特許第6323861号(P6323861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6323861表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6323861
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 37/00 20060101AFI20180507BHJP
【FI】
   C01B37/00
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-183170(P2013-183170)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-48297(P2015-48297A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】311015207
【氏名又は名称】リコーイメージング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】中山 寛之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
(72)【発明者】
【氏名】玉田 剛章
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏明
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−107863(JP,A)
【文献】 特開2012−016351(JP,A)
【文献】 特開2010−132485(JP,A)
【文献】 特開2009−237551(JP,A)
【文献】 特開2011−051878(JP,A)
【文献】 特開2009−040966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00ー39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がシランカップリング剤によって修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法であって、メソ孔がヘキサゴナル状に配列した構造を有するメソポーラスシリカナノ粒子を作製する工程と、前記メソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで洗浄後遠心分離する工程と、前記メソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーと、酸触媒を添加して得られたシランカップリング剤の加水分解物の水/アルコール系溶液とを攪拌混合し、超音波処理を施しながら前記メソポーラスシリカナノ粒子を表面修飾する工程とを有することを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記メソポーラスシリカナノ粒子を作製する工程が、pH1〜3の酸性水溶液に、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びアルコキシシランを添加して攪拌し、アルコキシシランを加水分解及び重縮合した後に、さらに塩基性触媒を添加するものであることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記作製したメソポーラスシリカナノ粒子の粉体をアルコールに分散し、アルコールによって、前記メソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤を抽出し、前記非イオン性界面活性剤が溶出した上澄みを除去する工程をさらに有することを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記作製したメソポーラスシリカナノ粒子を含有する水分散液に、アルコールを、水分散液:アルコール=1:1〜1:10(体積比)の割合で混合し、前記メソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤を抽出し、前記非イオン性界面活性剤が溶出した上澄みを除去する工程をさらに有することを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記粒子表面を外包する非イオン性界面活性剤が除去されたメソポーラスシリカナノ粒子のアルコール分散液に、塩酸/アルコール系溶液を、濃塩酸:アルコール=1:99〜20:80(体積比)の割合で混合し、前記メソポーラスシリカナノ粒子の細孔内に内包されるカチオン性界面活性剤を抽出し、前記カチオン性界面活性剤が溶出した上澄みを除去する工程をさらに有することを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記カチオン性界面活性剤が、4級アンモニウム塩であることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記非イオン性界面活性剤が、示性式:RO(C2H4O)a-(C3H6O)b-(C2H4O)c-R(但し、a及びcは10〜120の整数であり、bは30〜80の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で表されるブロックコポリマーであることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記アルコキシシランが4官能性テトラアルコキシシランであることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記メソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーのpHが9〜12であることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、前記シランカップリング剤が3官能性トリアルコキシシランであり、その加水分解物の水/アルコール系溶液のpHが1〜6であることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法において、得られた表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の粒子径が10〜150 