特許第6323894号(P6323894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6323894酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6323894
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/00 20060101AFI20180507BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20180507BHJP
   A61M 16/12 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   A61M15/00 Z
   A61M16/00 305B
   A61M16/12
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-212975(P2017-212975)
(22)【出願日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年11月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591126046
【氏名又は名称】株式会社グレイトチレン
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】河村 隆夫
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5837501(JP,B2)
【文献】 特開平10−216455(JP,A)
【文献】 特開2003−144549(JP,A)
【文献】 特開2010−284394(JP,A)
【文献】 特表2012−519542(JP,A)
【文献】 特開平10−127705(JP,A)
【文献】 特表2017−528245(JP,A)
【文献】 特開2002−126012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/12
A61M 16/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人又は動物の供給対象に、少なくとも酸素濃度18%以下の低酸素ガス及び酸素濃度21%以上の高酸素ガスを供給可能なガス供給部と、
ガス供給部から供給対象に供給されるガスの酸素濃度を制御する制御手段と、を備え
前記制御手段が、前記ガス供給部から前記供給対象に所定の酸素濃度のガスが供給される時間を制御し、
前記制御手段が、初めに前記供給対象に前記低酸素ガスの供給を行った後に、前記供給対象に前記高酸素ガスの供給を10分間以上行い、その後、ガスの給気を終了するように前記ガス供給部を制御することを特徴とする、脳神経細胞内における活性酸素濃度向上用の医療システム。
【請求項2】
前記制御手段が、初めに前記供給対象に前記低酸素ガスの供給を1分間以上行った後に、前記供給対象に前記高酸素ガスの供給を10分間以上行い、その後、ガスの給気を終了するように前記ガス供給部を制御することを特徴とする、請求項1に記載の医療システム。
【請求項3】
前記ガス供給部が前記供給対象に酸素及び窒素を含むガスを供給可能であり、
前記制御手段が、供給されるガスにおける窒素の割合を制御することにより、前記ガス供給部から前記供給対象に供給されるガスにおける酸素濃度を制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の医療システム
【請求項4】
前記ガス供給部より供給される酸素及び窒素の発生源として、空気を酸素と窒素に分離する分離能を有する酸素・窒素濃縮器を備えていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の医療システム
【請求項5】
前記ガス供給部が前記供給対象に酸素及び水素を含むガスを供給可能であり、
前記制御手段が、供給されるガスにおける水素の割合を制御することにより、前記ガス供給部から前記供給対象に供給されるガスにおける酸素濃度を制御することを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の医療システム
【請求項6】
前記供給対象にガスを供給するための呼吸マスクと、該呼吸マスクの外側を覆うように配置された安全排気マスクと、該安全排気マスクより排気を吸引するための吸引手段を備え、
前記安全排気マスクは、前記呼吸マスクを供給対象の顔面に装着したとき、該供給対象の顔面との間に隙間を生じるように構成されており、
前記呼吸マスクを供給対象の顔面に装着し該供給対象にガスを供給したときに、該呼吸マスクより漏れる水素混合ガスを、該安全排気マスクと顔面の隙間から周囲の空気と共に吸引して、空気との撹拌混合により前記水素混合ガスの水素濃度を下げて可燃爆発濃度以下に希釈させて、安全に室内又は室外に排気することを特徴とする、請求項に記載の医療システム
【請求項7】
供給対象の経皮的動脈血酸素飽和度を感知するパルスオキシメーターを備え、
前記制御手段は該パルスオキシメーターと接続されており、
前記制御手段が、前記供給対象への前記低酸素ガスの供給中に、パルスオキシメーターの感知した該供給対象の経皮的動脈血酸素飽和度が所定の値よりも低いときに、該供給対象へ前記高酸素ガスの供給を開始するように、前記ガス供給部を制御することを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の医療システム
【請求項8】
前記ガス供給部が加圧給気装置を備え、前記加圧給気装置からの加圧されたガスが給気される、前記供給対象を収容できる高気圧チャンバを備えることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の医療システム
【請求項9】
経頭蓋電気刺激を前記供給対象の頭表に印加する電気刺激部を有する経頭蓋電流刺激装置、又は低周波電流を前記供給対象に印加する電極を有する低周波治療装置を備えることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の医療システム。
【請求項10】
酸素濃度18%以下の低酸素ガス及び酸素濃度21%以上の高酸素ガスからなる脳神経細胞内における活性酸素濃度向上剤であって、
初めに前記低酸素ガスが人又は動物の供給対象に供給された後に、前記高酸素ガスが前記供給対象に10分間以上供給され、その後、供給対象に供給されないように用いられることを特徴とする、脳神経細胞内における活性酸素濃度向上剤。
【請求項11】
神経疾患の治療のために用いられることを特徴とする、請求項10に記載の脳神経細胞内における活性酸素濃度向上剤。
【請求項12】
酸素濃度18%以下の低酸素ガスで満たされた低酸素室と、酸素濃度21%以上の高酸素ガスで満たされた高酸素室と、を備えることを特徴とする医療システムであって、
人又は動物の供給対象を載せて移動するための移動体を備え、
前記移動体は、制御部の指示を受けて自動で、前記低酸素室、前記高酸素室及び室外を移動するように制御されており、
前記制御部は、前記移動体が、前記低酸素室の内部で予め設定された時間経過した後に、前記高酸素室に移動し、前記高酸素室の内部で10分間以上経過した後に、室外へ移動するように、移動体を制御することを特徴とする医療システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法による治療を実現する医療装置、医療システム及び医療設備に関する。
【背景技術】
【0002】
本願に関連して、2016年10月28日に湿式高濃度水素混合ガス呼吸システムが、特許第6029044号として特許登録がなされた。この技術を用いて、神経障害、特に認知機能に関する臨床研究(試験)を約20か月間以上行った。その結果、水素ガスの各種精神疾患に対する治療効果は、症状の進行を遅らせる事は幾らか期待できるが、回復治癒させる効果は現状として可能性が少ないことも判明した。一方この方面の治療薬に目を向けると、製薬各社が治療薬の研究開発を行っているが、未だに目途が立たず、そもそも、従来の仮説に基づいて研究開発を行っており、臨床試験の結果でも、満足な成果が得られておらず、原因と治療法の解明に関して,さらなる努力が必要とみられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5777081号公報
【特許文献2】特開2006−325722号公報
【特許文献3】特許第6029044号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】独立行政法人 理化学研究所(2006年12月5日)ミトコンドリアDNA複製の常識の一端が覆る―ミトコンドリアDNA複製開始には遺伝的組換え開始と共通の装置がはたらく―(インターネット資料)
