(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記地盤改良体の高さをHとすると、護岸または岸壁側から内陸側への前記地盤改良体の幅が0.3H以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の既設護岸または岸壁の更新方法。
前記被覆部材は新たな鋼矢板であり、前記新たな鋼矢板を水中地盤に設置し、新たなタイロッドで前記新たな鋼矢板の上部を支持することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の既設護岸または岸壁の更新方法。
前記被覆部材は新たな金属板、樹脂板またはコンクリート版であり、前記地盤改良体の前面にアンカーを設置して、前記アンカーによって、前記被覆部材を前記地盤改良体の前面に固定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の既設護岸または岸壁の更新方法。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼矢板によって構成される護岸には、矢板式やケーソン式等が用いられている。例えば、港湾施設の水際線には、土地の有効利用や航路や泊地の確保を目的として、主として土留めを目的とした護岸が設けられる。護岸は、水流や波浪から土地を守る役目を担っている。
【0003】
例えば、矢板式護岸は、土圧や水圧などの外力に対して鋼矢板の剛性と根入れ長で抵抗するものであり、施工が比較的容易で、軟弱な地盤にも対応できるため、我が国で実績が多い。
【0004】
一方、我が国のインフラ施設は老朽化への対策が急がれる時代を迎えている。港湾施設も老朽化が進んでおり、特に水際という厳しい条件下で使用される鋼矢板護岸などは、腐食や老朽化が顕著である。したがって、このような護岸の更新が必要となる。
【0005】
このような護岸の修復方法として、護岸背面に自立構造体を構築し、護岸と自立構造体との間を掘削して、掘削した部位に基礎を構築してケーソンを設置する方法がある(例えば特許文献1)。
【0006】
また、鋼矢板岸壁全面に函体を沈めて鋼矢板全面を押えた状態にして、既設鋼矢板の背後に近接して、新たな鋼矢板を打設する方法がある(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたものは、ケーソンを構築するものであり、鋼矢板を更新する方法ではない。また、既設岸壁の撤去を前提としていることから、工事期間が長くなり、これによって港湾施設が使用できない期間が長期化するという点が問題である。
【0009】
また、特許文献2に記載された方法は、鋼矢板に接続されているタイロッドを外すために、鋼矢板全面に巨大な函体を沈設することを前提としている。したがって、水上での工程を要するとともに、函体を沈設するので工事中の航路の確保が問題となる。また、港湾部での工事は風雨だけでなく波浪の影響も受けるため、水上での工程を要する本技術は必ずしも効率的であるとはいえない
【0010】
一方、護岸や岸壁などの港湾鋼構造物に使用されている鋼材は海水に接し、潮風にさらされ、非常に厳しい腐食環境下に置かれている。このような鋼矢板などの鋼材の腐食を防止するために、電気防食が公知の技術として広く使われている。本技術は、鋼材から電解質(海水)へ流れ出ようとする腐食電流に対して、これに打ち勝つだけの直流電流を外部から鋼材へ連続的に流し込むことにより、鋼材がイオン化(腐食)することを防止する方法である。
【0011】
しかし、このような公知の技術である電気防食は、鋼矢板などの鋼材の腐食を防止するための予防処置であり、すでに腐食が生じている鋼矢板などの鋼材に電気防食を施しても、腐食によって低下した機能を取り戻すことはできない。このように、現状では、鋼矢板を用いた護岸の有効な更新方法については提案されていない。
【0012】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、既設の鋼矢板を用いた護岸を対象として、効率よく更新が可能な既設護岸の更新方法および護岸構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、第1の発明は、鋼矢板が用いられている既設護岸の更新方法であって、既設鋼矢板の背面側の地盤を改良し、地盤改良体を構築する工程と、前記既設鋼矢板および前記既設鋼矢板を支持するタイロッドを撤去する工程と、前記地盤改良体の前面側であって、前記既設鋼矢板が設置されていた位置に、被覆部材を設置する工程と、前記被覆部材と前記地盤改良体の間に、充填材を充填する工程と、を具備することを特徴とする既設護岸の更新方法である。
