(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0022】
(ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物)
本発明のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物(以下、単に「組成物」ともいう)とは、式(10)で示されるポリカーボネート誘導体を2種以上含み、プロトン核磁気共鳴法により測定される末端の官能基の割合が、ヒドロキシ基;0.01〜1.99モル%、R
3;0.01〜1.99モル%、式(8)で示される基;98.00〜99.98モル%で示される範囲である、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を含む組成物である。なお、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物とは、式(10)で示され、X及びYが式(8)で示される基で示される化合物を意味し、式(8)におけるR
2が水素原子に限定されるものではない。
【0024】
式中、X及びYはそれぞれ独立に、水素原子、R
3又は式(8)で示される基であり、R
1は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上のメチレン基が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価基であり、nは、平均重合度を表し、1〜50の数であり、R
2は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、R
3は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基である。なお、式(8)における波線は結合位置を示す。
【0025】
また、本発明のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物は、好ましくは、式(1)で示されるポリカーボネートジオール化合物、式(2)で示されるポリカーボネートジオールモノアクリレート化合物、式(3)で示されるポリカーボネートジオール(モノアルキルエーテル)モノアクリレート化合物、式(4)で示されるポリカーボネートジオールモノアルキルエーテル化合物、及び式(5)で示されるポリカーボネートジオールジアルキルエーテル化合物からなる群から選択される少なくとも1種、並びに式(6)で示されるポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を含み、プロトン核磁気共鳴法により測定される末端の官能基の割合が、ヒドロキシ基;0.01〜1.99モル%、R
3;0.01〜1.99モル%、式(8)で示される基;98.00〜99.98モル%で示される範囲である、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物である。
【0027】
式中、R
1は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上のメチレン基が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価基であり、nは、それぞれ独立して、平均重合度を表し、1〜50の数であり、R
2は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、R
3は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基である。
【0028】
【化6】
式中、R
2は、上記と同義である。
【0029】
前記組成物は、式(10)で示され、X及びYが式(8)で示される基である化合物、すなわち式(6)で示される化合物を主成分として含む組成物である。組成物に含まれる式(10)で示される化合物群の構成又は式(1)〜(6)で示される化合物群の構成は、末端の官能基中のヒドロキシ基、R
3及び式(8)で示される基の含有率が、それぞれ所定の範囲となるように選択される。前記組成物は、式(10)で示される化合物又は式(1)〜(6)で示される化合物を主成分として含み、有機溶媒等のその他の成分を更に含んでいてもよい。式(10)で示される化合物又は式(1)〜(6)で示される化合物の組成物における総含有率は、例えば90質量%以上であり、98質量%以上であることが好ましく、実質的に式(10)で示される化合物又は式(1)〜(6)で示される化合物からなることがより好ましい。ここで「実質的に」とは、その他の成分を不純物として含むことを許容することを意味する。
【0030】
前記組成物は、プロトン核磁気共鳴法により測定される末端の官能基の総量を100モル%とした場合に、末端の官能基中のR
3の存在量を0.01〜1.99モル%、好ましくは0.01〜1.00モル%、より好ましくは0.01〜0.50モル%とすることで、架橋密度を向上させることができる。また、末端の官能基中のヒドロキシ基の存在量を0.01〜1.99モル%、好ましくは0.01〜1.00モル%、より好ましくは0.01〜0.50モル%とすることで、架橋密度を向上させることに加えて、非水系電解質等の活性水素の存在を嫌う用途への適用が可能となる。
【0031】
そして、上記に加えて、末端の官能基中の式(8)で示される基の存在量を98.00〜99.98モル%、好ましくは99.00〜99.98モル%、より好ましくは99.50〜99.98モル%とすることで、非重合性化合物量を十分低減でき、当該組成物の硬化物からのブリードアウト抑制を図ることができる。
【0032】
前記組成物は、式(1)〜(5)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも1種と、式(6)で示される化合物とを含み、末端の官能基中のヒドロキシ基の存在量が0.01〜1.99モル%、R
3の存在量が0.01〜1.99モル%、式(8)で示される基の存在量が98.00〜99.98モル%の範囲であれば、これらの化合物をどのように組み合わせてもよい。式(1)〜(5)で示される化合物は、式(1)〜(5)で示される化合物のうちの1種のみであってもよく(その場合は、式(4)で示される化合物である)、式(1)〜(5)で示される化合物のうちの2種以上の組み合わせでもよく、式(1)〜(5)で示される化合物の全てを含む組み合わせであってもよい。好ましくは、式(2)で示される化合物を含む。
【0033】
末端の官能基におけるヒドロキシ基、R
3及び式(8)で示される基の存在量は、プロトン核磁気共鳴法により測定される。具体的には、以下の手順で行なうことができる。
