特許第6323663号(P6323663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6323663人工バリア構造及びオーバーパックの回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6323663
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】人工バリア構造及びオーバーパックの回収方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/36 20060101AFI20180507BHJP
【FI】
   G21F9/36 541M
   G21F9/36 G
   G21F9/36 541E
   G21F9/36 541D
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-50911(P2014-50911)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-175670(P2015-175670A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】森 拓雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】土井 暁
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−148097(JP,A)
【文献】 特開2012−132867(JP,A)
【文献】 特開平09−211196(JP,A)
【文献】 特開昭61−201199(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0101874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/36
G21F 9/34
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物が封入されたオーバーパックを緩衝材に埋設した人工バリア構造において、
底部とその周縁から立設された周壁部とで構成され該周壁部の上縁が開口を形成する有底円筒状の縁切り体を、該周壁部が前記オーバーパックの周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように前記緩衝材に埋設し、前記底部をその厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断されるように構成するとともに、前記周壁部をその厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるように構成したことを特徴とする人工バリア構造。
【請求項2】
放射性廃棄物が封入されたオーバーパックを緩衝材に埋設した人工バリア構造において、
底部とその周縁から立設された周壁部と該周壁部の上縁から延びる頂部とで構成された中空円柱状の縁切り体を、該周壁部が前記オーバーパックの周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように前記緩衝材に埋設し、前記底部及び前記頂部をそれらの厚さ方向に沿った引張荷重伝達がそれぞれ遮断されるように構成するとともに、前記周壁部をその厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるように構成したことを特徴とする人工バリア構造。
【請求項3】
前記縁切り体を砂で構成した請求項1又は請求項2記載の人工バリア構造。
【請求項4】
請求項1記載の人工バリア構造から前記オーバーパックを回収する方法であって、前記緩衝材にその表面と前記周壁部の上縁との間にわたってほぼ鉛直方向に延びる環状の切削溝を形成することにより、前記緩衝材を前記切削溝の高さ範囲において前記周壁部に囲まれた領域の直上に位置する内側領域とそれを取り囲む外側領域とに分断し、
前記内側領域の緩衝材を、前記周壁部に囲まれた領域の緩衝材及び前記オーバーパックとともに引き上げることを特徴とするオーバーパックの回収方法。
【請求項5】
請求項2記載の人工バリア構造から前記オーバーパックを回収する方法であって、前記緩衝材にその表面と前記周壁部及び前記頂部の環状取合い部との間にわたってほぼ鉛直方向に延びる環状の切削溝を形成することにより、前記緩衝材を前記切削溝の高さ範囲において前記頂部の直上に位置する内側領域とそれを取り囲む外側領域とに分断し、
前記内側領域の緩衝材を引き上げるとともに前記頂部を撤去し、
前記周壁部に囲まれた領域の緩衝材を前記オーバーパックとともに引き上げることを特徴とするオーバーパックの回収方法。
【請求項6】
前記引上げ工程の前に、前記切削溝が前記底部の周縁近傍まで延びるように前記周壁部を切削する請求項4又は請求項5記載のオーバーパックの回収方法。
【請求項7】
前記縁切り体を砂で構成した請求項4乃至請求項6のいずれか一記載のオーバーパックの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として高レベル放射性廃棄物が深地層処分される放射性廃棄物処分場の人工バリア構造及びオーバーパックの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所からの使用済み燃料を再処理することで生じる高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体、オーバーパック及び緩衝材からなる人工バリアに閉じ込められた状態で天然バリアである地下数百mの岩盤内に深地層処分することが予定されている。
