(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接触媒質を被検査体の表面に塗布し超音波探触子を接触させて検査する場合、狭い幅で材料同士が溶着する溶着部を検査するためには、超音波探触子の直径を狭溶着幅に応じた形状とする必要がある。しかし、超音波探触子は小径化するとSN比が悪化するため、良好な計測を考慮すると小径化には限界がある。したがって、従来の超音波探触子では、狭い幅の溶着部を精度良く計測することができない。
【0008】
また、特許文献1及び2のように、超音波探触子を筒状にケーシングした状態で接触媒質を供給・回収する超音波検査装置も用いられる。しかし、計測対象となる溶着部の側近に立ち壁が存在する場合には、ケーシングが被検査体の立ち壁と干渉して超音波探触子が溶着幅からはみ出すことがある。このような場合には、計測対象部分では無い部位の反射波を計測することになってしまう。すなわち、溶着部の側近に立ち壁が存在する場合には、正確な計測を行うことができないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る超音波探触子は、被検査体の超音波検査を行うための超音波を発振する超音波振動子と、前記超音波振動子の、超音波が発振される端部に取付けられ、前記被検査体に超音波を伝播させる遅延材とを備え、前記遅延材は、前記超音波振動子との取付け面から前記被検査体との接触面に向かってテーパ形状である。
【0010】
このように、テーパ形状の遅延材を介して超音波を被検査体に伝搬させることで、狭い幅の溶着部であっても精度良く計測することができる。
【0011】
前記超音波探触子は、超音波を反射するための音響境界を前記遅延材との間に設けた被膜をさらに備えても良い。
【0012】
上記被膜により、被検査体に過剰に接触媒質が供給され、溢出した接触媒質が遅延材の側面に装着された被膜の表面に付着した場合であっても、遅延材を伝播する超音波が付着した接触媒質に拡散して減衰することを低減することができる。したがって、接触媒質が過剰に供給される場合、または接触媒質の供給量が変動する場合であっても、一定強度の超音波が被検査体に伝播するため、より高精度の計測が可能となる。
【0013】
また、本発明の第2の態様に係る超音波検査装置は、接触媒質を用いて被検査体の超音波検査を行う超音波探触子と、前記超音波探触子と前記被検査体との接触面に前記接触媒質を供給する接触媒質供給手段と、前記超音波探触子と前記被検査体との接触面で前記接触媒質を保持する接触媒質保持手段と、前記接触媒質を回収する接触媒質回収手段とを備え、前記接触媒質保持手段は、前記超音波探触子と前記被検査体との接触面の外周の一部を囲む形状の部材である。
【0014】
接触媒質保持手段は、超音波探触子と被検査体との接触面の外周の一部を囲む形状の部材であるため、超音波探触子の全周を筒状にケーシングする必要がなくなる。したがって、筒状にケーシングされた超音波探触子では計測の障害となるような形状を有する被検査体であっても、走査時に超音波探触子との干渉を低減することができる。
【0015】
前記接触媒質保持手段は、一端に切り欠き部を有する板状の部材であり、前記接触面の一部は、前記切り欠き部によって囲まれていても良い。
【0016】
接触媒質保持手段の切り欠き部内に供給された接触媒質は表面張力により外部に流出することなく切り欠き部内で保持され、接触面に塗布される。この状態で、超音波探触子と被検査体との接触面の切り欠き部によって囲われていない部分が被検査体の立ち壁と正対するように、切り欠き部を超音波探触子の中心を軸として水平方向に回転させて立ち壁との干渉を避けながら走査を行う。この方法によって、計測対象となる溶着部の側近に立ち壁が存在する場合であっても、接触媒質を塗布しながら壁際まで超音波探触子を走査させることができるため、より正確な計測を行うことができる。
【0017】
前記超音波探触子は、超音波を反射するための音響境界を設けた被膜を有しても良い。
【0018】
