(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造物において給気口から附室を通じて遮煙開口部に給気を行う加圧防排煙設備であって、前記給気による気流を、前記遮煙開口部の上方からの下降流とする、気流誘導手段を備え、
前記気流誘導手段は、給気風道から前記給気口を経て前記遮煙開口部の上方まで前記気流を導く誘導構造であり、
前記誘導構造は、前記附室上を前記遮煙開口部の直上にまで至る給気風道と、前記給気風道に開口した前記給気口を備え、
前記給気口は、前記附室の天井面のうち、前記遮煙開口部の直上にのみ設けられていることを特徴とする加圧防排煙設備。
【背景技術】
【0002】
所定規模の構造物においては、火災発生時に生じる煙を適切に排出させ、避難行動や消火活動を容易にする排煙設備の設置が必要となる。そのうち、加圧防排煙設備は、避難階段に隣接する室、特別避難階段の附室、その他これらに類する室といった、避難や消火活動の拠点について、給気口から給気した気流による遮煙開口部の加圧により、内部の煙を排除するとともに外部からの煙の流入を防止する機能を備えている。
【0003】
こうした加圧防排煙設備に関する技術としては、以下のような技術が提案されている。すなわち、居室において火災が発生した際に、この居室内の煙を外部へ排出して負圧状態とするとともに、廊下に附室を介して給気を行うことにより、この附室及び廊下を加圧状態とし、火災の進行に伴って居室からの排煙操作が停止した際に、廊下の空気を外部へ排出することにより、廊下の圧力を附室の圧力より低く保持する防火方法(特許文献1)などが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の加圧防排煙設備では、一般に在館者の避難行動や消防活動時の消防ホースが挟まる事態を考慮して、
図1、2にて示すように遮煙部扉Sdが半開となる状況を当初から想定している。この遮煙部扉Sdの開口Soが遮煙開口部となる。こうした状況において隣接室6で発生した煙Smの一部は、給気により遮煙がなされている状態であっても、高温ゆえの浮力によって隣接室6と附室2との境界付近で上昇し、上述した半開状態の遮煙部扉上部の空間Asを介して附室6内に侵入しようとする。
【0006】
このような状況に対応して確実な遮煙を行うため、遮煙開口部たる遮煙部扉Sdの開口Soに対し全方向から遮煙効果を及ぼす静圧を上昇させる技術思想が存在する。こうした静圧が支配的である静圧場においては、その特性から遮煙開口部において鉛直方向に風速分布(遮煙開口部上端に近づくにつれ風速が小さくなる分布)が発生する(
図3参照)。そうした風速分布を持つ静圧場にて遮煙達成を図る場合、遮煙開口部上端で風速=0を達成する必要がある一方、遮煙開口部下部付近では過大な風速が生じており、結果的には遮煙効果に資することのない余剰分を含む給気が行われることになる。
【0007】
そこで本発明は、加圧防排煙設備における余剰分の給気を低減し、効率的で確実な遮煙を可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する加圧防排煙設備は、構造物において給気口から附室を通じて遮煙開口部に給気を行う加圧防排煙設備であって、前記給気による気流を、前記遮煙開口部の上方からの下降流とする、気流誘導手段を
備え、
前記気流誘導手段は、給気風道から前記給気口を経て前記遮煙開口部の上方まで前記気流を導く誘導構造であり、
前記誘導構造は、前記附室上を前記遮煙開口部の直上にまで至る給気風道と、前記給気風道に開口した前記給気口を備え、
前記給気口は、前記附室の天井面のうち、前記遮煙開口部の直上にのみ設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、
構造物において給気口から附室を通じて遮煙開口部に給気を行う加圧防排煙設備であって、前記給気による気流を、前記遮煙開口部の上方からの下降流とする、気流誘導手段を備え、
前記気流誘導手段は、給気風道から前記給気口を経て前記遮煙開口部の上方まで前記気流を導く誘導構造であり、
前記誘導構造は、附室壁面に備わる前記給気口から前記遮煙開口部の直上に至るダクトで構成され、
