特許第6324892号(P6324892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6324892HIV−1に対する革新的ワクチンとしての非組み込み型キメラレンチウイルスゲノム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6324892
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】HIV−1に対する革新的ワクチンとしての非組み込み型キメラレンチウイルスゲノム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180507BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20180507BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20180507BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 39/21 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20180507BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20180507BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20180507BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   A61P37/04
   A61P31/18
   A61P31/14
   A61K39/21
   A61K48/00
   !C12N7/01
   !C07K19/00
【請求項の数】8
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2014-530197(P2014-530197)
(86)(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公表番号】特表2014-527812(P2014-527812A)
(43)【公表日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】EP2012067863
(87)【国際公開番号】WO2013037841
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年8月12日
(31)【優先権主張番号】1158096
(32)【優先日】2011年9月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506128396
【氏名又は名称】サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク(セ.エン.エル.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヤイア・シュブルン
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ・アルドゥベール
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルディン・アロード−ブルーズ
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−513546(JP,A)
【文献】 特表2007−505923(JP,A)
【文献】 Virology,2007年,Vol. 364, No. 2,pp. 269-280
【文献】 Retrovirology,2009年,Vol. 6, No. SUPPL. 2,P22
【文献】 J. Virol.,2010年,Vol. 84, No. 3,pp. 1243-1253
【文献】 AIDS Res. Hum. Retroviruses,1992年,Vol. 8, No. 3,pp. 403-409
【文献】 Nucl. Acids Res.,1993年,Vol. 21, No. 15,pp. 3507-3511
【文献】 Virology,2004年,Vol. 326, No. 1,pp. 47-56
【文献】 Virology,2003年,Vol. 309, No. 1,pp. 41-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 7/00−7/08
C07K 19/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラレトロウイルスゲノムを含む核酸であって、前記キメラレトロウイルスゲノムが:
- 第一のレトロウイルスの5'および3'における長末端反復配列(LTR)であって、前記第一のレトロウイルスが、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)である、長末端反復配列と、
- 第二のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子であって、前記第二のレトロウイルスが前記第一のレトロウイルスではない、ウイルス遺伝子と
を含み、以下の条件:
a)前記キメラレトロウイルスゲノムが、前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpuおよびenv遺伝子をみ、前記第二のレトロウイルスがHIV-1である、
)前記キメラレトロウイルスゲノムが、前記第二のレトロウイルスのtat、rev、vpu、およびenv遺伝子を含み、前記第二のレトロウイルスがHIV-1であり、第三のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、およびnef遺伝子をさらに含み、該第三のレトロウイルスがSIVであるまたは
c)前記キメラレトロウイルスゲノムが、前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、rev、およびenv遺伝子を含み、前記第二のレトロウイルスがFIVである
一つが実証されている、核酸。
【請求項2】
前記pol遺伝子が、インテグラーゼ(in)をコードする配列から切り出されたpol遺伝子である、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記キメラレトロウイルスゲノムが、配列番号1、配列番号2、配列番号7、または配列番号12の配列を含むかまたはこれから構成される、請求項1または2に記載の核酸。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸を含む組換えベクター。
【請求項5】
前記ベクターが、配列番号16、配列番号17、または配列番号18の配列から構成される、請求項4に記載の組換えベクター。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸、または請求項4もしくは5に記載のベクターを含む、免疫原性組成物または接種用組成物。
【請求項7】
レトロウイルスによる感染の予防または治療に使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸、請求項4もしくは5に記載のベクター、または請求項6に記載の接種用組成物。
【請求項8】
前記レトロウイルスが、HIV-1またはFIVである、請求項7に記載の使用のための核酸、ベクターまたは接種用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、ヒト細胞に組み込まれないヤギレンチウイルス:ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)または別のレトロウイルスの末端反復配列(STR、またはLTR、これは長末端反復を表す)の5'および3'と、別のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子とを含む非組み込み型キメラレトロウイルスゲノムを含む核酸である。本発明はまた、このような核酸を含むベクター、前記ベクターまたは前記核酸を含む免疫原性組成物または接種用(vaccinal)組成物、ならびにレトロウイルスによる感染または病原性物質により誘発された疾患を治療および/または予防するためのそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、レトロウイルス感染に対する有効なワクチンの開発は、世界的に主要な公衆衛生の課題である。近年、ワクチンは、接種された宿主において免疫原性タンパク質を発現させる能力を有するベクターの使用に基づき開発されている。これらの接種用ベクターは、細菌中で増幅させた後、精製し、接種を必要とする宿主に直接注射される。したがって、このようなベクターは、宿主細胞の支配下にあり、免疫原性タンパク質は、クラスIおよびクラスII主要組織適合複合体の分子に発現され提示されて、これらの免疫原性タンパク質に対する免疫反応が起こる。最初のレトロウイルス接種用ベクターを用いた接種試験により、ニワトリにおいて、ラウス肉腫ウイルス(Cheblouneら、1991、J Virol、65、5374〜5380)、ニューカッスル病ウイルス(Cosset、Bouquetら、1991、Virology 185、862〜866)、さらにインフルエンザウイルス(Robinson、Hunt et Webster、1993、Vaccine、11(9): 957〜960)に対する免疫化が可能なことを示す見込みが示された。
【0003】
この接種アプローチは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の制御に関して特に興味深い部分もある。現在、後天性免疫不全症候群(AIDS)は、世界的な公衆衛生問題であり続けており、感染者は3300万人を超え、1年で200万件を超える死亡と約300万件の新規の感染が起こっている。最も影響を受けている大陸はアフリカであるが、アジアや特定の東欧諸国でも感染が急速に増加しつつあり、この現象は、早期発見の手段がないことと感染の治療法がないことに起因することは間違いない。さらに発展途上国では、経済力が限られているために多くのHIV感染患者は治療の恩恵をまったく受けておらず、それが感染が広く蔓延する要因になっている。それゆえにAIDSの経済的影響は、今後数年の間に極めて深刻になることは確実である。欧州では、AIDSは依然として最も重要な伝染性疾患の一つである。西欧および中欧では約100万人がAIDSに罹患しながら生活しており、新規の感染は1年で20,000件を超える。東欧では約150万人がAIDSに罹患しながら生活しており、新規の感染は1年で200,000件を超える。それゆえにこの感染を止める予防ワクチンの開発が優先事項のままである。
【0004】
今日までの多くの努力にもかかわらず、HIV感染から、またはこのウイルスにより誘発される病因からヒトを保護する安全で申し分のないワクチンはない。それでも、行われた多数の調査から、これまでに用いられてきた接種戦略の失敗を理解するために貴重な知見を蓄積し、AIDSに関与するレンチウイルスに対する保護をもたらす免疫反応を誘導するのに必要なワクチンの特性を決めることが可能になった。
【0005】
このようなワクチンは、特にCD8+Tリンパ球応答を誘導すると予想され、このような応答は、一次感染中のウイルスの制御と関連があり、このような応答の存在は、感染した非ヒト霊長類でウイルス量を制御するのに必要不可欠であることが示されている(Jinら、1999、J Exp Med、189:991〜998)。さらに、細胞傷害性T細胞(CTL)は、長期非進行性患者(LTNP)中に存在し(Rinaldoら、1995、J Virol、69:5838〜5842)、あるいはさらにHIVに晒されたが感染していない被検体にも存在する(Makedonasら、2002、AIDS、16:1595〜1602)。これらの原因およびその他の原因から、ウイルス複製の制御および/または疾患の予防においてこのような応答が重要であることが示される。
【0006】
さらに、接種によりCD4+T細胞応答が誘導されると予想され、このような応答は、抗HIVCD8+Tリンパ球に基づく応答を刺激してそれを維持するために必要不可欠である(Kalamsら、1999、J Virol、73:6715〜6720)。CD4+T細胞も、Bリンパ球(BL)によって生産された抗体に基づく応答を誘発してそれを維持するために必要不可欠である。したがって、SIVに感染しておりBLを枯渇させたマカクでは、対照のサルと同様にそれらのウイルス量が制御されなかったことが示された(Johnsonら、2003、J Virol、77:375〜381)。したがって、これらの結果と以前の結果を考慮すると、抗HIVワクチンにより免疫系のB応答とT応答を刺激することが必要のようである。
【0007】
試された多くの接種戦略には、いわゆる弱毒化レンチウイルスを用いた戦略がある。それによれば、後半のものは、同種および異種の試験ウイルスに対する最良の保護を再生可能に誘導できることが示された(Yankeeら、2009、Virology、383:103〜111;Genesca、McChesney and Miller、2009、J Intern Med、265:67〜77;Reynoldsら、2008、J Exp Med、205:2537〜2550;Amaraら、2005、J Virol、79:15356〜15367;Whitney and Ruprecht、2004、Curr Opin Infect Dis、17:17〜26)。しかしながら、それらの宿主のゲノムへの不可逆的な組み込みとプロウイルスの潜伏性による再発性感染の可能性のために、これらのウイルスは、特定の成人と新生児において病原性を有する(Desrosiers、1994、AIDS Res Hum Retroviruses、10:331〜332;Hofmann-Lehmannら、2003、AIDS、17:157〜166;Babaら、1999、Nat Med、5:194〜203;Babaら、1995、Science、267:1820〜1825;Yankeeら、2009、Virol、383:103〜111)。したがって、倫理上および安全上の理由で、これらの弱毒化レンチウイルスは、そのままではヒトに使用することはできない。
【0008】
