特許第6323037号(P6323037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6323037
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】ころ軸受用の保持器及びころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/51 20060101AFI20180507BHJP
   F16C 33/37 20060101ALI20180507BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20180507BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20180507BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   F16C33/51
   F16C33/37
   F16C19/36
   F16C19/26
   F16C33/46
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-21977(P2014-21977)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-148291(P2015-148291A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩隆
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−144794(JP,A)
【文献】 特開2011−133061(JP,A)
【文献】 特開平10−153217(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102012202104(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/26
F16C 19/36
F16C 33/37
F16C 33/46
F16C 33/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に所定間隔を隔てて互いに対向する一対のリム部、及び、前記一対のリム部の間において周方向に所定間隔を隔てて設けられた柱部を有し、前記一対のリム部と周方向で隣り合う前記柱部との間が、ころ軸受のころを収容するためのポケットとなる保持器であって、
前記柱部の内側面は、当該内側面の軸方向両側に設けられ当該ころの外周面と接触可能である接触面部と、軸方向中央に設けられ当該ころの外周面と接触不能であるリセス部と、を有し
前記ポケットの四ヶ所の隅部に、前記リム部の内側面よりも軸方向外側に底面が位置するように凹んだ凹曲形状の凹部が設けられており、
前記凹部は、前記ころの角部に形成されている小円弧面の半径よりも大きい半径の凹円弧面を有していることを特徴とするころ軸受用の保持器。
【請求項2】
前記凹部は、前記柱部の内側面と滑らかに連続している第1の前記凹円弧面と、前記リム部の内側面と連続する第2の凹円弧面と、を有し、
前記ころが、前記柱部の内側面及び前記リム部の内側面の双方に接触した状態を接触状態とすると、
径方向外側から見て、第1の前記凹円弧面の前記柱部側の始点の位置は、前記接触状態にある前記ころの前記小円弧面の始点と、前記リム部の内側面を延長させた仮想面と前記柱部の内側面を延長させた仮想面との交点との間に存在している、請求項1に記載のころ軸受用の保持器。
【請求項3】
前記リム部の内側面は、前記ころの端面と接触可能である第2の接触面部と、当該ころの端面と接触不能である第2のリセス部と、を有し
前記第2のリセス部は、前記リム部の内側面の中央に設けられており、前記第2の接触面部は、3片の連続した突起条を含む構成からなり中央の前記第2のリセス部を三方向から囲む請求項1又は2に記載のころ軸受用の保持器。
