特許第6324712号(P6324712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6324712-食品包装フィルム用接着剤 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6324712
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】食品包装フィルム用接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20180507BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   C09J175/06
   B65D65/40 D
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-259407(P2013-259407)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-117257(P2015-117257A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】釜井 教義
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】池田 仁志
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/094341(WO,A1)
【文献】 特開2003−113359(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090900(WO,A1)
【文献】 特開2000−154365(JP,A)
【文献】 特開平08−183943(JP,A)
【文献】 特開平08−183829(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエステルポリウレタンポリオール、
(B)ポリエステルポリオールおよび
(C)イソシアネート成分
が配合されて得られるウレタン樹脂を含む、食品包装フィルム用接着剤であって、
(A)ポリエスエルポリウレタンポリオールは、(a1)ポリエステルポリオールが(a2)イソシアネート化合物で鎖延長され、(a1)ポリエステルポリオールの水酸基と(a2)イソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.60〜0.85であり、
(a1)ポリエステルポリオールの水酸基価が15〜40mgKOH/gであり、
(B)ポリエステルポリオールはガラス転移温度が−20〜10℃であり、
(A)〜(C)の総重量100重量部に対し、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールが20〜70重量部配合されている、食品包装フィルム用接着剤。
【請求項2】
(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのガラス転移温度が−5〜5℃である、請求項1に記載の食品包装フィルム用接着剤。
【請求項3】
(B)ポリエスエルポリオールの水酸基価が10〜50mgKOH/gである、請求項1又は2に記載の食品包装フィルム用接着剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の食品包装フィルム用接着剤を用いて得られた食品包装フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装フィルム用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装用フィルムは、複合ラミネートフィルムであり、厚さ5〜100μm程度の各種プラスチックフィルム、及び/又は金属箔から構成されている。そのプラスチックフィルムとして、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、オレフィンの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル及びポリアミド等のプラスチックフィルムを例示でき、金属箔として、例えば、アルミニウム及びステンレス等の金属箔を例示できる。
【0003】
これらのプラスチックフィルム及び金属箔は、例えば、強度、耐水性、耐透湿性、耐酸素透過性及び耐熱性等の性質に特徴を持つ。従って、必要に応じ2種以上のフィルムをラミネートすることによって、単独のフィルムでは得られない高性能な食品包装フィルムを提供することができる。食品包装フィルムを製造するために使用される接着剤として、主にウレタン接着剤が挙げられる。特許文献1〜3は、ウレタン接着剤を用いて、プラスチックフィルムをラミネートすることで、食品包装フィルムを製造することを開示する。
【0004】
特許文献1は、カルボン酸又はその無水物およびエポキシ樹脂がウレタン樹脂に配合された食品包装フィルム用接着剤を開示する(特許文献1[請求項1]及び[実施例]参照)。特許文献2は、ガラス転移温度が40℃以上のポリエステルポリオールと、ガラス転移温度が40℃未満の有機ポリオールとを混合して得られる混合ポリオールに、ポリイソシアネートを配合して、食品包装用のウレタン接着剤を合成することを開示する(特許文献2[請求項1]及び[実施例]の各合成例参照)。
【0005】
特許文献3は、数平均分子量が高いポリオールと、数平均分子量の低いポリオールとを混合し、この混合ポリオールにポリイソシアネートを配合して合成されるウレタン接着剤を開示する(特許文献3[請求項1]参照)。実施例のポリオールAがポリエスエルポリオールであり、ポリオールBおよびCがポリエーテルポリウレタンポリオールであり、ポリオールDおよびEがポリエステルポリウレタンポリオールである。これらポリオールとポリイソシアネートから合成されたウレタン接着剤で食品包装袋(又はパウチ)を作製し、ボイル殺菌処理後の包装袋の外観を評価している(特許文献3[0068]、[表1]及び[表2]参照)。
【0006】
特許文献4は、シランカップリング剤を必須成分とするラミネート用ウレタン接着剤を開示する(特許文献4[請求項1]参照)。実施例のポリオールAがポリエステルポリウレタンポリオールであり、ポリオールB及びCがポリエステルポリウレタンポリオールである。これらポリオールとポリイソシアネートから合成されたウレタン接着剤で複合フィルムを作製し、この複合フィルムで袋を作り、袋を蒸気滅菌し、袋の剥離状態(デラミネーション)を評価した(特許文献4[0090]、[表1]および[表2]参照)。
【0007】
特許文献1〜4はウレタン接着剤の剥離強度、耐熱性、煮沸時の耐水性の向上を目的としており、これらの文献のウレタン接着剤はいずれも食品包装フィルムの積層に好適である。しかしながら、近年、食品包装フィルム用接着剤には、食品包装袋を作製し、食品包装袋内に内容物を入れ、その内容物を滅菌処理後、ある程度の期間を経ても、包装フィルムの外観に影響を生じないこと、即ち、耐内容物性に優れることが要求されている。更に、フィルムで包装袋を製造する際の作業性を考慮すると、食品包装フィルム用接着剤は、塗工し易い適切な粘度を有し、フィルムを積層後の初期接着性に優れることが重要である。