【非特許文献2】理化学研究所 国立精神・神経医療センター ミトコンドリアゲノムの初期化機構を発見 ―変異したミトコンドリアDNAはどうやって“リセット”されるのか―(2016年4月28日)(インターネット資料)
【非特許文献3】牛島一男 編集 虚血性中枢神経障害の基礎と臨床 真興交易(株)医書出版部
【非特許文献4】佐々木 徹 活性酸素の生理機能 −エネルギー代謝亢進の解除時における活性酸素の生成亢進― 基礎老化研究 35(4);17−26、2011(インターネット資料)
【非特許文献5】大田成男 著 水素医学の創始、展開、今後の可能性:広範な疾患に対する分子状水素の予防ならびに治療の臨床応用へ向かって 生化学第87巻第1号、P82〜90(2015) (インターネット資料)
【非特許文献6】抗酸化物質 (インターネット資料)
【非特許文献7】谷口直之・淀井淳司 酸化ストレス・レドックスの生化学 日本生化学会 編集 共立出版
【非特許文献8】吉川敏一監修、内藤祐二・豊國伸哉編集 酸化ストレスの医学 診断と治療社
【非特許文献9】鈴木敬一郎編集 活性酸素の本当の姿 有限会社ナップ 発行所
【非特許文献10】林純一 ミトコンドリア・ミステリー 講談社ブルーバックスB-1391
【非特許文献11】後藤雄一 企画 ミトコンドリア研究UPDATE 習慣医学のあゆみVol.260 No.1 2017 1/7 医歯薬出版株式会社
【非特許文献12】冨本秀和企画 最新・脳血管疾患Update −研究と臨床の最前線― Vol.231 No.5 2009 10/31 医歯薬出版株式会社
【非特許文献13】認知症 発症前治療のために解明すべき分子病態は何か? 実験医学(増刊) Vol.35-No.12 2017 羊土社
【非特許文献14】酸素濃縮器の仕組み 大丸エナウィン (インターネット資料)
【非特許文献15】酸素濃縮器 Institute of Circulation System Technology (インターネット資料)
【非特許文献16】駆血に関する文献調査 vrc japan(インターネット資料)
【非特許文献17】低酸素テントシステム 株式会社ウィル (インターネット資料)
【非特許文献18】低酸素/高酸素コントローラ;株式会社協同インターナショナル (インターネット資料)
【非特許文献19】川野淳 大阪大学名誉教授監修 VRCプログラム (インターネット資料)
【非特許文献20】片山敬章 名古屋大学他 デサントスポーツ科学Vol.20 (インターネット資料)
【非特許文献21】健康長寿への道 (インターネット資料)
【非特許文献22】高気圧酸素治療 (インターネット資料)
【非特許文献23】井上治・大湾一郎・四ノ宮成祥 著 高気圧酸素療法(HBO)の骨形成促進作用 JJACHOD 2014;11;24−35 (インターネット資料)
【非特許文献24】tDCS(経頭蓋直流刺激)によるNeuromodulation(神経調節)テクニック (インターネット資料)
【非特許文献25】経頭蓋直流刺激(transcranial direct current stimulation,tDCS)の安全性のついて 臨床神経生理学会 脳刺激法に関する委員会 (インターネット資料)
【非特許文献26】重症虚血性心疾患に対する高度医療「低出力体外衝撃波治療」(インターネット資料)
【非特許文献27】低出力体外衝撃波治療法 先進医療情報ステーションTop (インターネット資料)
【非特許文献28】伊原正喜;著 信州大学農学部 応用生命学科 「ヒドロゲナーゼの安定化・酸素耐性化」 Journal of Faculty of Agriculture SHINSHU UNIVERSITY Vol.47 No.1/2(2011) (インターネット資料)
【非特許文献29】井出利憲 「細胞増殖のしくみー細胞周期、癌遺伝子、細胞老化―」 YAKUGAKU ZASSHI 126(11)1087−1115(2006)2006 The Pharmaceutical Society of Japan (インターネット資料)
【非特許文献30】過酸化水素点滴療法とは (インターネット資料)
【非特許文献31】H2O2点滴療法とは? 東海渡井クリニック(インターネット資料)
【非特許文献32】最新研究成果リリース 「免疫難病の発症機構の解明に1つの鍵」−IL-6の異常産生に係る分子の発見―(インターネット資料)
【非特許文献33】中岡良和助教・他 「肺高血圧症の発症メカニズムを解明」(心不全につながる難病)大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科学) 大阪大学研究報告 (インターネット資料)
【非特許文献34】敗血症を憎悪させるミトコンドリア依存的な免疫応答を解明―九州大学 (インターネット資料)
【非特許文献35】有馬康伸・村上正晃 「インターロイキン6による神経系と免疫系の融合」 大阪大学大学院生命機能研究科 免疫発生学研究室 ライフサイエンス領域融合レビュー (インターネット資料)
【非特許文献36】林純一 筑波大学 声明環境系教授 ミトコンドリアDNA突然変異がリンパ腫や糖尿病の原因となることを発見 平成24年6月7日筑波大学
【非特許文献37】炎症性疾患 大牟田市長岡内科医院 (インターネット資料)
【非特許文献38】Muse細胞がもたらす医療革新―動物モデルにおいて脳梗塞で失われた機能の回復に成功― 東北大学大学院医学系研究科(インターネット資料)
【非特許文献39】サンバイオの再生細胞薬「SB623」外傷性脳損傷で治験届受理(インターネット資料)
【非特許文献40】新たなATP産生メカニズムの解明とそのミトコンドリア病治療薬への応用 東北大学大学院医学系研究科 (インターネット資料)
【非特許文献41】低酸素の環境による生体マウスにおける心臓の再生 ライフサイエンス新着論文レビュー (インターネット資料)
【非特許文献42】筒井裕之 九州大学大学院医学研究院循環器内科講師 「酸化ストレスと心不全」−活性酸素をターゲットとした心不全治療 特別講演 (インターネット資料)
【非特許文献43】スパイロメータで行う肺機能検査(病院の検査の基礎知識)(インターネット資料)
【非特許文献44】よくわかるパルスオキシメータ 日本呼吸器学会(インターネット資料)
【非特許文献45】パルスオキシメータや脈拍計に最適な反射型センサ「NJL5501R」(新日本無線)(インターネット資料)
【非特許文献46】康 東 天、疾患の制御・修飾因子としてのミトコンドリア;ストレス応答分子:分子メカニズムの解明と病理の理解、生化学 第85巻 第3号pp,160-166,2013(インターネット資料)
【非特許文献47】小林 稔、原田 浩、低酸素ストレスとHIF,ストレス応答分子:分子メカニズムの解明と病態の理解、生化学 第85巻 第3号、pp187−195、2013(インターネット資料)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、神経疾患、特に認知症等に対する治療や予防効果を有する治療手段及び予防手段の確立である。更に、高価な薬剤の利用や、移植等の細胞再生医療ではなく、呼吸機器等の既存の技術を発展させ、経済性と安全性に優れた、新しい治療の仕組みを(研究開発)創造する事である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
背景技術の欄に記載したとおり、水素ガスの各種神経疾患に対する治療効果は、症状の進行を遅らせる事は幾らか期待できるが、回復治癒させる効果は現状として可能性が少ないことが判明した。
【0007】
本発明者は、水素ガスにより各種神経疾患を回復治癒できる可能性が低い原因を探るべく、各種の医学関連情報を鋭意調査した。その結果、神経疾患、特に認知症等の症状出現時には脳内神経細胞のミトコンドリアの機能低下、機能不全と言った現象が必ず伴っていることが指摘されていることに着目し、これら疾患の原因の一部に、脳内神経細胞のミトコンドリアの機能低下、機能不全が関わっているものと推測した。
この着眼点に基づき、本発明者は神経疾患の脳神経細胞のミトコンドリア機能を向上させれば、症状が回復する可能性があるとの着想を得た。
【0008】
そこで、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3及び非特許文献4に基づき、本発明者は、鋭意研究努力により、人間の呼吸を適宜な方法で、その酸素濃度を時系列に制御すれば、脳神経細胞のミトコンドリア機能を向上できることを見出した。
【0009】
上記課題を解決する本発明は、人又は動物の供給対象に、少なくとも酸素濃度18%以下の低酸素ガス及び酸素濃度21%以上の高酸素ガスを供給可能なガス供給部と、
