【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<吸着盤の全体構成>
図1は本発明の吸着盤を示す正面図である。
図2は本発明の吸着盤を示す平面図である。
図3は本発明の吸着盤を示す一部断面にした正面図である。
図4は本発明の吸着盤を示す一部断面にした平面図である。
本発明の吸着盤1は、高速道路、橋梁の橋桁などの高所にあるコンンクリート壁面w、金属面等の壁面wに吸引滑動させながら、そのコンクリートの壁面wに生じたひび割れ、金属面の錆などの劣化を点検し、更にその内部の異常について点検し、又は壁面wで補修、塗装など様々な作業をする点検装置等を装備した吸引滑動型自走点検ロボットなどを壁面wに吸着させる装置である。
【0022】
本発明の吸着盤1は、
図3,4に示すように、略円筒形状のチャンバー2の一面に開口3が、他面にこのチャンバー2内を負圧にする排気ポンプ4が、チャンバー2の内部に旋回機構5により壁面wに対して360度旋回可能に取り付けられた走行機構6がそれぞれ備えられている。走行機構6は2個の走行車輪7が並列するように設けられている。この走行車輪7は走行車輪差動機構8の両側にそれぞれ取り付けられている。この走行車輪差動機構8は細板形状の支持部材9の中央に取り付けられている。
【0023】
この支持部材9の両端部には、図示していないが可動アームのような支持部材の先端部が取り付けられるヒンジ軸10が設けられている。または、複数台の吸着盤1を連結させて用いるときに連結材が取り付けられる部分である。
【0024】
排気ポンプ4は、チャンバー2の開口3の反対側に突出するように形成された円筒部11内に取り付けられている。排気ポンプ4はファンと駆動モータとから成る。この駆動モータの電源は外部から取るようになっている。円筒部11の走行機構6側は円形状の通気穴11aを有し、排気ポンプ4がこの通気穴11aより開口3からの空気を吸引して、チャンバー2内を負圧にして、チャンバー2全体を壁面wに吸着させる。そのために開口3からの空気の吸引量が均等になるように開口3は円形状が望ましい。但し、チャンバー2の開口3は円形状に限定されないことは勿論である。
【0025】
このチャンバー2の開口3の周縁部12には、後述するように壁面w方向に個々に出没自在に配置された複数のセグメント14から成る密封用スカート15が取り付けられている。
【0026】
<消音室の構成>
排気ポンプ4は、
図3に示すように、チャンバー2に設けられた消音室16内に配置した。この消音室16は、チャンバー2に設けた円筒部11の周囲に取り付けられたキャップ状の部材である。この消音室16は排気ポンプ4を覆うように取り付けた部材である。この消音室16は、その内面にフエルト材や発泡ポリエステル材などの吸音材を張り付けたものである。このように排気ポンプ4を消音室16内に配置することで、トンネルの壁面w、建屋内の壁面wについて検査、補修作業をする際に静穏な状態で作業することができる。
【0027】
図示例では、円筒部11の端縁にも消音材からなる円筒形状の消音円筒16aを取り付けている。なお、消音室16と消音円筒16aは必須の構成部材でないので、必要に応じて取り付けて使用するものである。
【0028】
<走行機構の構成>
2個の並列する走行車輪7を駆動させる走行車輪差動機構8は、
図3、4に示すように、旋回機構5を介して支持部材9の中央位置に取り付けられている。この旋回機構5は、例えば、支持部材9に取り付けられた旋回用歯車17、旋回モータ18で駆動するピニオン18aを噛合させたものである。この旋回モータ18を回転駆動すると、走行車輪差動機構8は旋回用歯車17で旋回する。これで吸着盤1(チャンバー2)は壁面wに対して360度旋回可能になり、壁面wにおいて自由に吸引滑動することができる。
【0029】
走行車輪差動機構8は、走行モータ19の回転駆動力を両走行車輪7に異なるように回転させるようになっている。走行車輪7がカーブを曲がる時、内側と外側の走行車輪7に速度差(回転数の差)が生じるが、それを吸収しつつ動力源から同じトルクを振り分けて伝えることができる。即ち、1つの走行モータ19の出力を2つの異なった回転速度に振り分けて伝達する。
