(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切断要素は、前記モータジェネレータと前記駆動輪との間に設けられ、前記モータジェネレータからの前記モータジェネレータトルクが入力される入力軸と、前記駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸の回転速度を前記出力軸の回転速度で除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を有する自動変速機であり、
前記クラッチアクチュエータの前記ストロークと前記クラッチトルクとの関係を取得する際には、前記自動変速機において前記入力軸と前記出力軸が回転連結されていないニュートラル状態にされる請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(ハイブリッド車両の説明)
図1に基づき、本発明の実施形態による駆動装置1について説明する。
図1は、エンジン2及びモータジェネレータ6を備えたハイブリッド車両100(以下、車両100と略す)の駆動装置1の概略を示している。
図1において、太線は各装置間の機械的な接続を示し、破線による矢印は信号線を示し、一点鎖線による矢印は車両100の電力の供給線を示している。
【0025】
図1に示すように、車両100には、エンジン2、クラッチ5、モータジェネレータ6、自動変速機8、デファレンシャル17が、この順番に、直列に配設されている。また、デファレンシャル17には、車両100の右駆動輪18R及び左駆動輪18Lが接続されている。以下、右駆動輪18R及び左駆動輪18Lを包括して駆動輪18R、18Lという。なお、駆動輪18R、18Lは、車両100の前輪又は後輪、或いは、前後輪である。
【0026】
エンジン2は、ガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を使用するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であり、駆動輪18R、18Lに駆動力(エンジントルク)を出力するものである。エンジン2は、駆動軸21、スロットルバルブ22、燃料噴射装置23、エンジン回転速度センサ25を有する。駆動軸21は、ピストンにより回転駆動されるクランク軸と一体的に回転して駆動力を出力する。
【0027】
スロットルバルブ22は、エンジン2の内部に空気を取り込む経路の途中に配設されている。燃料噴射装置23は、エンジン2の内部に空気を取り込む経路及び燃焼室の少なくとも一方に燃料を噴射するものである。なお、本実施形態では、エンジン2の駆動軸21は、後述するクラッチ5の入力部材51に接続している。エンジン回転速度センサ25は、駆動軸21の回転速度、つまり、エンジン2の回転速度(以下、エンジン回転速度Neと略す)を検出するセンサである。
【0028】
モータジェネレータ6は、ロータ及びステータを有している。モータジェネレータ6は、駆動輪18L、18Rに駆動力(モータジェネレータトルク)を出力するとともに車両100の減速時に発電して車両100に回生制動力を付与する。また、モータジェネレータ6は、車両100の停車時に、エンジン2からの駆動力(エンジントルクTe)によって発電する。
【0029】
モータジェネレータ6には、ステータコアのスロットにステータ巻線を巻回形成したステータを外周側に配置し、ロータコアに永久磁石を埋め込んだロータを軸心に配置した三相同期機を用いることができる。ロータは、クラッチ5の出力部材52に回転連結されて一体的に回転し、更に自動変速機8の入力軸81にも回転連結されて一体的に回転する。モータジェネレータ6には、ロータの回転速度、つまり、モータジェネレータ6の回転速度(以下、モータジェネレータ回転速度Nmgと略す)を検出するモータジェネレータ回転速度センサ61が設けられている。
【0030】
バッテリ16は、電力を蓄電する二次電池であり、インバータ装置15を介して、モータジェネレータ6に電力を供給する。インバータ装置15は、制御部10からの指令に基づいて、バッテリ16から供給された電力の電圧を昇圧してモータジェネレータ6に供給する。また、インバータ装置15は、制御部10からの指令に基づいて、モータジェネレータ6において発電された電流を降圧して、バッテリ16に充電する。
【0031】
クラッチ5は、エンジン2とモータジェネレータ6の間に設けられている。クラッチ5は、エンジン2の駆動軸21に回転連結された入力部材51と、ロータに回転連結された出力部材52を備えている。クラッチ5は、入力部材51と出力部材52との間の伝達可能なトルクであるクラッチトルクTcを可変にすることにより、モータジェネレータ6のロータとエンジン2の駆動軸21とを係合又は切断する。クラッチ5には、湿式多板摩擦クラッチや乾式単板摩擦クラッチが含まれる。
【0032】
クラッチアクチュエータ53は、クラッチ5を駆動して、クラッチ5を係合又は切断するものである。クラッチアクチュエータ53は、電気や油圧により作動する。クラッチアクチュエータ53は、その作動量であるクラッチストロークClを検出して、制御部10に出力するストロークセンサ53aを有している。