ガス供給部から供給対象に供給されるガスの酸素濃度を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする医療装置である。
【0010】
本発明の医療装置によれば、神経疾患、特に認知症等に対する治療や予防効果を有する治療方法及び予防方法を提供することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記制御手段が、前記ガス供給手段から前記供給対象に所定の酸素濃度のガスが供給される時間を制御することを特徴とする。
ガスが供給される時間の制御を人の手ではなく制御手段によって行うことによって、精度の高い神経疾患の治療方法又は予防方法を実現することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記制御手段が、前記供給対象に前記低酸素ガスの供給を1〜60分間行った後に、前記供給対象に前記高酸素ガスの供給を10〜120分間行うように前記ガス供給部を制御することを特徴とする。
低酸素ガスと高酸素ガスの供給順序及び供給時間を上記のように制御することによって、効果の高い神経疾患の治療方法又は予防方法を提供することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記ガス供給部が前記供給対象に酸素及び窒素を含むガスを供給可能であり、
前記制御手段が、供給されるガスにおける窒素の割合を制御することにより、前記ガス供給部から前記供給対象に供給されるガスにおける酸素濃度を制御することを特徴とする。
窒素の含有割合を制御する形態とすることによって、より簡便に供給するガスの酸素濃度を調整することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記ガス供給部より供給される酸素及び窒素の発生源として、空気を酸素と窒素に分離する分離能を有する酸素・窒素濃縮器を備えていることを特徴とする。
酸素・窒素濃縮器を用いる形態とすることによって、ガスに含有させる酸素と窒素を容易に生成することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記ガス供給部が前記供給対象に酸素及び水素を含むガスを供給可能であり、
前記制御手段が、供給されるガスにおける水素の割合を制御することにより、前記ガス供給部から前記供給対象に供給されるガスにおける酸素濃度を制御することを特徴とする。
この形態とすることにより、低酸素呼吸に於ける副作用の発生を減じ、水素吸入による健康増進効果も望むことができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記供給対象にガスを供給するための呼吸マスクと、該呼吸マスクの外側を覆うように配置された安全排気マスクと、該安全排気マスクより排気を吸引するための吸引手段を備え、
前記安全排気マスクは、前記呼吸マスクを供給対象の顔面に装着したとき、該供給対象の顔面との間に隙間を生じるように構成されており、
前記呼吸マスクを供給対象の顔面に装着し該供給対象にガスを供給したときに、該呼吸マスクより漏れる水素混合ガスを、該安全排気マスクと顔面の隙間から周囲の空気と共に吸引して、空気との撹拌混合により前記水素混合ガスの水素濃度を下げて可燃爆発濃度以下に希釈させて、安全に室内又は室外に排気することを特徴とする。
【0017】
このように空気との撹拌混合により前記水素混合ガスの水素濃度を下げて排気する形態とすることにより、安全性を向上させることができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、供給対象の経皮的動脈血酸素飽和度を感知するパルスオキシメータ―を備え、
前記制御手段は該パルスオキシメーターと接続されており、
前記制御手段が、前記供給対象への前記低酸素ガスの供給中に、パルスオキシメーターの感知した該供給対象の脳に向かう動脈血の経皮的動脈血酸素飽和度が所定の値よりも低いときに、該供給対象へ前記高酸素ガスの供給を開始するように、前記ガス供給部を制御することを特徴とする。
【0019】
このようにパルスオキシメータと連動した形態とすることによって、より効果的で安全性の確保された神経疾患の治療又は予防を実現することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記ガス供給部が加圧給気装置を備え、前記加圧給気装置からの加圧されたガスが給気される、前記供給対象を収容できる高気圧チャンバを備えることを特徴とする。
このような構成とすることにより、高気圧酸素療法との併用も可能となる。
【0021】
また、本発明は、上述した医療装置と、
経頭蓋電気刺激を前記供給対象の頭表に印加する電気刺激部を有する経頭蓋電流刺激装置、又は低周波電流を前記供給対象に印加する電極を有する低周波治療装置を備えることを特徴とする医療システムにも関する。
本発明の医療システムによれば、経頭蓋直流電気刺激法又は低周波治療法との併用治療が可能となる。
【0022】
本発明は、酸素濃度18%以下の低酸素ガスで満たされた低酸素室と、酸素濃度21%以上の高酸素ガスで満たされた高酸素室と、を備えることを特徴とする医療設備にも関する。
本発明の医療設備によれば、効果的な神経疾患の治療方法及び予防方法を実現することができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、人又は動物の供給対象を載せて移動するための移動体を備え、
前記移動体は、制御部の指示を受けて自動で、前記低酸素室、前記高酸素室及び室外を移動するように制御されており、
前記制御部は、前記移動体が、前記低酸素室の内部で予め設定された時間を経過した後に、前記高酸素室に移動し、前記高酸素室の内部で予め設定された時間を経過した後に、室外へ移動するように、移動体を制御することを特徴とする。
【0024】
このような形態とすることによって、より多くの患者に対して精度の高い神経疾患の治療方法及び予防方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の医療装置、医療システム及び医療設備によれば、神経疾患、特に認知症等の効果的な治療又は予防を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの概要図吸気の酸素濃度を手動制御又はプログラム制御して活性酸素ROSの発生濃度を制御する概要図
図2】安全排気マスクを併用した酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの説明図。高濃度の水素ガスが混入する呼気を安全に処理をする工夫
図3】酸素ガスと窒素ガスの供給手段としての空気濃縮分離式酸素&窒素ガスの供給器の説明図 既存の酸素濃縮器等を改良して目的を達成する
図4】酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの実施例図で高容量型カニューレ又はベンチュリマスクを使用したタイプ (実施例1)
図5】酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの実施例図で呼吸マスクを用いたもの。利用者の呼吸量の検知用の呼気&吸気流量計を備え、同時に呼気再循環機能も付加可能なシステムで、システムの柔軟性を高めた。 (実施例2)
図6】高気圧治療装置を利用した酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの実施例図である(実施例3)。
図7】酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの推定作用機序の説明図
図8】経頭蓋直流電気刺激法による脳の部分的需要性低酸素状態発現を利用した酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの説明図
図9】脳神経細胞のミトコンドリアのエネルギー発生量が神経活動状態に与える影響の説明図
図10】安静時の於ける各臓器の血流量と血流分布、酸素消費量の例の説明図
図11】低酸素−再酸素過程における脳の活性酸素の生成と糖代謝の時間変化の実験動物(ラット)を使用した実験結果である。基礎老化研究 35(4);17−26,2011(活性酸素の生理機能、佐々木 徹、東京都健康長寿医療センター研究所)からの抜粋である。
図12】需要性低酸素の解除時に於ける活性酸素の生成亢進の図で、実験動物(ラット)を使用した実験結果である。基礎老化研究 35(4);17−26,2011(活性酸素の生理機能、佐々木 徹、東京都健康長寿医療センター研究所)からの抜粋である。
図13】供給性低酸素と需要性低酸素の解除時に於ける活性酸素の生成亢進の説明図で基礎老化研究 35(4);17−26,2011(活性酸素の生理機能、佐々木 徹、東京都健康長寿医療センター研究所)からの抜粋である。