【0014】
前記地盤改良体の平面形状が、半円を含む扇形、楕円形、リボン型、または矩形のいずれかであってもよい。
【0015】
前記地盤改良体の高さをHとすると、護岸側から内陸側への前記地盤改良体の幅が0.3H以上であることが望ましい。
【0016】
前記被覆部材は新たな鋼矢板であり、前記新たな鋼矢板を水中地盤に設置し、新たなタイロッドで前記新たな鋼矢板の上部を支持してもよい。
【0017】
前記被覆部材は新たな金属板、樹脂板またはコンクリート版であり、前記地盤改良体の前面に直接アンカーを設置して、前記アンカーによって、前記被覆部材を前記地盤改良体の前面に固定してもよい。
【0018】
第1の発明によれば、鋼矢板の背面側に地盤改良体を構築するため、既設鋼矢板を撤去した際に、背面地盤の流出や崩落を防止することができる。また、地盤改良体は自立するため、既設鋼矢板の撤去後に、同じ位置に新たな被覆部材を配置することができる。このため、護岸法線や海岸線などの位置が変わることがない。
【0019】
また、鋼矢板の背面に地盤改良体を構築するため、鋼矢板の撤去および設置の際に、水上での工程が不要である。したがって、船舶などの航行に支障を及ぼすことがない。また、本発明によれば大型の機械や船舶を必要としないため、鋼矢板護岸や岸壁を供用しながら更新することが可能であり、更新に伴う供用が困難となる期間を設ける必要がない。
【0020】
また、地盤改良体の平面形状が、半円を含む扇形、リボン型、または矩形などのように、護岸線に直交する方向(護岸側から内陸側へ向かう方向)の幅よりも、護岸線に平行な方向の幅の方が大きい偏平形状とすることで、円形の地盤改良体を構築する場合と比較して、工費を低減することができる。
【0021】
また、地盤改良体の高さをHとした際に、護岸側から内陸側への地盤改良体の幅を0.3H以上とすることで、鋼矢板を撤去した際に、背面地盤が流出または崩壊することを確実に防止することができる。
【0022】
なお、被覆部材が新たな鋼矢板であり、新たな鋼矢板を水中地盤に設置し、新たなタイロッドで新たな鋼矢板の上部を支持するようにすれば、更新前の既設の護岸と同一の構造とすることができる。
【0023】
また、被覆部材が新たな金属板、樹脂板またはコンクリート版であり、地盤改良体の前面に直接アンカーを設置して、アンカーによって、被覆部材を地盤改良体の前面に固定すれば、被覆部材の設置が容易である。また、被覆部材によって、地盤改良体の前面の浸食を防止することができる。また、被覆部材はアンカーで地盤改良体に固定されているのみであるため、将来的に被覆部材を交換するのも容易である。
【0024】
第2の発明は、護岸構造であって、地盤改良体と、前記地盤改良体の水域側の前面に直接設置されるアンカーと、前記アンカーによって前記地盤改良体の前面を被覆する被覆部材と、前記被覆部材と前記地盤改良体との間に充填される充填材と、を具備することを特徴とする護岸構造である。
【0025】
第2の発明によれば、地盤改良体の前面に直接被覆部材を固定するため、交換が容易であり、地盤改良体の劣化や浸食も防止することが可能である。特に、被覆部材には、背面地盤の土留めの機能が不要であるため、軽量で薄い部材を適用することもでき、過剰な強度が不要であるため、樹脂などの軽量部材を適用することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、既設の鋼矢板を用いた護岸について、効率よく更新が可能な既設護岸の更新方法および護岸構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】護岸1の断面図であって、表層改良部9を構築した状態を示す図。
【
図2】護岸1の断面図であって、地盤改良体13を構築する工程を示す図。
【
図3】(a)〜(c)は、地盤改良体13の平面形状および配置の例を示す図。
【
図4】(a)〜(c)は、地盤改良体13の平面形状および配置の例を示す図。
【
図5】護岸1の断面図であって、既設の鋼矢板3を撤去する工程を示す図。
【
図6】護岸1の断面図であって、新たな鋼矢板3aを設置する工程を示す図。
【
図7】護岸1の断面図であって、充填材17の充填およびタイロッド5aを設置した状態を示す図。
【
図8】護岸1の断面図であって、更新が完了した状態を示す図。
【
図9】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、ボーリング装置23を用いてボーリングした状態を示す図。
【
図10】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、更新が完了した状態を示す図。
【
