(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ペリクル膜について
本発明のペリクル膜は、リソグラフィー;特にEUV光等の短波長の露光光を用いたリソグラフィーに好ましく用いられる。本発明において、EUV光とは、波長5nm〜30nmの光をいう。EUVリソグラフィーの露光光は、波長5nm〜30nmの光とすることができ、より好ましくは波長5nm〜13.5nmの光である。
【0014】
従って、本発明のペリクル膜は、EUV光などの短波長の光に対して高い透過率を有することが求められる。即ち、本発明のペリクル膜は、波長13.5nmの光の透過率が、50%以上である有機化合物薄膜からなることが好ましい。有機化合物薄膜とは薄膜を構成している化合物が炭素と水素の2元素を含んでいるものをいう。また有機化合物薄膜は炭素と水素以外にも窒素、酸素、硫黄、リン、ハロゲンのうち少なくとも一種類以上の元素を含んでいてもよい。上記透過率は、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがより好ましい。上記透過率が高いほど、露光時のEUV損失量が少なくなり好ましい。
【0015】
ペリクル膜を透過する光の透過率は、ペリクル膜を構成する有機化合物薄膜の厚みd、密度ρ、及び有機化合物薄膜の質量吸光係数μに基づき、以下のように算出できる。
透過率Tは以下の式(1)で定義される。
【数1】
式(1)中、Iは透過光強度、I
0は入射光強度を示す。透過光強度I及び入射光強度I
0、有機化合物薄膜の厚みd、密度ρ、及び有機化合物薄膜の質量吸光係数μには、以下の式(2)で表される関係が成り立つ。
【数2】
【0016】
式(2)における密度ρは有機化合物薄膜を構成する物質固有の密度である。また、上記式(2)における質量吸光係数μは、以下のように求められる。光子のエネルギーがおよそ30eVより大きく、なおかつ光子のエネルギーが原子の吸収端から十分に離れている場合、質量吸光係数μは原子どうしの結合状態等に依存しない。波長13.5nmの光子エネルギーは、92.5eV付近であり、原子の吸収端からも十分に離れている。よって、上記質量吸光係数μは、有機化合物薄膜を構成する化合物の原子同士の結合状態に依存しない。そのため、ペリクル膜を構成する有機化合物薄膜全体の質量吸収係数μは、有機化合物薄膜を構成する各元素(1,2,・・・,i)の質量吸収係数μ
1と、各元素の質量分率W
iとから、以下の式(3)で求められる。
【数3】
上記W
iは
、W
i=n
iA
i/Σn
iA
iで求められる値である。A
iは各元素iの原子量、n
iは各元素iの数である。
【0017】
上記式(3)における各元素の質量吸収係数μ
iは、Henkeらによってまとめられている以下の参考文献の値を適用できる。(B. L. Henke, E. M. Gullikson, and J. C. Davis, “X-Ray Interactions:Photoabsorption, Scattering, Transmission, and Reflection at E = 50-30,000 eV, Z = 1-92,” At. Data Nucl. Data Tables 54, 181 (1993) これらの数値の最新版はhttp://www.cxro.lbl.gov/optical_constants/に掲載されている。)
【0018】
ペリクル膜を構成する有機化合物薄膜全体の質量吸収係数μ、有機化合物薄膜の密度ρ、及び有機化合物薄膜の厚みdが特定できれば、式(1)及び式(2)に基づき、ペリクル膜を構成する有機化合物薄膜の波長13.5nmの光の透過率を算出できる。なお、上記透過率は、ローレンスバークレー国立研究所のX線光学センターの光学定数ウェブサイトでも計算できる。
【0019】
ここで、有機化合物薄膜に含み得る代表的な元素の質量吸収係数μ
iを、水素の質量吸収係数μ
iを1として相対的に表すと、H(水素)=1、C(炭素)=24、N(窒素)=50、O(酸素)=93、F(フッ素)=141、珪素=14となる。
【0020】
上記元素質量吸収係数μ
iを鑑みれば、炭化水素(炭素及び水素)のみからなるペリクル膜のEUV光等の露光光の透過率は高くなる。一方で、窒素、酸素、フッ素を多く含む膜は、透過性が低くなる。そこで、ペリクル膜に適用する薄膜の種類と厚みは、上記有機化合物薄膜が含む元素の種類、及び上記記元素質量吸収係数μ
iを勘案し、適宜選択することができる。例えば、ペリクル膜の厚みを厚くする場合には、炭化水素のみからなる有機化合物薄膜を選択すればよい。また窒素、酸素、フッ素を多く含む有機化合物薄膜をペリクル膜とする場合は、厚みを比較的薄くする。このように、ペリクル膜を透過する光の透過率は、ペリクル膜の材質と厚みによって調整されうる。
【0021】
また、露光光を波長13.5nm以外の波長の光とする場合にも、上記の方法で有機化合物薄膜の材料、厚さを調整すればよい。波長13.5nm以下の光を露光光とする場合には、波長13.5nmの光の透過率が50%以上であれば、例えばEUVリソグラフィー用ペリクルとして問題なく使用できる。例えば、厚さ100nmのピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)からなるポリイミドフィルムは、波長13.5nmの光の透過率が56%であり、波長6.75nmの光の透過率は88%である。また厚さ100nmの高密度ポリエチレンフィルムは、波長13.5nmの光の透過率が77%であり、波長6.75nmの光の透過率は95%である。一方、波長13.5nmより長い波長の光を露光光とする場合には、露光光の波長を13.5nmとする場合より、ペリクル膜の厚みを薄くする、もしくは透過率の高い材料を選択することが好ましい。
【0022】
ただし、ペリクル膜の厚みは、上記透過率と併せて、膜の強度、及び自立性を勘案して設定することが好ましい。ペリクル膜の好ましい厚みは、ペリクル膜を構成する有機化合物薄膜の透過率により適宜選択され、通常、10〜300nm程度であり得る。ペリクル膜が自立可能とは、ペリクル枠に貼付した際に、破れや皺や弛みができないことをいう。
【0023】
ペリクル膜の厚み均一性や表面粗さは、特に問わない。EUV等の露光光の照射によるパターニング工程において、膜厚みの不均一性や表面粗さに由来した透過率の不均一性やEUV光等の露光光の散乱による支障が生じなければ、膜厚みが不均一であっても、表面粗さがある程度あってもよい。
【0024】
有機化合物薄膜が自立膜ではない場合、膜に自立性を持たせるために、ペリクル膜は、有機化合物薄膜と、有機化合物薄膜を支持するための支持部材とを有しうる。支持部材の例には、シリコン、金属等からなるメッシュ状の基板、金属ワイヤ等があげられる。メッシュ状の基板の隙間を有機化合物薄膜で埋めこんで膜状にすることでペリクル膜とすることができる。また、有機化合物薄膜を支持部材に積層してもよい。有機化合物薄膜は、支持部材のEUV入射面、入射面の逆側の面のいずれに積層してもよい。ただし、支持部材を用いると、支持部材の被覆面積分だけ透過率が減少することに加え、支持部材の形状によっては透過率が不均一になることが懸念される。
【0025】
そのため、有機化合物薄膜は、自立膜である樹脂薄膜(高分子フィルム)であることが好ましい。樹脂薄膜とは、分子量が10000以上である多数の原子が共有結合で繋がった化合物からなる薄膜をいい、複数のモノマーが重合してできた樹脂を含む。樹脂薄膜を構成する元素は炭素と水素の2種類を含んでおり、炭素と水素以外にも窒素、酸素、硫黄、リン、ハロゲンのうち少なくとも一種類以上の元素を含んでいてもよい。樹脂薄膜は、分子鎖が絡み合いを形成するため、薄膜の強度が高く、破れにくい。膜の強度を高め、ペリクル膜を自立可能にするためには、樹脂薄膜の厚みを、10〜300nmとすることが好ましく、10〜100nmとすることがより好ましい。
【0026】
ペリクル膜を構成する樹脂は、ガラス転移温度または融点が150℃以上であることが好ましく、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。ペリクル膜を構成する樹脂が、融点及びガラス転移温度の両方を有する場合には、融点が150℃以上であることが好ましい。EUV光等の露光光を照射中、ペリクル膜を構成する樹脂に吸収されたEUV光等の露光光は熱に変換され、一時的に250℃以上の温度に達すると見込まれる(
図1参照)。そのため、ペリクル膜を構成する樹脂の融点が150℃を下回ると、EUV照射時に発生した熱で樹脂が流動し、EUV光等の露光光の照射領域に皺が生じたり、穴があいたりする可能性がある。樹脂の融点及びガラス転移温度は、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、JIS K7121(1987)に準拠した方法で測定されうる。昇温速度は10℃/分としうる。
