(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6325028
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】重合によるDNA配列決定法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20180507BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20180507BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C12Q1/68 Z
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-139725(P2016-139725)
(22)【出願日】2016年7月14日
(62)【分割の表示】特願2013-511688(P2013-511688)の分割
【原出願日】2011年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-214250(P2016-214250A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年8月12日
(31)【優先権主張番号】61/377,621
(32)【優先日】2010年8月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10305563.8
(32)【優先日】2010年5月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(73)【特許権者】
【識別番号】508192245
【氏名又は名称】エコル ノルマル スペリュール
(73)【特許権者】
【識別番号】502381140
【氏名又は名称】ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ シジェム)
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ダビド、ベンシモン
(72)【発明者】
【氏名】バンサン、クロケット
(72)【発明者】
【氏名】ジャン‐フランソワ、アルマン
(72)【発明者】
【氏名】マリア、マノサス
(72)【発明者】
【氏名】ディン、ファン‐ヤン
【審査官】
市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/111924(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/016937(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0027187(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0166262(US,A1)
【文献】
特表2001−514742(JP,A)
【文献】
特表平08−510898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸配列を決定する方法であって、
a)前記核酸配列に相当する二本鎖核酸分子を、15pN以上の張力をかけることにより支持体を引き離すことによって変性させる工程;
b)一本鎖核酸分子(「プライマー」)と前記の変性した二本鎖核酸分子をハイブリダイズさせる工程;
c)工程b)で得られた、プライマーと二本鎖核酸分子のハイブリッドに、12pN〜10pNの間である張力をかける工程;
d)工程b)で得られた、プライマーと二本鎖核酸分子のハイブリッドを、特定のヌクレオチドに対する少なくとも1回の複製停止をもたらす条件で、ポリメラーゼとともにインキュベートし、プライマーの伸長と少なくとも1回の複製停止をもたらす工程;
e)前記二本鎖核酸に関して前記複製停止の位置を決定する工程
ここで、工程e)中の前記決定は、
・前記二本鎖核酸分子の、支持体に結合されている二末端間の距離(z)を測定すること、
・前記二本鎖核酸分子が変性された際に、前記二本鎖核酸分子の、支持体に結合されている二末端間の距離(zhigh)を測定すること、
・zとzhighを比較すること、および
・遮断位置を決定することを含んでなる;
f)前記複製停止の位置から、前記二本鎖核酸分子の配列における相当する塩基の位置を同定する工程;
g)前記特定のヌクレオチドと別の特定のヌクレオチドを用いて、上記工程a)〜f)の手順を繰り返す工程;および
h)それぞれの特定のヌクレオチドについて前記手順を繰り返した後に、鎖中の総てのヌクレオチドの位置を編集する事により、前記二本鎖核酸分子の完全な配列を得る工程;を含んでなり、ここで、前記二本鎖核酸分子がヘアピンであり、かつ、前記二本鎖核酸の一方の鎖の少なくとも1つの塩基が支持体に直接的または間接的に結合され、前記二本鎖核酸の他方の鎖の少なくとも1つの塩基が可動支持体に結合される、方法。
【請求項2】
工程a)の張力が17pN以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)の張力が18pN以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プライマーが前記ポリメラーゼの活性によって伸長され、この伸長プロセスが、前記ポリメラーゼが前記二本鎖核酸分子のループに到達する前に停止される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記二本鎖核酸分子にかけられる張力を5pN以下まで小さくするさらなる工程を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性が活性化される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
新たに合成された鎖を解離するさらなる工程を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程a)〜e)が繰り返される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程d)の条件が、特定のヌクレオチドに対する前記酵素の前進運動の速度を変更する反応混合物の使用を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程d)の条件が、デオキシヌクレオチドに加えてジデオキシヌクレオチドを含んでなる反応混合物の使用を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、未知の核酸の配列決定あるいは診断のための特定の核酸配列の検出に有用な、核酸、DNAまたはRNAの配列を決定する迅速な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、核酸配列の決定は分子生物学の中心をなしている。例えば、遺伝的変異、RNA発現、タンパク質−DNA相互作用、および染色体コンフォメーションなどの広範囲にわたる生物学的現象は、ハイスループットDNAシークエンシングにより評価することができる(いくつかの例として、Mitreva & Mardis, Methods Mol Biol, 533: 153-87, 2009; Mardis, Genome Med., 1(4): 40, 2009; Cloonan et al, Nat Methods, 5(7): 613-619, 2008; Valouev et al, Genome Res., 18(7): 1051-63, 2008; Valouev et al, Nat Methods., 5(9):829-34, 2008; Orscheln et al, Clin Infect Dis., 49(4): 536-42, 2009; Walter et al, Proc Natl Acad Sci U S A., 106(31): 12950-5, 2009; Mardis et al, N Engl J Med., 361(11): 1058-66, 2009, Hutchinson, Nucl. Acids Res., 35(18): 6227-6237, 2007参照)。
【0003】
