特許第6326048号(P6326048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6326048併用抗抗酸菌薬及びWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6326048
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】併用抗抗酸菌薬及びWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7072 20060101AFI20180507BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20180507BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20180507BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20180507BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20180507BHJP
【FI】
   A61K31/7072ZNA
   A61P31/06
   A61P43/00 121
   A61K31/496
   C12N9/99
   !C12N9/12
【請求項の数】3
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-521445(P2015-521445)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2014064682
(87)【国際公開番号】WO2014196512
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年4月6日
(31)【優先権主張番号】61/830,857
(32)【優先日】2013年6月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000173913
【氏名又は名称】公益財団法人微生物化学研究会
(73)【特許権者】
【識別番号】592246587
【氏名又は名称】コロラド ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 仁將
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 雅之
(72)【発明者】
【氏名】ブレナン パトリック ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】クリック ディーン カルバン
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/038874(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101984047(CN,A)
【文献】 The Journal of Antibiotics,2013年 3月,Vol.66,pp.171-178
【文献】 FEMS. Microbiol. Lett.,2010年,Vol.310,pp.54-61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7072
A61K 31/496
A61P 31/06
A61P 43/00
C12N 9/99
C12N 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤と、を併用することを特徴とする併用抗抗酸菌薬であって、
WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤が、下記構造式(1)で表される化合物を含み、
MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤が、下記構造式(2)で表される化合物を含む併用抗抗酸菌薬
【化1】
【化2】
構造式(2)中、「Me」は、メチル基を表す。
【請求項2】
WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、RNA合成阻害剤と、を併用することを特徴とする併用抗抗酸菌薬であって、
WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤が、ツニカマイシンを含み、
RNA合成阻害剤が、リファンピシンを含む併用抗抗酸菌薬。
【請求項3】
下記構造式(1)で表される化合物を含むことを特徴とするWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結核菌を含む抗酸菌に対して有効な併用抗抗酸菌薬、抗抗酸菌薬のスクリーニング方法、及びWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フクシン、クリスタルバイオレットなどで固定染色した場合、塩酸酸性アルコールによる脱色に抵抗性を示すような細菌は、抗酸菌、又は抗酸性細菌などと呼ばれる。
前記抗酸菌には、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)などのマイコバクテリウム属に属する細菌が含まれる。
結核は、結核菌により引き起こされる感染症であり、世界中の感染症の中で単独の感染症として死亡者数の最も多い疾患である。近年、前記結核菌の中に、多剤耐性結核菌(MDR−TB)や、超多剤耐性結核菌(XDR−TB)が検出され、大きな問題となっている。
【0003】
これまでに、抗酸性菌に対して優れた抗菌活性を有する化合物であるカプラザマイシン類及びその誘導体(例えば、特許文献1〜4参照)などが見出されている。
例えば、前記提案の中でもカプラザマイシンの誘導体であるCPZEN−45は、前記多剤耐性結核菌(MDR−TB)や、超多剤耐性結核菌(XDR−TB)に対し優れた抗菌活性を有することが見出されている。
【0004】
このような状況下、抗酸菌に含まれる結核菌により引き起こされる結核に対する治療薬の開発へ向けた研究が活発に行われており、より優れた治療薬となり得るものの速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/012643号
【特許文献2】国際公開第2004/067544号
【特許文献3】国際公開第2008/020560号
【特許文献4】特開2010−83847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みて行われたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、抗酸菌に対して優れた薬効を有する併用抗抗酸菌薬、抗抗酸菌薬のスクリーニング方法、及びWecA乃至そのオルソログに対する優れた阻害活性を有するWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかと、を併用することを特徴とする併用抗抗酸菌薬である。
<2> WecA乃至そのオルソログに対する被験物質の活性を測定する工程を含むことを特徴とする抗抗酸菌薬のスクリーニング方法である。
<3> 下記構造式(1)で表される化合物を含むことを特徴とするWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤である。
【化1】
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記目的を達成することができ、抗酸菌に対して優れた薬効を有する併用抗抗酸菌薬、抗抗酸菌薬のスクリーニング方法、及びWecA乃至そのオルソログに対する優れた阻害活性を有するWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、構造式(2)で表される化合物の紫外線吸収スペクトルを示した図である。
図2図2は、構造式(2)で表される化合物のKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルを示した図である。
図3図3は、構造式(2)で表される化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトルを示した図である。
図4図4は、構造式(2)で表される化合物の炭素13核磁気共鳴スペクトルを示した図である。
図5図5は、構造式(1)で表される化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトルを示した図である。
