【実施例】
【0049】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
《抽出物の収量》
(実施例1)
エノキタケの子実体の粉末をヘキサン中に懸濁した後、4℃、12時間以上放置した懸濁液を濾紙(No.1、ADVANTEC社製)で濾過することで得られた固形成分を試料として準備した。
前記試料2gを、10%酢酸溶液20mlに懸濁させた後に、遠心分離(25000×g、4℃、15分)して沈殿物を得た。かかる沈殿物2.5gをさらに10%酢酸溶液20mlに懸濁させた後に遠心分離(25000×g、4℃、15分)して沈殿物を得た。
次に、前記沈殿物2.5gを、エタノール(−20℃)20ml中に入れ、遠心分離(25000×g、15分間)を2回繰り返して洗浄し、ドラフトチャンバー内で完全にエタノールを揮発させた沈殿物を、100℃の水の中に30分間浸漬した後、40℃になるまで冷却し、混合して、遠心分離(25000×g、4℃、15分)した上澄みをエノキタケ抽出物として得た。
【0051】
(実施例2)
前記実施例1と同様の試料を、酢酸溶液に懸濁させる処理を行なわない以外は、実施例1と同様に処理して得られたエノキタケ抽出物を実施例2とした。
【0052】
(比較例1)
前記実施例1の10%酢酸溶液を、Washing Buffer液(0.1M Tris−HCl、pH8.0、10mM MgSO
4、1mM PMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)の超純粋溶液)に5%(質量%)となるようにトリクロロ酢酸を溶解したものに代え、100℃の水に代えて100℃のドデシル硫酸ナトリウム水溶液(2質量%)で浸漬した以外は、実施例1と同様の方法で得たエノキタケ抽出液を比較例1とした。
【0053】
(比較例2)
前記実施例1のエタノールによる処理を行わない以外は、実施例1と同様の方法で得たエノキタケ抽出液を比較例2とした。
【0054】
(比較例3)
前記実施例1の100℃の水による処理を行わない以外は、実施例1と同様の方法で得たエノキタケ抽出液を比較例3とした。
【0055】
(比較例4)
前記実施例1と同様の試料2gを100℃の水の中に30分間浸漬した後、遠心分離(25000×g、4℃、15分)した上澄みを比較例4のエノキタケ抽出物として得た。
【0056】
前記実施例1、2および比較例1乃至4のエノキタケ抽出液中からタンパク質濃度を以下の方法で測定した。
【0057】
[タンパク質量測定方法]
本実施例においてタンパク質量の測定はLowry法に従い測定した。
Lowry法用のキットとしては、RC DCプロテインアッセイ(バイオラッド社製)を用いた。
使用試薬は、前記キット中のDCプロテインアッセイ試薬のA試薬250μl、同S試薬5μlを混合したA´試薬を用いた。
前記A´試薬と、実施例1乃至比較例4のエノキタケ抽出液を50μlとを、ボルテックスミキサーで1分間混合した後に、さらに前記DCプロテインアッセイ試薬のB試薬を2.0ml添加してボルテックスミキサーで1分間混合した。
この試薬と混合した試料について、分光光度計(U−2001 Spectrophotometer 日立製作所社製)で750nmでの吸光度を測定した。ブランクとして、超純水(Mill−Q)を用いた。
標準液としてBSA(牛血清アルブミン)溶液を用いて検量線を作成し、かかる検量線から実施例1乃至比較例4のタンパク質濃度を算出した。
結果は、以下のとおりであった。
【0058】
実施例1:0.86 質量%
実施例2:0.30 質量%
比較例1:1.50 質量%
比較例2:0.018 質量%
比較例3:0.0079 質量%
比較例4:0.046 質量%
【0059】
実施例1、2は、SDSを用いなくても、比較的多くのタンパク質が抽出されている。特に、実施例1は比較例1と同等程度のタンパク質が抽出されている。
また、比較例2乃至4では、実施例1および2に比べ少量のタンパク質しか抽出されなかった。
【0060】
《乳化活性試験1》
前記実施例1のエノキタケ抽出物の乳化活性を試験した。