図11】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、ボーリング装置23を用いてボーリングした状態を示す図。
【
図12】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、更新が完了した状態を示す図。
【
図14】護岸1aの断面図であって、地盤改良体13aを構築する工程を示す図。
【
図15】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、地盤改良体13の前面にアンカー29を設置した状態を示す図。
【
図16】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、地盤改良体13の前面に被覆部材31を設置した状態を示す図。
【
図17】他の施工方法を示す護岸1の断面図であって、更新が完了した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、護岸1の断面図である。護岸1は、港湾構造物または臨海構造物、河川構造物などである。
【0029】
護岸1には、既設の鋼矢板3が設けられる。鋼矢板3は、水底7よりも深くに根入れされる。また、鋼矢板3は、タイロッド5によって背面地盤に固定される。鋼矢板3は、背面地盤の土留めの機能を持つ。
【0030】
このような護岸1に対して、まず、タイロッド5の上方に表層改良部9を構築する。表層改良部9は、セメント改良や薬液注入等で構築される。表層改良部9は、地盤改良の施工足場の確保等を目的としたものである。表層改良部9の厚みは、30cm以上(さらに望ましくは50cm以上)とすることが望ましい。
【0031】
なお、背面地盤に十分な強度がある場合には、表層改良部9は必ずしも必要ではない。例えば、表層部が舗装されているなど、後述する高圧噴射撹拌工法によって、表層部からのセメントミルクの噴出や、表層部の陥没の恐れがない場合は、省略することが可能である。
【0032】
次に、
図2に示すように、鋼矢板3の背面地盤に地盤改良体13を構築する。地盤改良体13は、後述する鋼矢板3の撤去時における、土留めを目的としたものである。地盤改良体13は、例えば、高圧噴射撹拌工法によって構築される。
【0033】
高圧噴射撹拌工法は、まず、高圧噴射攪拌装置11を設置し、直径φ100〜250mm程度のボーリング孔に改良ロッドを挿入する。次に、ロッドを介して地中に高圧のセメントミルクと圧縮空気を注入しながら、ロッドを回転または揺動(図中矢印D)させることで地盤と混合させる。これを、ロッドを引き上げながら(図中矢印E)行うことで、地中に直径φ2m以上の柱状の地盤改良体13を造成することができる。なお、地盤改良体13は、高圧噴射撹拌工法以外の機械式撹拌工法や薬液注入工法等の工法で構築してもよい。
【0034】
高圧噴射撹拌工法で地盤改良体13を構築する場合には、地中に高圧力が作用する。このため、表層部からセメントミルクが突出する恐れがある。また、地盤改良直後は地中に直径φ2m以上のセメントミルクによる液体が存在する状態になるため、ここに地盤が崩落することによって表層部が陥没する恐れがある。これらに対して、本実施形態では、前述した表層改良部9を構築することで、表層部からのセメントミルクの噴出や、表層部の陥没を防止することが可能である。
【0035】
ここで、地盤改良体13の高さをHとする。また、地盤改良体13の幅(護岸線に直交する方向であって、護岸側から内陸側への地盤改良体の幅)をWとする。この際、Wは地盤改良体13の高さHの0.3倍以上であることが望ましく、さらに望ましくは0.5倍以上である。このようにすることで、確実に背面地盤の土留めを行うことができる。
【0036】
なお、地盤改良体13の根入れ深さ(図中Aであって、水底7を基準とした際の、地盤改良体13の下部の深さ)は、1m程度とすればよい。また、地盤改良体13の高さHは、全範囲に一定でなくてもよく、護岸側から内陸側に行くにつれて、階段状に低くしてもよい。この場合には、最大高さHに対して、全体の幅Wが0.3H以上または0.5H以上となることが望ましい。
【0037】
図3(a)〜
図3(c)は、それぞれ地盤改良体13の配置および平面形状の一例を示す図である。
図3(a)に示す例では、略円形の地盤改良体13が互いに接触するように配置される。なお、地盤改良体13の一部が鋼矢板3と接触してもよい。このように、鋼矢板3の背面地盤の土留めとして機能させることができれば、地盤改良体13同士の間に、非地盤改良部が存在してもよい。
【0038】
また、
図3(b)に示すように、隣接する地盤改良体13同士を互いにラップさせて、隙間なく背面地盤の地盤改良を行ってもよい。
