(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記排気温度マップは、前記内燃機関の暖機完了前における前記運転状態及び該運転状態に対応する排気温度間の関係を含むように規定されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ではセタン価を推定するために筒内圧センサの検知値を使用している。このような筒内圧センサは高価であり、コストアップしてしまうという問題点がある。
【0006】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、安価且つ精度よくセタン価を推定することにより、内燃機関の燃焼特性を改善可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る内燃機関の制御装置は上記課題を解決するために、燃料を圧縮着火燃焼する内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気温度を検知する排気温度検知部と、
前記排気温度及び前記燃料のセタン価間の関係を予め規定するセタン価推定マップを記憶する記憶部と、前記セタン価推定マップに基づいて、前記検知された排気温度に対応するセタン価の推定値を算出するセタン価推定部と、前記内燃機関の運転状態に対応して、前記内燃機関の制御パラメータを設定する制御パラメータ設定部と、前記制御パラメータを前記セタン価の推定値に基づいて補正する制御パラメータ補正部と、前記補正された制御パラメータに基づいて、前記内燃機関を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本願発明者は、燃料を圧縮着火燃焼する内燃機関では、排気温度が内燃機関に使用される燃料のセタン価に依存するという知見を見出した。本態様では、このような排気温度とセタン価との関係をセタン価推定マップとして予め記憶部に記憶しておき、該セタン価推定用マップに基づいて、排気温度の実測値に対応するセタン価を精度よく推定する。このように本態様では、高価なセンシングデバイス(例えば筒内圧センサやエアフローメータなど)を用いる必要がなく、低コストで内燃機関の燃焼改善が可能である。
【0009】
前記記憶部は、前記内燃機関の運転状態及び該運転状態に対応する排気温度間の関係を予め規定する排気温度マップを更に記憶しており、前記内燃機関の運転状態を検知する運転状態検知部と、前記排気温度マップに基づいて、前記検知された運転状態に対応する排気温度を求め、前記セタン価推定マップに基づいて、前記求められた排気温度に対応する前記セタン価の基準値を求める基準セタン価算出部とを更に備え、前記制御パラメータ補正部は、前記セタン価の前記推定値及び前記基準値間の差分に基づいて、前記制御パラメータを補正してもよい。
【0010】
この態様によれば、排気温度マップに基づいて、内燃機関の実際の運転状態から標準的な排気温度を求めると共に、更に、当該標準的な排気温度に対応するセタン価の基準値を求める。これにより、排気温度の実測値に基づいて推定されたセタン価の推定値を、当該基準値に基づいて比較することが可能となる。そして、内燃機関に実際に使用される燃料のセタン価と基準値との間の誤差に応じた補正を行うことで、セタン価の変動による燃焼特性の低下を、効果的に抑制することが可能となる。
【0011】
前記セタン価推定部は、前記内燃機関の運転状態が定常状態である場合に、前記セタン価の推定値を算出してもよい。
【0012】
この態様によれば、内燃機関が定常状態である場合にセタン価の推定を実施する。ここで定常状態とは、内燃機関の運転状態が安定していることを広く意味しており、過渡状態を含まない意味である。定常状態では、過渡状態に比べて、セタン価の推定精度に影響を与える各種パラメータ(例えば回転数や燃料噴射量などの運転状態、或いは、排気温度など)を精度よく検知できるので、より正確にセタン価の推定を行うことができる。
例えば内燃機関の冷態始動時の場合、冷却水や潤滑油の温度が暖機判定温度閾値以上であり、且つ、その後、温度変化量が所定期間内で所定値未満である場合に定常状態(暖機完了状態)と判定される。
【0013】
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃料噴射タイミングであり、前記制御パラメータ補正部は、前記セタン価の推定値が低くなるに従って前記燃料噴射タイミングの位相を進角するように補正してもよい。
【0014】
内燃機関に使用される燃料のセタン価が低くなると、筒内における燃料の着火性が低下する。この態様では、このようにセタン価が低い燃料が使用された場合には、燃料噴射タイミングの位相を進角することによって、着火を促進し、セタン価の低下による影響を改善することができる。
【0015】
この場合、前記燃焼噴射タイミングは、パイロット燃料噴射タイミングと主燃料噴射タイミングとを含み、前記制御パラメータ補正部は、前記セタン価の推定値が低くなるに従って前記主燃料噴射タイミングの位相が進角すると共に前記パイロット燃料噴射タイミングの位相が遅角するように補正してもよい。
【0016】
