0043】
本実施形態の補強材では、ゴムスリーブ41の外側に注入材で膨張するシート材43が設けられることで、注入材が粘性土地盤100等で圧力の弱い隙間に沿って進むことで深さ方向にランダムな略パルス状あるいは略ノイズ状で放射状に突出するように拡大することを抑制することができる。ランダムな略パルス状あるいは略ノイズ状で放射状に対して、略球根形状の連続する串団子形状は、引き抜き力に対して直角な要素の面の強度が大きくなり、大きな引き抜き力であっても二次膨出定着体が崩壊することが無く、支圧抵抗力を増加させることができる。
【0044】
その他の構成及び動作については、第1実施形態の補強材と同様である。従って、第3実施形態の補強材においても、二次膨出定着体31が補強材に造成されることにより、引き抜き力に対する補強材の支圧抵抗力を増加させることができ、比較的小規模な地すべりを簡便かつ安価に抑止することが可能となる。また、注入材の加圧注入を一回で行うので、材料コストと工数と装置の使用時間を抑制して工期を短縮できる。さらに、第2実施形態の補強材では、注入用パッカー50〜52により、注入管40の任意の一の放出孔47から地盤100中へ注入材を放出することができるので、最奥側の放出孔から順に実施して無駄を無くしたり、手前側の放出孔から順に実施して地盤表面側から噴出を防止したり、一箇所のみ又は二箇所のみ等の任意の数の放出孔からのみ注入材を放出して必要数のみの膨出部で効率を向上させ、コストを下げたりすることができる。
【0045】
<第4実施形態>
以下、上記した第3実施形態に対して、さらに注入用パッカーを用いて、放出孔毎に個別に且つ任意の順番の放出を可能にした本発明の第4実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
図1(a)〜(c)、
図3(a)〜(c)、
図5(a)〜(c)、
図6(a)〜(c)に示された第2実施形態の補強材は、
(A)注入管40と、
(B)地盤100に削孔した孔111へ第1回目の注入(置換用注入)された注入材が、注入管40の配置により管状に造成され、さらにそれが固化された固化物により造成される置換管状定着体30と、
(C)注入管40内に配置される、長手方向の複数の注入孔57と注入用パッカー51と52とを有する内側管50からの、第2回目の膨出用注入材が、注入管40の長手方向に沿って間隔をおいて複数設けられた放出孔47から、膨張するシート材43を介して、地盤100中へ放出されて、地盤100中へ放出されて、さらにそれが地盤中の土砂と共に固化された固化物により造成される膨出部である二次膨出定着体31と、
(D)注入管40内に注入された注入材が固化された固化物により造成されるインナー定着体60と、
(E)注入管40内に配置される芯材70と
を含み、
(F)膨出部である二次膨出定着体31が、長手方向に沿って注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部である第1位置の二次膨出定着体31a、第2位置の二次膨出定着体31b、第3位置の二次膨出定着体31c
により造成される。
【0046】
第4実施形態の補強材31は、以下の工程により造成される。
(1)地盤100にケーシング管10とロッド11で孔111を削孔する工程:
図5(a)と、
(2)孔111に注入管20を配置して注入材を注入する工程:
図5(b)と、
(3)注入材を注入した孔111に、注入管40を配置し、注入管40の周囲に置換管状定着体30を造成する工程:
図5(c)と、
(4)注入管40に注入用パッカー50〜52を配置する工程と、
(5)注入用パッカー50〜52を通じて注入材を加圧注入し、注入管40の一の放出孔47から、膨張するシート材43を介して、地盤100中へ注入材を放出する工程:
図6(a)と、
(6)注入用パッカー50〜52を注入管40の長手方向に沿って移動させ、注入用パッカー50〜52を通じて注入材を加圧注入し、注入管40の他の放出孔47から、膨張するシート材43を介して、地盤100中へ注入材を放出する工程:
図6(b)〜(c)と、
(7)注入用パッカー50〜52を抜き出して、注入管40内に注入材を充填する工程:
図3(a)と、
(8)注入材が充填された注入管40内に、棒状の芯材70を配置する工程:
図3(b)と、
(9)芯材70における地盤100に露出した余長部分に、定着材であるアンカープレート80とナット81を取り付ける工程:
図3(c)と、
を含んでいる。
【0047】
