特許第6322890号(P6322890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6322890III族窒化物複合基板およびその製造方法、ならびにIII族窒化物半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322890
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】III族窒化物複合基板およびその製造方法、ならびにIII族窒化物半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20180507BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20180507BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20180507BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
   H01L21/20
   H01L33/32
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-29115(P2013-29115)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-157978(P2014-157978A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八郷 昭広
(72)【発明者】
【氏名】石橋 恵二
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−010766(JP,A)
【文献】 特開2010−182936(JP,A)
【文献】 特開2012−114263(JP,A)
【文献】 特開2011−135054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/20
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物膜と、前記III族窒化物膜と化学組成の異なる材料で形成されている支持基板と、を含み、
前記III族窒化物膜は、前記支持基板に直接的および間接的のいずれかの形態で接合され、
前記III族窒化物膜の厚さが10μm以上であり、
前記III族窒化物膜側の主面におけるシート抵抗が200Ω/sq以下であり、
前記III族窒化物膜と前記支持基板との接合界面に金属を含む不純物を含み、前記不純物の濃度が1×1010cm-2以上であるIII族窒化物複合基板。
【請求項2】
前記III族窒化物膜と前記支持基板との接合領域の面積が主面の面積の70%以上であり、
前記III族窒化物膜と前記支持基板との非接合領域は少なくとも1つの非接合部分領域を含み、前記非接合部分領域はその最大径が20mm未満の小型の非接合部分領域である請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項3】
前記III族窒化物膜と前記支持基板との非接合領域は少なくとも1つの非接合部分領域を含み、前記非接合部分領域は主面の外周に接していない内側の非接合部分領域である含む請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項4】
前記III族窒化物膜は主面貫通孔を有し、前記主面貫通孔の面積は主面の面積の10%以下である請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項5】
前記III族窒化物膜の熱膨張係数が前記支持基板の熱膨張係数に比べて0.7倍より大きく1.4倍より小さい請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項6】
前記支持基板の破壊靭性が1MNm-2/3以上であり、前記支持基板の厚さが50μm以上である請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項7】
前記間接的な形態は、前記III族窒化物膜と前記支持基板との間に接合膜を介在させた形態である請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項8】
請求項1に記載のIII族窒化物複合基板の製造方法であって、
前記III族窒化物膜と前記支持基板とを、直接的および間接的のいずれかの形態で、貼り合わせる工程と、
貼り合わされた前記III族窒化物膜および前記支持基板の少なくとも1つの厚さを小さくする工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のIII族窒化物複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスの製造方法であって、
前記III族窒化物複合基板を準備する工程と、
前記III族窒化物複合基板の前記III族窒化物膜側の主面上に少なくとも1層のIII族窒化物層を成長させる工程と、を含むIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物複合基板およびその製造方法、ならびに当該III族窒化物複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlN、AlxGa1-xN(0<x<1)などのIII族窒化物半導体は、優れた半導体特性を有していることから、半導体デバイスの基板として好適である。このようなIII族窒化物半導体は高価であるため、半導体デバイスの製造コストを低減する観点から、半導体デバイスの基板として、シリコン基板などの支持基板上にGaN、AlNなどのIII族窒化物半導体の膜が形成された半導体基板が提案されている。
【0003】
