(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施例について説明する。
[実施例1]
図1に示すように、本実施例における旅行時間データ調製システムは、旅行時間データ調製装置としてのサーバ11及び情報端末としての複数の携帯端末21を含んで構成されている。サーバ11及び複数の携帯端末21は、所定の地点に設置されている無線基地局31及び公衆通信回線としてのインターネット41を介して双方向の通信が可能な状態で接続されている。
【0016】
サーバ11は、携帯端末21から送信されるプローブ情報に基づいて、道路を通行する際に要する時間である旅行時間を算出する機能を有する。なお、ここでの旅行時間とは、交差点間に存在する道路ごとの旅行時間である。換言すれば、1の交差点から直近の交差点に到達するまでに要する時間ともいえる。携帯端末21で実現されるナビゲーション機能や、車両に搭載されているナビゲーション装置等では、本旅行時間データ調製システムにて算出された道路ごとの旅行時間を用いて出発地から目的地までのトータルの旅行時間を計算し、当該トータルの旅行時間がユーザに提供されることになる。
【0017】
サーバ11は、サーバ制御部101、道路ネットワークデータ記憶部としての第1ハードディスク102、サーバ受信部103、プローブ情報記憶部としての第2ハードディスク104を備える。サーバ制御部101は、走行道路特定部105、旅行時間算出部106、旅行時間データ調製部107を備える。サーバ制御部101における走行道路特定部105,旅行時間算出部106、旅行時間データ調製部107は、サーバ制御部101に備えられた図示しないCPUがメモリに展開されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0018】
第1ハードディスク102には、道路ネットワークデータが記憶されている。道路ネットワークデータは、道路を表現したリンクデータ及び交差点を表現したノードデータを含んで構成されている。つまり、交差点間の道路が1つのリンクデータとして規定されていることになる。
【0019】
リンクデータには、各種属性情報が付与されている。例えば、道路レベル情報、地域種別情報、通行規制情報、スクールゾーン情報、リンクコスト情報等が付与されている。
【0020】
道路レベル情報は、その道路が高速道路、国道、県道、市道等のうち何れの道路であるかを判別するために用いられる情報である。
【0021】
地域種別情報は、当該リンクデータに対応する道路がどの用途地域界に属するかを表す情報である。用途地域界とは、用途や使用目的の異なる建物が同一地域に混在しないように定められた領域である。用途地域界は、商業系地域、住居系地域、工業系地域の3つの地域に大別される。商業系地域は商業地域、近隣商業地域、住居系地域は第一種住居地域、第二種住居地域、第一種中高層住居地域、第二種中高層住居地域、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、準住居地域、工業系地域は準工業地域、工業地域、工業専用地域にそれぞれ区分される。
【0022】
通行規制情報は、当該リンクデータに対応する道路が一方通行や、速度規制、時間帯通行禁止規制等の場合に付与されている情報である。
スクールゾーン情報は、当該リンクデータに対応する道路がスクールゾーンに該当する場合に付与されている情報である。当該道路がスクールゾーンに該当する場合には、登下校の時間帯に関する情報も含まれる。
【0023】
リンクコスト情報は、主にナビゲーション装置における経路探索時に利用される情報であり、当該リンクにおける走行のしやすさを数値化した情報である。リンクコスト情報は、当該リンクに対して1の値のみ付与されている場合もあるが、時間優先、距離優先、走りやすさ優先といったナビゲーション時の目的に対応できるように複数種類付与される場合もある。なお、本実施例では、ノードデータにも、通行規制情報、ノードコスト情報等の属性情報が付与されている。
【0024】