上記皮膜により、被検査体に過剰に接触媒質が供給され、溢出した接触媒質が超音波探触子の側面に装着された被膜の表面に付着した場合であっても、超音波探触子から発振された超音波が付着した接触媒質に拡散して減衰することを低減することができる。したがって、接触媒質が過剰に供給される場合、または接触媒質の供給量が変動する場合であっても、一定強度の超音波が被検査体に伝播するため、より高精度の計測が可能となる。
【0019】
前記接触媒質供給手段は、前記超音波探触子の走査方向前側において前記接触媒質を供給し、前記接触媒質回収手段は、前記超音波探触子の走査方向後側において前記接触媒質を回収しても良い。
【0020】
超音波探触子の走査方向前側において接触媒質を供給し、超音波探触子の走査方向後側において接触媒質を回収することで、超音波探触子の走査方向に沿って接触媒質が効率良く供給され塗布され回収される。
【0021】
前記接触媒質保持手段、前記接触媒質供給手段、及び前記接触媒質回収手段は、前記被検査体に干渉しないように駆動しても良い。
【0022】
接触媒質保持手段、接触媒質供給手段及び接触媒質吸引手段は、被検査体の立ち壁に干渉しないように移動・回転させながら超音波探触子を溶着部に沿って走査することで、被検査体との干渉を低減しながら計測を行うことができる。
【0023】
前記超音波検査装置は、前記超音波探触子を加圧して前記被検査体に所定の圧力を加える加圧手段をさらに備えても良い。
【0024】
上記加圧手段により、被検査体の反りやうねりに追従して一定加圧した状態で自動走査することで、接触媒質の塗布量を一定に保ち、精度良く計測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る超音波検査装置の概略図である。超音波検査装置は、超音波振動子1、遅延材2、探触子固定ホルダ4、Z軸駆動部材5、θ軸回転部材6、Y軸ステージ7、X軸ステージ8、被検査体セット台9、定盤11、接触媒質供給ノズル12、接触媒質吸引ノズル13、接触媒質保持部材14、超音波探傷装置101、接触媒質供給装置102、接触媒質回収装置103、軸駆動装置104、を備えている。
【0028】
超音波探触子3は、超音波振動子1及び遅延材2を有している。超音波振動子1は、信号線を介して超音波探傷装置101に電気的に接続されている。
【0029】
超音波探触子3は、探触子固定ホルダ4に固定され、Z軸駆動部材5及びθ軸回転部材6によりZ軸・θ軸方向に移動・回転させることができる。被検査体セット台9は、定盤11に固定されたY軸ステージ7及びX軸ステージ8によりX−Y軸方向に移動させることができる。Z軸駆動部材5、θ軸回転部材6、Y軸ステージ7、X軸ステージ8の4軸は、軸駆動装置104によって駆動される。
【0030】
被検査体10は、被検査体セット台9上に設置される。本実施形態では、被検査体10は、その外縁が狭い幅で溶着され(狭溶着部10a)、狭溶着部10aの側近には立ち壁10bが存在している。狭溶着部10aが検査対象とする部位である。軸駆動装置104によって、Z軸駆動部材5、θ軸回転部材6、Y軸ステージ7、X軸ステージ8の4軸を駆動しながら、狭溶着部10aを超音波探触子3で走査する。
【0031】
接触媒質供給ノズル12は、接触媒質供給装置102から供給された接触媒質を接触媒質保持部材14に滴下する。接触媒質保持部材14は、滴下された接触媒質を誘導して遅延材2の下端面と被検査体10との間に塗布する。接触媒質吸引ノズル13は、被検査体10に塗布された接触媒質を吸引して接触媒質回収装置103に回収する。
【0032】
超音波探傷装置101は、超音波探傷検査を行うとともに超音波検査装置全体の制御を行う。接触媒質供給装置102、接触媒質回収装置103、軸駆動装置104は、超音波探傷装置101によって制御され、接触媒質の塗布・接触媒質の除去・超音波探触子の走査を同時に実行しながら超音波検査を行うことができる。また、接触媒質供給装置102、接触媒質回収装置103、軸駆動装置104の少なくとも1つを手動により制御しても良い。
【0033】
