(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明を適用した第1の実施形態について、
図1〜
図13を参照して説明する。本実施形態では、冷却装置として機能する運転モードで運転可能な化学蓄熱システム10を車両用空調装置1に適用している。
図1に示すように、車両用空調装置1は、空調ユニット2と、空調ユニット2の構成機器を作動制御する空調制御装置100とを備えている。以下、制御手段である空調制御装置100を空調ECU100と呼ぶ場合がある。
【0012】
空調ユニット2は、例えば、大型車両のキャビンの天井部の上面に配置される。空調ユニット2は、空調ダクト60を有している。空調ダクト60は、例えば、ある程度の弾性を有して強度的に優れた樹脂の成形品でなっている。
【0013】
空調ダクト60には、内部の空気通路に空気流れを発生させる遠心式のブロワ70が設けられている。ブロワ70は空調ECU100により作動制御され、駆動用モータに印加されるブロワ電圧に基づいて所定の回転数で回転するようになっている。ブロワ70の作動により、空調ダクト60内には、吸込口71から吹出口72や排出口73へ向かう空気流れが形成される。
【0014】
ブロワ70の空気流れ上流側の吸込口71には、図示を省略した内外気切替箱が設けられている。内外気切替箱には、車室外の空気である外気を導入する外気導入口と、車室内の空気である内気を導入する内気導入口とが形成されている。また内外気切替箱には、吸込口モードに基づいて外気又は内気を切替導入するために、外気導入口及び内気導入口を開閉する内外気切替ドアが設けられている。内外気切替ドアは、空調ECU100により作動制御されるようになっている。
【0015】
空調ダクト60には、ブロワ70の空気流れ下流側に仕切壁63が設けられている。仕切壁63は、ブロワ70よりも下流側の空気通路を、第1通路部61と、第2通路部62とに区画している。第1通路部61には、化学蓄熱システム10の熱交換器30が配設されている。熱交換器30は、凝縮器もしくは蒸発器として機能する多機能熱交換器である。一方、第2通路部62には、化学蓄熱システム10の反応器20が配設されている。
【0016】
仕切壁63の空気流れ上流端部には、第1開閉ドア81が設けられている。第1開閉ドア81は、第1通路部61へ空気流入口である第1流入口61a、および、第2通路部62への空気流入口である第2流入口62aの開度を調節する。
【0017】
仕切壁63には、空気流れ方向における中間部に中間部連通口63aが設けられている。中間部連通口63aは、第1通路部61の熱交換器30よりも空気流れ下流側と、第2通路部62の反応器20よりも空気流れ上流側とを連通可能に設けられている。空調ダクト60内には、中間部連通口63aを開閉可能な第2開閉ドア82が設けられている。第2開閉ドア82は、中間部連通口63aと、第1通路部61のうち中間部連通口63a形成部位よりも空気流れ下流側とを選択的に開閉する。第2開閉ドア82は、熱交換器30から流出した空気を中間部連通口63aから第2通路部62へ流入させるモードと、熱交換器30から流出した空気をそのまま第1通路部61に流通させるモードとに選択的に切り替える。
【0018】
仕切壁63には、空気流れ方向における下流部に下流部連通口63bが設けられている。下流部連通口63bは、第1通路部61の中間部連通口63a形成部位よりも空気流れ下流側と、第2通路部62の反応器20よりも空気流れ下流側とを連通可能に設けられている。空調ダクト60内には、下流部連通口63bを開閉可能な第3開閉ドア83が設けられている。第3開閉ドア83は、下流部連通口63bと、吹出口72とを開閉する。第3開閉ドア83は、下流部連通口63bを閉じて吹出口72を開くモードと、下流部連通口63bを開いて吹出口72を閉じるモードと、下流部連通口63bおよび吹出口72の両者を開くモードとを選択的に切り替える。
【0019】
空調ダクト60には、排出口73を開閉する第4開閉ドア84が設けられている。第4開閉ドア84は、排出口73を開くモードと、排出口73を開くモードとを選択的に切り替える。第4開閉ドア84は、空調ダクト60内を流通する空気を、車室外へ排出させるモードと、車室外への排出を行なわないモードとを選択的に切り替える。
【0020】
第1開閉ドア81、第2開閉ドア82、第3開閉ドア83および第4開閉ドア84は、空調ダクト60内の空気流通モードを切り替える空気流通モード切替手段を構成するものである。第1〜第4開閉ドア81〜84は、リンク機構等を介して、空気流通モードドア
駆動用の電動アクチュエータに連結されて連動して回転操作される。なお、この空気流通モードドア駆動用の電動アクチュエータは、空調ECU100から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0021】
空調ダクト60の空気流れ最下流部の吹出口72には、図示を省略しているが、送風空気を空調対象空間である車室内へ吹き出すための複数の開口が設けられている。この開口としては、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ開口部、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス開口部、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット開口部が設けられている。これらの開口部の空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成する接続ダクトを介して、車室内に設けられたセンターフェイス吹出口、サイドフェイス吹出口等からなるフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口に接続されている。
【0022】
