(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6325878
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】平板状銀ナノ粒子の製造方法および平板状銀ナノ粒子含有組成物
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20180507BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20180507BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20180507BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20180507BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/00 K
H01B13/00 501Z
H01B1/22 A
H01B1/00 H
H01B1/00 J
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-88167(P2014-88167)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-206088(P2015-206088A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】スリヤマス アデイ バグス
(72)【発明者】
【氏名】ジー エム アニルクマル
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 圭太
【審査官】
坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−252213(JP,A)
【文献】
特開2011−253094(JP,A)
【文献】
特開2005−285673(JP,A)
【文献】
特開2005−105376(JP,A)
【文献】
特開2004−307900(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0122281(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/147945(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0136223(US,A1)
【文献】
特開2003−268423(JP,A)
【文献】
Phumlane Selby Mdluli, Neerish Revaprasadu,An improved N,N-dimethylformamide and polyvinyl pyrrolidone approach for the synthesis of long silver nanowires,Jounal of Alloys and Compounds,2009年 2月 5日,Vol.469,P.519-522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
B22F 9/00− 9/30
H01B 1/00− 1/24
C09D 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状銀ナノ粒子を含有する組成物の製造方法であって、
前記組成物は、球状の銀ナノ粒子をさらに含有し、
前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の含有量が30個数%以上であり、
ここで、下記一般式(1)で表される化合物Aを少なくとも含む水溶液中で銀イオンを還元すること
を含み、
前記水溶液中における前記化合物Aと水との体積比が1:30〜1:500の範囲内である、平板状銀ナノ粒子
含有組成物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1,R
2は、それぞれ独立に、水素原子および炭素原子数4以下のアルキル基からなる群から選択される。前記アルキル基は置換基を有するものを包含する。)
【請求項2】
前記水溶液は、前記化合物Aとして、ホルムアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジエチルホルムアミドおよびN,N‐ジプロピルホルムアミドからなる群から選択された少なくとも一種を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
平板状銀ナノ粒子を含有する組成物であって、
球状の銀ナノ粒子をさらに含有し、
前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の含有量が30個数%以上であり、
前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の平均粒子径が100nm〜2000nmであり、かつ、平均アスペクト比が5〜30である、平板状銀ナノ粒子含有組成物。
【請求項4】