加えて、生理学的試料中の特定のDNA配列の存在の証明は、現在のところ、例えば、細菌が抗生物質耐性、遺伝子異常を生じる確率、遺伝子改変に関連する癌および例えばHIVまたは肝炎ウイルスに関連する感染などのウイルス感染のリスクを特定するための、診断方法の開発の第一線を構成している(例えば、Zhang et al, Nature, 358: 591-593, 1992; Turner et al, J Bacteriol, 176(12): 3708-3722, 1994; Weston et al, Infection and Immunity, 77(7): 2840-2848, 2009参照)。
【0004】
近年、核酸配列決定法は主としてSangerの生化学的方法のキャピラリーに基づく半自動の実装形態を用いて行われている。この古典的な方法は、目的のDNAの増幅工程、続いて蛍光標識されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)の組み込みによりプライマー伸長の各ラウンドが確率論的に終了する「サイクルシークエンシング」の工程を含む。配列は、キャピラリーポリマーゲル中の一本鎖、末端標識伸長産物の高分解能電気泳動分離により決定される。96または384本の独立したキャピラリーにおける同時電気泳動は、限定されたレベルの並列化を提供する。
【0005】
低コストの配列決定法に対する高い需要は、配列決定プロセスを並列化し、一度に数千または数百万の配列を生成するハイスループットシークエンシング技術の開発を促進した(Shendure & Ji, Nat Biotechnol, 26(10): 1135-45. 2008)。ハイスループットシークエンシング技術は、標準的なダイターミネーター法を用いて可能なものを越えるDNAシーケンシングコストの低減を意図している。現在のところ、このまさにうってつけのハイスループットは、Sangerシークエンシングと比較した場合、個々のリードの長さおよび精度において相当な犠牲をはらって実現される。そのような新しい方法の例としては、454およびSolexa技術が挙げられる。これらの技術は、大腸菌(E. coli)または宿主細胞中でのクローニングを行わずに全ゲノムのショットガンシークエンシングを可能にする。ビーズ表面に捕捉された、アダプターを両脇に配置した短いDNA断片のライブラリーを、エマルションPCR法により増幅させる。配列決定は、DNAポリメラーゼによるプライム合成を用いて行う。454法(「ピロシークエンシング」としても知られる)では、アレイは4種類のdNTPのそれぞれとともに連続して提示され、組み込み量は、放出されたピロリン酸塩の発光検出によりモニタリングする。この方法とSolexa法の決定的な違いは、後者が鎖停止ヌクレオチドを用いる点である。停止塩基の蛍光標識は除去すると非遮断3’末端が残り、鎖停止を可逆的プロセスにすることができる。このSOLiD技術は、蛍光標識二塩基プローブを、クローニングにより増幅されたライブラリー鋳型内のアダプター配列とハイブリダイズしたシークエンシングプライマーと連結することに依存している。この二塩基プローブの特異性は、各連結反応ごとに1番目と2番目の塩基を調べることで達成される。連結、検出および切断の並列サイクルは、最終的なリード長を決定するサイクル数を用いて行われる。総て最初の増幅工程を必要とする前述の3つの技術とは対照的に、Helicosプラットフォームは、単一のDNA分子の配列決定を可能にする。この技術は、合成による配列決定を介して単一のDNA分子を直接調べるための蛍光(flurorescent)ヌクレオチド組み込みの高感度検出システムの使用に基づくものである。
【0006】
このような方法は例えば米国特許第4,882,127号、同第4,849,077号、同第7,556,922号、同第6,723,513号、PCT特許出願第03/066896号;PCT特許出願第2007111924号、米国特許出願第2008/0020392号、PCT特許出願第2006/084132号;米国特許出願第2009/0186349、米国特許出願第2009/0181860号、米国特許出願第2009/0181385号、米国特許出願第2006/0275782号、欧州特許第EP−B1−1141399号;Shendure & Ji, Nat Biotechnol., 26(10): 1135-45. 2008; Pihlak et al, Nat Biotechnol., 26(6): 676-684, 2008; Fuller et al., Nature Biotechnol., 27(11): 1013-1023, 2009; Mardis, Genome Med., 1(4): 40, 2009; Metzker, Nature Rev. Genet., 11(1): 31-46, 2010に記載されている。
【0007】
しかしながら、これまでに開発された総ての方法には重大な欠点がある。特に、それらは総て、標識されたヌクレオチド(例えば、蛍光)を用いており、それゆえに全体的なコストの深刻な増大に関与している。さらに、これらの新しい方法は、1つ(Helicosプラットフォーム)を除いて総てが、配列決定の前に標的配列の増幅を必要とし、一方では時間がかかり、他方ではエラーの起こる確率を増大させ、コンタミネーションが非常に起こりやすい。加えて、これらの方法は生化学的技術よりもむしろ機械的技術に関与し、感度が不十分である(Maier et al., Proc. Natl., Acad. Sci. U.S.A., 97(22): 12002-12007, 2000; Wuite et al., Nature, 404(6773): 103-106, 2000;US2010/0035252)。従って、単一分子の配列決定を可能にする新規の、高感度の方法の必要がなお存在する。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、物理的操作によって核酸配列を決定する方法に関する。特に、前記方法は複製の停止が起こる部位の物理的な位置を決定する工程、およびそれから核酸配列に関する情報を推定する工程を含む。
【0009】
本発明の方法は物理的技術および電子処理に基づくものであり、化学的または生化学的である現在のアプローチとは異なる。その利点は下記のように多数ある。
【0010】
1)単一分子の配列決定を可能にし、従って、前もって増幅工程(例えば、PCRによる)を行う必要がない。
2)標識ヌクレオチド(蛍光団または他の何らかの基を用いる)よりもはるかに安い標準的な核酸分子が使用されるため、当技術分野の方法よりもはるかにコストが安い。
3)二本鎖核酸分子の二末端間の距離を測定することにより、二本鎖核酸に沿って新たに合成される相補鎖の局在の決定を可能にする(bp単位)。
4)一つの実施態様において、1回の重合の実行で、鎖に沿って所与のヌクレオチドの位置を決定することが可能である。
5)測定は、秒単位の時間尺度で周期的に繰り返すことができ、従って偽陽性(ポリメラーゼの偽停止)の排除、統計値の改善および計測機器のドリフトの大幅な減少につながる。
6)新たに合成される一本鎖核酸は、(例えば、力もしくはイオン強度を低減することにより、またはヘリカーゼもしくはエキソヌクレアーゼ活性を用いることにより)複製工程後に放出させることができるため、実験は同じ分子で何回も繰り返し行うことができ、従って統計値を改善し、かつ測定値の信頼性を改善することができる。
7)新しい鎖を合成するために非修飾酵素を使用することができるので、色素−リンカーを切断するために部位特異的突然変異をポリメラーゼに導入するか、または酵素を横に結合させるか、または量子ドットで修飾する、第三世代の単一分子配列決定と比較して、関連するコストが低減され、誤り率が改善される。
【0011】
本発明は、複製の停止または遮断が起こる部位の配列決定された核酸分子の物理的局在に基づく、核酸配列の決定方法に関する。
【0012】
本明細書において「核酸配列の決定」とは、核酸中の実際の塩基の連続を解読するのみならず、例えば、核酸分子における特定の配列の検出または、2つの異なる核酸分子の配列間の違いの検出など、核酸配列に関する情報の取得に直接的または間接的につながるあらゆる取り組みを意味する。
【0013】
核酸配列を決定するほとんどの方法は、前進ポリメラーゼによる新しい鎖のプライム合成に依存している。これらの方法において、プライマーは二本鎖核酸鋳型のうち一方の鎖とハイブリダイズされ;そのプライマーからポリメラーゼによって新しい鎖が合成され;合成は特定の部位で停止または遮断され;重合におけるこれらの停止または遮断の検出が、前記核酸配列に関する情報を与える。