筒内への燃料噴射がパイロット燃料噴射と主燃料噴射から構成されている場合、主燃料噴射タイミングの位相を進角することで、上記と同様に、セタン価の低下による影響を抑制して燃焼特性を改善できる。一方、パイロット燃料噴射タイミングは、主燃料噴射タイミングとの間隔が適切であることが重要であることが、発明者らの研究によって明らかとなっている。これにより、パイロット燃料噴射タイミングは主燃料噴射タイミングとは逆に遅角することで、主燃料噴射タイミングとパイロット燃料噴射タイミングとの間隔を適切に調整して、更に燃焼特性を改善することができる。
【0017】
前記制御パラメータは、前記内燃機関の排気ガスの一部を吸気系に再循環させるEGR量であり、前記制御パラメータ補正部は、前記セタン価の推定値が低くなるに従って前記EGR量が小さくなるように補正してもよい。
【0018】
この態様によれば、内燃機関に使用される燃料のセタン価が低くなることによって筒内における燃料の着火性が低下した場合には、EGR量を小さくする。これにより、内燃機関の吸気中における酸素濃度が増加し、低下した着火性を改善することができる。
【0019】
前記制御パラメータは、前記内燃機関の排気系に設けられた可変式過給器の容量であり、前記制御パラメータ補正部は、前記セタン価の推定値が低くなるに従って前記可変式過給器の容量が小さくなるように補正してもよい。
【0020】
この態様によれば、内燃機関に使用される燃料のセタン価が低くなることによって筒内における燃料の着火性が低下した場合には、可変式過給器の容量を小さくする。これにより、内燃機関の吸気流量(酸素量)が増加し、低下した着火性を改善することができる。
【0021】
前記セタン価推定マップは、前記内燃機関の複数の運転状態について、前記排気温度と前記セタン価との関係をそれぞれ規定しており、前記制御パラメータ補正部は、前記複数の運転状態において前記セタン価を推定した結果を平均化することによって、前記セタン価の推定値を求めてもよい。
【0022】
この態様によれば、複数の運転状態で推定されたセタン価を平均化して、内燃機関に使用される燃料のセタン価の推定値を算出するので、制御精度をより向上できる。
【0023】
前記排気温度マップは、前記内燃機関の暖機完了前における前記運転状態及び該運転状態に対応する排気温度間の関係を含むように規定されていてもよい。
【0024】
この態様によれば、排気温度マップにて暖機完了前における排気温度を規定することで、セタン価の推定を暖機完了前に早期実施することができる。そのため、特に冷態始動時に発生しやすい白煙・失火を効果的に抑制することができる。
【0025】
前記運転状態には、前記内燃機関の外部環境に関する外部環境パラメータが含まれており、前記排気温度マップは、前記外部環境パラメータ及び該外部環境パラメータに対応する排気温度間の関係が規定されていてもよい。
【0026】
内燃機関の燃焼特性は、大気温度や大気圧力などの内燃機関の外部環境パラメータによっても影響を受ける。本態様では、外部環境パラメータに対応するように排気温度マップを用意しておくことにより、外部環境パラメータの影響を加味したセタン価の推定が可能となる。
【0027】
前記運転状態には、前記内燃機関の吸気状態が含まれており、前記排気温度マップは、前記吸気状態及び該吸気状態に対応する排気温度間の関係が規定されていてもよい。
【0028】
この態様によれば、吸気状態(例えば吸気マニホールドを流れる吸気の温度や吸気の圧力など)に対応するように排気温度マップを用意しておくことにより、吸気状態の影響を加味したセタン価の推定が可能となる。本態様では特に、吸気系の外乱(例えば、吸気フィルタの詰まりやインタクーラの熱交換性能劣化など)の影響を加味することができるので、より精度の高いセタン価の推定が可能となる。
【0029】
前記制御パラメータ設定部は、前記制御パラメータをスイープ変化させ、前記セタン価推定部は、前記排気温度検知部によって検知された排気温度の変化に基づいて、前記セタン価の推定値を算出してもよい。
【0030】
この態様によれば、制御パラメータをスイープ変化させることに伴う排気温度の変化からセタン価を推定できる。例えば、制御パラメータを内燃機関の運転状態に応じて設定される基準値から所定範囲内(例えば数%の範囲)で変化させ、そのときの排気温度の変化を検知する。このとき、排気温度の変化は、典型的には制御パラメータの一次関数として得られる。このとき一次関数の傾きは、内燃機関に使用されるセタン価に依存することが本願発明者の研究によって明らかになっている。そこで、記憶部に予めセタン価と傾きとの関係を記憶しておき、実測値に基づいて得られた傾きと照合することで、セタン価の推定を行うことができる。このように、本態様では、実質的に複数の制御パラメータにおける排気温度に基づいたセタン価推定を行うことになるため、精度の良い推定結果を得ることができる。
【0031】
この場合、前記内燃機関は排気系に排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するDPF(ディーゼル・パーティキュレート・フィルタ)を備えており、前記制御パラメータ設定部は、前記DPFの再生処理中に、前記制御パラメータをスイープ変化させてもよい。
【0032】