それに関しては、ウイルスベクターをベースとするDNAワクチンの接種は、ヒトでも動物でも病態の発生との関連は示されておらず、結果的により安全である。しかしながら、サルで試験したところ、これらのベクターは実験的な感染から動物を保護することができないことが判明した(Liuら、2006、Virology、351:444〜454;Singhら、2005、J Virol、79:3419〜3428)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】カナダ国特許出願第2,012,311号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cheblouneら、1991、J Virol、65、5374〜5380
【非特許文献2】Cosset、Bouquetら、1991、Virology 185、862〜866
【非特許文献3】Robinson、Hunt et Webster、1993、Vaccine、11(9): 957〜960
【非特許文献4】Jinら、1999、J Exp Med、189:991〜998
【非特許文献5】Rinaldoら、1995、J Virol、69:5838〜5842
【非特許文献6】Makedonasら、2002、AIDS、16:1595〜1602
【非特許文献7】Kalamsら、1999、J Virol、73:6715〜6720
【非特許文献8】Johnsonら、2003、J Virol、77:375〜381
【非特許文献9】Yankeeら、2009、Virology、383:103〜111
【非特許文献10】Genesca、McChesney and Miller、2009、J Intern Med、265:67〜77
【非特許文献11】Reynoldsら、2008、J Exp Med、205:2537〜2550
【非特許文献12】Amaraら、2005、J Virol、79:15356〜15367
【非特許文献13】Whitney and Ruprecht、2004、Curr Opin Infect Dis、17:17〜26
【非特許文献14】Desrosiers、1994、AIDS Res Hum Retroviruses、10:331〜332
【非特許文献15】Hofmann-Lehmannら、2003、AIDS、17:157〜166
【非特許文献16】Babaら、1999、Nat Med、5:194〜203
【非特許文献17】Babaら、1995、Science、267:1820〜1825
【非特許文献18】Liuら、2006、Virology、351:444〜454
【非特許文献19】Singhら、2005、J Virol、79:3419〜3428
【非特許文献20】Bouzarら、2007、Virology、364(2):269〜280
【非特許文献21】Bouzarら、2004、Virology、326(1):47〜56
【非特許文献22】Bouzarら、2003、Virology、309(1):41〜52
【非特許文献23】Yuhaiら、2009、Retrovirology、6(2):22
【非特許文献24】Wuら、1992、J Biol Chem 267:963〜967
【非特許文献25】Wuら、1988、J Biol Chem 263:14621〜14624
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それゆえに、病原性ウイルスに対する予防的応答を誘導するという目的で、レンチウイルスの抗原を量および品質共により高いレベルで発現させる新規の接種用ベクターが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これまで本発明者らは、CAEVのRTL、加えてその他のレトロウイルスゲノムの1種または2種の遺伝子を包含する完全なウイルスゲノムを含む感染性のウイルスゲノムを説明してきた(Bouzarら、2007、Virology、364(2):269〜280;Bouzarら、2004、Virology、326(1):47〜56;Bouzarら、2003、Virology、309(1):41〜52;Yuhaiら、2009、Retrovirology、6(2):22)。これらのゲノムは、病原性の高いレトロウイルスにより誘導されたヒトおよびサルの疾患の発生機序を研究するために使用された。
【0013】
発明者らは、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)の末端反復配列(RTS、またはLTR、これは長末端反復を表す)の使用により、それらの宿主細胞への組み込みを回避しつつ、接種用レトロウイルスゲノムの発現と病原性レトロウイルスに対する予防的応答の誘導を改善できることを見出した。本発明者らは特に、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)の長末端反復配列(LTR)は、それと連結した遺伝子の構成的発現を可能にし、それを取り込んだウイルスゲノムの遺伝子の発現についてはCAEVのウイルスtat遺伝子、より具体的にはCAEVのウイルスtat遺伝子のタンパク質に依存しないため、ウイルス抗原の強い発現を可能にすることを実証した。したがって、本発明者らは、非組み込み型であり非複製型であるという特性を有し、同時にゲノム中に存在するHIVおよびSIVの全ての抗原を発現させるための複製サイクルを実行させることができる、SIV型およびHIV型の霊長類のレンチウイルス(HIVはヒト免疫不全ウイルスのことである)とCAEVとのキメラゲノムを開発した。本発明者らは、これらのゲノムを霊長類細胞(HEK293)にトランスフェクションすることにより、存在する遺伝子の全てのタンパク質の発現が可能になり、さらにこれらのタンパク質が、ウイルスゲノムが標的細胞に取り込まれることなくその標的細胞で1回の感染サイクル(すなわち擬似サイクル(pseudo-cycle))を実行することができるウイルス粒子に集合化されることを実証した。ヒト単核細胞でヒト化されたNOD/SCIDマウスの免疫化から、ウイルス抗原に対する強い特異的な体液性および細胞性免疫反応の存在が実証された。
【0014】
定義
「核酸」とは、4成分からなる一本鎖の形態または4成分からなる二本鎖へリックスの形態で、リボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジンまたはシチジン;「RNA分子」)の、またはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジンまたはデオキシシチジン;「DNA分子」)のリン酸エステルで構成される高分子体を意味する。可能性のある4成分からなる二本鎖ヘリックスとしては、DNA-DNA、DNA-RNA、およびRNA-RNAが挙げられる。核酸、具体的にはDNA分子またはRNA分子という用語は単に分子の一次構造または二次構造のみを指し、特定の三次形態に限定されない。したがって、この用語は、4成分からなる二本鎖のDNAを含み、このようなDNAは特に、直鎖または環状DNA分子(例えば制限断片)、ウイルス、プラスミド、および染色体で見出される。本明細書では、特定の4成分からなる二本鎖DNA分子の構造について述べる場合、その配列は、DNAの非転写鎖(すなわちmRNAに相同な配列を有する鎖)に沿って5'から3'の方向でのみ配列を示す一般的な慣例に従って記載することができる。
【0015】
本発明に関して、「非組み込み型キメラレトロウイルスゲノムを含む核酸」とは、少なくとも2種のレトロウイルスのcis位で作用する核酸配列を含む核酸を指し、前記核酸は、宿主細胞のゲノムに組み込まれない。このような核酸は、第一のレトロウイルスの5'および3'における長末端反復配列(LTR)と、第二のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子とを含む。
【0016】
「レトロウイルス」とは、ゲノムがRNA分子からなり、逆転写酵素を含むウイルス、すなわちレトロウイルスファミリーメンバーを意味する。レトロウイルスは、3つの種類、すなわちオンコウイルス、レンチウイルス、およびスプーマウイルスに分類される。注目すべきことにオンコウイルスは、以下の種、すなわちマウス白血病ウイルス(MLV)、トリ白血病ウイルス(ALV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV、これは、ラウス肉腫ウイルスを表す)、またはサルマソン-ファイザーウイルスからなる。レンチウイルスは、以下の種、すなわちヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2型(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ヒツジビスナ・マエディウイルス(VMV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)またはウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)からなる。スプーマウイルスは、HFVであってもよい。レトロウイルスがHIV1である場合、レトロウイルスは、あらゆるセログループに属するものでもよく、例えばセログループM(血清型A-D、F-H、J、K)、セログループO、NまたはPに属するものでもよい。レトロウイルスがHIV-2である場合、レトロウイルスは、あらゆるセログループに属するものでもよく、例えばセログループAまたはBに属するものでもよい。
【0017】
「ウイルス遺伝子」とは、レトロウイルスゲノム中に存在する遺伝子を意味する。本発明に関して、ウイルス遺伝子は、gag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpuまたはenv遺伝子であってもよい。
【0018】
遺伝子「gag」は「群特異抗原」を意味するが、これは、前駆体ポリタンパク質gagをコードしており、この前駆体ポリタンパク質gagは切断されて、レトロウイルスの基礎となる構造タンパク質、すなわちキャプシドタンパク質、ヌクレオキャプシドのタンパク質、およびマトリックスのタンパク質を生じる。例えば、HIVのgagタンパク質は、キャプシドタンパク質p24の前駆体、p6およびp7ヌクレオキャプシドのタンパク質の前駆体、ならびにマトリックスp17のタンパク質の前駆体である。非限定的な例として、遺伝子gagは、HIV-1の遺伝子gag(NCBI遺伝子番号155030、2011年8月20日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子gag(NCBI遺伝子番号14900001、2011年8月27日にアップデートされた)、SIVの遺伝子gag(NCBI遺伝子番号956108、2011年8月27日にアップデートされた)またはFIVの遺伝子gag(NCBI遺伝子番号1489988、2011年8月20日にアップデートされた)である。
【0019】
遺伝子「pol」は、逆転写酵素、インテグラーゼ、およびプロテアーゼをコードする。非限定的な例として、遺伝子polは、HIV-1の遺伝子pol(NCBI遺伝子番号155348、2011年8月27日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子pol(NCBI遺伝子番号1490001、2011年8月27日にアップデートされた)、FIVの遺伝子pol(NCBI遺伝子番号1489989、2011年8月27日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子pol(NCBI遺伝子番号956107、2011年8月20日にアップデートされた)である。
【0020】
遺伝子「vif」または「ウイルス感染性因子」は、感染性ビリオンを生産するのに必要なタンパク質をコードする。非限定的な例として、遺伝子vifは、HIV-1の遺伝子vif(NCBI遺伝子番号155459、2011年8月7日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子vif(NCBI遺伝子番号1724712、2010年1月21日にアップデートされた)、FIVの遺伝子vif(NCBI遺伝子番号1724709、2010年2月7日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子vif(NCBI遺伝子番号1490005、2010年1月21日にアップデートされた)である。
【0021】
遺伝子「vpr」は、細胞周期をG2期で止めること、組み込み前の複合体の細胞質から細胞核への輸送を調節すること、ウイルス複製において重要な役割を果たすウイルスタンパク質Rをコードする。非限定的な例として、遺伝子vprは、HIV-1の遺伝子vpr(NCBI遺伝子番号155807、2011年8月7日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子vpr(NCBI遺伝子番号1724718、2010年1月21日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子vpr(NCBI遺伝子番号956112、2011年1月15日にアップデートされた)である。
【0022】
遺伝子「vpx」は、ウイルスタンパク質Xをコードしており、遺伝子vprと関連する。非限定的な例として、遺伝子vpxは、HIV-2の遺伝子vpx(NCBI遺伝子番号1724714、2011年3月19日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子vpx(NCBI遺伝子番号1490006、2011年7月16日にアップデートされた)である。
【0023】
遺伝子「nef」は、インビボでのCD4リンパ球枯渇において主要な役割を果たす、負の調節因子と呼ばれる27〜25kDaのミリストイル化タンパク質をコードする。非限定的な例として、遺伝子nefは、HIV-1の遺伝子nef(NCBI遺伝子番号156110、2011年8月7日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子nef(NCBI遺伝子番号1724715、2011年3月19日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子nef(NCBI遺伝子番号1490008、2011年7月2日にアップデートされた)である。
【0024】
遺伝子「tat」は、レトロウイルスゲノムの転写速度を高める「転写トランスアクチベーター」と呼ばれる86〜101個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。非限定的な例として、遺伝子tatは、HIV-1の遺伝子tat(NCBI遺伝子番号155871、2011年8月20日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子tat(NCBI遺伝子番号1724713、2010年2月7日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子tat(NCBI遺伝子番号956113、2010年2月7日にアップデートされた)である。
【0025】
