(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な回転電機では、回転数が高くなるにしたがって電機子コイルに発生する誘起電圧が増加し、この誘起電圧によって最高回転数が抑えられている。最高回転数がより高くなるように高回転域での誘起電圧を減少させる構成にすると、低回転域でのトルクが低下してしまう。また、低回転域でのトルクを増大させる構成にすると、最高回転数が抑えられてしまう。
そこで近年では、弱め界磁等を用いて磁束量を可変として、低回転域では磁束量を多くしてより高いトルクを確保し、高回転域では磁束量を少なくして誘起電圧を減少させて最高回転数をより高くすることができる種々の回転電機が提案されている。
特に、車両の駆動用の回転電機には、より小型軽量で、低回転域では高トルクであり、高回転域ではより高い回転数まで回すことができる回転電機が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、永久磁石を有する回転子鉄心と、固定子鉄心に固定子巻線を巻回した固定子と、の間の空隙部に、回転軸方向に沿って、回転子と共回りする筒状の短絡磁路面積可変部材を出し入れし、永久磁石の界磁用の磁束量を可変とする、永久磁石形モータ及び洗濯機が記載されている。
また
図16(A)及び(B)に示す例は、磁束量を可変とするための従来の巻線切替方式の例を示す回転電機の各電機子コイルの接続状態の模式図であり、
図16(A)は低回転時における電機子コイルの接続状態を示しており、
図16(B)は高回転時における電機子コイルの接続状態を示している。電機子コイル101の端部と電機子コイル102の端部との間にはスイッチS101Lが設けられており、電機子コイル102の端部と電機子コイル103の端部との間にはスイッチS102Lが設けられており、電機子コイル103の端部と電機子コイル101の端部との間にはスイッチS103Lが設けられている。また電機子コイル101の途中個所と電機子コイル102の途中個所との間にはスイッチS101Hが設けられており、電機子コイル102の途中個所と電機子コイル103の途中個所との間にはスイッチS102Hが設けられており、電機子コイル103の途中個所と電機子コイル101の途中個所との間にはスイッチS103Hが設けられている。そして低回転時では
図16(A)に示すように、スイッチS101L〜スイッチS103Lを短絡状態としてスイッチS101H〜スイッチS103Hを開放状態として、各電機子コイルの全体を使用して高トルクを確保している。また高回転時では
図16(B)に示すように、スイッチS101L〜スイッチS103Lを開放状態としてスイッチS101H〜スイッチS103Hを短絡状態として、各電機子コイルを途中まで使用して磁束量を低減させることで誘起電圧を低減させ、より高い回転数まで回るようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構造では、短絡磁路面積可変部材は、回転子の永久磁石の磁束量を可変とするように構成されているので、回転子と短絡磁路面積可変部材とが共回りするように構成されている。しかも、短絡磁路面積可変部材を回転子と共回りさせながら、回転軸方向への移動を可能とする必要があるので、短絡磁路面積可変部材を共回りさせる構造及び回転軸方向に移動させる構造が複雑になる。
また
図16(A)及び(B)に示す従来の巻線切替方式の構造では、低回転高トルクタイプと高回転低トルクタイプとの、2つのパターンしか持つことができないので、回転電機の特性(
図10に示す特性T2)が断続的に切替わることになる。従って、切替えの前後でトルク変動等の要因でショックが発生する可能性が考えられるのであまり好ましくない。また高回転時では電機子コイルの無駄な部分が発生している。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、よりシンプルな構造で、回転電機の特性を断続的に切替えることなく低回転域での高トルクを確保するとともに低回転域から高回転域までより幅広い回転領域を確保することができる回転電機、及び当該回転電機を制御する制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る回転電機及び回転電機の制御装置は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、所定の回転軸回りに回転可能に支持されて周方向において交互に異なる磁極となるロータ磁石が取り付けられている回転子と、前記回転子と同軸状となるように前記回転子に対して径方向外側に配置された電機子であって、電機子コイルが巻回された複数の磁性体歯のそれぞれが前記回転子の外周面と対向するように周方向に配置された電機子と、周方向において隣り合う前記磁性体歯の間隙に設けられた磁束調整バルブと、を有する回転電機である。
