(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記絶縁性化合物膜は、Si、Al、Ti、Ta、Ce、Ga、Hf、Nb、V、W、Y、およびZrよりなる群から選択される1種以上の元素を含む酸化物、窒化物、または酸窒化物よりなる膜である請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
前記絶縁性化合物膜は、SiNx膜と、Si、Al、Ti、Ta、Ce、Ga、Hf、Nb、V、W、Y、およびZrよりなる群から選択される1種以上の元素を含む酸化物よりなる膜の、いずれか1以上の膜である請求項3に記載の薄膜トランジスタ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、BCE型TFTにおいて、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特に、
・ソース・ドレイン電極形成時に酸系エッチング液にさらされる酸化物半導体層を、Snを含むものとすること;および、
・TFT製造工程において、ソース・ドレイン電極形成後、即ち、酸エッチングを行った後に、第1保護膜としてSiOx膜を形成してから、酸化処理を行って前記第1保護膜、即ち、SiOx膜中の水素濃度を3.5原子%以下とし、次いで第2保護膜として絶縁性化合物膜、または樹脂膜と絶縁性化合物膜の積層膜を形成すること;
によって、ソース・ドレイン電極にMo系膜を使用した場合であっても、TFTの静特性を劣化させることなく、上記酸エッチングによるコンタミやダメージを除去でき、結果として、酸化物半導体層の膜厚が均一でかつ静特性とストレス耐性の良好なTFTが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0031】
まず、本発明の酸化物半導体層の成分組成と構成について説明する。
【0032】
本発明のTFTにおける酸化物半導体層は、Snを必須成分として含むところに特徴を有する。この様にSnを含むことによって、下記評価に示す通り、酸系エッチング液による該酸化物半導体層のエッチングが抑制され、酸化物半導体層の表面を平滑に保つことができる。
【0033】
[酸系エッチング液に対する耐性の評価]
酸化物半導体層におけるSnの有無が、ソース・ドレイン電極形成時に使用の酸系エッチング液に対する耐性に及ぼす影響について検討した。
【0034】
詳細には、酸化物半導体層がSnを含むTFTとして、金属元素がIn、Ga、Zn、およびSnからなる酸化物であって、In、Ga、ZnおよびSnの合計に対する前記Sn以外の金属元素の各割合が、後述する推奨範囲を満たす酸化物半導体層を有するTFTを作製した。また、酸化物半導体層がSnを含まないTFTとして、原子比がIn:Ga:Zn=1:1:1を満たすIGZOからなる酸化物半導体層を有するTFTも作製した。いずれのTFTも、作製工程途中のソース・ドレイン電極のパターニングは、後述する実施例に示す通り、PAN系の酸系エッチング液を用いて行った。尚、この評価では、Snの有無が前記耐性に及ぼす影響のみを確認するため、後述する酸化処理は行っていない。また保護膜も単層とした。
【0035】
そして、得られた各TFTの積層方向断面をFE−SEMで観察した。その観察写真を、Snを含む酸化物半導体層を有するTFTについては
図3Aと
図3B、Snを含まない酸化物半導体層を有するTFTについては
図4Aと
図4Bにそれぞれ示す。これら
図3Aと
図3B、および
図4Aと
図4Bに示す通り、本評価で用いたTFTは、Si基板12上に、酸化物半導体層4、ソース−ドレイン電極5、カーボン蒸着膜13、保護膜6の順に積層された構造を有している。上記カーボン蒸着膜13は、電子顕微鏡観察のために設けた保護膜であって、本発明のTFTを構成するものではない。
【0036】
図3Aおよび
図3Bから、酸系エッチング液にさらされる酸化物半導体層がSnを含むものである場合、前記オーバーエッチングによる酸化物半導体層4の膜厚の減少、即ち「膜べり」が生じていないことがわかる。具体的には、下記式(1)から求められる、ソース・ドレイン電極5端直下の酸化物半導体層4の膜厚と、酸化物半導体層4中央部の膜厚との差が0%であった。そのため、酸化物半導体層4の面内が均一なTFTを作製することができた。尚、前記酸化物半導体層中央部とは、ソース電極端とドレイン電極端とを結ぶ最短線の中間地点をいい、酸系エッチング液に曝された部分を示す。
