【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例の試験を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
(菌糸体肥料の調製)
多孔質担体として、pHが8.2、粒度25メッシュパス、内部表面積が200m
2/gのヤシガラ炭を60重量部用いた。
この多孔質担体にpH8.8、含水率32.9%、炭素率9.6%の鶏糞を25重量部用い、これらを混練した。尚、この鶏糞は、ボリスブラウン(学名 Gallus gallus domesticus)第1群、第2群、第3群(各100羽)の糞を用い、このボリスブラウンは、抗菌性物質を含まない飼料、具体的には、下記表1に示す配合割合の飼料を与えて育てた。
この混練物の醗酵中の温度を測定し、温度の上昇開始時及び混練物の醗酵中の温度が55℃以下になると、系内の空気をポンプにより、醗酵物中に直接供給し、立ち上げ時は一気に温度を上昇させその他は温度を一定に管理した。この醗酵を3日間行なった。これにより、実施例1(第1群、第2群、第3群)の菌糸体肥料を調製した。
尚、醗酵工程を通じて醗酵物系中の温度が80℃以上に上昇することはなかった。
【0033】
【表1】
【0034】
<比較例1>
上記実施例1とは、第4群鶏に与える飼料として、ビコザマイシン等の抗菌性物質を0.6g/kg含む飼料を用いたこと以外は同じ条件で菌糸体肥料の調製を行った。
【0035】
(組成分析)
この醗酵停止後、菌糸体肥料を組成分析したところpH8.9、窒素全量1.65%、リン酸1.18%、カリウム1.08%であった。
【0036】
(菌糸体肥料中の菌の特定)
菌糸体中の菌を確定するために、直径9cm、深さ1.5cmのペトリ皿1〜4を用い、寒天と蒸留水からなる培地を充填し、実施例1の第1群、第2群、第3群の菌糸体粒をそれぞれペトリ皿1〜3に対し20粒均等間隔で接種し、比較例1(第4群)の菌糸体粒をペトリ皿4に対し、20粒均等間隔で接種した。
このペトリ皿を30℃で14日間培養した後、耐熱性放線菌及び耐熱性細菌の菌数を測定した。耐熱性細菌の菌数は、標準寒天平板培養法により測定し、耐熱性放線菌の菌数は、アルブミン寒天平板培養法により測定した。尚、この培養に際し培地は予め120℃、1気圧下で20分間オートクレイブで殺菌した。
この結果、実施例1の菌糸体粒を含む第1群ペトリ皿1は、試料粒1gに対し、耐熱性放線菌は1.0×10
8/g、耐熱性細菌の菌数は8.8×10
8/gであり、第2群ペトリ皿2においては、耐熱性放線菌の菌数は2.6×10
6/g、耐熱性細菌の菌数は1.6×10
5/gであり、第3群ペトリ皿3においては、耐熱性放線菌の菌数は1.9×10
7/g、耐熱性細菌の菌数は3.3×10
6/gであった。
一方、比較例1の菌糸体粒を含む第4群ペトリ皿4は、試料粒1gに対し、耐熱性放線菌の菌数は1.0×10
4/g以下、耐熱性細菌の菌数は1.0×10
1以下であった。
実施例1の第1〜3群の菌糸体肥料のうち耐熱性放線菌としてはラセン状菌が優勢しており、耐熱性細菌としては、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)属が見出された。
また、ペトリ皿1〜4(第1〜4群)には糸状菌も存在し、この糸状菌においてはCladosporium属、Penicillium属、Nigrospora属が見出された。
これらの糸状菌のうちCladosporium属のものとPenicillium属は比較例として用いたヤシガラ活性炭粒のみのペトリ皿からも見られることからこれらは空気中からの混入菌であると考えられ、実質的に実施例1の第1〜3群の菌糸体肥料の菌糸体肥料の微生物群集は耐熱性放線菌及び耐熱性細菌が優勢しているものであった。
次に実施例1の第1群の菌糸体肥料と、対照群として比較例1(第4群)の菌糸体肥料を用いた施用例について記載する。
【0037】
<施用例1:ミニトマトに対する効果確認試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料が、ミニトマトの生育、収量、品質に及ぼす効果を評価した。
【0038】
(2.試験方法)
