【文献】
化学大事典8,日本,共立出版株式会社/南條正雄,1972年 9月15日,縮刷版第14刷,第743頁,ポリエチレングリコール
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに混ざらない第1の高分子と第2の高分子の2種類の高分子を任意の割合で溶媒に溶解させて溶液を得、得られた溶液を基体上の水溶性犠牲膜に塗布した後、該基体上の水溶性犠牲膜に塗布した溶液中から前記溶媒を除去することによって水溶性犠牲膜上に海島構造に相分離した高分子超薄膜を形成することにより得られる、
基体上に水溶性犠牲膜を有し、その上に海島構造に相分離した高分子超薄膜を有する複合体。
互いに混ざらない第1の高分子と第2の高分子の2種類の高分子を任意の割合で溶媒に溶解させて溶液を得、得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から前記溶媒を除去することによって海島構造に相分離した高分子超薄膜を形成し、その後、高分子超膜の上に水溶性支持膜を提供することにより得られる、
基体上に海島構造に相分離した高分子超薄膜を有し、高分子超薄膜の上に水溶性支持膜を有する複合体。
微粒子が、ポリスチレン粒子、シリカ粒子、デキストラン粒子、ポリ乳酸粒子、ポリウレタン微粒子、ポリアクリル粒子、ポリエチレンイミン粒子、アルブミン粒子、アガロース粒子、酸化鉄粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、タルク微粒子、カオリン微粒子、モンモリロナイト微粒子、及びハイドロキシアパタイト微粒子からなる群から選択される少なくとも1つの粒子である、請求項10に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、自己支持性の多孔質高分子超薄膜、
海島構造に相分離した高分子超薄膜、それらを含む複合体、およびそれらの製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高分子の溶液に対してその溶媒と相溶しかつそれよりも高沸点の貧溶媒を混合し、これを基体にキャストすることにより海島構造に相分離した高分子超薄膜を得、島部を構成する貧溶媒を更に蒸発させることによる多孔質高分子を製造すること、あるいは固体状態ではお互いに混ざり合わない2種類の高分子を共通溶媒に溶解させ、これを基体にキャストすることにより海島構造に相分離した高分子超薄膜を得、島部を構成する高分子の良溶媒にて処理することにより高分子超薄膜から島部のみが除かれ多孔質高分子超薄膜を製造することができること、などに想到し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に示す自己支持性の多孔質高分子超薄膜、及びその製造方法を提供する。
[1] 膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜。
[2] 30nm〜50μmのサイズの孔が5x10
-3個/μm
2〜50個/μm
2の密度で表面に存在する上記[1]記載の多孔質高分子超薄膜。
[2a] 前記孔のサイズが、1μmより大きく25μm以下の範囲である、上記[1]記載の多孔質高分子超薄膜。
[2b] 前記孔のサイズが、15μm以下の範囲である、上記[2a]記載の多孔質高分子超薄膜。
[3] 孔径分布が少なくとも±20%である、上記[1]又は[2]記載の多孔質高分子超薄膜。
[3a] 孔径分布が少なくとも±20%である、上記[2a]又は[2b]記載の多孔質高分子超薄膜。
[4] 多孔質高分子超薄膜の膜厚に対する孔径の比(孔径 (μm)/膜厚(μm))が0.1〜50である、上記[1]、[2]及び[3]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜。
[4a] 多孔質高分子超薄膜の膜厚に対する孔径の比(孔径 (μm)/膜厚(μm))が0.1〜50である、上記[2a]、[2b]及び[3a]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜。
[5] 高分子がポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシアルカン酸の共重合体、ポリ(エステル−エーテル)、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、多糖類エステル、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、およびポリシロキサンからなる群から選択される少なくとも1つである、上記[1]、[2]、 [3]及び[4]のいずれか1項記載の多孔質高分子超薄膜。
[5a] 高分子がポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシアルカン酸の共重合体、ポリ(エステル−エーテル)、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、多糖類エステル、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、およびポリシロキサンからなる群から選択される少なくとも1つである、上記[2a]、[2b]、[3a]及び[4a]のいずれか1項記載の多孔質高分子超薄膜。
[6] 互いに混ざらない2種類の高分子を任意の割合で第1の溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から第1の溶媒を除去することによって、海島構造に相分離した高分子超薄膜を得る工程と、
島部の高分子の良溶媒であるとともに島部以外の高分子の貧溶媒である第2の溶媒に前記高分子超薄膜を浸漬させて、島部を除去することにより膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜を得る工程と
を含む、多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[6-2] 前記海島構造の島部が、1μmより大きく25μm以下の範囲のサイズであり、5x10
-3個/μm
2〜50個/μm
2の密度で表面に存在する、上記[6]に記載の方法。
[6-3] 前記海島構造の島部のサイズが、15μm以下の範囲である、上記[6-2]に記載の方法。
[6-4] 前記高分子超薄膜の膜厚が10nm〜1000nmである、上記[6]、[6-2]及び[6-3]のいずれか1項に記載の方法。
[6-5] 前記海島構造の島部を形成する第1の高分子と海部を形成する第2の高分子の組み合わせが、下記の群から選択される、上記[6]、[6-2]、[6-3]及び[6-4]のいずれか1項に記載の方法:
(i)第1の高分子:ポリスチレン、第2の高分子:ポリメタクリル酸メチル;
(ii)第1の高分子:ポリスチレン、第2の高分子:ポリD,L-乳酸;
(iii) 第1の高分子:ポリメタクリル酸メチル、第2の高分子:ポリスチレン;
(iv) 第1の高分子:ポリエチレングリコール、第2の高分子:ポリスチレン;
(v) 第1の高分子:ポリビニルピロリドン、第2の高分子:ポリスチレン;及び
(vi) 第1の高分子:ポリD,L-乳酸、第2の高分子:ポリスチレン。
[7] 原料となる高分子を、該高分子の良溶媒とその良溶媒よりも沸点の高い貧溶媒との任意の割合の混合溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
得られた溶液を基体に塗布し、該基体に塗布した溶液中から混合溶媒を除去することにより膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜を得る工程と
を含む、多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[8] 高分子を溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
溶液を凹凸のある基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から溶媒を除去することにより高分子超薄膜を得る工程と、
凹凸のある基体を、高分子超薄膜を溶解させない溶媒にて溶解させることにより除去する工程、
を含む、膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[9] 凹凸のある基体が、微粒子を分散固定した高分子薄膜を有する基体であり、
前記基体に塗布した溶液中から溶媒を除去することにより高分子超薄膜を得た後、微粒子を分散固定した高分子薄膜を有する基体を、高分子超薄膜を溶解させない溶媒に溶解させることにより除去して多孔質高分子超薄膜を得る、上記[8]に記載の方法。
[10] 微粒子が、ポリスチレン粒子、シリカ粒子、デキストラン粒子、ポリ乳酸粒子、ポリウレタン微粒子、ポリアクリル粒子、ポリエチレンイミン粒子、アルブミン粒子、アガロース粒子、酸化鉄粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、タルク微粒子、カオリン微粒子、モンモリロナイト微粒子、及びハイドロキシアパタイト微粒子からなる群から選択される少なくとも1つの粒子である、上記 [9]に記載の方法。
[11] 微粒子が20nm〜3000nmの直径を有する上記[9]又は[10]に記載の方法。
[12] 高分子を溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
溶液に微粒子を分散させて分散液を得る工程と、
前記分散液を基体に塗布した後、該基体に塗布した分散液中から溶媒を除去することにより高分子超薄膜を得る工程と、
得られた高分子超薄膜を、前記微粒子を溶解できる溶剤中に浸漬させて該微粒子を除去することにより膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜を得る工程と
を含む、多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[13] 微粒子が、無機塩、シリカ、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ポリマー、金属酸化物、及び金属からなる群から選択される少なくとも1つである、上記[12]に記載の方法。
[14] 基体の上に構築した高分子超薄膜をガラス転移温度以上に加温した後、該高分子超薄膜を別に用意した凹凸のある基体で圧迫することにより膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜を得ることを特徴とする、多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[15] 原料となる高分子を溶解して溶液を得、得られた溶液に微小気泡を分散させ、微小気泡を分散させた溶液を基体に塗布し、基体に塗布した溶液から溶媒を除去することにより膜厚が10nm〜1000nmである自己支持性の多孔質高分子超薄膜を得ることを特徴とする、多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[16] 基体の上に水溶性犠牲膜を有し、その上に上記[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜を有する、基体と水溶性犠牲膜と多孔質高分子超薄膜の複合体。
[16a] 基体の上に水溶性犠牲膜を有し、その上に、上記[2a]、[2b]、[3a]、[4a]及び[5a]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜を有する、基体と水溶性犠牲膜と多孔質高分子超薄膜の複合体。
[17] 基体の上に上記[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜を有し、多孔質高分子超薄膜の上に水溶性支持膜を有する、基体と多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体。
[17a] 基体の上に上記[2a]、[2b]、[3a]、[4a]及び[5a]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜を有し、多孔質高分子超薄膜の上に水溶性支持膜を有する、基体と多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体。
[18]上記[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜の上に水溶性支持膜を有する、多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体。
[18a]上記[2a]、[2b]、[3a]、[4a]及び[5a]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜の上に水溶性支持膜を有する、多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体。
[19] 上記[16]、[17]及び[18]のいずれか1項に記載の複合体の水溶性犠牲膜又は水溶性支持膜を水を用いて除去することによって水中にて多孔質高分子超薄膜を得ることを特徴とする、自己支持性の多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[19a] 上記[16a]、[17a]及び[18a]のいずれか1項に記載の複合体の水溶性犠牲膜又は水溶性支持膜を水を用いて除去することによって水中にて多孔質高分子超薄膜を得ることを特徴とする、自己支持性の多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[20] 前記多孔質高分子超薄膜を別の基体に掬い取り、掬い取った多孔質高分子超薄膜から水を除去して乾燥状態の多孔質高分子超薄膜を得ることを特徴とする、上記[19]に記載の多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[20a] 前記多孔質高分子超薄膜を別の基体に掬い取り、掬い取った多孔質高分子超薄膜から水を除去して乾燥状態の多孔質高分子超薄膜を得ることを特徴とする、上記[19a]に記載の多孔質高分子超薄膜の製造方法。
[21] メッシュの上に上記[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜を有する、メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体。
[21a] メッシュの上に上記[2a]、[2b]、[3a]、[4a]及び[5a]のいずれか1項に記載の多孔質高分子超薄膜を有する、メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体。
[22] 上記[19]に記載の方法で製造した自己支持性の多孔質高分子超薄膜をメッシュで掬い取り、多孔質高分子超薄膜とメッシュの複合体を製造することを特徴とする、メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体の製造方法。