nmであることを特徴とする表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の作製方法において、前記超音波処理を、周波数:10〜30 kHz、照射出力:300〜900 W、及び時間:5〜180分で、氷浴中で行うことを特徴とするメソポーラスシリカナノ粒子分散溶液の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノサイズの細孔を有するメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法に関し、特に粒子表面がシランカップリング剤によって修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から低屈折率の反射防止膜を形成するため、多孔質のシリカ微粒子が広く研究・開発されている。例えば、特許第4046921号(特許文献1)は、細孔を有する外殻の内部に空洞が形成されてなる、平均粒子径が5〜300 nmの中空球状シリカ系微粒子を開示しており、このシリカ系微粒子を含有する被膜を基材の表面に形成することにより、低屈折率で、樹脂等との密着性、強度、反射防止能等に優れた被膜付きの基材を提供することができると記載している。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の中空シリカ微粒子は、粒子形状を保つために外殻をある程度厚くする必要があるので、粒子径を小さくした場合、外殻の割合が大きくなり、低屈折率を維持するのが難しい。
【0004】
多孔質のシリカ微粒子としてメソポーラスシリカナノ粒子を用いた多孔質膜は、空孔率が高く、屈折率が低いので、レンズ等の光学基材に設ける反射防止膜への利用が検討されている。例えば、特開2009-237551号(特許文献2)は、膜の屈折率が1.10超〜1.35以下のメソポーラスシリカナノ粒子が集合したメソポーラスシリカ多孔質膜を用いた反射防止膜を開示しており、広い波長範囲の光線に対する反射防止性、耐擦傷性、基材に対する密着性、機械的強度及び耐湿性に優れると記載している。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載のメソポーラスシリカ多孔質膜は、表面張力が高い水系の塗工液(ゾル)により形成するため、基板への濡れ性(レベリング性)が低く、均一な膜を形成することが難しいという問題点があり、改良が望まれている。
【0006】
特開2011-51878号(特許文献3)は、界面活性剤と、水と、アルカリと、疎水部含有添加物と、シリカ源とを混合して界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する工程と、前記界面活性剤複合シリカ微粒子と、酸と、分子中にシロキサン結合を含んだ有機ケイ素化合物とを混合することにより、前記界面活性剤及び疎水部含有添加物の除去し、シリカ微粒子表面への有機官能基付与を行うメソポーラス化工程とを含む、メソポーラスシリカ微粒子の製造方法を開示しており、この方法により、微粒子同士の凝集が抑制され、媒質への分散性が格段に向上した有機修飾メソポーラスシリカ微粒子が得られると記載している。
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の有機修飾メソポーラスシリカ微粒子の製造方法は、メソポーラスシリカ微粒子の合成、及びその後のシリル化を行うための、高温処理可能な反応装置が必要であり、室温で簡便に合成できる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4046921号公報
【特許文献2】特開2009-237551号公報
【特許文献3】特開2011-51878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、有機溶媒中への分散性に優れた修飾メソポーラスシリカナノ粒子、又は前記有機溶媒中への分散性に優れるとともに、粒子表面に反応性基を有する修飾メソポーラスシリカナノ粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、シランカップリング剤の加水分解物と、アルコールにより湿潤状態になっているメソポーラスシリカナノ粒子のスラリーとを混合することにより、高温に加熱しなくても室温でメソポーラスシリカナノ粒子表面を修飾できることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の、表面がシランカップリング剤によって修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子(表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子)の製造方法は、メソ孔がヘキサゴナル状に配列した構造を有するメソポーラスシリカナノ粒子を作製する工程と、前記メソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーと、酸触媒を添加して得られたシランカップリング剤の加水分解物の水/アルコール系溶液とを攪拌混合し、超音波処理を施しながら前記メソポーラスシリカナノ粒子を表面修飾する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
前記メソポーラスシリカナノ粒子を作製する工程は、pH1〜3の酸性水溶液に、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びアルコキシシランを添加して攪拌し、アルコキシシランを加水分解及び重縮合した後に、さらに塩基性触媒を添加するものであるのが好ましい。
【0013】