前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の平均粒子径が500nm〜2000nmであり、かつ、平均アスペクト比が15〜30である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の平均厚みが20nm〜100nmである、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中における球状銀ナノ粒子の平均粒子径が30nm〜300nmである、請求項3〜5の何れか一つに記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の含有量が90個数%以上である、請求項3〜6の何れか一つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状銀ナノ粒子の製造方法および平板状銀ナノ粒子含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や太陽電池等の電極には、導体として銀ナノ粒子が用いられている。かかる電極では、銀ナノ粒子同士が接触することにより導通がとられている。また、更なる導電性向上を図るべく接触面積を大きくとりやすい平板(プレート)状の銀ナノ粒子を用いることが試みられている。この種の平板状銀ナノ粒子に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。特許文献1には、粒子径が20nm〜140nmであり、アスペクト比が1〜4.5である平板状銀ナノ粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−144188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子部品等の電極について、より高い導電性が要求されるようになってきている。このため、より粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子が求められている。また、電子部品等の高性能化・小型化に伴って、電極のファインライン化(細線化)が要求されるようになっている。ファインライン化を達成するためには、薄厚でアスペクト比が大きい平板状銀ナノ粒子を用いることが有利である。
【0005】
そこで本発明は、高アスペクト比で、かつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子を製造する方法を提供することを目的とする。また、そのような平板状銀ナノ粒子を含有する組成物を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の化合物を含む水溶液中で銀イオンを還元することにより、高アスペクト比でかつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、この明細書によると、平板状銀ナノ粒子の製造方法が提供される。この製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物Aを少なくとも含む水溶液中で銀イオンを還元することを特徴とする。
【0008】
【化1】
ここで式中、R
1,R
2は、それぞれ独立に、水素原子および炭素原子数4以下のアルキル基からなる群から選択される。前記アルキル基は置換基を有するものを包含する。
【0009】
このように窒素原子上に水素原子もしくはアルキル基を有するホルムアミド化合物を含む水溶液中で銀イオンを還元することにより、高アスペクト比でかつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子を形成することができる。
【0010】
上記一般式(1)で表される化合物Aの好適例として、ホルムアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジエチルホルムアミドおよびN,N‐ジプロピルホルムアミドからなる群から選択された少なくとも一種の化合物が挙げられる。このような構造の化合物Aによると、平板状銀ナノ粒子の粒子径を大きくする効果がよりよく発揮され得る。
【0011】
ここに開示される平板状銀ナノ粒子の製造方法の好ましい一態様では、前記水溶液中における前記化合物Aと水との体積比が1:30〜1:20000の範囲内である。このような化合物Aと水との体積比の範囲内であると、高アスペクト比でかつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子をさらに形成し易い。好ましい一態様では、前記水溶液中における前記化合物Aと水との体積比が1:30〜1:500の範囲内である。かかる構成によると、平板状銀ナノ粒子の粒子径およびアスペクト比をさらに増大し得る。
【0012】
また、本発明は、他の側面として平板状銀ナノ粒子を含有する組成物を提供する。この平板状銀ナノ粒子含有組成物は、該組成物中における平板状銀ナノ粒子の平均粒子径が100nm〜2000nmであり、かつ、平均アスペクト比が5〜30である。
【0013】
