【実施例】
【0056】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
前記式(3−1−1)で表される化合物であるSA001(入手元:東京化成株式会社製、製品番号:O 0317)を用い、前記式(3−1−2)で表される化合物であるSA002、前記式(3−1−4)で表される化合物であるSA003、前記式(3−1−3)で表される化合物であるSA005、及び前記式(3−1−5)で表される化合物であるSA006を合成した。
【0058】
SA002は、化合物A、Cを経て以下の様に合成した。
(化合物A)
3-O-triethylsilyl oleanolic acid (A)
一口50 mLナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
Oleanolic acid (21) (1.0 g, 2.19 mmol)を加え、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (15 mL)で溶解後、2,6-lutidine (2.59 mL)、TESOTf (2.48 mL)を加え、室温で2時間撹拌した。その後、反応液をエバポレーターで濃縮し、反応を停止した。
反応液にCHCl
3 (30 mL) を加え、有機層をH
2O (30 mL) で1回洗浄を行い、無水 Na
2SO
4 で乾燥した。その後、濾過し、エバポレーターで濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 250 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 7 : 1) 中で6時間静置した。その後精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、白色固体物質 A (1.13 g, 1.97 mmol, 90%) を得た。
【0059】
(化合物B)
2, 3, 4, 6-Tetra-O-acetyl-α-D-glucopyranosyl trichloroacetimidate (B)
一口100 mLナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
Penta-O-acetyl-β-D-glucopyranose (東京化成工業より購入、製品コード、P0028、1.0 g, 2.56 mmol)を加え、シリンジを用いて無水DMF (20 mL)で溶解後、hydrazine acetate (330 mg, 3.59 mmol)を加え室温で1時間撹拌した。その後、氷冷しながらH
2O (30 mL)をゆっくり加えて反応を停止した。
反応液をAcOEt (60 mL)を用いて3回抽出し、有機層をH
2O (60 mL)で5回、飽和NaCl水溶液 (60 mL)で1回洗浄し三角フラスコへ移した。無水Na
2SO
4を加え、乾燥後、一口100 mLナス型フラスコへ溶液を濾過し、エバポレーターで濃縮した。その後、マグネットを入れ、真空ポンプで乾燥し、粗生成物を得た。
前述の粗生成物とマグネットの入った一口100 mLナス型フラスコを、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (20 mL)を加えて溶解後、Cl
3CCN (3.10 mL, 30.7 mmol)、DBU (38.1 μL, 0.26 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。その後、エバポレーターで濃縮した。
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 100 g, 展開溶媒 ; hexane : EtOAc = 4 : 1)で精製し、透明油状物質 B (2 steps, 64%)を得た。
【0060】
(化合物C)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-O-triethylsilyl-, 2, 3, 4, 6-Tetra-O-acetyl-β-D-glucopyranosyl ester (C)
一口10 mLナス型フラスコにマグネットとモレキュラーシーブス4オングストローム(MS4Å) (100 mg) を入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
グリコシルドナー B(化合物B) (47.1 mg, 0.0956 mmol)、グリコシルアクセプター A (化合物A) (54.6 mg, 0.0956 mmol)を加えた後、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (1.75 mL) で溶解し、−40 ℃に冷却した。次にBF
3・OEt
2 (1.20 μL, 0.00956 mmol) を加え−40 ℃で1時間撹拌した。その後triethylamine (2.0 μL)を加えて室温に戻して反応を停止した。
反応液にAcOEt (10 mL)を用いてセライト濾過した後、エバポレーターで濃縮して、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 15 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 6 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、無色油状物質 C (62.7 mg, 0.0696 mmol, 73%) を得た。
【0061】
(SA002)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-hydroxy-,β-D-glucopyranosyloxy ester (SA002)
一口50 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコを熱し、フラスコ内部の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。) C(化合物C)(289 mg, 0.320 mmol) を加え、シリンジを用いて無水 MeOH (7.0 mL) を加えて室温で撹拌し、完全に溶かした。次に、 NaH (1.28 mg, 0.0320 mmol, 60% disp.) を加えた。 NaH を量るのに使用した薬さじ・薬包紙は直ちに水で洗浄した。室温下、1時間撹拌した後、エバポレーターで溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 80 g, 展開溶媒 ; CHCl
