(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の多孔質膜は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載のアルカリ水電解用隔膜。
前記第1の多孔質膜及び/又は前記第2の多孔質膜は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項4に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は、多孔性支持体と、多孔性支持体の第1の主面上に積層された第1の多孔質膜と、第1の多孔質膜における多孔性支持体と接触していない主面上に積層された、無機微粒子及びイオン交換樹脂を含有する第1の混合層と、を有し、第1の混合層が、無機微粒子を10重量%以上97重量%以下、及び、イオン交換樹脂を3重量%以上90重量%以下含む、アルカリ水電解用隔膜である。
【0017】
図1は、本実施形態に係る第1の多孔質膜及び第1の混合層を有するアルカリ水電解用隔膜の断面図である。
図1に示すように、アルカリ水電解用隔膜10は、多孔性支持体2と、多孔性支持体2の第1の主面A1上に積層された第1の多孔質膜1と、第1の多孔質膜1における多孔性支持体2と接触していない主面B上に積層された、無機微粒子及びイオン交換樹脂を含有する第1の混合層3と、を有している。
【0018】
図2は、さらに第2の多孔質膜を有するアルカリ水電解用隔膜の断面図である。
図2に示すように、アルカリ水電解用隔膜10bは、多孔性支持体2と、多孔性支持体2の第1の主面A1上に積層された第1の多孔質膜1aと、第1の多孔質膜1aにおける多孔性支持体2と接触していない主面B上に積層された、無機微粒子及びイオン交換樹脂を含有する第1の混合層3とを有し、さらに多孔性支持体2の第2の主面A2上に積層された第2の多孔質膜1bを有している。
【0019】
図3は、さらに第2の混合層を有するアルカリ水電解用隔膜の断面図である。
図3に示すように、アルカリ水電解用隔膜10cは、多孔性支持体2と、多孔性支持体2の第1の主面A1上に積層された第1の多孔質膜1aと、第1の多孔質膜1aにおける多孔性支持体と接触していない主面B上に積層された、無機微粒子及びイオン交換樹脂を含有する第1の混合層3aとを有し、さらに多孔性支持体2の第1の主面A1に対向する第2の主面A2上に積層された第2の多孔質膜1bと、第2の多孔質膜1bにおける多孔性支持体2と接触していない主面C上に積層された、無機微粒子及びイオン交換樹脂を含有する第2の混合層3bを有している。
【0020】
以下、本実施形態のアルカリ水電解用隔膜の各構成についてより詳細に説明するが、第1の多孔質膜1aと第2の多孔質膜1bは「多孔質膜」、第1の混合層3aと第2の混合層3bは「混合層」として説明する場合がある。
【0021】
なお、第1の多孔質膜1aと第2の多孔質膜1bの厚み、平均孔径、膜厚み方向における孔径の傾斜パターンは、多孔性支持体2を中心として、対称であってもよく、非対称であってもよい。また、第1の混合層3aと第2の混合層3bも、厚みなどについて多孔性支持体2を中心として、対称であってもよく、非対称であってもよい。また、第1の多孔質膜1aと第2の多孔質膜1b、第1の混合層3aと第2の混合層3bは、互いに組成が同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
(無機微粒子)
無機微粒子としては、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物、周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の無機物を含むことが好ましい。より好ましくは、耐久性の観点から、酸化ジルコニウムの粒子である。
【0023】
無機微粒子の平均粒子径は、例えば0.3μm〜5μmであることが好ましい。無機微粒子の平均粒子径が0.3μm以上であると、無機微粒子及びイオン混合樹脂の混合液の粘度が高くなり過ぎず、塗工の際に斑の発生を抑制しやすい傾向にある。無機微粒子の平均粒子径が5μm以下であれば、無機微粒子が多孔質膜上から欠落すること、無機微粒子によって多孔質膜が損傷すること等を防止しやすい傾向にある。
【0024】
ここで、無機微粒子の平均粒子径は、粒度分布計(例えば「SALD2200」島津製作所)によって測定することができる。
【0025】
(イオン交換樹脂)
イオン交換樹脂は、無機微粒子を多孔質膜表面に保持して、混合層を成す成分である。イオン交換樹脂は、電解液や電解による生成物への耐性の観点から、含フッ素系重合体を含むことが好ましく、パーフルオロイオン交換樹脂が好ましい。
【0026】
イオン交換樹脂は、例えばイオン交換基を有する含フッ素系重合体が好ましい。イオン交換樹脂は、加水分解等によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体から得ることができる。具体的なイオン交換樹脂としては、例えば、主鎖がフッ素化炭化水素からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な基(イオン交換基前駆体)をペンダント側鎖として有する樹脂がある。
【0027】
含フッ素重合体は、例えば、下記第1群より選ばれる少なくとも一種の単量体と、下記第2群より選ばれる少なくとも一種の単量体と、を共重合することにより製造することができる。また、下記第1群、下記第2群のいずれかにより選ばれる1種の単量体の単独重合により製造することもできる。
【0028】
第1群の単量体としては、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。特に、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が好ましい。
【0029】
第2群の単量体としては、例えば、スルホン型イオン交換基(スルホン酸基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン酸基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF
2=CFO−X−CF
2−SO
2Fで表される単量体が好ましい(ここで、Xはパーフルオロアルキレン基を表す。)。これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる。
・CF
2=CFOCF
2CF
2SO
2F
・CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2F
・CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F
・CF
2=CF(CF
2)SO
2F
・CF
2=CFO〔CF
2CF(CF
3)O〕
2CF
2CF
2SO
2F
・CF
2=CFOCF
2CF(CF
2OCF
3)OCF
2CF
2SO
2F
【0030】
