(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る防護服に関して、実施例を示す図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0015】
1.防護服
本発明の防護服は、外層布1、粒子除去層2、ガス吸着層3、内層布4を含む積層構造を有する防護材料5から構成されている。
【0016】
本発明の防護服では、前記積層構造のJIS L1096 8.26に基づき測定される通気度は10〜30cm
3/cm
2・sであり、より好ましくは11〜20cm
3/cm
2・sであり、更に好ましくは12〜16cm
3/cm
2・sである。通気度を前記範囲内に調整することにより、防護服内の加圧された空気を外部へ逃がすことができるようになるため、防護服着用者が動作した場合であっても、防護服内の圧力変化が小さくなり、袖口等の繋ぎ目から粒子が進入することを防ぐことができる。また、通気度が10cm
3/cm
2・sを下回ると、防護材料の特性がフィルムに近くなり、袖口等の繋ぎ目から粒子が進入しやすくなるため好ましくない。一方、通気度が30cm
3/cm
2・sを超えると、防護材料の繊維間の空隙を通じて、粒子が防護服内に進入しやすくなるため好ましくない。
【0017】
また本発明の防護服において、前記積層構造の通気線速2.5cm/sec下における粒径0.3〜0.5μmの粒子捕集効率は60〜90%であり、より好ましくは61〜85%であり、更に好ましくは62〜80%である。粒子捕集効率が前記範囲内であれば、防護材料5中の空隙を通じて進入する粒子数を減らすことができる。また、粒子捕集効率が60%を下回ると、防護材料のフィルター効果が充分に発揮されず、防護材料の繊維間空隙から粒子が防護服内部へ進入しやすくなるため好ましくない。一方、捕集効率が90%を超えると、繊維間が密になり、防護材料の通気度が低下するため好ましくない。
【0018】
なお本発明の防護服においては、防護材料5に前記1〜4層以外の他の層を更に積層させることも可能である。このように、積層構造を5層以上とするときは、前述した通気度及び粒子の捕集効率は、全ての層が積層された状態で測定することとする。以下に各層について詳述する。
【0019】
<外層布>
本発明では、前記1〜4から構成される積層構造の最も外側に、外層布1を積層する。外層布1は、摩擦等の外力から、粒子除去層2やガス吸着層3を保護する層である。外層布1を積層することにより防護材料5の強度が高くなるため、外力に対して強くなる。
【0020】
外層布1を構成する素材は、特に限定されるものではなく、綿、麻、毛、絹等の天然繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ、レヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66、アラミド繊維等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体繊維、モダクリル繊維等のアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維等の合成繊維;ポリフェニレンスルフィド繊維;ポリベンザゾール繊維(PBZ)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維等の複素環高分子繊維;ポリカーボネート繊維;ポリスルホン繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維;等が例示できる。これらの繊維は複数を混紡・混綿して使用してもよい。
【0021】
外層布1は、着用者のムレを防止するために、綿、麻、毛、絹等の天然繊維から構成されていることが望ましく、より好ましくは綿である。また、外層布1に適度な強度を付与するため、ナイロン6、ナイロン66、アラミド繊維等のポリアミド繊維を混紡・混繊して使用してもよい。天然繊維と他の繊維を混紡・混繊する場合、天然繊維の混率は50%以上100%未満が好ましい。天然繊維の混合比を高めることで、より着用者が快適に作業を進めることができるようになる。
【0022】
外層布1の目付は、80〜300g/m
2が好ましく、より好ましくは90〜250g/m
2であり、更に好ましくは100〜220g/m
2である。外層布1の目付が80g/m
2を下回ると、外層布1を構成する繊維量が十分ではなく、摩擦等の外力により外層布1を構成する繊維が切れたときに、外層布1までも裂ける虞があるため好ましくない。また、外層布1の目付が300g/m
2を上回ると、防護材料5から形成される防護服が重くなるため、着用者の負担となる虞があるため好ましくない。
【0023】
また、外層布1の通気度は、10〜150cm
3/cm
2・sが好ましく、より好ましくは20〜140cm
3/cm
2・sであり、更に好ましくは30〜130cm
3/cm
2・sである。外層布1の通気度が、10cm
3/cm
2・sを下回ると、防護服の通気性が悪くなるため、着用者が不快に感じてしまう。また、外層布1の通気度が150cm
3/cm
2・sを上回ると、粒径の比較的大きなダスト等が防護服内に進入する虞があるため好ましくない。
【0024】
外層布1の厚さは、0.1〜0.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.45mmであり、更に好ましくは0.2〜0.4mmである。外層布1の厚さが0.1mmを下回ると、外層布1の厚さが十分でないため、粒子除去層2やガス吸着層3の保護機能が充分に発揮されない虞がある。また、外層布1の厚さが0.5mmを上回ると、防護服がごわつき、防護服の着用者の作業の妨げとなる虞があるため好ましくない。