【0027】
図1は、照射強度5W/cm
2のEUV光を、透過率90%、膜厚み20nm、放射率0.01のペリクル膜に10msec照射したときのペリクル膜の温度と経過時間の関係を示すグラフである。このグラフは、ペリクル膜に吸収されたEUV光が全て熱に変わると仮定して、数値計算によって求めたものである。
図1に示されるように、ペリクル膜の温度は、EUV光が照射されている0〜10msecの間で450℃まで上昇し;EUV光が照射されなくなると(10msec以降)、ペリクル膜の温度が下がることがわかる。このように、EUV照射中のペリクル膜は高温になると予想されるため、ペリクル膜は高い耐熱性を有することが求められる。
【0028】
ペリクル膜を構成する樹脂は、分子内に芳香環やイミド環などの共役構造を含むことがより好ましい。樹脂を構成する分子内に、共役構造を含む化合物は、吸収した電離放射線のエネルギーを分子内で非局在化させる。したがって、このような化合物は、EUV光等の露光光の照射によっても構造変化し難く、露光光の照射による劣化等が少ない。
【0029】
ペリクル膜を構成する樹脂中のフッ素元素の量は、少ないことが好ましい。前述のように、フッ素は、高い質量吸収係数を有するため、フッ素元素を多量に含むと、ペリクル膜の透過率が低下する。また、フッ素元素を含む官能基はEUV光等の露光光の照射により構造変化を生じやすく容易に分解する。そのため、樹脂中のフッ素元素の量は少ないことが好ましい。特に、樹脂の骨格となる構造部分にはフッ素元素が少ないことが好ましい。樹脂の骨格となる構造部分とは、例えば鎖状ポリマーの場合は主鎖部分を指す。この部分にフッ素元素が存在すると、EUV光等の露光光の照射による骨格構造変化が生じやすい傾向にある。また、分解物がアウトガスとして放出されるとともに膜強度が低下するおそれがある。一方、枝分かれ構造部分に存在するフッ素元素はEUV光等の露光光の照射によって分解し、アウトガスを放出するが、樹脂の骨格が構造変化するおそれは少ない。
【0030】
これらの特性を満たす、ペリクル膜を構成する樹脂の好ましい例には、芳香族ポリイミド、脂肪族ポリイミド、架橋ポリエチレン、架橋ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、パリレン、及びヘテロ芳香環を含む高分子化合物が含まれる。ヘテロ芳香環を含む高分子化合物の例には、芳香族ポリベンザゾールや、トリアジン構造を有する高分子化合物などが含まれる。ペリクル膜には、1種の樹脂のみが含まれてもよく、2種以上の樹脂が含まれてもよい。さらに、これらの樹脂の共重合体であってもよい。
【0031】
露光光の照射による構造変化が生じにくく、かつ耐熱性が高い観点では、芳香族ポリイミド、(芳香環を含む)脂肪族ポリイミド、架橋ポリスチレン、芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルフォン、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルサルフォン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族系液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、芳香族ポリベンザゾール、及びパリレンなどの芳香環を有する樹脂が好ましい。
【0032】
芳香族ポリベンザゾールとは、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有する樹脂である。
【化2】
【0033】
上記一般式(A)中、Xはそれぞれ独立に、S原子、O原子またはNH基を示す。XがS原子のものをベンゾチアゾール、XがO原子のものをベンゾオキサゾール、XがNH基のものをベンゾイミダゾールという。アゾール環において、N原子及びX原子の位置関係は、トランスであってもシスであってもよい。上記一般式(A)におけるRはベンゼン、ナフタレン、アントラセン、またはビフェニルである。また、上記一般式(A)におけるR’は、下記の化学式で表されるいずれかの基である。芳香族ポリベンザゾール樹脂中に含まれる、一般式(A)で表される繰り返し単位は、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化3】
【0034】
これらの中でも、良好な透過率と耐熱性を両立しやすいことなどから、芳香族ポリイミドまたは脂肪族ポリイミドが好ましい。
【0035】
芳香族ポリイミドは、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【化4】
【0036】
一般式(1)におけるAは、下記一般式で表される2価の基から選ばれる。
【化5】
【0037】
上記一般式におけるZ
1〜Z
10はそれぞれベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンである。X
1〜X
6はそれぞれ、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−SO
2−または−NHCO−である。複数のAに含まれるZ
1〜Z
10およびX
1〜X
6は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
一般式(1)におけるAは、芳香族ジアミンから誘導される2価の基でありうる。芳香族ジアミンの例には、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4'-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホキシド、1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、3,3'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどが含まれる。これらは、単独で含まれてもよく、複数種類が含まれてもよい。中でも、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルがより好ましく、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルがさらに好ましい。
【0039】
上記一般式(1)におけるBは、下記式で表される4価の基から選ばれる。
【化6】
【0040】
上記式におけるW
1〜W
10はベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンまたはペリレンである。また、Y
1〜Y
5はそれぞれ、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−SO
2−または−NHCO−である複数のBに含まれるW
1〜W
10、およびY
1〜Y
5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
一般式(1)におけるBは、テトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基、好ましくは芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基でありうる。芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4−ビフェニル−テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物などが含まれる。中でも、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4−ビフェニル−テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がさらに好ましい。
【0042】
芳香族ポリイミドは、所望の物理的性質等を損なわない範囲で、前記芳香族ジアミンから誘導される基以外の他のジアミン(他の芳香族ジアミンや脂肪族ジアミンなど)から誘導される2価の基、及びテトラカルボン酸二無水物から誘導される基以外の他のテトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基を一種以上含んでいてもよい。芳香族ポリイミドにおける、他のジアミンから誘導される2価の基の含有割合は、ジアミンから誘導される2価の基全体に対して40質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは0質量%としうる。同様に、他のテトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基の含有割合は、テトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基全体に対して40質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは0質量%としうる。
