【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の第1実施例を示すクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置の構成図である。
【0018】
この図において、1は試料、2は試料チャンバー(真空容器)、3は極低温冷凍機、4は極低温冷凍機冷却部、5は第1のゲートバルブ、6は第2のゲートバルブ、7は第3のゲートバルブ、8はガス導入配管、9はオリフィス9Aを取り付けた容器、Pは真空計、Qは四重極型質量分析計、10は真空排気装置である。
【0019】
この図に示すように、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置は、オリフィス法を用いたアウトガス評価装置であり、試料チャンバー(真空容器)2内に極低温冷凍機冷却部4を有している。この極低温冷凍機冷却部4により、試料1の温度を室温から極低温まで任意に設定することができる。具体的には、極低温冷凍機3により、試料1の温度は300K〜20Kの範囲で制御することができる。したがって、超電導磁石内の環境を再現した状態でのアウトガス測定も可能である。
【0020】
発生するアウトガスの分子量は、オリフィス9Aの上流に備えた四重極型質量分析計Qにより、同定することができる。
【0021】
ここで、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置で採用しているオリフィス法について説明する。
【0022】
コンダクタンスC〔m
3 ・s
-1〕(ガスの流れ易さ)のオリフィス9Aを取り付けた容器9において、ポンプに対する上流側の圧力をP
2 〔Pa〕、下流側をP
1 〔Pa〕としたとき、オリフィス9Aを通過する流量Qは以下の式で与えられる。
【0023】
Q=C(P
2 −P
1 )[Pa・m
3 ・s
-1]
C:コンダクタンス
P
1 :排気装置側(下流側)圧力
P
2 :チャンバ側(上流側)圧力
本発明に係るクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置による測定手順を以下に示す。
1.まず、試料1を試料チャンバー2内の極低温冷凍機冷却部4上に固定する。
2.全てのゲートバルブ5、6、7を開けて、真空排気装置10により装置内の排気を行う。
3.次に、極低温冷凍機3を起動し、試料1を評価温度まで冷却する。
4.次に、第1のゲートバルブ5を閉じて、オリフィス9Aを介して真空排気を継続する。
5.オリフィス9Aの上流側圧力P
2 と下流側圧力P
1 との圧力差、およびオリフィス9Aのコンダクタンスからガス放出速度を測定する。
【0024】
このように、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置により、極低温でのアウトガスの定量的な評価を行うことができる。
【0025】
図2は本発明の第2実施例を示すクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置の構成図である。
【0026】
ここでは、クライオポンプ効果が存在する環境下での、室温状態での試料のアウトガス測定を行うための実施例を示す。
【0027】
まず、クライオポンプ効果について説明する。
【0028】
図3は気体毎の飽和蒸気圧と温度の関係を示す図である。
【0029】
真空容器2内に極低温に冷却された面があると、その面にアウトガスが凝縮され捕捉される。極低温においては気体の飽和蒸気圧が極端に小さくなるため、このような現象が発生する。気体分子によって飽和蒸気圧が異なり、たとえば窒素や酸素などでは30Kを下回ると急激に飽和蒸気圧が下がり、低温面にガスが捕捉される。
【0030】
そこで、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置を用いた測定では、
図2に示すように、試料11を極低温冷凍機冷却部4上ではなく、試料チャンバー2内の表面に固定するようにする。
【0031】
その後の測定手順は上記第1実施例と同様である。極低温冷凍機3により、試料チャンバー2内に極低温に冷却された面を作り出し、クライオポンプ効果が存在する環境下での室温状態の試料11のアウトガスの測定を行う。
【0032】
このように、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置によれば、試料11の固定方法を変更するだけで、クライオポンプ効果の存在する環境におけるアウトガスの定量的な評価を行うことができる。
【0033】
