【実施例1】
【0020】
  始めに、実施例1のシート1(乗物用シート)の構成について、
図1〜
図10を用いて説明する。なお、以下の説明中、「シート内側」「シート外側」と記載する場合には、シート1の幅方向における「内側」「外側」をそれぞれ示すものとする。本実施例のシート1は、
図1に示すように、いわゆるセダンタイプの自動車のリヤシート、詳しくは運転席の後側のリヤシートとして構成されている。上記シート1は、着座者の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、頭凭れとなるヘッドレスト4と、を備えた構成となっている。
【0021】
  上述したシートバック2は、
図1では具体的な図示が省略されているが、その背面部が車両の荷室空間とを仕切るパーテーションパネルに連結されていると共に、下端部がシートクッション3の後端部に連結されて設けられている。詳しくは、上記シートバック2は、その背面部が上記不図示のパーテーションパネル上に設置された電動式の上下スライドユニットREC(
図2参照)に引っ掛けられると共に、下端部が同じく不図示の連結具を介してシートクッション3の後端部にヒンジ連結された状態として設けられている。
【0022】
  また、シートクッション3は、同じく
図1では具体的な図示が省略されているが、その中央部がフロアパネル上に設けられた電動式の前後スライドユニットに連結されて設けられている。また、ヘッドレスト4は、シートバック2の上部に装着されて設けられている。このような構成により、シート1は、上述した電動式の上下スライドユニットREC(
図2参照)と前後スライドユニット(不図示)とを協働させた動作によって、シートバック2の背凭れ角度を後傾させながらシートクッション3を前にスライドさせたり、シートバック2の背凭れ角度を前に起こしながらシートクッション3を後ろ側にスライドさせたりする調整が行えるようになっている。
【0023】
  また、上記シートバック2は、その着座者の肩甲骨や肩部等の背中の上半部を支える上半部領域2Aが、腰部等の背中の下半部を支える下半部領域2Bに対して、前側に中折れする形に回転することができるようになっている。上記の中折れにより、シートバック2は、例えば上述したような後傾した角度姿勢に切り換えられた状態から、着座者の背中の上半部のみを前側に起こした形で支えられるようになる。これにより、着座者が、背中を後傾させた安楽姿勢をとりつつも、背中の上半部のみを前側に起こして視界を前方に向けた姿勢をとることができるようになる。上述したシートバック2の中折れ回転は、シートバック2の骨格を構成する樹脂製のバックシェル20が、同バックシェル20に組み付けられたアクチュエータ60の作動によって中折れ状に回転できるようになっていることで行えるようになっている。
【0024】
  以下、上述したシートバック2の具体的な構成について、
図2〜
図10を用いて詳しく説明していく。
図2に示すように、シートバック2は、枠状に組まれた金属製のバックフレーム10と、バックフレーム10の前部に組み付けられた樹脂製のバックシェル20と、バックシェル20の前面部に組み付けられた発泡ウレタン製のバックパッド30と、バックパッド30の表面に被せ付けられた皮革製のバックカバー40と、バックシェル20を中折れさせられるようにする中折れ機構50と、中折れ機構50を駆動させるアクチュエータ60と、を有する。ここで、バックシェル20が本発明の「シートフレーム」に相当し、バックパッド30が本発明の「シートパッド」に相当する。
【0025】
  バックフレーム10は、アルミニウムの押し出し材により形成されており、横断面が略一様(略矩形状)となる縦長な閉じた枠形状に形成されている。上記バックフレーム10の上枠部10Aには、その幅方向の2箇所の位置に、角筒状のホルダ11が前方側から溶接により一体的に組み付けられて設けられている。これらホルダ11は、
図1で前述したヘッドレスト4から垂下する2本の棒状のステー(不図示)を上方側から差し込んで装着するための図示しないサポート部材を支える保持具として機能するものとなっている。
【0026】