【0025】
外層布1としては、織物、編物、不織布等が好適に使用できる。特に織物から形成されていることが望ましい。織物であれば、摩擦等の外力により繊維が切れにくいため、粒子除去層2やガス吸着層3を有効に保護することができる。
【0026】
織物の織組織は特に限定されるものではなく、例えば、平織り、綾織り、朱子織り等が挙げられる。また、織物の製造に用いる織機も特に限定されるものではなく、ウォータージェットルーム織機、エアージェット織機、レピア織機等の各種織機を適宜使用するとよい。
【0027】
外層布1には、各種後加工を施すことが可能である。後加工としては、例えば、毛焼加工、糊抜加工、精練加工、漂白加工、シルケット加工、染色・ソーピング処理、撥水処理、撥油処理、防火加工などが挙げられる。本発明においては、これらの後加工を複数実施することも可能である。
【0028】
本発明の防護服には、着用者の安全性を確保する観点から、防火加工が施されていることが特に好ましい。外層布1を天然繊維から形成する場合には、特に繊維が燃焼しやすいため、難燃剤による防火加工を施すことが望ましい。前記難燃剤としては、例えば、N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0029】
外層布1には、撥水処理及び撥油処理が施されていることが望ましい。外層布1の撥水度は、JIS L1092 6.2(スプレー試験)で測定される撥水度が4以上であることが望ましい。一方、外層布1の撥油度は、AATCC Test Method 118により測定される撥油度が4級以上であることが望ましく、撥水剤や撥油剤としては、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。
【0030】
<粒子除去層>
粒子除去層とは、有害なミストや粉塵を捕捉する層である。粒子除去層2を積層することにより、有害なミストや微粉塵から人体を保護することができる。
【0031】
粒子除去層2の素材としては、特に限定されるものではなく、外層布1の欄で述べた各素材を使用することができる。中でも、防護服の柔軟性の観点からポリウレタン繊維、耐熱性の観点からポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維の使用が望ましい。
【0032】
粒子除去層2は、織物、編物、不織布等の布帛から形成されることが望ましく、不織布から形成されていることがより望ましい。不織布であれば、優れた粒子除去性能を付与できると共に、柔軟性と伸長性のバランスが良いため、防護服として仕立てたときに、着用者の作業性を確保でき、着用者にかかるストレスを軽減することができる。なお、粒子除去層2は同一種の材料から形成してもよく、又は素材の異なる材料を複数用いて形成してもよい。
【0033】
前記不織布形状の粒子除去層2を形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、メルトブローン法、湿式法、乾式法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法、複合繊維分割法等が挙げられるが、適度な通気度を与え、且つ、得られる不織布の繊維径が小さく粒子捕集効率が良好なことから、本発明ではメルトブローン法及びエレクトロスピニング法を採用するとよい。
【0034】
なお、前記エレクトロスピニング法とは、溶融紡糸法の一種であり、具体的には、ポリマー溶液に正の電荷を与え、正電荷を与えられたポリマー溶液をアース又は負に帯電した基盤表面にスプレーされる工程でポリマーを繊維化する手法をいう。
【0035】
粒子除去層2を形成する繊維の平均単繊維直径は、0.2〜2.5μmであることが好ましく、より好適には0.21〜2.3μmであり、更に好適には0.22〜2.1μmである。繊維の平均単繊維直径を前記範囲内に調整することにより、防護材料5の通気度と粒子捕集効率のバランスを良好に保つことができるため好ましい。
【0036】
粒子除去層2の通気度は、例えば、10〜35cm
3/cm
2・sであることが好ましく、より好ましくは12〜34cm
3/cm
2・sであり、更に好ましくは13〜32cm
3/cm
2・sである。前記範囲内であれば、防護材料5の通気度を適正な範囲に調整でき
るため好ましい。
【0037】
粒子除去層2の目付(基材を積層する場合は、基材及び接着層の質量を除く)は、例えば、0.1〜50g/m
2が好ましく、より好適には0.3〜47g/m
2であり、更に好適には0.5〜43g/m
2である。粒子除去層2の目付が前記範囲内であれば、積層後の防護材料5が分厚くなり過ぎず、防護服に仕立てたときに軽量性や運動追従性を損なわないため、着用者にかかる負担を軽減できる。また、目付が前記範囲内であれば、防護服の通気度と粒子捕集効率のバランスを維持することができるため好ましい。
【0038】
粒子除去層2の厚さ(基材を積層する場合は、基材及び接着層の厚さを除く)は、0.1〜500μmが好ましく、より好適には0.5〜400μmである。粒子除去層2の厚さを前記範囲内に調整することにより、通気性、粒子捕集効率、強度、柔軟性のバランスを良好なものとできる。
【0039】
当該粒子除去層2の強度を補強する為に、粒子除去層2と通気性のある基材(図示しない)と複合化することも可能である。本発明において、粒子除去層2の基材とは、具体的には通気度が100cm
3/cm
2・s以上の素材をいう。基材としては、例えば、シート状の布帛、通気性を有する多孔フィルム、又は通気性を有する多孔膜等を用いることができる。
【0040】
粒子除去層2の基材として用いられる布帛としては、通気性を有する布帛であれば特に限定されないが、例えば、織物、編物、レース、網、不織布等の各種布帛が挙げられる。また、前記布帛は、粒子除去層2の素材の欄で詳述した各種繊維から形成されることが望ましい。これらの繊維は、単独で使用してもよく、混紡、混綿、交絡、交編して使用してもよい。