図4は本発明の第3実施例を示すクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置の構成図である。
【0034】
ここでは、アウトガスを吸着する吸着材のガス吸収能力を測定するための実施例を示し、
図1の試料1に替えて、極低温冷凍機冷却部4上には吸着材12が設置される。
【0035】
本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置による吸着材のガス測定手順を以下に示す。
1.まず、吸着材12を試料チャンバー2内の極低温冷凍機冷却部4上に固定する。
2.全てのゲートバルブ5、6、7を開けて、例えば、ターボ分子ポンプである真空排気装置10により装置内の排気を行う。
3.次に、極低温冷凍機3を起動し、吸着材12を評価温度まで冷却する。
4.次に、第1のゲートバルブ5および第2のゲートバルブ6を閉じて、真空排気を停止する。
5.吸着材12の冷却は継続しながら、ガス導入配管8よりガスを外部から導入する。
6.試料チャンバー2内の圧力変化を測定することで、吸着材12へのガス吸着量を求める。
【0036】
このように、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置により、吸着材のガス吸着能力の定量的な評価を行うことができる。
【0037】
図5は本発明の第4実施例を示すクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置の構成図である。
【0038】
ここでは、アウトガス発生源である試料とアウトガスを吸着する吸着材の両方を配置し、吸着材が存在する中でのアウトガスの測定を行うための実施例を示す。
【0039】
図5に示すように、試料21は試料チャンバー2内の表面に固定する。一方、吸着材22は極低温冷凍機冷却部4上に設置する。
【0040】
本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置による、吸着材が存在する中でのアウトガスの測定手順を以下に示す。
1.まず、試料21を試料チャンバー2内の表面に固定し、吸着材22を極低温冷凍機冷却部4上に固定する。
2.全てのゲートバルブ5、6、7を開けて、真空排気装置10により装置内の排気を行う。
3.次に、極低温冷凍機3を起動し、吸着材22を冷却する。
4.次に、第1のゲートバルブ5を閉じて、オリフィス9Aを介して真空排気を継続する。
5.オリフィス9Aの上流側圧力P
2 と下流側圧力P
1 との圧力差、およびオリフィス9Aのコンダクタンスからガス放出速度を測定する。
【0041】
上記した構成により、試料21と吸着材22の組み合わせた場合、極低温でのアウトガスの定量的な評価を行うことができる。
【0042】
なお、上記第1〜第4実施例では、圧力変化によるガス流量や吸着量の測定について説明したが、第1実施例でも述べたとおり、オリフィス9Aの上流に備えた四重極型質量分析計Qにより、アウトガスの分子量を同定することができる。
【0043】
図6は本発明に係るアウトガス測定例を示すアウトガス放出量を示す図、
図7は本発明に係るアウトガス測定例を示す試料室温時におけるアウトガス分圧を示す図、
図8は、本発明に係るアウトガス測定例を示す試料温度50Kにおけるアウトガス分圧を示す図である。
【0044】
ここで、測定試料は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)であり、形状は縦120mm×横120mm×厚み5mmのものを使用した。試験条件は24時間真空排気後に室温及び冷凍機を起動して50Kで測定した。
【0045】
図6から明らかなように、室温(306K)でのガス放出速度と比較すると、50Kでは約1/1000までガスの放出が減少していることが分かる。
【0046】
また、
図7から明らかなように、試料が室温の場合、分子量18(水)が主なアウトガスであり、分子量2(水素)、28(窒素)、44(二酸化炭素)などのガスも確認できる。
【0047】
さらに、
図8から明らかなように、試料温度が50Kの場合、分子量2(水素)、28(窒素)が確認できるが、室温と比較すると分圧は極めて小さいことが分かる。
【0048】
これらの結果の比較からも、アウトガス発生源としての試料とアウトガスの吸着材の極低温下での測定が重要であることが示される。
【0049】
このように、本発明のクライオスタット及び超電導磁石構成材料用アウトガス評価装置によれば、室温から極低温までの試料のアウトガスを定量的に評価することができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。