3 : MeOH = 15 : 1) で精製した。エバポレーターで濃縮し、さらに真空ポンプで溶媒を留去する事により、白色固体物質 SA002 (208 mg, 0.337 mmol, quant.) を得た。
【0062】
SA003は、化合物D、Eを経て以下の様に合成した。
(化合物D)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-hydroxy-, 2, 3, 4, 6-tetra-O-acetyl-β-D-glucopyranosyl ester (D)
一口30 mLナス型フラスコにマグネットを入れ C(化合物C)(300 mg, 0.331 mmol) を加え、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。
次に、シリンジを用いてTBAF 1M THF溶液 (1.7 mL, 1.66 mmol) を加え、室温で14時間撹拌後、 飽和アンモニア水 (10 mL) を加えて反応を止めた。その後、反応液を分液漏斗に移し、CH
2Cl
2 (30 mL) で2回抽出を行い、有機層を炭酸水素ナトリウム水 (30 mL)で3回、brine (30 mL) で1回洗浄し、無水Na
2SO
4 で乾燥させた。その後、濾過し、エバポレーターで濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 60 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 3 : 1 → 5 : 2 → 2 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、白色固体物質 D (176 mg, 0.224 mmol) を得た。
【0063】
(化合物E)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-[(2, 3, 4, 6, -tetra-O-acetyl-β-D-glucopyranosyl) oxy]-, 2, 3, 4, 6-tetra-O-acetyl-β-D-glucopyranosyl ester (E)
一口10 mLナス型フラスコにマグネットとMS4Å(200 mg) を入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。
グリコシルアクセプター D(化合物D) (86.9 mg, 0.104 mmol)、グリコシルドナー B (化合物B) (163 mg, 0.331 mmol) を加えた後、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (10 mL) で溶解させ、反応溶液を−40 ℃に冷却した。次にTMSOTf (2.00 μL, 1.17 μmol) を500 μLの無水CH
2Cl
2に溶解したものを滴下し、−40 ℃で10分間撹拌した。その後triethylamine (2.0 μL)を加えて室温に戻して反応を停止させた。
反応液にAcOEt (10 mL)を用いてセライト濾過した後、エバポレーターで濃縮して、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 20 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 3 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、白色固体物質 E (116 mg, 0.0975 mmol, 94%) を得た。
【0064】
(SA003)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-(β-D-glucopyranosyloxy)-, β-D-glucopyranosyl ester (SA003)
一口30 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコを熱し、フラスコ内部の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。
そのフラスコにE(化合物E)(47.9 mg, 0.0429 mmol) を加え、シリンジを用いて無水 MeOH (1.5 mL) を加えて室温で撹拌し、完全に溶解させた。次に、 NaH (85.8 μg, 2.15 μmol, 60% disp.) を加えた。 NaH を量るのに使用した薬さじ・薬包紙は直ちに水で洗浄した。室温下、15分間撹拌した後、水 5 mL で希釈した。続いて、反応液をDIAION(登録商標) HP-20 (15 cc)を用いて、H
2O (100 mL)、H
2O : MeOH = 1 : 1 (150 mL) で分画し、H
2O : MeOH = 1 : 1画分をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をHPLC (YMC-Pack Pro C18, H
2O : MeOH = 1 :9, flow rate = 8.0 mL/min, retention time = 6.8 min)で精製し、エバポレーターで濃縮後、真空ポンプで溶媒を留去する事により、白色固体物質 SA003 (28.8 mg, 0.0369 mmol, 86%) を得た。
【0065】
SA005は、化合物G、H、I、J、K、L、Mを経て以下の様に合成した。
(化合物G)
1, 2-Di-O-acetyl-3-O-(4-methoxybenzyl)-4, 6-O-(4-methoxybenzylidene)-α(and/or β)-D-glucopyranose (G)
一口500 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ F(化合物F) (3-O-(4-methoxybenzyl)-4, 6-O-(4-methoxybenzylidene)-D-glucal, 4.10 g, 10.7 mmol) を加え、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。
次に溶媒装置を用いて無水CH
2Cl
2 (100 mL) を加え、iodobenzene diacetate (4.12 g, 12.8 mmol) を加えた。−40 ℃で撹拌し、 BF
3・OEt
2(402 μL, 3.20 mmol) を加え、3時間撹拌後、 pyridine (50 mL)と Ac
2O (50 mL) を加え、室温に戻し、17時間撹拌した。その後、0 ℃に氷冷し、H
2O (100 mL) を加えて反応を停止させた。