そして、前記磁束調整バルブは、前記隣り合う磁性体歯における一方の磁性体歯から前記磁束調整バルブを介して他方の磁性体歯へと達する磁束の量を調整可能であり、周方向において隣り合う前記磁性体歯の間隙に配置されて少なくとも一部に磁性体を有しているとともにそれぞれが周方向に離間して配置された複数の磁束調整部材と、それぞれの前記磁束調整部材を保持して非磁性体で形成された保持部材と、にて略円筒状に形成されており、前記回転子と共回りすることなく前記電機子に対して同軸状に保持されているとともに前記電機子に対して前記回転軸の方向に沿って往復移動可能に保持されている。
また、それぞれの前記磁性体歯における前記回転子と対向する個所は、前記回転軸の方向の長さが第1所定長さであって周方向に突出する周方向凸状部と、前記回転軸の方向の長さが第2所定長さであって周方向おいて前記周方向凸状部に対して凹んだ周方向凹状部と、が前記回転軸の方向において交互に並ぶようにように形成されている。
そして、それぞれの前記磁束調整部材は、前記回転軸の方向の長さが前記第1所定長さであって磁性体で形成された磁性体部と、前記回転軸の方向の長さが前記第2所定長さであって非磁性体で形成された非磁性体部と、が前記回転軸の方向において交互に並ぶように形成されている。
【0007】
この第1の発明では、周方向において隣り合う磁性体歯の間に、回転子と共回りすることなく電機子と同軸状に保持されて電機子に対して回転軸方向に往復移動可能な略円筒状の磁束調整バルブを有している。
このシンプルな構成の磁束調整バルブの回転軸方向の往復移動によって、電機子コイルとの鎖交磁束量を調整可能であるので、低回転域では鎖交磁束量を多くして高トルクを確保し、高回転域では鎖交磁束量を少なくして誘起電圧を低減させてより高回転まで回すことが可能となる。また、これらの鎖交磁束量の調整を、周方向において隣り合う磁性体歯の間への磁束調整バルブの挿入長さで調整できるので、断続的でなく連続的に鎖交磁束量を調整することができる。
また磁束調整バルブは回転子と共回りしないので、よりシンプルな構造で磁束調整バルブを回転軸方向に沿って往復移動させることができる。
【0009】
また第1の発明では、それぞれの磁性体歯における回転子と対向する個所には、回転軸方向に沿って、周方向凸状部と周方向凹状部とが交互に形成されている。また、それぞれの磁束調整部材も同様に、回転軸方向に沿って、磁性体部と非磁性体部とが交互に形成されている。
これにより、電機子コイルの鎖交磁束量の調整を、磁束調整バルブの挿入長さでなく、周方向凸状部と磁性体部との周方向における対向面積を変更することで可能となるので、磁束調整バルブの回転軸方向の移動距離を非常に短くすることが可能であり、回転電機をより小型に構成することができる。
【0010】
次に、
本実施の形態に記載の回転電機を制御する回転電機の制御装置
では、前記回転電機は、前記磁束調整バルブを前記回転軸の方向に沿って往復移動可能な電動アクチュエータを備えている。
そして、前記制御装置は、前記電動アクチュエータを制御し、前記回転電機の目標トルクに応じて、隣り合う前記磁性体歯の間隙への前記回転軸の方向における前記磁束調整部材の挿入長さを調整する。
【0011】
本実施の形態に記載の回転電機を制御する回転電機の制御装置では、磁束調整バルブを回転軸方向に往復移動させる電動アクチュエータを制御装置から制御して、周方向において隣り合う磁性体歯の間への磁束調整部材の挿入長さを制御する。
これにより、磁束調整部材の挿入長さを制御する制御装置を、適切に実現することができる。
【0012】
次に、本発明の
第2の発明は、上記第1の発明に係る回転電機を制御する回転電機の制御装置であって、前記回転電機は、前記磁束調整バルブを前記回転軸の方向に沿って往復移動可能な電動アクチュエータを備えている。