【0039】
また、
図3(c)に示すように、地盤改良体13で囲まれた内部に、非地盤改良部が形成されるように、地盤改良体13を格子状に配置してもよい。このように、本発明では、地盤改良体13の配置は特に限定されない。
【0040】
なお、高圧噴射撹拌の水域への影響や、腐食または老朽化した鋼矢板3への影響を考慮すると、鋼矢板3と地盤改良体13を密着させず、ある程度の隙間を確保してもよい。例えば、
図4(a)に示すように、鋼矢板3との間に隙間15を設けてもよい。この場合には、鋼矢板3と対向する地盤改良体13を半円形状とすることもできる。すなわち、地盤改良体13の平面形状が、護岸線に垂直な方向(図の左右方向)の厚みよりも、護岸線に平行な方向(図の上下方向)の幅の方が大きい。
【0041】
この場合でも、地盤改良体13同士をラップさせてもよく、
図4(b)に示すように、互いに接するように配置してもよい。
【0042】
また、地盤改良体13の平面形状としては、半円形状には限られない。地盤改良体13の平面形状が、護岸線に垂直な方向(図の左右方向)の厚みよりも、護岸線に平行な方向(図の上下方向)の幅の方が大きい例としては、
図4(c)に示すような、リボン型、扇形(図示せず)、矩形(図示せず)であってもよい。このような形状の地盤改良体13を形成するためには、前述した改良ロッドを回転または揺動させて、所定の角度範囲のみの地盤改良を行えばよい。
【0043】
これらの複数の形状の地盤改良体13を組み合わせることで、必要とされる改良領域の形状に合わせて地盤改良体13を無駄なく配置することが可能となる。また、施工に要するセメント量を縮減し、かつ施工によって生じるスライム量を縮減することが可能となるため経済的である。このような、偏平形状の地盤改良体13とすることで、必要な部位にのみ効率よく地盤改良体13を形成することができる。
【0044】
次に、
図5に示すように、タイロッド5の設置部の地盤を表層から掘削し、平面的かつ櫛状に設置されている既設のタイロッド5を撤去する。なお、既設のタイロッド5が健全であることが確認された場合は、必ずしもこれを撤去する必要はなく、鋼矢板3との接続を外せばよい。
【0045】
次に、造成した地盤改良体13を土留め壁として、既設の鋼矢板3を、クレーンなどを使って地上から引き抜いて撤去する(図中矢印G)。なお、鋼矢板3はクレーンなどで全てを引き抜くことを基本とするが、これが困難な場合には、鋼矢板3を水底7との境界で切断して撤去してもよい。この場合、海底の原地盤内には、切断された鋼矢板3の一部が残置されることになる。また、鋼矢板3を複数に切断しながら撤去してもよい。
【0046】
次に、
図6に示すように、新たな鋼矢板3aを、クレーンなどを使って地上から設置する(図中H)。鋼矢板3aの設置は振動や水流などを併用してもよい。また、油圧などの静的な荷重で設置してもよい。なお、鋼矢板3aは、既設の鋼矢板3が設置されていた位置と同一の位置に設置される。したがって、前述したように、海底の原地盤に切断した鋼矢板3が残っている場合には、新設の鋼矢板3aを、鋼矢板3とラップするように打設して良い。また、切断した鋼矢板3と新設の鋼矢板3aを溶接やボルトなどで接合しても良い。なお、鋼矢板3aは、地盤改良体13の前面を被覆する被覆部材となる。
【0047】
次に、
図7に示すように、新たにタイロッド5aを設置し、鋼矢板3aと接合する。なお、既設のタイロッド5がそのまま使用できる場合には、既存のタイロッド5と鋼矢板3aとを接合する。また、地盤改良体13と鋼矢板3aの間には空隙が残る場合がある。例えば、前述した様に、鋼矢板3と地盤改良体13との間に隙間15を形成した際には、地盤改良体13と鋼矢板3aの間には空隙が残る。そこで、水中不分離性を有するモルタルやセメントミルク、または砂利、砂などの充填材17を鋼矢板3aと地盤改良体13との間に充填する。
【0048】
次に、
図8に示すように、タイロッド5の更新のために櫛状に掘削した部分などを、地盤材料やセメント系材料などで埋戻し、表層部を復旧する。以上によって、護岸1を構成する鋼矢板を更新することができる。
【0049】
以上、本実施の形態によれば、既設の鋼矢板3の背面に、自立する地盤改良体13を形成し、土留めとして機能させるため、鋼矢板3を撤去した際に、護岸が崩れることを防止することができる。また、地盤改良体13は自立するため、既設の鋼矢板3の撤去後に、同じ位置に新たな鋼矢板3aを配置することができる。このため、護岸法線や海岸線などの位置が変わることがない。
【0050】
また、全て地上での作業となるため、水上での工程が不要である。したがって、船舶などの航行に支障を及ぼすことがない。
【0051】
