特許第6324692号(P6324692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000003
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000004
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000005
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000006
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000007
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000008
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000009
  • 特許6324692-円すいころ軸受 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6324692
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20180507BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20180507BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20180507BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C19/36
   F16C33/58
   F16C33/66 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-201378(P2013-201378)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-68378(P2015-68378A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】下河内 勇太
(72)【発明者】
【氏名】上野 崇
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−150620(JP,U)
【文献】 特開2008−202785(JP,A)
【文献】 実開平01−085521(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46−33/66
F16C 19/34−19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面に軌道面を有する内輪と、内径面に軌道面を有する外輪と、内輪と外輪との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、前記保持器は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを有し、下部が油浴に漬かる円すいころ軸受であって、
外輪の軌道面を構成する内径面の大径側にのみ内径方向に突出する鍔部を設けるとともに、内輪の軌道面を構成する外径面の小径側及び大径側をこの軌道面と連続する傾斜面とし、かつ、前記保持器の小径側環状部には、内径側へ突出する周方向内鍔部と外径側へ突出する周方向外鍔部とを設け、さらに、前記保持器の柱部が、円すいころの軸心線よりも内径側で配置されるとともに、周方向外鍔部の径方向長さが周方向内鍔部の径方向長さよりも長くしたことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
軸受回転中における保持器非振れ回り状態および保持器振れ回り状態において、保持器周方向内鍔部が内輪と非接触状態であるとともに、周方向外鍔部が外輪と非接触状態であることを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記保持器の周方向内鍔部の内径端を、内輪の軌道面の傾斜角度と同一の傾斜角度の傾斜面とするとともに、前記保持器の周方向外鍔部の外径端を、外輪の軌道面の傾斜角度と同一の傾斜角度の傾斜面とし、かつ、周方向内鍔部の傾斜面を、前記保持器の柱部と比較して、内輪の軌道面に連続する小径側傾斜面に近接対峙させるとともに、周方向外鍔部の傾斜面を、前記保持器の柱部と比較して、外輪の軌道面に連続する小径側傾斜面に近接対峙させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記保持器は樹脂保持器であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のすいころ軸受。
【請求項5】
