(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる複数の層を接合してなるセンサ素子を用いて構成され、被測定ガス中の所定のガス成分の濃度を、前記ガス成分を還元することにより前記固体電解質内を流れる電流に基づいて特定するガスセンサであって、
前記ガス成分に対する還元能を有する測定電極が設けられる内部空所を備え、
前記複数の層のうち、前記内部空所の底面をなす第1の層と前記内部空所の側面をなす第2の層とを接合する層間接合層が、前記内部空所に突出してなる、
ことを特徴とするガスセンサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているように、酸素イオン伝導性固体電解質を構造材料とするセンサ素子は、酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス主成分とする複数枚のセラミックグリーンシートを用意し、最終的に内部空所その他の内部空間となる部分を適宜に打ち抜いたうえでそれぞれに接着用ペーストを印刷・塗布し、それらを接着積層することによって積層体を形成し、係る積層体を素子単位にカットすることで得られた個々の素子体を焼成するというプロセスを経て得られる。
【0006】
仮に、セラミックグリーンシートの接着積層時に未接着部分が存在すると、最終的に得られたセンサ素子においては本来閉じているべきところに不要な微小空間(未接着空間、マイクロキャビティとも称する)が形成されてしまうことになり、好ましくない。例えば、内部空所に連通する態様にてそのような未接着空間が形成されてしまうと、そこに入り込んでしまった大気(酸素)などのガスがガスセンサの動作時に内部空所に拡散するなどして、ガスセンサの測定精度に悪影響を与えることも起こり得る。
【0007】
センサ素子は、当然ながらそのような未接着空間が生じることのないように設計されるが、製造工程における接着用ペーストの塗布ばらつきや、その後の積層ばらつきなどが原因となって、実際のセンサ素子においては、未接着空間が形成されてしまうことがある。
【0008】
係る未接着空間は、特許文献2に開示されているような3室構造を有するセンサ素子において、測定電極が備わる第3内部空所に連通する態様にて形成されやすいことが、確認されている。それゆえ、係る3室構造を有するセンサ素子においては、未接着空間の存在に起因した不具合が生じやすくなっている。
【0009】
具体的な不具合としては、例えば、ガスセンサの使用時に第3内部空所に存在する酸素は事実上NOxの分解によって生じたもののみとする必要があるため、ガスセンサの起動時には、ガスセンサを使用可能な状態とするべく、第3内部空所から酸素を出来るだけ早く排出する必要があるところ、未接着空間から第3内部空所に酸素が拡散すると、ガスセンサの起動から係る排出が終了するまでの時間(ライトオフ時間)が長くなってしまうということや、使用中に突然にあるいは断続的に未接着空間から第3内部空所に酸素が流入することで、実際とは異なるNOx濃度値が得られてしまうことなどが挙げられる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、内部空所に連通する未接着空間が存在しないガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる複数の層を接合してなるセンサ素子を用いて構成され、被測定ガス中の所定のガス成分の濃度を、前記ガス成分を還元することにより前記固体電解質内を流れる電流に基づいて特定するガスセンサであって、前記ガス成分に対する還元能を有する測定電極が設けられる内部空所を備え、前記複数の層のうち、前記内部空所の底面をなす第1の層と前記内部空所の側面をなす第2の層とを接合する層間接合層が、前記内部空所に突出してなる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載のガスセンサであって、前記センサ素子が、外部空間と所定の拡散抵抗の下で連通する第1の内部空所と、前記第1の内部空所と所定の拡散抵抗の下で連通する第2の内部空所と、前記測定電極が備わる前記内部空所であり、前記第2の内部空所と所定の拡散抵抗の下で連通する第3の内部空所と、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、前記層間接合層が前記測定電極と離隔してなる、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、前記層間接合層の端部が前記測定電極の外周端部と接触してなる、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、前記層間接合層が前記測定電極の外周部分に重畳してなる、ことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記層間接合層の前記内部空所に対する露出面は、前記内部空所の前記側面から垂直に突出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし請求項
6の発明によれば、ガスセンサに備わるセンサ素子において、測定電極が設けられる内部空所の底面を構成する層と側面を構成する層とを接合してなる層間接合層を、当該内部空所に突出させるように設けることで、当該内部空所に連通するマイクロキャビティが存在しないようになるので、該マイクロキャビティに酸素が入り込むことが原因となったライトオフ時間の増大やセンサ使用時の測定異常などが好適に抑制されたガスセンサが、実現される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ガスセンサの概略構成>