この態様によれば、排気系に排気ガスに含まれる粒子状物質を除去するためのDPFを備える場合には、DPFに蓄積された粒子状物質を燃焼させる再生処理時に制御パラメータのスイープ変化を実施する。車両の走行中や所定の作業を実施している期間にDPF処理を行う場合に制御パラメータをスイープ変化させると、エンジン負荷側への出力にも少なからず影響が生じる可能性がある。本態様では、負荷側への出力が停止状態にあり、オペレータが手動でDPF再生処理を行う際に、制御パラメータのスイープ変化を行うことで、負荷側への影響を回避することができる。
【0033】
前記制御パラメータは燃料噴射タイミングであってもよい。
【0034】
前記排気温度マップは、前記内燃機関の運転状態を過去に測定した結果である実測データによって補正されてもよい。
【0035】
例えば排気温度マップは同一仕様を有する複数個体の内燃機関に共通に用意されるが、現実には個々の内燃機関は個体差を有する。本態様では、内燃機関の個体毎に対して過去に実施された測定結果である実測データ(例えば工場出荷時検査での測定結果)が記憶部に記憶されており、排気温度マップは当該実測データに基づいて補正される。これにより、内燃機関の個体特性を加味した制御が可能となり、より制御精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、安価且つ精度よくセタン価を推定することにより、内燃機関の燃焼特性を改善可能な内燃機関の制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りはこの発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0039】
本実施例では、コモンレール式の燃料噴射装置を備えた内燃機関であるディーゼルエンジン(以下、適宜「エンジン」と称する)1を制御対象として扱う場合を例に説明する。特に、本実施例に係るエンジン1は油圧ショベル(図不示)等の産業用車両に搭載されており、その出力は走行用の動力源として利用されることに加え、重量物の搬送のような作業用の動力源としても利用される。
【0040】
(実施例1)
図1は実施例1に係るエンジン1を周辺構成と共に示す模式図である。エンジン1は6気筒のディーゼルエンジンであり、各気筒2から排出される排気ガスは、排気マニホールド4で合流した後、排気管6に設けられた排気タービン8aを駆動する。排気タービン8aは、吸気管10に設けられたコンプレッサ8bに連結されている。コンプレッサ8bは、排気タービン8aと共に排気ターボ過給機8を構成しており、排気タービン8の駆動に伴って同軸駆動される。これにより、吸気管10から取り込まれた空気はエアフィルタ12を通過した後、コンプレッサ8bによって圧縮昇圧・昇温される。圧縮昇圧・昇温された空気は、下流側に配置されたインタクーラ14にて冷却された後、吸気マニホールド16を介して各気筒2に供給される。
尚、吸気管10のうちインタクーラ14の下流側には、各気筒2への吸気供給量を調整するための吸気スロットル18が設けられている。
【0041】
排気管6の排気タービン8aより上流側からは、EGR(排気ガス再循環)管20が分岐しており、吸気スロットル18の下流側の吸気管10に接続されることにより、排気ガスの一部が還流するようになっている。EGR管20にはEGRクーラ22が配設されており、高温の排気ガスが冷却される。EGRガスの還流量(EGR量)は、EGR管20に設けられたEGRバルブ24によって調整される。
【0042】
各気筒2から排出される排気ガスは、排気管6に設けられた排気タービン8aを駆動してコンプレッサ8bの動力源となった後、排ガス後処理装置26に供給される。排ガス後処理装置26は酸化触媒(DOC)28及びディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)30から一体的に構成されている。DOC28では、排気ガス中に含まれる酸素を利用して、排ガス中の炭化水素(HC)を主とした未燃焼物質を酸化して水(H
20)と二酸化炭素(CO
2)に分解する。
【0043】
DPF30では、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集することによって浄化を行う。DPF30で捕集したPMの蓄積量が増えるとDPFが閉塞し、エンジン出力の低下をもたらすことから、DPF30では所定のタイミングで再生処理が実施される。DPF30の再生処理時には、上流側にあるDOC28で排気ガス中の燃料を酸化させて排気ガスを昇温し、該高温になった排気ガスをDPF30に送り込むことによって、蓄積したPMを燃焼処理する。
【0044】
このように構成されたエンジン1の各種動作は、電子制御ユニットであるECU100によって行われる。ECU100は、エンジン1の運転状態を検知する各センサ類からの信号を取得することにより、運転状態に応じた制御パラメータを制御することによってエンジン1の運転を実現する。
図1では、エンジン1の運転状態に関するパラメータを検知するためのセンサ類として、排気管6の排気ガスの温度を検知する排気温度センサ32が代表的に例示されており、その検知値がECU100に取り込み可能に構成されている。
【0045】
尚、運転状態はエンジン1の動作に関する各種パラメータを広く含んでおり、例えばエンジン1の回転数、負荷、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、冷却水の温度・圧力、潤滑油の温度・圧力等が含まれる。これらの運転状態のうち、典型的にはエンジン1の回転数、負荷、冷却水の温度・圧力、潤滑油の温度・圧力等はセンサ類によって検知される(
