【実施例】
【0067】
[実施例1]
本発明の概念は、試料からDNAを放出させて固体支持体(例えば、シリカ含有表面)上に捕捉する単一段階溶解緩衝液を使用して、例えばホルムアルデヒド固定パラフィン包埋(FFPE)組織から核酸を容易に濃縮、精製もしくは単離し得るか、または細胞原料(例えば、固定組織)からDNAを放出させるために試料の脱パラフィン処理も、試料の酵素消化も必要とせずに、別の方法で濃縮もしくは単離し得ることである。当業者であれば、本発明の手順が、FFPEではない試料(例えば限定されないが、細菌、酵母、組織など)から核酸を抽出、精製、単離および濃縮するのにも適切であると理解するであろう。
【0068】
抽出に使用した基本的な溶解緩衝液(LB)は、4.7Mグアニジンチオシアネート(GITC)、10%Tween−20および100mMトリス緩衝液(pH7.8)を含有する。70mlの溶解緩衝液を使用し、35mlの95%エタノールを追加して、溶解−エタノール(LB−EtOH)溶液を作製した。40%EDBEのLB−EtOH溶液(LB−EtOH−EDBE)のために、9mlのLB−EtOHを6mlのEDBEと混合することによって、2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)(EDBE、CAS番号929−59−9)を含有するFFPE抽出溶液を作製した。すべての試料について、洗浄1溶液はLB−EtOH溶液である。すべての試料について、洗浄2溶液は70%エタノールおよび水である。溶出液は水である。このプロトコールで使用したシリカコーティング磁性微粒子(MMP)は、Abbott Laboratories mMicroparticlesDNA商品コードMD205Aであるが、同等の粒子が市販されている(例えば、Promega Corp.,Madison,WI;Life Technologies,Grand Isle,NY;Bangs Laboratories,Fishers,IN)。
【0069】
Promega Maxwell抽出器を使用して、試料の抽出を行った。この方法は、抽出プロトコールで使用した様々な溶液を含有するカートリッジ内のチャンバー間で磁性粒子を移動させる。抽出プロトコールは、磁性粒子をあるチャンバーから別のチャンバーに移動させることを含む。磁気ロッドを挿入したプランジャの表面上に、チャンバー内の磁性粒子を捕捉することによって、移動を行う。次いで、プランジャを異なるチャンバーに移動させ、プランジャの外側の磁気ロッドを動かすことによって、プランジャの表面から粒子を放出させる。流体の上下運動によってチャンバー内の流体を混合するために、磁気ロッドを含まないプランジャを使用し得る。FFPE抽出に使用したプロトコールでは、溶解物および粒子のインキュベーションならびに洗浄を室温で実施した。70℃に加熱した別個の溶出チューブ中で、溶出工程を実施した。抽出カートリッジは、7つのチャンバーを有していた。第1のチャンバーをFFPE溶解物溶液に使用し、他のチャンバーを磁性粒子または洗浄溶液の保持に使用した。チャンバー2は、200マイクロリットル(μl)のLB−EtOHおよび25マイクロリットルのMMPを含有していた。チャンバー3は、800マイクロリットルの洗浄1を含有していた。チャンバー4、5および6は、900マイクロリットルの洗浄2を含有していた。チャンバー7は空であった。溶出チューブは、100マイクロリットルの水を含有していた。このプロトコールでは、最初に、チャンバー2から、FFPE溶解物溶液を含有するチャンバー1にMMPを移動させた。FFPE溶解物溶液を磁性粒子と10分間混合した。すべての洗浄工程において、1分間混合した。溶出工程では、混合しながら10分間インキュベートした。
【0070】
試料材料は、FFPE甲状腺組織ブロックを5ミクロン切片に切片化したものから構成されており、切片を含有する1個のパラフィンを2mlスナップキャップポリプロピレンマイクロ遠心チューブに入れた。チューブにおいて、切片を順番に番号付けした。
【0071】
連続切片を以下のように抽出した。すべての他の切片が同じ溶解緩衝液を含有するように、1.5mlのLB−EtOHまたは1.5mlのLB−EtOH−EDBEのいずれかを各切片に追加した。奇数番号の試料はLB−EtOHを含有し、偶数番号の試料はLB−EtOH−EDBEを含有していた。このようにして、パラフィン切片の差異を最小限にした。次いで、定常温度制御された加熱ブロックにおいて、すべての試料を混合せずに78℃で4時間インキュベートした。加熱工程が完了した後、溶解物をPromega Maxwell抽出カートリッジのチャンバー1に直接追加し、上記のように抽出した。