その他の構成及び動作については、第3実施形態の補強材と同様である。従って、第4実施形態の補強材においても、二次膨出定着体31が補強材に造成されることにより、引き抜き力に対する補強材の支圧抵抗力を増加させることができ、比較的小規模な地すべりを簡便かつ安価に抑止することが可能となる。また、注入材の加圧注入を任意の放出孔の位置で行うことができるので、地盤の状況と材料コスト等に対する自由度を上げることができる。さらに、第4実施形態の補強材では、注入用パッカー50〜52により、注入管40の任意の一の放出孔47から地盤100中へ注入材を放出することができるので、最奥側の放出孔から順に実施して無駄を無くしたり、手前側の放出孔から順に実施して地盤表面側から噴出を防止したり、一箇所のみ又は二箇所のみ等の任意の数の放出孔からのみ注入材を放出して必要数のみの膨出部で効率を向上させ、コストを下げたりすることができる。
【0048】
<第5実施形態>
上記した第1実施形態では、注入用パッカー50〜52を通じて、注入管40の長手方向に沿って移動させて、注入材を各放出孔47について一回ずつの複数回にわたり加圧注入していたが、本実施形態では、各放出孔47の各々について、地盤100中へ繰り返し注入材を放出する。
【0049】
図7(a)では、第4実施形態の
図5(c)と同様にして、注入材を注入した孔111に、注入管40を配置し、注入管40の周囲に置換管状定着体30を造成する。
次に
図7(b)では、第4実施形態の
図6(a)〜(c)と同様にして、各二次膨出定着体31a〜31cが注入された注入材により長手方向に並んで一体化して串団子形状の二次膨出定着体31を造成する。
最後に
図7(c)では、再度第4実施形態の
図6(a)〜(c)と同様にして、各三次膨出定着体32a〜32cが注入された注入材により長手方向に並んで一体化して串団子形状の第2定着体32を造成する。
【0050】
図7(b)の置換管状定着体30の真ん中(第2位置)の部分の定着体は、
図7(b)の第二次(第2回)の膨出用注入材の加圧注入により、拡張した置換管状定着体30’を含んで第2位置の二次膨出定着体31bとなる。二次膨出定着体31bには、さらに第2位置の二次膨出定着体の外側漏れ出し部31b’を有する。二次膨出定着体31は上記した各定着体30’、31b、31b’を含む。
さらに
図7(c)の第三次(第3回)の注入材の加圧注入により、拡張した置換管状定着体30’と拡張した二次膨出定着体31b’を含んで第2位置の三次膨出定着体32bとなる。三次膨出定着体32bには、さらに第2位置の三次膨出定着体の外側漏れ出し部32b’を有する。三次膨出定着体32は上記した全ての各定着体を含む。その他の構成及び動作については、第3〜4実施形態の補強材と同様である。
【0051】
上記したように繰り返して注入材を注入する際には、前回注入した置換用注入材に亀裂を発生させながら注入する必要があり、そのためには前回の注入材の硬化が完了する前の硬化が途中経過段階で繰り返し注入を行う。その判断基準は、多様な要素が関係するが特に注入材として使用するセメントの種類により異なる。例えば、普通ポルトランドセメントの場合なら、通常は12〜48時間以内であり、早強ポルトランドセメントの場合なら、通常は6〜24時間以内である。
【0052】
本実施形態では、注入材を複数回にわたり加圧注入するので、地盤100(法面地盤)の上面を隆起させることがなく、膨出部をより大きく造成することができ、さらに補強材や施工規模の大型化等によるコストアップを抑制しつつ、比較的小規模な法面地盤100の地すべりを補強する際の支圧抵抗力を増加させることができる。
【0053】
<第6実施形態>
上記した第3〜5実施形態では、シート材43は布製であったが、本実施形態では、シート材43は、注入材の圧力よって破裂可能なエラストマー製とする。シート材43の両端部は、第1実施形態のように密着固定用の結束バンド45によって注入管40に密着固定される。
【0054】
本実施形態では、シート材43を、注入材の圧力よって破裂可能なように厚み寸法や成分が調整された生ゴムや合成ゴム等のエラストマー製とすることで、注入材の放出に従いシート材43を球面状に膨張させ、エラストマー製シート材43の弾性限界まで膨張させて破裂させる。シート材43の破裂により、内部の注入材は、高い圧力で一気に全方位に開放される。
その他の構成及び動作については、第1実施形態の補強材と同様である。従って、従来技術の課題であった、各放出孔47の閉塞部材のような小面積部分から特定の方向に徐々に注入材が放出されることで、粘性土地盤100等で圧力の弱い隙間に沿って進むことで深さ方向にランダムな略パルス状あるいは略ノイズ状で放射状に突出するように拡大することを抑制することができる。
このことにより、結果的に注入材と地盤中の土砂との固化物からなる複数の膨出部31a〜31c等を、略球根形状に類似する形状にすることができ、二次膨出定着体31の形状を略球根形状の連続する串団子形状とさせて、比較的小規模な法面地盤100の地すべりを補強する際の支圧抵抗力を増加させる補強材の造成方法を提供できる。また、本実施態様でも、閉塞部材がスリーブ状である場合には、シート材はそれより一回り大きいスリーブ状とすればよく、その両端部は例えば結束バンドにより注入管40に密着固定させればよい。その他の構成及び動作については、第3〜5実施形態の補強材と同様である。