次に反応液を AcOEt (200 mL) を用いて 1 回抽出した後、有機層を 飽和CuSO
4 (80 mL) で1回、H
2O (100 mL) で 5回、飽和NaCl水溶液 (100 mL) で 1 回洗浄を行い、無水 Na
2SO
4 で乾燥した。その後、濾過し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 250 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 2 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、白色固粉体物質 G (4.32 g, 8.60 mmol, 81%, α : β = 12 : 88) を得た。
【0066】
(化合物H)
1, 2-Di-O-acetyl-3, 6-O-(4-methoxybenzyl)- α (and/or β)-D-glucopyranose (H)
一口500 mLナス型フラスコにマグネットを入れ G(化合物G)(5.29 g, 10.5 mmol) を加え真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
次に溶媒装置を用いて無水CH
2Cl
2 (130 mL)を加えて溶解し、別途調製したMS4Å(30 g) を加え、フラスコを氷冷して 0 ℃にした。(一口300 mLナス型フラスコにMS4Å(30 g)を入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。反応にはこのMS4Åを直前に調製し、使用した。)一方、一口200 mLナス型フラスコを真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。この100 mLナス型フラスコにSodium Cyanoborohydride (6.62 g, 105 mmol) を入れ、シリンジを用いて無水THF (45 mL) に溶解させながら、一口500 mLナス型フラスコ内に加えた。続いてシリンジを用いてTFA (16.1 mL, 211 mmol) をゆっくり滴下し、室温に戻して15時間撹拌した。
その後、CH
2Cl
2 を用いてセライト濾過し、濾液を 飽和NaHCO
3水溶液 (90 mL) を用いて 3 回洗浄した後、 CH
2Cl
2 (100 mL) で 1 回抽出し、さらにH
2O (100 mL) で 5回、飽和NaCl水溶液 (100 mL) 1 回洗浄し、無水 Na
2SO
4 で乾燥した。その後、濾過し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 250 g, 展開溶媒 ; toluene : AcOEt = 4 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、無色透明油状物質 H (2.32 g, 4.60 mmol, 44%, α : β= 7 : 93) を得た。
【0067】
(化合物I)
1, 2-Di-O-acetyl-3, 6-O-(4-methoxybenzyl)-4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]- α(and/or β)-D-glucopyranose (I)
一口 200 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ H(化合物H) (980 mg, 1.94 mmol)を加え、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
次に溶媒装置を用いてCH
2Cl
2 (30 mL) と乾燥したMS4Å(3.1 g) を加え、フラスコを氷冷して 0 ℃にした。次に、3, 4-dimethoxycinnamic acid (607 mg, 2.91 mmol) とDCC (401 mg, 1.94 mmol) とDMAP (23.7 mg, 0.194 mmol) を加えた。なお、 DCC を扱う時は、ゴム手袋を着用した。続いて、反応温度を室温に戻し、 22 時間撹拌した。
その後、CH
2Cl
2 を用いてセライト濾過し、濾液を 5% aq. Na
2CO
3 (30 mL) で 2 回、 飽和NaCl水溶液 (30 mL) で 1 回洗浄した後、無水 Na
2SO
4 で乾燥した。その後、濾過し、エバポレーターで濃縮後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 100 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 2 : 1) で精製した。はじめに、hexane (1 L)を流した後に、展開溶媒を hexane : AcOEt = 2 : 1 に変更し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、黄色固粉体物質 I (1.37 g, 1.97 mmol, quant., α : β = 1 : 99) を得た。
【0068】
(化合物J)
2-O-acetyl-3, 6-O-(4-methoxybenzyl)-4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]- α(and/or β)-D-glucopyranose (J)
一口100 mLナス型フラスコにマグネットを入れ I(化合物I) (335 mg, 0.482 mmol) を加え、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
次に、シリンジを用いて無水DMF (10 mL) を加え撹拌して完全に溶解した。続いてhydrazine acetate (2.4 mg, 0.0256 mmol) を加え、室温で1時間撹拌後、 0 ℃のH
2O (10 mL) を加えて反応を止めた。その後、反応液を分液漏斗に移し、AcOEt (30 mL) で1回抽出を行い、有機層をH
2O (20 mL)で3回、brine (20 mL) で1回洗浄し、無水Na
2SO
4 で乾燥させた。その後、濾過し、エバポレーターで濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 50 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 1 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、無色油状物質 J (277 mg, 0.424 mmol, 88%, α : β = 73 : 27) を得た。