【0043】
脂肪族ポリイミドは、脂肪族ジアミンと、テトラカルボン酸無水物とを反応させて得られる繰り返し構造単位を含む樹脂でありうる。脂肪族ジアミンには、脂環式ジアミンも含まれる。
【0044】
脂肪族ジアミンの例には、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどのアルキレンジアミン類;
ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス[(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルなどのエチレングリコールジアミン類;
シクロヘキサンジアミン、2,5−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンおよび2,6−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなどの脂環式ジアミン類等が含まれる。なかでも、ポリイミドを含む樹脂薄膜の光の透過率を高める観点からは、脂環式ジアミンが好ましい。
【0045】
テトラカルボン酸二無水物は、前述の芳香族ポリイミドを得るためのテトラカルボン酸二無水物と同様であり、耐熱性を確保する観点などから、好ましくは芳香族テトラカルボン酸二無水物でありうる。
【0046】
脂肪族ポリイミドは、脂肪族ジアミンから誘導される基以外の他のジアミン(例えば前述の芳香族ジアミンなど)から誘導される2価の基をさらに含みうる。脂肪族ポリイミドにおける、他のジアミンから誘導される2価の基の含有割合は、ジアミンから誘導される2価の基全体に対して40質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは0質量%としうる。
【0047】
また、芳香族ポリイミドや脂肪族ポリイミド等を始めとするペリクル膜を構成する樹脂は、EUV光等の露光光の照射によって構造変化が生じないことが好ましい。具体的には、これらの樹脂は、3級炭素を含まない鎖状ポリマー、3級炭素を含まない鎖状ポリマーの架橋物、または3級炭素全てに芳香環が直接結合しているポリマーのいずれか一種であることが好ましい。「3級炭素を含まない鎖状ポリマーの架橋物」とは、「3級炭素を含まない鎖状ポリマー」が架橋した架橋物を意味する。ペリクル膜を構成する樹脂にEUV光等の露光光が照射されると、樹脂中の炭素、酸素または窒素の内殻の電子とEUV光が相互作用し、それらの原子核は二次電子を放出してイオン化したり、ラジカル種や電子励起種が生成したりする。ここで鎖状ポリマーの3級炭素を含むC−C結合は、イオン種やラジカル種、励起種によって架橋反応や分解反応を生じやすく、分子構造が変化しやすい。一方で、3級炭素を含まない鎖状ポリマーが架橋して生じた3級炭素や、芳香環に直接結合した3級炭素を含むC−C結合は、鎖状ポリマーの3級炭素を含むC−C結合に比べて架橋反応や分解反応を生じにくい。したがって、これらは3級炭素を含んでいてもよい。
【0048】
芳香族ポリイミドは高い耐熱性を有するため、高温になっても流動を生じにくい。また、芳香族ポリイミドは3級炭素を持たず、イミド環や芳香環などの共役構造を分子鎖内に有するため、吸収されたEUV光等の露光光のエネルギーを非局在化させることで構造変化を抑制することができる。さらに、芳香族ポリイミドは、超高真空中のような不活性雰囲気下においては、熱分解温度を超える高温下であっても、架橋反応を生じやすい。具体的には、熱分解温度を超える高温下であっても、芳香族ポリイミド自体が分解してポリイミド骨格からラジカルを発生し、当該ラジカルを有するポリイミドが架橋反応を生じやすい。そのため、架橋反応の生成物(残渣)が膜として残ることができるので、透過率の変動を抑制することができる。従って、ポリイミドの中でも、芳香族ポリイミドが特に好ましい。
【0049】
樹脂薄膜中の上記樹脂の含有割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%としうる。
【0050】
樹脂薄膜は、酸化や紫外光およびEUV光等の露光光に対する耐久性を高める方法として、添加剤をさらに含んでいてもよい。ここで添加剤とは、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤などをいう。膜に吸収された紫外線やEUV光によって、樹脂の分子鎖に発生したラジカル種を添加剤が捕捉することによって、紫外光およびEUV光に対して化学的な安定性を高めることができる。また、膜に吸収されたEUV光が熱に変わり、熱によって樹脂の分子鎖にラジカル種が生成しても、これらの添加剤がラジカルを捕捉することによって分子構造の変化を抑制し、EUV耐性を高めることができる。
【0051】
添加剤の例には、グラフェンやグラファイトなどの炭素材料や、金属ナノ粒子などが含まれる。グラファイトやグラフェンなどの炭素材料は、分子内に共役系を有しており、ポリイミドに吸収されたEUV光のエネルギーをグラファイトやグラフェンへ移動させることによって、ポリイミド分子鎖の反応を抑制することができる。また、グラフェンやグラファイトなどの炭素材料や、金属ナノ粒子などの添加剤は、樹脂薄膜の強度を高めることができる。そのため、ポリイミド樹脂を変性させた場合でも膜の強度低下を抑制することができる。
【0052】
樹脂薄膜の製造方法
樹脂薄膜の製造方法は、特に制限されないが、溶媒への可溶性や、ガラス転移温度、融点、延伸特性などの性質に応じて、適切な製膜方法を選ぶことができる。例えば、溶媒に可溶な樹脂を用いる場合は、スピンコート法や溶液流延法を採用することが好ましい。一方、溶媒に不溶であり熱により流動軟化する樹脂を用いる場合には、1軸延伸や2軸延伸、溶融押出成型法などの方法を採用することが好ましい。
【0053】
樹脂薄膜の製造方法は、樹脂の配向や熱収縮に起因した残留応力が少ない手法を選定することが望ましい。樹脂薄膜内部に残留応力が少なければ、EUV光等の露光光の照射中に高温になった樹脂薄膜の残留応力はわずかしか開放されず、樹脂薄膜はほとんど変形・流動せずに薄膜の形状を維持することが可能性となる。
【0054】
残留応力が少ない樹脂薄膜の製造方法は、スピンコート法や溶液流延法が望ましい。スピンコート法や溶液流延法では、樹脂溶液を基板上に塗布するため、塗布時に加えられた外力はすぐに緩和され、分子鎖の配向はほとんど生じず、得られる樹脂薄膜は残留応力が低くなりやすい。一方、1軸延伸や2軸延伸、溶融押出成型法では、樹脂に外力を加えて樹脂を変形させて樹脂薄膜を得るため、樹脂の分子鎖が配向しやすく、得られる樹脂薄膜は高い残留応力を有しやすい。
【0055】
例えば、ポリイミドからなる樹脂薄膜は、ポリイミド前駆体溶液をスピンコート法などで基材(ウエハ等)上に塗布した後、乾燥およびイミド化させて薄膜を得た後;該薄膜を基材から剥離して得ることができる。ポリイミド前駆体溶液は、前述のジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを、N,N-ジメチルアセトアミドやN-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性溶媒存在下で反応させて得ることができる。スピンコート法などで薄くて均一な厚みに塗布しやすくする観点から、当該ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は、0.1〜10質量%程度、好ましくは0.5〜5質量%程度としうる。
【0056】
スピンコートや溶液流延法により、基板上に塗布された樹脂薄膜は、基板から剥離することで樹脂薄膜の自立膜を得ることができる。基板から樹脂薄膜を剥離する方法は、破れ、皺、膜厚みの不均一性がなく、EUVリソグラフィーに支障の無い膜が得られれば、特に制限されないが、例えば基板上に犠牲層を積層した後に除去する方法;基板に表面処理を施す方法;樹脂薄膜に離型剤を添加する方法;基板をエッチングまたは溶解させる方法などが挙げられる。
【0057】
1)基板上に犠牲層を積層し後に除去する方法
基板上に犠牲層を積層し、その上にペリクル膜を製膜して、後で犠牲層を除去することで自立膜を得ることができる。犠牲層は、金属、酸化膜、樹脂、塩などであってよく;特定の処理方法で除去できる材質とすることができる。例えば、犠牲層は、酸性溶液に溶けるアルミニウムなどの金属でありうる。具体的には、蒸着やスパッタなどでガラス基板やシリコンウェハの表面に金属層を積層し、さらに金属層の上にペリクル膜を積層した後に、酸性溶液など金属層を溶かすことができる溶液に浸漬することによって、基板からペリクル膜を剥離することができる。
