【文献】
新見伸吾,ヒトIgG及びヒト化モノクローナル抗体製剤において様々なストレスにより誘導された凝集体の粒子径及び相,国立医薬品食品衛生研究所報告,日本,2011年12月15日,No.129,Page.55-60
【文献】
SANJEEV KUMAR et al.,Influence of the wetting charactaristics of the impeller on phase inversion,Chemical Engineering Science,英国,1991年,Vol.46 No.9,Page2365-2367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料セル内の試料に光源から測定光を照射し、試料からの回折散乱光を受光部で受光することにより試料中の粒子群の粒度分布を測定するための粒度分布測定装置であって、
前記試料セル内の試料を攪拌する攪拌部材と、
前記攪拌部材を用いて前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより、粒度分布データを取得する粒度分布データ取得処理部と、
粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データを記憶する記憶部と、
それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて、前記試料セル内の試料を各攪拌部材で攪拌しながら粒度分布が測定された場合に、得られた各粒度分布データを各材質に対応付けて前記記憶部に格納する粒度分布データ格納処理部と、
前記試料セル内の試料を攪拌部材で攪拌しながら、所定時間ごとに粒度分布を測定することにより、同一の材質からなる攪拌部材について異なる攪拌時間における粒度分布データを取得するためのデータ取得モードを実行するデータ取得モード実行処理部とを備え、
前記粒度分布データ格納処理部は、前記データ取得モードにより得られた各粒度分布データを同一の材質に対応付けて前記記憶部に格納することを特徴とする粒度分布測定装置。
前記粒度分布データ格納処理部は、同一の材質からなる攪拌部材を用いて、異なる攪拌時間又は攪拌速度で前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布が複数回測定された場合に、各材質について攪拌時間又は攪拌速度が異なる複数の粒度分布データを対応付けて前記記憶部に格納することを特徴とする請求項1に記載の粒度分布測定装置。
試料セル内の試料に光源から測定光を照射し、試料からの回折散乱光を受光部で受光することにより試料中の粒子群の粒度分布を測定するための粒度分布測定装置の制御プログラムであって、
攪拌部材を用いて前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより、粒度分布データを取得する粒度分布データ取得処理部と、
それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて、前記試料セル内の試料を各攪拌部材で攪拌しながら粒度分布が測定された場合に、得られた各粒度分布データを各材質に対応付けて記憶部に格納する粒度分布データ格納処理部と、
前記試料セル内の試料を攪拌部材で攪拌しながら、所定時間ごとに粒度分布を測定することにより、同一の材質からなる攪拌部材について異なる攪拌時間における粒度分布データを取得するためのデータ取得モードを実行するデータ取得モード実行処理部としてコンピュータを機能させ、
前記粒度分布データ格納処理部は、前記データ取得モードにより得られた各粒度分布データを同一の材質に対応付けて前記記憶部に格納することを特徴とする粒度分布測定装置の制御プログラム。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料中の粒子群の粒度分布を測定するために、粒度分布測定装置が用いられている。一般的な粒度分布測定装置であるレーザ回折式粒度分布測定装置では、測定対象となる試料に対してレーザ光を照射し、試料からの回折散乱光を複数の受光素子で受光することにより、各受光素子における受光強度に基づいて、試料中の粒子群の粒度分布を測定することができるようになっている。
【0003】
この種の粒度分布測定装置は、測定可能な粒子径範囲が非常に広く、測定時間も短い上に、再現性にも優れるという特性を有している。そのため、粉体(粒子群)を原料や製品とする食料品及び医薬品などの各種分野において、研究段階にある新規開発品の評価や、製品の品質管理などに粒度分布測定装置が用いられている。また、生化学分野などの他の分野においても、粒子の分散状態又は凝集状態を観察するために粒度分布測定装置が用いられる場合がある。
【0004】
特に、生化学分野におけるバイオ医薬品に関しては、サブビジブル領域(100nm〜10μm)の凝集体SVP(Sub-visible particle)が、アナフィラキシー(anaphylaxis)などの人体に致命的な副作用を及ぼす可能性がある。そのため、粒度分布測定装置を用いて粒度分布を観察することにより、凝集体を管理している。