ソース・ドレイン電極端直下の酸化物半導体層の膜厚と、酸化物半導体層中央部の膜厚との差=100×[ソース・ドレイン電極端直下の酸化物半導体層の膜厚−酸化物半導体層中央部の膜厚]/ソース・ドレイン電極端直下の酸化物半導体層の膜厚・・・(1)
【0037】
これに対し
図4Aおよび
図4Bから、酸化物半導体層4がSnを含まないものである場合には、前記オーバーエッチングによる酸化物半導体層4の膜べりが生じていることがわかる。即ち、上記式(1)から求めた、ソース・ドレイン電極5端直下の酸化物半導体層4の膜厚と、前記酸化物半導体層4中央部の膜厚との差は50%超であった。
【0038】
上記Snによる酸化物半導体層の膜厚減少の抑制効果を十分に発揮させるには、酸化物半導体層中の、Sn量を、9原子%以上とすることが好ましい。上記Sn量は、より好ましくは15原子%以上、更に好ましくは19原子%以上である。前記Sn量は、酸化物半導体層中に含まれる全金属元素に対する割合をいう。以下、他の金属元素量についても同じである。前記酸化物半導体層が、金属元素:In、Ga、Zn、およびSnからなる酸化物よりなる場合、前記Sn量は、100×Sn/(In+Ga+Zn+Sn)から求められる。
【0039】
一方、酸化物半導体層のSn量が多すぎると、ストレス耐性が低下すると共に、酸化物半導体層の加工用ウェットエッチング液に対するエッチングレートが低下する場合がある。よって上記Sn量は、50原子%以下とすることが好ましく、より好ましくは30原子%以下、更に好ましくは28原子%以下、より更に好ましくは25原子%以下である。
【0040】
ソース・ドレイン電極形成のためのウェットエッチング時に、酸化物半導体層は酸系エッチング液にさらされるが、上記の通り酸化物半導体層を、Snを含むものとすることにより、該酸化物半導体層のエッチングが抑えられる。より具体的には、酸系エッチング液による酸化物半導体層のエッチングレートが、1Å/sec以下に抑えられる。その結果、得られるTFTは、上記式(1)から求められるソース・ドレイン電極端直下の酸化物半導体層の膜厚と、酸化物半導体層中央部の膜厚との差が、5%以下に抑えられる。上記膜厚の差が5%よりも大きく、均一にエッチングされない場合、酸化物半導体層の同一面内において膜厚の分布が生じる。この様な面内の膜厚分布は、S値や光ストレス耐性の劣化を招きやすい。前記膜厚の差は、好ましくは3%以下であり、最も好ましくは差がないこと、即ち0%である。具体的には例えば、ソース・ドレイン電極端直下の酸化物半導体層の膜厚−前記酸化物半導体層中央部の膜厚から求められる膜減り量が10nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以下である。
【0041】
前記酸化物半導体層は、金属元素として、前記Sn以外にIn、Ga、およびZnよりなる群から選択される1以上の元素を含む。好ましくは金属元素がIn、Ga、Zn、およびSnからなる酸化物であって、In、Ga、ZnおよびSnの合計に対する各金属元素の割合が、Snについては上述の範囲を満たし、かつ、In、GaおよびZnについては下記範囲を満たすものがよい。
【0042】
Inは、酸化物半導体層の抵抗低減に有効な元素である。このような効果を有効に発現させるべくInを含有させる場合、100×In/(In+Ga+Zn+Sn)から求められるIn量は、好ましくは15原子%以上、より好ましくは16原子%以上、更に好ましくは17原子%以上とする。一方、前記In量が多すぎるとストレス耐性が低下しやすいため、In量は、好ましくは25原子%以下、より好ましくは23原子%以下、更に好ましくは20原子%以下とする。
【0043】
Gaは、酸素欠損の発生を抑制し、ストレス耐性向上に有効な元素である。このような効果を有効に発現させるべくGaを含有させる場合、100×Ga/(In+Ga+Zn+Sn)から求められるGa量は、好ましくは5原子%以上、より好ましくは10原子%以上、更に好ましくは15原子%以上とするのがよい。一方、前記Ga量が多すぎると、電子の電導パスを担っているIn量やSn量が相対的に低下し、その結果、移動度が低下する場合がある。よって前記Ga量は、好ましくは20原子%以下、より好ましくは19原子%以下、更に好ましくは18原子%以下とする。
