特許第6322573号(P6322573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6322573複合酸化物薄膜製造用組成物及びこの組成物を用いた薄膜の製造方法、並びに複合酸化物薄膜
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  • 特許6322573-複合酸化物薄膜製造用組成物及びこの組成物を用いた薄膜の製造方法、並びに複合酸化物薄膜 図000019
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322573
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】複合酸化物薄膜製造用組成物及びこの組成物を用いた薄膜の製造方法、並びに複合酸化物薄膜
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/00 20060101AFI20180423BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C01G19/00 A
   C01G25/00
【請求項の数】14
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-512541(P2014-512541)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2013061729
(87)【国際公開番号】WO2013161735
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-100168(P2012-100168)
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-100174(P2012-100174)
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】竹元 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】徳留 功一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 賢二
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 稔
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131621(WO,A1)
【文献】 特開2005−097092(JP,A)
【文献】 特開平08−171824(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/123030(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/139310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)亜鉛元素、並びに(iii)4族元素および14族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物塗布膜の製造用組成物、または
(i)亜鉛元素、(ii)13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素、並びに(iii)4族元素および14族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物塗布膜の製造用組成物であって、
(I)下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の、前記有機亜鉛化合物に対する水のモル比0.05〜0.8の範囲での部分加水分解物の少なくとも1種、
(III)4族元素を含む化合物および該化合物の水による部分加水分解物、および14族元素を含む化合物および該化合物の水による部分加水分解物から成る群から選ばれる少なくとも1種、並びに
(IV)有機溶媒を含有するか、または
(I)下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の、前記有機亜鉛化合物に対する水をモル比0.05〜0.8の範囲での部分加水分解物の少なくとも1種、
(II)13族元素を含む化合物および該化合物の水による部分加水分解物、
(III)4族元素を含む化合物および該化合物の水による部分加水分解物、および14族元素を含む化合物および該化合物の水による部分加水分解物から成る群から選ばれる少なくとも1種、並びに
(IV)有機溶媒を含有し、
前記(II)に記載の13族元素を含む化合物が、下一般式(2)で表される化合物であり、かつ前記(II)に記載の13族元素化合物の水による部分加水分解物は、一般式(2)で表される13族元素化合物に対する水のモル比0.05〜0.8の範囲での部分加水分解物であり、
前記(III)に記載の4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物が、下記一般式(3)または(4)で表される4族元素化合物および14族元素化合物であり、かつ
前記(III)に記載の4族元素化合物の水による部分加水分解物および14族元素化合物の水による部分加水分解物は、一般式(3)または(4)で表される化合物に対する水のモル比0.05〜0.8の範囲での部分加水分解物であり、
前記14族元素がSi、GeおよびSnであり、かつ透明清澄溶液である、前記組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
(式中、Mは13族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基であり、Lはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフランから成る群から選ばれる少なくとも1種の配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
(式中、Mは4族元素または14族元素であり、R5、R6、R7、R8は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナート基、アミド基であり、Lはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフランから成る群から選ばれる少なくとも1種の配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (4)
(式中、Mは4族元素または14族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸根(NO3-)または硫酸根(SO42-)であり、Xがハロゲン原子または硝酸根の場合、cは1、dは2〜4、Xが硫酸根の場合、cは1、dは1または2、aは0〜9の整数である。)
【請求項2】
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の水による部分加水分解物、並びに有機亜鉛化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の水による部分加水分解物は、
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物並びに有機亜鉛化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の合計に対する水のモル比0.05〜0.8の範囲での部分加水分解物である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒が、電子供与性溶媒、炭化水素溶媒およびそれらの混合物のうち少なくとも一つを含み、前記電子供与性溶媒は、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、及びジオキサンから成る群から選ばれる少なくとも1種であり、前記炭化水素溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、及びシクロヘキサンから成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記一般式(2)の13族元素化合物がトリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリメチルボラン、及びトリエチルボランから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記13族元素がAl、GaおよびInであり、かつ
前記4族元素がTi、ZrおよびHfである、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物を、不活性ガス雰囲気下、基板表面に塗布し、次いで、得られた塗布膜を加熱する操作を少なくとも1回行うことを含む、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガス雰囲気が水蒸気を含有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
水蒸気を含有する不活性ガス雰囲気は、相対湿度2〜15%の範囲である請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物を、水蒸気を含有する不活性ガス雰囲気下、加熱された基板表面にスプレー塗布することを含む、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜の製造方法。
【請求項11】
水蒸気を含有する不活性ガス雰囲気は、大気圧または加圧下で、基板表面付近に水蒸気を供給することで形成する、請求項10に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
【請求項12】
基板表面の加熱温度が400℃以下である請求項10または11に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記水蒸気の供給量は、供給された前記組成物中の亜鉛に対する水のモル比が0.1〜5の範囲になるように行う請求項1012のいずれか1項に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
【請求項14】
前記複合酸化物薄膜が半導体膜である、請求項13のいずれか1項に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2012年4月25日出願の日本特願2012−100168号および2012年4月25日出願の日本特願2012−100174号の優先権を主張し、それらの全記載は、ここに特に開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有し、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置などのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)などに利用されるZTOやATO等の酸化物半導体膜等に適用可能な複合酸化物薄膜を調製可能な複合酸化物薄膜製造用組成物に関する。さらに本発明は、前記酸化物半導体膜等に適用可能な複合酸化物薄膜の製造方法、及びその製造方法を用いて作製した複合酸化物薄膜に関する。
【0003】
本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物は、有機亜鉛化合物と4族元素化合物、13族元素化合物および14族元素化合物から少なくとも2つ以上の元素含む化合物を原料として調製され、かつ発火性がなく取扱いが容易であり、さらにスピンコート塗布原料、ディップコート塗布原料またはスプレー熱分解塗布原料として用いた場合には、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜を提供できる。さらに、本発明の複合酸化物薄膜の製造方法によれば、有機亜鉛化合物と4族元素化合物、13族元素化合物および14族元素化合物から少なくとも2つ以上の元素を含む化合物を原料として調製され、さらにスピンコート塗布原料、ディップコート塗布原料やスプレー熱分解塗布原料として用いた場合には、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜を提供できる。
【背景技術】
【0004】
複合酸化物の一つである金属複合酸化物からなる酸化物半導体膜としては、例えばIn、GaおよびZnの酸化物(IGZO)からなる酸化物半導体膜が知られており、アモルファスSi膜よりも電子の移動度が大きいことを特徴として、近年注目を集めている。また、このような酸化物半導体膜は、アモルファスSi膜よりも電子の移動度が大きいことや可視光透過性が高いことから、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置などのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)などへの応用が期待されており、注目を集めている。
【0005】
一方、ZnおよびSnの酸化物(ZTO)、AlおよびSnの酸化物(ATO)さらに、ZTOにGa、In、Alなどの13族元素、Zr、Hfなどの4族元素を含む複合酸化物や、ATOにZnやGa、Inなどの13族元素、Zr、Hfなどの4族元素を含む複合酸化物の薄膜物性に興味が持たれており、IGZOと同様に、電子デバイス等への検討が進められている。
【0006】
このアモルファス酸化物膜の成膜方法としては、PVD法、スパッタリング法等、IGZOの焼結体を真空中で処理して薄膜を形成する方法が一般的に知られている。アモルファス酸化物膜の形成にはIGZOのスパッタリングターゲットが用いられることが知られている(特許文献1、非特許文献1、2)。
【0007】
一方、酸化物薄膜の形成においては、塗布法での成膜が知られている。この塗布法は、装置が簡便で膜形成速度が速いため生産性が高く製造コストが低い、真空容器を用いる必要がなく真空容器による制約がないため、大きな酸化物薄膜の作成も可能である、等の利点がある。