これらの中でも、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、及びCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fを用いることがより好ましい。
【0031】
これら単量体から得られる共重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された重合法、特にテトラフルオロエチレンに対して用いられる一般的な重合方法によって製造することができる。例えば、非水性法においては、パーフルオロ炭化水素、クロロフルオロカーボン等の不活性溶媒を用い、パーフルオロカーボンパーオキサイドやアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下、温度0℃〜200℃、圧力0.1MPa〜20MPaの条件下で、重合反応を行うことにより共重合体を得られる。
【0032】
上記共重合において、上記単量体の組み合わせの種類及びその割合は、特に限定されず、得られる含フッ素系重合体に付与したい官能基の種類及び量によって選択、決定される。例えば、スルホン酸基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第2群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。
【0033】
含フッ素系共重合体の総イオン交換容量は特に限定されないが、0.5mg当量/g〜2.0mg当量/gであることが好ましい。ここで、総イオン交換容量とは、乾燥樹脂の単位重量あたりの交換基の当量のことをいい、中和滴定等によって測定することができる。
【0034】
(混合層の形成方法)
混合層中の無機微粒子の含有量は、第1の混合層では10重量%〜97重量%であり、好ましくは30重量%〜97重量%である。無機微粒子の含有量が10重量%以上である場合、アルカリ水電解用隔膜表面への泡付着を抑制できる。また、無機微粒子の含有量が97重量%以下である場合、結着剤であるイオン交換樹脂が少なくなることで無機微粒子間の結着性が不十分となることを抑制できるため、電解中に無機微粒子が多孔質膜上から欠落するのを抑制できる。また、第2の混合層では、無機微粒子の含有量が10重量%〜97重量%であることが好ましく、30重量%〜97重量%であることがより好ましい。
【0035】
アルカリ水電解用隔膜における、混合層の単位面積あたりの重量は、0.01mg〜5mg/cm
2であることが好ましい。混合層の単位面積あたりの重量が5mg/cm
2以下であれば、無機微粒子とイオン交換樹脂によりイオン透過性が妨げられないため、アルカリ水電解用隔膜による電圧損失が高くなりにくい傾向にある。混合層の単位面積あたりの重量が0.01mg/cm
2以上であれば、アルカリ水電解用隔膜への泡の付着を十分に抑えやすい傾向にある。さらに、混合層により多孔質膜表面の孔を覆うことで、発生した酸素、水素が孔の中に入り込み、イオン透過性を妨げること及びホットスポットの発生を抑制できる。
【0036】
混合層は、無機微粒子と、イオン交換樹脂とを含む混合溶液を調整し、混合溶液を多孔質膜の表面に塗布及び乾燥させることで、形成することができる。
【0037】
イオン交換樹脂としては、イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び水酸化カリウム(KOH)を含む水溶液で加水分解した後、塩酸に浸漬してイオン交換基の対イオンをH
+に置換したイオン交換樹脂(スルホン酸基を有する含フッ素系重合体)が好ましい。それによって、後述する水やエタノールに溶解しやすくなるため、好ましい。
【0038】
このイオン交換樹脂を、水とエタノールとを混合した溶液に溶解する。なお、水とエタノールとの好ましい体積比は10:1〜1:10であり、より好ましくは、5:1〜1:5であり、さらに好ましくは、2:1〜1:2である。このようにして得られた溶解液中に、無機微粒子をボールミルで分散させることにより、混合液が得られる。このとき、無機微粒子を分散する際の、時間及び回転速度を調整することで、無機微粒子の平均粒子径等を調整することもできる。
混合層中のイオン交換樹脂の含有量は、3重量%〜90重量%が好ましく、より好ましくは3重量%〜70重量%である。
【0039】
混合溶液中の無機微粒子及びイオン交換樹脂の濃度については、特に限定されないが、無機微粒子とイオン交換樹脂を合わせた固形成分が、例えば濃度が2〜20重量%程度の薄い混合液とする方が好ましい。それによって、多孔質膜の表面に均一に塗布することが可能となる。
【0040】
また、無機微粒子を分散させる際に、界面活性剤を分散液に添加してもよい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、例えば、日油株式会社製HS−210、NS−210、P−210、E−212等が挙げられる。
【0041】
得られた混合液を、スプレー塗布又はロール塗工等で多孔質膜表面に塗布することで混合層を形成することができる。
【0042】
(多孔質膜)
本実施形態において、多孔質膜は有機高分子樹脂を含むことが好ましい。有機高分子樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等を挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。
【0043】
有機高分子樹脂は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンであることが好ましい。有機高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリフェニルスルホンであれば、非溶媒誘起相分離法等の方法を用いることで、比較的容易に多孔質膜を製膜することができる。また、多孔質膜の製膜工程の条件により、平均孔径を自由に設計することが可能となる。
【0044】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンは、その構造内にスルホン酸基(SO
2基)を有しており、このSO
2基の電子吸引性により、強い共鳴構造を形成する。また構造内に分解され易いエステル及びアミドなどを有していないため、化学的な安定性を発揮し、高温・高濃度アルカリ溶液に対して優れた耐性を有している。
【0045】
このようなポリスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason S PSU(登録商標、以下同様)」、ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社の「ユーデル(登録商標、以下同様)」等が用いられる。ポリエーテルスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason E PES(登録商標、以下同様)」、ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社の「レーデル A(登録商標、以下同様)」等が用いられる。ポリフェニルスルホンとしては、例えば、BASF社の「Ultrason P PPSU(登録商標、以下同様)」、ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社の「レーデル R(登録商標、以下同様)」等が用いられる。