図1では図示を省略しているが回転数センサ、負荷センサ、冷却水の温度センサ・圧力センサ、潤滑油の温度センサ・圧力センサ等を備えていてもよい)。一方、燃料噴射タイミングや燃料噴射量は、典型的にはECU100の制御信号として把握することが可能であるが、これらもセンサ類によって検知可能に構成してもよいことは言うまでもない。
【0046】
ECU100は基本的な制御として、エンジン1の運転状態に応じて制御パラメータを設定することでエンジン1の運転制御を行うが(後述する制御パラメータ設定部による制御パラメータの設定がこれに相当する)、本実施例では、このような基本的な制御に加えて、以下に説明するように、エンジン1に使用される燃料のセタン価の推定値に基づく、制御パラメータの補正が行われる。
【0047】
図2は実施例1に係るECU100の内部構成を機能ブロックとして示す概念図であり、
図3は実施例1に係るECU100によって実施される制御方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0048】
図2に示すように、ECU100は、エンジン1の排気温度を検知する排気温度検知部102と、エンジン1の運転状態を検知する運転状態検知部104と、運転状態に応じて制御パラメータを設定する制御パラメータ設定部106と、セタン価推定マップ120及び排気温度マップ122を記憶する記憶部108と、セタン価の推定値を算出するセタン価推定部110と、セタン価の基準値を算出する基準セタン価算出部111と、該推定されたセタン価に基づいて制御パラメータを補正する制御パラメータ補正部112と、該補正された制御パラメータに従ってエンジン1を制御する制御部114とを備えることにより、燃料を圧縮着火燃焼するエンジンの制御装置として機能する。
【0049】
このような構成を有するECU100は、
図3に示すフローチャートに従ってエンジン1を制御する。
まずECU100は、制御開始条件の成否を判断する(ステップS101)。ここで制御開始条件とは、セタン価の推定演算を開始するための判定条件であって、例えばエンジン1が定常状態にあるか否かを規定する条件である。定常状態とは、内燃機関の運転状態が安定していることを広く意味しており、過渡状態を含まない意味である。定常状態では、過渡状態に比べて、セタン価の推定精度に影響を与える各種パラメータ(例えば回転数や燃料噴射量などの運転状態、或いは、排気温度など)を精度よく検知できるので、より正確にセタン価の推定を行うことができる。
【0050】
ここで
図4はエンジン1の回転数と燃料噴射量の時系列変化の一例を示すグラフである。
図4では、所定期間t0における回転数及び燃料噴射量の変化量が予め設定された閾値(例えば±20rpm)未満であることにより、エンジン1が定常状態であることが判定される。
【0051】
また
図5はエンジン1の冷態始動時における冷却水温度の時系列変化の一例を示すグラフである。この場合、冷却水や潤滑油の温度が暖機判定温度閾値以上であり、且つ、その後、温度変化量が所定期間内で所定値未満である場合に定常状態(暖機完了状態)と判定するとよい。
図5では、時間経過に伴って冷却水温が上昇していき、時刻t1において暖機が完了する様子が示されている。この場合、ECU100は冷却水温度を監視することにより、実測値が、予め暖機完了時の典型的な基準温度として規定された閾値T0以上であり、且つ、所定期間t0における変化量が所定閾値未満であるか否かを判定することで、暖機完了状態であると判定するとよい。
尚、このような暖機完了判定は、冷却水温度に代えて潤滑油温度に基づいて実施してもよい。
また本実施例では、このように暖機完了を判定した後に、後述する各処理を実行することにより、排気温度マップ122を、あらゆる運転状態のうち暖機完了温度以上の温度領域について用意すれば足りる(言い換えると、ステップS102以降は暖機完了温度以上であることが確実であるので、暖機完了温度未満に対応する排気温度マップ122を用意する必要がない)。そのため、排気温度マップ122を記憶する記憶部108の容量を効率的に削減することができる。
【0052】
このようにして制御開始条件の成立が確認されると(ステップS101:YES)、排気温度検知部102は、排気管6に設けられた排気温度センサ32から排気温度を取得する(ステップS102)。そしてセタン価推定部110は、記憶部108にアクセスすることによりセタン価推定用マップ120を読み込むと共に、排気温度検知部102から取得した排気温度に対応するセタン価の推定値を算出する(ステップS103)。
【0053】
ここで
図6は実施例1に係るエンジン1の運転点をトルクカーブと共に示すグラフであり、
図7は記憶部8に記憶されているセタン価推定用マップ120の一例である。
【0054】
図6に示すように、エンジン1の運転点は、暖機完了時にあるアイドリング状態である運転点L.lから、作業が可能な運転点A−Dに任意に移行可能に構成されている。運転点Aでは回転数をNe(A)に維持しながら作業に応じて出力トルクが可変であり、運転点Bでは回転数をNe(B)に維持しながら作業に応じて出力トルクが可変であり、運転点Cでは回転数をNe(C)に維持しながら作業に応じて出力トルクが可変であり、運転点Dでは回転数をNe(D)に維持しながら作業に応じて出力トルクが可変である。このような運転点A−Dへの移行は、例えばエンジン1が搭載された作業車両のドライバが操作可能なダイヤルで選択されることで実施される。