【0008】
特許文献1〜4のウレタン接着剤は、エポキシ樹脂又はシランカップリング剤の添加、複数のポリオールの混合によって、剥離強度は向上しているが、耐内容物性及び初期接着性についてまだ十分でなく、更に向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2683937号明細書
【特許文献2】特許第3583629号明細書
【特許文献3】特開2003−129024号公報
【特許文献4】特許第4226852号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するためにされたもので、その課題は、プラスチックフィルムを積層して食品包装用フィルム(ラミネートフィルム)を製造する際、塗工し易く(塗工適性に優れ)、塗工後のフィルムへの初期接着性に優れ、更に、食品包装用フィルムを用いて製造される食品包装袋に内容物を入れて滅菌処理をした後に、剥離強度が高く、更にその減菌処理後高温で長期にわたって保管したとしても、包装袋のフィルムの外観が維持できる(耐内容物性に優れる)、食品包装フィルム用接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、ウレタン接着剤を製造する際、特定のポリオール成分を複数種類混合して、イソシアネート成分と配合すると、塗工し易く、初期接着性に優れ、滅菌後の剥離強度が高く、耐内容物性に優れるウレタン樹脂が得られることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明は、一の要旨において、
(A)ポリエステルポリウレタンポリオール、
(B)ポリエステルポリオールおよび
(C)イソシアネート成分
が配合されて得られるウレタン樹脂を含む、食品包装フィルム用接着剤であって、
(A)ポリエスエルポリウレタンポリオールは、(a1)ポリエステルポリオールを(a2)イソシアネート化合物で鎖延長することで得られ、(a2)イソシアネート化合物のイソシアネート基と、(a1)ポリエステルポリオールの水酸基との当量比(NCO/OH)が0.60〜0.85であり、
(B)ポリエステルポリオールはガラス転移温度が−20〜10℃
である、食品包装フィルム用接着剤を提供する。
本発明の接着剤を用いて食品包装フィルムを好適に製造することができ、更に、食品包装フィルムを用いて食品包装袋を好適に製造することができる。
【0013】
本発明の一の態様において、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのガラス転移温度が−5〜5℃である食品包装フィルム用接着剤を提供する。
本発明の他の態様において、(a1)ポリエステルポリオールの水酸基価が15〜40mgKOH/gである食品包装フィルム用接着剤を提供する。
本発明の好ましい態様において、(B)ポリエスエルポリオールの水酸基価が10〜50mgKOH/gである食品包装フィルム用接着剤を提供する。
【0014】
本発明の更に他の態様において、シランカップリング剤を更に含む食品包装フィルム用接着剤を提供する。
本発明の更に好ましい態様において、リン酸を更に含む食品包装フィルム用接着剤を提供する。
【0015】
本発明の更にまた他の態様において、(a2)イソシアネート化合物が脂肪族イソシアネートおよび脂肪環式イソシアネートから選ばれる少なくとも1種を含む食品包装フィルム用接着剤を提供する。
本発明の更にまた好ましい態様において、エポキシ樹脂を更に含む、請求項1〜7のいずれかに記載の食品包装フィルム用接着剤。
【0016】
本発明は、他の要旨において、本発明の接着剤を用いて製造される食品包装フィルム提供する。
本発明は、更に好ましい要旨において、本発明の食品包装フィルムを用いて製造される食品包装袋を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の食品包装フィルム用接着剤は、(A)ポリエステルポリウレタンポリオール;(B)ポリエステルポリオール及び(C)イソシアネート成分が配合されて得られるウレタン樹脂を含み、
(A)ポリエスエルポリウレタンポリオールは、(a1)ポリエステルポリオールを(a2)イソシアネート化合物で鎖延長することで得られ、(a1)ポリエステルポリオールの水酸基と(a2)イソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.60〜0.85であり、
(B)ポリエステルポリオールはガラス転移温度が−20〜10℃であるので、塗工し易く、初期接着性に優れ、滅菌後の剥離強度が高く、耐内容物性に優れる。
【0018】
(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのガラス転移温度が−5〜5℃である場合、食品包装フィルム用接着剤は、接着性がより向上し、滅菌直後、より剥離強度が向上する。
(a1)ポリエステルポリオールの水酸基価が15〜40mgKOH/gである場合、食品包装フィルム用接着剤は、塗工により適する粘度を有し、フィルムへの接着性により優れる。
(B)ポリエスエルポリオールの水酸基価が10〜50mgKOH/gである場合、食品包装フィルム用接着剤は、フィルムへの接着性がより向上する。
【0019】
シランカップリング剤を更に含む場合、食品包装フィルム用接着剤は、養生後のフィルムへの初期接着性、滅菌後の剥離強度がより向上する。
リン酸を更に含む場合、食品包装フィルム用接着剤は、耐内容物性がより向上する。
【0020】
(a2)イソシアネート化合物が脂肪族イソシアネートおよび脂肪環式イソシアネートから選ばれる少なくとも1種を含む場合、食品包装フィルム用接着剤は、耐内容物性がより向上する。
エポキシ樹脂を更に含む場合、食品包装フィルム用接着剤は、耐内容物性がより向上する。
本発明に係る接着剤は、食品包装フィルムを接着するための接着剤として非常に有効である。
本発明の食品包装フィルム用接着剤を用いて製造された食品包装フィルムは、フィルムの剥離がなく、滅菌処理された後、40℃で2週間放置しても、外観維持が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の食品包装フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る食品包装フィルム用接着剤は、(A)ポリエステルポリウレタンポリオール、(B)ポリエステルポリオールおよび(C)イソシアネート成分が配合されて得られるウレタン樹脂を含む。
【0023】
ウレタン樹脂は、(A)ポリエステルポリウレタンポリオール、(B)ポリエステルポリオールおよび(C)イソシアネート成分の3成分を同時に配合して得られるものであっても、(A)成分若しくは(B)成分のいずれかを一成分を、予め(C)成分と反応させ、その後、残り一成分を配合して得られるものであっても良いし、(A)成分と(B)成分とを混合し、その混合ポリオールを(C)成分と反応させても良い。