【0003】
深地層処分は、対象となる放射性物質の半減期がきわめて長いこともあって、1万年以上にわたる管理が必要とされているが、処分後にあらたな処理技術が確立され、あるいは処分地が変更になった場合には、高レベル放射性廃棄物を回収できるようにしてはどうかという提案がなされるようになってきた。
【0004】
一方、従来においては、処分期間中に高レベル放射性廃棄物を回収することは想定されていないため、回収のためのあらたな技術開発が必要になってきた。
【0005】
高レベル放射性廃棄物は、上述したようにオーバーパックに封入された状態で緩衝材に埋設されており、高レベル放射性廃棄物を回収するにあたっては、緩衝材からオーバーパックを取り出す必要があるが、緩衝材には、地下水の浸入があっても自ら膨潤することで止水性を発揮するベントナイトが選定されている。
【0006】
これを受け、塩水によって、ベントナイトを膨潤させることなく該ベントナイトを崩壊除去する方法が提案されている(特許文献1,非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−008375号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「廃棄体回収のための塩水を利用した緩衝材除去技術」、土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
【非特許文献2】「アイスブラスト工法によるベントナイト系バリア除去に関する検討」、日本原子力学会春の年会予稿集(2008年3月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、塩水を用いてベントナイトを崩落させる上述の方法では、そのときに発生する大量のベントナイトスラリーを別途処理する必要があるとともに、何より、ベントナイトスラリーというあらたな放射性廃棄物が発生する事態を招く。
【0010】
また、これを解決すべく、ドライアイスをブラスト材としてベントナイトに吹き付けることで、該ベントナイトを粉砕除去する方法も提案されている(非特許文献2)。
【0011】
しかしながら、オーバーパックが埋設される緩衝材は、外径が2m以上、高さが3m以上の大きさになるため、粉砕除去に長時間を要する懸念がある。
【0012】
すなわち、上述の粉砕除去をオーバーパックの頂部近傍が露出するだけにとどめ、その露出部分を利用してオーバーパックを引き上げようとしても、頂部近傍以外がベントナイトに埋設されたままであるため、オーバーパックの引上げに伴ってその周面にベントナイトから大きなせん断付着力が作用し、オーバーパックに不測の破損が生じる懸念がある。
【0013】
そのため、オーバーパックを取り囲むベントナイトのうち、かなりの部分を粉砕除去せざるを得ず、長時間の粉砕除去作業を余儀なくされるという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、あらたな放射性廃棄物を発生させることなく、しかも安全かつ短時間にオーバーパックを緩衝材から取り出すことが可能な人工バリア構造及びオーバーパックの回収方法を提供することを目的とする。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る人工バリア構造は請求項1に記載したように、放射性廃棄物が封入されたオーバーパックを緩衝材に埋設した人工バリア構造において、
底部とその周縁から立設された周壁部とで構成され該周壁部の上縁が開口を形成する有底円筒状の縁切り体を、該周壁部が前記オーバーパックの周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように前記緩衝材に埋設し、前記底部をその厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断されるように構成するとともに、前記周壁部をその厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるように構成したものである。
【0016】
また、本発明に係る人工バリア構造は請求項2に記載したように、放射性廃棄物が封入されたオーバーパックを緩衝材に埋設した人工バリア構造において、
底部とその周縁から立設された周壁部と該周壁部の上縁から延びる頂部とで構成された中空円柱状の縁切り体を、該周壁部が前記オーバーパックの周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように前記緩衝材に埋設し、前記底部及び前記頂部をそれらの厚さ方向に沿った引張荷重伝達がそれぞれ遮断されるように構成するとともに、前記周壁部をその厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるように構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る人工バリア構造は、前記縁切り体を砂で構成したものである。
【0018】
また、本発明に係るオーバーパックの回収方法は請求項4に記載したように、請求項1記載の人工バリア構造から前記オーバーパックを回収する方法であって、前記緩衝材にその表面と前記周壁部の上縁との間にわたってほぼ鉛直方向に延びる環状の切削溝を形成することにより、前記緩衝材を前記切削溝の高さ範囲において前記周壁部に囲まれた領域の直上に位置する内側領域とそれを取り囲む外側領域とに分断し、