【0033】
自動変速機8は、モータジェネレータ6とデファレンシャル17の間に設けられている。自動変速機8は、入力軸81と出力軸82を有している。入力軸81はモータジェネレータ6のロータに回転連結されている。出力軸82はデファレンシャル17に回転連結されている。
【0034】
自動変速機8は、入力軸81と出力軸82との間において変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を選択的に切り替える変速機構(不図示)を有している有段変速機であり、本実施形態では、オートメイテッド・マニュアルトランスミッション(AMT)である。なお、変速比とは、入力軸81の回転速度を出力軸82の回転速度で除すことにより得られる比である。
【0035】
自動変速機8は、制御部10からの指令に基づいて変速機構を作動させる変速機アクチュエータ85を備えている。自動変速機8には、入力軸81と出力軸82が回転連結されていないニュートラル状態であるか否か、及び自動変速機8の変速段を検知し、検知信号を制御部10に出力するギヤポジションセンサ88を有している。
【0036】
出力軸82に隣接する位置には、出力軸82の回転速度(出力軸回転速度No)を検出する出力軸回転速度センサ83が設けられている。出力軸回転速度センサ83によって検出された出力軸回転速度Noは、制御部10に出力される。なお、出力軸回転速度Noは、車速Vと比例関係にある。
【0037】
車両100は、駆動輪18R、18Lを含む車輪に摩擦制動力を付与する、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の摩擦ブレーキ装置91を備えている。また、車両100は、制御部10からの指令に基づいて、摩擦ブレーキ装置91に油圧を供給するブレーキブースター92を有している。
【0038】
車両100は、アクセルペダル31、アクセルセンサ32、ブレーキペダル33、ブレーキセンサ34を有している。アクセルセンサ32は、アクセルペダル31の操作量を検出することにより、運転者の「要求駆動力」を検出するものである。ブレーキセンサ34は、ブレーキペダル33の操作量を検出することにより、運転者の「要求制動力」を検出するものである。
【0039】
制御部10は、ハイブリッド車両用駆動装置1を制御するものである。制御部10は、スロットルバルブ22、燃料噴射装置23、エンジン回転速度センサ25、クラッチアクチュエータ53、モータジェネレータ回転速度センサ61、出力軸回転速度センサ83、変速機アクチュエータ85、ブレーキブースター92と接続している。
【0040】
制御部10は、CPU、RAM、記憶部10a、及びこれらを接続するバスとから構成されたECUを有する。CPUは、
図3、
図4、
図7、
図9に示すフローチャートに対応したプログラムを実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。記憶部10aは、不揮発性メモリー等で構成され、前記プログラムや
図2に示す「クラッチトルクマップ」を記憶するものである。
【0041】
制御部10は、所望のクラッチトルクTcをクラッチ5で発生させるために、
図2に示すクラッチストロークClとクラッチトルクTcとの関係を表した「クラッチトルクマップ」を参照して、所望のクラッチトルクTcに対応する指示クラッチストロークCliを取得し、取得した指示クラッチストロークCliとなるようにクラッチアクチュエータ53を制御する。
【0042】
図2に示すように、「クラッチトルクマップ」は、クラッチストロークClが0の状態ではクラッチトルクTcが0であり、クラッチストロークClが増大するに従って、クラッチトルクTcも増大するように設定されている。入力部材51と出力部材52の摩耗等により、
図2の一点鎖線や二点鎖線に示すように、クラッチストロークClとクラッチトルクTcとの関係は変化し、実際のクラッチストロークClとクラッチトルクTcとの関係と、「クラッチトルクマップ」のクラッチストロークClとクラッチトルクTcとの関係が乖離してしまう。本実施形態では、後述の「クラッチマップ補正処理」(
図3、
図7、
図9示)によって、「クラッチトルクマップ」が実際のクラッチストロークClとクラッチトルクTcの関係となるように更新して補正する。
【0043】
制御部10は、アクセルペダル31の操作量を検出するアクセルセンサ32から、前記操作量の相対値を意味するアクセル開度Acの情報を取得する。制御部10は、アクセル開度Acに基づいて、「要求駆動力」を演算する。制御部10は、バッテリ16の残量、車速V、及び自動変速機8の変速段の情報等に基づいて、「要求モータトルク」を演算する。
【0044】
制御部10は、「要求駆動力」、「要求モータトルク」、及び自動変速機8の変速段等の情報に基づいて「要求エンジントルク」を演算する。制御部10は「要求エンジントルク」に基づいて、スロットルバルブ22の開度及び燃料噴射装置23の燃料噴射量を制御し(以下、単にエンジン2を制御すると略す)、エンジン2が出力する駆動力が「要求エンジントルク」となるように制御する。これら「要求エンジントルク」及び「要求モータトルク」の少なくとも一方によって、車両100に「要求駆動力」が付与される。