そして、前記制御装置は、前記電動アクチュエータを制御して、隣り合う前記磁性体歯の間隙に配置された前記磁束調整部材における前記回転軸の方向の位置を調整し、前記回転電機の目標トルクに応じて、前記周方向凸状部と前記磁性体部との周方向における対向面積の大きさを調整する。
【0013】
この
第2の発明では、磁束調整バルブを回転軸方向に往復移動させる電動アクチュエータを制御装置から制御して、周方向凸状部と磁性体部との周方向における対向面積を変更する。
これにより、周方向凸状部と磁性体部との周方向における対向面積を制御する制御装置を、適切に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。なお各図において、X軸、Y軸、Z軸の記載がある場合、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、X軸は回転子の回転軸に平行な方向を示している。
●●[第1の実施の形態の回転電機1(
図1〜
図11)]
以下、
図1〜
図11を用いて、第1の実施の形態の回転電機1について説明する。
●[回転電機1の全体構成と制御装置60等との接続(
図1、
図2、
図3)]
図1及び
図2は、回転電機1をロータ20の回転軸MJに沿って切断した軸方向断面図を示している。また
図3は
図1のA−A断面図を示している(モータハウジング2の記載は省略している)。
回転電機1は、モータハウジング2、3、ロータシャフト10、ロータ20(回転子に相当)、ステータ30(電機子に相当)、磁束調整バルブ40、駆動モータ44(電動アクチュエータに相当)、レゾルバ50等を有しており、制御装置60及びインバータ61と接続されている。
【0016】
モータハウジング2、3は、ロータ20やステータ30等を収容しているケースである。
ロータシャフト10は、ロータ20に固定されており、軸受10Bにてモータハウジング2、3に対して回転軸MJ回りに回転自在に支持されており、ロータ20と一体となって回転する。
ロータ20は、略円柱状であり、磁性体で形成され、回転軸MJ回りに回転可能となるようにロータシャフト10及び軸受10Bを介してモータハウジング2、3に支持されている。そしてロータ20には、周方向において交互に異なる磁極となるようにロータ磁石21が取り付けられている(この場合、埋め込まれている)。
ステータ30は、略円筒状であり、ロータ20と同軸状となるようにロータ20に対して径方向外側に配置されてモータハウジング2に固定されている。そして
図3に示すように、ステータ30では、電機子コイル32(32A〜32F)が巻回された複数の磁性体歯31(31A〜31F)のそれぞれが、ロータ20の外周面と対向するように周方向に配置されている。
【0017】
磁束調整バルブ40は、略円筒状であり、周方向において隣り合う磁性体歯31の間隙に配置されており、回転軸MJに沿って往復移動可能となるように、滑りブッシュ40Bを介してモータハウジング2、3に支持されている。
また
図4に示すように、磁束調整バルブ40は、磁性体で形成されて回転軸MJ方向に延びる複数の磁束調整部材42と、非磁性体で形成されて磁束調整部材42の回転軸MJ方向の端部のそれぞれに取り付けられた保持部材41と、にて略円筒状に形成されている。
また磁束調整部材42は、回転軸MJ方向に、板状の複数の磁性体が積層されて形成されている。
それぞれの磁束調整部材42は、
図3に示すように、周方向に隣り合う磁性体歯31の間隙に配置され、周方向に離間するように配置されている。また保持部材41は、各磁束調整部材42を保持している。
なお、磁束調整バルブの構造は、
図4の例に示す磁束調整バルブ40の構造の他にも、
図5の例に示す磁束調整バルブ40´のような構造であってもよい。
図5の例に示す磁束調整バルブ40´の構造では、非磁性体で円筒状に形成された保持部材41´の外周面に、各磁束調整部材42が固定されている。
【0018】
また
図1及び
図4、
図5に示すように、ギアホイール43のギアと噛み合うウォームギア44Gとモータ44Mを有する駆動モータ44が、磁束調整バルブ40、40´に取り付けられている。なお
図4及び
図5において、磁束調整部材42の下方となる保持部材41、41´の外周面は、ギアホイール43の内周面に形成されたネジ部と嵌合するネジ部が形成されたスクリュー面41A、41A´として構成されている。これにより、駆動モータ44からギアホイール43が旋回されると、スクリュー面41A、41A´を介して、磁束調整バルブ40、40´がギアホイール43と共回りすることなく回転軸MJに沿って往復移動する。
