【実施例】
【0070】
以下に製造例、試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例、試験例に何ら限定されるものではない。
【0071】
(製造例1)
<構造式(2)で表される化合物の製造>
前記構造式(2)で表される化合物(カプラザマイシンB)は、FERM BP−7218の受託番号で寄託されているストレプトミセス・エスピーMK730−62F2株を用い、国際公開第01/012643号の実施例1と同様にして製造した。
【0072】
−カプラザマイシンBの物理化学的性質−
前記カプラザマイシンBの物理化学的性質は、以下のとおりであり、前記カプラザマイシンBが、下記構造式(2)で表される構造を有することが確認された。
(1) 外観 : 無色粉末
(2) 分子式 : C
53H
87N
5O
22
(3) 高分解能質量分析(HRFABMS:陰イオンモード) :
実験値:1144.5750(M−H)
−
計算値:1144.5764
(4) 比旋光度 : [α]
D23 −2.6°(c 0.91、DMSO)
(5) 紫外線吸収スペクトル(メタノール中) :
メタノール溶液で測定した紫外線吸収のピークは、以下の通りであった。
λ
max nm(ε) :261(8,000)
図1に紫外線吸収スペクトルを示した。
(6) 赤外線吸収スペクトル :
図2にKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルを示した。
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトル :
600MHzにおいて重ジメチルスルホキシド:重水(=10:1)の混合溶媒中で室温にて測定したプロトンNMRスペクトルを
図3に示した。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトル :
150MHzにおいて重ジメチルスルホキシド:重水(=10:1)の混合溶媒中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルを
図4に示した。
(9) 溶解性 :
メタノール、DMSO、水に可溶でありアセトン、酢酸エチルに不溶であった。
(10) TLC :
シリカゲル60F
254(メルク社製)の薄層クロマトグラフィー上でブタノール:メタノール:水(4:1:2)の溶媒で展開したときのRf値は、0.44であった。
【0073】
【化4】
構造式(2)中、「Me」は、メチル基を表す。
【0074】
(製造例2)
<構造式(1)で表される化合物の製造>
前記構造式(1)で表される化合物(CPZEN−45)は、特開2010−83847号公報の実施例1と同様にして、CPZEN−45のトリフルオロ酢酸塩の無色結晶を製造した。
【0075】
−CPZEN−45の物理化学的性質−
前記CPZEN−45のトリフルオロ酢酸塩の物理化学的性質は、以下のとおりであり、前記CPZEN−45が、下記構造式(1)で表される構造を有することが確認された。
(1) 融点 : 175℃−177℃(分解)
(2) 比旋光度 : [α]
D22 +79°(c1,MeOH)
(3) マススペクトル(ESI−MS) :
m/z 801 [M+CF
3COOH−H]
−
(4)
19F−NMRスペクトル(376.5MHz, 重DMSO中、フレオン11内部標準) : δ−73.86 (s, CF
3)
(5) プロトン核磁気共鳴スペクトル(500MHz、重水中、TMS内部標準):
プロトン核磁気共鳴スペクトルを
図5に示した。
(6) 炭素13核磁気共鳴スペクトル(125.8MHz、重水中、TMS内部標準):
炭素13核磁気共鳴スペクトルを
図6に示した
【0076】
【化5】
【0077】
(試験例1:CPZEN−45とカプラザマイシンBの抗菌活性比較)
カプラザマイシンB、及びCPZEN−45の各種の菌に対する抗菌作用について、MICを測定することにより試験した。結果を表1に示した。
<MIC(最小発育阻止濃度)の測定>
−Mycobacteria−
前記Mycobacteriaに対するMICは、寒天希釈法(Agar dilution method)により測定した。具体的には、2倍希釈系列で調製した薬剤を含む培地(グリセロール及びOADC含有の7H10寒天培地)に菌を接種し、37℃で、2日間〜14日間培養し、測定した。
−Mycobacteria以外の微生物−