デフロスタ開口部、フェイス開口部およびフット開口部の空気流れ上流側には、それぞれ、デフロスタドア、フェイスドア、フットドアが配置されている。デフロスタドアは、デフロスタ開口部の開口面積を調整する。フェイスドアは、フェイス開口部の開口面積を調整する。フットドアは、フット開口部の開口面積を調整する。
【0023】
フェイスドア、デフロスタドアおよびフットドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、リンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータに連結されて連動して回転操作される。なお、この吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータも、空調ECU100から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0024】
吹出口モード切替手段によって切り替えられる吹出口モードとしては、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード、およびフットデフロスタモードがある。フェイスモードは、センターフェイス吹出口等から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す。バイレベルモードは、センターフェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す。フットモードは、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す。フットデフロスタモードは、フット吹出口及びデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口及びデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出す。
【0025】
さらに、乗員が操作パネルに設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0026】
化学蓄熱システム10は、弁装置12、反応器20、熱交換器30、水タンク40、流量調節器41、水タンク50、開閉弁51等を備えている。
【0027】
反応器20は、反応容器21と化学蓄熱材22とを有している。反応容器21は、例えば金属製の容器体であり、内部に化学蓄熱材22を収容している。化学蓄熱材22は、例えば、物理吸着材とともに反応容器21内に収容することができる。化学蓄熱材22は、吸熱した際に反応媒体が脱離する脱離反応して蓄熱するとともに、気相の反応媒体が固定化される固定化反応に伴って放熱する。脱離反応は、反応媒体が化学蓄熱材から脱離する化学的脱離反応と呼ぶことができる。また、固定化反応は、反応媒体が化学蓄熱材に付加する化学的付加反応と呼ぶことができる。また、固定化反応は、気相の反応媒体が化学蓄熱材に化学的に吸着される化学的吸着反応と呼ぶこともできる。
【0028】
本実施形態では、例えば、化学蓄熱材22としてアルカリ土類金属の水酸化物の1つである水酸化カルシウムを用い、反応媒体として水を用いることができる。したがって、吸熱したときには、下記式(1)の水酸化カルシウムの脱水反応により蓄熱する。
Ca(OH)
2+109kJ→CaO+H
2O(Gas)・・・(1)
【0029】
また、下記式(2)の酸化カルシウムの水和反応によって水酸化カルシウムに復原することにより、発熱が起こり化学蓄熱材22から放熱される。
CaO+H
2O(Gas)→Ca(OH)
2+109kJ・・・(2)
【0030】
反応容器21には、容器体内部とは隔絶された容器体の外部となる部分に空気通路23が形成されている。空気通路23は、互いに連通する複数の化学蓄熱材22収容部の間に形成されている。また、反応容器21の容器体の外部となる部分には、化学蓄熱材22を加熱する加熱手段である電気ヒータ24が配設されている。電気ヒータ24は空気通路23に隣接して配置され、反応容器21の外面に密着している。
【0031】
加熱手段は、電気ヒータに限定されず、他のヒータであってもよい。また、車両に搭載された内燃機関が排出する排ガスの熱を利用する加熱手段であってもよい。
【0032】
図4に示すように、熱交換器30は、容器31と熱交換部32とを有している。容器31および熱交換部32は、いずれも、例えば金属製である。熱交換部32は、複数の扁平チューブ33と扁平チューブ33内に配設されたフィン34とを有している。複数の扁平チューブ33は、互いに間隔を空けて積層され、それぞれの扁平チューブ33が容器31を
図4紙面表裏方向に延びて貫通するように配置されている。熱交換部32は、本実施形態における熱交換部材に相当する。
【0033】
したがって、扁平チューブ33の内部空間は、容器31の外部と連通しており、
図4紙面表裏方向に延びる空気通路を形成している。扁平チューブ33内の空気通路は、容器31の内部とは隔絶されており、
図1に示すブロワ70により送風され第1流入口61aから流入し第1通路部61を流れる空気が流れる。フィン34は、例えばコルゲートフィンであり、ろう付け等により扁平チューブ33に接合されている。扁平チューブ33とフィン34とは熱的に接続されている。
【0034】
熱交換器30は、容器31内の水と扁平チューブ33内を流れる空気との熱交換により水の凝縮もしくは蒸発を行なう。容器31内の水蒸気が扁平チューブ33内を流れる空気に放熱して液相の水となる場合には、熱交換器30は凝縮器として機能する。容器31内の水蒸気は、下記式(3)のように凝縮潜熱を空気に放熱する。
H
2O(Gas)→H
2O(Liq)+44kJ・・・(3)
【0035】
容器31内の液相の水が扁平チューブ33内を流れる空気から吸熱して水蒸気となる場合には、熱交換器30は蒸発器として機能する。容器31内の水は、下記式(4)のように蒸発潜熱を空気から吸熱する。
H
2O(Liq)→H