図1は、本発明の実施の形態に係るガスセンサ100の構造を模式的に示す、長手方向に沿った断面図である。本実施の形態に係るガスセンサ100は、被測定ガス中の所定の測定対象ガス成分を検出し、その濃度を求めるためのものである。その要部たるセンサ素子101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニアを主成分とするセラミックスを構造材料として構成されてなる。なお、以下においては、測定対象ガス成分がNOxガスである場合を例として説明を行う。
【0019】
概略的には、センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。
【0020】
より詳細にいえば、センサ素子101は、上述の6つの層に対応するセラミックグリーンシートを、ジルコニアを含有する接着用ペーストによって接着積層してなる積層体を素子単位にカットし、得られた個々の素子体を焼成することによって得られるものである。それゆえ、
図1においては図示を省略しているが、上述の6つの層の間には、それぞれ、係る接着用ペーストが焼成されることで形成されたジルコニア含有の層間接合層(図示せず)が介在してなる。すなわち、センサ素子101は、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、層間接合層によって接合されることによって積層された構成を有するともいえる。ただし、焼成の過程においてセラミックグリーンシートおよび接着用ペーストに存在する有機物は蒸発するとともにセラミックスの焼結が進むことから、セラミックグリーンシートおよび接着用ペーストのいずれに由来するかによらず、層間接合層を含めたセンサ素子101のセラミックス部分は一体のものとなっている。それゆえ、
図1に示す層間の境界はあくまで便宜上のものである。
【0021】
なお、本実施の形態においては、第1固体電解質層4とスペーサ層5との間に介在する層間接合層の第3内部空所80(後述)近傍の形態が特徴的である。この点についての詳細は後述する。
【0022】
センサ素子101の一先端部側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、第1内部空所20と、第2拡散律速部30と、第2内部空所40、第3拡散律速部45と、第3内部空所80とが備わっている。さらに、第1拡散律速部11と第1内部空所20との間には、緩衝空間12と、第4拡散律速部13とが設けられていてもよい。ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第4拡散律速部13と、第1内部空所20と、第2拡散律速部30と、第2内部空所40と、第3拡散律速部45と、第3内部空所80とは、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。ガス導入口10から第3内部空所80に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0023】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所80とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所80とはいずれも、上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されてなる。
【0024】
第1拡散律速部11、第2拡散律速部30、第4拡散律速部13、および、第3拡散律速部45はいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。
【0025】
また、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間43が設けられてなる。基準ガス導入空間43は、上部をスペーサ層5の下面で、下部を第3基板層3の上面で、側部を第1固体電解質層4の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間43には、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0026】
ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれる。
【0027】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。なお、ガス導入口10を設けず、第1拡散律速部11の端部がセンサ素子101の端部となるようにセンサ素子101を構成し、第1拡散律速部11がガス導入口10の役割を果たすようにしてもよい。
【0028】
緩衝空間12は、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことを目的として設けられる。なお、センサ素子101が緩衝空間12を備えるのは必須の態様ではない。
【0029】
第4拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。第4拡散律速部13は、緩衝空間12が設けられることに付随して設けられる部位である。
【0030】
緩衝空間12および第4拡散律速部13が設けられない場合は、第1拡散律速部11と第1内部空所20とが直接に連通する。
【0031】