【0008】
一般的な酸化物薄膜形成のための塗布法として、スピンコート法(特許文献2)、ディップコート法(非特許文献3)、スプレー熱分解法(非特許文献4,5)等が挙げられる。
【0009】
この塗布法用酸化物薄膜の形成材料の例としては、透明導電膜等の用途を目的とした酸化亜鉛薄膜形成用材料が知られており、具体的には、酢酸亜鉛、アルコール系の有機溶媒に反応させながら溶解したジエチル亜鉛、ジエチル亜鉛を部分加水分解した組成物等が用いられている。
【0010】
一方、ZnおよびSnの酸化物(ZTO)、AlおよびSnの酸化物(ATO)の塗布による成膜においては、ZnやSnの塩化物、酢酸塩やアセチルアセトナト化合物、アルコキシド等が検討されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本特開2007−73312号公報
【特許文献2】日本特開平7−182939号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会編、透明導電膜の技術 改訂2版(2006)、p165〜173
【非特許文献2】H.Q.Chiang,et al.Appl.Phys.Lett.,86(13503),2005
【非特許文献3】Y. Ohya,et al.J.Mater.Sci.,4099(29),1994
【非特許文献4】F. Paraguay D,et al.Thin Solid Films.,16(366),2000
【非特許文献5】L. Castaneda,et al.Thin Solid Films.,212(503),2006
【非特許文献6】C.Seok−Jun,et al.,J.Phys.D:Appl.Phys.,42(035106),2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明者らは、非特許文献6に記載の材料を用いて前述のZTOやATO等の組成に調整し、スピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法で成膜を試みた。しかし、200℃以下において透明な酸化物薄膜を得ることは困難であった。
【0014】
本発明は、ジエチル亜鉛またはジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物の部分加水分解物やトリエチルアルミニウム等のアルキルアルミニウムまたはアルキルアルミニウム等の有機アルミニウムの部分加水分解物等の13族元素化合物または13族元素化合物の水による部分加水分解物をベースとする組成物で、ZTOやATO等の酸化物薄膜を成膜することができる新たな手段を提供することを目的とする。
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ジエチル亜鉛またはジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物の部分加水分解物やトリエチルアルミニウム等のアルキルアルミニウムまたはアルキルアルミニウム等の有機アルミニウムの部分加水分解物等の13族元素化合物または13族元素化合物の水による部分加水分解物をベースとし、Snなどの14族元素やZr、Hfなどの4族元素を含む新規な組成物を用いれば、塗布成膜することで、可視光線に対して80%以上の平均透過率をもってZTOやATO等の酸化物薄膜が容易に得られることを見出して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
(1−1)
亜鉛元素および13族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びに4族元素および14族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む複合酸化物製造用組成物であって、
亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物、前記化合物の水による部分加水分解物または前記化合物および前記部分加水分解物、並びに4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物、前記化合物の水による部分加水分解物または前記化合物および前記部分加水分解物を含有する前記組成物。
(1−2)
前記亜鉛元素を含む化合物が、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物である、1−1に記載の組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
(1−3)
前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物は、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、1−2に記載の組成物。
(1−4)
前記13族元素を含む化合物が、下式一般式(2)で表される13族元素化合物である、1−1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
(式中、Mは13族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
(1−5)
前記13族元素化合物の水による部分加水分解物は、一般式(2)で表される13族元素化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記13族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、1−4に記載の組成物。
(1−6)
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物が、下記一般式(3)または(4)で表される4族元素化合物および14族元素化合物である1−1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(式中、Mは4族元素または14族元素であり、R5、R6、R7、R8は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナート基、アミド基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (4)
(式中、Mは4族元素または14族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
(1−7)
前記4族元素化合物および14族元素化合物の水による部分加水分解物は、一般式(3)または(4)で表される化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記4族元素化合物および14族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、1−6に記載の組成物。
(1−8)
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の水による部分加水分解物、並びに亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の水による部分加水分解物は、
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物並びに亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物に、水を前記化合物の合計に対するモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう添加して、前記化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、1−1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
(1−9)
有機溶媒をさらに含有する1−1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
(1−10)
前記有機溶媒が、電子供与性溶媒、炭化水素溶媒およびそれらの混合物のうち少なくとも一つを含む1−9に記載の組成物。
(1−11)
前記有機溶媒の沸点が230℃以下である1−9または10に記載の組成物。
(1−12)
前記電子供与性溶媒は、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、炭化水素溶媒としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、及びシクロヘキサンから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む1−10に記載の組成物。
(1−13)
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である1−2〜12のいずれか1項に記載の組成物。
(1−14)
前記一般式(2)の13族元素化合物がトリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリメチルボラン、及びトリエチルボランから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む1−4〜13のいずれか1項に記載の組成物。
(1−15)
前記13族元素がAl、GaおよびInである、1−1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
(1−16)
前記4族元素がTi、ZrおよびHfである、1−1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
(1−17)
前記14族元素がSi、GeおよびSnである、1−1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
(2−1)
亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物、前記化合物の水による部分加水分解物または前記化合物および前記部分加水分解物、並びに4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物、前記化合物の水による部分加水分解物または前記化合物および前記部分加水分解物を含有する、亜鉛元素および13族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びに4族元素および14族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む複合酸化物製造用組成物を、不活性ガス雰囲気下、基板表面に塗布し、次いで、得られた塗布膜を加熱する操作を少なくとも1回行うことを含む、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜の製造方法。
(2−2)
前記亜鉛元素を含む化合物が、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物である、2−1に記載の製造方法。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
(2−3)
前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物は、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、2−2に記載の製造方法。
(2−4)
前記13族元素を含む化合物が、下式一般式(2)で表される13族元素化合物である、2−1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
(式中、Mは13族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
(2−5)
前記13族元素化合物の水による部分加水分解物は、一般式(2)で表される13族元素化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記13族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、2−4に記載の製造方法。
(2−6)
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物が、下記一般式(3)または(4)で表される4族元素化合物および14族元素化合物である2−1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
(式中、Mは4族元素または14族元素であり、R5、R6、R7、R8は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナート基、アミド基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (4)
(式中、Mは4族元素または14族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
(2−7)
前記4族元素化合物および14族元素化合物の水による部分加水分解物は、一般式(3)または(4)で表される化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記4族元素化合物および14族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、2−6に記載の製造方法。
(2−8)
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の水による部分加水分解物、並びに亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物の水による部分加水分解物は、