前記作製したメソポーラスシリカナノ粒子の粉体をアルコールに分散し、アルコールによって、前記メソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤を抽出し、前記非イオン性界面活性剤が溶出した上澄みを除去する工程をさらに有するのが好ましい。
【0014】
前記作製したメソポーラスシリカナノ粒子を含有する水分散液に、アルコールを、水分散液:アルコール=1:1〜1:10(体積比)の割合で混合し、前記メソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤を抽出し、前記非イオン性界面活性剤が溶出した上澄みを除去する工程をさらに有するのが好ましい。
【0015】
前記作製した粒子表面を外包する非イオン性界面活性剤が除去されたメソポーラスシリカナノ粒子のアルコール分散液に、塩酸/アルコール系溶液を、濃塩酸:アルコール=1:99〜20:80(体積比)の割合で混合し、前記メソポーラスシリカナノ粒子の細孔内に内包されるカチオン性界面活性剤を抽出し、前記カチオン性界面活性剤が溶出した上澄みを除去する工程をさらに有するのが好ましい。
【0016】
前記カチオン性界面活性剤は、4級アンモニウム塩であるのが好ましい。
【0017】
前記非イオン性界面活性剤は、示性式:RO(C2H4O)a-(C3H6O)b-(C2H4O)c-R(但し、a及びcは10〜120の整数であり、bは30〜80の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で表されるブロックコポリマーであるのが好ましい。
【0018】
前記アルコキシシランは、4官能性テトラアルコキシシランであるのが好ましい。
【0019】
前記メソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーのpHは9〜12であるのが好ましい。
【0020】
前記シランカップリング剤は3官能性トリアルコキシシランであるのが好ましく、その加水分解物の水/アルコール系溶液のpHは1〜6であるのが好ましい。
【0021】
得られた表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の粒子径は10〜150 nmであるのが好ましい。
【0022】
前記超音波処理は、周波数:10〜30 kHz、照射出力:300〜900 W、及び時間:5〜180分で、氷浴中で行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法は、メソポーラスシリカナノ粒子の有機修飾を室温で行えるので、大がかりな反応装置を使用することなく低いコストで効率よく表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子を製造することができる。
【0024】
本発明の方法によって製造される表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子は、有機溶媒中への高い分散性を有するととともに、粒子表面に反応性基を導入することにより、メソポーラスシリカナノ粒子を薄膜化した後の二次的加工の際に、熱硬化やUV硬化等の工程を付加させることができるため、機能性薄膜への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】メソポーラスシリカナノ粒子の一例を示す斜視図である。
図2】基材上に設けられた、本発明のメソポーラスシリカナノ粒子からなる多孔質膜の一例を示す断面図である。
図3】メソポーラスシリカナノ粒子の典型的な孔径分布曲線を示すグラフである。
図4】実施例1で作製した本発明の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子のTEM写真である。
図5】実施例2で作製した本発明の表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[1] 製造方法
本発明の、表面がシランカップリング剤によって修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子(表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子)を製造する方法は、(1)アルコキシシラン、触媒、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び溶媒を含む混合溶液中でアルコキシシランを加水分解及び重縮合させることによってメソ孔がヘキサゴナル状に配列した構造を有するメソポーラスシリカナノ粒子を作製する工程、及び(2)得られたメソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーと、酸触媒を添加して得られたシランカップリング剤の加水分解物の水/アルコール系溶液とを攪拌混合し、超音波処理を施しながら前記メソポーラスシリカナノ粒子を表面修飾する工程を有することを特徴とする。本発明の方法は、室温で特別な反応容器を用いることなく簡便に実施することが可能なものである。
【0027】
メソポーラスシリカナノ粒子の表面をシランカップリング剤によって修飾することにより、例えば、メソポーラスシリカナノ粒子の有機溶媒中への分散性を向上させることができ、メソポーラスシリカナノ粒子の追加処理(熱硬化やUV硬化等)を容易に行うことが可能となる。さらに、メソポーラスシリカナノ粒子に様々な機能性を持たせることを可能にする。
【0028】
本発明の方法は、カチオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を用いて室温で調製した水系のメソポーラスシリカナノ粒子分散液から、室温下でアルコール及び塩酸/アルコール系溶液で前記2種の界面活性剤を抽出し、予め室温で加水分解しておいたシランカップリング剤を、前記2種の界面活性剤が抽出されたメソポーラスシリカナノ粒子と反応させ、メソポーラスシリカナノ粒子表面を修飾するものである。従来の方法に対する具体的な改善点としては、シランカップリング剤の表面修飾を、超音波処理を施しながら溶液を攪拌して行う点で、一度凝集した粒子も再度溶液中に分散することができ、2種の界面活性剤を抽出・除去した後でも、粒子間の凝集を低く抑えられた表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子を得ることができる点である。また、超音波処理により反応速度が向上して疎水化処理(表面修飾)を迅速に行うことができる。