(1)ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物のプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定する。
(2)プロトン核磁気共鳴スペクトルにおけるR
3に対応するシグナルの積分値、ヒドロキシ基に対応するシグナルの積分値及び式(8)で示される基に対応するシグナルの積分値から、各基において観測されるプロトン数を考慮して、ヒドロキシ基、R
3及び式(8)で示される各基の総量を100モル%に換算し、それぞれの基の存在量を算出する。
プロトン核磁気共鳴スペクトルの測定条件は、ヒドロキシ基、R
3及び式(8)で示される基の存在量が所望の精度で測定できる条件であれば特に制限されない。
【0034】
本発明のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物は、例えば、後述する製造方法で、効率よく製造することができる。
【0035】
(ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造方法)
本発明のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造方法は、式(1)
【0037】
(式中、R
1は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上のメチレン基が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価の基であり、nは、平均重合度を表し、1〜50の数である。)で示されるポリカーボネートジオール化合物と、式(7)
【0039】
(式中、R
2は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、R
3は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基である。)で示される不飽和カルボン酸エステル化合物とを、リパーゼの存在下で反応させて反応混合物を得る工程、及び得られた反応混合物を分子ふるいと接触させる工程を含む製造方法である。ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造方法においては、反応混合物を得る工程と、反応混合物を分子ふるいと接触させる工程は、異なる槽中でそれぞれ順次行っても、同一の槽中で一緒に行ってもよい。
【0040】
反応混合物は、式(1)で示されるポリカーボネートジオール、式(7)で示される不飽和カルボン酸エステル化合物、及び必要に応じて含まれる有機溶媒、重合禁止剤等を含む原料混合物と、リパーゼとを接触させることで得ることができる。原料混合物をリパーゼと接触させることで、不飽和カルボン酸エステル化合物のエステル交換反応により、ポリカーボネートジオールの末端ヒドロキシ基の少なくとも一部が不飽和カルボン酸エステルに変換された反応混合物が得られる。
【0041】
(ポリカーボネートジオール)
本発明で使用されるポリカーボネートジオールは、式(1):
【0043】
(式中、R
1は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上のメチレン基が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価基であり、
nは、平均重合度を表し、1〜50の数である)で示される。
すなわち、R
1は、直鎖状アルキレン基、分岐鎖状アルキレン基、環状アルキレン基、2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子、硫黄原子及び架橋炭素環の2価基からなる群から選択される少なくとも1つから構成され、両末端に非芳香族炭素原子を有する2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよい。
【0044】
直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基としては、例えば、直鎖状のアルキレン基、分岐鎖状のアルキレン基、環状のアルキレン基、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基からなる2価基、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基、環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレンからなる2価基が挙げられる。
【0045】
直鎖状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1〜25個であり、より好ましくは3〜25個であり、さらに好ましくは3〜12個であり、特に好ましくは4〜12個である。直鎖状のアルキレン基(直鎖状のアルカンジイル基)としては、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、デセン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基、ブチレン基、ペンテン基又はヘキセン基である。
分岐鎖状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは3〜25個であり、より好ましくは、3〜12個であり、さらに好ましくは4〜12個である。分岐鎖状のアルキレン基(分岐鎖状のアルカンジイル基)としては、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基、イソペンテン基、3−メチルペンテン基、2,4−ジエチル―1,5―ペンテン基等が挙げられ、好ましくは3−メチルペンテン基又は2,4−ジエチル―1,5―ペンテン基である。
【0046】
環状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは3〜25個であり、より好ましくは3〜12個、さらに好ましくは5〜10個である。環状のアルキレン基としては、炭素原子数3〜12個のシクロアルキレン基(シクロアルカンジイル基)が好ましく、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基等が挙げられ、好ましくはシクロへキシレン基である。
【0047】
前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基としては、例えば、シクロペンタン−1,3−ジメチレン基、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基等が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン−1,4−ジメチレン基である。
