特許第6324042号(P6324042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6324042
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】菌糸体肥料及びその製法
(51)【国際特許分類】
   C05F 11/08 20060101AFI20180507BHJP
【FI】
   C05F11/08
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-249630(P2013-249630)
(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公開番号】特開2015-105225(P2015-105225A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390016964
【氏名又は名称】株式会社キングコール
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】飯島 隆介
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/019902(WO,A1)
【文献】 特開2002−249389(JP,A)
【文献】 特開2006−169043(JP,A)
【文献】 特開2012−062237(JP,A)
【文献】 特開平01−264987(JP,A)
【文献】 国際公開第99/007226(WO,A1)
【文献】 特開平04−170383(JP,A)
【文献】 特開2002−001260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7.5〜9.5の多孔質担体中に菌糸体を培養及び醗酵させてなる菌糸体肥料であって、該菌糸体が、該菌糸体肥料1gに対し耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計1.0×10/g以上含むことを特徴とする、ネギ(Allium fistulosum)および、ニンニク(Allium sativum)を含むユリ科、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)および、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)を含むアブラナ科または、ミニトマト(Solanum lycopersicum var. cerasiforme)を含むナス科の栽培に施用する菌糸体肥料。
【請求項2】
pHを7.5〜9.5に調製した粒度6〜30メッシュの多孔質担体50〜78重量部を用い、この担体に炭素率15%以下で含水率が25〜60%の有機物を20〜30重量部用いて混練し、この混練物を系内温度15℃以上に維持できる雰囲気中に静置して耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を優勢とする菌糸体を培養、醗酵させ、この培養、醗酵温度をエアレーションにより55〜80℃に維持しながら少なくとも2日間耐熱性放線菌及び耐熱性細菌による醗酵を行う菌糸体肥料の製法であって、前記有機物が抗菌性物質を含まないことを特徴とする、ネギ(Allium fistulosum)および、ニンニク(Allium sativum)を含むユリ科、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)および、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)を含むアブラナ科または、ミニトマト(Solanum lycopersicum var. cerasiforme)を含むナス科の栽培に施用する菌糸体肥料の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質担体中に耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を優勢とする菌糸体を培養及び醗酵させてなる菌糸体肥料及びその製法に関し、詳しくは、野菜や果物等の農作物や植物の収量、生育、品質及び日持ち性等をより向上させることができる菌糸体肥料及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より行なわれている農作物に対する除草剤、殺菌剤等の散布、或いは化学肥料の多用化に伴って土中微生物は減少し、この結果地力の低下や各種作物の病弱化、或いは環境汚染という問題が近年強く重要視されている。
この対策としては堆肥等の有機肥料を用いて土壌有効微生物の活性化をはかる動きが各地で行なわれている。
【0003】