前記ダクトの終端は、前記遮煙開口部の直上においてのみ開口していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、加圧防排煙設備における余剰分の給気を低減し、効率的で確実な遮煙が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来における遮煙部扉付近での遮煙状況例を示す平面図である。
【
図2】従来における遮煙部扉付近での遮煙状況例を示す斜視図である。
【
図3】静圧場である各室の境界付近における風速分布例を示す説明図である。
【
図4】本実施形態の加圧防排煙設備における風速分布例を示す断面図である。
【
図5】本実施形態の加圧防排煙設備を適用する建築物の構成例を示す平面図である。
【
図6】本実施形態における加圧防排煙設備の構成例1を示す断面図である。
【
図7】本実施形態における加圧防排煙設備の構成例2を示す断面図である。
【
図8】本実施形態における加圧防排煙設備の構成例3を示す平面図である。
【
図9】本実施形態における加圧防排煙設備の構成例3を示す断面図である。
【
図10】本実施形態における加圧防排煙設備の構成例4を示す平面図である。
【
図11】本実施形態における加圧防排煙設備の構成例4を示す断面図である。
【
図12】本実施形態におけるルーバー構造(火災時)の詳細構造を示す斜視図である。
【
図13】本実施形態におけるルーバー構造の例(常温時)の動作を示す説明図である。
【
図14】本実施形態におけるルーバー構造の例(火災時)の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図4は本実施形態の加圧防排煙設備10における風速分布例を示す説明図である。まず本実施形態の加圧防排煙設備10の意義について概説しておく。本実施形態における加圧防排煙設備10を建築物1に適用し、遮煙開口部3の上部空間Asからの下降流Dfを附室2にて形成することで、
図4にて示すように遮煙開口部3の上下方向各位置で偏りの少ない風速分布を実現し、遮煙開口部3への煙Smの侵入を漏れなく抑制する。このことは、静圧場を形成して遮煙を行うよりも少ない給気量での遮煙を達成することにつながる。したがって本実施形態の加圧防排煙設備10は、附室2への余剰分の給気を低減し、効率的で確実な遮煙を可能とするものである。
【0029】
こうした加圧防排煙設備10を適用する建築物1の構成としては、例えば
図4、5にて示すように、外気と連通している給気風道8、階段室7及びその附室2、遮煙部扉Sdが開口した際の遮煙開口部3を介して附室2と連絡する廊下等の隣接室6を備えた構造となっている。なお、階段室7は、建築物1の15階以上又は地下3階以下の階に通ずる直通階段である。また、隣接室7に続く一般室(不図示)には空気逃し口が設けられており、給気口4から附室2に取り入れられ、遮煙開口部3を介して隣接室6から一般室に流入した空気の排出が適宜図られるものとする。また、火災発生時には、火災報知器等の適宜な火災検知手段からの信号を受けた給気口4の吸気機構が稼働して附室2への給気を開始する。また、遮煙開口部3は遮煙部扉Sdの開口部となる。
【0030】
図6は本実施形態における加圧防排煙設備10の構成例1を示す断面図である。本実施形態の加圧防排煙設備10においては、給気風道8が附室2上を遮煙開口部3の直上にまで延長されており、この延長部分を給気風道延長部30としている。また本実施形態の加圧防排煙設備10における給気口4は、附室2の天井面2eのうち遮煙開口部3直上にて給気風道延長部30に開口した構成となっている。従って、給気による気流Fを、遮煙開口部3の上方Asからの下降流Dfとする気流誘導手段20たる誘導構造は、上述した給気口4と、給気風道延長部30を含む給気風道8とから構成されている。
【0031】
吸気ファンなど適宜な吸気機構を介して給気風道8から給気風道延長部30に流入した空気の流れ、すなわち気流Fは給気風道延長部30の風道終端壁31に到達して一旦受け止められ、それまでの進行方向を風道終端壁31によって遮られたため、この風道終端壁31に沿って下降し、給気風道延長部30の底部と附室2の天井2eとの間を連通する給気口4を通過し、附室2の床面2fに向かおうとする下降流Dfを形成することになる。