図2は、第1実施形態に係る超音波探傷装置101のブロック図である。超音波探傷装置101は、超音波制御装置21、演算制御装置22、表示装置23を有している。
【0034】
超音波制御装置21は、超音波制御回路211、送信回路212、受信回路213を備えている。送信回路212は、超音波を発振するための電気パルス信号を発生させ、超音波振動子1に送信する。受信回路213は、超音波振動子1からの電気信号を受信して、増幅、フィルタリング、A/D変換等の処理を行って演算制御装置22に出力する。超音波制御回路211は、演算制御装置22と連携して、超音波振動子1から発振する超音波の強度・周波数・タイミング等を制御する。
【0035】
演算制御装置22は、CPU221、メモリ222、記憶装置223を備えている。演算制御装置22は、受信回路213から受信したデータ信号を解析して反射波の波形を生成し、その反射波の波形に基づいて検査結果の判定を行う。また、接触媒質供給装置102、接触媒質回収装置103、軸駆動装置104に制御信号を出力する。
【0036】
表示装置23は、ディスプレイ、プリンタ等を有しており、演算制御装置22による解析結果を視覚的に出力する。例えば、反射波の波形、良否判定結果等を表示する。
【0037】
図3(a)は、第1実施形態に係る超音波検査装置の超音波探触子部分の側面図並びに接触媒質供給装置及び接触媒質回収装置の詳細を示す図であり、
図3(b)は、接触媒質保持部材を説明するための側面図である。超音波探触子3の走査方向前側に超音波探触子3の外部から接触媒質供給ノズル12が設置され、超音波探触子3の走査方向後側に超音波探触子3の外部から接触媒質吸引ノズル13が設置される。接触媒質保持部材14は、超音波探触子3の外部から遅延材2の下端部分の半周程度を囲むように設置される。接触媒質供給ノズル12、接触媒質吸引ノズル13、接触媒質保持部材14は探触子固定ホルダ4に固定され、超音波探触子3と一体となって駆動する。
図3(b)に示すように、接触媒質保持部材14は、探触子固定ホルダ4の側面に、被検査体10の立ち壁10bと対向する側に固定される(接触媒質供給ノズル12及び接触媒質吸引ノズル13の固定部材は不図示)。なお、接触媒質保持部材14は、探触子固定ホルダ4に対して、ビス等により脱着可能に設けられても良いし、接着剤等で固定されても良い。
【0038】
接触媒質供給装置102は、接触媒質を接触媒質供給ノズル12に供給する。接触媒質供給装置102は、電磁弁31、シーケンサ32、接触媒質タンク33、液面センサ34、レギュレータ35、コンプレッサ36を有している。接触媒質タンク33には接触媒質が収容されている。コンプレッサ36、レギュレータ35により接触媒質タンク33は加圧調整され、接触媒質が接触媒質供給ノズル12に圧送される。接触媒質の供給量・供給間隔は、シーケンサ36からのコマンドに従って電磁弁35で制御される。本実施形態では、接触媒質には水を用い、供給量は定量・定間隔で行う。被検査体10に悪影響を与える恐れが無ければ、グリセリン・マシン油等の他の液体を接触媒質として用いても良い。
【0039】
接触媒質回収装置103は、超音波探触子3の走査後に被検査体10の表面に残存する接触媒質を接触媒質吸引ノズル13にて吸引し回収する。接触媒質回収装置104は、エジェクタ37、コンプレッサ38、回収タンク39を有している。エジェクタ37によって、接触媒質吸引ノズル13で吸引する接触媒質の吸引量を制御する。本実施形態では、接触媒質吸引ノズル13の材質は耐水軟質ゴムであり、接触媒質吸引ノズル13は一定の吸引量で走査を行う。
【0040】
超音波探触子3で被検査体10の走査を行う時には、遅延材2の下端面は被検査体10の表面に接触する。しかし、接触面においては、遅延材2の下端面と被検査体10の表面とは完全に密着しているわけではなく、表面の粗さ、微小なゆがみなどに起因して、遅延材2の下端面と被検査体10の表面とが接触していない空間が存在する。この空間に、上記接触媒質供給ノズル12から供給された接触媒質が行き渡ることになる。
【0041】