【0024】
(A)成分及び(B)成分と(C)成分との反応は、既知の方法により行うことができる。溶媒中で(A)〜(C)成分を反応させてウレタン樹脂を生じさせることができるが、溶媒を用いずに(A)〜(C)成分を反応させることもできる。
過剰のイソシアネートを用いて、未反応モノマーイソシアネートを反応混合物中に存在させながら、ウレタン樹脂を得ることもできる。
他の反応操作の態様として、触媒等で反応を制御し、ほんの僅かな量の未反応モノマーイソシアネートを混合物中に存在させ、ウレタン樹脂を得ることもできる。
【0025】
本発明では、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールは、(a1)ポリエステルポリオールを(a2)イソシアネート化合物で鎖延長することで得ることができる。(a2)イソシアネート化合物に由来するイソシアネート基と、(a1)ポリエステルポリオールに由来する水酸基との当量比(NCO/OH)は、0.60〜0.85であるので、本発明の食品包装フィルム用接着剤は、塗工に適した粘度を持ち、初期接着性に優れ、滅菌後の剥離強度が高く、耐内容物性に優れる。
【0026】
当量比(NCO/OH)は、以下の式(I)で算出される。
【数1】
本発明では、(a1)ポリエステルポリオールとは、「主鎖型」ポリエステルであって、「主鎖」にエステル結合と水酸基を有する化合物をいう。この水酸基は、主鎖の末端に通常位置し、イソシアネート基と反応する官能基として作用する。
【0027】
(a1)ポリエステルポリオールは、一般に、低分子ポリオールと、ジカルボン酸又はその無水物との縮合重合反応によって得られる。
そのようなジカルボン酸として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸及びシクロヘキサンジカルボン酸等が例示される。これらは、単独又は組み合わせて使用される。
カルボン酸無水物として、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水トリメリト酸が挙げられる。これらは、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0028】
低分子ポリオールとして、官能基数が1〜3個のものが好ましく、特に、二官能性ポリオール、いわゆるジオールが好ましい。ポリオールは、単独で又は組み合わせて用いることができる。
ジオールとして、例えば、エチレングリコール、1−メチルエチレングリコール、1−エチルエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール及び2,4−ジブチル−1,5−ペンタンジオール等の低分子量ジオールが含まれる。エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール及びデカンジオールから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0029】
本発明では、(a1)ポリエステルポリオールの酸価は、0.1〜2mgKOH/gであることが好ましい。(a1)ポリエステルポリオールの酸価が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤は、より塗工に適した粘度を有し、フィルムへの接着性により優れる。
【0030】
尚、本発明に係る(a1)ポリエステルポリオールの「酸価」は、樹脂1g中に含まれる酸基が全て遊離した酸であると仮定して、それを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数の計算値で表す。従って、実際の系内で塩基として存在しているとしても、遊離した酸として考慮する。
本発明に係る「酸価」は、JISK 0070に従い、(a1)ポリエステルポリオールを溶剤に溶かし、指示薬としてフェノールフタレインを加え、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で適定して求められる。具体的には、以下の式(II)で「酸価」を求める。
【0031】
【数2】
B:測定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
F:0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S:試料の質量(g)
5.611:水酸化カリウムの式量56.11×1/10
【0032】
本発明では、(a1)ポリエステルポリオールの水酸基価は、15〜40mgKOH/gであることが好ましい。(a1)ポリエステルポリオールの水酸基価が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤は、塗工により適する粘度を有し、フィルムへの接着性により優れる。
本明細書で水酸基価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するために要する水酸化カリウムのmg数を示す。
【0033】
本発明に係る「水酸基価」は、JISK 0070に従い、(a1)ポリエステルポリオールにアセチル化試薬を加え、グリセリン溶液で加熱し、放令後、指示薬として、フェノールフタレイン溶液を加え、水酸化カリウムエタノール溶液で適定することで求めることができる。具体的には、以下の式(III)で「水酸基価」を求める。
【数3】
S:試料の採取量(g)
B:空実験の0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の消費量(ml)
C:測定に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の消費量(ml)
F:0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
D:酸価(mgKOH/g)
【0034】
本発明において、(a1)ポリエステルポリオールの数平均分子量は、2,500〜7,500であることが好ましい。
(a1)ポリエステルポリオールの数平均分子量が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤は塗工性により優れる。
【0035】
尚、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値を、ポリスチレン標準を用いて校正した値である。具体的には、下記のGPC装置及び測定方法を用いてMnを得ることができる。GPC装置は、東ソー社製のHCL−8220GPCを用い、検出器として、RIを用いる。GPCカラムとして、東ソー社製のTSKgel SuperMultipore HZ−M 2本を用いる。試料をテトラヒドロフランに溶解して、流速を0.35ml/min、カラム温度を40℃にて流して測定値を得た。標準物質としての単分散分子量のポリスチレンを使用した検量線を用いて、測定値を校正して、目的とするMnを得た。