【0046】
(多孔質膜の孔径)
本実施形態の多孔質膜の平均孔径は、混合層に接する多孔質膜表面(例えば
図3における第1の多孔質膜1aの主面B、第2の多孔質膜1bの主面C)に形成された孔の孔径を平均したものである。多孔質膜の平均孔径は、0.05μm〜6μmが好ましい。多孔質膜の平均孔径が0.05μm以上であれば、アルカリ水電解用隔膜内における電圧損失を低減しやすい傾向にある。また、多孔質膜の構造が過度に緻密になり、アルカリ水との接触表面積が大きく成り過ぎて、材質劣化を起こすような問題を低減しやすい傾向にある。また、多孔質膜の平均孔径が6μm以下であれば、十分なガス遮断性を維持しやすい傾向にある。
【0047】
本実施形態において、多孔質膜の孔径の評価は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して行うことができる。SEMの測定画面内に、観察対象面に存在する孔が100個以上150個以下写るように倍率を調節する。写ったこれらの孔のそれぞれに対し、孔の最大長と最小長の平均長を相加平均で算出する。それぞれの孔の平均長からさらに加重平均を算出し、これを平均孔径とすることができる。SEMによる観察は、膜の観察面と垂直になるように行えばよい。孔は、周囲を途切れなく樹脂で囲まれたものとし、測定画面内で孔の一部が見切れているものは、孔とみなさないものとすることができる。
【0048】
多孔質膜の厚みは、特に限定するものではないが、30μm〜600μmが好ましく、50μm〜500μmがより好ましく、80μm〜450μmが更に好ましい。多孔質膜の厚みが、30μm以上であれば、十分なガス遮断性が得られると共に、多少の衝撃が加えられても破れず、多孔性支持体の露出を防ぎやすい傾向にある。多孔質膜の厚みが600μm以下であれば、孔内に含まれる溶液の抵抗によりイオンの透過性を阻害することがなく、良好なイオン透過性を有しやすい傾向にある。
【0049】
(多孔性支持体)
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は、多孔性支持体を有することで、アルカリ水電解用隔膜の強度が向上する。つまり、多孔性支持体は、主としてアルカリ水電解用隔膜における芯材の役割を担うものである。
【0050】
多孔性支持体は、イオン透過性を実質的に低減させないものであることが好ましい。多孔性支持体の材質は、特に限定するものではないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。
【0051】
多孔性支持体は、ポリフェニレンサルファイドであることが好ましい。多孔性支持体がポリフェニレンサルファイドの場合、高温・高濃度のアルカリ溶液に対しても優れた耐性を示すと共に、水の電気分解時に陽極から発生する活性酸素に対しても化学的な安定性を示しやすい傾向にある。また、多孔性支持体がポリフェニレンサルファイドの場合、織布や不織布等、目的に応じた様々な形態に加工を行うことが可能である。
【0052】
多孔性支持体の形状としては、例えばシート状の形状である。多孔性支持体としては、例えば、膜状の多孔体、不織布、織布、又は、不織布及び該不織布内に内在する織布を含む複合布が用いられる。これらは単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。多孔性支持体は、ポリフェニレンサルファイド繊維を含む不織布等の繊維基材であることが好ましい。
【0053】
本明細書において、MD(Machine Direction)方向とは製膜時の流れ方向であり、TD(Transverse Direction)方向とはMD方向と直交する方向である。
【0054】
多孔性支持体は、不織布及び該不織布内に内在する織布を含む複合布であることが好ましい。不織布は、その製膜時に繊維の方向がMD方向又はTD方向に配向してしまうと、一方向の引張破断強度、引張破断伸度及び引き裂き強度が低下してしまう問題がある。このような問題を防ぐために、不織布の中に織布を内在させることで、MD方向及びTD方向に対して、多孔性支持体の引張破断強度、引張破断伸度及び引き裂き強度を増加させることができる。これにより、多孔性支持体は、芯材として、十分な強度を有することができる。また、不織布に内在させるものは、織布以外に、例えば、MD方向及びTD方向の一方に繊維が配向している不織布を、その配向方向が直交するように重ねたものでもよい。
【0055】
多孔性支持体の引張破断強度は、例えばJIS K 7161に準じた方法で測定することができる。引張破断強度は、本実施形態のアルカリ水電解用隔膜であるイオン透過性隔膜の破断のし易さを示す指標である。多孔性支持体の引張破断強度が低い場合、電解槽に設置して、水の電気分解を行うと、電解槽内の圧力変化等により容易に破断してしまうおそれがある。このため、多孔性支持体の引張破断強度は、特に限定するものではないが、0.5kgf〜30kgfであることが好ましく、1kgf〜20kgfであることがより好ましい。多孔性支持体の引張破断強度が0.5kgf以上であると、アルカリ水電解用隔膜が十分な強度を保つことができ、容易に破断することを抑制しやすい傾向にある。多孔性支持体の引張破断強度が30kgf以下であれば、アルカリ水電解用隔膜が硬くなり過ぎず、適度な形状追従性を有するので、電解槽へアルカリ水電解用隔膜を設置する時、ガスケットとアルカリ水電解用隔膜との間に隙間ができず、電解液の漏れが生じにくくなる傾向にある。なお、ここで多孔性支持体の引張破断強度は、MD方向、TD方向それぞれにおける引張破断強度である。
【0056】
多孔性支持体の引張破断伸度は、例えばJIS K 7161に準じた方法で測定することができる。引張破断伸度は、アルカリ水電解用隔膜の取り扱い性を示す指標である。多孔性支持体の引張破断伸度が低い場合、アルカリ水電解用隔膜は可撓性がなく脆いものとなりやすい傾向にある。これにより、アルカリ水電解用隔膜を電解槽に設置する際等に、多孔性支持体が容易に切れたり、多孔性支持体にひびが入ったりし、取り扱い性の悪いものとなる傾向にある。このため、多孔性支持体の引張破断伸度は、特に限定するものではないが、取り扱い易さの観点から、5%〜60%であることが好ましく、10%〜50%であることがより好ましい。多孔性支持体の引張破断伸度が5%以上であれば、アルカリ水電解用隔膜が、輸送、運搬及び電解装置へ設置される時に、破損することを抑制しやすい傾向にある。多孔性支持体の引張破断伸度が60%以下であれば、多孔性支持体が容易に変形せず、芯材としての形状を維持しやすい傾向にある。また、上記多孔質膜を多孔性支持体の主面上に配置した後も、多孔性支持体のみが変形し、多孔質膜の剥離が生じにくくなる。なお、ここで多孔性支持体の引張破断伸度は、MD方向、TD方向それぞれにおける引張破断伸度である。
【0057】