また、地盤改良体13の平面形状を、半円を含む扇形、楕円形、リボン型、または矩形などのように、護岸線に直交する方向(護岸側から内陸側へ向かう方向)の幅よりも、護岸線に平行な方向の幅の方が大きい偏平形状とすることで、円形の地盤改良体13を構築する場合と比較して、工費を低減することができる。
【0052】
また、地盤改良体13の高さをHとした際に、護岸側から内陸側への地盤改良体の幅Wを0.3H以上とすることで、鋼矢板3を撤去した際に、背面地盤が流出または崩壊することを確実に防止することができる。
【0053】
なお、本発明によれば既設の鋼矢板護岸の更新だけに止まらず、護岸の耐震性向上などの機能向上を図ることも可能である。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0055】
図9は、新たな鋼矢板3aを設置した後の状態(
図6)を示す図である。本実施形態では、ボーリング装置23を用いて、地盤改良体13を貫通するように、護岸側の上方から、内陸側の下方に向かって、20°〜70°程度の角度で斜めにボーリングを行う。ボーリングの深さは、地盤改良体13の深さよりも深く、後述するアンカー25の先端部が固定できる堅固な地盤まで削孔することが望ましい。
【0056】
次に、
図10に示すように、削孔したボーリング孔にアンカー25を設置し、ボーリング孔内に、セメントミルクなどの充填材27を充填する。充填材27は、アンカー25の先端部のみへの充填でも良いが、海際という苛酷な条件下であることを考慮すると、全深度を充填するのが好適である。さらに、地盤改良体13の上方を埋め戻すことで、施工が完了する。
【0057】
また、
図11に示すように、ボーリング装置23を用いて、略水平方向にボーリング孔を形成してもよい。ボーリング装置23を地盤改良体13の内陸側に据え、地盤改良体13の頭部付近を水平に削孔する。削孔は鋼矢板3aを貫通させても良い。または海側から鋼矢板3aに孔を開けても良い。
【0058】
なお、略水平方向にボーリング孔を形成する場合には、水上にボーリング装置23を据えて、削孔してもよい。しかし、水上にボーリング装置23を据える場合には、規模の大きな足場が必要となるだけでなく、船舶の航行を阻害する可能性もあるので、陸側からの削孔が好適である。
【0059】
次に、
図12に示すように、削孔したボーリング孔にアンカー25またはタイロッドを設置し、ボーリング孔内にセメントミルクなどの充填材27を充填する。アンカー25またはタイロッドの先端は、新設した鋼矢板3aとボルトなどで接続するのが好適である。なお、前述した様に充填材27はアンカー25の先端部のみへの充填でも良いが、海際という苛酷な条件下であることを考慮すると、全長に充填するのが好適である。さらに、地盤改良体13の上方を埋め戻すことで、施工が完了する。
【0060】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態は、地盤改良体13の転倒や滑動に対する安定性を向上させて改良幅の縮減を図るために、造成した地盤改良体13に斜めや水平に削孔したボーリング孔に、アンカー25やタイロッドを設置する形態である。このように、アンカー25等を設置することで、地盤改良体13の幅Wを小さくすることが可能となる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
図13に示すように、第3の実施形態は、鋼矢板3の背面に栗石などの石材19が用いられている護岸1aに適用する形態である。鋼矢板3の背面に石材19が用いられている場合には、機械式撹拌工法や高圧噴射撹拌工法、薬液注入工法などが適用できない場合がある。
【0062】
これは石材19の大きさが大きい場合、機械式撹拌工法では改良装置を地盤中に挿入することが困難であり、高圧噴射撹拌工法では改良ロッドから噴射する高圧のセメントミルクと圧縮空気が石材19によって阻害され良好な品質の地盤改良体が造成できない場合があるためである。また、薬剤やセメントミルクなどを薬液注入工法で石材19の空隙を充填することも考えられるが、一般に石材19の透水係数は高いため(例えば、石材19の透水係数は1×10
−2cm/s程度以上)、薬剤やセメントミルクが海域に流出する恐れがある。
【0063】
このような場合には、
図14に示すように、石材19が使用されている部分に、公知の技術である可塑状グラウトまたは可塑性グラウトと称される材料を使用して地盤改良体13aを造成する。まず、地盤改良体13aの形成部の上部に、薬液注入装置21を設置し、石材19からなる地盤に対して可塑状グラウトまたは可塑性グラウトを注入する。ここで、可塑状グラウトまたは可塑性グラウトとは、水中不分離性を有し、ゲル化してから硬化するまで数時間粘性を保つ材料であり、シールドトンネルの裏込め材やトンネル空洞充填材などに活用されてきたものである。なお、水中不分離性のモルタルやセメントミルクでも良い。