しかしながらこれら従来における土中有効微生物を利用した有機肥料は予めバチルス層や放線菌等の菌株を植菌して得た培養物を担体に混合して得られるものであり、これら技術においては微生物培養液を得るため特定微生物の菌株を保存機関等からの分譲によって賄わなければならないため生産コスト性、或いは予め培養物を得るという煩雑さを伴うものであった。
【0004】
そこで本発明者はこれら欠点を解消する優れた「菌糸体肥料」を特許文献1にて既に開示している。
特許文献1記載の技術は、耐熱放線菌からなる菌糸体であって、この菌糸体がpH7.5〜9.5の多孔質担体に担持されてなる菌糸体肥料とこの菌糸体を製造するための方法で、pH7.5〜9.5で粒度6〜30メッシュの多孔質担体を70〜80重量部用い、この担体に炭素率15%以下で含水率が25〜60%の有機物を20〜30重量部用いて混練し、この混練物を系内温度15℃以上に維持できる雰囲気中に静置して醗酵させ、この醗酵温度をエアレーションにより55〜80℃に維持しながら少なくとも5日間醗酵させることからなる菌糸体肥料の製法であった。
【0005】
さらに本発明者は、特許文献1に記載の菌糸体肥料に比してより生産性に優れる菌糸体肥料を特許文献2に開示している。
特許文献2記載の技術は、耐熱放線菌からなる菌糸体であって、この菌糸体がpHを7.5〜9.5に調製した粒度6〜30メッシュの多孔質担体50〜78重量部を用い、この担体に炭素率15%以下で含水率が25〜60%の有機物を20〜30重量部及び木材を乾留して得られる粗木酢液からタール分・樹脂成分を分離した精製木酢液2〜20重量部を用いて混練し、この混練物を系内温度15℃以上に維持できる雰囲気中に静置して耐熱性放線菌を優勢とする菌糸体を培養、醗酵させ、この培養、醗酵温度をエアレーションにより55〜80℃に維持しながら少なくとも2日間耐熱性放線菌による醗酵を行なうことを特徴とする菌糸体肥料の製法であった。
【0006】
発明者のこれら既開示技術は成程優れた菌糸体肥料であるが、より一層生産性に極めて優れた、且つ有害性のない土壌及び植物の成長に効果的に寄与する土壌改良剤、肥料等の改良技術の創出が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−264987号公報
【特許文献2】特公平7−47516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、野菜や果物等の農作物や植物の収量、生育、品質及び日持ち性を向上させることができる菌糸体肥料及びその製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、pH7.5〜9.5の多孔質担体中に菌糸体を培養及び醗酵させてなる菌糸体肥料であって、該菌糸体が、該菌糸体肥料1gに対し耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計1.0×10/g以上含むことを特徴とする、ネギ(Allium fistulosum)および、ニンニク(Allium sativum)を含むユリ科、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)および、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)を含むアブラナ科または、ミニトマト(Solanum lycopersicum var. cerasiforme)を含むナス科の栽培に施用する菌糸体肥料に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、pHを7.5〜9.5に調製した粒度6〜30メッシュの多孔質担体50〜78重量部を用い、この担体に炭素率15%以下で含水率が25〜60%の有機物を20〜30重量部用いて混練し、この混練物を系内温度15℃以上に維持できる雰囲気中に静置して耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を優勢とする菌糸体を培養、醗酵させ、この培養、醗酵温度をエアレーションにより55〜80℃に維持しながら少なくとも2日間耐熱性放線菌及び耐熱性細菌による醗酵を行う菌糸体肥料の製法であって、前記有機物が抗菌性物質を含まないことを特徴とする、ネギ(Allium fistulosum)および、ニンニク(Allium sativum)を含むユリ科、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)および、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)を含むアブラナ科または、ミニトマト(Solanum lycopersicum var. cerasiforme)を含むナス科の栽培に施用する菌糸体肥料の製法に関する。