【0014】
本発明によれば、今般、二本鎖核酸配列に関する情報を得るためにこの遮断に関連する物理的パラメーターを利用できることが見出された。より正確に言えば、本発明者らは、前記二本鎖核酸分子において、複製の停止または遮断が起こる部位を物理的に特定することが可能であり、その結果、停止または遮断の特定の物理的位置が前記二本鎖核酸の配列に関する情報をもたらすことを見出した。
【0015】
本発明は、分子に張力をかけた際に、部分的に変性した二本鎖核酸分子の二末端間の物理的距離を測定することができるという知見に基づく。合成時解読(sequencing-by-synthesis)プロセスにおいて、複製フォークの進行は二本鎖核酸分子の巻き戻しに関連し、フォークの位置で結合している2つの遊離末端を残す。複製が特定の部位において遮断されると、二本鎖核酸分子は2本の鎖が複製フォークの手前でまだアニーリングしているコンフォメーションで遮断され、一方、このフォークの後方の2本の親鎖は分離している。本発明者らは今般、前記二本鎖核酸分子に張力をかけた際に、前記二本鎖核酸分子の2つの分離した末端の間の物理的距離を測定することができることを見出した。次に、この距離から、複製の停止または遮断が起こる部位の前記二本鎖核酸分子上の物理的位置を推定することができ、結果として、前記二本鎖核酸分子の配列に関する何らかの情報を得ることができる。
【0016】
よって、本発明の方法は、核酸配列を決定する方法であって、
a)前記核酸配列に相当する二本鎖核酸分子を変性させる工程;
b)一本鎖核酸分子(「プライマー」)と前記の変性した二本鎖核酸分子をハイブリダイズさせる工程;
c)工程b)で得られたハイブリダイズしたプライマー/二本鎖核酸分子に張力をかける工程;
d)工程b)で得られたハイブリダイズしたプライマー/二本鎖核酸分子を、少なくとも1回の複製停止をもたらす条件で、ポリメラーゼとともにインキュベートする工程;および
e)前記二本鎖核酸の一方の末端に関して前記複製停止の位置を決定する工程
を含んでなる方法に関する。
【0017】
本明細書において「変性」とは、鎖の間の大部分の水素結合が切れた場合に起こる二本鎖核酸分子の鎖の分離プロセスを意味する。この変性プロセスは変性した核酸分子を生じ、それにより、二本鎖核酸分子の変性の結果生じた2本の分離した相補鎖を意味する。本明細書において「復元」とは、2本の分離した相補鎖がハイブリダイゼーションを介して二重らせんを再形成するプロセスを意味する。本明細書において「ハイブリダイゼーション」とは、核酸の2本以上の相補鎖の間の非共有結合的な配列特異的相互作用を確立して単一のハイブリッドとするプロセスである。
【0018】
核酸を変性させるための、当業者に公知のいくつかの可能性が存在する。最も好ましい方法では、2本の鎖は物理的力をかけることによって分離される。例えば、前記二本鎖核酸の遊離末端を引き離し、そのようにして対合している塩基間の結合を破壊し、二本鎖核酸を開くことができる。
【0019】
このタイプの配列決定法において、再対合を容易にするためには、二本鎖DNAの遊離末端(すなわち、支持体と結合していない末端)を、引き離す前に互いに共有結合的にまたは準共有結合的に互いに結合するよう配列することが有利であり得る。好ましい実施態様では、二本鎖核酸分子はヘアピンである。別の好ましい実施態様では、一方の鎖の5’末端を他方の鎖の3’末端に直接共有結合させる。本発明において二本鎖核酸を図示することが求められる場合は、それを開いている(または閉じている)「ジッパー」に例えることができ、すなわち、二本鎖核酸の変性はジッパーを開けることであり、復元は再び閉じることである。
【0020】
本発明の一本鎖核酸は、特に、天然型または修飾型のDNAまたはRNA分子であり得る。本明細書において、用語「デオキシリボ核酸」および「DNA」は、デオキシリボヌクレオチドから構成されるポリマーを意味する。本明細書において、用語「リボ核酸」および「RNA」は、リボヌクレオチドから構成されるポリマーを意味する。前記一本鎖核酸はまた、例えばリボース部分が2’酸素および4’炭素をつなぐ付加的架橋で修飾されているヌクレオチドであるロックド核酸(LNA)、または主鎖がペプチド結合で連結されたN−(2−アミノエチル)−グリシンユニットの繰り返しから構成されるペプチド核酸(PNA)などの修飾ヌクレオチドから作製されてよい。
【0021】
本発明は、任意の種類の二本鎖核酸に適用される。ほとんどの場合、二本鎖核酸はDNAであるが、本発明はまた、完全に対合しているもしくは完全は対合していない一本鎖DNA−一本鎖DNAの二本鎖、あるいは完全に対合しているもしくは完全には対合していない一本鎖DNA−一本鎖RNAの二本鎖、あるいは完全に対合しているもしくは完全には対合していない一本鎖RNA−一本鎖RNAの二本鎖に適用されると理解される。さらに、この二本鎖は、異なる起源のサンプルから得られた2本の一本鎖の少なくとも部分的な再対合から構成されてもよい。最終的に、本発明はまた、単独の一本鎖DNAまたは単独の一本鎖RNAの二次構造に適用される。
【0022】
典型的な構成において、この二本鎖核酸分子は具体的には、2つの固体支持体(例えば、顕微鏡のスライド、マイクロピペット、微粒子)に固定することができる。一方の末端は表面に直接的または間接的に結合させ、他方の末端は可動表面に直接的または間接的に結合させることができる。この実施態様では、支持体を引き離す際に、二本鎖核酸の両末端に張力をかける。この張力が閾値よりも大きい場合には2本の鎖は分離し、核酸分子は変性する。かける張力は好ましくは15pN以上、より好ましくは16pN以上、さらにより好ましくは17pN以上、非常に好ましい態様では18pN以上である。この力は温度、ヌクレオチド種およびバッファーによって異なるが、当業者ならば2本の鎖を分離させるためにこれらのパラメーターに関して容易にこのような力をかけることができる。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、二本鎖核酸は閾値よりも大きい張力をかけることにより変性される。変性した二本鎖核酸を一本鎖核酸(「プライマー」)とともにインキュベートすると、前記一本鎖プライマーのハイブリダイゼーションが起こる。好ましくは、一本鎖核酸分子の配列は、二本鎖核酸分子の配列の少なくとも一部と相補的である。
【0024】
張力が中間値前後に小さくなった際に、変性した二本鎖核酸の2本の鎖は再ハイブリダイズ可能となる。前記2本の鎖の再ハイブリダイゼーションを得るには、10〜12pNの間の張力がかけられ、より好ましくは12pN、さらにより好ましくは11pN、より一層好ましくは10pNである。本発明によれば、ポリメラーゼ活性は、これらの張力条件下では活性であり、新たな鎖へのヌクレオチドの組み込みによりプライマー伸長が起こる。
【0025】
最も好ましくは、二本鎖核酸はヘアピンである。本明細書において「ヘアピン(haipin)」とは、一方の鎖の5’末端が、対合していないループを介して他方の鎖の3’末端に物理的に結合している二重らせんを意味する。前記物理結合は共有結合でも非共有結合でもよい。好ましくは、前記物理結合は共有結合である。従って、ヘアピンは、二本鎖のステムと、対合していない一本鎖ループからなる。ヘアピンにおいて、ループに関与していない2本の鎖の末端は遊離しており、従って引き離すことができる。その結果、二本鎖核酸の対合解除が起こり、変性した二本鎖核酸分子が生じる。前記核酸分子のそれぞれの末端を閾値よりも大きい力で引っ張ることにより、ヘアピン二本鎖核酸分子を完全に開くことができる。分子にかけられる張力が中間値まで小さくなると、核酸分子は自ら再ハイブリダイズしてヘアピンを再形成する。この中間的張力下では、遮断が起こるまで酵素のポリメラーゼ活性によって新たな鎖が生成される。本発明によれば、二本鎖核酸の一方の末端に対する複製遮断の位置を決定すれば、前記二本鎖核酸の配列に関する情報が得られる。
【0026】
ヘアピンの使用により、特に、対合および対合解除のサイクルを遂行してシグナル/ノイズ比を高めることが可能となる。
【0027】
本発明の目的のためには、ループは0〜60ヌクレオチドの間のいずれの長さであってもよい。安定なヘアピンを形成するためには、少なくとも約4または5ヌクレオチドのループ領域が必要であると考えられている。しかしながら、もっと短いループを用いて本発明を実施することも可能である。実際に、本発明者らは、本発明のいくつかの実施態様において、ループが0ヌクレオチドからなるヘアピンの使用が有利であり得ることを見出した。この場合、一方の鎖の3’末端は他方の鎖の5’末端に直接的かつ物理的に結合される。二本鎖核酸の遊離末端を結合させる技術は公知であり、その一部は以下により詳細に述べる。