【0041】
また、通気性を有する多孔フィルム又は膜を形成し得る樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、共重合ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、アクリレートの各種樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独で使用してもよく、混合或いは順にコーティングすることにより積層構造としてもよい。
【0042】
基材は、粒子除去層2の通気性能を損なわないために、通気度は100cm
3/cm
2・s以上であり、より好適には150cm
3/cm
2・s以上である。通気度の上限は限定されないが、例えば、600cm
3/cm
2・s以下、更には500cm
3/cm
2・s以下の基材も許容される。
【0043】
また、基材の厚さとしては、0.05〜0.7mmが好ましい。基材が0.05mm未満となると、基材としての剛性が十分に発揮されない虞があるため好ましくない。また、基材の厚さが0.7mmを超えると、複合後の粒子除去層2の厚みが増し、防護服がごわつき、着用者の作業の妨げとなる虞があるため好ましくない。
【0044】
粒子除去層2と基材を複合化する方法としては、例えば、粒子除去層2と基材間を、接着層を介して固定する方法が挙げられる。複合化方法としては、(1)ポリウレタン系接着剤、アクリル酸エステル系エマルジョン等に代表される各種化学系接着剤を粒子除去層2と基材間に塗工することによりこれらを貼り合わせて複合化する方法、(2)熱可塑性樹脂層(布帛、網状体、粉体、フィルム)を介して、粒子除去層2と基材を熱接着する方法、(3)粒子除去層2と基材を熱融着により複合化する方法等が例示できる。
【0045】
前記複合化方法(1)により粒子除去層2と基材間を複合化する場合は、粒子除去層2の通気度低下を防止し、且つ、防護材料5の柔軟性を確保するために、化学系接着剤はドット状に部分接着することが好ましい。
【0046】
前記複合化方法(2)により粒子除去層2と基材間を複合化する場合は、熱可塑性樹脂として、例えば、低融点の共重合ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等が例示できる。また、熱可塑性樹脂からなる布帛を介して複合化する場合、布帛は、目付が5〜30g/m
2程度と低いことが好ましい。特に、前記布帛として不織布を使用することにより、接着層を均一の厚さにすることができるため好ましい。これにより、接着剤を塗布する場合に比べ、接着剤の斑が少なくなるため、通気性や吸着性能に劣る箇所が生じにくくなる。
【0047】
前記複合化方法(3)により粒子除去層2と基材間を複合化する場合は、熱エンボス加工、超音波融着、高周波融着等が例示できる。粒子除去層2の通気度低下を防止するために、融着部分は少ない方が望ましい。
【0048】
また、外部から侵入する液状有機化学物質や体から放出される汗などで粒子除去層2が濡れて捕集効率が低下するのを防ぐために、粒子除去層2に撥水処理や撥油処理を施すことが有効である。粒子除去層2に撥水処理や撥油処理を施す方法としては、例えば、スプレーにより噴霧する方法、撥水剤や撥油剤を含有する溶液中に粒子除去層2を浸漬させて含浸させる方法等が挙げられるが、粒子除去層2に均一に撥水処理や撥油処理を施すことができることから、含浸加工が好ましい。前記撥水剤・撥油剤としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ワックス等が挙げられる。尚、粒子除去層2の撥水度は、JIS L 1092に記載の6.2スプレー試験で2以上、より好ましくは4以上である。又、シートの撥油度としてはAATCC Test Method 118で2級以上、より好ましくは4級以上である。
【0049】
<ガス吸着層>
ガス吸着層3は、ガス状有機化学物質を吸着し得る層であり、前記粒子除去層2では捕捉できない有毒ガス等の進入を防止するために設けられている。前記ガス状有機化学物質とは、炭素元素を1つ以上持つガス状化合物のことであり、農薬、殺虫剤、除草剤等に使用される有機リン系化合物;塗装作業などに使用される、トルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの有機溶剤;等が例示できる。
【0050】
前記ガス状有機化学物質は、分子量50以上という比較的大きな分子量を有するため、活性炭等のガス吸着物質に固定され得る。前記ガス吸着物質としては、活性炭、カーボンブラック等の炭化水素系吸着材;シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナ等の無機系吸着材;等の各種吸着材が好適である。ガス吸着物質は、ガス状有機化学物質(被吸着物質)の特性に応じ、適宜選定することができる。中でも、活性炭の使用が好適である。活性炭は様々な種類のガス状有機化学物質を吸着でき、吸着後も活性炭の性質が変化することが少ないため好ましい。中でも、繊維状活性炭は、吸着速度や、吸着容量が大きく、少量の使用で効果的にガスの透過を防止できる。加えて、繊維状活性炭は軽く、防護服に仕立てたときに、着用者の作業を妨げないため好適である。
【0051】
前記活性炭の吸着性能は、トルエン吸着性能で25g/m
2以上が好ましく、より好適には30g/m
2以上である。トルエン吸着性能が25g/m
2を下回ると、充分なガス吸着能を発揮させるために必要となる活性炭の量が増大するため、防護服が重くなり好ましくない。上限は特に限定されないが、例えば、70g/m