【0072】
ヒトゲノムDNA用のPCRアッセイを使用して、抽出からの溶出液を分析した。PCRは当業者に周知である。このアッセイは、BRAF遺伝子のエクソン13の存在を検出する。B−Rafと称される、この遺伝子は、細胞増殖の指令に関与するタンパク質をコードする。PCRアッセイを使用して、試料から単離したDNAの相対量を測定した。このアッセイでは、蛍光プローブによって生成されるシグナルは、PCR増幅における各加熱冷却サイクルと共に増加する。元の試料におけるDNAが多いほど、シグナルがより早く検出される。シグナルが検出されるサイクルは、サイクル閾値(CT)と称される。別の試料の2倍量のゲノムDNAを有する試料は、他の試料よりも1CT低いCT値を有するであろう。別の試料の4倍量のDNAを有する試料は、他の試料よりも2CT低いCT値を有するであろう。この方法を使用して、抽出物のCT値を決定した。各試料について、2回反復アッセイを行った。アッセイの増幅曲線を
図1に示す。
図1は、LB−EtOH溶解緩衝液およびLB−EtOH−EDBE溶解緩衝液で抽出した試料間の明確な差異を示している。サイクル閾値の計算は、この2つの溶解緩衝液間において2CT超の差異があることを示しているが、これは、EDBE含有溶解緩衝液で抽出したDNAの量が4倍超増加しているということである。
図2は、
図1に示されているデータに関する一元ANOVA試験の平均を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例2]
第2の溶媒1,3−ジアミノプロパン(diaminoproane)を使用して、本発明の概念をさらに調査した。上記のように抽出を実施したが、2つの反復試験試料のみを各溶解緩衝液について行った。第1の溶解緩衝液はLB−EtOH緩衝液であり、第2の溶解緩衝液は、20%1,3−ジアミノプロパン(DP、CAS番号109−76−2)を含有するLB−EtOHであった。FFPE切片は、上記で使用したのと同じ組織試料由来のものであった。インキュベーション、抽出およびアッセイ条件は、上記と同じであった。アッセイの増幅曲線を
図3に示す。
図3は、LB−EtOH溶解緩衝液およびLB−EtOH−ジアミノプロパン溶解緩衝液で抽出した試料間の明確な差異を示している。サイクル閾値の計算は、この2つの溶解緩衝液間において2CT超の差異があることを示しているが、これは、1,3−ジアミノプロパン含有溶解緩衝液で抽出したDNAの量が4倍超増加しているということである。
図4は、
図3に示されているデータに関する一元ANOVA試験の平均を示す。
【0075】
【表2】
【0076】
[実施例3]
上記で使用した溶媒に存在するアミン基がFFPE試料からのDNA抽出に影響を与えるかを決定するために、水酸化アンモニウムの溶解緩衝液への追加を使用して、本発明をさらに調査した。上記のように抽出を実施したが、試験した第2の溶解緩衝液は、約0.6%水酸化アンモニウム(NH
4OH)を含有していた。200マイクロリットルの濃水酸化アンモニウム(28から30%)を10mlのLB−EtOHに追加することによって、これを作製した。上記と同じ試料材料を含有する5つの反復試験試料を、各抽出緩衝液と共に使用した。上記のようにBRAFアッセイを用いて、溶出液を2回反復でアッセイした。アッセイの増幅曲線を
図5に示す。
図5は、LB−EtOH溶解緩衝液およびLB−EtOH−NH
4OH緩衝液で抽出した試料間の差異を示している。サイクル閾値の計算は、この2つの溶解緩衝液間において1.4CT超の差異があることを示しているが、これは、NH
4OH含有溶解緩衝液で抽出したDNAの量が2倍超増加しているということである。
図6は、
図5に示されているデータに関する一元ANOVA試験の平均を示す。NH
4OH含有溶解緩衝液で抽出したDNAの増加は、他の2つの溶媒で抽出したものほど大きくないと思われるが、アンモニウムイオンまたはアミン基の存在が、FFPE試料からのDNA抽出に重要であることを示している。
【0077】
【表3】
【0078】
[実施例4]
全血からのカンジダ・アルビカンス(C.albicans)の抽出例。
【0079】
全血からの酵母由来核酸の抽出について、本発明をさらに調査した。この方法を、全血からの標準的な酵母抽出方法(これは、ビーズビーティングを使用して酵母を溶解する。)と比較した。
【0080】