【0029】
加えてシランカップリング剤(3官能性アルコキシシラン)の選択により、メソポーラスシリカナノ粒子表面をアルキル基、ビニル基、アリール基、メタクリル基、エポキシ基、チオール基、アミノ基、イソシアネート基等に置換することができる。このような方法により、粒子径の小さな表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の分散液を作製することができる。
【0030】
(1) メソポーラスシリカナノ粒子の作製
メソポーラスシリカナノ粒子は、アルコキシシラン、触媒、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び溶媒を含む混合溶液をエージングしてアルコキシシランを加水分解及び重縮合させることによって作製する。
【0031】
アルコキシシランの加水分解及び重縮合は、(i) 溶媒、酸性触媒、アルコキシシラン、カチオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含む混合溶液をエージングし、(ii) 得られたシリケートを含む酸性ゾルに塩基性触媒を添加することにより行うのが好ましい。
【0032】
(i) 酸性条件での加水分解及び重縮合
純水に酸性触媒を添加して酸性溶液を調製し、カチオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤の混合液を添加した後、アルコキシシランを添加することにより、アルコキシシランの加水分解及び重縮合を行う。酸性溶液のpHは約2とするのが好ましい。アルコキシシランの加水分解物の等電点は約pH 2であるので、pH 2付近の酸性溶液中ではアルコキシシランの加水分解物が安定的に存在する。
【0033】
前記アルコキシシランを含む混合溶液を、20〜25℃で1〜24時間程度、静置、又は撹拌することによりエージングする。エージングにより加水分解及び重縮合が進行し、シリケート(アルコキシシランを出発物質とするオリゴマー)を含有するゾルが生成する。
【0034】
(a) アルコキシシラン
アルコキシシランはモノマーでも、オリゴマーでも良い。アルコキシシランモノマーはアルコキシル基を3つ以上有するのが好ましい。アルコキシル基を3つ以上有するアルコキシシランを出発原料とすることにより、優れた均一性を有するメソポーラスシリカ多孔質膜が得られる。アルコキシシランモノマーの具体例としてはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。アルコキシシランオリゴマーとしては、上述のモノマーの重縮合物が好ましい。アルコキシシランオリゴマーはアルコキシシランモノマーの加水分解及び重縮合により得られる。アルコキシシランオリゴマーの具体例として、一般式RSiO1.5(ただしRは有機官能基を示す。)により表されるシルセスキオキサンが挙げられる。
【0035】
溶媒(水)/アルコキシシランのモル比は30〜300にするのが好ましい。このモル比を30未満とすると、アルコキシシランの重合度が高くなり過ぎる。一方300超とすると、アルコキシシランの重合度が低くなり過ぎる。
【0036】
(b) 界面活性剤
カチオン性界面活性剤としては、ハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化アルキルトリエチルアンモニウム、ハロゲン化ジアルキルジメチルアンモニウム、ハロゲン化アルキルメチルアンモニウム、ハロゲン化アルコキシトリメチルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウムとして、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウムとして、塩化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化ジアルキルジメチルアンモニウムとして、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化アルキルメチルアンモニウムとして、塩化ドデシルメチルアンモニウム、塩化セチルメチルアンモニウム、塩化ステアリルメチルアンモニウム、塩化ベンジルメチルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化アルコキシトリメチルアンモニウムとして、塩化オクタデシロキシプロピルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0037】
非イオン性界面活性剤として、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーとして、例えば式:RO(C2H4O)a-(C3H6O)b-(C2H4O)cR(但し、a及びcはそれぞれ10〜120を表し、bは30〜80を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す)で表されるものが挙げられる。このブロックコポリマーの市販品として、例えばPluronic(登録商標、BASF社)が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。
【0038】
カチオン性界面活性剤/溶媒のモル比は1×10-4〜3×10-3とするのが好ましく、これによりメソ細孔の規則性に優れたメソポーラスシリカナノ粒子が得られる。このモル比は、1.5×10-4〜2×10-3がより好ましい。
【0039】
カチオン性界面活性剤/アルコキシシランのモル比は1×10-1〜3×10-1が好ましい。このモル比を1×10-1未満とすると、メソポーラスシリカナノ粒子のメソ構造の形成が不十分となる。一方3×10-1超とすると、メソポーラスシリカナノ粒子の粒径が大きくなり過ぎる。このモル比は、1.5×10-1〜2.5×10-1がより好ましい。