【0028】
遮断の決定とは、本明細書においては、遮断に関連する物理的パラメーターの決定を意味する。これらのパラメーターのうち最も有用なものは、二本鎖核酸分子における遮断の位置であり、この位置は、新たに合成された一本鎖において最後に組み込まれたヌクレオチドの位置に相当する。実際に、本発明者らは、復元の停止が起こる、延長された二本鎖核酸上の位置を正確に決定可能であることを見出し、ヘアピンの使用は、当業者に変性/復元プロセス中の任意の時間にヘアピンの2つの遊離末端間の物理的距離を決定することができる。
【0029】
本明細書において「遊離末端」とは、もう一方の鎖の末端に共有結合されていない一方の鎖の末端を意味し、上述したように、これらの遊離末端はそれぞれ異なる表面に結合させることができる。例えば、これらの表面の一方は可動であり得、他方は不動であり得る。従って当業者は、ヘアピン二本鎖核酸の遊離末端間の距離を測定するために、単にその2つの表面間の距離を測定すればよいということを容易に実現するであろう。
【0030】
この距離は、ヘアピン核酸はその後完全に伸長されるため、ヘアピン分子が完全に変性される際に最大(z
high、上述の閾値よりも大きい力(F
open)をかけた時)となり、ヘアピン分子が完全に復元される時に最小(z
low、上述の中間値に相当する力(F
test)をかけた時))となる。長さの比較は総て、一本鎖核酸が同じ弾性特性を有するように同じ力F
testで行うことが有利である。ループが閉じる時間の遅れを用いて当業者は、Z
high(F
test)を測定することができる。
【0031】
複製が特定の部位で遮断された場合、二本鎖核酸分子は複製フォークの手前で2本の鎖がまだアニーリングしているコンフォメーションで遮断され、一方、このフォークの後方の2本の親鎖は分離している。複製プロセスが一時的または永久的に停止された場合の2つの遊離末端間の距離を測定することができ、予想されるように、この距離zはz
highとz
low(zは総てF=F
testで測定される)間である。距離zは、複製フォークが停止または遮断される点がそのヘアピン分子上のどこに局在するかによって異なることが即明らかである。もし前記複製フォークがヘアピンの遊離末端近くに局在する配列において停止されれば、距離z
pauseは最小となる。一方、前記複製フォークがヘアピンの、対合していないループに近い部分に相当する配列で遮断されれば、距離zは最大となる(
図1)。停止は、張力F
test下でポリメラーゼにより誘発されるヘアピンの巻き戻しの際に見られる。複製が、遮断されるまでF
open(ヘアピンが開く)の力の下で進行する場合、複製の遮断は遮断点まで再び鎖を閉じることを可能にするF
testまで力を低下する際に見られる。
【0032】
二本鎖核酸分子上の物理的距離と塩基数は正確に相関させることができる。例えば、距離1nmは、10pNの力の下で、核酸において2つのヌクレオチドにわたる距離(1bp)に相当する。力に対する正確な較正は、一本鎖核酸の弾性により与えられる。従って、張力下で二本鎖核酸分子の2つの遊離末端間の距離を単に測定することにより、復元が遮断された場所を正確に決定することができる。
【0033】
よって、一態様において、本発明の方法は、核酸配列を決定する方法であって、
a)前記核酸配列に相当する二本鎖核酸分子を変性させる工程;
b)一本鎖核酸分子(「プライマー」)と前記の変性した二本鎖核酸分子をハイブリダイズさせる工程;
c)工程b)で得られたハイブリダイズしたプライマー/二本鎖核酸分子に張力をかける工程;
d)工程b)で得られたハイブリダイズしたプライマー/二本鎖核酸分子を、少なくとも1回の複製停止をもたらす条件で、ポリメラーゼとともにインキュベートする工程;および
e)前記二本鎖核酸の一方の末端に関して前記複製停止の位置を決定する工程
を含んでなり、
複製プロセスが遮断された際に、前記二本鎖分子の二末端間の距離が測定される、
方法に関する。好ましくは、前記分子の二末端間の距離は、分子が完全に変性された際に測定される。さらにより好ましくは、2つの距離が比較され、遮断の位置が決定される。
【0034】
本明細書において、「ポリメラーゼ」は、ヌクレオチドの重合を触媒する酵素(すなわち、ポリメラーゼ活性)を意味する。一般に、この酵素はポリヌクレオチド鋳型配列にアニーリングしたプライマーの3’末端で合成を開始し、鋳型鎖の5’末端に向かって前進する。「DNAポリメラーゼ」は、デオキシヌクレオチドの重合を触媒し、「RNAポリメラーゼ」は、リボヌクレオチドの重合を触媒する。本発明によるポリメラーゼは、前進ポリメラーゼまたは非前進ポリメラーゼのいずれかである。前進酵素は、変性した二本鎖核酸鋳型上での多数回の反応を触媒するが、この酵素は前記鋳型に結合した状態にある。本明細書で理解されるように、ポリメラーゼは前進型であり、すなわち、変性した二本鎖核酸鋳型に結合したままの状態で、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、通常には少なくとも500ヌクレオチドだけ結合した状態となり、少なくとも1000ヌクレオチド以上前進し得る。本発明によるポリメラーゼには、RNA依存性RNAポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ、DNA依存性DNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)などが含まれる。そのような多くの酵素は当技術分野で公知である。本発明によれば、二本鎖核酸鋳型にかけられた力が中間値、すなわち、10〜12pNの間であるか、またはヘアピンが完全に解ける大きい力である場合に、前記ポリメラーゼは核酸を合成することができる。
【0035】
好ましくは、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼが本発明の方法に使用される。本明細書において「3’−5’エキソヌクレアーゼ活性」とは、組み込んだヌクレオチドをDNAポリマーの3’末端から除去する酵素の能力を意味する。このような酵素の例としては、例えば、T4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、DEEP VENT DNAポリメラーゼ、大腸菌ポリメラーゼIII、Phi29 DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼI、大腸菌DNAポリメラーゼI、クレノウフラグメント、Phusion(登録商標)ハイフィディリティDNAポリメラーゼ、Phusion(登録商標)ホットスタートハイフィディリティDNAポリメラーゼ、Phire(登録商標)ホットスタートDNAポリメラーゼ、9°Nm DNAポリメラーゼ、単純ヘルペスウイルス1型DNAポリメラーゼが挙げられる。好ましい実施態様では、本発明のポリメラーゼは、二本鎖核酸分子にかける力を最小値より小さくすることにより、ポリメラーゼ活性モードから3’−5’エキソヌクレアーゼ活性モードに切り替えることができる。好ましくは、前記最小値は7pNであり、より好ましくは前記最小値は6pNであり、さらにより好ましくは前記最小値は5pNである。
【0036】
さらにより好ましくは、前記ポリメラーゼは、加えて、中間の張力下で、例えば、10〜12pNの間の力が二本鎖ヘアピンにかけられた場合に鎖置換活性を有する。本明細書において「鎖置換」は、合成時に下流の核酸を置換するポリメラーゼの能力を意味する。本発明者らは、特に、試験管条件下、すなわち、二本鎖鋳型に張力がかからない条件下では鎖置換活性を有することが知られていないT4 DNAポリメラーゼおよびT7 DNAポリメラーゼが、二本鎖ヘアピンが10pN以下の力の下にある場合、重合時に下流の核酸を除去できることを見出した。よって、このT4 DNAポリメラーゼおよびT7 DNAポリメラーゼは、本発明の方法を実施するために特に適している。本明細書において「T4 DNAポリメラーゼ」および「T7 DNAポリメラーゼ」は単量体酵素およびホロ酵素の両方を意味する。
【0037】