【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、pH7.5〜9.5の多孔質担体中に菌糸体を培養及び醗酵させてなる菌糸体肥料であって、該菌糸体が、該菌糸体肥料1gに対し耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計1.0×10/g以上含むことにより、土壌中のミネラルやリン酸を植物体内へ吸収し易くすることができ、これらの吸収量を向上させることができる。これにより、植物の収量、生育、品質及び日持ち性をより向上させることができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、pHを7.5〜9.5に調製した粒度6〜30メッシュの多孔質担体50〜78重量部を用い、この担体に炭素率15%以下で含水率が25〜60%の有機物を20〜30重量部用いて混練し、この混練物を系内温度15℃以上に維持できる雰囲気中に静置して耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を優勢とする菌糸体を培養、醗酵させ、この培養、醗酵温度をエアレーションにより55〜80℃に維持しながら少なくとも2日間耐熱性放線菌及び耐熱性細菌による醗酵を行う製法において、有機物が抗菌性物質を含まないことにより、菌糸体肥料1gに対し耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計10コロニー以上含む菌糸体肥料を製造することができる。これにより、土壌中のミネラルやリン酸を植物体内へ吸収し易くすることができ、これらの吸収量を向上させることができる。これにより、植物の収量、生育、品質及び日持ち性をより向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る菌糸体肥料及びその製法の好適な実施形態について説明する。
【0014】
本発明に係る菌糸体肥料は、pH7.5〜9.5の多孔質担体中に菌糸体を培養及び醗酵させてなり、菌糸体が菌糸体肥料1gに対し耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計1.0×10/g以上含んでいる。
【0015】
本発明における耐熱性放線菌とは、特に高温55〜80℃で生育できる耐熱性放線菌でラセン状菌等をいい、サーモアクチノミセス(Thermoactinomyces)属菌を好適に使用することができる。なかでも、例えばThermoactinomyces vulgaris、Thermoactinomyces spora actinobifida(white)等を好適に使用することができる。
本発明において、上記耐熱性放線菌を使用する理由は、この発明者が特開平1-264987号で開示した如く、耐熱性放線菌には植物に有害な作用を与える有害菌が極めて少なく、しかも耐熱性放線菌の代謝生産物中に含有される植物成長ホルモン、各種ビタミン、及び耐熱性放線菌自身の分解物が窒素供給源、あるいは栄養源として土壌中で効果を発揮して作物の生長に寄与するからである。
【0016】
本発明における耐熱性細菌とは、55〜80℃の高温で生育できる細菌のことをいい、枯草菌(Bacillus subtilis)等を好適に使用することができる。
本発明において、上記耐熱性細菌を使用する理由は、上記耐熱性細菌は作物の残根等の腐植物(有機物)等を分解する能力があり、さらに有害菌の生育を阻害する効果を奏するからである。
【0017】
本発明で用いられる耐熱性放線菌と耐熱性細菌は、55〜80℃の温度域で、好ましくは60〜75℃の温度域で生育する耐熱性放線菌と耐熱性細菌であることが好ましい。生育温度が55℃未満であると糸状菌等の雑菌が増殖するため、80℃を超えると耐熱性放線菌の活動が衰え、増殖が止まるため、いずれの場合も好ましくない。
【0018】
菌糸体が菌糸体肥料1gに対し上記耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計1.0×10/g以上含んでいることにより、土壌中に含まれるリン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等のミネラルやリン酸の植物体内への吸収を向上させることができる。これにより、果実の甘味が増すとともに、果実の日持ち性を向上させることができる。さらに、植物の生育を向上させることができるとともに、野菜や果物の収量及び品質を向上させることができる。
【0019】
多孔質担体は、耐熱性放線菌及び耐熱性細菌の生育を有効的に行なうためそのpHを7.5〜9.5、望ましくは8〜9に調製する。
多孔質担体のpHを7.5〜9.5に調製することによって、糸状菌等の菌の生育を防止できるとともに、菌糸体肥料中の耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を一定量に維持可能となる。