【0055】
図7に示すように、セタン価推定マップ120では、これらの運転点毎に燃料のセタン価と排気温度との関係が予め規定されており、運転点の回転数が高くなるに従って、排気温度も高くなる傾向が示されている。また、燃料のセタン価が大きくなるに従って、排気温度が低下する傾向が示されている。
【0056】
ステップS103では、セタン価推定部110は、このようなセタン価推定マップ120を参照することにより、実測値である排気温度に対応するセタン価の推定値が算出される。続いて基準セタン価算出部111は、記憶部108にアクセスすることにより排気温度マップ122を読み込むと共に、運転状態検知部102から運転状態を取得することにより、排気温度マップ122に基づいて、運転状態に対応する排気温度を算出する(ステップS104)。
【0057】
ここで
図8は排気温度マップ122の一例であり、特定の運転状態におけるエンジン回転数及び燃料噴射量に対する標準的な排気温度が規定されている。基準セタン価算出部111は、このような排気温度マップ122を参照することにより、エンジン1の運転状態に対応する排気温度を算出する。例えば、運転状態検知部102によって運転状態(回転数が1500rpm、燃料噴射量30mm
3/inj)が取得された場合には、排気温度マップ122に基づいて、該運転状態に対応する排気温度340℃が求められる。
【0058】
続いて、基準セタン価算出部111は、記憶部108にアクセスすることによりセタン価推定マップ120を読み込むと共に、該セタン価推定マップ120に基づいて、ステップS104で算出した排気温度に対応するセタン価の基準値を算出する(ステップS105)。
【0059】
ここで制御パラメータ補正部112は、ステップS103で算出したセタン価の推定値と、ステップS105で算出したセタン価の基準値との差分を求め、該差分が予め設定された閾値より大きいか否かを判定する(ステップS106)。その結果、差分が閾値より大きい場合(ステップS106:YES)、当該差分に基づいて、制御パラメータ設定部106でエンジン1の運転状態に応じて設定された制御パラメータを補正する(ステップS107)。
【0060】
ここで、ステップS107における制御パラメータの補正制御について、燃料噴射タイミングを例に説明する。
図9は実施例1に係るエンジン1の燃料噴射タイミングを示すグラフであり、破線が補正前の燃料噴射タイミングを示しており、実線が補正後の燃料噴射タイミングを示している。
【0061】
制御パラメータ補正部112は、ステップS103で算出されたセタン価の推定値が低くなるに従って、
図9に示すように、主燃料噴射タイミングの位相が進角するように補正する。一般的にエンジン1に使用される燃料のセタン価が低くなると、筒内における燃料の着火性が低下するが、このようにセタン価が低い燃料が使用された場合には、燃料噴射タイミングの位相を進角することによって、着火を促進し、セタン価の低下による影響を改善することができる。
【0062】
ここで
図10は、各セタン価における主燃料噴射タイミングと排気ガスに含まれる未燃分(HC)排出量との関係を示すグラフである。これによれば、各セタン価では、主燃料噴射タイミングが進角されるに従って、未燃分(HC)排出量が減少することが示されている。これは、筒内における燃焼特性が向上したことを示している。制御パラメータ補正部112は、
図10に示すように予め設定された許容未燃分(HC)排出量を下回るように、主燃料噴射タイミングを補正するとよい。
【0063】
また
図9に示されるように、エンジン1の燃焼噴射タイミングは更に、主燃料噴射の前に着火性を向上させるためのパイロット噴射が行われている。制御パラメータ補正部112は、上記主燃料噴射タイミングの補正に加えて、パイロット燃料噴射タイミングについても補正を行う。本願発明者の研究によれば、パイロット燃料噴射タイミングは、主燃料噴射タイミングとの間隔が適切であることが重要であるとの知見が得られている。これに伴い、制御パラメータ補正部112は、パイロット燃料噴射タイミングは主燃料噴射タイミングとは逆に遅角することで、主燃料噴射タイミングとパイロット燃料噴射タイミングとの間隔を適切に調整して、更に燃焼特性を改善する。
【0064】
またステップS107では制御パラメータとしてエンジン1の排気ガスの一部を吸気系に再循環させるEGR量を補正してもよい。ここで
図11は、各セタン価におけるEGR量と排気ガスに含まれる未燃分(HC)排出量との関係を示すグラフである。この場合、制御パラメータ補正部112は、セタン価の推定値が低くなるに従ってEGR量が小さくなるように補正することによって、エンジン1の吸気中における酸素濃度を増加させ、低下した着火性を改善することができる。
【0065】
また排気ターボ過給機8が可変式過給器である場合には、ステップS107では制御パラメータとして排気ターボ過給器8の容量を補正してもよい。ここで
図12は、各セタン価における可変ターボ容量と排気ガスに含まれる未燃分(HC)排出量との関係を示すグラフである。この場合、制御パラメータ補正部112は、セタン価の推定値が低くなるに従って排気ターボ過給器8の容量を小さくなるように補正することによって、エンジン1の吸気流量(酸素量)を増加させ、低下した着火性を改善することができる。
