特許第6323605号(P6323605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6323605
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】樹脂組成物および樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/08 20060101AFI20180507BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20180507BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20180507BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20180507BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   C08L1/08
   C08L33/06
   C08L67/00
   C08L51/04
   C08L23/00
【請求項の数】19
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-184698(P2017-184698)
(22)【出願日】2017年9月26日
【審査請求日】2017年9月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 涼
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】森山 正洋
(72)【発明者】
【氏名】八百 健二
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/088736(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/076250(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/055590(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/087812(WO,A1)
【文献】 特開2004−204217(JP,A)
【文献】 特開2006−328368(JP,A)
【文献】 特開2008−133445(JP,A)
【文献】 特開2010−037485(JP,A)
【文献】 特表平06−504558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル化合物(A)と、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、
ポリエステル樹脂(C)と、
コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体(D)と、
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロースエステル化合物(A)が、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、及びセルロースアセテートブチレート(CAB)から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースエステル化合物(A)が、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下のポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、ポリメタクリル酸メチルである請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、重量平均分子量が5万未満のポリ(メタ)アクリレート系化合物である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ポリエステル樹脂(C)が、ポリヒドロキシアルカノエートである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂(C)が、ポリ乳酸である請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合体(D)におけるコアシェル構造の重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体として、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を前記シェル層に含む重合体である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記重合体(D)におけるコアシェル構造の重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体として、アルキル鎖の炭素数が異なる2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を前記シェル層に含む重合体である請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記重合体(D)におけるオレフィン系重合体が、炭素数2以上8以下のα−オレフィンと、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、の重合体である請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記重合体(D)におけるオレフィン系重合体が、エチレンとアクリル酸メチルとの重合体である請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記セルロースエステル化合物(A)に対する、前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計の質量比が、0.05以上1未満である請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計に対する、前記ポリエステル樹脂(C)の質量比が、0.3以上0.7以下である請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記セルロースエステル化合物(A)、前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計に対する、前記重合体(D)の質量比が、0.03以上0.3以下である請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
樹脂組成物に対する前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が、50質量%以上である請求項13〜請求項15のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1〜請求項16のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
【請求項18】
樹脂成形体の厚さが2mmのときのヘイズ値が10%以下である請求項17に記載の樹脂成形体。
【請求項19】
射出成形体である請求項17又は請求項18に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物としては種々のものが提供され、各種用途に使用されている。樹脂組成物は、特に、家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用されている。また、事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも熱可塑性樹脂が使用されている。
近年では、植物由来の樹脂が利用されており、従来から知られている植物由来の樹脂の一つにセルロースエステル化合物がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、「(A)ポリ乳酸樹脂、(B)メタクリル系樹脂および(C)屈折率が1.45〜1.50の範囲である熱可塑性樹脂を配合してなる樹脂組成物であって、(A)ポリ乳酸樹脂と(B)メタクリル系樹脂の重量比が、70/30〜10/90であり、かつ(A)ポリ乳酸樹脂および(B)メタクリル系樹脂の合計量と(C)屈折率が1.45〜1.50の範囲である熱可塑性樹脂の重量比が、99/1〜1/99であって、前記(B)メタクリル系樹脂が、重量平均分子量が5万〜45万であり、(1)ガラス転移温度110℃以上、及び(2)シンジオタクチシチー40%以上の少なくとも1つを満たすものである樹脂組成物。」が開示されている。そして、特許文献1には、(C)屈折率が1.45〜1.50の範囲である熱可塑性樹脂として、セルロース系樹脂(セルロースエステル化合物)が開示されている。
また、特許文献2には、「ポリ乳酸(A)、セルロース(アセテート)プロピオネート及びセルロース(アセテート)ブチレートから選ばれる少なくとも1種のセルロース誘導体(B)並びに(メタ)アクリレート重合体(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5298496号