【0045】
制御部10は、インバータ装置15の動作を制御することで、モータジェネレータ6の駆動モードと発電モードの切り替え制御を行うとともに、モータジェネレータ6のモータジェネレータ回転速度Nmg及び「要求モータトルク」の制御を行う。このように、モータジェネレータ6が発電モードとなると、車両100に回生制動力が付与される。つまり、モータジェネレータ6は、回生制動装置である。
【0046】
制御部10は、インバータ装置15から出力された情報に基づいて、バッテリ16の残量を検出する。制御部10は、バッテリ16の残量やアクセル開度Acに基づいて、「電動走行モード」と「スプリット走行モード」とを切り替えるか否かを判断する。なお、「電動走行モード」は、モータジェネレータ6のみにより駆動輪18R、18Lを駆動する走行モードである。また「スプリット走行モード」は、エンジン2及びモータジェネレータ6により駆動輪18R、18Lを駆動し、又は、エンジン2の駆動力によって駆動輪18R、18Lを駆動するとともに、エンジン2の駆動力によってモータジェネレータ6で発電を行うモードである。
【0047】
制御部10は、バッテリ16の残量が少ないと判断した場合には、「スプリット走行モード」を選択して、エンジン2の駆動力によって駆動輪18R、18Lを駆動するとともに、エンジン2の駆動力によってモータジェネレータ6で発電を行う。また、アクセル開度Acが大きく、「要求モータトルク」けでは「要求駆動力」に達しないと判断した場合には、「スプリット走行モード」を選択して、エンジン2及びモータジェネレータ6により駆動輪18R、18Lを駆動する。
【0048】
制御部10は、クラッチアクチュエータ53を作動させて、クラッチ5を完全係合状態又は切断状態にし、エンジン2の駆動軸とモータジェネレータ6のロータとを接続又は切断する。このように、制御部10は、クラッチ5を切断することにより、「電動走行モード」に切り替えるとともに、クラッチ5を係合することにより「スプリット走行モード」に切り替える。
【0049】
制御部10は、エンジン回転速度センサ25によって検出されたエンジン2の回転速度(以下、単にエンジン回転速度Neと略す)、図示しない流量センサによって検出されたシリンダに流入する空気の流量、図示しない温度センサによって検出されたシリンダに流入する空気の温度、図示しない圧力センサによって検出されたシリンダに流入する空気の気圧、燃料噴射装置23によってシリンダに供給される燃料の量に基づいて、エンジン2が駆動軸21に出力しているエンジントルクTeを演算する。
【0050】
制御部10は、ブレーキペダル33の操作量を検出するブレーキセンサ34から、前記操作量の相対値を意味するブレーキ開度Bkの情報を取得する。そして、制御部10は、ブレーキ開度Bkに基づいて、「要求制動力」を演算する。制御部10は、ブレーキブースター92及びインバータ装置15の少なくとも一方を制御して、摩擦ブレーキ装置91が発生する「摩擦制動力」とモータジェネレータ6が発生する「回生制動力」の合計が「要求制動力」となるように制御する。
【0051】
エンジン2、クラッチ5、モータジェネレータ6、自動変速機8、インバータ装置15、バッテリ16、摩擦ブレーキ装置91、ブレーキブースター92及び制御部10を包括した構成が、駆動装置1に該当する。
【0052】
(第一実施形態のクラッチトルクマップ補正処理)
次に、「第一実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」について、
図3及び
図4に示すフローチャート及び
図6に示すタイムチャートを参照して説明する。車両100が走行可能な状態となると、プログラムはS11に進む。
【0053】
S11において、制御部10が、インバータ装置15、出力軸回転速度センサ83、及びブレーキセンサ34からの信号に基づいて、停車発電条件が成立したと判断した場合には(S11:YES)、プログラムをS12に進め、停車発電条件が成立していないと判断した場合には(S11:NO)、S11の処理を繰り返す。なお、バッテリ16の残量が規定値以下となり、車両100が停車している状態で、ブレーキペダル33が踏まれている場合には、停車発電条件が成立したと判断される。また、バッテリ16の残量が規定値以下となり、シフトレバー(不図示)がニュートラル位置であり、サイドブレーキレバー(不図示)が引かれている場合にも、停車発電条件が成立したと判断される。
【0054】
S12において、制御部10は、停車発電を実行する。具体的には、まず、制御部10は、ギヤポジションセンサ88からの検出信号に基づいて、自動変速機8がニュートラルでないと判断した場合には、変速機アクチュエータ85に制御信号を出力することにより、自動変速機8をニュートラルにする。次に、制御部10は、クラッチ5が接続された状態で、エンジン2によってモータジェネレータ6を駆動することにより、モータジェネレータ6で発電させる。S12が終了すると、プログラムはS13に進む。
【0055】