【0005】
バイオ医薬品の凝集に関しては、輸送時などの機械的刺激により発生する可能性が高い。そこで、試料に機械的刺激を与えて、機械的刺激を与える前後の試料の凝集状態を観察することにより、機械的刺激によって凝集しやすいタンパク質をスクリーニングすることなども行われている。
【0006】
図10は、試料に機械的刺激を与える際の態様について説明するための概略図である。試料は三角フラスコなどの容器101に収容され、当該容器101が振とう台102の載置面103上に載置される。この状態で、振とう台102の載置面103が所定の速度及びストロークで水平方向に繰り返しスライドすることにより、載置面103上の容器101が振とうされ、容器101内の試料が攪拌される。このようにして試料に機械的刺激を与えた後、試料を試料セル内に移し、当該試料セルに対してレーザ光を照射することにより、試料からの回折散乱光の受光強度に基づいて、機械的刺激を与えた後の試料における粒度分布を測定することができる。
【0007】
試料を攪拌して機械的刺激を与える方法としては、上記のような方法の他にも、例えば試料が収容された容器内で撹拌子を回転させる方法(例えば下記特許文献1参照)や、試料が収容された容器内で攪拌板を上下移動させる方法(例えば下記特許文献2参照)などが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本件発明者は、上記のような従来の方法で試料に機械的刺激を与えて粒度分布を測定する際に、試料に接する部材の材質を変更して繰り返し実験を行ったところ、他の条件が同一であっても、材質の相違が測定結果に影響を与えることを発見した。
【0010】
バイオ医薬品などは、指定された材質(例えばガラス)の容器に収容された状態で搬送される場合が多い。また、バイオ医薬品の製造ラインにおいても、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やステンレス鋼などの特定の材質からなる部材が用いられる場合が多い。そこで、本件発明者は、ガラス、PEEK及びステンレス鋼などといった材質の異なる容器内に試料を収容して攪拌することにより、それぞれの試料に機械的刺激を与えた後、それらの試料を試料セル内に移して粒度分布を測定すれば、製造時や搬送時に用いられる部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を観察できると考えるに至った。
【0011】
しかしながら、
図10に例示されるような従来の方法で試料に機械的刺激を与える場合には、各試料を別の容器内で攪拌した後、試料セル内に移し変えて粒度分布を測定することになる。そのため、材質の異なる容器内で試料を攪拌しながら、同一条件下で経時的に粒度分布を測定することができない。本件発明者は、上記特許文献1及び特許文献2に開示されているような方法で、材質の異なる試料セルを用いて経時的に粒度分布を測定することも考えたが、試料セル内へのレーザ光の照射、及び、試料セル内からの回折散乱光の透過の必要性を考慮すると、試料セルの材質を変更して測定を行うことは困難である。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる粒度分布測定方法、並びに、粒度分布測定装置及びその制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る粒度分布測定方法は、試料セル内の試料に光源から測定光を照射し、試料からの回折散乱光を受光部で受光することにより試料中の粒子群の粒度分布を測定するための粒度分布測定方法であって、粒度分布データ取得ステップと、粒度分布データ比較ステップとを含む。前記粒度分布データ取得ステップでは、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて、前記試料セル内の試料を各攪拌部材で攪拌しながら粒度分布を測定することにより、各材質に対応する粒度分布データを取得する。前記粒度分布データ比較ステップでは、前記粒度分布データ取得ステップにより取得された各材質に対応する粒度分布データ同士を比較する。
【0014】
このような構成によれば、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて試料を攪拌しながら粒度分布を測定し、取得された各材質に対応する粒度分布データ同士を比較することにより、攪拌部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を観察することができる。このように、試料セルではなく攪拌部材の材質を変更して粒度分布を測定することにより、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる。
【0015】
前記粒度分布データ取得ステップでは、同一の材質からなる攪拌部材を用いて、異なる攪拌時間又は攪拌速度で前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布を複数回測定することにより、各材質について攪拌時間又は攪拌速度が異なる複数の粒度分布データを取得してもよい。