サーバ受信部103は、携帯端末21から送信されたプローブ情報を受信する。プローブ情報の詳細については後述する。第2ハードディスク104には、受信したプローブ情報が記憶される。走行道路特定部105は、複数の携帯端末21から送信された大量のプローブ情報を道路ネットワークデータに当てはめて、プローブ情報が何時にどの道路上を走行した際に取得されたかものであるかを特定する。具体的な特定処理については後述する。
【0025】
旅行時間算出部106は、プローブ情報を用いてリンクデータに対応する道路毎の旅行時間を算出するとともに、当該旅行時間に関する情報が含まれる標本データを作成する。更に、旅行時間算出部106は、当該標本データに基づいて、所定の時間帯毎に旅行時間に関するデータとして、旅行時間に関する統計データを作成する機能を有する。旅行時間の算出方法及び統計データについては後に詳細に説明する。
【0026】
旅行時間データ調製部107は、旅行時間算出部106により作成された統計データに関して、所定の調製を行なう。この調製の内容はあとで詳しく説明するが、プローブデータに基づいて作成された統計データが、統計データとして十分な数のデータとなるように調製する処理である。
【0027】
携帯端末21は、携帯電話や車両に搭載されている通信機能を有するナビゲーション装置で構成される。携帯端末21は、位置測位部としてのGPS(Global Positioning System)201、端末制御部202、端末記憶部203、端末送信部204を備える。端末制御部202は、プローブ情報生成部205を備える。プローブ情報生成部205は、端末制御部202に備えられた図示しないCPUがメモリに展開されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0028】
GPS201は、複数のGPS衛星から送信されるGPS信号を同時に受信する。そして、受信されたGPS信号によって自己位置の緯度、経度情報、時間情報等を含む自己位置情報を取得する。プローブ情報生成部205は、GPS201で取得された自己位置情報に基づいてプローブ情報を生成する。
図2に示すように、プローブ情報には、時刻情報501、位置情報502、ユーザID503、機能コード504が含まれている。時刻情報501は、年月日時分秒の情報を含んでおり、本プローブ情報が取得された時刻に関する情報である。
【0029】
位置情報502は、緯度経度の座標点で表現されており、ユーザが走行した位置を表す情報である。この座標点は、GPS201で取得された自己位置情報が経路案内時の探索経路にルートマッチングされた後の緯度経度である。つまり、座標点は道路上の緯度経度の情報である。ユーザID503は、本プローブ情報が取得された携帯端末21毎にユニークに割り当てられている情報である。機能コード504は、どのような種類のナビゲーションモード(車両ナビや
歩行者ナビ等)で取得されたプローブ情報であるかを表す情報である。例えば、車両ナビが01、歩行者ナビが02、自転車ナビが03と表現される。
【0030】
端末記憶部203には、生成されたプローブ情報が記憶される。
端末送信部204は、プローブ情報生成部205で生成されたプローブ情報をサーバ11に無線基地局31及びインターネット41を介して送信(アップロード)する。なお、本実施例においてはナビゲーション機能による経路案内時に生成されたプローブ情報のみがサーバ11に送信される。また、位置情報は探索経路にルートマッチングされることが前提であることから、経路探索で使用される対象道路(換言すれば道路ネットワークデータが存在する道路)及び一部の非対象道路(換言すれば道路ネットワークデータが存在しない道路)のみが送信の対象とされる。非対象道路の例としては、探索の始点(出発地)及び終点(目的地)付近の道路が挙げられる。また、経路から逸脱したと判断された結果、正常にルートマッチングすることができなかった座標点については送信の対象から除外される。
【0031】
プローブ情報はプローブ情報生成部205にて一定間隔で生成される。この生成間隔については移動速度を考慮して決定される。例えば、車両による経路案内時には、移動速度が高速であることから1秒間隔で生成される。また、歩行による経路案内時には、移動速度が低速であることから5秒間隔で生成される。この生成間隔についてはナビゲーションの設定機能により、ユーザが適宜変更するものとしてもよい。