【特許文献2】特開2010−037485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セルロースエステル化合物(A)を含む樹脂組成物による樹脂成形体には、セルロースエステル化合物(A)とポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)とポリエステル樹脂(C)とを含む樹脂組成物による樹脂成形体が知られている。この樹脂成形体には、引張破断歪の向上が要求されている。
【0006】
そこで、本発明の課題は、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、引張破断歪に優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
請求項1に係る発明は、
セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体(D)と、を含む樹脂組成物である。
【0009】
請求項2に係る発明は、
前記セルロースエステル化合物(A)が、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、及びセルロースアセテートブチレート(CAB)から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂組成物である。
【0010】
請求項3に係る発明は、
前記セルロースエステル化合物(A)が、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)である請求項2に記載の樹脂組成物である。
【0011】
請求項4に係る発明は、
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下のポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0012】
請求項5に係る発明は、
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、ポリメタクリル酸メチルである請求項4に記載の樹脂組成物である。
【0013】
請求項6に係る発明は、
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、重量平均分子量が5万未満のポリ(メタ)アクリレート系化合物である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0014】
請求項7に係る発明は、
ポリエステル樹脂(C)が、ポリヒドロキシアルカノエートである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0015】
請求項8に係る発明は、
前記ポリエステル樹脂(C)が、ポリ乳酸である請求項7に記載の樹脂組成物である。
【0016】
請求項9に係る発明は、
前記重合体(D)におけるコアシェル構造の重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体として、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を前記シェル層に含む重合体である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0017】
請求項10に係る発明は、
前記重合体(D)におけるコアシェル構造の重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体として、アルキル鎖の炭素数が異なる2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を前記シェル層に含む重合体である請求項9に記載の樹脂組成物である。
【0018】
請求項11に係る発明は、
前記重合体(D)におけるオレフィン系重合体が、炭素数2以上8以下のα−オレフィンと、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、の重合体である請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0019】
請求項12に係る発明は、
前記重合体(D)におけるオレフィン系重合体が、エチレンとアクリル酸メチルとの重合体である請求項11に記載の樹脂組成物である。
【0020】
請求項13に係る発明は、
前記セルロースエステル化合物(A)に対する、前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計の質量比が、0.05以上1未満である請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0021】
請求項14に係る発明は、
前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計に対する、前記ポリエステル樹脂(C)の質量比が、0.3以上0.7以下である請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0022】
請求項15に係る発明は、
前記セルロースエステル化合物(A)、前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計に対する、前記重合体(D)の質量比が、0.03以上0.3以下である請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0023】
請求項16に係る発明は、
樹脂組成物に対する前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が、50質量%以上である請求項13〜請求項15のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0024】
請求項17に係る発明は、
請求項1〜請求項16のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体である。
【0025】
請求項18に係る発明は、
樹脂成形体の厚さが2mmのときのヘイズ値が10%以下である請求項17に記載の樹脂成形体である。
【0026】
請求項19に係る発明は、
射出成形体である請求項17又は請求項18に記載の樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項2、又は3に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)がセルロースジアセテート(DAC)である場合に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項4に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)として、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下のポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項5に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)として、ポリメタクリル酸メチルを含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項6に係る発明によれば、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が、重量平均分子量が5万以上のポリ(メタ)アクリレート系化合物である場合に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項7に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、ポリエステル樹脂(C)として、ポリヒドロキシアルカノエートを含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項8に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、ポリエステル樹脂(C)として、ポリ乳酸を含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項9に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、コアシェル構造の重合体として、コア層とコア層の表面上にアルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体を含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項10に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、コアシェル構造の重合体として、コア層とコア層の表面上にアルキル鎖の炭素数が異なる2