なお、回転軸MJ方向に往復移動する際は、
図3に示すエアギャップ(ロータ20とステータ30との径方向の間隙)内を保持部材41(41´)が回転軸方向に往復移動する。
また、
図4に示す磁束調整バルブ40の駆動機構を、
図6の例に示すような駆動機構としてもよい。
図6に示す構成の場合、駆動モータ44のウォームギア44Gが回転軸MJと平行であり、保持部材41´´の下方には、ウォームギア44Gと嵌合するナットを備えた連結部45が設けられている。これにより、駆動モータ44のウォームギア44Gが回転すると、連結部45を介して、磁束調整バルブ40´´が回転軸MJに沿って往復移動する。
このように磁束調整バルブ40は、ロータ20と共回りすることなく、ステータ30に対して同軸状に保持されており、ステータ30に対して回転軸MJに沿って往復移動可能に保持されている。
なお、ギアホイール43とウォームギア44Gとの噛み合い角度は、直交していても良いし、直交とは異なる角度に適宜変更しても良い。
【0019】
制御装置60は、駆動モータ44のウォームギア44Gを回転させることで、磁束調整バルブ40における回転軸MJ方向の位置を任意の位置に移動させることが可能である。そして
図1及び
図2の例に示すように、各磁性体歯31に対する各磁束調整部材42の回転軸MJ方向の位置(周方向に隣り合う磁性体歯の間隙への磁束調整部材の挿入長さ)を変えることで、電機子コイル32との鎖交磁束Z1、Z1Aの量を調整する(増減する)ことができる(
図7、
図8参照)。また同時に、磁性体歯31とロータ20との間のエアギャップにおける磁束Z2、Z2Aの量を調整する(増減する)ことができる(
図7、
図8参照)。
なお、
図7中において一点鎖線で示す磁束であって磁性体歯31Aに対応するエアギャップをとおる磁束Z2の本数と、
図8中において一点鎖線で示す磁束であって磁性体歯31Aに対応するエアギャップをとおる磁束Z2Aの本数を、どちらも同じ5本で記載しているが、磁束Z2の磁束の量のほうが、磁束Z2Aの磁束の量よりも多い。
また駆動モータ44にはエンコーダ44Eが設けられており、後述する制御装置60は、エンコーダ44Eからの検出信号に基づいて、磁束調整バルブ40(磁束調整部材42)の回転軸MJ方向の位置(周方向に隣り合う磁性体歯の間隙への磁束調整部材の挿入長さ)を検出することが可能である。
【0020】
レゾルバ50は、ステータ30に交流電流を供給した際にステータ30とロータ20との相対角度に応じて現れる交流電圧の位相を検出してロータ20の回転角の検出に用いるための検出装置である。レゾルバ50はモータハウジング3の凹部に収容され、当該凹部はレゾルバカバー50Fにて蓋がされている。
制御装置60には、回転電機1の動作状態の検出用として、信号線63Rを介してレゾルバ50からの検出信号が入力され、あるいは信号線63Dを介してインバータ61からステータ30に供給された電圧または電流を検出可能な検出信号が入力され、あるいは回転数(または回転速度または回転トルク)を検出可能な回転状態検出手段60Sからの検出信号が入力される。また、制御装置60には、信号線63Zを介して他の機器70等からロータ20の目標回転数(または目標回転速度または目標回転トルク)が入力される。そして制御装置60は、ステータ30の電機子コイル32に供給する電流を制御するインバータ61に、目標回転数に応じた制御信号を信号線64Dを介して出力する。
また制御装置60は、信号線64Sを介して駆動モータ44のモータ44Mに制御信号を出力し、信号線63Sを介してエンコーダ44E(
図4参照)からの検出信号を取り込み、磁束調整バルブ40(磁束調整部材42)の回転軸MJ方向の位置(挿入長さ)を目標位置(目標挿入長さ)とする。
インバータ61には、信号線64Dを介して制御装置60からの制御信号が入力され、インバータ61は、電機子コイル32に接続された電流供給配線61U、61V、61Wを介して制御信号に応じた供給電流を電機子コイル32(32A〜32F)に供給する。
【0021】
●[磁束調整バルブ40(磁束調整部材42)の回転軸MJ方向の挿入によって磁束量が増減される様子(
図7、
図8)]