使用した試料は、ヒト全血1ミリリットル当たり200コロニー形成単位のカンジダ・アルビカンス(C.albicans)であった。抽出に使用した溶解緩衝液および他の試薬は、実施例1に記載されているものである。LB−EtOH−EDBE溶液は20%EDBEを含有しており、15mlのEDBEを60mlのLB−EtOHと混合することによって作製した。
【0081】
1.25mlの試料を3.75のLB−EtOH−EDBEに追加し、80℃で45分間、60分間、75分間および90分間インキュベートすることによって、EDBE抽出を実施した。すべてのインキュベーションが同時に終了するように、抽出を時間差で開始した。各条件について4つの試料を処理した。また、4つの試料をLB−EtOH(EDBEを追加せず)と共に90分間インキュベートした。
【0082】
Abbott PlexlDBB(90秒間のビーズビーティングサイクルを3回、スピードを6200に設定)を使用して、試料のビーズビーティングを行った。各試料は、1.25mlの試料、150マイクロリットルの溶解緩衝液(エタノールを含まず)および約950ミリグラムのZirconia/Yttrium Beads Glenn Mills(Clifton,NJ)#7361−00010を含有していた。ビーズビーティングの後、Beckman 22R遠心分離機において、チューブを14,000rpmで3分間遠心分離した。次いで、EDBE処理溶解物と一緒に、全上清量を抽出した。
【0083】
PlexlDsp抽出器を使用して、溶解物をシリカコーティング磁性粒子と共に室温でインキュベートするプロトコールによって、抽出を実施した。抽出器は24ウェルプレートを使用し、各プレートは別個の抽出用試薬を含有する。試薬は、実施例1に記載されているものである。ウェル中で、125マイクロリットルの磁性粒子を用いて、結合工程を室温で15分間行った。ビーズビーティング溶解物を含有するウェルは、125マイクロリットルの磁性粒子+1.5mlのLB−EtOHを含有していたが、EDBE溶解物は磁性粒子のみを有しており、さらなる試薬はなかった。このプロトコールでは、2mlのLB−EtOHを含む1つの洗浄1プレートと、2mlの70%エタノールを含む3つの洗浄2プレートとを使用した。溶出プレートは、300マイクロリットルの溶出用の水を含有していた。溶出工程を70℃で10分間行った。
【0084】
Nanodrop Lite(Thermo Scientific,Wilmington,DE)を使用して、試料のDNA含量を測定した。
図7Aを参照のこと。EDBE処理試料中の核酸は、ビーズビーティングよりも少ない可能性がある。EDBEもビーズビーティングも用いない試料は、収率がより低い。ビーズビーティングプロトコールは大量のタンパク質を溶液から排除するので、ビーズビーティング工程を用いると、核酸抽出がより効率的であると思われる。EDBE試料を用いると、A260/A280比がより高い。
図7Bを参照のこと。
【0085】
アッセイの溶出液。上記のようにアッセイを設定する。
【0086】
【表4】
【0087】
Taqman緩衝液は、Applied Biosystems(Life Technologies,Grand Island,NY)Universal PCR Master Mix,part#4324018である。IPCミックス(#408332)およびIPCテンプレート(#4304662)は、Applied Biosystemsの外因性内部陽性対照である。サイクラーAM01789で核酸を増幅するのに使用したプログラムibisQPCR(ngul)LDAは、B132である。増幅産物をMultianalyse4にロードする。
図8Aは、
図8BからFからの結果をまとめたものである。
図8Bは、ビーズビーティングおよび90分間(EDBEなし)の結果を示す。
図8Cは、ビーズビーティング、45分間(EDBEあり)および90分間(EDBEなし)の結果を示す。
図8Dは、ビーズビーティング、60分間(EDBEあり)および90分間(EDBEなし)の結果を示す。
図8Eは、ビーズビーティング、75分間(EDBEあり)および90分間(EDBEなし)の結果を示す。
図8Fは、ビーズビーティング、90分間(EDBEあり)および90分間(EDBEなし)の結果を示す。
【0088】
図9は、核酸増幅後のCtの結果を示す。EDBEと共に75分間および90分間インキュベートすることが、ビーズビーティングを組み込んだ従来技術と同様に有効であった。EDBEなしの試料は酵母試料を十分に抽出せず、試料中の酵母DNAは10倍超少なかった。
【0089】
[実施例5]
痰からのマイコバクテリウム・ツベルクロシス(M.tuberculosis)(MTB)のEDBE抽出。