図14】活性酸素の生成モデルの説明図である。基礎老化研究 35(4);17−26,2011(活性酸素の生理機能、佐々木 徹、東京都健康長寿医療センター研究所)からの抜粋である。
図15】ROSが産生される過程およびその除去システムの図で、p411 酸化ストレスの医学、(診断と治療社)より抜粋
図16】細胞周期とそれを調節するしくみ、の図
図17】カーラーの救命曲線の図
図18】低酸素によるHIF(低酸素誘導性因子)活性化の分子機構の図である。生化学 第84巻 第11号HIFによる肝臓内糖・脂質代謝制御機構より抜粋。
図19】低酸素性血管拡張の仕組みとして発見されたCO−感知性H2S情報伝達経路の説明図で、脳の低酸素状態の防御機構に生体ガス分子が関係、脳梗塞など脳虚血病態の制御法開発へ道、慶應義塾大学 医学部資料の抜粋
図20】IL-6/IL-21シグナルの肺高血圧症における役割の説明図で、肺高血圧症の発症メカニズムを解明、大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科)中岡良和助教、他の記事から抜粋
図21】最長寿命を示唆するテロメア長およびミトコンドリア活性の限界図
図22】認知症の予防運動と併用する酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システム (実施例4)
図23】完全自動制御された移動用電動車椅子システムを用いた酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システム (実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本明細書においては、本発明の医療装置、医療システム、医療設備による治療又は予防のことを再生医療システムということがある。
【0028】
上述したとおり、神経疾患、特に認知症等の症状出現時には脳内神経細胞のミトコンドリアの機能低下、機能不全と言った現象が必ず伴っている。そのため、脳神経細胞のミトコンドリア機能を向上させれば、症状を回復させることができる。
【0029】
ミトコンドリアの電子伝達系は一般に細胞の酸素消費の90%以上を占め、そのうち1〜5%が活性酸素種に変換されると言われており、ミトコンドリアの酸素濃度は酸素の供給と消費によって3〜30μMの範囲で変動すると言われている。この神経細胞での活性酸素発生量は個々の細胞毎に異なると言われている。
【0030】
生体内、特に脳神経細胞の少なくとも一部の領域に、この呼吸の酸素濃度の変化を原因として、活性酸素の発生量を変動させ、即ち、H(過酸化水素)の濃度に換算して、この呼吸機器の利用により、利用者の呼吸ガスが低酸素時から高酸素時に遷移する過程において、脳神経細胞内の活性酸素種濃度、ここでは過酸化水素濃度を当初の2.4倍の濃度にすることが可能である。
【0031】
図1は課題を解決する手段として、呼吸具である高流量型カニューレ又は呼吸マスクを装着して、利用者(患者)が酸素・水素・窒素の配分を制御したガス呼吸を行うものである。このシステムは空気中の酸素と窒素を分離して任意の割合で酸素と窒素を出力させる装置、水を電気分解して水素と酸素をそれぞれ取り出す装置とその分量を時系列に制御する、手動操作スイッチ又はプログラム制御装置によって構成されている。
【0032】
図11はラットを使った実験データで、対象動物の呼吸ガスを低酸素から再酸素(高酸素)にプログラムに従って切り替えることにより、細胞に生じる活性酸素種の濃度が変化する様子を示している。図12は同様にラットを使った実験データで、運動を亢進させた時と休止させた時、これを需要性低酸素と解除時と言うが、プログラムにより運動等を解除したときにも、先程の呼吸時と同様に、細胞に生じる活性酸素種の濃度が変化する様子を示している。どちらも変化の前後において活性酸素の上昇が2.4倍に達する部分が現れる。図13図14にそれぞれの様子を分かり易く図示している。
【0033】
図15には細胞内で酸素から生じたスーパーオキシドから他の活性酸素種に変化する様子を示している。通常は比較的安定している過酸化水素への変換が大多数と考えられる。人間の体内には、表1に示される様な抗酸化物質が存在する。チオレドキシン、グルタチオン、SOD、ビタミンC等、様々な抗酸化物質が存在し、活性酸素種の発生濃度を下げる働をしている。表2は活性酸素種とそれを除去する抗酸化物質を表している。表3は抗酸化代謝物と人間の血清中の濃度と肝組織での濃度を表した例である。こうして、活性酸素種の体内・組織内濃度は活性酸素種の発生量と体内の抗酸化物質の消去作用の時系列と体内の場所(部分)におけるバランスによって変化してゆく。
【0034】
図1の装置を用いて利用者にプログラム設定に従って、最初に低酸素呼吸を行わせ、時系列の設定に従って、設定時間経過後に通常酸素又は高酸素呼吸を設定時間行わせる。この時注意することがある。図17はカーラーの救命曲線で心臓停止や呼吸停止が生命維持に与える影響を時間の関数として示されている。表5は酸素濃度と人体への影響を表している。これらのデータを参考に低酸素領域の酸素濃度と作用時間、そして、表1、表2、表3、図11図12図13図14図17を参考に高酸素領域の酸素濃度と作用時間を安全な範囲で決定する。又、治療前後には過酸化水素に対する抗酸化効果を有するビタミンC等の摂取は避けなければならない。
【0035】
利用者はこの酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの利用に際して、絶対条件ではないが、先ず呼吸器科の専門医にてスパイロメータを使用して肺機能検査及び病的検査を受けることが望ましい。呼吸機器を利用するため、使用者の呼吸の仕方、肺胞の換気特性が問題となる。表6は毎回の呼吸量と肺胞換気量を示している。浅い呼吸では分時肺胞換気量が少なくなり、生体に効果的な低酸素領域や高酸素領域を達成する為には、より長い時間を要する。この様な場合は同じ時系列での設定に対して効果的な生体反応が得られにくくなり、例えば、脳細胞の再生作用領域が狭くなる可能性が起きる。肺機能の例としては、全排気量=肺活量+残気量で成人男性で5,000L〜6500L、成人女性で3500L〜5000Lとなっており、この数値は加齢により低下する。従って、この酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムでは深く遅い呼吸を推奨する。
【0036】
酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムの初期設定は、シーケンス制御では、低酸素領域は、最初の1分から10分まで、20秒毎に時間設定が可能で10分から60分迄1分ごとに設定が可能である。酸素濃度は18%以下で0%も理論的には可能であるが、リスクが多くメリットが見いだせないので、最低酸素濃度は5%前後を想定している。
【0037】
水素ガスの効果に関しては、旧来は活性酸素種のヒドロキシラジカルの消去を目的としたが、本願では炎症性のサイトカインの喚起の抑制を主目的とし、吸引ガス中のH、水素ガス濃度は4%程度を標準とし、必要性に応じて水素濃度95%から90%、この時の酸素濃度は5%から10%での運用も特別な防災装置を付加することにより短時間可能である。シーケンスの後段の高酸素領域の利用では酸素濃度21%以上、より好ましくは21%超、さらに好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上を設定するが、上限は常圧では利便性も考慮して60%程度を想定している。
【0038】
血流での酸素の運搬はヘモグロビンが担っており、酸素濃度を上げても、生体組織への酸素運搬能力は肺胞における酸素分圧に基づく溶存酸素分の上昇だけであるが、再生医療からみると状況は異なる。これが酸素濃度を21%以上に設定する理由である。
【0039】
図7はプログラム制御による呼吸方式を用いた再生医療システムの推定作用機序の説明図である。シーケンスの後段を高酸素領域とするのは、脳細胞の再生領域をより拡大させる目的である。脳細胞の領域で発生する過酸化水素に対し、生体の持つ抗酸化力は、これを消去又は低減させるように働くので、又ミトコンドリア機能は細胞一個一個、細胞毎に異なる、この再生医療の仕組みは、本システムの作用において、細胞に発生するH過酸化水素の濃度を、システムの稼働中に適宜な時間、2.4倍にしなくてはならず、2.1倍や2.2倍ではミトコンドリアのゲノム初期化が起こらない。この為2.4倍の活性酸素濃度を脳神経細胞のより広い領域に発現させるために利用者の吸引する酸素濃度を高めている。
【0040】
高酸素領域での呼吸は、少なくとも10分間以上必要で、30分間から60分間行われることが望ましい。何故ならば、生体の中では血流や各種の反応により絶えず酸化現象と(還元)抗酸化現象が行われており、その活性酸素濃度の数値が揺らいでいると思われる。又、本工程の後に生体の過度の応答(副作用、過敏反応)を防ぐための、安定化終了呼吸として20分間から60分間の範囲で、酸素濃度21%前後、水素濃度5%から10%での吸引呼吸が望ましい。