図6図6は、構造式(1)で表される化合物の炭素13核磁気共鳴スペクトルを示した図である。
図7A図7Aは、試験例2において、薬剤としてCPZEN−45を用いた場合の結果を示すグラフである。
図7B図7Bは、試験例2において、薬剤としてカプラザマイシンBを用いた場合の結果を示すグラフである。
図7C図7Cは、試験例2において、薬剤としてツニカマイシンを用いた場合の結果を示すグラフである。
図7D図7Dは、試験例2において、薬剤としてバンコマイシンを用いた場合の結果を示すグラフである。
図7E図7Eは、試験例2において、薬剤としてレボフロキサシンを用いた場合の結果を示すグラフである。
図8図8は、pHYcatの概要を示す図である。
図9A図9Aは、試験例4のTagOの酵素活性を評価した結果を示すグラフである。
図9B図9Bは、試験例4のMraYの酵素活性を評価した結果を示すグラフである。
図10図10は、試験例5の結果を示す図である。
図11A図11Aは、試験例6のCPZEN−45と、カプラザマイシンBとの組合せの結果を示す図である。
図11B図11Bは、試験例6のツニカマイシンと、リファンピシンとの組合せの結果を示す図である。
図11C図11Cは、試験例6のカプラザマイシンBと、リファンピシンとの組合せの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(併用抗抗酸菌薬)
本発明の併用抗抗酸菌薬は、WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかと、を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
【0011】
<WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤>
前記併用抗抗酸菌薬における前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤は、WecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
【0012】
前記WecAとは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が有する酵素(塩基配列は、配列番号1参照)である。前記WecAは、細胞壁の構成成分であるミコリルアラビノガラクタンの合成に関与する酵素である。
前記オルソログとは、共通の祖先遺伝子を有すると考えられる遺伝子群のことをいう。前記WecAのオルソログとしては、例えば、Mycobacterium bovisが有する酵素であるWecA(細胞壁の構成成分であるミコリルアラビノガラクタンの合成に関与する酵素、塩基配列は、配列番号2参照)、Mycobacterium smegmatisが有する酵素であるWecA(細胞壁の構成成分であるミコリルアラビノガラクタンの合成に関与する酵素、塩基配列は、配列番号3参照)、Bacillus subtilisが有する酵素であるTagO(細胞壁の構成成分であるテイコ酸の合成に関与する酵素、塩基配列は、配列番号4参照)、などが挙げられる。
【0013】
−WecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物−
前記WecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式(1)で表される化合物(以下、「CPZEN−45」と称することがある)、ツニカマイシン(Tunicamycin)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、CPZEN−45が好ましい。
【化2】
【0014】
前記CPZEN−45、及びツニカマイシンは、抗菌性を有する化合物として公知の化合物である。
【0015】
前記WecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物は、塩の態様であってもよい。
前記塩としては、薬理学的に許容され得る塩であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸塩、クエン酸塩等の有機塩、塩酸塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0016】
前記WecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物は、化学合成により得られたものであってもよいし、前記化合物を生産する微生物から得られたものであってもよい。
前記CPZEN−45の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、国際公開第2004/067544号、特開2010−83847号公報に記載の方法、などが挙げられる。
前記ツニカマイシンの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ツニカマイシンを生産する微生物から製造する方法が挙げられる。
【0017】
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のWecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤は、WecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物からなるものであってもよい。
【0018】
−その他の成分−
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分としては、特に制限はなく、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、添加剤、補助剤、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記添加剤又は前記補助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、殺菌剤、保存剤、粘結剤、増粘剤、固着剤、結合剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、溶剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、防腐剤などが挙げられる。
【0020】
前記殺菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0021】
前記保存剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0022】
前記粘結剤、増粘剤、固着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デンプン、デキストリン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0023】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0024】
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
【0025】
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
【0026】
前記pH調整剤又は前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0027】
前記等張化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
【0028】
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
<MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれか>
前記併用抗抗酸菌薬における前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤は、どちらか一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0030】
−MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤−
前記併用抗抗酸菌薬における前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤は、MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