【0090】
痰試料を使用して、LB−EtOH−EDBE溶液がMTBを溶解してMTBから核酸を抽出する能力を試験した。以下のように、重量計測した15mlポリプロピレンチューブに3つの痰試料を分注した。円錐端部を除去した5mlピペットを使用して、痰を移した。チューブ中の痰の容量を計算し、次いで、熱殺MTB培養物を3000cfu/mlで試料に追加した(痰1ml当たり12.3マイクロリットル追加した。)。
【0091】
【表5】
【0092】
標的は、熱殺MTBであった。原液は245,000cfu/mlであり、これを痰1ml当たり3000cfuに希釈した。痰1ml当たり12.3ul。追加した量については、以下を参照のこと。
【0093】
痰容量の3倍のLB−EtOH−20%EDBEを痰試料に追加した。
【0094】
【表6】
【0095】
80℃に設定した加熱ブロックにチューブを入れ、70分間インキュベートした。上記のようにAbbott PlexlDspを使用して、抽出を行った。使用した試薬は上記のものである。試料をインキュベートした後、溶解物を抽出プレートに追加する。最大負荷は5mlであった。
【0096】
【表7】
【0097】
Nanodrop Lite AM03366をB130で使用して、核酸(DNA)含量を測定した。
【0098】
【表8】
【0099】
MTBのDNAについては、PCR試験を使用して、抽出した試料を試験した。
図10Aは、
図10Bから10Eの結果をまとめたものである。
図10Bは、陰性対照および30,000コピー(陽性対照)の結果を示す。
図10Cは、痰試料Aの結果を示す(それぞれ2回の抽出からなる4回反復アッセイ)。高陽性対照試料も示されている。
図10Dは、痰試料Bの結果を示す(それぞれ4回の抽出からなる4回反復アッセイ)。高陽性試料も示されている。
図10Eは、痰試料Cの結果を示す(それぞれ2回の抽出からなる4回反復アッセイ)。高陽性試料も示されている。LB−EtOH−EDBEミックスは痰を可溶化し、一段階でMTBを抽出し得る。
【0100】
[実施例6]
細胞材料からの核酸抽出に適切なアミンモノマーの同定。幾つかのさらなるアミンモノマーが、限定されないが、新鮮材料、固定材料およびFFPE材料を含む細胞原料からの核酸(例えば、DNA、RNAなど)の抽出に適切であると同定した。試験したアミンモノマーは、EDBE溶媒よりも低有害性であり、EDBEと類似の特性を有すると思われたので選択した。全血からの酵母(カンジダ・アルビカンス(C.albicans))およびスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)DNAの抽出において溶媒が機能するかを決定するために、最初のスクリーニングを行った。CASA(カンジダ・アルビカンス(C.albicans)およびスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)試料の混合物;以下を参照のこと)を対照として使用した。EDBEは、FFPE材料から、および列挙されている全血中の標的からDNAを抽出することができた。本実施例では、以下に列挙されている7つのアミンモノマーを試験し、EDBEによる抽出と比較した。
【0101】
【表9】
【0102】
溶解緩衝液(LB:上記を参照のこと)およびエタノールを2:1の比で混合して、ミックス33.3%エタノール(EtOH)を作製した。洗浄1は50%EtOHであった。洗浄2は約74%EtOHであった。試料を200cfu/mlのカンジダ・アルビカンス(C.albicans)またはスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)に希釈した。血液を標的試料に9:1で追加した。陰性希釈液(血漿の組成を模倣するように設計された製剤;Abbott Molecular製品コード#60217;Abbott Park,II;)中、CASA標準を18μl(CASA標準は、100,000cfu/mlのカンジダ・アルビカンス(C.albicans)および100,000cfu/mlのスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を含有する。)で追加した。LB−EtOH対照およびNaOH対照と一緒に、それぞれ3回反復試験した。
【0103】
【表10】
【0104】