S13において、制御部10が、インバータ装置15及びブレーキセンサ34からの信号に基づいて、停車発電停止条件が成立したと判断した場合には(S13:YES)、プログラムをS21に進め、停車発電停止条件が成立していないと判断した場合には(S13:NO)、S13の処理を繰り返す。なお、バッテリ16が満充電近くとなった場合、又はブレーキペダル33が離された場合には、停車発電停止条件が成立したと判断される。
【0056】
S21において、制御部10は、モータジェネレータ6の回転速度を規定回転速度N1(
図6示)に保つ制御を開始する。なお、エンジントルクTeは、停車発電時から一定である。S21が終了すると、プログラムはS22に進む。
【0057】
S22において、制御部10は、「クラッチストローク減少・回転速度維持処理」を実行する。この「クラッチストローク減少・回転速度維持処理」について、
図4に示すフローチャートを用いて説明する。「クラッチストローク減少・回転速度維持処理」が開始すると、S22−1に進む。
【0058】
S22−1において、制御部10は、エンジン回転速度センサ25及びモータジェネレータ回転速度センサ61からの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Neからモータジェネレータ回転速度Nmgを減算した値の絶対値が、規定差回転速度(例えば50r.p.m.)より小さいと判断した場合には(S22−1:YES)、プログラムをS22−2に進め、上記絶対値が、規定差回転速度以上であると判断した場合には(S22−1:NO)、プログラムをS22−3に進める。
【0059】
S22−2において、制御部10は、指示クラッチストロークCliを下式(1)に基づいて演算して、指示クラッチストロークCliを減少させる。
Cli=Cli1−a…(1)
Cli:指示クラッチストローク
Cli1:前回S22−2によって演算された指示クラッチストローク
a:一定数
なお、初めてS22−2が実行される場合には、Cli1として現在のクラッチストロークClが設定される。S22−2が終了すると、プログラムは、S22−
4に進む。
【0060】
S22−3において、制御部10は、
図5に示すPI制御計算によって、指示クラッチストロークCliを演算する。
なお、
図5において、Kpは比例ゲインであり、Kiは積分ゲインである。
なお、初めてS22−3が実行される場合には、積分項の初期値として、前回S22−3で演算された指示クラッチストロークCliが設定される。
【0061】
S22−4において、制御部10は、S22−2又はS22−3において演算された指示クラッチストロークCliとなるようにクラッチアクチュエータ53を制御する。S22−2及びS22−4の処理によって、
図6の1に示すように、クラッチトルクTcが徐々に低下する。S22−3及びS22−4の処理によって、
図6の2に示すように、エンジン回転速度Neがモータジェネレータ回転速度Nmgから乖離しないように、クラッチトルクTcがフィードバック制御される。S22−4が終了すると、プログラムは、
図3のS23に進む。
【0062】
S23において、制御部10は、ストロークセンサ53aからの検出信号に基づいて、
クラッチストロークClの変化量が第一規定変化量A以下となったと判断した場合には(
S23:YES、
図6の2)、プログラムをS24に進め、クラッチストロークClの変
化量が第一規定変化量Aより大きいと判断した場合には(S23:
NO)、プログラム
をS22に戻す。
【0063】
S24において、制御部10は、インバータ装置15がモータジェネレータ6に供給している電流に基づいて、モータジェネレータ6が出力しているモータジェネレータトルクTmgを検出し、ストロークセンサ53aからの検出信号に基づいて、クラッチストロークClを検出し、検出したモータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClを記憶部10aに対応付けして記憶する。S24が終了すると、プログラムはS25に進む。
【0064】
S25において、制御部10は、S24において、規定回数(例えば3回)、モータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClの関係を対応付けして記憶したと判断した場合には(S25:YES)、プログラムをS31に進め、S24において規定回数、モータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClの関係を対応付けして記憶していないと判断した場合には(S25:NO)、プログラムをS26に進める。
【0065】
S26において、制御部10は、下式(2)によって演算されるエンジントルクTeとなるように、エンジン2を制御する。
Te=Te1−b…(2)
Te:エンジントルク
Te1:前回のS26でのエンジントルクTe
b:定数
このS26の処理により、エンジントルクTeは減少する(
図6の3)。なお、初めてS26が実行される場合には、Te1として現在のエンジントルクTeが設定される。S26が終了すると、プログラムはS27に進む。
【0066】
S27において、制御部10は、エンジントルクTeがS26において指示されたエンジントルクに減少したと判断した場合には(S27:YES、