【0069】
(化合物K)
2-O-acetyl-3, 6-O-(4-methoxybenzyl)-4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]-α(and/or β)-D-glucopyranosyl trichloroacetimidate (K)
一口50 mLナス型フラスコにマグネットを入れ J(化合物J) (261 mg, 0.400 mmol) を加え、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。
次に、シリンジを用いて 無水CH
2Cl
2 (8 mL) を入れ撹拌して完全に溶解し、Cl
3CCN (485 μL, 4.80 mmol) 、DBU (8.0 μL, 0.0800 mmol) の順にシリンジで加え、室温で1時間半撹拌した。反応液をシリカゲル(10 g)とセライト(10 g)を詰めたカラム管でAcOEtを用いて素早く濾過し、反応を止め、エバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 30 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 2 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮後、さらに真空ポンプで溶媒を留去し、無色油状物質 K (302 mg, 0.0379 mmol, 95%, α : β = 93 : 7) を得た。
【0070】
(化合物L)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-O-triethylsilyl-, 2-O-acetyl-, 3, 6-O-(4-methoxybenzyl)-,4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]-β-D-glucopyranosyl ester (L)
一口30 mLナス型フラスコにマグネットとMS4Å(1.0 g) を入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
グリコシルドナー A(化合物A) (327 mg, 0.410 mmol)、グリコシルアクセプター K (化合物K) (234 mg, 0.410 mmol)を加えた後、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (5.0 mL) で溶解し、−40 ℃に冷却した。次にBF
3・OEt
2 (5.15 μL, 0.0410 mmol) を加え−40 ℃で30分間撹拌した。その後triethylamine(10.0 μL)を加えて室温に戻して反応を停止した。
反応液にAcOEt(10 mL)を用いてセライト濾過した後、エバポレーターで濃縮して、粗生成物を得た。得られた粗生成物を シリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 50 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 4 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、無色油状物質 L (301 mg, 0.250 mmol, 61%) を得た。
【0071】
(化合物M)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-hydroxy-, 3, 6-O-(4-methoxybenzyl)-,4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]-β-D-glucopyranosyl ester (M)
一口30 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコを熱し、フラスコ内部の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。
L(化合物L) (188 mg, 0.156 mmol) を加え、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (2.0 mL)、無水 MeOH (8.0 mL) を加えて室温で撹拌し、完全に溶かした。次に、 NaH (40 mg, 5.13 mmol, 60% disp.) を加えた。 NaH を量るのに使用した薬さじ・薬包紙は直ちに水で洗浄した。室温下、1.5時間撹拌した後、エバポレーターで溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 100 g, 展開溶媒 ; hexane : EtOAc = 3 : 1) で精製した。エバポレーターで濃縮し、さらに真空ポンプで溶媒を留去する事により、白色固体物質 M (106 mg, 0.101 mmol, 65%) を得た。
【0072】
(SA005)
Olean-12-en-28-oic acid, 3-hydroxy-, 4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]- β-D-glucopyranosyl ester (SA005)
一口30 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ M(化合物M) (82.0 mg, 0.0781 mmol) を加えた。続いてCH
2Cl
2 (7.40 mL)、H
2O (0.411 mL) を加えて撹拌して完全に溶かし、DDQ (35.5 mg, 0.156 mmol) を加えて室温で17時間撹拌した。その後、無水Na
2SO
4を加え、反応を停止させた。
続いて、CH
2Cl
2 を用いてセライト濾過し、エバポレーターで溶媒を留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物をprep. TLC (hexane : AcOEt = 1 : 3) 、HPLC (PEGASIL Silica SP100, hexane : AcOEt = 3 :2)で精製し、エバポレーターで濃縮後、真空ポンプで溶媒を留去する事により、白色固体物質 SA005 (22.1 mg, 0.0273 mmol, 35%) を得た。
【0073】
SA006は、化合物N、Oを経て以下の様に合成した。
(化合物N)
Olean-12-en-28-oic acid, 3β-D-pentaacetlyglucopyranosyl, tert-butyl-diphenylsiloxy ester (N)