本発明による方法は、複製プロセスにおいて少なくとも1つの停止をもたらす条件下で行われる複製工程を含む。好ましくは、複製工程の際にこの二本鎖核酸分子に張力をかける。より好ましくは、前記張力は中間値前後であり、すなわち、前記張力は10〜12pNの間である。前記停止は、当業者に公知のいずれの手段によって引き起こされてもよい。新たな鎖の合成が遮断される合成時解読は、当技術分野で広く用いられてきた。このような方法はいずれも、本発明の目的に適合し得る。例えば、ポリメラーゼはヌクレオチド感受性の前進酵素であってよく、この酵素を次に、特定のヌクレオチドに対する酵素の前進運動の速度を変更する反応混合物中で、変性した二本鎖核酸鋳型と接触させる。例えば、前記反応混合物は、塩基のうちの1つが非常に低い濃度で存在する、デオキシヌクレオチド(dNTP)プールを含んでなる。その場合、ポリメラーゼは、前記ヌクレオチドの相補物に遭遇するたびに、その低濃度のヌクレオチドがその位置に拡散するまで停止する。従って、分子上の停止位置が、合成される鎖において希少ヌクレオチドの位置を明らかにし、当業者はその配列において、相当する塩基の位置を同定することが可能になる(Greenleaf and Block, Science, 313: 801, 200;米国特許第7,556,922号)。あるいは、DNAに見られる正常なデオキシヌクレオチド(dNTP)に加えて、ジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を使用することもできる。ジデオキシヌクレオチドは、3’炭素にヒドロキシル基(OH)の代わりに水素基を含むこと以外はヌクレオチドと本質的には同じである。これらの修飾ヌクレオチドは、配列に組み込まれた場合、さらなるヌクレオチドの付加を妨げる。このことは、ジデオキシヌクレオチドと次に入ってくるヌクレオチドとの間にホスホジエステル結合は形成できないために起こり、従って、DNA鎖は停止される。よって、1つのddNTPの組み込みがポリメラーゼ反応の停止を引き起こし、これは前記ddNTPの後にヌクレオチドを付加することができないためである。従って、分子上の遮断位置は、合成される鎖においてddNTPの組み込み位置を明らかにし、当業者はそに配列において、相当する塩基の位置を同定することが可能になる。次に、それぞれの停止または遮断の位置を、本発明の方法、すなわち分子の2つの遊離末端間の物理的距離を測定することにより決定することができる。さらにまた、ddNTPの代わりにヌクレオシド三リン酸(nucleoside triphophate)(NTP)を使用することも可能である。その違いは、1つのNTPの組み込みは一時的にポリメラーゼのプロセスを停止するに過ぎず、本明細書で言及した最初の提案例に類似したパターン(patern)を生じる。
【0038】
本発明の方法は、未知の核酸の直接配列決定のために使用可能である。好ましい実施態様では、前進酵素は公知の一本鎖核酸(プライマー)から、ヘアピン鎖のうちの1つと相補的な伸長部が増えていく配列を合成するために使用され、それにより、中程度の張力下(例えば、5〜13pNの範囲)に維持された二本鎖ヘアピンを効果的に巻き戻す。この実施態様において、重合は、一本鎖プライマーの存在下で力をF
openまで一時的に増すことで二本鎖ヘアピンを開くことにより開始される。F
openは、二本鎖ヘアピンを完全に開くために必要な閾値よりも大きい張力である。これによりプライマーと二本鎖ヘアピンのハイブリダイゼーションが起こる。次の工程において、ポリメラーゼが新たな鎖を合成できるように(鎖置換モードでまたは非鎖置換モードで)、力をF
elongation(≦F
open)に設定する。F
elongationは、好ましくは、F
open(二本鎖ヘアピンを完全に開くために必要な閾値)よりも小さい中間の張力に設定し、前記中間の張力は、ポリメラーゼによる複製を可能にする。好ましくは、前記中間値は10〜12pNの間である。F
elongationに等しい張力下で、ポリメラーゼは停止または遮断が起こるまで、持続した速度で新たな鎖を合成する。従って、酵素活性は伸長した相補的一本鎖核酸分子の生成をもたらす。
【0039】
鎖置換構造において、ヘアピンにかける力を調節することにより、前記ポリメラーゼはその2つの動作モード、すなわち、エキソヌクレアーゼ活性および伸長の間で切り替えを行うことができる。
【0040】
好ましい実施態様では、伸長プロセスは、ポリメラーゼがループに到達する前に停止される。これは、様々な手段により達成することができる。例えば、ループの数ヌクレオチド手前に非従来型塩基を挿入すると、ポリメラーゼが停止される。同じ効果を、ループ直前に位置するタンパク質の二本鎖結合ドメインを用いて得ることもできる。
【0041】
さらに好ましい実施態様では、伸長プロセスが遮断された後に、ヘアピン分子にかけられる力(F
exo)を最小値、例えば、5pNを下回るまで小さくする。これにより、ポリメラーゼはそのエキソヌクレアーゼ活性に切り替え、合成されたばかりの鎖を解離することが可能になる。このプロセスは、全鎖が完全に解離した際に停止する。あるいは、解離プロセスは、例えばプライマー中の修飾ヌクレオチドなどの障害物に遭遇した際など、酵素が休止した(stalled)場合に停止する。そのような場合において、新たに合成された鎖を放出させるために酵素を使用することが必要となり得る。好適な酵素の例としては、例えば、ヘリカーゼ類、例えば、UVrDヘリカーゼ、recBCDヘリカーゼ、大腸菌UvrDヘリカーゼ、Tte−UvrDヘリカーゼ、T7 Gp4ヘリカーゼ、RecBCDヘリカーゼ、DnaBヘリカーゼ、MCMヘリカーゼ、Repヘリカーゼ、RecQヘリカーゼ、PcrAヘリカーゼ、T4 UvsWヘリカーゼ、SV40ラージT抗原ヘリカーゼ、ヘルペスウイルスヘリカーゼ、酵母Sgslヘリカーゼ、DEAH_ATP依存性ヘリカーゼ、および乳頭腫ウイルスヘリカーゼElタンパク質とその同族体など、ならびにエキソヌクレアーゼ類、例えばヘビ毒ホスホジエステラーゼ、脾臓ホスホジエステラーゼ、Bal−31ヌクレアーゼ、大腸菌エキソヌクレアーゼI、大腸菌エキソヌクレアーゼVII、マングマメ・ヌクレアーゼ、SIヌクレアーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼ1のエキソヌクレアーゼ活性、DNAポリメラーゼ1のクレノウフラグメントのエキソヌクレアーゼ活性、T4 DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性、T7 DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性、Taq DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性、DEEP VENT DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性、大腸菌エキソヌクレアーゼIII、λエキソヌクレアーゼ、およびVENTR DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性が挙げられる。
【0042】
合成されたばかりの鎖の解離は、全プロセス(すなわち、例えば希少ヌクレオチドの相補物に遭遇するたびに停止するか、またはddNTPもしくはNTPを組み込むと停止するポリメラーゼを用いて、閾値、例えば10pNを上回る張力下での鎖の合成)を繰り返す機会をもたらす。もし、プライマーが解離工程の際に除かれていれば、合成に先立ってヘアピンを開き、閉じ直す工程が行われ、その結果、プライマーがハイブリダイズできる。10pNを超えて力を増大させると、ポリメラーゼをまた伸長モードに切り替えて、新しい休止パターンが記録される。従って、合成/解離サイクルの繰り返しは、同じ希少ヌクレオチドを用いていくつかの休止パターンの記録を可能にする。このことは、シグナル/ノイズ比の改善をもたらし、エラーが少なく高品質の配列の取得を可能にする。あるいは、ヘアピンが完全に開く大きい張力で、ddNTPの存在下、複製工程を実施することができる。その場合、ddNTPの組み込みの結果起こる遮断は、力をF
testにまで小さくした際に検出することができる。
【0043】
十分な統計値が記録された時点で、別のヌクレオチドまたは別のddNTPが不足した状態でこの手順を繰り返す。それぞれのヌクレオチドについて前記手順を繰り返した後に、鎖中の総てのヌクレオチドの位置をコンパイルし、その結果、元の二本鎖核酸分子の完全な配列が得られる。
【0044】