本測定は、(a1)ポリエステルポリオールのMnに限らず、後述する(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのMnについても適用される。
【0036】
(a1)ポリエステルポリオールのガラス転移温度は、示唆操作熱量計を用いて測定される。適量の試料について10℃/分の昇温速度でDSC曲線を測定し、得られたDSC曲線の変曲点の温度をガラス転移温度とした。本測定は、(a1)ポリエステルポリオールのガラス転移温度に限らず、後述する(B)ポリエステルポリウレタンポリオールのガラス転移温度についても適用される。
【0037】
(a2)イソシアネート化合物は、(a1)ポリエステルポリオールの鎖長を延長させて(A)ポリエステルポリウレタンポリオールを得るため、(a1)ポリエステルポリオールと配合される。
(a2)イソシアネート化合物は、本発明が目的とする接着剤を得ることができる限り、脂肪族イソシアネート、脂環式イソシアネート及び芳香族イソシアネートのいずれであっても良いが、食品包装用途に利用されることを考慮すると、脂肪族イソシアネート及び/又は脂環式イソシアネートを含むことが好ましい。
【0038】
本明細書では、「脂肪族イソシアネート」とは、鎖状の炭化水素鎖を有し、その炭化水素鎖にイソシアネート基が直接結合している化合物であって、環状の炭化水素鎖を有さない化合物をいう。「脂肪族イソシアネート」は、芳香環を有してもよいが、直接その芳香環と、イソシアネート基は、結合していない。
尚、本明細書では、芳香環は環状の炭化水素鎖に含まれない。
【0039】
「脂環式イソシアネート」とは、環状の炭化水素鎖を有し、鎖状の炭化水素鎖を有してよい化合物である。イソシアネート基は、環状の炭化水素鎖と直接結合しても、有し得る鎖状の炭化水素鎖と直接結合してもよい。「脂環式イソシアネート」は、芳香環を有してもよいが、その芳香環と、イソシアネート基は、直接結合していない。
【0040】
「芳香族イソシアネート」とは、芳香環を有し、かつ、イソシアネート基がその芳香環と直接結合している化合物をいう。従って、たとえ芳香環をその分子内に有していたとしても、イソシアネート基が芳香環に直接結合していない化合物は、脂肪族イソシアネートか、脂環式イソシアネートに分類される。
【0041】
従って、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(OCN−C−CH−C−NCO)は、イソシアネート基が芳香環に直接結合しているので、芳香族イソシアネートに該当する。一方、例えば、キシリレンジイソシアネート(OCN−CH−C−CH−NCO)は、芳香環を有するが、イソシアネート基が芳香環に直接結合せず、メチレン基と結合しているので、脂肪族イソシアネートに該当する。尚、芳香環は、二つ以上のベンゼン環が縮環していてもよい。
【0042】
脂肪族イソシアネートとして、例えば、1,4−ジイソシアナトブタン、1,5−ジイソシアナトペンタン、1,6−ジイソシアナトヘキサン(以下、HDI)、1,6−ジイソシアナト−2,2,4−トリメチルヘキサン、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル(リジンジイソシアネート)及び1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン(キシリレンジイソシアネート)等を例示できる。
【0043】
脂環式イソシアネートとして、例えば、5−イソシアナト−1−イソシアナトメチル−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水添キシリレンジイソシアネート)、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添ジフェニルメタンジイソシアネート)及び1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン等を例示できる。
芳香族イソシアネートとして、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート及び2,6−トリレンジイソシアネート等を例示できる。
【0044】
これらのイソシアネートは、単独で又は組み合わせて用いることができる。食品関連の法規を考慮すると、5−イソシアナト−1−イソシアナトメチル−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)を用いるのが好ましい。
【0045】
本発明では、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのガラス転移温度(Tg)は、−5〜5℃であることが好ましい。Tgが上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤の接着性がより向上し、滅菌直後、より剥離強度が向上する。
(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのガラス転移温度(Tg)も、(a1)ポリエステルポリオールで説明した測定方法と同様である。
【0046】
本発明において、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールの数平均分子量(Mn)は、10,000〜20,000であることが好ましい。(A)ポリエステルポリウレタンポリオールの数平均分子量が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤のフィルムへの塗工性がより向上する。(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのMn測定も、(a1)ポリエステルポリオールで説明した測定方法と同様の方法を使用できる。
【0047】
本発明において、(B)ポリエステルポリオールは、ガラス転移温度が−20〜10℃である。Tgが上記範囲にあると、本発明の食品包装フィルム用接着剤の接着性がより向上し、滅菌直後、より剥離強度が向上する。
(B)ポリエステルポリオールの具体例は、(a1)ポリエステルポリオールの具体例が適用されるが、本発明の食品包装フィルム用接着剤は(B)と(a1)が同一である必要はない。(B)ポリエステルポリオールと(a1)ポリエステルポリオールは、異なっていても良い。
【0048】
(B)ポリエステルポリオールの酸価は、0.1〜2mgKOH/gであることが好ましい。酸価が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤は、フィルムへの接着性がより向上する。(B)ポリエステルポリオールの酸価は、(a1)ポリエステルポリオールの酸価と同様の方法で求められる。(B)ポリエステルポリオールの酸価が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤は、より塗工に適する粘度を有し、フィルムへの接着性により優れる。
【0049】