前記4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物並びに亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物に、水を前記化合物の合計に対するモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう添加して、前記化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、2−1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−9)
前記組成物は有機溶媒をさらに含有する2−1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−10)
前記有機溶媒が、電子供与性溶媒、炭化水素溶媒およびそれらの混合物のうち少なくとも一つを含む2−9に記載の製造方法。
(2−11)
前記有機溶媒の沸点が230℃以下である2−9または10に記載の製造方法。
(2−12)
前記電子供与性溶媒は、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、炭化水素溶媒としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、及びシクロヘキサンから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む2−10に記載の製造方法。
(2−13)
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である2−2〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−14)
前記一般式(2)の13族元素化合物がトリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリメチルボラン、及びトリエチルボランから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む2−4〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−15)
前記13族元素がAl、GaおよびInである、2−1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−16)
前記4族元素がTi、ZrおよびHfである、2−1〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−17)
前記14族元素がSi、GeおよびSnである、2−1〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−18)
前記不活性ガス雰囲気が水蒸気を含有する、2−1〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
(2−19)
水蒸気を含有する不活性ガス雰囲気は、相対湿度2〜15%の範囲である2−18に記載の製造方法。
(2−20)
2−1記載の複合酸化物製造用組成物を、水蒸気を含有する不活性ガス雰囲気下、加熱された基板表面にスプレー塗布することを含む、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜の製造方法。
(2−21)
水蒸気を含有する不活性ガス雰囲気は、大気圧または加圧下で、基板表面付近に水蒸気を供給することで形成する、2−20に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
(2−22)
基板表面の加熱温度が400℃以下である2−20に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
(2−23)
前記水蒸気の供給量は、供給された前記組成物中の亜鉛に対する水のモル比が0.1〜5の範囲になるように行う2−21または22に記載の複合酸化物薄膜の製造方法。
(2−24)
2−1〜23のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造した複合酸化物薄膜からなる酸化物半導体膜。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物を用いることで、ZTOやATO等の酸化物半導体膜等、有用な複合酸化物薄膜をスピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法等の塗布成膜で容易に成膜が可能であり、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】スプレー製膜装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[複合酸化物薄膜製造用組成物]
本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物は、亜鉛元素および13族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素、並びに4族元素および14族元素から成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む複合酸化物製造用組成物である。この組成物は、亜鉛元素を含む化合物および13族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物、前記化合物の水による部分加水分解物または前記化合物および前記部分加水分解物、並びに4族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物、前記化合物の水による部分加水分解物または前記化合物および前記部分加水分解物を含有する。
【0020】
(1)亜鉛元素を含む化合物
亜鉛元素を含む化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を挙げることができる。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
【0021】
前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物におけるR1として表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物は、R1が炭素数1、2、3、4、5、または6の化合物であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、特にR1が炭素数2である、ジエチル亜鉛であることが好ましい。
【0022】
(2)13族元素を含む化合物
13族元素を含む化合物としては、例えば、下式一般式(2)で表される13族元素化合物を挙げることができる。
(式中、Mは13族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基である)
【0023】
前記一般式(2)で表される13族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げることができる。また、R2、R3、及びR4は水素あるいは、アルキル基が好ましく、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。Lとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モルフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。特に、一般式(2)で表される化合物は、R2、R3、及びR4は炭素数1、2、3、4、5、または6の化合物であることが好ましく、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルボラン、トリエチルボラン、およびそれらの配位子による配位化合物等を挙げることができる。
【0024】
(3)族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物
族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物としては、例えば、下記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および14族元素化合物を挙げることができる。
(式中、Mは族元素または14族元素であり、R5、R6、R7、R8は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナート基、アミド基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (4)
(式中、Mは族元素または14族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
【0025】
前記一般式(3)で表される族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、例えば、Ti、Zr、Hfを挙げることができる。これらのアルキル化合物は一般的に不安定であり、式中のR5、R6、R7、R8はアルコキシル基やアシルオキシ基、アセトキシ基、アセチルアセトナト基、アミド基等の酸素や窒素元素を含む配位子であることが好ましい。例えば、これら配位子の具体例としては一般的に知られているアルコキシル基、アセトキシ基やアシルオキシ基、アセチルアセトナト基、アミド基等を挙げることができる。アルコキシル基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシド基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。さらにアセトキシ基などのアシルオキシ基、アセチルアセトナト基、トリメチルアミド、トリエチルアミド、イソプロピルアミド、tert−ブチルアミド等のアミド基等を挙げることができる。
【0026】
また、前記一般式(3)で表される14族元素化合物におけるMとして表される元素の具体例としては、例えば、Si、Ge、Snを挙げることができる。これら化合物の具体例としては一般的に知られているアルキル基、アルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナト基およびアミド基等を挙げることができる。R5、R6、R7、及びR8のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。アルコキシル基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシド基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。さらにアセトキシ基などのアシルオキシ基、アセチルアセトナト基、トリメチルアミド、トリエチルアミド、イソプロピルアミド、tert−ブチルアミド等のアミド基等を挙げることができる。
一般式(3)で表される14族元素化合物は、特にエチル錫、ブチル錫、メトキシ珪素、エトキシ珪素、イソプロポキシ珪素、tert−ブトキシ珪素、メトキシゲルマニウム、エトキシゲルマニウム、イソプロポキシゲルマニウム、tert−ブトキシゲルマニウム、メトキシ錫、エトキシ錫、イソプロポキシ錫、tert−ブトキシ錫、酢酸ゲルマニウム、酢酸錫、アセチルアセトナトゲルマニウム、アセチルアセトナト錫、ジメチルアミドゲルマニウム、ジイソプロピルアミドゲルマニウム、ジメチルアミド錫、ジイソプロピルアミド錫等を挙げることができる。
【0027】
一般式(3)で表される及び14族元素化合物におけるLとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モルフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。例えば、一般式(3)で表される族元素化合物は、例えば、メトキシチタン、エトキシチタン、イソプロポキシチタン、ブトキシチタン、メトキシジルコニウム、エトキシジルコニウム、イソプロポキシジルコニウム、ブトキシジルコニウム、メトキシハフニウム、イソプロポキシハフニウム、ブトキシハフニウム、酢酸チタン、酢酸ジルコニウム、酢酸ハフニウム、アセチルアセトナトチタン、アセチルアセトナトジルコニウム、アセチルアセトナトハフニウム、ジメチルアミドチタン、ジエチルアミドチタン、ジイソプロピルアミドチタン、ジtert−ブチルアミドチタン、ジメチルアミドジルコニウム、ジエチルアミドジルコニウム、ジイソプロピルアミドジルコニウム、ジtert−ブチルアミドジルコニウム、ジメチルアミドハフニウム、ジエチルアミドハフニウム、ジイソプロピルアミドハフニウム、ジtert−ブチルアミドハフニウムおよびこれらの配位化合物等を挙げることができる。
【0028】
前記一般式(4)で表される族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、例えば、Ti、Zr、Hfを挙げることができる。また、Xとして表される塩を形成する相手の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸を挙げることができる。例えば、一般式(4)で表される族元素化合物は、例えば、フッ化チタン、フッ化ジルコニウム、フッ化ハフニウム、塩化チタン、塩化ジルコニウム、塩化ハフニウム、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸ハフニウム、硫酸チタン、硫酸ジルコニウム、硫酸ハフニウムおよびそれらの水和物等を挙げることができる。
【0029】
前記一般式(4)で表される14族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、例えば、Si、Ge、Snを挙げることができる。また、Xとして表される塩を形成する相手の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸を挙げることができる。例えば、一般式(4)で表される14族元素化合物は、例えば、フッ化珪素、フッ化ゲルマニウム、フッ化錫、塩化珪素、塩化ゲルマニウム、塩化錫、臭化錫、硝酸ゲルマニウム、硝酸錫、硫酸錫およびそれらの水和物等を挙げることができる。
【0030】