1.試験場所:野菜花き試験場内パイプハウス(EC1.047mS/cm、pH6.23)
2.供試品目:ミニトマト「千果」(タキイ種苗)
3.試験区の構成:10.5cm(450ml)及び12cm(650ml)ポットへの鉢上げ時、培地容量に対して(1)実施例1の第1群の菌糸体肥料を3%混和、(2)実施例1の第1群の菌糸体肥料を5%混和、(3)比較例1(第4群)の菌糸体肥料を3%混和、1区5株、4往復
4.調査項目および調査方法
・収量調査:平成24年7月20日〜8月24日まで収穫し、長野県青果物等標準出荷規格により規格別に果数と重量を調べた。8g以下の小果および裂果、尻腐れ果などの不良果を規格外とした。
・生育調査:収穫終了時の平成24年8月27〜28日に株ごとに草丈、株元茎径、地上部重を、地下部重は平成24年9月6日に調べた。
・品質調査:1果重は収穫日ごとに調べ、糖度は可販果のうち中庸な良果を選び、デジタル糖度計(アタゴ)で測定した(n=20)。
・日持ち性:平成24年7月27日〜8月17日に可販果のうち中庸な良果を選び、常温保存(最高温度28℃、最低温度13℃)で行い、腐敗までの平均日数を調べた(n=108〜111)。
【0039】
(3.耕種概要)
平成24年4月12日播種、4月26日10.5cm鉢ポット移植(クラスマン培地)、5月31日定植とした。ハウス雨よけ支柱栽培とし、畝幅150cm、株間40cm(1667株/10a)とした。ムシコン黒マルチを用い、定植時のみ灌水した。施肥量は、a当たり基肥で窒素1.5kg、燐酸1.5kg、カリウム1.2kgとし、土壌のECが高かったため、生育中の追肥および灌水は行わなかった。着果ホルモン処理は行わず、第8段花房開花時に直上3葉を残して摘心した。その他栽培管理については当場の慣行によった。
【0040】
(4.結果)
実施例1(第1群)処理区の収量は、比較例1(第4群)処理区対比で植穴処理3%および5%の順に、可販量が107%および111%、可販果数が108%および107%であり、比較例1(第4群)処理区と比べて優れていた。よって、実施例1(第1群)の菌糸体肥料を用いることにより、ミニトマトの収量を向上させることができることがわかる。
実施例1(第1群)処理区の生育は、比較例1(第4群)処理区対比で植穴処理3%および5%の順に、草丈が105%および100%、株元茎径が104%および102%、地上部重が99%および105%、地下部重が109%および108%であり、比較例1(第4群)処理区と比べて優れていた。よって、実施例1(第1群)の菌糸体肥料を用いることにより、ミニトマトの生育を向上させることができることがわかる。特に地下部重の値が大きいと養分を植物体内に吸収し易いため特に好ましいといえる。これは、植物体内へのミネラルの吸収量が増加したことによるものと考えられる。
実施例1(第1群)処理区の日持ち性は、比較例1(第4群)処理区20.7日に対し、植穴処理3%が21.7日、植穴処理5%が22.5日であり、実施例1(第1群)の植穴処理3%および5%は比較例1(第4群)処理区と比べて優れていた。よって、実施例1(第1群)の菌糸体肥料を用いることにより、ミニトマトの日持ち性を向上させることができることがわかる。これは、植物体内へのミネラルの吸収量の増加に加えて、過剰窒素のたんぱく化の向上によるものと考えられる。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
<施用例2:ネギの生育試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料が、ネギの生育、収量、品質に及ぼす効果を評価した。
【0044】
(2.試験方法)
1.試験場所:北陸地方 N生産者
2.供試品目:夏扇パワー
3.土質:砂状土
4.日時:平成23年6月14日定植、平成24年11月19日収穫及び調査
5.使用量:
(1)実施例1(第1群)処理区:250L/10a植え溝施用(定植前)
(2)比較例1(第4群)処理区:250L/10a植え溝施用(定植前)
6.調査:各区とも畝頭より7m地点から連続して20本を抜き取り軟白径及び重量について計測した。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