【0066】
このようにセタン価の推定値に基づいて補正パラメータが補正されると、制御部114は補正された制御パラメータに基づいて制御信号を出力し、エンジン1を制御する(ステップS108)。
【0067】
尚、ステップS106にて差分が閾値以下である場合(ステップS106:NO)、制御パラメータ補正部112は制御パラメータに対して補正をすることなく、処理をステップS108に進める。
【0068】
以上説明したように、実施例1によれば、セタン価推定マップ120に基づいて、排気温度の実測値に対応するセタン価を精度よく推定できる。このように本実施例では、高価なセンシングデバイス(例えば筒内圧センサやエアフローメータなど)を用いる必要がなく、低コストで内燃機関の燃焼改善が可能である。
特に、排気温度マップ122に基づいて、エンジン1の実際の運転状態から標準的な排気温度を求めると共に、更に、当該標準的な排気温度に対応するセタン価の基準値を求める。これにより、排気温度の実測値に基づいて推定されたセタン価の推定値を、当該基準値に基づいて比較することが可能となる。そして、エンジン1に実際に使用される燃料のセタン価と基準値との間の誤差に応じた補正を行うことで、セタン価の変動による燃焼特性の低下を、効果的に抑制することが可能となる。
【0069】
尚、このようなセタン価推定を利用した燃焼特性の改善は、白煙や失火が生じやすいエンジン1の低負荷領域において、特に効果的である。例えば、エンジン1の負荷をセンサ検知することで、負荷が予め規定された閾値未満である場合に限って、上記制御を行うようにしてもよい。
【0070】
(実施例2)
図13は実施例2係るエンジン1に対して実施される制御方法を工程毎に示すフローチャートである。
尚、以下の説明では、特段の記載がない限りにおいて上記実施例1と同様の構成を有しており、重複する記載は適宜省略することとする。
【0071】
停止状態にあるエンジン1が始動されると、ECU100はエンジン1のアイドル状態を検知し(ステップS201)、該アイドル状態において制御開始条件が成立したか否かが判定される(ステップS202)。この制御開始条件は上述のステップS101と同様である。つまり、アイドル状態にあるエンジン1において暖機が完了し、定常状態に至ったか否かが判定される。
【0072】
制御開始条件が成立すると(ステップS202:YES)、ECU100はステップS102乃至S104と同様の手順に従ってセタン価の推定値を算出する(ステップS203)。
【0073】
続いて、ECU100はエンジン1がアイドル状態から他の運転状態に移行したか否かを判定する(ステップS204)。ここで他の運転状態とは、
図6に示すように、例えば運転点A乃至Dのようなアイドル状態以外の運転点を意味する。このような運転状態の移行があった場合(ステップS204:YES)、ECU100は移行後の運転状態において再び制御開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS205)。つまり、例えば運転点Aに移行した場合、該運転点Aにおいて定常状態が成立したか否かが再び判定される。
【0074】
再び制御開始条件が成立すると(ステップS205:YES)、ECU100はステップS102乃至S104と同様の手順に従って、排気温度に基づいてセタン価の推定値を算出する(ステップS206)。
【0075】
このように複数の運転状態においてセタン価が推定されると、制御パラメータ補正部112は、ステップS203及びS206で算出された複数のセタン価を平均化することによって、最終的なセタン価の推定値を求める(ステップS207)。そして、制御パラメータ補正部112はステップS106乃至S107と同様の手順に従って、制御パラメータの補正を行い(ステップS208)、該補正された制御パラメータに基づいて、エンジン1を制御する(ステップS209)。
【0076】
以上説明したように、実施例2によれば、複数の運転状態で推定されたセタン価を平均化して、エンジン1に使用されるセタン価の推定値を算出するので、制御精度をより向上できる。
【0077】
(実施例3)
図14は実施例3に係るエンジン1を周辺構成と共に示す模式図であり、
図15は実施例3において冷却水温度毎に規定された排気温度マップ122の一例を示す図である。
図15Aは、代表的に冷却水温度が80℃である場合を示しており、
図15Bは冷却水温度が25℃である場合を示している。
【0078】
図14に示すように、本実施例に係るエンジン1は冷却水温度を検知する冷却水温度センサ34を備えると共に、
図15に示すように、排気温度マップ122がエンジン回転数及び燃料噴射量に加えて、エンジン1の冷却水温度を含む運転状態毎に用意されている点において、上記実施例と異なっている。
尚、以下の説明では、その他の共通する構成については、重複する説明を適宜省略することとする。
【0079】
本実施例では、運転状態検知部104は、冷却水温度センサ34で検知した冷却水温度を、エンジン1の運転状態の一つとして取得する。そして、基準セタン価算出部111は、記憶部108に記憶された複数の排気温度マップ122から、取得した冷却水温度に対応する排気温度マップ122を検索し、当該検索した排気温度マップ122に基づいて基準セタン価を算出する。このように本実施例では、エンジン1の運転状態に冷却水温度を加味することによって、より精度の良いセタン価の推定が可能となる。