一口30 mLナス型フラスコにマグネットとMS4Å(200 mg) を入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
グリコシルドナー B (108mg, 0.221 mmol)、文献(Biao Yuら、Synlett 2004年、2巻、259-262)に従って調整したグリコシルアクセプター(100 mg, 0.147 mmol)を加えた後、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (2.0 mL) で溶解し、−40 ℃に冷却した。次にTMSOTf (266 μL, 0.0147 mmol) を加え−40 ℃で30分間撹拌した。その後triethylamine(10.0 μL)を加えて室温に戻して反応を停止した。
反応液にAcOEt(10 mL)を用いてセライト濾過した後、エバポレーターで濃縮して、粗生成物を得た。得られた粗生成物を シリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 50 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 5 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、無色油状物質 N (139.3 mg, 0.136 mmol, 92%) を得た。
【0074】
(化合物O)
3β-D-pentaacetylglucopyranosyl olean-12-en-28-oic acid (O)
一口30 mLナス型フラスコにマグネットを入れ N(化合物N) (134.1 mg, 0.131 mmol) を加え、真空ポンプで減圧してフラスコ内を窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
次に、シリンジを用いてTBAF 1M THF溶液 (1.3 mL, 1.31mmol) を加え、室温で14時間撹拌後、 飽和塩化アンモニア水 (1 mL) を加えて反応を止めた。その後、反応液を分液漏斗に移し、CH
2Cl
2 (10 mL) で2回抽出を行い、有機層を炭酸水素ナトリウム水 (10 mL)で3回、brine (10 mL) で1回洗浄し、無水Na
2SO
4 で乾燥させた。その後、濾過し、エバポレーターで濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 20 g, 展開溶媒 ; hexane : AcOEt = 5 : 1 → 4 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、白色固体物質 O (26.3 mg, 0.033 mmol, 26%) を得た。
【0075】
(SA006)
3β-D-glucopyranosyl olean-12-en-28-oic acid (SA006)
一口10 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコを熱し、フラスコ内部の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
そのフラスコにO(化合物O) (17.0 mg, 0.021 mmol) を加え、シリンジを用いて無水 MeOH (0.5 mL) を加えて室温で撹拌し、完全に溶解させた。次に、 NaH (85.8 μg, 2.15 μmol, 60% disp.) を加えた。 NaH を量るのに使用した薬さじ・薬包紙は直ちに水で洗浄した。室温下、2時間撹拌した後、水 5 mL で希釈した。続いて、反応液をDIAION(登録商標) HP-20 (10 cc)を用いて、H
2O (50 mL)、H
2O : MeOH = 1 : 1 (50 mL) で分画し、H
2O : MeOH = 1 : 1画分をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をODSカラム (80% MeOH)で精製し、エバポレーターで濃縮後、真空ポンプで溶媒を留去する事により、白色固体物質 SA006 (2.84 mg, 4.59 μmol, 21%) を得た。
【0076】
前記式(3−2−1)で表される化合物であるSA004をオンジ(Polygala senega)より単離した。
(SA004)
SA004の単離方法は以下の通りである。
Polygala senega (500 g, 栃本天海堂) を5等分し、それぞれを1 Lナス型フラスコに入れ、それぞれにMeOH (1 L) を加え室温で1週間、放置抽出した。その後、吸引濾過してエバポレーターで濃縮し、凍結乾燥し、MeOH抽出物 (131.6 g) を得た。
P. Senega MeOH 抽出物 (3 g) を500 mLナス型フラスコ (1 neck) に入れ、1M aq. KOH (200 mL) を加えて4時間refluxし、その後、0 ℃に冷却した。続いて、反応液をDIAION(登録商標) HP-20 (200 cc) を用いて、H
2O (300 mL)、50% MeOH (100 mL)、80% MeOH (100 mL)、MeOH (400 mL) で分画し、80% MeOH、MeOH画分を濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をDIOLシリカカラムクロマトグラフィー (DIOLシリカ 50 cc, 展開溶媒 ; CHCl
3 : MeOH = 10 : 1 → CHCl
3 : MeOH = 5 : 1 → CHCl
3 : MeOH = 3 : 1 → MeOH) で精製し、エバポレーターで濃縮した。50 mLナス型フラスコに移し変えて濃縮し、真空ポンプで溶媒を留去し、黄色固粉体物質SA004 (194 mg, 1.94% w/w : from Polygala senega) を得た。
【0077】
前記SA004を用い、前記式(3−2−2)で表される化合物であるSA007、及び前記式(3−3−1)で表される化合物であるSA008を合成した。
【0078】
SA007は、化合物P、Qを経て以下の様に合成した。
(化合物P)
Hepta -O-(Acetyl)-Tenuifolin (P)
一口30 mLナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
SA004 (150 mg, 0.220 mmol) を加え、シリンジを用いてpyridine (4 mL)で溶解後、Ac
2O (207 μL, 2.20 mmol)、DMAP (2.69 mg, 0.0220 mmol) を加え、60 ℃で2時間撹拌した。反応終了後、水 10 mLを加え反応を停止した。