(B)ポリエステルポリオールの水酸基価は、10〜50mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が上記範囲にある場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤は、フィルムへの接着性がより向上する。(B)ポリエステルポリオールの水酸基価は、(a1)ポリエステルポリオールの水酸基価と同様の方法で求められる。
【0050】
本発明において、(C)イソシアネート成分は、既出の(a2)イソシアネート化合物を含む。(C)イソシアネート成分は、HDI、IPDI、XDI及びこれらの変性体から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、特には、1,6−ジイソシアナトヘキサン(HDI)のイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)のトリメチロールプロパンアダクト体及びキシリレンジイソシアネート(XDI)のトリメチロールプロパンアダクト体から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。(C)イソシアネート成分が上記イソシアネートを含む場合、食品包装フィルム用接着剤の耐内容物性がより向上する。
【0051】
本発明の実施形態として、(A)〜(C)の総重量100重量部に対し、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールが20〜70重量部配合されることが好ましく(固形分換算)、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールが25〜50重量部配合されることがより好ましく、(A)ポリエステルポリウレタンポリオール30〜50重量部配合されることが最も好ましい。上記範囲内で(A)ポリエステルポリウレタンポリオールが配合される場合、本発明の食品包装フィルム用接着剤の剥離強度および耐内容物特性がよりいっそう向上する。
【0052】
本発明の食品包装フィルム用接着剤は、(A)〜(C)成分だけではなく、(D)シランカップリング剤及び/又は(E)エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
本発明の食品包装フィルム用接着剤は、(D)シランカップリング剤を含む場合、養生後のフィルムへの初期接着性および滅菌後の剥離強度がより向上する。(D)シランカップリング剤として、既知の有機官能性シラン(例えば、(メタ)アクリルオキシ官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アミン官能性シラン及び非反応性基置換シランなど)を、接着促進剤として用いることができる。具体的には、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、3−アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシメチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシメチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン及び2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン等である。
【0053】
本発明の食品包装フィルム用接着剤は、(E)エポキシ樹脂を含む場合、耐内容物性が向上する。(E)エポキシ樹脂として、例えば、グリシジルエーテル化合物及びグリシジルエステル化合物などが挙げられる。グリシジルエーテル化合物として、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂及びテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0054】
ビスフェノール型エポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂が挙げられる。
ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びジシクロペンタジエン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
グリシジルエステル化合物としては、テレフタル酸ジグリシジルエステルなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独又は組み合わせて使用できる。
【0055】
本発明に用いられるリン酸としては、リンの酸素酸またはその誘導体のうち、リンの酸素酸として、たとえば次亜リン酸、亜リン酸、オルトリン酸及び次リン酸などのリン酸類、たとえばメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸及びウルトラリン酸などの縮合リン酸類があげられる。
【0056】
上記のリンの酸素酸の誘導体としては、たとえばナトリウム、カリウムなどのリン酸塩、縮合リン酸塩、たとえばオルトリン酸モノメチル、オルトリン酸モノエチル、オルトリン酸モノプロピル、オルトリン酸モノブチル、オルトリン酸モノ−2−エチルヘキシル、オルトリン酸モノフェニル、亜リン酸モノメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸モノプロピル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸モノ−2−エチルヘキシル、亜リン酸モノフェニルなどのモノエステル、オルトリン酸ジ−2−エチルヘキシル、オルトリン酸ジフェニル、オルトリン酸トリメチル、オルトリン酸トリエチル、オルトリン酸トリプロピル、オルトリン酸トリブチル、オルトリン酸トリ−2−エチルヘキシル、オルトリン酸トリフェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジ−2−エチルヘキシル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリ−2−エチルヘキシル、亜リン酸トリフェニルなどのジ、トリエステル化物、縮合リン酸とアルコール類とからのモノ、ジ、トリエステル化物などがあげられる。
上記のリンの酸素酸またはその誘導体は一種または二種以上用いてもよい。
【0057】
上記化合物のなかでも、遊離の酸素酸を少なくとも1個以上有しているものが特に好ましく、オルトリン酸、ポリリン酸が好適である。その添加量は、全組成物に対して約0.01〜10重量%、好ましくは約0.01〜5重量%、好ましくは約0.01〜1重量%程度である。
【0058】
本発明の食品包装フィルム用接着剤は、(A)〜(C)を配合し、場合により(D)、場合により(E)、場合によりリン酸及び場合によりその他の成分を配合することで製造することができる。混合方法は、本発明が目的とする食品包装フィルム用接着剤を得ることができる限り、特に限定されるものではない。成分を混合する順序等についても、特に限定されるものではない。本発明に係る食品包装フィルム用接着剤は、特別な混合方法及び特別な混合順序等を要することなく製造することができる。そして得られた食品包装フィルム用接着剤剤は、剥離強度及び耐内容物性の双方に優れる。