2以下が好ましい。
【0052】
活性炭の平均細孔直径は、10〜200nmが好ましい。平均細孔直径が200nmを超えると、吸着したガス状有機化学物質が脱離しやすくなるため、好ましくない。
【0053】
活性炭の細孔容積は、0.25cc/g以上が好ましく、より好適には0.3cc/g以上である。細孔容積が0.25cc/gを下回ると充分なガス吸着能を発揮させるために必要となる活性炭の量が増大するため、防護服が重くなり好ましくない。上限は特に限定されないが、例えば、1.0cc/g以下が好ましい。
【0054】
活性炭のBET比表面積としては、700〜3000m
2/gが好ましく、活性炭の少ない使用で充分な透過抑制能を発揮させるためには、1000〜2500m
2/gが好ましい。BET比表面積が700m
2/gを下回ると、充分なガス吸着能を発揮させるために必要となる活性炭の量が増大するため、防護服が重くなり好ましくない。また、BET比表面積が3000m
2/gを超えると、一度吸着したガス状有機化学物質が脱離する虞があるため好ましくない。
【0055】
活性炭の目付(質量)としては35g/m
2〜250g/m
2が好ましく、さらに好ましくは40g/m
2〜200g/m
2である。35g/m
2を下回ると吸着できる容量が小さくなり使用時間が制限される。一方、250g/m
2を超えると防護服として重くなり熱ストレスの原因となる。
【0056】
活性炭の使用量を減らしながら、効果的に透過抑制能を発揮させるには、繊維状の活性炭を使用することが有効である。繊維状活性炭は、例えば、原料繊維を用いて、製織、製編、カーディング及びラッピング工程等を経て織物、編物、不織布等の各種布帛を形成した後、必要に応じて当該布帛に耐炎化剤を含有させ、その後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで、500℃以上1000℃以下の温度で繊維を炭化・賦活させる方法によって製造することができる。使用される原料繊維としては、例えば、綿、麻等の天然セルロース繊維;レーヨン繊維、ポリノジック繊維等の再生セルロース繊維;ポリビニルアルコール系繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド系繊維、リグニン繊維、フェノール系繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が例示できる。中でも、繊維状活性炭の物性(強度等)や吸着性能に優れることから、再生セルロース繊維、アクリル系繊維、フェノール系繊維の使用が好ましい。なお、原料繊維の繊維長は限定されず、短繊維、長繊維のいずれも使用できる。
【0057】
前記繊維状活性炭をシート化する方法としては、シート基材にバインダーを介してガス吸着物質(活性炭)を固着する方法;ガス吸着物質(活性炭)を、パルプとバインダーを含む分散液に分散させてスラリーを調製し、湿式抄紙機を用いてシート状に抄造する方法;炭素を含む繊維を用いて布帛を作製し、必要に応じて布帛を耐炎化処理し、その後繊維を炭化・賦活することによりシート状の繊維状活性炭を製造する方法;等が好適である。
【0058】
シート化された繊維状活性炭の形態は、特に限定されないが、織物状、編物状、不織布状、フェルト状、紙状、フィルム状が例示できる。中でも、防護服作製時において、積層や撥水・撥油処理が容易であること、及び、防護服着用時において、作業員の運動作業性、身体へのフィット性、防護服の柔軟性が良好なことから、シート化された繊維状活性炭の形態は、織物状、編物状、不織布状が好ましい。
【0059】
シート化された繊維状活性炭の厚さは、例えば、0.1〜3mmが好ましく、より好適には0.5〜2mmであり、さらに好適には0.7〜1.5mmである。繊維状活性炭の厚さが0.1mmを下回ると、ガス状有機化学物質の吸着量が低下する虞があるため好ましくない。また、繊維状活性炭の厚さが3mmを上回ると、防護服着用時における作業員の運動作業性、身体へのフィット性等を良好に仕上げることができないため好ましくない。
【0060】
また、シート化された繊維状活性炭の通気度は、50〜550cm
3/cm
2・sが好ましく、より好ましくは100〜500cm
3/cm
2・sであり、更に好ましくは200〜450cm
3/cm
2・sである。シート化された繊維状活性炭の通気度が50cm
3/cm
2・sを下回ると、得られる防護材料5の通気度が低下し、防護材料5の通気度を所定範囲に制御することが困難となる。また、防護材料5の通気度が550cm
3/cm
2・sを上回ると、ガス状有機化学物質の捕集量が低下する虞があるため好ましくない。
【0061】
また、体から放出される汗などで活性炭が濡れて吸着性能が低下することを防ぐために、活性炭に撥水処理や撥油処理を施すことは有効な手段である。活性炭に撥水処理、撥油処理を施す方法としては、通常スプレーによる噴霧や含浸加工などが考えられる。特に、撥水剤や撥油剤を均一に付与できることから、含浸加工が好ましい。撥水剤や撥油剤は特に限定されるものではなく、フッ素樹脂系、シリコン樹脂系、ワックス系、セルロース系の化合物が挙げられる。添着量は固形分として0.1〜15wt%が好ましく、より好ましくは0.5〜5wt%である。添着量が0.1wt%を下回ると、撥水性及び撥油性が低下してしまい、15wt%を超えると、ガス吸着層の吸着性能が低下する虞があるためである。なお、シートの撥水性としてはJIS L 1092に記載の6.2スプレー試験で2以上であることが好ましく、より好ましくは4以上である。また、シートの撥油性としては、AATCC Test Method 118での評価が2級以上であることが好ましく、より好ましくは4級以上である。
【0062】
<内層布>