【0040】
非イオン性界面活性剤/アルコキシシランのモル比は3.5×10-3以上〜2.5×10-2未満である。このモル比を3.5×10-3未満とすると、メソポーラスシリカ多孔質膜の屈折率が大きくなり過ぎる。一方2.5×10-2以上とすると、メソポーラスシリカ多孔質膜の屈折率が小さくなり過ぎる。
【0041】
カチオン性界面活性剤/非イオン性界面活性剤のモル比は8超〜60以下とするのが好ましく、これによりメソ細孔の規則性に優れたメソポーラスシリカナノ粒子が得られる。このモル比は、10〜50がより好ましい。
【0042】
(c) 酸性触媒
酸性触媒としては、塩化水素酸(塩酸)、硫酸、硝酸等の無機酸やギ酸、酢酸等の有機酸を使用することができる。
【0043】
(ii) 塩基性条件での加水分解及び重縮合
得られた酸性ゾルに、塩基性触媒を添加して溶液を塩基性にし、さらに加水分解及び重縮合させ、反応を完結させる。溶液のpHは9〜12となるように調整するのが好ましい。
【0044】
塩基性触媒を添加することにより、カチオン性界面活性剤ミセルの周囲にシリケート骨格が形成されて、規則的な六方配列が成長し、シリカとカチオン性界面活性剤とが複合した粒子が形成される。この複合粒子は、成長に伴って表面の有効電荷が減少するので、その表面には非イオン性界面活性剤が吸着した状態となる。その結果、非イオン性界面活性剤で表面が被覆され、かつ細孔内にカチオン性界面活性剤を有するメソポーラスシリカナノ粒子(以下「界面活性剤−メソポーラスシリカナノ粒子複合体」とよぶことがある)の溶液(ゾル)が得られる[例えば、今井宏明、「化学工業」、化学工業社、2005年9月、第56巻、第9号、pp.688-693を参照]。このメソポーラスシリカナノ粒子の形成過程において、非イオン性界面活性剤の吸着により、上記複合粒子の成長が抑制されるので、以上のような2種類の界面活性剤を用いた調製方法により得られるメソポーラスシリカナノ粒子複合体は、平均粒径が200 nm以下であり、かつメソ孔がヘキサゴナル状に配列した構造を有するものである。
【0045】
塩基性触媒としては、アンモニア、アミン、NaOH及びKOHが使用できる。好ましいアミンの例として、アルコールアミン及びアルキルアミン(例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-ブチルアミン、n-プロピルアミン等)が挙げられる。
【0046】
(2) メソポーラスシリカナノ粒子の表面修飾
前記メソ孔がヘキサゴナル状に配列した構造を有するメソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーと、酸触媒を添加して得られたシランカップリング剤の加水分解物の水/アルコール系溶液とを攪拌混合し、超音波処理を施しながら前記メソポーラスシリカナノ粒子の表面を修飾する。
【0047】
(i) メソポーラスシリカナノ粒子を含むスラリーの作製
作製したメソポーラスシリカナノ粒子の分散媒(水)をアルコールに置換するとともに、前記メソポーラスシリカナノ粒子の表面に結合し、粒子全体を外包する非イオン性界面活性剤を抽出及び除去するのが好ましい。メソポーラスシリカナノ粒子の分散媒をアルコールに置換する方法としては、(a)メソポーラスシリカナノ粒子水分散液を乾燥し、アルコール系溶剤に再分散させる方法、又は(b)メソポーラスシリカナノ粒子を含有する水分散液に、アルコールを混合する方法が挙げられる。
【0048】
アルコールによる分散媒の置換操作により、メソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤は除去されるが、細孔内に内包されるカチオン性界面活性剤は一部しか除去されない。前記カチオン性界面活性剤は、塩酸/アルコール系溶液により抽出及び除去する(後述)。
【0049】
これらの操作により、カチオン性界面活性剤が内包又は除去されたメソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーが得られる。
【0050】
(a) 乾燥及び再分散法
メソポーラスシリカナノ粒子水分散液に含まれる水分を乾燥させ、得られた乾燥物(粉体)にエタノール等のアルコールを添加して再分散させることにより、メソポーラスシリカナノ粒子のアルコール分散液を得る。乾燥は、オーブン等を用いて、50〜80℃で12〜24時間加熱することにより行うのが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプルピルアルコール等を使用できる。乾燥したメソポーラスシリカナノ粒子は、アルコールで再分散する前に、乳鉢等ですり潰すのが好ましい。さらにアルコールで再分散した後、高いせん断をかけて強制的に攪拌するのが好ましい。
【0051】
このときメソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤がアルコールに抽出されるので、この上澄みをさらに遠心分離等の方法により除去し、得られた固形分をアルコールで再分散する操作を繰り返すことにより、メソポーラスシリカナノ粒子から非イオン性界面活性剤を除去することができる。これらの遠心分離及びアルコール再分散の操作は、少なくとも1サイクル行うのが好ましく、3サイクル以上行うのがより好ましい。
【0052】
(b) アルコール添加法
前記メソポーラスシリカナノ粒子水分散液に、アルコールを添加することにより、前記メソポーラスシリカナノ粒子を外包する非イオン性界面活性剤を抽出するとともに、分散媒である水をアルコールに置換できる。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプルピルアルコール等を使用でき、水分散液:アルコール=1:1〜1:10(体積比)の割合となるように添加するのが好ましい。
【0053】