たとえば、特開2006−210660号公報(特許文献1)は、GaNあるいはAlNなどからなる第1の窒化物半導体基板の表面近傍にイオンを注入する工程と、その第1の窒化物半導体基板の表面側に第2の基板を重ね合わせる工程と、重ね合わせた上記2枚の基板を熱処理する工程と、イオン注入された層を境として上記第1の窒化物半導体基板の大部分を上記第2の基板から引き剥がす工程と、を含む半導体基板の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−210660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2006−210660号公報(特許文献1)に開示された半導体基板の製造方法により得られる半導体基板は、支持基板上に形成された窒化物半導体の膜厚が2μm程度と薄いために、そのシート抵抗が高くなるという問題点があり、また、イオン注入によるダメージにより部分的な高抵抗化により歩留まりが低下するという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決して、高い歩留まりで得られるシート抵抗が低いIII族窒化物複合基板およびその製造方法、ならびにIII族窒化物複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面に従うIII族窒化物複合基板は、III族窒化物膜と、III族窒化物膜と化学組成の異なる材料で形成されている支持基板と、を含む。ここで、III族窒化物膜は、支持基板に直接的および間接的のいずれかの形態で接合されている。III族窒化物膜の厚さは10μm以上であり、III族窒化物膜側の主面におけるシート抵抗は200Ω/sq(ohms per square)以下である。III族窒化物膜と支持基板との接合界面に金属を含む不純物を含み、不純物の濃度が1×1010cm-2以上である。かかるIII族窒化物複合基板は、III族窒化物膜の厚さが10μm以上であるため、III族窒化物膜側の主面におけるシート抵抗を200Ω/sq以下に低くすることができ、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。また、接合界面における金属を含む不純物の濃度が1×1010cm-2以上であるため、接合強度が高く、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0008】
本発明の上記局面に従うIII族窒化物複合基板において、III族窒化物膜と支持基板との接合領域の面積を主面の面積の70%以上とし、III族窒化物膜と支持基板との非接合領域は少なくとも1つの非接合部分領域を含み、非接合部分領域をその最大径が20mm未満の小型の非接合部分領域とすることができる。かかるIII族窒化物複合基板は、接合領域の面積が主面の面積の70%以上と大きく非接合領域を構成する非接合部分領域の最大径が20mm未満と小さいため、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0009】
本発明の上記局面に従うIII族窒化物複合基板において、III族窒化物膜と支持基板との非接合領域は少なくとも1つの非接合部分領域を含み、非接合部分領域を主面の外周に接していない内側の非接合部分領域とすることができる。かかるIII族窒化物複合基板は、非接合領域を構成する非接合部分領域が主面の外周に接していないため、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0010】
本発明の上記局面に従うIII族窒化物複合基板において、III族窒化物膜は主面貫通孔を有し、主面貫通孔の面積を主面の面積の10%以下とすることができる。かかるIII族窒化物複合基板は、III族窒化物膜の主面貫通孔の面積が主面の面積の10%以下であるため、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0012】
本発明の上記局面に従うIII族窒化物複合基板において、III族窒化物膜の熱膨張係数を支持基板の熱膨張係数に比べて0.7倍より大きく1.4倍より小さくすることができる。かかるIII族窒化物複合基板は、III族窒化物膜の熱膨張係数が支持基板の熱膨張係数に比べて0.7倍より大きく1.4倍より小さいため、III族窒化物半導体デバイスの製造の際の熱を加える工程において、反りおよび/またはクラックの発生を抑制することにより、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0013】
本発明の上記局面に従うIII族窒化物複合基板において、支持基板の破壊靭性を1MNm-2/3以上とし、支持基板の厚さを50μm以上とすることができる。かかるIII族窒化物複合基板は、機械的強度が高いため、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0014】
本発明の上記局面に従うIII族窒化物複合基板において、間接的な形態を、III族窒化物膜と支持基板との間に接合膜を介在させた形態とすることができる。かかるIII族窒化物複合基板は、III族窒化物膜と支持基板とが、それらの間に接合膜を介在させた形態で接合されているため、接合強度が高く、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0015】
本発明の別の局面に従うIII族窒化物複合基板の製造方法は、上記局面に従うIII族窒化物複合基板の製造方法であって、III族窒化物膜と支持基板とを、直接的および間接的のいずれかの形態で、貼り合わせる工程と、貼り合わされたIII族窒化物膜および支持基板の少なくとも1つの厚さを小さくする工程と、を含む。かかるIII族窒化物複合基板の製造方法は、上記の工程を備えることにより、高い歩留まりでシート抵抗の低いIII族窒化物複合基板を製造することができる。
【0016】
本発明のさらに別の局面に従うIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記局面に従うIII族窒化物複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスの製造方法であって、III族窒化物複合基板を準備する工程と、III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜側の主面上に少なくとも1層のIII族窒化物層を成長させる工程と、を含む。かかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記の工程を備えることにより、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い歩留まりで得られるシート抵抗が低いIII族窒化物複合基板およびその製造方法、ならびにIII族窒化物複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の別の例を示す概略断面図である。
図3】本発明にかかるIII族窒化物複合基板における接合領域および非接合領域を示す概略平面図である。