【0048】
上記の2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上のメチレン基が2価の芳香族基(例えば、フェニレン基、ナフチレン基)、2価のヘテロ環式基(例えば、ピリダニル基)、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよい。例えば、ベンゼン−1,4−ジメチレン基は、非末端のメチレン基が2価の芳香族基に置き換えられたアルキレン基に該当する。
【0049】
置換基としては、炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、炭素原子数3〜12のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、炭素原子数7〜10のアラルキル基(例えば、ベンジル基)、炭素原子数6〜12のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基)、炭素原子数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)が挙げられる。
【0050】
R
1は、架橋炭素環の2価の基であってもよい。ここで、「架橋炭素環」とは、隣り合わない2つの炭素が架橋基又は直接結合によって架橋された炭素環を指す。架橋炭素環の2価基としては、炭素原子数6〜10の架橋炭素環の2価基が好ましく、例えば、ビシクロ−[2.1.1]−ヘキサン−ジイル、ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン−ジイル、ビシクロ−[2.2.2]−オクタン−ジイル、ビシクロ−[3.3.0]−オクタン−ジイル、ビシクロ−[4.3.0]−ノナン−ジイル、ビシクロ−[4.4.0]−オクタン−ジイル、アダマンタン−ジイル等が挙げられる。
【0051】
R
1は、好ましくは、プロピレン基(プロパンジイル基)、ブチレン基(ブタンジイル基)、ペンテン基(ペンタンジイル基)、ヘキセン基(ヘキサンジイル基)、3−メチルペンテン基(3−メチルペンタンジイル基)、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基及びベンゼン−1,4−ジメチレン基からなる群から選ばれる1種以上である。
【0052】
式(1)において、nは、平均重合度を表し、1〜50の数であり、好ましくは3〜20である。平均重合度は、プロトン核磁気共鳴法によって測定することができる。
【0053】
式(1)のポリカーボネートジオールは、どのような方法で製造されたものでもあってもよい。例えば、式(1)のR
1に相当する基を有する2価アルコール(HO−R
1−OH)と炭酸エステル(例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸ジフェニル)とのエステル交換反応により製造されたポリカーボネートジオールや、上記の2価アルコールとクロロギ酸エステル又はホスゲンとの反応により製造したポリカーボネートジオールを使用することができる。2価アルコールとしては、例えば、炭素原子数1〜25(好ましくは炭素原子数4〜15、より好ましくは炭素原子数4〜12)のアルキレン基を有する脂肪族2価アルコールが挙げられる。あるいは、環状炭酸エステルの開環重合等により製造されたポリカーボネートジオールを使用することができる。環状炭酸エステルとしては、例えば、炭素原子数1〜25(好ましくは炭素原子数3〜12、より好ましくは炭素原子数4〜12)のアルキレン基を有する環状炭酸エステルが挙げられる。
【0054】
中でも、炭素原子数1〜25(好ましくは炭素原子数4〜15、より好ましくは炭素原子数4〜12)のアルキレン基を有する脂肪族2価アルコールと炭酸エステルとのエステル交換反応によって製造されたポリカーボネートジオールが好ましい。このような脂肪族2価アルコールとしては、R
1が直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1〜25のアルキレン基に相当する2価アルコール、R
1が炭素原子数3〜25のシクロアルキレン基に相当する2価アルコール、R
1が直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基、R
1がシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレンに相当する2価アルコール等が挙げられる。
R
1が直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1〜25のアルキレン基に相当する2価アルコールとして具体的には、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等のトリメチレン部分を有するものや、1,4−ブタンジオール等のテトラメチレン部分を有するものや、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール等のペンタメチレン部分を有するものや、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール等のヘキサメチレン部分を有するものや、1,7−ヘプタンジオール等のヘプタメチレン部分を有するものや、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールのオクタメチレン部分を有するものや、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,20−エイコサンジオール等が挙げられる。また、R
1が炭素原子数3〜25のシクロアルキレン基に相当する2価アルコールとして具体的には、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロペンタンジオール等が挙げられる。R
1が直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基として具体的には、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジエタノール等が挙げられる。また、R
1がシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレンに相当する2価アルコールとして具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等が挙がられる。
【0055】