図6の4)、プログラムをS22に進め、エンジントルクTeがS26において指示されたエンジントルクに減少していないと判断した場合には(S27:NO)、S27の処理を繰り返す。
【0067】
S31において、制御部10は、クラッチアクチュエータ53に制御信号を出力することにより、クラッチ5を完全に切断するとともに、エンジン2を制御して、エンジン回転速度Neをアイドリング回転速度(例えば800r.p.m.)にする(
図6の5)。S31が終了すると、プログラムはS32に進む。
【0068】
S32において、制御部10は、ストロークセンサ53aからの検出信号に基づいて、クラッチ5が完全に切断されたと判断した場合には(S32:YES、
図6の6)、プログラムをS33に進め、クラッチ5が完全に切断されていないと判断した場合には(S32:NO)、S32の処理を繰り返す。
【0069】
S33において、制御部10は、インバータ装置15がモータジェネレータ6に供給している電流に基づいて、モータジェネレータトルクTmgの変化量が規定変化量Ta以下であると判断した場合には(S33:YES、
図6の7)、プログラムをS34に進め、モータジェネレータトルクTmgの変化量が規定変化量Taより大きいと判断した場合には(S33:NO)、S33の処理を繰り返す。
【0070】
S34において、制御部10は、インバータ装置15がモータジェネレータ6に供給している電流に基づいて、規定回転速度N1で回転しているモータジェネレータ6が出力しているトルク(以下、維持トルクTmgkと略す、
図6の8)を検出し、記憶部10aに記憶する。なお、維持トルクTmgkは、モータジェネレータ6が規定回転速度N1を維持するのに必要なトルクであり、ロータの回転抵抗(摩擦損)、ロータとステータとの鉄損が含まれる。S34が終了すると、プログラムはS35に進む。
【0071】
S35において、制御部10は「クラッチトルクマップ」を生成する。具体的には、まず、制御部10は、S24において記憶されたモータジェネレータトルクTmg、S34において記憶された維持トルクTmgk、下式(3)に基づいて、クラッチ5が実際に伝達しているトルクである実クラッチトルクTcrを演算する。
Tcr=−1×(Tmg−Tmgk)…(3)
Tcr:実クラッチトルク
Tmg:モータジェネレータトルク
Tmgk:維持トルク
【0072】
次に、実クラッチトルクTcrとこれに対応するクラッチストロークCl(S24で記憶)との関係(
図2の1〜3)を線形補間することによって、「クラッチトルクマップ」(
図2の一点鎖線)を、更新記憶する。S35が終了すると、プログラムはS36に進む。
【0073】
S36において、制御部10は、モータジェネレータ回転速度Nmgを0にして(
図6の10)、停車発電を終了し、プログラムをS11に戻す。
【0074】
(第二実施形態のクラッチトルクマップ補正処理)
次に、「第二実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」について、
図7に示すフローチャート及び
図8に示すタイムチャートを参照して説明する。車両100が走行可能な状態となると、プログラムはS111に進む。「第二実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」のS111、S112、S113、S121の処理はそれぞれ、「第一実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」のS11、S12、S13、S21の処理と同一である。S121が終了すると、プログラムはS122に進む。
【0075】
S122において、制御部10は、指示クラッチストロークCliを下式(4)に基づいて演算し、クラッチストロークClが指示クラッチストロークCliとなるように減少させる制御を開始する(
図8の1)。
Cli=Cli2−ct…(4)
Cli:指示クラッチストローク
Cli2:S122開始時点のクラッチストローク
c:定数
t:S122開始からの経過時間
S122が終了すると、プログラムは、S123に進む。
【0076】
S123において、制御部10が、エンジン回転速度センサ25からの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Neが規定回転速度N1から上昇したと判断した場合には(S123:YES、
図8のT2、2)、プログラムをS124に進め、エンジン回転速度Neが規定回転速度N1のままであると場合には(S123:NO)、S123の処理を繰り返す。
【0077】
S124において、制御部10は、インバータ装置15がモータジェネレータ6に供給している電流に基づいて、モータジェネレータ6が出力しているモータジェネレータトルクTmgを検出し、ストロークセンサ53aからの検出信号に基づいて、クラッチストロークClを検出し、所定時間(例えば50ms)をおいて検出したモータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClを記憶部10aに対応付けして記憶する処理を開始する。S124が終了すると、プログラムはS125に進む。
【0078】