前述の本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物には、具体的には以下の態様が含まれる。
(i)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物、前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物、または前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物及び前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物に、前記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および/若しくは14族元素化合物、前記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および/若しくは14族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物、または前記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および/若しくは14族元素化合物及びこの化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を加えた組成物。
【0031】
(ii)前記一般式(2)で表される13族元素化合物、前記一般式(2)で表される13族元素化合物の水による部分加水分解物、または前記一般式(2)で表される13族元素化合物及び前記一般式(2)で表される13族元素化合物の水による部分加水分解物に、前記一般式(3)または(4)で表される4族元素化合物および/若しくは14族元素化合物、前記一般式(3)または(4)で表される4族元素化合物および/若しくは14族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物、または前記一般式(3)または(4)で表される4族元素化合物および/若しくは14族元素化合物及びこの化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を加えた組成物。
【0032】
さらに下記組成物1〜9に、族元素を含む化合物および14族元素を含む化合物として、前記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および/若しくは14族元素化合物、前記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および/若しくは14族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物、または前記一般式(3)または(4)で表される族元素化合物および/若しくは14族元素化合物及びこの化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を加えた組成物。
【0033】
(i)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物を含む組成物(以下、組成物1と呼ぶことがある)
(ii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物2と呼ぶことがある)
(iii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物および前記一般式(2)で表される13族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物3と呼ぶことがある)
(iv)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と13族元素化合物を含有する組成物(以下、組成物4と呼ぶことがある)
(v)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と13族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物5と呼ぶことがある)
(vi)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物および前記一般式(2)で表される13族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物6と呼ぶことがある)
(vii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物を含有する組成物(以下、組成物7と呼ぶことがある)
(viii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物8と呼ぶことがある)
(ix)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と前記一般式(2)で表される13族元素化合物および13族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物9と呼ぶことがある)
【0034】
本発明の組成物においては、前記亜鉛化合物として、一般式(1)以外の化合物として、例えば、下記一般式(5)または(6)で表される亜鉛化合物を添加することができる。
9−M−R10・(L)n (5)
(式中、Mは亜鉛元素であり、R9、R10は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基(R9、R10がともにアルキル基を除く)炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナート基またはアミド基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (6)
(式中、Mは亜鉛元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは2、Xが硫酸の場合、cは1、dは1、aは0〜9の整数である。)
【0035】
一般式(1)以外の化合物として添加が可能な前記一般式(5)で表される亜鉛化合物の具体例としては、例えば、一般的に知られているアルキル基(前記一般式(5)において、R9、R10がともにアルキル基を除く)、アルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナト基およびアミド基等を含む化合物を挙げることができる。アルコキシル基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシド基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。さらにアセトキシ基などのアシルオキシ基、アセチルアセトナト基、トリメチルアミド、トリエチルアミド、イソプロピルアミド、tert−ブチルアミド等のアミド基等を挙げることができる。
【0036】
前記一般式(5)においてLとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モルフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。例えば、一般式(5)で表される亜鉛化合物は、特にジメトキシ亜鉛、ジエトキシ亜鉛、ジイソプロポキシ亜鉛、tert−ブトキシ亜鉛、酢酸亜鉛、アセチルアセトナト亜鉛、ビスジメチルアミド亜鉛、ビスジイソプロピルアミド亜鉛等およびそれらの配位化合物等を挙げることができる。
【0037】
前記一般式(6)で表される亜鉛化合物において、Xとして表される塩を形成する相手の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸を挙げることができる。例えば、一般式(6)で表される亜鉛化合物は、特に、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛およびそれらの水和物等を挙げることができる。
【0038】
さらに、本発明においては、前記13族元素化合物として、一般式(2)以外の化合物として、例えば、下記一般式(7)または(8)で表される13族元素化合物を添加することができる。
(式中、Mは13族元素であり、R11、R12、R13は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基(R11、R12、R13がすべてアルキル基を除く)、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、アシルオキシ基、アセチルアセトナート基またはアミド基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (8)
(式中、Mは13族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
【0039】
前記一般式(7)で表される13族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げることができる。また、R11、R12、及びR13は水素やアルキル基を挙げることができ(R11、R12、R13がすべてアルキル基を除く)、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。R2、R3、及びR4は、少なくとも1つが水素であり、残りがアルキル基であることも好ましい。また、アルコキシル基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシド基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。さらにアセトキシ基などのアシルオキシ基、アセチルアセトナト基、トリメチルアミド、トリエチルアミド、イソプロピルアミド等のアミド基等を挙げることができる。
【0040】
前記一般式(7)においてLとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モルフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。一般式(7)で表される13族元素化合物は、特に、ジボラン、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体、トリエチルボラン、トリブチルボラン、アラン−トリメチルアミン錯体、アラン−トリエチルアミン錯体、トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムヒドリド、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリイソプロポキシインジウム、トリイソプロポキシガリウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシインジウム、トリtert−ブトキシガリウムを挙げることができる。価格が安く入手が容易であるという点から、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリイソプロポキシインジウム、トリイソプロポキシガリウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシインジウム、トリtert−ブトキシガリウムが特に好ましい。
【0041】
13族元素化合物における13族元素および前記一般式(8)で表される13族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、例えば、B、Al、Ga、Inを挙げることができる。また、Xとして表される塩を形成する相手の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸を挙げることができる。一般式(8)で表される13族元素化合物は、例えば、フッ化ホウ素、塩化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化アルミニウム6水和物、硝酸アルミニウム9水和物、塩化ガリウム、硝酸ガリウム水和物、塩化インジウム、塩化インジウム4水和物、硝酸インジウム5水和物等を挙げることができる。
【0042】
なお、一般式(1)および(2)で表される化合物は、一般式(3)においてR5、R6、R7、R7が炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基である4族元素化合物または14族元素化合物のアルキル化合物と、一般式(5)または(6)で表される亜鉛化合物、一般式(7)または(8)で表される13族元素化合物等の内、上記アルキル基以外の置換基を有する化合物との間における置換基交換反応により、組成物の溶液内で生成することがある。本発明の組成物は、このような置換基交換反応により生じる化合物を含む組成物も包含する。
【0043】
さらに、本発明は、有機溶媒をさらに含有する上記組成物を包含する。
【0044】
本発明の組成物のより具体的な例としては、以下のものを挙げることができる。但し、これらの限定される意図ではない。
(A)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を有機溶媒に溶解した溶液に、前記一般式(3)および/または一般式(4)で表される4族元素化合物および/または14族元素化合物を含む生成物(以下、混合物1と呼ぶことがある)を含む組成物。
(B)前記一般式(2)で表される13族元素化合物を有機溶媒に溶解した溶液に、前記一般式(3)および/または一般式(4)で表される4族元素化合物および/または14族元素化合物を含む生成物(以下、混合物2と呼ぶことがある)を含む組成物。
(C)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、少なくも1つの13族元素を含んだ、前記一般式(2)および/または一般式(7)で表される13族元素化合物との混合物と前記一般式(3)および/または一般式(4)で表される4族元素化合物および/または14族元素化合物を含む生成物(以下、部分加水分解物1と呼ぶことがある)を含む組成物。