前記MurXとは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が有する酵素(塩基配列は、配列番号5参照)である。前記MurXは、細胞壁の構成成分であるペプチドグリカンの合成に関与する酵素である。
前記MurXのオルソログとしては、例えば、Mycobacterium bovisが有する酵素であるMraY(細胞壁の構成成分であるペプチドグリカンの合成に関与する酵素、塩基配列は、配列番号6参照)、Mycobacterium smegmatisが有する酵素であるMraY(細胞壁の構成成分であるペプチドグリカンの合成に関与する酵素、塩基配列は、配列番号7参照)、Bacillus subtilisが有する酵素であるMraY(細胞壁の構成成分であるペプチドグリカンの合成に関与する酵素、塩基配列は、配列番号8参照)、などが挙げられる。
【0031】
−−MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物−−
前記MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カプラザマイシン(Caprazamycin)類、リポシドマイシン(Liposidomycin)類、ムレイドマイシン(Mureidomycin)類、パシダマイシン(Pacidamycin)類、ナプサマイシン(Napsamycin)類、ムレイマイシン(Muraymycin)類、FR−900493、カプラマイシン(Capuramycin)類、A−503083、バクテリオファージφX174溶菌タンパク質E(Lysis protein E of bacteriophage φX174)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、カプラザマイシンB、リポシドマイシンB、ムレイドマイシンA、ムレイマイシンA1、カプラマイシン、バクテリオファージφX174溶菌タンパク質Eが好ましく、カプラザマイシンBがより好ましい。
【0032】
前記MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物は、塩の態様であってもよい。
前記塩としては、薬理学的に許容され得る塩であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸塩、クエン酸塩等の有機塩、塩酸塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0033】
前記MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物は、化学合成により得られたものであってもよいし、前記化合物を生産する微生物から得られたものであってもよい。
前記MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物は公知の化合物であり、その製造方法は、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
前記カプラザマイシンBの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、国際公開第01/012643号に記載されている受託番号FERM BP−7218で寄託されているストレプトミセス・エスピーMK730−62F2株を用いて製造する方法が挙げられる。
前記ストレプトミセス・エスピーMK730−62F2株は、工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託申請し、1998年11月27日に国内寄託(FERM P−17067)され、その後、2000年7月12日にブダペスト条約に基づく国際寄託への移管請求が受領され、受託番号FERM BP−7218として国際寄託された。
【0034】
前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤中のMurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤は、MurX乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物からなるものであってもよい。
【0035】
−−その他の成分−−
前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分と同様のものが挙げられる。
前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
−RNA合成阻害剤−
前記併用抗抗酸菌薬における前記RNA合成阻害剤は、RNAの合成を阻害する化合物を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
【0037】
−−RNAの合成を阻害する化合物−−
前記RNAの合成を阻害する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リファンピシン(Rifampicin)、リファマイシンSV(Rifamycin SV)、リファブチン(Rifabutin)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、リファンピシンが好ましい。
【0038】
前記RNAの合成を阻害する化合物は、塩の態様であってもよい。
前記塩としては、薬理学的に許容され得る塩であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸塩、クエン酸塩等の有機塩、塩酸塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0039】
前記RNAの合成を阻害する化合物は、化学合成により得られたものであってもよいし、前記化合物を生産する微生物から得られたものであってもよい。
前記RNAの合成を阻害する化合物は公知の化合物であり、その製造方法は、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0040】
前記RNA合成阻害剤中のRNAの合成を阻害する化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記RNA合成阻害剤は、RNAの合成を阻害する化合物からなるものであってもよい。
【0041】
−−その他の成分−−
前記RNA合成阻害剤中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分と同様のものが挙げられる。
前記RNA合成阻害剤中のその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
<その他の成分>
前記併用抗抗酸菌薬中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分と同様のものが挙げられる。
前記併用抗抗酸菌薬中のその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
<抗酸菌>
前記抗酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、結核菌が好ましい。前記結核菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
<使用>
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとの組合せとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、CPZEN−45と、カプラザマイシンBとの組合せ、ツニカマイシンと、リファンピシンとの組合せが好ましく、CPZEN−45と、カプラザマイシンBとの組合せがより好ましい。
前記併用抗抗酸菌薬は、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかのみを併せて使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。
【0045】
前記併用抗抗酸菌薬は、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとをそれぞれ単剤として併用してもよいし、両者を1つの剤(合剤)として併用してもよい。
【0046】
<剤形>