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体を含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項11に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、オレフィン系重合体として、炭素数2以上8以下のα−オレフィンと、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、の重合体を含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項12に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、オレフィン系重合体として、エチレンとアクリル酸メチルとの重合体を含み、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項13に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)に対する、前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計の質量比が、1以上である場合に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項14に係る発明によれば、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂の合計に対する、前記ポリエステル樹脂(C)の質量比が、0.3未満0.7超えである場合に比べ、透明性の低下を抑制しつつ、かつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項15に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)、前記ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)及び前記ポリエステル樹脂(C)の合計に対する、前記共重合体(D)の質量比が、0.03未満である場合に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項16に係る発明によれば、樹脂組成物に対する前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が、50質量%未満である場合に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
請求項17、18、又は19に係る発明によれば、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物を含む樹脂成形体である場合に比べ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書において、対象物中の各成分の量は、対象物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、対象物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
また、「Aの重合体」との表記は、Aのみの単独重合体に加え、AとA以外の単量体との共重合体も包含する表現である。同様に、「AとBとの共重合体」との表記は、A及びBのみの共重合体(以下、便宜上「単独共重合体」とも称する)に加え、AとBとA及びB以外の単量体との共重合体も包含する表現である。
また、セルロースエステル化合物(A)、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)、ポリエステル樹脂(C)、及び重合体(D)を、各々、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)とも称する。
【0029】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体(D)と、を含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、その他の成分を含んでもよい。
【0030】
従来、セルロースエステル化合物(A)(特に、水酸基の一部がアシル基で置換されたセルロースアシレート)は、非可食資源からなり、化学重合を必要としない一次誘導体であるため、環境に優しい樹脂材料である。また、強固な水素結合性から、樹脂材料としては高い弾性率を有する。さらに、脂環族構造であることから透明性が高いという特長がある。
【0031】
ところで、セルロースエステル化合物(A)を含む樹脂組成物による樹脂成形体には、セルロースエステル化合物(A)とポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)とポリエステル樹脂(C)とを含む樹脂組成物による樹脂成形体が知られている。この樹脂成形体には、引張破断歪の向上が要求されている。
【0032】
それに対して、本実施形態に係る樹脂組成物は、上記構成により、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、のみを含む樹脂組成物に比べ、引張破断歪に優れる樹脂成形体が得られる。その理由は、次の通り推測される。
本実施形態に係る成分(D)は、弾性を有している。そのため、成分(D)を樹脂全体に分散させることができれば、得られる樹脂成形体の引張破断歪を向上させることができると考えられる。しかしながら、複数種の樹脂を含む樹脂組成物の混練物においては、それぞれの樹脂の相溶性の違いから混練物中に複数の樹脂相を形成しやすく、それぞれの樹脂相においては成分(D)に対する親和性が異なるため、成分(D)を樹脂全体に均一に近い状態で分散させることは困難である。例えば、セルロースエステル化合物(A)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、を主に含む樹脂組成物に、成分(D)を添加しても、樹脂組成物の混練物中に形成された成分(A)の樹脂相(以下「(A)相」とも称する。)、及び成分(B)の樹脂相(以下「(B)相」とも称する。)それぞれに対して、成分(D)の親和性が異なるため、成分(D)は、(A)相か(B)相のいずれかに局在化しやすく、成分(D)が樹脂全体に行き渡りにくい。また同様に、セルロースエステル化合物(A)とポリエステル樹脂(C)と、を主に含む樹脂組成物に成分(D)を添加しても、樹脂領域全体に分散しにくく、成分(D)は、(A)相か成分(C)の相(以下「(C)相」とも称する。)のいずれか一方に局在化しやすい。
ここで、セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、を含む樹脂組成物に、本実施形態に係る成分(D)が存在していると、成分(D)が、上記樹脂組成物の混練物中に形成された成分(A)の樹脂相と、成分(B)及び成分(C)の樹脂相に対して、両者に均一に近い状態で分散する。この理由は定かではないが、成分(D)と形成された各樹脂相との親和性の差が小さいことが1つ考えられる。成分(D)が偏在し難くなり、成分(D)が各樹脂相に均一に近い状態で行き渡ることによって、成分(D)が保有する弾性を樹脂全体に付与することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、引張破断歪に優れるだけでなく、透明性の低下を抑制した樹脂成形体が得られる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
成分(B)及び成分(C)は、各々、成分(A)と相溶性が高いものの、互いに混合したとき、完全に相溶するわけではない。そのため、成分(A)と成分(B)とを混合した場合、(A)相と(B)相とが形成される。同様に、成分(A)と成分(C)とを混合した場合、(A)相と(C)相とが形成される。そのため、各成分の屈折率の差から、これら各混合物(つまり樹脂組成物)は、透明性が低下する傾向がある。
一方、各成分の屈折率は、成分(C)、成分(A)、成分(B)の順で小さい。つまり、成分(A)に比べ成分(C)の屈折率が高く、成分(A)に比べ成分(B)の屈折率が低い。それに加え、成分(B)と成分(C)との相溶性は、成分(A)と相溶性に比べて高いため、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を混合すると、(A)相と、成分(B)及び成分(C)とが相溶した相(以下「(B+C)相)とも称する。)とが形成される。そのため、屈折率差が大きい成分(B)及び成分(C)が(B+C)相を形成することで、(B+C)相の屈折率が(A)相(つまり成分(A))の屈折率に近づく。その結果、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の混合物(つまり樹脂組成物)の透明性の低下が抑制される。
そして、この成分(A)、成分(B)及び成分(C)の3成分の系に、成分(D)を配合しても、透明性の低下が抑制される。その理由は、まず上述したように、成分(D)を配合すると、成分(D)は(A)相及び(B+C)相の各相に対して均一に近い状態で分散する。そして、成分(D)の屈折率は、(A)相及び(B+C)相の両相に近いものである。そのため、成分(D)を配合しても、透明性の低下が抑制されると考えられる。