多孔性支持体の引き裂き強度は、例えばJIS K 7128に準じた方法で測定することができる。引き裂き強度は、アルカリ水電解用隔膜にノッチやピンホール等の傷口が生じた際、それらを起点とする破断のし易さを示す指標である。多孔性支持体の引き裂き強度が低いアルカリ水電解用隔膜は、電解槽に設置された後、例えば電極との接触によりノッチやピンホールが生じると、アルカリ水電解用隔膜の自重で容易に破断してしまう可能性がある。このため、多孔性支持体の引き裂き強度は、特に限定するものではないが、1kgf〜50kgfであることが好ましい。多孔性支持体の引き裂き強度が1kgf以上であれば、アルカリ水電解用隔膜上にノッチ、ピンホール等の傷口が生じた際も、それ以上傷口が大きくなりにくい傾向にある。多孔性支持体の引き裂き強度が50kgf以下であれば、多孔質支持体が分厚いもの、又は、密で孔がほとんどないようなものとはならないため、多孔性支持体のイオン透過性が阻害されにくい傾向にある。なお、ここで多孔性支持体の引き裂き強度は、MD方向、TD方向それぞれにおける引き裂き強度である。
【0058】
上記多孔性支持体の厚みは、特に限定するものではないが、80μm〜1500μmであることが好ましい。多孔性支持体の厚みが80μm以上であれば、芯材として十分な強度を発揮しやすい傾向にある。多孔性支持体の厚みが1500μm以下であれば、アルカリ水電解用隔膜が電解槽に設置される際、ガスケットでアルカリ水電解用隔膜を好適に挟み込むことができ、アルカリ水電解用隔膜の厚み方向部分からの液漏れを防ぎやすい傾向にある。
【0059】
(アルカリ水電解用隔膜の親水化)
本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜において、多孔質膜は、混合層に含まれる無機微粒子として挙げた中から少なくとも1種類を含有することが好ましい。無機微粒子が多孔質膜内に含有されることによって、多孔質膜が親水性に保たれ、電解液が孔内に導かれ易くなる。その結果、多孔質膜内でイオンが移動できる部分が大きくなる為、アルカリ水電解用隔膜による電圧損失を低減することができる。多孔質膜内に無機微粒子を含有させる方法は、特に限定するものではないが、有機高分子樹脂とその溶媒を含有する溶液に親水性無機材料を添加し、非溶媒誘起相分離法で多孔質膜を作成して、多孔質膜内に親水化無機材料を含有させる方法などが挙げられる。
【0060】
(イオン透過性評価)
アルカリ水電解用隔膜のイオン透過性の評価は、アルカリ水電解用隔膜の電圧損失を評価指標として行うことができる。イオン透過性の良いアルカリ水電解用隔膜ほど電気抵抗が小さくなり、これに伴ってアルカリ水電解用隔膜における電圧損失も小さいものとなる。本評価方法における電圧損失は、自作の電解槽を用い、以下の方法で行ってもよい。すなわち、電解槽において、電解面積30cm
2の陽極と陰極との間に配置されたアルカリ水電解用隔膜が、それぞれの電極と接しているゼロギャップ電解槽とすればよい。電解液は、30wt%のNaOH水溶液を用い、これを90℃に加温した状態で、両電極間に6000A/m
2の直流電流を印加すればよい。アルカリ水電解用隔膜の電圧損失の値は、電解槽にかかるセル電圧から陽極及び陰極の過電圧を差し引いた値とすることができる。陽極及び陰極の過電圧は、それぞれの電極に近接して配置されている白金線により測定することができる。
【0061】
本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜における電圧損失は、特に限定されるものではないが、電流密度が0.6A/cm
2の時に280mV以下を示すことが好ましい。アルカリ水電解用隔膜における電圧損失が280mV以下であれば、イオン透過性に優れ、少ない電力量で効率的に水の電気分解を行うことができる。
【0062】
(ガス遮断性評価)
アルカリ水電解用隔膜のガス遮断性の評価は、アルカリ水電解用隔膜のバブルポイントを評価指標として行うことができる。本評価方法におけるバブルポイントは圧力で示され、アルカリ水電解用隔膜を水で十分に濡らし、孔内を水で満たした後、アルカリ水電解用隔膜の片側面を窒素で加圧し、アルカリ水電解用隔膜の反対側面から、50ml/minの割合で気泡が連続して発生してくる時の圧力とすることができる。アルカリ水電解用隔膜のガス遮断性が大きいほど、ガスが通過しにくい為、バブルポイントの値は大きくなる。アルカリ水電解用隔膜のガス遮断性が小さいほど、ガスが通過し易い為、バブルポイントの値は小さくなる。
【0063】
本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜におけるバブルポイントは、特に限定されるものではないが、1000mbar(1000hPa)以上が好ましい。アルカリ水電解用隔膜のバブルポイントが1000mbar以上であれば、アルカリ水電解用隔膜表面に発生した水素や酸素が付着した場合でも、容易にアルカリ水電解用隔膜を透過して、酸素と水素が混ざり合うことが実質的に発生しにくくなる傾向にある。
【0064】
本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜は、多孔質膜と多孔性支持体とを積層した膜において、少なくとも多孔質膜の多孔性支持体と接触している面と反対側の面上に無機微粒子及びイオン交換樹脂を含有する混合層を有する。この混合層が、多孔質膜の孔を通過するガスを遮断するため、バブルポイントは上昇する傾向を示す。これにより、多孔質膜の多孔性支持体と接触している面と反対側の面上に混合層を備えたアルカリ水電解用隔膜は、優れたガス遮断性を有する。
【0065】
(アルカリ水電解用隔膜の製造方法)
本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、下記の(1)〜(8)の工程をこの順で備える。
(1)有機高分子樹脂と、有機高分子樹脂の溶媒と、無機微粒子と、を含有する溶液を調製する工程
(2)溶液を基材に塗工する工程
(3)溶液が塗工された基材を蒸気に晒す工程
(4)溶液が塗工された基材を有機高分子樹脂の非溶媒を含む凝固浴に浸漬させる工程
(5)有機高分子樹脂を凝固させて多孔質膜を形成させる工程
(6)多孔質膜をシート状の多孔性支持体の片面又は両面に積層する工程
(7)無機微粒子とイオン交換樹脂との混合溶液を調整する工程
(8)多孔質膜に混合溶液を塗布し、多孔質膜上に混合層を形成する工程
【0066】
有機高分子樹脂の溶媒は、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等が用いられる。これらの溶媒は単独、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0067】
基材として多孔性支持体を用いてもよい。多孔性支持体を基材として用いることによって、多孔質膜を形成すると同時に、多孔質膜を多孔性支持体の表面に積層することができる。なお、多孔質膜を作製した後、多孔性支持体に積層してもよい。
【0068】
多孔質膜の厚み方向における孔径の傾斜(多孔質膜の一方の主面から他方の主面への孔径の広がり又は狭まり)を制御するには、例えば、(2)溶液を基材に塗工する工程と、(4)溶液が塗工された基材を有機高分子樹脂の非溶媒を含む凝固浴に浸漬させる工程との間に、(3)溶液が塗工された基材を蒸気に晒す工程を行えばよい。