第1内部空所20は、ガス導入口10から導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0032】
主ポンプセル21は、第1内部空所20を区画する第1固体電解質層4の上面、第2固体電解質層6の下面、および、スペーサ層5の側面のそれぞれのほぼ全面に設けられた内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の内側ポンプ電極22と対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセル(第1の電気化学的ポンピングセル)である。内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、平面視矩形状の多孔質サーメット電極(例えば、0.1wt%〜30.0wt%のAuを含むPtなどの貴金属とZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNO成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。すなわち、内側ポンプ電極22は、NO成分に対する還元性が抑制された低NO還元性ポンプ電極として設けられる。
【0033】
主ポンプセル21においては、センサ素子101外部に備わる可変電源24によりポンプ電圧Vp0を印加して、外側ポンプ電極23と内側ポンプ電極22との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20内に汲み入れることが可能となっている。
【0034】
また、センサ素子101においては、内側ポンプ電極22と、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる基準電極42と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル60が構成されている。基準電極42は、外側ポンプ電極等と同様の多孔質サーメットからなる平面視ほぼ矩形状の電極である。また、基準電極42の周囲には、多孔質アルミナからなり、基準ガス導入空間につながる基準ガス導入層48が設けられてなり、基準電極42の表面に基準ガス導入空間43の基準ガスが導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル60においては、第1内部空所20内の雰囲気と基準ガス導入空間43の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して内側ポンプ電極22と基準電極42との間に起電力V0が発生する。
【0035】
第1酸素分圧検出センサセル60において生じる起電力V0は、第1内部空所20に存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。センサ素子101においては、係る起電力V0が、主ポンプセル21の可変電源24をフィードバック制御するために使用される。これにより、可変電源24が主ポンプセル21に印加するポンプ電圧Vp0を、第1内部空所20の雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。本実施の形態に係るセンサ素子101においては、第1内部空所20の雰囲気の酸素分圧が、第2内部空所40において酸素分圧制御が行え得る程度に十分低い所定の値となるように、可変電源24が主ポンプセル21に印加するポンプ電圧Vp0が制御される。
【0036】
第2拡散律速部30は、第1内部空所20から第2内部空所40に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0037】
第2内部空所40は、第2拡散律速部30を通じて導入された該被測定ガスにおける可燃性ガス成分を、炭化水素ガスのみとする処理を行うための空間として設けられる。
【0038】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40を区画する第1固体電解質層4の上面、第2固体電解質層6の下面、および、スペーサ層5の側面のそれぞれのほぼ全面に設けられた補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される、補助的な電気化学的ポンプセル(第2の電気化学的ポンピングセル)である。補助ポンプ電極51も、外側ポンプ電極23および内側ポンプ電極22と同様、平面視矩形状の多孔質サーメット電極として形成される。なお、外側ポンプ電極23を用いることは必須の態様ではなく、外側ポンプ電極23に代えて、センサ素子101の外面に設けられた他のサーメット電極が補助ポンプセル50の外側ポンプ電極を構成する態様であってもよい。
【0039】
係る補助ポンプセル50においては、センサ素子101外部に備わる可変電源52によりポンプ電圧Vp1を印加して、外側ポンプ電極23と補助ポンプ電極51との間に正方向にポンプ電流Ip1が流れるようにすることにより、第2内部空所40から酸素を汲み出すことが可能となっている。
【0040】
また、センサ素子101においては、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって、電気化学的センサセルである第2酸素分圧検出センサセル61が構成されている。第2酸素分圧検出センサセル61においては、第2内部空所40内の雰囲気と基準ガス導入空間43の基準ガス(大気)との間の酸素濃度差に起因して補助ポンプ電極51と基準電極42との間に起電力V1が発生する。