【0044】
Znは、ウェットエッチングレートに影響を及ぼす元素であり、酸化物半導体層の加工時のウェットエッチング性向上に寄与する元素である。またZnは、安定的なアモルファス構造の酸化物半導体層を得て、TFTの安定かつ良好なスイッチング動作確保に有効な元素でもある。これらの効果を十分に発揮させるべくZnを含有させる場合、100×Zn/(In+Ga+Zn+Sn)から求められるZn量は、好ましくは40原子%以上、より好ましくは43原子%以上、更に好ましくは45原子%以上とするのがよい。一方、前記Zn量が多すぎると、酸化物半導体層の加工時にウェットエッチングレートが早くなりすぎて、所望のパターン形状とすることが困難となりやすい。また、酸化物半導体層が結晶化したり、InやSnなどの含有量が相対的に減少してストレス耐性が悪化する場合がある。よって前記Zn量は、好ましくは60原子%以下、より好ましくは50原子%以下とする。
【0045】
前記酸化物半導体層の厚さは特に限定されない。例えば該厚さを、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下とすることが挙げられる。
【0046】
本発明では、上記の通り、ソース・ドレイン電極形成時に使用の酸系エッチング液に対する耐性を確保するため、酸化物半導体層を特にSnを含むものとする。しかしこれだけでは、エッチストッパー層を有するESL型TFTと比較して、良好なストレス耐性が得られない。
【0047】
本発明者らは、上記ストレス耐性の劣化が、下記に詳述する通り、前記ソース・ドレイン電極のパターニング、即ち酸系エッチングにより、酸化物半導体層を構成するIn−Ga−Zn−Sn−O系材料のダメージ、具体的には酸素欠損によることをまず把握し、このダメージの回復には、下記に詳述する通り酸化処理を行うことが大変有効であることを見出した。
【0048】
また、上記酸化処理を施すと、上記ソース・ドレイン電極の種類によっては、該電極の表面やエッチング加工された端部が酸化されて、TFTの静特性の劣化、特にS値の上昇が生じうる場合があること、特には、上記ソース・ドレイン電極としてMo系膜を用いた場合に上記酸化が生じやすいことを把握した。
【0049】
そこで本発明では、ソース・ドレイン電極にMo系膜を用いた場合であっても、静特性の劣化、特にS値の上昇を生じさせることなく、ストレス耐性を向上させるべく、鋭意研究を行った。
【0050】
その結果、BCE型TFTの製造工程において、従来は、
図5の(a)に示す通りソース・ドレイン電極のパターニング後、
図5の(b)に示す通り保護膜(PV、passivation)として第1保護膜6AであるSiOx膜と第2保護膜6BであるSiNx膜を形成し、次いで熱処理を行うことが一般的であった。しかし本発明では、
図7の(a)に示す通りソース・ドレイン電極のパターニング後、
図7の(b)に示す通り、まず保護膜として、第1保護膜6AであるSiOx膜を形成した後、酸化処理(
図7では熱処理)を行い、次いで
図7の(c)に示す通り、第2保護膜として絶縁性化合物膜を含む保護膜を形成すればよいことを見出した。以下、上記「絶縁性化合物膜を含む保護膜」を単に「第2保護膜」ということがある。
【0051】
この製造方法によれば、ソース・ドレイン電極として酸化されやすいMo系膜を用いた場合であっても、熱処理等の酸化処理は、SiOx膜形成後に行うため、ソース・ドレイン電極端の酸化が抑制されて、スイッチング特性の劣化、特にはS値が増加する等の劣化が抑えられる。更には、酸系エッチング液による、例えばIn−Ga−Zn−Sn−O膜等の酸化物半導体層表面のダメージの回復、特には酸素欠損の回復、具体的にはSiOx膜付熱処理による固相酸素拡散が生じて、光ストレス耐性を改善することができる。好ましくは、前記第2保護膜の形成後、更に熱処理を施すことによって、複数回スイープによるV
thしきい値のシフト量(ΔV
th(V))を低減できることも見出した。以下、本発明で規定する製造条件について詳述する。
【0052】
まずソース・ドレイン電極のパターニング後に、「SiOx膜(第1保護膜)の形成」→「酸化処理」→「第2保護膜の形成」の順に実施することによる作用効果について述べる。以下では、前記保護膜の形成と酸化処理の工程をまとめて「PV工程」ということがある。