S125において、制御部10は、エンジン回転速度センサ25からの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Neが第二規定回転速度N2に達したと判断した場合には(S125:YES、
図8のT3)、プログラムをS126に進め、エンジン回転速度Neが第二規定回転速度N2に達していないと判断した場合には(S125:NO)、S125の処理を繰り返す。なお、第二規定回転速度N2は、上述の規定回転速度N1よりも所定回転速度(例えば100〜200r.p.m.)高い回転速度である。
【0079】
S126において、制御部10は、エンジン回転速度センサ25からの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Neが第二規定回転速度N2となるようにエンジン2のフィードバック制御を開始する。このS126の処理によって、エンジン2の制御がトルク制御から回転速度制御に切り替わり、エンジントルクTeが減少する(
図8の6)。S126が終了すると、プログラムはS127に進む。
【0080】
S127において、制御部10は、クラッチセンサ53aからの検出信号に基づいて、クラッチ5が完全に切断されたと判断した場合には(S127:YES、
図8のT4)、プログラムをS128に進め、クラッチ5が完全に切断されていないと判断した場合には(S127:NO)、S127の処理を繰り返す。
【0081】
S128において、エンジン2を制御して、エンジン回転速度Neをアイドリング回転速度にする(
図8の3)。S128が終了すると、プログラムはS133に進む。
【0082】
S133において、制御部10は、モータジェネレータ回転速度センサ61からの検出信号に基づいて、モータジェネレータトルクTmgの変化量が規定変化量Ta以下であると判断した場合には(S33:YES、
図8のT5、4)、プログラムをS134に進め、モータジェネレータトルクTmgの変化量が規定変化量Taより大きいと判断した場合には(S133:NO)、S133の処理を繰り返す。
【0083】
S134において、制御部10は、インバータ装置15がモータジェネレータ6に供給している電流に基づいて、規定回転速度N1で回転しているモータジェネレータ6が出力している維持トルクTmgk(
図6の7)を検出し、記憶部10aに記憶する。S134が終了すると、プログラムはS135に進む。
【0084】
S135において、制御部10は「クラッチトルクマップ」を生成する。具体的には、まず、制御部10は、S124において記憶されたモータジェネレータトルクTmg、S34において記憶された維持トルクTmgk、上式(3)に基づいて、クラッチ5が実際に伝達しているトルクである実クラッチトルクTcrを演算する。次に、実クラッチトルクTcrとこれに対応するクラッチストロークClとの関係によって、「クラッチトルクマップ」を、更新記憶する。S135が終了すると、プログラムはS136に進む。
【0085】
S136において、制御部10は、モータジェネレータ回転速度Nmgを0にして(
図8のT6、5)、停車発電を終了し、プログラムをS111に戻す。
【0086】
(第三実施形態のクラッチトルクマップ補正処理)
次に、「第三実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」を「第一実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」と異なる点について、
図9に示すフローチャートを参照して説明する。車両100が走行可能な状態となると、プログラムはS211に進む。「第三実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」のS211、S212、S213、S221、S222、S223の処理はそれぞれ、「第一実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」のS11、S12、S13、S21、S22、S23の処理と同一である。S223においてYESと判断されると、プログラムはS224に進む。
【0087】
S224において、制御部10は、上述した手法によって、エンジントルクTeを演算し、ストロークセンサ53aからの検出信号に基づいて、クラッチストロークClを検出し、演算したエンジントルクTeと検出したクラッチストロークClを記憶部10aに対応付けして記憶する。S224が終了すると、プログラムはS225に進む。
【0088】
S225において、制御部10は、S224において、規定回数(例えば3回)、エンジントルクTeとクラッチストロークClの関係を対応付けして記憶したと判断した場合には(S225:YES)、プログラムをS231に進め、S224において規定回数、エンジントルクTeとクラッチストロークClの関係を対応付けして記憶していないと判断した場合には(S225:NO)、プログラムをS226に進める。
【0089】
「第三実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」のS226、S227、S231、S232、S235の処理はそれぞれ、「第一実施形態のクラッチトルクマップ補正処理」のS26、S27、S31、S32、S35の処理と同一である。S23