アルコールを添加した後、高いせん断をかけて強制的に攪拌するのが好ましい。前記非イオン性界面活性剤を含む上澄みを遠心分離等の方法により除去し、固形分をアルコールで再分散する操作を繰り返すことにより、メソポーラスシリカナノ粒子から非イオン性界面活性剤を除去することができる。これらの遠心分離及びアルコール再分散の操作は、少なくとも1サイクル行うのが好ましく、3サイクル以上行うのがより好ましい。
【0054】
(c) カチオン性界面活性剤の除去
メソポーラスシリカナノ粒子の細孔内に内包されるカチオン性界面活性剤は、前述の非イオン性界面活性剤の抽出及び除去の操作により一部抽出されるが、残存したカチオン性界面活性剤をさらに抽出及び除去するのが好ましい。前記非イオン性界面活性剤を除去した後のメソポーラスシリカナノ粒子のアルコール分散液に、塩酸/アルコール系溶液を混合することにより、前記メソポーラスシリカナノ粒子の細孔内に内包されるカチオン性界面活性剤を抽出することができる。前記塩酸/アルコール系溶液は、濃塩酸:アルコール=1:99〜20:80(体積比)の割合で調製するのが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプルピルアルコール等を使用できる。
【0055】
抽出された前記カチオン性界面活性剤を含む塩酸/アルコール系溶液の上澄みを遠心分離等の方法により除去し、固形分をアルコール系溶剤で再分散する操作を繰り返すことにより、メソポーラスシリカナノ粒子からカチオン性界面活性剤を除去することができる。これらの遠心分離及び塩酸/アルコール系溶液再分散の操作は、塩酸/アルコール系溶液の添加1回、その後のアルコール系での溶剤置換は、少なくとも1サイクル行うのが好ましく、3サイクル以上行うのがより好ましい。
【0056】
前記非イオン性界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤を除去した後のメソポーラスシリカナノ粒子分散物は、分散媒を必要に応じて各種溶剤に置換して使用することができる。分散媒の置換は、前述と同様、遠心分離及び溶剤での再分散を繰り返して行うのが好ましい。本発明においては、アルコール系溶剤に置換するのが好ましい。
【0057】
(ii) シランカップリング剤による表面修飾
前記メソポーラスシリカナノ粒子をアルコールで湿潤状態にしてなるスラリーに、シランカップリング剤の加水分解物の水/アルコール系溶液を添加し、超音波処理を施すことにより前記メソポーラスシリカナノ粒子の表面が前記シランカップリング剤で修飾されてなる表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の分散物が得られる。前記シランカップリング剤の加水分解物の水/アルコール系溶液のpHは1〜6であるのが好ましい。
【0058】
前記シランカップリング剤の加水分解は、酸性水溶液(pH1〜6程度)に、シランカップリング剤及びアルコールを添加することによって行う。酸性水溶液としては、ギ酸や酢酸等の有機酸や塩酸や硝酸などの無機酸の水溶液が好ましく、pH2〜5であるのがより好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプルピルアルコール等を使用できる。加水分解は、20〜40℃で10分〜5時間程度攪拌することにより行うのが好ましい。
【0059】
前記シランカップリング剤としては、3官能性トリアルコキシシランを用いるのが好ましい。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロエキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0060】
前記超音波処理は、周波数:10〜30 kHz、照射出力:300〜900 W、及び時間:5〜180分で行うのが好ましく、氷浴中で攪拌しながら行うのが好ましい。
【0061】
前記表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の分散物は、分散媒を必要に応じて各種溶剤に置換して使用することができる。分散媒の置換は、前述と同様、遠心分離及び溶剤での再分散を繰り返して行うのが好ましい。
【0062】
[2] 表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子及びそれを用いた多孔質膜
表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子20は、例えば図1に示すように、メソ孔20aを有するシリカ骨格20bからなり、メソ孔20aがヘキサゴナル状に規則的に配列した多孔質構造を有する。表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子は、このようなヘキサゴナル構造のものに限定されず、キュービック構造又はラメラ構造のものでもよい。
【0063】
図2は、表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子を基材1の表面に塗布及び成膜してなるメソポーラスシリカ多孔質膜2を示す。有機性基により表面修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子は、有機溶剤への分散性に優れるため、有機溶剤系分散物として使用することができる。メソポーラスシリカ多孔質膜2は、前記三種の構造(ヘキサゴナル構造、キュービック構造又及びラメラ構造)の粒子のいずれか又はこれらの混合物からなるものであればよいが、ヘキサゴナル構造の粒子からなるのが好ましい。これらのメソポーラスシリカ多孔質膜2は反射防止膜として好適である。
【0064】
また前記有機性基として、反応性基を使用することにより、粒子表面に反応性基を有する修飾メソポーラスシリカナノ粒子が得られ、この表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の分散溶液に紫外線硬化性又は熱硬化性の樹脂を添加することで、基材への成膜時に、粒子同士のインタラクション(結合強度)の向上、粒子と基材との密着性改良、成膜した膜の硬質化等の効果が得られ、また修飾する官能基の種類によっては撥水性、撥油性等の効果が得られる。
【0065】