更に、上記以外の2価アルコールも使用することができ、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のR
1の非末端のメチレン基が酸素原子で置き換えられているオキシアルキレン基であるものや、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等のR
1の非末端のメチレン基が酸素原子で置き換えられている、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるものや、2,5−テトラヒドロフランジメタノール等のR
1が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−非末端のメチレン基が酸素原子で置き換えられているシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるものも使用することができる。加えて、架橋炭素環の2価アルコールである2,7−ノルボルナンジオール等も使用することができる。
【0056】
さらに、p−キシリレンジオール、p−テトラクロロキシリレンジオール、ベンゼン−1,4−ジメタノール等の、R
1の非末端のメチレン基が非置換又はハロゲン原子で置換されている、2価の芳香族基で置き換えられたアルキレン基であるものも使用することができる。また、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス[(4−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等の、R
1の非末端のメチレン基が1つ以上の酸素原子及び1つ以上の2価の芳香族基で置き換えられたアルキレン基であるものも使用することができる。R
1が2価の芳香族基を有する2価アルコールを含む場合、その含有率は、2価アルコール全体に対して25質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0057】
本発明で使用されるポリカーボネートジオールにおいて、R
1は単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。即ち、ポリカーボネートジオールを、2価アルコールと炭酸エステルとのエステル交換反応や、2価アルコールとクロロギ酸エステル又はホスゲンとの反応で得る場合、2価アルコールは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。また、ポリカーボネートジオールを環状炭酸エステルの開環重合で得る場合、環状炭酸エステルは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0058】
式(1)のポリカーボネートジオールは、取り扱い性が良い点から、好ましくはR
1がプロピレン基(プロパンジイル基)、ブチレン基(ブタンジイル基)、ペンテン基(ペンタンジイル基)、ヘキセン基(ヘキサンジイル基)、3−メチルペンテン基(3−メチルペンタンジイル基)、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基及びベンゼン−1,4−ジメチレン基からなる群から選ばれる1種以上であるポリカーボネートジオールである。式(1)のポリカーボネートジオールは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0059】
(不飽和カルボン酸エステル化合物)
本発明で使用される不飽和カルボン酸エステル化合物は、式(7):
【0061】
(式中、R
2は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、R
3は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基または炭素原子数6〜10のアリール基である。)で示される不飽和カルボン酸エステル化合物である。
【0062】
R
2における炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基については、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R
2は、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0063】
R
3における炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基については、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基が好ましく、炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1〜2のアルキル基(メチル基又はエチル基)が更に好ましい。
R
3におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0064】
R
3における炭素原子数7〜10のアラルキル基については、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、R
3における炭素原子数6〜10のアリール基については、フェニル基、トリル基等が挙げられる。
【0065】
これらの中でもR
3としては、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基が好ましく、炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。
【0066】
式(7)の不飽和カルボン酸エステル化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル等のアクリル酸直鎖アルキルエステルや、アクリル酸イソプロピルや、メタクリル酸シクロへキシル等のアクリル酸分岐鎖状又は環式アルキルエステル等が挙げられる。この中では、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル及びメタクリル酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0067】
式(7)の不飽和カルボン酸エステル化合物の使用量は、ポリカーボネートジオール1モルに対して2.0〜60モルであることが好ましく、2.2〜45モルであることがより好ましく、5.0〜45モルであることがさらに好ましい。なお、ポリカーボネートジオールのモル数は、プロトン核磁気共鳴法より求めた平均分子量より計算される(例えば、高分子実験学 18巻(高分子の磁気共鳴)283頁、共立出版(1975年刊)参照)。
【0068】