[22a] 上記[19a]に記載の方法で製造した自己支持性の多孔質高分子超薄膜をメッシュで掬い取り、多孔質高分子超薄膜とメッシュの複合体を製造することを特徴とする、メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体の製造方法。
[23] 上記[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]のいずれか1項に記載の1以上の多孔質高分子超薄膜と、孔のない1以上の高分子超薄膜とを有する、多孔質高分子超薄膜と孔のない高分子超薄膜の複合体。
[23a] 上記上記[2a]、[2b]、[3a]、[4a]及び[5a]のいずれか1項に記載の1以上の多孔質高分子超薄膜と、孔のない1以上の高分子超薄膜とを有する、多孔質高分子超薄膜と孔のない高分子超薄膜の複合体。
【0012】
また、本発明は、以下の海島構造に相分離した高分子超薄膜を提供する。
[A1] 互いに混ざらない第1の高分子と第2の高分子の2種類の高分子を任意の割合で溶媒に溶解させて溶液を得、得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から前記溶媒を除去することによって基体上に得られる、海島構造に相分離した高分子超薄膜。ここで、「第1の高分子」は海島構造に相分離したときに島部を形成する高分子であり、「第2の高分子」は島部以外の部分(海部)を形成する高分子である。
[A2] 前記海島構造の島部が、1μmより大きく25μm以下の範囲のサイズであり、5x10
-3個/μm
2〜50個/μm
2の密度で表面に存在する、上記[A1]に記載の高分子超薄膜。
[A3] 前記孔のサイズが、15μm以下の範囲である、上記[A2]に記載の高分子超薄膜。
[A4] 前記高分子超薄膜の膜厚が10nm〜1000nmである、上記[A1]〜[A3]のいずれか1項に記載の高分子超薄膜。
[A5] 前記第1の高分子と第2の高分子の組み合わせが、下記の群から選択される、上記[A1]〜[A4]のいずれか1項に記載の高分子超薄膜:
(i)第1の高分子:ポリスチレン、第2の高分子:ポリメタクリル酸メチル;
(ii)第1の高分子:ポリスチレン、第2の高分子:ポリD,L-乳酸;
(iii) 第1の高分子:ポリメタクリル酸メチル、第2の高分子:ポリスチレン;
(iv) 第1の高分子:ポリエチレングリコール、第2の高分子:ポリスチレン;
(v) 第1の高分子:ポリビニルピロリドン、第2の高分子:ポリスチレン;及び
(vi) 第1の高分子:ポリD,L-乳酸、第2の高分子:ポリスチレン。
【0013】
また、本発明は、以下の略円形状高分子超薄膜(本明細書中で「ナノディスク」という場合がある)及びその製造方法を提供する。
[B1] 膜厚が10nm〜1000nmであり、サイズが30nm〜50μm以下の範囲である、略円形状高分子超薄膜。
[B2] 前記サイズが1μmより大きく25μm以下の範囲である、上記[B1]に記載の略円形状高分子超薄膜。
[B3] 前記サイズが15μm以下の範囲である、上記[B2]に記載の略円形状高分子超薄膜。
[B4] 前記高分子がポリD,L-乳酸である、上記[B1]〜[B3]のいずれか1項に記載の略円形状高分子超薄膜。
[C1] 互いに混ざらない2種類の高分子を任意の割合で第1の溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から第1の溶媒を除去することによって、海島構造に相分離した高分子超薄膜を得る工程と、
海部の高分子の良溶媒であるとともに海部以外の高分子の貧溶媒である第2の溶媒に前記高分子超薄膜を浸漬させて、海部を除去することにより膜厚が10nm〜1000nmであり、サイズが30nm〜50μm以下の範囲である、略円形状高分子超薄膜を得る工程と
を含む、略円形状高分子超薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、自己支持性の多孔質高分子超薄膜、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2012-054255 (2012年3月12日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
本明細書中では、超薄膜を、「ナノシート」という場合がある。
【0017】
1. 本発明の多孔質高分子超薄膜
図8(a)に、本発明の多孔質高分子超薄膜1の一例を示す。
本発明の多孔質高分子超薄膜は、自己支持性の超薄膜である。「自己支持性」とは、超薄膜が有する性質であり、超薄膜が膜構造を維持するのに支持体を必要としない性質のことを意味する。ただし、これは、本発明の超薄膜が支持体と複合体を形成することを否定するものではない。
【0018】
「多孔質」とは、超薄膜に複数の孔が設けられていることを意味する。さらに、孔は、高分子超薄膜を貫通していてもよく、又は貫通していなくてもよい。本発明の多孔質高分子超薄膜は、貫通孔のみを有するものであっても、非貫通孔のみを有するものであっても、あるいは、
図8(a)に示すように貫通孔と非貫通孔の両方を有するものであってもよい。そのような孔の形態は、用途に応じて適宜設定すればよい。本発明の多孔質高分子超薄膜では、孔の形状は、膜の表面を上から見た時に、略円形、楕円形、長方形、正方形などあらゆる形状を形成させることができるが、通常、略円形状である。図示していないが、略円形状の孔同士は融合していてもよい。
【0019】
本発明の多孔質高分子超薄膜は、10nm〜1000nmの膜厚を有する。本発明の多孔質高分子超薄膜の膜厚は10nm〜1000nmであればよく、その用途に応じて膜厚を適宜設定することができるが、膜厚は、好ましくは、20nm〜800nmであり、より好ましくは、30nm〜600nmであり、さらに好ましくは、40nm〜400nmであり、特に好ましくは、50nm〜200nmである。
【0020】
本発明の多孔質高分子超薄膜は、表面に複数の孔が存在する。本明細書中、「表面」とは、超薄膜の上面又は下面のことを意味する。表面の孔密度は、複数であればよく、その用途に応じて表面の孔密度を適宜設定することができるが、表面の孔密度(個/μm
2)は、通常、0.005個/μm
2〜100個/μm
2であり、好ましくは、0.05個/μm
2〜50個/μm
2であり、より好ましくは、0.1個/μm
2〜30個/μm
2であり、さらに好ましくは、0.5個/μm
2〜20個/μm
2である。
【0021】
孔が略円形状の場合、孔径も、特に制限されず、その用途に応じて孔径を適宜設定することができるが、孔径は、好ましくは、0.01μm〜500μmであり、より好ましくは、0.03μm〜100μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmであり、特に好ましくは、0.5μm〜3μmである。
あるいは、孔径は、1μmより大きく25μm以下の範囲であり、より好ましくは、1μmより大きく20μm以下の範囲であり、さらに好ましくは、1μmより大きく18μm以下の範囲であり、特に好ましくは、1μmより大きく15μm以下の範囲である。
【0022】
1枚の超薄膜において、孔径の同じ複数の孔が設けられていても、孔径の異なる複数の孔が設けられていてもよい。
孔径の異なる複数の孔が設けられている場合、孔径分布は、例えば、±10%以上である。本発明のいくつかの態様では、孔径分布は、±20%以上であり、好ましくは±25%以上であり、より好ましくは±30%以上であり、さらに好ましくは±35%以上(例えば、±35%以上、±40%以上、±45%以上、又は±50%以上)である。
また孔径分布は、本発明のいくつかの態様では、上記下限値±10%以上から、例えば、±200%以下の範囲、±150%以下の範囲、±100%以下の範囲、±50%以下の範囲、±40%以下の範囲、±30%以下の範囲、±20%以下の範囲、又は±15%以下の範囲である。
孔径分布は、本発明の別のいくつかの態様では、上記下限値±20%以上(例えば、±20%以上、±25%以上、±30%以上、±35%以上、±40%以上、±45%以上、又は±50%以上)から、±200%以下の範囲、又は±150%以下の範囲である。
ここで、本明細書において「孔径分布」は、次のようにして計算して求めた値のことを意味する。すなわち、孔径の分布を正規分布として近似し、平均を μ、分散を σ
2とすると孔径分布はσ/μとして計算される。
また、孔径の異なる複数の孔が設けられている場合、最大の孔径を有する孔と最小の孔径を有する孔との孔径差は、通常、0.01μm〜500μmであり、好ましくは、0.03μm〜100μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmであり、特に好ましくは、0.5μm〜3μmである。
【0023】
本発明の好ましい態様の多孔質超薄膜では、多孔質高分子超薄膜の膜厚に対する孔径の比(孔径 (μm)/膜厚(μm))が、例えば0.1〜50であり、好ましくは、0.2〜40であり、より好ましくは、0.3〜20であり、特に好ましくは、0.5〜15である。
【0024】
また、孔を、
図8(a)に示すように多孔質高分子超薄膜の上面と下面の両面に設けてもよく、又は片面のみ(上面のみ若しくは下面のみ)に設けてもよい。孔を、多孔質高分子超薄膜の上面と下面の両面に設ける場合、孔密度は、上面と下面とで同じでもよく、又は異なってもよい。そのような孔の配置は、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
本発明の多孔質高分子超薄膜は、任意のサイズと形状とすることができる。サイズは、0.05mm〜50cmであり、好ましくは、0.1mm〜10cmであり、より好ましくは、0.3mm〜5cmである。形状は、特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、四角形、六角形、リボン形、ひも形、多分岐形、星形など平面、チューブ形、凸形、フェイスマスク形、手形などの立体形などとすることができる。多孔質高分子超薄膜の形状は、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
本発明の多孔質高分子超薄膜を構成する高分子は、特に制限されず、その用途に応じて適宜選択することができる。本発明の多孔質高分子超薄膜を構成する高分子として、例えば、文献田畑泰彦編著「再生医療のためのバイオマテリアル」コロナ社、文献穴澤貞夫監修「ドレッシング新しい創傷管理」へるす出版、文献監修日本バイオマテリアル学会「バイオマテリアルの基礎」、文献バイオマテリアル学会誌 特集「血液と接触して利用されているバイオマテリアル」、バイオマテリアル、22, 78-139(2004), 特集「血液と接触して利用されているバイオマテリアル(第2集)」、バイオマテリアル、23, 178-238(2005), 文献“Biomedical Applications of Biodegradable Polymers”, Journal of Polymer Science, PartB: Polymer Physics, 49, 832-864 (2011). などに記載の高分子を用いることができる。
【0027】
本発明の多孔質高分子超薄膜を構成する高分子は、好ましくは、
(i) ポリD,L乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトンなどのポリヒドロキシアルカン酸;
(ii)乳酸とグリコール酸の共重合体、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体、トリメチレンカーボネートとグリコリドの共重合体、ポリグリコール酸とポリεカプロラクトンの共重合体などの共重合体;
(iii) ポリジオキサノン、ポリ(2−メチレンー1,3,6−トリオキソカン)などのポリ(エステル−エーテル);
(iv) ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートなどの脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステル;
(v) ポリエステルアミド、ポリアミド4、ポリアスパラギン酸エステル、ポリグルタミン酸エステルなどのポリアミド、ポリウレタン;
(vi) アセチルセルロース、ポリグルクロン酸、アルギン酸、キトサンなどの多糖類あるいは多糖類エステル;
(vii) ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチルなどのポリ(アクリレート);
(viii) ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸カプリリル、ポリメタクリル酸グリセリル、ポリメタクリル酸グルコシルエチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどのポリ(メタクリレート);
(ix) ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル;及び
(x) ポリジメチルシロキサンなどポリシロキサン;
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0028】
本発明のいくつかの態様において、高分子は、ポリ(メタクリレート)であり、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、又はポリメタクリル酸プロピルであり、より好ましくは、ポリメタクリル酸メチルである。
【0029】
本発明の別のいくつかの態様において、高分子は、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシアルカン酸との共重合体であり、好ましくは、ポリD,L乳酸、ポリグリコール酸、又は乳酸とグリコール酸の共重合体であり、より好ましくは、ポリD,L乳酸である。
【0030】
本発明の好ましい態様の多孔質高分子超薄膜は、例えば、細胞培養支持体、ナノ・マイクロフィルター、高光散乱膜、細胞分離用フィルターなどとして用いることができる。
【0031】
「多孔質高分子超薄膜を細胞支持体として用いる」とは、物質の出入りを可能とする足場材として用いることを意味し、具体的には、多孔質高分子超薄膜を次のように用いることを言う。幹細胞から細胞を培養して皮膚、角膜、心筋、神経などの組織を形成させる際の足場として用いる。細胞はシャーレ内で培養するが、基板側からは効率の良い酸素、栄養素などの供給や老廃物の排出はできない。そのために本来の細胞組織と異なる性質を持った細胞組織となる懸念があった。さらに、細胞1層分の培養組織をそのまま積層すると酸素、栄養素、老廃物などの物質の出入り困難となるために重層化に限界がある。そのために、物質の出入りを可能とする足場材として多孔質高分子超薄膜を利用することができる。
【0032】