なお、この明細書中において、平板状銀ナノ粒子とは、2つの主面(該粒子における最も広い面)を有する平板状の銀ナノ粒子であり、例えば主面が略三角形状、略矩形状、略五角形状、略六角形状、略七角形状または略八角形状であり得る。かかる平板状銀ナノ粒子についての「平均粒子径」とは、前記組成物に含まれる複数個の平板状粒子の主面における対向する二辺間の最小距離(主面が奇数多角形状の場合は一の頂点と該一の頂点に対向する一辺との最小距離)の平均値をいう。また、平板状銀ナノ粒子についての「平均厚み」とは、前記組成物に含まれる複数個の平板状粒子の厚み(2つの主面間の最小距離であって平板状粒子を横から見たときの厚み;
図5参照)の平均値をいう。また、平板状銀ナノ粒子についての「平均アスペクト比」とは、前記組成物に含まれる複数個の平板状粒子の粒子径/厚みの平均値をいう。すなわち、ここでいう平均粒子径、平均厚みおよび平均アスペクト比は、上記平板状銀ナノ粒子の平均的な粒子形状を示す値である。具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記組成物に含まれる所定個数(例えばランダムに抽出された少なくとも100個(好ましくは200〜300個)の平板状粒子を観察し、各々の平板状粒子の粒子径および厚みを求める。また、各々の平板状粒子の粒子径を厚みで除した値を各平板状粒子の粒子径/厚み比(アスペクト比)として算出する。そして、上記所定個数の平板状粒子の粒子径、厚みおよびアスペクト比を算術平均することにより、平均粒子径、平均厚みおよび平均アスペクト比を求めることができる。
【0014】
ここで開示される平板状銀ナノ粒子含有組成物の好適な一態様では、該組成物中における平板状銀ナノ粒子の平均粒子径が100nm〜2000nm(好ましくは500nm〜2000nm)と大きく、かつ、平均アスペクト比が5〜30(好ましくは15〜30)と従来に比して大きい。このような高アスペクト比でかつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子は、電極中において好適な導電ネットワークを形成し得、また電極のファインライン化を容易に実現し得る。そのため、様々な分野における電極や回路に好適に使用することができる。
【0015】
ここで開示される平板状銀ナノ粒子含有組成物の好適な一態様では、前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の平均厚みが20nm〜100nmである。このような薄厚の平板状銀ナノ粒子は、電極のファインライン化に寄与し得る。
【0016】
ここで開示される好ましい一態様では、前記組成物は、球状の銀ナノ粒子をさらに含有する。球状銀ナノ粒子と平板状銀ナノ粒子とを組み合わせて用いることにより、電極中においてより好適な導電ネットワークを形成し得る。また、電極の更なるファインライン化を実現し得る。
【0017】
ここで開示される好ましい一態様では、前記組成物中における球状銀ナノ粒子の平均粒子径が30nm〜300nmである。このような球状銀ナノ粒子によると、前述した効果がより良く発揮され得る。
【0018】
ここで開示される好ましい一態様では、前記組成物中における平板状銀ナノ粒子の含有量が30個数%以上(好ましくは50個数%以上、より好ましくは90個数%以上)である。このような平板状銀ナノ粒子の含有量の範囲内であると、前述した効果がより良く発揮され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】例1に係る銀ナノ粒子のFE−SEM像である。
【
図2】例2に係る銀ナノ粒子のFE−SEM像である。
【
図3】例3に係る銀ナノ粒子のFE−SEM像である。
【
図4】例4に係る銀ナノ粒子のFE−SEM像である。
【
図5】例4に係る銀ナノ粒子のFE−SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、出発原料の作製方法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0021】
ここで開示される平板状銀ナノ粒子の製造方法(以下、適宜「製造方法」と称する。)について説明する。ここで開示される製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物Aを少なくとも含む水溶液中で銀イオンを還元することを特徴とする。
【0022】
<化合物A>
【化2】
ここで式中、R
1,R
2は、それぞれ独立に、水素原子および炭素原子数4以下のアルキル基からなる群から選択される。
【0023】
上記化合物Aにおいて、窒素原子上の置換基R
1,R
2は、水素原子もしくは炭素原子数1〜4(好ましくは1〜3、典型的には1または2)のアルキル基であり得る。アルキル基は直鎖状でもよく分岐状でもよい。また、R
1,R
2は同じであってもよく異なっていてもよい。炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。なお、ここでいうプロピル基とは、n−プロピル基およびイソプロピル基を包含する概念である。またブチル基とは、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基を包含する概念である。また、ここでいうアルキル基とは、置換基を有していないアルキル基のほか、1または複数個の水素原子が置換基(例えばハロゲン基、ヒドロキシ基等)で置換されたアルキル基を含み得る。このような化合物Aの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
