(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6323863
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】圧電素子、圧電アクチュエータおよび圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/083 20060101AFI20180507BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20180507BHJP
H01L 41/273 20130101ALI20180507BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
H01L41/083
H01L41/187
H01L41/273
H01L41/09
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-265919(P2013-265919)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-122438(P2015-122438A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】稲田 豊
(72)【発明者】
【氏名】松本 匡史
【審査官】
加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−191733(JP,A)
【文献】
特開2001−002469(JP,A)
【文献】
特開2013−197250(JP,A)
【文献】
特開2013−172094(JP,A)
【文献】
特開2005−306720(JP,A)
【文献】
特開2012−209579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/083
H01L 41/09
H01L 41/187
H01L 41/273
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層および内部電極層が交互に積層された圧電素子であって、
内部電極層および前記内部電極層により挟まれた圧電体層で形成され、前記内部電極層の積層方向への投影が重なる領域として形成された活性部と、
前記活性部の側面方向および端面方向の周囲に設けられ、圧電体層の焼結密度が前記活性部の圧電体層の焼結密度に対して94%以上97%以下の不活性部と、を備え、
前記内部電極層は、Pdに対するAgのモル比が0.8以上1.0以下であるAg/Pdからなり、前記活性部および不活性部の圧電体層は、PZTに対するPZNのモル比が0.1以上0.3以下であるPZT−PZN系材料からなることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子を直列に連結して構成されることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項3】
超音波モータ素子として、積層面上で前記内部電極が4区分に分けて形成されていることを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
【請求項4】
圧電体層および内部電極層が交互に積層された圧電素子の製造方法であって、
Pdに対するAgのモル比が0.8以上1.0以下であるAg/Pdの電極ペーストを印刷したPZT−PZN系材料のグリーンシートを積層することで成形体を作製する工程と、
前記印刷された電極ペーストが内部電極層を形成し、PZTに対するPZNのモル比が0.1以上0.3以下であるPZT−PZN系材料が圧電体層を形成するように前記成形体を焼成する工程と、を含み、
前記焼成工程では、内部電極層の積層方向への投影が重なる領域を活性部、前記活性部の側面方向および端面方向の周囲に設けられた領域を不活性部としたとき、前記成形体を、前記活性部の圧電体層の焼結密度に対する前記不活性部の圧電体層の焼結密度が94%以上97%以下になるように焼成温度を制御することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、これを用いた圧電アクチュエータおよび圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の圧電素子は、電圧印加により積層方向(分極方向)へ伸びるが、面方向へは縮む。この際に、圧電素子の両端面の保護層や側面の電極隠し構造部分を含め、不活性部は変形せず、内部電極で挟まれた活性部のみ変形することになる。このような圧電素子を繰返し駆動すると、活性部と不活性部の境界に応力が集中しクラックが入って故障が発生しうる。