  また、上記バックフレーム10の左右両側の縦枠部10Bの高さ方向の中間部には、それぞれ、これら縦枠部10Bから後方側に形状を張り出させるブラケット12が結合されている。これらブラケット12は、各縦枠部10Bのシート外側と後側の各外周部に嵌合する形にそれぞれあてがわれて、これらに溶接により強固に一体的に結合されている。そして、各ブラケット12の後方側に張り出した先の箇所には、シート内側に向けて軸を突出させる係合ピン12Aがそれぞれ一体的に結合されている。これら係合ピン12Aは、前述した上下スライドユニットRECに引っ掛けられてその動きを受ける係合部として機能するものとなっている。
【0027】
  また、上記各縦枠部10Bの高さ方向の中間部と下部とには、それぞれ、各縦枠部10Bから枠内方向或いは枠外方向に張り出して、バックシェル20を締結するための締結面を形成する締結板13が結合されている。これら締結板13のうち、各縦枠部10Bの高さ方向の中間部に結合された2枚の締結板13は、いずれも、各縦枠部10Bの後面にあてがわれて結合されており、各縦枠部10Bからシート内側に面を張り出させた形となって設けられている。また、各縦枠部10Bの下部に結合された2枚の締結板13は、いずれも、各縦枠部10Bの前面にあてがわれて結合されており、車両外側(図示向かって左側)の締結板13は車両外側へ面を張り出させ、車両内側(図示向かって右側)の締結板13は下側へ面を張り出させる形となって設けられている。
【0028】
  ここで、上記バックフレーム10の車両外側(図示向かって左側)の縦枠部10Bは、その高さ方向の中間部から下部にかけての形状が、車両外側に位置する図示しないタイヤハウスとの干渉を回避するために車両内側に向けて斜め下側に延びる形に曲げられた形状とされている。上記車両外側の縦枠部10Bの下部に結合された締結板13は、上述した斜め下側に延びる部分に結合されており、同部分の前面から車両外側へ面を張り出させることで、図示しないタイヤハウスとの干渉を回避しつつ車両外側に向かって適切に面を張り出させた状態となっている。
【0029】
  また、上記バックフレーム10の下枠部10Cには、バックフレーム10を
図1で前述したシートクッション3の後端部にヒンジ連結するための図示しない連結具へと繋ぐ脚板14が左右2箇所に結合されている。これら脚板14は、バックフレーム10の下枠部10Cの後面にあてがわれて結合されており、下枠部10Cの左右2箇所から下方側へ延出する形となって設けられている。
【0030】
  バックシェル20は、
図2〜
図4に示すように、曲板状(シェル状)にホットプレス成形又はスタンピング成形された樹脂材により形成されている。上記バックシェル20は、上述した枠状のバックフレーム10(
図2参照)に前方側から組み付けられて、複数のボルト20Fとナット20Gとの締結により一体的に結合されて設けられている(
図5参照)。上記バックシェル20は、上記バックフレーム10への組み付けにより、バックフレーム10の前部にバックフレーム10の枠形状全体を前方側から広く覆う骨格面を形成するようになっている。
【0031】
  また、上記バックシェル20は、上記の組み付けにより、その上縁部と左右両側の各縁部とからそれぞれ後方側に延び出す各庇部によって、バックフレーム10の上枠部10Aや左右両側の各縦枠部10Bを枠の外周側からも広く覆った状態とされるようになっている。上記曲板状(シェル状)のバックシェル20が枠状のバックフレーム10の前部に組み付けられることにより、着座者から受ける背凭れ荷重を広い面で分散して受け止めることができるようになっている。
【0032】
  上述したバックシェル20は、その前面部が、着座者の背中を後方側と幅方向の両外側とからそれぞれ包み込むように支持することのできる湾曲した面形状に形成されている。具体的には、上記バックシェル20の前面部は、その着座者の背中が前方側からあてがえられる幅方向の中央支持領域20Aが、着座者の背中を後方側から広く面で支持できるように、比較的湾曲の少ない面形状に形成されている。これに対して、上記バックシェル20の幅方向の両外側のサイド支持領域20Bは、着座者の背中を両外側から支持できるように、幅方向の両外側に向かって前方側に山状に大きく張り出す形に湾曲した面形状に形成されている。
【0033】
  図3〜