本発明では、前記1〜4から構成される積層構造の最も内側に内層布4を積層する。当該内層布4は、防護服着用者のべたつき感等の不快感を低減するために設けられる層である。また、内層布4を積層することで防護材料5の強度が増すため、外力に対して強くなるため好ましい。
【0063】
内層布4を構成する素材は、特に限定されるものではなく、外層布1の欄で述べた各素材を使用することができる。中でも、耐熱性に優れることから、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維の使用が望ましい。
【0064】
内層布4としては、織物、編物、不織布、多孔フィルム等が好適に使用でき、通気性や柔軟性の面から、織物、編物の使用が望ましい。また、通気性を確保するため、前記織物や編物は、粗い密度で製織あるいは製編されていることが好ましい。
【0065】
内層布4として織物を使用する場合、織物の織組織は特に限定されるものではなく、例えば、平織り、綾織り、朱子織り等が好適に使用できる。また、織物の製造に用いる織機も特に限定されるものではなく、ウォータージェットルーム織機、エアージェット織機、レピア織機等の各種織機を適宜使用するとよい。
【0066】
また、内層布4として編物を使用する場合、編物の編組織は特に限定されるものではなく、例えば、緯編(平編、リブ編、両面編、パール編)、経編(トリコット編、ラッセル)等が挙げられる。本発明では特に、肌触りが良いことから、経編、特にトリコット編の使用が望ましい。
【0067】
内層布4を構成する繊維は、単糸繊度が、0.5〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは0.7〜8dtexであり、更に好ましくは1〜5dtexである。単糸繊度が前記範囲内であれば、糸に仕上げたときに、単糸繊維同士の空間が密になり、毛細管現象を発現して汗が外部へ放出されやすくなるため好ましい。
【0068】
また、内層布4を構成する繊維のマルチフィラメントの繊度は、10〜100dtexが好ましく、より好ましくは20〜80dtexであり、更に好ましくは30〜60dtexである。マルチフィラメントの繊度が前記範囲内であれば、内層布4の通気性を維持することができるため、防護服着用者の着用時の不快感を低減することができる。
【0069】
内層布4の厚さは、例えば、0.05〜0.5mmが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4mmである。内層布4の厚さが0.05mmを下回ると、内層布4の厚さが十分でないため、内層布4が破れやすくなるといった不具合が生じる虞がある。また、内層布4の厚さが0.5mmを上回ると、防護服内が蒸れやすくなり、着用者が不快に感じる場合があるため好ましくない。
【0070】
また、内層布4の目付は、例えば、20〜100g/m
2が好ましく、より好ましくは25〜90g/m
2であり、更に好ましくは30〜80g/m
2である。内層布4の目付が、20g/m
2を下回ると、内層布4が薄くなり、内層布4を積層することによる効果が十分に発揮されない虞があるため好ましくない。また、内層布4の目付が100g/m
2を超えると、防護服が重くなり、着用者の作業効率を低下させる虞があるため好ましくない。
【0071】
内層布4の通気度は、例えば、30〜1000cm
3/cm
2・sが好ましく、より好ましくは40〜900cm
3/cm
2・sであり、更に好ましくは50〜800cm
3/cm
2・sである。内層布4の通気度が前記範囲内であれば、防護材料5の通気度を所望の範囲に調整できるため好ましい。
【0072】
内層布4には、外層布1の欄で詳述した各種後加工を施すことが可能である。
【0073】
各層の積層順は、特に限定されないが、防護服の外側から見て、外層布1−粒子除去層2−ガス吸着層3−内層布4の順が好ましい。ガス吸着層3を、粒子除去層2と内層布4にて挟み込むことにより、ガス吸着層3を保護することができる。
【0074】
2.防護材料の製造方法
防護材料5は、前述した各層が積層されていれば、製造方法は限られるものではなく、例えば、(1)予め、ガス吸着層3と内層布4の積層体を形成しておき、当該積層体に外層布1及び粒子除去層2を積層する方法、(2)予め粒子除去層2とガス吸着層3の積層体を形成しておき、当該積層体に外層布1及び内層布4を積層する方法、(3)外層布1、粒子除去層2、ガス吸着層3、及び内層布4を重ね合わせた状態で縫製して、防護服を作製する方法等が例示できる。
【0075】
(1)に示す方法において、ガス吸着層3と内層布4の積層方法としては、以下の方法が挙げられる。第1の方法としては、例えば、ガス吸着層3を、シート状;顆粒状、粉末状等の粒子状;ドープ状の接着剤を用いて内層布4に固定する方法が挙げられる。また、第2の方法としては、接着せずに縫製し、フラシやキルティングの形状を作ることも可能である。第2の方法では、接着剤を使用することなく、ガス吸着層3と内層布4の積層が可能なため、防護服の通気性を確保できるため好ましい。
【0076】
また(2)に示す方法においては、前記第1の方法及び第2の方法(内層布4を粒子除去層2と読み替える)に加え、更に、第3の方法として、予め作製したガス吸着層3にエレクトロスピニング法等により直接粒子除去層2を塗布し、積層する方法が挙げられる。第3の方法においても、接着剤を使用することなく粒子除去層2とガス吸着層3の積層が可能なため、防護服の通気性を確保できるため好ましい。
【0077】
上記第1の方法で使用する接着剤としては、ウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、エポキシ系、塩ビ系、オレフィン系等の接着剤が使用できる。積層による透湿性の低下を抑制するためには、透湿性の接着剤であるウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系の接着剤が好適である。