(リパーゼ)
本発明で使用するリパーゼとしては、特に限定されないが、好ましくは、バルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼ(例えば、Amano PS(アマノエンザイム社製)等)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)を起源とするリパーゼ(例えば、LIP−301(東洋紡社製))、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)を起源とするリパーゼ(例えば、Lipase OF(名糖産業社製))、及びアルカリジェネス・エスピー (Alcaligenes sp.)を起源とするリパーゼ(例えば、Lipase PLG(名糖産業社製))からなる群から選択される少なくとも1種である。特に好ましくはバルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼである。これらは、アルコール−カーボネート交換活性が低く、その一方で、アルコール−エステル交換活性を示すリパーゼであり、本発明において有利である。前記リパーゼの中でも、ポリカーボネート鎖の重合度の低下が少ない点から、バルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼ(例えば、Amano PS(アマノエンザイム社製)やAmano PS−CI(アマノPS/セラミック担体吸着、アマノエンザイム社製))がより好ましい。
【0069】
上記のリパーゼは、上記のような微生物から得られたリパーゼをコードする遺伝子を、酵母や糸状菌のような適切な宿主に導入して得られた組換え体の培養物から得たものであってもよい。
【0070】
リパーゼの組換え体の発現のために使用される組換えDNA技術は、当該分野において公知である。リパーゼの組換え体に用いられるアミノ酸配列は上記のような微生物を起源とするもの自体に限定されず、例えば、これらのアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ加水分解活性を有するタンパク質(リパーゼ)を本発明に好適に使用することができる。あるいは、これらのアミノ酸配列と、例えば90%以上、好ましくは95%、より好ましくは97%以上の配列同一性(相同性)を示すアミノ酸配列からなり、かつ加水分解活性を有するタンパク質(リパーゼ)を本発明に好適に使用することができる。
【0071】
これらのリパーゼの形態は、特に限定されず、粗酵素又は固定化リパーゼの形態であってもよい。
【0072】
固定化リパーゼとは、固定化担体にリパーゼを吸着等により担持させたものをいう。固定化担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられる。固定化担体としては、特にリパーゼの吸着力が高い点から疎水吸着樹脂が好ましい。また、疎水吸着樹脂の中でも、大きな表面積を有することによりリパーゼの吸着量を高くできるという点から、多孔質粒子であることが好ましい。
疎水性吸着樹脂を構成する単量体としては、スチレン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、アクリル酸エステル等を挙げることができる。疎水性吸着樹脂はこれらの単量体の1種からなる単独重合体であっても、単量体の2種以上からなる共重合体であってもよい。
多孔質粒子の大きさは特に限定されず、例えば0.05〜10.0mmとすることができ、0.10〜2.0mmであることが好ましい。また多孔質粒子のBET比表面積は、10〜2000m
2/gであることが好ましく、50〜1500m
2/gであることがより好ましい。
【0073】
固定化リパーゼ又はリパーゼは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0074】
固定化リパーゼの使用量は、式(1)のポリカーボネートジオール1gに対して、好ましくは0.001g〜10g、より好ましくは、0.01g〜2g、特に好ましくは0.05g〜2gである。リパーゼの使用量は、リパーゼの加水分解活性等に応じて適宜選択することができる。リパーゼの使用量は、ポリカーボネートジオール1gあたり0.01mg〜10gであることが好ましく、0.1mg〜1gであることがより好ましく、1mg〜0.1gであることがさらに好ましい。
【0075】
本発明において、ポリカーボネートジオールと不飽和カルボン酸エステル化合物とを、リパーゼの存在下で反応させる反応方式は、特に限定されず、バッチ方式又は酵素を固定化したカラムを通過させる流通連続式をはじめとする、いかなる方式でも行なうことができる。
【0076】
(溶媒の範囲)
本発明における反応は、有機溶媒を使用して、又は無溶媒で行なうことができる。有機溶媒としては、基質を溶解でき、かつ、リパーゼを失活させない溶媒であれば特に限定されない。
【0077】
有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましくはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びアセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル及びアセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはn−ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン及びt−ブチルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらの有機溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0078】
有機溶媒の使用量は、式(1)のポリカーボネートジオール1gに対して、好ましくは0.1〜100mL、より好ましくは、0.5〜50mL、特に好ましくは0.5〜10mLである。
【0079】
本発明における反応は、アクリレート部位の重合を防ぐため、重合禁止剤を共存させて行うことが好ましい。重合禁止剤は通常に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、フェノール、クレゾール、ヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、p−メトキシフェノール(メトキノン)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジンなどが使用できる。重合禁止剤の使用量は、ポリカーボネートジオール1モルに対して0.000001〜0.05モル、さらには0.000002〜0.03モルであることが好ましい。