前記内側領域の緩衝材を、前記周壁部に囲まれた領域の緩衝材及び前記オーバーパックとともに引き上げるものである。
【0019】
また、本発明に係るオーバーパックの回収方法は請求項5に記載したように、請求項2記載の人工バリア構造から前記オーバーパックを回収する方法であって、前記緩衝材にその表面と前記周壁部及び前記頂部の環状取合い部との間にわたってほぼ鉛直方向に延びる環状の切削溝を形成することにより、前記緩衝材を前記切削溝の高さ範囲において前記頂部の直上に位置する内側領域とそれを取り囲む外側領域とに分断し、
前記内側領域の緩衝材を引き上げるとともに前記頂部を撤去し、
前記周壁部に囲まれた領域の緩衝材を前記オーバーパックとともに引き上げるものである。
【0020】
また、本発明に係るオーバーパックの回収方法は、前記引上げ工程の前に、前記切削溝が前記底部の周縁近傍まで延びるように前記周壁部を切削したものである。
【0021】
また、本発明に係るオーバーパックの回収方法は、前記縁切り体を砂で構成したものである。
【0022】
[第1の発明]
第1の発明に係る人工バリア構造においては、放射性廃棄物が封入されたオーバーパックを緩衝材に埋設するにあたり、有底円筒状の縁切り体を、その周壁部がオーバーパックの周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように緩衝材に埋設してあるとともに、縁切り体の底部については、その厚さ方向に沿った引張荷重伝達が、周壁部については、その厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達がそれぞれ遮断されるように構成してある。
【0023】
このようにすると、周壁部に囲まれた領域の緩衝材に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体の底部の直下に引張力として伝達することはないし、同じく周壁部の側方にせん断力として伝達することもない。
【0024】
つまり、上述した鉛直上方の荷重に対し、縁切り体の下方や側方で反力が生じないため、周壁部に囲まれた領域の緩衝材及びオーバーパックを、その直上の緩衝材とともに、あるいは該緩衝材が除去された状態で容易に引き上げることが可能となり、かくしてオーバーパックの下面や周面に大きな引張力やせん断付着力が緩衝材から作用することなく、オーバーパックを回収することができる。
【0025】
[第2の発明]
第1の発明に係る人工バリア構造からオーバーパックを回収するにあたり、周壁部に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材をどのように除去するかは任意であって、例えば粒状のドライアイスをブラスト材として緩衝材に吹き付けることで、上述の緩衝材を粉砕除去することが可能であるが、第2の発明においては、緩衝材にその表面と周壁部の上縁との間にわたってほぼ鉛直方向に延びる環状の切削溝を形成することにより、上述の緩衝材を切削溝の高さ範囲において周壁部に囲まれた領域の直上に位置する内側領域とそれを取り囲む外側領域とに分断し、次いで、内側領域の緩衝材を、周壁部に囲まれた領域の緩衝材及びオーバーパックとともに引き上げる。
【0026】
このようにすれば、切削溝を形成するためのわずかな範囲を切削するだけで、周壁部に囲まれた領域の直上に拡がる緩衝材をブロックとして除去可能となり、かくしてオーバーパックをさらに短い時間で回収することが可能となる。
【0027】
[第3の発明]
また、第3の発明に係る人工バリア構造においては、放射性廃棄物が封入されたオーバーパックを緩衝材に埋設するにあたり、中空円柱状の縁切り体を、その周壁部がオーバーパックの周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように緩衝材に埋設してあるとともに、縁切り体の底部及び頂部については、その厚さ方向に沿った引張荷重伝達が、周壁部については、その厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達がそれぞれ遮断されるように構成してある。
【0028】
このようにすると、周壁部に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体の頂部直下に引張力として伝達することはないし該頂部直下で反力が発生することもなく、よって周壁部に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材を、それらを取り囲む緩衝材と分断されている状態であれば、容易に引き上げることができる。
【0029】
また、周壁部に囲まれた領域の緩衝材に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体の底部の直下に引張力として伝達することはないし、同じく周壁部の側方にせん断力として伝達することもないため、縁切り体の底部直下や周壁部の側方で反力が発生することもなく、よって周壁部に囲まれた領域の緩衝材及びオーバーパックを、容易に引き上げることができる。
【0030】
したがって、オーバーパックの下面や周面に大きな引張力やせん断付着力が緩衝材から作用することなく、オーバーパックを回収することが可能となる。
【0031】
[第4の発明]
第4の発明においては、第3の発明に係る人工バリア構造からオーバーパックを回収するにあたり、まず、緩衝材に環状の切削溝を形成する。
【0032】
環状の切削溝は、緩衝材の表面と縁切り体を構成する周壁部及び頂部の環状取合い部との間にほぼ鉛直方向に延びるように形成する。
【0033】