遺伝子「rev」は、ウイルスRNAを細胞核から細胞質に輸送する「ビリオン発現のレギュレーター」と呼ばれるタンパク質をコードする。非限定的な例として、遺伝子revは、HIV-1の遺伝子rev(NCBI遺伝子番号155908、2011年8月7日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子rev(NCBI遺伝子番号1724716、2011年5月21日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子rev(NCBI遺伝子番号1490003、2011年1月15日にアップデートされた)である。
【0026】
遺伝子「vpu」は、ウイルス出芽およびビリオン放出の改善に関与する「ウイルスタンパク質U」と呼ばれるタンパク質をコードする。非限定的な例として、遺伝子vpuは、HIV-1の遺伝子vpu(NCBI遺伝子番号155945、2011年8月7日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子vpu(NCBI遺伝子番号2828723、2010年1月21日にアップデートされた)である。
【0027】
遺伝子「env」は、成熟して切断されるとエンベロープgp120およびgp41のタンパク質を生じる前駆タンパク質gp160をコードする。非限定的な例として、遺伝子envは、HIV-1の遺伝子env(NCBI遺伝子番号155971、2011年8月7日にアップデートされた)、HIV-2の遺伝子env(NCBI遺伝子番号1724717、2011年6月18日にアップデートされた)、FIVの遺伝子env(NCBI遺伝子番号1489987、2011年6月18日にアップデートされた)またはSIVの遺伝子env(NCBI遺伝子番号1490007、2011年6月18日にアップデートされた)である。
【0028】
本出願の観点において、「含む(comprises)」または「含む(comprising)」という用語は、特定の場合、「からなる(consist in)」または「からなる(consisting in)」を意味する。
【0029】
核酸
本発明者らは、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)の長末端反復配列(LTR)は、それと連結した遺伝子の構成的発現を可能にし、それを取り込んだウイルスゲノムの遺伝子の発現についてはウイルスtat遺伝子に依存しないため、ウイルス抗原の強い発現を可能にすることを実証した。さらに本発明者らは、これらのLTR単独の存在により、それを取り込んだ異種レトロウイルスゲノムの組み込みが阻止されたことを示した。
【0030】
それゆえに本発明は、非組み込み型キメラレトロウイルスゲノムを含む核酸であって、前記キメラレトロウイルスゲノムが:
- 第一のレトロウイルスの5'および3'における長末端反復配列(LTR)であり、前記第一のレトロウイルスが、レンチウイルス、例えばヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ヒツジビスナ・マエディウイルス(VMV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、またはオンコウイルスもしくはスプーマウイルスである、長末端反復配列と、
- 第二のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子であり、前記第二のレトロウイルスが第一のレトロウイルスではない、ウイルス遺伝子と
を含む、上記核酸に関する。
【0031】
LTR配列は、「宿主」または「患者」のゲノムに組み込まれないレトロウイルスに由来するものが好ましく用いられ、前記宿主または患者のゲノムには、第二のレトロウイルスおよび/または第三のレトロウイルスが組み込まれていてもよい。例えば、第一のレトロウイルスがCAEVである場合、前記宿主または患者はヤギではないが、ヒト、サル、ネコ、またはウマであってもよく、あるいは第一のレトロウイルスがEIAVである場合、前記宿主または患者はウマではないが、ヒト、サル、ネコ、またはヒツジであってもよく、あるいは第一のレトロウイルスがVMVである場合、前記宿主または患者はヒツジではないが、ヒト、サル、ネコ、またはウマであってもよい。
【0032】
特に好ましい実施態様において、「第一のレトロウイルス」は、ヤギ関節炎脳炎ウイルスまたはCAEVである。CAEVは、ヤギ型レンチウイルスのレトロウイルスであり、これはヒト免疫不全ウイルス(HIV)に関連するが、その宿主においてAIDSタイプのいかなる病態も引き起こさない。
【0033】
「長末端反復配列」(LTR)とは、転写を制御する配列であって、すなわちエンハンサー、プロモーター、1種または数種の転写開始シグナル、1種または数種の転写停止シグナル、1種または数種のポリアデニル化シグナルを含む配列を意味する。本発明に関して、CAEVのLTRは、エンハンサー、プロモーター、および転写開始シグナル、加えて転写停止シグナルおよびポリアデニル化シグナルを含む。好ましくは、CAEVの5'および3'におけるLTRは同一であり、配列番号3の配列を含むか、または該配列からなる。
【0034】
その他の実施態様において、ビスナ・マエディウイルス(VMV)のLTRまたはウマ科のEIAVのレンチウイルスのLTRが用いられる。VMVの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001452.1(2008年12月8日にアップデートされた)の1位〜161位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。VMVの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001452.1(2008年12月8日にアップデートされた)の9106位〜9202位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。EIAVの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001450(2010年3月11日にアップデートされた)の61位〜381位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。EIAVの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001450(2010年3月11日にアップデートされた)の7269位〜8289位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。
【0035】
さらにその他の好ましい実施態様において、オンコウイルスのLTR、例えばマウス白血病ウイルス(MLV)、トリ白血病ウイルス(ALV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、もしくはサルマソン-ファイザーウイルスのLTR、またはスプーマウイルスのLTR、例えばHFVのLTRが用いられる。MLVの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001702.1(2011年2月5日にアップデートされた)の1位〜210位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。MLVの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001702.1(2011年2月5日にアップデートされた)の5735位〜8135位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。ALVの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_015116.1(2011年4月18日にアップデートされた)の1位〜594位で見出される配列を含むか、または該配列からなる。ALVの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_015116.1(2011年4月18日にアップデートされた)の5338位〜7489位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。RSVの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001407.1(2008年12月8日にアップデートされた)の22位〜102位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。RSVの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001407.1(2008年12月8日にアップデートされた)の9058位〜9292位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。サルマソン-ファイザーウイルスの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001550.1(2008年12月8日にアップデートされた)の26位〜123位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。サルマソン-ファイザーウイルスの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001550.1(2008年12月8日にアップデートされた)の7573位〜7811位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。HFVの5'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001364.1(2009年4月22日にアップデートされた)の1位〜1760位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。HFVの3'におけるLTRは、参照配列NCBI NC_001364.1(2009年4月22日にアップデートされた)の11487位〜13246位で見出される配列を含むか、またはその配列からなる。
【0036】
本発明者らは、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)の長末端反復配列(LTR)は、それを取り込んだウイルスゲノムの遺伝子を発現させるためのウイルス遺伝子tatに依存しておらず、有利には、本発明に係る核酸は、前記第一のレトロウイルスのtat遺伝子を含まないことを示した。
【0037】
本発明に関して、「第二のレトロウイルス」は、第一のレトロウイルスとは異なる。第二のレトロウイルスは、オンコウイルス、レンチウイルスまたはスプーマウイルスであってもよい。したがって、例えばCAEVのLTRが用いられる場合、第二のレトロウイルスは、CAEVではない。好ましくは、第二のレトロウイルスは、例えばマウス白血病ウイルス(MLV)、トリ白血病ウイルス(ALV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、またはサルマソン-ファイザーウイルスなどのオンコウイルス、例えばヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2型(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)もしくはウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)などのレンチウイルス、または例えばHFVなどのスプーマウイルスである。より好ましくは、第二のレトロウイルスは、HIV-1、HIV-2、SIVまたはFIVである。
【0038】
好ましくは、前記第二のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子は、gag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子から選択される。特定の態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスの少なくとも2、3(例えば遺伝子gag、pol、vif、または遺伝子gag、pol、env)、4、5、6、7、8、9、10種のウイルス遺伝子を含む。有利には、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスの遺伝子tatを含む。さらにより好ましくは、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスの遺伝子gag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenvのセットを含む。
【0039】
特に好ましい態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、SIV、HIV-1、HIV-2またはFIVのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子を含む。さらに好ましい態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムが、SIVのレトロウイルスゲノム(配列番号4)、HIV-1のレトロウイルスゲノム(配列番号2)、HIV-2のレトロウイルスゲノム(配列番号5)、またはFIVのレトロウイルスゲノム(配列番号6)の配列を含むか、またはそれらからなる。
【0040】
図1〜4で、SIV、HIV-1、HIV-2、およびFIVのキメラレトロウイルスゲノムをそれぞれ図式的に説明する。
【0041】
特定の実施形態において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、第三のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子をさらに含み、前記第三のレトロウイルスは、第一のレトロウイルスではなく、すなわち前記第一のレトロウイルスとは異なる。したがって、例えばCAEVのLTRが用いられる場合、前記第三のレトロウイルスは、CAEVではない。前記「第三のレトロウイルス」は、上記で定義されたようなレトロウイルスのいずれかから選択されてもよい。
【0042】