前記Mycobacteria以外の微生物に対するMICは、寒天希釈法(Agar dilution method)により測定した。具体的には、2倍希釈系列で調製した薬剤を含む培地(ミューラー・ヒントン寒天培地)に菌を接種し、37℃で、18時間培養し、測定した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から、カプラザマイシンBと、CPZEN−45とでは、例えば、Staphylococcus aureus FDA209P株に対する抗菌活性において、違いが観られた。そのため、両者は、抗菌の作用機序が異なることが推測された。
また、CPZEN−45は、WecAのオルソログが生育に必須ではない
Staphylococcus aureus FDA209株、及び
Staph. aureus MRSA No.5株、並びに、WecAのオルソログを有さない
Streptococcus pneumoniae S−223株、及び
Str. pneumoniae CR−2株に対して抗菌活性を示さなかった。
【0080】
(試験例2:
B. subtilis 168株における高分子合成)
CPZEN−45、及びカプラザマイシンBに対して、結核菌と類似した感受性を示す枯草菌の
B. subtilis 168株(ATCCより入手)を用い、以下の各薬剤を含有する薬剤溶液を投与した際の高分子の合成を以下のようにして試験した。
<薬剤>
・ CPZEN−45(製造例2で製造したもの)
・ カプラザマイシンB(製造例1で製造したもの)
・ ツニカマイシン
・ バンコマイシン
・ レボフロキサシン
【0081】
<試験方法>
枯草菌
B. subtilis 168株を、Nutrient broth(NB培地)を用い、温度 37℃、振とう速度 140spmにて対数期(OD600=0.2)まで培養し、菌液を調製した。
96穴プレートに、2倍希釈系列で調製した前記薬剤溶液 0.01mLと、菌液 0.09mLとを加えて混和し、37℃で5分間静置培養した。
前記培養後、下記濃度に調製した放射ラベルした化合物(以下、「放射ラベル化合物」と称することがある)0.01mLを加え、37℃で更に10分間静置培養した。
その後、10% トリクロロ酢酸水溶液を0.1mL加え、菌体の高分子成分を不溶化し、次いで、フィルター付きの96穴プレートに移し、液体成分を濾過した後、5% トリクロロ酢酸水溶液 0.2mLにて、フィルターを3回洗浄した。
乾燥後、フィルター上に残存する放射活性を、液体シンチレーションカウンター(トライカーブ2800TR パーキンエルマー社)で測定し、菌体の高分子合成量を評価した。結果を
図7Aから
図7Eに示した。
−放射ラベル化合物−
・ 0.1μCi/μL N−acetyl−D−[1−
14C]glucosamine(ペプチドグリカン合成の評価に使用、以下、「N−acetyl−D−glucosamine」と称することがある。)
・ 0.01μCi/μL [
14C(U)]glycerol(テイコ酸合成の評価に使用、以下、「Glycerol」と称することがある。)
・ 1μCi/μL [1−
14C]acetate(細胞膜脂肪酸合成の評価に使用、以下、「Acetic acid」と称することがある。)
・ 1μCi/μL [methyl−
3H]thymidine (DNA合成の評価に使用、以下、「Thymidine」と称することがある。)
・ 1μCi/μL [5,6−
3H]uridine (RNA合成の評価に使用、以下、「Uridine」と称することがある。)
・ 5μCi/μL L−[4,5−
3H]leucine (タンパク質合成の評価に使用、以下、「Leucine」と称することがある。)
【0082】
図7Aは、薬剤としてCPZEN−45を用いた場合、
図7Bは、薬剤としてカプラザマイシンBを用いた場合、
図7Cは、薬剤としてツニカマイシンを用いた場合、
図7Dは、薬剤としてバンコマイシンを用いた場合、
図7Eは、薬剤としてレボフロキサシンを用いた場合の結果を示す。なお、
図7A〜
図7E中、「■」は、[methyl−
3H]thymidineの取込量、「◆」は、[5,6−
3H]uridineの取込量、「▲」は、L−[4,5−
3H]leucineの取込量、「×」は、[1−
14C]acetateの取込量、「●」は、N−acetyl−D−[1−
14C]glucosamineの取込量、「+」は、[
14C(U)]glycerolの取込量を示す。
図7Aから、CPZEN−45の存在下では、細胞壁の主要構成成分の1つであるテイコ酸の構成成分であるグリセロールの菌体への取込みが阻害されていることが確認された。これは、
図7Cに示すように、
B. subtilisにおけるTagO(WecAのオルソログ)を阻害することが知られているツニカマイシンと同様の結果であった。
また、
図7Bから、