このような化合物A(典型的には還元剤として機能する。)を含む水溶液で銀イオンを還元することにより、高アスペクト比でかつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子を形成することができる。
【0025】
上記化合物Aの好適例としては、R
1,R
2が同一のアルキル基であるものが挙げられる。例えば、R
1,R
2が炭素原子数1〜4(好ましくは1〜3、典型的には1または2)の同一のアルキル基であるものが好ましい。そのような化合物Aの具体例として、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジエチルホルムアミド、N,N‐ジプロピルホルムアミド、N,N‐ジブチルホルムアミド;等が挙げられる。なかでも、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジエチルホルムアミドの使用が好ましく、特にN,N‐ジメチルホルムアミドの使用が好ましい。
【0026】
上記化合物Aの他の例としては、R
1,R
2がいずれも水素原子であるホルムアミドが挙げられる。
【0027】
上記化合物Aの他の例としては、R
1,R
2が互いに異なるものが挙げられる。例えば、R
1,R
2のうち一方が水素原子であり、他方が炭素原子数1〜4(好ましくは1〜3、典型的には1または2)のアルキル基であるものが好ましい。そのような化合物(A)の具体例として、N‐メチルホルムアミド、N‐エチルホルムアミド、N‐プロピルホルムアミド、N‐ブチルホルムアミド;等が挙げられる。
【0028】
上記化合物Aの他の例としては、R
1,R
2が異なるアルキル基であるものが挙げられる。例えば、R
1,R
2のうち一方が炭素原子数2〜4のアルキル基であり、他方がメチル基であるものが好ましい。そのような化合物Aの具体例として、N,N‐エチルメチルホルムアミド、N,N‐メチルプロピルホルムアミド、N,N‐ブチルメチルホルムアミド;等が挙げられる。
【0029】
特に限定するものではないが、化合物Aの使用量は、上記水溶液中における化合物Aと水との体積比が1:30〜1:20000の範囲内となる量とすることができる。平板状銀ナノ粒子の粒子径およびアスペクト比を増大させる観点からは、化合物Aと水との体積比を1:30〜1:5000とすることが好ましく、1:30〜1:500とすることがより好ましく、1:30〜1:50(例えば1:45)とすることが特に好ましい。このような化合物Aと水との体積比は、平板状銀ナノ粒子の収率の観点からも好ましい。
【0030】
<ポリマー>
ここに開示される平板状銀ナノ粒子の製造方法に用いられる水溶液は、さらに水溶性ポリマーを含有してもよい。かかるポリマーは、例えば、分子中にアミノ基、チオール基、スルフィド基、アミノ酸またはその誘導体、ペプチド結合、複素環構造、ビニル構造等を有するものであり得る。ここに開示されるポリマーの好適例として、例えば窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が例示される。
窒素原子を含有するポリマーとしては、側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーが挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN−ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。例えば、N−ビニルピロリドンの単独重合体(ポリビニルピロリドン(PVP))および共重合体等を採用し得る。
ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルアルコール単位を含むポリマー(PVA)である。PVAにおいて、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位の種類は特に限定されず、例えば酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等から選択される1種または2種以上であり得る。全繰返し単位が実質的にビニルアルコール単位から構成されていてもよい。
ここに開示される水溶液に含有させ得るポリマーの他の例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体や、ポリアルキレンアミン、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル等が挙げられる。
【0031】
上記ポリマーの分子量は、概ね0.5×10
5以上であることが適当であり、好ましくは1×10
5以上であり、より好ましくは1.5×10
5以上であり、さらに好ましくは2×10
5以上である。好ましい一態様において、上記ポリマーの分子量は、2.5×10
5以上であってもよく、例えば3×10
5以上であってもよい。また、上記ポリマーの分子量は、典型的には10×10
5以下であり、好ましくは8×10
5以下であり、より好ましくは5×10