【0069】
基材に塗工した溶液が蒸気に晒されると、蒸気に晒されている表面には水分が浸透し、水分が多く浸透したところは非溶媒誘起相分離が始まり、凝固浴に浸漬されるまでの間に非溶媒誘起相分離が十分に進行する。その為、凝固浴に浸漬する前に、塗工した溶液を蒸気に晒しておけば膜表面に孔を形成しやすくなる。
【0070】
浸透させる水分量を調整する方法として、蒸気に晒す時間を変化させる手法が用いられる。蒸気に晒す時間としては、1秒〜5分が好ましい。または蒸気を発生させる浴の温度を変化させる手法などが用いられる。
【0071】
蒸気の発生方法としては、例えば塗工した溶液を浸漬する凝固浴の温度を上げて蒸気を発生させてもよいし、凝固浴とは別に蒸気を発生させる為の蒸気発生浴を用いてもよい。蒸気発生の温度は、特に限定されるものではないが、30℃〜100℃が好ましい。30℃以上であれば、塗工した溶液に浸透して相分離を進行できる量の蒸気を発生させることができる。
【0072】
多孔質膜における平均孔径を全体的に制御するためには、例えば、有機高分子樹脂とその溶媒を含有する溶液に、孔径を制御するための添加剤を入れ、該溶液が有機高分子樹脂の非溶媒を含む凝固浴に接触した際に生じる非溶媒誘起相分離の速度を変化させる方法、または、添加剤を入れ、有機高分子樹脂を凝固させた後に、該添加剤を溶出させる方法が挙げられる。これにより、多孔質膜における平均孔径を全体的に制御することができる。
【0073】
有機高分子樹脂の非溶媒は、有機高分子樹脂を実質的に溶解しない溶媒であり、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール等が挙げられる。
【0074】
孔径を制御するための添加剤としては、特に限定するものではないが、以下の有機化合物および無機化合物が挙げられる。
【0075】
有機化合物としては、上述した溶媒と有機高分子樹脂の非溶媒との両方に溶解するものが好ましく用いられる。例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストラン等の水溶性ポリマー、界面活性剤、グリセリン、糖類などが挙げられる。この中で、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドンがより好ましく、分子量が1万〜5万のポリエチレングリコール、分子量が5万〜30万のポリエチレンオキサイド、分子量が3万〜100万のポリビニルピロリドンが更に好ましい。
【0076】
無機化合物としては、上述した溶媒および有機高分子樹脂の非溶媒の両方に溶解するものが好ましく用いられる。例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
【0077】
また、添加剤を用いずに、凝固浴における非溶媒の種類、濃度および温度によって相分離速度を制御し、多孔質膜における平均孔径を全体的に制御することも可能である。一般的には、相分離速度が速いと多孔質膜の平均孔径が小さく、遅いと多孔質膜の平均孔径が大きくなる傾向にある。また、有機高分子樹脂とそれらの溶媒とを含有する溶液に、有機高分子樹脂の非溶媒を添加することも、相分離速度を変化させて多孔質膜における平均孔径を全体的に制御するために有効である。
【0078】
有機高分子樹脂、添加剤、無機微粒子及びそれらの溶媒を含有する溶液の組成としては、有機高分子樹脂5wt%〜25wt%、添加剤2wt%〜15wt%、無機微粒子10wt%〜50wt%、有機高分子樹脂および添加剤を溶解する溶媒30wt%〜70wt%とするのが好ましい。有機高分子樹脂の含有率が低すぎると、形成した多孔質膜の強度が不十分となる傾向にある。一方、有機高分子樹脂の含有率が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎ、多孔質膜を均一な厚みに製膜することが困難となる傾向にある。よって、有機高分子樹脂は5wt%〜25wt%が好ましく、7wt%〜20wt%がより好ましい。
【0079】
(1)の工程において、有機高分子樹脂及び該溶媒、また必要に応じて添加剤、無機微粒子を含む溶液を調整する方法としては、特に限定されず公知の方法により行うことができる。
【0080】
(2)の工程において、有機高分子樹脂、添加剤、無機微粒子及びそれらの溶媒を含有する溶液を基材に塗工する方法は、特に限定するものではないが、例えば(i)基材上に溶液を供給した後、コーターを用いて、目的とした塗工量以外の部分を掻き取る方法、(ii)溶液に基材を浸漬させた後、目的とした塗工量以外の部分をロールで絞り取る方法、(iii)溶液に基材を浸漬させた後、目的とした塗工量以外の部分をコーターで掻き取る方法、などが挙げられる。
【0081】
(4)の工程において、凝固浴は非溶媒以外に、有機高分子樹脂の溶媒を加えることにより、相分離速度を制御して、多孔質膜における平均孔径を全体的に制御することができる。溶媒は凝固浴内に90wt%以下であれば、非溶媒誘起相分離を問題なく進行させることができる。しかし、溶媒が90wt%以上の量になると、有機高分子樹脂の固化が不十分となる場合がある。よって、凝固浴中の溶媒の割合は0wt%〜90wt%が好ましく、0wt%〜70wt%がより好ましく、0wt%〜50wt%が更に好ましい。
【0082】
多孔質膜は、(5)の工程で製膜した後に、熱処理することが好ましい。熱処理を行うと、有機高分子樹脂の高分子鎖が結晶化または固定化され、多孔質膜の構造が安定化する。熱処理の方法としては、多孔質膜を湯浴に浸漬させる方法、高温の金属板で多孔質膜を挟み、プレスする方法などが挙げられる。熱処理する温度は、特に限定するものではないが、80℃〜210℃が好ましく、100℃〜190℃がより好ましく、120℃〜170℃が更に好ましい。熱処理の温度が80℃以上であれば、水電解における使用温度より高い温度となるため、隔膜として使用した場合、有機高分子樹脂の高分子鎖が再び動き始めて多孔質膜の構造が不安定となるような問題が生じにくくなる傾向にある。210℃以下であれば、耐熱性の有機高分子樹脂でも十分に高分子鎖の固定がしやすい傾向にある。また、耐熱性の有機高分子樹脂のガラス転移点以下となる為、熱処理によって多孔質膜の構造が溶融変形する問題が生じにくい傾向にある。
【0083】
(6)の工程においては、多孔質膜は多孔性支持体の孔内に一部入り込み、一体となっていることが望ましい。多孔質膜が多孔性支持体の孔内に一部入り込んで、一体となっていれば、いわゆるアンカー効果により、多孔質膜と多孔性支持体膜との剥離を抑制することができる。
【0084】
(8)の工程においては、(7)で得られた混合液を、スプレー塗布又はロール塗工等で多孔質膜表面に塗布することにより、無機微粒子と、イオン交換樹脂とを含む混合物層を形成することができる。
【0085】
(アルカリ水電解槽)
図4は、本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜を備えるアルカリ水電解槽の断面図である。