第1のラン。1.5mlの上記試薬を含む15個の2mlチューブ(各ミックスについて3回反復)。新鮮な試験試料を作製し、50μlの試料を各チューブに追加した。試料を58℃で4時間インキュベートした。各ウェルに50μlのMMPを含むMaxwell(Promega,Madison WI)において、PCRのためにカセットをセットアップした。溶解後、試料を溶解ウェルにデカントで移し、以下のように処理した:試料を洗浄1で2回洗浄し、洗浄2で2回洗浄した。洗浄したMMPを100μlの溶出液で溶出した。
【0105】
第2のラン。試料を80℃で45分間溶解した。残りは、第1のランと同じであった。
【0106】
溶解および処理後、各試料についてPCRを以下のように実施した。
【0107】
【表11】
【0108】
図22は、それぞれカンジダ・アルビカンス(C.albicans)およびスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)に関する溶媒によるデータの一元分析の結果を示す。
図22は、全血から抽出したカンジダ・アルビカンス(C.albicans)細胞およびスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)細胞から求めたFAM CT値を示す。カンジダ・アルビカンス(C.albicans)およびスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)の両方の原液(CASA試料)と血液試料を混合し、同じ反応で抽出した。カンジダ・アルビカンス(C.albicans)は病原性酵母であり、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)は病原性グラム陽性細菌である。これら2つの生物の細胞壁は構造および内容物が異なるが、これらは両方とも、DNA抽出のために溶解するのが困難であることが公知である。
図22Aは、Abbott溶解緩衝液に追加した様々な溶媒を使用した、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)の抽出に関する結果を示す。様々なアミン溶媒を追加したすべての条件下において、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)のシグナルは、LB−EtOHを使用した場合に見られる結果と比較して改善している(CT値がより低い。)。LB−EtOHは、m2000Sample Preparation SystemDNA抽出キットのAbbott溶解緩衝液に33%エタノールを追加したものである。NaOHを抽出に追加すると、抽出がいくらか改善されると思われるが、アミン溶媒で見られる程ではない。第2のグラフは、上記と同じ条件下で全血から抽出したスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)で得られた結果を示す。この場合もやはり、すべてのアミン溶媒が抽出を改善したが、NaOHの使用もまた、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)で見られたよりも抽出を改善した。これらのグラフは、データの統計分析を右側に有する。接触していない円は、互いに統計的差異があるとみなす。両グラフに見られ得るように、いかなる成分も追加しなかったLB−EtOH抽出は、最も効率が低い(最も高いCt値を有する)方法であり、他の方法と統計学的差異がある。さらなるデータを以下に示す。
【0109】
【表12】
【0110】
【表13】
【0111】
カンジダ・アルビカンス(C.albicans)については、3A1P、A2PおよびDMPが最も良く機能し、LB−EtOH対照よりも約5CTの改善を示した。すべてがEDBEよりもわずかに優れていた。スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)については、AMP、DMPおよびNaOHが良く機能した。さらなる研究により、記載されている試験試料からのDNA抽出に関するDMP、AEE、2A1B、3A1PおよびA2Pの有効性が裏付けられ(データは示さず)、DNA抽出に有効なアミンモノマーに関する本発明の幅広い適用可能性が示された。さらにまた、温度および時間に関する広範囲の条件が本発明で使用するのに適切であることが見出されたが、幾つかの温度および時間はより優れた結果をもたらした(データは示さず)。
【0112】
[実施例7]