(D)前記一般式(1)で表される13族元素化合物を有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記13族元素化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、前記一般式(3)および/または一般式(4)で表される4族元素化合物および/または14族元素化合物を含む生成物(以下、部分加水分解物2と呼ぶことがある)を含む組成物。
【0045】
(E)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と少なくも1つの13族元素を含んだ、下記一般式(2)で表される13族元素化合物との混合物を有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(以下、部分加水分解物3と呼ぶことがある)と前記一般式(3)および/または一般式(4)で表される4族元素化合物および/または14族元素化合物を含む生成物と含む組成物。
(F)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と少なくも1つの13族元素を含んだ、下記一般式(2)で表される13族元素化合物と前記一般式(3)および/または一般式(4)で表される4族元素化合物および/または14族元素化合物を含む生成物との混合物を有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(以下、部分加水分解物4と呼ぶことがある)と含む組成物。
【0046】
本発明では、上記前述の金属を含む化合物を溶解するために有機溶媒を用いることができる。この有機溶媒としては、前述の亜鉛や13族元素、4族元素、14族元素の各化合物、またはそれら化合物の部分加水分解物を溶解するもので、使用に問題がなければ特に制限はないが、一般的に工業的に使用されているエーテルなどの電子供与性有機溶媒やヘキサン、トルエンなどの炭化水素化合物を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は単独または他の溶媒との混合物として使用してもよい。このような溶媒を用い、本発明の組成物を溶解して基板等に塗布することで、可視光線に対して80%以上の平均透過率をもってZTOやATO等の酸化物薄膜が容易に得られる。
【0047】
この電子供与性有機溶媒の例として、エーテル化合物、アミン化合物等を挙げることが出来、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物等の原料化合物及び水に対して溶解性を有するものであればよい。好ましい電子供与性有機溶媒の例としては、その沸点が230℃以下のものを例示することができ、例えば、ジn−ブチルエーテル(沸点142.4℃)、ジヘキシルエーテル(沸点226.2℃)、アニソール(沸点153.8℃)、フェネトール(沸点172℃)、ブチルフェニルエーテル(沸点210.3℃)、ペンチルフェニルエーテル(沸点214℃)、メトキシトルエン(沸点171.8℃)、ベンジルエチルエーテル(沸点189℃)、ジフェニルエーテル(沸点258.3℃)、ベラトロール(沸点206.7℃)、トリオキサン(沸点114.5℃)そして、1,2−ジエトキシエタン(沸点121℃)、1,2−ジブトキシエタン(沸点203.3℃)等のグライム、また、ビス(2−メトキシエチル)エーテル(沸点162℃)、ビス(2−エトキシエチル)エーテル(沸点188.4℃)、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル(沸点254.6℃)等のジグライム、さらに、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン(沸点216℃)、ビス[2−(2−メトキシエトキシエチル)]エーテル(沸点275℃)等のトリグライム、等のエーテル系溶媒、トリ−n−プロピルアミン(沸点150〜156℃)、トリ−n−ペンチルアミン(沸点130℃)、N,N−ジメチルアニリン(沸点193℃)、N,N−ジエチルアニリン(沸点217℃)、ピリジン(沸点115.3℃)等のアミン系溶媒等を挙げることができる。電子供与性有機溶媒としては、グライムの一種である1、2−ジエトキシエタン(沸点121℃)が、組成物調製時のゲルの抑制と溶媒自身の揮発性の両方の観点から好ましい。電子供与性有機溶媒の沸点の上限は、特にないが、得られた組成物を塗布した後に溶媒が除去されて塗膜となる際の乾燥時間が比較的短くなると言う観点からは、230℃以下であることが好ましい。
【0048】
また、本発明では、溶媒として炭化水素化合物を用いることが出来る。前記炭化水素化合物としては、炭素数5〜20のより好ましくは炭素数6〜12の直鎖、分岐炭化水素化合物または環状炭化水素化合物、炭素数6〜20の、より好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素化合物およびそれらの混合物を例示することが出来る。
【0049】
これら炭化水素化合物の具体的な例として、ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、イソヘキサン、メチルペンタン、オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)、n−ノナン、n−デカン、n−ヘキサデカン、オクタデカン、エイコサン、メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2−メチルオクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル等の炭化水素系溶媒を上げることが出来る。
【0050】
上記の電子供与性有機溶媒とは異なる種類の有機溶媒、炭化水素化合物の沸点の上限は、特にないが、得られた組成物を塗布した後に溶媒が除去されて塗膜となる際の乾燥時間が比較的短くなると言う観点からは、電子供与性化合物と同様に230℃以下であることが好ましい。また、金属を含む化合物の安定性向上の観点からは、本発明の組成物中に電子供与性化合物が含有しているほうが望ましい。
【0051】
前記一般式(1)で表される化合物を前記電子供与性有機溶媒または前記電子供与性有機溶媒を含有する混合有機溶媒に溶解した溶液における、前記一般式(1)〜(4)等で表される原料化合物の濃度は、4〜12質量%の範囲とすることが好ましい。前記有機溶媒に溶解した溶液における一般式(1)〜(4)等で表される原料化合物の濃度は、好ましくは6〜10質量%の範囲である。
【0052】
有機溶媒に前記化合物または部分加水分解物を溶解した組成物は、前述のように溶解や反応したものがそのまま組成物となるものや、例えば部分加水分解反応等で生成物を得た後に、電子供与性有機溶媒や炭化水素化合物等の有機溶媒を任意に添加してその組成を調整することで、本発明の組成物とすることが出来る。
【0053】
前記部分加水分解物の調製における水の添加量は、例えば、部分加水分解物1においては、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物に対するモル比を0.05〜0.8の範囲とし、部分加水分解物2においては、13族元素化合物の合計量に対するモル比を0.05〜0.8の範囲とすることが好ましい。部分加水分解物3においては、前記有機亜鉛化合物と13族元素化合物の合計量に対するモル比を0.05〜0.8の範囲とすることが好ましい。さらに部分加水分解物4のように有機亜鉛化合物と13族元素化合物にさらに4族元素化合物および/または14族元素化合物と共存させて水を添加して加水分解を行うことも可能である。この場合、前記有機亜鉛化合物と13族元素化合物の合計量に対するモル比を0.05〜0.8の範囲とすることが好ましいが、4族元素化合物や14族元素化合物も加水分解を受けるものであれば、有機亜鉛化合物や13族元素化合物の反応が影響しない範囲で、それらの合計量に対するモル比に対して0.01〜0.8の範囲の水を加えることもできる。
【0054】
水の添加量がこの範囲であることで得られる部分加水分解物を含む反応生成物は、スピンコート法、ディップコート法およびスプレー熱分解において、透明かつ導電性を有する酸化亜鉛薄膜を形成することができる。また、13族元素化合物を単独で部分加水分解する場合も、13族元素化合物に対する水のモル比を0.05〜0.8の範囲とすることが好ましい。
【0055】
例えば、水のモル比を0.4以上にすることにより、有機亜鉛化合物を部分加水分解する場合、原料中に含有する亜鉛を基準として90%以上の高収率で有機亜鉛化合物を部分加水分解した部分加水分解物を得ることができる。また、部分加水分解物2においては、13族元素化合物も適量が部分加水分解される。モル比を0.4以上にすることで、部分加水分解物1の場合は、未反応の原料である有機亜鉛化合物の残量を、部分加水分解物2の場合は、有機亜鉛化合物と13族元素化合物の残存量を抑えることができる。また、モル比を0.8以下にすることにより加水分解反応中のゲルの発生を抑制できる。加水分解反応中にゲルが発生すると、溶液の粘度が上がり、その後の操作が困難になる場合がある。水の添加モル比の上限は、上記観点から、好ましくは0.8、より好ましくは0.75である。
【0056】
この水の添加量を制御することで、組成物の粘度や沸点等の物性を制御することができる。例えば、スピンコート法等の反応を伴いにくい塗布の場合には水の添加量を増やすことで酸化物の成膜を容易にすることができる。また、スプレー法等では加水分解を行なわない化合物を用いるか、または水の添加を少なくした部分加水分解物を用いることで得られた本発明の組成物により、低温での成膜等を容易に行うことができる。
【0057】
部分加水分解物1においては、有機亜鉛化合物に水を添加した後に、13族元素化合物等を添加することから、水の添加量等によるが、添加した水が有機亜鉛化合物の加水分解に消費された後に13族元素化合物等が添加される場合には、前記生成物は、通常、前記13族元素化合物等の加水分解物は含まない。13族元素化合物等は、加水分解されず、原料のままで含有されるか、あるいは、有機亜鉛化合物の部分加水分解物が有する有機基と13族元素化合物等の有機基(配位子)が交換(配位子交換)したものになる可能性もある。部分加水分解物3においては、有機亜鉛化合物と13族元素化合物等の混合溶液に水を添加するので、前記生成物は、通常、前記13族元素化合物等の加水分解物を含む。13族元素化合物等の加水分解物は、水の添加量等によるが、部分加水分解物であることができる。
【0058】
水の添加は、水を他の溶媒と混合することなく水のみで行うことも、水を他の溶媒と混合して得た混合溶媒を用いて行うこともできる。局所的な加水分解の進行を抑制するという観点からは、混合溶媒を用いることが好ましく、混合溶媒中の水の含有率は、例えば、1〜50質量%の範囲であることができ、好ましくは2〜20質量%である。水との混合溶媒に用いることができる溶媒は、例えば、上記電子供与性有機溶媒であることができる。さらに、電子供与性有機溶媒としては、沸点が110℃以上の有機溶媒であっても、沸点が110℃未満の有機溶媒であってもよい。但し、ジエチル亜鉛に対して不活性かつ水の溶解性が高い必要があるという観点からは、沸点が110℃未満の有機溶媒であることが好ましい。
【0059】
水の添加は、反応の規模にもよるが、例えば、60秒〜10時間の間の時間をかけて行うことができる。生成物の収率が良好であるという観点から、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物に水または水との混合溶媒を滴下することにより添加することが好ましい。水の添加は、一般式(1)で表される化合物と電子供与性有機溶媒との溶液を攪拌せずに(静置した状態で)または攪拌しながら実施することができる。添加時の温度は、−90〜150℃の間の任意の温度を選択できる。−15〜30℃であることが水と有機亜鉛化合物の反応性という観点から好ましい。
【0060】
一般式(2)の13族元素化合物の加水分解は、一般式(1)の有機亜鉛化合物の反応よりもやや激しいが、上記一般式(1)の有機亜鉛化合物の反応同様の方法で行うことができ、反応条件も前述の反応条件を適切に選択することで同様に反応を制御することができる。一般式(3)および一般式(4)の4族元素化合物または14族元素化合物、一般式(5)および一般式(6)の亜鉛化合物、一般式(7)および一般式(8)の13族元素化合物の加水分解についても同様である。
【0061】
水の添加後に、水と一般式(1)で表される化合物と一般式(2)〜(4)で表される化合物、もしくは、水と一般式(1)で表される化合物との反応を進行させるために、例えば、1分から48時間、攪拌せずに(静置した状態で)置くか、または攪拌する。反応温度については、−90〜150℃の間の任意の温度で反応させることができる。反応温度は、5〜80℃の範囲であることが部分加水分解物を高収率で得るという観点から好ましい。反応圧力は制限されない。通常は、常圧(大気圧)で実施できる。水と一般式(1)で表される化合物との反応の進行は、必要により、反応混合物をサンプリングし、サンプルをNMRあるいはIR等で分析、もしくは、発生するガスをサンプリングすることによりモニタリングすることができる。
【0062】
前記の有機溶媒、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物、一般式(2)の13族元素化合物、一般式(3)および一般式(4)の4族元素化合物または14族元素化合物、一般式(5)および一般式(6)の亜鉛化合物、一般式(7)および一般式(8)の13族元素化合物および水または水との混合溶媒は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入することができる。これらの反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限はないが、回分操作式が望ましい。
【0063】
上記反応により、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物や前記一般式(2)の13族元素化合物およびそれらの混合物は、水により部分的に加水分解されて、部分加水分解物を含む生成物が得られる。一般式(1)の有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である場合、水との反応により得られる生成物についての解析は古くから行われているが、報告により結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されている訳ではない。また、水の添加モル比や反応時間等によっても、生成物の組成は変化し得る。