図7はロータ20の低回転時である
図2の状態におけるB−B断面であり、
図8はロータ20の高回転時である
図1の状態におけるA−A断面である。
【0022】
図7に示す例は、磁束調整部材42の回転軸MJ方向における挿入長さ(周方向に隣り合う磁性体歯31の間隙への挿入長さ)がゼロ(挿入長さL=0)の場合の例(
図2の状態)を示しており、ロータ20が低回転時の場合の例を示している。この場合、磁性体歯31Aと磁性体歯31Bとの間に磁束調整部材が存在しないので、電機子コイルとの鎖交磁束Z1の量が最も多い場合である。
この場合、
図7において一点鎖線で示す磁性体歯31Aをとおる磁束は、電機子コイル32Aをとおる鎖交磁束Z1であり、ロータ20をとおる。従って、後述する
図8の状態と比較して電機子コイル及びロータをとおる磁束の量が多く(同時に、エアギャップの磁束Z2の量も多く)、より大きなトルクを発生させることが可能であり、高トルクが要求されるロータの低回転時に適している。
【0023】
図8に示す例は、磁束調整部材42の回転軸MJ方向における挿入長さ(周方向に隣り合う磁性体歯31の間隙への挿入長さ)が最大(磁束調整部材42の全てが挿入されている状態であって挿入長さL=Lmax)の場合の例(
図1の状態)を示しており、ロータ20が高回転時の場合の例を示している。
この場合、
図8において一点鎖線で示す磁束の中で、電機子コイル32Aの鎖交磁束Z1Aの一部はエアギャップとロータ20をとおるが、残りの磁束はエアギャップとロータ20をとおることなく隣り合う電機子コイルをとおった後、磁束調整部材42A、42Fを経由して電機子コイル32Aに戻る。
また、
図8において一点鎖線で示す磁束の中で、エアギャップ(磁性体歯31Aとロータ20との間の空間)においてロータ20から磁性体歯31Aに向かう磁束Z2Aの一部は、電機子コイル32Aをとおることなく、磁性体歯31Aと磁性体歯31Bとをバイパスしている磁束調整部材42Aをとおって磁性体歯31Bから(または磁束調整部材42Aにおける磁性体歯31Bの近傍から)ロータ20に戻る。また磁束Z2Aの一部は、電機子コイル32Aをとおることなく、磁束調整部材42Fをとおって磁性体歯31Aの左隣りの磁性体歯から(または磁束調整部材42Fにおける左隣りの磁性体歯の近傍から)ロータ20に戻る。
以上の磁束により、
図7に示した状態の鎖交磁束Z1の量よりも、
図8に示した状態の鎖交磁束Z1Aの量のほうが少なくなっている。また、エアギャップにおける磁束においても、
図7に示した状態におけるエアギャップの磁束Z2の量よりも、
図8に示した状態におけるエアギャップの磁束Z2Aの量のほうが少なくなっている(
図7、
図8において、磁束Z2、磁束Z2Aは、どちらも5本を記載しているが、磁束Z2の量>磁束Z2Aの量、である)。
従って、誘起電圧をより小さくすることが可能であり、より高回転までロータを回転させたい場合に適している。
【0024】
以上、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップをとおる磁束量が最も多い
図7の状態から、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップをとおる磁束量が最も少ない
図8の状態の間で、磁束調整バルブ(磁束調整部材)の挿入長さ(周方向に隣り合う磁性体歯の間隙に挿入する長さ)を任意の長さに調整することで、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップの磁束量を、所望する磁束量に調整することが可能である。
そして、ロータの低回転域では電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップの磁束量が多くなるように磁束調整バルブ(磁束調整部材)の挿入長さを小さくすることでトルクを増大させ、ロータの高回転域では電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップの磁束量が少なくなるように磁束調整バルブ(磁束調整部材)の挿入長さを大きくすることで、ステータの誘起電圧を減少させてより高い回転数まで回転数を伸ばすことができる。そして中間回転域では、回転数とトルクのバランスがよくモータ効率の良い電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップの磁束量となるように磁束調整バルブ(磁束調整部材)の挿入長さを調整することができる。