前記キメラレトロウイルスゲノムが、第二のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子と、第三のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子とを含む場合、前記第二のレトロウイルスおよび第三のレトロウイルスは、異なる。前記第二のレトロウイルスおよび第三のレトロウイルスは、異なる種類であってもよいしまたはそうでなくてもよく、例えば前記第二のレトロウイルスおよび第三のレトロウイルスはそれぞれオンコウイルス、レンチウイルス、またはスプーマウイルスであってもよいし、あるいは前記第二のレトロウイルスおよび第三のレトロウイルスはそれぞれ、(i)レンチウイルスおよびスプーマウイルス、またはその逆のスプーマウイルスおよびレンチウイルス、(ii)オンコウイルスおよびレンチウイルス、またはその逆のレンチウイルスおよびオンコウイルス、または(iii)スプーマウイルスおよびオンコウイルス、またはその逆のオンコウイルスおよびスプーマウイルスであってもよい。
【0043】
優先的には、前記キメラレトロウイルスゲノムが、第二のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子と、第三のレトロウイルスの少なくとも1種のウイルス遺伝子とを含む場合、前記第二のレトロウイルスおよび第三のレトロウイルスはそれぞれレンチウイルスであり、好ましくは前記レンチウイルスは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIVまたはEIAVから選択される。さらにより好ましくは、第二のレトロウイルスおよび第三のレトロウイルスは、異なる種、セログループ、または血清型のレンチウイルスである。したがって、例えば前記第二のレトロウイルスがHIV-1である場合、前記第三のレトロウイルスはHIV-2であり、あるいはさらに前記第二のレトロウイルスがセログループMのHIV-1である場合、前記第三のレトロウイルスはセログループOのHIV-1であり、あるいはさらに前記第二のレトロウイルスがセログループMおよび血清型1のHIV-1である場合、前記第三のレトロウイルスは、セログループMおよび血清型BのHIV-1である。
【0044】
好ましくは、前記第三のレトロウイルスの前記少なくとも1種のウイルス遺伝子は、gag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子から選択される。特定の態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第三のレトロウイルスの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種のウイルス遺伝子をさらに含み、そのなかに遺伝子tatが含まれることが有利である。
【0045】
さらにより好ましくは、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第三のレトロウイルスの遺伝子gag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenvのセットをさらに含み、すなわち前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子のセットと、前記第三のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子のセットとを含む。
【0046】
それゆえに前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスの1種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの9種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの2種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの8種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの3種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの7種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの4種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの6種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの5種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの5種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの6種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの4種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの7種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの3種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの8種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの2種のウイルス遺伝子、または前記第二のレトロウイルスの9種のウイルス遺伝子と、前記第三のレトロウイルスの1種のウイルス遺伝子を含んでいてもよい。それゆえに、非限定的な例として、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスのgag遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのpol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgagおよびpol遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのvif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのvpx、vpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのvpr、nef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vprと、前記第三のレトロウイルスのnef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのtat、rev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのrev、vpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのvpu、およびenv遺伝子;または前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、vpr、nef、tat、rev、vpu遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのenv遺伝子を含んでいてもよい。
【0047】
特に好ましい態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、前記第二のレトロウイルスのgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子と、前記第三のレトロウイルスのnef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子とを含む。
【0048】
さらにより好ましい態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、SIVのgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子と、HIV-1のnef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子とを含むか、あるいはその逆のHIV-1のgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子と、SIVのnef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子とを含む。その他の特に好ましい態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、HIV-1のgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子と、HIV-2のnef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子とを含み、あるいはその逆のHIV-2のgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子と、HIV-1のnef、tat、rev、vpu、およびenv遺伝子とを含む。さらにより好ましい態様において、前記キメラレトロウイルスゲノムは、配列番号7の配列を含むか、または該配列からなる(図5にこのキメラレトロウイルスゲノムの略図を示す)。
【0049】
特定の実施形態において、pol遺伝子がキメラレトロウイルスゲノム中に存在する場合、前記pol遺伝子は、インテグラーゼ(in)をコードする配列から切り出されたpol遺伝子である。好ましくは、前記pol遺伝子は、配列番号8の配列(SIVのインテグラーゼの配列)、配列番号9(HIV-1のインテグラーゼの配列)、配列番号10(HIV-2のインテグラーゼの配列)、または配列番号11(FIVのインテグラーゼの配列)から切り出される。
【0050】
したがって、特に好ましい実施形態において、前記レトロウイルスゲノムは、配列番号1、配列番号12、配列番号13、配列番号14または配列番号15の配列を含むか、または該配列からなる。
【0051】
図6〜10に、配列番号1、配列番号12、配列番号13、配列番号14または配列番号15の配列を含むか、または該配列からなるキメラレトロウイルスゲノムそれぞれを図式的に説明する。
【0052】
本発明はまた、本発明に係る核酸を含むベクターにも関する。
【0053】
「ベクター」という用語は、DNAまたはRNA配列(すなわち「外来」遺伝子)を宿主細胞に導入して、宿主を形質転換させて導入された配列を発現(すなわち転写および翻訳)させることができる染色体外因子を指す。染色体外因子は、自己増殖配列、ファージ配列またはヌクレオチド配列、一本鎖または二本鎖DNAまたはRNA、プラスミド、コスミドであってもよい。ベクターは、典型的には、伝染性物質であるDNA(このDNAに、外来DNAが挿入される)と、選択マーカーとを含む。DNA断片をその他のDNAセグメントに挿入する一般的な手段は、制限酵素と呼ばれる酵素の使用を含み、このような酵素は、制限部位制限部位と呼ばれる特異的な部位(特異的なヌクレオチド群)でDNAを切断する。一般的に、外来DNAは、DNAベクターの1つまたは複数の制限部位に挿入され、続いてベクターによって伝染性物質であるDNAと共に宿主細胞に輸送される。付加または挿入されたDNAを含むDNAセグメントまたは配列、例えばベクターは「DNAコンストラクト」とも呼ばれる。一般的なタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは、一般的には自律的な二本鎖DNA分子であり、一般的には細菌由来であり、追加の(外来)DNAを容易に受容することができ、さらに適切な宿主細胞に容易に導入することができる。プラスミドなどの多数のベクターが、様々な真核性の宿主および原核性の宿主での複製および/または発現について説明されている。本発明に関して、ベクターは、抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカー、または本発明に係る核酸を含む。好ましくは、耐性遺伝子は、アンピシリンまたはカナマイシン耐性遺伝子である。
【0054】
本発明に係る核酸および/またはベクターは、細胞または宿主生物を形質転換またはトランスフェクトするために、すなわち本発明に係るキメラレトロウイルスゲノムを発現させるために用いることができる。
【0055】
「宿主細胞」という用語は、その細胞により物質を生産するために、例えばその細胞により遺伝子、DNA配列、タンパク質、ビリオンを発現させるために、あらゆる方式で選択、改変、形質転換、トランスフェクション、変換、培養、または使用もしくは操作されるあらゆる生物のあらゆる細胞を指す。本発明に関して、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。適切な宿主細胞としては、これらに限定されないが、HEK293細胞、ヒトCD4+Tリンパ球CEMx174株およびM8166株、ヒトCD4+Tリンパ球、ヒトCD8+Tリンパ球、ヒト血液の単核細胞が挙げられる。
【0056】
本発明に係る核酸および/またはベクターによる細胞または宿主生物の形質転換は、当業者公知の標準的な技術に従って、例えばトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞の統合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウムでの沈殿、または遺伝子銃(gene pistol)の使用、またはDNAベクターのトランスポーターによって達成することもできる(例えばWuら、1992、J Biol Chem 267:963〜967;Wuら、1988、J Biol Chem 263:14621〜14624;1990年3月15日に公開されたHartmutら、カナダ国特許出願第2,012,311号を参照)。
【0057】
免疫原性組成物または接種用組成物およびその使用
本発明に係る核酸またはベクターは、免疫原またはワクチンの目的で用いることができる。
【0058】
したがって、本発明はまた、本発明に係る核酸またはベクターを含む免疫原性組成物もしくは接種用組成物にも関する。
【0059】
本出願に関して、「接種」という用語は、予防的または治療的な接種に関する。
【0060】
免疫原性組成物または接種用組成物は、上記で定義されたようなレトロウイルスに対する免疫反応を誘導する可能性を付与する組成物を意味する。免疫反応とは、Tリンパ球、例えばCD4+およびCD8+Tリンパ球、ならびにBリンパ球が関与する応答を意味する。
【0061】
この実施形態によれば、本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物は1価であり、すなわちこのような組成物は、単一のレトロウイルスに対する免疫反応、例えばHIV-1またはHIV-2に対する免疫反応をもたらす。
【0062】