【0064】
例えば、部分加水分解物1については、下記一般式(9)で表される化合物であるか、あるいは、pが異なる複数種類化合物の混合物であると推定される。
1−Zn−[O−Zn]p−R1 (9)
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、pは2〜20の整数である。)
また、部分加水分解物2については、下記一般式(10)で表される化合物であるか、あるいは、pが異なる複数種類化合物の混合物であると推定される。
(式中、Mは一般式(2)におけるMと同じであり、Qは一般式(2)におけるR2、R3、R4のいずれかと同じであり、mは2〜20の整数である。)
【0065】
本発明においては、生成物の主成分は、例えば、部分加水分解物3については、下記一般式(11)および(12)で表される構造単位と前述の一般式(10)で表される構造単位を組み合わせた化合物であるか、あるいはmが異なる複数種類の化合物の混合物であると推察される。
(R1−Zn)− (11)
−[O−Zn]m− (12)
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、mは2〜20の整数である。)
【0066】
亜鉛元素(Zn)、13族元素(13)、4族元素(4)、14族元素(14)を含む複合酸化物薄膜製造用組成物において、Zn−4、Zn−14、Zn−4−14、13−4、13−14、13−4−14、Zn−13−4、Zn−13−14、Zn−13−4−14の各元素の組み合わせを含む複合酸化物を形成するための組成物における、Zn〜14の各元素の組成の割合は所望の本発明の各元素の組み合わせの複合酸化物を含む酸化物の組成となるように本発明で使用される一般式(1)〜(8)の各化合物のモル比を任意に調整することが可能である。このモル比は、報告されている複合酸化物の一般的な組成やそれらの酸素欠損化合物等が得られるように調整が可能であり、その他組成比も整数比に限らず、各元素の添加量を調製することで任意の組成のものを調製が可能である。
【0067】
例えば、上記ZTOやATOの成膜を目的とした組成物は、亜鉛やアルミニウムに14族元素としてSnを組成物中に含むものである。その組成の割合は所望のZTOやATOを含む酸化物の組成となるようにZnとSnおよびAlとSnのモル比を任意に調整することが可能である。このモル比は、報告されているZTOやATOの一般的な組成やそれらの酸素欠損化合物等が得られるように調整が可能であり、その他組成比も整数比に限らず、各元素の添加量を調製することで任意の組成のものを調製が可能である。
【0068】
本発明の組成物を用いることで得られる亜鉛元素(Zn)、13族元素(13)、4族元素(4)、14族元素(14)を含む複合酸化物は、以下の酸化物およびそれらを含む酸化物を例示することができる。
Zn−4の例:
ZnxTiyt、ZnxZryt、ZnxHfyt、ZnxTiyZryt、ZnxZryHfyt、ZnxHfyTiyt等、
Zn−14の例:
ZnxSnyt、ZnxGeyt、ZnxSiyt、ZnxSnySiyt、ZnxGeySnyt、ZnxSiyGeyt等、
Zn−4−14の例:
ZnxSnyZryt、ZnxGeyZryt、ZnxSiyZryt等、ZnxSnyZryHfyt、ZnxSnyZrySiyt、ZnxSnyHfyt、ZnxSnyTiyt、ZnxSnyGeyZryHfyt等、
【0069】
13−4の例:
AlxTiyt、AlxZryt、AlxHfyt、AlxTiyZryt、AlxZryHfyt、AlxHfyTiyt、InxTiyt、InxZryt、InxHfyt、InxTiyZryt、InxZryHfyt、InxHfyTiyt、GaxTiyt、GaxZryt、GaxHfyt、GaxTiyZryt、GaxZryHfyt、GaxHfyTiyt、InxAlxTiyt、InxAlxZryt、InxAlxHfyt、InxAlxTiyZryt、GaxAlxTiyZryt、InxAlxZryHfyt、InxAlxHfyTiyt、GaxInxAlxHfyTiyt等、
【0070】
13−14の例:
AlxSnyt、AlxGeyt、AlxSiyt、AlxSnySiyt、AlxGeySnyt、AlxSiyGeyt、GaxSnyt、GaxGeyt、GaxSiyt、GaxSnySiyt、GaxGeySnyt、GaxSiyGeyt、InxSnyt、InxGeyt、InxSiyt、InxSnySiyt、InxGeySnyt、InxSiyGeyt、InxAlxSnyt、InxAlxGeyt、InxAlxSiyt、InxAlxSnyGeyt、GaxAlxSnyGeyt、InxAlxGeySiyt、InxAlxSiySnyt、GaxInxAlxSnyGeyt等、
【0071】
13−4−14の例:
AlxSnyZryt、AlxGeyZryt、AlxSiyZryt、AlxSnyZryHfyt、AlxSnyZrySiyt、AlxSnyHfyt、AlxSnyTiyt、AlxSnyGeyZryHfyt、GaxSnyZryt、GaxGeyZryt、GaxSiyZryt、GaxSnyZryHfyt、GaxSnyZrySiyt、GaxSnyHfyt、GaxSnyTiyt、GaxSnyGeyZryHfyt、InxSnyZryt、InxGeyZryt、InxSiyZryt等、InxSnyZryHfyt、InxSnyZrySiyt、InxSnyHfyt、InxSnyTiyt、ZnxInyGeyZryHfyt等、InxAlxZnxSnyZryt、InxGaxGeyZryt、InxGaxSnyZryHfyt、AlxGaxSnyZrySiyt、InxGaxSnyHfyt、InxAlxSnyTiyt、AlxGaxSnyGeyZryHfyt等、
【0072】
Zn−13−4の例:
ZnxAlxTiyt、ZnxAlxZryt、ZnxAlxHfyt、ZnxAlxTiyZryt、ZnxAlxZryHfyt、ZnxAlxHfyTiyt、ZnxGaxTiyt、ZnxGaxZryt、ZnxGaxHfyt、ZnxGaxTiyZryt、ZnxGaxZryHfyt、ZnxGaxHfyTiyt、ZnxInxTiyt、ZnxInxZryt、ZnxInxHfyt、ZnxInxTiyZryt、ZnxInxZryHfyt、ZnxInxHfyTiyt、ZnxInxAlxTiyt、ZnxInxAlxZryt、ZnxInxAlxHfyt、ZnxInxAlxTiyZryt、ZnxInxAlxZryHfyt、ZnxInxAlxHfyTiyt、ZnxInxGaxTiyt、ZnxGaxAlxZryt、ZnxInxGaxHfyt、ZnxGaxAlxTiyZryt、ZnxGaxInxAlxZryHfyt、ZnxInxGaxHfyTiyt等、
【0073】
Zn−13−14の例:
ZnxAlxSnyt、ZnxAlxSiyt、ZnxAlxGeyt、ZnxAlxSnyGeyt、ZnxAlxSnySiyt、ZnxAlxSiyGeyt、ZnxGaxSnyt、ZnxGaxGeyt、ZnxGaxSiyt、ZnxGaxSnyGeyt、ZnxGaxSiyGeyt、ZnxGaxSnySiyt、ZnxInxSnyt、ZnxInxGeyt、ZnxInxSiyt、ZnxInxSnyGeyt、ZnxInxGeySiyt、ZnxInxSiySnyt、ZnxAlxSnyt、ZnxAlxGeyt、ZnxAlxSiyt、ZnxAlxSnySiyt、ZnxAlxGeySnyt、ZnxAlxSiyGeyt、ZnxInxAlxSnyt、ZnxInxSnxGeyt、ZnxInxAlxSnyt、ZnxInxAlxSnyGeyt、ZnxInxAlxSnySnyt、ZnxInxAlxSnySiyt、ZnxInxGaxSnyt、ZnxGaxAlxGeyt、ZnxInxGaxSiyt、ZnxGaxAlxSnyGeyt、ZnxGaxInxAlxSnyGeyt、ZnxInxGaxSnySiyt等、
【0074】
Zn−13−4−14の例:
ZnxAlxZrySnyt、ZnxInxZrySnyt、ZnxGaxZrySnyt、ZnxGaxAlxTiyZrySnyt、ZnxGaxInxAlxZryHfySnyt、ZnxInxGaxHfyTiySnyt、ZnxInxGaxHfyTiyGeyt等。
【0075】
上記の13、4及び14の元素は、一つまたは2つ以上含まれていてもよい。ここで、各元素の比率であるx、y、z、s、tは酸化物が得られる範囲で特に制限はなく、所望の複合酸化物により任意の数となりうるが、通常、0.1〜5の範囲で設定され、それらが得られるように上記一般式(1)〜(8)の各化合物のモル比を調整して組成物とすることができる。これ複合酸化物においては、それらの酸素欠損化合物等が得られるように調製が可能であり、その他組成比も整数比に限らず、各元素の添加量を調製することで任意の組成のものを調製が可能である。
【0076】
本発明の組成物を用いることで、Zn、Snの酸化物(ZTO)やAl、Snの酸化物(ATO)等の酸化物薄膜の形成が可能である。さらに、本発明のZn13、4及び14以外の元素で、1A族元素であるアルカリ金属、2A族元素であるアルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイドなどの希土類、3A、5A、6A,7A族元素、8族元素である貴金属や遷移金属、5B族元素など、その他の酸化物を形成可能な金属化合物を共存させることで、Zn〜4の元素とそれら以外の元素を含む複合酸化物を形成されるような組成物としてもよい。
【0077】
特に本発明の組成物は、前述のようにして調製された亜鉛を含む化合物として、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物およびジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物を用いることができる。この添加は、組成物を加水分解することで、有機亜鉛化合物および有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物に結合しているアルキル基R1(ここで、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基)から主として生成する炭化水素R1Hの同定、定量により確認される。例えば、ジエチル亜鉛の場合、加水分解により生成するガスの主成分はエタンとなる。
【0078】
なお、この有機亜鉛化合物および有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物に結合しているアルキル基R1(ここで、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基)は、共存する13族元素化合物の一般式(2)に示されるR2、R3、R4(R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基)との交換反応によっても生成する場合がある。
【0079】
上記方法で調製した溶液は、複合酸化物薄膜形成用の塗布用の溶液としてそのまま使用できる。あるいは、適宜希釈または濃縮することもできるが、製造工程を簡素化できるという観点からは、上記方法で調製した溶液が、そのまま酸化複合酸化物形成用の塗布用の溶液として使用できる濃度であることが好ましい。
【0080】
[複合酸化物薄膜の製造方法]
本発明の複合酸化物薄膜の製造方法について説明する。本発明の複合酸化物薄膜の製造方法は、前記本発明の複合酸化物薄膜形成用組成物を用いる複合酸化物薄膜の製造方法である。この製造方法においては、基板表面に本発明の複合酸化物薄膜形成用組成物を塗布し、次いで、得られた塗布膜を加熱して複合酸化物薄膜を得る。
【0081】
基板表面への塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー熱分解法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の慣用手段により実施できる。塗布を例えば、スピンコート法、ディップコート法またはスプレー熱分解法で行う場合には、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜を形成することができる。換言すると、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜を形成するという観点からは、塗布法は、例えば、スピンコート法、ディップコート法、またはスプレー熱分解法で行うことが好ましい。
【0082】
組成物の基板表面への塗布は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下、水蒸気を多く含有した相対湿度が高い空気雰囲気下、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、もしくは、それらの混合ガス雰囲気下等のいずれかの雰囲気下、かつ、大気圧または加圧下で実施することができる。
【0083】
組成物の基板表面への塗布は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。塗布成膜雰囲気の圧力は、大気圧または加圧下で実施することができ、減圧下でも行うことができる。また、この不活性ガス雰囲気下においては、微量の酸素や水分が酸化物の形成に必要な酸素源として利用される場合があり、不活性ガス薄膜の膜質に影響のない範囲で、酸素または水分等の酸素を含むガス成分が含まれていても差し支えない。
【0084】
スピンコート法、ディップコート法においては、不活性ガス雰囲気下で形成しても良く、さらには、不活性ガスと水蒸気を混合させることにより相対湿度2〜15%にした雰囲気下で行っても良い。
【0085】
スプレー熱分解法は、基板を加熱しながらできる方法であり、そのため、塗布と並行して溶媒を乾燥させることができ、条件によっては、溶媒乾燥のための加熱が不要である場合もある。さらに、条件によっては、乾燥に加えて、本発明の組成物の複合酸化物への反応も少なくとも一部、進行する場合もある。そのため、後工程である、所定の温度での加熱による複合酸化物薄膜形成をより容易に行える場合もある。基板の加熱温度は、例えば、50〜550℃の範囲であることができる。