細胞培養支持体として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の高分子は、好ましくは、ポリD,L乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトンなどのポリヒドロキシアルカン酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体、トリメチレンカーボネートとグリコリドの共重合体、ポリグリコール酸とポリεカプロラクトンの共重合体などの共重合体、ポリジオキサノン、ポリ(2−メチレンー1,3,6−トリオキソカン)などのポリ(エステル−エーテル)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートなどの脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステルなどであり、より好ましくは、ポリD,L乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトンなどのポリヒドロキシアルカン酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体、トリメチレンカーボネートとグリコリドの共重合体、ポリグリコール酸とポリεカプロラクトンの共重合体などの共重合体などである。
【0033】
細胞培養支持体として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の膜厚は、好ましくは、30nm〜1000nmであり、より好ましくは、50nm〜1000nmであり、さらに好ましくは、100nm〜1000nmであり、特に好ましくは、200nm〜1000nmである。
【0034】
細胞支持体として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の表面の孔密度(個/μm
2)は、通常、0.005個/μm
2〜100個/μm
2であり、好ましくは、0.05個/μm
2〜50個/μm
2であり、より好ましくは、0.1個/μm
2〜30個/μm
2であり、さらに好ましくは、0.5個/μm
2〜20個/μm
2である。
【0035】
細胞培養支持体として用いる場合、孔径は、対象とする細胞が透過せず吸着するのに適した孔径であり、好ましくは、0.01μm〜50μmであり、より好ましくは、0.03μm〜10μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmであり、特に好ましくは、0.5μm〜3μmである。
【0036】
また、細胞培養支持体として用いる場合、孔を、多孔質高分子超薄膜の上面と下面の両面に設けるのが好ましいが、孔密度は、上面と下面とで同じでもよく、又は異なってもよい。さらに、多孔質高分子超薄膜は、貫通孔のみを有するものであるのが好ましいが、貫通孔と非貫通孔の両方を有するものであってもよい。多孔質高分子超薄膜の形状は、略円形、楕円形などとするのが好ましい。
【0037】
「多孔質高分子超薄膜をナノ・マイクロフィルターとして用いる」とは、具体的には、多孔質高分子超薄膜を次のように用いることを言う。目の粗い支持体に多孔質超薄膜を張り、様々な高分子、タンパク質、ウイルス、粒子の透過を制御する目的で用いる。例えば、ウイルス除去膜やタンパク質の除去膜として用いることができる。
【0038】
ナノ・マイクロフィルターとして用いる場合、多孔質高分子超薄膜の高分子は、ポリ(メタクリレート)であり、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、又はポリメタクリル酸プロピルであり、より好ましくは、ポリメタクリル酸メチルである。ナノ・マイクロフィルターとして用いる場合、多孔質高分子超薄膜の膜厚は30nm〜1000nmであり、より好ましくは、50nm〜1000nmであり、さらに好ましくは、100nm〜1000nmであり、特に好ましくは、200nm〜1000nmである。
【0039】
ナノ・マイクロフィルターとして用いる場合、多孔質高分子超薄膜の表面の孔密度(個/μm
2)は、膜強度が保持できる状態でなるべく高くする。通常、0.01個/μm
2〜100個/μm
2であり、好ましくは、0.05個/μm
2〜100個/μm
2であり、より好ましくは、0.1個/μm
2〜100個/μm
2であり、さらに好ましくは、1個/μm
2〜100個/μm
2である。
【0040】
ナノ・マイクロフィルターとして用いる場合、孔径は、目的とする物質や粒子を阻止するのに適した孔径であり、好ましくは、0.001μm〜50μmであり、より好ましくは、0.01μm〜10μmである。
【0041】
また、ナノ・マイクロフィルターとして用いる場合、孔を、多孔質高分子超薄膜の上面と下面の両面に設けるのが好ましいが、孔密度は、上面と下面とで同じでもよく、又は異なってもよい。さらに、多孔質高分子超薄膜は、貫通孔のみを有するものであるのが好ましいが、貫通孔と非貫通孔の両方を有するものであってもよい。また、孔径分布はなるべく狭い方が望ましく、より具体的には、孔径分布は、例えば、±10%〜±40%の範囲であり、好ましくは±10%〜±30%の範囲であり、より好ましくは±10%〜±20%の範囲であり、さらに好ましくは±10%〜±15%の範囲である。
多孔質高分子超薄膜の形状は、略円形、四角形などとするのが好ましい。
また、細胞培養とフィルターの用途を組み合わせて、例えば袋状、筒状にしてその中に浮遊細胞、血液細胞を培養したり、大きさで分離する目的で使用しても良い。
【0042】
「多孔質高分子超薄膜を高光散乱膜として用いる」とは、具体的には、多孔質高分子超薄膜を次のように用いることを言う。本発明の多孔質高分子超薄膜は、光を散乱することのできる複数の孔を有する。このような高光散乱膜は、貼付体に貼付して使用する。貼付体は、例えば、生体外組織の表面(皮膚、爪、毛髪など)、生体内組織の表面 (例えば、内臓、血管、腫瘍など)などである。
本発明のいくつかの態様の多孔質高分子超薄膜は、肌のシミ、アザ、ホクロ、皺を隠す目的で皮膚に貼付して使用することができる。
本発明の別のいくつかの態様の多孔質高分子超薄膜は、開腹あるいは内視鏡手術の際のマーキングの目的で内臓表面に貼付して使用することができる。
本発明のさらに別のいくつかの態様の多孔質高分子超薄膜は、ボディペインティング、ネイルアート、ヘアカラーなどの目的で皮膚、爪、毛髪に貼付して使用することができる。
好ましくは、本発明の多孔質高分子超薄膜は、肌のシミ、アザ、ホクロ、皺を隠す目的で皮膚に貼付して使用する。
【0043】
高光散乱膜として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の形や大きさは、その目的を到達するのに適したものが選ばれ、円形、多角形、テープ状などとするのが好ましい。また、細かい高光散乱膜の分散液を調製し、スプレー噴霧やクリーム状にして用いるようにしてもよい。
【0044】
高光散乱膜として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の高分子は、好ましくは、ポリD,L乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトンなどのポリヒドロキシアルカン酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体、トリメチレンカーボネートとグリコリドの共重合体、ポリグリコール酸とポリεカプロラクトンの共重合体などの共重合体、ポリジオキサノン、ポリ(2−メチレンー1,3,6−トリオキソカン)などのポリ(エステル−エーテル)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートなどの脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステルなどであり、より好ましくは、ポリD,L乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトンなどのポリヒドロキシアルカン酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体、トリメチレンカーボネートとグリコリドの共重合体、ポリグリコール酸とポリεカプロラクトンの共重合体などの共重合体などである。
【0045】
高光散乱膜として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の膜厚は、貼付体(例えば、皮膚)への密着性を重視して選ばれ、好ましくは、20nm〜900nmであり、より好ましくは、30nm〜500nmであり、さらに好ましくは、40nm〜300nmであり、特に好ましくは、50nm〜200nmである。
【0046】
高光散乱膜として用いる場合、多孔質高分子超薄膜の表面の孔密度(個/μm
2)は、通常、0.01個/μm
2〜100個/μm
2であり、好ましくは、0.05個/μm
2〜80個/μm
2であり、より好ましくは、0.1個/μm
2〜50個/μm
2であり、さらに好ましくは、1個/μm
2〜30個/μm
2である。
【0047】
高光散乱膜として用いる場合、孔径は、幅広い波長領域の光を効率良くランダムな方向に散乱させるのに適した孔径であり、好ましくは、0.01μm〜50μmであり、より好ましくは、0.03μm〜10μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmである。1枚の超薄膜において、孔径の同じ複数の孔が設けられていても、孔径の異なる複数の孔が設けられていてもよいが、孔径の異なる複数の孔が設けるのが好ましい。孔径の異なる複数の孔が設けられている場合、最大の孔径を有する孔と細小の孔径を有する孔との孔径差は、通常、0.01μm〜500μmであり、好ましくは、0.03μm〜100μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmであり、特に好ましくは、0.5μm〜3μmである。孔の分布はなるべく広い方がランダムな光散乱を得るには好ましく、より具体的には、孔径分布は、例えば、±20%〜±200%の範囲であり、好ましくは±30%〜±200%の範囲であり、より好ましくは±50%〜±150%の範囲であり、さらに好ましくは±50%〜±100%の範囲である。
【0048】
また、孔を、多孔質高分子超薄膜の上面と下面の両面に設けるのが好ましいが、孔密度は、上面と下面とで同じでもよく、又は異なってもよい。さらに、多孔質高分子超薄膜は、貫通孔のみを有するものであるのが好ましいが、貫通孔と非貫通孔の両方を有するものであってもよい。
【0049】
「多孔質高分子超薄膜を細胞分離用フィルターとして用いる」とは、具体的には、多孔質高分子超薄膜を次のように用いることを言う。すなわち、目の粗い支持体に多孔質超薄膜を張り、様々な細胞の透過を制御する目的で用いる。
【0050】
細胞分離用フィルターとして用いる場合、多孔質高分子超薄膜の高分子は、ポリ(メタクリレート)であり、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、又はポリメタクリル酸プロピルであり、より好ましくは、ポリメタクリル酸メチルである。細胞分離用フィルターとして用いる場合、多孔質高分子超薄膜の膜厚は30nm〜1000nmであり、より好ましくは、50nm〜1000nmであり、さらに好ましくは、100nm〜1000nmであり、特に好ましくは、200nm〜1000nmである。
【0051】
細胞分離用フィルターとして用いる場合、多孔質高分子超薄膜の表面の孔密度(個/μm
2)は、膜強度が保持できる状態でなるべく高くする。通常、0.01個/μm
2〜100個/μm
2であり、好ましくは、0.05個/μm
2〜100個/μm
2であり、より好ましくは、0.1個/μm
2〜100個/μm
2であり、さらに好ましくは、1個/μm
2〜100個/μm
2である。
【0052】
細胞分離用フィルターとして用いる場合、孔径は、目的とする細胞の透過を阻止するのに適した孔径であり、好ましくは、1μmより大きく25μm以下の範囲であり、より好ましくは、1μmより大きく20μm以下の範囲であり、さらに好ましくは、1μmより大きく18μm以下の範囲であり、特に好ましくは、1μmより大きく15μm以下の範囲である。
【0053】
また細胞分離用フィルターとして用いる場合、孔を、多孔質高分子超薄膜の上面と下面の両面に設けるのが好ましいが、孔密度は、上面と下面とで同じでもよく、又は異なってもよい。さらに、多孔質高分子超薄膜は、貫通孔のみを有するものであるのが好ましいが、貫通孔と非貫通孔の両方を有するものであってもよい。また、孔径分布はなるべく狭い方が望ましく、より具体的には、孔径分布は、例えば、±10%〜±40%の範囲であり、好ましくは±10%〜±30%の範囲であり、より好ましくは±10%〜±20%の範囲であり、さらに好ましくは±10%〜±15%の範囲である。
多孔質高分子超薄膜の形状は、略円形、四角形などとするのが好ましい。
【0054】
2.基体と水溶性犠牲膜と多孔質高分子超薄膜の複合体、及び基体と多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体
本発明の多孔質高分子超薄膜は、基体、及び水溶性犠牲膜とともに、複合体を形成していてもよい。当該複合体は、
図8(b)に示すように基体3の上に水溶性犠牲膜2を有し、その上に本発明の多孔質高分子超薄膜1を有する、基体と水溶性犠牲膜と多孔質高分子超薄膜の複合体4である。
【0055】
あるいは、本発明の多孔質高分子超薄膜は、基体、及び水溶性支持膜とともに、複合体を形成していてもよい。当該複合体は、
図8(c)に示すように基体3の上に本発明の多孔質高分子超薄膜1を有し、その上に水溶性支持膜5を有する、基体と多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体6である。
基体は、多孔質高分子超薄膜を支持できる限り特に制限されないが、通常、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、 ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ナイロンフィルムなどのフィルムどであり、好ましくは、シリコン基板、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどであり、より好ましくは、シリコン基板、ポリエステルなどである。
基体の膜厚は、通常、1μm〜5000μmであり、好ましくは、5μm〜1000μmであり、より好ましくは、10μm〜500μmであり、さらに好ましくは、30μm〜300μmであり、特に好ましくは、50μm〜100μmである。
【0056】
本発明の多孔質高分子超薄膜は、前記の通りである。
水溶性犠牲膜や水溶性支持膜は、水で溶解するものである限り限定されないが、通常、ポリビニルアルコール膜、ポリアクリル酸膜、ポリメタクリル酸膜、アルギン酸ナトリウム膜、ポリエチレンオキサイド膜、ポリアクリルアミド膜、ポリビニルピロリドン膜、デンプン膜、カルボキシメチルセルロース膜、コラーゲン膜、プルラン膜、寒天膜、シリコン膜などであり、好ましくは、ポリビニルアルコール膜、ポリアクリル酸膜、デンプン膜、コラーゲン膜、寒天膜などであり、より好ましくは、ポリビニルアルコール膜、デンプン膜、コラーゲン膜などであり、さらに好ましくは、ポリビニルアルコール膜である。
