(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6324243
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20180507BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20180507BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20180507BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20180507BHJP
B01D 53/90 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
F01N3/28 301Q
F01N3/08 B
F01N3/10 A
B01D53/86 222
B01D53/90
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-142169(P2014-142169)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2016-17495(P2016-17495A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林崎 圭一
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−40550(JP,A)
【文献】
特開2009−299521(JP,A)
【文献】
特開2012−176856(JP,A)
【文献】
特開2012−87703(JP,A)
【文献】
特開2012−92690(JP,A)
【文献】
特開2001−41028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
B01D 53/86
B01D 53/90
F01N 3/08
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管の途中に設置され、燃料を還元剤としてNOxを還元浄化する銀系HC選択還元型触媒を備えた排気浄化装置であって、前記銀系HC選択還元型触媒に添加されるチタンの含有量が前記銀系HC選択還元型触媒内の上流側と下流側で異なるようにし、NOxの低減率を向上させたことを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
前記銀系HC選択還元型触媒は、上流側と下流側の二段に分割して設置され、下流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量が、上流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量より多いことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記銀系HC選択還元型触媒は、チタンの含有量が上流側から下流側に向かって勾配をなして増加するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤に燃料を用いて排気中のNOxを還元浄化する排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンにおいては、排気が導かれる排気管の途中に、酸素共存下でも選択的にNOx(窒素酸化物)を還元剤としてのHC(炭化水素)と反応させ得るよう反応選択性を高めたHC選択還元型触媒(HC-SCR:Hydrocarbon-Selective Catalytic Reduction)を配設し、該HC選択還元型触媒の排気上流側に必要量の燃料を添加することにより、該燃料から分解生成されるHCを前記HC選択還元型触媒上で排気中のNOxと還元反応させ、これによりNOxの排出量の低減を図るようにしたものがある。
【0003】
図5はこのような排気浄化触媒の一例を示すもので、1はターボチャージャ2を装備したディーゼルエンジンを示しており、エアクリーナ3から導かれた吸気4が吸気管5を通しターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4がインタークーラ6へ送られて冷却され、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へ吸気4が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒8(
図5では直列6気筒の場合を例示している)に分配されるようになっており、また、ディーゼルエンジン1の各気筒8から排出された排気ガス9は、排気マニホールド10を介しターボチャージャ2のタービン2bへ送られ、該タービン2bを駆動した後に排気管11へ送り出されるようになっている。