2O(Gas)−44kJ・・・(4)
【0036】
図1および
図4に示すように、反応容器21と容器31とは水蒸気配管11で接続されている。水蒸気配管11により、反応容器21の内部と容器31の内部とは連通可能となっている。弁装置12は、水蒸気配管11の内部に形成される水蒸気通路の通路断面積を調節する。弁装置12は、水蒸気配管11を介して反応容器21内部と容器31内部との間を移動する水蒸気量を調節する。弁装置12は、空調ECU100から出力される制御信号によって、その開度が制御される。
【0037】
水蒸気配管11の容器31側の開口端部は、容器31の上部に開口している。図示例では、水蒸気配管11の容器31側の開口端部は、容器31の天井部に開口している。
【0038】
図1および
図4に示すように、熱交換器30の容器31の下部には、供給用の水配管14を介して水タンク40が接続している。図示例では、水配管14の容器31側の開口端部は、容器31の底部に開口している。
【0039】
水タンク40は、内部に容器31内へ供給するための水を貯留する。水配管14には、供給用の水タンク40内から容器31内へ供給される水の量を調節する流量調節器41が設けられている。流量調節器41は、空調ECU100から出力される制御信号によって、その水供給作動が制御される。また、流量調節器41は、水配管14を介して水タンク40内から容器31内へ供給した水量に関する情報を出力する。流量調節器41には、例えば、マスフローコントローラを用いることができる。流量調節器41は、本実施形態における供給液量調節手段であり、液位調節手段に相当する。
【0040】
図4では図示を省略しているが、
図1に示すように、熱交換器30の容器31の下部には、排水用の水配管15を介して水タンク50が接続している。図示例では、水配管15の容器31側の開口端部は、容器31の底部に開口している。
【0041】
水タンク50は、容器31内で凝縮して復水した水を貯留する。水配管15には、容器31内から排水用の水タンク50内へ送られる水の通路を開閉する開閉弁51が設けられている。開閉弁51は、空調ECU100から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0042】
本実施形態では、供給用の水タンク40と排水用の水タンク50とを別に設けているが、水配管14及び水配管15の水流通方向を規制する手段を設けたり、共通の水配管を用いても流通方向を制御する手段を設けたりすれば、水タンクを1つにしてもかまわない。
【0043】
容器31の上部には、容器31の内部の圧力を検出する圧力検出手段である圧力センサ35が設けられている。本実施形態では、圧力センサ35は、容器31の天井部に設けられ、常時容器31内の水蒸気の圧力を検出するようになっている。圧力センサ35は検出した圧力情報を空調ECU100へ出力する。
【0044】
圧力センサ35は、容器31内の第2高さ位置H2よりも高い部位、および、水蒸気配管11内の弁装置12よりも容器31側の部位のいずれかの圧力を検出するように設けることが好ましい。
【0045】
空調ダクト60内には、流入温センサ36および流出温センサ37が設けられている。流入温センサ36は、熱交換器30の熱交換部32へ流入する空気の温度を検出する。流入温センサ36は、熱交換器30の扁平チューブ33へ流入する直前の空気の温度を検出する。また、流出温センサ37は、熱交換器30の熱交換部32から流出する空気の温度を検出する。流出温センサ37は、熱交換器30の扁平チューブ33から流出した直後の空気の温度を検出する。流出温センサ37は、フィン34に取り付けられるフィン温度センサであってもよい。流入温センサ36および流出温センサ37の両温度検出手段は、いずれも、検出した温度情報を空調ECU100へ出力する。
【0046】
空調ECU100は、CPU、ROM、RAM等を備えている。空調ECU100は、マイクロコンピュータ、入力回路、出力回路等を有している。マイクロコンピュータは、種々の演算処理を行う。入力回路は、各種センサ等から入力された信号をA/D変換してマイクロコンピュータに出力する。出力回路は、マイクロコンピュータからの制御信号を出力信号仕様に変換して各制御機器に出力する。
【0047】
空調ECU100には、例えば車室内の計器盤近傍に設けられたコントロールパネルの各種スイッチからのスイッチ信号、及び各種センサからの検出信号等が入力される。また、例えば車両を制御する車両制御手段から、車両の速度に関する情報等も入力する。空調ECU100は、入力された各種信号や情報等に基づいて、弁装置12、電気ヒータ24、流量調節器41、開閉弁51、ブロワ70、各開閉ドア81〜84等を作動制御するようになっている。空調ECU100は、入力情報等に基づいて、内外気モード設定制御、吹出口モード設定制御、風量設定制御、空気流通モード設定制御、化学蓄熱システム運転モード設定制御等を行なう。
【0048】
空調ECU100は、車両に余剰のエネルギーがある場合には、化学蓄熱システム10の化学蓄熱材22に蓄熱する蓄熱運転を行なうことができる。また、空調ECU100は、入力された各種信号や情報等に基づいて、車室内の空調が必要であると判断した場合には、化学蓄熱システム10に蓄えたエネルギーを利用して、冷房運転や暖房運転を行なうことができる。空調ECU100は、車両用空調装置1を、蓄熱運転モード、冷房運転モード、および、暖房運転モードに設定切り替えすることができる。
【0049】
空調ECU100は、例えば、車両が所定速度以上の高速走行を行なっているときには、オルタネータにおける余剰発電電力を利用して、化学蓄熱システム10に蓄熱する蓄熱運転を行なう。蓄熱運転時には、
図2に示すように、各開閉ドア81〜84の位置を設定する。
【0050】
第1開閉ドア81は、第1流入口61aを全開とし、第2流入口62aを閉塞する。第2開閉ドア82は、中間部連通口63aを閉塞し、第1通路部61の中間部連通口63a形成部位よりも空気流れ下流側を全開とする。第3開閉ドア83は、下流部連通口63bを開いて吹出口72を閉塞する。第4開閉ドア84は、排出口73を開く。