前記保持器の柱部は、保持器非振れ回り状態では内輪の軌道面には接触せず、保持器振れ回り状態では内輪の軌道面に非接触もしくは、所定タイミング時のみ接触することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関し、特に、自走車両等の動力伝達軸を支持する箇所に使用される円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、一般には、図8に示すように、外周面に円すい状の軌道面101を有する内輪102と、内周面に円すい状の軌道面103を有する外輪104と、内輪102の軌道面101と外輪104の軌道面103との間に転動自在に介在した複数の円すいころ105と、複数の円すいころ105を軸受周方向に所定の間隔を隔てて保持する保持器106とを主要な構成要素としている。また、内輪102は、軌道面101の小径側に小鍔107を形成すると共に大径側に大鍔108を形成している。
【0003】
保持器106は、小径リング部109と大径リング部110との間に複数本の柱部111を有し、柱部111の相互間に円すいころ103を保持するポケット112を形成したものである。そして、このポケット112に円すいころ105が配置される。
【0004】
ところで、従来には、潤滑油の流動抵抗にトルク損失を低減することが可能なものが提案されている(特許文献1)。この場合、図6に示すように、保持器106の柱部111に切欠き121a、121bを設けて、内輪102の軌道面101に沿って大鍔108まで到る潤滑油の量を少なくして、軸受内部に滞留する潤滑油の量を減らし、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を低減できるようにしている。
【0005】
具体的には、前記特許文献1では、図6に示すように、円すいころ軸受が高速で回転してその下部が油浴に漬かると、油浴の潤滑油が円すいころ105の小径側から保持器106の外径側と内径側とに分かれて軸受内部へ流入し、保持器106の外径側から外輪へ流入した潤滑油は、外輪104の軌道面103に沿って円すいころの大径側へ通過して軸受内部から流出する。一方、保持器106の内径側から内輪側へ流入する潤滑油は、保持器106の小環状部の鍔120と内輪102の小鍔107との隙間Sが狭く設定されているので、保持器106の外径側から流入する潤滑油よりも遥かに少なく、かつ、この隙間Sから流入する潤滑油の大半は、柱部111に設けた小径側の切欠き121aを通過して、保持器106の外径側へ移動する。したがって、そのまま内輪102の軌道面101に沿って大鍔108まで到る潤滑油の量は非常に少なくなり、軸受内部に滞留する潤滑油の量を減らすことができる。なお、内輪102の軌道面101に沿って流れた潤滑油の一部は、柱部111に設けた大径側の切欠き121bを介して外輪104の軌道面101側へ流れる。
【0006】
また、従来には、軸受の負荷容量を確保するために、前記図8における内輪102において、小鍔107を省略したものがある(特許文献2)。図7に示すように、この円すいころ軸受は、外径面に軌道面155を有する内輪151と、内径面に一対の軌道面160,160を有する外輪152と、内輪151と外輪152との間に転動自在に配された複数の円すいころ153と、円すいころ153を円周所定間隔に保持する保持器154とを備える。また、内輪151の外径面の大径側にのみ円すいころ153を案内する鍔部156を設けたものである。保持器154は、大径側環状部161と、小径側環状部162と、大径側環状部161と小径側環状部162とを連結する柱部163とを備えた樹脂保持器である。
【0007】
このように、内輪おいて小鍔を省略したことによって、保持器154の大径側環状部161に引っ掛け部165を設けている。すなわち、引っ掛け部165は、周方向に沿って所定ピッチで複数個が配置され、大径側環状部161から内径方向へ突出した引っ掛け片からなり、この引っ掛け部165が内輪151の鍔部156に係合するものであり、具体的には、内輪151の鍔部156に切欠部166を形成し、この切欠部166に引っ掛け部165を係合させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−24168号公報
【特許文献2】特開2008−303942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の円すいころ軸受では、軸受内部への潤滑油の流入を制限する為に、保持器の内径と、内輪の小鍔との相対位置を近づける形状としている。すなわち、図6に示すように、潤滑油が外輪側に早期に流れるため、潤滑油の攪拌抵抗は低減するが、内輪の大鍔側への潤滑油供給量が少なくなり、特に、使用環境下で潤滑量が少ない場合、焼き付き損傷の懸念がある。
【0010】