B. subtilisにおけるMraY(MurXのオルソログ)を阻害するカプラザマイシンBの存在下では、ペプチドグリカンの構成成分であるN−acetyl−D−glucosamineの菌体への取込みが阻害されていることが確認された。これは、
図7Dに示すように、同様の阻害活性を有するバンコマイシンと同様の結果であった。
なお、
図7Eに示すように、DNA合成を阻害するレボフロキサシンは、CPZEN−45、カプラザマイシンB、ツニカマイシン、バンコマイシンとは異なる結果であった。
【0083】
(試験例3−1:薬剤耐性菌の作製、及び遺伝子型の同定)
親株として、枯草菌の
B. subtilis 168株(ATCCより入手)を用い、カプラザマイシンB、又はCPZEN−45に対する耐性を有する耐性菌を以下のようにして作製し、その遺伝子型を確認した。
<耐性菌の作製>
親株として枯草菌
B. subtilis 168株を用いた。
前記
B. subtilis 168株を、MICの1/8倍濃度〜4倍濃度の薬剤(カプラザマイシンB、又はCPZEN−45)を含有するNutrient broth(NB培地)に、終濃度 1%になるように植菌し、37℃、141spmにて24時間静置培養した。
MICの1/4倍濃度の薬剤存在下で生育した菌の培養液を植菌源に用い、再度同条件にて培養を行った。
これを、MICが親株の128倍を超えるまで続け、耐性菌を作製した。
【0084】
−MIC(最小発育阻止濃度)の測定−
前記MICは、マイクロブロス希釈法(microbroth dilution method)により測定した。具体的には、培地としてLB broth(LB培地)を用い、96穴プレートで、薬剤を2倍希釈系列で調製した溶液0.1mLに菌液を0.1mL加え混和し、37℃で16時間培養し、測定した。
なお、薬剤として、ツニカマイシン、及びバンコマイシンについても測定した。結果を表2に示した。
【0085】
−遺伝子型の同定−
前記親株、及び耐性菌のmraY遺伝子、及びtagO遺伝子の遺伝子型を以下のようにして同定した。結果を表2に示した。
前記親株、及び耐性菌のゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法によりmraY遺伝子、及びtagO遺伝子断片を増幅し、アガロースゲル電気泳動により両遺伝子の遺伝子断片を取得した。得られた遺伝子断片の配列は、DNAシークエンサー(ABI3730 アプライドバイオシステム)にて同定した。
mraY遺伝子の増幅に用いたプライマーの配列は、以下のとおりである。
5’末端側:5’−AGGACATGAAACCTATCAGCAG−3’(配列番号9)
3’末端側:5’−TCTCCGCAAACAACTTCGATTC−3’(配列番号10)
tagO遺伝子の増幅に用いたプライマーの配列は、以下のとおりである。
5’末端側:5’−CCGGACACAAGATTGGAATTGC−3’(配列番号11)
3’末端側:5’―AGCAGCACAAGCTCAAACAAC−3’(配列番号12)
【0086】
【表2】
【0087】
表2中、「168」は親株を示し、「CPZB」はカプラザマイシンBを示し、「TUN」はツニカマイシンを示し、「VCM」はバンコマイシンを示し、「WT」は、野生型を示す。
表2から、CPZEN−45耐性株では、TagOをコードする遺伝子であるtagOに変異を有する株が存在することが確認された。そのため、CPZEN−45は、TagOを標的とすることが考えられた。
【0088】
(試験例3−2:標的遺伝子の検討)
mraY遺伝子、又はtagO遺伝子を高発現する株を以下のようにして作製し、該株のMICを測定した。
<mraY遺伝子、又はtagO遺伝子を高発現する株の作製>
市販品のプラスミドpHY300PLK(タカラバイオ社製)、pHT01(独MoBiTec社製)を用い、枯草菌で複製可能なプラスミド「pHYcat」を作製した。前記pHYcatの概要を
図8に示した。
前記プラスミド「pHYcat」は、前記pHY300PLK、及び前記pHT01の両者を制限酵素BanI、及びPvuIIで処理し、その結果得られたpHY300PLKの2,848bpのDNA断片、及びpHT01の2,149bpのDNA断片をライゲーションすることによって得た。
前記「pHYcat」を制限酵素NheIで処理後、緑豆ヌクレアーゼにて末端を平滑化したフラグメントに、枯草菌
B. subtilis 168株のゲノムDNAを鋳型とし、前記遺伝子型の同定の際と同一の条件にてPCRで増幅したmraY遺伝子、又はtagO遺伝子を挿入し、「pHYcat−mraY」、及び「pHYcat−tagO」のプラスミドを作製した。
前記「pHYcat−mraY」、又は「pHYcat−tagO」を枯草菌