5以下である。なお、ポリマーの分子量としては、GPCにより求められる質量平均分子量(Mw)を採用することができる。
【0032】
上記水溶液におけるポリマーの含有量は特に制限されず、例えば0.01質量%以上とすることができる。好ましい含有量は0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上である。また、上記含有量を1質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0033】
<銀イオン>
ここに開示される平板状銀ナノ粒子の製造方法に用いられる水溶液は、さらに銀イオンを含有する。水溶液中に含ませる銀イオンは、例えば、銀の各種の塩または錯体を溶解させることで好適に水溶液中に含ませることができる。かかる塩としては、例えば、硝酸塩、硫化物、硫酸塩、水酸化物や、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物、さらには、カリウム複合酸化物、アンモニウム複合酸化物、ナトリウム複合酸化物などの複合酸化物などを使用することができる。特に硝酸塩の使用が製造容易化の観点からは好ましい。また、錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを使用することができる。水溶液中に含ませる銀塩もしくは銀錯体の含有量については特に制限されない。かかる銀塩もしくは銀錯体の含有量としては、通常は0.01質量%〜1質量%(好ましくは0.05質量%〜0.5質量%)の範囲内とすることが製造容易化の観点からは好ましい。
【0034】
ここで開示される製造方法では、上述の材料以外に、必要に応じて各種の添加材を副成分として用いてもよい。かかる添加剤としては、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤等が挙げられる。
【0035】
次に、ここで開示される製造方法の各工程について説明する。ここで開示される製造方法では、前述した化合物Aとポリマーと銀塩とを水(典型的には蒸留水または脱イオン水)に添加して水溶液を調製する。化合物Aとポリマーと銀塩とを水に添加する順番としては特に限定されない。好ましくは、水に、化合物A、銀塩、ポリマーの順に添加するとよい。これらの材料を水に添加した後、攪拌装置を用いて、例えば100rpm〜1000rpm(好ましくは300rpm〜600rpm)の回転数で10分〜60分(好ましくは20分〜40分)程度、攪拌するとよい。これにより、化合物Aとポリマーと銀塩とが均一に分散した水溶液が調製され得る。なお、使用する水としては、金属イオンを実質的に含まない水(典型的には蒸留水または脱イオン水)が好適である。金属イオンを実質的に含まない水を用いることにより、効率よく平板状銀ナノ粒子を形成することができる。
【0036】
このようにして化合物Aとポリマーと銀塩とを含む水溶液を調製したら、次いで、水溶液を加熱する。加熱温度としては、水溶液中の銀イオンが反応する温度域であればよく特に限定されない。例えば、加熱温度は、概ね120℃〜180℃程度にすることが適当であり、好ましくは140℃〜160℃である。加熱時間としては、水溶液中の銀イオンが十分に反応する時間であればよく特に限定されない。例えば、加熱時間は、概ね10時間〜50時間程度にすることが適当であり、好ましくは15時間〜25時間である。
【0037】
このように化合物Aを含む水溶液を加熱して銀イオンを還元することにより、平板状銀ナノ粒子を製造することができる。
【0038】
<平板状銀ナノ粒子>
ここに開示される平板状銀ナノ粒子は、化合物Aを含む水溶液中で銀イオンを還元することにより製造されるものである。そのため、得られた平板状銀ナノ粒子は、高アスペクト比で、かつ粒子径が大きいものであり得る。典型的には、平板状銀ナノ粒子の平均粒子径が100nm以上(例えば100nm〜2000nm)であり、好ましくは200nm以上であり、より好ましくは400nm以上であり、さらに好ましくは500nm以上であり、特に好ましくは1000nm以上である。好ましい一態様において、平板状銀ナノ粒子の平均粒子径が1500nm〜2000nmである。また、平板状銀ナノ粒子の平均アスペクト比としては、典型的には5以上(例えば5〜30)であり、好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは20以上であり、特に好ましくは25以上(例えば25〜30)である。
【0039】
ここで開示される平板状銀ナノ粒子の好適例として、平均粒子径が200nm以上であり、かつ平均アスペクト比が5以上であるもの;平均粒子径が400nm以上であり、かつ平均アスペクト比が10以上であるもの;平均粒子径が500nm以上であり、かつ平均アスペクト比が15以上であるもの;平均粒子径が1000nm以上であり、かつ平均アスペクト比が20以上であるもの;平均粒子径が1500nm以上であり、かつ平均アスペクト比が25以上であるもの;等が挙げられる。このような所定範囲内の平均粒子径および平均アスペクト比を両立して有することにより、従来得ることができなかった高性能な電極を構築し得る平板状銀ナノ粒子とすることができる。具体的には、上述のような形状の平板状銀ナノ粒子は、電極中において好適な導電ネットワークを形成し得、また電極のファインライン化を容易に実現し得る。そのため、様々な分野(例えば半導体製品の電子部品や太陽電池など)における電極や回路に好適に使用することができる。