表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子20の平均粒径は、200 nm以下が好ましく、20〜50 nmがより好ましい。この平均粒径が200 nm超だと、多孔質膜を形成する際に膜厚調整が困難であり、薄膜設計のフレキシビリティーが低い。しかもメソポーラスシリカ多孔質膜2を反射防止膜として使用する場合、反射防止特性及び耐クラック性が低くなる。メソポーラスシリカナノ粒子20の平均粒径は動的光散乱法により求める。メソポーラスシリカ多孔質膜2の屈折率は空隙率に依存し、大きな空隙率を有するものほど屈折率が小さい。メソポーラスシリカ多孔質膜2の空隙率は45〜80%であるのが好ましい。この範囲内の空隙率を有するメソポーラスシリカ多孔質膜2の屈折率は1.09〜1.25である。
【0066】
メソポーラスシリカ多孔質膜2は、図3に示すように、窒素吸着法により求めた孔径分布曲線が二つのピークを有するのが好ましい。詳しくは、メソポーラスシリカ多孔質膜2について窒素の等温脱着曲線を求め、これをBJH法で解析する。図3で横軸を細孔直径とし、縦軸をlog微分細孔容積とする。BJH法は、例えば「メソ孔の分布を求める方法」[E. P. Barrett,L. G. Joyner, and P. P. Halenda, J.Am. Chem. Soc., 73, 373 (1951)]に記載されている。log微分細孔容積は、細孔直径Dの対数の差分値d(logD)に対する差分細孔容積dVの変化量であり、dV/d(logD)で表される。小孔径側の第一ピークが粒子内細孔の径を示し、大孔径側の第二ピークが粒子間細孔の径を示す。メソポーラスシリカ多孔質膜2は、粒子内細孔径が2〜10 nmの範囲内にあり、粒子間細孔径が5〜200 nmの範囲内にある分布を有するのが好ましい。
【0067】
粒子内細孔の合計容積V1と粒子間細孔の合計容積V2の比は1/15〜1/1であるのが好ましい。合計容積V1及びV2は以下の通り求める。図3において、第一及び第二のピーク間の縦座標の最小値の点Eを通り横軸と平行な直線をベースラインL0とし、第一のピークの最大傾斜線(最大傾斜点における接線)をL1及びL2とし、第二のピークの最大傾斜線(最大傾斜点における接線)をL3及びL4とする。最大傾斜線L1〜L4とベースラインL0との交点A〜Dにおける横軸座標をDA〜DDとする。BJH法により、DAからDBまでの範囲における細孔の合計容積V1と、DCからDDまでの範囲における細孔の合計容積V2を算出する。
【0068】
前記表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子の分散液の塗布は、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フローコート法、バーコート法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法等によって行うことができる。得られる多孔質膜の厚さは、例えば、スピンコート法における基材回転速度やディッピング法における引き上げ速度の調整、塗布液の濃度の調整等により制御することができる。スピンコート法における基材回転速度は、例えば約500〜約10,000 rpmとするのが好ましい。
【0069】
メソポーラスシリカ多孔質膜2は、1.09〜1.25の低い屈折率及び均一な膜厚を有するので、広い波長範囲の光線に対する反射防止膜として優れた性能を有する。このような優れた反射防止特性を有するメソポーラスシリカ多孔質膜をレンズに設けると、その中心部と周辺部での透過光量又は透過光色の異なりや、レンズ周辺部での反射光に起因するゴースト等の問題を著しく低減できる。このような優れた特性を有する光学素子を、カメラ、内視鏡、双眼鏡、プロジェクター等に使用すると、画像の質を著しく向上させることができる。さらに本発明のメソポーラスシリカ多孔質膜は、製造コストも低く、歩留まりが良好である。メソポーラスシリカ多孔質膜2の好ましい物理膜厚は15〜500 nmである。
【実施例】
【0070】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0071】
実施例1
(1) メソポーラスシリカナノ粒子分散液(水系ゾル)の作製
0.01 N 塩酸(pH2)40 gに、塩化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウム;CTAC(関東化学株式会社製)1.21g、及びブロックコポリマー HO(C2H4O)106-(C3H6O)70-(C2H4O)106H(商品名「Pluronic F127」、Sigma-Aldrich社製)2.14 gを添加し、25℃で0.5時間撹拌し、テトラエトキシシラン(関東化学株式会社製)4.00 gを添加し、25℃で1時間撹拌した後、28質量%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)3.94 gを添加してpHを10.8とし、25℃で0.5時間撹拌し水系ゾルを得た。
【0072】
(2) メソポーラスシリカナノ粒子分散液の非イオン性界面活性剤抽出除去
得られた水系ゾルをシャーレに移し、オーブンを用いて60℃で24時間乾燥した。得られた乾燥物全量を乳鉢ですり潰し、エタノール(和光純薬工業株式会社製;1級試薬)80 mlと混合して強攪拌することで、乾燥物中の非イオン性界面活性剤「Pluronic F127」を抽出・除去し、カチオン性界面活性剤;CTACを内包するメソポーラスシリカナノ粒子を沈殿させた。これを遠心分離機(久保田商事株式会社製;テーブルトップ遠心機2410)を用いて4000 rpmで20分間遠心分離し、非イオン性界面活性剤が溶解した上澄みを除去した。得られた固形分を再びエタノールと混合し攪拌することでメソポーラスシリカナノ粒子を洗浄した。この洗浄及び遠心分離の工程を合計3サイクル実施した。
【0073】
(3) メソポーラスシリカナノ粒子の表面修飾
酢酸(和光純薬工業株式会社製;特級)を水と混合しpH 4.00に調製した酸性溶液27.0 gに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製;サイラエースs710)3.0 g及びメタノール(和光純薬工業株式会社製;特級)20.0 gを混合し、25℃で1.0時間攪拌してシランカップリング剤(サイラエースs710)の加水分解物を得た。