【0055】
シート材43の材質としては、例えば、ポリイソプレン(天然ゴム、合成天然ゴム)、ブタジエン・スチレン共重合体(スチレンブタジエンゴム)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、ポリクロロプレン(クロロプレンゴム)、イソプチレン・イソプレン共重合体(ブチルゴム)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(ニトリルゴム)、ポリウレタン(ウレタンゴム)、有機ポリシロキサン(シリコーンゴム)等を用いることができる。シート材43の厚み寸法としては、弾性限界まで膨張させて破裂させる際に、シート材43が薄すぎると、すぐに破裂してシート材を使用する意味が無くなる場合がある。逆にシート材43が厚すぎると、弾性限界まで膨張させて破裂させるためには注入圧を大きくして注入量も多くしなければならず、装置等が必要以上に大がかりになり、無駄が発生する。より具体的には、例えば、天然ゴムで、好ましくは硬度65°のものを使用する場合、シート材43の厚みは1.0mm以下であるとすぐに破裂可能性が有るので、1.0mm以上とし、膨張させて破裂させやすい5.0mm以下が好ましい。
【0056】
<第7実施形態>
上記した第3〜5実施形態では、注入管40の全ての放出孔47に対して同様にゴムスリーブ41とシート材43を設けていたが、
図8(a)、(b)、(c)に示された本実施形態では、放出孔47の1個置きの設置位置毎にシート材(布スリーブ)を設ける。注入管40の放出孔47から、注入用パッカー50〜52で放出孔47の長手方向に沿った設置位置毎に繰り返して注入材を加圧放出して膨出部を造成する。すると、第2位置の第2回目の膨出用注入材による二次放射状膨出定着体33は、粘性土地盤等では、特許文献3の
図1、
図6(c)と(d)、特許文献4の
図1、
図7(c)と(d)に示されたように、深さ方向にランダムな略パルス状あるいは略ノイズ状で放射状に突出するように拡大した形状となる。このランダムな略パルス状あるいは略ノイズ状で放射状の二次放射状膨出定着体33は、球根状の二次膨出定着体31a〜31c等と比較して支圧抵抗力が弱いが、その両側に球根状の二次膨出定着体31aと31cを有しているためトータルの支圧抵抗力はそれほど弱くならずに、一部のシート材を削除してコストダウンが可能になる。その他の構成及び動作については、第3〜5実施形態の補強材と同様である。
【0057】
また、シート材(布スリーブ)を設ける場合には、水抜けがよいので、初期強度を高くすることができる。しかし、シート材を破裂可能なエラストマー製としてもセメントを早強セメントに変えることで初期強度を高める事ができ、同様な手法によりなるがパッカーを用いてセメントを変えることによりシート材(布スリーブ)を設けない放出孔の場合でも、最終強度を落とさないようにすることは可能である。
【0058】
<第8実施形態>
上記した第1〜7実施形態では、最後に注入管40の中に芯材70を配置していたが、本実施形態では、注入管40自体の強度を高めて、注入管40が、補強材の芯材としての強度を備えるようにしている。
本実施形態では、注入管40自体に補強材の芯材としての強度を備えさせることで、芯材の配置を省略でき、工期を短縮でき、芯材のコストが不要になるので、コストアップを抑制して経済的である補強材の造成方法を提供できる。その他の構成及び動作については、第1〜7実施形態の補強材と同様である。また、この場合の注入管40の材質としても、上記したように、例えば、日本工業規格(JIS)G3444規格に規定された一般構造用炭素鋼管鋼(STK)のSTK400等を用いることができる。
【0059】
このように本実施形態の補強材及びその造成方法の各実施形態によれば、削孔した孔に注入材と注入管を配置し、先の注入材が完全に固化する前にさらに注入材を注入管から加圧注入して放出孔から放出することで、固化する前の先の注入材を突き破らせるようにして注入材を削孔した孔よりも外側の地盤中へ放出し、地盤中の土砂と共に注入材を固化させることにより膨出部が造成される。そして、膨出部を造成することにより比較的小規模な法面地盤の地すべりを補強する際に、注入材が各補強材の周辺に確実に注入させて引き抜きに対する支圧抵抗力を増加させる補強材の造成方法を提供している。しかし、本発明は上記した各実施形態に限られるものではなく、加圧注入により注入材を少なくとも一つの放出孔から放出させ、固化する前の先の注入材を突き破らせるようにして注入材を削孔した孔よりも外側の地盤中へ放出できれば、上記した方法や構成以外のものを用いて膨出部を造成しても良い。より具体的には、例えば、ゴムスリーブ(閉塞部材)41、シート材(布スリーブ)43、注入用パッカー50〜52等は、同様な機能を有する他の部材や装置で代替えすることができ、それにより膨出部を造成することで補強材を造成してもよい。