【0032】
この下降流によって、遮煙開口部3の上部Asに適宜な給気を振り分ける形となり、遮煙開口部3の上下各位置で従来よりも偏りの少ない風速分布を実現し、静圧場を形成して遮煙を行うよりも少ない給気量での遮煙が達成できる。また、給気風道8が附室2上を横行する構造を利用し、給気風道延長部30における遮煙開口部3直上に給気口4を設置する形態であるため、加圧防排煙設備10の設置のための過大なコストや手間が不要である。
【0033】
続いて、加圧防排煙設備10の他の形態について説明する。
図7は本実施形態における加圧防排煙設備10の構成例2を示す平面図である。この例における加圧防排煙設備10は、上述の気流誘導手段20たる誘導構造としてダクト40を備えている。このダクト40は、附室壁面9に備わる給気口4から遮煙開口部3の直上Asに至る横引きダクトであり、遮煙開口部3の直上Asに向けて終端42を開口している。
【0034】
吸気ファンなど適宜な吸気機構を介して給気風道8からダクト40に流入した空気の流れ、すなわち気流Fはダクト40の終端壁41に到達して一旦受け止められ、それまでの進行方向をダクト終端壁41によって遮られたため、このダクト終端壁41に沿って終端42まで下降し、そのまま遮煙開口部3の直上Asから床面2fに向かおうとする下降流Dfを形成することになる。
【0035】
この下降流Dfによって、遮煙開口部3の上部Asに適宜な給気を振り分ける形となり、遮煙開口部3の上下各位置で従来よりも偏りの少ない風速分布を実現し、静圧場を形成して遮煙を行うよりも少ない給気量での遮煙が達成できる。また、一般的な建築資材たるダクト40を附室2の天井2e付近に設置するだけで加圧防排煙設備10として必要な構造を形成可能であり、加圧防排煙設備10の設置のための過大なコストや手間が不要である。
【0036】
また、更に他の形態の加圧防排煙設備10について説明する。
図8は本実施形態における加圧防排煙設備10の構成例3を示す平面図であり、
図9は本実施形態における加圧防排煙設備10の構成例3を示す断面図である。
【0037】
この場合の加圧防排煙設備10を適用する建築物1では、給気口4の開口上端50が遮煙開口部3の上端51より高い位置で、給気口4の開口下端52が遮煙開口部3の上端51より低い位置にある状況を想定する。こうした構成の建築物1における気流Fの誘導構造は、給気口4と略対向し、附室2の天井2eから遮煙開口部3の直上Asに至る垂れ壁55からなっている。垂れ壁55は、少なくとも給気口4の開口幅W1以上の寸法(幅W2)を備えた平板状部材であって、上端面を附室2の天井2eに固定して附室2内にて安定的に吊下されている。
【0038】
吸気ファンなど適宜な吸気機構を介して給気風道8から給気口4を経て附室2に流入した空気の流れ、すなわち気流Fは、そのまま進行して垂れ壁55に到達して一旦受け止められ、それまでの進行方向を垂れ壁55によって遮られたため、この垂れ壁55に沿って下降し、そのまま遮煙開口部3の直上Asから床面2fに向かおうとする下降流Dfを形成することになる。
【0039】
この下降流Dfによって、遮煙開口部3の上部Asに適宜な給気を振り分ける形となり、遮煙開口部3の上下各位置で従来よりも偏りの少ない風速分布を実現し、静圧場を形成して遮煙を行うよりも少ない給気量での遮煙が達成できる。また、一般的な建築資材たる板状部材等で構成される垂れ壁55を附室2の天井2eに設置するだけで、給気口4の設置位置に対応した加圧防排煙設備10として必要な構造を形成可能であり、加圧防排煙設備10の設置のための過大なコストや手間が不要である。
【0040】
また、更に他の形態の加圧防排煙設備10について説明する。
図10は本実施形態における加圧防排煙設備10の構成例4を示す平面図であり、
図11は本実施形態における加圧防排煙設備10の構成例4を示す断面図である。
【0041】
この場合の加圧防排煙設備10を適用する建築物1では、給気口4の開口上端50が遮煙開口部3の上端51より低い位置にある状況を想定する。こうした構成の建築物1における気流Fの誘導構造は、上述の垂れ壁55に加えて、給気口4からの給気による気流Fを上昇流とする気流上昇構造を含んでいる。
【0042】