続いてAcOEt (20 mL) で抽出を行った後、有機層をCuSO
4aq (15 mL) で1回、水 (15 mL)で3回、飽和食塩水 (15 mL) で1回洗浄を行い、無水 Na
2SO
4 で乾燥した。その後、濾過し、エバポレーターで濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 30 g, 展開溶媒 ; CHCl
3 : MeOH = 80 : 1 → 50 : 1) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、黄色固体物質 P (172 mg, 0.194 mmol, 88%) を得た。
【0079】
(化合物Q)
Olean-12-en-23, 28-dioic acid, 3-(β-D-glucopyranosyloxy)-2, 27-dihydroxy-3, 6-O-(4-methoxybenzyl)-,4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]-β-D-glucopyranosyl ester (Q)
一口10 mLナス型フラスコを真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコの、フラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)この10 mLフラスコにグリコシルアクセプター P(化合物P) (80.8 mg, 0.0907 mmol)、グリコシルドナー K(化合物K) (72.3 mg, 0.0907 mmol) を加えた後、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (10 mL) に溶解させ、サンプル調製溶液とした。
一方、一口100 mLナス型フラスコを真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。この100 mLナス型フラスコにシリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (50 mL)を入れ、TMSOTf (8.2 μL, 0.0454 mmol) を加えTMSOTf調製溶液とした。
調製したそれぞれの溶液を各10 mLずつ 10 mLのガスタイトシリンジに取り、マイクロフローリアクターに接続したテフロン(登録商標)製チューブ (長さ:試料導入部 48 cm, 反応溶液部 100 cn) に取り付けた。シリンジポンプを用いて、シリンジから同じ流量でテフロン(登録商標)製チューブへと溶液を流し、マイクロフローリアクター内で毎分0.2mL、−40 ℃で反応させた。その際、反応液をtriethylamine 100 μLをCH
2Cl
2 5 mLで薄めたtriethylamine溶液に直接滴下して反応を停止させた。流路混合時間は9.0 min, フロー終了時間は 100 minであった。
その後、反応液をエバポレーターで濃縮して、粗生成物 Q (115 mg, Q ; 64%) を得た。
【0080】
(SA007)
Olean-12-en-23, 28-dioic acid, 3-(β-D-glucopyranosyloxy)-2, 27-dihydroxy-4-O-[(E)-3, 4-dimethoxycinnamoyl]-β-D-glucopyranosyl ester (SA007)
一口30 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ Q (化合物Q) (16.7 mg, crude) を加えた。続いてCH
2Cl
2 (1.9 mL)、H
2O (0.11 mL) を加えて撹拌して完全に溶かし、DDQ (14.4 mg, 0.0636 mmol) を加えて室温で1時間撹拌した。その後、無水Na
2SO
4を加え、反応を停止させた。
続いて、CH
2Cl
2 を用いてセライト濾過し、エバポレーターで溶媒を留去して粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ODSシリカゲル 30 g, 展開溶媒 ; acetonitrile : H
2O = 3 : 7) で精製し、エバポレーターで濃縮し、混合物として粗生成物 SA007 (16.2 mg, SA007 ; 47%)を得た。
【0081】
SA008は、化合物Rを経て以下の様に合成した。
(SA008)
Olean-12-en-23, 28-dioic acid, 3-[(2, 3, 4, 6, -tetra- O-acetyl--β-D-glucopyranosyl) oxy] -2, 27-dihydroxy-, 2, 3, 4, 6-tetra-O-acetyl-β-D-glucopyranosyl ester (R)
一口10 mLナス型フラスコを真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコの、フラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)この10 mLフラスコにグリコシルアクセプター P(化合物P) (71.0 mg, 0.0797 mmol)、グリコシルドナー D(化合物D) (78.5 mg, 0.159 mmol) を加えた後、シリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (7.5 mL) に溶解させ、サンプル調製溶液とした。
一方、一口100 mLナス型フラスコを真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコ内の水分を完全に取り除き、フラスコが冷めたところで窒素置換した。この100 mLナス型フラスコにシリンジを用いて無水CH
2Cl
2 (75 mL)を入れ、TMSOTf (14.0 μL, 0.0797 mmol) を加えることでTMSOTf調製溶液とした。
調製したそれぞれの溶液を各7.5 mLずつ10 mLのガスタイトシリンジに取り、マイクロフローリアクターに接続したテフロン(登録商標)製チューブ (長さ:試料導入部 48 cm, 反応溶液部 100 cn) に取り付けた。シリンジポンプを用いて、シリンジから同じ流量でテフロン(登録商標)製チューブへと溶液を流し、マイクロフローリアクター内で毎分0.1mL、−40 ℃で反応させた。その際、反応液をtriethylamine 100 μLをCH
2Cl
2 3 mLで薄めたtriethylamine溶液に直接滴下して反応を停止させた。流路混合時間は4.5 min, フロー終了時間は 75 minであった。