【請求項4】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間の環状空間に転動可能に配置された複数のころと、請求項1〜3のいずれか一項に記載の保持器と、を備えていることを特徴とするころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受用の保持器及びころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受は、玉軸受と比較してラジアル方向の負荷容量が大きいという特徴を有しており、例えば、発電装置等の大型の機器に用いることができる。一般的なころ軸受は、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に転動自在設けられている複数のころと、前記複数のころを周方向に等間隔に保持する保持器とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている保持器は、複数の保持器セグメントにより構成される分割保持器であり、これら保持器セグメントは、内輪と外輪との間の環状空間に、周方向に沿って環状に配列される。そして、各保持器セグメントは、ころを収容するポケットを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−263304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ころ軸受は、玉軸受と比較して、負荷容量が大きいという特徴を有しているが、回転抵抗(回転トルク)が大きくなる傾向がある。回転抵抗の主な要因としては、内輪及び外輪ところとの間における潤滑剤の粘性抵抗の他に、保持器のポケットところとの間における潤滑剤の粘性抵抗が考えられる。このため、保持器のポケットところとの間における潤滑剤の粘性抵抗を小さくすれば、ころ軸受における回転抵抗を低減させることが可能となる。
【0006】
そこで本発明は、ポケットところとの間における潤滑剤の粘性抵抗を小さくすることにより、ころ軸受の回転抵抗を低減させることが可能となる保持器、及びこの保持器を備えたころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、軸方向に所定間隔を隔てて互いに対向する一対のリム部、及び、前記一対のリム部の間において周方向に所定間隔を隔てて設けられた柱部を有し、前記一対のリム部と周方向で隣り合う前記柱部との間が、ころ軸受のころを収容するためのポケットとなる保持器であって、前記柱部の内側面は、当該内側面の軸方向両側に設けられ当該ころの外周面と接触可能である接触面部と、軸方向中央に設けられ当該ころの外周面と接触不能であるリセス部と、を有している。
【0008】
ころ軸受において、保持器(ポケット)ところとの間には潤滑剤が存在しており、保持器のポケットところとの接触面積が大きいと、潤滑剤の粘性抵抗によりころ軸受の回転抵抗(回転トルク)が大きくなる場合がある。
そこで、本発明によれば、ポケットに組み入れたころの外周面と対向する柱部の内側面に、リセス部(第1のリセス部)が設けられていることにより、ポケットにおいて、ころの外周面と接触する領域の面積を減らすことができ、ころ軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
また、例えば、ころをポケットに組み入れるために柱部を弾性変形させる必要がある場合、この柱部の軸方向両側の端部はリム部により変形が拘束されることで、前記弾性変形によりこれら端部には大きな応力が発生する。このため、柱部の軸方向両側では軸方向中央部に比べて強度が必要である。
そこで、本発明では、柱部の内側面のうち、前記応力が比較的大きくなる軸方向両側ではなく軸方向中央にリセス部を設けることで、柱部の軸方向両側において強度を確保することができる。
【0009】
(2)また、前記ころ軸受用の保持器を、前記一対のリム部の間に設けられ当該一対のリム部と共に前記ころを収容するための前記ポケットを形成する一対の前記柱部を有する保持器セグメントを複数備え、前記複数の保持器セグメントを、ころ軸受の外輪と内輪との間に形成される環状空間に周方向に沿って配列して構成される分割保持器とすることができる。
この場合、各保持器セグメントのポケットにおいて、ころと接触する領域の面積を減らすことができ、ころ軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0010】
(3)また、前記リム部の内側面は、前記ころの端面と接触可能である第2の接触面部と、当該ころの端面と接触不能である第2のリセス部と、を有しているのが好ましい。
この場合、保持器のポケットにおいて、ころの端面と接触する領域の面積を減らすことができ、ころ軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0011】
(4)また、本発明のころ軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間の環状空間に転動可能に配置された複数のころと、前記(1)〜(3)のいずれかの保持器と、を備えている。