図4に示すように、上述したバックシェル20の各サイド支持領域20Bの裏側部には、これらの表側部が前方側に山状に湾曲した形となっていることによって、バックフレーム10の各縦枠部10Bを後方側から受け入れ可能な溝が形成されている。そして、これら各サイド支持領域20Bの裏側の各溝の形成領域内には、バックフレーム10の各縦枠部10Bを緩やかに嵌合させた状態に受け入れるU字形状のフレーム当てリブ20Cが高さ方向に複数個並んで形成されている。これらフレーム当てリブ20Cは、上述した各サイド支持領域20Bの裏側の各溝の形成領域内の所々の箇所において、各溝の凹み形状をそれぞれ横断面方向に埋める態様で幅方向や前後方向に面を広げて、各サイド支持領域20Bの構造強度を補強した構成となっている。
【0034】
  また、上記バックシェル20の下縁側の裏面部にも、バックフレーム10の下枠部10Cを緩やかに嵌合させた状態に受け入れるU字形状のフレーム当てリブ20Dが、幅方向の中央箇所に2個並んで形成されている。上記構成のバックシェル20は、上述した各フレーム当てリブ20C,20Dにバックフレーム10の各縦枠部10Bや下枠部10Cを緩やかに嵌合させる形でバックフレーム10に前側から組み付けられてセットされるようになっている。
【0035】
  ここで、
図3〜
図5に示すように、上述したバックシェル20の各サイド支持領域20Bの裏側の各溝の形成領域内には、更に、それらの高さ方向の中間部と下部とに、バックフレーム10への締結用のボルト20Fを前方側から通してセットするための締結凹部20Eが形成されている。これら締結凹部20Eは、バックシェル20の前面部から後方側に凹んだ位置に各ボルト20Fの頭部を受け止める座面を有する凹形状に形成されており、各座面の中央に空けられた孔から各ボルト20Fの軸を後方側に通せるようになっている。
【0036】
  上記各締結凹部20Eは、
図5に示すように、それらの後面が前述したバックフレーム10の対応する各締結板13の前面にあてがえられた状態で、各ボルト20Fの軸を前方側から通して各締結板13にナット20Gで締結することにより、各締結板13に強固に一体的に結合された状態とされている。上記各締結凹部20Eは、上記のようにバックシェル20の前面部から後方側に凹んだ位置に各ボルト20Fの頭部を受け止める座面を有した凹形状とされていることにより、締結した各ボルト20Fの頭部をバックシェル20の前面部から前に張り出させることなく内部に収めることができるようになっている。
【0037】
  上述したバックシェル20は、
図4及び
図6に示すように、アッパパン21とロアパン22とに上下に2分割された構成となっている。ここで、アッパパン21が本発明の「二部材の他方」に相当し、ロアパン22が本発明の「二部材の一方」に相当する。前者のアッパパン21は、前述したシートバック2の上半部領域2Aの骨格を構成する高さ方向と幅方向の広さを有した形に形成されている。
【0038】
  また、後者のロアパン22は、前述したシートバック2の下半部領域2Bの骨格を構成する高さ方向と幅方向の広さを有した形に形成されている。上述したアッパパン21とロアパン22とは、
図6に示すように、アッパパン21の下縁部の左右2箇所の部位に形成された各フック部21Aが、ロアパン22の裏面部の左右2箇所の部位に設けられた各ヒンジピン22Aに上方側から嵌め込まれて連結されることにより、各ヒンジピン22Aのまわりに中折れ状に相対回転することのできる形に組み付けられた状態とされている。
【0039】
  上述した各フック部21Aは、アッパパン21の下縁部の左右2箇所の裏面側部位から、後ろ下方向に形状を張り出させる形に延びて、各ヒンジピン22Aを受け入れるための引掛け口を下方側に真っ直ぐに開口させた形となって形成されている。各フック部21Aの引掛け口は、幅方向に貫通した形となっており、アッパパン21の下縁部より下側の領域において各ヒンジピン22Aを受け入れて嵌合させる形に形成されている。
【0040】