【0016】
このような構成によれば、各材質について攪拌時間又は攪拌速度が異なる複数の粒度分布データを取得し、それらの粒度分布データ同士を比較することにより、攪拌部材の材質の相違だけでなく、同一の材質についての攪拌時間又は攪拌速度の相違が試料の凝集に与える影響も観察することができる。これにより、機械的刺激による試料の凝集を多面的に観察することができる。
【0017】
本発明に係る粒度分布測定装置は、試料セル内の試料に光源から測定光を照射し、試料からの回折散乱光を受光部で受光することにより試料中の粒子群の粒度分布を測定するための粒度分布測定装置であって、攪拌部材と、粒度分布データ取得処理部と、記憶部と、粒度分布データ格納処理部とを備える。前記攪拌部材は、前記試料セル内の試料を攪拌する。前記粒度分布データ取得処理部は、前記攪拌部材を用いて前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより、粒度分布データを取得する。前記記憶部は、粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データを記憶する。前記粒度分布データ格納処理部は、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて、前記試料セル内の試料を各攪拌部材で攪拌しながら粒度分布が測定された場合に、得られた各粒度分布データを各材質に対応付けて前記記憶部に格納する。
【0018】
このような構成によれば、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データが、各材質に対応付けて記憶部に格納されるため、それらの粒度分布データを用いて、攪拌部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を観察することができる。このように、試料セルではなく攪拌部材の材質を変更して粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データを用いれば、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる。
【0019】
前記粒度分布データ格納処理部は、同一の材質からなる攪拌部材を用いて、異なる攪拌時間又は攪拌速度で前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布が複数回測定された場合に、各材質について攪拌時間又は攪拌速度が異なる複数の粒度分布データを対応付けて前記記憶部に格納してもよい。
【0020】
このような構成によれば、各材質について攪拌時間又は攪拌速度が異なる複数の粒度分布データが記憶部に格納されるため、それらの粒度分布データを用いることにより、攪拌部材の材質の相違だけでなく、同一の材質についての攪拌時間又は攪拌速度の相違が試料の凝集に与える影響も観察することができる。これにより、機械的刺激による試料の凝集を多面的に観察することができる。
【0021】
前記粒度分布測定装置は、表示部と、表示処理部とをさらに備えていてもよい。前記表示処理部は、前記記憶部に記憶されている粒度分布データを各材質に対応付けて前記表示部に表示させる。この場合、前記表示処理部は、各材質に対応する粒度分布データのグラフを共通の表示領域に重ねて表示させてもよい。
【0022】
このような構成によれば、各材質に対応する粒度分布データのグラフが共通の表示領域に重ねて表示されるため、それらの粒度分布データ同士を比較することにより、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響をさらに容易に観察することができる。
【0023】
前記表示処理部は、各材質に対応する粒度分布データに攪拌時間又は攪拌速度を対応付けて表示させてもよい。
【0024】
このような構成によれば、各材質に対応する粒度分布データに攪拌時間又は攪拌速度が対応付けて表示されるため、それらの粒度分布データ同士を比較することにより、機械的刺激による試料の凝集の多面的な観察を容易に行うことができる。
【0025】
前記粒度分布測定装置は、前記試料セル内の試料を攪拌部材で攪拌しながら、所定時間ごとに粒度分布を測定することにより、同一の材質からなる攪拌部材について異なる攪拌時間における粒度分布データを取得するためのデータ取得モードを実行するデータ取得モード実行処理部をさらに備えていてもよい。
【0026】
このような構成によれば、データ取得モードを実行することにより、同一の材質からなる攪拌部材について異なる攪拌時間における粒度分布データを容易に取得することができるため、機械的刺激による試料の凝集の多面的な観察をさらに容易に行うことができる。
【0027】