【0059】
本発明の食品包装フィルム用接着剤は、15〜100℃でフィルムに塗布されるので、この温度領域において低粘度であるべきである。食品包装フィルム用接着剤の粘度は、塗布性を考慮すると、20℃前後で、100〜5000mPas(BM型粘度計)であることが好ましく、100〜500mPasであることさらに好ましい。
本発明の食品包装フィルムは、上述の食品包装フィルム用接着剤を用いて製造されるラミネートフィルムである。フィルムとして、例えば、プラスチック基材に金属層が形成されたフィルム及び金属層が形成されていないフィルムがある。
【0060】
食品包装フィルムは、本発明の食品包装フィルム用接着剤をフィルムに塗布して製造することができる。塗布は、例えば、グラビアコート、ワイヤーバーコート、エアナイフコート、ダイコート、リップコート及びコンマコートなどの様々な方法を用いて行うことができる。本発明の食品包装フィルム用接着剤が塗布された複数のフィルムを貼り合わせ、食品包装フィルムを製造することができる。
食品包装フィルム用接着剤をフィルムに塗布する場合、塗布量は、1g/m〜100g/mであることが好ましく、2〜10g/mであることがより好ましく、2〜10g/mであることが最も好ましい。
【0061】
本発明の食品包装フィルムの一形態を図1に例示するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
図1は、食品包装フィルム10の断面図を示す。この食品包装フィルム10は、1枚の金属箔14と、2枚のプラスチックフィルム12及び13を含む積層体(ラミネート)であり、接着剤層11を用いて、金属箔14の両面にプラスチックフィルム12及び13が、接着されている。より具体的には、例えば、プラスチックフィルム12は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであることが好ましく、フィルム13はポリオレフィンフィルムであることが好ましく、特にPPフィルムであることがより好ましく、CPPフィルムであることが最も好ましく、それらの間に、金属箔14が挿入されている。金属箔14は、例えば、アルミニウム箔である。そのフィルム12と金属箔14の間と、フィルム13と箔14の間は、いずれも、食品包装フィルム用接着剤層11で接着されている。
積層されるフィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム;アルミニウム箔等の金属箔;金属蒸着フィルム及びシリカ蒸着フィルム等の蒸着フィルム;及びステンレス、鉄、銅及び鉛等の金属フィルム等が挙げられる。また、その厚みは、例えばプラスチックフィルムの場合には、5〜200μmであることが好ましい。
【0062】
本発明の食品包装フィルムを、例えば、ヒートシール等することで、食品包装袋を製造することができる。その食品包装袋は、食品を内包することができる。
内包される食品は、例えば、加圧加熱滅菌された食品(すなわち、レトルト食品)であり、レトルト食品として、例えば、カレー、シチュー、ミートソース及びスープ等が挙げられる。
本発明の食品包装フィルムは、レトルト食品を封入する包装袋、いわゆる、レトルトパウチを製造するために利用することが好ましい。
本発明の食品包装フィルムは、既出の食品包装フィルム用接着剤で製造されているため、フィルムが剥離し難く、内容物の滅菌処理後、2週間経過しても、フィルム外観に変化が見られないので、従来の食品包装フィルムと比較し、耐内容物性が優れる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、これらの例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0064】
<(a1)ポリエステルポリオールの合成>
合成例1((a1−1)ポリエステルポリオールの合成)
イソフタル酸43.4g、エチレングリコール9.2g、ネオペンチルグリコール33.4g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃でエステル化反応を行った。所定量の水を留出後、セバシン酸34.0gを加え、さらに180〜240℃でエステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜240℃で余剰のアルコールを系外に除去することにより、酸価が0.7mgKOH/g、水酸基価が31mgKOH/gの(a1−1)ポリエステルポリオールを得た。
【0065】
合成例2〜6((a1−2)〜(a1−6)ポリエステルポリオールの合成)
表1に示すモノマー組成を用いて(a1−2)〜(a1−6)を合成した。合成方法は、(a1−1)ポリエステルポリオールの合成と同じ方法を用いて行った。
酸価測定と水酸基価測定については、JISK 0070準じ、既出の計算式(II)および計算式(III)で算出した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す単量体及びその他の成分を以下に示す。
・イソフタル酸(IPA)
・セバシン酸(SA)
・エチレングリコール(EG)
・ネオペンチルグリコール(NPG)
・テトライソプロピルチタネート(TIPT)
【0068】
<(A)ポリエステルポリウレタンポリオールの合成>
(A1)ポリエステルポリウレタンポリオールの合成
(a1−1)ポリエステルポリオール100gに、窒素雰囲気下で水酸基とイソシアネート基との当量比(OH/NCO)が0.64となるように5−イソシアナト−1−イソシアナトメチル−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)3.93gを添加し、120〜130℃で、FT−IRによるイソシアネート基の吸収が消失するまで反応させ、ガラス転移温度(Tg)が0.9℃、数平均分子量が10300の(A1)ポリエステルポリウレタンポリオールを得た。(A1)ポリエステルポリウレタンポリオールに、酢酸エチルを加えて、ポリエステルポリウレタンポリオール酢酸エチル溶液(不揮発分50%)を得た。
【0069】
(A2)〜(A’6)ポリエステルポリウレタンポリオールの合成
各々の(a1−2)〜(a1−6)ポリエステルポリオール100重量部(固形分換算)に対し、表2に示される重量の5−イソシアナト−1−イソシアナトメチル−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)(IPDI)を配合し、ポリエステルポリウレタンポリオールを合成した。(A1)ポリエステルポリウレタンポリオールの合成と同じ方法を用いて、合成した。得られたポリエステルポリウレタンポリオールの物性を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
<(B)ポリエステルポリオールの合成>