【0058】
基板として自然酸化膜を有するシリコンウェハを用いた場合には、シリコンウェハ上にペリクル膜をコーティングした後に、フッ酸水溶液に浸漬することによって自然酸化膜を除去し、基板からペリクル膜を剥離することもできる。
【0059】
基板に積層する犠牲層を、部分けん化ポリビニルアルコール樹脂や塩化ナトリウムなどの塩のような水溶性材料としてもよい。犠牲層の上にペリクル膜を積層した後に、積層体を水に浸漬することによって、基板からペリクル膜を剥離することができる。
【0060】
基板上に積層した犠牲層を除去する方法を選定する上で、ペリクル膜のプロセス耐性、膜強度、犠牲層の除去速度、犠牲層の膜厚み均一性や表面粗さなどの特徴に応じて、もっとも適切な任意の手法を選定することができる。
【0061】
2)基板をエッチングまたは溶解させる方法
基板の材質を、特定の処理方法で除去できる材質(例えば金属、酸化膜、樹脂、塩など)とした場合には、基板の上にペリクル膜を積層した後に、基板をエッチングまたは溶解させることで、ペリクル膜を得ることができる。
【0062】
例えば、基板として銅箔を用いた場合、銅箔表面にペリクル膜を積層した後に、塩化第二銅エッチング液に浸漬することで、銅箔基板をエッチングし、ペリクル膜を基板から剥離することができる。
【0063】
基板をガラス基板とした場合、ガラス基板にペリクル膜を積層した後に、フッ化水素酸を用いてガラスをエッチングし、ガラス基板からペリクル膜を剥離することができる。
【0064】
基板をシリコンウェハとした場合、シリコンウェハにペリクル膜を積層した後に、ウェットエッチングまたはドライエッチングにより、シリコンウェハをエッチングして、シリコンウェハからペリクル膜を剥離することができる。ウェットエッチングは、KOHやTMAH、ヒドラジンなどのエッチング液を用いることができる。ドライエッチングは、フッ素系(SF
6、CF
4、NF
3、PF
5、BF
3、CHF
3)、塩素系(Cl
2、SiCl
4)、臭素系(IBr)などのエッチングガスを用いることができる。ウェットエッチング速度は、温度によって変化するため、シリコンウェハ上の薄いペリクル膜に損傷を与えないようにエッチングするためには、液温を下げエッチングレートを下げることが好ましい。
【0065】
基板を塩化ナトリウムなどの塩からなる基板とした場合、基板表面にペリクル膜を積層した後に、水に浸漬して基板をエッチングし、基板からペリクル膜を剥離することができる。基板をプラスチック基板とした場合、プラスチック基板表面にペリクル膜を積層した後に、プラスチック基板を可溶な溶媒に浸漬することでプラスチック基板をエッチングし、プラスチック基板からペリクル膜を剥離することができる。
【0066】
3)離型剤を用いる方法
基板と樹脂薄膜との界面に、ごく薄い離型剤の層を導入することによって、基板と樹脂薄膜の界面の剥離性を高めることができる。離型剤は、基板に塗布または添加してもよいし;樹脂溶液に添加してもよい。離型剤の基板または樹脂溶液中の濃度は、離型剤がブリードアウトや相分離を起こして樹脂薄膜のヘイズや汚染を生じさせない程度に調整することが望ましい。樹脂薄膜を剥離する方法は、特に制限されず、機械的に剥離する方法や、液体表面に浮かせて剥離する方法など任意の方法を選択することができる。
【0067】
4)基板の表面上を剥離しやすいように前処理を施す方法
基板に表面処理を施すことで、ペリクル膜と基板面との相互作用を制御し、溶媒への浸漬や機械的な剥離プロセスにより、基板からペリクル膜を容易に剥離することができる。ペリクル膜と基板面との相互作用を制御する方法として、例えばシランカップリング剤による表面処理方法が挙げられる。そのほかには、水や有機溶媒、ピラニア水、硫酸、UVオゾン処理、などにより基板表面を洗浄する方法が挙げられる。基板をシリコンウェハとする場合には、過酸化水素水と水酸化アンモニウムの混合液や、塩酸と過酸化水素水の混合液など、RCA洗浄法で用いられる溶液などを使用することができる。
【0068】
犠牲層の製膜、基板上の表面処理は、基板をエッチングまたは溶解させる方法を、それぞれ組み合わせて用いてもよい。犠牲層や表面処理に用いられる物質は、ペリクル膜の表面や内部に残りにくく、また残っても容易な方法で除去できるものが望ましい。例えば、ガスによるエッチング、熱による蒸発、溶媒による洗浄、光による分解除去などがあり、それらを組み合わせて除去を実施してもよい。
【0069】
樹脂薄膜の物性
(透過率)
樹脂薄膜の波長13.5nmの光の透過率は、前述の通り、50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上でありうる。樹脂薄膜の透過率を高めるためには、例えば樹脂薄膜の厚みを100nm以下(好ましくは80nm以下)と小さくしたり;脂環式ジアミンから誘導される基を含むポリイミドを選択したりすることが好ましい。
【0070】
また、波長13.5nmの光を90mW/cm
2で10分間、好ましくは80分間照射後の樹脂薄膜の波長13.5nmの光の透過率の変化率(=|照射前の透過率−照射後の透過率|/照射前の透過率×100(%))は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下でありうる。樹脂薄膜の光の透過率の変化率を小さくするためには、樹脂薄膜を構成する樹脂を、耐熱性が高く、芳香環やイミド環などの共役構造を有し、かつ3級炭素を含まない樹脂(例えば芳香族ポリイミド)とすることが好ましい。
【0071】
(水分・残留溶媒量)
樹脂薄膜に含まれる水分は、できる限り低減されていることが望ましい。水分子に対してEUV光等の露光光が照射されると、水分子を構成する酸素原子や水素原子がイオン化したりラジカルを生じたりする。そのため、樹脂薄膜内部に吸着水が数多く存在すると、それらの水分子がEUV光等の露光光を吸収した結果、樹脂薄膜の劣化を促進させる要因となる。また、樹脂薄膜内の水分子が超高真空中でアウトガスとなって放出されると、その水分子がEUVを吸収し、イオンやラジカル種となって露光装置内の部材を劣化させる要因となる。
【0072】
樹脂薄膜に含まれる水分を低減する方法としては、水蒸気を含まない乾燥雰囲気下に樹脂薄膜を曝す方法や;樹脂薄膜をベーク処理して乾燥させる方法などが挙げられる。
【0073】
樹脂薄膜は、水分だけでなく、残留溶媒も同様に低減されていることが好ましい。樹脂薄膜に含まれる残留溶媒を低減する方法は、前述と同様でありうる。
【0074】
(膜強度)
基板上の樹脂薄膜の強度の評価方法としては、ナノインデンターによる評価方法が挙げられる。自立膜である樹脂薄膜の膜強度の評価方法としては、共鳴法やバルジ試験法、エアブローによる膜の破れの有無の評価法、振動試験による膜の破れの有無の評価法等が挙げられる。
【0075】
2.ペリクル
本発明のペリクル膜を、従来のペリクル膜と同様にペリクル枠に貼付して、ペリクル(以下、単に「ペリクル」ともいう)とする。
図2は、ペリクルを模式的に示す図である。
図2に、本発明のペリクルの一例を示す。ペリクル10は、ペリクル膜12と、ペリクル膜12の外周を支持するペリクル枠14とを含む。ペリクル膜12は、前述のペリクル膜である。従って、本発明のペリクルは、特にEUVリソグラフィー用ペリクルとして好適である。
【0076】
ペリクル膜12は、ペリクル枠14に直接貼り付けられていてもよいし;ペリクル枠14の一方の端面にある膜接着剤層13を介して貼り付けられていてもよいし;機械的に固定または磁石などの引力を利用して固定されていてもよい。
図2では、ペリクル膜12が、膜接着剤層13を介して貼り付けられた例を示す。
【0077】
一方、ペリクル枠14を原版(不図示)に接着するため、ペリクル枠14のもう一方の端面には、原版用接着剤層15を設けている。なお、
図2に示すペリクル10は、原版用接着剤層15を介して原版に設置される。ただし、原版表面に異物が付着しないように、ペリクル10を配置可能であれば、ペリクル10の配置方法は特に制限されず、ペリクル10に原版用接着剤層15が含まれなくてもよい。
【0078】
ペリクル膜12を構成する樹脂薄膜に自立性がない場合には、樹脂薄膜を支持するための支持部材(図示せず)を樹脂薄膜と積層してもよい。支持部材は、樹脂薄膜の原版側に配設してもよく、EUVなどの露光光の入射面側に配設してもよい。支持部材の例には、シリコン、金属等からなるメッシュ状の基板、金属ワイヤ等が含まれる。ただし、樹脂薄膜が自立性を有する場合には、EUV光等の露光光の照射面内の露光光の透過率を均一にする観点から、支持部材を配設しないことが好ましい。
【0079】
また、ペリクル膜12表面に、EUV光等の露光光の透過を阻害しない範囲で、酸化防止膜を形成してもよい。酸化防止膜は、SiOx(x≦2)、SixNy(x/yは0.7〜1.5)、SiON、SiC、Y