【0020】
本発明において担体を多孔質担体に限定する理由は、菌糸体肥料の貯蔵中、或いは土壌施用時に耐熱性放線菌の生育必須成分である水と空気を保持するためである。
係る多孔質担体の具体例としては、pHが7.5〜9.5に維持できるものであれば、有機質、無機質のいずれの多孔質担体も使用できる。本発明において使用できる多孔質担体を例示すると、木炭、活性炭、石炭、コークス、活性コークス、泥炭、バームキュライト、パーライト、ベントナイト、発泡性ウレタン等の無機質、有機質、合成樹脂等の発泡体が例示できる。
【0021】
本発明に係る菌糸体は、耐熱性放線菌及び耐熱性細菌が菌糸体中の微生物群集として10%以上を占めるものが望ましいが、少なくとも微生物群集として50%以上が耐熱性放線菌及び耐熱性細菌である菌糸体がより望ましい。
その理由は50%未満の耐熱性放線菌及び耐熱性細菌である場合には、有害菌である細菌、或いは糸状菌の繁殖が土壌施用後に発生し悪影響を及ぼすことがあり、少なくとも菌糸体中の微生物群集中50%以上が耐熱性放線菌及び耐熱性細菌である場合に土壌施用後に耐熱性放線菌及び耐熱性細菌の優勢繁殖が確保でき、この発明の所期の目的は達成できるからである。
【0022】
次に本発明に係る菌糸体肥料の好適な製造法について詳述する。
【0023】
まず、pH7.5〜9.5で粒度6〜30メッシュの多孔質担体に、炭素率15%以下で含水率が25〜30重量部の有機物を20〜30重量部用いて混練する。
【0024】
多孔質担体は、前述の如く耐熱性放線菌及び耐熱性細菌の好適な生育pH域を菌糸体肥料の製造中及び保存中に確保するため、そのpH域を7.5〜9.5と限定する。多孔質担体のpH域を限定することによってアルカリ性条件下で生育しにくい糸状菌等の有害菌の繁殖を阻むという効果をも奏する。
この多孔質担体はその粒度を6〜30メッシュとする必要がある。その理由は、後期醗酵の際に、30メッシュを超える細かい多孔質担体の場合には、醗酵温度を40℃以上に維持することが難しく耐熱性放線菌及び耐熱性細菌の充分な生育が望めず、逆に6メッシュ未満の粒度が大きい多孔質担体においては製造時の取扱いの煩雑性があり望ましくないからである。
【0025】
本発明においては、多孔質担体に、特開平1−264987号で開示した技術に準じて炭素率15%以下で含水率が25〜60%の有機物を20〜30重量部用いて混練する。炭素率を15%以下の有機物と限定する理由は、炭素率が15%を超える有機物の場合には繊維質セルロース系の含有物が多くなり、その結果セルラーゼの所用量が多くなり放線菌中セルラーゼの生育が優勢となり、この発明の所期の目的を達成できないというこの発明者の実験的知見によるものである。また有機物の含水率を25〜60%と限定する理由は、混練物の醗酵系の水分が有機物からのみ供給されるとともに醗酵物系の水分が25〜60%好ましくは30〜40%ないと、充分な耐熱性放線菌の醗酵温度が得られないからである。逆に醗酵物系に60%を超える含水率の場合や25%未満の場合にはいずれも耐熱性放線菌を醗酵させる充分な醗酵条件が得られず好ましくないからである。
さらに有機物を20〜30重量部使用する理由は、20重量部未満の場合は有機物の量が少なすぎて各担体に対する菌糸体の生長が小さく、各多孔質担体に対して均一に分散して菌糸体が付着せず、逆に30重量部を超えて配合した場合には、菌糸体と多孔質担体との配合バランスがくずれ菌糸体が過剰になったり有機物の未分解率が多くなったり、いずれの場合も好ましくないからである。
【0026】
本発明において、有機物は、抗菌性物質を含まないものを使用する。有機物としては鶏糞等を用いることができるが、このとき、抗菌性物質を含まない飼料を与えた鶏の糞を用いる。一般に抗菌性物質には抗生物質や合成抗菌剤が含まれ、抗生物質としては、アミノグリコシド系、セフィム系、テトラサイクリン系、ペニシリン系、マクロライド系が挙げられ、抗菌性物質としては、キノロン系、スルフォンアミド系、チアンフェニコール系、フルオロキノロン系が挙げられるが、本発明において鶏に与える飼料はこれら抗菌性物質を含まない。
これら抗生物質や合成抗菌剤等の抗菌性物質を含まない飼料を与えた鶏の糞を用いることにより、耐熱性放線菌に加えて耐熱性細菌の生育が促進され、菌糸体が菌糸体肥料1gに対し耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を合計1.0×10/g以上含む菌糸体肥料を製造することができる。
本発明において用いる鶏糞の鶏名としては、例えばボリスブラウン(別名 赤玉鶏、学名 Gallus gallus domesticus)を挙げることができるがこれに限定されず、家畜用鶏であれば全てよい。鶏に与える飼料(抗菌性物質を含まない飼料)としては、穀類50〜60%、植物性油かす10〜20%、動物質性飼料5〜10%、そうこう類などからなる配合飼料を挙げることができ、例えば、イーテン17(日清丸紅飼料)を挙げることができる。