FFPE試料の3−アミノ−1−プロパノール(3A1P)抽出。3種類の試料を試験した。CRC(結腸直腸癌)、黒色腫および肺組織。Qiagen(Valencia,CA)およびPromega(Madison,WI)から入手可能な当技術分野で公知のFFPE抽出システムと試料を比較した。パラフィンブロックの試料切片(厚さ5ミクロン、ガラススライド上にマウントせず)を連続して切り取り、断面のばらつきを抑えるために、試料の3つに1つを同じ抽出条件で試験した。本発明の方法(3A1P抽出)に関するこの実験の溶解条件は、以下の通りである。溶解条件:60%溶解緩衝液(LB);20%EtOHおよび20%3A1P、総量1.5ml。インキュベーションを78℃および94℃で30分間から4時間の期間にわたって試験した。溶解インキュベーションの後、MMP(25μl)を試料に追加した。捕捉時間は、室温(RT)で10分間であった。MMPを0.5mlのLBおよび33%EtOHで2分間にわたって室温(RT)で1回洗浄し、続いて、70%EtOHで2分間にわたってそれぞれ室温(RT)で2回洗浄した。試料を5分間乾燥し、100μlのDI水で10分間にわたって70℃で溶出した。QiagenおよびPromegaのプロトコールで処理した試料を製造業者の指示に従って処理した。PCRをBRAF−Eの検出に使用した。BRAF−Eアッセイは、FAMを有する遺伝子およびCYC5を有する正常遺伝子における変異を検出する。Ct値(当業者に公知であるように、これは、PCR反応における標的の濃度の相対的指標である。)を決定した。CRC試料のCtデータを
図11に示し、ΔCt(dCt:対照と試験試料との間のCt値の変化)を
図12に示す。dCtについては、13未満の値は、試験腫瘍マーカーについて陽性であるとみなす。データから分かるように、本発明のアミン抽出法は、従来技術のQiagenおよびPromegaの方法よりも優秀ではないにしても、少なくとも同程度に優れているが、必要な操作工程はより少なく、処理時間はより速い。より詳細には、2つのシグナルのサイクル閾値(CT値)を
図11に示す。サイクル閾値は、シグナルがバックグラウンドよりも有意に高いPCR反応のサイクル数を指す。アッセイにおける標的の量が多いほど、より少ないサイクル数でシグナルが生成され得るので、より小さい数字は標的の量がより多いことを示す。この図は、結腸直腸癌組織由来のFFPE材料の2つの別個のブロック(C9およびC13)からの結果を示す。これらのブロックから連続切片を作製し、これらの番号によって表される別個の切片を3つの異なる方法で抽出した。FAMシグナルは青色の棒であり、CY5シグナルは赤色の棒である。Qiagen処理切片からのシグナルは、淡青色および淡赤色の棒によって表されており、Qiaと表示されている。Promega処理切片からのシグナルは、濃青色および濃赤色の棒によって表されており、CSCと表示されている。これらの方法は両方とも、FFPE組織からDNAを単離するのにプロテアーゼ消化を使用する。Abbottアミン溶媒システムからのシグナルは、明青色および明赤色の棒によって表されている。グラフから分かるように、Abbott抽出からのシグナルは、他の2つの方法で得られたものと同程度である。
図12は、
図11におけるFAMシグナルとCY5シグナルとの間の差異を示す。このdCT値は、抽出した組織が癌性であるか否かの決定を助けるのに使用される。13未満の差異は、試料における変異遺伝子の量が比較的多く(より低いCT値)、試料が癌性であり得ることを示す。それぞれQiagen、PromegaおよびAbbottの方法について、3つの異なる方法は、淡緑色、濃緑色および明緑色の棒によって示されている。C9試料およびC13試料の両方において、Abbottの方法は、他の2つの方法と同程度のdCT値をもたらす。
【0113】
図13および
図14では、肺腫瘍FFPE組織について、サイクル閾値(CT値)およびdCT値が示されている。この図は、肺腫瘍組織由来のFFPE材料の2つの別個のブロック(L1およびL4)の結果を示す。やはり、これらのブロックから連続切片を作製し、これらの番号によって表される別個の切片を3つの異なる方法で抽出した。FAMシグナルは青色の棒であり、CY5シグナルは赤色の棒である。Qiagen処理切片からのシグナルは、淡青色および淡赤色の棒によって表されており、Qiaと表示されている。Promega処理切片からのシグナルは、濃青色および濃赤色の棒によって表されており、CSCと表示されている。これらの方法は両方とも、FFPE組織からDNAを単離するのにプロテアーゼ消化を使用する。Abbottアミン溶媒システムからのシグナルは、明青色および明赤色の棒によって表されている。グラフから分かるように、Abbott抽出からのシグナルは、Promegaシステムで得られたものおよびQiagenの方法で処理した試料の一方(L1)と同程度である。しかしながら、Qiagenの方法で処理したL4試料は、Promegaの方法またはAbbottの方法のようにはDNAを単離されなかった。