本発明に係る制御プログラムは、試料セル内の試料に光源から測定光を照射し、試料からの回折散乱光を受光部で受光することにより試料中の粒子群の粒度分布を測定するための粒度分布測定装置の制御プログラムであって、粒度分布データ取得処理部と、粒度分布データ格納処理部としてコンピュータを機能させる。前記粒度分布データ取得処理部は、攪拌部材を用いて前記試料セル内の試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより、粒度分布データを取得する。前記粒度分布データ格納処理部は、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材を用いて、前記試料セル内の試料を各攪拌部材で攪拌しながら粒度分布が測定された場合に、得られた各粒度分布データを各材質に対応付けて記憶部に格納する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、攪拌部材の材質を変更して粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データを用いて、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る粒度分布測定装置の構成例を示した図である。この粒度分布測定装置は、試料中の粒子群の粒度分布を測定するためのものであり、試料の測定を行う測定部1を備えている。
【0031】
測定部1には、光源11、集光レンズ12、空間フィルタ13、コリメータレンズ14、試料セル15、集光レンズ16及びフォトダイオードアレイ17などが備えられている。測定対象となる試料は、例えば回分セルからなる試料セル15内に供給される。
【0032】
光源11は、例えばレーザ光源からなり、当該光源11から発射された測定光が、集光レンズ12、空間フィルタ13及びコリメータレンズ14を通過することにより平行光となる。このようにして平行光とされた測定光は、試料が供給されている試料セル15に照射され、試料セル15内の試料に含まれる粒子群で回折及び散乱した後、集光レンズ16を通ってフォトダイオードアレイ17により受光されるようになっている。
【0033】
フォトダイオードアレイ17は、光源11側から見て試料セル15の前方(光源11側とは反対側)に配置されている。フォトダイオードアレイ17に備えられた複数の受光素子171は、試料セル15内の試料からの回折散乱光(回折光及び散乱光)を受光する受光部を構成している。
【0034】
本実施形態におけるフォトダイオードアレイ17は、互いに異なる半径を有するリング状又は半リング状の検出面が形成された複数(例えば、64個)の受光素子171を、集光レンズ16の光軸を中心として同心円状に配置することにより構成されたリングディテクタであり、各受光素子171には、それぞれの位置に応じた回折散乱角度の光が入射する。したがって、フォトダイオードアレイ17の各受光素子171の検出信号は、各回折散乱角度の光の強度を表すことになる。
【0035】
試料セル15内の試料は、攪拌装置2により攪拌することができる。攪拌装置2には、試料セル15内に挿入される攪拌部材21が備えられている。攪拌部材21は、例えば鉛直方向に延びる攪拌棒211と、攪拌棒211の下端から水平方向に延びる攪拌板212とが一体的に形成されることにより構成されている。攪拌部材21を試料セル15内で鉛直方向に往復移動させることにより、主に攪拌板212で試料を攪拌することができる。
【0036】
フォトダイオードアレイ17の各受光素子171からの検出信号は、A/D変換器3によりアナログ信号からデジタル信号に変換された後、通信部4を介してデータ処理装置5に入力される。データ処理装置5は、試料の粒度分布を測定する際のデータを処理するためのものであり、例えばパーソナルコンピュータにより構成される。このデータ処理装置5は、制御部51、操作部52、表示部53及び記憶部54などを備えている。
【0037】
制御部51は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、操作部52、表示部53及び記憶部54などの各部が電気的に接続されている。操作部52は、例えばキーボード及びマウスを含む構成であり、ユーザが操作部52を操作することにより入力作業などを行うことができるようになっている。
【0038】
表示部53は、例えば液晶表示器などにより構成することができ、ユーザが表示部53の表示内容を確認しながら作業を行うことができるようになっている。記憶部54は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスクなどにより構成することができる。
【0039】
図2は、攪拌装置2の構成例を示した斜視図である。攪拌装置2は、上述の攪拌部材21の他に、例えばカム(図示せず)などを含む駆動機構22と、駆動機構22により鉛直方向(
図2の矢印方向)に往復移動される駆動軸23と、駆動軸23及び攪拌部材21を連結するアーム24とが備えられている。
【0040】
試料セル15の上面には開口部151が形成されており、当該開口部151に対して上方から攪拌部材21が挿入される。攪拌部材21の攪拌棒211は、試料セル15内における側方に位置しており、光源11から試料セル15内に照射される測定光の光路からずらして配置されている。
【0041】
