特許第6324907号(P6324907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6324907溶融体から結晶シートを成長させる装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6324907
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】溶融体から結晶シートを成長させる装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20180507BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20180507BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   C30B29/06 503
   C30B15/34
   H01L21/208 Z
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-557628(P2014-557628)
(86)(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公表番号】特表2015-513514(P2015-513514A)
(43)【公表日】2015年5月14日
(86)【国際出願番号】US2012069069
(87)【国際公開番号】WO2013122668
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2015年12月4日
(31)【優先権主張番号】13/398,884
(32)【優先日】2012年2月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500239188
【氏名又は名称】ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン エイチ マッキントッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エル ケラーマン
(72)【発明者】
【氏名】ダウェイ スン
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−515311(JP,A)
【文献】 特開平04−305130(JP,A)
【文献】 米国特許第04417944(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L 21/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融体から結晶シートを成長させる装置であって、
冷温ブロック・アセンブリと;
結晶引き出し装置とを具え、
前記冷温ブロック・アセンブリは、
冷温ブロックと;
前記冷温ブロックを包囲し、前記冷温ブロックの温度に対して高温であるシールドとを具え、このシールドは、前記溶融体の溶融体表面に近接した前記冷温ブロックの表面に沿って配置された開口を規定し、この開口は、前記冷温ブロックの第1方向に沿った幅を具えた冷温領域を規定し、この冷温領域は、前記冷温ブロックに近接した前記溶融体表面の第1領域の局所的冷却を行うように動作可能であり、
前記結晶引き出し装置は、結晶シードを、前記第1方向に直交する方向に引き出すように構成され、
前記冷温ブロック・アセンブリが第1冷温ブロック・アセンブリであり、前記冷温ブロックが第1冷温ブロックであり、前記シールドが第1シールドであり、前記幅が第1の幅であり、前記装置が、
第2冷温ブロック・アセンブリをさらに具え、この第2冷温ブロック・アセンブリが、
第2冷温ブロックと、
前記第2冷温ブロックを包囲し、前記第2冷温ブロックに対して第2の高温である第2シールドとを具え、この第2シールドは、前記溶融体表面の第2領域に近接した前記第2冷温ブロックの第2表面に沿って配置された第2開口を規定し、この第2開口は第2冷温領域を規定し、前記第2冷温ブロック・アセンブリは、前記第2冷温領域内に第2の幅を生成するように動作可能であり、前記第2の幅は、当該第2の幅よりも大きい第3の幅まで時間と共に変化し、
前記第2表面が曲面形状を具え、この曲面形状は、前記第2表面の外側領域が、前記第2表面の内側領域よりも、前記溶融体表面からの垂直距離が大きい所に位置するように構成され
前記第2表面が、当該第2表面の前記内側領域の中央に凹部を規定し、この凹部は前記第1の幅に等しい幅を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記シールドが、前記冷温ブロック・アセンブリの表面温度を、前記冷温領域の外側で前記冷温ブロックを包囲する領域内で、前記溶融体表面の温度に対して10℃以内にするように構成された一組の補償ヒータ素子を具えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記補償ヒータ素子が、1412℃の表面温度を提供するように動作可能であることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記冷温ブロックが、冷却流体源に接続された流路を、当該冷温ブロックの内部に規定することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記冷温ブロックを、前記溶融体表面の前記第1領域の上方に配置して、前記冷温ブロックを、前記溶融体表面に直交する方向に移動させるように構成されたホルダをさらに具えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記シールドと前記冷温ブロックとの間に配置されたインシュレータ部をさらに具えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記冷温領域に近接して前記冷温ブロック内に配置された少なくとも1つの光パイプであって、信号を発生するパイロメーターへ光を導くように構成された光パイプと;
前記パイロメーターから前記信号を受信して、前記溶融体の近傍の放射レベルが所定閾値に達すると、前記溶融体表面に沿った前記結晶シードの引き出しを開始するための制御信号を発生するように動作可能なコントローラと
をさらに具えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第2冷温ブロック・アセンブリが、前記第2表面に沿って配置された2つ以上のヒータ素子を具え、前記第2冷温ブロック・アセンブリは、前記少なくとも2つ以上のヒータ素子のうち少なくとも1つに至る電力を減少させて、前記第2の幅を、前記第3の幅まで、時間と共に変化させるように動作可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