前記併用抗抗酸菌薬、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及び前記RNA合成阻害剤の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形剤、半固形剤、液剤などが挙げられる。これらの剤形の前記併用抗抗酸菌薬、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及び前記RNA合成阻害剤は、常法に従い製造することができる。
前記併用抗抗酸菌薬が、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとをそれぞれ単剤として併用する場合における剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、両者が、同一の剤形であってもよいし、異なる剤形であってもよい。
【0047】
−固形剤−
前記固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、錠剤、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤などが挙げられる。
前記固形剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、坐剤、パップ剤、プラスター剤などが挙げられる。
【0048】
−半固形剤−
前記半固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、舐剤、チューインガム剤、ホイップ剤、ゼリー剤などが挙げられる。
前記半固形剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤などが挙げられる。
【0049】
−液剤−
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤などが挙げられる。
前記液剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤などが挙げられる。
【0050】
<投与>
前記併用抗抗酸菌薬、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及び前記RNA合成阻害剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
前記投与方法としては、例えば、局所投与法、経腸投与法、非経口投与法などが挙げられる。
前記併用抗抗酸菌薬が、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとをそれぞれ単剤として併用する場合における投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、両者が、同一の投与方法であってもよいし、異なる投与方法であってもよい。
【0052】
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記併用抗抗酸菌薬における前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとの投与量の比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
前記投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記併用抗抗酸菌薬は、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、前記MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとを同時期に投与してもよいし、異なる時期に投与してもよい。
【0054】
前記投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いることができる。
【0055】
(治療方法)
前記併用抗抗酸菌薬は、抗酸菌に感染した個体に投与することにより、抗酸菌に感染した個体を治療することができる。したがって、本発明は、個体に前記併用抗抗酸菌薬を投与することを特徴とする、抗酸菌に感染した個体を治療する方法にも関する。前記治療方法は、前記抗酸菌の中でも結核菌に好適に用いることができる。
【0056】
(抗抗酸菌薬のスクリーニング方法)
本発明の抗抗酸菌薬のスクリーニング方法は、活性測定工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0057】
<活性測定工程>
前記活性測定工程は、WecA乃至そのオルソログに対する被験物質の活性を測定する工程である。
前記WecA乃至そのオルソログに対する被験物質の活性とは、WecA乃至そのオルソログの酵素活性を阻害する活性であってもよいし、wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現を抑制する活性であってもよい。
【0058】
前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、微生物が生産する化合物、該化合物の誘導体、植物抽出物、タンパク質、などが挙げられる。
【0059】
前記WecA乃至そのオルソログに対する被験物質の活性を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、WecA乃至そのオルソログの酵素活性を測定する方法、wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現量を測定する方法などが挙げられる。
【0060】
前記WecA乃至そのオルソログの酵素活性を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記WecA乃至そのオルソログを発現する菌株の菌体破砕液を用いて測定する方法が挙げられる。
前記WecA乃至そのオルソログを発現する菌株としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記WecA乃至そのオルソログの遺伝子を導入した枯草菌などが挙げられる。前記WecA乃至そのオルソログの遺伝子を導入する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記WecA乃至そのオルソログの遺伝子を挿入したプラスミドを枯草菌に導入する方法が挙げられる。
前記菌体破砕液の調製方法としては、菌体を破砕することができれば特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
前記菌体破砕液を用いたWecA乃至そのオルソログの酵素活性を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記WecA乃至そのオルソログの基質を放射ラベルし、該放射ラベルした基質を前記菌体破砕液に含ませ、反応させた後、薄層クロマトグラフィー、及びオートラジオグラフィーにより反応物を検出することにより測定することができる。前記基質としては、例えば、UDP−GlcNAcが挙げられる。
【0061】
前記wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現量を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子を有する抗酸菌に被験物質を作用させ、該抗酸菌におけるwecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現量を測定する方法が挙げられる。
前記被験物質を作用させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記抗酸菌の培地に前記被験物質を含ませる方法などが挙げられる。
前記wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現量としては、mRNAの発現量であってもよいし、タンパク質の発現量であってもよい。
前記mRNAの発現量、及びタンパク質の発現量の測定方法は、公知の方法を適宜選択することができる。例えば、前記mRNAの発現量は、リアルタイムPCR法により測定することができ、前記タンパク質の発現量は、ウェスタンブロッティングにより測定することができる。
【0062】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、評価工程などが挙げられる。
前記評価工程とは、前記活性測定工程で得られた結果から、前記被験物質により前記WecA乃至そのオルソログの活性が阻害されたか否かを評価する工程である。