また、前記特許文献2に記載の円すいころ軸受では、軸受の負荷容量を確保するため、小鍔を省略したものである。このため、組み立て性を考慮して、保持器の大径側に引っ掛け部を設けている。したがって、内輪の大鍔に周方向切欠部を必要とし、これによって、大鍔の強度低下が懸念される。大鍔の強度を確保するため、大鍔の幅(厚さ)を大きくする必要がある。しかしながら、大鍔の幅を大きくすれば、負荷容量が減少することになる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、軸受に負荷容量を確保しつつ小型化を図ることができ、さらに、軸受の回転トルク低減を可能とした円すいころ軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の円すいころ軸受は、外径面に軌道面を有する内輪と、内径面に軌道面を有する外輪と、内輪と外輪との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、前記保持器は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを有し、下部が油浴に漬かる円すいころ軸受であって、外輪の軌道面を構成する内径面の大径側にのみ内径方向に突出する鍔部を設けるとともに、内輪の軌道面を構成する外径面の小径側及び大径側をこの軌道面と連続する傾斜面とし、かつ、前記保持器の小径側環状部には、内径側へ突出する周方向内鍔部と外径側へ突出する周方向外鍔部とを設け、さらに、前記保持器の柱部が、円すいころの軸心線よりも内径側で配置されるとともに、周方向外鍔部の径方向長さが周方向内鍔部の径方向長さよりも長くしたものである。
【0013】
本発明の円すいころ軸受によれば、周方向内鍔部と周方向外鍔部とが設けられることによって、軸受内部への入り口部分のクリアランスを狭くできる。これによって、軸受内部への潤滑油の流入量が減ることになる。ところが、外輪の大径側に内径側へ突出する鍔部が設けられているので、外輪側へ流入した潤滑油がこの鍔部によって軸受外部への流出量を減少させることができる。
【0014】
外輪の軌道面の大径側に鍔部が形成されているが、内輪の外径面には、小鍔と大鍔とが省略されているので、軸受サイズに影響しない従来の余白スペースを活用できる。
【0015】
軸受回転中における保持器非振れ回り状態および保持器振れ回り状態において、保持器周方向内鍔部が内輪と非接触状態であるとともに、周方向外鍔部が外輪と非接触状態であることが好ましい。
【0016】
前記保持器の周方向内鍔部の内径端を、内輪の軌道面の傾斜角度と同一の傾斜角度の傾斜面とするとともに、前記保持器の周方向外鍔部の外径端を、外輪の軌道面の傾斜角度と同一の傾斜角度の傾斜面とし、かつ、周方向内鍔部の傾斜面を、前記保持器の柱部に比較して、内輪の軌道面に連続する小径側傾斜面に近接対峙させるとともに、周方向外鍔部の傾斜面を、前記保持器の柱部に比較して、外輪の軌道面に連続する小径側傾斜面に近接対峙させるものであってもよい。
【0017】
前記保持器は樹脂保持器であるのが好ましい。樹脂製すなわちエンジニアリングプラスチック製とすれば、樹脂製保持器は軸受の組立において底拡げ、かしめといった作業が不要となるため、所要の寸法精度を確保することが容易である。また、樹脂製保持器は鉄板製に比べ保持器重量が軽く、自己潤滑性があり、摩擦係数が小さいという特徴があるため、軸受内に介在する潤滑油の効果と相俟って、内輪との接触による摩耗の発生を抑えることが可能になる。また、樹脂製保持器は重量が軽く摩擦係数が小さいため、軸受起動時のトルク損失や保持器摩耗の低減に好適である。
【0018】
保持器の柱部が円すいころの軸心線よりも内径側に配置されたものでは、外輪の鍔部に柱部が影響されることなく円すいころを保持することができる。しかも、円すいころを円すいころの軸心線よりも内径側で保持することができ、保持器に柱幅を確保した状態で、周方向に沿って相隣位する円すいころの間隔を小さく設定できる。これに対して、保持器の柱部が円すいころの軸心線に対応する位置であれば、円すいころを円すいころの軸心線上において保持することになって、保持器に柱幅を確保しようとすれば、周方向に沿って相隣位する円すいころの間隔が大きくなる。
【0019】
前記保持器の柱部は、保持器非振れ回り状態では内輪の軌道面には接触せず、保持器振れ回り状態では内輪の軌道面に非接触もしくは、所定タイミング時のみ接触するものとできる。ここで、所定タイミング時のみ接触するとは、保持器振れ回り発生時に常時接触するものではなく、保持器振れ回り発生時であっても、接触する周期を有することであり、その接触時間も比較的短時間である。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、周方向内鍔部と周方向外鍔部とで、軸受内部への入り口部分のクリアランスを狭めることで、潤滑油の侵入が必要最低限に抑えることができ、潤滑油の粘性による油の攪拌トルクを低減することができる。
【0021】
しかも、外輪の大径側に内径側へ突出する鍔部を設けていることによって、安定した潤滑が可能となって、焼き付け損傷を防止できる。また、従来の余白スペースを活用でき、負荷容量のアップや軸受サイズのコンパクト化が可能となる。
【0022】
また、軸受回転中においては、保持器周方向内鍔部が内輪と非接触状態であり、周方向外鍔部が外輪と非接触状態であるよう設定されたものでは、安定した回転状態を得ることができる。
【0023】