2O
3、YN、Mo、RuまたはRhからなる膜等でありうる。
【0080】
また、ペリクル膜12表面に、EUV光等の露光光の透過を阻害しない範囲で、放熱膜を形成してもよい。放熱膜は、熱輻射率が高い材料や熱伝導性が高い材料からなる膜であることが好ましい。具体的には、酸化防止膜と同様の材料からなる膜や、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、グラファイト、グラフェンからなる膜等であり得る。酸化防止膜及び放熱膜は、ペリクル膜の一方の面に形成してもよく、両面に形成してもよい。
【0081】
酸化防止膜や放熱膜を積層すると、新たに生成した層界面;即ち、酸化防止膜または放熱膜と空気との界面、および酸化防止膜または放熱膜とペリクル膜との界面で、EUV光等の露光光の反射が生じるため、透過率の低下が生じやすい。これらの層界面でのEUV光等の露光光の反射率は、ペリクル膜と酸化防止膜または放熱膜の厚み、およびペリクル膜と酸化防止膜または放熱膜を構成する元素の種類が分かれば、計算により算出することができる。そして、一般的に使用される反射防止膜の原理と同様に、酸化防止膜や放熱膜の膜厚みを最適化することによって、反射率を低下させることができる。
【0082】
酸化防止膜や放熱膜の厚みは、吸収によるEUV光等の露光光の透過率低下と、反射によるEUV光等の露光光の透過率低下を抑制し、かつ酸化防止の性能が得られる範囲で最適な厚みとすることが望ましい。例えば、EUV光等の露光光の透過を阻害しないためには、酸化防止膜の厚みは1〜10nm程度が望ましく、2〜5nm程度がさらに望ましい。酸化防止膜の厚みが厚くなると、酸化防止膜にEUV光等の露光光が吸収されて、透過率が低下する場合があるため、望ましくない。
【0083】
酸化防止膜や放熱膜の厚みの均一性や表面粗さも、特に制限されない。EUV光等の露光光の照射によるパターニング工程の際に、酸化防止膜や放熱膜の膜厚の不均一性や表面粗さに由来する透過率のばらつきやEUV光の散乱などに支障がなければ、酸化防止膜や放熱膜は連続層であっても不連続層であってもよく、それらの膜厚が不均一であっても表面粗さがあってもよい。
【0084】
酸化防止膜や放熱膜は、スパッタや蒸着などの方法や;溶液を塗布・乾燥する方法など任意の方法で形成されうる。酸化防止膜や放熱膜をスパッタや蒸着などで形成する場合、ガス圧、製膜時間、基板温度などの製膜条件は、特に制限されない。
【0085】
片面に酸化防止膜や放熱膜が積層されたペリクル膜は、例えばスピンコート法などでシリコンウェハ上にペリクル膜を製膜し;該ペリクル膜上にスパッタリングなどの方法により酸化防止膜や放熱膜を積層した後;該積層物を水へ浸漬してシリコンウェハを剥離除去したり、シリコンウェハをエッチング除去したりする方法によって得ることができる。
【0086】
両面に酸化防止膜や放熱膜が積層されたペリクル膜は、例えば片面に酸化防止膜や放熱膜が積層されたペリクル膜の反対側の面に、スパッタリングなどの手法により酸化防止膜や放熱膜を積層する方法や;シリコンウェハなどの基板上にスピンコート法などで可溶性の犠牲層を製膜し、該犠牲層上にスパッタリングなどの方法で酸化防止膜や放熱膜をさらに積層し、該酸化防止膜や放熱膜上にスピンコート法などでペリクル膜をさらに積層し、該ペリクル膜上に再度スパッタリング法などで酸化防止膜や放熱膜をさらに積層した後、得られた積層物を水に浸漬してシリコンウェハを剥離除去したり、シリコンウェハをエッチング除去したりする方法などによって得ることができる。
【0087】
ペリクル膜12のEUV耐性は、ペリクル膜にEUVを照射したときの、照射部分と未照射部分について、各種の分析を行うことで確認することができる。例えば、XPS測定、EDS分析、RBSなどの組成分析の手法、XPS,EELS,IR測定やラマン分光などの構造解析の手法、エリプソメトリーや干渉分光法、X線反射法等などの膜厚み評価法、顕微鏡観察、SEM観察やAFM観察などの外観や表面形状評価方法などを用いることができる。放熱性については、コンピューターシミュレーションによる解析結果を組み合わせることで、より詳細な検討が可能である。
【0088】
また、EUV光に限らず評価項目に応じて、真空紫外線照射、赤外線照射、電子線照射、プラズマ照射、加熱処理などの方法を適宜選択し、ペリクル膜の耐性評価を実施してもよい。
【0089】
ペリクル枠14は、従来と同様のペリクル枠を採用することができ、アルミニウム、ステンレス、銅、ポリエチレン、セラミックス製の枠でありうる。ペリクル枠14には、ペリクル10及び原版(不図示)に囲まれた領域と、露光装置内との気圧を一定とするための通気孔16を設けることが好ましい。EUV光等による露光は、真空環境下で行われるため、これらの気圧が不均一であると、ペリクル膜12が、圧力差によって伸縮したり、破損したりするおそれがある。通気孔16には、ペリクル及び原版に囲まれた領域に異物が入らないよう、フィルターを配設することが好ましい。フィルターは、ULPAフィルターや、金属メッシュでありうる。
【0090】
膜接着剤層13は、ペリクル枠14とペリクル膜12とを接着する。膜接着剤層13は、例えばアクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、含フッ素シリコーン接着剤等のフッ素ポリマー等である。
【0091】
膜接着剤層13は、ペリクル膜12とペリクル枠14の少なくとも一方が接着性を有する場合は用いなくてもよい。ペリクル膜12とペリクル枠14の接着性の評価方法の例には、圧力、面積、距離、角度を変えてエアブローにより膜の破れや剥離の有無を評価する手法や、加速度、振幅を変えて振動試験により膜の破れや剥離の有無を評価する手法などが含まれる。
【0092】
原版用接着剤層15は、ペリクル枠14と原版(不図示)とを接着する。原版用接着剤層15は、例えば、両面粘着テープ、シリコーン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤等である。EUV露光時の真空度を保持する観点から、膜接着剤層13及び原版用接着剤層15は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価は、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いて行うことができる。
【0093】
膜接着剤層13および原版用接着剤層15は、露光装置内で散乱したEUV光等の露光光に曝されるため、EUV光等に対する耐性を有することが望ましい。EUV光等に対する耐性が低いと、EUV光等の露光中に接着剤の接着性や強度の低下が生じ、露光装置内部で接着剤の剥離や異物発生などの不具合が生じやすい。
【0094】
EUV光等の照射による耐性評価は、例えば、XPS測定、EDS分析、RBSなどの組成分析の手法;XPS,EELS,IR測定やラマン分光などの構造解析の手法;エリプソメトリーや干渉分光法、X線反射法等などの膜厚み評価法;顕微鏡観察、SEM観察やAFM観察などの外観や表面形状評価方法;ナノインデンターや剥離試験による強度および接着性評価方法などを用いて行うことができる。
【0095】
本発明のペリクルは、露光装置内で、原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、原版の保管時や、原版の運搬時に原版を保護するための保護部材としてもよい。
【0096】
リソグラフィーでは、回路パターンが正確に転写されることが必要である。従って、露光範囲において露光光の透過率がほぼ均一であることが必要である。本発明のペリクル膜を用いることで、露光範囲において一定の光線透過率を有するペリクルが得られる。
【0097】
本発明のペリクルは、前述のペリクル膜をペリクル枠に固定する工程を経て得ることができる。ペリクル膜をペリクル枠に固定する方法は、特に制限されない。
【0098】
基板から剥離したペリクル膜を、ペリクル枠と接触させて固定してもよい。具体的には、犠牲層あるいは基板のエッチング液面に浮いているペリクル膜に、液面の上からペリクル枠を接触させてペリクル膜をペリクル枠に固定し、ペリクル枠とペリクル膜を液面から引き上げることで、ペリクル枠に固定されたペリクル膜を得ることができる。
【0099】
液面からペリクル枠とペリクル膜を引き上げるときに、液面の表面張力や液体の粘性に由来した応力がペリクル膜およびペリクル枠に加わるため、引き上げる途中でペリクル膜が破れやすい。そこで、界面張力の低い液体を使用するか、界面活性剤を添加して液面の界面張力を低下させて引き上げの速度を遅くしたり;ペリクル膜を引き上げる角度を液面に対して垂直方向に近づけたりして、ペリクル膜に加わる応力を少なくすることによって、ペリクル膜を破れさせることなく液面から引き上げることができる。