【0030】
走行車輪差動機構8に2個の走行車輪7が並列に取り付けられているので、その走行する前後方向に傾斜するおそれがある。開口3の周縁部12即ちセグメント14のシール部材20部分が強く壁面wに接触する恐れがある。この部分が強く接触すると吸着盤1ひいてはこの吸着盤1を備えた自走点検ロボットを円滑に走行させることができない場合がある。そこで、本発明では、チャンバー2の傾斜を防止するために補助輪21を備えた。この補助輪21により、チャンバー2が傾斜しないので、その周縁部12、各セグメント14のシール部材20部分が、壁面wに均等に接触又は近づくようになる。そこで、この補助輪21は、走行車輪差動機構8に補助輪用板材22を介して2個取り付けられている。この補助輪21は補助輪用板材22に取り付けられ、走行車輪差動機構8により360度旋回可能になる。
【0031】
<走行機構の変形例>
図示していないが、走行機構6は走行車輪7に限定されない。例えば、並列した2個のキャタピラのような無限軌道から成るものでもよい。この無限軌道のときは、チャンバー2が傾斜するおそれがないので、上述したような補助輪21は必要ない。この無限軌道によれば、壁面wに凹凸が多いときでも、安定した走行が可能になる。
【0032】
<密封用スカート(セグメントとシール部材から成る構成)>
図5は密封用スカートを示すカバーを外した状態の正面図である。
図6は密封用スカートのみを示す底面図である。
チャンバー2の開口3の周縁部12に、壁面w方向に個々に出没自在に配置された複数のセグメント14を有する密封用スカート15が取り付けられている。このセグメント14は、板状部材23の一側にシール部材20が取り付けられ、その反対側にセグメント14を壁面w側に押圧するコイルばねのような弾性部材24が取り付けられたものである。各セグメント14は、チャンバー2の開口3の周縁部12と、その周囲を覆うように取り付けられたカバー25とにより形成された摺動空間26内に、シール部材20側を外にして個々に摺動自在に挟まれている。
【0033】
壁面wに接するシール部材20は、例えば炭素繊維とケプラ繊維の複合材から成り、文字通りチャンバー2の開口3における密封性(シール性)を高めるために、弾性変形しやすい材質の部材である。このシール部材20の材質はこのような炭素繊維とケプラ繊維の複合材には限定されない。その他の摩耗に強く、弾性力が長期間維持できる材質のものであればよい。このシール部材20に代えて一般的なブラシを用いることは勿論可能である。
【0034】
図6の底面図に示すように、開口3の全周には、8枚のセグメント14が取り付けられている。また、開口3が円形であるため、個々のセグメント14(板状部材23とシール部材20)は横断面形状が円弧形状を有する。このセグメント14の形状は図示例に限定されず、開口3が八角形状の場合では、個々のセグメント14の横断面形状は直線状でもよい。その他、この開口3全周の形状、セグメント14の枚数に応じて個々のセグメント14の形状、大きさが決められる。
【0035】
<吸着盤の基本的な動作説明)>
図7は本発明の吸着盤をトンネルの壁面に吸引滑動させる状態を示す正面図である。
このように構成した本発明の吸着盤1は、密封用スカート15が、複数のセグメント14から成るので、個々のセグメント14が壁面wとの隙間を塞ぎ密封性を低下させず安全に壁面wを走行させることができる。更に、天井面でも安全に走行させることができる。この吸着盤1を用いて壁面wとその内部を検査し、又は壁面wで補修作業などを安全に実施することができる。
【0036】
<吸着盤の密封用スカートの動作説明>
図8は本発明の吸着盤を曲率の長い曲面を有する壁面に吸引滑動させる状態を示すカバーを外した状態の正面図であり、(a)は横断面が凸状の曲面、(b)は横断面が凹状の曲面である。
本発明の吸着盤1は、平坦な壁面wを走行させるときは勿論のこと、トンネルのように曲面を有する壁面wについても、安全に走行させることができる。例えば、
図8に示すように、曲率の長い曲面を有する壁面wでは、この曲面の形状はシール部材20部分で吸収し、密封性を低下させることはない。
図8(a)は横断面が凸状の曲面の場合、