本発明によれば、保持器のポケットにおいて、ころの外周面と接触する領域の面積を減らすことができることから、ポケットところとの間における潤滑剤の粘性抵抗を小さくすることができ、ころ軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保持器によれば、ポケットところとの間における潤滑剤の粘性抵抗を小さくすることにより、ころ軸受の回転抵抗を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の保持器を備えたころ軸受を示す要部断面図である。
図2】ころ軸受を示す側面図である。
図3】保持器セグメントを示す斜視図である。
図4図3のA−A矢視断面図である。
図5】柱部の外側保持部を径方向外側から見た説明図である。
図6】柱部の断面図である。
図7】保持器セグメントの一部を径方向外側から見た図である。
図8】ポケットの隅部の他の形態を示す図である。
図9図3のB−B矢視の断面図である。
図10図3のC−C矢視の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の保持器を備えたころ軸受を示す要部断面図である。図2は、このころ軸受を示す側面図である。本実施形態のころ軸受1は、円すいころ軸受であり、内輪2と、外輪3と、内輪2と外輪3との間の環状空間に転動可能に配置された複数の円すいころ4と、これら円すいころ4を保持する保持器5とを備えている。本実施形態の保持器5は、複数の保持器セグメント6を備えている分割保持器である。内輪2、外輪3及び円すいころ4は、鋼製からなり、例えば軸受鋼である。
【0015】
図1において、外輪3の内周には、円すいころ4が転動するように、円すい面からなる外輪軌道面3aが形成されている。内輪2の外周には、円すいころ4が転動するように、円すい面からなる内輪軌道面2aが形成されている。内輪2の軸方向の両側には、外径の大きい大鍔部2b及び外径の小さい小鍔部2cが径方向外方に突出して設けられており、大鍔部2bには、円すいころ4の軸方向一方側の大端面4aが接触する。円すいころ4及び分割保持器5が存在する軸受内部には、グリース等の潤滑剤が設けられており、このグリースによって円すいころ軸受1の潤滑が行われる。
【0016】
分割保持器5は、複数の保持器セグメント6を有しており(図2参照)、これら保持器セグメント6を、内輪2と外輪3との間の環状空間に周方向に沿って環状に複数配列することによって構成されている。
また、この円すいころ軸受1は、各保持器セグメント6が円すいころ4によって案内される「ころ案内タイプ」のものである。つまり、保持器セグメント6の径方向(及び軸方向)についての位置決めが、円すいころ4によって行われる。これにより、各保持器セグメント6は内輪軌道面2a及び外輪軌道面3aに接触しない。
【0017】
ころ案内とするために、各保持器セグメント6の内周面と内輪2の外周面との間、及び各保持器セグメント6の外周面と外輪3の内周面との間には、それぞれ所定の径方向隙間S1,S2が設けられている。また、隣接する保持器セグメント6の間には、所定の円周方向隙間S3が設けられている。そして、後にも説明するが、各保持器セグメント6は、円すいころ4の外周面4cに接触することによって保持器セグメント6の径方向についての位置決めをするための保持部31,32,33,34(図3図4参照)を有している。
【0018】
図3は、保持器セグメント6を示す斜視図である。図4は、図3のA−A矢視断面図である。本実施形態の保持器セグメント6は、合成樹脂製であり、射出成型によって矩形枠状に形成されたものである。具体的に説明すると、保持器セグメント6は、一対のリム部21,22と、一対の柱部23,24とを備えている。第1リム部21と第2リム部22とは、保持する円すいころ4の軸方向に所定間隔を隔てて互いに対向している。第1柱部23と第2柱部24とは、前記軸方向に直交する方向(分割保持器5の周方向)に所定間隔を隔てて互いに対向している。柱部23,24はリム部21,22の間に設けられており、これらリム部21,22と柱部23,24とは連結され一体となり矩形枠状となる。そして、この保持器セグメント6には、リム部21,22と柱部23,24とによって、単一の円すいころ4を収容するための単一のポケット25が形成されている。つまり、リム部21,22及び柱部23,24によって囲まれた領域が、ポケット25となる。なお、図3では、円すいころ4を省略している。
【0019】
リム部21,22は直線板状であり、その内側面21a,22aは径方向及び周方向に広がる面となるが、本実施形態では、内側面21a,22aの中央にリセス部(凹部)27が設けられている。