【0051】
これにより、空調ダクト60内には、
図2に白抜き矢印で示すように空気が流通する。このとき、ブロワ70を作動させて送風を行なってもよいが、車両が高速走行を行なっているので、ブロワ70を停止していてもラム圧により空調ダクト60内に空気が流れる。
【0052】
また、空調ECU100は、弁装置12を開状態とするとともに、開閉弁51も開状態とする。そして、空調ECU100は、反応器20の電気ヒータ24に通電して化学蓄熱材22を加熱する。このとき、第2通路部62には、空気流れが形成されていないので、化学蓄熱材22を効率よく加熱することができる。電気ヒータ24の加熱により、反応容器21内では、上記した式(1)のように水酸化カルシウムが脱水反応して化学蓄熱する。
【0053】
脱水反応に伴い反応容器21内で発生した水蒸気は、水蒸気配管11内を流通して熱交換器30の容器31内へ導入される。容器31内へ導入された水蒸気は、第1通路部61を流れる空気により冷却されて、上記の式(3)のように凝縮して液相の水となる。このとき、熱交換器30は、凝縮器として機能している。熱交換器30により凝縮した水は、水配管15を介して水タンク50内へ回収される。
【0054】
空調ECU100は、車室内を冷房する必要がある場合には、吹出口72から車室内へ冷風を吹き出す冷房運転を行なう。冷房運転時には、
図1に示すように、各開閉ドア81〜84の位置を設定する。
【0055】
第1開閉ドア81は、第1流入口61aおよび第2流入口62aを共に開く。第2開閉ドア82は、中間部連通口63aを閉塞し、第1通路部61の中間部連通口63a形成部位よりも空気流れ下流側を全開とする。第3開閉ドア83は、下流部連通口63bを閉塞して吹出口72を開く。第4開閉ドア84は、排出口73を開く。
【0056】
これにより、空調ダクト60内には、
図1に白抜き矢印で示すように空気が流通する。このとき、ブロワ70が作動されて空調ダクト60内に送風が行なわれる。
【0057】
反応容器21内では、上記した式(2)の酸化カルシウムの水和反応によって水酸化カルシウムに復原することにより、発熱が起こり化学蓄熱材22から放熱される。化学蓄熱材22からの熱量は、第2通路部62を流れる空気に放熱され、排出口73から車室外に放出される。
【0058】
このとき、空調ECU100は、弁装置12を開状態としている。水和反応に伴い反応容器21内で必要となる水蒸気は、水蒸気配管11内を介して熱交換器30の容器31内から供給される。容器31内では液相の水が第1通路部61を流れる空気から吸熱して蒸発して水蒸気となる。容器31内の水は、上記の式(4)のように蒸発潜熱を空気から吸熱する。これにより、第1通路部61を流れ熱交換器30で冷却された空気は、吹出口72から車室内へ吹き出す。このとき、熱交換器30は、蒸発器として機能している。
【0059】
また、このとき、空調ECU100は、開閉弁51は閉状態とするとともに、流量調節器41を作動している。熱交換器30での水の蒸発により不足した分の液相の水は、水配管14を介して水タンク40内から供給される。空調ECU100は、弁装置12の開度制御および流量調節器41の作動制御を行なう。これらの制御については、後で詳述する。
【0060】
空調ECU100は、車室内を暖房する必要がある場合には、吹出口72から車室内へ温風を吹き出す暖房運転を行なう。暖房運転時には、
図3に示すように、各開閉ドア81〜84の位置を設定する。
【0061】
第1開閉ドア81は、第1流入口61aを全開とし、第2流入口62aを閉塞する。第2開閉ドア82は、中間部連通口63aを全開とし、第1通路部61の中間部連通口63a形成部位よりも空気流れ下流側を閉塞する。第3開閉ドア83は、下流部連通口63bおよび吹出口72の両者を開く。第4開閉ドア84は、排出口73を閉塞する。
【0062】
これにより、空調ダクト60内には、
図3に白抜き矢印で示すように空気が流通する。このとき、ブロワ70が作動されて空調ダクト60内に送風が行なわれる。
【0063】
反応容器21内では、上記した式(2)の酸化カルシウムの水和反応によって水酸化カルシウムに復原することにより、発熱が起こり化学蓄熱材22から放熱される。化学蓄熱材22からの熱量は、中間部連通口63aから第2通路部62へ流入した空気に放熱される。
【0064】
このとき、空調ECU100は、弁装置12を開状態としている。水和反応に伴い反応容器21内で必要となる水蒸気は、水蒸気配管11内を介して熱交換器30の容器31内から供給される。容器31内では液相の水が第1通路部61を流れる空気から吸熱して蒸発して水蒸気となる。容器31内の水は、上記の式(4)のように蒸発潜熱を空気から吸熱する。これにより、第1通路部61を流れ熱交換器30で熱交換される空気は、冷却され除湿される。このとき、熱交換器30は、蒸発器として機能している。
【0065】
これにより、空調ダクト60を流れる空気は、熱交換器30で冷却除湿された後、反応器20で加熱され、温風となって吹出口72から車室内へ吹き出す。車室内へ吹き出す温風は、除湿された温風であり、車室の窓ガラス等が曇り難い。したがって、内外気切替箱を内気導入モードとして、速やかかつ効率的な暖房を行なうことが可能である。
【0066】
また、このとき、空調ECU100は、開閉弁51は閉状態とするとともに、流量調節器41を作動している。熱交換器30での水の蒸発により不足した分の液相の水は、水配管14を介して水タンク40内から供給される。
【0067】
なお、暖房運転時には、第1開閉ドア81による第1流入口61aおよび第2流入口62aの開度比の設定変更により、車室内へ吹き出す温風温度を変更することも可能である。
【0068】
次に、空調ECU100が冷房運転を行なう際の制御動作について説明する。