【0025】
●[制御装置60の動作]
図9は、本実施の形態にて説明した回転電機1の回転数−トルク特性を示しており、実線で示す特性T1が、回転電機1の特性(磁束調整部材の挿入長さを適切に調整した場合の特性)である。なお
図9中における特性(G1)と特性(G2)は、
図10と比較する際の参考として、
図10中における特性G1と特性G2を
図9中に記載したものである。
また
図10は、
図16(A)及び(B)に示す従来の巻線切替方式の回転電機の回転数−トルク特性を示しており、実線で示す特性T2が、巻線切替方式の回転電機の特性である。なお
図10には、本実施の形態の特性との比較用として、
図9に示す特性T1を点線にて示している。また
図10において、一点鎖線にて示す特性G1は
図16(A)に示した状態の特性であり、一点鎖線にて示す特性G2は
図16(B)に示した状態の特性である。
【0026】
図10に示すように、従来の巻線切替方式では、低回転高トルクタイプ(特性G1)と、高回転低トルクタイプ(特性G2)との、2つのパターンしか持つことができないので、回転電機の特性が断続的に切替わることになり、切替えの前後でトルク変動等の要因でショックが発生する可能性が考えられるのであまり好ましくない。また点線にて示す本願の特性T1に対して、極低回転でのトルクや、極高回転の伸びが少ない。
図10に示す従来の巻線切替方式において、低回転でのトルクをより高く、且つ高回転の回転数の伸びをより高く設定すると、回転数N1おける切替ポイントP1が原点Oにより近づく方向に移動する(P1´の位置に移動する)ので、切替時のショックの発生がより大きくなる可能性が高く、またトルクと回転数のバランスが悪く中間回転域でのモータ効率が低下する。
これに対して
図9に示す本実施の形態にて説明した回転電機1の特性T1では、複数の特性G(n)を連続的に切替えることが可能であり、低回転でのトルクをより高く、且つ高回転の回転数の伸びをより高くすることができる。また、低回転域から高回転域まで全回転域においてトルクと回転数のバランスが適切な状態を維持できるので、中間回転域でのモータ効率も良い。
【0027】
次に、
図1及び
図9を用いて、磁束調整バルブ40(磁束調整部材42)の挿入長さを制御する制御装置60の動作(処理手順)の例について説明する。なお制御装置60には、
図9に示す特性T1が記憶された記憶手段が備えられているものとする。
例えば制御装置60は、信号線63Zを介してロータ20の目標回転数(Nt)を取り込む。なお、目標回転数(Nt)を制御装置60にて算出するようにしてもよい。
次に制御装置60は、記憶手段に記憶されている特性T1(
図9参照)と、目標回転数(Nt)から、目標トルク(Tt)を求める(
図9参照)。
そして制御装置60は、予め記憶手段に記憶されている目標トルク−目標挿入長さ特性(
図11(B)参照)に基づいて、マップ補間等を用いて目標トルク(Tt)から目標挿入長さ(Lt)を求める。なお、特性T1における座標(Nt、Tt)をとおる特性G(t)から目標磁束量を求め、目標磁束量から目標挿入長さを求めるようにしてもよい。
そして制御装置60は、エンコーダ44Eからの検出信号に基づいて検出した挿入長さが目標挿入長さ(Lt)となるように、モータ44Mに制御信号を出力する。
【0028】
以上の説明では、制御装置60に入力されたロータの回転数(目標回転数)に基づいて目標挿入長さ(Lt)を求める例を説明したが、
図11(A)の例に示す目標回転数(または目標回転速度)−目標挿入長さ特性に基づいて、ロータの回転数(目標回転数)や回転速度(目標回転速度)から目標挿入長さ(Lt)を求めるようにしてもよい。
また、
図11(B)の例に示す目標回転トルク−目標挿入長さ特性に基づいて、ロータの回転トルク(目標回転トルク)から目標挿入長さ(Lt)を求めるようにしてもよいし、
図11(C)の例に示す目標回転角−目標挿入長さ特性に基づいて、ロータの回転角(レゾルバからの検出信号から検出したロータの角度)から目標挿入長さ(Lt)を求めるようにしてもよいし、
図11(D)の例に示す目標電流(または目標電圧)−目標挿入長さ特性に基づいて、電機子コイル32への供給電流(目標電流)や電機子コイル32への供給電圧(目標電圧)から目標挿入長さ(Lt)を求めるようにしてもよい。