【0080】
特に
図15(b)に示すように、排気温度マップ122には、エンジン1の暖機完了前における運転状態及び該運転状態に対応する排気温度間の関係を含むように規定されている。このように、排気温度マップ122にて暖機完了前における排気温度を規定することで、セタン価の推定を暖機完了前に早期実施することができる。そのため、特に冷態始動時に発生しやすい白煙・失火を効果的に抑制することができる。
尚、本実施例では冷却水温度の代わりに潤滑油温度を用いてもよいことは、言うまでもない。
【0081】
(実施例4)
図16は実施例4に係るエンジン1を周辺構成と共に示す模式図であり、
図17は実施例4において大気圧力毎に規定された排気温度マップ122の一例を示す図である。
図17Aは、代表的に大気圧力が101.3kPaである場合を示しており、
図17Bは大気圧力が90kPaである場合を示している。
【0082】
図16に示すように、本実施例に係るエンジン1は外部環境パラメータの一種である大気圧力を検知する大気圧力センサ34を備えると共に、
図17に示すように、排気温度マップ122がエンジン回転数及び燃料噴射量に加えて、エンジン1の大気圧力を含む運転状態毎に用意されている点において、上記実施例と異なっている。
尚、以下の説明では、その他の共通する構成については、重複する説明を適宜省略することとする。
【0083】
本実施例では、運転状態検知部104は、大気圧力センサ36で検知した冷却水温度を、エンジン1の運転状態の一つとして取得する。そして、基準セタン価算出部111は、記憶部108に記憶された複数の排気温度マップ122から、取得した大気圧力に対応する排気温度マップ122を検索し、当該検索した排気温度マップ122に基づいて基準セタン価を算出する。このように本実施例では、エンジン1の運転状態に大気圧力を加味することによって、より精度の良いセタン価の推定が可能となる。
【0084】
以上説明したように、本実施例では、運転状態に外部環境パラメータである大気圧力を含めると共に、排気温度マップ122で該大気圧力に対応する排気温度を規定する。エンジン1の燃焼特性は、大気圧力などの外部環境パラメータによっても影響を受けるが、本実施例のように外部環境パラメータに対応するように排気温度マップ122を用意しておくことにより、外部環境パラメータの影響を加味した、精度のよいセタン価の推定が可能となる。
尚、外部環境パラメータとして本実施例では大気圧力を採用したが、これに代えて大気温度を用いてもよいことは、言うまでもない。
【0085】
(実施例5)
図18は実施例5に係るエンジン1を周辺構成と共に示す模式図であり、
図19は実施例5において吸気温度毎に規定された排気温度マップ122の一例を示す図である。
図19Aは、代表的に吸気温度が50degCである場合を示しており、
図19Bは吸気温度が30degCである場合を示している。
【0086】
図18に示すように、本実施例に係るエンジン1は吸気マニホールド16における吸気温度を検知する吸気温度センサ38を備えると共に、
図19に示すように、排気温度マップ122がエンジン回転数及び燃料噴射量に加えて、吸気温度を含む運転状態毎に用意されている点において、上記実施例と異なっている。
尚、以下の説明では、その他の共通する構成については、重複する説明を適宜省略することとする。
【0087】
本実施例では、運転状態検知部104は、吸気温度センサ38で検知した冷却水温度を、エンジン1の運転状態の一つとして取得する。そして、基準セタン価算出部111は、記憶部108に記憶された複数の排気温度マップ122から、取得した吸気温度に対応する排気温度マップ122を検索し、当該検索した排気温度マップ122に基づいて基準セタン価を算出する。このように本実施例では、エンジン1の運転状態に吸気温度を加味することによって、より精度の良いセタン価の推定が可能となる。特に、吸気系の外乱(例えば、エアフィルタ12の詰まりやインタクーラ14の熱交換性能劣化など)の影響を加味することができるので、より精度の高いセタン価の推定が可能となる。
尚、吸気状態の一種である吸気温度に代えて吸気圧力を採用してもよいことは、言うまでもない。
【0088】
(実施例6)
本実施例では、エンジン1の運転状態に基づいて制御パラメータ設定部106によって設定される制御パラメータをスイープ変化させることで排気温度を変化させ、その振る舞いに基づいたセタン価推定を行う点において、上記実施例と異なる。
尚、以下の説明では、その他の共通する構成については、重複する説明を適宜省略することとする。
【0089】
図20は実施例6に係るECU100によって実施される制御方法を工程毎に示すフローチャートである。
まずECU100は、エンジン1について制御開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS301)。本ステップでは、例えばステップS101のような定常状態であることに加えて、後述するような制御パラメータのスイープ変化に伴ってエンジン1の運転状態が影響を受けることによって、エンジン1のユーザに違和感を与えない状態にあることを判定するとよい。
【0090】