【0100】
あるいは、基板に積層されたペリクル膜にペリクル枠を固定した後;ペリクル枠が固定されたペリクル膜を基板から剥離してもよい。ペリクル膜にペリクル枠を固定する方法は、特に制限されない。また、ペリクル枠が固定されたペリクル膜を基板から剥離する方法も、特に制限されず、犠牲層を用いる方法、基板をエッチングあるいは溶解させる方法、離型剤を用いる方法、基板表面処理を施す方法など、任意の手法を使用することができる。
【0101】
このように、ペリクル膜を基板から剥離する前に、ペリクル枠とペリクル膜を固定することで、ペリクル膜に皺やたるみを生じることなく、ペリクル膜をペリクル枠に固定することができる。一方で、ペリクル枠が固定されたペリクル膜を基板から剥離するときに、ペリクル枠の周辺に応力が集中する傾向があり、ペリクル膜がペリクル枠周辺を起点として破れやすいことがある。そこで、ペリクル枠とペリクル膜との間に応力を分散させるバッファー層をさらに設けることで、ペリクル膜が破れるのを防ぐことができる。
【0102】
あるいは、ペリクル膜が積層された基板の一部をエッチングして、基板をペリクル枠の一部としてもよい。即ち、基板上にペリクル膜を積層した後、基板のペリクル膜が積層された面とは反対側の面に枠のサイズに合わせてマスクを施し、枠の形状を残してエッチングまたは溶解させることで、基板の一部をペリクル枠とすることができる。そのような基板の材質としては、金属、シリコンウェハ、ガラス、樹脂、塩など特定の処理方法で除去できるものを用いることができる。
【0103】
3.露光原版
本発明の露光原版は、原版と、該原版に装着された本発明のペリクルとを有する。本発明の露光原版は、本発明のペリクルを備えるので、前述のペリクルと同様の効果を奏する。
【0104】
原版は、支持基板と、該支持基板上に積層された反射層と、該反射層上に積層された吸収体層とを含みうる。吸収体層がEUV光などの露光光の一部を選択的に吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に所望の像が形成される。反射層は、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜でありうる。吸収体層は、クロム(Cr)や窒化タンタル等、EUV光等の露光光の吸収性が高い材料で構成されうる。
【0105】
原版に付着した異物は、EUV光等の露光光を吸収または散乱させるため、感応基板(ウエハなど)の解像不良を引き起こす原因となる。したがって、ペリクルは、原版の露光光の照射エリアを覆うように装着されることが好ましい。
【0106】
原版にペリクルを装着する方法は、特に限定されない。例えば、原版にペリクル枠14を直接貼り付けてもよいし;原版にペリクル枠14を、該ペリクル枠14の一方の端面に形成された原版用接着剤層15を介して貼り付けてもよいし;機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用して原版とペリクル枠14とを固定してもよい。
【0107】
4.露光装置
本発明の露光装置は、露光光を放出する光源と、本発明の露光原版と、光源から放出された露光光を露光原版に導く光学系とを有する。本発明の露光原版は、前述の通り、原版と、それに装着されたペリクルとを有し;光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置される。本発明における露光光は、前述の通り、好ましくはEUV光などの露光光であり、より好ましくはEUV光である。
【0108】
このような露光装置を用いることにより、半導体装置を製造することができる。具体的には、1)光源から出射された露光光を、ペリクル(のペリクル膜)を透過させて原版に照射し、該原版で反射させるステップと;2)原版で反射された露光光を、ペリクル(のペリクル膜)を透過させて感応基板に照射し、感応基板をパターン状に露光するステップとを経て半導体装置を製造することができる。それにより、EUV光によって、感応基板上に微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できる。さらに、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良の少ないパターン露光を行うことができる。
【0109】
本発明のペリクルを、EUV露光装置内で使用する例を示す。
図3は、EUV露光装置の一例を示す概略断面図である。EUV露光装置は、EUVを出射する光源21と、光源21からの光を原版23に導く光学系22と、パターン状にEUVを反射する原版23およびそのEUV照射面側に装着されたペリクル10(原版23とペリクル10とを合わせて露光原版ともいう)とを含む。EUV露光装置では、原版23により反射された光が、感応基板24上に導かれ、感応基板24がパターン状に露光される。なお、EUV光等による露光は、減圧条件下で行われる。
【0110】
光源21は、光学系22に向けてEUVを出射する。光源21には、ターゲット材と、パルスレーザー照射部等が含まれる。このターゲット材にパルスレーザーを照射し、プラズマを発生させることで、EUVが得られる。ターゲット材をXeとすると、波長13〜14nmのEUVが得られる。光源21が発する光の波長は、13〜14nmに限られず、波長5〜30nmの範囲内の、目的に適した波長の光であればよい。
【0111】
また、EUVリソグラフィー時に光源21が発する光は、極めて高いエネルギーを有することが好ましい。ペリクル10のペリクル膜表面における、EUV光の照射強度は0.1〜5W/cm
2であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5W/cm
2である。ペリクル膜表面におけるEUV光の照射強度が上記範囲であると、感応基板24のEUV露光が効率的に行われる。
【0112】
光学系22は、光源21から照射された光を集光し、照度を均一化して原版23に照射する。光学系22には、EUVの光路を調整するための複数枚の多層膜ミラーと、光結合器(オプティカルインテグレーター)等が含まれる。多層膜ミラーは、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)が交互に積層された多層膜等である。
【0113】
原版23は、前述の3.露光原版に含まれる原版と同じでありうる。ペリクル10は、原版23のEUV照射面側に装着されている。原版23に付着した異物は、EUVを吸収または散乱させるため、感応基板への解像不良を引き起こしやすいことから、ペリクル10は原版23のEUV照射エリアを覆うように装着される。ペリクル10の原版23への装着方法は、前述の3.露光原版で述べたのと同様としうる。
【0114】
原版23で反射されたEUV光は、感応基板24に照射される。感応基板24は、半導体ウエハ上にレジストが塗布された基板等であり、原版23によって反射されたEUV光により、レジストがパターン状に硬化する。このレジストを現像し、半導体ウエハのエッチングを行うことで、半導体ウエハに所望のパターンを形成する。
【0115】
図4は、EUV露光装置の他の例を示す概略断面図である。
図4に示されるように、EUV露光装置は、EUVを出射する光源31と、光源31からの光を原版33に導く照明光学系37と、パターン状にEUVを反射する原版33およびそのEUV照射面側に装着されたペリクル10(原版33とペリクル10とを合わせて露光原版ともいう)と、原版33が反射した光を感応基板34へ導く投影光学系38とを含みうる。
【0116】
上記照明光学系32および投影光学系38は、通常、EUVの光路を調整するための複数枚の多層膜反射ミラー32、35、36等を含みうる。当該EUV装置において、前述のペリクル10は原版33の保護だけでなく、EUV光源からの飛散粒子(デブリ)を捕捉するためのフィルター・ウィンドウ20、25とすることもできる。フィルター・ウィンドウ20、25は、EUV露光装置の照明光学系37と光源31との間、および照明光学系37と原板33との間のいずれか一方、もしくは両方に配置することができる。2つのフィルター・ウィンドウ20、25は同様の構造でありうる。
【実施例】
【0117】
実施例および比較例で用いたフィルムを下記に示す。
【0118】
(1)下記式で表される繰返し単位を有する全芳香族ポリイミドフィルムA
【化7】