B. subtilis 168株に導入し、mraY高発現株(以下、「168/pHYcat−mraY株」と称することがある)、及びtagO高発現株(以下、「168/pHYcat−tagO株」と称することがある)を作製した。また、対照株として、pHYcatを枯草菌
B. subtilis 168株に導入した株を作製した。
【0089】
−MIC(最小発育阻止濃度)の測定−
前記作製した3株を用い、試験例3−1と同様にしてMICを測定した。結果を表3に示した。
【0090】
【表3】
【0091】
表3中、「168/pHYcatA」は「pHYcat」を導入した株を示し、「168/pHYcat−mraY」は「pHYcat−mraY」を導入した株を示し、「168/pHYcat−tagO」は「pHYcat−tagO」を導入した株を示し、「CPZB」はカプラザマイシンBを示し、「TUN」はツニカマイシンを示し、「VCM」はバンコマイシンを示す。
表3から、mraY遺伝子高発現株では、カプラザマイシンBに対する耐性を有しているが、CPZEN−45に対しては耐性を有していないことが確認された。また、tagO遺伝子高発現株では、カプラザマイシンBに対する耐性を有していないが、CPZEN−45に対する耐性を有していることが確認された。また、tagO遺伝子高発現株は、TagOの酵素活性を阻害することが知られているツニカマイシンに対しても耐性を有していることが確認された。そのため、試験例3−2の結果からも、CPZEN−45は、TagOを標的とすることが考えられた。
また、上記結果は、試験例1において、CPZEN−45が、WecAのオルソログが生育に必須ではない
Staphylococcus aureus FDA209株、及び
Staph. aureus MRSA No.5株、並びに、WecAのオルソログを有さない
Streptococcus pneumoniae S−223株、及び
Str. pneumoniae CR−2株に対して抗菌活性を示さなかったこととも整合していると考えられる。
【0092】
(試験例4:酵素活性評価)
MraY、及びTagOの両酵素の活性について、これらを高発現する、前記試験例3−2で製造した168/pHYcat−mraY株、及び168/pHYcat−tagO株の菌体破砕液を用い、以下のようにして測定した。
また、対照として、ツニカマイシン、バンコマイシン、及びレボフロキサシンについても同様に試験した。
<酵素液の調製>
LB培地で対数期(OD600=0.4)まで培養した菌を遠心分離により集菌(5,000rpm、10分間)し、TMSバッファー(50mM Tris−HCl(pH 7.5)、625mM sucrose、10mM MgCl
2、5mM 3−mercapto−1,2−propanediol、1mM PMSF)にて2回洗浄した。
次いで、1/40容量のTMSバッファーに再懸濁し、プローブソニケーションにより菌体を破砕し(氷上にて、30秒間破砕、30秒間静置を10回繰り返す)、遠心分離(3,000rpm、10分間)にて未破砕の菌を除去し、上清を酵素液とした。
【0093】
−TagOの活性測定−
TagOの活性測定は、下記反応液 0.02mLを温度30℃で1時間反応させることにより行った。
反応後、0.2mLのクロロホルム−メタノール(2:1)溶液を加えることによって反応を停止させ、遠心分離(15,000rpm、3分間)した。
次いで、反応物が含まれる下層を薄層クロマトグラフィー(TLC、展開溶媒は、クロロホルム:メタノール:水:濃アンモニア水=65:35:4:4を用いた)、及びオートラジオグラフィーにて分析し、コントロールに対する比率から、TagOの酵素活性を算出した。結果を
図9Aに示した。
−−反応液−−
・ 酵素液 250ng total protein/μL
・ 125μM undecaprenyl phosphate
・ 20μM UDP−GlcNAc
・ 0.05μCi/μL UDP−GlcNAc、[glucosamine−6−
3H]−
・ 100mM Tris−HCl
・ 20mM MgCl
2
・ 1% CHAPS
【0094】
−MraYの活性測定−
MraYの活性測定は、下記反応液 0.02mLを温度30℃で20分間反応させることにより行った。
反応後、0.02mLの反応停止液(ブタノール:氷酢酸中にピリジン(終濃度6M)を溶解させたもの=2:1(容量比))を加えることによって反応を停止させ、遠心分離(15,000rpm、3分間)した。
次いで、反応物が含まれる下層を薄層クロマトグラフィー(TLC、展開溶媒は、クロロホルム:メタノール:水:濃アンモニア水=88:48:4:1を用いた)、及びオートラジオグラフィーにて分析し、コントロールに対する比率から、MraYの酵素活性を算出した。結果を