【0034】
以上により、本実施形態に係る樹脂組成物は、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られると推測され、さらには、透明性の低下を抑制しつつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られると推測される。
【0035】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の成分を詳細に説明する。
【0036】
[セルロースエステル化合物(A):成分(A)]
セルロースエステル化合物(A)は、例えば、セルロースにおける水酸基の少なくも一部がアシル基により置換(アシル化)されたセルロース誘導体の樹脂(セルロースアシレート)である。具体的には、セルロースエステル化合物(A)は、例えば、一般式(CE)で表されるセルロース誘導体である。
【0037】
【化1】
【0038】
一般式(CE)中、RCE1、RCE2、及びRCE3は、それぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表す。nは2以上の整数を表す。ただし、n個のRCE1、n個のRCE2、及びn個のRCE3のうちの少なくとも一部はアシル基を表す。
なお、RCE1、RCE2、及びRCE3で表されるアシル基は、炭素数1以上6以下のアシル基が好ましい。
【0039】
一般式(CE)中、nの範囲は特に制限されないが、200以上1000以下が好ましく、500以上1000以下がより好ましい。
【0040】
一般式(CE)中、RCE1、RCE2、及びRCE3がそれぞれ独立にアシル基を表すとは、一般式(CE)で表されるセルロース誘導体の水酸基の少なくとも一部がアシル化されていることを示している。
つまり、一般式(CE)で表されるセルロース誘導体の分子中にn個あるRCE1は、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。同様に、n個あるRCE2、及びn個あるRCE3も、各々、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。
【0041】
ここで、セルロースエステル化合物(A)は、アシル基として、炭素数1以上6以下のアシル基を有することが好ましい。炭素数7以上のアシル基を有する場合に比べ、透明性の低下を抑制しつつ、引張破断歪に優れた樹脂成形体が得られ易くなる。
【0042】
アシル基は「−CO−RAC」の構造で表され、RACは、水素原子、又は炭化水素基(より好ましくは炭素数1以上5以下の炭化水素基)を表す。
ACで表される炭化水素基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることがより好ましい。
ACで表される炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、飽和炭化水素基であることがより好ましい。
ACで表される炭化水素基は、炭素及び水素以外の他の原子(例えば酸素、窒素等)を有していてもよいが、炭素及び水素のみからなる炭化水素基であることがより好ましい。
【0043】
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。
これらの中でもアシル基としては、樹脂組成物の成形性向上と共に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、炭素数2以上4以下のアシル基がより好ましく、炭素数2以上3以下のアシル基がさらに好ましい。
【0044】
セルロースエステル化合物(A)としては、セルロースアセテート(セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)等が挙げられる。
セルロースエステル化合物(A)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0045】
これらの中でも、セルロースエステル化合物(A)としては、樹脂組成物の成形性向上と共に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)が好ましく、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)がより好ましい。
【0046】
セルロースエステル化合物(A)の重量平均重合度は、樹脂組成物の成形性向上と共に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、200以上1000以下が好ましく、500以上1000以下がより好ましい。
【0047】
ここで、重量平均重合度は、以下の手順で重量平均分子量(Mw)から求める。
まず、セルロースエステル化合物(A)の重量平均分子量(Mw)を、テトラヒドロフラン用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー社製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にてポリスチレン換算で測定する。
次いで、セルロースエステル化合物(A)の構成単位分子量で割ることで、セルロースエステル化合物(A)の重量平均重合度を求める。なお、例えば、セルロースアシレートの置換基がアセチル基の場合、構成単位分子量は、置換度が2.4のとき263、置換度が2.9のとき284となる
【0048】
セルロースエステル化合物(A)の置換度は、樹脂組成物の成形性向上と共に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、2.1以上2.8以下が好ましく、置換度2.2以上2.8以下がより好ましく、2.3以上2.75以下がさらに好ましく、2.35以上2.75以下が特に好ましい。
【0049】
なお、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)において、樹脂組成物の成形性向上と共に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、アセチル基とプロピオニル基との置換度の比(アセチル基/プロピオニル基)は、5/1以上1/20以下が好ましく、3/1以上1/15以下がより好ましい。
セルロースアセテートブチレート(CAB)において、樹脂組成物の成形性向上と共に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、アセチル基とブチリル基との置換度の比(アセチル基/ブチリル基)は、5/1以上1/20以下が好ましく、4/1以上1/15以下がより好ましい。
【0050】
ここで、置換度とは、セルロースが有する水酸基がアシル基により置換されている程度を示す指標である。つまり、置換度は、セルロースエステル化合物(A)のアシル化の程度を示す指標となる。具体的には、置換度は、セルロースアシレートのD−グルコピラノース単位に3個ある水酸基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。
そして、置換度は、H−NMR(JMN−ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来ピークの積分比から測定する。
【0051】
[ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B):成分(B)]
ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含む化合物(樹脂)である。ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)は、(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体に由来する構成単位を有する化合物(樹脂)であってもよい。
なお、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)が有する構成単位(単量体に由来する単位)は、1種の単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0052】
ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)において、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制、引張弾性率向上及び引張破断歪向上の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%、さらに好ましくは100質量%である。
【0053】
ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘプチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
【0054】