図5に示すように、空調ECU100は、冷房運転を開始するときには、まず、容器31内の初期水量供給を行なう(ステップ101)。ステップ101では、例えば水配管14を介して液相の水を容器31内へ供給し、水面のレベルである水位WLが、上限レベルである第2高さ位置H2、もしくは第2高さ位置H2よりも若干低い位置となるように設定する。第2高さ位置H2は、第1高さ位置H1よりも所定寸法高い高さ位置である。第1高さ位置H1は、容器31内における熱交換部32の最下部32aに対応する高さ位置である。本例では、扁平チューブ33の最下部に相当する。
【0069】
ステップ101を実行したら、次に、蒸発器である熱交換器30の冷房性能制御(ステップ200)、および、容器31内の水位制御(ステップ300)を、繰り返し実行する。なお、ステップ200の制御周期と、ステップ300の制御周期とは、同一でなくてもよい。冷房性能制御の制御周期を比較的短くしてきめ細かく冷房性能を調節し、水位制御の周期は冷房性能制御の周期に比して長くすることができる。例えば、水位制御の周期は、冷房性能制御の周期に対して、10倍から200倍程度に設定することができる。
【0070】
図6に示すように、冷房性能制御を行なうときには、空調ECU100は、まず、圧力センサ35が検出する圧力値Pを取得する(ステップ210)。そして、次に、ステップ210で取得した圧力値Pが予め設定された所定圧力値P1より高いか否か判断する(ステップ220)。
【0071】
ステップ220において、圧力値Pが所定圧力値P1より高いと判断した場合には、弁装置12の開度を1段階上昇させる(ステップ230)。ステップ230を実行したら、ステップ210へリターンする。一方、ステップ220において、圧力値Pが所定圧力値P1より低いと判断した場合には、弁装置12の開度を1段階下降させる(ステップ240)。ステップ240を実行したら、ステップ210へリターンする。
図6では図示を省略しているが、圧力値Pが所定圧力値P1と等しい場合には、弁装置12の開度変更を行なわずに、ステップ210へリターンする。
【0072】
なお、弁装置12を、通路断面積を調節可能な開度調節タイプではなく、全開モードと全閉モードとを切り替える開閉弁タイプとすることができる。この場合には、ステップ230では、弁装置を開状態とし、ステップ240では、弁装置を閉状態とする。弁装置が開閉弁タイプである場合には、弁装置が水蒸気配管11内の通路を介して水蒸気を断続的に供給することができる。弁装置が開閉弁タイプである場合には、弁装置の弁体のハンチングを防止するために、開状態から閉状態へ移行する際の所定圧力値P1と、閉状態から開状態へ移行する際の所定圧力値P1を異なるものとしてもかまわない。
【0073】
ステップ220における圧力判定基準値(閾値)である所定圧力値P1は、例えば、
図8に示すように、1.0kPa〜1.4kPaの範囲内の所定値とすることができる。所定圧力値P1が1.0kPaよりも低い場合には、蒸気圧不足により反応器20における水和反応が抑制され、反応器20の性能が低下してしまい好ましくない。一方、所定圧力値P1が1.4kPaよりも高い場合には、容器31内の水の相変化温度が比較的高くなってしまい、熱交換器30で空気の好適な冷却を行なうことが難しい。
【0074】
また、ステップ220における圧力判定値である所定圧力値P1は、1つの圧力値であってもよいが、所定の圧力範囲で設定されるものであってもよい。例えば、所定圧力値P1を、1.0kPa〜1.4kPaの範囲内の所定圧力範囲で設定してもかまわない。
【0075】
なお、本例では、反応容器21、容器31およびこれらを接続する水蒸気配管11は、互いの接続部において気密に接続されている。そして、これらの内部空間を真空脱気した後に水を供給している。これにより、容器31内における水の蒸発を容易にしている。このような条件下では、圧力判定基準値である所定圧力値P1は、
図8に示すように、飽和水蒸気圧から設定することができる。
【0076】
また、反応容器21、容器31およびこれらを接続する配管の内部空間に、空気等の水以外の気体が存在する場合には、水の飽和水蒸気圧を分圧とする圧力値に基づいて所定圧力値P1を設定することができる。
【0077】
空調ECU100は、圧力センサ35が検出する圧力が高くなるにしたがって、容器31の内部から反応容器21の内部へ供給される水蒸気の供給量が多くなるように弁装置12を制御する。これにより、容器31内の圧力を目標冷却性能に対応した所定圧力値P1に保ち、熱交換器30における冷却性能を安定化する。
【0078】
図7に示すように、水位制御を行なうときには、空調ECU100は、まず、蒸発性能の積算を行なう(ステップ310)。ステップ310では、先回ステップ310を実行した後の蒸発性能の積算値を算出する。
【0079】
蒸発性能w(単位W)は、下記の式(5)により求めることができる。なお、単位は例示であり、以下も同様である。
w=(T1−T2)×Q1×Cp・・・(5)
【0080】
ここで、T1は、流入温センサ36が検出する空気の温度(単位℃)である。T2は、流出温センサ37が検出する空気の温度(単位℃)である。また、Q1は、空気の流量(単位m
3/hr)である。空調ECU100は、Q1をブロワ70への作動指令値から算出することができる。Cpは、空気の比熱(単位J/m
3)である。
【0081】
式(5)により求めた蒸発性能wを積算して、積算蒸発性能q(単位J)を下記の式(6)から求めることができる。
【数1】
【0082】
蒸発性能wは、蒸発の仕事率ということができる。したがって、積算蒸発性能qは、蒸発の仕事量であるといえる。
【0083】
ステップ310を実行して、蒸発性能の積算値を算出したら、積算蒸発性能qに相当する分の水を、水タンク40から容器31内へ供給する(ステップ320)。
【0084】
ステップ320では、まず、下記の式(7)により蒸発により消費した水量m(単位mm
3)を算出する。
m=q/C・・・(7)
【0085】
ここで、Cは、水の潜熱(単位J/g)である。