前記評価工程において、前記被験物質が、前記WecA乃至そのオルソログの活性を阻害したか否かを評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記活性測定工程において、前記被験物質を作用させなかった場合(対照)と比較して、前記被験物質を作用させた場合に、前記WecA乃至そのオルソログの酵素活性が低下していたり、前記wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現量が低下していたりした場合には、前記被験物質は、前記WecA乃至そのオルソログの活性を阻害したと評価することができ、前記被験物質は、抗抗酸菌薬として用いることが可能と考えられる。
また、前記活性測定工程において、対照として、前記CPZEN−45及び前記ツニカマイシンの少なくともいずれかを作用させた場合と比較して、前記被験物質を作用させた場合に、前記WecA乃至そのオルソログの酵素活性が低下していたり、前記wecA遺伝子乃至そのオルソログ遺伝子の発現量が低下していたりした場合には、前記被験物質は、前記CPZEN−45及び前記ツニカマイシンの少なくともいずれかよりも前記WecA乃至そのオルソログの活性を阻害したと評価することができ、前記被験物質は、抗抗酸菌薬としてより有用となり得ると考えられる。
【0063】
前記抗抗酸菌薬のスクリーニング方法は、結核菌に対する薬剤のスクリーニング方法として好適に用いることができる。
【0064】
(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)
本発明のWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤としては、下記構造式(1)で表される化合物を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含むものが好適に挙げられる。
【化3】
【0065】
前記WecA乃至そのオルソログとは、前記併用抗抗酸菌薬のWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤における記載と同様である。
前記構造式(1)で表される化合物は、前記CPZEN−45であり、塩の態様であってもよい。
前記塩としては、薬理学的に許容され得る塩であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸塩、クエン酸塩等の有機塩、塩酸塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0066】
前記CPZEN−45は、化学合成により得られたものであってもよいし、前記化合物を生産する微生物から得られたものであってもよい。
前記CPZEN−45の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記併用抗抗酸菌薬のWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤における記載と同様の方法が挙げられる。
【0067】
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のCPZEN−45の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤は、前記CPZEN−45からなるものであってもよい。
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤は、前記CPZEN−45以外のWecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物を含有していてもよい。前記CPZEN−45以外のWecA乃至そのオルソログの活性を阻害する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ツニカマイシン(Tunicamycin)、などが挙げられる。
【0068】
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記併用抗抗酸菌薬のWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤における記載と同様のものが挙げられる。
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤中のその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0069】
<用途>
前記WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤は、優れたWecA乃至そのオルソログの活性阻害作用を有するので、例えば、上述した本発明の併用抗抗酸菌薬の有効成分として好適に用いることができる。また、例えば、上述した本発明の抗抗酸菌薬のスクリーニング方法の指標とする試薬などとしても好適に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下に製造例、試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例、試験例に何ら限定されるものではない。
【0071】
(製造例1)
<構造式(2)で表される化合物の製造>
前記構造式(2)で表される化合物(カプラザマイシンB)は、FERM BP−7218の受託番号で寄託されているストレプトミセス・エスピーMK730−62F2株を用い、国際公開第01/012643号の実施例1と同様にして製造した。
【0072】
−カプラザマイシンBの物理化学的性質−
前記カプラザマイシンBの物理化学的性質は、以下のとおりであり、前記カプラザマイシンBが、下記構造式(2)で表される構造を有することが確認された。
(1) 外観 : 無色粉末
(2) 分子式 : C538722
(3) 高分解能質量分析(HRFABMS:陰イオンモード) :
実験値:1144.5750(M−H)
計算値:1144.5764
(4) 比旋光度 : [α]23 −2.6°(c 0.91、DMSO)
(5) 紫外線吸収スペクトル(メタノール中) :
メタノール溶液で測定した紫外線吸収のピークは、以下の通りであった。
λmax nm(ε) :261(8,000)
図1に紫外線吸収スペクトルを示した。
(6) 赤外線吸収スペクトル :
図2にKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルを示した。
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトル :
600MHzにおいて重ジメチルスルホキシド:重水(=10:1)の混合溶媒中で室温にて測定したプロトンNMRスペクトルを図3に示した。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトル :
150MHzにおいて重ジメチルスルホキシド:重水(=10:1)の混合溶媒中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルを図4に示した。
(9) 溶解性 :
メタノール、DMSO、水に可溶でありアセトン、酢酸エチルに不溶であった。
(10) TLC :
シリカゲル60F254(メルク社製)の薄層クロマトグラフィー上でブタノール:メタノール:水(4:1:2)の溶媒で展開したときのRf値は、0.44であった。
【0073】
【化4】
構造式(2)中、「Me」は、メチル基を表す。
【0074】
(製造例2)
<構造式(1)で表される化合物の製造>
前記構造式(1)で表される化合物(CPZEN−45)は、特開2010−83847号公報の実施例1と同様にして、CPZEN−45のトリフルオロ酢酸塩の無色結晶を製造した。
【0075】
−CPZEN−45の物理化学的性質−
前記CPZEN−45のトリフルオロ酢酸塩の物理化学的性質は、以下のとおりであり、前記CPZEN−45が、下記構造式(1)で表される構造を有することが確認された。
(1) 融点 : 175℃−177℃(分解)
(2) 比旋光度 : [α]22 +79°(c1,MeOH)
(3) マススペクトル(ESI−MS) :
m/z 801 [M+CFCOOH−H]
(4) 19F−NMRスペクトル(376.5MHz, 重DMSO中、フレオン11内部標準) : δ−73.86 (s, CF
(5) プロトン核磁気共鳴スペクトル(500MHz、重水中、TMS内部標準):
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図5に示した。
(6) 炭素13核磁気共鳴スペクトル(125.8MHz、重水中、TMS内部標準):
炭素13核磁気共鳴スペクトルを図6に示した