第3冷温ブロック・アセンブリをさらに具え、この第3冷温ブロック・アセンブリは、
第3冷温ブロックと;
この第3冷温ブロックを包囲する第3シールドとを具え、この第3シールドは、前記第3冷温ブロックの温度に対して第3の高温であり、前記第3シールドは、前記溶融体表面の第3領域に近接した前記第3冷温ブロックの第3表面に沿って配置された第3開口を具え、この第3開口は第3冷温領域を規定し、この第3冷温領域は、前記第3の幅に等しい第4の幅を具え、前記第3表面は、平坦な形状を具えて、均一な熱流束除去を行うことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援の研究または開発に関する陳述
米国政府は、本発明における支払済の許諾を有し、米国エネルギー省によって付与された契約番号DE-EE0000595の契約条件によって提供される適当な条件で他者に許諾を与えることを、限定された状況で特許権者に要求する権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明の好適例は、基板製造の分野に関するものである。より具体的には、本発明は、溶融体から結晶シートを成長させる方法、システム及び構造に関するものである。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
シリコンウェハーまたはシートは、例えば集積回路または太陽電池産業において用いることができる。再生可能エネルギー源の需要が増加するに連れて、太陽電池の需要が増加し続ける。太陽電池産業における1つの主なコストは、これらの太陽電池を作製するために使用するウェハーまたはシートである。ウェハーまたはシートのコストの低減は、結果的に太陽電池のコストを低減し、この再生可能エネルギー技術をより普及させる
【0004】
太陽電池用の材料のコストを下げるために調査されてきた1つの方法は、溶融体から薄いシリコンリボンを垂直に引き出し、冷却し固化させて結晶シートにすることである。この方法の引き出し速度は、約18mm/分未満に制限され得る。シリコンの冷却及び固化中に除去される潜熱は、垂直なリボンに沿って除去される。このことは、リボンに沿った大きな温度勾配を生じさせる。この温度勾配は、結晶シリコンにストレスを加えて、品質の悪い多粒シリコンを生じさせ得る。リボンの幅及び厚さも、この温度勾配により制限される。
【0005】
いわゆる水平リボン成長法(HRG:horizontal ribbon growth)のような、溶融体から水平にシート(またはリボン)を製造することも調査されてきた。以前の試みは、ヘリウム対流ガス冷却を用いて、リボン引出しに必要な連続面成長を実現していた。これらの以前の試みは、信頼性があり、均一な厚さで急速に引き出される「製造に値する」広幅のリボンを製造する目標を満足していなかった。
【0006】
シリコン溶融体の放射冷却が、結晶シリコンを形成する代案方法として提案されてきたが、固体シリコンと液体シリコンとの放射率の差εs−εlが、放射冷却を用いた溶融体表面の急速な固化を得ることを困難にするので、問題が生じる。以上のことを考慮すれば、水平に成長したシリコンシートを溶融体から製造する改良された装置及び方法の必要性が存在することがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第13/398874号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
この概要は、以下の詳細な説明においてさらに説明する概念の選択を、簡略化した形式で導入すべく提供する。この概要は、特許請求の範囲の主題の主要な特徴または本質的特徴を特定することを意図しておらず、特許請求の範囲の主題を特定することの手助けも意図していない。
【0009】
結晶シートを溶融体から成長させる装置が、冷温ブロック・アセンブリを含む。冷温ブロック・アセンブリは、第1冷温ブロック、及びこの冷温ブロックの温度に対して高温である第1シールドを含む。この第1シールドは、冷温ブロックの下部に沿って配置された開口を具え、この開口は、冷温ブロックの第1方向に沿った第1の幅を具えた第1冷温領域を規定する。この装置は、さらに、第1冷温ブロック・アセンブリが溶融体表面に近接して配置されると、結晶シードを第1方向に直交する方向に引き出すように構成された結晶引き出し装置を含む。
【0010】
他の好適例では、方法が、溶融体表面に近接した第1冷温ブロック・アセンブリを用意するステップであって、第1冷温ブロック・アセンブリは第1冷温ブロックを具え、第1冷温ブロックは、当該第1冷温ブロックの下部に沿って配置された細長い開口を有する第1シールドによって包囲されている。この細長い開口は、溶融体表面に対面する。この方法は、第1シールドを、溶融体表面の温度Tmに対して10℃以内の温度に加熱するステップと、第1冷温ブロックに冷却を施して、Tm未満の温度Tcを有し、かつ細長い開口によって規定される領域を有する冷温領域を形成する。この方法は、さらに、結晶シードに付着した結晶層が形成されたか否かを判定するステップと、細長い開口の長軸方向に直交する第1経路に沿って結晶シードを引き出して、第1の幅を有する連続したリボンを形成するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本実施形態による、溶融体からシリコンを成長させるための成長レジメを表すグラフである。
図1B】シリコンリボンの引き出しを示す図である。
図1C】第1組の条件下でシード結晶を溶融体中に配置するシナリオを示す図である。
図1D】第2組の条件下でシード結晶を溶融体中に配置する際のシナリオを示す図である。
図1E】本実施形態によりシード結晶を処理する際のシナリオを示す図である。
図2】本実施形態による、溶融体からの異方性結晶成長のためのシステムの正面断面図である。
図3】シリコンリボンの形成を促進するために使用する冷温ブロック・アセンブリを含む好適なシステムの側断面図である。
図4A】本実施形態による冷温ブロック・センブリの幾何学的特徴を示す図である。
図4B】冷温ブロック近傍におけるシリコン溶融温度の変動を例示するモデル化結果を提示する図である。
図5A】溶融体からの結晶リボンの成長を開始し、拡幅して持続させるための冷温ブロック・アセンブリを含む装置を示す図である。
図5B図5の拡幅装置の拡大図である。
図5C】本実施形態による拡幅装置の代案を示す図である。
図6A】拡幅装置の他の実施形態を示す図である。
図6B図6の拡幅装置を示す図である。
図7A】本実施形態による、水平結晶成長のための処理シーケンスを示す図である。
図7B】本実施形態による、水平結晶成長のための処理シーケンスを示す図である。