【0080】
(分子ふるいとの接触工程)
本発明においては、前記反応後、得られた反応混合物と分子ふるいとを接触させる。これによって、反応によって副生したアルコールを、減圧及び/又は加熱しながら反応混合物から除去することなく、原料であるポリカーボネートジオール化合物と関与しない状態にすることができる。これにより、反応がすみやかに進行するとともに、リパーゼの失活をも防ぐことができる。
【0081】
前記分子ふるいとしては、好ましくは1〜10Å(オングストローム、0.1nm〜1nm)の有効気孔サイズを有する分子ふるいであり、さらに好ましくは天然ゼオライト及び合成ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種の分子ふるいである。具体的には、例えば、ゼオライト(好ましくは、モレキュラーシーブ(商品名))が使用される。
【0082】
(ゼオライト)
前記ゼオライトとしては、好ましくはゼオライトを多孔質支持体上に膜状に形成させたゼオライト膜が使用される。ゼオライト膜としては、好ましくはY型のゼオライトを多孔質支持体上に膜状に形成させたY型ゼオライト膜が使用される。
ゼオライト膜と反応混合物との接触は、ゼオライト膜の一方の面に反応混合物を接触させ、反応混合物からアルコールを選択的に他方の面側に透過させ、透過したアルコールをアルコール蒸気として除去するパーベーパレーション法が好ましい。
【0083】
(モレキュラーシーブ)
前記モレキュラーシーブ(商品名)としては、好ましくはモレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A等が挙げられ、より好ましくはモレキュラーシーブ4Aが使用される。
モレキュラーシーブと反応混合物との接触は、モレキュラーシーブを直接反応混合物中に浸漬させる方法、あるいは、モレキュラーシーブを詰めたカラムに反応混合物を流通させる方法が好ましい。
【0084】
分子ふるいの使用量は、特に限定されず、分子ふるいの種類等に応じて適宜選択することができる。分子ふるいの使用量は、例えば、ポリカーボネートジオール1モルに対して、50〜20,000gであることが好ましく、100〜10,000gであることがより好ましく、500〜5,000gであることがさらに好ましい。
【0085】
(反応温度、圧力範囲)
本発明において、反応温度は、リパーゼの種類等に応じて適宜選択することができ、例えば0〜100℃とすることができ、好ましくは10〜90℃であり、より好ましくは30〜70℃である。特に、使用するリパーゼの最適温度に応じて反応温度を選択することが好ましい。
【0086】
本発明において、反応圧力は、特に限定されず、常圧下又は減圧下のいずれの条件でも行なうことができる。
【0087】
(反応形態)
本発明における反応は、バッチ式反応器、フロー式反応器のいずれでも行うことができる。反応を行う「反応槽」と「分子ふるいとの接触工程を行う槽(以下、「分子ふるい槽」と称することもある)は同一でも異なっていてもよい。また、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造は、反応混合物を連続的に流通させながら行うこともできる(以下、「流通連続式」と称することもある)。
【0088】
流通連続式にて反応を行う場合、反応溶液中のポリカーボネートジオール化合物の濃度は、反応系の全質量に対して、10〜50質量%とすることが好ましく、不飽和カルボン酸エステル化合物の濃度は反応系の全質量に対して5〜30質量%とすることが好ましい。また、反応混合物の通液線速度は、好ましくは0.5〜400mm/分、さらに1〜200mm/分であるのが好ましい。この通液線速度(mm/分)は、1分間当りの送液量(mm
3/分)(又は送液速度(10
−3mL/分)ともいう)を充填層断面積(mm
2)で除した商で表わされる値をいう。通液線速度を上げることによる充填塔内圧力の増大に伴い、通液が困難となり、耐圧性の高い酵素充填塔が必要となる他に、固定化酵素が塔内圧力増加により破砕される場合が生じることもあるため、通液線速度は400mm/分以下とすることが好ましい。また、生産性の点から通液線速度は1mm/分以上とすることが好ましい。固定化酵素の発現活性は、通液線速度により変化するため、最適な通液線速度を選定して反応条件を決定することで、所望の生産能力、製造コストに見合った反応を行うことができる。反応容器中の反応溶液の流通時間は、30秒〜6時間の範囲とすることができる。
【0089】
(流通連続式反応装置)
本発明の流通連続式反応装置は、本発明のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造のための反応装置であり、リパーゼを含む反応槽と、分子ふるいを含む分子ふるい槽と、反応前の原料混合物及び反応後の反応混合物を収容する反応液充填槽とが順次、循環通液可能に接続され、さらに、原料混合物及び反応混合物を送液する送液ポンプを含んで構成される流通連続式にて反応を行う装置である。
流通連続式反応装置を、例えば、既述のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造方法に用いることで、効率的にポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物を製造することができる。
【0090】
流通連続式にて反応を行う際の装置として、
図1にその一態様を構成図として示す。
図1は、リパーゼを含む反応槽1と、分子ふるいを含む分子ふるい槽2と、反応前の原料混合物及び反応後の反応混合物を収容する反応液充填槽3とが順次、循環通液可能に接続され、さらに、原料混合物及び反応混合物を送液する送液ポンプ4を含んで構成されるポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物製造のための流通連続式反応装置の概略図であり、本発明の製造方法に好適に使用される。当該反応装置を用いることにより、反応を連続的に行うことができ、末端のアクリレート基の割合が十分高まったところ(いわゆる反応の終点)を見極めることができる。
図2に一態様を構成図として示す流通連続式反応装置もまた好適に用いられる。
図2では、リパーゼを含む反応槽5と、分子ふるいを含み、反応前の原料混合物及び反応後の反応混合物を収容する反応液槽6とが循環通液可能に接続され、さらに、原料混合物及び反応混合物を送液する送液ポンプ7を含んで構成される。
【0091】
また反応をバッチ式で行う場合、反応時間は、リパーゼの種類、使用量、反応温度等に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1〜720時間とすることができ、好ましくは1〜360時間であり、より好ましくは2〜240時間である。