乳化活性は、乳化指標(E
24)を用いた方法で評価を行なった。
まず、前記実施例1で得られたエノキタケ抽出物を、1.00mg/ml、0.63mg/ml、0.42mg/ml、0.31mg/ml、0.21mg/ml、0.16mg/ml、0.13mg/mlの各濃度になるように超純水で希釈した。
各濃度のエノキタケ抽出物1ml、ケロシン1mlを、テフロンパッキン付きネジ蓋付き試験管に入れ、ボルテックスミキサーで60秒間攪拌した。その後、4℃、30℃、37℃でそれぞれ24時間放置後、液面までの全高さと、エマルジョンの高さを測定し、全高さに占めるエマルジョンの高さをE
24(乳化活性指標)として算出した。
結果を
図1に示す。
【0061】
図1に示すように、実施例1のエノキタケ抽出物はいずれの濃度においてもE
24は40%を超えており、高い乳化活性を示している。
【0062】
《乳化活性試験2》
前記乳化活性試験1のケロシンに代えて、紅花油、米油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油、オリーブ油の各油1mlと、前記実施例1で得られたエノキタケ抽出物(濃度0.31mg/ml)1mlとを混合して、前記E
24を測定した結果を
図2に示す。
【0063】
図2に示すように、実施例1のエノキタケ抽出物はいずれの油に対しても、乳化活性を示している。
特に、従来の生物由来系の乳化剤では乳化させにくいオリーブ油に対しても、エノキタケ抽出物は高い乳化活性を示している。
【0064】
《乳化活性試験3》
前記乳化活性試験1のケロシンに代えて、オリーブ油1mlと、前記実施例1で得られたエノキタケ抽出物をタンパク質濃度175μg/mlになるように希釈したもの1mlとを混合して、前記E
24を測定した。
エノキタケ抽出物中のタンパク質濃度は前述したタンパク質量の測定方法と同様に測定した。
尚、前記Lowry法で用いたブランクの超純粋(Mill−Q)に代えて、希釈に用いた0.3M NaClを含む20mM KH
2PO
4(pH7)を用いた。
【0065】
比較として、エノキタケ抽出物に替えて市販の各界面活性剤と、オリーブ油1mlとを混合したものの前記E
24を同様に測定した。
尚、使用した市販の界面活性剤は以下の3種類である。
[界面活性剤]
界面活性剤1:ポエムDL−100、理研ビタミン社製 100μg/ml(ジグリセリンモノラウレート)
界面活性剤2:ポエムDP−100、理研ビタミン社製 100μg/ml(グリセリン脂肪酸エステル)
界面活性剤3:ポエムM−300、理研ビタミン社製 100μg/ml(グリセリン脂肪酸エステル)
【0066】
結果は以下のとおりである。
エノキタケ抽出物:E
2462.1%
界面活性剤1: E
240.00%
界面活性剤2: E
240.00%
界面活性剤3: E
240.00%
【0067】
以上のように、エノキタケ抽出物は、市販の界面活性剤では乳化しにくいオリーブ油に対しても高い乳化活性を示している。
【0068】
《多糖類に対する反応性(結合性)試験》
前記実施例1のエノキタケ抽出物の多糖類に対する反応性(結合性)を試験した。
前記実施例1のエノキタケ抽出物(0.16mg/ml)を0.1mlと、多糖類としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ペクチン、ワキシコーンスターチ(各0.5質量%)をそれぞれ1.0mlとを混合した混合物、エノキタケ抽出物単体、各多糖類単体を、GPC装置(HLC−8320GCP(RI検出器内蔵)、東ソー社製)を用いてUV280における分子量のピークを測定した。
使用カラムはTSK
gelGMPW
xl(7.8mmI.D.×30cm×2本)を使用し、緩衝液は0.15mM NaClと、Tris-HClとを使用した。流速は1.0ml/minで測定した。
測定した結果を示すGPCクロマトグラムを
図3〜
図5に示す。
【0069】
図3〜
図5に示すように、いずれのGPCクロマトグラムでも、エノキタケ抽出物単体および多糖類単体と、各多糖類との混合物とでは異なる位置(時間)にピークを示している。