図8(b)は横断面が凹状の曲面の場合の何れにも吸着盤1の密封用スカート15が対応することができ、壁面wとの隙間を塞ぎ密封性を低下させず安全に壁面wを走行させることができる。
【0037】
図9は本発明の吸着盤を曲率の短い曲面を有する壁面に吸引滑動させる状態を示すカバーを外した状態の正面図である。
本発明の密封用スカート15は、大きな凹凸がある壁面wのときは、
図9に示すように、複数のセグメント14を個別に出没させて密封性を高める。このとき同時に、壁面wの形状に対応するように、シール部材20が変形して密封性を高めている。
【0038】
図10は本発明の吸着盤を段差がある壁面に吸引滑動させる状態を示すカバーを外した状態の正面図である。
また、段差がある壁面のときも、
図10に示すように、複数のセグメント14を個別に出没させて密封性を高める。同様に壁面wの形状に対応するように、シール部材20が変形して密封性を高めている。
いずれの場合も、各セグメント14は板状部材23にシール部材20を取り付けた構造であるため、全体がブラシ(シール部材)の従来の構成と異なり、チャンバー2内の密封性が高い。凹凸が小さな壁面wのときは、シール部材20部分で密封性を維持することができる。
【0039】
<密封用スカート(センサ機構部)>
図11は密封用スカートのセンサ機構部の拡大断面図である。
図12は密封用スカートのセンサ機構部の拡大断面図であり、(a)はチャンバー内の負圧が大きいときの動作状態、(b)はその負圧が小さいときの動作状態である。
本発明の密封用スカート15は、センサ機構部27を有する。この密封用スカート15は、チャンバー2の開口3の周縁部12に、チャンバー2の外側と、摺動空間26内とを連結し、大気圧力を取り込む吸入孔28が複数開けられている。チャンバー2の開口3の周縁部12に、チャンバー2の内側と、摺動空間26に挟まれたセグメント14に、チャンバー2内の圧力を取り込むと共に、セグメント14の摺動間隔を規制するためにストッパピン29を通す長孔30に通じる排出孔31が開けられている。
【0040】
吸着盤1はチャンバー2内の負圧に維持する必要はあるが、この吸着盤1が壁面wから落下しない程度の吸着力があればよいため、無駄に排気ポンプ4を稼働させる必要はない。逆に、吸着力が強すぎると、吸着盤1は壁面w上を円滑に滑動させることができない。そこで、本発明のセンサ機構部27は、吸入孔28で大気圧力を取り込み、排出孔31でチャンバー2内の圧力を取り込むことで、セグメント14を摺動空間26から出没させ、チャンバー2内の密封性を調節する。
【0041】
即ち、
図12(a)に示すように、負圧が大きいと吸入孔28でセグメント14が摺動空間26から大きく突出して、シール部材20部分の面積が広くなり、空気が漏れやすく密封性が若干低下する。
逆に、
図12(b)に示すように、負圧が小さいと吸入孔28でセグメント14が摺動空間26内に引き込まれ、シール部材20部分の面積が狭くなり、相対的に開口3の周縁部12の面積が広くなり、空気の漏れが少なくなり密封性が高くなる。
【0042】
このように構成された吸着盤1は、壁面wに接触する密封用スカート15が、複数のセグメント14から成るので、壁面wに凹凸があるときは、個々のセグメント14が壁面wと隙間を塞ぎ密封性を低下させない。壁面wが平面ではないとき、例えば、球面状又はすり鉢状の時にも吸着力が低下しないので、安全に走行させることができる。
【0043】
吸着盤1に備えられた走行機構6は、旋回機構5により壁面に対して360度の旋回可能に取り付けられているので、方向転換の際に広い場所を必要とせず、小回りの利く走行が可能である。この吸着盤1を用いて壁面wとその内部を検査し、又は壁面wで補修作業などを安全に実施することができる。
【0044】
なお、本発明は、吸着する吸着盤1の密封性を高めるために密封用スカート15を施した構造にすることで、吸着する吸着盤1の密封性を維持したまま、壁面wに大きな凹凸がある場合に、吸着する吸着盤1の吸引力を安定に維持し、吸着盤1を安全に吸引滑動させることができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。