このようにすると、緩衝材は、切削溝の高さ範囲において頂部の直上に位置する内側領域とそれを取り囲む外側領域とに分断されるので、次に、内側領域の緩衝材を引き上げ、次いで頂部を撤去した後、周壁部に囲まれた領域の緩衝材をオーバーパックと一緒に引き上げる。
【0034】
このようにすれば、上述した頂部の縁切り作用とも相俟って、切削溝を形成するためのわずかな範囲を切削するだけで、周壁部に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材をブロックとして除去可能となり、かくしてオーバーパックをさらに短時間で回収することが可能となる。
【0035】
[第2の発明及び第4の発明共通]
第2の発明及び第4の発明においては、過大な膨潤圧が緩衝材から周壁部に作用することにより、該周壁部が上述のせん断荷重伝達を十分に遮断できず、その結果、迅速な引上げが難しくなる場合が想定されるが、周壁部は、縁切り体の一部として構成してあるため、緩衝材に比べれば脆弱な部位となっている。
【0036】
そのため、上述の場合においては、各引上げ工程の前に、切削溝が底部の周縁近傍まで延びるように周壁部を切削すればよい。
【0037】
このようにすれば、緩衝材に過大な膨潤圧が発生した場合であっても、周壁部に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材をブロックとして除去可能となり、かくしてオーバーパックを短時間で回収することが可能となる。
【0038】
[各発明共通]
縁切り体は、底部や頂部であれば、厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断されるように、周壁部であれば、厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるように構成できる限り、どのような材料で構成するかは任意であるが、砂で構成する場合が典型例となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】第1実施形態に係る人工バリア構造31の鉛直断面図。
図2】周壁部35に囲まれた領域の上方に拡がる緩衝材を除去する際に用いるエアーブラスト切削装置1の概略構成図。
図3】エアーブラスト切削装置1を用いて緩衝材22に埋設されたオーバーパック32を回収する手順を示した説明図。
図4】引き続きオーバーパック32を回収する手順を示した鉛直断面図であり、緩衝材24、緩衝材37及びオーバーパック32を引き上げている様子を示した図。
図5】オーバーパック32を回収する別の手順を示した鉛直断面図。
図6】第2実施形態に係る人工バリア構造61の鉛直断面図。
図7】エアーブラスト切削装置1を用いて緩衝材22に埋設されたオーバーパック32を回収する手順を示した鉛直断面図。
図8】引き続きオーバーパック32を回収する手順を示した鉛直断面図であり、緩衝材24を引き上げている様子を示した図。
図9】引き続きオーバーパック32を回収する手順を示した鉛直断面図であり、緩衝材37及びオーバーパック32を引き上げている様子を示した図。
図10】オーバーパック32を回収する別の手順を示した鉛直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る人工バリア構造及びオーバーパックの回収方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0041】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る人工バリア構造を示した鉛直断面図である。本実施形態に係る人工バリア構造31は、天然バリアである地下数百mの岩盤内に直径5m程度の処分坑道を構築し、その処分坑道から鉛直下方に直径2m程度の処分孔を形成した上、該処分孔の内部空間に設置されるものであって、同図に示すように、底部34とその周縁から立設された周壁部35とで構成され該周壁部の上縁36が開口38を形成する有底円筒状の縁切り体33を、その周壁部35がオーバーパック32の周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むようにベントナイトからなる緩衝材22に埋設してある。
【0042】
オーバーパック32は、高レベル放射性廃棄物をガラスで固化した上、これを炭素鋼等で形成された円筒状の鋼製容器に封入したものである。
【0043】
縁切り体33の底部34は、その厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断されるように構成してあるとともに、同じく周壁部35は、その厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるように構成してある。
【0044】
縁切り体33の底部34や周壁部35は、例えば砂で構成することが可能である。
【0045】
このように構築された人工バリア構造31においては、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体33を構成する底部34の直下に引張力として伝達することはないし、同じく周壁部35の側方にせん断力として伝達することもない。
【0046】
すなわち、緩衝材37に作用する鉛直上方の荷重に対し、縁切り体33の下方や側方で反力が生じないため、緩衝材37及びオーバーパック32を、緩衝材37の直上に位置する緩衝材とともに簡単に引き上げることができる。
【0047】
図2は、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を、該緩衝材の直上に位置する緩衝材とともに引き上げる際に用いるエアーブラスト切削装置1を示した概略構成図である。