【0027】
次いでこの混練物を、系内温度15℃以上に維持できる雰囲気内に静置する。
その理由は、系内温度と外気温とを遮蔽し、一定の保温状態を保つことにより醗酵の均一性を保持するためである。この温度が15℃以下の場合には、醗酵温度が十分に上昇せず好ましくない。
【0028】
系内温度を一定にし外気温と遮断した後、醗酵物系の温度を55〜80℃、望ましくは60〜70℃に維持する。
醗酵温度が55℃以下の場合には、醗酵を促進するために系内の15℃以上に維持された空気を一定時間醗酵槽の底面部等より付設されたパイプやポンプを通して送りこみ(エアレーション)醗酵温度を55〜80℃に維持するが、セルロース含量が炭素率15%以下の有機物を使用するとして制限され、しかも多孔質担体が多量に混合されている含水率が制限されているという理由で80℃以上に醗酵温度が上昇することは実際上おこり得ない。
【0029】
この状態で少なくとも2日間醗酵することによりpH7.5〜9.5の多孔質担体中に耐熱性放線菌及び耐熱性細菌を培養、醗酵させてなることを特徴とする菌糸体肥料が製造される。
本発明において、醗酵期間は少なくとも2日間、望ましくは5日間とするのが望ましい。
尚、醗酵温度を55〜80℃に維持する理由は55℃未満では耐熱性放線菌及び耐熱性細菌が所期の目的の如く菌糸体群集中の割合で得られず、逆に80℃を超える場合においては嫌気性菌が生育するため、結局いずれの場合も望ましくないからである。
【0030】
本発明においては、前述の如く炭素率15%以下の有機物を20〜30重量部用いること、この有機物の含水率を25〜60%と限定すること、更に多孔質担体を50〜78重量部用い、且つ粒度を6〜30メッシュとすることによって醗酵温度が80℃以上になることがない。
従って、通常の醗酵工程で行なわれる水を醗酵物にかけて醗酵温度を下げるいわゆる切り返し工程がなくとも80℃以上に醗酵温度が上昇することがない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例の試験を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
(菌糸体肥料の調製)
多孔質担体として、pHが8.2、粒度25メッシュパス、内部表面積が200m/gのヤシガラ炭を60重量部用いた。
この多孔質担体にpH8.8、含水率32.9%、炭素率9.6%の鶏糞を25重量部用い、これらを混練した。尚、この鶏糞は、ボリスブラウン(学名 Gallus gallus domesticus)第1群、第2群、第3群(各100羽)の糞を用い、このボリスブラウンは、抗菌性物質を含まない飼料、具体的には、下記表1に示す配合割合の飼料を与えて育てた。
この混練物の醗酵中の温度を測定し、温度の上昇開始時及び混練物の醗酵中の温度が55℃以下になると、系内の空気をポンプにより、醗酵物中に直接供給し、立ち上げ時は一気に温度を上昇させその他は温度を一定に管理した。この醗酵を3日間行なった。これにより、実施例1(第1群、第2群、第3群)の菌糸体肥料を調製した。
尚、醗酵工程を通じて醗酵物系中の温度が80℃以上に上昇することはなかった。
【0033】
【表1】
【0034】
<比較例1>
上記実施例1とは、第4群鶏に与える飼料として、ビコザマイシン等の抗菌性物質を0.6g/kg含む飼料を用いたこと以外は同じ条件で菌糸体肥料の調製を行った。
【0035】
(組成分析)
この醗酵停止後、菌糸体肥料を組成分析したところpH8.9、窒素全量1.65%、リン酸1.18%、カリウム1.08%であった。
【0036】
(菌糸体肥料中の菌の特定)
菌糸体中の菌を確定するために、直径9cm、深さ1.5cmのペトリ皿1〜4を用い、寒天と蒸留水からなる培地を充填し、実施例1の第1群、第2群、第3群の菌糸体粒をそれぞれペトリ皿1〜3に対し20粒均等間隔で接種し、比較例1(第4群)の菌糸体粒をペトリ皿4に対し、20粒均等間隔で接種した。
このペトリ皿を30℃で14日間培養した後、耐熱性放線菌及び耐熱性細菌の菌数を測定した。耐熱性細菌の菌数は、標準寒天平板培養法により測定し、耐熱性放線菌の菌数は、アルブミン寒天平板培養法により測定した。尚、この培養に際し培地は予め120℃、1気圧下で20分間オートクレイブで殺菌した。
この結果、実施例1の菌糸体粒を含む第1群ペトリ皿1は、試料粒1gに対し、耐熱性放線菌は1.0×10/g、耐熱性細菌の菌数は8.8×10/gであり、第2群ペトリ皿2においては、耐熱性放線菌の菌数は2.6×10/g、耐熱性細菌の菌数は1.6×10/gであり、第3群ペトリ皿3においては、耐熱性放線菌の菌数は1.9×10/g、耐熱性細菌の菌数は3.3×10/gであった。
一方、比較例1の菌糸体粒を含む第4群ペトリ皿4は、試料粒1gに対し、耐熱性放線菌の菌数は1.0×10/g以下、耐熱性細菌の菌数は1.0×10以下であった。