これらの中でも、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下(好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上2以下、さらに好ましくは1)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがよい。
ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)のアルキル鎖が短いほうが、SP値がポリエステル樹脂(C)に近づくため、ポリ(メタ)アクリレート化合物(C)とポリエステル樹脂(C)の相溶性が向上し、ヘイズが良化する。
【0055】
つまり、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)は、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下(好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上2以下、さらに好ましくは1)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上(好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%、さらに好ましくは100質量%)含む重合体がよい。
【0056】
そして、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)としては、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下(好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上2以下、さらに好ましくは1)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位が100質量%である重合体がよい。すなわち、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)としては、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下(好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上2以下、さらに好ましくは1)のポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルがよい。なお、アルキル鎖の炭素数が1のポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0057】
なお、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)において、(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体としては、
スチレン類[例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン等)、ビニルナフタレン(2−ビニルナフタレン等)、ヒドロキシスチレン(4−エテニルフェノール等)等のスチレン骨格を有する単量体]、
不飽和ジカルボン酸無水物類[例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸等の不飽和ジカルボン酸無水物骨格を有する単量体]等が挙げられる。
【0058】
ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、15,000以上120,000以下(好ましくは20,000超100,000以下、より好ましくは22,000以上100,000以下、さらに好ましくは25,000以上100,000以下)がよい。
【0059】
特に、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、50,000未満(つまり、5万未満)が好ましく、40,000以下がより好ましく、35,000以下がさらに好ましい。ただし、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、15,000以上がよい。
【0060】
ポリメチルメタクリレートの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HLC−8320GPCを用い、東ソー社製カラム・TSKgelα−Mを使用し、テトラヒドロフラン溶媒で行う。そして、重量平均分子量(Mw)は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0061】
[ポリエステル樹脂(C):成分(C)]
ポリエステル樹脂(C)は、例えば、ヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカン酸)の重合体、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体、環状ラクタムの開環重縮合体等である。
ポリエステル樹脂(C)としては、脂肪族ポリエステル樹脂がよい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカノエートの重合体)、脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸との重縮合体等が挙げられる。
これらの中でも、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制、及び引張破断歪向上の観点から、ポリエステル樹脂(C)としては、ポリヒドロキシアルカノエートが好ましい。
【0062】
ポリヒドロキシアルカノエートとしては、例えば、一般式(PHA)で表される構造単位を有する化合物が挙げられる。
なお、一般式(PHA)で表される構造単位を有する化合物おいて、高分子鎖の末端(主鎖の末端)は、両端ともがカルボキシル基であってもよいし、片末端のみがカルボキシル基でもう一方の末端が他の基(例えば水酸基)であってもよい。
【0063】
【化2】
【0064】
一般式(PHA)中、RPHA1は、炭素数1以上10以下のアルキレン基を表す。nは、2以上の整数を表す。
【0065】
一般式(PHA)中、RPHA1が表すアルキレン基としては、炭素数3以上6以下のアルキレン基が好ましい。RPHA1が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよいが、分岐状が好ましい。
【0066】
ここで、一般式(PHA)中、RPHA1がアルキレン基を表すとは、1)RPHA1が同じアルキレン基を表す[O−RPHA1−C(=O)−]構造を有すること、2)RPHA1が異なるアルキレン基(RPHA1が炭素数又は分岐が異なるアルキレン基)を表す複数の[O−RPHA1−C(=O)−]構造(即ち、[O−RPHA1A−C(=O)−][O−RPHA1B−C(=O)−]構造)を有することを示している。
つまり、ポリヒドロキシアルカノエートは、1種のヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカン酸)の単独重合体であってもよいし、2種以上のヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカン酸)の共重合体であってもよい。
【0067】
一般式(PHA)中、nの上限は特に限定されないが、例えば、20000以下が挙げられる。nの範囲は、500以上10000以下が好ましく、1000以上8000以下がより好ましい。
【0068】
ポリヒドロキシアルカノエートとしては、ヒドロキシアルカン酸(乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシイソヘキサン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシ−n−オクタン酸等)の単独重合体、又はこれら2種以上のヒドロキシアルカン酸の共重合体が挙げられる。
【0069】
これらの中でも、ポリヒドロキシアルカノエートは、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、炭素数2以上4以下の分岐状のヒドロキシアルカン酸の単独重合体、炭素数2以上4以下の分岐状のヒドロキシアルカン酸と炭素数5以上7以上の分岐状のヒドロキシアルカン酸との単独共重合体が好ましく、炭素数3の分岐状のヒドロキシアルカン酸の単独重合体(つまりポリ乳酸)、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸との単独共重合体(つまりポリヒドロキシブチレートヘキサノエート)がより好ましく、炭素数3の分岐状のヒドロキシアルカン酸の単独重合体(つまりポリ乳酸)がさらに好ましい。
なお、ヒドロキシアルカン酸の炭素数はカルボキシル基の炭素も含む数である。
【0070】
ポリ乳酸としては、例えば、L−乳酸を構成単位とするポリL−乳酸、D−乳酸を構成単位とするポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸とを構成単位とするポリDL−乳酸等、及びこれらの混合物が挙げられる。L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方には、乳酸系以外の他の単量体が共重合されていてもよい。