このように、回転数、回転速度、回転トルク、回転角、電流、電圧、の少なくとも1つが制御装置60に入力され、制御装置60は、入力された少なくとも1つに基づいて目標挿入長さ(Lt)を求める。
【0029】
●●[第2の実施の形態の回転電機1A(
図12〜
図15)]
以下、
図12〜
図15を用いて、第2の実施の形態の回転電機1Aについて説明する。
図12に示すように、第2の実施の形態の回転電機1Aは、第1の実施の形態の回転電機1に対して、磁性体歯31の構造(形状)と、磁束調整部材42の構造が異なる。この構造の違いにより、隣り合う磁性体歯の間隙における磁束調整部材の回転軸方向の移動距離を、(L1+L2)/2に抑えることが可能であり(
図13、
図14参照)、
図15に示すように、回転電機1Aの回転軸MJ方向の長さをより短くすることが可能(回転電機1Aの小型化が可能)である。
以下、第1の実施の形態との相違点について主に説明する。
【0030】
●[磁性体歯31の構造と磁束調整部材42の構造(
図12)]
図12に示すように、磁性体歯31A(31)におけるロータ20と対向する個所は、回転軸方向の長さが第1所定長さ(長さL1)であって周方向に突出する周方向凸状部31AA(周方向の長さW1の部分)と、回転軸方向の長さが第2所定長さ(長さL2)であって周方向に凹んだ周方向凹状部31AB(周方向の長さW2の部分)と、が回転軸方向において交互に並ぶように形成されている。なお、周方向の長さW1、W2、第1所定長さ(長さL1)、第2所定長さ(長さL2)は、適宜設定される。
また磁束調整部材42A(42)は、回転軸方向の長さが第1所定長さ(長さL1)であって磁性体で形成された磁性体部42AAと、回転軸方向の長さが第2所定長さ(長さL2)であって非磁性体で形成された非磁性体部42ABと、が回転軸方向において交互に並ぶように形成されている。
なお磁性体部42AAは、板状の磁性体が回転軸方向に複数枚が積層されて形成されている。
【0031】
●[磁束調整バルブ40(磁束調整部材42A)の回転軸MJ方向の移動によって磁束量が増減される様子(
図13、
図14)]
図13はロータ20の低回転時における磁束調整部材42Aの位置と磁束の状態を説明する図であり、
図14はロータ20の高回転時における磁束調整部材42Aの位置と磁束の状態を説明する図であり、どちらも
図12においてDD方向から見た図である。
図13に示す例では、磁性体歯31A(31)の周方向凸状部31AA及び磁性体歯31B(31)の周方向凸状部31BAと、磁束調整部材42A(42)の非磁性体部42ABが周方向において対向している。つまり、周方向凸状部31AA、31BAと磁性体部42AAとの周方向における対向面積=ゼロ(最小)の状態である。
図13に示す状態では、周方向凸状部31AA及び周方向凸状部31BAと、非磁性体部42ABと、が対向しているので、磁性体歯31A(31)から磁性体歯31B(31)に達する磁束の量は、ほとんど無い。従って、磁性体歯31A(31)から磁性体歯31B(31)に達する磁束の量は、
図14に示す状態よりも少ない。
図13に示す状態では、磁性体歯31A(31)から磁性体歯31B(31)に達する磁束のもれ量が少ない(
図13の状態では、最小である)ので、電機子コイルとの鎖交磁束の量が
図14に示す状態よりも多く、
図7に示した状態と同等となる。また図示省略するが、ステータとロータの間のエアギャップの磁束の量も
図14に示す状態よりも多い。従って、より大きなトルクを発生させることが可能であり、高トルクが要求されるロータの低回転時に適している。
【0032】
図14に示す例は、
図13に示す状態から、磁束調整部材42A(42)を、回転軸方向に長さ(L1+L2)/2だけ移動させた状態を示している。
この
図14に示す例では、磁性体歯31A(31)の周方向凸状部31AA及び磁性体歯31B(31)の周方向凸状部31BAと、磁束調整部材42A(42)の磁性体部42AAが周方向において対向している。つまり、周方向凸状部31AA、31BAと磁性体部42AAとの周方向における対向面積=(最大)の状態である。
図14に示す状態では、周方向凸状部31AA及び周方向凸状部31BAと、磁性体部42AAと、が対向しているので、磁性体歯31A(31)から磁性体歯31B(31)に達する磁束の量(