図4に示すように、本実施形態に係るアルカリ水電解槽30は、アルカリ水電解用隔膜10d、陽極11及び陰極12を有し、陽極11を有する陽極室21と、陰極12を有する陰極室22に仕切られている。陽極11は、アルカリ水電解用隔膜10dの第1の主面P上に配置されており、陰極12は、アルカリ水電解用隔膜10dの第2の主面Q上に配置されている。アルカリ水電解槽30は、それぞれの陽極11及び陰極12で発生した酸素ガス及び水素ガスがアルカリ水電解用隔膜10dに遮断されて混合しないように構成されている。
【0086】
また、本実施形態のアルカリ水電解槽30において、多孔質膜を多孔性支持体へ片面塗工した隔膜を使用する場合には、第1の多孔質膜1a(及び第1の混合層3a)を用いないことが好ましい。陽極11は表面に凹凸があり、多孔質膜は傷つけやすいが多孔性支持体は傷つきにくいためである。
【0087】
(電解方法)
アルカリ水電解槽を使用して行うアルカリ水電解の方法は、アルカリ水電解槽の内部をアルカリ溶液で満たし、陽極と陰極との間に直流電流を印加して行えばよい。アルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液が用いられる。アルカリ溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、15wt%〜40wt%が好ましく、20wt%〜35wt%がより好ましい。アルカリ溶液の濃度が15wt%〜40wt%の範囲であれば、溶液のイオン伝導性が十分発現され、溶液による電圧の損失を軽減しやすい傾向にある。
【0088】
また、電解を行うときの温度は、特に限定されるものではないが、60℃〜150℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。60℃〜150℃の範囲であれば、溶液のイオン伝導性が十分発現され、溶液による電圧の損失を軽減しやすい傾向にある。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態を具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0090】
(1)孔径評価
アルカリ水電解用隔膜の孔径の評価は、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ Miniscope TM3000)を使用して行った。まず、サンプルを所定の大きさに切り出し、マグネトロンスパッタ装置((株)真空デバイス MSP−1S型)で1分間メタルコーティングを行った。次に、このサンプルをSEMの観察用試料台にセットして測定を開始した。この時、SEMによる観察が膜の垂直方向から行えるようにサンプルをセットした。測定を開始する際に、測定画面内に、観察対象の多孔質膜面に存在する孔が100個以上150個以下写るようにSEMの倍率を調節した。これらの写った孔のそれぞれに対し、孔の最大長と最小長の平均長を相加平均で算出した。それぞれの平均長からさらに下記式(1)で示される加重平均Dを算出し、これを対象膜の孔径とした。この評価における孔は、周囲を途切れなく樹脂で囲まれたものとし、また測定画面内で孔の一部が見切れているものは孔とみなさないものとした。
【0091】
【数1】
(wN=孔の相加平均長、xN=wNの相加平均孔径をもつ孔の数)
【0092】
(2)電圧損失評価
アルカリ水電解用隔膜の電圧損失の評価は、自作の電解槽を用い、以下の方法で行った。電解槽の構造は、電解面積30cm
2の陽極と陰極との間に配置されたアルカリ水電解用隔膜が、それぞれの電極と接しているゼロギャップ構造(ゼロギャップ電解槽)とした。電解液は30wt%のNaOH水溶液を用い、これを90℃に加温した状態で、両電極間に6000A/m
2の直流電流を印加した。
【0093】
アルカリ水電解用隔膜の電圧損失の値は、電解槽にかかるセル電圧から陽極、陰極の過電圧を差し引いた値とした。陽極、陰極の過電圧はそれぞれの電極に近接して配置されている白金線により測定した。
【0094】
[参照例1]
ポリスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ユーデル(登録商標))、ポリビニルピロリドン Mw(重量平均分子量)900000(和光純薬工業株式会社)、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社)、EP 酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社)をそれぞれ以下の割合で混合し、60℃の温度下で十分攪拌して塗工液を得た。
ポリスルホン :10wt%
ポリビニルピロリドン : 5wt%
N−メチル−2−ピロリドン:55wt%
EP 酸化ジルコニウム :30wt%
【0095】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイド不織布(廣瀬製紙(株)、膜厚100μm 坪量80g/m
2 品名「PS0080S」)上の両表面に厚さ200μmとなるよう塗工した。塗工後、基材表面の塗工液を直ちに60℃の純水を溜めた湯浴の蒸気下へ5秒間晒した。その後、基材と基材表面の塗工液を直ちに60℃の純水である凝固浴中へ20分間浸漬し、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成した。その後、純水で塗膜を十分洗浄することにより、多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜の平均孔径をSEMで評価した結果、2.3μmであった。得られたこの多孔質膜を用いて、ゼロギャップ構造で電解を行った結果、多孔質膜における電圧の損失は283mVであった。
【0096】
[
参考例1]
上記参照例1の多孔質膜を用い、以下のように混合層を積層した。
まず、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥時のイオン交換容量が1.05mg当量/gであるポリマー(A)を加水分解した後、塩酸で酸型にした。この酸型のポリマー(A)を、水及びエタノールの50/50(質量比)混合液に5質量%の割合で混合させ、ポリマー溶液を得た。さらに、平均粒子径が1.15μmの酸化ジルコニウム粒子を、乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比が20/80となるように、ポリマー溶液に加えた。その後、ボールミルでポリマー溶液中の酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径が0.94μmになるまで分散させて懸濁液を得た。なお酸化ジルコニウム粒子としては、原石を粉砕したものを用いた。
【0097】
この懸濁液をスプレー法により、基材の両面の多孔質膜における基材と接していない各主面に塗布し、これを乾燥させることにより、ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
乾燥後の混合層を蛍光X線測定で測定したところ、混合層の単位面積当たりの重量は1cm