柱部23,24は直線板状であり、その内側面23a,24aは径方向及び軸方向に広がる面となるが、本実施形態では、この内側面23a,24aから隆起している保持部31,32,33,34が設けられている。更に、本実施形態では、内側面23a,24aそれぞれにおいて、円すいころ4の外周面4cと接触可能である接触面部45と、この円すいころ4の外周面4cと接触不能であるリセス部46とが設けられている。
また、リム部21,22それぞれと柱部23との間、及び、リム部21,22それぞれと柱部24との間の各領域、つまりポケット25の四カ所の隅部10にリセス部(凹部)28が設けられている。
これらリセス部27,46,28、及び保持部31,32,33,34等については、後に説明する。
【0020】
このような分割保持器5を備えている円すいころ軸受1の組み立ての際、各保持器セグメント6の径方向外側と径方向内側との内の一方側から、円すいころ4がポケット25に組み入れられる。なお、本実施形態では、保持器セグメント6(ポケット25)の径方向外側から円すいころ4が組み入れられ、ポケット25の径方向外側縁が円すいころ4の挿入口となる。
【0021】
図4において、第1柱部23は、径方向外側及び径方向内側の双方において、円すいころ4側に突出(隆起)して設けられている第1の外側保持部31及び第1の内側保持部32を有している。これと同様に、第2柱部24は、径方向外側及び径方向内側の双方において、円すいころ4側に突出(隆起)して設けられている第2の外側保持部33及び第2の内側保持部34を有している。外側保持部31と外側保持部33とは同じ形状であり、内側保持部32と内側保持部34とは同じ形状である。
【0022】
外側保持部31,33の(軸方向の各位置における)間隔は、(当該各位置に対応する)円すいころ4の直径よりも小さく設定されている。これと同様に、内側保持部32,34の(軸方向の各位置における)間隔は、(当該各位置に対応する)円すいころ4の直径よりも小さく設定されている。なお、前記間隔は、最小間隔である。そして、外側保持部31,33が、円すいころ4の外周面4cに径方向外側から接触可能であり、内側保持部32,35が、円すいころ4の外周面4cに径方向内側から接触可能であることによって、この保持器セグメント6の径方向についての位置決めがされる。つまり、これら保持部31,32,33,34によって、保持器セグメント6は径方向についてころ案内される。なお、軸方向についての位置規制は、リム部21,22の内側面21a,22aが円すいころ4の端面4a,4b(図1参照)に接触することで行われる。
【0023】
図3及び図4に示すように、第1柱部23の内側保持部32は、柱部23の径方向内側の領域において柱部23の内側面23aから周方向に突出して設けられており、この内側保持部32は、柱部23の軸方向全長にわたって設けられている(図3参照)。なお、第2柱部24の内側保持部34も、第1柱部23の内側保持部32と同様の構成である。
【0024】
また、図3及び図4に示すように、第1柱部23の外側保持部31は、柱部23の径方向外側の領域において柱部23の内側面23aから周方向に突出して設けられており、この外側保持部31は、軸方向全長ではなく、柱部23の一部である中央領域にのみ設けられている(図3参照)。なお、第2柱部24の外側保持部33も、第1柱部23の外側保持部31と同様の構成である。このように、円すいころ4がポケット25に組み入れられる径方向外側に位置する外側保持部31(33)は、柱部23(24)の軸方向の中央領域にのみ設けられており、軸方向の両側領域には存在していない。
【0025】
図5は、第1柱部23の外側保持部31を径方向外側から見た説明図である。外側保持部31は、柱部23の内側面23aを基準として所定寸法について突出しており、外側保持部31の頂部36は、内側面23aと平行であって軸方向に沿って直線状に延在している。そして、この外側保持部31は、その軸方向の両側部において、リム部21,22側に向かうにしたがって突出高さhが徐々に低くなる側部斜面39を有している。本実施形態では、側部斜面39は、頂部36側の平面39aと、この平面39a及び内側面23aと滑らかに連続する円弧面39bとの複合斜面からなる。そして、第2柱部24の外側保持部33においても同様の構成である。なお、側部斜面39は、前記のような複合斜面ではなく、平面のみ又は円弧面のみからなる斜面であってもよい。
【0026】
図6は、柱部23の断面図である。外側保持部31は、柱部23の内側面23aの内の径方向外側の領域に設けられている。この外側保持部31は、突出高さが最も高い頂部36と、この頂部36から径方向内側及び径方向外側の双方に延在している内斜面37及び外斜面38とを有している。これら斜面37,38は、それぞれ突出高さが徐々に低くなっている。そして、内斜面37が、円すいころ4の外周面4cに接触する。