【0041】
第2酸素分圧検出センサセル61において生じる起電力V1は、第2内部空所40に存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。センサ素子101においては、係る起電力V1が、補助ポンプセル50の可変電源52をフィードバック制御するために使用される。これにより、可変電源52が補助ポンプセル50に印加するポンプ電圧Vp1を、第2内部空所40の雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。本実施の形態に係るセンサ素子101においては、第2内部空所40の雰囲気の酸素分圧が、NOx濃度の測定に実質的に影響のない程度の十分低い所定の値となるように、可変電源52が補助ポンプセル50に印加するポンプ電圧Vp1が制御される。
【0042】
第3拡散律速部45は、第2内部空所40から第3内部空所80に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0043】
第3内部空所80は、第3拡散律速部45を通じて導入された該被測定ガス中のNOxガスの濃度測定に係る処理を行うための空間として設けられる。センサ素子101においては、測定ポンプセル47が作動することにより、第3内部空所80に存在する酸素を汲み出すことができるようになっている。測定ポンプセル47は、外側ポンプ電極23と、測定電極44と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセル(測定ポンピングセル)である。
【0044】
測定電極44は、第3内部空所80に備わる平面視ほぼ矩形状の多孔質サーメット電極である。測定電極44は、NOxガスを還元し得る金属と、ジルコニアからなる多孔質サーメットにて構成される。金属成分としては、主成分であるPtに、Rhを添加したものを用いることができる。これによって、測定電極44は、第3内部空所80内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。係る測定電極44においては、その触媒活性作用によって被測定ガス中のNOxが還元あるいは分解されることによって酸素が生じる。
【0045】
また、センサ素子101には、測定センサセル41が備わっている。測定センサセル41は、測定電極44と、基準電極42と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって構成される電気化学的センサセルである。測定センサセル41においては、第3内部空所80内の雰囲気(特に測定電極44の表面近傍の雰囲気)と基準ガス導入空間43の基準ガスとの間の酸素濃度差に応じて、測定電極44と基準電極42との間に起電力V2が生じる。センサ素子101においては、係る起電力V2に基づいて、センサ素子101の外部に設けられた測定ポンプセル47の可変電源46をフィードバック制御することにより、可変電源46が測定ポンプセル47に印加するポンプ電圧Vp2を、第3内部空所80内の雰囲気の酸素分圧に応じて制御するようになっている。
【0046】
ただし、被測定ガスは、第1内部空所20および第2内部空所40において酸素が汲み出されたうえで第3内部空所80に到達することから、第3内部空所80内の雰囲気中に酸素が存在する場合、それは、測定電極44におけるNOxの分解によって生じたものである。それゆえ、測定ポンプセル47を流れる電流(NOx電流)Ip2は被測定ガス中のNOx濃度に略比例する(NOx電流Ip2とNOx濃度とが線型関係にある)ことになる。センサ素子101においては、係るNOx電流Ip2を検出し、あらかじめ特定しておいたNOx電流Ip2とNOx濃度との関数関係(線形関係)に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を求めるようになっている。
【0047】
なお、センサ素子101においては、外側ポンプ電極23と基準電極42との間に生じる起電力V
refを測定することにより、センサ素子101外部の酸素分圧を知ることもできるようになっている。
【0048】
さらに、センサ素子101においては、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて、ヒータ70が形成されてなる。ヒータ70は、第1基板層1の下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることより発熱する。ヒータ70が発熱することによって、センサ素子101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。ヒータ70は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101の所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、ヒータ70の上下面には、第2基板層2および第3基板層3との電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層72が形成されている(以下、ヒータ70、ヒータ電極、ヒータ絶縁層72をまとめてヒータ部とも称する)。
【0049】
<第3内部空所近傍における層間接合層の形態>
図2ないし
図4は、センサ素子101の第3内部空所80の近傍の部分詳細図である。
図2(a)、
図3(a)、および
図4(a)は長手方向の部分断面図であり、
図2(b)、
図3(b)、および