【0003】
これに対し、特許文献1記載の圧電素子は、圧電層だけからなる電極層のない領域(電極層が形成されていない圧電層による領域)として形成された非電極部の密度が、圧電層と電極層とを重ねた領域(圧電層上に電極層が形成された領域)として形成された電極部の密度の94%以上、97%以下となるように形成されている。適切な焼成温度を決定することで、このような構造を形成し、電極部と非電極部との境界でのクラックの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−191733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような圧電素子は、活性部と不活性部の境界に応力が集中するのを防止しているものの、焼結助剤を添加し低温で焼結していることから絶縁性に難があり、必ずしも高い圧電特性を発揮できない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高い圧電特性を有し、繰返しの駆動により、活性部と不活性部の境界に集中する応力を緩和し、クラックが生じる故障を防止するとともに、大きい変位を可能にする圧電素子、圧電アクチュエータおよび圧電素子の製造方法を提供することができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電素子は、圧電体層および内部電極層が交互に積層された圧電素子であって、内部電極層および前記内部電極層により挟まれた圧電体層で形成され、前記内部電極層の積層方向への投影が重なる領域として形成された活性部と、前記活性部の側面方向および端面方向の周囲に設けられ、圧電体層の焼結密度が前記活性部の圧電体層の焼結密度に対して94%以上97%以下の不活性部と、を備え、前記内部電極層は、AgまたはAg/Pdからなり、前記活性部および不活性部の圧電体層は、PZT−PZN系材料からなることを特徴としている。
【0008】
これにより、高い圧電特性を有し、繰返しの駆動により活性部と不活性部の境界に集中する応力を緩和し、クラックが生じる故障を防止するとともに、大きい変位を可能にする。
【0009】
(2)また、本発明の圧電素子は、前記PZT−PZN系材料は、PZTに対するPZNのモル比が0.1以上0.3以下であることを特徴としている。これにより、活性部に対して所定の焼結密度比を有する不活性部を形成しやすくなる。
【0010】
(3)また、本発明の圧電アクチュエータは、上記の圧電素子を直列に連結して構成されることを特徴としている。これにより、圧電特性が高く、不活性部にクラックを生じ難い圧電素子で圧電アクチュエータを構成できる。
【0011】
(4)また、本発明の超音波モータ素子は、超音波モータ素子として、積層面上で前記内部電極が4区分に分けて形成されていることを特徴としている。これにより、圧電特性が高く、不活性部にクラックを生じ難い超音波モータ素子を構成できる。
【0012】
(5)また、本発明の圧電素子の製造方法は、圧電体層および内部電極層が交互に積層された圧電素子の製造方法であって、AgまたはAg/Pdの電極ペーストを印刷したPZT−PZN系材料のグリーンシートを積層することで成形体を作製する工程と、前記印刷された電極ペーストが内部電極層を形成し、PZT−PZN系材料が圧電体層を形成するように前記成形体を焼成する工程と、を含み、前記焼成工程では、内部電極層の積層方向への投影が重なる領域を活性部、前記活性部の側面方向および端面方向の周囲に設けられた領域を不活性部としたとき、前記成形体を、前記活性部の圧電体層の焼結密度に対する前記不活性部の圧電体層の焼結密度が94%以上97%以下になるように焼成温度を制御することを特徴としている。
【0013】
これにより、高い圧電特性を有し、繰返しの駆動により活性部と不活性部の境界に集中する応力を緩和し、クラックが生じる故障を防止するとともに、大きい変位を可能にする圧電素子を製造できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧電素子は、高い圧電特性を有し、繰返しの駆動により活性部と不活性部の境界に応力が集中するのを防止するとともに、大きい変位を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の圧電アクチュエータを示す断面図である。
【
図3】本発明の超音波モータ素子を示す斜視図である。
【
図4】超音波モータ装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(圧電素子)
図1Aは、圧電素子100を示す側断面図、