【0027】
これに対して、内側保持部32は、柱部23の内側面23aの内の径方向内側の領域に設けられている。この内側保持部32は、突出高さが最も高い頂部40と、この頂部40から径方向外側に延在している外斜面41とを有している。外斜面41は、突出高さが徐々に低くなっている。そして、外斜面41が、円すいころ4の外周面4cに接触する。頂部40は、内側面23aの最も径方向内側に位置する。
これら内側保持部32,34及び外側保持部31,33は、直線板状であるリム部21,22及び柱部23,24によって囲まれた範囲内、つまりポケット25内に設けられている。
【0028】
このような分割保持器5を備えている円すいころ軸受1の組み立ての際、保持器セグメント6のポケット25に円すいころ4を径方向外側から組み入れるためには、円すいころ4は、柱部23,24の外側保持部31,33を乗り越える必要があり、そして、この乗り越えの際には、これら外側保持部31,33を含む柱部23,24が弾性変形する。つまり、円すいころ4をポケット25へ組み入れる作業は、外側保持部31,33を含む柱部23,24が円すいころ4に押されて弾性変形することにより、可能となる。なお、この柱部23(24)が弾性変形する態様は、その両側に位置するリム部21,22が支点(固定端)となりかつ中央領域に荷重が作用する梁の曲げの態様となる。したがって、この支点に含まれるポケット25の隅部10における応力は、柱部23(24)の他部(軸方向中央部)に比べて大きくなる。
【0029】
そこで、本実施形態では、円すいころ4が組み入れられる側に位置する外側保持部31,33は、柱部23,24の軸方向の中央領域にのみ設けられており、軸方向の両側領域には存在していない。このため、この組み入れる作業の際、柱部23,24では、軸方向の中央領域において比較的大きく弾性変形するが、その軸方向両側の領域においては大きく変形しないで済む。このため、ポケット25の隅部10に発生する局部応力(応力集中)を軽減することができ、この隅部を起点とする保持器セグメント6の損傷を防ぐことが可能となる。
【0030】
特に本実施形態では、外側保持部31(33)は、柱部23(24)の軸方向の中心点を含む中央領域にのみ設けられており、隅部10から離れている。また、外側保持部31(33)の軸方向長さL(図3参照)は、柱部23(24)の軸方向長さの35%以上で70%以下に設定されるのが好ましく、特に、本実施形態のように45%以上で55%以下とするのがより好ましい。なお、前記軸方向長さLは、側部斜面39を除く軸方向長さである。
【0031】
外側保持部31(33)の軸方向長さLを短くし過ぎると、保持器セグメント6の軸方向中心部(外側保持部31(33))を支点として、保持器セグメント6が円すいころ4に対して揺動しやすくなり、振動や異音の発生の原因となるおそれがある。このため、外側保持部31(33)は、円すいころ4の外周面4cに点接触又はこれに近い接触状態となる突起ではなく、軸方向に所定の長さを有し線接触状態となる突条としている。
【0032】
図7は、保持器セグメント6の一部(リム部22と柱部23との連結部)を径方向外側から見た図である。前記のとおり(図3参照)、ポケット25の四カ所の隅部10には、リセス部28が設けられており、各リセス部28の輪郭が凹曲形状となっている。このリセス部28の形状について更に説明すると、図7に示すように、リセス部28は、柱部23の内側面23aと滑らかに連続している第1の凹円弧面29aと、リム部22の内側面22aと連続する第2の凹円弧面29bと、これら凹円弧面29a,29bを繋ぐ面(平面)29cとを有している。これらの面29a,29b,29cが滑らかに連続することで、リセス部28の輪郭が凹曲形状となる。また、リセス部28は、その底面(前記面29c)がリム部22の内側面22aよりも軸方向外側(図7では、左側)に位置している。なお凹円弧面29aと凹円弧面29bとを繋いで前記面29cを省略してもよい。
【0033】
図7において、円すいころ4が、内側面23a及び内側面22aの双方に接触した状態を破線で示している。以下、この状態を接触状態という。第1の凹円弧面29aの柱部23側の始点Q1の位置は、径方向外側から見て、前記接触状態にある円すいころ4の角部4dに面取りとして形成されている小円弧面4eの始点Q2と、内側面22aを延長させた仮想面と内側面23aを延長させた仮想面との交点Q3との間に存在している。これにより、始点Q1の位置、つまり、凹円弧面29aの位置を、ポケット中心側(図(A)では、右側)に寄せることができ、この結果、保持器セグメント6を軸方向についての少しでもコンパクト化することに貢献している。