  一方、各ヒンジピン22Aは、上述したロアパン22の高さ方向の中間部における左右2箇所の裏面側部位から後方側に張り出す各後方突出部22Bに結合されて設けられている。詳しくは、各後方突出部22Bは、それぞれ、幅方向に離間した2箇所から後方側に突出する形に形成されており、各ヒンジピン22Aは、これら幅方向に離間したピース間に架橋される形で軸を幅方向に向けて両端支持された状態として設けられている。これにより、各ヒンジピン22Aは、上述した各後方突出部22Bのピース間で外部に露呈する軸の中間部において、上述したアッパパン21の下縁部に形成された各フック部21Aを上方側から嵌め込んで連結することができるようになっている。
【0041】
  上述した各ヒンジピン22Aは、互いに同軸線上の位置に並んで設けられている。各ヒンジピン22Aの高さ位置は、一般的な体格を持つ着座者の第10胸椎がくる高さ位置(図示しないヒップポイントからシートバック2の高さ方向に約300mm離れた高さ位置)に設定されている。上記の高さ位置は、着座者が上半部を起こす際の起点となる高さ位置とされている。
【0042】
  ここで、上述したロアパン22は、
図3及び
図6に示すように、上述した各ヒンジピン22Aにアッパパン21の各フック部21Aが連結された状態において、アッパパン21の裏面側に形状を重ね合わせるように上方側へ延びる延出部22Cを有した形状とされている。上記延出部22Cは、アッパパン21の高さ方向の略中央領域までを幅方向の全域において後方側から覆う形に形成されている。具体的には、上記延出部22Cは、アッパパン21の各サイド支持領域20Bを形成する、前方側に山状に湾曲した内側の斜面の裏面部にあてがわれる幅方向位置までを後方側から形状を重ねるように湾曲した形で覆う形に形成されている。
【0043】
  図6に示すように、上述したバックシェル20の各サイド支持領域20Bの裏側に形成された各フレーム当てリブ20Cは、上述したアッパパン21とロアパン22の延出部22Cとが前後方向に重なる配置領域では、アッパパン21にではなく、ロアパン22の延出部22Cに形成されている。具体的には、ロアパン22の延出部22Cにおける上縁近傍部と下縁近傍部とに各フレーム当てリブ20Cが形成されている。また、上述したバックシェル20の裏面部の複数箇所に形成された各締結凹部20Eは、アッパパン21にではなく、ロアパン22に全て形成されている。具体的には、各締結凹部20Eは、ロアパン22の延出部22C上の左右2箇所と、延出部22Cより下側の高さ方向の中間部領域の左右2箇所と、にそれぞれ形成されている。
【0044】
  また、上記ロアパン22の裏面部には、その各サイド支持領域20Bの裏側の各溝の形成領域内に、上述した各フレーム当てリブ20Cと同じように、各溝の凹み形状をそれぞれ横断面方向に埋める態様で幅方向や前後方向に面を広げて各サイド支持領域20Bの構造強度を補強するフランジリブ22Dが複数形成されている。
【0045】
  上述したバックシェル20は、上述した各締結凹部20Eの形成されたロアパン22がバックフレーム10に締結されて固定され、この固定されたロアパン22に対して、アッパパン21が上述した各フック部21Aと各ヒンジピン22Aとの嵌め込みによる連結により前方側に中折れ状に回転できる状態に組み付けられて構成されている。詳しくは、上述したロアパン22には、その延出部22Cの延出する根元側の左右2箇所の領域上に、それぞれ、高さ方向に長尺な矩形状のフック通し孔22Eが、前後方向(板厚方向)に貫通した形となって形成されている。
【0046】
  これらフック通し孔22Eは、それぞれ、前述したロアパン22の左右2箇所の裏面側部位に設けられた各ヒンジピン22Aの上部領域に形成されており、これらを通して各フック部21Aをロアパン22の表側(前側)から裏側(後ろ側)へと通せるように機能するものとなっている。したがって、これらフック通し孔22Eを通して上述したアッパパン21の各フック部21Aをロアパン22の裏側に設けられた各ヒンジピン22Aに嵌め込んで連結することにより、アッパパン21がロアパン22に対して各ヒンジピン22Aを中心に前後方向に傾動できる状態に組み付けられた状態となる。
【0047】
  上述した各フック部21Aの引掛け口内には、受け入れた各ヒンジピン22Aの抜けを防止するための図示しない突起爪が形成されている。これら不図示の突起爪は、各フック部21Aの引掛け口内に各ヒンジピン22Aを嵌め込む力によって、弾性的に押し窄められた後に復元し、各フック部21Aの引掛け口内において、各ヒンジピン22Aの抜けを防止可能に突出した状態に保持されるようになっている。