【0078】
使用する接着剤のメルトインデックスとしては、好ましくは10〜100g/10minであり、より好適には20〜80g/10minである。メルトインデックスを前記範囲内に調整することにより、ガス吸着層3中のガス吸着物質(例えば、活性炭)の表面を接着剤が被覆する面積が小さくなり、各層を積層することによるガス吸着性能の低下を抑制することができるため好ましい。
【0079】
また本発明では、接着剤として、熱可塑性樹脂から形成される不織布を使用することも有用である。熱可塑性不織布を使用することにより、接着層を均一の厚さにすることができる。これにより、粒子状やドープ状の接着剤を塗布する場合に比べ、接着剤の斑が少なくなるため、通気性や吸着性能に劣る箇所が生じにくくなる。
【0080】
次いで、(1)に示す方法では、ガス吸着層3と内層布4の積層体に、外層布1及び粒子除去層2を積層するとよい。また、(2)に示す方法では、粒子除去層2とガス吸着層3の積層体に、外層布1及び内層布4を積層するとよい。積層方法は、特に限定されるものではないが、各種化学系接着剤を塗工して貼り合わせることにより、予め形成しておいた積層体と、他の層を積層する方法;熱可塑性樹脂層(布帛、網状体、粉体、フィルム)を介して、予め形成しておいた積層体と、他の層を熱接着により積層する方法;予め形成しておいた積層体と他の層を順に積層し、これらを縫合する方法;等が例示できる。
【0081】
化学系接着剤により防護材料5の積層構造を形成する場合は、防護材料5の通気度低下を防止し、且つ、柔軟性を確保するために、化学系接着剤はドット状に部分接着することが好ましい。
【0082】
前述した方法により作製される外層布1、粒子除去層2、ガス吸着層3及び内層布4が積層された防護材料5の目付は、例えば、100〜600g/m
2が好ましく、より好適には150〜580g/m
2であり、更に好適には180〜550g/m
2である。防護材料5の目付が前記範囲内であれば、防護材料5の通気度が所望の範囲内に調整されるため好ましい。また、目付が600g/m
2を超えると、防護服が重くなり、着用者の負担が増大するため好ましくない。
【0083】
粒子除去層2とガス吸着層3から構成される積層体の目付としては、50〜300g/m
2が好ましく、より好適には100〜250g/m
2である。目付が300g/m
2を超えると、防護服の質量が大きくなるため、着用者への負荷が大きくなる。また、体から発散される汗や防護服内の蒸気を外部へ逃がすことが困難となる。
【0084】
また、防護材料5の厚さは、例えば、0.5〜4mmが好ましく、より好ましくは0.6〜3.8mmであり、更に好ましくは0.7〜3.5mmである。防護材料5の厚さが0.5mmを下回ると、充分な厚みがないため、防護服に仕立てたときに着用者を十分に保護できない虞がある。また、防護材料5の厚さが4mmを超えると、防護服がごわつき、着用者の作業効率を低下させる虞がある。
【0085】
本発明の防護材料5であれば、防護服を構成する防護材料の通気度及び粒子捕集効率を所定の範囲内に制御することにより、風の有無に関わらず、(i)防護材料中の空隙を通じて防護服内部へ進入する粒子、及び(ii)防護服着用者が動作することにより、袖口等の防護服の端部から防護服内部へ進入する粒子の数を低減できる。
【0086】
すなわち、本発明の防護材料5を用いた防護服であれば、粒子の漏れ率を、無風時であれば0〜1%程度の範囲内に抑えることができる。特に、有風時の漏れ率は0〜7%と低く、本発明の防護材料5を用いた防護服は、一定の風がある条件下において特に優れた効果を発揮できる。
【0087】
本発明の防護材料5は、防護服用の材料として特に好ましい。中でも、防護服の袖部、腕部、喉元部、脚部等の防護服の端部での使用に好適である。本発明の防護材料5は、通気度と粒子捕集効率をそれぞれ適正な範囲に調整しているため、本発明の防護材料5を防護服の端部に使用した場合、防護材料中の空隙を通じて防護服内部へ進入する粒子の数と、防護服の端部から防護服内部へ進入する粒子の数をそれぞれ低く抑えることが可能である。従って、本発明の防護材料5を防護服の端部に使用すると、従来の防護服に比べ、更に粒子の進入を抑えることができるようになる。
【0088】
防護材料5を、防護服の端部用の材料として使用する場合、防護服の端部の形状は特に限定されない。袖部としては、例えば、袖口にゴムを入れ、該袖口の外周をベルトで締めた袖(袖A);防護服の袖口にゴム紐を入れ、該袖口の外周を紐で縛った袖(袖B);防護服の袖口にゴムを入れ、この袖口の外側を覆うようにしてクロロプレンゴム等の手袋を被せた袖(袖C);等使用状況に併せた袖口の形状を適宜選定することができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0090】
(平均単繊維直径) 平均単繊維直径は走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影を行い、2000倍または5000倍のSEM画像に映し出された多数の繊維からランダムに20本の繊維を選び、単繊維直径を測定する。測定した20本の単繊維直径の平均値を算出し、平均単繊維直径とした。
【0091】
(目付) JIS L1096 8.3による。
(厚さ) JIS L1096 8.4による。
(剛軟度) JIS L1096 8.21による。
(通気度) JIS L1096 8.26(フラジール形法)による。
(撥水度) JIS L1092 6.2(スプレー試験)による。
(撥油度) AATCC Test Method 118による。
(メルトインデックス) JIS K7210による。
【0092】