【0086】
消費した水量mを算出したら、流量調節器41を作動させて水タンク40から容器31内へ液相の水を供給するとともに、流量調節器41から供給水量Q2(単位mm
3/min)を取得する。そして、下記の式(8)により、消費水量mから供給水量Q2を逐次減算していく。
m=m−Q2・・・(8)
【0087】
そして、mが0以下となったところで、水タンク40から容器31内へ水の供給を停止する。以上のように、ステップ320を実行して、容器31内への水の供給を完了したら、ステップ310へリターンする。
【0088】
空調ECU100が水位制御を行なう際には、
図4に示すように、容器31内の水位WLが、下限レベルである第1高さ位置H1よりも高く、上限レベルである第2高さ位置H2よりも低くなるようになっている。空調ECU100が行なう水位制御は、水位WLが、常に第1高さ位置H1と第2高さ位置H2との間に位置するように行なわれる。
【0089】
図9に示すように、水位WLが第1高さ位置H1より低くなると、熱交換器30で空気を冷却する性能が大きく低下する。水が相変化する液面位置において水の蒸発時には蒸発潜熱が得られる。この液面が熱交換部32の下端よりも低くなると、蒸発潜熱で空気を冷却し難い。これにより、液面が熱交換部32の下端よりも低くなると空気冷却性能が低下してしまう。
【0090】
一方、水位WLが第2高さ位置H2より高くなると、液はねにより一部の蒸発潜熱が利用し難くなる。
図10に示すように、第2高さ位置H2は、水面からの液はね高さ寸法HSに基づいて設定されている。例えば、第2高さ位置H2は、熱交換部32の最上部32bよりも液はね高さ寸法HSだけ低い位置に設定することができる。
【0091】
容器31内において活発な蒸発が行なわれると、水蒸気の生成に伴い水面から液はねが起きる場合がある。液はねとは、水面からの微細な水滴Hdの飛散である。飛散した水滴Hdが熱交換部32に付着した場合には、水滴Hdが水蒸気となる場合に、蒸発潜熱で空気を冷却することができる。液はね高さ寸法HSは、液はねにより水滴Hdが飛散する際の水面からの到達限界高さ寸法である。液はね高さ寸法HSは、液はねにより水滴Hdが飛散する際の水面からの最高到達高さ寸法である。
【0092】
ところが、
図11に示すように、水位WLが第2高さ位置H2より高くなると、液はねした水滴Hdは、熱交換部32の最上部32bよりも上方まで飛散して、容器31の天井部や水蒸気配管11の内面に付着してしまう。このように、熱交換部32以外に付着した水滴Hdは、蒸発して水蒸気となったとしても、蒸発潜熱で熱交換部32を通過する空気を冷却し難い。
【0093】
このように、容器31内の水位WLが、第1高さ位置H1以上、かつ、第2高さ位置H2以下に位置付けられている場合に、蒸発潜熱を空気冷却に確実に利用することができる。
【0094】
熱交換器30が蒸発器として機能しているときには、容器31は蒸発容器に相当する。また、弁装置12は、水和反応に伴って蒸発容器の内部で生成して反応容器の内部へ供給される気相の反応媒体である水蒸気の供給量を調節する供給量調節手段に相当する。また、熱交換器30の熱交換部32は、蒸発容器の内部での反応媒体の蒸発に伴って生じる蒸発潜熱により冷却対象流体である空調用の送風空気を冷却する冷却手段に相当する。また、圧力センサ35は、蒸発容器の内部における反応媒体の蒸発環境状態に関連する物理量を検出する物理量検出手段に相当する。
【0095】
上述の構成および作動によれば、以下に述べる効果を得ることができる。
【0096】
本実施形態の車両用空調装置1は、吸熱した際に反応媒体である水が脱離する脱水反応して蓄熱するとともに、気相の反応媒体である水蒸気が固定化される水和反応して放熱する化学蓄熱材22と、化学蓄熱材22を内部に収容する反応容器21と、を備えている。
【0097】
また、内部で液相の水を蒸発させて水蒸気とする蒸発容器である容器31と、反応容器21内での水和反応に伴って容器31内で生成して反応容器21内へ供給される水蒸気の供給量を調節する弁装置12と、を備えている。
【0098】
反応容器21内で水和反応が行なわれるときには、熱交換器30が蒸発器として用いられる。このとき、容器31は蒸発容器である。また、弁装置12は、水和反応に伴って蒸発容器の内部で生成して反応容器21の内部へ供給される水蒸気の供給量を調節する供給量調節手段である。
【0099】
さらに、容器31の内部での水の蒸発に伴って生じる蒸発潜熱により冷却対象流体である送風空気を冷却する熱交換部32と、容器31の内部における水の蒸発環境状態に関連する物理量を検出する物理量検出手段としての圧力センサ35と、を備えている。
【0100】
そして、制御手段である空調ECU100は、圧力センサ35が検出する物理量に応じて弁装置12を制御し、熱交換器30が蒸発器であるときの熱交換部32による送風空気の冷却性能を調節する。
【0101】
これによると、空調ECU100は、容器31内における反応媒体の蒸発環境状態に関連する物理量に応じて弁装置12を制御する。したがって、容器31内から反応容器21内へ供給される気相の反応媒体の供給量を調節して、容器31内の反応媒体の蒸発環境を調節し、反応媒体の蒸発に伴って生じる蒸発潜熱量をコントロールすることができる。このようにして、容器31内での反応媒体の蒸発に伴って生じた蒸発潜熱によって冷却対象流体である送風空気を冷却する性能を安定化することができる。
【0102】
また、本実施形態の反応媒体は水であり、容器31の内部では、液相の水が蒸発して水蒸気となる。これによると、空調ECU100は、容器31の内部における水蒸気の生成環境状態に関連する物理量に応じて弁装置12を制御する。したがって、容器31の内部から反応容器21の内部へ供給される水蒸気の供給量を調節して、容器31の内部の水蒸気生成環境を調節し、水蒸気の生成に伴って生じる蒸発潜熱量を調整することができる。このようにして、容器31の内部での水蒸気の生成に伴って生じた蒸発潜熱によって車室内への送風空気を冷却する冷却性能を安定化することができる。