【0076】
【化5】
【0077】
(試験例1:CPZEN−45とカプラザマイシンBの抗菌活性比較)
カプラザマイシンB、及びCPZEN−45の各種の菌に対する抗菌作用について、MICを測定することにより試験した。結果を表1に示した。
<MIC(最小発育阻止濃度)の測定>
−Mycobacteria−
前記Mycobacteriaに対するMICは、寒天希釈法(Agar dilution method)により測定した。具体的には、2倍希釈系列で調製した薬剤を含む培地(グリセロール及びOADC含有の7H10寒天培地)に菌を接種し、37℃で、2日間〜14日間培養し、測定した。
−Mycobacteria以外の微生物−
前記Mycobacteria以外の微生物に対するMICは、寒天希釈法(Agar dilution method)により測定した。具体的には、2倍希釈系列で調製した薬剤を含む培地(ミューラー・ヒントン寒天培地)に菌を接種し、37℃で、18時間培養し、測定した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から、カプラザマイシンBと、CPZEN−45とでは、例えば、Staphylococcus aureus FDA209P株に対する抗菌活性において、違いが観られた。そのため、両者は、抗菌の作用機序が異なることが推測された。
また、CPZEN−45は、WecAのオルソログが生育に必須ではないStaphylococcus aureus FDA209株、及びStaph. aureus MRSA No.5株、並びに、WecAのオルソログを有さないStreptococcus pneumoniae S−223株、及びStr. pneumoniae CR−2株に対して抗菌活性を示さなかった。
【0080】
(試験例2:B. subtilis 168株における高分子合成)
CPZEN−45、及びカプラザマイシンBに対して、結核菌と類似した感受性を示す枯草菌のB. subtilis 168株(ATCCより入手)を用い、以下の各薬剤を含有する薬剤溶液を投与した際の高分子の合成を以下のようにして試験した。
<薬剤>
・ CPZEN−45(製造例2で製造したもの)
・ カプラザマイシンB(製造例1で製造したもの)
・ ツニカマイシン
・ バンコマイシン
・ レボフロキサシン
【0081】
<試験方法>
枯草菌 B. subtilis 168株を、Nutrient broth(NB培地)を用い、温度 37℃、振とう速度 140spmにて対数期(OD600=0.2)まで培養し、菌液を調製した。
96穴プレートに、2倍希釈系列で調製した前記薬剤溶液 0.01mLと、菌液 0.09mLとを加えて混和し、37℃で5分間静置培養した。
前記培養後、下記濃度に調製した放射ラベルした化合物(以下、「放射ラベル化合物」と称することがある)0.01mLを加え、37℃で更に10分間静置培養した。
その後、10% トリクロロ酢酸水溶液を0.1mL加え、菌体の高分子成分を不溶化し、次いで、フィルター付きの96穴プレートに移し、液体成分を濾過した後、5% トリクロロ酢酸水溶液 0.2mLにて、フィルターを3回洗浄した。
乾燥後、フィルター上に残存する放射活性を、液体シンチレーションカウンター(トライカーブ2800TR パーキンエルマー社)で測定し、菌体の高分子合成量を評価した。結果を図7Aから図7Eに示した。
−放射ラベル化合物−
・ 0.1μCi/μL N−acetyl−D−[1−14C]glucosamine(ペプチドグリカン合成の評価に使用、以下、「N−acetyl−D−glucosamine」と称することがある。)
・ 0.01μCi/μL [14C(U)]glycerol(テイコ酸合成の評価に使用、以下、「Glycerol」と称することがある。)
・ 1μCi/μL [1−14C]acetate(細胞膜脂肪酸合成の評価に使用、以下、「Acetic acid」と称することがある。)
・ 1μCi/μL [methyl−H]thymidine (DNA合成の評価に使用、以下、「Thymidine」と称することがある。)
・ 1μCi/μL [5,6−H]uridine (RNA合成の評価に使用、以下、「Uridine」と称することがある。)
・ 5μCi/μL L−[4,5−H]leucine (タンパク質合成の評価に使用、以下、「Leucine」と称することがある。)
【0082】
図7Aは、薬剤としてCPZEN−45を用いた場合、図7Bは、薬剤としてカプラザマイシンBを用いた場合、図7Cは、薬剤としてツニカマイシンを用いた場合、図7Dは、薬剤としてバンコマイシンを用いた場合、図7Eは、薬剤としてレボフロキサシンを用いた場合の結果を示す。なお、図7A図7E中、「■」は、[methyl−H]thymidineの取込量、「◆」は、[5,6−H]uridineの取込量、「▲」は、L−[4,5−H]leucineの取込量、「×」は、[1−14C]acetateの取込量、「●」は、N−acetyl−D−[1−14C]glucosamineの取込量、「+」は、[14C(U)]glycerolの取込量を示す。
図7Aから、CPZEN−45の存在下では、細胞壁の主要構成成分の1つであるテイコ酸の構成成分であるグリセロールの菌体への取込みが阻害されていることが確認された。これは、図7Cに示すように、B. subtilisにおけるTagO(WecAのオルソログ)を阻害することが知られているツニカマイシンと同様の結果であった。
また、図7Bから、B. subtilisにおけるMraY(MurXのオルソログ)を阻害するカプラザマイシンBの存在下では、ペプチドグリカンの構成成分であるN−acetyl−D−glucosamineの菌体への取込みが阻害されていることが確認された。これは、図7Dに示すように、同様の阻害活性を有するバンコマイシンと同様の結果であった。
なお、図7Eに示すように、DNA合成を阻害するレボフロキサシンは、CPZEN−45、カプラザマイシンB、ツニカマイシン、バンコマイシンとは異なる結果であった。
【0083】
(試験例3−1:薬剤耐性菌の作製、及び遺伝子型の同定)
親株として、枯草菌のB. subtilis 168株(ATCCより入手)を用い、カプラザマイシンB、又はCPZEN−45に対する耐性を有する耐性菌を以下のようにして作製し、その遺伝子型を確認した。
<耐性菌の作製>
親株として枯草菌 B. subtilis 168株を用いた。
前記B. subtilis 168株を、MICの1/8倍濃度〜4倍濃度の薬剤(カプラザマイシンB、又はCPZEN−45)を含有するNutrient broth(NB培地)に、終濃度 1%になるように植菌し、37℃、141spmにて24時間静置培養した。
MICの1/4倍濃度の薬剤存在下で生育した菌の培養液を植菌源に用い、再度同条件にて培養を行った。
これを、MICが親株の128倍を超えるまで続け、耐性菌を作製した。
【0084】
−MIC(最小発育阻止濃度)の測定−
前記MICは、マイクロブロス希釈法(microbroth dilution method)により測定した。具体的には、培地としてLB broth(LB培地)を用い、96穴プレートで、薬剤を2倍希釈系列で調製した溶液0.1mLに菌液を0.1mL加え混和し、37℃で16時間培養し、測定した。
なお、薬剤として、ツニカマイシン、及びバンコマイシンについても測定した。結果を表2に示した。
【0085】
−遺伝子型の同定−
前記親株、及び耐性菌のmraY遺伝子、及びtagO遺伝子の遺伝子型を以下のようにして同定した。結果を表2に示した。
前記親株、及び耐性菌のゲノムDNAをテンプレートとし、PCR法によりmraY遺伝子、及びtagO遺伝子断片を増幅し、アガロースゲル電気泳動により両遺伝子の遺伝子断片を取得した。得られた遺伝子断片の配列は、DNAシークエンサー(ABI3730 アプライドバイオシステム)にて同定した。
mraY遺伝子の増幅に用いたプライマーの配列は、以下のとおりである。
5’末端側:5’−AGGACATGAAACCTATCAGCAG−3’(配列番号9)
3’末端側:5’−TCTCCGCAAACAACTTCGATTC−3’(配列番号10)
tagO遺伝子の増幅に用いたプライマーの配列は、以下のとおりである。
5’末端側:5’−CCGGACACAAGATTGGAATTGC−3’(配列番号11)
3’末端側:5’―AGCAGCACAAGCTCAAACAAC−3’(配列番号12)
【0086】
【表2】
【0087】
表2中、「168」は親株を示し、「CPZB」はカプラザマイシンBを示し、「TUN」はツニカマイシンを示し、「VCM」はバンコマイシンを示し、「WT」は、野生型を示す。