図4】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図5】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法により得られるIII族窒化物半導体デバイスの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態1:III族窒化物複合基板]
図1および2を参照して、本発明のある実施形態であるIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物膜13と、III族窒化物膜13と化学組成の異なる材料で形成されている支持基板11と、を含む。ここで、III族窒化物膜13は、支持基板11に直接的および間接的のいずれかの形態で接合されている。III族窒化物膜13の厚さは10μm以上である。III族窒化物膜13側の主面13mにおけるシート抵抗は200Ω/sq以下である。
【0020】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物膜13の厚さが10μm以上であるため、III族窒化物膜13側の主面13mにおけるシート抵抗を200Ω/sq以下に低くすることができ、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。以下、詳細に説明する。
【0021】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物膜13と、III族窒化物膜13と化学組成の異なる材料で形成されている支持基板11と、を含む。
【0022】
(III族窒化物膜)
III族窒化物膜13とは、少なくとも1つのIII族元素と窒素との化合物である半導体で形成されている基板をいい、たとえば、GaN基板、AlN基板、AlxGa1-xN基板(0<x<1)などが挙げられる。かかるIII族窒化物膜13の製造方法は、特に制限はなく、気相法として、HVPE(ハイドライド気相成長)法、昇華法などが挙げられ、液相法として、高窒素圧溶液法、フラックス法などが挙げられる。III族窒化物膜13は、その上に結晶品質の高いIII族窒化物層を成長させる観点から、結晶であることが好ましく、単結晶であることがより好ましい。
【0023】
また、III族窒化物膜13は、そのシート抵抗を低くするために、導電性向上不純物をドーピングすることができる。かかる導電性向上不純物は、特に制限はないが、導電性向上の効果が高い観点から、O(酸素)原子、Si(ケイ素)原子などが好適である。
【0024】
(支持基板)
支持基板11とは、III族窒化物膜13を支持する基板をいい、III族窒化物膜13と化学組成が異なる材料で形成される基板であれば特に制限はない。酸化物基板としては、サファイア基板およびその他のAl23基板、ムライト基板およびその他のAl23−SiO2系基板、スピネル基板およびその他のAl23−MgO系基板、Al23−SiO2−YSZ(イットリア安定化ジルコニア)系基板などが挙げられる。金属基板としてMo基板、W基板、Cu−W基板などが挙げられる。さらに、Si基板、SiC基板、グラファイト基板などが挙げられる。それらの他、III族窒化物膜13がGaN膜であればGaNと化学組成が異なるIII族窒化物であるAlNなどで形成されている基板などが挙げられる。支持基板11は、結晶であっても非結晶であってもよく、結晶である場合には単結晶であっても多結晶であってもよい。
【0025】
(III族窒化物膜と支持基板との接合形態)
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物膜13が、支持基板11に直接的および間接的のいずれかの形態で接合されている。
【0026】
図1を参照して、直接的な形態で接合されているとは、III族窒化物膜13と支持基板11とが、その間に他のものを介在させることなく、直接的に接合されていることをいう。かかる直接的な接合形態においては、接合界面100は、互いに接合しているIII族窒化物膜13の主面13nと支持基板11の主面11mとで形成される面となる。
【0027】
図2を参照して、間接的な形態で接合されているとは、III族窒化物膜13と支持基板11とが、その間に他のもの、たとえば接合膜12を介在させて、間接的に接合されていることをいう。かかる間接的な接合形態においては、接合界面は、その貼り合わせ方法により、以下のように異なる。
【0028】
第1の貼り合わせ方法として、図2および4に示すように、支持基板11の主面11m上に接合膜12aを形成するとともにIII族窒化物膜13の主面13n上に接合膜12bを形成した後、接合膜12aの主面12amと接合膜12bの主面12bnとを貼り合わせることにより、接合膜12aと接合膜12bとが一体化した接合膜12を形成する場合においては、接合界面100は、互いに接合している接合膜12の内部の接合膜12aの主面12amと接合膜12bの主面12bnとで形成される面となる。
【0029】
第2の貼り合わせ方法として、支持基板11の主面11m上に接合膜12を形成した後、接合膜12の主面とIII族窒化物膜13の主面13nとを貼り合わせる場合においては、接合界面100は、互いに接合している接合膜12の主面とIII族窒化物膜13の主面13nとで形成される面となる。
【0030】
第3の貼り合わせ方法として、III族窒化物膜13の主面13n上に接合膜12を形成した後、接合膜12の主面と支持基板11の主面11mとを貼り合わせる場合においては、接合界面100は、互いに接合している接合膜12の主面と支持基板11の主面11mとで形成される面となる。
【0031】
(接合膜)
本実施形態のIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13と支持基板11との間に含まれ得る接合膜12は、III族窒化物膜13と支持基板11との接合強度を高くするものであれば特に制限はなく、SiO2膜、Si34膜、AlN膜、Al23膜、TiO2膜、TiN膜、Ga23膜、W膜、Mo膜、Au−Sn膜などが挙げられる。
【0032】
接合膜12の厚さは、特に制限はないが、III族窒化物膜13と支持基板11との接合強度を高める観点から、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、接合膜12の面内均一性および平坦性を高める観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0033】
(III族窒化物膜の厚さ)