攪拌板212は、その表面が試料セル15の底面に対して平行に延びている。駆動機構22により駆動軸23が鉛直方向に往復移動されると、当該駆動軸23にアーム24を介して連結された攪拌部材21が、攪拌棒211の軸線に沿って鉛直方向に往復移動される。これにより、攪拌板212が、その表面に対して直交方向に所定の幅(攪拌ストローク)で往復移動し、試料セル15内の試料が攪拌される。
【0042】
攪拌部材21は、駆動軸23及びアーム24と一体的に、駆動機構22に対して着脱可能となっている。これにより、同一形状で異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21を駆動軸23及びアーム24とともに準備し、駆動機構22に対して付け替えることができるようになっている。すなわち、本実施形態では、異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21の中からいずれかを選択し、駆動軸23及びアーム24を介して駆動機構22に取り付けるとともに、その攪拌部材21を試料セル15内に挿入した状態で駆動機構22を駆動することにより、任意の材料からなる攪拌部材21で試料を攪拌することができる。
【0043】
図3は、
図1の制御部51の具体的構成について説明するためのブロック図である。本実施形態における制御部51は、CPUがプログラムを実行することにより、粒度分布データ取得処理部511、粒度分布データ格納処理部512、データ取得モード実行処理部513及び表示処理部514などとして機能する。
【0044】
粒度分布データ取得処理部511は、攪拌装置2を駆動することにより試料セル15内の試料を攪拌部材21で攪拌しながら、測定部1で粒度分布を測定することにより、測定部1の各受光素子171の検出信号に基づいて粒度分布データを取得する。粒度分布データは、各受光素子171の検出信号(受光強度)からフラウンホーファ回折理論やミー散乱理論に基づいて生成される。
【0045】
粒度分布データ格納処理部512は、測定部1で粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データを記憶部54に格納する処理を行う。本実施形態では、粒度分布データ取得処理部511の処理により得られた粒度分布データが、測定時に使用した攪拌部材21の材質や、攪拌部材21による攪拌時間、攪拌速度及び攪拌ストロークといった攪拌パラメータに対応付けて記憶部54に格納される。
【0046】
上記攪拌パラメータは、例えばユーザが操作部52を操作することにより、測定前に予め入力することができる。入力できる攪拌速度の最大値は、例えば195回/minであり、攪拌ストロークの最大値は、例えば8mmである。ただし、攪拌パラメータの最大値は、これらの数値に限られるものではない。
【0047】
攪拌部材21を付け替えた場合には、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21を用いて、試料セル15内の試料を各攪拌部材21で攪拌しながら粒度分布を測定することができる。このような場合には、各材質に対応する粒度分布データが取得され、粒度分布データ格納処理部512の処理により、得られた各粒度分布データが各材質に対応付けて記憶部54に格納されることとなる。
【0048】
このように、本実施形態では、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21を用いて試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データが、各材質に対応付けて記憶部54に格納されるため、それらの粒度分布データを用いて、攪拌部材21の材質の相違が試料の凝集に与える影響を観察することができる。このように、試料セル15ではなく攪拌部材21の材質を変更して粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データを用いれば、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる。
【0049】
データ取得モード実行処理部513は、ユーザが操作部52を操作することによりデータ取得モードが選択された場合に、複数の粒度分布データを取得するためのモードを実行する。具体的には、データ取得モード実行処理部513による処理に基づいて、粒度分布データ取得処理部が試料セル15内の試料を攪拌部材21で攪拌しながら、所定時間ごとに粒度分布を測定することにより、複数の粒度分布データが取得される。これにより、同一の材質からなる攪拌部材21について異なる攪拌時間における粒度分布データが取得され、得られた各粒度分布データが同一の材質に対応付けて記憶部54に格納される。上記所定時間は、ユーザが操作部52を操作することにより任意に設定することができる。
【0050】
このように、同一の材質からなる攪拌部材21を用いて、異なる攪拌時間で試料セル15内の試料を攪拌しながら粒度分布が複数回測定された場合、粒度分布データ格納処理部512は、各材質について攪拌時間が異なる複数の粒度分布データを対応付けて記憶部54に格納する。本実施形態では、上記のようなデータ取得モードだけでなく、ユーザが操作部52を操作して攪拌時間を設定することにより、異なる攪拌時間で試料セル15内の試料を攪拌しながら粒度分布を測定することもできる。