【0041】
図7で脳は選択的脆弱性を持っており、選択的脆弱性の部位では酸化ストレスを受けやすいことも判明している。本再生医療システムは、この選択的脆弱性の部位に、早期に作用すると思われる。又、低酸素領域を含む本再生医療システムの治療は、脳の虚血耐性ならぬ、脳の低酸素耐性も発現すると思われる。
【0042】
一方、理化学研究所の「ミトコンドリアゲノムの初期化機構」では、図16は細胞周期とそれを調整するしくみを表した図であるが、この様な細胞周期(分裂期M)に合わせて、ミトコンドリアゲノムの初期化がなされるとされている。表4は生体の細胞の入れ替わる速度、新陳代謝を表した表である。脳では入れ替わりの早い部分は1か月で40%となっており、毎日或いは日に2回と言ったペースで本発明を利用した治療を継続することにより、機能低下したミトコンドリアを持つ脳神経細胞を、少なくとも一部は正常な機能を有するミトコンドリアの細胞神経細胞に再生させることが可能となる。生体のその他の部位では、目的とする部位によって細胞組織や細胞周期が異なり又動脈血の状態も異なるので、各々の部位に即した設定や工夫を要する。
【0043】
本発明の酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムは、元来、人体に備わっている隠れたホメオスタシス(生体恒常系)又は細胞再生システムと言うことができる。従って比較的副作用等が発生しにくいシステムである。原則的には、ミトコンドリアの機能低下や機能不全が原因として生じる全ての疾病の治療と予防に有益であり、又同様に、ミトコンドリアの機能低下による活性酸素種発生が原因の疾患の治療と予防に対して有益である。
【0044】
表7は認知症等の神経疾患に対する、他の治療方法との、現時点での比較である。製薬各社の治療薬の取り組みでは、認知症に伴って脳内に蓄積する炎症性の物質、アミロイドβやタウタンパク質と言った物質の対処が決め手であるが、これらを処理(減少)しても脳機能の際立った向上は見受けられない。一方、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムを用いた治療を行えば、脳機能の向上が期待されるが、(これはミトコンドリア機能向上によるATP産生機能の増大で、神経活動において利用できるエネルギー量が増える)但し、既に脳の内部にアミロイドβやタウタンパク質等が増加在籍している状態で、本願の治療方法で、それらを減らせるかどうか?は不明である。タウタンパク質等が増えると、免疫機能が亢進したり、酸化ストレスが増加するとの心配があり、その点は製薬各社の取組と酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムは共益関係を持ちうる。
【0045】
その他の再生医療として、SB623(サンバイオ)とMA−5(東北大学)では、SB623は外科施術で脳内に再生細胞薬を投与するもので、MA−5はミトコンドリアの機能そのものを改善するというものであるが、どちらの治療法も治療物質を生体に投与する点が異なり、それなりの手間のかかる治療法である。本願の方法は、既存の呼吸方法を変化させるだけであり、仕組みがシンプルで適用も比較的簡単である。
【0046】
又、ミューズ細胞、iPS人工多能性幹細胞、ミューズ細胞等も今後の神経疾患に対して期待される技術であるが、問題は価格面で安価に設定できるかどうかである。
【0047】
認知症予防の各種運動療法は、本願の作用機序と通じる面があり、運動を通じて脳神経細胞にも活性酸素が生じて、ミトコンドリアゲノムの初期化が、極めて一部の神経細胞で起こり、その結果、細胞のミトコンドリア機能が改善するものと思われる。
その証拠に、運動前にビタミンCを摂取すると、運動による身体機能の改善効果が無くなると伝文が複数で存在する。運動療法の作用機序の曖昧な部分を本願の理論で補完することにより、運動療法の効率は格段に高まるものと思われる。
【0048】
更に、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムは表7及び表8に示す様に、低酸素呼吸領域を使用することにより、図19の血管拡張作用、毛細血管の新生を喚起する作用、図18に示すHIF(低酸素誘導性因子)の活性化による種々の作用、心筋の分裂促進、心筋の再生、ROS発生の抑制、さらに水素ガスの添加により、図20の低酸素血症等による肺高血圧症を抑制、炎症性サイトカインとホルモンの遺伝子発現の抑制作用で、TNF−α、インターロイキンIL−1β、IL−6,IL−10,IL−12,CCL2,インターフェロン(INF)−γ,細胞間接着分子1(ICAM−1),PGE1,PGE2,等、の発現低下作用がある。 又治療の対象年齢としては酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムは、細胞周期を利用しているので、その限界、図21のヘイフリックの限界迄、およそ120歳位迄の治療が可能と思われる。
【0049】
更に、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムは、図8様な脳の経頭蓋直流刺激療法との併用や、心臓の低出力体外衝撃波治療法との併用、手足の駆血療法との併用と言った、体の一部分に需要生低酸素状態を発現させたものや、過酸化水素点滴療法等や高気圧酸素治療との併用も可能である。その他、生体の部分領域に適宜な方法で負荷を掛ける療法等はマッサージや指圧、低周波治療器、温熱療法、等も含まれる。図10は人体の安静時に於ける各臓器の血流と血液分布、酸素の消費の例である。脳以外の部分に対する、細胞のミトコンドリアゲノムの初期化については、各臓器又は領域毎に個別に、呼吸を通じた肺胞の酸素濃度の変動が、各血管の血流を通じて各細胞組織の活性酸素の変動に与える状態を予測計算して行えば、脳以外の部分に対しても適用が可能である。よって、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムは、認知症の予防と治療に限定されずに、人体の細胞のミトコンドリア機能再生に、比較的安全で使い易く、しかも他の療法に比し安価に達成される再生医療に貢献するものである。
【0050】
本再生医療システムによる治療を一定期間行った場合に、脳内の神経細胞のミトコンドリアの機能が高まり、脳神経細胞では以前より多くのエネルギーの利用が可能となる。この変化は認知能力の向上や記憶力の向上として神経活動に現れる。図9では、神経細胞のエネルギー発現が少ない場合をAとし、標準的なエネルギー状態の場合をBとし、より高い状態をCとした。臨床実験による推測では、脳が低エネルギー状態の場合Aでは、単位時間あたりに、脳神経細胞が意識・認識活動として利用できるエネルギーが少ない為、認知可能なレベル又は回数が少なく、周囲の変化について行けず、周囲の事象の認識の正確さと認知回数が低下する。また標準的な認識レベルはBであるので、周囲の変化の速度について行けずに何が何だか分からなくなる。何かを表現するにも、考えるのにも神経細胞を活動させる為のエネルギーが不足しているため困難である。一方、十分な期間、本システムで治療を行い、脳神経細胞のエネルギー発現レベルを高められればCの様な状態になり、神経活動として、単位時間に利用できるエネルギー量が増加する。この状態になると、周囲の事象の認識の正確さと認知回数が格段に向上する事により周囲の事象の変化は手に取るように把握が可能となる。Cの状態では、脳の神経細胞は、神経活動におけるマルチタスクも可能となり、A状態の人間がCの様になると単位時間当たりの自覚・認識回数が増えるので、周囲に神経を集中させると、物事の動きがスローに感じられることがある。例えて言えば、これは毎秒10コマの映像を見るのと、毎秒30コマの映像を見るのとの違いである。これは、臨床実験における推測ではあるが、個人差があるとは思われるが、認知症患者等による本システムの利用は認知機能と記憶力等の格段な改善が期待できる。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
酸素ガスに加え、窒素ガスと水素ガスを混合したガスを供給対象に供給する形態について説明を加える。
本実施形態においては、酸素ガス及び窒素ガス及び水素ガスを吸引する為のカニューレ(高流量型)又は呼吸マスク又は呼吸用フェイスマスク等の呼吸マスク等と、窒素ガスの供給手段と酸素ガスの供給手段として空気濃縮型酸素及び窒素供給器を備える。さらに水素ガスの供給手段としてMEA水電解式水素ガス発生器又は水素ガス供給器を備え、水素ガスの発生量の約50%の酸素ガスも同時に供給する。
【0060】