一般に、接触媒質の供給と回収を同時に行いながら超音波計測をする場合、被検査体に反りやひずみが発生すると超音波探触子の接触面と被検査体の表面との間に想定外の隙間が生じてしまい、接触媒質の供給と回収のバランスが崩れることがある。これにより、過剰に供給された接触媒質が溢れ出る、接触媒質の供給量が不足し超音波波形が乱れ誤計測する等の問題が生じることがある。
【0042】
この問題を解決するため、Z軸駆動部材5は、さらに加圧装置を有している。加圧装置によってZ軸方向に一定の圧力を加えることができる。超音波探触子3による被検査体10の走査時に、超音波探触子3で被検査体10を加圧することにより、走査領域において被検査体10の反りやひずみを一時的にでも戻すようにすることができる。本実施形態では、加圧バネを用いて50g〜200gの力を加える。加圧バネの代わりに、電子的に制御できる加圧装置を用いても良い。
【0043】
図4(a)は、第1実施形態に係る被検査体10の上面図であり、
図4(b)は、本発明の実施形態に係る被検査体10のA−A’面における矢視の断面図である。狭溶着部10aの幅dは約2mm、狭溶着部10aの長さ(被検査体10の外縁長)は約240mm、立ち壁10bの高さhは10mmである。被検査体10は超音波によって検査可能なものであればその種類を問わない。本実施形態では、被検査体10は2つの樹脂部品の外縁部分を溶着して作られた樹脂製品とする。
【0044】
図5(a)〜(c)は、第1実施形態に係る超音波検査装置の遅延材2、接触媒質供給ノズル12、接触媒質吸引ノズル13、接触媒質保持部材14の配置図である。
図4(a)は正面図、
図4(b)は側面図、
図5(c)は上面図である。破線矢印は接触媒質の流れを示す。走査方向前側に接触媒質供給ノズル12が設置され、走査方向後側に接触媒質吸引ノズル13が設置される。接触媒質保持部材14は、遅延材2に沿って探触子ホルダ4から吊り下げられ、接触媒質供給ノズル12と接触媒質吸引ノズル13を結ぶ仮想線に対して水平90度の方向から、遅延材2の下端部分の周方向の一部を囲むように設置される。
【0045】
接触媒質保持部材14は、一端に半円状の切り欠き部51を有する板状の部材であって、さらに切り欠き部51の内側は半すり鉢状となっている。接触媒質保持部材14と遅延材2とは、接触媒質の流入路となるようにクリアランスを設けて設置される。本実施形態では、接触媒質保持部材14の厚さは2〜3mmとし、接触媒質保持部材14と遅延材2とのクリアランスは約0.5mmとする。接触媒質供給ノズル12から滴下した接触媒質は、表面張力によって接触媒質保持部材14の切り欠き部51内に保持されつつ切り欠き部51内側のすり鉢形状により誘導されて遅延材2の下端に流れ込み、被検査体10との接触面に行き渡る。
【0046】
本実施形態では、接触媒質保持部材14の材質としてシリコンを用いる。代わりに、撥水(油)性が良く、被検査体の形状に追従しかつ被検査体を傷つけないような軟質の樹脂を用いても良い。なお、本実施形態では、接触媒質保持部材14について、遅延材2の一部分のみを囲むような構造を有することが本質であり、その材質は本質では無い。ただし、同時に使用する接触媒質により溶融しない材料を用いることは好ましい。
【0047】
従来のように、筒状にケーシングされた超音波探触子で立ち壁10bの側近を計測する場合、超音波探触子の全周がケーシングされているため、どの方向から被検査体にアプローチしても立ち壁10bとケーシングが干渉してしまう。これに対し、接触媒質保持部材14は、遅延材2の外周部分の一部は囲んでいない構造を有するため、立ち壁10bに干渉することなくアプローチできる方向が存在する。つまり、本実施形態において、θ軸方向で接触媒質保持部材14を回転させ、立ち壁10bに対向する側から切り欠き部51で遅延材2を囲むようにした状態で移動させれば、超音波探触子3を立ち壁10bの際まで移動させることができる。
【0048】