2当り0.5mgであった。蛍光X線測定は、蛍光X線分析装置(ZSX mini、理学電気工業株式会社)を用いて行った。まずあらかじめ塗布量のわかっているサンプルを用いて検量線を作成した後、実際に測りたいサンプルを測定して、検量線から混合層の単位面積あたりの重量から算出した。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽にて電解を行った結果、電圧損失は201mVであった。
【0098】
電解中の多孔膜への泡の浸入、泡の付着の様子は工業用内視鏡で内部を観察できる電解槽を作製し、その中に混合層を有する多孔質膜、混合層を有さない多孔質膜をそれぞれ設置し、NaOH30wt%を投入し、電流密度1kA/m
2を通電した状態で膜の様子を工業用内視鏡(株式会社アールエフ社製)で観察した。観察した結果、混合層を有する多孔質膜は混合層を有さない膜に比べ、孔への泡の浸入、泡の付着が抑制されていることを確認した。これにより電圧損失が低減できることが分かった。
【0099】
[
参考例2]
多孔質膜に塗布する懸濁液の酸化ジルコニウム粒子として、平均粒子径が3.48μmの酸化ジルコニウム粒子を、乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比が20/80となるように、ポリマー溶液に加え、その後、ボールミルでポリマー溶液中の酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径を3.21μmになるまで分散させて懸濁液を得た以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は205mVであった。
【0100】
泡の浸入、泡の付着については、
参考例1と同様の方法で観察した。その結果、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失が低減できることが分かった。
なお、本発明者らは、
参考例1に比べて電圧損失が大きくなった理由は、酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径が大きくなり、膜表面内において酸化ジルコニウムが存在する面積が小さくなったためと推察している。
【0101】
[実施例3]
乾燥後の混合層の単位面積当たりの重量を1cm
2当り0.3mgにした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は198mVであった。
【0102】
泡の浸入、泡の付着については、
参考例1と同様の方法で観察した。その結果、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失が低減できることが分かった。
なお、本発明者らは、
参考例1に比べて電圧損失が小さくなった理由は、単位面積当たりの重量を1cm
2当り0.3mgにし、膜表面に存在するポリマー(A)が少なくなり、ポリマー(A)による電気抵抗が減少したためと推察している。
【0103】
[実施例4]
乾燥後の混合層の単位面積当たりの重量を1cm
2当り0.1mgにした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は197mVであった。
【0104】
泡の浸入、泡の付着については、
参考例1と同様の方法で観察した。その結果、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失が低減できることが分かった。
なお、本発明者らは、
参考例1に比べて電圧損失が小さくなった理由は、単位面積当たりの重量を1cm
2当り0.1mgにし、膜表面に存在するポリマー(A)が少なくなり、ポリマー(A)による電気抵抗が減少したためと推察している。
【0105】
[
参考例5]
乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を40/60にした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は206mVであった。
【0106】
泡の浸入、泡の付着については、
参考例1と同様の方法で観察した。その結果、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失が低減できることが分かった。
なお、本発明者らは、
参考例1に比べて電圧損失が大きくなった理由は、混合層のポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を40/60にし、膜表面内において酸化ジルコニウムが存在する面積が小さくなったためと推察している。
【0107】
[
参考例6]
乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を10/90にした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は199mVであった。
【0108】
泡の浸入、泡の付着については、
参考例1と同様の方法で観察した。その結果、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失が低減できることが分かった。
なお、本発明者らは、
参考例1に比べて電圧損失が小さくなった理由は、混合層のポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を10/90にし、膜表面内において酸化ジルコニウムが存在する面積が大きくなったためと推察している。
【0109】
[参照例7]
ポリスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ユーデル(登録商標))、ポリビニルピロリドン Mw(重量平均分子量)900000(和光純薬工業株式会社)、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社)、EP 酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社)を以下の割合で混合し、60℃の温度下で十分攪拌して塗工液を得た。
ポリスルホン :10wt%
ポリエチレンオキサイド : 5wt%
N−メチル−2−ピロリドン:55wt%
EP 酸化ジルコニウム :30wt%
【0110】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイド不織布(廣瀬製紙(株)膜厚100μm、坪量80g/m
2)上の両表面に厚さ200μmとなるよう塗工した。塗工後、基材表面の塗工液を直ちに40℃の純水を溜めた湯浴の蒸気下へ5秒間晒した。その後、基材と基材表面の塗工液を直ちに40℃の純水である凝固浴中へ20分間浸漬し、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成した。その後、この塗膜を純水で十分洗浄することにより、多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜の平均孔径をSEMで評価した結果、1.2μmであった。
また、得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は305mVとなった。