その他の実施形態によれば、本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物は多価であり、すなわちこのような組成物は、数種のレトロウイルスに対する免疫反応、例えば、HIV-1およびHIV-2に対する免疫反応、または数種の病原性物質、例えばHIV-1およびHCV(C型肝炎ウイルス)に対する免疫反応をもたらす。この場合、接種用ベクターは、病原性物質のどちらかの抗原を発現する。
【0063】
その他の実施形態によれば、本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物は、多価である。このような免疫原性組成物または接種用組成物は、複数の本発明に係る1価の免疫原性組成物または接種用組成物を組み合わせることにより得ることもできる。免疫原性組成物または接種用組成物はさらに、例えばB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスまたはパピローマウイルスなどの性行為で感染するウイルスのようなその他のウイルスに対して、少なくとも1種のその他のワクチン、すなわち弱毒化した生ウイルス、不活化ウイルスまたはウイルスのサブユニットを含んでいてもよい。
【0064】
好ましい実施形態において、本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物は、医薬的に許容されるキャリアーを含む。
【0065】
「医薬的に許容されるキャリアー」とは、本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物を配合することができるあらゆるキャリアーを指す。このキャリアーとしては、リン酸緩衝食塩水などの食塩水が挙げられる。一般的に、希釈剤またはキャリアーは、投与方法および経路に従って、さらに標準的な製薬上の習慣に従って選択される。医薬的に許容されるキャリアーとしては、これらに限定されないが、イオン交換体、アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、例えばD-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネートなどの自己乳化剤を送達する系、例えばトゥイーン(Tween)またはその他の高分子送達マトリックスなどの医薬の投薬形態として用いられる界面活性剤、例えばヒトアルブミンなどの血清のタンパク質、例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物の飽和脂肪酸グリセリドの混合物などの緩衝物質、水、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドンなどの塩または電解質、セルロース、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、および羊毛脂をベースとする物質が挙げられる。A-、B-、およびg-シクロデキストリンなどのシクロデキストリン、またはヒドロキシアルキルシクロシクロデキストリンなどの化学修飾された誘導体、例えば2-および3-ヒドロキシプロピル-b-シクロデキストリン、またはその他の可溶化した誘導体も、本発明に係る組成物の送達を改善するために有利に用いることができる。
【0066】
本発明に係る組成物はさらに、アジュバントを含んでいてもよい。この目的のために、ワクチン分野で従来用いられるあらゆる医薬的に許容されるアジュバントまたはアジュバントの混合物が使用できる。適切なアジュバントの例として、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、およびDC-Cholが挙げられる。この目的のために、ワクチン分野で従来用いられるあらゆる医薬的に許容されるアジュバントまたはアジュバントの混合物が使用できる。適切なアジュバントの例として、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、およびDC-Cholが挙げられる。
【0067】
本発明に係る組成物は、アジュバント遺伝子、すなわち発現されるタンパク質の免疫原性を高めることによりアジュバントの役割を果たすと予想されるタンパク質を発現する遺伝子を含んでいてもよい。例えば、このような遺伝子は、例えばインターロイキン(Il)[IL-2、IL12、IL-15等またはGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)]などのサイトカインをコードする。これらのアジュバント遺伝子は、接種用プラスミドに包含されるか、あるいは別個の発現プラスミドとして共に注入される。
【0068】
当業者公知のあらゆる投与方法を使用することができる。特に、本発明に係る核酸、ベクター、免疫原性組成物または接種用組成物は、経口的に、吸入法により、または非経口経路(特に皮内、皮下、静脈内、骨髄内または筋肉注射)により投与することができる。非経口経路が用いられる場合、本発明に係る核酸、ベクター、免疫原性組成物または接種用組成物は、アンプルまたはフラスコ中に提供された注射用溶液および懸濁液の形態であってもよい。非経口送達のための形態は、一般的に、本発明に係る核酸、ベクター、免疫原性組成物または接種用組成物と、緩衝液、乳化剤、安定剤、保存剤、可溶化剤とを混合することによって得られる。次にこれらの混合物を公知の技術に従って滅菌し、皮内、皮下、静脈内、骨髄内または筋肉注射の形態でパッケージ化する。当業者であれば、緩衝剤として有機リン酸塩をベースとする緩衝液を使用してもよい。乳化剤の例としては、メチルセルロース、アカシア、カルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。安定剤の例としては、亜硫酸ナトリウム、タ亜硫酸ナトリウムが挙げられ、保存剤の例としては、p-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、クレゾールおよびクロロクレゾールが挙げられる。核酸、ベクター、免疫原性組成物または接種用組成物はまた、凍結乾燥させた形態であってもよい。
【0069】
接種用DNA溶液は、直接注入してもよいし、あるいはインビボで市販のエレクトロポレーターを用いてエレクトロポレーションすることにより投与してもよいし、あるいはリポソームまたはナノ粒子中にカプセル封入してもよいし、あるいは接種された宿主の細胞に接種用DNAがよりよく導入されるようなあらゆるインビボのトランスフェクション法を用いることによって投与してもよい。
【0070】
その他の一態様において、本発明は、レトロウイルスによる感染の予防および/または治療に使用するための、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、および/または本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物に関する。
【0071】
「予防する」または「予防」は、レトロウイルス感染の防止、すなわちレトロウイルスによる感染の発生を予防すること、または感染した被検体内での、またはある被検体から他の被検体へのレトロウイルスの伝播を予防することを意味する。
【0072】
「治療する」または「治療」は、疾患の重症度を抑えること、再発性感染を予防すること、すなわち潜伏感染の再活性化または持続感染を抑えること、およびレトロウイルスによる感染の症状の療法を見出すことを意味する。レトロウイルスは、上記で定義された通りであり、好ましくはレトロウイルスは、HIV-1、HIV-2またはFIVである。
【0073】
「患者」または「被検体」または「宿主」という用語は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物または鳥類を指す。優先的には、患者は、霊長類、ネズミ科(マウス)、ネコ科動物(ネコ)、イヌ科動物(イヌ)、ウマ科のメンバー(ウマ)、トリ、ヒト(女性、男性、成人、および小児を含む)である。
【0074】
また本発明は、予防有効量または治療有効量の本発明に係る核酸の投与、または本発明に係るベクターの投与、または本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物の投与を含む、それらを必要とする被検体に接種する方法または被検体を治療する方法にも関する。
【0075】
「予防有効量または治療有効量」とは、治療した被検体に治療的作用または予防的作用を付与することができる核酸、ベクター、免疫原性組成物または接種用組成物の量を指す。治療効果は、客観的であってもよいし(すなわち試験またはマーカーで測定可能)、あるいは主観的であってもよい(すなわち被検体が作用の指標を示すか、または作用を感じる)。有効量は、約0.01から5,000μg/kg、あるいは約0.1から1,000μg/kg、あるいは約1から500μg/kgの範囲で様々であってもよい。また有効量は、投与経路、インビボのトランスフェクション法の使用または不使用のいずれか、被検体の大きさと体重にも応じて、加えてその他の物質の併用の可能性にも応じて様々であると予想される。
【0076】
本発明に関して、本発明に係る核酸、または本発明に係るベクター、または本発明に係る免疫原性組成物または接種用組成物の投与様式は、静脈内、皮下、皮内、骨髄内、または筋肉内経路を介して達成してもよい。
【0077】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】配列番号2の配列によってコードされた核酸の略図である。
図2】配列番号4の配列によってコードされた核酸の略図である。
図3】配列番号5の配列によってコードされた核酸の略図である。
図4】配列番号6の配列によってコードされた核酸の略図である。
図5】配列番号7の配列によってコードされた核酸の略図である。
図6】配列番号1の配列によってコードされた核酸の略図である。
図7】配列番号12の配列によってコードされた核酸の略図である。
図8】配列番号13の配列によってコードされた核酸の略図である。
図9】配列番号14の配列によってコードされた核酸の略図である。
図10】配列番号15の配列によってコードされた核酸の略図である。
図11】CAEVのゲノム、プラスミドpSHIVKU2、pCA-LTR-SHIVKU2IN-、およびpΔ4SHIVKU2の構造の略図である。
図12】Balb/cマウスのIFN-γを分泌するTリンパ球の数の評価を示すグラフである。対照BALB/c免疫適格マウスの脾臓細胞をpΔ4SHIVKU2およびpCA-LTR-SHIVKU2IN-で免疫化し、Gag、Envペプチド、およびペプチドTat+Rev+Nefプールで刺激した。PBMC 100万個あたりのスポット数を計算した。
図13】免疫化NOD/SCIDヒト化マウスでIFN-γを分泌するヒトTリンパ球の数の評価を示すグラフである。免疫不全マウスの脾臓細胞を、ヒト血液の単核細胞で再構成し、pΔ4SHIVKU2またはpCA-LTR-SHIVKU2IN-で免疫化するか、あるいはpSHIVKU2をGag、EnvペプチドおよびペプチドプールTat+Rev+Nefで刺激した。PBMC 100万個あたりのスポット数を計算し、20%に標準化した。
図14】ベクターCA-LTR-SHIVKU2-IN-作製の図である。
図15】ベクターCA-LTR-SHIVKU2の略図である。
図16】ベクターCA-LTR-SHIVKU2-IN-の略図である。
図17】ベクターCAL-HIV-IN-作製の図である。
図18】ベクターCAL-HIV-IN-の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
配列の説明
- 配列番号1は、SAEVのLTRとインテグラーゼをコードする配列から切り出されたSHIVのゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号2は、CAEVのLTRとHIV-1のゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号3は、CAEVのLTRの配列を示す。
- 配列番号4は、CAEVのLTRとSIVのゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号5は、CAEVのLTRとHIV-2のゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号6は、CAEVのLTRとFIVのゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号7は、CAEVのLTRとSHIVのゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号8は、SIVのインテグラーゼの配列を示す。
- 配列番号9は、HIV-1のインテグラーゼの配列を示す。
- 配列番号10は、HIV-2のインテグラーゼの配列を示す。
- 配列番号11は、FIVのインテグラーゼの配列を示す。
- 配列番号12は、CAEVのLTRと、インテグラーゼをコードする配列から切り出されたHIV-1のゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号13は、CAEVのLTRと、インテグラーゼをコードする配列から切り出されたHIV-2のゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号14は、CAEVのLTRとインテグラーゼをコードする配列から切り出されたFIVのゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号15は、CAEVのLTRとインテグラーゼをコードする配列から切り出されたSIVのゲノムとを含むキメラレトロウイルスゲノムの配列を示す。
- 配列番号16は、ベクターpCA-LTR-SHIVKU2の配列を示す。
- 配列番号17は、ベクターpCA-LTR-SHIVKU2-IN-の配列を示す。
- 配列番号18は、ベクターCAL-HIV-IN-の配列を示す。
【実施例】
【0080】
1.材料および方法
1.1.接種用ベクター(図1)
1.1.1.ベクターpCA-LTR-SHIVKU2およびpCA-LTR-SHIVKU2-IN-
ベクターCA-LTR-SHIVKU2は、サルのゲノムと、SIVのLTRを切り出しCAEVのLTRで置き換えたヒト免疫不全ウイルス(SHIV)とを含む。SHIVは、SIV-mac239のゲノムからなるキメラゲノムを含み、SIVのtat、env、およびrev遺伝子が切り出され、HIV-1のvpu、tat、env、およびrev遺伝子で置き換えられている。それゆえにこのベクターは、CAEVの5'および3'におけるLTRの転写制御下に、SIVのvpr、vpx、gag、pol、vif、およびnef遺伝子と、HIV-1のtat、rev、vpu、およびenv遺伝子とを有する。pol遺伝子は、インテグラーゼ(in)をコードする配列から切り出された。インテグラーゼをコードする配列から切り出されていない接種用ベクターpCA-LTR-SHIVKU2は、配列番号16の配列(図15)からなる。インテグラーゼをコードする配列から切り出されたベクターpCA-LTR-SHIVKU2-IN-は、配列番号17(図16)からなる。