水溶性犠牲膜の膜厚は、通常、5nm〜1000nmであり、好ましくは、5nm〜500nmであり、より好ましくは、10nm〜300nmであり、さらに好ましくは、10nm〜200nmであり、特に好ましくは、10nm〜100nmである。
水溶性支持膜の膜厚は、通常、50nm〜20000nmであり、好ましくは、100nm〜10000nmであり、より好ましくは、200nm〜5000nmであり、さらに好ましくは、500nm〜5000nmであり、特に好ましくは、700nm〜5000nmである。
【0057】
3. 多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体
本発明の多孔質高分子超薄膜は、水溶性支持膜とともに、複合体を形成していてもよい。
当該複合体は、
図8(d)に示すように、本発明の多孔質高分子超薄膜1の上に水溶性支持膜5を有する、多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体7である。
この複合体を水中にて浸漬させると水溶性支持膜が溶解し、多孔質高分子超薄膜が得られる。得られる多孔質高分子超薄膜は自立型である。ここで、「自立型」とは、多孔質高分子超薄膜が支持体なしで独立して存在する形態のことを意味する。
本発明の多孔質高分子超薄膜、及び水溶性支持膜は、前記の通りである。
例えば、多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体を被貼付体に貼付した後、水溶性支持膜を水洗により除去することにより多孔質高分子超薄膜を被貼付体に貼付することができる。
【0058】
4. メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体
本発明の多孔質高分子超薄膜は、メッシュとともに、複合体を形成していてもよい。
当該複合体は、
図8(e)に示すように、メッシュ8の上に本発明の多孔質高分子超薄膜1を有する、メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体9である。
本発明の多孔質高分子超薄膜は前記の通りである。
メッシュは、本発明の多孔質高分子超薄膜を支持することができ、また、貼付する際に、容易に多孔質高分子超薄膜から剥がすことができるものであればいずれのものでもよい。メッシュとしては、例えば、ナイロン、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、シルクなどからなる群から選択されるものから形成されたメッシュが挙げられる。メッシュサイズは、通常、1〜4000μm、好ましくは、5〜400μm、より好ましくは、10〜200μm、特に好ましくは40〜100μmである。
メッシュの膜厚は、通常、5μm〜1000μmであり、好ましくは、7μm〜700μmであり、より好ましくは、10μm〜500μmであり、さらに好ましくは、30μm〜300μmであり、特に好ましくは、50μm〜100μmである。
例えば、メッシュと多孔質高分子超薄膜の複合体を被貼付体に貼付した後、多孔質高分子超薄膜からメッシュを剥がすことにより多孔質高分子超薄膜を容易に被貼付体に貼付することができる。
【0059】
5.多孔質高分子超薄膜と孔のない超薄膜の複合体
本発明の多孔質高分子超薄膜は、孔のない超薄膜とともに、複合体を形成していてもよい。「孔のない」とは、前記多孔質高分子超薄膜で設けたような孔を超薄膜に設けていないことを意味する。
当該複合体は、
図8(f)に示すように、孔のない超薄膜10の上に本発明の多孔質高分子超薄膜1を有する、多孔質高分子超薄膜と孔のない超薄膜との複合体11である。
複合体中、多孔質高分子超薄膜は1以上含まれていればよく(例えば、1層〜20層、1層〜10層、又は1層〜5層)、孔のない超薄膜も1以上含まれていればよい(例えば、1層〜20層、1層〜10層、又は1層〜5層)。
複合体中、多孔質高分子超薄膜と孔のない超薄膜の積層の順番は、特に制限されず、複合体が3層以上の層を有する場合、多孔質高分子超薄膜は、最下層から最上層のいずれか1以上の層に含まれていればよい。
複合体中に2以上の多孔質高分子超薄膜が含まれる場合、各多孔質高分子超薄膜間で超薄膜の膜厚、孔サイズ、孔密度、孔径分布、膜厚に対する孔径の比、材質などは異なっていてもよく、あるいは、それらの全部又は一部が同じでもよい。
複合体中に孔のない2以上の超薄膜が含まれる場合、各超薄膜間で超薄膜の膜厚、材質などは異なっていてもよく、あるいは、それらの全部又は一部が同じでもよい。
孔のない超薄膜の膜厚は、通常、10nm〜1000nmであり、好ましくは、20nm〜800nmであり、より好ましくは、30nm〜600nmであり、さらに好ましくは、40nm〜400nmであり、特に好ましくは、50nm〜200nmである。
孔のない超薄膜の材質は、用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリ乳酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、シリコン、ジメチコン、ポリ酢酸ビニル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、コラーゲン、(アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド)コポリマー、(アクリル酸アルキル/ジメチコン)コポリマーなどのアクリル系ポリマーやメタクリル系ポリマー、ポリウレタンなどであり、好ましくは、ポリ乳酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリウレタン、アクリル系ポリマーである。
孔のない超薄膜は、例えば、WO 2006/025592号、WO2008/050913号、Adv. Mater. 2009, 21, 4388-4392などに記載の方法又はそれに準ずる方法により製造することができる。
多孔質高分子超薄膜と孔のない超薄膜の複合体は、最初から多孔質高分子超薄膜(層)と孔のない超薄膜(層)を順次形成していくことにより製造してもよいし、あるいは、別々に製造した多孔質高分子超薄膜と孔のない超薄膜を、貼り合わせることにより製造してもよい。
当該複合体は、例えば、前記高光散乱膜として使用することができる。
【0060】
6.本発明の多孔質高分子超薄膜の製造方法
本発明の多孔質高分子超薄膜は、例えば、下記の方法にて製造することができる。
【0061】
(1)2種類の高分子を用いる方法
本方法では、先ず、互いに混ざらない2種類の高分子を任意の割合で第1の溶媒に溶解させて溶液を得る。
「互いに混ざらない2種類の高分子」とは、固体状態では互いに混ざりあわない2種類の高分子のことをいう。以下では、2種類の高分子のうち、海島構造に相分離したときに島部を形成する高分子を高分子1といい、島部以外の高分子を高分子2という。そのような高分子の組み合わせとしては、後述の組み合わせが挙げられる。
「任意の割合」とは、高分子1:高分子2の比(w/w)が任意であることを意味し、高分子1:高分子2の比(w/w)は、例えば、1:9〜5:5である。高分子1:高分子2の比(w/w)は、好ましくは、1:9〜4:6であり、より好ましくは、1:9〜3:7である。
【0062】
第1の溶媒は、上記2種類の高分子を溶解することができるものであれば限定されないが、一般的には、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、アセトン、クロロホルム、メチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ベンゼン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、ジメトキシエタン、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名 セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(別名 セロソルブアセタート)、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル(別名 ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名 メチルセロソルブ)トルエン、N,N-ジメチルホルミアミド、及びジメチルアセタミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を挙げることができる。第1の溶媒は、好ましくは、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルミアミド、及びジメチルアセタミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒であり、より好ましくは、ジクロロメタン、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、及びN,N-ジメチルホルミアミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒であり、さらに好ましくは、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である。
【0063】
溶液中の高分子の総重量濃度は、通常、0.1wt%〜20wt%であり、好ましくは0.3wt%〜10wt%であり、より好ましくは、0.5wt%〜2wt%である。
【0064】
次に、得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から第1の溶媒を除去することによって、海島構造に相分離した高分子超薄膜を得る。
溶液を基体に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ディップコーティング法などの常法により溶液を基体に塗布する。あるいは、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの常法の印刷法により溶液を薄く基体に塗布する。
【0065】
そして、基体に塗布した溶液中から第1の溶媒を除去する。第1の溶媒を除去する方法も、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法により溶液を基体に塗布したのであればそのまま回転を続けることにより、第1の溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、加熱することにより第1の溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、減圧することにより、第1の溶媒を除去することができる。あるいは、これらの第1の溶媒の除去方法の2つ以上を組み合わせることで第1の溶媒を除去してもよい。
【0066】
次に、島部の高分子1の良溶媒であるとともに島部以外の高分子2の貧溶媒である第2の溶媒に海島構造に相分離した高分子超薄膜を浸漬させて、島部を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
【0067】
高分子1、高分子2、及び第2の溶媒の組み合わせとしては、例えば、文献「SP値 基礎・応用と計算方法」、山本秀樹著、情報機構に記載の方法により溶解度パラメーターの計算から組み合わせを挙げることができる。この場合、次の指針により高分子1、高分子2、及び第2の溶媒の組み合わせを決める。すなわち、ある高分子に対するHansen溶解度パラメーターを3次元空間にプロットし、それを中心にその高分子の相互作用半径を用いて球をつくる。対象となる溶媒のHansen溶解度パラメーターを3次元空間にプロットした際に、そのプロットが球の内側にあると対象溶媒はその高分子の良溶媒であり、球の外側にあると貧溶媒であると判断する。この指針から第1の溶媒は高分子1と高分子2の良溶媒であり、第2の溶媒は高分子1の良溶媒であり高分子2の貧溶媒であるものを選択する。
【0068】
より具体的には、例えば、次の組み合わせを挙げることができる。
(i)高分子1:ポリスチレン、高分子2:ポリメタクリル酸メチル、第2の溶媒:シクロヘキサン;
(ii)高分子1:ポリスチレン、高分子2:ポリD,L-乳酸、第2の溶媒:シクロヘキサン;
(iii) 高分子1:ポリメタクリル酸メチル、高分子2:ポリスチレン、第2の溶媒:酢酸エチル;
(iv) 高分子1:ポリエチレングリコール、高分子2:ポリスチレン、第2の溶媒:水;
(v) 高分子1:ポリビニルピロリドン、高分子2:ポリスチレン、第2の溶媒:水;又は
(vi) 高分子1:ポリD,L-乳酸、高分子2:ポリスチレン、第2の溶媒:酢酸エチル。
第2の溶媒は高分子1に対しては良溶媒であるとともに高分子2に対しては貧溶媒であるので、海島構造に相分離した高分子超薄膜を第2の溶媒に浸漬すると、島部の高分子1のみが第2の溶媒に溶解し、それにより、島部が選択的に除去される。そして、除去された領域は、孔となる。結果として、多孔質高分子超薄膜が得られる。
【0069】
本方法では、孔径及び孔密度は、2種類の高分子を溶解した溶液を作製する際に2種類の高分子の混合比(w/w)を調節すること、当該溶液を基体に塗布する方法としてスピンコーティング法を用いる場合には回転数を調節すること、第1溶媒の沸点を調節すること、などにより制御することができる。
【0070】
より具体的には、2種類の高分子(高分子1及び高分子2)を溶解した溶液中の高分子1の割合(w/w)を高くすることで、孔径を大きく、かつ、孔密度を小さくすることができる。一方、2種類の高分子(高分子1及び高分子2)を溶解した溶液中の高分子1の割合(w/w)を低くすることで、孔径を小さく、かつ、孔密度を高くすることができる。
【0071】
スピンコーティング法を用いる場合には、回転数を増やすことで、孔径を小さく、かつ、孔密度を高くすることができる。一方、回転数を減らすことで、孔径を大きく、かつ、孔密度を低くすることができる。
【0072】
第1溶媒の沸点を高くすることで、加熱によるスピンコーティング時の温度が上昇し、孔径を大きく、かつ、孔密度を低くすることができる。一方、第1溶媒の沸点を低くすることで、孔径を小さく、かつ、孔密度を高くすることができる。
【0073】
上記孔径及び孔密度の制御法の1つを用いること、又は2つ以上を組み合わせて用いることで、多孔性高分子超薄膜中の孔径及び孔密度を自在に制御することができる。
また、孔径分布は次のようにして制御することができる。例えば、スピンコーティング法を用いる場合には、スピンコーティング時の回転速度を低下させることで孔径分布を増大させることができる。一方、スピンコーティング時の回転速度を上げることで孔径分布を小さくすることができる。
【0074】
(2)2種類の溶媒を用いる方法