周方向内鍔部の傾斜面を、内輪の軌道面に連続する小径側傾斜面に近接対峙させるとともに、周方向外鍔部の傾斜面を、外輪の軌道面に連続する小径側傾斜面に近接対峙させたものでは、軸受内部への潤滑油の入り口部分のクリアランスが軌道面に沿ったものとなって、軸受内部への潤滑油の流入を滑らかに行える。
【0024】
保持器を樹脂保持器とすれば、保持器の射出成型が可能となり、複雑な形状でも安価に安定して成型できる。
【0025】
保持器の柱部が円すいころの軸心線よりも内径側に配置されたものでは、外輪の鍔部に柱部が影響されることなく円すいころを保持することができる。しかも、保持器に柱幅を確保しつつ、ころ間隙間を狭くすることができ、ころ本数増加を図ることができて、負荷容量の増大が可能となる。これに対して、柱部が、円すいころの軸心線上に配設されるものでは、保持器に柱幅を確保しようとすれば、周方向に隣り合うころの間隔(前記ころ間隙間)が比較的大きくなって、ころ本数増加を図ることができない。
【0026】
また、保持器振れ回り状態では内輪の軌道面に非接触もしくは、所定タイミング時のみ接触するものでは、保持器がこの軸受の回転を影響を及ぼすことなく、この軸受は安定して回転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の円すいころ軸受の実施形態を示す断面図である。
図2】前記図1に示す円すいころ軸受の要部拡大図である。
図3】保持器の柱部と円すいころとの関係を示し、(a)は柱部が円すいころの軸心線よりも内径側に配設された状態の説明図であり、(b)は柱部が円すいころの軸心線上に配設された状態の説明図である。
図4】従来品と比較した本発明品を示し、(a)は内径を35mmとし、外径を72mmとし、幅を17.95mmとした円すいころ軸受の断面図であり、(b)は内径を35mmとし、外径を72mmとし、幅を20.75mmとした円すいころ軸受の断面図である。
図5】内径が35mmとし、外径が72mmとし、幅が20.75mmである従来品の円すいころ軸受である。
図6】従来の円すいころ軸受の潤滑油に流を示す要部断面図である。
図7】他の従来の円すいころ軸受の断面図である。
図8】前記図6の円すいころ軸受に対応する円すいころ軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下本発明の実施の形態を図1図2とに基づいて説明する。円すいころ軸受は、外径面1に軌道面2を有する内輪3と、内径面4に軌道面5を有する外輪6と、内輪3と外輪6との間に転動自在に配された複数の円すいころ7と、円すいころ7を円周所定間隔に保持する保持器8とを備える。前記保持器8は、大径側環状部11と、小径側環状部10と、大径側環状部11と小径側環状部10とを連結する柱部12とを有し、大径側環状部11と小径側環状部10と柱部12とで、円すいころ7が嵌入するポケット13が形成される。このため、ポケット13は、周方向に沿って所定ピッチで複数個配設される。
【0029】
内輪3の外径面1には、円すいころ7が転動する軌道面2と、この軌道面2よりも小径側にこの軌道面2に連続して軌道面2と傾斜角度が同じ小径側傾斜面15と、この軌道面よりも大径側にこの軌道面2に連続して軌道面2と傾斜角度が同じ大径側傾斜面16とを有するものである。なお、大径側傾斜面16よりも大径側においては、周方向切欠部17が設けられている。
【0030】
外輪6の内径面4の大径側にのみ内径方向に突出する鍔部20を設けている。また、鍔部20の円すいころ当接面(円すいころ7の大端面7aが当接する面)20aと軌道面5とのコーナ部に、断面半円形状のぬすみ部21が形成されている。
【0031】
前記保持器8は、その柱部12は、内輪3の軌道面2と外輪6の軌道面5との間に介在される円すいころ7の軸心線L1よりも内径側に配置される。また、前記保持器8の小径側環状部10には、内径側へ突出する周方向内鍔部22と外径側へ突出する周方向外鍔部23とを設けている。この場合、周方向内鍔部22及び周方向外鍔部23は軸受軸心Lに対して直交する方向に延びる。
【0032】
このため、周方向外鍔部23の径方向長さが周方向内鍔部22の径方向長さよりも長くなっている。また、周方向内鍔部22の内径端を、内輪3の軌道面2の傾斜角度と同一の傾斜角度の傾斜面22aとするとともに、周方向外鍔部23の外径端を、外輪6の軌道面5の傾斜角度と同一の傾斜角度の傾斜面23aとしている。
【0033】
周方向内鍔部22の傾斜面22aを、内輪3の軌道面2に連続する小径側傾斜面15に近接対峙させるとともに、周方向外鍔部23の傾斜面23aを、外輪6の軌道面に連続する小径側傾斜面25に近接対峙させている。この場合、軸受回転中における保持器非振れ回り状態および保持器振れ回り状態において、周方向内鍔部22が内輪3と非接触状態であるとともに、周方向外鍔部23が外輪6と非接触状態である。
【0034】