【0048】
同図に示すように、エアーブラスト切削装置1は、噴射ノズル2を介してドライアイスを圧縮空気とともに噴射する噴射機構3と、噴射ノズル2の噴射方向と平行であって該噴射ノズルの材軸と離間する位置に延びる軸線9の回りに噴射ノズル2が回動自在となりかつ該噴射方向に進退自在となるように該噴射ノズルを保持する駆動機構4とで構成してある。
【0049】
噴射機構3は、ドライアイスを作製供給するドライアイス供給機5と圧縮空気を供給するコンプレッサー6とを備えており、ドライアイス供給ホース7を介してドライアイス供給機5を噴射ノズル2に接続するとともに、圧縮空気供給ホース8を介してコンプレッサー6を噴射ノズル2に接続することにより、該噴射ノズルからドライアイスを圧縮空気とともに噴射できるようになっている。
【0050】
駆動機構4は、軸線9に沿って配置される回転軸10と、該回転軸の一端に連結されたモータ11と、他端に連結された旋回アーム12と、該旋回アームの先端に取り付けられた送り機構13とで概ね構成してある。
【0051】
ここで、噴射ノズル2は、中空管で構成されたロッド14の先端に取り付けてあり、送り機構13は、ロッド14を進退自在に保持するようになっているとともに、ドライアイス供給ホース7及び圧縮空気供給ホース8は、ロッド14の内部空間に挿通された状態で噴射ノズル2に接続してある。
【0052】
送り機構13は、例えばロッド14の周面にその材軸方向に沿ってラックギア(図示せず)を取り付けておき、該ラックギアに噛合するピニオンギアが回転軸に取り付けられたモータ(図示せず)を内蔵した構成とすることができる。
【0053】
ロッド14は、ドライアイス及び圧縮空気の噴射によって緩衝材22の切削深さ、すなわち後述する切削溝の深さに応じて、その長さを適宜設定すればよい。
【0054】
エアーブラスト切削装置1を用いて周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を、該緩衝材の直上に位置する緩衝材とともに引き上げるには、まず図3に示すように、軸線9が緩衝材22の表面に対しほぼ垂直になるように駆動機構4を位置決めするとともに、送り機構13を適宜作動させてロッド14を前進又は後退させることにより、ロッド14がその下端近傍で送り機構13に保持されるよう、該ロッドを位置決めする。
【0055】
次に、モータ11を作動させることで噴射ノズル2を軸線9の回りに回動させながら、ドライアイス供給機5及びコンプレッサー6を作動させてドライアイスを圧縮空気とともに噴射ノズル2から噴射する。
【0056】
このようにすると、噴射ノズル2から噴射されたドライアイス及び圧縮空気は、軸線9を中心とした円に沿って緩衝材22の表面を切削し、緩衝材22には、環状の切削溝23が形成されるので、さらに送り機構13を作動させてロッド14、ひいてはその先端に取り付けられた噴射ノズル2を前進させることにより、切削溝23の底面を掘り下げる。
【0057】
モータ11及び送り機構13を作動させるにあたっては、切削溝23の底面が周方向に沿って均等に掘り下げられるよう、例えば旋回アーム12が360゜ごとに反転するようにモータ11を作動させるとともに、その反転時にロッド14が前進するように送り機構13を作動させればよい。
【0058】
なお、旋回アーム12は、切削溝23の直径が周壁部35の直径とほぼ同じになるようにその長さを適宜設定しておく。
【0059】
切削溝23の底面が周壁部35の上縁36に到達したならば、緩衝材22の切削を終了する。
【0060】
このようにして切削溝23の底面を鉛直方向に掘り下げると、緩衝材22は、切削溝23の高さ範囲において該切削溝の内側に位置する円柱状内側領域、すなわち周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37の直上に位置する緩衝材24とその外側領域に拡がる緩衝材25とに分断されるので、次に図4に示す通り、緩衝材37及びオーバーパック32を、緩衝材24とともにブロックとして引き上げる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る人工バリア構造31によれば、オーバーパック32を緩衝材22に埋設するにあたり、有底円筒状の縁切り体33を、その周壁部35がオーバーパック32の周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように緩衝材22に埋設するとともに、縁切り体33の底部34をその厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断され、周壁部35をその厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるようにそれぞれ構成したので、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体33の底部34の直下に引張力として伝達することはないし、同じく周壁部35の側方にせん断力として伝達することもない。
【0062】