【0103】
車両用空調装置1において、空調ECU100は、車室内へ吹き出す空調空気の目標吹出温度TAOに基づいて送風空気の冷却性能の目標値を決定する。そして、熱交換器30の熱交換部32による冷却性能が、目標吹出温度TAOに基づいて決定した目標値に一致するように、水の蒸発環境状態に関連する物理量である圧力に応じて弁装置12を制御して冷却性能を調節する。したがって、
図12に示すように、本実施形態によれば、安定した冷房性能を比較的長時間維持することができる。これに対し、弁装置12で水蒸気供給量の調節を行なわない比較例においては、
図12に破線で示すように、安定した冷房性能を維持することができない。これは、反応容器21内での水和反応が成り行きで行われ、これに伴い蒸発容器内での水蒸気の生成が行なわれるため、水和反応開始直後に高い冷房性能を得ることができるものの、その後急速に冷房性能が低下してしまう。
【0104】
また、本実施形態の物理量検出手段は、蒸発容器である容器31の内部の圧力を検出する圧力検出手段としての圧力センサ35である。これによると、蒸発容器内の圧力により、蒸発容器内の反応媒体である水の蒸発環境を精度良く検出することができる。したがって、蒸発容器内での反応媒体の蒸発に伴って生じた蒸発潜熱によって冷却対象流体を冷却する性能を確実に安定化することができる。
【0105】
また、本実施形態の圧力検出手段は、蒸発容器の内部の気相の水の圧力を検出する。これによると、蒸発容器内の気相の水の圧力により、蒸発容器内の水の蒸発環境をより精度良く検出することができる。したがって、蒸発容器内での反応媒体の蒸発に伴って生じた蒸発潜熱によって冷却対象流体を冷却する性能をより確実に安定化することができる。
【0106】
容器31内では、温度分布が生じるため、蒸発容器内の反応媒体である水の蒸発環境を温度で検出して弁装置12を制御すると、冷却性能の安定度が低下し易い。蒸発容器内では、気液界面で液相の水が水蒸気に気化する。したがって、気液界面では水温と同温の水蒸気が生成される。その後、蒸発容器内を上昇する水蒸気は、熱交換部32での熱交換により、上昇するに従って徐々に温度が上昇していく。また、減圧場では、界面沸騰が起きるため、容器31内の温度分布が乱れ易い。さらに、弁装置12の開閉状態によっても、水蒸気の流れ状態が変動するため、温度分布が乱れ易い。これらに起因して、容器31内で検出する水蒸気の温度は、気液界面の温度から乖離する場合があり、水の蒸発環境状態を表す物理量としては比較的精度が低く、冷却性能の安定度が低下する場合がある。
【0107】
また、容器31内の液相の水の温度を検出する場合は、容器31内での水の蒸発に伴い、水配管14を介して下部から例えば常温の水が供給される。したがって、容器31内の液相の水は、下部と上部の気液界面近傍とでは温度が異なり易い。また、減圧場では、界面沸騰が起きるため、容器31内の水の混合が安定せず、液相の水にも温度分布が生じ易い。これらに起因して、容器31内で検出する液相の水の温度は、気液界面の温度から乖離する場合があり、水の蒸発環境状態を表す物理量としては比較的精度が低く、冷却性能の安定度が低下する場合がある。
【0108】
冷却性能の制御を送風空気の熱交換部32からの流出温度に基づいて行なうことも考えられるが、送風空気の流速分布や温度分布に起因して検出温度にばらつきを生じ易い。また、送風空気の流速によっては、温度検出の応答遅れが生じる場合がある。
【0109】
これらに対して、本実施形態のように水の蒸発環境状態を表す物理量として容器31内の気相部の圧力を用いれば、冷却性能を確実に安定化することができる。例えば、
図13に示すように、蒸発容器である容器31内の圧力を、所望の冷房性能に対応した圧力に制御することにより、所望の高い冷房性能、すなわち、所望の高い空調空気冷却性能を得ることが可能である。
【0110】
また、本実施形態の化学蓄熱システム10は、蒸発容器の内部の水面の位置である水位WLを調節する水位調節手段として流量調節器41を備えている。すなわち、蒸発容器内の液面の位置である液位を調節する液位調節手段を備えている。そして、送風空気を冷却する冷却手段は、蒸発容器の内部空間と送風空気の流通通路とを隔絶するように設けられて、蒸発潜熱を送風空気と蒸発容器の内部の水との間で熱交換する熱交換部材である熱交換部32を有している。
【0111】
液位調節手段である流量調節器41は、熱交換部32の最下部32aに対応する第1高さ位置H1よりも高く、かつ、第1高さ位置H1よりも所定寸法高い第2高さ位置H2よりも低くなるように液位である水位WLを調節する。
【0112】
これによると、流量調節器41により、蒸発容器内の反応媒体の液位が、熱交換部32の最下部32aに対応する第1高さ位置H1と、第1高さ位置H1よりも所定寸法高い第2高さ位置H2との間に位置するように調節することができる。したがって、相変化に伴い蒸発潜熱が生じる液面の位置を、熱交換部32に触れる位置とすることができる。これにより、水の蒸発に伴って生じた蒸発潜熱によって確実に送風空気を冷却することができる。このようにして、送風空気を冷却する性能をより一層確実に安定化することができる。
【0113】
また、第2高さ位置H2は、蒸発容器の内部で水が蒸発する際の液面からの液はね高さ寸法HSに応じて設定されている。水が蒸発する際に液面から液はねがあり、飛散した液相の水が熱交換部32以外に付着した場合には、この水が蒸発しても蒸発潜熱を送風空気の冷却に利用し難い。したがって、水が蒸発する際の液面からの液はね高さ寸法に応じた第2高さ位置H2を設定することで、液はねがあったとしても飛散した液相の水が熱交換部32以外に付着することを抑制することができる。これにより、水の蒸発に伴って生じた蒸発潜熱によって一層確実に送風空気を冷却することができる。
【0114】