本方法では、先ず、原料となる高分子を、該高分子の良溶媒とその良溶媒よりも沸点の高い貧溶媒との任意の割合の混合溶媒に溶解させて溶液を得る。
【0075】
高分子、良溶媒、及び貧溶媒の組み合わせとしては、例えば、文献「SP値 基礎・応用と計算方法」、山本秀樹著、情報機構に記載の方法により溶解度パラメータの計算から組み合わせを挙げることができる。この場合、次の指針により高分子、良溶媒、及び貧溶媒の組み合わせを決める。すなわち、ある高分子に対するHansen溶解度パラメーターを3次元空間にプロットし、それを中心にその高分子の相互作用半径を用いて球をつくる。対象となる溶媒のHansen溶解度パラメーターを3次元空間にプロットした際に、そのプロットが球の内側にあると対象溶媒はその高分子の良溶媒であり、球の外側にあると貧溶媒であると判断する。この指針からある高分子に対する良溶媒のグループと貧溶媒のグループをつくり、その中からある良溶媒とその良溶媒よりも沸点の高い貧溶媒の組合せを選択する。
【0076】
より具体的には、例えば、次の組み合わせを挙げることができる。
(i) 高分子:ポリD, L乳酸、良溶媒:酢酸エチル、貧溶媒:ジメチルスルホキシド;
(ii) 高分子:ポリグリコール酸、良溶媒:1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、貧溶媒:酢酸エチル;
(iii) 高分子:ポリカプロラクトン、良溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、貧溶媒:イソプロピルアルコール;
(iv) 高分子:ポリジオキサノン、良溶媒:ジクロロメタン、貧溶媒:エチレングリコール;
(v) 高分子:ポリメタクリル酸メチル、良溶媒:アセトン、貧溶媒:水;
(vi) 高分子:酢酸セルロース、良溶媒:THF、貧溶媒:水;
(vii) 高分子:酢酸セルロース、良溶媒:THF、貧溶媒:トルエン;又は、
(viii) 高分子:ポリスチレン、良溶媒:THF、貧溶媒:ジメチルスルホキシド(DMSO)。
【0077】
「任意の割合」とは、良溶媒:貧溶媒の比(v/v)が任意であることを意味し、良溶媒:貧溶媒の比(v/v)は、例えば、100:1〜100:10である。良溶媒:貧溶媒の比(v/v)は、好ましくは、100:1〜100:7であり、より好ましくは、100:1〜100:5である
溶液中の高分子の濃度は、通常、1mg/ml〜1000mg/mlであり、好ましくは、3 mg/ml 〜100 mg/mlであり、より好ましくは、5mg/ml 〜50 mg/mlである。
【0078】
次に、得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から混合溶媒を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
溶液を基体に塗布する方法は、前記と同様である。
【0079】
基体に塗布した溶液中から混合溶媒を除去する方法も、前記第1の溶媒を除去する方法と同様である。基体に塗布した溶液中から低沸点の良溶媒を除去すると、高沸点の貧溶媒が分散した状態の高分子超薄膜が一過的に得られる。そこで、さらに、高分子超薄膜中の貧溶媒を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得ることができる。
【0080】
本方法では、孔径及び孔密度は、良溶媒と貧溶媒の混合溶媒における貧溶媒の含量を調節すること、高分子を溶解した溶液を基体に塗布する方法としてスピンコーティング法を用いる場合には回転数を調節すること、良溶媒と貧溶媒の沸点の差、貧溶媒における高分子の溶解度、そして調製時の温度を調節すること、などにより制御することができる。
【0081】
より具体的には、良溶媒と貧溶媒の混合溶媒における貧溶媒の含量を増やすことで、孔径を大きく、かつ、孔密度を高くすることができる。一方、良溶媒と貧溶媒の混合溶媒における貧溶媒の含量を減らすことで、孔径を小さく、かつ、孔密度を低くすることができる。
【0082】
スピンコーティング法を用いる場合には、回転数を増やすことで、孔径を小さく、かつ、孔密度を高くすることができる。一方、回転数を減らすことで、孔径を大きく、かつ、孔密度を低くすることができる。
【0083】
良溶媒と貧溶媒の沸点の差を大きくすることで、孔径を大きく、かつ、孔密度を低くすることができる。一方、良溶媒と貧溶媒の沸点の差を小さくすることで、孔径を小さく、かつ、孔密度を高くすることができる。
【0084】
貧溶媒における高分子の溶解度を高くすることで、孔径を小さく、かつ、孔密度を高くすることができる。一方、貧溶媒における高分子の溶解度を低くすることで、孔径を大きく、かつ、孔密度を低くすることができる。
【0085】
上記孔径及び孔密度の制御法の1つを用いること、又は2つ以上を組み合わせて用いることで、多孔性高分子超薄膜中の孔径及び孔密度を自在に制御することができる。
また、孔径分布は次のようにして制御することができる。例えば、スピンコーティング法を用いる場合には、孔径分布はスピンコーティング時の回転速度を低下させることで孔径分布を増大させることができる。一方、スピンコーティング時の回転速度を上げることで孔径分布を小さくすることができる。。
【0086】
(3)微粒子を凹凸を有する高分子膜の型に使う方法
本方法では、先ず、高分子を溶媒に溶解させて溶液を得る。
高分子は、本発明の多孔質高分子超薄膜を構成する高分子であり、具体例は、前記の通りである。
溶媒は、高分子を溶解できるものであればよく、例えば、酢酸エチル、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、アセトン、クロロホルム、メチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、ベンゼン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、ジメトキシエタン、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名 セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(別名 セロソルブアセタート)、エチレングリコールモノ―ノルマル―ブチルエーテル(別名 ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名 メチルセロソルブ)トルエン、N,N-ジメチルホルミアミド、及びジメチルアセタミドなどであり、好ましくは、酢酸エチル、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、ジメトキシエタン、N,N-ジメチルホルミアミド、及びジメチルアセタミドなどであり、より好ましくは、酢酸エチル、ジクロロメタン、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、及びN,N-ジメチルホルミアミドなどである。
【0087】
溶液中の高分子の濃度は、通常、1mg/ml〜1000mg/mlであり、好ましくは、3 mg/ml 〜100 mg/mlであり、より好ましくは、5mg/ml 〜50 mg/mlである。
【0088】
次に、得られた溶液を凹凸のある基体に塗布し、該基体に塗布した溶液中から溶媒を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
【0089】
凹凸のある基体は、例えば、微粒子を分散固定した高分子薄膜を有する基体、他の方法により凹凸のパターンを作成した基体などである。
溶液を基体に塗布する方法は、前記と同様である。
基体に塗布した溶液中から溶媒を除去する方法も、前記第1の溶媒を除去する方法と同様である。
基体に塗布した溶液中から溶媒を除去すると、基体上の凹凸形状が写し取られた多孔質高分子超薄膜が得られる。
【0090】
ここで、凹凸のある基体として例示した「微粒子を分散固定した高分子薄膜を有する基体」は、例えば、次のようにして作製することができる。先ず、高分子を溶媒に溶解させて溶液を得る。得られた溶液で微粒子の分散液を希釈し、撹拌する。得られた希釈液を基体に塗布した後、該基体に塗布した希釈液中から溶媒を除去する。これにより、微粒子を分散固定した高分子薄膜を有する基体を作製することができる。
【0091】
微粒子は、通常、直径20nm〜3000nm (好ましくは直径100nm〜2000nm、より好ましくは直径500nm〜1500nm)であり、例えば、ポリスチレン粒子、シリカ粒子、 デキストラン粒子 、ポリ乳酸粒子 、ポリウレタン微粒子、ポリアクリル粒子 、ポリエチレンイミン粒子 、アルブミン粒子 、アガロース粒子 、酸化鉄粒子 、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、タルク微粒子、カオリン微粒子、モンモリロナイト微粒子、ハイドロキシアパタイト微粒子など(好ましくは、ポリスチレン粒子、シリカ粒子、 デキストラン粒子 、酸化チタン微粒子、タルク微粒子、モンモリロナイト微粒子など)から形成されたものである。分散液は、これらの微粒子を、以下の高分子薄膜を形成させる高分子を溶解させる溶媒に分散させたものである。
【0092】
微粒子を分散固定した高分子薄膜を形成するのに用いる高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプン、コラーゲン、プルラン、寒天などであり、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプンなどであり、より好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、デンプンなどである。
【0093】
上記高分子を溶解させる溶媒は、例えば、水、酸性水、アルカリ性水、メタノール、エタノールなどであり、好ましくは、水、アルカリ性水などである。
【0094】
分散液中の微粒子の密度は、通常、0.1wt%〜20wt%であり、好ましくは、0.5wt%〜10wt%であり、より好ましくは、通常、1wt%〜5wt%である。
【0095】
分散液を基板に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ディップコーティング法などの常法により分散液を基体に塗布する。あるいは、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの常法の印刷法により溶液を薄く基体に塗布する。
【0096】
そして、基体に塗布した希釈液中から溶媒を除去する。溶媒を除去する方法も、限定されないが、例えば、スピンコーティング法により希釈液を基体に塗布したのであればそのまま回転を続けることにより、溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、加熱することにより、溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、減圧にすることにより、溶媒を除去することができる。あるいは、これらの溶媒の除去方法の2つ以上を組み合わせることで溶媒を除去してもよい。
微粒子を分散固定した高分子薄膜の膜厚は、通常50nm〜1500nmであり、好ましくは100nm〜1000nmであり、より好ましくは、200nm〜800nmである。
【0097】
「他の方法により凹凸を形成した基体」は、例えば、上記の微粒子を分散固定させる際に用いる高分子薄膜に対して、リソグラフィー、印刷、スプレーなどの方法によってパターンを形成させることにより作製することができる。
【0098】
凹凸のある基体が、微粒子を分散固定した高分子薄膜を有する基体である場合、基体に塗布した高分子溶液中から溶媒を除去して高分子超薄膜を形成させた後、微粒子を分散固定した高分子薄膜を溶媒に溶解させて凹凸のある基体から多孔質高分子超薄膜を剥離させることにより、自立した多孔質高分子超薄膜を得ることもできる。他の方法により凹凸を形成した基体においても、高分子超薄膜を形成させた後、基体自体を溶解させることにより、自立した多孔質高分子超薄膜を得ることができる。
【0099】
高分子薄膜又は基体を溶解させる溶媒は、高分子薄膜を溶解させるが、多孔質高分子超薄膜を溶解させない溶媒であればよく、例えば、水、酸性水、アルカリ性水、メタノール、エタノールなどであり、好ましくは、水、アルカリ性水などである。
孔径、孔密度、及び孔径分布は、用いる微粒子のサイズ、密度、及びサイズ分布を調整することで、自在に制御することができる。
【0100】
(4)析出微粒子を型に使う方法
本方法では、先ず、高分子を溶媒に溶解させて溶液を得る。
高分子は、本発明の多孔質高分子超薄膜を構成する高分子であり、具体例は、前記の通りである。
溶媒は、高分子を溶解できるものであればよく、具体例は、前記の通りである。
溶液中の高分子の濃度は、通常、1mg/ml〜1000mg/mlであり、好ましくは、3 mg/ml 〜100 mg/mlであり、より好ましくは、5mg/ml 〜50 mg/mlである。
【0101】
次に、塩を溶解させた溶液から溶解度差を利用して濃縮時に微粒子を析出させるか、あらかじめ溶液に不溶な微粒子を分散させて分散液を得る。
微粒子は、通常、直径20nm〜3000nm (好ましくは直径100nm〜2000nm、より好ましくは直径500nm〜1500nm)であり、多孔質高分子超薄膜を作成する溶剤には溶解せずに、多孔質高分子超薄膜を溶解させない溶剤にて溶解できるものであれば限定されない。微粒子は、例えば、無機塩(例えば、臭化リチウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、チオシアン酸カリウム、ハイドロキシアパタイトなど)、シリカ、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ポリマー(例えば、ポリスチレン、デキストラン、ポリフェノール、ポリアミド、アクリル、ポリエチレンイミン、アガロースなど)、金属酸化物(例えば、アルミナ、酸化鉄、酸化チタンなど)、及び金属(例えば、銀、銅、鉄、亜鉛、アルミニウムなど)から形成されたものであり、好ましくは、臭化リチウム、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、酸化チタンなどから形成されたものである。
【0102】
次に、前記分散液を基体に塗布した後、該基体に塗布した分散液中から溶媒を除去することにより高分子超薄膜を得る。
分散液を基板に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ディップコーティング法などの常法により分散液を基体に塗布する。あるいは、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの常法の印刷法により溶液を薄く基体に塗布する。
【0103】
そして、基体に塗布した分散液中から溶媒を除去する。溶媒を除去する方法も、限定されないが、例えば、スピンコーティング法により分散液を基体に塗布したのであればそのまま回転を続けることにより、溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、加熱することにより、溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、減圧にすることにより、溶媒を除去することができる。あるいは、これらの溶媒の除去方法の2つ以上を組み合わせることで溶媒を除去してもよい。