【実施例】
【0092】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
なお、末端の官能基の定性・定量はプロトン核磁気共鳴法により測定し、平均分子量及び重合度は、プロトン核磁気共鳴法により測定結果より算出した。ここでプロトン核磁気共鳴法は、溶媒としてCDCl
3を用いて測定試料を調製し、日本電子社製の核磁気共鳴スペクトル測定装置JNM−AL400を用いて、25℃で、
1H−NMRスペクトルを測定して実施した。
【0093】
実施例1(固定化リパーゼPSの調製)
リパーゼPS「アマノ」SDH(アマノエンザイム社製) 150gに100mMリン酸緩衝液(pH7.0)0.6Lと純水を加え溶解後、3Lに定容し、固定化液を調製した。そこに多孔性樹脂担体(LEWATIT VPOC 1600、LANXESS社製)600gを加え、6℃にて12時間攪拌した。その後、デカンテーションにて担体を回収し、純水で洗浄後、減圧乾燥し、固定化リパーゼPS(352g)を取得した。
【0094】
実施例2(バッチ式でのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造)
ポリカーボネートジオール(UM90(1/3) 1,6−ヘキサンジオール/1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合カーボネートジオール(モル比=1:3):平均分子量900:宇部興産製)10.0g(0.011mol)にアクリル酸メチルエステル37.8g(0.439mol)と、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール10mg、モレキュラーシーブ4A(1/16)10.0gを加え、攪拌しながら24時間反応させた。
具体的には、冷却管付き100mlガラス反応器に、反応液と、実施例1で調製した固定化リパーゼPS 2.5gを加え、攪拌下(300rpm)、40℃にて、24時間反応させた。このとき、ポリカーボネートジオールとアクリル酸メチルエステルとが反応した後、反応混合物がモレキュラーシーブ4Aと接触した。
反応終了後、反応混合物を0.2μmフィルターでろ過し、ろ液からロータリーエバポレーターにて、未反応のアクリル酸メチル及び副生するアルコール成分を減圧留去した後、残渣を60℃デシケーター中、2時間、減圧下で乾燥させた。
得られたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の末端のアクリレート基の割合は99.00モル%を越えており、ヒドロキシ基は僅か0.50モル%未満、メチル基は僅か0.50モル%未満であった。
【0095】
実施例3(バッチ式でのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造)
実施例2において、溶媒としてヘプタン50mlを使用したこと、及び反応時間を48時間としたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。
その結果、得られたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の末端のアクリレート基の割合は99.00モル%を越えており、ヒドロキシ基は僅か0.50モル%未満、メチル基は僅か0.50モル%未満であった。
【0096】
実施例4(バッチ式でのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造)
実施例2において、溶媒としてt−ブチルメチルエーテル50mlを使用したこと、及び反応時間を48時間としたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。
その結果、得られたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の末端のアクリレート基の割合は99.00モル%を越えており、ヒドロキシ基は僅か0.50モル%未満、メチル基は僅か0.50モル%未満であった。
【0097】
実施例5(流通連続式でのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造)
反応には
図1に構成図として示される反応装置を用いた。
反応槽1(内径30mm×300mm、ポアサイズ5μmガラスフィルター付);実施例1で調製した固定化リパーゼPS 75gを充填して40℃に保温した。
分子ふるい槽2;モレキュラーシーブ4A(1/16)200.0gを加えた。
反応液充填槽3(内容積1L);ポリカーボネートジオール(UM90(1/3)1,6−ヘキサンジオール/1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合カーボネートジオール(モル比=1:3):平均分子量900:宇部興産製)200.0g(0.22mol)にアクリル酸メチルエステル700.0g(8.14mol)と、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール20mgを加えて原料混合物を調製した。
反応液充填槽3から、上記原料混合物を送液ポンプ4により反応槽1に供給し、ポリカーボネートジオールとアクリル酸メチルエステルとの反応を、リパーゼの存在下、40℃で行った。反応混合物は反応槽1を流通し、分子ふるい槽2へ運ばれ、分子ふるいと接触した。その後、接触液は反応液充填槽3に運ばれた。さらに、送液ポンプ4により反応槽1に供給されて反応、分子ふるいとの接触を繰り返した(連続流通)。
144時間後、反応液充填槽3に蓄積されたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物末端のアクリレート基の割合が99モル%を越えたため反応混合物の流通を止めた。
反応混合物を分取し、得られた反応混合物について、ロータリーエバポレーターにて溶媒を減圧留去した後、残渣を60℃デシケーター中、2時間減圧下で乾燥させた。
得られたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の末端のアクリレート基の割合は99.00モル%を越えており、ヒドロキシ基は僅か0.50モル%未満、メチル基は僅か0.50モル%未満であった。
【0098】
実施例6 (流通連続式でのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造)
反応には
図1に構成図として示される反応装置を用いた。
反応槽1(内径50mm×長さ200mm、ポアサイズ5μmガラスフィルター付);実施例1で調製した固定化リパーゼPS 151.2gを充填して、リボンヒーターで35〜45℃に保温した。