その後、溶液をエバポレーターで濃縮して、粗生成物を得た。得られた粗生成物を シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ODSシリカゲル 40 g, 展開溶媒 ; MeOH : H
2O = 3 : 2 → 7 : 3 → 4 : 1 ) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去し、黄色固体物質 R (64.7 mg, 0.0530 mmol, 66%) を得た。
【0082】
(SA008)
Olean-12-en-23, 28-dioic acid, 3-(β-D-glucopyranosyloxy-, 2-acetyl-, 27-hydroxy-β-D-glucopyranosyl ester (SA008)
一口10 mL ナス型フラスコにマグネットを入れ、真空ポンプで減圧しながらヒートガンでフラスコを熱し、フラスコ内部の水分を完全に取り除いた。フラスコが冷めたところで窒素置換した。(以下の反応は、全て窒素雰囲気下で行った。)
R(化合物R) (23.7 mg, 0.0194 mmol) を加え、シリンジを用いて無水 MeOH (0.5 mL) を加えて40 ℃で撹拌し、完全に溶かした。次に、 NaH (77.0 μg, 0.00194 mmol, 60% disp.) を加えた。 NaH を量るのに使用した薬さじ・薬包紙は直ちに水で洗浄した。40 ℃で24時間撹拌した後、水 5 mL で希釈した。続いて、反応液をDIAION(登録商標) HP-20 (15 cc)を用いて、H
2O (100 mL)、MeOH (50 mL) で分画し、MeOH分画をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。得られた粗生成物を シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ODSシリカゲル 20 g, 展開溶媒 ; MeOH : H
2O = 7 : 3 ) で精製し、エバポレーターで濃縮した。さらに、真空ポンプで溶媒を留去する事により、黄色固体物質 SA008 (12.8 mg, 0.0145 mmol, 74%) を得た。
【0083】
《比較試験例:Caco−2細胞での、抗酸化剤によるMeHg毒性軽減試験》
MeHg毒性軽減効果を奏する物質として、抗酸化剤であるDPQが知られている。そこでまず、DPQのMeHg毒性軽減効果をヒト結腸癌由来細胞であるCaco−2細胞を用いて確認した。さらに、抗酸化剤として知られるビタミンC(VC)、ビタミンE(VE)、ビタミンK
1(VK
1)、β‐カロテン、カテキン、クルクミン、及びレスベラトロールについても同様の試験を行った。
試験は、Caco-2細胞にMeHgと、既知の抗酸化剤とを添加し、数日間培養した後に、MTT試験により細胞生存率を算出することにより行った。なお、試験条件は後述の条件A−1である。
【0084】
抗酸化剤によるMeHg毒性軽減試験を行った結果を
図2に示す。結果は、表中に記載の抗酸化剤の添加濃度ごとに示す。表の横軸は添加したMeHgの濃度を表す。表の縦軸はMTT試験により算出した細胞数を表し、コントロールであるMeHg添加量が0μMでサンプル化合物の添加量が0μMの値を100%とした相対値で示す。
【0085】
図2に示されるように、従来MeHg毒性軽減が報告されているDPQは、MeHg毒性軽効果を有することが示された。特に、MeHg:5μM、DPQ:10μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された(P<0.05vscontrol)。しかし、その他の抗酸化剤では、顕著なMeHg毒性軽減効果は認められなかった。
【0086】
《試験例1:Caco−2細胞での、サポニン化合物によるMeHg毒性軽減試験》
ヒト結腸癌由来細胞であるCaco−2細胞を用いて試験を行った。試験は、Caco−2細胞にMeHgと、サンプル化合物(SA001〜SA003及びSA005〜SA008のいずれかの化合物)とを添加し、数日間培養した後に、MTT試験により細胞生存率を算出することにより行った。試験は、細胞の培養状態、MeHgとサンプル化合物との投与条件を変えた下記の計5条件により行った。
条件A−1:浮遊、前投与・Washなし
条件A−2:接着、前投与・Washなし
条件B :接着、前投与・Washあり
条件C :浮遊、同時投与
条件D :浮遊、後投与・Washなし
【0087】
条件A−1の試験は、以下のように行った。96 well plateに、Caco-2 細胞を1.5× 10
4 cells/100μL/well 密度となるよう播種した後、サンプル化合物を所定の終濃度となるよう添加して1時間培養した後、MeHgを所定の終濃度となるよう添加して24時間培養し、その後培地交換を行い、さらに24時間培養し、ウェル内へとMTT試薬(ナカライテスク社、品番:23506−80)10μLを添加した後4時間培養を行い、ウェル内へとMTT可溶化液(ナカライテスク社、品番:23506−80)100μLを添加して、570nmの吸光度を測定した。なお、前記培養は全て37℃, 5.0% CO
2条件下で行った。
【0088】
条件A−2の試験は、Caco-2 細胞を播種した後、サンプル化合物を添加する前に24時間培養を行い、細胞をウェルへと接着させた後にサンプル化合物を添加して行った以外は、前記条件A−1と同様の方法により行った。
【0089】
条件Bの試験は、サンプル化合物を添加して1時間培養後、ウェルをリン酸緩衝液により洗浄した後でMeHgを添加して行った以外は、前記条件A−2と同様の方法により行った。
【0090】
条件Cの試験は、Caco-2細胞を播種したのちに、サンプル化合物及びMeHgを同時に添加して行った以外は、前記条件A−1と同様の方法により行った。
【0091】
条件Dの試験は、Caco-2 細胞を播種した後、MeHgを添加して1時間培養した後、サンプル化合物を添加して培養した以外は、前記条件A−1と同様の方法により行った。
【0092】
条件A〜DのMeHgとサンプル化合物との投与条件のタイミングを説明する図を
図1に示す。
【0093】
[試験例1−1:条件A−1]
前記条件A−1の方法でMeHg毒性軽減試験を行った。結果を表中に記載のサンプル化合物の添加濃度ごとに示す。表の横軸は添加したMeHgの濃度を表す。表の縦軸はMTT試験により算出した細胞数を表し、コントロールであるMeHg添加量が0μMでサンプル化合物の添加量が0μMの値を100%とした相対値で示す。
【0094】
本試験において、SA003、SA005、SA006、SA007、及びSA008のサンプル化合物がMeHg毒性軽減効果を有することが示された。結果を