【0034】
そして、このリセス部28の半径、特に、第1の凹円弧面29aの半径R1は、円すいころ4の角部4dの小円弧面4eの半径R0よりも大きく設定されている(R1>R0)。なお、第2の凹円弧面29bの半径R2についても、前記半径R0より大きく設定されていてもよい。また、他の隅部10におけるリセス部28も、図7に示す柱部23とリム部22との間のリセス部28と、同様の構成である。
【0035】
なお、図8は、ポケット25の隅部10の他の形態を示す図(径方向外側から見た図)である。この隅部10には、図7に示すようなリセス部28が設けられておらず、柱部23の内側面23aとリム部22の内側面22aとの双方に接する円弧形状の凹曲面10aが形成されているのみである。この場合、円すいころ4の角部4dに面取りとして形成されている小円弧面4eの半径R0よりも大きな半径の凹曲面10aを形成すると、円すいころ4が内側面23a,22aに接触する前に、円すいころ4の角部4dが凹曲面10aに接触してしまう。つまり、保持器セグメント6が円すいころ4を安定して保持すべく、円すいころ4を内側面23a,22aに接触させるためには、図8に示す形態の場合、破線で示すように、前記角部4dの半径R0よりも小さい半径による凹曲面10aとする必要がある。しかし、このように隅部10の凹曲面10aの半径が小さくなると、円すいころ4をポケット25に組み入れるために柱部23が弾性変形すると、この隅部10に発生する応力(局部応力)は極めて大きくなってしまう。
【0036】
これに対して、図7に示すように隅部10にリセス部28を設けることにより、ポケット25の隅部10に、円すいころ4の角部4dの小円弧面4eの半径R0よりも大きな円弧面部を設けることが可能となる。この結果、円すいころ4をポケット25に組み入れるために柱部23が弾性変形しても、この隅部10に発生する応力を、図8の形態の場合に比べて、小さくすることができる。
【0037】
このように、リセス部28は凹曲面(凹円弧面29a,29b)を有するため、円すいころ4をポケット25に組み入れる際に隅部10に発生する応力を、緩和することができる。特に、ポケット25の隅部10に大きな半径の凹曲面(凹円弧面29a)を形成することが可能となり、この隅部10に発生する応力をより一層緩和することができる。
また、このリセス部28によれば、ポケット25の隅部10と、円すいころ4の角部4dとが干渉するのを防ぐことができる。つまり、円すいころ4を内側面23a,22aに対して共に接触させることができ、保持器セグメント6が円すいころ4を安定して保持することができ、また、円すいころ4によって保持器セグメント6は位置決めされる。
【0038】
また、本実施形態の保持器セグメント6では、図5に示しているように、柱部23(24)に外側保持部31(33)が形成されていることで、これら柱部23(24)の断面形状(厚さ)は変化している。このように断面形状が変化していると、これら柱部23(24)が前記のように梁の曲げのような態様で弾性変形した場合、断面形状が変化している部分において局部応力が生じやすい。しかし、外側保持部31(33)の軸方向の両側部は、リム部21,22側に向かうにしたがって突出高さが徐々に低くなる斜面39を有していることから、柱部23,24の断面形状が急変するのを防ぐことができ、外側保持部31,33の形成領域における局部応力の発生を抑制することができる。
【0039】
また、前記のとおり、円すいころ4をポケット25に組み入れる際、円すいころ4は外側保持部31,33を乗り越える必要があり、また、この際、柱部23,24は弾性変形する。そこで、本実施形態では、前記のとおり、図6に示すように、外側保持部31(33)は、突出高さが最も高い頂部36と、この頂部36から径方向内外の双方に延在し突出高さが徐々に低くなっている内斜面37及び外斜面38とを有している。この構成によれば、円すいころ4をポケット25に組み入れる際、円すいころ4は外斜面38に案内され、その後、頂部36を乗り越えることができ、円すいころ4をポケット25へ組み入れ易くすることができる。
また、頂部36は円弧面からなり、円すいころ4の頂部36の乗り越えを容易とすると共に、乗り越えの際の双方における傷の発生を防いでいる。
【0040】
以上より、本実施形態の分割保持器5によれば、円すいころ4を保持器セグメント6のポケット25に組み入れる作業が容易となり、円すいころ軸受1の組み立てが容易となる。
【0041】