表
4及び表
5に示すように、比較例1区に比べて実施例1区の方が、軟白径及び重量ともに顕著に優れた値を示した。これは、重量の増加については植物体内へのリン酸の吸収量の向上、軟白径の増加については植物体内へのK、Ca、Mg等のミネラルの吸収量の向上によるものと考えられる。
【0048】
上記施用例2以外にも下記表
6に示す場所及び方法にてネギの生育試験を行った。上記結果と同様に、比較例1区に比べて実施例1区の方が、軟白径及び重量ともに顕著に優れた値を示した。
【0049】
【表6】
【0050】
<施用例3:ニンニクの生育試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料が、ニンニクの生育、収量、品質に及ぼす効果を評価した。
【0051】
(2.試験方法)
1.試験場所:中部地方 T生産者
2.品種:ホワイト六片
3.日時:平成23年10月上旬播種(M種使用) 平成24年6月12日収穫及び調査
4.使用量:
(1)実施例1(第1群)処理区:250L/10a/畝施用
(2)比較例1(第4群)処理区:250L/10a/畝施用
5.調査:各区とも畝頭より5m地点から連続して10株を取り直径(最大径)及び重量について計測した。また、表
9に示すとおり、出荷規格での分類を行った。
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
【表9】
【0055】
表
7−9に示すように、比較例1区と比べて実施例1区の方が、ニンニクの直径(最大径)及び重量ともに優れた値を示した。
【0056】
<施用例4:ブロッコリーの根こぶ病に対する防除効果試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料の、ブロッコリーの根こぶ病に対する防除効果を評価した。
【0057】
(2.試験方法)
1.試験場所
中国地方
2.対象病害虫発生状況
甚発生
3.耕種概要
・品種:ピクセル
・播種:2007年7月30日、育苗トレイ(200穴)で育苗した。
・定植:2007年9月10日、株間33cm、条間0.7mで半自動定植機を用いて植え付けた。施肥、一般管理は、当地慣行秋冬どりブロッコリー栽培基準に従って行った。土寄せは9月20日、および10月16日の合計2回実施した。
4.区制・面積
1区100m
2(10.0m×10m)、420株/区、3連制
5.処理方法
定植前日の2007年9月9日、所定量の薬剤はトラクターのアタッチにグランドソアーを装着して均一に散布した。供試資材は手散布した。散布後に深さ15cmでトラクターによる混和処理した。尚、散布時の降雨の影響はなかった。2008年は同一圃場区で定植当日、9月10日に所定量の薬剤を処理した。資材は散布しなかった。
6.調査月日・方法
2007年9月28日、および10月16日に各区中央の100株について萎凋株の有無を調査した。12月7日の収穫期には、各区中央の50〜200株について根部のこぶの着生を程度別に調査し、発病度を算出した。薬害調査は、萎凋株の調査時に茎葉の薬害の有無を肉眼によって観察した。2008年は9月24日、10月16日、および収穫期の12月29日に調査した。
【0058】
【表10】
【0059】
実施例1(第1群)の菌糸体肥料による全面土壌混和処理は、施用当年、対照薬剤ランマンフロアブル+フロンサイド粉剤およびネビジン粉剤と同等の防除効果が認められた。また、根部生育も無処理区に比べて旺盛であり実用性が高いと考えられる。2年目にも根部発病は見られず、発病抑制の持続効果が認められた。
【0060】
<施用例5:チンゲンサイの栄養吸収量評価試験>
深さ25cmポットにおいてチンゲンサイの栄養吸収量を、比較例1(第4群)処理区、ヤシガラ炭区、実施例1(第1群)処理区について測定した。各区とも表層10cmに化学肥料を施用した。ヤシガラ炭及び実施例1(第1群)の菌糸体肥料は表層3cmに3%混合した。
結果を下記表
11に示す。表
11に示す通り、実施例1区は各栄養素の吸収量が、比較例1区及びヤシガラ炭区に比べて優れていた。この栄養素の吸収量の増加が、農作物の収量、生育、品質及び日持ち性等の向上に大きな影響を与えていると考えられる。
【0061】
【表11】