図7C】本実施形態による、水平結晶成長のための処理シーケンスを示す図である。
図7D】本実施形態による、水平結晶成長のための処理シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を示す図面を参照しながら、本発明をより十分に説明する。しかし、本発明は多数の異なる形態で実現することができ、本明細書に記載する実施形態に限定されるものと解釈すべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が詳細で完全になり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供する。図面全体を通して、同様の番号は同様の要素を参照する。
【0013】
上述した方法に関連する欠如を解決するために、本実施形態は、新規性及び進歩性のある、結晶材料、特に単結晶材料の水平溶融成長のための装置及びシステムを提供する。種々の実施形態では、水平溶融成長によって単結晶シリコンのシートを形成する装置を開示するが、他の材料、化合物、または合金を用いることもできる。本明細書に開示する装置は、長い単結晶シートを形成することができ、このシートは、引き出し、流動によって、さもなければ当該シートを概ね水平方向に移送することによって溶融体から抽出することができる。1つの好適例では、溶融体がシートと共に流動することができるが、シートに対して静止することもできる。こうした装置は、シリコンまたはシリコン合金の薄い単結晶シートが溶融体から除去され、リボンの長軸方向が、例えば引き出し方向に沿って整列したリボン形状を得ることができるので、水平リボン成長(HRG:horizontal ribbon growth)装置と称される。
【0014】
HRGを開発するに当たっての近年の努力は、放射冷却を用いてシリコンの結晶シートを形成することを探ってきた。なお、1412℃の溶融温度では、固体シリコンの放射率εsが液体シリコンの放射率εlの約3倍である。このように、熱は液相よりも固相から優先的に除去され、このことは安定した結晶化に必要な条件を生じさせる。全文を参照する形で本明細書に含める比較の開示”Method for Achieving Sustained Anisotropic Crystal Growth on the Surface of a Melt”(代理人明細書1508V2011058、米国特許出願第13/398874号として、2012年2月17日出願)(特許文献1)では、本発明の発明者が、溶融体上の局所領域の上方にある放射ヒートシンクとして機能する冷温領域を設けることによって、溶融体からの結晶シリコンの水平成長を良好に実行するためのプロセス・ウィンドウ(処理窓)を開示している。この冷却領域は、溶融体表面から放射された熱を吸収することのできる固体プレートとして扱うことができる。溶融体を通る熱流量を、溶融体表面から冷温プレートに放射される熱とバランスさせることによって、溶融体表面からの構造的に安定した異方性結晶成長を形成するためのレジメが特定される。
【0015】
図1は、本実施形態による、溶融体からシリコンを形成するための成長レジメの概要を二次元グラフで提示する。図1に示すパラメータは、図1を参照することによってより良く理解することができ、図1は、本明細書ではシリコンリボン126と称するシリコンシートの、溶融体120の表面に沿った引き出しを示す。シリコンリボン126を結晶化するための冷温プレート130を、溶融体120に近接して設ける。図1のグラフの縦軸は、値Tc−Tmであり、ここにTmは溶融体の表面の溶融温度であり、Tcは溶融体表面に近接して保持された冷温プレートの温度である。特に、Tc−Tmの絶対値が大きいほど、より大量の放射熱が溶融体120から吸収される。横軸は、溶融体を通って垂直方向に冷温プレート130に向かう熱流量qyである。図1に示すように、Tc−Tmとqyとの異なる組合せが、102、104.106、及び108のラベルを付けた異なるレジメをもたらし、これらについては、図1〜1に関してさらに説明する。
【0016】
図1に、図1中の点A)によって指定された条件下で、シード結晶122が溶融体120中に配置されたシナリオを示す。レジメ102は、結晶成長が発生しないレジメであり、比較的低いTc−Tmと、溶融体を通る比較的高い熱流量qyとの組合せによって生じ、溶融体を通る熱流量qyが比較的高いため、溶融体120の表面から放射される熱が、結晶化を促進するには不十分である、ということになる。点A)で示す条件下で、シード結晶122が溶融体120中に配置されると、溶融体を通る熱流量qyはほぼ4W/cm2であり、図示するように、固体からの放射熱流量qrad-solidよりも大きい。このことは、成長なしの条件をもたらし、その代わりに、シード結晶122が再溶融して溶融体120に戻る。なお、図1の曲線110は、ゼロ成長に相当するレジメ102の一方のエッジを境界として定め、これにより、曲線110の右側及び上側のあらゆる点が再溶融条件を表す。
【0017】
図1に、曲線110及び曲線112を境界とする成長レジメ104内にある点B)によって指定されるシナリオを示す。成長レジメ104は、構造的に安定した結晶成長が比較的低い成長速度で発生するレジメを表す。図1に示すように、qrad-solidはqyより大きく、シード結晶122上の結晶材料124の等方性成長をもたらす。図示する場合には、成長速度Vgが3μm/sである。溶融体表面からの放射熱流量qrad-liquidは溶融体を通る熱流量qyより小さく、このため、結晶シードに隣接した液体の表面は液状のままである。
【0018】
図1に、本発明の発明者によって最初に線引きされた成長レジメ106内にある点C)によって指定されるシナリオを示す。成長レジメ106は、冷温プレート温度Tcと溶融体を通る熱流量yとの組合せが、冷温プレートにより誘発される放射冷却によって溶融体の表面に異方性結晶成長を生じさせるレジメに相当する。条件が成長レジメ106内に入ると、冷温プレートの真下で結晶シードを引き出すことによって、結晶シートを溶融体表面上に形成することができる。図1に示すように、成長レジメ106は、曲線112を境界とした右側及び上側となる。成長レジメ106中の点C)では、冷温プレート温度Tcは、また点A)及びB)の冷温プレート温度と同じであるのに対し、シリコン溶融体を通る熱流量qyは、点B)及びC)の熱流量よりも大幅に小さく、即ち1W/cm2である。図1に示すように、シード結晶122は、点C)によって指定される条件下で右向きに引き出される。これらの条件下で、シード結晶122からの放射熱、即ち固体からの放射熱流量qrad-solid、並びに溶融体表面を通る熱流量qrad-liquidの各々が、シリコン溶融体を通る熱流量qyよりも大きい。従って、6μm/sの等方性成長速度Vgに加えて、持続的な異方性結晶成長が、シリコン溶融体120の表面で行われる、このようにして、シリコンリボン126が、先行エッジ128において形成され、1mm/sの引き出し速度を与えられる間に、この先行エッジは固定位置に留まる。