サーバ11へのプローブ情報の送信タイミングは、通常は1秒間隔である。プローブ情報の生成間隔が1秒である場合には、端末送信部204は生成されたプローブ情報を順次サーバ11へ送信する。
【0032】
次に、以上のように構成される旅行時間データ調製システムを用いて旅行時間データ調製処理を実行する方法について説明する。本処理は、一日のなかで、予め定めたタイミングで実行される。本処理が開始される時点では、前回、この処理が行なわれたあと、複数の携帯端末21から多数のプローブ情報が上記のように1秒毎といったタイミングで送信されて、多数のプローブ情報が第2ハードディスク104に記憶されている。
【0033】
<プローブ情報の変換処理>
まず、走行道路特定部105は、複数の携帯端末21から送信されたプローブ情報を、道路毎の旅行時間が算出できる標本データに変換する。なお、この変換処理は、携帯端末21から送信されたプローブ情報が一定の条件を満たすだけ第2ハードディスク104に蓄積されたことをトリガとして実行されることになる。ここで、一定の条件は、例えば1週間または1ヶ月分のプローブ情報が蓄積されたことであってもよい。
図3に示すように、まず、サーバ制御部101は、第2ハードディスク104からユーザID503が同一で時刻情報501が連続しているプローブ情報を一括して読み出す(ステップS11)。このとき、サーバ制御部101は、プローブ情報の機能コード504を参照して、車両ナビによるプローブ情報のみを選択して読み出す。車両による道路の旅行時間を算出するためである。
【0034】
次に、サーバ制御部101は、第1ハードディスク102から道路ネットワークデータを読み出すとともに、プローブ情報がどのリンク(道路)上を走行した際に取得された情報であるかを特定する(ステップS12)。
図4の例では、サーバ制御部101は、ある携帯端末21から送信されたプローブ(P1〜P12)とリンクとをマッチングさせることにより、プローブP1〜P6がリンクL1上に位置し、プローブP7〜P12がリンクL2上に位置すると判定する。
そして、走行道路特定部105は、一括して読み出された一連のプローブ情報を、リンク毎のプローブ情報として分割するとともに、当該リンクのリンクIDと対応付けて第2ハードディスク104に一時的に記憶する。
【0035】
次に、サーバ制御部101は、リンクデータ及びプローブ情報に基づいて旅行時間603、進入時刻604、退出時刻605、進行方向606を算出する(ステップS13)。
旅行時間603は、リンクに対応する道路の端から端までを走行する際に要した時間であり、
図4に示すリンクL1の場合、当該リンクL1上に位置する両端のプローブであるプローブP1及びP6の時刻の差を求めることで算出される。
【0036】
進入時刻604は、リンクに対応する道路に進入した時刻である。
図4の例ではリンクL1に対応づけられたプローブのうち最も古い時刻に取得されたプローブP1の取得時刻がリンクL1への進入時刻となる。
退出時刻605は、リンクに対応する道路から退出した時刻である。
図4の例ではリンクL1に対応づけられたプローブのうち最も新しい時刻に取得されたプローブP6の取得時刻がリンクL1から退出時刻となる。進行方向606は、プローブがリンクのどちらからどちらの方向に向かって走行したかを表す。進行方向606は、例えばリンクの上り方向であれば01、下り方向であれば02の情報が付与される。
【0037】
そして、サーバ制御部101は、これらの情報が含まれる、
図5に示すような標本データを生成する(ステップS14)。これらの処理は、携帯端末21から送信された全てのプローブ情報について実行される(ステップS15)。なお、
図5における通し番号601とは、1の携帯端末21から送信されたプローブ情報から生成された標本データの生成順を示す番号である。
【0038】
<統計データの生成処理>
次に、全てのプローブ情報についての処理を完了したと判断すると(ステップS15:「YES」)、サーバ制御部101は、生成された標本データから、1のリンクに対応する道路毎かつ所定の時間帯毎に旅行時間に関する統計データを更新する処理を、以下のように実行する。この処理は、