【0081】
ベクターCA-LTR-SHIVKU2-IN-は、以下のようにして構築された(図14)。ベクターSHIV-KU2をEcoR1とNar1で消化し、0.8kbのLTR断片を取り出した。次にCAEV-pBSCAベクターをEcoR1とNar1で消化し、0.5kbのLTR断片を精製した。続いて両方の断片をライゲーションした。次にベクターSHIV-1LTRCAをStu1とAva1で消化し、0.8kbのLTR断片を取り出した。CAEVの3'におけるLTRをプライマーStu1およびAva1で増幅し、PCR産物をStu1とAva1で消化し、0.5kbのLTR断片を精製した。両方の断片をライゲーションして、CAL-SHIVKU2を得た。最後に、CAL-SHIVKU2-IN-を生成するために、pol遺伝子におけるKpn1とAcc1による消化を行い、SHIVのインテグラーゼの314bpの遺伝子を取り出した。
【0082】
1.1.2.ベクターpSHIVKU2およびΔ4SHIVKU2
プラスミドpSHIVKU2およびpΔ4SHIVKU2は、対照として用いられるプラスミドである。その構築は多くの出版物で説明されている(Liu ZQら、2006、Ramakrisna Hegdeら、2005)。
【0083】
1.2.接種用DNAの生産
1.2.1.細菌培養
上記プラスミドを含む大腸菌(E.coli)K12(JM109)細菌を0.05mg/mlのカナマイシンを含むBL培地5ml中で予備培養し、続いて150rpmで撹拌しながら30℃で一晩インキュベートする。予備培養物からの細菌懸濁液をBL培地で1:100,000に希釈し、続いてこの希釈液50μlをペトリ皿に入れた寒天/BL/カナマイシンの表面上に塗り広げ、続いてこれを32℃で一晩インキュベートした。ペトリ皿の寒天上に生じた孤立したコロニーを0.05mg/mlのカナマイシンを含む5mlのBL液状培地に植え付け、150rpmで撹拌しながら、30℃で一晩培養する。少量の培養液(1ml)をMacherey-NagelまたはQiagenのミニプレップ(Mini-prep)キットを用いたDNAの迅速抽出に推奨された手順に従って使用し、続いて1%アガロースゲルで抽出されたDNAを分離してその品質をチェックする。成功と推定されるDNAに対応する細菌を用いて、1Lの培養液に植え付け、これを初期の条件と同じ条件下で培養して、DNAをマキシプレップ(maxi-preparation)で単離する。
【0084】
1.2.2.マキシプレップ:プラスミド抽出
30℃で一晩撹拌しながら(150rpm)培養された細菌を遠心分離(4000g、4℃、15分)により堆積物として回収し、この堆積物を8mlの再懸濁緩衝液(50mMのトリス-HCl、pH8、10mMのEDTA)に再懸濁する。次に8mlのアルカリ性溶解緩衝液(200mMのNaOH、1%SDS)を添加することによって細胞を溶解させて、プラスミドDNAを放出させる。8mlの中和緩衝液(3Mの酢酸カリウム、pH5.5)を添加することによって溶解産物を中和する。続いてこの混合物を氷中で5分インキュベートし、15,000g、4℃で15分遠心分離する。このDNAを含む溶液を前もって平衡化したカラムに移し、そのままプラスミドDNAを保持させる。カラムを洗浄緩衝液で3回洗浄し、DNAを溶出させて、イソプロパノールで沈殿させる。遠心分離(30分、15,000g、4℃)により沈殿したDNA堆積物を得る。続いてDNAを2mlの70%エタノールで洗浄し、4℃で、15,000gで10分遠心分離することにより過量の不純物と塩を除去し、続いて堆積物を乾燥させ、適切な体積の超純水に再懸濁する。
【0085】
次にDNA溶液の濃度を分光光度法によって260nmに等しい波長λで決定し、続いてプラスミドの品質を1%アガロースゲルでの電気泳動の移動度によりチェックする。プラスミドのサイズとプラスミドの完全性は、例えば制限酵素BamH1とEcoR1で消化した後にアガロースゲルでチェックする。
【0086】
1.2.3.酵素消化によるプラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-のチェック
0.5μgのプラスミドのアリコート画分を、2ユニットの酵素EcoR1、BamH1またはSph1で、各酵素に適した1×緩衝液中で、20μlの最終容量で、37℃で60分消化することによって処理する。エチジウムブロマイド(ETB)とUV下でのゲル観察により明らかにしたTAE1×緩衝液中の1%アガロースゲルでの電気泳動の移動度により、消化のプロファイルをチェックした。
【0087】
1.3.細胞培養および処理:
1.3.1.細胞モデルおよび培養条件
細胞系を、アメリカ合衆国のNational Institute of Health AIDS Research and Reference Reagent Programから得た。その細胞を10%ジメチルスルホキシド(DMSO)中で液体窒素中-170℃で凍結保存する。それらを解凍し、培養フラスコで培養する。
【0088】
HEK293T(不死化ヒト胎児腎臓293)細胞は、ヒト胎児腎臓細胞の永久株である。この細胞は極めて簡単に100%にも達し得る極めて高いトランスフェクション効率でトランスフェクションするため、これらが用いられる。この細胞でレンチウイルスゲノムは強く発現され、そのタンパク質が集合して感染性粒子になり、それと指標細胞(CEMまたはM8166)とを共培養することにより、典型的な融合細胞が形成される。HEK293T細胞は接着性であり、フラスコ表面で、10%ウシ胎児血清(FCS)、1%ペニシリン5,000ユニット/ml、ストレプトマイシン5,000μg/ml、および1%ゲンタマイシン10mg/mlが補充されたMEM培地中で単分子層で培養される。この細胞を、37℃で、5%CO2の加湿雰囲気下で維持する。培地を3日毎に交換する。継代培養を行うために、栄養培地を除去し、細胞をdPBS/EDTAで洗浄し、0.5%トリプシン-0.01%EDTAの存在下で37℃で1分インキュベートする。細胞を剥離した後、細胞に所定量のMEM培地を即座に添加し、続いて細胞をホモジナイズし、新しいフラスコに移す。
【0089】
細胞CEMx174およびM8166は、ヒトレンチウイルスおよびサルレンチウイルスによる感染が許容されるヒトCD4+Tリンパ球であり、典型的な細胞変性効果(CPE)を生じる。これらの細胞は非接着性であり、10%SCS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、および1%ゲンタマイシンが補充されたRPMI培地で培養される。これらの細胞を5%CO2を含む加湿雰囲気下で37℃で維持する。3日毎に1,500Gで5分遠心分離工程を行うことにより培地を交換する。続いて堆積物を連続的に吸い上げて適切な体積の培地に注入することにより再懸濁する。
【0090】
1.3.2.インビトロの生物学的試験を用いた機能性の評価
プラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-またはpSHIVKU2でのHEK293Tのトランスフェクション
用いられるトランスフェクション法は、ExGen500を用いた方法である。ExGen500(Euromedex、France)は、直鎖ポリエチレンイミンをベースとするカチオン性ポリマーからなる。このポリマーは、イオン結合を介してDNAと複合体を形成させる極めて大きいカチオン電荷密度を有する。次にこのExGen500/DNA複合体は、通常はアニオン性の細胞の細胞質膜との相互作用(硫酸プロテオグリカンを介した相互作用)が可能になる。続いて細胞による複合体のエンドサイトーシスが起こり、加えてそれらはエンドソーム/リソソームに輸送される。ExGen500は、その酸性pHでのプロトン付加能力により酸性小胞の培地を緩衝化し、それによってトランスフェクションされたDNAの分解を防ぐことができる。またこの特性は、DNAを細胞の細胞質に放出させる浸透圧性ショックも引き起こす。続いてExGen500は細胞核へのDNAの輸送を促進し、細胞質ヌクレアーゼによるその分解を回避する。
【0091】
5μgのプラスミドのDNAを350μlの150mMのNaCl溶液と15μlのExGen500に添加する。この混合物を室温で40分インキュベートする。続いてこの混合物を、新たに補充した培地で覆ったHEK-293Tを含むフラスコに添加する。
【0092】
CEMx174の感染およびウイルスストックの増幅
pCA-LTR-SHIVKU2-IN-またはpSHIVKU2のDNAでトランスフェクションされたHEK-293TをCEMx174と共に培養したところ、その48時後に、CEMx174は、CEMx174が統合して融合細胞が形成されることに起因するECP形成によって示される感染の徴候を示す。感染したCEMx174を、ウイルスを増幅するための新しいCEMx174を含む新しいフラスコに移し、増幅されたウイルスは上清で回収する。
【0093】
ウイルスの生産
48時間後に注射器を用いてウイルスストックを回収し、続いてそれらを直径0.22μmのフィルターに通過させて死細胞片を除去し、その後、チューブに入れて-80℃で保存する。
【0094】
ウイルスを有する細胞の植え付け
細胞変性の開発により、またはマーカー遺伝子発現の検出によりウイルスの感染力(infectiousity)を評価するために、ウイルス上清のアリコート画分(10〜100μl)を用いて標的細胞に植え付ける。
【0095】
非接着性細胞でのウイルスの力価測定
ウイルスを含む上清を、10回の工程で培地で希釈することにより(連続希釈)10-1〜10-6希釈液を得て、これを用いて、24-ウェルプレートで、0.5〜1mlのRPMI培地を含む1ウェルあたり1×105個の細胞を含む4連のウェルに植え付ける。このようにして植え付けられた細胞を37℃で5%CO2と共にインキュベートし、培地を3日毎に交換しながら維持する。この細胞を定期的にECPの発生について観察する。
【0096】
1.4.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-でトランスフェクションされたHEK293T細胞の電子顕微鏡検査
接種用のゲノムpCA-LTR-SHIVKU2-IN-によって生産されたタンパク質がウイルス粒子に集合したかどうかを試験する目的で、本発明者らは、電子顕微鏡検査(EM)による形態学的な研究を行った。
【0097】
カコジル酸緩衝液(0.1Mカコジル酸ナトリウム)で希釈した2.5%グルタルアルデヒド溶液中で、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-、pSHIVKU2またはΔ4SHIVKU2でトランスフェクションされたHEK293T細胞のサンプルを固定する。続いてこの細胞を、1%四酸化オスミウム(OsO4)を含むカコジル酸緩衝液で、4℃で60分、追加で固定する。続いてサンプルを、暗所で4℃で一晩、pH4の酢酸ウラニル中でインキュベートする。続いてサンプルを、連続槽中でそれぞれ30%、60%、90%、および100%に希釈したエタノールに10分浸す。次いでサンプルを、純粋なエタノールとエポキシ樹脂(8mlのDDSA、7mlのMNA、または13mlのエポキシ)との50対50の混合物中に2時間浸す。続いてサンプルを純粋なエポキシ樹脂中に2時間置き、その後ビーム(Beem)カプセルに入れ、60℃で48時間重合するように設定する。
【0098】
これらの領域の極薄の切片をウルトラミクロトームでひし形のカッターを用いて作製する。これらの厚さ70nmの切片を、Jeol 1200 EX透過型電子顕微鏡を電圧80kVで用いて観察できるように銅製のグリッド上に載せる。
【0099】
1.5.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-接種用DNAによるマウスの免疫化
1.5.1.NOD/SCIDマウスのヒト化および接種
6週齢のマウスに、ガンマ線を120センチグレイの線量で50秒照射する。
【0100】
ヒト血液のPBMCによるマウスのヒト化
クエン酸ナトリウム上の全ての血液サンプルを遠心分離し(2000g、10分、20℃)、血漿と赤血球との間の白血球の層を回収する。細胞をPBS/EDTAで3倍に希釈し、慎重にフィコールのクッション(リンパ球を分離するための培地)上に載せ、続いて20℃で、2,000gで45分遠心分離する。PBMCを回収し、PBS/EDTAで数回洗浄し、PBS×1に再懸濁し、続いて各マウスに0.1ml中50×106個のPBMCを腹膜内経路で注入する。
【0101】
マウスの免疫化
ヒト化の48〜72時間後に、SCIDヒト化細胞を筋肉内経路(IM)でpCA-LTR-SHIVKU2-IN-、pSHIVKU2またはpΔ4SHIVKU2のDNA(50μg)と共に注入する。6〜8週齢のBALB/cマウスにそれぞれのDNA(100μg)をIM注射することによって直接免疫化する。
【0102】
1.5.2.体液性応答を評価する方法
アブノバ(Abnova)サンドイッチELISA試験:
この試験は、96-ウェルプレートのウェルの底に結合させた、ウイルス抗原に対する抗体の検出に基づく。試験される血清(免疫化後の異なる時間で回収される)、陽性対照、および陰性対照をウェルに入れる。抗HIV Ac(抗体)が存在する場合、それがウイルス抗原に結合することができる。過量の非特異的な結合を除くためにウェルを数回洗浄した後、HPRO酵素に連結したストレプトアビジンと相互作用するビオチン分子を有する第二の検出のためにAcを添加する。続いて、着色反応を引き起こす酵素の基質TMBを添加することによって形成された抗原/Ac複合体を検出する。着色は、ELISAリーダー光度計での読み出しによる光学密度で表す。
【0103】
試薬および生成物を室温にする。キットに提供された陰性対照および陽性対照(100μl)と、ブランク(100μl)と、10μlおよび50μlの血清サンプルとを100μlの最終体積でウェルに入れる。プレートを37℃で30分インキュベートし、洗浄溶液ですすぐ。ブランクを除く全てのウェルに1:100に希釈した第二のAc溶液(100μl)を添加する。続いてプレートをパラフィルム紙で覆い、37℃で20分インキュベートする。洗浄工程後、TMB溶液AおよびTMB溶液Bを添加して、プレートを実験室の温度で15分インキュベートする。着色反応を止めるために、1ウェルあたり100μlの2NのH2SO4を添加する。450nmでプレートの読み出しを行う。
【0104】
閾値に等しいかまたはそれよりも大きい吸光度値を有するサンプルを陽性とみなし、この閾値は、式:カットオフ値=NCx+0.100(式中NCxは、2つの陰性対照の吸光度値の平均である)に従って決定される。
【0105】
血清中和試験