【0019】
図1は、追加的な成長レジメ108を示し、このレジメは、6μm/sの成長速度に基づく構造的不安定性のレジメを表す。従って、線114の左側は、0.6W/cm2に相当し、シリコンの溶融体中に見出すことのできる代表的な不純物濃度であるとすれば、6μm/s以上の成長速度は構造的に不安定であり得る。これらの不純物が、例えば鉄または他の材料を含み得る。
【0020】
図1のグラフ中に指定された条件を考慮すれば、放射冷却による異方性結晶成長のための条件を得ることが困難なことがある。例えば、溶融体を通る熱流量qyが低過ぎる場合、構造的に不安定な成長が行われる。これに加えて、例えば2W/cm2のような中程度の、溶融体を通る熱流量でも、異方性結晶成長にとって高過ぎることがあり、その代わりに、冷温プレート温度Tc次第で、成長レジメ104の低速の等方性結晶成長、あるいはレジメ102のシード結晶の再溶融を生じさせる。さらに、Tmより適度に低い冷温プレート温度Tcについては(例えば、Tc−Tm=−30℃を参照)、異方性で構造的に安定した結晶成長を溶融体から生じさせることのできる熱流量の範囲が存在しない。換言すれば、成長レジメ106の幅は、およそTc−Tm<30℃なる値において消失する。点C)においても、冷温プレート温度がTmを60℃下回る際には、成長レジメ106の幅、即ち、溶融体を通る熱流量qyが異方性結晶成長を生成することのできる範囲は、約0.6〜1.2W/cm2にしか及ばない。溶融体を通る熱流量qyをこうした狭い範囲内に維持するためには、このことは、溶融体の最下部、並びに溶融体の最上部で共に、溶融体の温度の精密な制御を必要とし得る。他方では、図1にも示すように、溶融体から異方性結晶成長を生じさせるためにqyの範囲を拡大するためには、Tc−Tmの絶対値を増加させることができる。しかし、このことは、冷温プレート温度を溶融体の温度よりも大幅に、例えば何百度のオーダーだけ低く維持しつつ、冷温プレートを溶融体の十分近く、2、3ミリメートル以内に導入して、放射を有効に吸収する必要がある。また、成長したシートの正味の厚さは、冷温プレートの(引き出し方向に沿った)幅に依存し、従って、例えば<200μmの厚さを維持するためには、冷温プレートの幅を制限する必要があり得る。水冷ブロックは、表面に近い狭い領域からの熱の除去を可能にする。
【0021】
本実施形態は、狭い冷温ゾーンまたは冷温領域を溶融体表面に近接して配置することができ、溶融体表面の局所的領域内に異方性結晶化を効果的に誘発しつつ、溶融体の隣接領域は影響を受けないままにする、新規性及び進歩性のある装置を提供することによって、以上の条件に応える。以下に説明するように、このことは、結晶材料の薄いシートまたはリボンを急速に抽出する能力を促進する。
【0022】
図2に、本実施形態による、溶融体からの異方性結晶成長のためのシステム200の正面断面図を示す。図2に規定した座標系を参照すれば、y軸が縦方向に沿って存在し、x軸が横方向に沿って存在する。システム200は、るつぼ210を取り囲む炉202を含む。炉202は、るつぼ201及び炉202内の周囲部分を、結晶シートを成長させることになる材料を溶解させるのに十分な温度に加熱するように構成されている。例えば、炉202を、シリコンの溶融温度をほんの少し上回る範囲内の温度に加熱して、溶融体212からシリコンのシートを成長させることができる。炉202の温度Tfurnaceは、例えば約1412℃〜約1430℃に設定されている。このようにして、シリコンシートの異方性成長中に、シリコンを炉202内に溶融形態に維持することができる。材料の結晶シートを溶融体212から形成するために、結晶シード(図示せず)を溶融体中に配置して、以下に詳述する適切な条件下で、溶融体212を通して引き出すことができる。システム200は、溶融体212の溶融温度を下回る温度に冷却することのできる冷温ブロック・アセンブリ204も含む。図示する実施形態では、冷温ブロック・アセンブリ204が入力206及び出力208を有し、これらを内部流路214に結合して、水のような冷却流体を供給することができ、冷却流体は、冷温ブロック・アセンブリ204内に配置された冷温ブロック216を通して移送することができる。冷却流体源(図示せず)は、冷温ブロック216または冷温ブロック・アセンブリ204の外部に置くことができる。システム200は、冷温ブロック216に結合されて軸220に沿って移動するように動作可能なホルダ218を含むこともでき、軸220は溶融体表面224に直交することができる。ホルダ218は、一部の実施形態では冷温ブロック・アセンブリ204の一部分を形成することができ、これにより、冷温ブロック216を、溶融体表面224の上方に可変の距離をおいて配置することができる。
【0023】
種々の実施形態では、冷温ブロック216を溶融体表面224から適切な距離に配置した際に、冷温ブロック216が、冷温ブロック216に近接した溶融体212の複数部分222の放射冷却を行うことができる。冷温ブロック216に、溶融体212からの異方性結晶成長を促進するのに十分なほど低い温度Tcを与えるために、高い伝導率の材料を用いて冷温ブロック216を構成することができる。一実施形態では、入力及び出力206、208の径、並びに内部流路214の径を2.5mmにし、冷温ブロック216を、(紙面内への)z方向に沿った長さ2cmにすることができる。この構成により、1分当たり3リットルの水の流量が、約1400℃の温度に設定された炉202から200Wの熱を除去するのに十分であり、その間に、水の温度は100℃以下に維持され、入力206から出力208までの水の温度上昇は1℃以下に維持される。こうした条件下で、冷温ブロック216を、溶融体212の表面層を結晶化するために必要な距離内、例えば溶融体表面224から約1mm以内にもって来ることができ、その間に、冷温ブロック温度は、溶融体のTmを下回る所望のTcに正確に維持される。
【0024】
一部の実施形態では、放射冷却に加えて、ヘリウムのようなガスを炉202内に供給し、これにより、熱が、冷温ブロック216によってもたらされる放射冷却に加えて、熱伝導によって溶融体表面224から伝達される。特に、冷温ブロック216内にガス・マニホールド(図示せず)を設けて、冷温ブロック216と溶融体表面224との間の領域226に満たすことができる。
【0025】