図4(b)は測定電極44の上面を含む部分平面図である。
【0050】
第3内部空所80は、第1固体電解質層4によって底面が構成されてなるとともに、第2固体電解質層6によって上面が構成されてなり、かつ、スペーサ層5に設けられた4つの側面81(81a、81b、81c、8d)で区画された平面視矩形状の空間である。その平面視中央部分であって、第1固体電解質層4の上面部分には、測定電極44が設けられてなる。なお、測定電極44の一方端部からは、外部と電気的接続を図るためのリード線44aが延びており、センサ素子101の外面に設けられた図示しない端子電極に接続されてなる。
【0051】
ただし、
図2(a)、
図3(a)、および
図4(a)に示すように、第1固体電解質層4とスペーサ層5の間、および、スペーサ層5と第2固体電解質層6の間には、上下の層を接合する層間接合層91および92がそれぞれ存在する。層間接合層91および92は、それぞれの層を形成するためのセラミックグリーンシートを互いに接着するために塗布された接着用ペーストが焼成されることによって形成されたセラミックス層である。なお、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、および第1固体電解質層4の間にも同様に層間接合層は存在する。
【0052】
本実施の形態に係るセンサ素子101においては、層間接合層92を含め、層間接合層91を除く全ての層間接合層は、従来のセンサ素子と同様、第3内部空所80の上面部分を全面的に覆うように形成される。
【0053】
一方、第1固体電解質層4とスペーサ層5との間に設けられる層間接合層91については、第1固体電解質層4とスペーサ層5とを接合するように設けられることに加えて、第3内部空所80の側面81から第3内部空所80へと突出する態様にて設けられてなる点で特徴的である。換言すれば、第3内部空所80に露出する態様にて設けられる。これは、センサ素子101の作製時、層間接合層91を構成することとなる接着用ペーストを、第1固体電解質層4を構成することとなるセラミックグリーンシートに塗布するにあたって、その塗布領域を、第3内部空所80の上面となる領域に入り込むように定めることによって実現される。
【0054】
層間接合層91の具体的な態様としては、
図2ないし
図4に示す3通りのものがある。
【0055】
(第1の態様)
まず、
図2に示す第1の態様では、層間接合層91は、第3内部空所80の側面81から第3内部空所80へと突出するものの、測定電極44とは離隔する態様にて形成されてなる。例えば、
図2(a)においては、センサ素子101の長手方向において対向する第3内部空所80の側面81a、81bよりも、層間接合層91の端部91aおよび91bの方が測定電極44の外周端部44aに近い位置にある。また、
図2(b)からわかるように、センサ素子101の短手方向において対向する第3内部空所80の側面81c、81dと層間接合層91との関係も同様である。
【0056】
(第2の態様)
次に、
図3に示す第2の態様では、層間接合層91は、第3内部空所80の側面81から第3内部空所80へと突出し、さらには測定電極44とちょうど接触する態様にて形成されてなる。例えば、
図3(a)においては、層間接合層91の端部91aおよび91bが測定電極44の外周端部44aと接触している。また、
図3(b)からわかるように、センサ素子101の短手方向において対向する第3内部空所80の側面81c、81dと層間接合層91との関係も同様である。
【0057】
(第3の態様)
さらに、
図4に示す第3の態様では、層間接合層91は、平面視において第3内部空所80の側面81よりも内側に入り込み、さらには、測定電極44の外周部分に重畳して当該部分を覆う態様にて形成されてなる。例えば、
図4(a)においては、層間接合層91の端部91aおよび91bが測定電極44の外周端部44aを覆っている。また、
図4(b)からわかるように、センサ素子101の短手方向において対向する第3内部空所80の側面81c、81dと層間接合層91との関係も同様である。
【0058】
なお、測定電極44との重畳部分が大きくなりすぎると、測定電極44の機能を損ねてしまうことになる。それゆえ、係る重畳部分はせいぜい、測定電極44の2割程度以下であることが好ましい。
【0059】
(従来の態様)
一方、
図5に示すのは、従来の層間接合層91の形成態様の一例として、層間接合層91の端部と第3内部空所80の側面とが平面視で同一位置となることを想定して層間接合層91用の接着用ペーストを塗布した場合の、センサ素子101の第3内部空所80の近傍の部分詳細図である。
【0060】
係る態様にて層間接合層91を設けた場合、センサ素子101においては、層間接合層91が第3内部空所80の側面81よりも外周端部44aから遠い位置にしか形成されず、第1固体電解質層4とスペーサ層5の間に、未接合(未接着)の部分たるマイクロキャビティMCが、第3内部空所80に連通する態様にて形成しまうことが起こり得る。
【0061】
例えば
図5(a)に示す場合であれば、層間接合層91の端部91aおよび91bが、第3内部空所80の側面81a、81bよりも測定電極44の外周端部44aから遠くなり、第1固体電解質層4とスペーサ層5の間に、未接合(未接着)の部分たるマイクロキャビティMCが、第3内部空所80に連通する態様にて形成されてなる。
図5(b)においては、センサ素子101の短手方向において対向する第3内部空所80の側面81c、81dと層間接合層91とについても、同様の配置関係となり、第3内部空所80を取り囲むようにマイクロキャビティMCが形成された場合を例示している。