【0051】
また、攪拌時間だけでなく、ユーザは操作部52を操作して攪拌速度や攪拌ストロークを設定することにより、異なる攪拌速度又は攪拌ストロークで試料セル15内の試料を攪拌しながら粒度分布を複数回測定することができる。この場合、粒度分布データ格納処理部512は、各材質について攪拌速度又は攪拌ストロークが異なる複数の粒度分布データを対応付けて記憶部54に格納することとなる。
【0052】
このように、本実施形態では、各材質について攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークが異なる複数の粒度分布データが記憶部54に格納されるため、それらの粒度分布データを用いることにより、攪拌部材21の材質の相違だけでなく、同一の材質についての攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークの相違が試料の凝集に与える影響も観察することができる。これにより、機械的刺激による試料の凝集を多面的に観察することができる。
【0053】
特に、本実施形態では、データ取得モードを実行することにより、同一の材質からなる攪拌部材21について異なる攪拌時間における粒度分布データを容易に取得することができるため、機械的刺激による試料の凝集の多面的な観察をさらに容易に行うことができる。
【0054】
表示処理部514は、記憶部54に記憶されている粒度分布データを表示部53に表示させる処理を行う。本実施形態では、表示処理部514が、粒度分布データを攪拌パラメータ(材質、攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストローク)に対応付けて表示部53に表示させることができるようになっている。
【0055】
図4は、本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法を示したフローチャートである。ユーザは、まず、異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21の中からいずれかを選択し、その攪拌部材21を攪拌装置2に取り付ける(ステップS101:攪拌部材取付ステップ)。そして、ユーザは、選択した攪拌部材21の材質の他、攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークなどを操作部52で入力することにより、攪拌パラメータの設定を行う(ステップS102:攪拌パラメータ設定ステップ)。
【0056】
その後、攪拌装置2を駆動することにより試料セル15内の試料の攪拌を開始させ(ステップS103:試料攪拌ステップ)、試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより粒度分布データを取得する(ステップS104:粒度分布データ取得ステップ)。得られた粒度分布データは、攪拌パラメータに対応付けて記憶部54に格納される(ステップS105:粒度分布データ格納ステップ)。
【0057】
材質の異なる攪拌部材21に付け替えて上記のような処理を繰り返し行えば、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21を用いて、試料セル15内の試料を各攪拌部材21で攪拌しながら粒度分布を測定することができる。この場合、上記粒度分布データ取得ステップにより、各材質に対応する粒度分布データを取得することができる。
【0058】
また、攪拌パラメータの設定を変更して上記のような処理を繰り返し行えば、同一の材質からなる攪拌部材21を用いて、異なる攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークで試料セル15内の試料を攪拌しながら粒度分布を複数回測定することができる。この場合、上記粒度分布データ取得ステップにより、各材質について攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークが異なる複数の粒度分布データを取得することができる。
【0059】
図5は、測定された粒度分布データを観察する際の流れを示したフローチャートである。測定された粒度分布データを観察する際には、ユーザが操作部52を用いて表示モードを選択する操作を行うことにより、表示部53に粒度分布データをグラフで表示させることができる。
【0060】
本実施形態では、上記表示モードの一例として、各粒度分布データを個別に表示させる個別表示モード、又は、複数の粒度分布データを比較可能な状態で表示させる比較表示モードを選択することができるようになっている。ただし、上記表示モードは、個別表示モード及び比較表示モードに限らず、例えば粒度分布データの統計を表示させる統計表示モード、粒度分布データを時系列で表示させる時系列表示モード、又は、粒度分布データを三次元で表示させる三次元表示モードなど、他の表示モードを含むものであってもよい。