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物膜13側の主面13mにおけるシート抵抗を低くする観点から、III族窒化物膜13の厚さは、10μm以上が必要であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。また、III族窒化物複合基板1のコストを低減する観点から、III族窒化物膜13の厚さは、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましい。
【0034】
(III族窒化物膜側の主面におけるシート抵抗)
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物複合基板1のシート抵抗を低くすることにより得られるIII族窒化物半導体デバイスのデバイス特性(たとえば、発光デバイスの発光効率など)を高める観点から、III族窒化物膜13側の主面13mにおけるシート抵抗は、200Ω/sq(ohms per square)以下が必要であり、50Ω/sq以下が好ましく、10Ω/sq以下がより好ましい。
【0035】
(III族窒化物膜と支持基板との接合領域およびIII族窒化物膜と支持基板との非接合領域)
図1〜3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物膜13が支持基板11に上述の接合界面100において貼り合わされている。本実施形態のIII族窒化物複合基板1においても、イオン注入法により作製されたIII族窒化物複合基板と同様に、支持基板11、III族窒化物膜13、および接合膜12,12a,12bの主面の面粗さ、III族窒化物膜13の主面貫通孔13h、ならびに貼り合わせの不均一さなどが存在する。このため、本実施形態のIII族窒化物複合基板1においても、接合界面100において、III族窒化物膜13と支持基板11とが直接的および間接的のいずれかで接合している接合領域100bと、III族窒化物膜13と支持基板11とが直接的および間接的のいずれにおいても接合していない非接合領域100nと、が存在する。
【0036】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1の接合界面100における接合領域100bおよび非接合領域100nの存在およびその位置、それらの大きさ、ならびにそれらの面積は、超音波顕微鏡、欠陥評価装置などにより測定することができる。
【0037】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1の接合界面100における非接合領域100nは、少なくとも1つの非接合部分領域111n,112n,121n,122nを含む。非接合部分領域111n,112n,121n,122nは、その形状が不定形ではあるがほぼ円形状または楕円形状であるため、その最大径(最大直径)によりその大きさを評価する。非接合部分領域111n,112n,121n,122nは、その大きさの観点から、その最大径が20mm未満の小型の非接合部分領域111n,112nと、その最大径が20mm以上の大型の非接合部分領域121n,122nと、に分類することができる。また、非接合部分領域111n,112n,121n,122nは、その存在位置の観点から、その領域が主面1mの外周1rに接していない内側の非接合部分領域111n,121nと、その領域が主面1mの外周1rに接している外側の非接合部分領域112n,122nと、に分類することができる。
【0038】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、III族窒化物膜13と支持基板11との接合領域100bの面積が、主面1mの面積に対して、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。III族窒化物膜13と支持基板11との接合領域100bの面積が主面1mの面積の70%未満となると、III族窒化物半導体デバイスを製造する工程においてIII族窒化物膜13と支持基板11とが分離しやすくなるため、III族窒化物半導体デバイスの歩留まりを高めることが困難となる。
【0039】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、非接合部分領域は、その最大径が20mm未満の小型の非接合部分領域111n,112nであることが好ましい。すなわち、図3において、非接合部分領域は、いずれも小型の非接合部分領域111n,112nであることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、非接合部分領域は、主面1mの外周1rに接していない内側の非接合部分領域111n,121nであることが好ましい。すなわち、図3において、非接合部分領域は、いずれも内側の非接合部分領域111n,121nであることが好ましい。外側の非接合部分領域112n,122nが含まれるIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物複合基板1を作製する工程中およびIII族窒化物複合基板1を用いてIII族窒化物半導体デバイスを製造する工程中に、汚染物質が接合界面100に入り込み、その汚染物質の洗浄除去が困難であるため、III族窒化物半導体デバイスの歩留まりを高めることが困難となる。また、外側の非接合部分領域112n,122nが含まれるIII族窒化物複合基板1は、貼り合わされたIII族窒化物膜13および支持基板11の少なくとも1つの厚さを小さくする工程で、加工中に割れてしまうため、III族窒化物半導体デバイスの歩留まりを高めることが困難となる。
【0041】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、非接合部分領域は、小型かつ内側の非接合部分領域111nであることがより好ましい。すなわち、図3において、非接合部分領域は、いずれも小型かつ内側の非接合部分領域111nであることがより好ましい。
【0042】
(III族窒化物膜の主面貫通孔)
図1〜3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、III族窒化物膜13の有する主面貫通孔13hの面積が、主面1m,13mの面積に対して、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。ここで、主面貫通孔13hとは、III族窒化物膜13の支持基板11と直接的または間接的に接合している側の主面と他の表面(具体的には別の主面および側面)との間を貫通している孔をいう。
【0043】