この技術は、ウイルス感受性細胞の感染を阻害するAc(セロ-N(sero-N))を血清中和する能力に基づく。血清中のセロ-N Acの検出と評価のために、一定量の感染性ウイルスを試験される血清の連続希釈液と接触させ、続いてこの混合物をマイクロプレート上で許容細胞の培養物に植え付け、3〜5日インキュベートする。ほとんどの場合、ウイルスは細胞変性株であるため、ECPの非存在またはECP数の減少は、試験される血清中にAcが存在することを示す。
【0106】
ウイルスストックSHIVKU2をRPMIで1:1000に希釈し(ウイルスの上清の体積は、ウェルの50%が融合細胞を有する際のウイルスの希釈率に相当する100TCID50に応じて決定される)、ヒト化され、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-またはpSHIVKU2が接種されたNOD/SCID対照マウスから回収された血清を、同じ培地で(10、20、40、80、160、および320倍の希釈率で)希釈する。希釈したウイルスおよび血清希釈液を96-ウェルプレートで混合し(100μl/ウェル)、この混合物を4℃で1時間インキュベートする。続いてこの混合物を、24-ウェルプレートで予め培養したM8166細胞上に載せた(細胞1×105個/ウェル)。この実験で、陽性対照は、血清を用いずにpSHIVKU2に起因するウイルスであり、陰性対照は、細胞単独に相当する。
【0107】
細胞応答の評価方法:Elispot試験
この試験の目的は、抗原性刺激に特異的な応答としてIFN-γを分泌するTリンパ球(TL)の比率を検出し評価することである。
【0108】
まずマウスに深い麻酔をかけ、続いて全ての総血液と脾臓を取り出す。マウスの脾臓を氷中でRPMI培地に入れる。乾燥したチューブ中の血液を用いて、血清を単離する。ペトリ皿で、PBSおよび1%EDTAの存在下で刃と刃の間で脾臓をすり潰すことにより脾細胞を単離する。細胞をPBS/EDTAで2回洗浄することにより(2,000G、20℃で5分遠心分離)、脾細胞を精製して濃縮する。ウェルに細胞を撒いた後、プレートをPBSで洗浄し、続いてPBS+10%SCSと共に実験室の温度で30分インキュベートする。各ウェルに細胞(5×105脾細胞)を撒き、Gag、Env、Tat、RevおよびNefタンパク質のペプチドのプールを2μg/mlの最終濃度で植え付けた。この試験に陽性対照(キットに含まれるCD3-2)と陰性対照とを追加する。プレートをアルミニウム箔のパウチで覆い、37℃で19時間インキュベートする。細胞とペプチドを洗浄し、続いてビオチン化する(7-b6-ビオチン)抗IFN-γモノクローナル抗体を添加し、プレートを覆い、室温で2時間インキュベートする。0.5%FCSを含むPBSで希釈したストレプトアビジンを添加し(100μl/ウェル)、プレートを室温で1時間インキュベートする。もう1回洗浄工程を行った後、発色基質であるTMBを添加し、その後、青色のスポットが出現したらプレートを洗浄し、乾燥させる。プレートの読み出しを、双眼拡大鏡で40倍の倍率で行う。
【0109】
ウェルの陽性の基準は、条件ごとに二連のスポット数の平均と標準偏差を計算することにより決定される。スポット数は、PBMC 100万個ごとに計算され、NOD/SCIDマウスで得られたデータの20%に標準化される。この試験は、スポットの平均値が、対照培養で得られたスポットの平均に相当するPBMC 100万個あたり10スポットより大きいと陽性とみなされる。
【0110】
1.6.フローサイトメトリーによる抗原特異的T細胞の表現型および機能性の試験
1.6.1.末梢単核細胞の単離
ヒト末梢血単核細胞を上記で示したように調製する。培養とサイトメトリー試験のために、上述の手順に従って単離したマウス脾臓の脾細胞も、血清を含まないAIM V培地に再懸濁した。
【0111】
1.6.2.細胞の抗原刺激および培養
抗原特異的細胞が、増殖してサイトカインと溶解分子を生産することができるかどうかを試験するために、脾細胞とPBMCを、37℃で10分、CFSE(1μg/ml)で標識し、続いて過量分を取り除くために細胞を1×PBSで洗浄する。標識した細胞を、96-ウェルプレートのディープウェルに、1mlのAIM V培地中、2×106/ウェルの量で撒き、続いて、抗CD49および抗CD28同時刺激Acの存在下で、ペプチドの様々なプール(Gag、Env、およびTat+Rev+Nef)で2μg/mlの量で刺激する。陰性対照として、ペプチドを含まない細胞を用い、陽性対照として、フィトヘムアグルチニン(PHA)を2μg/mlで添加された細胞を添加する。細胞を5日間培養し(37℃、加湿)、続いて同じペプチドのプールで6時間再度刺激した後、それらを標識する。細胞を遠心分離(2,000G、5分、4℃)で回収し、100μlのPBSに再懸濁し、まず、表面Ac(CD3、CD4、およびCD8)[パシフィックブルー(Pacific Blue)抗ヒトCD3(5μl)、PE抗ヒトCD4(10μl)、およびAPC/Cy7抗ヒトCD8(10μl)]で、室温で30分標識する。続いて細胞を遠心分離し、1×PBSで洗浄し、続いて100μlのBDのサイトフィックスサイトパーム(Cytofix Cytoperm)中に固定して透過性にする。続いて細胞質の標識のために、細胞を、「抗ヒトIFN-γ PE-Cy7」および「アレクサフルオロ(Alexa Fluor)647抗ヒトグランザイムA(Granzyme A)」Ac(5μl)と共に4℃で20分インキュベートする。最後に細胞をPBSで洗浄し、4%PFAで固定し、その後フローサイトメーターでの獲得および解析を行う。
【0112】
1.6.3.機器類
BDのFACSDiva6ソフトウェアパッケージに連結したBDのLSRIIフローサイトメーターを使用した。この機器は、最大13種の蛍光パラメーターと2種の物理的パラメーター、すなわちFSCのサイズ(前方散乱)および複雑さ;または粒子のSSC(側方散乱)の測定を可能にする。この機器は、3つのレーザーを備えている。488nmで放射される青色のレーザーは、数種の蛍光色素(FITC、PE、PE-Cy7)を独立して励起することができる。633nmで放射される赤色のレーザーは、APCおよびAPC-Cy7蛍光色素を励起することができ、最後に405nmで放射される紫色のレーザーは、パシフィックブルー蛍光色素を励起することができる。
【0113】
1.7.マカクの免疫化
この研究には、合計12匹のマカク(カニクイザル)を用いる。対照グループは6匹のマカクで構成され、接種グループは残りの6匹のマカクで構成される。筋肉内経路を介した1回のDNAの二重注射(動物1匹あたり4mg)およびエレクトロポレーション(EP)で(動物1匹あたり1mg)動物を免疫化した。
【0114】
このようなワクチンの単回投与による免疫化戦略の理由はいくつかある。主な理由の1つは、各再免疫化工程に伴う一次エフェクターT細胞によるメモリーT細胞の生成、成熟、および増幅に影響を与えないことである。
【0115】
ワクチンにより誘導された免疫反応を試験するために、免疫動物の長期追跡調査を行った(4週間にわたり週に1回、続いて32週目まで2週に1回、続いて10ヶ月にわたり4週に1回)。起こり得る基底の応答を試験するために、免疫化の2週前および1週前に採取された血液サンプルを使用した。末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、これを、表面および細胞質内の標識によるELISPOT IFN-λ試験で、さらにフローサイトメトリーによる解析でT細胞の応答を評価するのに用いる。
【0116】
2.結果
2.1.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-プラスミド構築の定性的および定量的チェック
2.1.1.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-プラスミドの存在
大量のBL液状培地に撒くために用いられるBL培地での予備培養物から得られたポリクローナル細菌培養からプラスミドDNAを単離したら、約2000bpのエピソームがかなりの割合で観察される。また電気泳動プロファイルからも、プラスミドに相当する約14,000bpの単一のDNAバンドの存在(論理上は13,739bp)が示される。
【0117】
まずペトリ皿で細菌を培養し、単離したコロニーを得て、これらのコロニーを予備培養に用い、続いてバルク培養に用いてプラスミドDNAを単離し精製することによりDNAを単離したところ、0.5μgのDNAを分離した後に得られた電気泳動プロファイルから、いかなるエピソームも存在しないことが示され、さらに、環状、コイル、およびスーパーコイルの形態のpCA-LTR-SHIVKU2-IN-プラスミドに相当する3つの高分子量DNAのバンドが示される。本発明者らの2種の調製物のプラスミドDNAの純度および定量的評価を分光光度法によりチェックした。230、260、および280nmの波長での吸収測定値を使用して、260/280比を決定したところ1.75および1.82であり、260/230ではそれぞれ2.04および1.92であることから、これは、本発明者らのDNAが十分な品質であることが示される。DNA濃度は、545μg/mlおよび765μg/mlである。
【0118】
2.1.2.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-の酵素消化
プラスミドのEcoR1での消化プロファイルから、両端にEcoRI部位を有する断片からの約5,000bpと7,500bpの2つのバンド、両端にBamH1部位を有する断片から生じた2400bp、4,900bp、および7,400bpのBamH1による3つのバンド、および1つのSph1部位を有する断片から生じた10,000bpに位置するSph1によるバンドの存在が明らかになる。さらにBamH1消化による追加の2,400bpのバンドも観察されたが、これはエピソームに起因するものと思われる。
【0119】
2.2.官能性の評価:細胞へのプラスミドDNAの作用
HEK293T細胞を、GFPを発現する対照プラスミドpCG-GFP、プラスミドpSHIVKU2、さらにプラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-でトランスフェクションした。プラスミドpCG-GFPでトランスフェクションされた細胞から、GFP+細胞の数を評価することによりトランスフェクション効率の推測が可能になった。
【0120】
pCA-LTR-SHIVKU2-IN-またはpSHIVKU2でトランスフェクションされたHEK293T細胞が、典型的な融合細胞を誘導するビリオンを生産するのかどうかをチェックするために、これらの細胞をCEMx174と共培養し、それに続いて顕微鏡下でECPの出現を観察した。いずれの共培養物も特徴的なECPを生産した。
【0121】
トランスフェクションされた細胞によって生産されたSHIVKU2ウイルスが数回複製されるかどうかをチェックするために、M8166ヒトCD4+Tリンパ球株に感染させるためにトランスフェクションされた細胞の上清を使用した。SHIVKU2で得られた結果から明らかに、SHIVKU2は感染力があり、特に高い許容性を有するM8166細胞系でECPを誘導することが示される。これらのECPは、48時間たったらすぐに出現するが、その後の段階でも出現する。
【0122】
次いで接種用ベクターpCA-LTR-SHIVKU2-IN-のDNAだけが1回の複製サイクルを可能にすること(上記ベクターが遺伝子から切り出されるため)をチェックするために、培養中のM8166細胞に、回収したCA-LTR-SHIVKU2-IN-ウイルスを含む上清を1回、続いて2回植え付けた。1回目の植え付けにより、48時間以降にECPが生産され、76時間後にはECPはより多数になっていた。これらの感染細胞の上清を回収し、再度M8166に1回植え付けた。以前の植え付けとは異なり、植え付けの48時間後または76時間後のどちらにもECPは目視で観察されない。これらの結果から、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-は、培養中の標的細胞を1回だけ形質導入させることができると結論付けられる。
【0123】
典型的なECPの存在は、プラスミドDNAはHEK293T細胞で複製されて、CA-LTR-SHIVKU2-IN-ビリオンが生産されたことを示唆している。第1の感染のECPは、生産された粒子によるM8166ヒトCD4+TL株の感染力を示し、第2の感染中のそれらの非存在は、細胞において生産性のある複製が起こっていないことを示す。
【0124】
2.3.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-でトランスフェクションされたHEK293T細胞におけるウイルス粒子の形態形成の電子顕微鏡解析
次いでHEK293T細胞中で、接種用pCA-LTR-SHIVKU2-IN-ゲノムによって生産されたタンパク質が適切にウイルス粒子に集合したかどうかを決定した。プラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-でトランスフェクションされたHEK293T細胞の形態をEMで試験した。
【0125】
結果から、ウイルス粒子は芽の形態で細胞表面に存在しており、成熟したウイルス粒子は細胞から解離していることが示される。したがって、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-ワクチンのタンパク質は、ウイルス粒子を細胞の外側で出芽させるために組み立てられる。
【0126】
2.4.ヒト化SCIDマウスおよびBALB/cマウスでのワクチンのインビボの試験
2.4.1.pCA-LTR-SHIVKU2-IN-が接種されたSCIDヒト化マウスにおける体液性応答の評価
ウイルスの抗原に特異的に結合するAcの存在について、免疫化の約1ヶ月後に採取された免疫化マウスの血清サンプルを市販のELISA試験を用いて試験する。Table 1(表1)(以下)にこの解析の結果を要約する。これらの結果から、接種用pCA-LTR-SHIVKU2-IN-DNAで免疫化されたマウスからのサンプルのうち約半分では、SHIVKU2のDNAで免疫化されたマウスも同様に、陽性の比率は低く(それぞれ44%および37%)、これは、pΔ4SHIVKU2で免疫化されたマウスの陽性の比率(50%)とは異なることが示される。これらの結果から、NOD/SCIDヒト化マウスにおいて接種用pCA-LTR-SHIVKU2-IN-DNAの体液性応答を誘導する能力が実証される。pΔ4SHIVKU2で免疫化されたマウスの3つの血清サンプルのうち1つのOD値は、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-で免疫化されたマウスおよびpSHIVKU2で免疫化されたマウスの血清サンプルで得られたOD値よりも大きい。このプラスミドは複製能がなく、ウイルスのタンパク質はトランスフェクションされた細胞の膜に結合したままであるため、Acをほとんど誘導しないと予想される。