図6に示すように、時間帯毎にその道路を何台の車両が走行したかを表す走行台数情報701と、当該走行台数情報701を旅行時間毎にカウントした時間帯毎のヒストグラム702とを含んだ統計データを更新する処理である。
図6に示した統計データは、過去一年間のプローブ情報から作られたものであり、上述した新たなブローブ情報に基づき標本データが作られることにより、この標本データに基づいて、以下のように更新される。
【0039】
まず、サーバ制御部101は、通し番号601が1である標本データを取り出し、取り出した標本データにおける進入時刻604を参照し、当該標本データがどの曜日のどの時間帯(以下、単に時間帯という)に属するかを決定する(ステップS16)。その上で、標本データが属する時間帯の標本数を値1だけインクリメントし、更に、そのリンクデータに対応する道路の通過に要した時間に対応するヒストグラムを値1だけインクリメントする(ステップS17)。続いて、通し番号を値1だけインクリメントし(ステップS18)、全ての標本データに基づく統計データの更新が完了したかを判断する(ステップS19)。完了していなければ、上述した処理(ステップS16ないしS19)を、全ての標本データについて処理が完了するまで繰り返す。全ての標本データに基づく処理が完了した時点で、その時点での統計データは最新のデータに更新されたことになる。作成された統計データは、第1ハードディスク102に記憶されているリンクデータと対応付けられて当該第1ハードディスク102に記憶される。
【0040】
<統計データの推定処理>
このようにして、全ての道路毎に旅行時間に関する統計データを作成した上で、次にこの統計データを調製する処理を実行する。この処理を
図7に示した。図示するように、サーバ制御部101は、一年分のプローブ情報から生成される統計データ(
図6)の更新が完了すると、まず統計データの更新がなされたリンクデータのうちのいずれか一つのリンク(対象リンク)の全統計データを第1ハードディスク102から読み出し(ステップS21)、月曜日から日曜日、かつ0時から24時までの計168パターンのそれぞれにおける標本データの数が基準数(本実施例では例えば300件)以下である時間帯が存在するか否かを確認する(ステップS22)。
【0041】
標本データの数が基準数以下である時間帯が存在する場合、サーバ制御部101は、対象リンクの当該時間帯について、通行規制の対象であるか否かを判断し、通行規制の対象となっている場合には、その時間帯を除外する処理を行う(ステップS23)。通行規制の対象であるか否かについては、対象リンクデータに属性情報として付与されている通行規制情報を参照する。通行規制の対象である道路は、通行規制されている時間帯は、車両の通行少ない(若しくは0)ことを考慮した措置である。
【0042】
通行規制が存在している時間帯を除外した上で、サーバ制御部101は、抽出した時間帯について標本データ流用処理を実行する(ステップS24)。標本データの数が基準数以下である時間帯が存在しない場合及び標本データの数が基準数以下である時間帯の全てに通行規制が存在している場合には、サーバ制御部101は、当該対象リンクについて標本データ流用処理を実行することなく次の処理へと進む。なお、標本データ流用処理については後述する。
【0043】
次に、旅行時間データ調製部107は、全てのリンクについての処理が完了したか否かを判断する(ステップS25)。完了していないと判断した場合には、サーバ制御部101は、他のリンクを対象リンクとして読み出して同様の処理を実行する。完了したと判断した場合には、統計データの調製処理を完了する。以上の処理のうち、
図5ステップS11,S12の処理が走行道路特定部105の機能に相当し、
図5ステップS13,S14ないしS18が旅行時間算出部106の機能に相当し、
図7に示した処理が旅行時間データ調製部107の機能に相当する。
【0044】
なお、サーバ制御部101は、ステップS23の除外処理において、以下の条件のうち少なくとも1つを満たす場合に、標本データ流用処理の対象から当該時間帯を除外してもよい。