2において、YESと判断されると、プログラムはS235に進む。
【0090】
S235において、制御部10は、S224において記憶されたエンジントルクTeを実クラッチトルクTcrとし、実クラッチトルクTcrとこれに対応するクラッチストロークCl(S224で記憶)との関係(
図2の1〜3)を線形補間することによって、「クラッチトルクマップ」(
図2の一点鎖線)を、更新記憶する。S235が終了すると、プログラムはS236に進む。
【0091】
S236において、制御部10は、モータジェネレータ回転速度Nmgを0にして、停車発電を終了し、プログラムをS211に戻す。
【0092】
(本実施形態の効果)
上述した説明から明らかなように、制御部10(クラッチトルクマップ生成部)は、車両100の停車時に、自動変速機8(切断要素)がニュートラルにされることによってモータジェネレータ6と駆動輪18R、18Lが切断されている状態で、モータジェネレータの回転速度を一定に保つ(
図3のS21、
図7のS121、
図9のS221)。次に、制御部10は、クラッチアクチュエータ53を駆動させて接続状態にあるクラッチ5のクラッチトルクTcを減少させ(
図4のS22−2、
図6の1、
図7のS122、
図8の1)、この際におけるモータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClに基づいて、クラッチトルクTcとクラッチストロークClとの関係を取得する。
【0093】
エンジントルクTeをモータジェネレータ6に伝達することができる最大のトルクは、クラッチトルクTcである。モータジェネレータ6で発電が実行され、モータジェネレータトルクTmgは負トルクであるので、クラッチトルクTcがエンジントルクTeと同一又は下回った際において、モータジェネレータトルクTmgに−1を乗算したトルクが実クラッチトルクTcrである。このようにして、実クラッチトルクTcrを取得することにより、正確なクラッチトルクTcとクラッチストロークCl(クラッチアクチュエータ53のストローク)との関係を取得して、「クラッチトルクマップ」を補正することができる。このため、クラッチ5において所望のクラッチトルクTcを発生させることができるハイブリッド車両用駆動装置1を提供することができる。
【0094】
また、エンジン2やモータジェネレータ6を特別に駆動させることなく、エンジン2によるモータジェネレータ6の発電を停止させる停車発電終了時に、「クラッチトルクマップ」を補正するので、燃料や電力の消費を最小限に抑えることができ、ハイブリッド車両用駆動装置1の燃費や電費が悪化しない。また、モータジェネレータトルクTmgに基づいて実クラッチトルクTcrを取得しているので、エンジントルクTeから実クラッチトルクTcrを取得するのに比較して、より正確に実クラッチトルクTcrを取得することができる。
【0095】
また、制御部10(クラッチトルクマップ生成部)は、クラッチ5が切断されている状態でモータジェネレータ6を規定回転速度N1に保った際のモータジェネレータ6が出力しているトルクである維持トルクTmgkを取得する(
図3のS34、
図6の8、
図7のS134、
図8の7)。そして、制御部10は、モータジェネレータトルクTmgから維持トルクTmgkを減算して、実モータジェネレータトルクTmgrを取得し、「クラッチトルクマップ」を補正する(
図3のS35、
図7のS135)。
【0096】
クラッチ5が切断されている状態でモータジェネレータ6を規定回転速度N1に保った際には、モータジェネレータ6は外部にトルクを出力してないにも関わらず、モータジェネレータ6において摩擦損や鉄損が発生し、モータジェネレータ6の回転を維持するのに必要なトルクである維持トルクTmgkが発生する。そこで、維持トルクTmgkを取得して、モータジェネレータトルクTmgら維持トルクTmgkを減算して、モータジェネレータ6が実際に出力している実モータジェネレータトルクTmgrを取得することにより、実際にクラッチ5が出力している実クラッチトルクTcrを正確に取得することができる。このため、より正確なクラッチトルクTcとクラッチストロークClとの関係を取得することができ、より正確にクラッチ5において所望のクラッチトルクTcを発生させることができる。
【0097】
なお、モータジェネレータ6を規定回転速度N1に保った状態で、モータジェネレータトルクTmgを検出しているので、モータジェネレータ回転速度Nmgが変化し、モータジェネレータ6のロータのイナーシャトルクが変動することに起因するモータジェネレータトルクTmgの変動を防止することができる。また、モータジェネレータ回転速度Nmgが変化しないので、維持トルクTmgkも変化しない。このため、正確に実クラッチトルクTcrを検出することができ、正確に「クラッチトルクマップ」を補正することができる。
【0098】
また、制御部10(クラッチトルクマップ生成部)は、エンジン2を制御してエンジントルクTeをステップ状に減少させる(