【0064】
なお、可塑状グラウトまたは可塑性グラウト、水中不分離性のモルタルやセメントミルクを地盤に注入または充填して造成する地盤改良体13aが、土留め壁としての機能を発揮するには、固化後のS波速度が500m/s程度以上であることが好適である。
【0065】
また、地盤改良体13aについても、鋼矢板3との間に隙間を形成してもよい。また、石材19の範囲が狭く、可塑状グラウトまたは可塑性グラウト、水中不分離性モルタルやセメントミルクで地盤改良体13aの幅が確保できない場合には、地盤改良体13aの背面に、高圧噴射撹拌工法などによる地盤改良体13を追加施工して、改良幅を確保してもよい。なお、必要な地盤改良体13aの幅等は、前述した地盤改良体13と同様である。
【0066】
このように、地盤改良体13aを構築した後、前述した工程と同様の手順で、既設の鋼矢板3の撤去や新たな鋼矢板3aの設置等を行うことで、施工が完了する。
【0067】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、鋼矢板3の背面に石材19が設けられている護岸1aに対しても、本発明を適用することができる。
【0068】
(第4実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
図15は、既設の鋼矢板3を撤去した後の状態(
図5)を示す図である。本実施形態では、地盤改良体13を新たなケーソン的な護岸とし、地盤改良体13の前面(海側の側面)にアンカー29を設置する。アンカー29にはケミカルアンカーなどを使用し、水中部は潜水士が設置する。
【0069】
次に、
図16に示すように、地盤改良体13に設置したアンカー29を使用して、プレキャストコンクリート版(以下PC版)、金属板、各種樹脂板などの被覆部材31を設置する。なお、被覆部材31は、地盤改良体13の表面を被覆して保護するものであり、背面地盤の土留めの機能を有さないため、軽量で薄いものを用いることもできる。したがって、被覆部材31の設置には、クレーンなどの大型の機械を必要としない。
【0070】
なお、図示した例では、被覆部材31は、地上部分に突出するように配置されるが、水中部分にのみ被覆部材31を配置して、地上部分には、別の保護版を設置してもよい。以下の説明では、保護版も合わせて被覆部材31と称する。
【0071】
ここで、被覆部材31は、既設の鋼矢板3と同一の位置に配置される。したがって、地盤改良体13の前面に配置されたアンカー29と、既設の鋼矢板3と同一の位置に配置される被覆部材31とを接合する必要がある。このため、地盤改良体13を施工する際に、既設の鋼矢板3との隙間15が大きすぎると、アンカー29が届かなくなる恐れがある。したがって、
図4(a)に示すように、地盤改良体13と鋼矢板3との間に隙間15を形成する場合には、その幅Fは、アンカー29が届く程度に設定する必要がある。具体的には、隙間15の幅Fは、30cm以下とすることが望ましい。
【0072】
地盤改良体13の前面に被覆部材31を固定した後、被覆部材31と地盤改良体との間に、水中不分離性を有するモルタルやセメントミルク、または砂利,砂などの充填材17を充填する。なお、波浪による吸出しなどを考慮すると、水中不分離性のモルタルやセメントミルクが好適である。
【0073】
この状態で、地表部を埋め戻すことで、護岸1の更新が完了する。なお、必要に応じて、被覆部材31の上部に補強部材33を接合してもよい。補強部材33は、アンカーなどの棒状部材である。
【0074】
この場合、被覆部材31の設置後、地盤改良体13よりも上方にアンカーなどの補強部材33を設置し、地盤改良体13の上面または地盤改良体13の背面に控え工を設置し、これらを連結する。なお、被覆部材31と補強部材33との接合や控え工は、地盤改良体13の上部の埋戻し工と並行して行う。また、被覆部材31の前面(海側)に鋼材(H形鋼、溝形鋼など)を設置し、補強部材33を連結してもよい。
【0075】
第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、被覆部材31の設置が容易であり、将来、腐食などによる被覆部材31の傷みの状況に合わせて、容易に被覆部材31を交換することが可能となる。
【0076】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
例えば、上述した各構成は、互いに組み合わせることができることは言うまでもない。