つまり、上述した鉛直上方の荷重に対し、縁切り体33の下方や側方で反力が生じないため、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を、その直上の緩衝材24とともに容易に引き上げることが可能となり、かくしてオーバーパック32の下面や周面に大きな引張力やせん断付着力が緩衝材から作用することなく、該オーバーパックを安全かつ短時間に回収することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るオーバーパックの回収方法によれば、緩衝材22に環状の切削溝23を形成することにより、該緩衝材を切削溝23の高さ範囲において周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材24とその外側の緩衝材25とに分断し、しかる後、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を、緩衝材24とともにブロックとして引き上げるようにしたので、切削溝23を形成するためのわずかな範囲を切削するだけで、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37やオーバーパック32、さらには緩衝材37の直上に位置する緩衝材24を一括して引き上げることが可能となり、かくしてオーバーパック32をさらに短い時間で回収することが可能となる。
【0064】
本実施形態では、エアーブラスト切削装置1を用いて緩衝材22に環状の切削溝23を形成するようにしたが、これに代えて公知の切削装置を適宜用いるようにしてもかまわない。
【0065】
また、本実施形態では、緩衝材22に環状の切削溝23を形成することで、緩衝材37の直上に位置する緩衝材24をブロックとして除去するようにしたが、これに代えて、緩衝材37の直上に位置する緩衝材を、ドライアイスその他の粒状体をブラスト材とした吹付けにより、あるいはその他の公知の方法によって粉砕除去するようにしてもかまわない。
【0066】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、過大な膨潤圧が緩衝材から周壁部35に作用することにより、該周壁部が上述のせん断荷重伝達を十分に遮断できず、その結果、迅速な引上げが難しくなる場合が想定されるが、周壁部35は、縁切り体の一部として構成してあるため、緩衝材に比べれば脆弱な部位となっている。
【0067】
そのため、周壁部35がせん断荷重伝達を十分に遮断できない場合には、図5に示すように、切削溝23が底部34の周縁近傍まで延びるように周壁部35を切削し、しかる後、緩衝材37及びオーバーパック32を、緩衝材24とともにブロックとして引き上げればよい。
【0068】
このようにすれば、緩衝材に過大な膨潤圧が発生した場合であっても、上述した実施形態と同様、周壁部35に囲まれていた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を、その直上の緩衝材24とともに容易に引き上げることができる。
【0069】
[第2実施形態]
図6は、本実施形態に係る人工バリア構造を示した鉛直断面図である。本実施形態に係る人工バリア構造61は、天然バリアである地下数百mの岩盤内に直径5m程度の処分坑道を構築し、その処分坑道から鉛直下方に直径2m程度の処分孔を形成した上、該処分孔の内部空間に設置されるものであって、同図に示すように、底部34とその周縁から立設された周壁部35と該周壁部の上縁から延びる頂部51とで構成された中空円柱状の縁切り体52を、その周壁部35がオーバーパック32の周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むようにベントナイトからなる緩衝材22に埋設してある。
【0070】
縁切り体33の頂部51は底部34と同様、その厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断されるように構成してあり、底部34や周壁部35と同様、例えば砂で構成することが可能である。
【0071】
このように構築された人工バリア構造61においては、周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体52の頂部51直下に引張力として伝達することはないし、該頂部の直下で反力が発生することもなく、よって周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材を、それらを取り囲む緩衝材と分断されている状態であれば、容易に引き上げることができる。
【0072】
また、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体52の底部34の直下に引張力として伝達することはないし、同じく周壁部35の側方にせん断力として伝達することもないため、縁切り体52の底部34直下や周壁部35の側方で反力が発生することもなく、よって周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を容易に引き上げることができる。
【0073】
周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材を除去するには、第1実施形態と同様、エアーブラスト切削装置1を用いればよい。
【0074】
すなわち、まず図7に示すように、軸線9が緩衝材22の表面に対しほぼ垂直になるように駆動機構4を位置決めするとともに、送り機構13を適宜作動させてロッド14を前進又は後退させることにより、ロッド14がその下端近傍で送り機構13に保持されるよう、該ロッドを位置決めする。
【0075】
次に、モータ11を作動させることで噴射ノズル2を軸線9の回りに回動させながら、ドライアイス供給機5及びコンプレッサー6を作動させてドライアイスを圧縮空気とともに噴射ノズル2から噴射する。
【0076】
このようにすると、噴射ノズル2から噴射されたドライアイス及び圧縮空気は、軸線9を中心とした円に沿って緩衝材22の表面を切削し、緩衝材22には、環状の切削溝23が形成されるので、さらに送り機構13を作動させてロッド14、ひいてはその先端に取り付けられた噴射ノズル2を前進させることにより、切削溝23の底面を掘り下げる。