【0071】
ポリ乳酸の重合法としては、特に制限はなく、縮重合法、開環重合法など公知の方法のいずれによって重合されたものであってもよい。例えば、縮重合法による場合は、ポリ乳酸はL−乳酸もしくはD−乳酸又はこれらの混合物を直接脱水縮重合することにより任意の組成に構成されたものである。また、開環重合法による場合は、乳酸系樹脂は乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等と共に混合し、触媒を用いて重合させることにより、任意の組成に構成されたポリ乳酸としたものである。前記ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、L−乳酸及びD−乳酸からなるDL−ラクチドがある。
【0072】
ポリヒドロキシブチレートヘキサノエートにおいて、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、3−ヒドロキシ酪酸(3−ヒドロキシブチレート)と3−ヒドロキシヘキサン酸(3−ヒドロキシヘキサノエート)との共重合体に対する3−ヒドロキシヘキサン酸(3−ヒドロキシヘキサノエート)の共重合比は、3モル%以上20モル%以下が好ましく、4モル%以上15モル%以下がより好ましく、5モル%以上12モル%以下がさらに好ましい。
【0073】
なお、3−ヒドロキシヘキサン酸(3−ヒドロキシヘキサノエート)の共重合比の測定方法は、H−NMRを用い、ヘキサノエート末端とブチレート末端由来のピークの積分値からヘキサノエート比率を算出する。
【0074】
ポリエステル樹脂(C)の重量平均分子量(Mw)は、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、10,000以上1,000,000以下(好ましくは50,000以上800,000以下、より好ましくは100,000以上600,000以下)であることがよい。
【0075】
ポリエステル樹脂(C)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー(株)製、HPLC1100を用い、東ソー(株)製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行う。そして、重量平均分子量(Mw)は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0076】
[重合体(D):成分(D)]
重合体(D)は、コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体である。
重合体(D)は、例えば、常温(25℃)において弾性を有し、高温において熱可塑性樹脂と同じく軟化する性質を有するもの(熱可塑性エラストマー)であることがよい。
【0077】
(コアシェル構造の重合体)
本実施形態に係るコアシェル構造の重合体は、コア層と前記コア層の表面上にシェル層とを有するコアシェル構造の重合体である。
コアシェル構造の重合体は、コア層を最内層とし、シェル層を最外層とする重合体(具体的には、コア層となる重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体をグラフト重合してシェル層とした重合体)である。
なお、コア層とシェル層との間には、1層以上の他の層(例えば1層以上6層以下の他の層)を有してよい。なお、他の層を有する場合、コアシェル構造の重合体は、コア層となる重合体に、複数種の重合体をグラフト重合して多層化した重合体である。
【0078】
コア層は、特に限定されるものではないが、ゴム層であることがよい。ゴム層は、(メタ)アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、共役ジエンゴム、α−オレフィンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、ポリエステルゴム、ポリアミドゴム、これら2種以上の共重合体ゴム等の層が挙げられる。
これらの中も、ゴム層は、(メタ)アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、共役ジエンゴム、α−オレフィンゴム、これら2種以上の共重合体ゴム等の層が好ましい。
なお、ゴム層は、架橋剤(ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート等)を共重合して架橋させたゴム層であってもよい。
【0079】
(メタ)アクリルゴムとしては、例えば、(メタ)アクリル成分(例えば、(メタ)アクリル酸の炭素数2以上6以下のアルキルエステル等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
シリコーンゴムとしては、例えば、シリコーン成分(ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルシロキサン等)で構成されたゴムが挙げられる。
スチレンゴムとしては、例えば、スチレン成分(スチレン、α−メチルスチレン等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
共役ジエンゴムとしては、例えば、共役ジエン成分(ブタジエン、イソプレン等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
α−オレフィンゴムは、α−オレフィン成分(エチレン、プロピレン、2−メチルプロピレン)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
共重合体ゴムとしては、例えば、2種以上の(メタ)アクリル成分を重合した共重合体ゴム、(メタ)アクリル成分とシリコーン成分を重合した共重合体ゴム、(メタ)アクリル成分と共役ジエン成分とスチレン成分との共重合体等が挙げられる。
【0080】
シェル層に含有される(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル鎖の水素の少なくとも一部が置換されていてもよい。その置換基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基等が挙げられる。
【0081】
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体として、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体が好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上2以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体がより好ましく、アルキル鎖の炭素数が1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体がさらに好ましい。特に、アルキル鎖の炭素数が異なる2種以上のアクリル酸アルキルエステルの共重合体が好ましい。
【0082】
コアシェル構造の重合体におけるシェル層の重合体の含有量は、コアシェル構造の重合体全体に対して、1質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0083】
本実施形態に係るコアシェル構造の重合体は、市販品を用いてもよく、また、公知の方法により作製することもできる。
市販品としては、例えば、三菱ケミカル製“メタブレン”、カネカ製“カネエース”、ダウケミカル製“パラロイド”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0084】
公知の方法としては、乳化重合法が挙げられる。製造方法として具体的には次の方法が例示される。まず単量体の混合物を乳化重合させてコア粒子(コア層)を作った後、他の単量体の混合物をコア粒子(コア層)の存在下において乳化重合させてコア粒子(コア層)の周囲にシェル層を形成するコアシェル構造の重合体を作る。
また、コア層とシェル層との間に他の層を形成する場合は、他の単量体の混合物の乳化重合を繰り返して、目的とするコア層と他の層とシェル層とから構成されるコアシェル構造の重合体を得る。
【0085】
本実施形態に係るコアシェル構造の重合体の平均一次粒子径は、特に限定されるものではないが、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点で、50nm〜500nmであることが好ましく、さらに、50nm〜400nmであることがより好ましく、100nm〜300nmであることが特に好ましく、150nm〜250nmであることが最も好ましい。
なお、平均一次粒径とは、次の方法により測定された値をいう。走査型電子顕微鏡により粒子を観察し、一次粒子の最大径を一次粒子径とし、粒子100個について、一次粒子径を測定し、平均した数平均一次粒子径である。具体的には、樹脂組成物中のコアシェル構造の重合体の分散形態を走査型電子顕微鏡により観察することにより求めることができる。
【0086】
(オレフィン系重合体)