このため、内輪3の小径側傾斜面15とこれに対向する周方向内鍔部22の傾斜面22aとでもって、軸受内部への潤滑油通路26を形成する。また、外輪6の小径側傾斜面25とこれに対向する周方向外鍔部23の傾斜面23aとでもって、軸受内部への潤滑油通路27を形成する。この場合、内輪3の小径側傾斜面15及び周方向内鍔部22の傾斜面22aは、内輪3の軌道面2の傾斜角度と同一の傾斜角度で傾斜しているので、潤滑油通路26は、内輪3の軌道面2に沿った通路となる。また、外輪6の小径側傾斜面25及び周方向外鍔部23の傾斜面23aは、外輪6の軌道面5の傾斜角度と同一の傾斜角度で傾斜しているので、潤滑油通路27は、外輪6の軌道面5に沿った通路となる。
【0035】
保持器8としては、鉄板製保持器や樹脂製保持器である。この樹脂としてはエンジニアリングプラスチックが好ましい。鉄板製保持器は耐油性(油への浸漬による材質劣化)を気にせず使用することができる。しかしながら、樹脂製であるエンジニアリングプラスチック製とすれば、鉄板製保持器は耐油性(油への浸漬による材質劣化)を気にせず使用できるというメリットがある。また、樹脂製すなわちエンジニアリングプラスチック製とすれば、樹脂製保持器は軸受の組立において底広げ、かしめといった作業が不要となるため、所要の寸法精度を確保することが容易である。また、樹脂製保持器は鉄板製に比べ保持器重量が軽く、自己潤滑性があり、摩擦係数が小さいという特徴があるため、軸受内に介在する潤滑油の効果と相俟って、外輪との接触による摩耗の発生を抑えることが可能になる。また、樹脂製保持器は重量が軽く摩擦係数が小さいため、軸受起動時のトルク損失や保持器摩耗の低減に好適である。なお、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは、合成樹脂のなかで主に耐熱性が優れており、強度が必要とされる分野に使うことのできるものをいう。さらに耐熱性・強度を増した樹脂をスーパーエンプラと呼び、このスーパーエンプラを使用してもよい。
【0036】
エンジニアリングプラスチックには、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、GF強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)等がある。また、スーパーエンジニアリングプラスチックには、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリメチルベンテン(TPX)、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド11,12(PA11,12)、フッ素樹脂、ポリフタルアミド(PPA)等がある。
【0037】
この場合、前記スーパーエンプラの中で耐油性が高く、強度及び靭性に優れているPPS(ポニフェニレンサルファイド)が好適である。PPSとは、フェニル基(ベンゼン環)とイオウ(S)が交互に繰り返される分子構造を持った高性能エンジニアリングプラスチックである。結晶性で,連続使用温度は200℃〜220℃,高荷重(1.82MPa)での荷重たわみ温度が260℃以上と耐熱性に優れ,しかも引っ張り強さや曲げ強さが大きい。成形時の収縮率は0.3〜0.5%と小さいので寸法安定性が良い。難燃性や耐薬品性の点でも優れている。PPSは,架橋型,直鎖型,半架橋型の3種に大別できる。架橋型は低分子量ポリマーを架橋して高分子量化したもので,脆く,ガラス繊維で強化したグレードが中心である。直鎖型は重合段階で架橋工程がなしに高分子量化したもので,靭性が高い。半架橋型は,架橋型と直鎖型の特性を併せ持つ特徴を持っている。
【0038】
次に、前記円すいころ軸受の潤滑油の流を図2を用いて説明する。円すいころ軸受が高速で回転してその下部が油浴に漬かると、油浴の潤滑油が円すいころ7の内径側の通路26及び外径側の通路27から、矢印α、βに示すように、保持器8の内径側と外径側とに分かれて軸受内部へ流入する。
【0039】
そして、矢印αのように、軸受内部の内径側に流入した潤滑油は、内輪3の軌道面2にそってそのまま矢印α1に示すように、軸受外部へ流出するものと、矢印α2に示すように、ポケット13を介して保持器の柱部12よりも外径側へ流れて軸受外部へ流出するものとに分流する。また、矢印βのように、軸受内部の外径側に流入した潤滑油は、外輪6の軌道面5にそって流れて、鍔部20を介して軸受外部へ流出することになる。
【0040】
この円すいこ軸受では、周方向内鍔部22と周方向外鍔部23とを設けることによって、軸受内部への入り口(通路26及び通路27)は形成され、しかもこの入り口部分のクリアランスを狭くなっている。このため、潤滑油の侵入が必要最低限に抑えることができ、潤滑油の粘性による油の攪拌トルクを低減することができる。
【0041】
しかも、外輪6の大径側に内径側へ突出する鍔部20を設けていることによって、外輪6側へ流入した潤滑油がこの鍔部20によって軸受外部への流出量を減少させることができる。これによって、安定した潤滑が可能となって、焼き付け損傷を防止できる。外輪6の軌道面5の大径側に鍔部が形成されているが、内輪3の外径面には、小鍔と大鍔とが省略されているので、軸受サイズに影響しない従来の余白スペースを活用でき、負荷容量のアップや軸受サイズのコンパクト化が可能となる。
【0042】