【0077】
モータ11及び送り機構13を作動させるにあたっては、切削溝23の底面が周方向に沿って均等に掘り下げられるよう、例えば旋回アーム12が360゜ごとに反転するようにモータ11を作動させるとともに、その反転時にロッド14が前進するように送り機構13を作動させればよい。
【0078】
なお、旋回アーム12は、切削溝23の直径が縁切り体52の直径とほぼ同じになるようにその長さを適宜設定しておく。
【0079】
切削溝23の底面が周壁部35及び頂部51の環状取合い部71に到達したならば、緩衝材22の切削を終了する。
【0080】
このようにして切削溝23の底面を鉛直方向に掘り下げると、緩衝材22は、切削溝23の高さ範囲において該切削溝の内側に位置する円柱状内側領域、すなわち頂部51の直上に拡がる緩衝材24とその外側に位置する領域に拡がる緩衝材25とに分断されるので、次に図8に示す通り、緩衝材24をブロックとして引き上げる。
【0081】
次に、頂部51を適宜取り除いた後、図9に示すように、緩衝材37及びオーバーパック32をブロックとして引き上げる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係る人工バリア構造61によれば、オーバーパック32を緩衝材22に埋設するにあたり、中空円柱状の縁切り体52を、その周壁部35がオーバーパック32の周面から離間した状態で該オーバーパックを取り囲むように緩衝材22に埋設するとともに、縁切り体52の底部34及び頂部51をそれらの厚さ方向に沿った引張荷重伝達が遮断され、周壁部35をその厚さ方向に直交する方向に沿ったせん断荷重伝達が遮断されるようにそれぞれ構成したので、周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材24に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体52の頂部51直下に引張力として伝達することはないし、該頂部の直下で反力が発生することもなく、よって緩衝材24を容易に引き上げることができるとともに、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37に鉛直上方の荷重が作用したとき、その荷重が縁切り体52の底部34の直下に引張力として伝達することはないし、同じく周壁部35の側方にせん断力として伝達することもないため、縁切り体52の底部34直下や周壁部35の側方で反力が発生することもなく、よって周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を容易に引き上げることができる。
【0083】
したがって、オーバーパック32の下面や周面に大きな引張力やせん断付着力が緩衝材から作用することなく、該オーバーパックを安全かつ短時間に回収することができる。
【0084】
また、本実施形態に係るオーバーパックの回収方法によれば、緩衝材22に環状の切削溝23を形成することにより、該緩衝材を切削溝23の高さ範囲において周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材24とその外側の緩衝材25とに分断し、緩衝材24をブロックとして引き上げた後、周壁部35に囲まれた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を一緒に引き上げるようにしたので、切削溝23を形成するためのわずかな範囲を切削するだけで、緩衝材24の引上げと、それに続く緩衝材37及びオーバーパック32の引上げが可能となり、かくしてオーバーパック32をさらに短い時間で回収することが可能となる。
【0085】
本実施形態では、エアーブラスト切削装置1を用いて緩衝材22に環状の切削溝23を形成するようにしたが、これに代えて公知の切削装置を適宜用いるようにしてもかまわない。
【0086】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、過大な膨潤圧が緩衝材から周壁部35に作用することにより、該周壁部が上述のせん断荷重伝達を十分に遮断できず、その結果、迅速な引上げが難しくなる場合が想定されるが、周壁部35は、縁切り体の一部として構成してあるため、緩衝材に比べれば脆弱な部位となっている。
【0087】
そのため、周壁部35がせん断荷重伝達を十分に遮断できない場合には、図10に示すように、切削溝23が底部34の周縁近傍まで延びるように周壁部35を切削し、しかる後、緩衝材37及びオーバーパック32をブロックとして引き上げればよい。
【0088】
このようにすれば、緩衝材に過大な膨潤圧が発生した場合であっても、上述した実施形態と同様、周壁部35に囲まれていた領域の緩衝材37及びオーバーパック32を容易に引き上げることができる。
【0089】
なお、切削溝23を下方に延ばして周壁部35を切削する工程は、緩衝材24をブロックとして引き上げる前に行ってもよいし、緩衝材24を引き上げた後で行ってもよい。
【符号の説明】
【0090】
22 緩衝材
23 切削溝
24 周壁部35に囲まれた領域の直上に位置する緩衝材
25 その周囲に拡がる緩衝材
31,61 人工バリア構造
32 オーバーパック
33,52 縁切り体
34 底部
35 周壁部
36 上縁
37 周壁部35に囲まれた領域の緩衝材
38 開口
51 頂部
71 周壁部35及び頂部51の環状取合い部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10