・確認対象である時間帯が、深夜の時間帯(例えば、0時〜5時等)である場合。もともと交通量が少なく、旅行時間もほぼ一定でありばらつきが少ないからである。
・確認対象の時間帯において、当該時間帯のヒストグラムを参照し、平均旅行時間及び標準偏差を算出した結果、平均旅行時間±標準偏差の範囲に全データが一定数(例えば、80%以上)以上存在する場合。旅行時間の信頼性が高いと判断できるからである。
【0045】
<標本データ流用処理>
図8に示すように、サーバ制御部101は、処理を開始すると、道路ネットワークデータを参照して、対象リンクの周辺(例えば、対象リンクから直線距離で2km以内)に存在するリンクであって、当該対象リンクと道路レベルが同一のリンクを抽出する(ステップS241)。交通量の傾向が類似する可能性の高い道路を選択するためである。リンクの抽出の様子を
図9に示した。当該対象リンクPxは、道路レベル1の道路に対応しているとする。距離2km以内に存在するリンクであって道路レベルが同一のリンクは、図示するように、当該対象リンクPxに連続する候補リンク1と候補リンク2、候補リンク1に連続する候補リンク3、更に道路レベル2の道路を隔てて存在する候補リンク4ないし6が存在する。
【0046】
次に、サーバ制御部101は、抽出されたリンクが複数あるか否かを判断する(ステップS242)。抽出されたリンクが複数ある場合、旅行時間データ調製部107は、当該複数のリンクの中から最も対象リンクに近いリンクを参照リンクとして選択する(ステップS243)。具体的には、抽出された複数のリンクにおける端点をそれぞれ終点として、始点である対象リンクの端点からUターンを許容しない経路探索処理を実行する。そして、最短時間で対象リンクから到達できるリンクを参照リンクとして選択する。経路探索処理には、既知のダイクストラ法が用いられる。
【0047】
図9に示した例では、走行方向から見て、候補リンク2と候補リンク4および5は経路探索の方向から処理の対象とならず、最も近いリンクは、候補リンク1であると判断され、候補リンク1が参照リンクとして選択される。なお、仮に候補リンク1に対応する道路が道路レベル2であれば、候補リンク3または6が、最も近いリンクであると判断され、参照リンクとして選択される。また、抽出されたリンクがひとつだけである場合には、旅行時間データ調製部107は、当該リンクを参照リンクとして選択する。
【0048】
次に、旅行時間データ調製部107は、参照リンクにおいて、当該対象リンクの統計データにおいて、標本データの数が基準数に満たない時間帯と同じ時間帯を選択する(ステップS244)。そして、サーバ制御部101は、参照リンクの統計データにおいて、選択された時間帯と統計データが類似する他の時間帯を検索する(ステップS245)。具体的には、選択された時間帯における統計データ(ヒストグラム)と他の時間帯における統計データ(ヒストグラム)との相関を求め、相関値の最も高い時間帯を選択する。なお、抽出方法としては、そのほかにも該当条件と平均旅行時間が同じ他の時間帯を検索するようにしてもよい。また、相関値の高い順に複数(例えば5つ)の時間帯を選択するようにしてもよい。
【0049】
この処理を
図10を用いて説明する。
図10において、上段は、対象リンクの統計データを、下段は、参照リンクの統計データを示している。当該対象リンクの統計データにおいて、例えば水曜日の10時からの一時間(図示、時間帯Px)の標本データが300個に満たないものとする。ステップS244では、参照リンクの統計データにおいて、この時間帯Pxと同じ時間帯Sxを選択する。続いてステップS245の処理として、参照リンクの統計データにおける時間帯Sxと類似する他の時間帯を検索する。検索の結果、相関の高い4つの時間帯(火曜日の7時台、水曜日の15時台、金曜日の15時台、土曜日の8時台)が見い出されたとして、
図10には、これらの時間帯をグレーで示した。これら4つの時間帯のうち、選択された時間帯Sxと最も統計データの相関値が高い時間帯として、火曜日の7時という時間帯SPが見い出されたとする。