本発明の方法の実装形態は、特に、単一分子レベルでのリアルタイムの核酸相互作用を探査するために設計された装置の存在により可能となった。そのような装置は、例えば、米国特許第7,052,650号および同第7,244,391号に記載されている。そこに記載されている機器は、ミクロンサイズの超常磁性ビーズにピコニュートンスケールの力をかける磁気トラップを使用する。要するに、前記の機器は光学顕微鏡、磁石およびPCを含んでなる。二本鎖核酸分子は、一方の末端は例えば表面などの不動エレメントに、もう一方の末端は可動表面、この場合磁性ビーズにと、多数のポイントで固定される。磁石は、ビーズに働かせるために提供する。特に、磁石は、ビーズを前記表面から引き離すために使用することができる。しかしながら、本発明の方法の実装形態は上記の機器に限定されない。本発明の方法を実施するためには、二本鎖核酸分子を完全に伸長させ、次いでリフォールディングすると同時に、前記分子の伸長をモニタリングする任意の装置を使用することができる。例えば、光ピンセットを用いてもよいが、それらには事前に力の較正を行う必要があり、ハイスループット測定のための並列化が容易ではない。さらなる欠点は、全体的な核酸のねじれの制御ができないこと、および集束レーザーにより溶液が局所的に加熱される可能性があり、ハイブリダイゼーション条件を変化させるおそれがあることである。
【0045】
二本鎖核酸は、適切なビーズ(例えば、ストレプトアビジンでコーティングしたもの)の溶液中で数分間インキュベートし、二本鎖核酸はその標識された(例えば、ビオチン)末端のうち一方でビーズに結合する。ビーズは、後に操作のために光ピンセットが使用されるならば透明であってよく、操作のために磁気トラップまたはピンセットが使用される場合は磁性ビーズであってよい。
【0046】
ビーズ−核酸アセンブリは、分子のもう一方の標識末端と結合するようにその表面が処理された(例えば、核酸のDig標識末端に結合させるための抗Digでコーティングされた表面)流体チャンバー中に注入する。従って、ビーズは核酸ヘアピンを介して表面に固定される(
図1a参照)。次に、ビーズと表面の距離を当業者に公知の様々な手段でモニタリングするが、例えば、それらの距離を推定するために、カメラにおけるそれらの画像の回折環を使用することができ、あるいはエバネッセントモードで照射された場合にそれらが散乱する光の強度(または蛍光の放出)を用いてそれらの距離を測定してもよい。あるいは、固定表面上のセンサーまでのそれらの距離を推定するために、それらが発生させる磁界を測定することができる(例えばGMRまたはHallセンサーなどの磁気センサーを使用)。
【0047】
ビーズに固定されている核酸分子を表面へ引き寄せるために、様々な技術が記載されている。焦点近くの透明ビーズを捕捉するために、集束レーザー光の光を使用することができる。固定表面に対する光線の相対的並進により、連結している分子に力をかけることができる(典型的な光ピンセットアッセイ)。加えられた力は、その平衡位置からのビーズの移動に比例し、結合している分子に一定の力を加えるためには捕捉光線上のフィードバックループが必要である。
【0048】
ビーズに一定の力を加えるために、ビーズの周囲の流れにより発生する流体力学的抗力の使用が記載されているが、通常、その空間的精度は低い(>100nm)。好ましい実施態様では、上記のように、核酸ヘアピンにより表面に固定された超常磁性ビーズを引き寄せるために磁気トラップを使用する。この構成においては、固定されたビーズに一定の力をかけるために、サンプルの上に配置した小さな磁石が使用され、その位置は<1nmの精度で決定することができる(引張力、および流体力学的抗力による消散に依存する)。どの場合においても、連結しているヘアピンは、約16pNよりも大きい力でビーズを引っ張ることにより、機械的に完全に開くことができることを注記しておく。分子にかける張力を約11pNより小さくすると、ヘアピンに自発的に再び閉じさせることができる(開いている状態の移行はヒステリシス的ではあるが可逆的である)。もし、開いている状態の時に、延長された一本鎖核酸に、溶液中の一部の分子(例えば、タンパク質、またはDNA、RNA、LNAもしくはPNAの相補的オリゴヌクレオチド)が結合していれば、力が11pNよりも小さくなった場合に、これらの分子はヘアピンの再閉を遮断する。従って、このアッセイの原理は2つの力の間の切り替えであり、大きい方のF
openはヘアピンを開き、小さい方のF
testは、再び閉じ、一時的遮断の際の分子の伸長の測定を可能にするために用いられる。遮断位置は、完全伸長と遮断状態の間の直線関係により、配列に関連づける。精度を最も良くするためには、完全伸長は、好ましくは、テスト張力F
testで測定する。これは、力がF
openからF
testへと小さくなったところで、一瞬でリフォールディングされるようにヘアピンループを設計することによって達成される。
【0049】
核酸を表面または支持体に結合させるためには、当技術分野で公知のいずれの技術を用いてもよい。本質的に、核酸は、例えばマイクロビーズなどの支持体に直接的に固定され、支持体は、例えば核酸の官能基化末端と反応することができるストレプトアビジン、COOH基などでコーティングすることによるなど、この表面の官能基化を含む。
【0050】
このような方法では一般に、核酸の、特に3’および5’末端の官能基化、すなわち、適当な化学基をそれらにグラフトすることが必要となる。さらに、操作の終了時に鎖が解離するのを防ぎ、適切な場合、後者を繰り返すことができるように、分子の他の2つの遊離末端をループにより連結することが好ましい。この目的で、様々な手順を採用することができる。
【0051】
最も単純な手順は、合成オリゴヌクレオチドを用いて二本鎖核酸の一方の末端を2種類の異なる官能基(例えば、ビオチンとアミン)で官能基化することであり、これにより2つの異なる前処理面への固定が可能となる。この2本の鎖の他方の末端は、ループの形態の、部分的に対合した合成ヌクレオチドを用いて連結することができる。このようにして、対合した一本鎖核酸、すなわちヘアピンが二本鎖核酸から生成される。この方法の利点は、大きな核酸断片の異種集団(遺伝子または染色体の分画で得られるような)を官能基化し、次に同時に分析できる能力にある。この場合、核酸サンプルは2種類の(またはそれを越える)制限酵素を用いて分画され、その酵素は、断片全体は類似している、その末端に2種類の異なる制限部位を有する部分集団を得ることを可能にする。これにより、二末端に異なる処理を行うことができる(例えば、一方の末端を、その末端に適当な制限部位を有するループの形態のオリゴヌクレオチドに連結することによる)。この方法の欠点は2つの隣接する官能基間の立体的障害にあり、これにより表面への結合が困難となる場合がある。この問題を解決するために、ヘアピン分子の各遊離末端に塩基の「スペーサー」配列を付加し、次にその末端に官能基を付加し、2つのスペーサー配列は非相補的であり、各官能基に、その専用の表面に結合する十分なスペースを提供することが有利であり得る。さらに有利には、各スペーサー配列の配列が、既知配列の一本鎖シークエンシングプライマーを本発明の配列決定法において使用するために設計されている。二本鎖核酸分子へのループおよび/またはスペーサーの付加は、分子生物学で慣用されている任意の方法を用いて行うことができる。これらの方法は当業者に周知であり、従ってここでは詳細に記載する必要はない。
【0052】
実際の固定技術については多数存在し、それらは高分子(タンパク質、DNAなど)を市販の前処理表面に固定するための技術から派生したものである。これらの技術の大部分は免疫学検査のために開発されたものであり、タンパク質(免疫グロブリン)を、タンパク質のカルボキシル(−COOH)またはアミン(−NH
2)末端と反応できる基(−COOH、−NH
2、−OHなど)を担持する表面に連結させる。
【0053】
核酸の共有結合による固定は、直接的に、分子の5’末端の遊離のリン酸基を介して行うことができ、それは第二級アミン(StrasbourgのPolylaboにより市販されているCovalink−NH表面)と反応して共有結合を形成する。また、DNAをアミン基で官能基化し、次にタンパク質と同様に処理することも可能である。
【0054】
ストレプトアビジンでコーティングした表面(Dynalビーズなど)もあり、ストレプトアビジンとビオチン化DNA分子との間の準共有結合的固定を可能にする。最後に、ジゴキシゲニンに対する抗体を表面にグラフトすることにより(上述の方法による)、ジゴキシゲニンで官能基化された核酸がそこに固定され得る。これは多くの潜在的な固定技術の一例にすぎない。