これらをチューブ又はホースで利用者の口腔のマスク等に搬送する。そして酸素ガスと窒素ガスと水素ガスの供給量とタイミングを制御するプログラム制御装置と同コントローラ、更には呼吸用にカニューレを使用し、尚且つ、供給する水素ガス濃度が10%を超える場合は、カニューレの覆う形の安全排気マスクと同マスクから周囲の空気と呼気を混ぜて回収して混合呼気の水素濃度を4%以下で周囲に排出する、可変電動式の呼気撹拌放出器とこれに綱なるホース又はチューブ、状況に応じて、呼気を再利用して、これに調整ガス(酸素・水素等)を添加してする場合には、呼気のラインの延長線上に二酸化炭素吸着部(吸収部)を設ける。
【0061】
さらに必要に応じて吸気量計、呼気流量計をそれぞれのラインに設置、必要な部分に呼気ガスの流出方向切換え弁を設置する。それと安全の為に、室内水素ガス濃度が4%を超えないように監視するための水素ガス濃度センサーで構成される。通常、呼吸ガスの供給部分は一つのパッケージで作られる。
【0062】
大切なことはプログラムの内容で、利用者は、呼吸具を装着して治療を受ける際は、必ず酸素濃度18%以下の低酸素領域から初め、患者が適応可能な条件で初め、続いて患者毎の適宜な時間が経過後に手動操作又は自動で酸素濃度21%以上の高酸素領域の呼吸に変化させる。この後、適宜な時間高酸素域で活性酸素種の過酸化水素の細胞内濃度が最初の2.4倍近傍に留まる様に、作用安定化呼吸をし、さらに酸素濃度を徐々に21%まで落とし、細胞内の活性酸素種の濃度を初期値近くまで低下させる、終了の為の安定化呼吸で終了となる。これら一連の動作は、手動操作か又はプログラム制御装置により自動制御される。利用者ごとの設定内容は設定リモコンにより事前にプログラム制御装置に入力ができる。
【0063】
尚、総頸動脈に反射式パルスオキシメータを取り付けて(貼り付ける)この経皮的動脈血酸素飽和度の数値でプロセスの一部を制御したい場合は、(脳動脈血の過度の低酸素状態を防ぐため)このSpO2の信号をプログラム制御装置に入れて割り込み処理を行えるようになっている。(事前のリモコン設定が必要)この様に既存の呼吸機器を大きく改造して、さらに特殊な呼吸方法を採用することにより細胞のミトコンドリアの再生ともいえる、機能の健全化が達成され、非常に効果の高い安全な、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムを実現した。
【実施例】
【0064】
<実施例1>
図4は、本発明の実施例1の説明図である。1は利用者の頭部、2は脳細胞を示す。20は酸素ガスと窒素ガスと水素ガスの供給部で、一体型ガス発生装置である。中には水(蒸留水)から電気分解にて水素と酸素を発生させる、水電解用MEA電解セルを用いた部分と、空気より酸素と窒素を濃縮分離させて取り出す、空気濃縮分離式酸素及び窒素供給部を一つのパッケージにして統合運転させるものである。
【0065】
先ず、利用者は利用に際して、呼吸器科の専門医の診断を受け、呼吸器に特別の障害が無いことを確認して利用が始められる。20の内部の電解式水素酸素生成部分と空気濃縮分離式酸素窒素供給部分の動作を制御する為に、21のプログラム制御装置があり、機械のオンオフと発生出力を制御している。この21の制御内容を設定するのが22の設定用リモコンコントローラである。22は手動運転操作をする時にも用いられる。21の設定内容は酸素濃度18%以下の低酸素呼吸領域を作り出す為に酸素が少量(数%)混ざった窒素ガスと、水素ガスの毎分の供給量(発生量)の設定と運転時間の設定が行われる。窒素水素混合ガスの発生量が増えるに従って、利用者の呼吸する酸素濃度が低下する。利用者はこの微量の酸素が混入した窒素水素混合ガスとマスク周辺の空気とを混合して吸引するので、装置からの毎分のガス供給量と呼吸による分時肺胞換気量との関係によってもたらされる低酸素濃度の呼吸が行われる。
【0066】
分時肺胞換気量が多くなれば、それだけマスクの周囲からの空気の混入量が増え、酸素濃度はより空気の持つ酸素濃度に近づき、分時肺胞換気量が少なくなれば、供給ガスの酸素濃度に近づく。よってこの点に注意して、利用者に呼吸量の確保を促す。
【0067】
又、この方法の他に、分時肺胞換気量には余り左右されずに、20からの供給ガスのみで、吸引する酸素濃度を一定にすることができるが、予め、要求酸素濃度に混合したガスを、マスクの周囲の空気が混入しないように、十分な量を供給すれば可能であるが、但し、装置動作時の負担が増大する。
【0068】
呼気に対する安全排気マスクは、利用者が吸引するガス中の水素濃度が10%を超える場合に使用し、それ以内では利用者の室内空気の流れを(気流)(小型の送風機等)作ることで安全を確保している。(これは一般的な水素ガスの安全観念としては4%を超える場合とするが、実際の実験において、水素ガス濃度はマスクから放出されると、周囲の空気と混ざり、急速に撹拌低下し、安全性が保たれるので水素濃度10%を超える場合とした)吸引ガスの水素濃度が10%を超えた場合は、17の電動式の呼気撹拌放出器により水素ガス濃度を4%以下にして屋内等に放出する。17には内部に水素ガスセンサーが含まれており、吸引水素ガス濃度が4%を超えると自動的に吸引出力を多段階に増加させ、放出ガスの水素ガス濃度を安全な濃度に保つ。20の装置で使用する空気は26の空気取り入れ口から取り入れ、酸素と窒素と水素ガスの不用なものに関しては27のガスの排出口から機外に放出される。尚、作業空間の室内の水素ガス濃度の検知に25の水素ガス濃度センサーがあり、機外の水素濃度が4%を超えると、警報を出力して、システムの運転を自動で停止させる様にインターフェイスが組み込まれている。24は利用者が吸引するガスの温度と湿度の調整用で利用者が吸引するガスを水又は湯中にバブリングさせて目的を達成させている。吸引するガスの温度は体温程度が望ましいが、環境温度(室内温度)によっては、若干低温でも問題は無いが、湿度は出来れば飽和水蒸気より若干低い程度を推奨する。
【0069】
一般的な、鼻孔を利用したカニューレは適用ガス量が毎分6L程度であるが、本願では、内部断面積を約2倍にして、許容範囲を毎分10L程度の吸引を可能としたものを適用した。システムの動作は、時間の経過によるタイマーの多段階の設定と20の各要素のオンオフと出力制御、システムの指示による内部の切替弁の制御で賄われるが、4の反射式のパルスオキシメータを総頸動脈に装着して、利用者の経皮的動脈血酸素飽和度の数値で割り込み制御を行ない、時間設定か、経皮的動脈血酸素飽和度の数値かどちらか早いほうの信号で次の行程に進ますことが出来る。これは、利用者の安全確保が目的で、動脈血の酸素飽和度が想定に反して低下し過ぎない様にする安全処置である。パルスオキシメータの総頸動脈に装着(貼り付け)は利用者本人では行えないので、医療従事者によって行われる。指先等で計測するパルスオキシメータは、安静時にしか使えず、本願のように時々刻々変化する様な内容では不向きであるが、総頸動脈を測定することで、脳に行く血流の経皮的動脈血酸素飽和度の変化をモニターすることが可能となる。この手法は、利用の毎回に必要なものでは無く、最初の数回程度に傾向を把握するために有益である。
【0070】
実際の利用の状況を説明すると、利用者はカニューレを鼻孔に装着をする。次に医療従事者が22の設定をするが、実際の治療では、利用者の健康状態は大凡把握されている程度で、先ず20をスタンバイの状態にして次に空気を3分程度、毎分2L位から初めて徐々に毎分10L位迄鼻孔に 送風して、利用者のカニューレ使用での適応性判断の予備検査を行う。この時点で次の治療が可能か簡易判定する。問題が無ければ、医療従事者は初めての設定を行うが、手動操作で行うか、プログラム制御にて行う。最初の低酸素領域の設定では酸素濃度を18%から14%に、時間は2分間から始める。(酸素濃度14%以下に設定する場合は1分間を選択する)この選定は、利用者本人の耐性を考慮して求められる。次に高酸素領域として毎分3Lから5Lの酸素ガスと水素ガス毎分800cc位の混合ガスをカニューラで利用者に10分程度吸引させる。この程度を初回として考える。このレベルは未だ治療効果はない。
【0071】
一日1回から3回(朝・昼・夕)が行えるが、負荷か多い治療をした場合は一日1回行うことが好ましい。毎回毎回、低酸素領域の時間を長く、又酸素濃度を徐々に低下させる。低酸素領域の酸素濃度は最低5%位から(1分間から3分間:本人の低酸素耐性により求める)SPO2=80から85で5秒から15秒間経過で低酸素呼吸終了、直ちに再酸素か高酸素領域に変更する。
【0072】
低酸素領域は最大で全行程60分、高酸素領域は最低30分間以上が必要で、推奨は50分間である。高酸素領域は短いほど治療効果が少なく、長いほど治療効果が高まるが120分を超えると,あまり差が出なくなる。
【0073】
<実施例2>