【0111】
[
参考例7]
上記参照例7の多孔質膜を用い、以下のように混合層を積層した。
まず、
参考例1と同様にして懸濁液を得た。この懸濁液をスプレー法により得られた多孔質膜の基材表面と接触していない主面上に塗布し、これを乾燥させることにより、ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
乾燥後の混合層を蛍光X線測定で測定したところ単位面積当たりの重量は1cm
2当り0.5mgであった。
得られた膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は203mVであった。
これにより、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失が低減できることが分かった。
【0112】
[参照例8]
ポリスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ユーデル(登録商標))、ポリビニルピロリドン Mw(重量平均分子量)900000(和光純薬工業株式会社)、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業株式会社)、EP 酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社)を以下の割合で混合し、60℃の温度下で十分攪拌して塗工液を得た。
ポリスルホン :10wt%
ポリエチレンオキサイド : 5wt%
N−メチル−2−ピロリドン:55wt%
EP 酸化ジルコニウム :30wt%
【0113】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイド不織布(廣瀬製紙(株)、膜厚100μm、坪量80g/m
2)上の両表面に厚さ200μmとなるよう塗工した。塗工後、基材と基材表面の塗工液を直ちに40℃の純水である凝固浴中へ20分間浸漬し、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成した。その後、この塗膜を純水で十分洗浄することにより、多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜の平均孔径をSEMで評価した結果、0.01μmであった。
また、得られた膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は367mVとなった
【0114】
[
参考例8]
上記参照例8の多孔質膜を用い、以下のように混合層を積層した。
まず、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥時のイオン交換容量が1.05mg当量/gであるポリマー(A)を加水分解した後、塩酸で酸型にした。この酸型のポリマー(A)を、水及びエタノールの50/50(質量比)混合液に5質量%の割合で混合させたポリマー溶液を得た。このポリマー溶液に、平均粒子径が1.15μmの酸化ジルコニウム粒子を、乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比が20/80となるように加えた。その後、ボールミルでポリマー溶液中の酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径が0.94μmになるまで分散させて懸濁液を得た。なお酸化ジルコニウム粒子としては、原石粉砕したものを用いた。
【0115】
この懸濁液をスプレー法により上記多孔質膜の基材表面と接触していない主面上に塗布し、乾燥することにより、ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
乾燥後の混合層を蛍光X線測定で測定したところ単位面積当たりの重量は1cm
2当り0.5mgであった。
得られた膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は273mVであった。
この結果から、多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制され、電圧損失は低減できているが、多孔質膜の孔径が小さくアルカリ水電解用隔膜の電圧損失は
参考例1と比較すると高くなることが分かった。
なお、本発明者らは、膜表面の孔径が小さいと、その部分のイオンの透過性が悪くなり、その結果、電圧損失の上昇に繋がるためと推察している。
【0116】
[
参考例9]
乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を80/20にした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は240mVであった。
多孔質膜への泡の付着の抑制が不十分なため、
参考例1と比較すると電圧損失の低下が小さいことが分かった。
なお、本発明者らは、泡付着の抑制が不十分な理由は、混合層のポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を80/20にし、膜表面内において酸化ジルコニウムが存在する面積が小さくなったためと推察している。
【0117】
[比較例1]
乾燥ポリマー(A)と酸化ジルコニウム粒子との質量比を2/98にした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた膜表面から酸化ジルコニウムの粒子が欠落する為、電解評価を行うことが出来なかった。
なお、本発明者らは、粒子が欠落した理由は、酸化ジルコニウムを結着する役割のポリマー(A)が酸化ジルコニウムに比べ著しく少な過ぎたためと推察している。
【0118】
[
参考例10]
乾燥後の混合層の単位面積当たりの重量を1cm
2当り0.008mgにした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は261mVであった。
多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着の抑制が不十分な為、
参考例1と比較すると電圧の損失の低下は小さいことが分かった。
なお、本発明者らは、電圧損失の低下が低くなった理由は、単位面積当たりの重量を1cm
2当り0.008mgにし、膜表面に存在する酸化ジルコニウムが少なくなくなったためと推察している。
【0119】
[
参考例11]
乾燥後の混合層の単位面積当たりの重量を1cm
2当り5mgにした以外は、
参考例1と同様にして、酸化ジルコニウム粒子を含む混合層を有する多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜を用いて、ゼロギャップ電解槽で電解を行った結果、電圧損失は241mVであった。
多孔質膜の孔への泡の浸入、泡の付着が抑制されたが、塗布した混合層のポリマーによる抵抗が上がった為、
参考例1と比較すると電圧の損失の低下は小さいことが分かった。
【0120】
測定結果を以下の表1、表2に示す。
【表1】
【0121】
【表2】