III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13に主面貫通孔13hが存在すると、主面貫通孔13h上およびその近傍の領域に非接合領域100nが形成される。また、III族窒化物半導体デバイスを製造する工程において、III族窒化物半導体デバイスを洗浄する場合に、洗浄剤が主面貫通孔13hを経由して接合界面に侵入することにより、III族窒化物複合基板1の接合強度が低下する場合がある。主面貫通孔13hの面積が主面1mの面積の10%より大きくなると、非接合領域100nの面積が大きくなり、III族窒化物半導体デバイスの歩留まりを高めることが困難となる。
【0044】
(接合界面における金属を含む不純物)
図1〜3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、接合強度を高めることにより高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、III族窒化物膜13と支持基板11との接合界面100に含まれる金属を含む不純物の濃度は、1×1010cm-2以上であることが好ましく、1.5×1010cm-2以上であることがより好ましい。金属を含む不純物は、特に制限はないが、接合強度を高める観点から、III族窒化物複合基板1が接合膜12としてSiO2膜などの酸化物膜を含む場合は、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)などのイオン化傾向がH(水素)より大きく酸化しやすい卑金属の酸化物が好ましい。
【0045】
(III族窒化物膜の熱膨張係数と支持基板の熱膨張係数)
図1〜3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物半導体デバイスの製造の際に反りおよび/またはクラックの発生を抑制することにより、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造する観点から、III族窒化物膜13の熱膨張係数は、支持基板11の熱膨張係数に対して、0.7倍より大きく1.4倍より小さいことが好ましく、0.75倍以上1.25倍以下がより好ましい。
【0046】
(支持基板の破壊靭性と厚さ)
図1〜3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物半導体デバイスの製造の際に反りおよび/またはクラックの発生を抑制する観点から、支持基板の破壊靭性は、好ましくは1MNm-2/3以上であり、より好ましくは1.5MNm-2/3以上である。また、支持基板の厚さは、好ましくは50μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。
【0047】
[実施形態2:III族窒化物複合基板の製造方法]
図1、2および4を参照して、本発明の別の実施形態であるIII族窒化物複合基板1の製造方法は、実施形態1のIII族窒化物複合基板1の製造方法であって、III族窒化物膜13と支持基板11とを、直接的および間接的のいずれかの形態で、貼り合わせる工程(図4(A))と、III族窒化物膜13および支持基板11の少なくとも1つの厚さを小さくする工程(図4(B))と、を含む。本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法は、上記の工程を備えることにより、高い歩留まりでシート抵抗の低いIII族窒化物複合基板を製造することができる。
【0048】
(III族窒化物膜と支持基板とを貼り合わせる工程)
図1、2および4を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法は、まず、III族窒化物膜13と支持基板11とを、直接的および間接的のいずれかの形態で、貼り合わせる工程を含む。ここで、III族窒化物膜13と支持基板11とを直接的な形態で貼り合わせるとは、III族窒化物膜13と支持基板11とを、その間に他のものを介在させることなく、直接貼り合わせることをいう。また、III族窒化物膜13と支持基板11とを間接的な形態で貼り合わせるとは、III族窒化物膜13と支持基板11とを、その間に他のもの、たとえば接合膜12を介在させて、間接的に貼り合わせることをいう。
【0049】
III族窒化物膜13と支持基板11とを貼り合わせる方法は、直接的および間接的のいずれの貼り合わせ形態であっても、特に制限はなく、貼り合わせ面を洗浄しそのまま貼り合わせた後600℃〜1200℃程度に昇温して接合する直接接合法、貼り合わせ面を洗浄しプラズマやイオンなどで活性化処理した後に室温(たとえば25℃)〜400℃程度の低温雰囲気下で接合する表面活性化接合法、貼り合わせ面を薬液と純水で洗浄処理した後、0.1MPa〜10MPa程度の圧力を掛けて接合する高圧接合法、貼り合わせ面を薬液と純水で洗浄処理した後、10-6Pa〜10-3Pa程度の高真空雰囲気下で接合する超高真空接合法、などが好適である。上記のいずれの接合法においてもそれらの接合後に600℃〜1200℃程度に昇温することによりさらに接合強度を高めることができる。特に、表面活性化接合法、高圧接合法、および超高真空接合法においては、それらの接合後に600℃〜1200℃程度に昇温することによる接合強度を高める効果が大きい。
【0050】
III族窒化物膜13と支持基板11との貼り合わせにおいては、上記のように直接的および間接的のいずれの形態でも貼り合わせが可能であるが、接合強度を高くする観点から、図4(A)に示すように、III族窒化物膜13と支持基板11とを、その間に接合膜12を介在させて、間接的に貼り合わせることが好ましい。以下、詳細に説明する。
【0051】
図4(A)を参照して、III族窒化物膜13と支持基板11とをその間に接合膜12を介在させて間接的に貼り合わせる工程は、支持基板11の主面11m上に接合膜12aを形成するサブ工程(図4(A1))と、III族窒化物膜13の主面13n上に接合膜12bを形成するサブ工程(図4(A2))と、支持基板11の主面11m上に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜13の主面13n上に形成された接合膜12bとを貼り合わせるサブ工程(図4(A3))と、を含む。これらのサブ工程により、互いに貼り合わされた接合膜12aと接合膜12bとが接合により一体化して接合膜12が形成され、支持基板11と、III族窒化物膜13とが、接合膜12を介在させて接合される。
【0052】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法においても、支持基板11、III族窒化物膜13、および接合膜12,12a,12bの主面の面粗さ、III族窒化物膜13の主面貫通孔13h、ならびに貼り合わせの不均一さなどの存在により、接合界面100において、III族窒化物膜13と支持基板11とが直接的および間接的のいずれかで接合している接合領域100bと、III族窒化物膜13と支持基板11とが直接的および間接的のいずれにおいても接合していない非接合領域100nと、が形成される。かかる接合領域100bおよび非接合領域100nについては、上述のとおりである。