図9Bに示した。
−−反応液−−
・ 酵素液 20ng total protein/μL
・ 50μM undecaprenyl phosphate
・ 0.02μCi/μL undecaprenyl phosphate、[1−
3H]−
・ 50μM UDP−MurNAc−pentapeptide
・ 100mM Tris−HCl
・ 20mM MgCl
2
・ 10mM Triton X−100
【0095】
図9A及び9B中、「◆」は、CPZEN−45の結果を示し、「■」は、カプラザマイシンBの結果を示し、「▲」は、ツニカマイシンの結果を示し、「×」は、バンコマイシンの結果を示し、「*」は、レボフロキサシンの結果を示す。
図9A及び9Bの結果から、TagOの酵素活性は、CPZEN−45により最も阻害されており、MraYの酵素活性は、カプラザマイシンBにより最も阻害されていた。そのため、試験例4の結果からも、CPZEN−45は、TagOを標的とすることが考えられた。
【0096】
(試験例5:
Mycobacterium smegmatisのWecAに対するCPZEN−45の阻害活性)
結核菌と近縁である
Mycobacterium smegmatisのWecAに対するCPZEN−45の阻害活性を以下のようにして、試験した。
<酵素液の調製>
M. smegmatis mc
2155株(ATCCより入手)をグリセロール−アラニン培地で対数期まで培養し、その菌体 10gを30mLのAバッファーに懸濁し、超音波破砕機(Soniprep 150; MSE Ltd., Crawley, Sussex, United Kingdom; 1cm probe)を用いて氷上にて60秒間破砕、90秒間静置の操作を10回繰り返した。この菌体破砕液を4℃、27,000gで12分間遠心後、上清を更に4℃、100,000gで60分間遠心することにより、WecAを含む細胞膜画分を得た。前記細胞膜画分を適量のAバッファーに再懸濁し、これを酵素液とした。
−グリセロール−アラニン培地−
グリセロール 20mL、バクトカジトン(Difco社製) 0.3g、クエン酸鉄(III)アンモニウム 0.05g、リン酸水素二カリウム 4.0g、クエン酸 2.0g、L−アラニン 1.0g、塩化マグネシウム六水和物 1.2g、硫酸カリウム 0.6g、塩化アンモニウム 2.0g、Tween80 0.2g、及びAntifoam A(Dow Corning社製) 0.05gを、1Lの脱イオン水に溶解し、NaOHでpHを6.6に調整した。
−Aバッファー−
50mM MOPS(KOHでpHを8.0に調整)、5mM 2−mercaptoethanol、10mM MgCl
2。
【0097】
<WecAの酵素活性の測定>
下記酵素反応液(液量0.1mL)に前記CPZEN−45を所定量添加し、37℃で1時間静置することにより、酵素反応を行った。次いで、1mLのクロロホルム−メタノール(2:1)溶液を加えて反応を停止させ、激しく攪拌することにより、反応生成物を有機層に抽出した。前記反応生成物の適量を薄層クロマトグラフィー(TLC)に供し、オートラジオグラフィーにて検出した。結果を
図10に示した。
−酵素反応液−
前記酵素液(1mgタンパク質相当分)、ATP 60μM、及び[
14C]−UDP−GlcNAc 0.01μCi/μLを0.1mLの前記Aバッファーに含む液。
【0098】
図10中、「1」から「10」は、順に、CPZEN−45の添加量を、0μg/mL、0.00019125μg/mL、0.0003825μg/mL、0.000765μg/mL、0.00153μg/mL、0.00306μg/mL、0.00611μg/mL、0.01221μg/mL、0.02441μg/mL、0.048828μg/mLとした場合の結果を示し、「SF」は、展開溶媒の上端を示し、「Orig.」は、原点を示す。
オートラジオグラフを定量化した結果、IC
50は、0.0044μg/mLと算出され、CPZEN−45は、結核菌と近縁である
Mycobacterium smegmatisのWecAを阻害することが確認された。
B. subilisのTagOと、
M. smegmatisのWecAと、
M. tuberculosisのWecAとのアミノ酸配列の相同性を表4に示す。
B. subilisのTagOと、
M. smegmatisのWecAとは、同一の反応を触媒する酵素である。また、下記表4に記載されているように、
B. subilisのTagO及び
M. smegmatisのWecAと、