種々の実施形態では、冷温ブロック216のような冷温ブロックがシールド体(図示せず)(本明細書では「シールド」とも称する)によって包囲され、シールド体は、溶融体表面の小領域に対する冷温ブロック216の放射冷却効果の閉じ込めを促進する。図1及び1も参照すれば、前に説明したように、曲線114の右側にレジメ104、106で示す、連続して安定した結晶成長を行うためには、溶融体を通る熱流量qyが小さいことが必要である。この熱流量を、曲線110の右側に超えないようにするために、十分な冷却パワーを閉じ込め様式で供給して、低い値のTcを、但し、冷温ブロックにおける、図1に示すシリコンリボン126の先行エッジ128に近接した部分のみに与えて、図2に示すように、溶融体表面224の他の部分は凝固しないようにする。
【0026】
本実施形態によれば、冷温ブロックのシールド体は、加熱される要素、あるいは、冷温ブロックを包囲する熱シールドを、内部に冷温ブロックが配置された炉とは独立して能動的に行う「補償ヒータ」で組成することができる。例えば、冷温ブロックの冷温部分のシールド体は、冷温ブロックの表面、あるいは溶融体に近接した表面部分のみをTcに維持しつつ、冷温ブロックの他の表面はより高温に維持するように設けることができる。
【0027】
図3に、好適なシステム300の側断面図を示し、このシステムは、シリコンリボンの形成を促進するために使用される冷温ブロック・アセンブリ302を含む。与えた座標系を参照すれば、図3では、y軸が垂直方向に沿い、z軸が水平方向に沿い、水平方向は、シリコンリボンの引き出し方向に一致させることができる。冷温ブロック・アセンブリ302は、冷温ブロック308に隣接したインシュレータ(絶縁体)304を含み、インシュレータ304は、冷温ブロック・アセンブリ302の中心部分を形成する。図3には明示的に示していないが、一部の実施形態では、図2の実施形態においても示唆したように、冷温ブロック302が水冷される。
【0028】
図3の実施形態では、シールド体306が、インシュレータ304及び冷温ブロック308を包囲する。シールド体306は補償ヒータを具え、補償ヒータは、炉のヒータ310によって与えられる炉の温度に近い温度を維持するのに十分な熱を供給する。一例では、炉のヒータ310が、炉のライナー(内張り)312の内側を、シリコン溶融体のような溶融体314の溶融温度を少し超える温度に維持するのに十分な熱を供給し、この温度は、報告した溶融温度1412℃に対して1414℃にすることができる。これに加えて、種々の実施形態では、シールド体306を、溶融体314の溶融体表面の温度に近い温度に維持する。本明細書で用いる「溶融体表面の温度に近い温度」とは、溶融体表面温度に対して10℃以内の温度を称する。一部の実施形態では、シリコンリボンを引き出すために、シールド体306を約1402〜1422℃、特に、一実施形態では1412℃に加熱する。このようにして、炉及び溶融体表面の他の部分からはわずかな熱流量しか生じず、大部分の熱流量は、溶融体314の、冷温ブロック・アセンブリ302の真下の領域316内から生じる。本実施形態によれば、シールド体306を所望温度に加熱するのに必要な電力密度PDは、次式によって与えられる:
【数1】
ここに、Tblockは冷温ブロック308の温度であり、炉の温度はTfurnaceであり、インシュレータ304の幅及び熱伝導率は、それぞれd及びkである。
【0029】
図3にさらに示すように、冷温ブロック・アセンブリ302は、炉のライナー312内の開口322を通る軸320に沿って移動することができ、これにより、冷温ブロック308の下部324が溶融体314に近接する。下部324は、冷温ブロック308の上部よりも高い温度を有することができるが、一部の実施形態では、溶融体314の温度よりも数百度冷たい温度までである。下部324が溶融体314の十分近くにもって来られると、図に示すように、溶融体314の表面で固体シート326が結晶化する。しかし、シールド体306が冷温ブロック308及びインシュレータ304の周りに延びるので、下部324によって規定される小さい領域しか、溶融体314の温度より大幅に低い温度、例えば、溶融体314の温度よりも20℃以上低い温度を有しない。従って、溶融体314の表面の放射冷却は、固体シート326の先行エッジ328の付近でしか行われず、このため、固体シートを方向334に沿って引き出す際に、結晶化は、下部324の下で行われ続けることができるのに対し、シリコン溶融体314の他の部分は影響を受けない。
【0030】
冷温ブロック・アセンブリ302によって行われる放射熱除去(冷却)を精密に制御するために、下部324を溶融体表面上に正確に配置する。図4に、本実施形態による冷温ブロック・アセンブリ400の幾何学的特徴を示す。冷温ブロック・アセンブリ400は、補償ヒータ404によって包囲された冷温ブロック402を含み、補償ヒータ404は、冷温ブロック402の互いに対向する側に配置されている。本実施形態によれば、溶融体406の放射冷却の大きさ及び分布は、冷温ブロック・アセンブリ400を軸409に沿って移動させて、冷温ブロック402から溶融体406までの垂直距離yを制御すると共に、補償ヒータ404の温度を制御することによって、制御することができる。一実施形態では、溶融体406に近接した補償ヒータ404の温度を、シリコンの融点と等価な1412℃にすることができる。冷温ブロック402の下面406の温度は、1000℃未満に設定することができる。
【0031】
図4に、冷温ブロック402に近接したシリコン溶融体の質的変化を示すモデル化結果を提示する。温度変化は、冷温ブロック402と補償ヒータ404との中心どうしの間隔Δzについて示す。モデル化結果は、シリコン溶融体の温度変化を、シリコン溶融体406と冷温ブロック402の下面との垂直間隔yの関数としてプロットした4つの曲線を例示する。yの値はΔzに関して表現する。曲線410は、2Δzなるyの値についてシリコン溶融体の温度が少ししか低下していないことを示している。他方では、曲線412は、1.5Δzなるyの値について、冷温ブロック402の下で溶融温度の大幅な低下が発生していることを示している。1Δzなるyの値について、曲線414は、溶融温度の低下がさらに顕著であり、冷温ブロック402の直下で、より尖鋭なピークをなしていることを示している。曲線416は、1Δzなるyの値を維持しつつ、冷温ブロック402の補償ヒータ404の温度Thを低下させる(Tc−Tmのより大きな値を生じさせる)ことによって、溶融温度のさらに大きな低下が生じることを示している。溶融体表面における平均冷却の依存性は、双極(ダイポール)場として変化し、即ち、Qrad(y)がおよそ(Δz/y)3であることを示すことができる。従って、曲線410によって示唆されるように、冷温ブロック・アセンブリ400は、このアセンブリをΔzの数倍と等価な距離yだけ上昇させることによって、効果的に「ターンオフ」することができる。
【0032】