合成例7(B1)ポリエステルポリオール
イソフタル酸52.9g、エチレングリコール5.3g、ネオペンチルグリコール15.7g、1,6−ヘキサンジオール30.1g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃で、エステル化反応を行った。所定量の水を留出後、アジピン酸16.0gを加え、さらに180〜240℃で、エステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜250℃で余剰のアルコールを系外に除去することで、Tgが−9℃、酸価が0.1mgKOH/g、水酸基価が12mgKOH/gの(B1)ポリエステルポリオールを得た。
【0072】
合成例8(B2)ポリエステルポリオール
イソフタル酸49.9g、エチレングリコール16.3g、ネオペンチルグリコール15.8g、1,6−ヘキサンジオール23.3g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃で、エステル化反応を行った。所定量の水を留出後、アジピン酸14.6gを加え、さらに180〜240℃エステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜250℃で余剰のアルコールを系外に除去することで、Tgが−3℃、酸価が0.1mgKOH/g、水酸基価が16mgKOH/gの(B2)ポリエステルポリオールを得た。
【0073】
合成例9(B3)ポリエステルポリオール
イソフタル酸54.1g、エチレングリコール12.1g、ネオペンチルグリコール15.8g、1,6−ヘキサンジオール23.3g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃で、エステル化反応を行った。所定量の水を留出後、アジピン酸14.6gを加え、さらに180〜240℃エステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜250℃で余剰のアルコールを系外に除去することで、Tgが3℃、酸価が0.1mgKOH/g、水酸基価が11mgKOH/gの(B3)ポリエステルポリオールを得た。
【0074】
合成例10(B4)ポリエステルポリオール
イソフタル酸52.9g、エチレングリコール5.3g、ネオペンチルグリコール15.7g、1,6−ヘキサンジオール30.1g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃で、エステル化反応を行った。所定量の水を留出後、アジピン酸16.0gを加え、さらに180〜240℃エステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜250℃で余剰のアルコールを系外に除去することで、Tgが−13℃、酸価が0.1mgKOH/g、水酸基価が13mgKOH/gの(B4)ポリエステルポリオールを得た。
【0075】
合成例11(B5)ポリエステルポリオール
イソフタル酸53.4g、エチレングリコール5.0g、ネオペンチルグリコール15.0g、1,6−ヘキサンジオール30.6g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃で、エステル化反応を行った。所定量の水を留出後、アジピン酸16.0gを加え、さらに180〜240℃エステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜250℃で余剰のアルコールを系外に除去することで、Tgが−9℃、酸価が0.4mgKOH/g、水酸基価が21mgKOH/gの(B5)ポリエステルポリオールを得た。
【0076】
合成例12(B6)ポリエステルポリオール
イソフタル酸53.4g、エチレングリコール5.0g、ネオペンチルグリコール15.0g、1,6−ヘキサンジオール30.6g、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素気流下180〜240℃で、エステル化反応を行った。所定量の水を留出後、アジピン酸16.0gを加え、さらに180〜240℃エステル化反応を行った。その後、徐々に減圧し、200〜250℃で余剰のアルコールを系外に除去することで、Tgが−8℃、酸価が0.3mgKOH/g、水酸基価が15mgKOH/gの(B6)ポリエステルポリオールを得た。
【0077】
ポリエステルポリオール(B7’)〜(B9’)は市販のポリエステルポリオールを用いた。
(B’7)東洋紡社製のバイロン637(商品名)
(B’8)東洋紡社製のバイロン240(商品名)
(B’9)日立化成社製のテスラック2471(商品名)
合成したポリエステルポリオール(B1)〜(B6)及び市販のポリエステルポリオール(B’7)〜(B’9)の物性を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)製のSIIナノテクノロジーDSC6220)を用い、昇温速度10℃/分で、(A)ポリエステルポリウレタンポリオール及び(B)ポリエステルポリオールのガラス転移温度(Tg)を測定した。
各ポリオール10mgのDSC曲線をとり、DSC曲線の変曲点をガラス転移温度とした。
【0080】
<酸価の測定>
JISK 0070に準じ、既出の計算式(II)を用いて、(B1)〜(B6)ポリエステルポリオールの酸価を求めた。(B’7)〜(B’9)の酸価はカタログ値である、これらの数値を表2に示す。
【0081】
<水酸基価の測定>
JISK 0070に準じ、既出の計算式(III)を用いて、(B1)〜(B6))ポリエステルポリオールの水酸基価を求めた。(B’7)〜(B’9)の水酸基価はカタログ値である。これらの数値を表2に示す。
【0082】
<NCO/OH当量比の計算>
以下の式(I)を用いてNCO/OH(当量比)を算出した。
【数4】
NCO%、水酸基価、イソシアネート化合物必要量、ポリエステルポリオールは何れも樹脂分のみを考慮して計算した。
【0083】
上述の(A)ポリエステルポリウレタンポリオール、(B)ポリエステルポリオールを成分(C)〜(E)と混合し、食品包装フィルム用接着剤を調製した。成分(C)〜(E)の詳細を以下に示す。
【0084】
(C)イソシアネート成分
(C1)キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加体(三井化学社製 タケネートD110N(商品名))
(C2)イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加体(三井化学社製 タケネートD140N(商品名))
【0085】
(D)シランカップリング剤
(D1)3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(エボニック社製Dynasylan GLYMO(商品名))
(D2)N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(エボニック社製 Dynasylan DAMO−T(商品名))
【0086】