オレフィン系重合体において、構成単位として含まれるα−オレフィンとして、エチレン、プロピレン、2−メチルプロピレン等が挙げられる。得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、炭素数2以上8以下のα−オレフィンが好ましく、炭素数2以上3以下のα−オレフィンがより好ましい。これらの中でも、エチレンがさらに好ましい。
【0087】
オレフィン系重合体において、α−オレフィンと重合する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上4以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上2以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。
特に、オレフィン重合体としては、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、エチレンとアクリル酸メチルとの重合体であるものが好ましい。
【0088】
オレフィン系重合体は、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含む。得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制及び引張破断歪向上の観点から、α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上97質量%以下含むことが好ましく、70質量%以上85質量%以下含むことがより好ましい。
【0089】
オレフィン系重合体は、α−オレフィンに由来する構成単位、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。ただし、他の構成単位は、オレフィン系重合体における全構成単位に対して10質量%以下とすることがよい。
【0090】
[成分(A)〜成分(D)の含有量又は質量比]
各成分の含有量又は質量比について説明する。各成分の含有量又は質量比は、得られる樹脂成形体の透明性の低下抑制、及び引張破断歪向上の観点から、次の範囲が好ましい。なお、各成分の略称は次の通りである。
成分(A)=セルロースエステル化合物(A)
成分(B)=ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)
成分(C)=ポリエステル樹脂(C)
成分(D)=コアシェル構造の重合体、及びオレフィン系重合体から選択される少なく とも1種の重合体(D)
【0091】
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計に対する、成分(A)の質量比[(A)/((A)+(B)+(C)+(D))]は、0.5以上0.93以下が好ましく、0.66以上0.89以下がより好ましく、0.74以上0.85以下がさらに好ましい。
【0092】
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計に対する、成分(B)の質量比[(B)/((A)+(B)+(C)+(D))]は、0.01以上0.25以下が好ましく、0.015以上0.19以下がより好ましく、0.025以上0.14以下がさらに好ましい。
【0093】
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計に対する、成分(C)の質量比[(C)/((A)+(B)+(C)+(D))]は、0.01以上0.25以下が好ましく、0.015以上0.19以下がより好ましく、0.025以上0.14以下がさらに好ましい。
【0094】
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計に対する、成分(D)の質量比[(D)/((A)+(B)+(C)+(D))]は、0.006以上0.22以下が好ましく、0.038以上0.17以下がより好ましく、0.07以上0.155以下がさらに好ましい。
【0095】
成分(A)に対する、成分(B)及び成分(C)の合計の質量比[(B)+(C)/(A)]は、0.05以上1以下が好ましく、0.75以上0.5以下がより好ましく、0.1以上0.3以下がさらに好ましい。
上記質量比が、0.05未満であると、得られる樹脂成形体の引張弾性率が低下しやすい。
【0096】
成分(B)及び成分(C)の合計に対する、成分(C)の質量比[(C)/((B)+(C))]は、0.3以上0.7以下が好ましく、0.35以上0.65以下がより好ましく、0.4以上0.6以下がさらに好ましい。
【0097】
成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計に対する、成分(D)の質量比[(D)/((A)+(B)+(C))]は、0.03以上0.3以下が好ましく、0.05以上0.2以下がより好ましく、0.07以上0.15以下がさらに好ましい。
上記質量比が、0.3超えであると、得られる樹脂成形体の引張弾性率が低下しやすい。
【0098】
樹脂組成物に対する成分(A)の含有量は、得られる樹脂成形体の引張破断歪向上の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0099】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、可塑剤、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。
また、必要に応じて、酢酸放出を防ぐための受酸剤、反応性トラップ剤などの成分(添加剤)を添加してもよい。受酸剤としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの金属水酸化物;炭酸カルシウム;タルク;などが挙げられる。
反応性トラップ剤としては、例えば、エポキシ化合物、酸無水物化合物、カルボジイミドなどが挙げられる。
これらの成分の含有量は、樹脂組成物全量に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0100】
その他の成分としては、可塑剤を配合することが好ましい。可塑剤としては、公知のものであれば特に限定されず、例えば、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、セバシン酸エステル化合物、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
これらの中でも、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物が好ましく、アジピン酸エステル含有化合物がより好ましい。
【0101】
アジピン酸エステル含有化合物(アジピン酸エステルを含む化合物)とは、アジピン酸エステル単独の化合物、又は、アジピン酸エステルとアジピン酸エステル以外の成分(アジピン酸エステルとは異なる化合物)との混合物であることを示す。ただし、アジピン酸エステル含有化合物は、アジピン酸エステルを化合物全成分に対して50質量%以上で含むことがよい。
【0102】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記樹脂(セルロースエステル化合物(A)、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)、ポリエステル樹脂(C)、及び重合体(D)以外の他の樹脂を含有していてもよい。ただし、他の樹脂を含む場合、樹脂組成物の全量に対する他の樹脂の含有量は、5質量%以下がよく、1質量%未満であることが好ましい。他の樹脂は、含有しないこと(つまり0質量%)がより好ましい。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、およびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、セルロースエステル化合物(A)と、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体(D)と、を含む樹脂組成物を調製する工程を有する。
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースエステル化合物(A)と、ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体(D)と、必要に応じて、その他の成分等と、を含む混合物を溶融混練することにより製造される。他に、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することによっても製造される。
溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には、例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0104】
<樹脂成形体>
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
【0105】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が好ましい。この点で、樹脂成形体は、射出成形によって得られた射出成形体であることが好ましい。