【0061】
個別表示モードが選択された場合には(ステップS201でYes)、ユーザが操作部52を操作することにより指定された1つの粒度分布データが、表示部53にグラフで表示される(ステップS202)。ユーザは、表示部53に表示されたグラフを確認することにより、粒度分布データを観察することができる(ステップS203)。
【0062】
一方、比較表示モードが選択された場合には(ステップS204でYes)、ユーザが操作部52を操作することにより指定された複数の粒度分布データが、表示部53に重ねてグラフで表示される(ステップS205)。ユーザは、表示部53に重ねて表示されたグラフを確認することにより、各粒度分布データを観察することができるだけでなく、粒度分布同士を比較することができる(ステップS206:粒度分布データ比較ステップ)。
【0063】
このとき、指定された複数の粒度分布データが、例えば異なる材質からなる攪拌部材21を用いて試料を攪拌しながら粒度分布を測定することにより得られた粒度分布データである場合には、各材質に対応する粒度分布データ同士を比較することができる。このように、それぞれ異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21を用いて試料を攪拌しながら粒度分布を測定し、取得された各材質に対応する粒度分布データ同士を比較することにより、攪拌部材21の材質の相違が試料の凝集に与える影響を観察することができる。
【0064】
ただし、複数の粒度分布データをユーザが指定するような構成に限らず、例えば攪拌部材21の材質、攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークなどの攪拌パラメータの少なくとも1つをユーザが指定するような構成であってもよい。この場合、指定された攪拌パラメータに対応する複数の粒度分布データが記憶部54から自動的に読み出されて、それらの粒度分布データが表示部53に重ねてグラフで表示されるような構成であってもよい。
【0065】
図6は、個別表示モードの表示例を示した図である。表示部53の表示画面531には、例えばグラフ表示領域532及びチャート表示領域533が含まれる。また、個別表示モードの表示画面531においては、グラフ表示領域532及びチャート表示領域533に加えて、攪拌パラメータ表示領域534も設けられている。
【0066】
グラフ表示領域532には、指定された1つの粒度分布データについて、例えば各粒子の粒子径を横軸とし、各粒子の濃度を縦軸とするグラフが表示される。この例では、各粒子の濃度の積算値が曲線グラフ532aで表されるとともに、各粒子の濃度の頻度が棒グラフ532bで表されている。チャート表示領域533には、指定された1つの粒度分布データについて、例えば各粒子径に対応する積算値及び差分値が数値で表示される。
【0067】
攪拌パラメータ表示領域534には、指定された1つの粒度分布データについて、その粒度分布データを取得したときの攪拌パラメータが表示される。この例では、攪拌パラメータとして、攪拌時間、攪拌速度、攪拌ストローク及び攪拌部材21の材質が攪拌パラメータ表示領域534に表示されているが、これに限らず、これらのパラメータの少なくとも1つが表示されなくてもよいし、他のパラメータが表示されてもよい。
【0068】
図7は、比較表示モードの表示例を示した図である。この例では、攪拌部材21の材質が異なり、他の攪拌パラメータ(攪拌時間、攪拌速度及び攪拌ストローク)が同一である複数の粒度分布データが指定されている。
図7では、攪拌部材21の材質として、ガラス、ステンレス鋼(SUS316)及びニッケル(Ni)が例示されているが、PEEKなどの他の材質からなる攪拌部材21が用いられてもよい。
【0069】
グラフ表示領域532には、指定された複数の粒度分布データについて、各粒子の濃度の積算値が曲線グラフ532aで表されるとともに、各粒子の濃度の頻度が曲線グラフ532cで表される。各グラフは、線の色を変えるなどして、互いに区別できるようになっている。これにより、各材質に対応する粒度分布データのグラフ(曲線グラフ532a又は曲線グラフ532c)が共通のグラフ表示領域532に重ねて表示されるため、それらの粒度分布データ同士を比較することにより、試料に接する部材の材質の相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる。
【0070】
また、チャート表示領域533には、指定された複数の粒度分布データについて、それらの粒度分布データを取得したときの攪拌時間、攪拌速度、攪拌ストローク及び攪拌部材21の材質といった攪拌パラメータや、その他の情報が表示される。これにより、グラフ表示領域532に表示された各材質に対応する粒度分布データに、攪拌時間、攪拌速度及び攪拌ストロークが対応付けて表示されるため、それらの粒度分布データ同士を比較することにより、機械的刺激による試料の凝集の多面的な観察を容易に行うことができる。
【0071】
ただし、チャート表示領域533には、攪拌時間、攪拌速度、攪拌ストローク及び攪拌部材21の材質が表示されるような構成に限らず、これらのパラメータの少なくとも1つが表示されなくてもよいし、他のパラメータが表示されてもよい。