図14は、
図13におけるFAMシグナルとCY5シグナルとの間の差異を示す。それぞれQiagen、PromegaおよびAbbottの方法について、3つの異なる方法は、淡緑色、濃緑色および明緑色の棒によって示されている。両方のL1試料において、Abbottの方法は、他の2つの方法と同程度のdCT値をもたらすが、L4試料は、Qiagenの方法のようには抽出されないように思われた。
【0114】
黒色腫試料については、抽出プロトコール実験を2回反復で行った。抽出および処理の条件は、上記の通りであった。
図15はCtデータを示し、
図16はdCTデータを示す。
図15では、2つのシグナルのサイクル閾値(CT値)が示されている。サイクル閾値は、シグナルがバックグラウンドよりも有意に高いPCR反応のサイクル数を指す。アッセイにおける標的の量が多いほど、より少ないサイクル数でシグナルが生成され得るので、より小さい数字は標的の量がより多いことを示す。この図は、黒色腫組織由来のFFPE材料の2つの別個のブロック(M11およびM14)からの結果を示す。これらのブロックから連続切片を作製し、これらの番号によって表される別個の切片を3つの異なる方法で抽出した。FAMシグナルは青色の棒であり、CY5シグナルは赤色の棒である。Qiagen処理切片からのシグナルは、淡青色および淡赤色の棒によって表されており、Qiaと表示されている。Promega処理切片からのシグナルは、濃青色および濃赤色の棒によって表されており、CSCと表示されている。これらの方法は両方とも、FFPE組織からDNAを単離するのにプロテアーゼ消化を使用する。Abbottアミン溶媒システムからのシグナルは、明青色および明赤色の棒によって表されている。グラフから分かるように、Abbott抽出からのシグナルは、他の2つの方法で得られたものと同程度である。
図16は、
図15におけるFAMシグナルとCY5シグナルとの間の差異を示す。このdCT値は、抽出した組織が癌性であるか否かの決定を助けるのに使用される。13未満の差異は、試料における変異遺伝子の量が比較的多く(より低いCT値)、試料が癌性であり得ることを示す。それぞれQiagen、PromegaおよびAbbottの方法について、3つの異なる方法は、淡緑色、濃緑色および明緑色の棒によって示されている。M11試料では、Abbottの方法は、他の2つの方法よりも優れたdCT値(より低いdCT)をもたらすと思われる。M14試料は、一部の組織切片が高いdCT値を有する増加パターンを示すが、切片がさらに試料内部に向かうにつれて、これは低下する。これは、一部の組織ブロック切片が腫瘍細胞を含有しない可能性があり、複数の切片を試験する必要があることを示している。複数の切片からDNAを単離する能力については、以下で説明する。
【0115】
これら3つの実験は、本発明のアミン溶媒抽出法が、QiagenおよびPromegaのプロトコールと少なくとも同程度の性能であるが、必要な操作工程はより少なく、処理時間はより速いことを示している。
【0116】
[実施例8]
本発明の組成物および方法の多用途性は、従来技術の手順を超える改善を提供する。例えば、スライドにマウントされた検体の場合、従来技術の手順では、ガラススライドから試料を剥離する必要がある。この工程は、操作者のミスの影響を受ける。必要な剥離には時間がかかり、鋭利器具を使用し、二次混入の可能性が高い。本発明の組成物および方法は、スライドから試料を剥離することなく、スライドからDNAを直接抽出することを可能にする。さらに、切片のばらつきに起因するアッセイのばらつき(即ち、試料切片間のばらつきに起因する「ヒットまたはミス」)の可能性を軽減するために、または低レベルの標的の検出を助けるために、複数のスライドを一緒に処理することができる。複数のスライドを保持するために設計された受け入れ容器(RV)において、スライドを処理することができる。試料中のDNAは、ガラススライドよりも大きいMMP親和性を有する(これは、異なる種類のガラスおよび/または過剰に追加したMMPの結果であり得る。)。
図17は、B型肝炎ウイルス対照に関する本発明の組成物および方法による処理の結果のグラフを示し、