このように、本実施形態では、接触媒質保持部材14を用いることにより、超音波探触子3の下端面と被検査体10の表面との間に適切に接触媒質を供給でき、また同時に、超音波探触子3を立ち壁10bの際まで近づけることができる。すなわち、接触媒質保持部材14は、計測時に超音波探触子3と被検査体10との接触面に接触媒質を供給する機能と、良好な計測を実現させつつも、超音波探触子3を立ち壁10bの際まで近づけさせる機能とを有する。
【0049】
接触媒質供給ノズル12及び接触媒質回収ノズル13も立ち壁10bの干渉要因となる可能性があるが、前述のように、接触媒質供給ノズル12及び接触媒質回収ノズル13は接触媒質保持部材14と一体となっているため、接触媒質保持部材14と共に立ち壁10bとの干渉を避ける、または軽減することができる。
【0050】
したがって、
図5(a)〜(c)に示した配置により、接触媒質供給ノズル12、接触媒質回収ノズル13及び接触媒質保持部材14が被検査体10の立ち壁10bと干渉しないようθ軸回転部材6を回転させながら、Y軸ステージ7、X軸ステージ8を駆動させる。このような構成により、計測対象部位の側近に立ち壁10bが存在する場合であっても、超音波探触子3を計測対象部位に沿って走査させることが可能となる。
【0051】
また、接触媒質供給ノズル12、接触媒質保持部材14及び接触媒質回収ノズル13は、走査方向に沿って順番に設置されるため、接触媒質の供給・塗布・回収を効率良く行うことができる。
【0052】
また、接触媒質吸引ノズル13と遅延材2との設置間隔は、測定対象部位の形状に制限される場合がある。例えば
図6に示すように、被検査体10の狭溶着部10aが計測の対象部位であって、その狭溶着部10aの側近にR形状を有する立ち壁10bが存在する場合を例に挙げる。θ軸方向で接触媒質供給ノズル12、接触媒質保持部材14及び接触媒質吸引ノズル13を回転させながらその壁際を走査する場合には、曲率半径が小さい部分では接触媒質吸引ノズル13が被検査体10から逸脱し、接触媒質の回収ができなくなる可能性がある。そのため、被検査体の形状に合わせて接触媒質吸引ノズル13と遅延材2との設置間隔を決定する必要がある。本実施形態では、設置間隔は30mm〜45mmとする。
【0053】
図7(a)、(b)は、第1実施形態に係る超音波検査装置の超音波探触子3を説明するための図である。
図7(a)は超音波探触子3の断面図、
図7(b)は超音波探触子3の構成部品の形状図である。遅延材2は超音波振動子1の先端にカバー71で取り付けられている。超音波振動子1は、コネクタ72を介して超音波探傷装置101と電気的に接続されている。超音波振動子1は、電気信号を圧電素子等により変換して数M〜数十MHzの超音波を発振する。逆に、超音波振動子1は、超音波を受信して電気信号に変換する機能も有している。
【0054】
遅延材2は、側面がテーパ形状を有する柱状の部材である。すなわち、遅延材2は、入射された超音波を絞って出射する構造を有している。遅延材2の上端の幅は超音波振動子1の直径に合わせ、下端の幅は検査対象となる狭溶着部10aの幅dと同程度とする。遅延材2の高さは、被検査体の立ち壁10bの高さh以上のものとすることが好ましい。本実施形態では、遅延材2のサイズは、上端の直径4mm、下端の直径2mm、高さ19mmであり、材質はポリスチレンである。遅延材2の材質は、使用する接触媒質と音響インピーダンスが整合するような他の樹脂であっても良い。遅延材2は、カバー71によって容易に超音波探触子1に脱着可能である。また、遅延材2は、超音波振動子1を保護する機能も兼ねている。
【0055】
第1実施形態に係る超音波検査装置の超音波測定原理を
図8(a)〜(d)に示す。超音波振動子1から発振された超音波は遅延材2を伝播し、接触媒質を介して被検査体10に伝播する。
図8(a)、(b)において超音波は破線矢印で示される。被検査体10は、2つの部品が溶着されている。
図8(a)は、2つの部品が正常に溶着されている状態を示す図である。
図8(b)は、2つの部品が溶着不良である状態を示す図である。
図8(c)は、
図8(a)の状態において、超音波振動子1により検出された結果(計測結果情報)に基づいて生成された、反射波が検出されるまでの時間とその反射波の強度との関係を示す図である。