【0072】
図8は、比較表示モードの他の表示例を示した図である。この例では、攪拌部材21の材質が同一(例えばガラス)であり、他の攪拌パラメータ(攪拌時間、攪拌速度及び攪拌ストローク)の少なくとも1つが異なる複数の粒度分布データが指定されている。
図8では、攪拌時間が異なる複数の粒度分布データが指定された場合が例示されているが、攪拌速度又は攪拌ストロークなどの他の攪拌パラメータが異なる複数の粒度分布データが指定されてもよい。
【0073】
グラフ表示領域532には、指定された複数の粒度分布データについて、各粒子の濃度の積算値が曲線グラフ532aで表されるとともに、各粒子の濃度の頻度が曲線グラフ532cで表される。各グラフは、線の色を変えるなどして、互いに区別できるようになっている。これにより、同一の材質に対応する粒度分布データのグラフ(曲線グラフ532a又は曲線グラフ532c)が共通の縦軸及び横軸を有するグラフ表示領域532に重ねて表示されるため、それらの粒度分布データ同士を比較することにより、材質以外の攪拌パラメータの相違が試料の凝集に与える影響を容易に観察することができる。
【0074】
また、チャート表示領域533には、
図7の場合と同様に、指定された複数の粒度分布データについて、それらの粒度分布データを取得したときの攪拌時間、攪拌速度、攪拌ストローク及び攪拌部材21の材質といった攪拌パラメータや、その他の情報が表示される。ただし、チャート表示領域533には、攪拌時間、攪拌速度、攪拌ストローク及び攪拌部材21の材質が表示されるような構成に限らず、これらのパラメータの少なくとも1つが表示されなくてもよいし、他のパラメータが表示されてもよい。
【0075】
図9は、データ取得モードで粒度分布データを取得する際の流れを示したフローチャートである。データ取得モードでは、ユーザが、まず、異なる材質からなる複数種類の攪拌部材21の中からいずれかを選択し、その攪拌部材21を攪拌装置2に取り付ける(ステップS301:攪拌部材取付ステップ)。そして、ユーザは、選択した攪拌部材21の材質の他、攪拌時間、攪拌速度又は攪拌ストロークなどを操作部52で入力することにより、攪拌パラメータの設定を行う(ステップS302:攪拌パラメータ設定ステップ)。
【0076】
その後、攪拌装置2を駆動することにより試料セル15内の試料の攪拌を開始させ(ステップS303:試料攪拌ステップ)、試料を攪拌しながら、予め設定された所定時間が経過する度に(ステップS304でYes)、粒度分布を測定することにより粒度分布データを取得する(ステップS305:粒度分布データ取得ステップ)。得られた粒度分布データは、攪拌パラメータに対応付けて記憶部54に格納される(ステップS306:粒度分布データ格納ステップ)。
【0077】
データ取得モードが終了するまで(ステップS307でYesとなるまで)、上記のようなステップS304〜S307の処理を繰り返し行うことにより、同一の材質からなる攪拌部材21について異なる攪拌時間における粒度分布データを取得することができる。
【0078】
以上の実施形態では、グラフ表示領域532に、各粒子の濃度の積算値及び頻度の両方がグラフで表示されるような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、各粒子の濃度の積算値又は頻度の一方のみが、グラフ表示領域532にグラフで表示されるような構成であってもよい。また、グラフの表示態様は、棒グラフや曲線グラフなどに限らず、他の任意の表示態様を用いることができる。
【0079】
材質の異なる複数種類の攪拌部材21は、ユーザが手動で攪拌装置2に対して付け替えるような構成に限らず、例えば複数種類の攪拌部材21が攪拌装置2に予め備えられており、それらの攪拌部材21のいずれかが選択されることにより、自動で試料セル15内に挿入されるような構成であってもよい。
【0080】
攪拌部材21の形状は、上記実施形態のような形状に限らず、他の形状であってもよい。また、攪拌部材21は、鉛直方向に往復移動するような構成に限らず、例えば撹拌子などのように、他の態様で試料を攪拌するような構成であってもよい。さらに、攪拌部材21の材質の全体を異ならせて各攪拌部材21を用いた粒度分布データを取得するのではなく、攪拌部材1の少なくとも一部(例えば攪拌板212など)の材質が異なっていればよい。
【0081】
以上の実施形態では、粒度分布測定装置の処理により、本発明に係る粒度分布測定方法が行われるような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、粒度分布測定方法の各ステップがユーザにより手動で行われてもよい。
【0082】
また、上述のような粒度分布測定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム(制御プログラム)を提供することも可能である。この場合、前記プログラムは、記憶媒体に記憶された状態で提供されるような構成であってもよいし、プログラム自体が提供されるような構成であってもよい。