図3において、前記リセス部27,46について説明する。前記のとおり柱部23(24)の内側面23a(24a)には、接触面部45及び第1のリセス部46が設けられている。また、リム部21,22の内側面21a,22aには、第2のリセス部27が設けられている。なお、ポケット25の隅部10には、第3のリセス部28が設けられている。
【0042】
図9は、図3のB−B矢視の断面図である。柱部23の内側面23aにおいて、接触面部45は、内側面23aの軸方向両側にそれぞれ設けられている面からなり、この接触面部45は、円すいころ4の外周面4cと接触可能となる面である。なお、この接触面部45には、円すいころ4の外周面4cの軸方向両側部が、線接触する。
これに対して、リセス部46は、内側面23aの軸方向中央に設けられている面からなり、このリセス部46を構成する面46aは、前記接触面部45に接触している円すいころ4の外周面4cから離れている面である。このため、リセス部46(面46a)は、円すいころ4の外周面4cと接触不能であり、円すいころ4の外周面4cが接触面部45に接触している状態であっても、この外周面4cとリセス部46を構成する面46aとの間には隙間δが形成される。
【0043】
リセス部46は、接触面部45から凹んでいる領域であることから、柱部23のうち、このリセス部46における厚さt2よりも、接触面部45における厚さt1は大きくなっている(t1>t2)。つまり、柱部23は、その軸方向両側で厚くなっており、中央部で薄くなっている。
また、図3に示すように、前記外側保持部31は、柱部23の内側面23aのうち、リセス部46から隆起している。また、前記内側保持部32は、この内側面23aのうち、リセス部46及び接触面45の双方から隆起している。
なお、他方の第2柱部24においても、接触面部45及びリセス部46が設けられており、その構成は、第1柱部23の場合と同様である。
【0044】
このような保持器セグメント6を備えている円すいころ軸受1では、各保持器セグメント6のポケット25と、円すいころ4との間には潤滑剤(グリース)が存在しており、ポケット25と円すいころ4との接触面積が大きいと、潤滑剤の粘性抵抗により円すいころ軸受1の回転抵抗(回転トルク)が大きくなる場合がある。
そこで、本実施形態では、このポケット25に組み入れた円すいころ4の外周面4cと対向する柱部23(24)の内側面23a(24a)に、リセス部46を設けることにより、円すいころ4の外周面4cのうち軸方向両側でのみ内側面23a(24a)と接触可能としている。これにより、ポケット25において、円すいころ4の外周面4cと接触する領域の面積を減らすことができ、円すいころ軸受1の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0045】
また、図10は、図3のC−C矢視の断面図である。本実施形態では、図10に示すように、内側保持部32のうち、軸方向中央の領域K1の高さh1は、軸方向両側の領域K2の高さh2よりも低くなっている。つまり、内側保持部32のうち(図3参照)、リセス部46を構成する面46aと交差する領域K1では、接触面部45と交差する領域K2よりも低くなっている。
したがって、前記のとおり、内側保持部32は、円すいころ4の外周面4cに接触可能であるが(図4参照)、この外周面4cと接触する部分は、図10に示す軸方向両側の領域K2である。つまり、軸方向中央の領域K1は円すいころ4と接触せず、円すいころ4が領域K2に接触している状態であっても、円すいころ4の外周面4cと領域K1との間には隙間が形成される。
【0046】
このように、内側保持部32は、円すいころ4の外周面4cに接触可能となるが、この内側保持部32の軸方向全長において接触するのではなく、一部(軸方向両側部)においてのみ接触する。このため、ポケット25(内側保持部32)において、円すいころ4の外周面4cと接触する領域の面積を減らすことができ、円すいころ軸受1の回転抵抗の低減に貢献することが可能となる。
特に、図2に示すように、保持器セグメント6の荷重(自重)が集中する下部において、この下部に位置する保持器セグメント6では、内側保持部32が円すいころ4に接触するが、この保持器セグメント6の内側保持部32において、円すいころ4と接触する領域の面積を減らすことで、回転抵抗の低減に貢献することが可能となる。
【0047】
さらに、円すいころ軸受1の組み立てでは、前記のとおり、円すいころ4を保持器セグメント6のポケット25に組み入れるために、柱部23,24を弾性変形させる必要がある。この場合、柱部23,24の軸方向両側の端部はリム部21,22により変形が拘束されることで、前記弾性変形によりこれら端部(ポケット25の隅部10)には大きな応力(局部応力)が発生する。このため、柱部23,24の軸方向両側では軸方向中央部に比べて強度が必要である。