M. tuberculosisのWecAとは、それぞれ、35.7%、86.0%の相同性を有している。更に、これらの酵素では、酵素反応に必須の領域のアミノ酸配列が極めて良く保存されている。即ち、これらの酵素は、互いにオルソログである。
そのため、CPZEN−45による抗菌作用は、結核菌のWecA乃至そのオルソログを標的とすることにより発揮されていると考えられた。
【0099】
【表4】
【0100】
(試験例6:WecA乃至そのオルソログ阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとの相乗効果)
菌株として、
M. smegmatis 607株(ATCCより入手)を用い、下記薬剤の併用により、相乗効果が得られるか否かについて、以下のようにしてMICを測定し、FIC indexを算出することにより、試験した。結果を
図11A〜
図11Cに示した。
<MIC(最小発育阻止濃度)の測定>
前記MICは、マイクロブロス希釈法(microbroth dilution method)により測定した。具体的には、培地としてOADC含有 7H9broth培地を用い、96穴プレートで、1種又は2種の薬剤を2倍希釈系列で調製した溶液0.1mLに菌液を0.1mL加え混和し、37℃で3日間培養し、測定した。
<薬剤の組合せ(薬剤A及び薬剤B>
(1) 薬剤A:CPZEN−45(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)、薬剤B:カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)
(2) 薬剤A:ツニカマイシン(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)、薬剤B:リファンピシン(RNA合成阻害剤)
(3) 薬剤A:カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)、薬剤B:リファンピシン(RNA合成阻害剤)
【0101】
<FIC index(Fractional inhibitory concentration index)>
FIC indexは、下記式(1)から算出した。
FIC index=(薬剤AのFIC+薬剤BのFIC)の最小値 ・・・ 式(1)
薬剤AのFIC=薬剤Aと薬剤Bとの組合せにおけるMIC/薬剤A単独におけるMIC
薬剤BのFIC=薬剤Bと薬剤Aとの組合せにおけるMIC/薬剤B単独におけるMIC
前記FIC indexの数値から、薬剤の併用による効果を判断することができる。
FIC index≦0.5 ・・・ 相乗効果である(synergetic)。
0.5<FIC index≦1 ・・・ 相加効果である(additive)。
1<FIC index≦2 ・・・ 不関である(indifferent)。
FIC index>2 ・・・ 拮抗作用である(antagonistic)。
【0102】
図11Aは、CPZEN−45と、カプラザマイシンBとの組合せの結果を示し(縦軸:CPZEN−45、横軸:カプラザマイシンB)、
図11Bは、ツニカマイシンと、リファンピシンとの組合せ(縦軸:ツニカマイシン、横軸:リファンピシン)の結果を示し、
図11Cは、カプラザマイシンBと、リファンピシンとの組合せ(縦軸:カプラザマイシンB、横軸:リファンピシン)の結果を示す。また、
図11A〜
図11C中、着色部は「生育可能(viable)」を示し、非着色部は「生育不可(non−viable)」を示す。
図11A〜
図11Cの結果から、CPZEN−45(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)と、カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)との組合せ(FIC index=0.095〜0.375)、ツニカマイシン(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)と、リファンピシン(RNA合成阻害剤)との組合せ(FIC index=0.281)では、併用による相乗効果が認められた。
一方、カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)と、リファンピシン(RNA合成阻害剤)との組合せ(FIC index=1〜2)では、相乗効果は認められなかった。
以上から、WecA乃至そのオルソログ阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとを併用することにより、非常に優れた抗抗酸菌作用が得られることがわかった。