500mLの3つ口フラスコに攪拌羽根を取り付けて合成容器とした。当該合成容器に芳香族テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物(PMDA)32.68g(0.1498mol)と、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)306.2gとを投入した。これらを60℃に加熱して2時間撹拌し、固形分濃度が17質量%のPMDA組成物を得た。さらに、芳香族ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)30.00g(0.1498mol)を加えた。これを60℃で1時間撹拌して、固形分濃度が17質量%であるポリイミド前駆体組成物を得た。得られたポリイミド前駆体組成物をNMPで希釈し、固形分濃度が1〜5質量%である、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0119】
当該ポリイミド前駆体溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、230℃で30分間保持し、溶媒の乾燥、及びイミド化を行い、全芳香族ポリイミドフィルムAからなる均一な膜を得た。
得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0120】
(2)下記式で表される繰返し単位を有する全芳香族ポリイミドフィルムB
【化8】
500mLの3つ口フラスコに攪拌羽根を取り付けて合成容器とした。当該合成容器に、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物(PMDA)35.51g(0.0814mol)と、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)278gとを投入した。これらを60℃に加熱して2時間撹拌し、固形分濃度が17質量%のPMDA組成物を得た。さらに、芳香族ジアミンとして4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル(m−BP)29.62g(0.0814mol)を加え、60℃で1時間撹拌した。これにより、固形分濃度が17質量%であるポリイミド前駆体組成物を得た。得られたポリイミド前駆体組成物をDMAcで希釈し、固形分濃度が1〜5質量%であるポリイミド前駆体溶液を得た。
【0121】
このポリイミド前駆体溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、230℃で30分間保持し、溶媒の乾燥、及びイミド化を行い、全芳香族ポリイミドフィルムBからなる均一な膜を得た。
得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0122】
(3)下記式で表される繰返し単位を有する全芳香族ポリイミドフィルムC
【化9】
500mLの3つ口フラスコに攪拌羽根を取り付けて合成容器とした。当該合成容器に、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)35.74g(0.1215mol)と、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)256.5gとを投入した。これらを60℃に加熱して2時間撹拌し、固形分濃度が16質量%のBPDA組成物を得た。当該組成物に、芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミン(PDA)13.14g(0.1215mol)を加えた。これを60℃で1時間撹拌して、固形分濃度が16質量%であるポリイミド前駆体組成物を得た。得られたポリイミド前駆体組成物をNMPで希釈し、固形分濃度が1〜5質量%であるポリイミド前駆体溶液を得た。
【0123】
このポリイミド前駆体溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、230℃で30分間保持し、溶媒の乾燥、及びイミド化を行い、全芳香族ポリイミドフィルムCからなる均一な膜を得た。
得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0124】
(4)下記式で表される繰返し単位を有する脂環式ポリイミドフィルム(PMDA−NBDA)
【化10】
攪拌機、温度計および窒素導入管を備えたフラスコに、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.91g(0.050mol)とN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)30gを投入し、窒素気流下、10℃で攪拌した。ここへ脂環式ジアミン化合物である2,5−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンおよび2,6−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの混合物(NBDA)7.72g(0.050mol)、及びDMAc7.81gからなる混合溶液を90分間かけて、徐々に滴下した。その後、室温で5時間攪拌した。さらに50℃まで昇温してから、5時間攪拌し、ポリイミド前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物をDMAcで希釈し、固形分濃度が1〜5質量%であるポリイミド前駆体溶液を得た。
【0125】
このポリイミド前駆体溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、230℃で30分間保持し、溶媒の乾燥、及びイミド化を行い、上記脂環式ポリイミド(PMDA−NBDA)からなる均一な膜を得た。
得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0126】
(5)下記式で表される繰返し単位を有するフッ素樹脂フィルム(Cytop)
【化11】
環状構造を有するパーフルオロエーテル重合体(サイトップCTX−S、旭硝子社製)をパーフルオロトリブチルアミンに溶解させ、固形分濃度が1〜3%であるパーフルオロトリブチルアミン溶液を得た。このパーフルオロトリブチルアミン溶液を、製膜用基板上に滴下し、スピンコータでフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。当該フィルムを室温で30分間乾燥し、さらにオーブンで180℃に加熱乾燥し、均一なフッ素樹脂からなる膜を得た。得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0127】
(6)単結晶シリコン
シリコンフォイル(Silicon foil、Lebow Company社製)の100nm膜、及び200nm膜を準備した。
【0128】
(7)ポリスチレンフィルム
シグマ・アルドリッチ製ポリスチレン(平均分子量200,000)にp−キシレンを加え、固形分濃度が1〜3質量%であるポリスチレン溶液を得た。
このポリスチレン溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、200℃で10分間保持し、溶媒の乾燥を行い、ポリスチレンからなる均一な膜を得た。得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(フィルメトリクス社製、F20)、及び赤外分光装置(日本分光社製 FT/IR−300E)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0129】
(8)高密度ポリエチレンフィルム
三井化学社製高密度ポリエチレン(ミペロン、XM−220)をp−キシレンに加熱溶解し、固形分濃度が1質量%の溶液を得た。この溶液を100℃に加熱したシリコンウェハの上に塗布し、溶媒を乾燥させることで厚さ2〜5μmのポリエチレンフィルムを得た。得られたフィルムをさらに加熱・延伸して薄膜化した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0130】
(9)下記式で表される繰返し単位を有するポリオレフィンフィルムA(TPX)
【化12】
メチルペンテンポリマー(TPX(DX820)、三井化学社製)に、テトラヒドロフラン(THF)及びシクロヘキサンの1:1混合溶媒を添加し、固形分濃度が1〜3質量%であるポリオレフィン溶液を得た。
このポリオレフィン溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、200℃で10分間保持し、溶媒の乾燥を行い、上記ポリオレフィンからなる均一な膜を得た。得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0131】
(10)下記式で表される繰返し単位を有するポリオレフィンフィルムB(Apel)
【化13】