【0048】
  上記図示しない各突起爪は、各ヒンジピン22Aが各フック部21Aの引掛け口内に押し込まれる方向の力に対しては押し窄められやすく、各ヒンジピン22Aが各フック部21Aの引掛け口内から抜き出される方向の力に対しては押し窄められにくい、横断面直角三角形状の形に形成されている。これにより、アッパパン21がロアパン22に対して、上記のような嵌め込みによる連結構造であっても、安定した連結状態を維持して、各ヒンジピン22Aを中心に前後方向に傾動することのできる状態に連結された状態とされている(
図7参照)。
【0049】
  以上の連結構造によって、バックシェル20を中折れさせられるようにする中折れ機構50が構成されている。なお、上述したバックシェル20の前方側への中折れ回転は、図示は省略されているが、アッパパン21の上縁部近傍の後面部から後方側に棒状に延出する形に形成された中折れストッパの先端側のフック部位が、バックフレーム10の縦枠部10Bに後側から当てられる最大中折れ位置にて係止されるようになっている。なお、この中折れのストッパ構造は、アッパパン21とロアパン22との間に設けられていてもよい。
【0050】
  上述したバックシェル20の中折れの駆動回転は、バックシェル20に組み付けられたアクチュエータ60の作動によって行われるようになっている。上記アクチュエータ60は、
図3〜
図4及び
図6〜
図10に示すように、1つの袋体61と、2つの板バネ62と、によって構成されている。上述した袋体61や各板バネ62は、上述したバックシェル20のアッパパン21とロアパン22との間に設けられている。
【0051】
  上述した袋体61は、ナイロン等の機械的強度の高い原糸から成る基布材を袋状に膨らめる形に形成した、可撓性に富んだ構造から成っている。上記袋体61は、上述したロアパン22の延出部22Cの幅方向中央の前面部に固定されて設けられている。上記袋体61は、その外部に設けられた図示しない圧縮空気の供給・排出を行う給排気手段と接続されており、この給排気手段の制御によって膨張・収縮が行われるようになっている。上記袋体61は、
図8に示すように、その収縮状態では、アッパパン21を後方側から押圧することなく、バックシェル20を後述する各板バネ62の附勢力によって中折れ前の初期位置の状態に保持するようになっている。
【0052】
  上記袋体61は、
図9に示すように、その内部に圧縮空気が供給されることにより、そのロアパン22の延出部22Cの前面部に固定された後面部を支えに前方側に袋状に膨張展開していくようになっている。この膨張展開によって、袋体61は、アッパパン21を後方側から押圧し、バックシェル20を後述する各板バネ62の附勢力に抗した前方向に中折れさせていくようになっている。その際、上記袋体61は、アッパパン21の中折れ回転に伴う姿勢変化の形に合わせて、アッパパン21の後面部を押圧する押圧面の形を柔軟に変化させて、アッパパン21の後面部に広く押圧面をあてがえた状態を維持しながらアッパパン21を後方側から押圧していくようになっている。
【0053】
  上記袋体61は、上述した図示しない給排気手段によって適宜の大きさに膨張展開された状態で、その給排気が止められることにより、バックシェル20をその膨張量に応じた中折れ姿勢の位置に保持するようになっている。その理由は、上述したバックシェル20は、上述した袋体61の膨張展開によってアッパパン21が中折れ方向に押圧力を受ける一方、後述する各板バネ62によって常に中折れが戻される方向に附勢力を受けた状態となっており、これらの力が釣り合う位置でバックシェル20の姿勢が固定された状態に保持されるようになっているからである。
【0054】
  上記袋体61は、上記のように適宜の大きさに膨張展開された状態では、そのアッパパン21の後面部に広くあてがえられた押圧面において、アッパパン21から受ける着座者の背凭れ荷重を、後方側から広く、かつ、適度な軟らかさを発揮できる状態で受け止められるようになっている。その理由は、袋体61が、その可撓性によって、アッパパン21にかけられる背凭れ荷重の強弱に応じて比較的柔軟に形を変えられるように変形できるようになっているからである。