【0104】
次に、得られた高分子超薄膜を、前記微粒子を溶解できる溶剤中に浸漬させて該微粒子を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
「微粒子を溶解できる溶剤」は、高分子超薄膜を溶解しないが、微粒子を溶解することができる溶剤である。溶剤は、高分子の種類及び微粒子の種類に応じて適宜選択することができる。溶剤の具体例は、水、酸性水、アルカリ性水、アルコール、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン、アセトン、酢酸エチルなどである。例えば、臭化ナトリウムはアセトン、チオシアン化カリウムはジメチルホルムアミド、金属や炭酸カルシウムは酸性水、シリカはアルカリ性水に溶解する。
【0105】
溶剤により微粒子が溶解して除去される。微粒子が除去された部分は、孔となる。結果として、多孔質高分子超薄膜が得られる。
孔径、孔密度、及び孔径分布は、用いる微粒子のサイズ、密度、及びサイズ分布を調整することで、自在に制御することができる。
【0106】
(5) 凹凸のある基板を型に使う方法
本方法では、基体の上に構築した高分子超薄膜をガラス転移温度以上に加温した後、該高分子超薄膜を別に用意した凹凸のある基体で圧迫することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
基体、高分子、及び凹凸のある基体は、前記と同様である。
ガラス転移温度以上に加温した高分子超薄膜を凹凸のある基体で圧迫することにより、基体の凹凸形状が写し取られた多孔質高分子超薄膜が得られる。
【0107】
(6) 微小気泡を分散させる方法
本方法では、原料となる高分子を溶媒に溶解して溶液を得、得られた溶液に微小気泡を分散させ、微小気泡を分散させた溶液を基体に塗布し、基体に塗布した溶液から溶媒を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
高分子、溶媒、基体等は、前記と同様である。
溶液に微小気泡を分散させる方法は、公知の方法により行うことができる。
溶媒を除去後、微小気泡部分が孔となる。結果として、多孔質高分子超薄膜が得られる。
【0108】
(7) 基体からの多孔質高分子超薄膜の剥離
前記各方法により多孔質高分子超薄膜が基体との複合体の形で得られた場合、多孔質高分子超薄膜を、基体から剥離させることにより、自立型多孔質高分子超薄膜を得ることができる。
多孔質高分子超薄膜を基体から剥離させる方法としては、例えば、多孔質高分子超薄膜と基体の間に水溶性犠牲膜を設けておく方法、多孔質高分子超薄膜と基体の間に多孔質高分子超薄膜が溶解しない溶剤に溶解する犠牲膜(以下、「その他の犠牲膜」という場合がある)を設けておく方法などがある。
【0109】
多孔質高分子超薄膜と基体の間に水溶性犠牲膜を設けておく方法では、予め多孔質高分子超薄膜と基体の間に水溶性犠牲膜を設けておき、水を用いて水溶性犠牲膜を除去することにより多孔質高分子超薄膜を基体から剥離することができる。水溶性犠牲膜としては、例えば、ポリビニルアルコール膜、ポリアクリル酸膜、ポリメタクリル酸膜、アルギン酸ナトリウム膜、ポリエチレンオキサイド膜、ポリアクリルアミド膜、ポリビニルピロリドン膜、デンプン膜、カルボキシメチルセルロース膜、コラーゲン膜、プルラン膜、寒天膜、シリコン膜などからなる群から選択される少なくとも1つの膜を挙げることができる。
【0110】
多孔質高分子超薄膜と基体の間に多孔質高分子超薄膜が溶解しない溶剤に溶解する犠牲膜を設けておく方法では、予め多孔質高分子超薄膜と基体の間にポリスチレン膜、ポリオレフィン膜、ポリメタクリル酸メチル膜、ポリフェノール膜などを設けておき、各々、シクロヘキサン、シクロヘキサン、アセトン、メタノールなどで処理することにより多孔質高分子超薄膜を基体から剥離することができる。
【0111】
水溶性犠牲膜又はその他の犠牲膜の膜厚は、通常、5nm〜1000nmであり、好ましくは、5nm〜500nmであり、より好ましくは、10nm〜300nmであり、さらに好ましくは、10nm〜200nmであり、特に好ましくは、10nm〜100nmである。水溶性犠牲膜又はその他の犠牲膜は、公知の方法により形成することができる。
【0112】
基体と水溶性犠牲膜と多孔質高分子超薄膜の複合体の水溶性犠牲膜を、水を用いて除去することによって自立型多孔質高分子超薄膜を得ることができる。すなわち、水により水溶性犠牲膜が溶解し、水中にて自立型多孔質高分子超薄膜を得ることができる。
このようにして得られた自立型多孔質高分子超薄膜を別の基体に掬い取り、掬い取った多孔質高分子超薄膜から水を除去して乾燥状態の多孔質高分子超薄膜を得ることもできる。
「別の基体」は、前記基体と同様である。
あるいは、得られた自立型多孔質高分子超薄膜をメッシュで掬い取り、多孔質高分子超薄膜とメッシュの複合体を製造するようにしてもよい。
「メッシュ」は前記の通りである。
【0113】
(8)支持膜
前記各方法により本発明の多孔質高分子超薄膜が基体との複合体の形で得られた場合、その多孔質高分子超薄膜の上に、さらに水溶性支持膜を設けてもよい。これにより、基体の上に多孔質高分子超薄膜を有し、多孔質高分子薄膜の上に水溶支持膜を有する、基体と多孔質高分子超薄膜と水溶性支持膜の複合体を得ることができる。
【0114】
水溶性支持膜としては、例えば、ポリビニルアルコール膜、ポリアクリル酸膜、ポリメタクリル酸膜、アルギン酸ナトリウム膜、ポリエチレンオキサイド膜、ポリアクリルアミド膜、ポリビニルピロリドン膜、デンプン膜、カルボキシメチルセルロース膜、コラーゲン膜、プルラン膜、寒天膜、シリコン膜などからなる群から選択される少なくとも1つの膜を挙げることができる。
【0115】
水溶性支持膜の膜厚は、通常、50nm〜20000nmであり、好ましくは、100nm〜10000nmであり、より好ましくは、200nm〜5000nmであり、さらに好ましくは、500nm〜5000nmであり、特に好ましくは、700nm〜5000nmである。水溶性支持膜は公知の方法により形成することができる。
【0116】
7. 海島構造に相分離した高分子超薄膜
本発明は、互いに混ざらない第1の高分子と第2の高分子の2種類の高分子を任意の割合で溶媒に溶解させて溶液を得、得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から前記溶媒を除去することによって基体上に得られる、海島構造に相分離した高分子超薄膜(以下、「本発明の高分子超薄膜」)を提供する。
以下、第1の高分子と第2の高分子を溶解させる溶媒を、「第1の溶媒」と言う場合がある。
【0117】
「互いに混ざらない第1の高分子と第2の高分子の2種類の高分子」とは、固体状態では互いに混ざりあわない2種類の高分子のことをいう。以下では、2種類の高分子のうち、海島構造に相分離したときに島部を形成する高分子を第1の高分子といい、島部以外の高分子を第2の高分子という。そのような第1の高分子と第2の高分子の組み合わせとしては、後述の組み合わせが挙げられる。
【0118】
本発明の高分子超薄膜の膜厚は、本発明の多孔質高分子超薄膜と同様に、通常、10nm〜1000nmである。本発明の高分子超薄膜の膜厚はその用途に応じて膜厚を適宜設定することができるが、膜厚は、好ましくは、20nm〜800nmであり、より好ましくは、30nm〜600nmであり、さらに好ましくは、40nm〜400nmであり、特に好ましくは、50nm〜200nmである。
【0119】
本発明の高分子超薄膜では、海島構造の島部がその表面に複数存在する。本明細書中、「表面」とは、超薄膜の上面又は下面のことを意味する。表面の島部の密度は、複数であればよく、その用途に応じて表面の島部の密度を適宜設定することができるが、表面の島部の密度(個/μm
2)は、通常、0.005個/μm
2〜100個/μm
2であり、好ましくは、0.05個/μm
2〜50個/μm
2であり、より好ましくは、0.1個/μm
2〜30個/μm
2であり、さらに好ましくは、0.5個/μm
2〜20個/μm
2である。
【0120】
本発明の高分子超薄膜では、島部の形状は、膜の表面を上から見た時に、略円形、楕円形、長方形、正方形などあらゆる形状を形成させることができるが、通常、略円形状である。略円形状の島部同士は融合していてもよい。
【0121】
本発明の高分子超薄膜では、海島構造の島部のサイズは特に限定されず目的に応じて適宜選択することができるが、通常、本発明の多孔質高分子超薄膜の孔径と同じサイズである。したがって、海島構造の島部のサイズは、好ましくは、0.01μm〜500μmであり、より好ましくは、0.03μm〜100μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmであり、特に好ましくは、0.5μm〜3μmである。
あるいは、海島構造の島部のサイズは、好ましくは、1μmより大きく25μm以下の範囲であり、より好ましくは、1μmより大きく20μm以下の範囲であり、さらに好ましくは、1μmより大きく18μm以下の範囲であり、特に好ましくは、1μmより大きく15μm以下の範囲である。
【0122】
1枚の超薄膜において、サイズの同じ複数の島部が設けられていても、サイズの異なる複数の島部が設けられていてもよい。
サイズの異なる複数の島部が設けられている場合、島部のサイズ分布は、例えば、±10%以上である。本発明のいくつかの態様では、島部のサイズ分布は、±20%以上であり、好ましくは±25%以上であり、より好ましくは±30%以上であり、さらに好ましくは±35%以上(例えば、±35%以上、±40%以上、±45%以上、又は±50%以上)である。
またサイズ分布は、本発明のいくつかの態様では、上記下限値±10%以上から、例えば、±200%以下の範囲、±150%以下の範囲、±100%以下の範囲、±50%以下の範囲、±40%以下の範囲、±30%以下の範囲、±20%以下の範囲、又は±15%以下の範囲である。
サイズ分布は、本発明の別のいくつかの態様では、上記下限値±20%以上(例えば、±20%以上、±25%以上、±30%以上、±35%以上、±40%以上、±45%以上、又は±50%以上)から、±200%以下の範囲、又は±150%以下の範囲である。
ここで、本明細書において「サイズ分布」は、次のようにして計算して求めた値のことを意味する。すなわち、サイズの分布を正規分布として近似し、平均を μ、分散を σ
2とすると島部サイズ分布はσ/μとして計算される。
また、サイズの異なる複数の島部が設けられている場合、最大のサイズを有する島部と最小のサイズを有する島部とのサイズ差は、通常、0.01μm〜500μmであり、好ましくは、0.03μm〜100μmであり、さらに好ましくは、0.1μm〜5μmであり、特に好ましくは、0.5μm〜3μmである。
本発明の好ましい態様の高分子超薄膜では、高分子超薄膜の膜厚に対する島部サイズの比(島部サイズ(μm)/膜厚(μm))が、例えば0.1〜50であり、好ましくは、0.2〜40であり、より好ましくは、0.3〜20であり、特に好ましくは、0.5〜15である。
【0123】
また、島部を、
図8(a)の孔と同様に、高分子超薄膜の上面と下面の両面に設けてもよく、又は片面のみ(上面のみ若しくは下面のみ)に設けてもよい。島部を、高分子超薄膜の上面と下面の両面に設ける場合、島部の密度は、上面と下面とで同じでもよく、又は異なってもよい。そのような島部の配置は、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0124】
本発明の高分子超薄膜は、任意のサイズと形状とすることができる。サイズは、0.05mm〜50cmであり、好ましくは、0.1mm〜10cmであり、より好ましくは、0.3mm〜5cmである。形状は、特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、四角形、六角形、リボン形、ひも形、多分岐形、星形など平面、チューブ形、凸形、フェイスマスク形、手形などの立体形などとすることができる。本発明の高分子超薄膜の形状は、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0125】
本発明の高分子超薄膜を用いて、多孔質高分子超薄膜を作製することもできる。この場合、島部の第1の高分子の良溶媒であるとともに島部以外の第2の高分子の貧溶媒である第2の溶媒に海島構造に相分離した高分子超薄膜を浸漬させて、島部を除去することにより多孔質高分子超薄膜を得る。
この時の第1の高分子、第2の高分子、及び第2の溶媒の組み合わせとしては、例えば、文献「SP値 基礎・応用と計算方法」、山本秀樹著、情報機構に記載の方法により溶解度パラメーターの計算から組み合わせを挙げることができる。この場合、次の指針により第1の高分子、第2の高分子、及び第3の溶媒の組み合わせを決める。すなわち、ある高分子に対するHansen溶解度パラメーターを3次元空間にプロットし、それを中心にその高分子の相互作用半径を用いて球をつくる。対象となる溶媒のHansen溶解度パラメーターを3次元空間にプロットした際に、そのプロットが球の内側にあると対象溶媒はその高分子の良溶媒であり、球の外側にあると貧溶媒であると判断する。この指針から第1の溶媒は第1の高分子と第2の高分子2の良溶媒であり、第2の溶媒は第1の高分子の良溶媒であり第2の高分子の貧溶媒であるものを選択する。
【0126】
より具体的には、例えば、次の組み合わせを挙げることができる。
(i)第1の高分子:ポリスチレン、第2の高分子:ポリメタクリル酸メチル;
(ii)第1の高分子:ポリスチレン、第2の高分子:ポリD,L-乳酸;
(iii) 第1の高分子:ポリメタクリル酸メチル、第2の高分子:ポリスチレン;
(iv) 第1の高分子:ポリエチレングリコール、第2の高分子:ポリスチレン;
(v) 第1の高分子:ポリビニルピロリドン、第2の高分子:ポリスチレン;又は
(vi) 第1の高分子:ポリD,L-乳酸、第2の高分子:ポリスチレン。
【0127】
上記(i)の組み合わせのとき、第2の溶媒は、例えば、シクロヘキサンである。
上記(ii)の組み合わせのとき、第2の溶媒は、例えば、シクロヘキサンである。
上記(iii)の組み合わせのとき、第2の溶媒は、例えば、酢酸エチルである。
上記(iv)の組み合わせのとき、第2の溶媒は、例えば、水である。
上記(v)の組み合わせのとき、第2の溶媒は、例えば、水である。
上記(vi)の組み合わせのとき、第2の溶媒は、例えば、酢酸エチルである。
【0128】
第2の溶媒は第1の高分子に対しては良溶媒であるとともに第2の高分子に対しては貧溶媒であるので、海島構造に相分離した高分子超薄膜を第2の溶媒に浸漬すると、島部の第1の高分子のみが第2の溶媒に溶解し、それにより、島部が選択的に除去される。そして、除去された領域は、孔となる。結果として、多孔質高分子超薄膜が得られる。
【0129】
本発明の高分子超薄膜は、次のように製造することができる。