図3に示す。特に、SA003を用いた試験においては、MeHg:1μM,SA003:0.032μM添加条件、MeHg:1μM,SA003:0.32μM添加条件、MeHg:5μM,SA003:0.0032μM添加条件、及びMeHg:5μM,SA003:0.32μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された。SA006を用いた試験においては、MeHg:2.5μM,SA006:2.42μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された。SA007を用いた試験においては、MeHg:5μM,SA007:0.0242μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された。SA008を用いた試験においては、MeHg:5μM,SA007:0.0242μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された。SA008を用いた試験においては、MeHg:2.5μM,SA008:0.283μM添加条件、及びMeHg:2.5μM,SA008:2.83μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された。
【0095】
[試験例1−2:条件C]
前記条件Cの方法でMeHg毒性軽減試験を行った。本試験においてSA001、SA002、及びSA003のサンプル化合物が、MeHg毒性軽減効果を有することが示された。結果を
図4に示す。特に、SA002を用いた試験において、MeHg:1μM,SA002:0.0404μM添加条件、MeHg:1μM,SA002:4.04μM添加条件で有意なMeHg毒性軽効果が示された。
【0096】
[試験例1−3:条件D]
前記条件Dの方法でMeHg毒性軽減試験を行った。本試験において、SA002、及びSA005のサンプル化合物が、MeHg毒性軽減効果を有することが判明した。結果を
図5に示す。特に、SA002を用いた試験において、MeHg:1μM,SA002:0.0404μM添加条件で有意なMeHg毒性軽効果が示された。
【0097】
[試験例1−4:条件A−2]
前記条件A−2の方法でMeHg毒性軽減試験を行った。本試験においてSA001、SA003、SA005、及びSA006のサンプル化合物が、MeHg毒性軽減効果を有することが示された。結果を
図6に示す。特に、SA006を用いた試験において、MeHg:1μM,SA006:0.0242μM添加条件で有意なMeHg毒性軽効果が示された。
【0098】
[試験例1−5:条件B]
前記条件Bの方法でMeHg毒性軽減試験を行った。本試験においてSA001、SA002、SA003、SA005、及びSA006のサンプル化合物が、MeHg毒性軽減効果を有することが示された。結果を
図7に示す。特に、SA003を用いた試験においては、MeHg:1μM,SA003:1μM添加条件で有意なMeHg毒性軽効果が示された。SA005を用いた試験においては、MeHg:1μM,SA005:1μM添加条件、及びMeHg:1μM,SA005:10μM添加条件で、有意なMeHg毒性軽効果が示された。SA006を用いた試験においては、MeHg:5μM,SA006:1μM添加条件で有意なMeHg毒性軽効果が示された。
【0099】
以上の結果から、本試験に用いたサンプル化合物は優れたMeHg毒性軽減効果を有することが示された。
また、上記条件Bにおいて得られた試験結果によれば、MeHg暴露よりも先にサンプル化合物を投与することでもMeHg毒性軽減効果がみられたことから、特にSA001、SA002、SA003、SA005、及びSA006のサンプル化合物が、MeHg中毒の予防効果を有することが示された。
【0100】
《試験例2:マウスでの、サポニン化合物による抗MeHg効果試験》
試験例1において優れたMeHg毒性軽効果を示したサポニン化合物のうち、特に優れたMeHg毒性軽効果を示したSA003を選定し、マウスを用いたMeHg毒性軽効果試験を行った。
【0101】
試験対象としては、NC/Ngaマウス(オス)を用いた。表1に示される量のMeHg、及び40mg/kgのSA003を1回分(1日分)としてマウスへ経口投与し、これを週に5回(週に5日)のペースで4週間行った。これをSA003投与群(SA003[+]群)とする。40mg/kgとは、マウス体重1kgあたり40mgのMeHgをマウスに投与したことを示す。その後マウスを解剖し、肝臓及び腎臓の各臓器の重量の平均と、肝臓、及び腎臓の各臓器、並びにマウス体毛における総水銀蓄積量の平均を求めた(n = 4〜6)。また、比較試験として、表1に示される量のMeHgをマウスへ経口投与し、SA003は投与しない条件でも試験を行った。これをSA003非投与群(SA003[−]群)とする。
なお、本試験では、アトピー性皮膚炎モデルマウスであるNC/Ngaマウスを用い、さらに、試験に用いた全てのマウスにダニ抗原(DA、エル・エス・エル社製、品番:LG5449)を0.2mg/kgを1回分(1日分)として、週に2回(週に2日)投与された条件の下、MeHg及びSA003のMeHg毒性軽減に係る効果を検証したが、健常マウスを用いてダニ抗原の投与を行わなかった場合でも、本試験と同等の結果が得られると期待される。
【0102】
試験例2において測定された肝臓及び腎臓の重量を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1において示されるように、本試験においては、マウスの各臓器重量は、MeHgの暴露濃度の違いによる有意な変化は見られなかった。
【0105】
試験例2において測定された肝臓、腎臓、及びマウス体毛での総水銀蓄積量を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2中の記号は、
*p<0.05 vs.MeHg(0 mg/kg)、
**p<0.01 vs.MeHg(0 mg/kg)、
#p<0.05 vs.SA003[−]、
##p<0.01 vs.SA003[−]であることを示す。
【0108】
表2において示されるように、MeHgおよびSA003を同時に経口投与した群のMeHgの臓器への蓄積は、MeHgのみを経口投与した群に比べて低下した。なかでも、SA003[+]MeHg(0.02mg/kg)群での肝臓及び腎臓中の総水銀濃度は、SA003[−] MeHg (0.02mg/kg)群と比較して特に有意に低下していた。
従って、SA003は、MeHgの臓器への移行性を腸管からの吸収を抑制する、あるいは排出を促進することにより体内へのメチル水銀の蓄積性を低下させ、MeHgを解毒する可能性が示唆された。