【0055】
  上述した袋体61は、その内部に充填された圧縮空気が排出されることにより、後方側に漸次収縮していくようになっている。この収縮により、バックシェル20は、後述する各板バネ62の附勢力によって、漸次、後方側に起こし上げられていき、中折れ前の初期位置に向けて戻されていくようになっている。
【0056】
  各板バネ62は、上記袋体61の配設箇所の左右両側部において、アッパパン21とロアパン22の延出部22Cとに跨ってこれらを前後に押し挟む形に取り付けられて設けられている。具体的には、
図10に示すように、各板バネ62は、それぞれ、前後一対の挟持片62Aと、これら挟持片62Aの下端部間を繋ぐ繋ぎ部位62Bと、を有した略U字板状の形に形成されている。上述した各板バネ62は、それぞれ、上述した前後一対の各挟持片62Aの高さ方向の中間部において、互いに内向する側に向かって部分的に張り出す形に折り曲げられたくびれ部位62A1を有した形に形成されている。
【0057】
  上記各板バネ62は、それぞれ、これらの開口側となる先端側部位(上端側部位)を、上述したバックシェル20のアッパパン21とロアパン22の延出部22Cとに貫通して形成された各バネ通し孔21B,22F内に通して、各々の挟持片62Aの間にアッパパン21とロアパン22の延出部22Cとを挟み込むように上方側へスライドさせることにより、アッパパン21とロアパン22の延出部22Cとを間に押し挟む形に装着された状態とされている。
【0058】
  詳しくは、上記各板バネ62は、上記のスライドによる装着により、上述した各挟持片62Aの中間部に形成された各くびれ部位62A1が、アッパパン21とロアパン22の延出部22Cとに貫通して形成された各バネ掛け孔21C,22G内に弾性的に嵌まり込んで掛着し、各くびれ部位62A1の張り出しによる段差形状によって、下方側(差込み方向とは反対側)へ滑らないように引掛けられた状態として、アッパパン21とロアパン22の延出部22Cとに跨って装着されている。これにより、各板バネ62は、バックシェル20の前方側への中折れ運動によって各挟持片62Aの間が開く形に変形しても、上記の掛着位置から外されることなく、各バネ掛け孔21C,22G内に強く引っ掛けられた状態として保持されるようになっている。
【0059】
  上記のように組み付けられた各板バネ62は、アッパパン21の前面部やロアパン22の延出部22Cの後面部と当接する、各くびれ部位62A1より上側の領域と下側の領域とにおいて、それぞれ、常時、アッパパン21とロアパン22の延出部22Cとを互いに重ね合わせる方向に押し付ける附勢力を作用させるようになっている。上記の附勢力によって、アッパパン21が、常時、ロアパン22に対して、中折れを戻す方向(後ろ側に起こされる方向)の附勢力を受けた状態とされている。
【0060】
  上記アッパパン21の附勢のかけられた後ろ起こし方向の回転は、
図6及び
図10に示すように、アッパパン21の後面部の高さ方向の中間部と下縁部とに突出形成された幅方向に長尺状に延びる横棒状の各係止突起21D1,21D2が、それぞれ、ロアパン22の延出部22Cの上縁近傍部と下縁近傍部とにそれぞれ前側から広く当接した状態に当てられることで係止されるようになっている。各係止突起21D1,21D2は、アッパパン21の湾曲した後面部形状に沿って幅方向に湾曲した形で延びる形状とされており、それらの幅方向の全域がロアパン22の延出部22Cの前面部にそれぞれ広く当接するようになっている。
【0061】
  上述した各板バネ62は、
図9に示すように、バックシェル20が袋体61の膨張展開によって中折れすると、互いの挟持片62A間の間隔を開く態様で変形するようになっている。ここで、上述した各板バネ62は、上述したバックシェル20に対して、バックシェル20の中折れの中心となる各ヒンジピン22Aの位置する下方側に向かって、それらの挟持片62A間を繋ぐ繋ぎ部位62Bを向けた姿勢、すなわちU字の開口が上向きとなる姿勢で組み付けられた状態とされている。
【0062】