(E)エポキシ樹脂
(E1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製jER1001(商品名))
(E2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製jER1002(商品名))
(E3)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製jER1004(商品名))
リン酸(和光純薬工業社製 リン酸特級(商品名))
【0087】
これらの成分(A)〜(E)及びリン酸を表4〜6に示す組成で配合し、食品包装フィルム用接着剤を調製した。実施例1の食品包装フィルム用接着剤の製造を以下に記載する。
【0088】
実施例1
<食品包装フィルム用接着剤の製造>
表4に示すように、43.5gの(A1)ポリエステルポリウレタンポリオール[87gの(A1)ポリエステルポリウレタンポリオールの酢酸エチル溶液(固形分50.0重量%)]、43.5gの(B1)ポリエステルポリオール[87gの(B1)ポリエステルポリオールの酢酸エチル溶液(固形分50.0重量%)]、(D1)0.2g、(E2)4.4g及びリン酸0.01gを秤量して混合し、その後、この混合物に(C1)7.8g及び(C2)5.2gを添加し、さらに、酢酸エチルを加え、固形分30重量%の接着剤溶液を調製して、実施例1の食品包装フィルム用接着剤を得た。
【0089】
<評価試験用試料(接着剤塗布CPPシート及びフィルム積層物)の製造>
先ず、実施例1の食品包装フィルム用接着剤を無延伸ポリプロピレン(CPP)シート(東レフィルム加工社製 トレファンNO ZK207(商品名) 厚さ70μm)に固形分重量が4g/mとなるように塗布し、80℃で5分間乾燥させ、接着剤塗布CPPシートを得た。
その後、接着剤塗布CPPシートの接着剤塗布面に、アルミ箔(住友軽金属社製 1N30 厚さ50μm)のマット面を被せ、平面プレス機(神藤金属工業社製のASF−5(商品名))を用いて、圧締圧1.0MPa 50℃で30分間、両フィルムをプレスした。プレスされた両フィルムを50℃で3日間養生して、CPPフィルム/接着剤/アルミ箔からなるフィルム積層物を得た。
【0090】
実施例2〜8及び比較例1〜7の食品包装フィルム用接着剤を、表4〜6に示す組成で各成分を混合し、製造した。食品包装フィルム用接着剤及び評価試験用試料を、実施例1の方法と同様の方法を用いて製造した。得られた食品包装フィルム用接着剤は、以下に記載した試験方法を用いて評価した。
【0091】
<評価>
食品包装フィルム用接着剤を以下の方法で評価し、その結果を表4〜6に示す。
1.接着剤溶液粘度
50%濃度の接着剤溶液を21℃に温度調節し、BM型粘度計で粘度を測定した。測定に用いるローター、測定回転数は実測粘度に合わせて、適正になるよう選択した。
評価基準は以下のとおりである。
○:500mPa・s以下
△:500mPa・sより大きく、700mPa・以下
×:700mPa・sより大きい
【0092】
2.養生後のフィルムへの初期接着性
フィルム積層物を15mm幅に切り出し、引っ張り強度試験機(オリエンテック社製のテンシロンRTM−250(商品名))を用い、室温下、引っ張り速度300mm/minで、90°剥離試験を行った。
評価基準は以下のとおりである。
○:10N/15mm以上
△:8N/15mm以上、10N/15mm未満
×:8N/15mm未満
【0093】
3.滅菌試験後の剥離強度
フィルム積層物の両端をヒートシールし、CPPフィルムが内側になるように内寸が14cm×14cmの食品包装用袋(又はパウチ袋)を作製した。その食品包装用袋にサラダ油:ケチャップ:食酢=1:1:1(重量比)で混合した擬似食品100gを入れ、121℃で30分間滅菌処理をした。滅菌処理後、食品包装用袋を切り開き、フィルム積層物を15m幅に切り出した。その後、養生後のフィルムへの初期接着性と同様の剥離試験を行い、滅菌試験耐性を評価した。
評価基準は以下のとおりである。
○:8N/15mm以上
△:6N/15mm以上、8N/15mm未満
×:6N/15mm未満
【0094】
4.耐内容物試験
滅菌試験後の剥離強度測定と同様に滅菌処理をした食品包装用袋について、擬似食品を封入したまま(未開封)で更に40℃環境下に2週間保管した。保管後の食品包装用袋を切り開き、CPPフィルム/アルミ箔層間の状態を目視にて観察し、デラミネーション(delamination:浮き又は剥がれ)の発生の有無を調べた。
○:デラミネーションなし
△:僅かにデラミネーション発生
×:デラミネーション発生
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
表4〜5に示すように、実施例1〜8の食品包装フィルム用接着剤は、塗工に適した粘度を有し、かつ養生後の初期接着性に優れ、滅菌後の剥離強度が高く、耐内容物性(耐酸性および耐油性)に優れる。
実施例の食品包装フィルム用接着剤は、様々な性能に優れており、長期保管が要求されるレトルト食品用の接着剤として好適に使用できる。
【0099】
これに対し、比較例の食品包装フィルム用接着剤は、表5〜6に示すように、実施例の食品包装フィルム用接着剤と比較すると、何れかの性能が劣る。
比較例1の食品包装フィルム用接着剤はNCO/OH当量比が低いため、ウレタン結合量が少なく、耐内容物性が低い。
比較例2の食品包装フィルム用接着剤は、NCO/OH当量比が高く、粘度が高くなりすぎ、塗工適正が劣る。
比較例3の食品包装フィルム用接着剤は、(B)ポリエステルポリオールを含まず、ポリオール成分が(A)ポリエステルポリウレタンポリオールのみであるため、ウレタン結合量が多くなるため粘度が高くなり、塗工適性に劣る。
【0100】
比較例4の食品包装フィルム用接着剤は、(A)ポリエステルポリウレタンポリオールを含まず、ポリオール成分が(B)ポリエステルポリオールのみなので、ウレタン結合量が少なくなり、耐内容物性が低い。
比較例5の食品包装フィルム用接着剤は、(B)ポリエステルポリオールのガラス転移温度が高いので、初期接着性が低下する。粘度も高すぎるので、比較例の5の食品包装フィルム用接着剤は、塗工適性にも劣る。
比較例6の食品包装フィルム用接着剤は、(B)ポリエステルポリオールのガラス転移温度がさらに高いので初期接着性がさらに低下し、更に、比較例5同様、塗工適性に劣る。
比較例7食品包装フィルム用接着剤は、(B)ポリエステルポリオールのガラス転移温度が低いため、耐内容物性が著しく劣る。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、食品包装フィルム用接着剤を提供する。本発明係る食品包装フィルム用接着剤は、塗工性、養生後のフィルムへの初期接着性、滅菌後の剥離強度、更に、耐内容物性(耐酸性および耐油性)に優れるので、種々の食品用途に有用であり、特に、高い耐熱性および長期保管が要求されるレトルト食品包装袋用接着剤として好適である。
【符号の説明】
【0102】
10:食品包装フィルム、11:接着剤層、12:PETフィルム、13:CPPフィルム、14:アルミニウム箔
図1