【0050】
次に、旅行時間データ調製部107は、参照リンクにおいて選択された時間帯SPに対応する、当該対象リンクの同じ時間帯Qxの標本データ数を、標本データの数が基準数以下である時間帯Pxの標本データ数と足し合わせ、基準数を越える標本データが確保されたか否かを判断する(ステップS246)。基準数を越える標本データが確保されなかった場合、旅行時間データ調製部107は、同様の手順により、他の参照リンクにおける他の時間帯を検索する処理を繰り返し実行する。一方、基準数を上回る数の標本データが確保された場合には、ステップS246にて足し合わされた標本データを加味した上で改めて統計データが作成される(ステップS247)。
【0051】
そして、旅行時間データ調製部107は、作成された統計データを、第1ハードディスク102に記憶されている参照用統計データと置き換える。参照用統計データは、実際のプローブ情報に基づいて作成された標本データのみにより作られた統計データ(
図6参照)に対して、経路案内などの処理において参照される統計データである。このように、ブローブ情報のみに基づいて作られた統計データと、標本データの流用処理を行って作られた参照用の統計データとを分離しておくことにより、ブローブ情報が十分に蓄積された際、標本データの流用が必要なくなった時間帯のデータには、他の時間帯のデータが含まれない状態とすることができる。
【0052】
以上説明した本実施例によれば、情報端末21から送信されたブローブ情報を蓄積し、所定のタイミングでこれを処理して、各リンク毎の統計データを更新して、参照用の統計データを生成することができる。しかも、このとき、過去一年分のプローブ情報に基づく統計データの特定の曜日・特定の時間帯(実施例1では168パターン)のうちに、サンプル数が300に満たないものが存在すると、その時間帯の統計データとの相関が高いと判断した他の時間帯のデータを用いて、統計データの数を十分な数にしている。このため、経路案内装置などが、経路案内に伴い、所定の出発地から所定の目的地までの旅行時間を算出する際、十分な数の統計データに基づいて、旅行時間を算出することができる。なお、こうした旅行時間の算出の基礎となる参照用の統計データには、通行規制などによる特異なデータが存在した場合には、他の時間帯からの流用を行なわないので、特異なデータが、他の時間帯のデータの流用によって平均化され、統計データとしての信頼性を減じることがない。また、情報端末21から送られたブローブ情報は、ほぼリアルタイムで蓄積され、かつ所定のタイミングで一括して統計データに反映されるので、旅行時間の計算には、常に最新に近い信頼性の高い統計データを用いることができる。
【0053】
[実施例2]
<実施例2の構成>
実施例1では、サーバ11が備える走行道路特定部105において、携帯端末21から送信されたプローブ情報に基づき、当該プローブ情報がどのリンクに対応するものであるか特定する処理を実行した。本実施例では、この処理を
実施例1における携帯端末21側で実施する。標本データ及び統計データを作成する処理については、実施例1と同様である。また、本実施例においては実施例1と同じ構成については同じ番号を付した上で、説明は省略するかあるいは簡易な説明にとどめることとする。
【0054】
図11に示すように、本実施例における旅行時間データ調製システムは、旅行時間データ調製装置としてのサーバ11及び車載機器としての複数のナビゲーション装置51を含んで構成されている。サーバ11は、サーバ制御部101、第1ハードディスク102、サーバ受信部103、プローブ情報記憶部としての第2ハードディスク104を備える。サーバ制御部101は、旅行時間データ調製部107、標本データ作成部108を備える。サーバ制御部101における旅行時間データ調製部107、標本データ作成部108は、サーバ制御部101に備えられた図示しないCPUがメモリに展開されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0055】