本実施例では特に、ステップS301では、エンジン1の排気系に設けられたDPF30の再生処理が実施された場合に、当該条件が成立すると判定する。車両の走行中や所定の作業を実施している期間にDPF処理を行う場合に制御パラメータをスイープ変化させると、エンジン負荷側への出力にも少なからず影響が生じる可能性がある。本実施例では、負荷側への出力が停止状態にあり、オペレータが手動でDPF再生処理を行う際に、制御パラメータのスイープ変化を行うことで、負荷側への影響を回避し、ユーザへの違和感を防止できる。
【0091】
続いて、制御開始条件が成立した場合(ステップS301:YES)、制御パラメータ設定部は、制御パラメータをスイープ変化させながら、排気温度センサ32から検知値を取得することにより、排気温度を測定する(ステップS302)。
尚、本実施例では、スイープ変化させる制御パラメータとして燃料噴射タイミングを採用した場合について説明するが、他の制御パラメータを採用してもよいことは言うまでもない。
【0092】
ステップS302を具体的に説明すると、まずセタン価推定部110は、特定の燃料噴射タイミング(典型的には、エンジン1の運転状態に対応する制御パラメータ値)において排気温度センサ32から検知値を取得し、該検知された排気温度を前記燃料噴射タイミングと結びつけて記憶する。その後、燃料噴射タイミングをスイープ変化させて、異なる燃料噴射タイミングにおいて再度排気温度センサ32から検知値を取得し、該検知された排気温度を前記燃料噴射タイミングと結びつけて記憶する。このような燃料噴射タイミングのスイープ変化と排気温度の測定を繰り返すことによって、セタン価推定部110は、排気温度と燃料噴射タイミングとの関係を関数として把握する(典型的には、排気温度は
図21に示す燃料噴射タイミングを変数とする一次関数として表わされる)。
【0093】
ここで
図21は実施例6に係るECU100の内部構成を機能ブロックとして示す概念図であり、記憶部108には、各セタン価における燃料噴射タイミングと排気温度との関係を予め規定する関数マップ124が記憶されている点において、上記実施例と異なっている。
【0094】
図22は関数マップ124の一例を示すグラフであり、各セタン価における燃料噴射タイミングと排気温度との関係が示されている。関数マップ124では、各セタン価において排気温度は燃料噴射タイミングを変数とする一次関数として表わされており、セタン価に応じた傾きを有している(つまり、各一次関数はセタン価に応じた傾きを有している)。
【0095】
セタン価推定部110は、上述のように燃料噴射タイミングをスイープ変化させて得られた実測値に基づく関数から傾きを求め(ステップS303)、
図22に示す関数マップ124と照合することにより(ステップS304)、当該傾きと最も近い傾きを有する関数に対応するセタン価を特定する(ステップS305)。
【0096】
このようにセタン価が推定されると、補正パラメータ制御部111は、上記ステップS107と同様に、該推定されたセタン価に基づいて補正パラメータを補正し(ステップS306)、その後、制御部114は補正された制御パラメータに基づいてエンジン1を制御する(ステップS307)。
【0097】
以上説明したように、本実施例によれば、制御パラメータをスイープ変化させることに伴う排気温度の変化からセタン価を推定できる。特に、このように制御パラメータをスイープ変化させることによって、実質的に複数の制御パラメータにおいて排気温度を測定し、それらに基づいてセタン価推定を行うため、精度の良い推定結果を得ることができる。
【0098】
特に
図22に示したように、同じセタン価を有する燃料を使用するエンジン1であっても、個体によって測定結果にバラツキが見られる。これは、関数マップ124にはエンジン1の個体差に関する情報が含まれていることを意味している。従って、本実施例ではこのようなエンジン1の個体差の影響を加味した精度の良いセタン価推定に基づいた制御を実施することができる。
【0099】
(実施例7)
ここで
図23は実施例7に係るECU100の内部構成を機能ブロックとして示す概念図であり、
図24は記憶部108に記憶された実測データ126によって排気温度マップ122が補正される様子を概念的に示すフローチャートである。
【0100】
本実施例では、記憶部108にエンジン1の運転状態を過去に測定した結果である実測データ126が記憶されている点において、上記実施例と異なっている。実測データ126は、エンジン1の個体毎に測定された結果であり、例えばエンジン1の個体について工場出荷時の試運転等によって実測された運転条件(供試燃料セタン価、エンジン回転数、燃料噴射量、気圧、気温、冷却水温度、潤滑油温度等)、計測結果(排気温度)を含んでいる。
【0101】
一方、記憶部108に記憶された排気温度マップ122は、例えば共通仕様を有するエンジン1の型番毎に、運転状態と排気温度との標準的な関係を規定するものとして用意されている。ECU100は、排気温度マップ122を制御に使用する際に、このように個体毎に用意された実測データによって、標準的な排気温度マップ122を補正する。これにより、エンジン1の個体特性を加味した制御が可能となり、より制御精度を向上することができる。
【0102】
以上説明したように、上記実施例によれば、安価且つ精度よくセタン価を推定することにより、エンジン1の燃焼特性を改善することができる。