図5は、本発明の実施例の2の説明図である。治療の方法に関しては実施例1と変わらないが、ハードの機械とシステムが複雑となっている。主な相違は利用者の吸引する治療用のガスは全て、31の呼気再循環機能を付与した一体型ガス発生装置からの供給に頼っている。従って使用する呼吸マスクは密閉型のマスクとなる。呼気は再循環させて、呼気中の二酸化酸素を32の吸着剤で除去し、その時の工程における必要な成分を添加して調整して、吸引に用いるか,又は再循環の必要性がない場合は、37のガス流出方向切換え弁の操作で外部に安全に放出される。
【0074】
本願のシステムは人工呼吸システムでも利用が可能であるが、本願で表示しているのは、あくまで利用者の自発呼吸において治療が成立する。従って本人に分時肺胞換気量の高い呼吸を促さなければならず、呼吸による肺胞喚起効率の低下は、本治療における生体内の反応速度の緩慢を意味し、時間と活性酸素生成の特性曲線の波形の変化がより緩やかものとなり、治療効果の低下を招き得る。そこで、利用者が治療中に現在行っている呼吸の呼気量をリアルタイムで知る為のセンサー36が設備されている。28のラインは逆止弁が含まれており、40の吸気流量計は水素及び酸素の濃度センサーが含まれる。
【0075】
システムが作動中に40と36の流量に数秒間、流量差が続くと、システムはマスクからのガス漏れと判断して、警報を出し、停止する。又、吸引ガスの水素濃度が一定基準より高い場合は、35にデトネーションアレスターを組込む事が可能である。利用者は治療中の呼気量が短時間平均にて、登録した呼気量より一定量下回った場合には、システムは呼吸量が少ない旨の表示をする。又、標準呼気量の登録も36のセンサーを用いて、事前テストにて登録が可能である。その他の実施例1との差異はハードの面んで無線技術を適応していることである。尚、この装置のスペックの概要は、一例として水素ガスの最大発生量毎分、2.4L、酸素ガスの最大発生量は9.0L、窒素ガスの発生量30L(推定)電力約2KW以内となっている。
【0076】
それでは、本実施例の治療の効果に関して、臨床実験結果の1例を簡単に記述する。
脳梗塞患者の場合で、発症後6か月を経過、右手側に軽い麻痺があったが、それよりも記憶力と認知能力にやや問題が出ていた。そこで、低酸素状態を創出する為に、フィリップス社製の密閉型鼻マスクを使い、水素ガスを多用して低酸素ガスを吸気し呼吸を行った。
【0077】
呼吸の中心は5分間程度の低酸素状態の発現である。その後の再酸素化工程(通常の空気を吸気して呼吸する工程)を含めて60分から90分間行った。ごく短時間の最低呼気酸素濃度は5%程度であった。
【0078】
変化は、開始して5分から10分位で室内の実験であったので目に変化を感じた。蛍光灯の明かりが、幾分赤色に変異しているのに気づく。この作業を約40日間続けた。
【0079】
すると、途中から、神経に変化を感じるようになった。先ず、目、視覚が高揚したように感じた。視力が良くはなっていないが、見ているものが変わり、非常に細かく、視覚の映像が繊細に変化した。まるで、昔のテレビから4Kの液晶テレビに変わったような感じがした。しかし、視力が良くなったわけではない。更に実験は別の装置を用いて続いた。記憶力は、ワーキングメモリと言われる短期の記憶が格段に向上する。
【0080】
日常生活に於いての物の置忘れ等がほとんどなくなる。さらに臨床試験開始から40日前後に確認した認知能力の変化は驚くべき信じられない様な変化が起こった。
確認の方法は、公共交通機関の路線バスの最前列に座り、バスの進行に合わせて変化して行く外の風景を観察することによって行った。実験前は、周囲の交通の推移には、事象に推移・変化には視覚がついて行けなかったが、臨床試験後経過40日では、ちょうどバスが交差点付近で停車した時だったが、周囲の雑踏、自転車に歩行者に他の車の動き等、任意の3点に(3か所)に注意を分散集中すると、まるで手に取る様にそれぞれの動きが把握可能に変化が起きた。
【0081】
そして、歩行者や自転車の動きと言うと、一点に意識を集中し視覚を集中させると、それらの動きが、まるでスローモーションでも見るが如きに、ゆっくり変化して行くように感じられた。そこで低酸素呼吸から再酸素の呼吸をする、酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法によって、脳内部の特に海馬周辺の脳神経細胞が活性化された、再生されたと言う感じがした。
海馬周辺は脳の中でも特に脆弱性を有する部分であり、酸欠即ち、低酸素状態に早期に反応したと言える。
【0082】
その後、低酸素呼吸治療の後半を再酸素化ではなく、高酸素化、即ち高酸素濃度領域(酸素濃度21%以上)による呼吸に変えた。それまでの実験でワーキングメモリは素晴らしく改善したが、短期の記憶領域から長期の記憶領域への繋がりが上手く機能していなかったが、この部分が改善する為には、脳のより広い部分を活性化させる必要があり、そのための方策が高酸素領域に於ける呼吸であった。
【0083】
初め高酸素だけの呼吸を60分間程度を2週間程度試みて、結果を考察すると、確かに短期記憶から長期記憶への移行が比較的円滑に可能となった。そこで低酸素領域の呼吸から連続的に高酸素領域の呼吸を60分間程度行ってさらに30日後の評価を行うと、短期記憶と長期記憶、そして認知能力それぞれがさらに進化していた。
【0084】
脳の機能的及び能力的には、脳梗塞発症前の状態と言うよりも、標準的な一般人のレベルを超えており、その変化の速度から判断して、脳細胞のミトコンドリアゲノムの初期化が起きて、それによって細胞周期の分裂期に神経細胞のミトコンドリアの健全化が起こり、神経細胞の機能が改善されたとした、時間応答性と推定効果が理論と実際がほぼ一致するものである。
【0085】
今回は、脳細胞の部分にスポットライトを照らしたが、その他の臓器等においても、この関係は成立するので、別の機会に臨床試験のチャンスを企画したい。
【0086】
<実施例3>
図6は実施例3を示す。実施例3は高酸素濃度領域の酸素分圧をさらに高めて、活性酸素の発生が低い利用者、反応性が少ない患者等の為で、通常、加圧カプセルに入る前に低酸素濃度領域の呼吸を終えてから高気圧治療装置を利用する。加圧時間は約15分間程度とされるので時間的には、加圧時間と減圧時間を合わせて60分間程度の高気圧酸素治療を行う。高気圧酸素治療が終了後に常圧において、水素ガスを含む、副作用防止の為の、安定化呼吸を30分間程度行われる。
【0087】
尚最近の高気圧酸素治療装置は内部空間に酸素ガスを満たし加圧するのではなく、内部の加圧に空気を用い、患者に対しては呼吸マスクを使って酸素呼吸を行うものもあると聞く。その場合には、このマスクを用いての低酸素領域の呼吸も行うことができる。
【0088】
<実施例4>
図22は、認知症予防の運動療法後に、本願の酸素濃度を段階的に変化させる呼吸方法を用いた再生医療システムを合わせたもので、運動療法による認知症の予防効果を格段に高めることが可能である。図22では、運動療法を行う施設内に二つの密閉した部屋と、二つの部屋を繋ぎ、お互いを密閉可能な通路と連絡扉、各部屋から屋内運動場への出入口の扉、そして図示されていないが各密閉質の室内の温度・湿度内部ガス成分を管理する室内環境制御装置から構成されている。
【0089】
図22に於いて、予防体操、運動療法が終了した利用者(複数可能)は直ちに、外部からの入口の密閉扉を開閉して低酸素濃度治療室の内部に入る。ここで、低酸素領域の呼吸を、それぞれ個人ごとに決めた時間が経過後に連絡扉を開閉して隣の高酸素濃度治療室に入り、約40分から60分程度、高酸素領域での呼吸を行う。終了後に出口の扉を開閉して外の、元の屋内運動場に出る。これで本願に於ける治療は終わりである。
【0090】
利用者は運動前には、ビタミンC等の抗酸化剤の摂取は避ける事が望まれる。低酸素濃度治療室の酸素濃度の設定は、利用者は既に需要性低酸素の状態であるので、この部屋で供給性の低酸素状態を加えるので、通常の設定より、酸素濃度を高めてもよい。部屋の水素濃度は、特別な要求が無い限り、通常4%に設定される又、室内で呼吸により生じる二酸化炭素は、室内環境制御装置内部の二酸化炭素吸着剤で除去される。高酸素濃度治療室では、ここでは立ち姿勢で描かれているが、時間が長いので椅子に座って治療を受ける。利用者は、随時この治療室を利用できるので、、利用者グループを班に分けて、時間をずらして運動療法をグループ毎に行えば、多くの利用者が効率的に本願の治療を受けることが可能となる。
【0091】
<実施例5>
図23は、密閉式低酸素領域治療室と密閉式低酸素領域治療室を密閉型通路で連絡し、完全自動の電動式車椅子を用いた大規模な治療用システムの例で、実施例の5である。利用者は全て自動運転制御される電動車椅子42に座ることによって治療が始まる。常時車椅子を用いる利用者もここで、この42に乗り換えて治療を受ける。勿論、健康人もである。この42は日産自動車が開発したプロパイロットチェアの進化型と考えれば理解しやすい。
【0092】