図18は、溶解インキュベーション手順中にMMPを追加した同じ手順を示す。プロトコールのこの時点でMMPを追加すると、DNAがMMP上に捕捉される。乳房FFPEスライドに対して行った実験は、この手順の有効性を証明している。LB−EtOH−3A1PまたはLB−3A1Pのいずれかで試料を抽出し、インキュベーション後にEtOHを追加した。また、MMPの有無の下で試料をインキュベートした。各条件について、インキュベーションを90℃で2時間および20分間行った。
図19は、EtOHの有無の下で溶解インキュベーション中にMMPを追加すると、dRn値によって示されているように、DNAがMMPに結合したことを示している。dRnは、標準化応答の差を表しており、Multianalyze4(Abbott Molecular in−house software program,Abbott Park,II。当業者に公知であるように、また、www.gene−quantification.de/hkg.htmlなどのウェブサイトにおける教示によって明らかであるように、他の適切なプログラムは市販されている。)と称されるプログラムを使用してベースラインを設定した後の、PCR反応からの蛍光シグナルの値である。CT値は、dRnが、このdRnの特定の閾値と交差する地点から生成される。
【0117】
[実施例9]
本実施例では、複数のスライドを同時に処理した。同じ反応容器中で、1から4つのスライドを処理した。4つ未満のスライドを処理した条件では、空のスライドをプレースホルダーとして使用した。複数のスライドの同時処理は、低コピー数の標的を検出するのに役立ち得る。
図20は、1から4つのスライドを同時に処理した結果を示す。処理スライドの各増加と共に、検出が改善された。乳房組織FFPEおよびPathVysion−Aプローブチェックノーマルスライド(Abbott Laboratories,Abbott Park,II)の両方を試験した。
図21は、データの一元ANOVA分析を示す。
【0118】
より詳細には、
図20は、FFPE材料を含有する1から4つのスライドを同じ反応容器中で抽出した場合に得られた増幅曲線の図である。2つの異なるスライドセットを使用した。一方のセットは、パラフィンを依然として含有する乳房組織FFPEスライドから構成されていた。他方のセットは、FISH法を使用して試験し、FISH処理中にパラフィンを除去したPathVyson−Aプローブチェックノーマルスライド(FFPE処理細胞)を含有していた。
図21は、2つのグラフを有する。第1のグラフは、両抽出セットのCY5 CT値を示す。B1、B2、B3およびB4は、それぞれ1つ、2つ、3つおよび4つの乳房組織スライドを含有していた。スライドの各増加と共に減少するCT値は、スライドの数が多い増幅反応ほど、より多くのDNAが存在していたことを示している。スライドが3つになった後はこのレベルが減少していないが、これは、この時点で最大レベルの材料が抽出されたことを示している可能性がある。MR値は最大比を表し、増幅反応の振幅を示す。MR値が高いほど、増幅反応がよりロバストであることを示す。乳房組織試料では、スライドが4つの場合にMR値が減少するが、これは、この組織のスライドが3つの場合に最大レベルの材料が抽出されたこと、またはパラフィンレベルの増加が問題であり得ることを示している可能性がある。FISH処理スライドからの材料(PV1からPV4)も、スライドの数が多いほどCT値が減少し、従ってこの反応でより多くのDNAが存在していたことを示している。CT値は、第4のスライドに至るまで減少し続けている。MR値は、スライドの増加と共に減少していない。このスライドセットはパラフィンを有していないことが、このデータに反映されている可能性がある。
【0119】
[実施例10]
本実施例では、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)分析のために事前に処理したスライドを、本発明の組成物および方法で処理する。結果は、FISH分析のために事前に処理したスライドから核酸が抽出されること、および単離されたDNAが、FISH処理スライドからの抽出後におけるさらなる分析に適切であることを示している。
【0120】
[実施例11]
マイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis)(MTB)からの核酸抽出。3A1P溶解組成物による溶解は、痰を溶解し、MTBから核酸を抽出するであろう。さらに、この組成物は、標的MTBを不活性化するのに使用され得る。理論によって本発明を限定するものではないが、本発明の3A1P溶解組成物の高pHは、標的MTBの不活性化に関与し得ると考えられる。