先ず、互いに混ざらない2種類の高分子を任意の割合で溶媒に溶解させて溶液を得る。
「任意の割合」とは、第1の高分子:第2の高分子の比(w/w)が任意であることを意味し、第1の高分子:第2の高分子の比(w/w)は、例えば、1:9〜5:5である。第1の高分子:第2の高分子の比(w/w)は、好ましくは、1:9〜4:6であり、より好ましくは、1:9〜3:7である。
【0130】
第1の溶媒は、上記2種類の高分子を溶解することができるものであれば限定されないが、一般的には、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、アセトン、クロロホルム、メチルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ベンゼン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、ジメトキシエタン、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名 セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(別名 セロソルブアセタート)、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル(別名 ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名 メチルセロソルブ)トルエン、N,N-ジメチルホルミアミド、及びジメチルアセタミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を挙げることができる。溶媒は、好ましくは、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルミアミド、及びジメチルアセタミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒であり、より好ましくは、ジクロロメタン、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、及びN,N-ジメチルホルミアミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒であり、さらに好ましくは、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である。
【0131】
溶液中の高分子の総重量濃度は、通常、0.1wt%〜20wt%であり、好ましくは0.3wt%〜10wt%であり、より好ましくは、0.5wt%〜2wt%である。
【0132】
次に、得られた溶液を基体に塗布した後、該基体に塗布した溶液中から溶媒を除去することによって、海島構造に相分離した高分子超薄膜を得る。
溶液を基体に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ディップコーティング法などの常法により溶液を基体に塗布する。あるいは、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの常法の印刷法により溶液を薄く基体に塗布する。
【0133】
そして、基体に塗布した溶液中から溶媒を除去する。溶媒を除去する方法も、特に限定されないが、例えば、スピンコーティング法により溶液を基体に塗布したのであればそのまま回転を続けることにより、溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、加熱することにより溶媒を蒸発させて除去することができる。あるいは、減圧することにより、溶媒を除去することができる。あるいは、これらの溶媒の除去方法の2つ以上を組み合わせることで溶媒を除去してもよい。
【0134】
本方法では、島部サイズ及び島部密度は、2種類の高分子を溶解した溶液を作製する際に2種類の高分子の混合比(w/w)を調節すること、当該溶液を基体に塗布する方法としてスピンコーティング法を用いる場合には回転数を調節すること、溶媒の沸点を調節すること、などにより制御することができる。
【0135】
より具体的には、2種類の高分子(第1の高分子及び第2の高分子)を溶解した溶液中の第1の高分子の割合(w/w)を高くすることで、島部サイズを大きく、かつ、島部密度を小さくすることができる。一方、2種類の高分子(第1の高分子及び第2の高分子)を溶解した溶液中の第1の高分子の割合(w/w)を低くすることで、島部サイズを小さく、かつ、島部密度を高くすることができる。
【0136】
スピンコーティング法を用いる場合には、回転数を増やすことで、島部サイズを小さく、かつ、島部密度を高くすることができる。一方、回転数を減らすことで、島部サイズを大きく、かつ、島部密度を低くすることができる。
【0137】
第1溶媒の沸点を高くすることで、加熱によるスピンコーティング時の温度が上昇し、島部サイズを大きく、かつ、島部密度を低くすることができる。一方、溶媒の沸点を低くすることで、島部サイズを小さく、かつ、島部密度を高くすることができる。
【0138】
上記島部サイズ及び島部密度の制御法の1つを用いること、又は2つ以上を組み合わせて用いることで、本発明の高分子超薄膜中の島部サイズ及び島部密度を自在に制御することができる。
また、島部サイズ分布は次のようにして制御することができる。例えば、スピンコーティング法を用いる場合には、スピンコーティング時の回転速度を低下させることで島部サイズ分布を増大させることができる。一方、スピンコーティング時の回転速度を上げることで島部サイズ分布を小さくすることができる。
【0139】
8. 海島構造の海部を溶解させて得られた島部の高分子超薄膜であるナノディスク
前述の「7. 海島構造に相分離した高分子超薄膜」に記載した第1の高分子:第2の高分子の比を逆転することによって、海島の高分子の組成を逆転することができる。
【0140】
例えば上述した例では、(vi) 第1の高分子:ポリD,L-乳酸、第2の高分子:ポリスチレンの場合で、第2の溶媒であるシクロヘキサンを用いれば、
図12の実施例に示すディスク状の高分子超薄膜を得ることができる。
【0141】
第1の高分子に対しては貧溶媒であるとともに第2の高分子に対しては良溶媒である第2の溶媒を選択すると、海島構造に相分離した高分子超薄膜を第2の溶媒に浸漬すると、海部の第2の高分子のみが第2の溶媒に溶解し、それにより、海部が選択的に除去される。結果として、島部の高分子超薄膜であるナノディスクが得られる。
【0142】
得られるナノディスクは、「7. 海島構造に相分離した高分子超薄膜」に記した島部の寸法のものとなる。
【実施例】
【0143】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
実施例1−1:2種類の高分子を用いる方法
ポリスチレン(PS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)は各々Chemco Scientific Co., Ltd. と Sigma-Aldrichから購入した。表1にそれらの特徴を示す。ポリビニルアルコール(PVA, 10mg/mL )として分子量(Mw = ca. 22 kDa)のものをKanto Chemicals Co.から購入した。これらの高分子は精製せずに用いた。
【0145】
【表1】
【0146】
200nm厚の酸化被膜層のシリコン(100)ウエファはKST World Co.から購入し、20 × 20 mm
2に切断して基板として用いた。基板は硫酸と 30 % 過酸化水素 (3:1, v/v) に120 °Cで10 分間 浸漬し、イオン交換水(18 MΩ cm)にて洗浄し、窒素気流下乾燥させた。水の接触角が44.5° となることを接触角測定機(DM-301, Kyowa Interface Science Co., Ltd.)にて確認した。
【0147】
PSとPMMAをジクロロメタンに異なる重量比(PS:PMMA = 0:10, 1:9, 2:8 and 3:7 w/w)で溶解させて混合溶液とした。溶液中の高分子の総重量濃度は10 mg/mLとし、スピンコーターMS-A100 (MIKASA Co., Ltd.)にて高分子ブレンドナノシートを調製した。
【0148】
まず、シリコン基板上にPVA水溶液(1.0 wt%) を3000 rpmの回転数でスピンコートして犠牲膜を作成し、その上に高分子ブレンド溶液を1000, 3000, 5000, 7000 rpmの回転数で60秒間スピンコートした。これを基板ごとイオン交換水に浸すとPVA犠牲膜が溶解して、自己支持性高分子ブレンドナノシートが剥離してくるので、ピンセットで操作して上面か下面が上に来るようにシリコン基板上に掬い取った。シクロヘキサンはPSの良溶媒であるが、PMMAの貧溶媒である。シリコン基板上の高分子ブレンドナノシートを基板ごとシクロヘキサンに浸漬するとPSの領域のみが選択的に除去された。この操作を表裏面で行い、表面構造を観測した。すべての操作は室温(25 °C) と湿度 (35% RH) のクリーンルーム(class 10,000 conditions) にて行った。
【0149】
表面構造を観測するために、分子間力顕微鏡(KEYENCE VN-8000 NANOSCALE hybrid microscope)と電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM, Hitachi S-5500)を用いた。前者は、シリコン製カンチレバー(KEYENCE, OP-75041)を用いてタッピングモード( 1.67 - 3.33 Hz)でナノシート表面をスキャンした。AFM像はVN Analyzer (KEYENCE) と ImageJ (NIH) softwareで処理をした。後者は、ナノシート断面の観測のために用いた。ナノシートを液体窒素にて10分間浸漬して凍結して割断させた。断面を金-パラジウム (Au-Pd) にてスッパッタリングして加速電圧5kVにて観測した。画像はImageJ softwareで処理をした。
【0150】
典型的なAFM像を高分子ブレンド溶液のPS:PMMA比が(0:10, 1:9, 2:8 and 3:7 w/w)で回転速度が 5000 rpmのものを
図1に示す。
図1の上段(a1)〜(d1)は、PSとPMMAからなる高分子ブレンドナノシートのAFM像である。明るい領域が相分離したPS領域である。
図1の中段(a2)〜(d2)は、シクロヘキサンを用いてPS領域を可溶化させてPMMA領域が残した場合のナノシートの表面のAFM像である。上段の明るい領域が暗くなっているのが分かる。これはPS領域が除去されたことによる孔である。
図1の下段(a3)〜(d3)は、シクロヘキサンを用いてPS領域を可溶化させてPMMA領域が残した場合のナノシートの裏面のAFM像である。表裏面が類似した構造を示していることから、孔は貫通していることが示唆されている。
【0151】
図1の左からPS:PMMA比が(a)0:10, (b)1:9, (c)2:8, (d)3:7 (w/w)のナノシートのAFM像となっている。PMMAのホモポリマーのナノシートの場合には、表面は平滑であり相分離構造は認められない。また、シクロヘキサン処理をしても多孔質構造は認められなかった。他方、PS/PMMAのブレンドナノシートでは相分離構造が認められ、PSの割合が高くなるにつれて、相分離したPS領域の総面積は増加した。PS:PMMA比1:9では孔は細かく多数に開いていたのが、PS:PMMA比2:8では融合して大きくなり数は減少していた。そして、PS:PMMA比3:7では孔は完全に融合して入り組んだ溝の構造となっていた。
【0152】
図2は、PS:PMMA比2:8 (w/w) の高分子ブレンド溶液から各回転数 (1000, 3000, 5000, 7000 rpm) にて調製したナノシートのAFM像であり、上段、中段、下段の定義は
図1と同じである。相分離したPS総面積は不変であるが、回転数1000rpmの孔密度やサイズに対して、回転数の増大の共に数は多くサイズは小さくなる傾向が認められた。これは回転数が高いとより速くナノシートは乾燥するために、相分離したPS領域が融合して大きくなる前に乾燥固定された結果と考察される。回転数を変化させても、上面と下面の孔の平均サイズは1000rpmにて187.2 ± 33.9 / 194.1 ± 72.9 (上面/下面)、7000rpmにて105.4 ± 25.1 / 108.2 ± 20.9 nm (上面/下面) であった。
【0153】
表2には、PS:PMMA比が1:9と2:8に対して、各々回転数を1000, 3000, 5000, 7000 rpmにて作製したナノシートの膜厚、孔径、孔密度をまとめてある。膜厚は回転数と共に現象する傾向がある。混合比は2:8の方がやや厚くなる傾向が認められた。孔径は1:9よりも2:8の方が大きく、回転数と共に小さくなる傾向が認められた。孔密度は1:9より2:8の方が低く、回転数と共に高くなる傾向が認められた。
また、孔径分布は、スピンコーティング時の回転速度を低下させると増大する傾向が見られた。
【0154】
【表2】
【0155】
PS/PMMAブレンドナノシートをシクロヘキサンにて処理をした多孔質ナノシートの膜断面ならびに孔の深さ方向の情報を収集するために走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた(
図3)。断面像から明らかなようにPS領域は扁平楕円体の構造でナノシート内に分布しており、ナノシートの表面に露出したPS領域がシクロヘキサンで除去されると孔を形成し、一つのPS領域がナノシートの表裏面に露出した状態でシクロヘキサンにて除去されると貫通孔が形成される。また、PS領域が膜内に留まっている状態でシクロヘキサンにて除去されると、膜内に空洞が形成されることが分かる。ナノシート表面をSEMにて一つ一つの孔を斜めから観察すると、上面のサイズと下面のサイズがずれている孔が存在することが分かる。これは相分離した扁平楕円体のPS領域のナノシート表裏面への露出状態の違いを反映した結果と考察される。
【0156】
以上、固体状態ではお互いに混ざり合わない2種類の高分子を共通溶媒に溶解させこれをキャストすることにより海島構造に相分離したブレンドナノシートを得、島部を構成する高分子の良溶媒にて処理をすることにより多孔質ナノシートが得られる。
【0157】
実施例1−2:2種類の高分子を用いる方法
PS(Mw:170kD)およびポリD,L乳酸(Mw:300kD)を酢酸エチルに異なる重量比(PS: ポリD,L乳酸= 3:7 w/w)で溶解させて混合溶液とした。溶液中の高分子の総重量濃度は10mg/mLとし、スピンコーターMS-A100 (MIKASA Co., Ltd.)にて高分子ブレンドナノシートを調製した。
【0158】
まず、シリコン基板上にPVA水溶液(10mg/mL) を3000 rpmの回転数でスピンコートして犠牲膜を作成し、その上に高分子ブレンド溶液を1000, 3000, 5000, 7000 rpmの回転数で60秒間スピンコートした。これを基板ごとイオン交換水に浸すとPVA犠牲膜が溶解して、自己支持性高分子ブレンドナノシートが剥離して来るので、ピンセットで操作して上面が上に来るようにシリコン基板上に掬い取った。