実施例1の第1〜3群の菌糸体肥料のうち耐熱性放線菌としてはラセン状菌が優勢しており、耐熱性細菌としては、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)属が見出された。
また、ペトリ皿1〜4(第1〜4群)には糸状菌も存在し、この糸状菌においてはCladosporium属、Penicillium属、Nigrospora属が見出された。
これらの糸状菌のうちCladosporium属のものとPenicillium属は比較例として用いたヤシガラ活性炭粒のみのペトリ皿からも見られることからこれらは空気中からの混入菌であると考えられ、実質的に実施例1の第1〜3群の菌糸体肥料の菌糸体肥料の微生物群集は耐熱性放線菌及び耐熱性細菌が優勢しているものであった。
次に実施例1の第1群の菌糸体肥料と、対照群として比較例1(第4群)の菌糸体肥料を用いた施用例について記載する。
【0037】
<施用例1:ミニトマトに対する効果確認試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料が、ミニトマトの生育、収量、品質に及ぼす効果を評価した。
【0038】
(2.試験方法)
1.試験場所:野菜花き試験場内パイプハウス(EC1.047mS/cm、pH6.23)
2.供試品目:ミニトマト「千果」(タキイ種苗)
3.試験区の構成:10.5cm(450ml)及び12cm(650ml)ポットへの鉢上げ時、培地容量に対して(1)実施例1の第1群の菌糸体肥料を3%混和、(2)実施例1の第1群の菌糸体肥料を5%混和、(3)比較例1(第4群)の菌糸体肥料を3%混和、1区5株、4往復
4.調査項目および調査方法
・収量調査:平成24年7月20日〜8月24日まで収穫し、長野県青果物等標準出荷規格により規格別に果数と重量を調べた。8g以下の小果および裂果、尻腐れ果などの不良果を規格外とした。
・生育調査:収穫終了時の平成24年8月27〜28日に株ごとに草丈、株元茎径、地上部重を、地下部重は平成24年9月6日に調べた。
・品質調査:1果重は収穫日ごとに調べ、糖度は可販果のうち中庸な良果を選び、デジタル糖度計(アタゴ)で測定した(n=20)。
・日持ち性:平成24年7月27日〜8月17日に可販果のうち中庸な良果を選び、常温保存(最高温度28℃、最低温度13℃)で行い、腐敗までの平均日数を調べた(n=108〜111)。
【0039】
(3.耕種概要)
平成24年4月12日播種、4月26日10.5cm鉢ポット移植(クラスマン培地)、5月31日定植とした。ハウス雨よけ支柱栽培とし、畝幅150cm、株間40cm(1667株/10a)とした。ムシコン黒マルチを用い、定植時のみ灌水した。施肥量は、a当たり基肥で窒素1.5kg、燐酸1.5kg、カリウム1.2kgとし、土壌のECが高かったため、生育中の追肥および灌水は行わなかった。着果ホルモン処理は行わず、第8段花房開花時に直上3葉を残して摘心した。その他栽培管理については当場の慣行によった。
【0040】
(4.結果)
実施例1(第1群)処理区の収量は、比較例1(第4群)処理区対比で植穴処理3%および5%の順に、可販量が107%および111%、可販果数が108%および107%であり、比較例1(第4群)処理区と比べて優れていた。よって、実施例1(第1群)の菌糸体肥料を用いることにより、ミニトマトの収量を向上させることができることがわかる。
実施例1(第1群)処理区の生育は、比較例1(第4群)処理区対比で植穴処理3%および5%の順に、草丈が105%および100%、株元茎径が104%および102%、地上部重が99%および105%、地下部重が109%および108%であり、比較例1(第4群)処理区と比べて優れていた。よって、実施例1(第1群)の菌糸体肥料を用いることにより、ミニトマトの生育を向上させることができることがわかる。特に地下部重の値が大きいと養分を植物体内に吸収し易いため特に好ましいといえる。これは、植物体内へのミネラルの吸収量が増加したことによるものと考えられる。
実施例1(第1群)処理区の日持ち性は、比較例1(第4群)処理区20.7日に対し、植穴処理3%が21.7日、植穴処理5%が22.5日であり、実施例1(第1群)の植穴処理3%および5%は比較例1(第4群)処理区と比べて優れていた。よって、実施例1(第1群)の菌糸体肥料を用いることにより、ミニトマトの日持ち性を向上させることができることがわかる。これは、植物体内へのミネラルの吸収量の増加に加えて、過剰窒素のたんぱく化の向上によるものと考えられる。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
<施用例2:ネギの生育試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料が、ネギの生育、収量、品質に及ぼす効果を評価した。
【0044】
(2.試験方法)
1.試験場所:北陸地方 N生産者