図6の3、11)。そして、制御部10は、エンジントルクTeが一定の状態において、クラッチトルクTcの減少に伴いエンジン回転速度Neが上昇した際に、エンジン回転速度Neとモータジェネレータ回転速度Nmgが同一となるようにクラッチアクチュエータ53によってクラッチトルクTcを制御する(
図4のS22−3、S22−4、
図5)。そして、制御部10は、クラッチストロークClの変化量が第一規定変化量A以下となった際(
図3のS23でYESと判断、
図6の2)のモータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClに基づいて、クラッチトルクTcとクラッチストロークClの関係を取得する。
【0099】
このように、クラッチストロークClの変化量が第一規定変化量A以下となった際、つまり、クラッチストロークClの変化が安定した際に、モータジェネレータトルクTmgとクラッチストロークClを取得する。このため、より正確にクラッチトルクTcとクラッチストロークClとの関係を取得することができる。
【0100】
また、制御部10(クラッチトルク生成部)は、停車時に、モータジェネレータ6と駆動輪18R、18Lが切断されている状態で、モータジェネレータ6の回転速度を一定に保ち、エンジン2が回転している状態でクラッチアクチュエータ53を駆動させて接続状態にあるクラッチ5のクラッチトルクTcを減少させた際における、エンジントルクTeとクラッチストロークClとの関係を取得して(
図9のS224)、「クラッチトルクマップ」を補正する(
図9のS236)。
【0101】
エンジントルクTeをモータジェネレータ6に伝達することができる最大のトルクは、クラッチトルクTcである。このため、クラッチトルクTcを減少させた場合において、エンジン回転速度Neがモータジェネレータ回転速度Nmgから上昇に転じる直前には、クラッチトルクTcとエンジントルクTeは同一となっているので、エンジントルクTeを取得することにより、実クラッチトルクTcrを取得することができる。このようにして、実クラッチトルクTcrを取得して、クラッチトルクTcとクラッチストロークClとの関係を取得することができるので、「クラッチトルクマップ」を補正することができる。このため、クラッチ5において所望のクラッチトルクTcを発生させることができるハイブリッド車両用駆動装置1を提供することができる。
【0102】
また、モータジェネレータ6と駆動輪18R、18Lを切断する切断要素は、自動変速機8である。そして、「クラッチトルクマップ」を更新記録する際には、自動変速機8がニュートラル状態にされる。これにより、モータジェネレータ6と駆動輪18R、18Lの間に、特別な切断要素を設ける必要が無く、既存の自動変速機8をニュートラル状態にすることによって、モータジェネレータ6と駆動輪18R、18Lを切断することができる。
【0103】
(別の実施形態の説明)
エンジン2とクラッチ5の間や、クラッチ5とモータジェネレータ6の間に減速機が設けられている実施形態であっても差し支え無い。
【0104】
以上説明した第一実施形態において、クラッチストロークClを徐々に減少させる処理を行っている際に(
図4のS22−2)、エンジン回転速度Neがモータジェネレータ回転速度Nmg(規定回転速度N1)から上昇した際のクラッチストロークClとモータジェネレータトルクTmgとの関係を取得して、「クラッチトルクマップ」を生成する実施形態であっても差し支え無い。同様に、以上説明した第三実施形態において、クラッチストロークClを徐々に減少させる処理を行っている際に(
図4のS22−2)、エンジン回転速度Neがモータジェネレータ回転速度Nmg(規定回転速度N1)から上昇した際のクラッチストロークClとエンジントルクTeとの関係を取得して、「クラッチトルクマップ」を生成する実施形態であっても差し支え無い。
【0105】
以上説明した実施形態では、モータジェネレータ回転速度Nmgは、モータジェネレータ回転速度センサ61によって検出される。しかし、入力軸81の回転速度を検出する入力軸回転速度センサによってモータジェネレータ回転速度Nmgを検出する実施形態であっても差し支え無い。
【0106】
以上説明した実施形態では、自動変速機8は、AMTである。しかし、自動変速機8は、デュアルクラッチトランスミッションや、トルクコンバータ、遊星歯車機構を有するトルクコンバータ式自動変速機であっても差し支え無い。なお、自動変速機8がトルクコンバータ式自動変速機である場合には、トルクコンバータをロックアップすることが、モータジェネレータ6での発電において、トルクコンバータで機械的損失が発生しないので好ましい。
【0107】
なお、以上説明した実施形態では、
図2に示すように、クラッチ5は、クラッチストロークClが増大するに従ってクラッチトルクTcが増大する。しかし、クラッチストロークClが増大するに従ってクラッチトルクTcが減少するクラッチ5であっても差し支え無く、このようなクラッチ5にも本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0108】
以上説明した実施形態では、出力軸回転速度センサ83によって車速Vを検出し、車両の停止を検出している。しかし、車輪の回転速度を検出する車輪速センサによって車速Vを検出し、車両の停止を検出する実施形態であっても差し支え無い。