図3を参照すれば、冷温ブロック・アセンブリ302は、光パイプ330を含むことができ、そして、冷温ブロック308の下部324の温度を測定するための熱電対332を含むことができる。溶融体314の表面における固体シート326の成長を初期化する際に、このシートの先行エッジ328の位置を識別することができることが有利であり、その後に、このシートからリボンを引き出すことができる。例えば、固体シート326のシードを設けて最初に結晶化するプロセスに関しては、冷温ブロック・アセンブリ302の下でシード338の端部を往復させながら、冷温ブロック・アセンブリ302の位置を低下させる。シード338に隣接した溶融体314単独の凝固(固化)を可能にする適切な条件に達すると、シード338が結晶引き出し装置340によって引き出されて、連続して成長するリボンを生じさせる際に、固体シート326の先行エッジ328は、冷温ブロック・アセンブリ302の下に留まる。
【0033】
結晶化を直接視認するために、炉のライナー312内に窓(図示せず)を設置して、冷温ブロック308下の視野を提供することができる。しかし、この窓は、冷温ブロック・アセンブリ302が溶融体314に近接した際に、広幅の冷温ブロック308下に視野角を提供するための空間を欠くことにより、結晶化の最適な監視をもたらすことはできない。サファイア材料を含むことのできる光パイプ330は、溶融体314を観測するためのより直接的な手段を提供することができる、というのは、図3に示すように、光パイプ330の端が先行エッジ328の近くに位置するからである。さらに、光パイプ330を冷温ブロック308内に収容することによって、有害な高温の、炉の周囲におけるシリコン酸化物のような材料との相互作用を回避することができる。光パイプ330は、冷温ブロック308を通って延び、画像または信号を、溶融体314付近の領域から十分離れたパイロメーター(高温計)のような他の計測器に供給することができる。シリコンのような材料の固体放射率と液体放射率との大きな差は、形成される固体シート326の先行エッジ328を、溶融体314に対して容易に識別可能にする。種々の実施形態では、光パイプ330に接続されたパイロメーター335のような計測器からの信号を、システム300のコントローラ336にフィードバックし、これにより、十分に自動化されたリボン初期化プロセスを可能にすることができる。例えば、固体シート326が溶融体314上に形成され始めると、光パイプ330内への発光を行う領域が、0.2の放射率を有する100%の液体から、50%の液体と50%の固体に変化し、その放射率は0.6である。従って、検出される表面領域の実効放射率は約0.4の値に変化することができ、このことは、光パイプ330の遠端に配置されたパイロメーター335によって検出される全光強度を大幅に変化させる。この検出した強度をコントローラ336に転送して、コントローラが、リボン引き出しプロセスを開始すべき時点を決定することができる。例えば、検出した強度が、結晶化の開始を示すように設定された所定閾値に達すると、システム300のコントローラ336は、図示するように、結晶引き出し装置340によるシード338の引き出しを、向き334に、速度Vxで開始することができる。
【0034】
種々の実施形態では、複数の冷温ブロック・アセンブリを用いて、溶融体からの結晶材料のシートを、連続プロセスの複数段階で成長させることができる。第1段階では、「初期化装置」の冷温ブロック・アセンブリを用いて、シード結晶を利用した、溶融体からの結晶材料の狭幅シートの成長を開始することができ、この狭幅シートは「狭幅リボン」とも称する。次に、狭幅リボンを、当該狭幅リボンの幅を増加させる「拡幅装置」の冷温ブロック・アセンブリ下に置き、その後に、より広幅のリボンを一定幅で生成する「持続装置」の冷温ブロック・アセンブリ下に置く。一部の実施形態では、持続装置及び拡幅装置を同じ装置とすることができる。
【0035】
図5に、水平リボン成長(HRG)装置500を示し、HRG装置500は、溶融体からの結晶リボンの成長を開始し、拡幅し、そして持続させるための冷温ブロック・アセンブリを含む。図示する実施形態では、冷温ブロック・センブリが引き出し方向516に狭い幅を有し、これにより、引き出し方向516に狭い幅を有する冷温領域を生成することができ、この冷温領域は、引き出し方向516に直交する方向の長さを、より長くすることができる。別個には示していないが、種々の実施形態では、装置500の初期化構成要素、拡幅構成要素、及び持続構成要素のうちの1つ以上にシールドを設けることができ、このシールドは、溶融体表面に近接して配置することのできるこれらの構成要素の下部のみに冷温領域を規定する。特に、初期化装置502は、冷温ブロック、及びこの冷温ブロックを包囲するシールドを含むことができ、上述したように、この冷温ブロックは、溶融体512の表面上におけるシートの異方性成長を誘発するために、溶融体512の温度を下回る第1温度Tcに冷却される。初期化装置502のシールドを、冷温ブロックの温度に対して高温に設定して、このシールドが、溶融体512の表面に近接した冷温ブロックの表面に沿った開口を規定することができる。これにより、初期化装置502が溶融体表面に近接した際に、シールド内の開口が、溶融体512の表面に冷温領域を与えることができる。以下に詳述するように、この冷温領域を用いて、溶融体512の表面上の、この冷温領域のサイズによって規定される溶融領域内に、異方性結晶成長を誘発する。
【0036】
同様に、装置500の拡幅装置504は、冷温ブロック、及びこの冷温ブロックを包囲するシールドを含むことができ、この冷温ブロックは、溶融体512の表面上におけるシートの異方性成長を誘発するために、溶融体の温度を下回る第2温度Tc2(Tcと同じにすることもしないこともできる)に冷却され、拡幅装置504の動作は以下に詳述する。拡幅装置504のシールドを、拡幅装置504の冷温ブロックの温度に対する第2の高温(初期化装置502の高温と同じにすることもしないこともできる)に設定して、このシールドが、溶融体512の表面に近接した冷温ブロックの表面に沿った開口を規定することができる。これにより、拡幅装置504のシールド内の開口が、溶融体512の特定領域のサイズを規定する他の冷温領域をもたらし、この特定領域内で、溶融体512の表面上における異方性結晶成長が行われる。以下に説明するように、結晶シートを引き出す間に、拡幅装置504の冷温領域を変化させて、結晶シートの幅を変化させることができる。
【0037】
同様に、HRG装置500の持続装置506は、冷温ブロック、及びこの冷温ブロックを包囲するシールドを含むことができ、以下に詳述するように、この冷温ブロックは、溶融体512の表面上におけるシートの異方性成長を継続させるために、溶融体512の温度を下回る第3温度Tc2(Tc2及び/またはTcと同じにすることもしないこともできる)に冷却される。持続装置506のシールドを、冷温ブロックの温度の対する第3の高温(初期化装置502の高温または拡幅装置504の第2の高温と同じにすることもしないこともできる)に設定して、このシールドが、溶融体512の表面に近接した冷温ブロックの表面に沿った開口を規定することができる。これにより、このシールド内の開口が、溶融体512の表面上におけるシートの異方性成長を継続させるために使用することのできる他の領域を規定し、このシートの幅は、上記冷温領域のサイズによって決まる。