2.供試品目:夏扇パワー
3.土質:砂状土
4.日時:平成23年6月14日定植、平成24年11月19日収穫及び調査
5.使用量:
(1)実施例1(第1群)処理区:250L/10a植え溝施用(定植前)
(2)比較例1(第4群)処理区:250L/10a植え溝施用(定植前)
6.調査:各区とも畝頭より7m地点から連続して20本を抜き取り軟白径及び重量について計測した。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
及び表に示すように、比較例1区に比べて実施例1区の方が、軟白径及び重量ともに顕著に優れた値を示した。これは、重量の増加については植物体内へのリン酸の吸収量の向上、軟白径の増加については植物体内へのK、Ca、Mg等のミネラルの吸収量の向上によるものと考えられる。
【0048】
上記施用例2以外にも下記表に示す場所及び方法にてネギの生育試験を行った。上記結果と同様に、比較例1区に比べて実施例1区の方が、軟白径及び重量ともに顕著に優れた値を示した。
【0049】
【表6】
【0050】
<施用例3:ニンニクの生育試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料が、ニンニクの生育、収量、品質に及ぼす効果を評価した。
【0051】
(2.試験方法)
1.試験場所:中部地方 T生産者
2.品種:ホワイト六片
3.日時:平成23年10月上旬播種(M種使用) 平成24年6月12日収穫及び調査
4.使用量:
(1)実施例1(第1群)処理区:250L/10a/畝施用
(2)比較例1(第4群)処理区:250L/10a/畝施用
5.調査:各区とも畝頭より5m地点から連続して10株を取り直径(最大径)及び重量について計測した。また、表に示すとおり、出荷規格での分類を行った。
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
【表9】
【0055】
7−9に示すように、比較例1区と比べて実施例1区の方が、ニンニクの直径(最大径)及び重量ともに優れた値を示した。
【0056】
<施用例4:ブロッコリーの根こぶ病に対する防除効果試験>
(1.目的)
実施例1(第1群)の菌糸体肥料の、ブロッコリーの根こぶ病に対する防除効果を評価した。
【0057】
(2.試験方法)
1.試験場所
中国地方
2.対象病害虫発生状況
甚発生
3.耕種概要
・品種:ピクセル
・播種:2007年7月30日、育苗トレイ(200穴)で育苗した。
・定植:2007年9月10日、株間33cm、条間0.7mで半自動定植機を用いて植え付けた。施肥、一般管理は、当地慣行秋冬どりブロッコリー栽培基準に従って行った。土寄せは9月20日、および10月16日の合計2回実施した。
4.区制・面積
1区100m(10.0m×10m)、420株/区、3連制
5.処理方法
定植前日の2007年9月9日、所定量の薬剤はトラクターのアタッチにグランドソアーを装着して均一に散布した。供試資材は手散布した。散布後に深さ15cmでトラクターによる混和処理した。尚、散布時の降雨の影響はなかった。2008年は同一圃場区で定植当日、9月10日に所定量の薬剤を処理した。資材は散布しなかった。
6.調査月日・方法
2007年9月28日、および10月16日に各区中央の100株について萎凋株の有無を調査した。12月7日の収穫期には、各区中央の50〜200株について根部のこぶの着生を程度別に調査し、発病度を算出した。薬害調査は、萎凋株の調査時に茎葉の薬害の有無を肉眼によって観察した。2008年は9月24日、10月16日、および収穫期の12月29日に調査した。
【0058】
【表10】
【0059】
実施例1(第1群)の菌糸体肥料による全面土壌混和処理は、施用当年、対照薬剤ランマンフロアブル+フロンサイド粉剤およびネビジン粉剤と同等の防除効果が認められた。また、根部生育も無処理区に比べて旺盛であり実用性が高いと考えられる。2年目にも根部発病は見られず、発病抑制の持続効果が認められた。
【0060】
<施用例5:チンゲンサイの栄養吸収量評価試験>
深さ25cmポットにおいてチンゲンサイの栄養吸収量を、比較例1(第4群)処理区、ヤシガラ炭区、実施例1(第1群)処理区について測定した。各区とも表層10cmに化学肥料を施用した。ヤシガラ炭及び実施例1(第1群)の菌糸体肥料は表層3cmに3%混合した。
結果を下記表11に示す。表11に示す通り、実施例1区は各栄養素の吸収量が、比較例1区及びヤシガラ炭区に比べて優れていた。この栄養素の吸収量の増加が、農作物の収量、生育、品質及び日持ち性等の向上に大きな影響を与えていると考えられる。

【0061】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、野菜や果物等の農作物や植物の収量、生育、品質及び日持ち性等を向上させることができる菌糸体肥料として好適に使用することができる。