【0053】
なお、接合膜12a,12bの形成方法は、特に制限はないが、膜形成コストを抑制する観点から、スパッタ法、蒸着法、CVD(化学気相堆積)法などが好適に行なわれる。また、接合膜12aと接合膜12bとを貼り合わせることにより、支持基板11とIII族窒化物膜13とを貼り合わせる方法は、特に制限はなく、上記したように、直接接合法、表面活性化接合法、高圧接合法、超高真空接合法などが好適である。
【0054】
(III族窒化物膜および支持基板の少なくとも1つの基板の厚さを小さくする工程)
図4(B)を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法は、次いで、貼り合わされたIII族窒化物膜13および支持基板11の少なくとも1つの基板の厚さを小さくする工程と、を含む。ここで、III族窒化物膜13および支持基板11の少なくとも1つの基板の厚さを小さくする方法は、特に制限はなく、厚さを小さくする基板を、主面に平行に切断する方法、主面を研削および/または研磨する方法、主面をエッチングする方法、レーザを用いた方法などが挙げられる。レーザを用いた方法とは、レーザビームの焦点が基板の主面から所定の深さに位置するようにしてレーザビームを照射する方法である。上記のレーザを用いた方法によれば、基板の主面から所定の深さの位置のレーザビームの焦点となった領域の化学組成が変化することにより、当該領域において基板を分離することができる。このようなレーザを用いた方法においては、基板の主面から所定の深さの位置の領域の化学組成を変化させ、上記領域以外の領域の化学組成を変化させない観点から、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザが好ましく用いられる。
【0055】
[実施形態3:III族窒化物半導体デバイスの製造方法]
図5を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス2の製造方法は、III族窒化物複合基板1を準備する工程と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程と、を含む。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス2の製造方法は、上記の工程を備えることにより、高い歩留まりでIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【0056】
(III族窒化物複合基板を準備する工程)
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス2の製造方法は、まず、III族窒化物複合基板1を準備する工程を含む。かかるIII族窒化物複合基板1を準備する工程は、実施形態2のIII族窒化物複合基板1の製造する方法における工程と同様である。
【0057】
(III族窒化物層を成長させる工程)
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス2の製造方法は、次いで、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程を含む。
【0058】
III族窒化物層20を成長させる方法は、特に制限はないが、結晶品質の高いIII族窒化物層20を成長させる観点から、気相法として、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線成長)法、HVPE(ハイドライド気相成長)法、昇華法などが好適に挙げられ、液相法として、高窒素圧溶液法、フラックス法などが好適に挙げられる。
【0059】
成長させるIII族窒化物層20の構成は、III族窒化物半導体デバイスの種類および機能に応じて異なる。III族窒化物半導体デバイス2が発光デバイスの場合は、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に、III族窒化物層20として、第1導電型GaN層21、第1導電型AlsGa1-sN層22(ここで、sは0<s<1)、発光層23、第2導電型AltGa1-tN層24(ここで、tは0<t<1)、および第2導電型GaN層25をこの順に成長させることができる。
【0060】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス2の製造方法は、次いで、電極(第1電極および第2電極)を形成する工程を含むことができる。III族窒化物層20の内、第2導電型GaN層25第2導電型AltGa1-tN層24、発光層23、および第1導電型AlsGa1-sN層22のそれぞれの一部をメソエッチングにより除去して、第1導電型GaN層21の一部を露出させる。第1導電型GaN層21の露出した主面上に第1電極31を形成し、第2導電型GaN層の露出した主面上に第2電極32を形成することができる。第1電極31および第2電極32の形成方法は、特に制限はなく、CVD(化学気相堆積)法、スパッタ法、蒸着法などが挙げられる。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
1.III族窒化物複合基板の作製
(1)III族窒化物膜と支持基板との貼り合わせ
図4(A)を参照して、以下のようにして、III族窒化物膜13と支持基板11とを貼り合わせた。
【0062】
図4(A1)を参照して、支持基板11として、両主面が鏡面(JIS B0601に規定する算術平均面粗さRaが1nm以下の平坦面をいう、以下同じ。)に研磨された直径10.0cmで厚さ500μmのムライト(Al23−SiO2)基板を3枚準備した。かかる支持基板11の主面11m上に、CVD法により、接合膜12aとして厚さ1μmのSiO2膜を形成した。
【0063】
また、図4(A2)を参照して、III族窒化物膜13として、両主面が鏡面に研磨された直径10.0cmで厚さ400μmの3種類のGaN膜A〜Cを準備した。GaN膜Aには、導電性向上不純物を積極的にはドーピングしなかった。GaN膜Bには、導電性向上不純物としてO(酸素)原子を7×1017cm-3の濃度にドーピングした。GaN膜Cには、導電性向上不純物としてO(酸素)原子を1.6×1018cm-3の濃度にドーピングした。
【0064】