  これにより、各板バネ62は、バックシェル20の中折れ時に、アッパパン21がロアパン22の延出部22Cに対して開くV字状の開形状に即す形で、それぞれV字状に開く態様をとるようになっている。このような構成となっていることにより、各板バネ62は、上述したバックシェル20に対して、アッパパン21やロアパン22からの張り出しが少ない態様でバックシェル20に取り付けられ、かつ、バックシェル20の中折れ時に無理な開き方向の負荷を受けにくい態様で開き変形することができるようになっている。
【0063】
  次に、
図1〜
図2を参照して、バックパッド30の構成について説明する。バックパッド30は、ウレタン樹脂をシートバック2の基本的外形を成す形に発泡成形させて形成したものである。上記バックパッド30は、上述したバックシェル20の前面部に組み付けられることにより、バックシェル20の前面部や上面部、それに左右両側面部に広く面当接した状態にあてがわれて、これらを外周側から広く覆った状態にセットされるようになっている。そして、上記バックパッド30は、上記バックシェル20への組み付け後に、バックカバー40がその表面全体に広く覆われるように被せ付けられて、バックカバー40の上下左右の各周縁部がそれぞれバックフレーム10の後側部に引き込まれて止着されることにより、バックカバー40の張設力によってバックシェル20に押さえ付けられて位置固定された状態に保持された状態とされている。
【0064】
  上述したバックパッド30は、
図2に示すように、そのバックシェル20の中央支持領域20Aによって後方側から支えられる幅方向の中央領域30Aが、概ね平坦な表面を備えた形状となっている。しかし、厳密には、上記バックパッド30の中央領域30Aは、着座者の腰部を支える下側の領域部が前方側に肉厚を増される形で緩やかに膨らみ、高さ方向の中央辺りの領域部が後方側に緩やかに窪むような形とされて、着座者の背中をS字状の湾曲した表面で支えるような形に形成されている。
【0065】
  これに対して、上記バックパッド30のバックシェル20の各サイド支持領域20Bによって後方側から支えられる幅方向の両サイド領域30Bは、バックシェル20の各サイド支持領域20Bの形のように前方側に山状に大きく膨らんだ形に形成されている。上記各サイド領域30Bの前方側に山状に膨らむ形は、着座者の腰部を支える下側の領域部が最も大きく前方側に膨らんだ形となっている。これらサイド領域30Bの前方側に山状に膨らんだ形状部位によって、着座者の腰部や背部を両外側から支えて着座姿勢を一定に保持することのできるサイドサポート部が形成されている。これらサイドサポート部を構成するバックパッド30の各サイド領域30Bは、上述したバックシェル20の山状に膨らんだ各サイド支持領域20Bによって、それぞれ、後ろ外側の斜めの角度から裏面が広く面当接された状態として支えられた状態とされている。
【0066】
  上述したバックパッド30の中央領域30Aと各サイド領域30Bとの間には、これらの境界線に沿って高さ方向に筋状に延びる形の吊り込み溝31が形成されている。これら吊り込み溝31は、バックパッド30の表面に被せ付けられるバックカバー40の所々の部位を内部に吊り込んで、バックカバー40を浮きや皺を生じさせることなくバックパッド30の表面に広く密着させた状態に張設させられるようにする吊り込み用の溝として機能するものとなっている。
【0067】
  以上をまとめると、本実施例のシート1(乗物用シート)は、次のような構成となっている。すなわち、シート1は、バックシェル20(シートフレーム)を中折れ状に屈曲回転させる中折れ機構50と、中折れ機構50を駆動させるアクチュエータ60と、を備えている。アクチュエータ60は、バックシェル20の互いに中折れ状に相対回転するアッパパン21とロアパン22との間に挟まれて設けられた袋体61と、アッパパン21とロアパン22との間に取り付けられた板バネ62(弾性体)と、を有する。上記板バネ62により、バックシェル20に対して常時、中折れ前の初期位置に向けての附勢力がかけられている。袋体61がアッパパン21とロアパン22との間で膨張することにより、バックシェル20が板バネ62の附勢力に抗して中折れ方向に押動され、袋体61の収縮によりバックシェル20が板バネ62の附勢力によって初期位置に向けて戻されるようになっている。
【0068】