図1B、1Cは、圧電素子100を示す平断面図である。圧電素子100は、圧電体層110および内部電極層120a、120bが交互に積層されて形成されており、内部電極層120a、120bにそれぞれ接続される外部電極125a、125bを備えている。圧電素子100は、外部電極125a、125bを介して隣り合う内部電極層120a、120bに異なる電圧を印加することで伸縮する。
【0018】
図1D、
図1Eは、それぞれ活性部130と不活性部140とを示す平面図および側面図である。圧電素子100は、活性部130と不活性部140とに領域を区分することができる。活性部130は、内部電極層および内部電極層により挟まれた圧電体層で形成され、内部電極層の積層方向への投影が重なる領域として形成されている。不活性部140は、活性部の側面方向および端面方向の周囲に設けられ、圧電体層の焼結密度が活性部の圧電体層の焼結密度に対して94%以上97%以下であることから活性部に対して剛性が低い。これにより、繰返しの駆動により、活性部と不活性部の境界に集中する応力を緩和し、クラックが生じる故障を防止できる。なお、不活性部140は、電極隠し構造により設けられた側面表層部分だけでなく、積層方向の両端面に設けられたいわゆる保護層も含む。
【0019】
活性部130および不活性部140の圧電体層110には、PZT−PZN系材料が用いられている。PZT−PZNは、xPb(Zr
0.52Ti
0.48)O
3−(x−1)Pb(Zn
1/3Nb
2/3)O
3で表される材料である。これにより、高い圧電特性を発揮できる。所定の温度で圧電体層の焼結密度が活性部の圧電体層の焼結密度に対して94%以上97%以下となるように焼結させるには、0.7≦x≦0.9であることが好ましい。すなわち、圧電素子100は、PZTに対するPZNのモル比が0.1以上0.3以下となる組成を有していることが好ましい。なお、PZT−PZN系材料を用いることで、主成分とする結晶粒子の隙間にZn元素が偏在する粒界が形成され、1050℃以下の低温においても焼結性が向上する。
【0020】
(圧電素子の製造方法)
上記のように構成された圧電素子100の製造方法を説明する。まず、圧電体層110の材料としてPZT−PZN系材料を用いて成形体を作製する。PZT−PZN系材料は、xPb(Zr
0.52Ti
0.48)O
3−(x−1)Pb(Zn
1/3Nb
2/3)O
3で表され、0.7≦x≦0.9となるように材料を混合することが好ましい。このようなPZT−PZN系材料は、低温焼成圧電材料であり、850℃以上1050℃以下で焼成することで、活性部130の圧電体層110の焼結密度に対する不活性部140の圧電体層110の焼結密度が94%以上97%以下になる。
【0021】
このような圧電体層110の材料でグリーンシートを成形し、シート上に内部電極層120a、120bの材料としてAgまたはAg/Pdの電極ペーストを印刷する。Pdに対してAgがモル比で0.8以上1.0以下含まれる電極ペーストを用いる。これにより、焼成時にAgの効果により、AgまたはAg/Pdの内部電極層120a、120bに圧電体層110が挟まれた活性部130が十分に焼結し、AgまたはAg/Pdの内部電極層120a、120bに挟まれていない不活性部140の焼結密度がその94%以上97%以下となる。一方、上記組成の範囲であれば、焼成時に電極が溶け出すのを防止できる。得られたシートは、積層してプレスし成形体を作製する。なお、焼成温度が比較的に高い場合には内部電極120a、120bの材料にPdを含むことが好ましい。
【0022】
成形体を、上記の温度範囲で温度コントロールして焼成する。そして、得られた圧電素子100を分極する。このようにして作製した圧電素子100は不活性部140の剛性が活性部130の剛性に対して低いので、両者間に生じる応力を緩和でき、クラックによる故障を低減できる。また、不活性部140が活性部130の変位を阻害しないため、大きい変位量が得られる。
【0023】
(圧電アクチュエータ)
図2は、圧電アクチュエータ200を示す断面図である。圧電アクチュエータ200は、圧電アクチュエータ本体205、シム板231、半球230、座240およびキャップ260により構成される。
【0024】
圧電アクチュエータ本体205は、複数の圧電素子100、リード部材208で構成されている。複数の圧電素子100は、圧電素子100同士が端面で接着されることで互いに直列(電圧印加による伸縮方向)に連結されている。圧電素子100では、活性部130に対しその側面方向および端面方向の周囲に形成される不活性部140の焼結密度は、94%以上97%以下であることから活性部130に対して剛性が低い。これにより、圧電特性が高く、不活性部140にクラックを生じ難い圧電素子100で圧電アクチュエータ200を構成できる。
【0025】