上記のIII族窒化物膜13のN原子面に相当する(000−1)面である主面13n上に、CVD法により、接合膜12aとして厚さ1μmのSiO2膜を形成した。
【0065】
次に、図4(A3)を参照して、支持基板11に形成された接合膜12aの主面12amおよびIII族窒化物膜13に形成された接合膜12bの主面12bnのそれぞれを鏡面に研磨した後、接合膜12aの主面12amと接合膜12bの主面12bnとを貼り合わせ、N2ガス(窒素ガス)雰囲気中700℃まで昇温させてアニールすることにより接合強度を高めた。
【0066】
こうして貼り合わされた3種類の貼り合わせ基板のそれぞれを、ダイシングにより切断して、主面が20mm角(20mm×20mmの正方形をいう、以下同じ。)である8つの貼り合わせ基板片を作製した。
【0067】
(2)III族窒化物膜の厚さ調製
図4(B)を参照して、上記のようにして、3種類の貼り合わせ基板のそれぞれについて得られた8つの貼り合わせ基板片のIII族窒化物膜13の厚さを、主面を研磨することにより、それぞれ、5μm、8μm、10μm、20μm、50μm、100μm、200μmおよび500μmに調製して、8つのIII族窒化物複合基板を得た。
【0068】
2.III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜側のシート抵抗の測定
上記のようにして得られた3種類の貼り合わせ基板から得られた24のIII族窒化物複合基板1(3種類の貼り合わせ基板のそれぞれの貼り合わせ基板について8つのIII族窒化物複合基板)のIII族窒化物膜13側の主面13mのシート抵抗を、四端子法により測定した。表1に結果をまとめた。
【0069】
【表1】
【0070】
3.III族窒化物半導体デバイスの作製
図5を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13のIII族原子面に相当する(0001)面である主面13m上に、MOCVD法により、III族窒化物層20として、第1導電型GaN層21である厚さ5μmのn型GaN層、第1導電型AlsGa1-sN層22(ここで、sは0<s<1)である厚さ0.5μmのn型Al0.05Ga0.95N層、発光層23である6周期のIn0.15Ga0.85N層およびIn0.01Ga0.99N層からなる厚さ100nmのMQW(多重量子井戸)構造層、第2導電型AltGa1-tN層24(ここで、tは0<t<1)である厚さ20nmのp型Al0.20Ga0.80N層、および第2導電型GaN層25である厚さ0.15μmのp型GaN層を、この順に成長させた。
【0071】
次に、第2導電型GaN層25、第2導電型AltGa1-tN層24、発光層23、および第1導電型AlsGa1-sN層22のそれぞれの一部をメサエッチングにより除去して、第1導電型GaN層21の一部を露出させた。
【0072】
次に、第1導電型GaN層21の露出した主面上に、電子ビーム蒸着法により、第1電極31としてn側電極を形成した。また、第2導電型GaN層25の露出した主面上に、電子ビーム蒸着法により、第2電極32としてp側電極を形成した。このようにして、24のIII族窒化物半導体デバイスを作製した。
【0073】
対比III族窒化物半導体デバイスとして、両主面を鏡面に研磨した主面の大きさが20mm角で厚さ500μmで、導電性向上不純物としてO(酸素)原子を1.6×1018cm-3の濃度にドーピングした、GaN基板のIII族原子面たるGa原子面に相当する(0001)面である主面13m上に、上記と同様にして上記と同じ構成のIII族窒化物層20を有するIII族窒化物半導体デバイスを形成した。
【0074】
4.III族窒化物半導体デバイスの発光強度の測定
上記で得られた24のIII族窒化物半導体デバイスおよび対比III族窒化物半導体デバイスの発光強度として、III族窒化物半導体デバイスに80mAの電流を注入したときの発光スペクトルのピーク波長450nmにおける発光強度を、EL(エレクトロルミネッセンス)法により測定して、対比III族窒化物半導体デバイスの発光強度に対する上記24のIII族窒化物半導体デバイスのそれぞれの発光強度の比を相対発光強度として算出した。厚さ5μmのGaN膜Aを含むシート抵抗が403.6Ω/sqのIII族窒化物複合基板および厚さ8μmのGaN膜Aを含むシート抵抗が250.8Ω/sqのIII族窒化物複合基板を有する発光デバイスは、相対発光強度が0.01以下と低かったが、それ以外のIII族窒化物複合基板を有する発光デバイスは、相対発光強度が0.1以上に向上した。
【0075】
(実施例2)
III族窒化物膜13として、導電性向上不純物としてO(酸素)原子を7×1017cm-3の濃度にドーピングされ、両主面が鏡面に研磨された、直径2インチ(5.08cm)で厚さが500μmのGaN膜を20枚準備した。
【0076】
これらのGaN膜の内、10枚のGaN膜を研磨により厚さを200μmまで薄くしたところ、10枚中7枚のGaN膜に割れおよび/またはクラックが発生した。
【0077】
残りの10枚のGaN膜については、実施例1と同様の手順で、直径が2インチ(5.08cm)で厚さが400μmのムライト基板と貼り合わせた後、貼り合わせたGaN膜を研磨により厚さを200μmまで薄くしたところ、10枚すべてのGaN膜において、割れおよび/またはクラックは見られなかった。
【0078】
(実施例3)
III族窒化物膜13として、導電性向上不純物をドーピングされていない、両主面が鏡面に研磨された、直径2インチ(5.08cm)で厚さが500μmのGaN膜を用いたこと、貼り合わせの際貼り合わせ面にウォータマークを形成して接合領域の面積を変化させたこと以外は、実施例1と同様の手順で、6枚のIII族窒化物複合基板1を作製した。ここで、ウォーターマークとは、表面に洗浄汚染などによる不純物がある部分において、水分が乾燥するとき、不純物が凝集した状態で乾くために形成される乾きしみをいう。ウォーターマークは、その形成の対象とする面に、超純水ではなく、純度の低い水を付着させ、それを乾燥させることにより、純度の低い水をつけた部分に形成することができる。
【0079】
得られた6枚のIII族窒化物複合基板1について、接合領域100bの面積をレーザを用いた表面欠陥検査装置により測定したところ、それぞれ、主面1mの面積に対して、34%、57%、64%、70%、87%、95%であった。これらの内、接合領域100bの面積が主面1mの面積の70%以上であるIII族窒化物複合基板1については、非接合領域100nを構成する非接合部分領域はいずれも最大径が20mm未満であった。また、接合領域100bの面積が主面1mの面積の64%以下であるIII族窒化物複合基板1については、非接合領域100nを構成する非接合部分領域には最大径が20mm以上のものがあった。さらに、接合領域100bの面積が主面1mの面積の64%以下であるIII族窒化物複合基板1を700℃まで加熱したところ、加熱中に、最大径が20mm以上の非接合部分領域を起点として、III族窒化物膜13が支持基板11から剥がれた。