図10、11で示す例においては、この気流上昇構造として傾斜台60を適用した構成となっている。傾斜台60は、給気口4の開口幅W1以上の幅W3と、給気口4の開口高さH1以上の高さH3を備えて、給気口4の開口下端52より上方空間、すなわち上述の垂れ壁55に向けて傾斜した台状の構造物となる。
【0043】
吸気ファンなど適宜な吸気機構を介して給気風道8から給気口4を経て附室2に流入した空気の流れ、すなわち気流Fは、傾斜台60の上昇斜面61に沿ってそのまま上昇し、ついには垂れ壁55や附室2の天井2eに到達して一旦受け止められ、それまでの進行方向を垂れ壁55や附室2の天井2eによって遮られたため、垂れ壁55に沿って下降し、そのまま遮煙開口部3の直上Asから床面2fに向かおうとする下降流Dfを形成することになる。
【0044】
この下降流Dfによって、遮煙開口部3の上部Asに適宜な給気を振り分ける形となり、遮煙開口部3の上下各位置で従来よりも偏りの少ない風速分布を実現し、静圧場を形成して遮煙を行うよりも少ない給気量での遮煙が達成できる。また、上述の垂れ壁55に加えて、一般的な建築資材たる板状部材等を組み合わせるだけで簡易に構成できる傾斜台60を附室2の床面2fに載置するだけで、給気口4の設置位置に対応した加圧防排煙設備10として必要な構造を形成可能であり、加圧防排煙設備10の設置のための過大なコストや手間が不要である。
【0045】
続いて、気流上昇構造の他の形態について説明する。
図12は、本実施形態におけるルーバー構造70(火災時)の詳細構造を示す斜視図である。ここで示すルーバー構造70は、給気口4の開口面4aと略平行で角度調節自在な複数の羽板41から構成されている。ルーバー構造40における各羽板41は、給気口4の開口面4aに立設された回転軸42によってそれぞれ回転自在に固定されており、この回転軸42を中心にして適宜な駆動手段(モータないし人力)により所定角度の回転が可能となっている。また各羽板41の回転は羽板間で同期されており、一斉の回転動作が行われるものとする。
【0046】
こうしたルーバー構造40において、
図13に示すように通常時は、各羽板41の主面が給気開口4aと平行となる角度に羽板41を回転させて給気口4を羽板41で覆っている。この場合、ルーバー構造40と給気口4とほぼ一体をなしており、附室2の床面積を減じる懸念が本来的に存在しない。
【0047】
他方、
図14に示すように、火災時は、上述の駆動手段によって各羽板41を通常時の状態から適宜回転させてルーバー開口43を形成し、給気口4を開口させ(
図12、14の状態)、この給気口4からの給気を可能にする。この場合、給気口4の開口面4aから附室2内に流入してきた気流Fは、各羽板41で一旦受け止められるが、羽板41の回転方向に応じて形成されたルーバー開口43の向き、すなわち垂れ壁55や附室2の天井面2eに向かう上昇方向に導かれ、ついには垂れ壁55や附室2の天井2eに到達して一旦受け止められ、それまでの進行方向を垂れ壁55や附室2の天井2eによって遮られたため、垂れ壁55に沿って下降し、そのまま遮煙開口部3の直上Asから床面2fに向かおうとする下降流Dfを形成することになる。
【0048】
この下降流Dfによって、遮煙開口部3の上部Asに適宜な給気を振り分ける形となり、遮煙開口部3の上下各位置で従来よりも偏りの少ない風速分布を実現し、静圧場を形成して遮煙を行うよりも少ない給気量での遮煙が達成できる。また、上述の垂れ壁55に加えて、一般的な建築資材たるルーバーを給気口4に嵌め込むだけで、給気口4の設置位置に対応した加圧防排煙設備10として必要な構造を形成可能であり、加圧防排煙設備10の設置のための過大なコストや手間が不要である。
【0049】
なお本実施形態においては、構造物として建築物を想定した例について説明を行ったが、これのみに本発明の適用対象は限定されない。ビルやプラント等の建築物の他、トンネル等の各種土木構造物やその付帯施設(例:土木構造物における避難路や待避所など)も本発明の適用対象となる。
【0050】
本実施形態によれば、加圧防排煙設備における余剰分の給気を低減し、効率的で確実な遮煙が可能なる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。