【0086】
図1に、スプレー熱分解法で用いることができるスプレー製膜装置を示す。図中、1は塗布液を充填したスプレーボトル、2は基板ホルダ、3スプレーノズル、4はコンプレッサ、5は基板、6は水蒸気導入用チューブを示す。スプレー塗布は、基板を基板ホルダ2に設置し、必要によりヒーターを用いて所定の温度まで加熱し、その後、所定の雰囲気中で、基板の上方に配置したスプレーノズル3から圧縮した不活性ガスと塗布液を同時供給し、塗布液を霧化、噴霧させることにより基板上に複合酸化物薄膜を形成することができる。複合酸化物薄膜は、スプレー塗布することで、追加の加熱等することなしに形成される。
【0087】
塗布液のスプレー塗布は、塗布液をスプレーノズルより液滴の大きさが1〜15μmの範囲になるように吐出し、かつスプレーノズルと基板との距離を50cm以内として行うことが、良好な膜特性を有する複合酸化物薄膜を製造することができるという観点から好ましい。
【0088】
基板への付着性、溶媒の蒸発の容易性等を考慮すると、スプレーノズルより吐出される液滴の大きさについては、全ての液滴の大きさが1〜30μmの範囲にあることが好ましい。液滴の大きさは、より好ましくは3〜20μmの範囲にある。
【0089】
スプレーノズルから基板に到達するまでに溶媒が幾分蒸発し液滴の大きさが減少すること等を考慮すると、スプレーノズルと基板との距離は50cm以内であることが好ましい。スプレーノズルと基板との距離は、複合酸化物薄膜の形成が良好にできるという観点から、好ましくは2〜40cmの範囲である。
【0090】
スプレー熱分解法においては、不活性ガス雰囲気下で水蒸気導入用チューブ6から水蒸気を導入して組成物の分解を促進させることが、良好な膜特性を有する複合酸化物薄膜を形成するという観点から好ましい。例えば、水蒸気の導入量は、供給された前記組成物中の亜鉛、13族元素、4族元素及び14族元素の合計量に対するモル比で0.05〜5であることが好ましく、透明度の高い複合酸化物薄膜を得るという観点から、0.1〜3であることがさらに好ましい。
【0091】
水蒸気の導入方法は、あらゆる慣用の方法に従って複合酸化物薄膜製造装置に導入することができる。水蒸気と組成物は加熱された基板付近で反応することが好ましく、例えば、水を不活性ガスでバブリングすることにより作製された水蒸気を含有する不活性ガスを加熱された基板付近に管で導入することが挙げられる。
【0092】
基板表面へ塗布液を塗布した後、必要により基板を所定の温度とし、溶媒を乾燥した後、所定の温度で加熱することにより複合酸化物薄膜を形成させる。
【0093】
溶媒を乾燥する温度は、例えば、20〜200℃の範囲であることができ、共存する有機溶媒の種類に応じて適時設定することができる。溶媒乾燥後の複合酸化物形成の為の加熱温度は、例えば、50〜550℃の範囲であり、好ましくは50〜500℃の範囲である。溶媒乾燥温度とその後の複合酸化物形成の為の加熱温度を同一にし、溶媒乾燥と複合酸化物形成を同時に行うことも可能である。
【0094】
必要に応じて、さらに、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、水素、アルゴン、酸素等のプラズマ雰囲気下で、上記加熱を行うことにより酸化亜鉛の形成を促進、または、結晶性を向上させることも可能である。複合酸化物薄膜の膜厚には特に制限はないが、実用的には0.05〜2μmの範囲であることが好ましい。上記製造方法によれば、スプレー熱分解法以外の場合、上記塗布(乾燥)加熱を1回以上繰り返すことで、上記範囲の膜厚の薄膜を適宜製造することができる。
【0095】
上記製造方法により形成される複合酸化物薄膜は、塗布方法及びその後の乾燥条件や加熱条件により変化する。体積抵抗率は単位体積当りの抵抗であり、表面抵抗と膜厚を掛けることにより求められる。表面抵抗は例えば四探針法により、膜厚は例えばSEM測定、触針式段差膜厚計等により測定される。体積抵抗率は、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱による複合酸化物の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の体積抵抗率が所望の抵抗値となるよう考慮して、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0096】
上記製造方法により形成される複合酸化物薄膜は、好ましくは可視光線に対して80%以上の平均透過率を有するものであり、より好ましくは可視光線に対して85%以上の平均透過率を有する。「可視光線に対する平均透過率」とは、以下のように定義され、かつ測定される。可視光線に対する平均透過率とは、380〜780nmの範囲の光線の透過率の平均を云い、紫外可視分光光度計により測定される。尚、可視光線に対する平均透過率は、550nmの可視光の透過率を提示することによっても表現できる。可視光線に対する透過率は、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱による酸化亜鉛の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の可視光線に対する透過率が80%以上になるよう考慮してスプレー塗布時もしくは塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0097】
基板として用いられるのは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、透明基材フィルムであることができ、透明基材フィルムはプラスチックフィルムであることができる。但し、これら例示の材料に限定される意図ではない。
【0098】
[複合酸化物薄膜の用途]
上記方法により作製した複合酸化物薄膜は、優れた透明性と移動度を有することから、帯電防止膜、紫外線カット膜、透明導電膜等として使用できる。帯電防止膜は、例えば、固体電界コンデンザ、化学増幅系レジスト、窓ガラス等の建材等の分野に利用できる。紫外線カット膜は、例えば、画像表示装置の前面フィルター、ドライブレコーダー等の撮像装置、高圧放電ランプ等の照明器具、時計用カバーガラス、窓ガラス等の建材等の分野に利用できる。さらに、透明導電膜は、例えば、FPD、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル、薄膜シリコン太陽電池および化合物(CdTe、CIS)系薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機系薄膜太陽電池等の分野に利用できる。
【0099】
特に、ZTOやATO等の複合酸化物はそれらからなる酸化物半導体膜として、In、GaおよびZnの酸化物(IGZO)からなる酸化物半導体膜とともにアモルファスSi膜よりも移動度が大きいことを特徴として液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置などのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)などへの分野への利用が可能である。この薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型トランジスタは、半導体メモリ集積回路の単位電子素子、高周波信号増幅素子、液晶駆動用素子等として広く用いられており、現在、最も多く実用されている電子デバイスである。但し、これらの分野に限定される意図ではない。
【実施例】
【0100】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。全ての有機亜鉛化合物からの部分加水分解物を含む生成物の調製およびそれを用いた成膜は水分を制御した窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0101】
[実施例1]
テトラtert−ブトキシ錫0.66gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液6.6gおよびジエチル亜鉛0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn=1:1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTOとして、ZnSnOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0102】
[実施例2]
テトラtert−ブトキシ錫0.53gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液5.3gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=4.24wt%)2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn=である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTOとして、ZnSnOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0103】
[実施例3]
テトラtert−ブトキシ錫0.72gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液7.2gおよびトリエチルアルミニウム0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてATOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はAl:Sn=1:1である。この組成物は、おおよその存在比から、ATOとして、AlSnOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0104】
[実施例4]
テトラtert−ブトキシ錫0.66gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液6.6g、トリエチルアルミニウム0.0092gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.092gおよびジエチル亜鉛0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTAOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:Al=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTAOとして、Zn10Sn10AlOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0105】
[実施例5]
テトラtert−ブトキシ錫0.66gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液6.6g、トリエチルガリウム0.025gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.25gおよびジエチル亜鉛0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTGOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:Ga=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその整数比から、ZTGOとして、Zn10Sn10GaOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0106】
[実施例6]
テトラtert−ブトキシ錫0.66gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液6.6g、トリメチルインジウム0.026gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.26gおよびジエチル亜鉛0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTIOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:In=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTIOとして、Zn10Sn10InOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0107】
[実施例7]
テトラtert-ブトキシ錫0.66gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液6.6g、テトラtert-ブトキシジルコニウム0.062gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.62gおよびジエチル亜鉛0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTZrOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:Zr=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTZrOとして、Zn10Sn10ZrOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0108】
[実施例8]
テトラtert−ブトキシ錫0.53gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液5.3g、トリエチルアルミニウム0.0074gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.15gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=4.24wt%)2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTAOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:Al=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTAOとして、Zn10Sn10AlOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0109】