図14中に一点鎖線にて記載)は、
図13に示す状態よりも多い。
図14に示す状態では、磁性体歯31A(31)から磁性体歯31B(31)に達する磁束のもれ量が多い(
図14の状態では、最大である)ので、電機子コイルとの鎖交磁束の量が
図13に示す状態よりも少なく、
図8に示した状態と同等となる。また図示省略するが、ステータとロータの間のエアギャップの磁束の量も
図13に示す状態よりも少ない。従って、誘起電圧をより小さくすることが可能であり、より高回転までロータを回転させたい場合に適している。
【0033】
以上、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップをとおる磁束量が最も多い
図13の状態から、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップをとおる磁束量が最も少ない
図14の状態の間で、磁束調整部材の位置(周方向に隣り合う磁性体歯の間隙における回転軸方向の位置)を任意の位置に調整(回転軸方向の距離(L1+L2)/2の範囲で調整)することで、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップの磁束量を、所望する磁束量に調整することが可能である。
なお、磁束調整部材の回転軸方向の位置を調整することは、周方向凸状部と磁性体部との周方向における対向面積の大きさを調整することになる。
この第2の実施の形態では、磁束調整部材42の移動距離を距離(L1+L2)/2の範囲内とすることができるので、
図15に示すように、回転電機1Aにおける回転軸MJ方向の長さを、
図1及び
図2に示す回転電機1よりも非常に短くすることが可能となり、回転電機1Aをより小型に構成することができる。
【0034】
以上、本実施の形態にて説明した回転電機1、1Aは、従来の弱め界磁制御のように、ロータやステータの磁束量を変えるのではなく、ステータと磁石の磁束による鎖交磁束量(電機子コイルとの鎖交磁束量)と、エアギャップにおける磁束量と、を調整しており、回転電機の効率の低下を抑制することができる。
また電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップにおける磁束量を断続的でなく連続的に自由に変更(増減)することができるので、特性変更時のショックの発生が抑制され、回転数やトルク等に応じた適切な磁束量で効率の低下を抑制しながら、低回転域ではより高いトルクを確保することが可能であり、高回転域ではより高い回転数まで回転を伸ばすことができる。
なお本実施の形態にて説明した回転電機1、1Aは、電機子コイルとの鎖交磁束量及びエアギャップにおける磁束量を増減することが可能であるので、コギングトルクやトルクリップルの最適化を図ることも可能である。
また、磁束調整部材を備えた磁束調整バルブを、ロータと共回りさせることなく、ステータに対して同軸状に保持し、ステータに対して回転軸方向に往復移動させるので、磁束調整バルブの保持機構及び移動機構をシンプルに構成することが可能であり、回転電機の構造をシンプルな構造とすることができる。
【0035】
本発明の回転電機1及び回転電機の制御装置60の構成、構造、外観、形状、動作(処理手順)等は、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また本実施の形態の説明では、4極6スロットの回転電機の例を用いて説明したが、極数やスロット数は、これに限定されるものではない。
また本実施の形態の説明では、ロータの内部に磁石を埋め込んだIPMモータの例を用いて説明したが、ロータの表面に磁石を貼り付けたSPMモータに適用することも可能であり、種々の構成のロータを有する回転電機に適用することが可能である。
また制御装置60とインバータ61を別体とすることなく、一体とした制御装置として構成してもよい。
また本実施の形態の説明では、回転状態検出手段60Sを設けた例を説明したが、回転状態検出手段60Sを省略してもよい。
また
図2、
図8等において磁束調整部材42A〜42Fの形状をT字状(回転軸MJ方向から見てT字状)とした例を説明したが、磁束調整部材42A〜42Fの形状はT字状に限定されず、隣り合う磁性体歯31A〜31Fの隙間を移動できれば、どのような形状であってもよい。