【0038】
図5に示すように、初期化装置502は、溶融体512の表面に直交する軸508a沿って移動するように動作可能であり、これにより、初期化装置502を、溶融体512に近接した点D)にもって来ることができ、この点で、狭幅リボン514の形成が開始される。拡幅装置504は、初期化装置502の下流にある点E)の上方に配置することができ、これにより、点D)において最初に形成され、溶融体512の表面に沿って方向516に引き出された狭幅リボン514が、その後に点E)の下を横切ることができる。拡幅装置504は軸508bに沿って移動するように動作可能であり、これにより、拡幅装置504も、溶融体512の表面に近接させることができる。図5の画像では、拡幅装置504が溶融体512の表面から後退し、これにより、溶融体512に冷却効果を与えない。従って、図5に示す瞬時には、狭幅リボン514が狭幅のままである。しかし、以下に説明するように、拡幅装置504は、溶融体512に近接すると、狭幅リボン514を拡幅することができる。持続装置506は、初期化装置502及び拡幅装置504の下流にある点F)の上方に配置され(図5では、これも後退した状態である)、これにより、点D)で最初に形成され、溶融体512の表面に沿って方向516に引き出されたリボンが、その後に点F)の下を横切ることができる。持続装置506は、軸508cに沿って移動するように動作可能であり、これにより、溶融体512の表面に近接させることができる。以下に詳述するように、持続装置506は、溶融体512に近接すると、リボンの幅を、拡幅装置504によって規定された幅に維持することができる。前述したように、また図5に示すように、冷温ナイフの各々が、結晶化を監視するための光パイプ510を有することができる。
【0039】
種々の実施形態では、HRG装置500を所望のプログラムまたは手順に従って動作させて、目標のリボンのサイズ及び特性を生成することができる。特に、成長中のリボンにおける最小の転移を達成するために、初期化装置502は、引き出し方向516に直交する方向518に狭い寸法を有することができる。狭幅リボン514は、シード結晶(図示せず)と同じ結晶方位を実現することが理想的である。方向518の幅が狭い初期化装置502を用意することによって、狭幅リボン514用の単結晶成長が促進され、狭幅リボン514のエッジ520に移動(マイグレーション)して終端することによって、あらゆる転移が一層「治癒」され易くなる。
【0040】
初期には狭幅であったリボン514を所望の幅まで拡幅するために、拡幅装置504は、狭幅リボン514の単調な外向きの成長を、方向518に促進させることができる。このことは、狭幅リボン514が方向516に沿って引き出される間に、拡幅装置504が、冷温領域の幅を方向518に、時間の関数として増加させることを必要とする。本実施形態によれば、図5、5及び図6、6が、この拡幅を達成することのできる拡幅装置の2つの別個の構成を示す。図5の例では、拡幅装置504が、曲面またはテーパ付きの表面をその下端に具えている。拡幅装置504の下端に関連して用いる「曲面」とは、溶融体512の表面に平行でない面を称し、例えば直線的な表面にすることも弧状にすることもできる。図5に示す拡幅装置504aのように、溶融体から異なる距離の所に複数の表面を用いるような(即ち、段付き三角パターンのような)他の設計を用いることができる。図5に、拡幅装置504の拡大図を示し、ここでは、テーパ面または曲面530が、曲面530における内点G)及びH)の部分が外点I)及びJ)よりも溶融体512に近いような形状にされている。拡幅装置504によって提供される実効的な放射冷却能力は、拡幅装置504と溶融体512の表面との間のギャップに敏感に依存し、この冷却効果は、曲面530によって、方向518に沿って段階化され、代案実施形態では、上記のように、正確な形状と直線的関係を有することができる。
【0041】
従って、拡幅装置504が溶融体表面に向かって低下すると、この低下プロセス中に、溶融体を結晶化させることのできる冷温領域の幅が時間と共に外向きに拡大する。従って、拡幅装置504の(x軸に沿った)全幅を冷却することができるが、種々の異なる時点で、拡幅装置504の下面の種々の異なる位置が、冷却の影響を与えるのに十分なほど溶融体に近くなるに連れて、溶融体512に与えられる有効な冷却領域は時間と共に変化する。このようにして、拡幅装置504が低下するに連れて、拡幅装置504の下に引き出されるリボンは、その幅を拡大することができる。図5、5に示す例では、拡幅装置504が、最も内側の領域に凹部534を含む。凹部534は、初期化装置502によって形成される狭幅リボン514のような既存のリボンの幅と同等の幅を有することができる。凹部534は、拡幅装置504の最も内側の領域532を、溶融体512の表面から離れるように高くし、これにより、拡幅装置504の下に引き出される既存の狭幅リボンが、冷温領域からさらに離れ、従って、より少量の結晶化を施され易くし、結晶化は、既存の狭幅リボン514を軸508bに平行な方向に厚くし易くする。このことは、少なくとも最も内側の領域532の真下で、狭幅リボン514が過度に厚くなることを防止し、この領域の真下を通過する狭幅リボン514に対して、あっても少しの冷却効果しか与えないことができる。しかし、拡幅装置504の構成は、溶融体512における、拡幅装置504の点G)及びH)で表す部分の真下にある領域を、点I)及びJ)で表す領域よりも前に結晶化し易く、これにより、少なくとも拡幅されたリボンの、これらの部分の下で、拡幅されたリボンの厚さをテーパ状にする。
【0042】