【0004】
そして、排気管11の途中に、上流側から順次、白金系HC選択還元型触媒12、銀系HC選択還元型触媒13、アンモニア選択還元型触媒14が配設されていると共に、白金系HC選択還元型触媒12の入側と、銀系HC選択還元型触媒13の入側には、それぞれ排気ガス9に対して燃料を添加供給するための燃料添加装置15,15が装備されている。
【0005】
白金系HC選択還元型触媒12は、ゼオライトまたはアルミナの担体に活性金属としてPt、Pb、Rh、Ir等の白金系金属を担持させたものであり、180〜300℃の比較的低い温度域において高いNOx低減活性をもつ。銀系HC選択還元型触媒13は、ゼオライトまたはアルミナの担体に活性金属としてAgを担持させたもので、180〜500℃の広い温度域でNOx低減活性を有する。このように、温度特性の異なる複数の種類の触媒を直列に配置しているのは、触媒同士で互いの活性の低い温度域におけるNOx低減活性を補い合い、広い温度範囲で排気中のNOxを低減できるようにするためである。
【0006】
燃料添加装置15は、燃料が貯留される燃料タンク16と、該燃料タンク16に貯留された燃料を圧送する燃料加圧ポンプ17と、該燃料加圧ポンプ17で圧送される燃料を白金系HC選択還元型触媒12または銀系HC選択還元型触媒13の入側に噴霧する燃料添加ノズル18とを備え、燃料タンク16に貯留された燃料を燃料加圧ポンプ17により燃料添加ノズル18へ圧送し、該燃料添加ノズル18から排気管11を流れる排気ガス9に対して燃料を噴霧する。噴霧された燃料からはHCが分解生成され、白金系HC選択還元型触媒12または銀系HC選択還元型触媒13上で排気ガス9中のNOxと反応してNOxを還元浄化し、NOxの排出量を低減するようになっている。
【0007】
またこのとき、一部のNOxからは還元反応によりNH
3が生成される。このNH
3が下流のアンモニア選択還元型触媒14上でNOxと反応することにより、NOxをさらに良好に低減し得るようになっている。
【0008】
尚、この種の排気浄化装置と関連する一般的技術水準を示す文献としては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−92690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の従来例においては、前記したように、広い温度範囲で排気中のNOxを低減し得るよう、排気管11中に温度特性の異なる複数の種類の触媒、白金系HC選択還元型触媒12と銀系HC選択還元型触媒13を直列に配置している。しかしながら、排気温度がおよそ250℃程度までの比較的低い温度域においては、銀系HC選択還元型触媒13のNOx低減性能が低く、NH
3の生成量が少ない。このため、排気温度の低い低速の運転状態では、アンモニア選択還元型触媒14においてNH
3を用いた還元反応によりNOxを好適に浄化することができないという問題があった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、銀系HC選択還元型触媒の低温性能を向上し、低温域でも好適にNOxを低減し得る排気浄化装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、排気管の途中に設置され、燃料を還元剤としてNOxを還元浄化する銀系HC選択還元型触媒を備えた排気浄化装置であって、前記銀系HC選択還元型触媒に添加されるチタンの含有量が前記銀系HC選択還元型触媒内の上流側と下流側で異なるようにし、NOxの低減率を向上させたことを特徴とする排気浄化装置にかかるものである。
【0013】
而して、このようにすれば、銀系HC選択還元型触媒内の上流側と下流側でチタン含有量を同じにした場合と比較して、幅広い温度域で銀系HC選択還元型触媒のNOx低減性能を高め得る。
【0014】
本発明を具体的に実施するにあたっては、前記銀系HC選択還元型触媒は、上流側と下流側の二段に分割して設置され、下流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量が、上流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量より多いように構成されていることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、上流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量が、下流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量より多いようにした場合と比較して、さらにNOxの低減性能を高め得る。
【0016】