表2から、CPZEN−45耐性株では、TagOをコードする遺伝子であるtagOに変異を有する株が存在することが確認された。そのため、CPZEN−45は、TagOを標的とすることが考えられた。
【0088】
(試験例3−2:標的遺伝子の検討)
mraY遺伝子、又はtagO遺伝子を高発現する株を以下のようにして作製し、該株のMICを測定した。
<mraY遺伝子、又はtagO遺伝子を高発現する株の作製>
市販品のプラスミドpHY300PLK(タカラバイオ社製)、pHT01(独MoBiTec社製)を用い、枯草菌で複製可能なプラスミド「pHYcat」を作製した。前記pHYcatの概要を図8に示した。
前記プラスミド「pHYcat」は、前記pHY300PLK、及び前記pHT01の両者を制限酵素BanI、及びPvuIIで処理し、その結果得られたpHY300PLKの2,848bpのDNA断片、及びpHT01の2,149bpのDNA断片をライゲーションすることによって得た。
前記「pHYcat」を制限酵素NheIで処理後、緑豆ヌクレアーゼにて末端を平滑化したフラグメントに、枯草菌 B. subtilis 168株のゲノムDNAを鋳型とし、前記遺伝子型の同定の際と同一の条件にてPCRで増幅したmraY遺伝子、又はtagO遺伝子を挿入し、「pHYcat−mraY」、及び「pHYcat−tagO」のプラスミドを作製した。
前記「pHYcat−mraY」、又は「pHYcat−tagO」を枯草菌 B. subtilis 168株に導入し、mraY高発現株(以下、「168/pHYcat−mraY株」と称することがある)、及びtagO高発現株(以下、「168/pHYcat−tagO株」と称することがある)を作製した。また、対照株として、pHYcatを枯草菌 B. subtilis 168株に導入した株を作製した。
【0089】
−MIC(最小発育阻止濃度)の測定−
前記作製した3株を用い、試験例3−1と同様にしてMICを測定した。結果を表3に示した。
【0090】
【表3】
【0091】
表3中、「168/pHYcatA」は「pHYcat」を導入した株を示し、「168/pHYcat−mraY」は「pHYcat−mraY」を導入した株を示し、「168/pHYcat−tagO」は「pHYcat−tagO」を導入した株を示し、「CPZB」はカプラザマイシンBを示し、「TUN」はツニカマイシンを示し、「VCM」はバンコマイシンを示す。
表3から、mraY遺伝子高発現株では、カプラザマイシンBに対する耐性を有しているが、CPZEN−45に対しては耐性を有していないことが確認された。また、tagO遺伝子高発現株では、カプラザマイシンBに対する耐性を有していないが、CPZEN−45に対する耐性を有していることが確認された。また、tagO遺伝子高発現株は、TagOの酵素活性を阻害することが知られているツニカマイシンに対しても耐性を有していることが確認された。そのため、試験例3−2の結果からも、CPZEN−45は、TagOを標的とすることが考えられた。
また、上記結果は、試験例1において、CPZEN−45が、WecAのオルソログが生育に必須ではないStaphylococcus aureus FDA209株、及びStaph. aureus MRSA No.5株、並びに、WecAのオルソログを有さないStreptococcus pneumoniae S−223株、及びStr. pneumoniae CR−2株に対して抗菌活性を示さなかったこととも整合していると考えられる。
【0092】
(試験例4:酵素活性評価)
MraY、及びTagOの両酵素の活性について、これらを高発現する、前記試験例3−2で製造した168/pHYcat−mraY株、及び168/pHYcat−tagO株の菌体破砕液を用い、以下のようにして測定した。
また、対照として、ツニカマイシン、バンコマイシン、及びレボフロキサシンについても同様に試験した。
<酵素液の調製>
LB培地で対数期(OD600=0.4)まで培養した菌を遠心分離により集菌(5,000rpm、10分間)し、TMSバッファー(50mM Tris−HCl(pH 7.5)、625mM sucrose、10mM MgCl、5mM 3−mercapto−1,2−propanediol、1mM PMSF)にて2回洗浄した。
次いで、1/40容量のTMSバッファーに再懸濁し、プローブソニケーションにより菌体を破砕し(氷上にて、30秒間破砕、30秒間静置を10回繰り返す)、遠心分離(3,000rpm、10分間)にて未破砕の菌を除去し、上清を酵素液とした。
【0093】
−TagOの活性測定−
TagOの活性測定は、下記反応液 0.02mLを温度30℃で1時間反応させることにより行った。
反応後、0.2mLのクロロホルム−メタノール(2:1)溶液を加えることによって反応を停止させ、遠心分離(15,000rpm、3分間)した。
次いで、反応物が含まれる下層を薄層クロマトグラフィー(TLC、展開溶媒は、クロロホルム:メタノール:水:濃アンモニア水=65:35:4:4を用いた)、及びオートラジオグラフィーにて分析し、コントロールに対する比率から、TagOの酵素活性を算出した。結果を図9Aに示した。
−−反応液−−
・ 酵素液 250ng total protein/μL
・ 125μM undecaprenyl phosphate
・ 20μM UDP−GlcNAc
・ 0.05μCi/μL UDP−GlcNAc、[glucosamine−6−H]−
・ 100mM Tris−HCl
・ 20mM MgCl
・ 1% CHAPS
【0094】
−MraYの活性測定−
MraYの活性測定は、下記反応液 0.02mLを温度30℃で20分間反応させることにより行った。
反応後、0.02mLの反応停止液(ブタノール:氷酢酸中にピリジン(終濃度6M)を溶解させたもの=2:1(容量比))を加えることによって反応を停止させ、遠心分離(15,000rpm、3分間)した。
次いで、反応物が含まれる下層を薄層クロマトグラフィー(TLC、展開溶媒は、クロロホルム:メタノール:水:濃アンモニア水=88:48:4:1を用いた)、及びオートラジオグラフィーにて分析し、コントロールに対する比率から、MraYの酵素活性を算出した。結果を図9Bに示した。
−−反応液−−
・ 酵素液 20ng total protein/μL
・ 50μM undecaprenyl phosphate
・ 0.02μCi/μL undecaprenyl phosphate、[1−H]−
・ 50μM UDP−MurNAc−pentapeptide
・ 100mM Tris−HCl
・ 20mM MgCl
・ 10mM Triton X−100
【0095】
図9A及び9B中、「◆」は、CPZEN−45の結果を示し、「■」は、カプラザマイシンBの結果を示し、「▲」は、ツニカマイシンの結果を示し、「×」は、バンコマイシンの結果を示し、「*」は、レボフロキサシンの結果を示す。
図9A及び9Bの結果から、TagOの酵素活性は、CPZEN−45により最も阻害されており、MraYの酵素活性は、カプラザマイシンBにより最も阻害されていた。そのため、試験例4の結果からも、CPZEN−45は、TagOを標的とすることが考えられた。
【0096】
(試験例5:Mycobacterium smegmatisのWecAに対するCPZEN−45の阻害活性)
結核菌と近縁であるMycobacterium smegmatisのWecAに対するCPZEN−45の阻害活性を以下のようにして、試験した。
<酵素液の調製>
M. smegmatis mc155株(ATCCより入手)をグリセロール−アラニン培地で対数期まで培養し、その菌体 10gを30mLのAバッファーに懸濁し、超音波破砕機(Soniprep 150; MSE Ltd., Crawley, Sussex, United Kingdom; 1cm probe)を用いて氷上にて60秒間破砕、90秒間静置の操作を10回繰り返した。この菌体破砕液を4℃、27,000gで12分間遠心後、上清を更に4℃、100,000gで60分間遠心することにより、WecAを含む細胞膜画分を得た。前記細胞膜画分を適量のAバッファーに再懸濁し、これを酵素液とした。
−グリセロール−アラニン培地−
グリセロール 20mL、バクトカジトン(Difco社製) 0.3g、クエン酸鉄(III)アンモニウム 0.05g、リン酸水素二カリウム 4.0g、クエン酸 2.0g、L−アラニン 1.0g、塩化マグネシウム六水和物 1.2g、硫酸カリウム 0.6g、塩化アンモニウム 2.0g、Tween80 0.2g、及びAntifoam A(Dow Corning社製) 0.05gを、1Lの脱イオン水に溶解し、NaOHでpHを6.6に調整した。
−Aバッファー−
50mM MOPS(KOHでpHを8.0に調整)、5mM 2−mercaptoethanol、10mM MgCl
【0097】