環状オレフィンコポリマー(Apel(6011)、三井化学社製)の粉末を、p−キシレンに浸漬して部分溶解させ、上澄み液を取り出すことで固形分濃度が1〜3質量%である環状オレフィンコポリマー溶液を得た。この環状オレフィンコポリマー溶液をスポイト(溶液供給手段)から製膜用基板上に供給し、スピンコータにてフィルムを作製した。製膜用基板にはシリコンウェハを用いた。設定する膜厚に応じて、スピンコート回転数1500rpm〜3000rpmの範囲で製膜した。次にイナートオーブン内で、200℃で10分間保持し、溶媒の乾燥を行い、上記ポリオレフィンからなる均一な膜を得た。得られた膜を、シリコンウェハから剥離した。膜厚みは反射率分光法を用いた薄膜測定装置(F20、フィルメトリクス社製)、及び赤外分光装置(FT/IR−300E、日本分光社製)で測定された赤外線透過吸収率から算出した。
【0132】
各実施例および比較例において、ペリクル膜(フィルム)の評価は次のように行った。
【0133】
[Tg、Tm測定]
得られたフィルムの融点及びガラス転移温度を、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、JIS K7121(1987)に準拠した方法で測定した。昇温速度は10℃/分とした。
【0134】
[膜自立性の評価]
得られたフィルムについて、次の評価を行った。
各フィルムを外寸149mm×122mm×5.8mm、フレーム幅2mmのアルミニウム合金A7075製のペリクル枠に、アクリル系接着剤により貼付した。このときのペリクル膜の様子を目視で評価した。
・ペリクル膜に、破れや皺やたるみが生じなかった:○
・ペリクル膜に、破れや皺やたるみが生じた:×
【0135】
[EUV照射試験]
各フィルムに、EUV照射装置(ニュースバル(施設名) BL−10、兵庫県立大)にて、波長13.5nmの光(EUV)を照度4mW/cm
2で30分間、フィルム面に対して垂直方向に照射した(EUV照射条件(1))。入射光強度の半値全幅から求めたビームサイズは1mm×0.8mmであった。
別のフィルムに、EUV照射条件(1)と同一の装置にて、波長13.5nmの光(EUV)を照度90mW/cm
2で10分間照射した(EUV照射条件(2))。入射光強度の半値全幅から求めたビームサイズは0.15mm×0.8mmであった。フィルムのサイズはいずれの照射条件でも0.5〜1cm角とした。
別のフィルムに、EUV照射条件(1)と同一の装置にて、波長13.5nmの光(EUV)を照度90mW/cm
2で10分間照射した(EUV照射条件(2))。
別のフィルムに、EUV照射条件(1)と同一の装置にて、波長13.5nmの光(EUV)を照度90mW/cm
2で80分間照射した(EUV照射条件(3))。入射光強度の半値全幅から求めたビームサイズは0.15mm×0.8mmであった。フィルムのサイズはいずれの照射条件でも0.5〜1cm角とした。
そして、EUV照射試験を行う前の透過率と、EV照射試験を行った後の透過率とをそれぞれ求めた。EUV照射時には、サンプルフィルムを透過したEUVをフォトダイオードで検出する機構を設置した。サンプルを設置していない状態でフォトダイオードが検出する電流値(入射光強度I
0)、及びサンプルを設置した状態でフォトダイオードが検出する電流値(透過光強度I)から、下記式に従い透過率を求めた。
【数4】
【0136】
EUV照射後、フィルムにシワ及び穴が形成されたか、反射型光学顕微鏡および非接触3次元形状測定装置(WYKO、Veeco社製)にて観察した。評価は、以下のように行った。
(EUV照射後の皺の評価)
EUV照射領域に、一切皺が見られなかった:○
EUV照射領域の一部に、皺が見られた:△
EUV照射領域の全域に、皺が見られた:×
(EUV照射後の穴の評価)
EUV照射領域に、穴が開かなかった:○
EUV照射領域の一部に、穴が空いた:△
EUV照射領域全域に、穴が開いた:×
【0137】
[赤外線吸収スペクトル測定]
EUV照射前後のフィルムについて、それぞれ赤外線吸収スペクトルを測定し、EUV照射前後のサンプルフィルムを構成する樹脂が構造変化したか、赤外線吸収スペクトルデータを比較して確認した。赤外線吸収スペクトル測定装置は、Varian社製FTS3100 UMA600顕微システムとした。測定手法は透過法とし、4000〜700cm
−1の波数範囲にわたって4cm
−1の分解能で赤外線吸収スペクトルを測定した。積算回数は128回、測定面積は100μm×100μmとした。EUVの照射部分と未照射部分で、各官能基に特有のピークの形状や強度に変化があるか、新たなピークが発生しているか、を比較した。
【0138】
(実施例1−1)
厚みが20nmの全芳香族ポリイミドフィルムAを複数枚準備した。これについて、膜自立性の評価、EUV照射試験および赤外線吸収スペクトル測定を行った。結果を表1に示す。
【0139】
(実施例1−2)
厚みが50nmの全芳香族ポリイミドフィルムAを準備した以外は、実施例1−1と同様にして膜自立性の評価、EUV照射試験、及び赤外線吸収スペクトル測定を行った。結果を表1に示す。
【0140】
(実施例2〜4、及び比較例1〜6)
下記表1に示す厚みの各種フィルムについて、実施例1−1と同様に、膜自立性の評価、EUV照射試験、赤外線吸収スペクトル測定、及びEUV照射後の透過率測定を行った。結果を表1に示す。
【0141】
図5Aおよび
図5Bは、EUV照射領域に一切皺が見られず、さらに穴も観察されなかった例(実施例1−1:EUV照射条件(2))の写真である。
図5Aは非接触3次元形状測定装置(wyko)で撮影した写真であり;
図5Bは反射型光学顕微鏡で撮影した写真である。
【0142】
図6Aおよび
図6Bは、EUV照射領域の一部に皺が見られた例(実施例2:EUV照射条件(2))の写真である。
図6Aは非接触3次元形状測定装置(wyko)で撮影した写真であり;
図6Bは反射型光学顕微鏡で撮影した写真である。
【0143】
図7に、EUV照射領域に穴があいた例(比較例5:EUV照射条件(2))の写真を示す。
図7は反射型光学顕微鏡で撮影した写真である。
【0144】
図8に、EUV照射前後で、構造変化が見られなかった例(実施例1−2:EUV照射条件(2))の赤外線吸収スペクトルを示す。
【0145】
図9に、EUV照射前後で、大きく構造変化した例(比較例5:EUV照射条件(2))の赤外線吸収スペクトルを示す。
【0146】
図10に、EUV照射後に透過率が変化しなかった例(実施例2)のEUV透過率と照射時間の関係を示す。
【表1】
【0147】
表1に示されるように、特定の樹脂薄膜からなるペリクル膜は、いずれも自立性を有し、ペリクル枠への貼り付け性は良好であった(実施例1〜4)。また、これらのペリクル膜は、EUV照射条件(1)と(2)の両方において、EUV照射部に穴は形成されず(〇);皺も形成されないか(〇)、ごく僅かに形成される程度(△)であり、EUV耐性が高かった。
【0148】
また、実施例1または2に用いられた全芳香族ポリイミドフィルムAおよびBは、約80分のEUV照射後も、EUV透過率は照射前と変化せずに一定の値を示した(
図10参照)。芳香族ポリイミド樹脂は高い耐熱性を有することから、高温になっても流動を生じにくいこと;および3級炭素を持たずイミド環や芳香環などの共役構造を分子鎖内に有するため、吸収されたEUV光のエネルギーを非局在化させることで構造変化を抑制できることなどにより、長時間のEUV照射に対しても透過率の変動が少なかったと考えられる。
【0149】
これに対して、単結晶シリコンフィルムは、膜厚が厚い場合にも自立性を有さず、補助部材が必要であった(比較例1)。また、ガラス転位温度(Tg)と融点(Tm)を有する樹脂では融点(Tm)が150℃未満であるか;ガラス転位温度(Tg)と融点(Tm)のいずれか一方しか有さない樹脂ではいずれか一方が150℃未満である場合に、EUV照射部に穴が開いたり、EUV照射領域に皺が形成されたりしやすかった(比較例1および3〜5)。特に、EUV照射量が多いEUV照射条件(2)でこの傾向が見られた。これは、EUV照射によって熱が発生し、ペリクル膜が流動したためと推察される。
【0150】
また、ペリクル膜を構成する樹脂が、3級炭素を有し、かつ3級炭素が芳香環に結合していない場合には、EUV照射により、構造変化が見られた(比較例1および5〜6、および実施例4)。これは、EUV照射によって、3級炭素を含むC−C結合が切断されたためと推察される。また、これらの樹脂はEUV照射中に透過率が上昇する傾向がある。これは切断された分子骨格の一部が膜から離脱することで膜厚みが減少したためと考えられる。また、切断された部分は化学的に不安定な状態となっており、測定後サンプルを取り出した後で空気中の酸素と反応することで酸化劣化が生じたと推察される。特に、EUV照射量が多いEUV照射条件(2)でこれらの傾向が見られた。
【0151】
本出願は、2013年9月30日出願の特願2013−204658に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。