そこで、本実施形態では、図9図10)により説明したように、柱部23(24)の内側面23aのうち、前記応力が比較的大きくなる軸方向両側ではなく軸方向中央にリセス部46を設け、柱部23(24)のうち、軸方向中央ではリセス部46により厚さt2が小さくなっているが、軸方向両側(接触面部45)では厚さt1を大きくしている。これにより、柱部23(24)の軸方向両側における強度を確保することができ、隅部10における前記応力(局部応力)の発生により、保持器セグメント6が破損してしまうのを防ぐことが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、図3に示すように、リム部21の内側面21aには、第2のリセス部27が設けられている。なお、保持器セグメント6の軸方向についての位置規制は、リム部21(22)の内側面21a(22a)が、円すいころ4の端面4a(4b)(図1参照)に接触することで行われる。したがって、リム部21の内側面21a(22a)は、円すいころ4の端面4a(図1参照)と接触可能である第2の接触面部47と、この円すいころ4の端面4aと接触不能である第2のリセス部27とを有している構成となる。このリセス部27は、内側面21aの中央に設けられており、第2の接触面部47の一部(中央部)が欠損して設けられている。
【0049】
接触面部47は、中央のリセス部27を三方向から囲むようにして設けられており、一方側には設けられていない。つまり、リセス部27は軸方向に開口していると共に、径方向一方側(本実施形態では径方向外側)に向かって開口している。このように、第2のリセス部27(及び第3のリセス部28)に対して突出している接触面部47は、3片の連続した突起条を含む構成からなる。
なお、他方の第2リム部22においても、第2の接触面部47及び第2のリセス部27が設けられており、その構成は、第1リム部21の場合と同様である。
このように、リム部21,22においても、円すいころ4の端面4a,4bと非接触となるリセス部27が設けられていることにより、保持器セグメント6のポケット25において、円すいころ4の端面4a,4bと接触する領域の面積を減らし、円すいころ軸受1の回転抵抗の低減に貢献することが可能となる。
【0050】
以上の保持器セグメント6を複数備えた分割保持器5を含む円すいころ軸受1によれば、各保持器セグメント6のポケット25において、円すいころ4と接触する領域の面積を減らすことができることから、ポケット25と円すいころ4との間における潤滑剤(グリース)の粘性抵抗を小さくすることができ、円すいころ軸受1の回転抵抗を低減することが可能となる。
また、柱部23,24の第1のリセス部46、及びリム部21,22の第2のリセス部27によれば、これらリセス部46,27と円すいころ4との間に、潤滑剤を溜めるためのスペースが形成される。このため、例えば円すいころ4と内輪2及び外輪3との間の潤滑剤が不足した場合、リセス部46,27により溜められている潤滑剤が不足している領域へ供給され、円すいころ軸受1の潤滑性能を向上させることが可能となる。
【0051】
本発明の保持器5は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。前記実施形態では、ころを円すいころとして説明したが、円筒ころであってもよい。また、保持器5を分割保持器として説明したが、これに限らず一体型の環状保持器であってもよい。一体側の環状保持器の場合、リム部は、円環状の環状部材からなる。
また、前記実施形態では(図3参照)、内側保持部32は、柱部23,24の全長にわたって形成されている場合について説明したが、この内側保持部32も、柱部の軸方向の一部(中央領域又は両側部の領域)にのみ設けられている構成であってもよい。
また、前記実施形態では、径方向外側から円すいころ4をポケット25へ組み入れる場合について説明したが、径方向内側から組み入れてもよい。ただし、この場合、図示しないが、ころが組み入れられる径方向内側の内側保持部が、柱部の軸方向の中央領域にのみ設けられ、両側領域には存在しないようにするのが好ましい。
【符号の説明】
【0052】
1:ころ軸受 2:内輪 3:外輪
4:円すいころ 4c:外周面 5:分割保持器
6:保持器セグメント 21:第1リム部 21a:内側面
22:第2リム部 22a:内側面 23:第1柱部
23a:内側面 24:第2柱部 24a:内側面
25:ポケット 27:第2のリセス部 45:接触面部
46:リセス部 47:第2の接触面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10