圧電アクチュエータ本体205は、一端にシム板231および半球230を有し、他端は底部として座240に接着されており、多連化された圧電素子100に電圧が印加されることで伸縮する。
【0026】
リード部材208は、金属製で板状に形成されており、圧電素子100の両側面に形成された外部電極125aに接着されている。一対のリード部材208は、座240において一対の端子250に接続されている。
【0027】
シム板231は、圧電アクチュエータ本体205の変位側の端部に接着されており、半球233は、シム板231上に接着されている。キャップ260は、金属製であり、円筒形に形成され、圧電アクチュエータ本体205、シム板231、半球233に被さって、これらを収容した状態で座240に封止されている。
【0028】
座240は、概略円板状に形成され、圧電アクチュエータ本体205の他端を支持している。座240は、キャップ260の開口端が接合される。座240には、外部から端子250が挿通されている。
【0029】
(超音波モータ素子)
図3は、超音波モータ素子300を示す斜視図である。超音波モータ素子300は、圧電セラミクスから形成されており、分極方向は、
図3に示す座標軸のz軸方向に一致している。また、超音波モータ素子1が第一次縦振動モードで振動する際の伸縮方向は、x軸と平行であり、超音波モータ素子1のx軸方向の長さはLである。また、超音波モータ素子1が第二次屈曲振動モードで振動する際の剪断方向は、y軸と平行であり、超音波モータ素子1のy軸方向の長さ(厚さ)はdである。
【0030】
第一次縦振動は、超音波モータ素子300の長手方向(x軸方向)に伸縮を繰り返すことにより生ずる。第二次屈曲振動は、超音波モータ素子1の厚さ方向(y軸方向)に、相互に向きが異なる剪断力により屈曲を繰り返すことにより生ずる。これらの第一次縦振動と第二次屈曲振動とを合成(縮退)することにより、超音波モータ素子300に設けられたチップ302が楕円運動をし、駆動力が生ずる。
【0031】
d/Lの値は実質的に0.6である。そのため、長手方向の長さが小さくなり、小型化を図ることができる。また、肉厚となることから、疲労や過入力による破損が生じ難くなり、耐久性を向上させることが可能となる。
【0032】
図4は、超音波モータ装置400の概略構成を示す図である。超音波モータ素子300は、矩形に形成され、一方の主面を4分割するように、互いに対角に対向する一組の積層電極304aと一組の積層電極304bが設けられている。各積層電極304a、304bは、積層方向に隣り合う電極の一方が接地されている。これらの積層電極304a、304bは、互いに絶縁された状態で個別に設けられた後、互いに対角に位置する各積層電極304a、304bの接地されていない電極が、接続部304c、304dによってそれぞれ相互に電気的に接続されており、2組の積層電極304a、304bを構成している。
【0033】
この2組の積層電極304a、304bにより構成される4区分について形成される活性部に対しその側面方向および端面方向の周囲に形成される不活性部の焼結密度は、94%以上97%以下であることから活性部130に対して剛性が低い。これにより、超音波モータ素子の不活性部にクラックを生じ難くすることができる。
【0034】
また、超音波モータ装置400は、交流電源405と、スイッチング部406とを備えている。交流電源405からは、超音波モータ装置400に長手方向に伸縮する第一次縦振動モードの振動と、剪断方向に屈曲する第二次屈曲振動モードの振動を励起させる周波数の正弦波電圧が出力される。スイッチング部406は、超音波モータ装置400を駆動する際には、積層電極304aと積層電極304bのいずれか一方のうちの接地されていない電極に交流電源405から出力される電圧を印加する。
【0035】
このように、超音波モータ素子300の積層電極304a、304bのいずれか一方に対して交流電圧が印加されると、超音波モータ素子300には、長手方向に伸縮する第一次縦振動モードの振動と、剪断方向に屈曲する第二次屈曲振動モードの振動とが発生する。そして、これらの共振周波数とが等しいときに、両振動モードが合成(縮退)され、超音波モータ素子300の摺動チップ302には楕円振動が発生し、被駆動体415が駆動される。
【符号の説明】
【0036】
100 圧電素子
110 圧電体層
120a 内部電極層
125a 外部電極
130 活性部
140 不活性部
160 キャップ
200 圧電アクチュエータ
205 圧電アクチュエータ本体
208 リード部材
230 半球
231 シム板
233 半球
240 座
250 端子
260 キャップ
300 超音波モータ素子
302 チップ
302 摺動チップ
304a、b 積層電極
304c、d 接続部
400 超音波モータ装置
405 交流電源
406 スイッチング部
415 被駆動体