【0055】
結合および固定技術としては、例えば、欧州特許第152886号に記載の、セルロースなどの固相支持体へのDNAの結合のために酵素的カップリングを用いる技術も挙げておくべきである。
【0056】
欧州特許第146815号ではまた、支持体へのDNAの結合の様々な方法が記載されている。同様に、国際公開第92/16659号では、DNAを結合するためにポリマーを使用する方法が提案されている。
【0057】
当然ながら、核酸は支持体に直接結合されてもよいが、必要に応じて、特に表面に及ぼす影響を制限する目的で、核酸は不活性なペプチドアームまたは例えば、欧州特許第329198号に記載されているような他の種類の末端に結合されてもよい。
【0058】
本発明の実施には、特に断りのない限り、当業者の技能範囲内にある、従来技術またはタンパク質化学、分子ウイルス学、微生物学、組換えDNA技術、および薬理学が利用される。そのような技術は参考文献で詳細に説明されている(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.編, New York, 1995; Remington's Pharmaceutical Sciences, 第17版, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1985;およびSambrook et al, Molecular cloning: A laboratory manual 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press-Cold Spring Harbor, NY, USA, 1989参照)。
【0059】
以下の実施例は、本発明の他の特徴および利点を明らかにすることを可能にするであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
ヘアピンDNA上でのオリゴヌクレオチドとそれらの相補配列のハイブリダイゼーションの検出原理 ビーズを引っ張る力を、約16pNを上回る値まで大きくすることにより、ビーズを表面(a)に固定しているヘアピンDNAを一時的に開く。その状態で溶液中の相補的断片を開かれたDNAヘアピン上のその標的とハイブリダイズさせ、このようにして、力が小さくなり初期値に戻った際に、ヘアピン(b)が再閉するのを防ぐ。ヘアピンのリフォールディングは、持続時間は様々であるが、明確に定義された伸長において見られる4つのプラトーを示す。73.71nmにおける最上部のプラトーは、F
testで完全に開いたヘアピン83bpに関連し、最下部のプラトーは完全にリフォールディングされたヘアピンに相当する。25.47nmおよび35.17nmの2つの中間のプラトーは、溶液に2つのオリゴが入れられたために現れたものである。これらの伸長変化(z
high−z)から、ヘアピンに沿って相補配列が対合していた場所が推定できる。ここで、それらの位置によれば、遮断は、予想された位置29bpおよび40bpと極めてよく一致した28.66bpおよび39.60bpの場所で同時に起こっている。このプラトーの位置は、数回の開/閉サイクル(ここでは約20サイクル)から得られたヒストグラムにガウス関数を当てはめることにより、より良く推定される。
【
図2】
単一分子のSangerシークエンシングの説明 市販のバッファー(5×反応バッファー:335mM Tris−HCl(25℃にてpH8.8)、33mM MgCl
2、5mM DTT、84mM(NH
4)
2SO
4、フェルメンタス社;
http://www.fermentas.com/en/products/all/modifying-enzymes/mesophilic-polymerases/ep006-t4-dna-polymerase)中、T4 DNAポリメラーゼ(dTNP=dGNP=dCNP=500μΜ、dATP=5μΜ、ddATP=400μΜ、クランプとクランプローダー)を用いる、1.2kbpの単一分子ヘアピン上での合成のリアルタイム記録。大きい力においては、曲線のピークはヘアピンサンプルの存在を示す。中程度の力においては、上昇曲線はT4 DNAポリメラーゼによる新たな相補鎖の前進合成を示し、一方、プラトーは1つのddNPTが取り込まれた際に起こる停止を表す。小さい力においては、曲線の後縁は合成されたばかりの鎖を除去するエキソヌクレアーゼ活性を示す。この合成およびエキソヌクレアーゼ相をサイクルとして繰り返すことができる。
【
図3】
不均衡なdNTP濃度に基づく配列決定の説明 市販のバッファー(5×反応バッファー:335mM Tris−HCl(25℃にてpH8.8)、33mM MgCl
2、5mM DTT、84mM(NH
4)
2SO
4、フェルメンタス社;
http://www.fermentas.com/en/products/all/modifying-enzymes/mesophilic-polymerases/ep006-t4-dna-polymerase)中、T4 DNAポリメラーゼを用いる、1.2kbpの単一分子ヘアピン上での合成(dTNP=dGNP=dCNP=33μΜ、dATP=20nM、クランプとクランプローダー)のリアルタイムの記録。大きい力(約21pN)においては、曲線のピークはヘアピンサンプルの存在を示し、必要に応じてプライマーをハイブリダイズするために使用することができる。中程度の力(約11.7pN)においては、曲線の前縁はT4 DNAポリメラーゼによる新たな相補鎖の前進合成を示し、一方、一時的な停止はdATPが必要とされている場合の提示に相当する。小さい力(約1.6pN)においては、立ち下がりはT4 DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性の活性化による、新たに合成された鎖の切断を示す。この合成および切断サイクルを繰り返すことができる。
【
図4A】
ヘアピン上のそれらの相補配列に対する不均衡なdNTP濃度に基づく配列決定の検出 市販のバッファー(5×反応バッファー:335mM Tris−HCl(25℃にてpH8.8)、33mM MgCl
2、5mM DTT、84mM(NH
4)
2SO
4、フェルメンタス社;
http://www.fermentas.com/en/products/all/modifying-enzymes/mesophilic-polymerases/ep006-t4-dna-polymerase)中、T4 DNAポリメラーゼを用いる、83bpの単一分子ヘアピン上での合成(dTNP=dGNP=dCNP=33μΜ、dATP=20nM、クランプとクランプローダー)のリアルタイムの記録。大きい力(約21pN)においては、曲線のピークはヘアピンサンプルの存在を示し、必要に応じてプライマーをハイブリダイズするために使用することができる。中程度の力(約11.7pN)においては、曲線の前縁はT4 DNAポリメラーゼによる新たな相補鎖の前進合成を示し、一方、一時的な停止は、dATPが必要とされている場合の提示に相当する。小さい力(約1.6pN)においては、下降はT4 DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性の活性化による、新たに合成された鎖の切断を示す。この合成および開裂サイクルを繰り返すことができる。これらの一時的な停止の位置ヒストグラムは、
図1で上述したものと同様に推定され、塩基判定が示されている(矢印)。鋳型の真の配列は図の右側に示されている。
【
図4B】
ヘアピン上のそれらの相補配列に対する不均衡なdNTP濃度に基づく配列決定の検出 伸長変化を測定するためには2つの方法がある。第一に、Zzipを参照として使用することができ、あるいは、ヘアピンループの位置を参照として使用することもできる。
【
図5】
ヘアピン設計の説明 目的のDNA断片は、DNAループ(脱塩基部位およびLNA塩基を含む)および2つの部分的相補DNA断片(1つは末端にビオチンを有するssDNA、1つは先端にDigを有するdsDNA)と連結され、最終的には、ストレプトアビジンでコーティングされた超常磁性ビーズ(DYNAL)に結合させ、一方、他端は抗digで処理したカバーガラスに結合することができるヘアピンを形成する。
【実施例】
【0061】
実験例
DNAの調製