【0127】
【表1】
【0128】
2.4.2.血清中和による中和活性の解析
選択されたプラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-またはSHIVKU2が接種されたSCIDヒト化マウスの血清は、そのODがELISAにより陽性であることが見出されたものである。血清が少量であるため、ELISA試験で強いOD値を示した所定のサンプルを血清中和で試験することができなかった。試験の信頼性を保証するために、陰性であることが判明したpCA-LTR-SHIVKU2-IN-が接種されたSCIDヒト化マウスの血清サンプルもELISA試験に用いた。
【0129】
【表2】
【0130】
得られたECPの数は、血清を用いずにインキュベートしたSHIVKU2ウイルス(76個のECP)または非免疫化マウスの血清と共にインキュベートしたSHIVKU2ウイルス(42個のECP)(陰性対照)に感染させたM8166細胞において比較的高いことから、本発明者らは、ウイルス中和の陰性の閾値を42個のECP(表にデータ示さず)と設定した。一方で、ウイルスをCA-LTR-SHIVKU2-IN-またはSHIVKU2のDNAで免疫化されたマウスの1/10に希釈した血清と共にインキュベートすると、ECPの数はゼロに近くなる。この数は、血清の希釈率が高くなるにつれて次第に増加することから、量に応じた効果が示される。例えば、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-で免疫化されたマウスの血清を1/10の希釈率で用いた場合、5個のECPが得られ、それに対して1/320の希釈率では、血清を用いない対照の値と類似した69個のECP値が得られる。
【0131】
2.4.3.接種されたBALB/cマウスにおけるpCA-LTR-SHIVKU2-IN-の免疫原性の評価
BALB/cマウスにおけるpCA-LTR-SHIVKU2-IN-ワクチンの免疫原性を研究するために、動物に筋肉内経路を介して100μgのDNAを単回投与で注入した。ELISPOTで抗原特異的脾臓細胞(脾細胞)の比率を試験した。この研究結果から、実際に用いられたDNAが研究される全ての抗原に対して特異的な免疫反応を誘導する能力が示される(図12)。プラスミドpΔ4SHIVKU2によるT細胞応答は、プラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-を用いた場合よりも2倍高い。この両者のDNA間の小さい効率の差は、pΔ4SHIVKU2のDNAの品質がpCA-LTRSHIVKU2-IN-のDNAの品質よりも優れていることに関連する可能性がある。それでもこれらの結果から、正常なマウスにおいてこれらのワクチンにより誘導された基底レベルの免疫反応を決定することができ、さらにSCIDヒト化マウスで得られた免疫反応との比較を行うことができる。
【0132】
2.4.4.様々なDNAで免疫化されたNOD/SCIDヒト化マウスにおける細胞応答の評価
50μgのCA-LTR-SHIVKU2-IN-、Δ4SHIVKU2またはSHIVKU2のDNAを単回投与で筋肉内注射することによりNOD/SCIDヒト化マウスを免疫化し、続いて脾細胞を用いてELISPOTにより免疫反応を試験し、抗原特異的細胞とIFN-γ産生細胞との比率を評価した。図13で示されるように、Gag、EnvまたはTat+Rev+Nef抗原での刺激に応答してヒトINF-γをSIVペプチドまたはHIVペプチドの形態で生産する相当数のT細胞が見出される。興味深いことに、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-での免疫化後に得られた応答は、pSHIVKU2で得られた応答にある程度類似しており、これらの応答はいずれも、pΔ4SHIVKU2での免疫化後に得られた応答よりも明らかに大きいことに注目すべきである。GagおよびTat+Rev+Nef抗原に対してpCA-LTR-SHIVKU2により誘導された応答が優勢である。
【0133】
これらの全結果から、pCA-LTR-SHIVKU2のDNAは、NOD/SCIDヒト化マウスにおいて高い免疫原性を有すること、加えて病原性ウイルスに対する防御に関連することがわかっている抗原に対する応答を選択的に誘導することが実証される。
【0134】
2.5.フローサイトメトリーによる抗原特異的T細胞の表現型および機能性の試験
2.5.1.ゼロ日目に行われる(マウス脾臓を回収する日に行われる)単一標識
選択された抗体が、実際にそれらの標的を検出するかどうかを試験するために、一方でSCIDヒト化マウスの脾臓におけるヒト細胞の存在と比率を評価するために、これらの単一標識が用いられる。
【0135】
ヒト化マウスおよび非ヒト化マウスの非標識リンパ球をフローサイトメトリーで解析し、基底状態の細胞の蛍光(陰性対照)を測定した。
【0136】
CD3+TLの検出は、蛍光色素「パシフィックブルー」に連結されたヒト抗CD3 Acで行われる。これらの細胞は、プラスミドpCA-LTR-SHIVKU2-IN-が接種されたSCIDヒト化細胞で単離された細胞のプロファイルの102でピークを形成する。このピークは、SCID非ヒト化マウスで回収された細胞ではみられない。
【0137】
抗CD4+Acで単一標識した細胞(CD4抗ヒトPE)では、それが対照の場合かまたは本発明者らの試験サンプルの場合かにかかわらず有意なピークは観察されなかった。これは、用いられた抗CD4Acが機能しなかったことに起因すると予想される。
【0138】
CD8+TLを検出するために、蛍光色素APC/Cy7に連結したヒト抗CD8モノクローナルAcを使用した。これは、SCID非ヒト化マウスではなくpCA-LTR-SHIVKU2-IN-が接種されたSCIDヒト化マウスで単離された細胞のプロファイルにおいて102〜103の範囲内にあるピークの検出を可能にする。
【0139】
アレクサフルオロ647に連結した抗GRA Acで標識した免疫化マウスおよび非免疫化マウスからの細胞ではピーク差が観察されなかったために、GRA分子を生産するリンパ球の比率を評価することはできなかった。
【0140】
一方で、蛍光色素PE-Cy7に連結したヒト抗IFN-γ Acで標識した細胞は、102の位置に、pCA-LTR-SHIVKU2-IN-が接種されたSCIDヒト化マウスの細胞の明確なピークを示し、非免疫化SCID非ヒト化マウスの細胞ではピークは存在しなかった。
【0141】
2.5.2.免疫動物におけるT細胞の表現型解析および機能
ウイルス抗原特異的T細胞の表現型および機能を試験するために、CFSEで標識した細胞を(Gag、EnvおよびTat+Rev+Nef)ペプチドと共に5日間インキュベートし、続いて同じペプチドで再度、6時間刺激する。続いて上記で示したように細胞をAcで標識して試験する。
【0142】
この解析結果から、IFN-γを生産し、特に接種されたNOD/SCIDヒト化マウスからの細胞を用いた場合、GRA分子を有するCD3+細胞およびCD8+細胞の存在が示される。実際に、免疫化されたNOD/SCIDヒト化マウスでは、CD8+TLの少なくとも6%がIFN-γを生産し、1.7%がGRA Aを生産するが、それに対して対照マウスではそれぞれわずか2.5%および0.6%である。これらの結果から、本発明者らのワクチンpCA-LTR-SHIVKU2-IN-により誘導されたエフェクター細胞性免疫反応に相当するGRAとIFN-γを生産するCD3+、CD8+活性化細胞の存在が実証される。
【0143】
2.6.マカクにおける免疫および体液性応答の解析
2.6.1.ELISPOT IFN-λ試験によるT細胞の免疫反応の解析
採取された血液サンプルから単離された単核細胞画分を用い、市販のキットを用いてウイルスGag、Pol、Env、およびTat+Rev+Nef抗原による刺激に応答してIFN-λを分泌する細胞の比率を評価する。table 3(表3)に最初の20週間の解析結果を示す。この表から明らかに、接種用ベクターCAL-SHIV-IN-の1回の投与後、全ての動物が、IFN-λを分泌する抗原特異的細胞を特徴とする細胞性免疫反応を起こしたことが示される。これらの応答は、互いに異なるCMH-1ハプロタイプを有する動物ごとに異なる。免疫反応は、免疫化後(PI)2〜4週間で第一の一次応答ピークの存在と、PI後8〜10週間でそれに続く応答とを特徴とし、ここでは第二の免疫化は行われない。大変興味深いことに、第二のピークの強度はしばしば、特にIFN-λを分泌する細胞の数が3倍のBX80動物で、第一のピークの強度よりも大きいことに注目すべきである。
【0144】
【表3】
【0145】
2.6.2.接種されたサルにおけるマルチパラメータのフローサイトメトリーによるT細胞の免疫反応の解析
マルチパラメータのフローサイトメトリーによる解析の結果から、全ての動物が増殖したT細胞による応答を起こし、この応答は接種用ベクターによって発現された全ての抗原に特異的であることを解明することにより、ELISPOTにより得られた結果が裏付けられる(Table 4(表4))。これらの応答は動物間で異なっており、免疫後約8週まで及ぶ最初の一次応答期、続いて収縮期(2〜4週間)、続いて再出現期があることがわかる。52週目に試験ウイルスSIVmac251を用いた毒性試験を行うまで、このマルチパラメータのフローサイトメトリーによる免疫反応の長期追跡を継続した。
【0146】
【表4】
【0147】
2.6.3.マカクにおける体液性応答の解析
HIV-1の抗Env抗体を検出することができる市販のELISAキットを用いてSHIVの抗抗原抗体の検出を行った。各血液サンプリング時に回収された血清の長期試験によれば、抗Env抗体の存在は、BX80動物では免疫後20週目から、BX73動物では8週目から示された。SHIVのタンパク質に対するウェスタンブロットによって陽性血清中の抗体の存在を確認したところ、Gag-p27タンパク質に対する強いシグナル、加えてgp160/gp120糖タンパク質に対するシグナルが示された。
【0148】
2.6.4.結論
これらの結果から明らかに、1回の接種用DNA(CAL-SHIV-IN-)の注入で、T細胞と体液性(抗体)免疫反応を誘導できることが実証される。T細胞応答は、接種用ベクターによって発現される全てのウイルス抗原に対する。この応答は持続的であり、従来の増殖、収縮、およびメモリースキームに従っている。表現型解析により、セントラルタイプのメモリーT細胞とメモリーエフェクター細胞の存在を確認した。
【0149】
2.7.HIV-1:ベクターCAL-HIV-IN-の全抗原を発現する新規のベクターの構築および機能性の解析
ベクターCAL-SHIVKU2-IN-のゲノムから、Nar1酵素とSph1酵素で二重に消化することによりSIVのgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子を切り出し、Nru1酵素で部分的に消化しNot1酵素で全体を消化することによりSIVのnef遺伝子を切り出した。次に残りの断片を精製した。この断片は、CAEVのRTLに挟まれており、プラスミドpETにより輸送されるHIVのtat、rev、およびenv遺伝子が結合している断片であるが、これを使用して、HIV-1のgag、pol、vif、vpx、およびvpr遺伝子が結合している5kbの断片とHIV-1のnef遺伝子が結合している620bpの断片とを導入し、ベクターCAL-HIV-IN-を作製した(図17)。インテグラーゼをコードする配列から切り出されたCAL-HIV-IN-ベクターは、配列番号18の配列からなる。
【0150】
2.7.1.官能性の評価:細胞におけるプラスミドDNAの作用
このベクターのDNAを、ExGenと製造元推奨の手順を用いてトランスフェクションすることによってGHOST-CXCR4およびHEK-293T細胞に導入した。その後トランスフェクションされたGHOST-CXR4細胞は蛍光を放つため、接種用ベクターによるHIV-1のウイルスタンパク質の発現、より具体的にはHIVのRTLの制御下でGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子の発現を促進するTatタンパク質の発現が確認された。
【0151】
接種用ベクターCAL-HIV-IN-でトランスフェクションされたHEK-293T細胞の上清を使用してM8166に植え付けたところ、HIV感染の特徴である細胞変性効果を起こしたCD4+T細胞が示された。これらの結果から、ウイルス粒子に集合した接種用ベクターにより発現されたタンパク質は、M8166指標細胞の感染を可能にすることが証明される。これらの細胞変性効果を起こした細胞は、M8166指標細胞に再度感染して細胞変性効果を誘導することができるウイルスを生産しなかった。この結果から、CAL-HIV-IN-は、組み込みがなされない1回の複製サイクルと関連することが示される。
【0152】
トランスフェクション後に生産されたウイルスタンパク質を評価するために、接種用ベクターでトランスフェクションされたHEK-293T細胞の上清を、トランスフェクションの24時間後、48時間後、および72時間後に回収し、続いてELISAでGagp24抗原の存在について試験した。Table 5(表5)に、このタンパク質の量の測定結果を示す。この測定結果から、このタンパク質が増加して、トランスフェクションの24時間後の100ng/mlからトランスフェクションの72時間後の135ng/mlまでの範囲で蓄積されることが示される。
【0153】
【表5】
【0154】
2.7.2.BALB/Cマウスの免疫化および誘導された免疫反応の特徴付け
6週齢のBALB/cマウスの3つのグループ(1グループあたり6匹)を使用した。2つのグループを免疫化に使用し、3つめのグループを対照グループとした。2つの免疫化マウスのグループに、マウス1匹あたり100μgのベクターCAL-HIV-IN-のDNAを筋肉内経路で注入した。一つのグループの動物を2週間後に殺し、他のグループは免疫化(PI)の3週間後に殺した。対照マウスは免疫化の2週間後に殺した。それぞれのマウスの脾臓を取り出し、脾細胞を単離し、続いてこれを上述のようなELISPOT試験またはマルチパラメータのフローサイトメトリーでの解析のいずれかに用いた。Table 6(表6)にELISPOTによる解析の結果を示す。それによれば、IFN-λを分泌する全ての抗原に特異的な細胞の存在が示される。これらの細胞の大部分は、GagおよびTat+Rev+Nef抗原に特異的である。免疫化の2週間後および3週間後における応答は、実質的に類似している。
【0155】
【表6】
【0156】
フローサイトメトリーによる解析の結果(Table 7(表7))から、接種用ベクターCAL-HIV-IN-によって発現された全ての抗原に特異的なCD4+およびCD8+T細胞の免疫反応が実証される。
【0157】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]