【0062】
なお、
図5(b)においては説明の簡単のため、第3内部空所80の4つの側面81a、81b、81c、および81dの全てのところでマイクロキャビティMCが一様な幅で直線的に形成されるように図示しているが、実際のマイクロキャビティMCは、第3内部空所80の周囲の任意の位置において不定形に形成され得る。
【0063】
このようなマイクロキャビティMCが存在すると、ガスセンサ100の不使用時に酸素(大気)が入り込んでしまい、ガスセンサ100の起動時に第3内部空所80から酸素を排出する際、マイクロキャビティMCから酸素がゆっくり染み出すこととなって、ガスセンサ100の起動から係る排出が終了するまでの時間であるライトオフ時間が長くかかってしまうため好ましくない。またマイクロキャビティMCに留まってしまった酸素(大気)がガスセンサ100の動作中に突然にあるいは断続的にマイクロキャビティMCから第3内部空所80に酸素が流入することで、実際とは異なるNOx濃度値が得られてしまうことなどが生じて好ましくない。
【0064】
本実施の形態においては、このような不具合を鑑み、上述の第1ないし第3の態様のように、第3内部空所80の側面81から第3内部空所80へと突出させる態様にて層間接合層91を設けてなる。これにより、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、第3内部空所80に連通するマイクロキャビティMCが形成されないので、該マイクロキャビティMCに酸素が入り込むことが原因となったライトオフ時間の増大やセンサ使用時の測定異常などが好適に抑制されてなる。
【0065】
なお、第1内部空所20および第2内部空所40の周囲にもマイクロキャビティがされ得ることから、これらの内部空所のところにおける層間接合層91の形態も、上述の第1ないし第3の態様と同様のものとしてもよい。ただし、第1内部空所20および第2内部空所40においては、主ポンプセル21および補助ポンプセル50によって被測定ガス中の酸素が出来るだけ取り除かれるようになっているので、仮にマイクロキャビティが形成されて酸素が入り込んでいたとしても、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の動作によって十分に除去されることから、係る態様は必ずしも必須ではない。
【0066】
また、内部空所として第1内部空所20と第2内部空所40の2つのみを備え、第2内部空所40に測定電極44を設ける構成のセンサ素子において、2つの内部空所のところにおける層間接合層91の形態を、上述の第1ないし第3の態様と同様のものとしてもよい。
【0067】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサが3室構造のセンサ素子を備える場合に、係るセンサ素子において測定電極が設けられる第3内部空所の底面を構成する層と側面を構成する層とを接合してなる層間接合層を、第3内部空所に突出させるように設けることで、第3内部空所に連通するマイクロキャビティが存在しないようになるので、該マイクロキャビティに酸素が入り込むことが原因となったライトオフ時間の増大やセンサ使用時の測定異常などが好適に抑制されたガスセンサが、実現される。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
層間接合層91を第1の態様にて設けたセンサ素子101と従来の態様にて設けたセンサ素子とについて、ライトオフ時間を測定した。なお、本実施例においては、ガスセンサの起動後、第3内部空所80内の残留酸素濃度の飽和値よりも10ppm高い濃度値に達した時間を、ライトオフ時間と定義する。
【0069】
図6は、それぞれのセンサ素子についてのライトオフ時間の測定の様子を示す図である。
図6の縦軸は、第3内部空所80の残留酸素濃度である。なお、ガスセンサ100においては、ヒータ70への通電は起動時に開始される一方で、各ポンプセルへの通電は、起動後、所定時間が経過した後に行われる。これは、センサ素子101の抵抗値に温度依存性があることに起因して、センサ素子101の温度がある程度上昇した状態でないと、各ポンプセルが好適に動作しないからである。
図6においては、ヒータ70が起動される(ガスセンサ100が起動される)タイミングを「センサ起動」と表し、各ポンプセルが起動されるタイミングを「ポンプ起動」と表している。
【0070】
図6(a)に示すのは、第1の態様に係るセンサ素子101についての結果である。係るセンサ素子101のライトオフ時間は、およそ80秒である。
【0071】
一方、
図6(b)に示すのは、従来の態様に係るセンサ素子についての結果である。係るセンサ素子のライトオフ時間は、およそ180秒である。
【0072】
係る結果は、層間接合層91を第1の態様にて設けることが、ライトオフ時間の増大を抑制する効果があることを示している。
【0073】
(実施例2)
層間接合層91を第2の態様にて設けたセンサ素子101を6個用意するとともに、層間接合層91を従来の態様にて設けたセンサ素子を4個用意し、全てについて、ライトオフ時間を測定した。
【0074】
図7は、それぞれのセンサ素子についてのライトオフ時間をプロットした図である。なお、
図7において「実施例」と記しているのが層間接合層91を第2の態様にて設けたセンサ素子101についての結果であり、「比較例」と記しているのが層間接合層91を従来の態様にて設けたセンサ素子についての結果である。
【0075】
係る結果は、層間接合層91を第2の態様にて設けることが、ライトオフ時間の増大を抑制する効果があることを示している。