(BET比表面積) BET比表面積は、液体窒素の沸点(−195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0〜0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより試料単位質量あたりの表面積(m
2/g)を求めた。
【0093】
(粒子捕集効率)
図2に示す粒子捕集効率測定器により実施した。まず防護材料5をダクト11内に設置し、流量計12により計測されるフィルター通過線速が2.5cm/secになるようバルブ13を調整し、大気を通気させた(バルブ13にはブロワー14が備えられている)。次いで、防護材料5の上流及び下流に存在する0.3〜0.5μmの大気塵の個数を粒子計測器16(株式会社RION製「KC−01C」)で測定し、次式により粒子の捕集効率を算出した。
粒子捕集効率(%)=(1−下流側粒子個数/上流側粒子個数)×100
なお、粒子除去層に膜積層布を用いた防護材料の場合は、上記測定方法による粒子捕集効率の測定が困難なため、粒子捕集効率を100%(理論値)とした。
【0094】
(漏れ率) 防護材料5を腕模型に装着させた状態で気密チャンバー内に設置し、コーンオイルを噴霧した。所定時間後、気密チャンバー内濃度及び腕模型に装着した供試体内の粒子数を、粒子計測器(株式会社RION製「KC−01D」)により測定し、漏れ率を算出した。なお有風時の測定は、扇風機を用いて、約4m/secの風を腕模型に対し垂直な方向から袖末端部分に向けて送風することにより行った。
【0095】
1.防護材料特性試験
以下に示す方法により防護材料を作製し、得られた防護材料の各特性について調べた。
【0096】
1−1.外層布
外層布には以下の材料を使用した。
【0097】
<外層布A>
ナイロン66フィラメント糸と綿から5/95の混率で電気開繊方式により40番手の混紡糸を作成した。次いで常法によりエアジェット織機を用いて製織し、経糸密度140本/インチ、緯糸密度108本/インチの2/1綾織物を作成した。次いで、常法により毛焼、糊抜、精練、漂白、シルケット、染色、ソーピングを行った。さらに、この染色織物をN−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドを主成分とするピロバテックスCPを40%、塩化アンモニウムを0.5%含む水溶液に浸漬し、ピックアップが65%となるように絞り、乾燥・熱処理を行い、外層布Aに防火加工を施して外層布Aを得た。本外層布Aの目付は175g/m
2、通気度は18cm
3/cm
2・s、厚さは0.23mmであった。
【0098】
<外層布B>
綿の40番手紡績糸を常法によりエアジェット織機で製織し、経糸密度90本/インチ、緯糸密度80本/インチの2/1綾織物を作成した。さらに外層布Aと同様の後処理を施して外層布Bを得た。本外層布Bの目付は121g/m
2、通気度は110cm
3/cm
2・s、厚さは0.22mmであった。
【0099】
<外層布C>
綿の20番手紡績糸を常法によりエアジェット織機で製織し、経糸密度110本/インチ、緯糸密度50本/インチの平織物を作成した。さらに外層布Aと同様の後処理を施して外層布Cを得た。本外層布Cの目付は219g/m
2、通気度は6cm
3/cm
2・s、厚さは0.38mmであった。
【0100】
1−2.粒子除去層
粒子除去層には以下の材料を使用した。
【0101】
<ナノファイバー積層布(NF積層布)>
ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるスパンボンド法により製造された長繊維不織布(目付30g/m
2、通気度295cm
3/cm
2・s)に、通気性不織布状ホットメルト接着剤(目付10g/m
2、メルトインデックス60g/10min)を重ね合わせた上から、エレクトロスピニング法によりポリウレタン樹脂を0.5g/m
2となるようにスプレーした。その後、上記積層体のポリウレタン樹脂側に、通気性不織布状ホットメルト接着剤(目付10g/m
2、メルトインデックス60g/10min)、ポリエチレンテレフタレート短繊維を用いたスパンレース不織布(目付40g/m
2、通気度365cm
3/cm
2・s)の順で重ね合わせた後、加熱ローラにより貼り合わせてナノファイバー積層布を得た。ナノファイバー積層布の各特性を、表1に示す。
【0102】
<メルトブローン積層布>
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなるメルトブローン不織布(平均単繊維直径2.0μm、目付30g/m
2、通気度18cm
3/cm
2・s、厚み0.22mmの後述するメルトブローン不織布A)の両面を、ポリエチレンテレフタレート短繊維を用いたスパンレース不織布(目付30g/m
2、通気度412cm
3/cm
2・s)で挟み、界面を通気性不織布状ホットメルト接着剤(目付10g/m
2、メルトインデックス60g/10min)にて接着してメルトブローン積層布を得た。メルトブローン積層布の各特性を、表1に示す。
【0103】
<メルトブローン不織布A>
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなるメルトブローン不織布を使用した。メルトブローン不織布Aの各特性を、表1に示す。
【0104】
<メルトブローン不織布B>
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなるメルトブローン不織布を使用した。メルトブローン不織布Bの各特性を、表1に示す。
【0105】
<メルトブローン不織布C>
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなるメルトブローン不織布を使用した。メルトブローン不織布Cの各特性を、表1に示す。