<WecAの酵素活性の測定>
下記酵素反応液(液量0.1mL)に前記CPZEN−45を所定量添加し、37℃で1時間静置することにより、酵素反応を行った。次いで、1mLのクロロホルム−メタノール(2:1)溶液を加えて反応を停止させ、激しく攪拌することにより、反応生成物を有機層に抽出した。前記反応生成物の適量を薄層クロマトグラフィー(TLC)に供し、オートラジオグラフィーにて検出した。結果を図10に示した。
−酵素反応液−
前記酵素液(1mgタンパク質相当分)、ATP 60μM、及び[14C]−UDP−GlcNAc 0.01μCi/μLを0.1mLの前記Aバッファーに含む液。
【0098】
図10中、「1」から「10」は、順に、CPZEN−45の添加量を、0μg/mL、0.00019125μg/mL、0.0003825μg/mL、0.000765μg/mL、0.00153μg/mL、0.00306μg/mL、0.00611μg/mL、0.01221μg/mL、0.02441μg/mL、0.048828μg/mLとした場合の結果を示し、「SF」は、展開溶媒の上端を示し、「Orig.」は、原点を示す。
オートラジオグラフを定量化した結果、IC50は、0.0044μg/mLと算出され、CPZEN−45は、結核菌と近縁であるMycobacterium smegmatisのWecAを阻害することが確認された。
B. subilisのTagOと、M. smegmatisのWecAと、M. tuberculosisのWecAとのアミノ酸配列の相同性を表4に示す。B. subilisのTagOと、M. smegmatisのWecAとは、同一の反応を触媒する酵素である。また、下記表4に記載されているように、B. subilisのTagO及びM. smegmatisのWecAと、M. tuberculosisのWecAとは、それぞれ、35.7%、86.0%の相同性を有している。更に、これらの酵素では、酵素反応に必須の領域のアミノ酸配列が極めて良く保存されている。即ち、これらの酵素は、互いにオルソログである。
そのため、CPZEN−45による抗菌作用は、結核菌のWecA乃至そのオルソログを標的とすることにより発揮されていると考えられた。
【0099】
【表4】
【0100】
(試験例6:WecA乃至そのオルソログ阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとの相乗効果)
菌株として、M. smegmatis 607株(ATCCより入手)を用い、下記薬剤の併用により、相乗効果が得られるか否かについて、以下のようにしてMICを測定し、FIC indexを算出することにより、試験した。結果を図11A図11Cに示した。
<MIC(最小発育阻止濃度)の測定>
前記MICは、マイクロブロス希釈法(microbroth dilution method)により測定した。具体的には、培地としてOADC含有 7H9broth培地を用い、96穴プレートで、1種又は2種の薬剤を2倍希釈系列で調製した溶液0.1mLに菌液を0.1mL加え混和し、37℃で3日間培養し、測定した。
<薬剤の組合せ(薬剤A及び薬剤B>
(1) 薬剤A:CPZEN−45(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)、薬剤B:カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)
(2) 薬剤A:ツニカマイシン(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)、薬剤B:リファンピシン(RNA合成阻害剤)
(3) 薬剤A:カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)、薬剤B:リファンピシン(RNA合成阻害剤)
【0101】
<FIC index(Fractional inhibitory concentration index)>
FIC indexは、下記式(1)から算出した。
FIC index=(薬剤AのFIC+薬剤BのFIC)の最小値 ・・・ 式(1)
薬剤AのFIC=薬剤Aと薬剤Bとの組合せにおけるMIC/薬剤A単独におけるMIC
薬剤BのFIC=薬剤Bと薬剤Aとの組合せにおけるMIC/薬剤B単独におけるMIC
前記FIC indexの数値から、薬剤の併用による効果を判断することができる。
FIC index≦0.5 ・・・ 相乗効果である(synergetic)。
0.5<FIC index≦1 ・・・ 相加効果である(additive)。
1<FIC index≦2 ・・・ 不関である(indifferent)。
FIC index>2 ・・・ 拮抗作用である(antagonistic)。
【0102】
図11Aは、CPZEN−45と、カプラザマイシンBとの組合せの結果を示し(縦軸:CPZEN−45、横軸:カプラザマイシンB)、図11Bは、ツニカマイシンと、リファンピシンとの組合せ(縦軸:ツニカマイシン、横軸:リファンピシン)の結果を示し、図11Cは、カプラザマイシンBと、リファンピシンとの組合せ(縦軸:カプラザマイシンB、横軸:リファンピシン)の結果を示す。また、図11A図11C中、着色部は「生育可能(viable)」を示し、非着色部は「生育不可(non−viable)」を示す。
図11A図11Cの結果から、CPZEN−45(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)と、カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)との組合せ(FIC index=0.095〜0.375)、ツニカマイシン(WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤)と、リファンピシン(RNA合成阻害剤)との組合せ(FIC index=0.281)では、併用による相乗効果が認められた。
一方、カプラザマイシンB(MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤)と、リファンピシン(RNA合成阻害剤)との組合せ(FIC index=1〜2)では、相乗効果は認められなかった。
以上から、WecA乃至そのオルソログ阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかとを併用することにより、非常に優れた抗抗酸菌作用が得られることがわかった。
【受託番号】
【0103】
FERM BP−7218
【0104】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤と、MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤、及びRNA合成阻害剤の少なくともいずれかと、を併用することを特徴とする併用抗抗酸菌薬である。
<2> WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤が、下記構造式(1)で表される化合物を含み、
MurX乃至そのオルソログの活性阻害剤が、下記構造式(2)で表される化合物を含む前記<1>に記載の併用抗抗酸菌薬である。
【化6】
【化7】
構造式(2)中、「Me」は、メチル基を表す。
<3> WecA乃至そのオルソログの活性阻害剤が、ツニカマイシンを含み、
RNA合成阻害剤が、リファンピシンを含む前記<1>に記載の併用抗抗酸菌薬である。
<4> 抗酸菌が、結核菌である前記<1>から<3>のいずれかに記載の併用抗抗酸菌薬である。
<5> WecA乃至そのオルソログに対する被験物質の活性を測定する工程を含むことを特徴とする抗抗酸菌薬のスクリーニング方法である。
<6> 抗酸菌が、結核菌である前記<5>に記載の抗抗酸菌薬のスクリーニング方法である。
<7> 下記構造式(1)で表される化合物を含むことを特徴とするWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤である。
【化8】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の併用抗抗酸菌薬は、抗酸菌に対して優れた薬効を有しており、現在非常に大きな問題となっている結核菌に感染した患者の治療に好適に用いることができる。
本発明のスクリーニング方法によれば、優れた抗抗酸菌作用を有する抗抗酸菌薬を得ることができる。
本発明のWecA乃至そのオルソログの活性阻害剤は、前記抗抗酸菌薬の有効成分や、本発明のスクリーニング方法における試薬としても好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]