分子ふるい槽2(内径80mm×長さ200mm、ポアサイズ5μmガラスフィルター付);モレキュラーシーブ4A(1/8)873.9gを加えた。
反応液充填槽3(内容積5Lセパラブルフラスコ);ポリカーボネートジオール(UM90(1/3)1,6−ヘキサンジオール/1、4−シクロヘキサンジメタノール共重合カーボネートジオール(モル比=1:3):平均分子量910:宇部興産製706.2g(0.78mol)にアクリル酸メチル2675.8g(31.1mol)と重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.16gを加えて原料混合物を調製した。反応液充填槽3はオイルバスで40〜42℃に保温した。
反応液充填槽3から、上記原料混合物を送液ポンプ4により反応槽1に供給し、ポリカーボネートジオールとアクリル酸メチルとの反応を、リパーゼの存在下、35〜45℃で行った。反応混合物は反応槽1を流通し、分子ふるい槽2へ運ばれ、分子ふるいと接触した。その後、接触液は反応液充填槽3に運ばれた。さらに、送液ポンプ4により反応槽1に供給されて反応、分子ふるいとの接触を繰り返した(連続流通)。
87時間後、反応液充填槽3に蓄積されたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物末端のアクリレート基の割合が99モル%を超えたため反応混合物の流通を止めた。
反応混合物を分取し、得られた反応混合物について、ロータリーエバポレーターにて溶媒を減圧留去した後、さらに残渣を60℃のオイルバス中、真空度1mmHg(133Pa)で2時間減圧留去した。
得られたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の末端のアクリレート基の割合は99.1モル%、ヒドロキシル基は僅か0.3モル%、カーボネートメチル基は僅か0.6モル%であった。
【0099】
実施例7(流通連続式でのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の製造)
反応には
図2に構成図として示される反応装置を用いた。
反応槽5(内径15mm×100mm、ポアサイズ5μmガラスフィルター付);実施例1で調製した固定化リパーゼPS 5.8gを充填して40℃に保温した。
反応液槽6(内容積0.25L);UH−200(ポリ(1,6−ヘキサンジオールカーボネート))ジオール:平均分子量2000:宇部興産製)40.0g(0.02mol)にアクリル酸メチル68.9g(0.80mol)、t−ブチルメチルエーテル 80mlを加えて、溶解後、モレキュラーシーブ4A(1/16)20.0gと、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール10mgを加えて原料混合物を調製した。
反応液槽6から、上記原料混合物を送液ポンプ7により反応槽5に供給し、ポリカーボネートジオールとアクリル酸メチルエステルとの反応を、リパーゼの存在下、40℃で行った。反応混合物は反応槽5を流通し、反応液槽6で分子ふるいと接触した。さらに、送液ポンプ7により反応槽5に供給されて反応、分子ふるいとの接触を繰り返した(連続流通)。
168時間後、反応液槽6に蓄積されたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物末端のアクリレート基の割合が99モル%を越えたため反応混合物の流通を止めた。
反応混合物を回収し、ロータリーエバポレーターにて溶媒を減圧留去した後、残渣を60℃デシケーター中、2時間減圧下で乾燥させ、無色のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物40.85gを得た。
得られたポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物の末端のアクリレート基の割合は99モル%を越えており、ヒドロキシ基は僅か0.2モル%、メチル基は僅か0.5モル%であった。
【0100】
(密着性試験)
実施例6で合成した末端のアクリレート基の割合が99.1モル%のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物(試験例1)、並びに実施例6の組成物にポリカーボネートジオール(UM90(1/3)1,6−ヘキサンジオール/1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合カーボネートジオール(モル比=1:3):平均分子量900:宇部興産製)を添加して、末端のアクリレート基の割合を98.0モル%、94.9モル%、78.6モル%及び49.5モル%に調整したポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物を用意した(試験例2〜5)。
各ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物2gに、開始剤を溶解した酢酸エチル溶液(酢酸エチル1gに開始剤IRGACURE819 0.05gを溶解)を0.5g加えた。調製した溶液を150mm×70mmのポリスチレン(PS)、又はABS樹脂の基材上にそれぞれ乾燥後の塗布厚が50μmとなるように塗布した。80℃のオーブンで、30分溶媒を乾燥させた後、表面にPETフィルムを被せ、UV照射装置(セン特殊光源株式会社製)を使用し、積算光量1000mJ/cm
2で硬化させてコーティング膜を形成した。
専用の治具を用いコーティング膜に2mm間隔で縦横それぞれ11本の切込みを入れ、100個のマスを作った。セロハンテープをマス全体に貼り、消しゴムで擦り、よく密着させた。勢いよくセロハンテープを剥がし、基材への密着性を評価した。1マスでも剥がれれば試験を終了することとし、剥がれるまで、試験を最大10回繰り返した。試験終了後の基材面に剥がれずに残ったマスの数と、剥がれるまで試験を行った回数を評価結果とした。評価結果を表1に示す。なお、密着性の評価結果は、剥がれずに残ったマス数をx、剥がれるまでに行った試験数をyとした場合に、x/100(y)として表記した。
アクリレート基の割合が99.1モル%のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物は、ポリスチレン(PS)では97/100(1)、ABSでは98/100(2)であり、基材への密着性が良好であった。一方、アクリレート基94.9モル%のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物組成物では、48/100(1)、ABSでは85/100(2)であり、密着性の低下がみられた。
【0101】
【表1】