図8(d)は、
図8(b)の状態において、超音波振動子1により検出された結果(計測結果情報)に基づいて生成された、反射波が検出されるまでの時間とその反射波の強度との関係を示す図である。
図8(a)のように、2つの部品が正常に溶着されている場合には、被検査体10内の溶着面10gにおいては超音波の反射は発生せず、被検査体10の表面10cと被検査体10の裏面10dで超音波の反射が発生する。一方、被検査体10内の溶着不良面10fでは空気層が存在しているため、被検査体10の表面10cと被検査体10内の溶着不良面10fで反射が発生する。反射波の強度のピークが発生する時間を測定することで、どの部位で反射が発生したかを知ることができ(領域A、B)、溶着の良否を判定することができる。
【0056】
溶着の良・不良判定は、演算制御装置22によって、被検査体10内の溶着面における反射波の強度と第1の閾値を比較して行われる。第1の閾値を超える反射波を受信した場合、溶着途切れ(不良品)であると判定する。すなわち、演算制御装置22は、超音波振動子1から受信した計測結果情報に基づいて、
図9(c)、(d)に示すようなピークに対する時間をそれぞれ抽出し、それら時間から超音波反射面間の距離を算出する。次いで、演算制御装置22は、算出された反射面間の距離から、それら反射波の発生箇所(被検査体10の表面10cにおける反射波であるのか、被検査体10の裏面10dにおける反射波であるのか、または被検査体10内の溶着面における反射波であるのか)を推定し、推定された被検査体10内の溶着面における反射波のピーク強度と第1の閾値とを比較し、上記判定を行う。
【0057】
次に、第1実施形態に係る超音波検査装置の検査方法について、
図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0058】
まず、被検査体セット台9に被検査体10を設置し、被検査体10の走査開始位置の上方に超音波探触子3を位置合わせする(ステップS1)。次に、接触媒質供給ノズル12から被検査体10の走査開始位置に接触媒質を滴下する(ステップS2)。続いて、超音波探触子3を下降させて、遅延材2の下端面を被検査体10の表面に接触媒質を介して接触させる(ステップS3)。
【0059】
次に、超音波探触子3の走査を開始する(ステップS4)。軸駆動装置104によって超音波探触子3を被検査体10の検査対象部に沿って移動しながら、超音波振動子1から超音波を被検査体10に発振し(ステップS5)、その反射波の解析を演算制御装置22で行う(ステップS8)。走査接触媒質の供給(ステップS6)と接触媒質の回収(ステップS7)も超音波探触子3の走査と同時に行う。
【0060】
走査対象部位がすべて計測されると、上記走査は終了する(ステップS9)。その計測結果情報に基づいて、被検査体10の良否判定が行われる(ステップS10)。第1の閾値を超える超音波反射波を検出した場合には、溶着不良と判定され、その被検査体10は払い出される(ステップS11)。第1の閾値以下の超音波反射波のみ受信した場合には、正常に溶着されていると判定され、検査は終了する。
【0061】
[実施例]
本実施形態に係る遅延材2の効果を検証するために、超音波を遅延材2内に伝播させるシミュレーションを行った。
図10(a)〜(c)は、そのシミュレーション結果を示す画像である。3種類の異なる形状の遅延材、テーパ形状(a)、段付テーパ形状(b)、同径(c)に超音波を入射した。超音波の周波数は15MHz、遅延材の長さは19mm、テーパ形状(a)の遅延材の直径は上端4mm、下端2mmである。下の画像の色の濃さが超音波の振幅の大きさを示す。濃い黒色の部分で振幅は入射波の約3倍である。テーパ形状(a)においては、遅延材の中間から先端部分の中心部分が濃い黒色を示しており、超音波がテーパの形状によって増幅され、減衰することなく被検査体に伝播していることが分かる。また、長さが30mm程度のテーパ形状の遅延材であってもS/N比が確保できることが示された。
【0062】