また、軸受回転中においては、保持器周方向内鍔部22が内輪3と非接触状態であり、周方向外鍔部24が外輪6と非接触状態であるよう設定されたものでは、安定した回転状態を得ることができる。
【0043】
周方向内鍔部22の傾斜面22aを、内輪3の軌道面2に連続する小径側傾斜面15に近接対峙させるとともに、周方向外鍔部23の傾斜面23aを、外輪6の軌道面5に連続する小径側傾斜面に近接対峙させたものでは、軸受内部への入り口部分のクリアランスが軌道面2,5に沿ったものとなって、軸受内部への潤滑油の流入を滑らかに行える。
【0044】
保持器8を樹脂保持器とすれば、この保持器8の射出成型が可能となり、複雑な形状でも安価に安定して成型できる。
【0045】
保持器8の柱部12が円すいころ7の軸心線L1よりも内径側に配置されたものでは、外輪6の鍔部20に柱部12が影響されることなく円すいころ7を保持することができる。また、保持器振れ回り状態では内輪3の軌道面2に非接触もしくは、所定タイミング時のみ接触するものでは、保持器8に柱幅を確保しつつ、ころ間隙間を狭くすることができ、ころ本数増加を図ることができて、負荷容量の増大が可能となる。
【0046】
ところで、保持器8は、前記したように、柱部12がころ軸心線L1よりも内径側に配置される。このため、図3(a)に示すように、円すいころ7を円すいころ7の軸心線L1よりも内径側で保持することができ、保持器8に柱幅を確保した状態で、周方向に沿って相隣位する円すいころ7の間隔を小さく設定できる。これによって、ころ本数増加を図ることができて、負荷容量の増大が可能となる。これに対し、図3(b)に示すように、保持器8の柱部12が円すいころ7の軸心線L1に対応する位置であれば、円すいころ7を円すいころ7の軸心線上において保持することになって、保持器8Aに柱幅を確保しようとすれば、図3(b)に示すように、周方向に沿って相隣位する円すいころ7の間隔が大きくなって、ころ本数増加を図ることができない。
【実施例1】
【0047】
従来品と本発明品1,2と回転トルク等を比較した。次の表1に、これらの軸受サイズ、負荷容量、組立幅、重量、及び回転トルクを記載した、従来品としては、図4に示すように、JISメートル系型番の[30306D](内径d:35mm、外径D:72mm、幅B:20.75mm)のものを用いた。また、本発明品1、2は、この従来の[30306D]をベースとして、図1図2に示すよう形状の保持器を用いた。本発明品1は、図4(a)に示し、軸受サイズは、(内径d:35mm、外径D:72mm、幅W:17.95mm)であり、本発明品2は、図4(b)に示し、軸受サイズは、(内径d:35mm、外径D:72mm、幅W:20.75mm)である。従来品と本発明品1,2の保持器の材料は、従来には鉄板、発明には樹脂とし、潤滑油としては、デフオイルを用いた。また、周方向内鍔22の肉厚寸法を、3mmとし、周方向外鍔23の肉厚寸法を、3mmとした。さらに、自由状態での発明品1の通路26のクリアランスを、0.050mmとし、自由状態での発明品1の通路27のクリアランスを、0.050mmとし、自由状態での発明品2の通路26のクリアランスを、0.050mmとし、自由状態での発明品2の通路27のクリアランスを、0.050mmとした。
【表1】
【0048】
本発明品1では、組立幅を従来品よりも14%のコンパクト化を図ることができ、本発明品2では、基本動定格荷重(C)が従来品に比べて20%増加し、基本静定格荷重(Co)が従来品に比べて24%増加した。そして、回転トルクは、本発明品1及び本発明品2は従来品に比べて低減した。ここで、基本動定格荷重とは、100万回転の定格寿命が得られるような、軸受にかかる方向と大きさが一定の荷重であり、定格寿命(rating life)とは、一群の同じ軸受を同じ条件で運転したとき、そのうちの90%の軸受が転がり疲れによる材料の損傷を起こさずに回転できる総回転数である。また、基本静定格荷重とは、最大応力を受けている接触部で、転動体の永久変形量と軌道輪の永久変形量との和が、転動体の直径の0.0001倍になるような方向と大きさが一定の静止荷重である。
【0049】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、保持器8のポケット13の数は、保持される円すいころ7の数に応じて種々変更できる。また、柱部12の長さや肉厚寸法等も、円すいころ7を保持することが可能な限り種々変更できる。円すいころ軸受として複列のものであってもよい。また、本発明の円すいころ軸受として、ディファレンシャルやトランスミッション等の動力伝達系で使用することができ、さらには、これ以外の用途、例えば工作機械の主軸等の支持に用いることもできる。
【符号の説明】
【0050】
1 外径面
2 軌道面
3 内輪
4 内径面
5 軌道面
6 外輪
7 円すいころ
8 保持器
10 小径側環状部
11 大径側環状部
12 柱部
13 ポケット
20 鍔部
22 周方向内鍔部
22a 傾斜面
23 周方向外鍔部
23a 傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8