【0106】
<メルトブローン不織布D>
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなるメルトブローン不織布を使用した。メルトブローン不織布Dの各特性を、表1に示す。
【0107】
<膜積層布>
ポリウレタン樹脂をナイロン織物へコーティングした防水透湿布帛である東洋紡(株)製のアクアベント(登録商標)を使用した。膜積層布の各特性を、表1に示す。
【0108】
<編布>
84dtex−24filのナイロン66フィラメント糸を地糸に用い、176dtexのナイロン66モノフィラメント糸をパイル糸として、22ゲージ6枚筬ダブルラッセイル機でたて編地を編み立てた後に、定法により精練、染色した。この編物を半裁してカットパイルにした後に、パイルの先端を熱溶融して球状物を形成させた。編布の各特性を、表1に示す。
【0109】
<スパンレース不織布>
ポリエチレンテレフタレート短繊維を用いたスパンレース不織布を使用した。スパンレース不織布の各特性を、表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
1−3.ガス吸着層
ガス吸着層としては活性炭布(繊維状活性炭編物)を用いた。前記活性炭布は、単糸繊度2.2デシテックス20番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸からなる目付190g/m
2フライス編物を410℃の不活性雰囲気中で30分間加熱し、次いで870℃まで20分間、不活性雰囲気中で加熱し炭化を進行させ、その後水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、870℃の温度で2時間賦活した。得られた活性炭布の目付は、150g/m
2、BET比表面積1400m
2/g、厚さ1.00mm、通気度は350cm
3/cm
2・sであった。
【0112】
1−4.内層布
内層布は以下の方法で作製した。ハーフトリコット機により、ポリエステルフィラメント(33dtex、18フィラメント)を、2−0/1−3の組織で編成後、常法により精練し、更に分散染料により染色した。このようにして得られた編地は、厚さ0.20mm、目付45g/m
2、通気度は730cm
3/cm
2・sであった。
【0113】
1−5.試料の作成及び試験
試料1
粒子除去層として前記ナノファイバー積層布(NF積層布)を用い、ガス吸着層と内層布をキルティング加工した後、外層布、粒子除去層を積層し、キルティング加工を施したガス吸着層と内層布の一体品を、ガス吸着層側が粒子除去層と向かい合うようにして順に重ね合わせ、これらを縫合することにより防護材料を得た。得られた防護材料は、目付412g/m
2、厚さ3.0mmであった。この防護材料の通気度、粒子捕集効率及び漏れ率を測定した。なお、漏れ率の測定では袖形状を、防護服の袖口にゴムを入れ、この袖口の外周をベルトで締めた袖(袖A)とした。測定結果を表2に示す。
【0114】
試料2〜12
各層の構成を表2に示すように変更する以外は、試料1と同様の方法により、防護材料を作製した。得られた防護材料の通気度、粒子捕集効率及び漏れ率を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
2.袖部形状の特性試験
前記試料1を使用し、袖部の形状を変えたときの粒子防護率を測定した。測定は、前述した「漏れ率」の測定方法に準じた(測定条件は無風時)。袖部形状としては、防護服の袖口にゴムを入れ、この袖口の外周をベルトで締めた袖(袖A)、防護服の袖口にゴム紐を入れ、この袖口の外周を紐で縛った袖(袖B)、及び防護服の袖口にゴムを入れ、この袖口の外側を覆うようにしてクロロプレンゴムの手袋を被せた袖(袖C)の3種の袖を作製した。加えて、粒子防護率を下記式により定義した。評価結果を表3に示す。
粒子防護率(%)=100%−漏れ率(%)
【0117】
【表3】
【0118】
表3に示すように、本発明の防護材料を用いれば、袖形状に影響されることなく粒子防護率95%以上という高い粒子漏れ防止性能を発揮できる。
【0119】
3.被験者による粒子気密性試験
コーンオイル粒子を充満した気密チャンバー内に表4に示す防護材料から形成される防護服を着用した被験者が入り、所定動作を行ったときの、防護服内粒子濃度(1分間の平均値)を計測して漏れ率を求めた。粒子遮蔽率(%)を下記式で定義した。結果を表4に示す。
粒子遮蔽率(%)={1−(サンプリング部位の粒子濃度)/(チャンバー内の粒子濃度)}×100
【0120】
[サンプリング条件]
サンプリング位置として、「右腕部」「喉元部」「右脚部」の3箇所を選定した。サンプリング空気は、0.5L/minで装置内を循環させた。
【0121】
[動作内容]
(1)静かに立ち、正常な呼吸をする(1分)
(2)前屈し、足の指先に触れる(1回/20秒)
(3)ジョギング(1分)
(4)頭と腕をあげて上をみる(1回/20秒)
(5)膝を曲げてうずくまる(1回/20秒)
(6)肘と膝を使って這う(1回/20秒)
(7)胸の上に手を置いて上体をひねる(1回/20秒)
(8)静かに立ち、正常な呼吸をする(1分)
【0122】
「右腕部の粒子遮蔽率」とは、「右腕部」で測定された粒子遮蔽率を意味する。また、「服全体の粒子遮蔽率」とは、「右腕部」「喉元部」「右脚部」の3箇所で測定された粒子遮蔽率に、「右腕部」「喉元部」「右脚部」の合計面積を1としたときの各サンプリング位置の面積比率を乗じ、これらを合計することにより求めた。
【0123】
【表4】
【0124】
表4に示すように、本発明の防護服であれば、防護材料の通気度と粒子捕集効率とのバランスに優れていることから、風の有無に関わらず防護服内に粒子が進入することを防止できることが分かる。