射出成形のシリンダ温度は、例えば160℃以上280℃以下であり、好ましくは180℃以上240℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば40℃以上90℃以下であり、60℃以上80℃以下がより好ましい。
射出成形は、例えば、日精樹脂工業社製NEX500、日精樹脂工業社製NEX150、日精樹脂工業社製NEX70000、日精樹脂工業社製PNX40、住友機械社製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0106】
本実施形態に係る樹脂成形体を得るための成形方法は、前述の射出成形に限定されず、例えば、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい
【0107】
本実施形態に係る樹脂成形体は、樹脂成形体の厚さが2mmのときのヘイズ値が10%以下(好ましくは7%以下)であることがよい。樹脂成形体の厚さが2mmのときのヘイズ値が10%以下であると、樹脂成形体は、透明性を有するといえる。
なお、樹脂成形体のヘイズ値の理想値は0%であるが、製造上の観点から、0.5%以上がよい。
樹脂成形体のヘイズ値は、実施例で示す方法により測定される値である。
【0108】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、玩具、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;ブロック組み立て玩具;プラスチックモデルキット;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0109】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0110】
<各材料の準備>
次の材料を準備した。
【0111】
(セルロースエステル化合物(A)の準備)
・CE1: 「CAP−482−20(EASTMAN CHEMICAL社)」
・CE2: 「CAB−171−15(EASTMAN CHEMICAL社)」
・CE3: 「CAB−381−20(EASTMAN CHEMICAL社)」
・CE4: 「CAB−500−5(EASTMAN CHEMICAL社)」
・CE5: 「L−50((株)ダイセル)」、DAC
【0112】
セルロースエステル化合物(A)の特性について、表1に一覧にして示す。表1中、DPwは重量平均重合度を示す。また、DS(Ac)、DS(Pr)、DS(Bt)は、各々、アセチル基の置換度、プロピオニル基の置換度、ブチリル基の置換度を表す。
【0113】
【表1】
【0114】
(ポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)の準備)
・B1: 「デルパウダ 500V(旭化成(株))」、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、PS換算Mw=25,000
・B2: 「スミペックス MHF(住友化学(株))」、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、Mw=95,000
・B3: 「デルペット980N(旭化成(株))」、メタクリル酸メチル(MMA)とスチレン(St)と無水マレイン酸(MAH)との単独共重合体(質量比=MMA:St:MAH=67:14:19)、Mw=110,000
・B4: 「TX−100S(デンカ(株))」、メタクリル酸メチル(MMA)とスチレン(St)との単独共重合体(質量比=MMA:St=61:40)、Mw=105,000
・B5: メタクリル酸メチル(MMA)とスチレン(St)との単独共重合体(質量比=MMA:St=30:70)、Mw=77,000
・B6: アクリル酸メチル(MA)とスチレン(St)との単独共重合体(質量比=MA:St=65:35)、Mw=72,000
・B7:ポリメタクリル酸エチル、Mw=55,000
【0115】
(ポリエステル樹脂(C)の準備)
・C1: 「ingeo biopolymer 3001D(natureworks社)」、ポリ乳酸(PLA)
・C2: 「AONILEX X151A((株)カネカ)」、3−ヒドロキシ酪酸(3−ヒドロキシブチレート)と3−ヒドロキシヘキサン酸(3−ヒドロキシヘキサノエート)との単独共重合体(PHBH)
【0116】
(重合体(D)の準備)
・D1: 「メタブレンW−600A(三菱ケミカル(株))」、コアシェル構造の重合体(コア層となる「アクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸n−ブチルの単独共重合体ゴム」に、「メタクリル酸メチルの単独重合体ゴム」をグラフト重合してシェル層とした重合体)、平均一次粒径200nm
・D2: 「メタブレンC−223A(三菱ケミカル(株))」、コアシェル構造の重合体(コア層となる「ブタジエンの単独重合体ゴム」に、「メタクリル酸メチルとスチレンの単独共重合体」をグラフト重合してシェル層とした重合体(MSB))、平均一次粒径300nm
・D3:「メタブレンS−2006(三菱ケミカル(株))」、コアシェル構造の重合体(コア層となるポリシロキサンを重合成分として含む重合体ゴム層に、アルキルメタクリレートをグラフト重合してシェル層とした重合体)、平均一次粒径200nm
・D4: 「lotryl 29MA03(Arkema社)」、エチレンとアクリル酸メチルとのブロック共重合体、エチレンとアクリル酸メチルとの質量比71:29
・D5: プロピレンとアクリル酸メチルとのブロック共重合体、プロピレンとアクリル酸メチルとの質量比65:35
・D6: 「JSR TR 2500(JSR(株))」、スチレンとブタジエンとスチレンとのブロック共重合体(SBS)
・D7: 「AR−SC−0(アロン化成(株))」、水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)
【0117】
(その他成分の準備)
・PL1:「Daifatty101(大八化学工業(株))」、アジピン酸エステル含有化合物、可塑剤
【0118】
<実施例1〜33、比較例1〜5>
(混練および射出成形)
表2に示す仕込み組成比、かつ表2に示すシリンダ温度で、2軸混練装置(labtech engineering社製、LTE20−44)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
得られたペレットについて、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX500I)を用い、射出ピーク圧力が180MPaを越えず、かつ表2に示すシリンダ温度及び金型温度60℃で、次の(1)、(2)の樹脂成形体を成形した。
・(1):ISO多目的ダンベル試験片(測定部寸法:幅10mm/厚さ4mm)
・(2):D12小形角板(寸法:60mm×60mm/厚さ2mm)
【0119】
<評価>
得られた成形体について、次の評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0120】
(引張破断歪)
得られたISO多目的ダンベル試験片を用いて、万能試験装置(島津製作所社製、オートグラフAG−Xplus)を用いて、ISO527に準拠する方法で引張破断歪の測定を行った。
【0121】
(引張弾性率)
得られたISO多目的ダンベル試験片を用いて、万能試験装置(島津製作所社製、オートグラフAG−Xplus)を用いて、ISO527に準拠する方法で引張弾性率の測定を行った。
【0122】
(ヘイズ値)
得られたD12小形角板について、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH200)を用いて、ヘイズ値を測定した。
【0123】
【表2】
【0124】
表2では、各組成物の各材料及び各配合量を「材料の種類=質量部数」という形式で表中の欄に記載した。
例えば、実施例1のセルロースエステル化合物(A)の欄には、「CE1=100」と記載されているが、これは、セルロースエステル化合物「CE1」が100質量部配合されていることを示す。
【0125】
上記結果から、本実施例の樹脂成形体は、比較例の成形体に比べ、引張破断歪に優れている、又は、透明性を維持しつつ、引張破断歪に優れていることがわかる。
また、本実施例の樹脂成形体では、他の機械的強度(引張弾性率)も高いことがわかる。
【要約】
【課題】引張破断歪に優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】セルロースエステル化合物(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を50質量%以上含むポリ(メタ)アクリレート系化合物(B)と、ポリエステル樹脂(C)と、コア層と前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体、及び、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α−オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン系重合体から選択される少なくとも1種の重合体(D)と、を含む樹脂組成物である。
【選択図】なし