【0074】
非イオン性界面活性剤を除去したメソポーラスシリカナノ粒子のエタノール湿潤物1.50 gとメタノール(和光純薬工業株式会社製;特級)30.0 gとを混合し、得られたシランカップリング剤の加水分解物の水/メタノール溶液20.0 gを添加して、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製;US-600T)を用いて5時間超音波照射(19.5 kHz, 600 W)しながら強攪拌することで、非イオン性界面活性剤が除去されたメソポーラスシリカナノ粒子の表面がシランカップリング剤で修飾された水/メタノール分散液を得た。この分散液を遠心分離機(久保田商事株式会社製;テーブルトップ遠心機2410)を用いて4000 rpmで20分間遠心分離し、上澄みを除去後、得られた固形分を4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)(和光純薬工業株式会社製;特級)で分散することで、細孔内にカチオン性界面活性剤を内包し、粒子表面が前記シランカップリング剤で表面修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子のMIBK分散液を作製した。
【0075】
(4) 実施例1の結果
実施例1で得られた表面修飾済みメソポーラスシリカナノ粒子のTEM写真を図4に示す。この表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子のMIBK分散液は、粘度が1.13 mPa・s、粒子径(メジアン径)が41.3 nm、及びシリカ固形分濃度が 3.2質量%であった。なお、分散液の粘度と粒子径は、粒度分布測定装置LB-550(株式会社堀場製作所製)で測定した。
【0076】
実施例2
(1) メソポーラスシリカナノ粒子分散液の界面活性剤抽出除去及び有機溶媒置換
実施例1と同様にして得られた水系ゾル20 mlに、エタノール(和光純薬工業株式会社製;1級試薬)80 mlを混合して強攪拌することで、水系ゾル中の非イオン性界面活性剤「Pluronic F127」を抽出・除去し、カチオン性界面活性剤;CTACを内包するメソポーラスシリカナノ粒子を沈殿させた。これを遠心分離機(久保田商事株式会社製;テーブルトップ遠心機2410)を用いて4000 rpmで20分間遠心分離し、得られた固形分(湿潤物)を再びエタノールと混合及び攪拌することでメソポーラスシリカナノ粒子を洗浄した。この洗浄及び遠心分離の工程を合計3サイクル実施し、メソポーラスシリカナノ粒子の湿潤物を得た。
【0077】
得られたメソポーラスシリカナノ粒子の湿潤物全量を塩酸(和光純薬工業株式会社製「35〜37%水溶液」):エタノール=10ml:90mlの混合溶液に添加し、18時間攪拌することで、メソポーラスシリカナノ粒子中に内包されるカチオン性界面活性剤;CTACを抽出・除去した。この溶液を4000 rpmで20分間遠心分離することで、固形分(湿潤物)と液体に分離した。得られた湿潤物をエタノールと混合・攪拌することでメソポーラスシリカナノ粒子を洗浄し、再び4000 rpmで20分間遠心分離し固形分(湿潤物)を得た。この洗浄及び遠心分離の工程を合計3サイクル実施した。
【0078】
(2) メソポーラスシリカナノ粒子の表面修飾
酢酸(和光純薬工業株式会社製;特級)を水と混合しpH4.00に調製した酸性溶液8.0 gに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製;サイラエースs710)10.0 g及びメタノール(和光純薬工業株式会社製;特級)32.0 gを混合し、25℃で1.0時間攪拌してシランカップリング剤(サイラエースs710)の加水分解物を得た。
【0079】
非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤を除去したメソポーラスシリカナノ粒子のエタノール湿潤物12.0 gとメタノール(和光純薬工業株式会社製;特級)45.0 gとを混合し、得られたシランカップリング剤の加水分解物の水/メタノール溶液3.0 gを添加して、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製;US-600T)を用いて5時間超音波照射(19.5 kHz, 600 W)しながら強攪拌することで、非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤が除去されたメソポーラスシリカナノ粒子表面をシランカップリング剤で表面修飾した。この水/メタノール分散液を遠心分離機(久保田商事株式会社製;テーブルトップ遠心機2410)を用いて4000 rpmで20分間遠心分離し、上澄みを除去後、得られた固形分を4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)(和光純薬工業株式会社製;特級)で分散することで、非イオン性及びカチオン性界面活性剤が除去され、粒子表面がシランカップリング剤で表面修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子のMIBK分散液を作製した。
【0080】
(3) 実施例2の結果
実施例2で得られた表面修飾済みメソポーラスシリカナノ粒子のTEM写真を図5に示す。この表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子のメソポーラスシリカナノ粒子のMIBK分散液は、粘度が1.21 mPa・s、粒子径(メジアン径)が60.2 nm、及びシリカ固形分濃度が 12.5質量%であった。なお、分散液の粘度と粒子径は、粒度分布測定装置LB-550(株式会社堀場製作所製)で測定した。
【符号の説明】
【0081】
1・・・基材
2・・・メソポーラスシリカ多孔質膜
20・・・メソポーラスシリカナノ粒子
20a・・・メソ孔
20b・・・シリカ骨格
図1
図2
図3
図4
図5