図6に、初期化装置602と共に使用することのできる拡幅装置604の他の具体例を示す。一実施形態では、初期化装置602が、軸606aに沿って溶融体610に向かって低下し、結晶化を開始して狭幅リボン612を形成し、狭幅リボン612は方向614に沿って引き出される。初期化装置602によって狭幅リボン612が形成された後に、拡幅装置604を、軸606bに沿って溶融体610の表面に向けて低下させ、これにより、放射冷却が行われて、溶融体610における領域616及び617のような狭幅リボン612の外側にある領域を結晶化させる。図示するように、拡幅装置604は、ゾーン化された一組のヒータ608を含み、ヒータ608は、拡幅装置604の下部の、溶融体610に対面する下面上に配置されている。図6にさらに示すように、ゾーン化されたヒータ608は、一組のヒータ608a〜608fを具えることができ、これらのヒータを独立して制御して、各ヒータにとって局所的な加熱を行うことができる。このようにして、拡幅装置604に冷却流体を加える際に、それぞれのヒータ608a〜fをターンオンすることによって、拡幅装置604の温度を領域618a〜618f内で局所的に増加させることができる。このことは、拡幅装置604の当該部分における放射冷却を除去または低減する効果を有する。従って、リボンを拡幅するために、拡幅装置604をリボン612の上方に配置し、低下させて溶融体610の表面に近接させると共に、ヒータ608a〜fをターンオンする。その後に、より広いゾーンにおいて結晶化を開始するために、内側のヒータ608c、608dをターンオフまたは出力低下させ、これにより拡幅装置604の領域618c及び618dが、より低温になる。さらに後の瞬時において、中間位置のヒータ608b、608eをターンオフまたは出力低下させて、領域618b及び618eの温度を低下させることができる。最後に、外側位置のヒータ608a、608fをターンオフまたは出力低下させて、領域618a及び618fの温度を低下させることができる。このようにヒータをターンオフする進行は、溶融体610の上方の冷温ゾーンを徐々に広げる効果を有し、これにより、狭幅リボン612が、拡幅装置604の下で引き出されるに連れて、徐々に単調に拡幅される。
【0043】
一部の実施形態では、拡幅装置604が低下する際に、拡幅装置604の下面の一部分が冷温領域を規定することができ、この冷温領域の幅は、初期化装置602によって規定される冷温領域の幅と同じである。このことは、ヒータのうち1つ以上をターンオフまたは出力低下させて、拡幅装置604の当該部分が、溶融体610に対して冷温領域を与えることを可能にすることによって達成することができる。他の実施形態では、拡幅装置604の下面の一部分からヒータをなくすことができる。拡幅装置の下面上に存在するヒータは、ヒータが存在しない領域外の加熱を行って、ヒータのない冷温領域を規定することができ、この冷温領域の幅は、初期化装置602によって与えられる幅と同じにすることができる。その後に、上述したように、これらのヒータをターンオフまたは出力低下させて、冷温領域を拡幅することができる。
【0044】
再び図5を参照すれば、種々の実施形態による、持続装置506が、その下面上に均一な形状を有し、この形状を溶融体512の表面と平行にして、方向518に沿った持続装置の全幅にわたって均一な温度を与えることができる。種々の実施形態では、拡幅装置504を用いてリボンを拡幅した後に、持続装置506を用いて、広幅の均一なリボンを維持することができる。持続装置506が溶融体512に向かって低下すると、拡幅装置504及び初期化装置502は、溶融体512から離れるように後退する。その後に、持続装置506は、固定幅全体にわたる均一な冷却を行うことができ、これにより、均一な厚さ及び幅の広幅リボンを成長させる。
【0045】
上記のように、一部の実施形態では、別個の持続装置を設けるのではなく、拡幅装置が持続装置の機能を提供することもできる。例えば、拡幅装置604を用いて、内側のヒータから始まり最も外側のヒータで終わるようにヒータを逐次的にターンオフすることによって、結晶リボンを拡幅させることができる。一旦、すべてのヒータをターンオフすると、方向518の熱除去が均一であれば、拡幅装置が均一な持続装置として機能することができる。
【0046】
図7〜7に、本実施形態による、水平リボン成長のための処理シーケンスを示す。図7では、結晶シード710が、溶融体708の表面内に配置され、方向714に引き出される。HRG装置700の初期化装置702を、軸712に沿って低下させることによって、溶融体708の表面に近接させる。拡幅装置704及び持続装置706は後退位置に配置され、このため、これらは溶融体708に近接せず、従って、溶融体708に冷却効果を与えない。初期化装置702は、結晶シード710の一方のエッジ上で異方性成長を開始させて、狭幅リボン716を形成し、結晶シード710が方向714に引き出されるに連れて、狭幅リボン716の長さが増加する。
【0047】
図7では、拡幅装置704が、溶融体708に近接するまで軸718に沿って低下し、これにより、拡幅装置704が溶融体708に冷却効果を与える。初期化装置702は、溶融体708に近接したままで、冷却効果を与え続ける。図示するように、狭幅リボン716が拡大されて広幅リボン部分720になる。曲面状の下面705を呈する拡幅装置704が溶融体に向かって徐々に低下するに連れて、広幅リボン部分720は、テーパ付きに形成された末端エッジ722を含む。上述したように、拡幅装置704が徐々に低下することにより、溶融体708にもたらされる冷温領域の幅が徐々に拡大され、これにより、冷却によって生じる結晶領域の幅が徐々に拡大する。初期化装置702と拡幅装置704との間では、リボンの先行部分724の幅がより狭く、初期化装置702の幅と一致する。
【0048】
図7では、持続装置706が軸726に沿って低下し、これにより、持続装置706が、幅W全体にわたって冷却効果を与える。図7では、狭幅リボン716が方向714に引き出し続けられる間に、初期化装置702及び拡幅装置704が、溶融体708の表面付近から後退する。このことは、均一な厚さで長さが拡大された広幅リボン部分720を生じさせる。
【0049】
図7〜7に示す処理シーケンスの変形例では、拡幅装置704の代わりに拡幅装置604を設けることができ、その動作は以上で詳述している。
【0050】
本明細書で説明した方法は、例えば、命令を実行することのできるマシンによって読み取ることのできるコンピュータ可読の記憶媒体上の命令のプログラムを明示的に用いることによって、自動化することができる。汎用コンピュータが、こうしたマシンの一例である。現在技術において周知の適切な記憶媒体の好適なリストは、読出し及び書込み可能なCD、フラッシュメモリ・チップ(例えばサムドライブ)、種々の磁気記憶媒体、等を含む。
【0051】
本発明は、本明細書に記載した特定実施形態の範囲に限定されるべきものでない。実際に、本明細書に記載したものに加えて、本発明の他の種々の実施形態及び変形例が、以上の説明及び添付した図面より、当業者にとって明らかである。従って、こうした他の実施形態及び変形例は、本発明の範囲内に入ることを意図している。さらに、本明細書では、本発明を、特定目的での特定環境における特定の実現に関連して説明してきたが、本発明の有用性はこれらに限定されず、本発明は、任意数の目的で任意数の環境において有益に実現することができることは、当業者の認める所である。従って、本発明の主題は、本明細書に記載した本発明の全幅及び全範囲を考慮して解釈すべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D