また、本発明を具体的に実施するにあたっては、前記銀系HC選択還元型触媒は、チタンの含有量が上流側から下流側に向かって勾配をなして増加するように構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排気浄化装置によれば、銀系HC選択還元型触媒の低温性能を向上し、幅広い温度域で好適にNOxを低減し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】本発明の実施例の効果を示すヒストグラムである。
【
図5】一般的な排気浄化装置の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
本実施例の排気浄化装置の全体構成は、
図5に示した一般的な排気浄化装置と略同様である。以下、上記従来例と同じ構成については
図5と同じ符号を用い、
図5に示す一般的な排気浄化装置に準じて説明する。
【0021】
エアクリーナ3から導かれた吸気4は、吸気管5を通してターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4がインタークーラ6へ送られて冷却され、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へ吸気4が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒8に分配される。ディーゼルエンジン1の各気筒8から排出された排気ガス9は、排気マニホールド10を介しターボチャージャ2のタービン2bへ送られ、該タービン2bを駆動した後に排気管11へ送り出される。
【0022】
排気管11の途中には、上流側から順次、白金系HC選択還元型触媒12、銀系HC選択還元型触媒13、アンモニア選択還元型触媒14が設置され、前記白金系HC選択還元型触媒12の入側と、銀系HC選択還元型触媒13の入側には、それぞれ排気ガス9に対して燃料を添加供給するための燃料添加装置15,15が装備されている。
【0023】
燃料添加装置15は、燃料タンク16、燃料加圧ポンプ17、燃料添加ノズル18を備え、燃料タンク16から燃料加圧ポンプ17を通して供給した燃料を燃料添加ノズル18から排気管11を流れる排気ガス9に対して噴霧し、前記白金系HC選択還元型触媒12および銀系HC選択還元型触媒13は、燃料添加装置15から供給された燃料を還元剤としてNOxを還元浄化する。
【0024】
本実施例の特徴とするところは、
図1に示す如く、銀系HC選択還元型触媒13を上流側の銀系HC選択還元型触媒19aと下流側の銀系HC選択還元型触媒19bの二段に分割して配置し、且つ、上流側の銀系HC選択還元型触媒19aと下流側の銀系HC選択還元型触媒19bの間で添加されるチタンの含有量が異なるようにした点にある。
【0025】
銀系HC選択還元型触媒13の組成について説明すると、銀系HC選択還元型触媒13は、アルミナの担体に活性金属として銀を担持させたものである。尚、担体としてはアルミナの代わりにゼオライトを用いても良い。このような銀系HC選択還元型触媒においては、触媒中の銀粒子同士が加熱によって結合し大きい粒子になるシンタリングと呼ばれる現象が発生し、これにより触媒表面積が小さくなって触媒活性が低下する問題があるが、ここに更にチタン(単体のチタンTiまたは酸化チタンTiO
2)を添加すると、チタンの粒子によってシンタリングの発生を抑える効果があることが知られている。このため、排気浄化装置に使われる銀系HC選択還元型触媒に対し、微量のチタンを添加することが行われている。また、銀系HC選択還元型触媒にチタンを添加すると、該チタンの含有量によって触媒の温度特性が変化することも知られている。
【0026】
本実施例の銀系HC選択還元型触媒13は、添加物として単体のチタンを含む。そして、本実施例の排気浄化装置の銀系HC選択還元型触媒13においては、上流側の銀系HC選択還元型触媒19aでチタンの含有量を重量比で銀の0.7%、下流側の銀系HC選択還元型触媒19bで銀の1.0%とし、下流側の銀系HC選択還元型触媒19bにおけるチタンの含有量を、上流側の銀系HC選択還元型触媒19aにおけるチタンの含有量より多くしてある(以下、上流側にチタンの含有量が0.7%の触媒を配置し、下流側にチタンの含有量が1.0%の触媒を配置した銀系HC選択還元型触媒を0.7+1.0タイプ触媒と表記する)。尚、チタンの含有量はこの数値に限定されるものではなく、実施の形態によっては別の数値としても良い。また、単体のチタンの代わりに酸化チタンを添加する構成としても良い。
【0027】
また、
図2に示す如く、銀系HC選択還元型触媒を分割することなく、チタンの含有量が上流側から下流側に向かって勾配をなして増加する銀系HC選択還元型触媒20として構成しても良い。
図2に示す例では、銀系HC選択還元型触媒20のチタンの含有量は、上流側端部で銀に対し重量比で0.5%、下流側端部で1.5%となっており、上流側端部から下流側端部に向かって連続的に変化するようになっている。尚、チタン含有量の数値ないし分布はこれに限定されるものではなく、別の数値としても良いし、また例えば、チタン含有量の分布は連続的に変化するものではなく、断続的に変化するようにしても良い。