ナビゲーション装置51は、車両に搭載されており、GPS201、端末制御部202、端末記憶部203、端末送信部204、第3ハードディスク804を備える。第3ハードディスク804には、第1ハードディスク102に記憶されているものと同様の道路ネットワークデータが記憶されている。端末制御部202は、プローブ情報生成部
801、走行道路特定部
802、旅行時間算出部
803を備える。端末制御部202におけるプローブ情報生成部
801、走行道路特定部
802、旅行時間算出部
803は、端末制御部202に備えられた図示しないCPUがメモリに展開されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0056】
以上説明したように、本実施例では、走行道路特定部105、旅行時間算出部106及び第3ハードディスク804がナビゲーション装置51側に備えられているとともに、サーバ11が標本データ作成部108を備える点で実施例1とは異なる。
【0057】
<プローブ情報の変換処理>
ナビゲーション装置51における走行道路特定部105は、プローブ情報生成部205にて生成されたプローブ情報を、道路毎の旅行時間が算出できる標本データに変換する。
【0058】
図12示すように、まず、走行道路特定部105は、端末記憶部203から時刻情報501が連続しているプローブ情報を一括して読み出す(ステップS31)。なお、プローブ情報は、
図2に示すものと同様のデータ構造であり、時刻情報501、位置情報502、ユーザID503、機能コード504が含まれている。次に、走行道路特定部105は、第3ハードディスク804から道路ネットワークデータを読み出すとともに、プローブ情報がどのリンク(道路)上に位置するかを判定する(ステップS32)。
【0059】
次に、旅行時間算出部106は、リンクデータ及びプローブ情報に基づいて旅行時間603、進入時刻604、退出時刻605、進行方向606を算出する(ステップS33)。旅行時間算出部106では、結果として
図5と同様のデータが作成されることになる。このようにして作成された変換後のプローブ情報は、端末送信部204を介してサーバ11へと送信される(ステップS34)。なお、送信頻度は、変換後のプローブ情報が作成される都度でもよいし、または一定数のプローブ情報が蓄積されてからそれらを一括して送信するようにしてもよい。
【0060】
サーバ11の標本データ作成部108は、ナビゲーション装置51から送信されたプローブ情報に基づいて、道路(リンク)における所定の時間帯毎に旅行時間に関する統計データを作成する。統計データについては、実施例1と同様のデータが作成される。
【0061】
<実施例2の効果>
以上説明した実施例2によれば、実施例1と同様、旅行時間の算出された道路において、標本データ数が少なくて信頼性が低い場合、当該道路と交通量に何らかの関連性を有すると考えられる他の道路を抽出し、当該他の道路の交通量の傾向から、どの時間帯の標本データを加算すればよいかを推定することができる。そのため、交通量の傾向が類似する時間帯の標本データを参考にして、道路における旅行時間の信頼性を向上させることができる。更に、実施例2では、旅行時間データを車両側で算出するので、サーバ11の負荷を低減することができる。サーバ11は、他のリンクのデータを用いて旅行時間データの調製を行なうので、もともと処理の負荷は高い。したがって、統計データの生成までを車両側で済ませ、サーバ11の処理を低減する効果は大きい。
【0062】
<変形例>
上記実施例において、標本データ流用処理において参照リンクを選択する方法として以下の方法を用いてもよい。
(1)用途地域界を利用する方法:
旅行時間データ調製部107は、リンクデータに属性情報として付与されている地域種別情報を参照して、対象リンクに対応する道路から所定距離内に存在しており、かつ対象リンクと同じ用途地域界に属する道路に対応するリンクを参照リンクとして選択する。同じ用途地域界に属する道路であれば、交通量の傾向もより類似するからである。
【0063】
(2)スクールゾーンを利用する方法:
旅行時間データ調製部107は、リンクデータに属性情報として付与されているスクールゾーン情報を参照して、対象リンクがスクールゾーン上に存在する道路である場合には、当該対象リンクに対応する道路から所定距離内に存在しているスクールゾーン情報を属性情報として有するリンクを参照リンクとして選択する。スクールゾーンは、小学校や幼稚園などのおおむね半径500メートルの範囲で設定されている領域である。登下校時の一定時間帯に車両の通行禁止、一方通行、一時停止、速度規制などの交通規制が実施される場合があるため、他の道路とは異なる特徴的な交通状態となる。さらに、道路レベル、用途地域界、スクールゾーンなど複数の条件の中から任意の1つまたは2つ以上の組合せを用いて参照リンクを選択してもよい。
【0064】
(3)施設(POI)への出入り口情報を利用する方法:
旅行時間データ調製部107は、施設に関する施設情報を参照して、参照リンクを選択してもよい。その前提として、第1ハードディスク102には、あらかじめ施設情報が格納されているものとする。施設情報には、当該施設の位置情報、施設の出入り口が接続(アクセス)している道路に対応するリンク、施設の種類(商業施設、飲食店、娯楽施設、公共施設等)、施設の営業時間などの各種情報が含まれる。
【0065】
旅行時間データ調製部107は、第1ハードディスク102に記憶されたこれらの情報を参照して、参照リンクを選択する。具体的には、旅行時間データ調製部107は、対象リンクが所定の施設の出入り口に接続している場合において、以下の条件(a)〜(d)を満たすリンクが存在する場合に、当該リンクを参照リンクとして選択する。
(a)当該対象リンクに接続している出入り口を有する施設と同種の施設の出入り口が接続している道路に対応するリンクである、
(b)対象リンクから所定の範囲(例えば1km)内に存在しているリンクである、
(c)当該対象リンクと道路レベルが同一のリンクである、
(d)標本数が一定数(例えば、統計データの推定処理を実施する基準数と同じ300件)以上のリンクである。
同種の施設付近の道路については、混雑状況にも一定の関連性があると推定され、交通量の傾向もより類似するからである。なお、旅行時間データ調製部107は、対象リンクが所定の施設の出入り口に接続している場合において、(a)を必須の条件として、(b)〜(d)については少なくともいずれか1つを満たす場合に当該リンクを参照リンクとして選択してもよい。また、更に他の条件、例えば該当時間に営業している施設か否かといった条件等と組合わせても良い。
【0066】
上記実施例および変形などにおいて、標本データ流用処理において、参照リンクが抽出されなかった場合、旅行時間データ調製部107は、参照リンクを抽出する範囲について拡大した上で再度参照リンクを抽出する処理を実行してもよい。例えば、参照リンクの抽出に「用途地域界」を利用している場合には、当初は、商業地域、近隣商業地域、第一種住居地域などの12種類の用途地域界の分類を用いて、同じ用途地域界のリンクを対象として抽出を行ない、この処理により参照リンクが抽出できなかった場合には、「商業系地域」「住居系地域」「工業系地域」という大きな類別が同じ範囲まで拡大して抽出処理を行えばよい。
【0067】
このほか、本発明は他の種々の形態で実施可能である。例えば、上記実施形態では旅行時間データの調製を、曜日と時間帯で分けた168のパターンのうち、サンプリング数Nが基準値(300)以下の時間帯についてのみ行なったが、サンプリング数の判定条件は300以外、例えば500件や1000件としてもよい。また、基準数は道路の種別や道路レベルに応じて変更するようにしてもよい。また、各時間帯のデータ数を増加する場合、当該対象リンクに対して次の関係にあるリンクのデータを用いてもよい。
【0068】
サーバ11へのプローブ情報の送信タイミングは、携帯端末21の処理負荷やバッテリ容量を考慮して、省エネモードによる送信タイミングとすることも可能である。この場合、端末送信部204は例えば3秒や10秒、30秒といった長い間隔で、複数のプローブ情報を一括してサーバ11に送信する。また、経路案内中に赤信号や一時停止位置等により停止しているとナビゲーションが判断した場合、端末送信部204はその間に同じ位置のプローブ情報が複数送信されることを防止するためにサーバ11へのプローブ情報の送信を停止してもよい。