以上、本発明の第1実施形態について説明した。
【0063】
本実施形態によれば、超音波探触子先端にテーパ形状の遅延材を取り付けることで、狭溶着部の超音波検査が可能となる。
【0064】
また、超音波探触子外部から接触媒質を供給・保持・回収する手段を設置し、それら手段が被検査体に干渉しないように駆動しながら超音波探触子の走査を行うことで、ケーシングされた超音波探触子では計測の障害となるような形状を有する被検査体であっても超音波検査を行うことが可能となる。
【0065】
[第2実施形態]
上記特許文献3に開示された発明においては、接触媒質を用いた場合、シュー材と被検査体との接触面以外に接触媒質が付着した場合、その付着部分から超音波が拡散減衰することがある。これにより超音波の送受信強度が変動し、本来検出すべき内部欠陥を検出できなくなる可能性がある。そこで、超音波探触子の先端部分(第1実施形態では遅延材の下端面)と被検査体との接触面以外に超音波振動子から発振された超音波が拡散減衰することを防止または軽減することが、より高精度な超音波検査にとって好ましい。
【0066】
これに対して、本実施形態では、
図11(a)、(b)に示すように、遅延材2の側面に接触防止膜91を設けている。
図11(a)は、接触防止膜91を側面に設けた遅延材2の正面図、
図6(b)は、接触防止膜91を側面に設けた遅延材2の側面図、
図6(c)は、接触防止膜91を側面に設けた遅延材2の上面図である。
【0067】
接触防止膜61と遅延材2は、密着しているものの、遅延材2の表面の粗さに起因して接触防止膜61と遅延材2との間には空気層が依然として存在する。本実施形態では、接触防止膜61には熱収縮チューブを用いる。音響境界となる空気層が確保できるものであれば、シールや接着剤等を用いても良い。音響境界として有効な空気層の厚さは、数μmである。本実施形態で用いた遅延材2の表面の粗さは50μmRzであるため、接触防止膜61と密着しても音響境界として有効な空気層が十分確保される。
【0068】
図12(a)、(b)は、本実施形態に係る遅延材から超音波が拡散する様子を説明するための図である。超音波は、破線矢印で示されている。一般に、超音波探触子に遅延材等の部材を取り付けて使用する場合、接触媒質が被検査体に過剰に供給・塗布されると、遅延材下端面と被検査体表面との間から接触媒質がはみ出し、遅延材の側面に接触媒質が付着する(
図12(b))。その付着部分から被検査体に伝播すべき超音波が拡散するため、付着量によって送受信超音波強度が変動し、検査精度が低下するという問題がある。本実施形態では、上記接触防止膜91を遅延材2の側面に装着し遅延材2の側面に音響境界としての空気層を設けることで、遅延材2を伝播する超音波の拡散を防止、または低減することができる。
【0069】
[実施例]
本実施形態に係る超音波検査装置において、
図11に示される接触防止膜91の効果を確認する試験を行った。接触防止膜91には熱収縮チューブを用いた。接触媒質の供給量が適切な場合及び接触媒質の供給量が過剰な場合において、それぞれ遅延材2に接触防止膜91を装着した場合と装着していない場合で超音波を発振し、受信する反射波の強度を比較した。接触媒質の供給は、40mmの走査ごとに行い、1回当たりの供給量は、適切な場合は0.01ccとし、過剰な場合は0.05ccとした。
【0070】
その結果、接触防止膜91を装着していない場合には、接触媒質2を過剰に供給すると受信する超音波反射強度が10%程度低下したが、接触防止膜91を装着した場合には、接触媒質を過剰に供給しても受信する超音波反射強度の低下はなく計測することが可能であった。
【0071】
以上、本発明の第2実施形態について説明した。
【0072】
本実施形態によれば、接触媒質を用いた超音波探傷検査において、超音波探触子先端に取り付けた遅延材の側面に接触防止膜91を備えることで、より高精度の超音波検査が可能となる。
【0073】
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施可能である。