また、本実施形態の液位調節手段である流量調節器41は、蒸発容器の内部へ供給する液相の水の量を調節して液位を調節する供給液量調節手段である。これによると、供給液量調節手段で蒸発容器内へ供給する液相の水量を調節して、第1高さ位置H1と第2高さ位置H2との間に位置するように、容易に液位を調節することができる。
【0115】
また、本実施形態の冷却対象流体は、車両の室内へ吹き出す空調空気(送風空気)である。冷却対象流体は、空調ダクト60内の送風空気である。これによると、蒸発容器内での水の蒸発に伴って生じた蒸発潜熱によって車室内へ吹き出す空調空気を冷却する性能を安定化することができる。したがって、車室内を安定して冷房することができる。
【0116】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0117】
上記実施形態では、反応媒体が水であり、化学蓄熱材が水酸化カルシウムであった。化学蓄熱材は、反応媒体が固定化(吸着)された際に水酸化カルシウムとなり、反応媒体が脱離された際に酸化カルシウムとなるものであった。しかしながら、これに限定されるものではない。
【0118】
例えば、水を反応媒体とする場合には、化学蓄熱材としては、例えば、下記するものを用いることができる。酸化物系の材料として、上記したCaOのほか、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)等のアルカリ土類金属の無機酸化物を用いることができる。また、酸化リチウム等のアルカリ金属の無機酸化物、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、等の無機酸化物などであってもよい。これらの金属酸化物は、一種、もしくは、二種以上を用いることができる。
【0119】
また、アンモニア等を反応媒体とする場合には、化学蓄熱材としては、例えば、下記するものを採用することができる。化学蓄熱材としては、金属塩化物を用いることができ、例えば、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、及び遷移金属の塩化物などが好適である。化学蓄熱材としては、塩化リチウム(LiCl)や塩化マグネシウム(MgCl
2)を用いることができる。また、塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化ストロンチウム(SrCl
2)、塩化バリウム(BaCl
2)、塩化マンガン(MnCl
2)、塩化コバルト(CoCl
2)、塩化ニッケル(NiCl
2)等を用いることができる。金属塩化物は、一種、もしくは、二種以上を用いることができる。
【0120】
金属塩化物では、例えば、アンモニアが化学蓄熱材から脱離する脱離反応したときに蓄熱し、アンモニアが化学蓄熱材に固定化(吸着)される固定化反応(吸着反応)したときに放熱する。例えば、化学蓄熱材がMgCl
2の場合、下記の可逆反応式(9)において、右方向に進む固定化反応時に放熱し、左方向に進む脱離反応時に蓄熱する。
MgCl
2・2NH
3+4NH
3⇔MgCl
2・6NH
3+Q[kJ]・・・(9)
【0121】
また、上記実施形態では、蒸発容器の内部における反応媒体の蒸発環境状態に関連する物理量を検出する物理量検出手段として、蒸発容器内の上部の圧力を検出する圧力検出手段である圧力センサ35を用いていたが、これに限定されるものではない。物理量検出手段は、例えば、蒸発容器内の上部以外の位置に配設された圧力検出手段であってもよい。また、例えば、蒸発容器内の温度を検出する温度検出手段であってもかまわない。また、例えば、蒸発容器内から反応容器内へ供給される反応媒体流量を検出する手段であってもかまわない。また、例えば、反応容器内の温度を検出する温度検出手段であってもかまわない。蒸発容器の内部で蒸発した反応媒体が反応容器の内部へ供給されて、気相の反応媒体が化学蓄熱材に固定化される固定化反応に伴って放熱するため、反応容器内の温度も、蒸発容器内における反応媒体の蒸発環境状態に関連する物理量に相当する。
【0122】
また、上記実施形態では、
図7に例示した制御動作によって、蒸発容器内の液位を調節していたが、これに限定されるものではない。例えば、第1高さ位置H1と第2高さ位置H2とに液位を検出する手段を設け、この液位検出手段が検出する液位に応じて蒸発容器内の液位を調節するものであってもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、蒸発容器の内部の液面の位置である液位を調節する液位調節手段として、蒸発容器の内部へ供給する液相の反応媒体の量を調節する供給液量調節手段である流量調節器41を用いていたが、これに限定されるものではない。例えば、流量調節器41以外の供給液量調節手段を採用してもかまわない。また、供給液量調節手段以外の液位調節手段を採用してもかまわない。例えば、蒸発容器に、熱交換部よりも下方の貯液容量を可変する機構を設けて、液位調節手段としてもかまわない。
【0124】
また、上記実施形態では、熱交換器30は、容器31と、容器31を貫通するように配設された扁平チューブ33を有する熱交換部32とを備えていたが、熱交換器の形態はこれに限定されるものではない。例えば、上下に一対のタンクを有し、一対のタンク間を複数のチューブで連通して熱交換器としてもかまわない。すなわち、上記実施形態では、チューブ内が冷却対象流体の通路であったが、タンク及びチューブ内を反応媒体の貯留空間や通路とし、隣り合うチューブ間を冷却対象流体の通路とするものであってもよい。
【0125】
また、上記実施形態では、熱交換器30は、蒸発器および凝縮器のいずれかに機能を切り替える熱交換器であったが、これに限定されるものではなく、蒸発器と凝縮器とを別に設けてもかまわない。
【0126】
また、上記実施形態では、冷却対象流体は、車室内へ吹き出す空調空気であったが、これに限定されるものではない。冷却対象流体は、例えば、空気以外の気体であってもよいし、例えば、水等の液体であってもかまわない。