【0080】
(実施例4)
III族窒化物膜13として、導電性向上不純物をドーピングされていない、両主面が鏡面に研磨された、直径2インチ(5.08cm)で厚さが500μmのGaN膜を用いたこと、支持基板11として、両主面が鏡面に研磨された、直径2インチ(5.08cm)で厚さが500μmの多結晶Mo基板を用いたこと、貼り合わせの際に、貼り合わせ面を洗浄することにより非接合領域の発生を抑えたこと、および、貼り合わせ面に直径が15mm程度のウォータマークを形成することによりIII族窒化物複合基板の所定の位置に非接合領域を形成させたこと以外は、実施例1と同様の手順で、3枚のIII族窒化物複合基板1を作製した。
【0081】
得られた3枚のIII族窒化物複合基板1について、非接合領域の位置を超音波顕微鏡により測定したところ、1枚のIII族窒化物複合基板には主面の外周に接する最大径が10mm程度の非接合部分領域を含む非接合領域が形成され、別の1枚のIII族窒化物複合基板には主面の外周に接しない最大径が10mm程度の非接合部分領域のみを含む非接合領域が形成され、さらに別の1枚のIII族窒化物複合基板には非接合領域の面積が主面の面積の83%であった。
【0082】
得られた3枚のIII族窒化物複合基板を700℃まで加熱したところ、加熱中に、主面の外周に接する最大径が10mm程度の非接合部分領域を含む非接合領域が形成されたIII族窒化物複合基板が割れた。それ以外のIII族窒化物複合基板は割れなかった。
【0083】
(実施例5)
III族窒化物膜として、両主面が鏡面に研磨された、主面が20mm角で厚さが300μmのGaN膜を8枚準備した。8枚のGaN膜の2枚ずつに、直径50μm程度の主面貫通孔を、主面の面積に対して主面貫通孔の面積が、5%、10%、20%、および30%となるように形成した。
【0084】
また、支持基板である主面が20mm角で厚さが400μmのサファイア基板の主面上に接合膜としてSiO2膜を形成した基板を8枚準備した。その接合膜の主面を鏡面に研磨した後、4枚は37質量%HCl(塩酸)および30質量%のH22(過酸化水素)を含む水溶液で複数洗浄することにより、貼り合わせ面の金属を含む不純物を除去した。残りの4枚はIPA(イソプロピルアルコール)により洗浄を行った。
【0085】
主面の面積に対して主面貫通孔の面積が、それぞれ5%、10%、20%、および30%である4枚のIII族窒化物膜と、接合膜の貼り合わせの面をHClおよびH22洗浄した4枚の支持基板とを、実施例1と同様の条件で、貼り合わせた。また、主面の面積に対して主面貫通孔の面積が、それぞれ5%、10%、20%、および30%である4枚のIII族窒化物膜と、接合膜の貼り合わせ面をIPA洗浄した4枚の支持基板とを、実施例1と同様の条件で、貼り合わせた。
【0086】
貼り合わせた後、以下のようにして引張試験を行なった。引張試験は10mm角の冶具をエポキシ接着剤を介してIII族窒化物複合基板の表と裏に接着し、冶具の両端を引っ張ることにより行なった。結果を表2にまとめた。表2において、エポキシ接着剤と冶具の間で破断したものは、III族窒化物膜と接合膜との界面で剥離したものに比べて、接合強度が高いことを示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2を参照して、IPA洗浄を行なったものが、III族窒化物膜の主面貫通孔の面積が主面の面積の10%以下において、接合強度が高かった。また、HClおよびH22洗浄ならびにIPA洗浄を行なった接合膜の貼り合わせ面における金属を含む不純物の濃度を、TXRF(全反射蛍光X線)分析により測定した。HClおよびH22洗浄を行なったものは、Fe濃度およびNi濃度いずれも1×1010cm-2以下であった。IPA洗浄を行なったものは、Fe濃度が5.7×1011cm-2で、Ni濃度が1.5×1011cm-2であった。
【0089】
(比較例1)
III族窒化物膜として、導電性向上不純物であるO(酸素)原子が6×1017cm-3の濃度にドーピングされ、両主面が鏡面に研磨された、直径2インチ(5.08cm)で厚さが400μmのGaN膜を1枚準備した。かかるIII族窒化物膜のN原子面である主面に、当該主面から約0.7μmの深さの位置にH(水素)イオンを注入した。Hイオン注入は、加速電圧が100keVで、ドーズ量が5×1017cm-2で行なった。Hイオンを注入したIII族窒化物膜のHイオンが注入された側の主面と、直径が2インチ(5.08cm)で厚さが500μmのムライト基板とを、実施例1と同様の手順で貼り合わせてアニールすることにより、Hイオンが注入された部分でIII族窒化物膜を分離することにより、ムライト基板上に厚さが0.3μmのIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板を得た。得られたIII族窒化物複合基板のシート抵抗は、1×1010Ω/sq以上であった。
【0090】
(比較例2)
支持基板として、両主面が鏡面に研磨された直径2インチ(5.08cm)で厚さが300μmのMo基板を用いたこと、Hイオンのドーズ量を3.5×1017cm-2としたこと以外は、比較例1と同様の手順で、Mo基板上に厚さが0.3μmのIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板を得た。得られたIII族窒化物複合基板を、N2ガス(窒素ガス)雰囲気中800℃で3時間さらに熱処理することにより、大部分の領域でシート抵抗が6700Ω/sqまで低くなったが、一部の領域では35000Ω/sqと高いままであった。
【0091】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
1 III族窒化物複合基板、2 III族窒化物半導体デバイス、11 支持基板、11m,12am,12bn,13m,13n 主面、12,12a,12b 接合膜、13 III族窒化物膜、13h 主面貫通孔、20 III族窒化物層、21 第1導電型GaN層、22 第1導電型AlsGa1-sN層、23 発光層、24 第2導電型AltGa1-tN層、25 第2導電型GaN層、31 第1電極、32 第2電極、100 接合界面、100b 接合領域、100n 非接合領域、111n,112n,121n,122n 非接合部分領域。
図1
図2
図3
図4
図5