45、と46、47の密閉式各通路の床には位置情報の為のセンサーが埋め込まれている。60、61の治療室の床にも位置情報のセンサーが埋め込まれている。更に61の床の電動車椅子の定位置、電動車椅子を停止(駐車)させる位置の適宜な場所に電動車椅子の充電の為の電磁充電装置が床面に設置されている。四角に斜線/は電動車椅子とその番号を表している。
【0093】
42番の利用者が利用する為に入口の密閉扉を自動で開けられるこの時、奥の密閉扉は閉まっている。45と60の間の密閉扉は入口の扉が閉められた時に、開かれるようにインターロックが組まれている。通常は各部屋又は通路の間の扉は、必ず両方が開く事が無い様に、システムによって制御されている。これが、全て開く場合は、非常時、緊急時だけである。各連絡通路には3人在籍する事が可能である。
【0094】
60の部屋には10人の利用者が在籍可能である。61の部屋には40人の利用者が在籍可能である。この数の違いは、60の低酸素領域治療室は酸素濃度が18%から14%の間で、水素濃度4%の設定を推定しており、利用者の最大在籍時間は15分以内を想定しているのに対し、61の高酸素領域治療室では、利用者の最大在籍時間は60分以内を想定している。従って治療時間による処置能力でバランスをとっている。61の治療室では酸素濃度を30%から40%の間を想定している。各治療室のガスバランスと温度湿度及び室内気流を管理する為に53と54の低酸素領域治療室及び高酸素領域治療室の環境管理システムが制御を行うが、総合的な管理は図示されないが、コンピュータによる総合管理システムがある。
【0095】
ここで、56番の利用者が初めてこのシステムを利用する場合、60の治療室の在室呼吸時間を最小から始める。同様に61の治療室の在室呼吸時間も最小とする。今、ここでそれぞれ60の治療室を5分間、61の治療室を20分間とすると、この利用者の治療時間は25分プラス移動に要する時間で通常5分程度で30分間で終了する。これで利用者の治療結果を検討して、問題が無ければ、毎回、徐々に時間を増やして行く。
【0096】
平面図を見ると、電動車椅子の在籍位置の周囲には電動車椅子の通路が設けられており、各々の電動車椅子は他の電動車椅子にその進路を妨げられずに通路側に出る事ができる。入口通路と出口通路を管理していれば、スムーズな運航が可能である。個人毎に各在籍時間が異なる場合でも、コンピュータによる総合管理システムが、移動の順番やタイミングを制御しているので、無駄のない工程が組まれる。
【0097】
但し、アクシデントは必ずあり得る。この電動車椅子には無線式のパルスオキシメータが核利用者用に付属しており、必要な信号データは遠隔監視が可能で、異常があれば、その利用者だけ、緊急に優先して、室外に移送が可能である。緊急の場合には、個々の緊急の場合は、他の動作に優先するので、各通路を開けさせて、一番近い通路を経由して、治療室外に移送させる。地震や近くでの火災等の非常事態では全ての治療室と連絡通路の全ての扉と44の非常用扉の全てがシステムの制御により解放され、電動車椅子は、最も近い場所から外に移動させるか、危険発生場所が近い場合には、最も安全な場所に電動車椅子を移動させるように、システムが指示を行う。
【0098】
61の治療室では、比較的に在籍呼吸時間が長い為に、必要に応じて電動車椅子のバッテリの充電を行う事ができる。(電磁誘導式充電)
尚、電動車椅子が故障して動けなくなった場合は、同じ様に自動で動く、故障車両搬出用の自動運搬車によって、他の工程の合間に移動搬出される。それ以前に空の電動車椅子が利用者の救出に向かい、利用者を乗せ換えて、利用者の続きの工程を行う。
【0099】
図23に示される設備に於いて、一時間に40人から70人位の患者、利用者の治療をする事が可能である。一日当たり8時間稼働して320人から560人の治療が可能となる。一日500人の治療をすれば、20日で1万人の認知症の治療や予防が可能となる。本システムは安全性と効率性のバランスの取れた優れたシステムで、認知症だけでなく、ミトコンドリアの機能低下による多くの疾患にとって大変有益である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
酸素ガス、窒素ガス、水素ガスを供給する装置を組み合わせて制作する特殊な呼吸機器を用い、これに各種マスク等を用いて酸素濃度18%以下の低酸素領域のによる呼吸と、その後に続けて酸素濃度21%以上の高酸素領域による呼吸を適宜な条件でプログラム自動制御により行うことにより、比較的に安全で、効率良く細胞のミトコンドリアのゲノムの初期化の喚起が可能である。この、プログラム制御による呼吸方式を用いた再生医療システムは、ミコンドリアのゲノムの初期化を通じて低下したミトコンドリア機能を細胞周期を経て健全な機能のミトコンドリアに変化させる事が可能で、ミトコンドリアの機能低下やミトコンドリアの機能不全が原因となって発症するすべての疾病の症状を改善することが可能である。とりわけ認知症においても、認知能力や記憶力の改善をさせる能力を秘めている。現在、製薬各社を通して、有効な手段を見いだせておらず、又その他の再生医療においても治療費の高騰の問題を秘めている。その中で本発明は、既存の呼吸機器等を組み合わせ、これに漸進的なシステム設定を加える事により、先進的な再生医療システムとして仕上られた。比較的に安全性も確保でき、治療効率も優れている。量産に耐える構成となっているので、今後の再生医療の中心的な存在として十分な役割を果たすことが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 人体・頭部(プログラム制御による再生医療呼吸装置の利用者)
2 脳
3 総頚動脈
4 反射式パルスオキシメータ(有線or無線)
5 肺
6 高流量型カニューレ
7 カニューレ用吸気チューブ
8 呼吸マスク(密閉型)
8a 呼気吸気合流部又は呼気吸気切替機構(水素ガス濃度10%以上でデトネーションアレスター組込可能
9 吸入路
10 呼気路、排気路
11 吸気ガス、吸入ガス(水素ガス、窒素ガス、酸素ガス)
12 呼気(水素ガスを含む)
13 呼気撹拌放出器(空気と呼気を撹拌混合で放出)
14 水素ガス供給部(水電解式水素発生装置)
15 酸素ガス及び窒素ガス供給部、(空気濃縮分離式)
16 排気路(チューブ又はホース)高濃度水素混合呼気用
17 室内空気と呼気を混合して放出する呼気撹拌放出器
18 酸素ガス&窒素ガス供給器(空気濃縮分離式)
20 酸素ガス&窒素ガス&水素ガスの一体型ガス発生装置(可変発生容量型)
21 プログラム制御装置
22 プログラム制御装置の設定用リモコンコントローラ
23 リモコンコントローラとプログラム制御装置との信号ケーブル
24 供給ガスの温度調整&加湿器(水orお湯中バブリング式)
25 水素ガス濃度センサー
26 空気取入れ口
27 一体型発生装置内部のガスの排出口
28 高流量型カニューレ用ガス供給ライン
28a ベンチュリーマスク用ガス供給ライン
29 反射式パルスオキシメータの信号ケーブル
30 プログラム制御装置と一体型ガス発生装置との制御ケーブル
31 呼気再循環機能を付与した一体型ガス発生装置
32 二酸化炭素吸着部(リソライム等)
33 密閉型口鼻マスク
34 密閉型フェイスマスク
35 呼気吸気合流部(高水素濃度にてデトネーションアレスターを内蔵可能)
36 O2濃度計&呼気流量計
37 ガス流出方向切換え弁
38 無線LAN(WiFi)式プログラム制御装置
39 一体型ガス発生装置への制御ケーブル
40 吸気量センサー
42 電動車椅子(自動運転制御式:充電式)進化型プロパイロットチェア
43 自動開閉式密閉扉
44 非常用:自動開閉式密閉扉
45 低酸素領域治療室への密閉式入口通路
46 低酸素領域治療室から高酸素領域治療室への密閉式連絡通路
47 高酸素領域治療室からの密閉式出口通路
48 高酸素領域治療室の左側面通路
49 高酸素領域治療室の中央通路
50 高酸素領域治療室の右側面通路
51 密閉構造の治療室等
52 電動車椅子(自動運転制御)の故障車両搬出用の自動運搬車
53 低酸素領域治療室用のガス供給システム(環境管理システム)
54 高酸素領域治療室用のガス供給システム(環境管理システム)
55 室内の無線LAN用アンテナユニット
56 利用者(座位)
60 低酸素領域治療室
61 高酸素領域治療室

【要約】      (修正有)
【課題】認知症等に対する治療や予防効果を有する呼吸方法を用いた、比較的安全で治療効果の高い、コストパフォーマンスに優れた先進的な再生医療システムを提供する。
【解決手段】酸素ガス、窒素ガス、水素ガスを供給する装置を組み合わせて制作する特殊な呼吸機器13,14,15を用い、手動操作又はプログラム自動制御により、低酸素濃度領域の呼吸と高酸素濃度領域の呼吸を順番に適宜なタイミングと時間に行うことで、細胞の再生を行わせる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23