  このような構成となっていることにより、袋体61の膨張力とこの膨張力に反した方向に作用する板バネ62の附勢力とによって、バックシェル20の中折れ角度を、袋体61の膨張量に応じた押し出し位置に適切に調整することができる。このような位置調整を適切に行えるアクチュエータ60を、袋体61と板バネ62とを組み合わせた簡素かつ嵩張らない構成によって得ることができる。
【0069】
  また、バックシェル20は、ロアパン22がアッパパン21の背面と対面する位置まで面内方向に延出する延出部22Cを有した構成とされている。袋体61が上記延出部22Cとアッパパン21との間に挟まれて設けられている。このような構成となっていることにより、袋体61をバックシェル20のアッパパン21とロアパン22との間に、より省スペースに配設することができる。
【0070】
  また、板バネ62が、バックシェル20の中折れの中心側に挟持片62A間の繋ぎ部位62Bを向けて配設されている。このような構成となっていることにより、板バネ62の開き形状とバックシェル20の中折れによる開き形状との向きが揃えられ、板バネ62をより省スペースかつ無理な開きによる負荷のかからない状態に設けることができる。
【0071】
  また、板バネ62が、袋体61を間に挟む中折れの軸方向の2箇所に一対で設けられている。このような構成となっていることにより、アクチュエータ60を、板バネ62と袋体61とを双方にバランス良く力を発揮させられるように最適に集約させた配置とすることができる。
【0072】
  また、バックシェル20の中折れの中心(ヒンジピン22A)が、バックシェル20におけるバックパッド30(シートパッド)の支持面よりも後方側に離れた位置に設定されている。このような構成となっていることにより、シートバック2の背凭れ角度を後傾させた状態で、シートバック2の上半部領域2Aを中折れにより前側に起こす際、起こされるアッパパン21のパッド支持面を下方側に落としながら前進させることができる。したがって、シートバック2を、着座者の背部の上体を起こした姿勢にマッチさせるように中折れさせることができる。また、袋体61による支持により、着座者の背凭れ荷重を比較的柔らかく受け止めることができる。
【0073】
  以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明の「乗物用シート」は、自動車の運転席以外のシートにも適用することができる他、鉄道等の自動車以外の車両や、航空機、船舶等の種々の乗物に供されるシートにも広く適用することができるものである。
【0074】
  また、上記実施例では、本発明の中折れ機構やアクチュエータが、シートバックを中折れ状に前傾させるためのものに適用された例を示したが、他の用途への適用も可能である。例えば、シートバックやシートクッションにおいて、サイドサポート部の中央部に対する立ち上がり角度を中折れ状に屈曲回転させて変化させるものや、シートクッションにおいて、着座者の大腿部を支える前部の中央部に対する立ち上がり角度を中折れ状に屈曲回転させて変化させるものなど(チルト機構)が挙げられる。すなわち、本発明の中折れ機構やアクチュエータは、シートバックの他、シートクッションへの適用も可能なものである。
【0075】
  また、上記実施例では、本発明の袋体として、圧縮空気の供給・排出により膨張・収縮する空気袋を例示したが、袋体は、その他のガスや液体の供給・排出によって膨張・収縮されるものであってもよい。また、上記実施例では、本発明の弾性体として板バネを例示したが、弾性体は、引張バネやトーションバネ等の他のバネ材の他、ゴムや樹脂等の弾性素材から成るものであってもよい。弾性体の設けられる数は、特に限定されない。また、弾性体は、袋体とは並ばない位置に設けられていてもよい。
【0076】
  また、上記実施例では、ロアパンからアッパパンの背面と対面する位置まで延出する延出部を形成し、延出部とアッパパンの背面との間に袋体を配設した構成を例示したが、アッパパンからロアパンの背面と対面する位置まで延出する延出部を形成し、同延出部とロアパンの背面との間に袋体を配設した構成としたものであってもよい。また、袋体をアッパパンとロアパンとの間に配設するために、アッパパンとロアパンの双方から互いに対面する形に延びる延出部を形成し、これら延出部間に袋体を設けた構成としてもよい。