[実施例9]
テトラtert−ブトキシ錫0.53gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液5.3g、トリエチルガリウム0.020gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.20gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=4.24wt%)2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTGOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:Al=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTGOとして、Zn10Sn10GaOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0110】
[実施例10]
テトラtert−ブトキシ錫0.53gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液5.3g、トリメチルインジウム0.062gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.62gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=4.24wt%)2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTIOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:In=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTIOとして、Zn10Sn10InOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0111】
[実施例11]
テトラtert−ブトキシ錫0.53gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液5.3g、テトラtert-ブトキシジルコニウム0.050gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.50gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=4.24wt%)2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてZTZrOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はZn:Sn:Zr=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ZTZrOとして、Zn10Sn10ZrOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0112】
[実施例12]
テトラtert−ブトキシ錫0.72gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液7.2g、ジエチル亜鉛0.022gが溶解した1,2−ジエトキエタン溶液0.27gおよびトリエチルアルミニウム0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてATZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はAl:Sn:Zn=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ATZOとして、Al10Sn10ZnOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0113】
[実施例13]
テトラtert−ブトキシ錫0.72gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液7.2g、トリエチルガリウム0.027gが溶解した1,2−ジエトキエタン溶液0.27gおよびトリエチルアルミニウム0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてATGOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はAl:Sn:Ga=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ATGOとして、Al10Sn10GaOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0114】
[実施例14]
テトラtert−ブトキシ錫0.72gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液7.2g、トリメチルインジウム0.028gが溶解した1,2−ジエトキエタン溶液0.28gおよびトリエチルアルミニウム0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてATIOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はAl:Sn:In=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ATIOとして、Al10Sn10InOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0115】
[実施例15]
テトラtert−ブトキシ錫0.72gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液7.2g、テトラtert-ブトキシジルコニウム0.067gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.67gおよびトリエチルアルミニウム0.2gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液2.0gを室温で混合し、複合酸化物としてATZrOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比はAl:Sn:Zr=1:1:0.1である。この組成物は、おおよその存在比から、ATZrOとして、Al10Sn10ZrOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図したものである。
【0116】
[実施例16]
実施例1で得たZnSnOx(xは成膜条件により異なる任意の数)の成膜を意図した組成物の透明清澄な溶液部分(0.2μmPTFE製フィルターでろ過)を塗布液として、塗布成膜に使用した。この生成物含有塗布液を窒素雰囲気下でスピンコート法により18mm角のEAGLE XG(R)(コーニング社製)ガラス基板表面上に室温で塗布した。
その後、基板を150℃で5分加熱することで溶媒を乾燥させ、さらに200℃、5分加熱した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。
得られた薄膜は透明であり、透過率は550nmにおいて93%であった。また、本薄膜をFT−IRで分析を行い、原料由来のtert−ブトキシ基やエチル基などCHの各振動に帰属されるピークの消失を確認した。さらに、XRDで本薄膜を分析し、結晶性のピークが存在しないことを確認した。
【0117】
[実施例17]
実施例16と同様の操作を3回繰り返した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。得られた薄膜は透明であり、透過率は550nmにおいて89%であった。また、本薄膜をFT−IRで分析を行い、原料由来のtert−ブトキシ基やエチル基などCHの各振動に帰属されるピークの消失を確認した。
【0118】
[実施例18]
実施例16と同様の操作を5回繰り返した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。得られた薄膜は透明であり、透過率は550nmにおいて85%であった。
【0119】
[実施例19〜32]
実施例2〜15で得られた組成物を塗布液として用いて、実施例16と同様にして塗布成膜を1回行い、複合酸化物薄膜を形成した。各組成物は、透明清澄な溶液部分を使用するか、または、実施例1と同様に0.2μmPTFE製フィルターでろ過して使用した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。得られた薄膜の外観と透過率を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
[実施例33〜46]
実施例2〜15で得られた組成物を塗布液として用いて、実施例17と同様にして塗布成膜を3回行い、複合酸化物薄膜を形成した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。得られた薄膜の外観と透過率を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
[実施例47〜60]
実施例2〜15で得られた組成物を塗布液として用いて、実施例18と同様にして塗布成膜を5回行い、複合酸化物薄膜を形成した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。得られた薄膜の外観と透過率を表3に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
[実施例61〜72]
前記実施例で得た組成物を塗布液として用いて製膜し、実施例47〜60で得られた複合酸化物薄膜を窒素雰囲気下において、300℃で5分、400℃で5分、500℃で5分の各条件下において順に熱処理を行った。加熱後の薄膜は空気中に取り出した。得られた薄膜の透過率を表4、5および6に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
[実施例95]
実施例2で得た各生成物含有塗布液の透明清澄な溶液部分を、塗布成膜に使用した。この生成物含有塗布液を窒素雰囲気下でスピンコート法により18mm角の石英ガラス基板表面上に室温で塗布した。その後、基板を150℃で5分加熱することで溶媒を乾燥させた。本成膜では、溶媒の乾燥温度・時間内で焼成も同時に行った。本操作を繰り返して計3回塗布を繰り返して薄膜を製膜した。成膜した薄膜は空気中に取り出した。
得られた薄膜は透明であり、透過率は550nmにおいて94%であった。また、本薄膜をFT−IRで分析を行い、原料由来のtert−ブトキシ基やエチル基などCHの各振動に帰属されるピークの消失を確認した。
【0130】
[実施例96〜99]
実施例8、9、10および11で得た塗布液を用いて、実施例95と同様の成膜および物性評価を行った。得られた薄膜性状および物性について表7に示す。
【0131】
【表7】
【0132】
[実施例100]
実施例98で得られた薄膜を、RTA(Rapid Thermal Annealing:急速熱アニール処理)装置を用い、空気雰囲気下で、熱処理前、200℃、400℃、600℃および800℃の各温度で30分熱処理を行い、各温度での酸化物の構造の変化をXRDで確認した。熱処理前、前述の熱処理条件においては、結晶性のピークは観測されず、2θ=26〜40°にブロードなアモルファスと考えられるピークを確認した。さらに、800℃の1時間の熱処理を行うことで、2θ=26°、32°、34°および52°付近に亜鉛および錫の酸化物に相当する結晶性のピークを確認した。
【0133】
[実施例101]
実施例99で得られた薄膜を、RTA(Rapid Thermal Annealing:急速熱アニール処理)装置を用い、空気雰囲気下で、熱処理前、200℃、400℃、600℃および800℃の各温度で30分熱処理を行い、各温度での酸化物の構造の変化をXRDで確認した。熱処理前、前述の熱処理条件においては、結晶性のピークは観測されず、2θ=26〜40°にブロードなアモルファスと考えられるピークを確認した。さらに、800℃の熱処理において、を2θ=26°、32°、34°および52°付近に亜鉛および錫の酸化物に相当する結晶性のピークを確認した。
【0134】
[比較例1]
実施例1において、テトラtert−ブトキシ錫の代わりにビスアセチルアセトナト錫、ジエチル亜鉛の代わりに酢酸亜鉛を用い、溶媒として2−メトキシエタノール、助剤としてエタノールアミンを用いて、同様の組成の塗布液を調製した。
【0135】
得られた塗布液を、実施例18と同様に200℃で成膜を実施して薄膜を得た。550nmの可視光透過率は60%であり、透過度が低い薄膜しか得られなかった。
【0136】
[比較例2]
実施例3において、テトラtert−ブトキシ錫の代わりに塩化錫およびトリエチルアルミニウムの代わりに酢酸アルミニウムを用い、溶媒として2−メトキシエタノール、助剤としてエタノールアミンを用いて、同様の組成の塗布液を調製した。
【0137】
得られた塗布液を、実施例18と同様に200℃で成膜を実施して薄膜を得た。550nmの可視光透過率は65%であり、透過度が低い薄膜しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、亜鉛、13族元素、4族元素および/または14族元素の酸化物を含む複合酸化物薄膜の製造分野に有用である。
【符号の説明】
【0139】
1・・・スプレーボトル、
2・・・基板ホルダ(ヒーター付)、
3・・・スプレーノズル、
4・・・コンプレッサ−、
5・・・無アルカリガラス基板、
6・・・水蒸気導入用チューブ
図1