【0159】
シクロヘキサンはPSの良溶媒であるが、ポリD,L乳酸の貧溶媒である。シリコン基板上の高分子ブレンドナノシートを基板ごとシクロヘキサンに浸漬するとPSの領域のみが選択的に除去された。すべての操作は室温(25 °C) と湿度 (35% RH) のクリーンルーム(class 10,000 conditions) にて行った。
【0160】
結果を
図4と表3に示す。
図4の上段はシクロヘキサンにて処理する前のナノシートの相分離状態を示しており、下段はシクロヘキサンによる処理で孔を開けたナノシートである。また、左から1000, 3000, 5000, 7000 rpmの回転数で作成したナノシートを並べている。表2から膜厚は回転数の増加と共に薄くなっているのが分かる。また、回転数の増加と共に孔径は小さくなり、孔密度は高くなっていく傾向が確認できる。
また、孔径分布は、スピンコーティング時の回転速度を低下させると増大する傾向が見られた。
【0161】
【表3】
【0162】
実施例2:2種類の溶媒を用いる方法
全ての操作は、クリーンルーム(クラス10,000)内にスピンコーター(Opticoat MS-A 100、MIKASA)を設置して行った。シリコン基板(KST World社製)を2.0cm x 2.0cmに切り、硫酸/30%過酸化水素水(3/1, v/v)に120℃で10分間浸漬した後、脱イオン水(抵抗率18MΩcm)にて洗浄した。酢酸エチルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる混合溶媒(酢酸エチル:DMSO=100:1, 100:3, 100:5, v/v)にて、ポリD,L乳酸(Mw:300kDa)を終濃度が各30 mg/mLとなるように調整した。基板をスピンコーターに設置し、調整した各溶液を滴下後、スピンコーティングの回転数(1000, 3000, 5000,7000 rpm)し60秒回転させた(室温32℃, 湿度32%)。作製後のナノシートは目視にて白濁が確認できた。
【0163】
成膜されたシリコン基板上ポリD,L乳酸ナノシート上にポリビニルアルコール水溶液(Mw:22,000、関東化学社製、100mg/mL)を滴下し、支持膜としてPVAフィルムをポリD,L乳酸ナノシート上に形成させ、ホットプレート(HOT PLATE NHP-M20、NISSIN)を用いて乾燥させた(30℃, 15分)。そして、シリコン基板からポリD,L乳酸ナノシートをPVAフィルムごと剥がし、真空乾燥器(KVO-300, AS ONE)を用いて真空乾燥させた(終夜)。表面構造は、分子間力顕微鏡(KEYENCE VN-8000 NANOSCALE hybrid microscope)、シリコン製カンチレバー(KEYENCE, OP-75041)を用いてタッピングモード( 1.67 - 3.33 Hz)でスキャンした。AFM像はVN Analyzer (KEYENCE) と ImageJ (NIH) softwareで処理をした。
図5の上から1段目(a1)〜(c1)、2段目(a2)〜(c2)がそれぞれ酢酸エチル:DMSOが100:1の上面と下面であり、3段目(d1)〜(f1)、4段目(d2)〜(f2)がそれぞれ酢酸エチル:DMSOが100:3の上面と下面であり、5段目(g1)〜(i1)、6段目(g2)〜(i2)がそれぞれ酢酸エチル:DMSOが100:5の上面と下面である。また、
図5の左から調製時の回転数が1000,3000,5000rpmである。また、表4に混合溶媒比の異なる3種類の系に対して、回転数を変化させた場合に得られたナノシートの特徴をまとめた。
【0164】
【表4】
【0165】
回転数が増加すると膜厚は減少し、あるいは、DMSOの量が増加すると膜厚は増加する傾向を示した。
【0166】
孔の総面積は、酢酸エチル:DMSO 比100:1の場合、孔密度がかなり低く回転数が増大すると共に孔の形成が困難になってゆく様子が認められた。酢酸エチル:DMSO 比100:3の場合、孔の密度は0.075/μm
2(1000rpm), 0.090/μm
2(3000rpm), 0.11/μm
2(5000rpm)であり、どれも良質な多孔質ナノシートが得られ、回転数と共に孔密度は増大していく様子が確認された。また、孔径は2.1μm(1000rpm), 1.8μm(3000rpm), 1.6μm(5000rpm)であり、回転数の増加と共に小さくなる傾向が認められた。100:5の場合、回転数が低いと大きくなった孔同士が融合しており孔密度の測定は困難となり、5000rpmでは孔径と孔密度が測定可能であった。また、上面と下面での孔の状況も異なっており、上面の方が孔の密度も径も大きくなっており、上面と下面では上面の方が孔の総面積は大きかった。これは上面からDMSOが抜けたためと思われる。100:5の系においても、1000rpmと3000rpmに関しては裏面では多孔質構造を確認できた。一般的に、回転速度が増加すると孔の大きさは減少し、数は増加する傾向が示された。また貧溶媒(DMSO)の含量が増加すると細孔の大きさ、数、すべて増加した。
また、孔径分布は、スピンコーティング時の回転速度を低下させると増大する傾向が見られた。
【0167】
以上のように、低沸点の良溶媒にわずかな高沸点の貧溶媒を混合した溶媒にナノシートを構成する高分子を溶解させ、これをスピンコーティングによりキャストすると、低沸点の良溶媒がまず除去された段階で貧溶媒が分散したナノシートが得られ、続いて貧溶媒が除去されることによって、多孔質ナノシートが得られた。
【0168】
実施例3:微粒子を凹凸を有する高分子膜の型に使う方法
全ての操作は、クリーンルーム(クラス10,000)内にスピンコーター(Opticoat MS-A 100、MIKASA)を設置して行った。シリコン基板(KST World社製)を2cm x 2cmに切り、硫酸/30%過酸化水素水に120℃で10分間浸漬した後、脱イオン水(抵抗率 18MΩcm)にて洗浄した。
【0169】
ポリスチレン(PS)微粒子(直径913nm)分散液(Polysciences社製)をポリビニルアルコール水溶液(Mw:22,000、関東化学社製、125mg/mL)にて10倍希釈し、ボルテックスミキサー(VOATEX-2-GENIE、G-560、Scientific Industries社)を用いて攪拌した。基板をスピンコーターに設置し、調整した溶液を滴下後、スピンコーティング(1000, 2000 ,3000 ,5000 rpm)し60秒回転させた(室温28℃, 湿度26%)。
【0170】
次に、溶媒として酢酸エチルを用いポリD,L乳酸(Mw:300kDa)を終濃度が30 mg/mlとなるように調整した。調製したポリD,L乳酸溶液を先ほど作製したPS 微粒子固定PVAフィルム上にスピンコーティング(3000rpm、60秒間)して製膜した(室温28℃, 湿度26%)。この複合ナノシートを純水に浸漬させPVAフィルムならびにPS微粒子を溶解させて多孔質のポリD,L乳酸ナノシートを得た。一端、水中で多孔質膜をフリースタンディング状態として上面あるいは下面が上に来るようにシリコン基板上に掬って乾燥させた。
【0171】
膜厚および表面観察を原子間力顕微鏡(NanoScale Hybrid Microscope、Keyence社, タッピングモード)にて測定した。PVA膜の膜厚は、1043 nm(1000 rpm), 782 nm(2000 rpm), 642 nm(3000 rpm), 533 nm(5000 rpm)であり、回転数の増大と共に膜厚は減少した。また、ポリD,L乳酸ナノシートのみの膜厚は約200nmであった。
図6は、左から1000、2000、3000、5000rpmで調製した系で、PS微粒子固定PVA膜(1段目: (a1)〜(d1))、そのPVA膜にポリD,L乳酸ナノシートを複合させた膜(2段目: (a2)〜(d2))、そして水処理後にてPVA膜ならびにPS微粒子を除去した後の多孔質ポリD,L乳酸ナノシートの上面(3段目: (a3)〜(d3))、下面(4段目: (a4)〜(d4))のAFM像である。また、その結果を表5に示した。
【0172】
【表5】
【0173】
したがって、このPS微粒子は直径が900nmであるので、尖端は膜厚が薄くなるほど露出しており、その露出度に応じてポリD,L乳酸ナノシートに孔が開く様子が確認された。具体的には、回転数1000nmではPS微粒子はわずかにしか露出せず、ポリD,L乳酸ナノシートの裏面に小さな孔が開いていたが、上面まで貫通しているものはわずかであった。2000rpm以上では、PVA膜とポリD,L乳酸ナノシートの膜厚を足してもPS微粒子の大きさには満たないために、ポリD,L乳酸ナノシートを貫通させるに十分PS微粒子は露出しており、表裏面とも同様な孔の形成、すなわち貫通孔が認められた。
【0174】
以上、微粒子が固定された水溶性の凹凸膜を型にして、その上にナノシートを構築し、水溶性凹凸膜を水に溶かして除去するとPS微粒子も除去されて、多孔質超薄膜が得られた。
【0175】
実施例4:析出微粒子を型に使う方法
ポリD,L乳酸を酢酸エチルに溶解させ終濃度を30mg/mLになる様に調整し、別に臭化リチウムの微粒子を酢酸エチルに終濃度60mg/mLになる様に加えて溶解させ、溶液を調製した。この2つの溶液10mg/mLをポリD,L乳酸:臭化リチウム比=5:1, 5:2, 5:3, 5:4, 5:5 (w/w)の割合で混合した。犠牲膜としてPVA(Mw: 22kD, 1wt%)をシリコン基板上に製膜後、各溶液をスピンコーティング(3000 rpm, 60秒)した。スピンコーティングにより酢酸エチルが蒸発して行く際に溶けていた臭化リチウムが析出し、微結晶が混在したナノシートが得られた。これを純水中に浸漬させることにより臭化リチウムを溶解させながら、シリコン基板から多孔質超薄膜を剥離させた。これをAFM観察用のシリコン基板に掬い取りAFM観察した。析出した臭化リチウムが溶解した部分が多孔質として観察された。結果を
図7と表6にまとめた。
【0176】
図7は上段からポリD,L乳酸:臭化リチウム比=10:1, 10:2, 10:3, 10:4, 10:5 (v/v)であり、左から1番目(a1)〜(e1)が臭化リチウムを除去する前の写真、2番目(a2)〜(e2)が臭化リチウムを水洗で除去した写真、3番目(a2)’〜(e2)’が小さな多孔領域を10倍に拡大した写真、4番目(a2)’’〜(e2)’’が大きな多孔領域を10倍に拡大した写真である。臭化リチウムの混合比の増大と共に、孔の大きさの分布が広くなると共に数が増加する傾向が認められた。
【0177】
【表6】
【0178】
実施例5: 膜厚に対する孔径の比
上記各実施例で得られた多孔質ナノシートについて、膜厚(film thickness)に対する孔径 (pore diameter)の比(aspect)を次のようにして求めた。
【0179】
【数1】
【0180】
各実施例で得られた多孔質ナノシートのアスペクト範囲は次の通りである。
【表7】
【0181】
実施例6: 2種類の高分子を用いる方法(2)
ポリビニルアルコール(PVA)(関東化学社製)を水に2.0重量%溶解した。得られたPVA溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材フィルムの片面に、グラビア印刷にて乾燥後の膜厚が約60 nmになるように塗布した。PVA溶液を、熱風乾燥式ドライヤー内にて80℃で10秒間乾燥し、基材フィルムの上にPVA層を含む積層フィルムを作成した。
さらに、ポリD,L-乳酸(PDLLA)(
PURSORB PDL20)及び
ポリスチレン(PS)(Chemco Co., Ltd.製)を酢酸エチルに高分子の総量2.0重量%で、かつPDLLA:PS比=1:9,2:8,3:7(w/w)となるように溶解した。得られたPDLLA/PS溶液を、上記PVA層の上にグラビア印刷にて、乾燥後の膜厚が190nmになるように塗布した。PDLLA/PS溶液を、熱風乾燥式ドライヤー内にて50℃で10秒間乾燥し、PVA層の上にPDLLA/PSナノシートを設けた積層フィルムを作成した。表8、
図9に混合比の異なる3種類の系に対して特徴をまとめた。
【0182】
【表8】
【0183】
図9は、左からPDLLA:PS比=1:9,2:8,3:7(w/w)のAFM像である。PDLLA:PS比=1:9,2:8(w/w)では島部の形状は円形であるのに対して、PDLLA:PS比=3:7(w/w)では、リボン形が得られた。
【0184】
PDLLA:PS比=2:8で得られた積層フィルムを基材フィルムごとイオン交換水に浸すとPVA犠牲膜が溶解して、自己支持性PDLLA/PSナノシートが剥離してくるので、ピンセットで操作して上面か下面が上に来るようにシリコン基板上に掬い取った。酢酸エチルはPDLLAの良溶媒であるが、PSの貧溶媒である。シリコン基板上のPDLLA-PSナノシートを基材フィルムごと酢酸エチルに浸漬するとPDLLAの領域のみが選択的に除去された。これにより、多孔質PSナノシートを得た。PDLLA/PSナノシート及び多孔質PSナノシートをAFM観察した。
【0185】
得られたPDLLA/PSナノシート及び多孔質PSナノシートの典型的なAFM像を
図10に示す。
図10の上段(a)及び(b)は、PDLLA/PSナノシートのAFM像である。明るい領域が相分離したPS領域である。
図10の下段(b1)及び(b2)は、酢酸エチルを用いてPDLLA領域を可溶化させてPS領域を残した場合の多孔質PSナノシートの表面のAFM像である。
図11は、
図10(a’)及び(b’)の多孔質PSナノシートの模式図である。
得られた多孔質PSナノシートは、膜厚190nmであり、平均10μm(約5μm〜約20μm、孔径分布値:±60%)のサイズの孔を6×10
-3個/μm
2の密度で有していた。
実施例5の方法で求めた多孔質PSナノシートのアスペクト範囲は、約10〜100であった。
【0186】
また、シクロヘキサンはPDLLAの貧溶媒であるが、PSの良溶媒である。PET基材上のPDLLA:PS比=2:8で得られたPDLLA-PSナノシートを基材フィルムごとシクロヘキサンに浸漬しPSを洗浄し、さらにイオン交換水へ浸潤させることで、自己支持性のPDLLAナノディスクを混合する水溶液を得た。これを遠心分離し、得られた濃縮液をシリコン基盤へ滴下し乾燥させ、AFM観察した。
【0187】
得られたPDLLAナノディスクの典型的なAFM像を
図12に示す。
図12の(a)、(b)及び(c)は、いずれも同一のシリコン基盤上に得られたPDLLAナノディスクのAFM像である。
(a)及び(c)ではシリコン基板上にPDLLAナノディスクの一層構造の、(b)ではPDLLAナノディスクの二層構造のAFM像である。
得られたPDLLAナノディスクは、膜厚59nmであり、直径平均8μm(3〜12μm)であった。
【0188】
以上、固体状態ではお互いに混ざり合わない2種類の高分子を共通溶媒に溶解させこれをキャストすることにより海島構造に相分離したブレンドナノシートを得、島部を構成する高分子の良溶媒にて処理をすることにより多孔質ナノシートが得られる。また、海部を構成する高分子の良溶媒にて処理をすることによりナノディスクが得られる。