【0040】
ここに開示される平板状銀ナノ粒子の平均厚みとしては、典型的には、100nm以下(例えば20nm〜100nm)であり、好ましくは80nm以下であり、より好ましくは65nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下であり、特に好ましくは30nm以下(例えば20nm〜30nm)である。このような薄厚の平板状銀ナノ粒子は、電極のファインライン化に寄与し得る。
【0041】
ここで開示される製造方法によると、上述した平板状銀ナノ粒子だけでなく、球状の銀ナノ粒子も得られうる。すなわち、ここで開示される製造方法により製造された平板状銀ナノ粒子含有組成物は、上述した平板状銀ナノ粒子のほか、球状銀ナノ粒子を含み得る。
【0042】
上記組成物中における球状銀ナノ粒子の平均粒子径としては、典型的には30nm以上(例えば30nm〜300nm)であり、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは100nm以上であり、さらに好ましくは150nm以上であり、特に好ましくは200nm以上(例えば200nm〜300nm)である。このような平均粒子径の範囲内である球状銀ナノ粒子と、前述した形状の平板状銀ナノ粒子とを組み合わせて用いることにより、電極中においてより好適な導電ネットワークを形成し得る。また、電極の更なるファインライン化を実現し得る。なお、球状銀ナノ粒子の平均粒子径は、平板状銀ナノ粒子と同様の方法により測定するものとする。
【0043】
特に限定されるものではないが、上記組成物中における平板状銀ナノ粒子の含有量としては、概ね2個数%以上(典型的には2個数%〜100個数%、例えば2個数%〜98個数%)であり、好ましくは7個数%以上であり、より好ましくは30個数%以上であり、さらに好ましくは60個数%以上である。好ましい一態様において、上記組成物中における平板状銀ナノ粒子の含有量が90個数%〜98個数%である。このような平板状銀ナノ粒子の含有量の範囲内であると、前述した効果がより良く発揮され得る。
【0044】
次に、本発明に関するいくつかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
<例1>
蒸留水にN,N‐ジメチルホルムアミド(以下「DMF」と表記する。)を混合して水溶液を調製した。この水溶液に硝酸銀(AgNO
3)とPVP(分子量360000;品名K90;和光純薬工業株式会社製)とを、水溶液:硝酸銀:PVPの質量比が900:1:1となるように添加し、攪拌装置を用いて回転数400rpmで30分間攪拌した。その後、水溶液を密閉容器に移し、150℃で20時間加熱することにより銀ナノ粒子を作製した。なお、本例では、DMFと水との体積比は1:18000とした。
【0046】
得られた銀ナノ粒子のFE−SEM(field-emission scanning electron microscope;電界放出形走査電子顕微鏡)像を
図1に示す。
図1に示すように、本例では、平板状銀ナノ粒子と球状銀ナノ粒子との混合物が得られた。得られた平板状銀ナノ粒子の性状(収率、平均粒子径、平均厚み、平均アスペクト比)および球状銀ナノ粒子の性状(収率、平均粒子径)を表1の該当欄に示す。
【0047】
<例2>
DMFと水との体積比を1:4500に変更したこと以外は例1と同じ条件で銀ナノ粒子を作製した。得られた銀ナノ粒子のFE−SEM像を
図2に示す。
図2に示すように、本例では、平板状銀ナノ粒子と球状銀ナノ粒子との混合物が得られた。得られた平板状銀ナノ粒子および球状銀ナノ粒子の性状を表1の該当欄に示す。
【0048】
<例3>
DMFと水との体積比を1:450に変更したこと以外は例1と同じ条件で銀ナノ粒子を作製した。得られた銀ナノ粒子のFE−SEM像を
図3に示す。
図3に示すように、本例では、平板状銀ナノ粒子と球状銀ナノ粒子との混合物が得られた。得られた平板状銀ナノ粒子および球状銀ナノ粒子の性状を表1の該当欄に示す。
【0049】
<例4>
DMFと水との体積比を1:45に変更したこと以外は例1と同じ条件で銀ナノ粒子を作製した。得られた銀ナノ粒子のFE−SEM像を
図4および
図5に示す。
図4および
図5に示すように、本例では、平板状銀ナノ粒子と球状銀ナノ粒子との混合物が得られた。得られた平板状銀ナノ粒子および球状銀ナノ粒子の性状を表1の該当欄に示す。
【0051】
図1〜
図5および表1に示すように、DMFを含む水溶液中で銀イオンを還元した例1〜例4によると、平均粒子径が100nm〜2000nmであり、かつ、平均アスペクト比が5〜30である平板状銀ナノ粒子が得られた。特に、例3および例4の平板状銀ナノ粒子は、平均粒子径が500nm以上と大きく、かつ、平均アスペクト比が18以上と大きい。このような高アスペクト比でかつ粒子径が大きい平板状銀ナノ粒子は、様々な分野における電極や回路に好適に使用することができる。
【0052】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。