このことから、エノキタケ抽出物は、各多糖類に対する結合性を有しており、各混合物中では多糖類とエノキタケ抽出物との結合体が形成されていることが判る。
【0070】
また、前記乳化活性試験1〜3および多糖類に対する反応性(結合性)試験から、実施例で得られたタンパク質は、乳化活性、および多糖類に対する結合性を示すハイドロフォビンクラスIIを含むタンパク質であることが判る。
【0071】
《タンパク質及び無機粒子に対する結合性試験》
以下のような方法で、前記実施例1のエノキタケ抽出物のタンパク質及び無機粒子に対する結合性を試験した。
エノキタケ抽出物との結合性を試験するタンパク質及び無機粒子の試料としては、下記のものを使用した。
[試料]
ケラチン:羊毛、東京化成社製
コラーゲン:TypeI、SIGMA社製
酸化チタン:製造専用品、和光純薬社製
酸化亜鉛:和光純薬社製
酸化第二鉄:和光純薬社製
【0072】
まず、前記実施例1のエノキタケ抽出物中のタンパク質濃度を前述したLowry法と同様に測定したところ205.2μg/mlであった。このエノキタケ抽出物をさらに2、3、4、5倍希釈と5段階の濃度になるようにエノキタケ抽出物を希釈した。
尚、前記Lowry法で用いたブランクの超純粋(Mill−Q)に代えて、希釈に用いた0.3M NaClを含む20mM KH
2PO
4(pH7)を用いた。
【0073】
次に、前記実施例1のエノキタケ抽出物を1mlと、前記試料用のタンパク質及び無機粒子を含む各試料0.05gとを混合した混合物を、30℃の恒温室において振盪機(NR−2、TAITEC社製)で3時間振盪させた。その後、遠心分離機(CF16RX、HITACHI社製)を用い10000×g、10分間遠心分離し、上澄みを採取した。
採取した上澄み中のタンパク質濃度(B:単位μg/ml)を前記Lowry法によって測定した。
尚、前記Lowry法で用いたブランクの超純粋(Mill−Q)に代えて、希釈に用いた0.3M NaClを含む20mM KH
2PO
4(pH7)を用いた。
【0074】
さらに、コントロールとして、エノキタケ抽出物の代わりに、1mlのイオン交換水と各試料0.05gとを混合した混合物を前記と同様の方法で上澄みを採取し、同様にタンパク質濃度(C:単位μg/ml)を測定した。
さらに、前記実施例1のエノキタケ抽出物1mlを、前記と同様の方法で上澄みを採取し、同様にタンパク質濃度(d:単位μg/ml)を測定した。該エノキタケ抽出物の上澄みのタンパク質濃度(d)とエノキタケ抽出物中のタンパク質濃度(A)との差(D)を算出した。
【0075】
各測定値及び算出値を以下の算出式にあてはめ、接着率を算出した。
接着率(%)=[{A−(C+D)}−B]÷{A−(C+D)}
【0076】
前記接着率と、各試料と混合するエノキタケ抽出物の濃度との関係を
図6のグラフに示す。
図6に示すように、いずれの試料に対してもエノキタケ抽出物中のたんぱく質は、高い接着率を示した。特に、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄に対してはすべての濃度の範囲でも安定して高い接着率を示した。
すなわち、エノキタケ抽出物は、タンパク質及び無機質に対して高い結合性を有していることが明らかである。
【0077】
《界面活性の向上性試験》
前記実施例1のエノキタケ抽出物(タンパク質濃度100μg/ml)を6.5mlと、市販のシャンプー液(商品名「Super MiLD」、資生堂社製)6.5mlとを、メスシリンダーにいれて25℃の条件で手動で1分間攪拌し、10分毎に泡の高さを測定した。
比較として、水6.5mlと、前記シャンプー液とを用いた混合物でも同様に泡の高さを測定した。
泡の高さの測定方法は、メスシリンダーの側方から定規を用いて測定した。
結果を
図7のグラフに示す。
【0078】
図7のグラフに示すように、いずれも攪拌時間においても、エノキタケ抽出物と混合した場合、泡の高さは、水と混合するよりも高くなっており、この結果からエノキタケ抽出物はシャンプー液の界面活性作用を向上させることが明らかであった。