【0028】
次に、上記した実施例の作動を説明する。
【0029】
図3は本実施例による排気浄化装置のNOx低減性能を示すもので、ここでは、上記0.7+1.0タイプ触媒のNOx低減率を、一定の濃度のNOxを含むモデルガスを用いて従来例と比較している。
【0030】
まず、四角形のシンボルで示す線図は、銀系HC選択還元型触媒を上流側と下流側の二段配置するが、上流側と下流側でチタン含有量を同じにしたものの温度特性を表している。この触媒の配置は、すなわち、従来例と同等の構成であると言える。添加するチタンとしては単体のチタンを用いており、チタン含有量は上流側、下流側ともに重量比で銀の0.7%である(以下、0.7+0.7タイプ触媒と表記する)。×のシンボルで示されている線図も、チタン含有量の同じ銀系HC選択還元型触媒を二段配置した従来例と同等のものの温度特性を表している。添加するチタンとしては単体のチタンを用い、チタン含有量は上流側、下流側ともに重量比で銀の1.0%である(以下、1.0+1.0タイプ触媒と表記する)。この2つを比較すると、四角形のシンボルで表される0.7+0.7タイプ触媒ではNOx低減率のピークが400℃付近に位置しているが、×のシンボルで表される1.0+1.0タイプ触媒ではピークが高温側にずれ、より高温側においてNOx低減率が高くなり、低温側(〜350℃)では逆に、0.7+0.7タイプ触媒と比較してNOx低減率がやや低くなる温度域が存在する。このように、チタン含有量を変更することによって銀系HC選択還元型触媒の温度特性を調整できることは、従来知られている通りである。
【0031】
そして、丸形のシンボルで示す線図が、本実施例の0.7+1.0タイプ触媒の温度特性を表すものである。本実施例のように触媒の上流側と下流側でチタン含有量が異なるようにし、下流側のチタン含有量を上流側に比べて多くした場合、この
図3の線図に示す通り、0.7+0.7タイプ、1.0+1.0タイプのいずれと比較しても、ほぼ全温度域にわたってNOxの低減率が高くなっている。すなわち、0.7+0.7タイプ触媒と1.0+1.0タイプ触媒を比較した場合には、0.7+0.7タイプ触媒がより低温向き、1.0+1.0タイプ触媒がより高温向きであるといえるが、本実施例の0.7+1.0タイプ触媒は、200〜350℃の比較的低温域においても、350〜500℃の比較的高温域においても、0.7+0.7タイプ触媒と1.0+1.0タイプ触媒のいずれよりもNOx低減性能が高くなっている。
【0032】
また
図3には、上記実施例の0.7+1.0タイプ触媒とは逆に、上流側にチタンを重量比で銀の1.0%含む触媒を、下流側にチタンを銀の0.7%含む触媒を配置した銀系HC選択還元型触媒(以下、1.0+0.7タイプ触媒と表記する)の温度特性を示している。三角形のシンボルで図示した線図がそれであり、0.7+1.0タイプ触媒ほど顕著ではないものの、この1.0+0.7タイプ触媒においても、0.7+0.7タイプ触媒、1.0+1.0タイプ触媒のいずれと比較しても、ほぼ全温度域にわたってNOxの低減率が高くなることが判明している。
【0033】
このように、銀系HC選択還元型触媒内の上流側と下流側でチタン含有量が異なるよう構成することにより、上流側と下流側でチタン含有量を同じにした場合と比較して、NOxの低減率を向上させることができる。すなわち、単にチタン含有量が異なる触媒同士で互いの温度特性の違いを補い合うだけでなく、幅広い温度域で銀系HC選択還元型触媒のNOx低減性能を高め得る。この作用は、本発明の発明者が鋭意研究の結果見出した新規な事実である。
【0034】
尚、このとき、上記の如く、下流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量が、上流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量より多いようにすると、上流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量が、下流側の前記銀系HC選択還元型触媒におけるチタンの含有量より多いようにした場合と比較して、さらにNOxの低減性能を高め得る。
【0035】
図4には、本実施例の排気浄化装置を搭載したエンジンを実際に運転した場合のNOxの低減性能を示しているが、従来例の排気浄化装置と比較して、実際にNOxの低減率が10%程度も上昇しており、顕著なNOx低減性能の向上が認められる。
【0036】
したがって、上述した本実施例によれば、銀系HC選択還元型触媒の低温性能を向上し、幅広い温度域で好適にNOxを低減し得る。
【0037】
尚、本発明の排気浄化装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
11 排気管
13 銀系HC選択還元型触媒
19a 上流側の銀系HC選択還元型触媒
19b 下流側の銀系HC選択還元型触媒
20 銀系HC選択還元型触媒