未知の配列であり数十〜数千の間の塩基対からなるサイズの二本鎖(ds)DNA断片を、一方の先端においてDNAループに連結する。そのもう一方の先端をdsDNA断片に連結すれば、その2つの鎖を異なるコーティングの表面に結合させることができる。例えば、一方の鎖の遊離3’末端をビオチンで標識してストレプトアビジンでコーティングしたビーズに結合させ、反対の鎖の5’末端はジゴキシゲニンで標識して抗Dig抗体でコーティングした表面に結合させることができる。この末端標識は、例えばビオチン(またはdig)修飾ヌクレオチドを付加するためのターミナルトランスフェラーゼの使用、または適切に標識されたオリゴヌクレオチドを用いるハイブリダイゼーションなど、当業者に公知の様々な方法で行うことができる。
【0062】
フォース・ストレッチング機器(Force streching apparatus)
このDNA構築物を、それが、その標識された(例えば、ビオチン)一方の末端が結合する適当なビーズ(例えば、ストレプトアビジンでコーティングしたもの)の溶液中で数分間インキュベートする。このビーズは、後に操作のために光ピンセットが使用されるならば透明であってよく、操作のために磁気トラップまたはピンセットが使用される場合は磁性ビーズであってよい。
【0063】
ビーズ−DNAアセンブリを、例えば分子のもう一方の標識末端と結合するようにその表面が処理された(例えば、DNAのDig標識末端に結合させるための抗Digでコーティングされた表面)流体チャンバー中に注入する。このようにしてビーズはDNA−ヘアピンを介して表面に固定される(
図1a参照)。次に、ビーズと表面との距離を当業者に公知の様々な手段でモニタリングするが、例えば、それらの距離を推定するために、カメラでのそれらの画像の回折環を使用することができ、あるいはエバネッセントモードで照射された場合にそれらが散乱する光の強度(または蛍光の放出)を用いてそれらの距離を測定してもよい。あるいは、固定表面上のセンサーまでのそれらの距離を推定するために、それらが発生させる磁界を測定することができる(例えばGMRまたはHallセンサーなどの磁気センサーを使用)。
【0064】
ビーズに固定されているDNA分子を表面へ引き寄せるために、様々な技術が記載されている。好ましい実施態様では、上記のように、DNAヘアピンにより表面に固定された超常磁性ビーズを引き寄せるために磁気トラップを使用する。この構成においては、固定されたビーズに一定の力を加えるために、サンプルの上に配置した小さな磁石が使用され、その位置は<1nmの精度で決定することができる(引張力および流体力学的抗力による消散に依存する)。この一連の実験では、米国特許第7,052,650号および同第7,244,391号に記載の機器を用いた。さらに、特に断りのない限り、本明細書で報告した実験は、25mM Tris pH7.5、150mM KAc、10mM MgCl
2、0.2%BSA中で行った。どの場合においても、連結しているヘアピンは、約16pNよりも大きい力でビーズを引っ張ることにより、機械的に完全に開くことができる。分子にかける張力を約11pNより小さくすると、ヘアピンが自発的に再び閉じさせることができる(開いている状態の移行はヒステリシス的ではあるが可逆的である)。もし、開いている状態の時に、溶液中の分子(例えば、タンパク質、またはDNA、RNA、LNAもしくはPNAの相補的オリゴヌクレオチド)と延長された一本鎖(ss)DNAとの結合が見られたならば、力が11pNよりも小さくなった場合に、この分子はヘアピンの再閉を一時的に遮断する。アッセイの原理は2つの力の間の切り替えであり、大きい方のF
0penはヘアピンを開き、小さい方のF
testは、再び閉じ、一時的遮断の際の分子の伸長の測定を可能にするために用いられる。遮断位置は、完全伸長と遮断状態の間の直線関係により、配列に関連づける。精度を最も良くするためには、完全伸長は、好ましくは、テスト張力F
testで測定する。これは、力がF
openからF
testへ低減されたところで、一瞬でリフォールディングされるようにヘアピンループを設計することによって達成される。
【0065】
オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション位置は、塩基対の分解能により測定することができる
これらの再閉の停止のうちの1つの期間におけるDNA分子の伸長(ビーズと表面との距離)を測定することにより、遮断の位置をナノメーター精度で決定することが可能である(1nmはssDNAにおいて10pNの力の下で2つのヌクレオチド(1bp)にわたる距離に相当する)。開いている構造は、塩基対に対する伸長の最大比を示す(dsDNAにおいてその比はわずか0.34nm/bpである)。
【0066】
この測定の精度は、2つのノイズの関与により限定される:
・測定方法の精度;
・ビーズのブラウン運動。
【0067】
ビーズの垂直位置を測定するために様々な技術を使用することができる。最も単純なものは、ビデオ顕微鏡によるものである(米国特許第7,052,650号および同第7,244,391号)。この方法を用いて得られた
図1の結果では、標準的な分解能は平均して1秒あたり1nmに達している。良好な分解能を備えた他の方法としては、例えば分解能0.1nmに達するPSDセンサーを用いるレーザー照射(Greenleaf and Block, Science, 313: 801, 2006)、およびエバネッセント波照射(Singh-Zocchi et al., Proc Natl Acad Sci U S A., 100(13): 7605-7610, 2003、Liu et al., Biophys J., 96(9): 3810-3821, 2009)が示されている。
【0068】
分解能における固有の制限は、ssDNA分子を引き寄せるビーズのブラウン搖動によりもたらされる。<x
2>=4k
BTΔf(6πηr)/k
2ssDNA(F)、式中、k
ssDNA(F)はssDNA分子の剛性、k
Bはボルツマン定数、Tは絶対温度、ηは水の粘度、rはビーズの半径、Δfは測定の周波数帯域である。k
ssDNA(F=10pN)=0.05/Nb(N/m)、式中、NbはssDNAの塩基の数である。84bpのヘアピンに対して、これは平均して1秒間に0.04nmのノイズをもたらす(Δf=1Hz)。
図1におけるより大きなノイズ(σ約1nm)は、本質的に測定装置によるものであり、固有の搖動によるものではない。固有のブラウンノイズはヘアピンのサイズとともに増大し、例えば、1200bpのヘアピンは1秒間に平均して0.6nmのノイズをもたらす。
【0069】
重合の機械的検出による診断および配列決定
本発明者らは、力がフォークの不安定化に十分な大きさである場合に(F
test)、T4 DNAポリメラーゼはDNAヘアピンを複製できることを示した。古典的なSangerシークエンシングと同様に、特異的ddNTPの取り込みはT4 DNAポリメラーゼによる新生鎖のさらなる伸長を妨げる。本発明者らの方法において、
図6に示されるように、この遮断は容易に同定することができる。力を小さくしていくと、T4 DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性が活性化され、この酵素が新たに合成された鎖を切断する。従って、合成および切断のサイクルを繰り返すことで、分子(ヘアピン)は、まずddATPの存在下で、次に他の各ddNTP、すなわち、ddTTP、ddCTPおよびddGTPの存在下で、遮断位置を同定することにより配列決定することができる。
【0070】
同様に、二本鎖ヘアピン分子は、4種類のdNTPのうちの1つが他と比較して不足した状態で含まれる、すなわち、他と比較してこのdNTPが極めて低い濃度で存在するバッファー中で配列決定することができる。従って、
図7に例示されるように、重合時に、制限されているヌクレオチドの添加が必要な位置にT4 DNAポリメラーゼが到達するたびに、一時的な停止が起こる。本明細書に前述されているように、新たに合成された区分は力を小さくすることにより切除することができ、結果として酵素のエキソヌクレアーゼ活性の活性化がもたらされる。従って、合成および切断のサイクルを繰り返すことで、分子(ヘアピン)は、まず低濃度のdATP(例えば)の存在下で、次に他の各dNTP、すなわち、dTTP、dCTPおよびdGTPの存在下で、停止位置を同定することにより配列決定することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]