【0053】
ソース・ドレイン電極のパターニング後の保護膜の形成工程と酸化処理工程の組み合わせには、上記
図5の他に、上記
図6の工程も挙げられる。尚、
図5〜7では、酸化処理として熱処理を実施している。しかしこの
図6の工程では、ソース・ドレイン電極が熱処理を受けることにより、上述の通り該電極の表面やエッチング加工された端部が酸化されることがある。特に上記電極がMo系膜の場合、酸化が生じ易い。この様に電極材料の端部が酸化すると、該酸化により生じたMo酸化物直下の酸化物半導体層部分に、アクセプタ準位が形成され、これによりスイッチング特性が劣化すると考えられる。
図8の破線部分は、前記Mo系膜からなるソース・ドレイン電極5の表面にMo酸化物14が形成されたときの、該Mo酸化物14直下の酸化物半導体層4部分を説明した図である。
図9Aおよび
図9Bは、前述の「Mo酸化物直下の酸化物半導体層部分に、アクセプタ準位が形成され、これによりスイッチング特性が劣化する」ことを確認した結果を示す図である。
図9Aは、Mo系膜からなるソース・ドレイン電極端5の横下に伝導帯裾準位(アクセプタ準位)を配置したときの電流経路を、シミュレーションを用いて計算した結果である。また
図9Bは、この場合のId−Vg特性におけるS値の増加を説明する図である。前記
図9Aにおいて、長方形部分Aは酸化物半導体層の電流密度分布を示しており、楕円で囲んだ部分のうち濃淡の薄い部分は、電流が流れ難くなっていることを示している。
【0054】
これら
図9Aおよび
図9Bから次のことがわかる。即ち、
図9Aに示す通り、ソース・ドレイン電極端5横下に伝導帯裾準位(アクセプタ準位)が配置されると、同領域でのアクセプタ準位は伝導帯がフェルミ準位から遠ざかる作用を及ぼし、高欠陥領域中の電子が吐き出され、伝導帯の低い半導体側で増加することになる。その結果、電流密度分布が変化すると考えられる。この様に、上記領域におけるアクセプタ準位がスイッチング時の電流経路を変化させ、
図9Bに示す通りS値を増加させるものと考えられる。尚、
図9Bにおける右側の上から系列2,3,4,5,6,1の順に示されたW
taは、伝導体端の裾状準位のエネルギー幅であり、この値が大きいほどアクセプタ準位が増加することを表している。前記
図9Bのグラフでは、系列2,3,4,5,6,1の順に上記裾状準位のエネルギー幅が増大、即ち、
図9B中の下向き矢印の通り急峻度が低下し、S値が増加することを示している。つまり
図9Bの結果は、ソース・ドレイン電極端の酸化、特には該ソース・ドレイン電極がMo系膜である場合の酸化が、アクセプタ準位を増加させ、結果としてS値を増加させる傾向に影響を及ぼすことを示唆しているといえる。
【0055】
本発明では、前記
図7の工程順序とすることによって、ソース・ドレイン電極の特に電極端の酸化、特にはMo系膜の酸化が抑制されて、S値の上昇が抑制され、TFTの静特性劣化を防ぐことができる。更には下記に詳述するとおり、酸化処理によってストレス耐性の改善を図ることもできる。
【0056】
SiOx膜の形成後に酸化処理を施すことによって、SiOx膜からの過剰な酸素および水酸基が固相拡散して酸化物半導体表面が酸化され、酸素欠損の回復が促進される。更に、酸化物半導体層表面が酸化されることによって、SiOx膜と酸化物半導体層の界面の整合性を高めることもできる。特に大気雰囲気の熱処理は、SiOx膜を介する外方からの酸素および水酸基の導入にも寄与するものと考えられる。
【0057】
更には、前記酸化処理時に、SiOx膜から酸化物半導体層への過剰な水素拡散が生じないため、トランジスタの導体化、または、オフ電流の増加やV
thの負側への変動を防ぐことができる。また、第2保護膜として用いうるSiNx膜は、一般的に水素含有量が多いが、上記の通り、酸化処理後にSiNx膜を形成することによって、SiNx膜から酸化物半導体層への水素拡散を防止でき、トランジスタの導体化、または、オフ電流の増加やV
thの負側への変動を防ぐことができる。
【0058】
次に、酸化処理の作用効果について述べる。
【0059】
この酸化処理によって、酸系エッチング液にさらされてダメージ等を受けた酸化物半導体層の表面が、酸エッチング前の状態に回復する。詳細には、ソース・ドレイン電極形成のためのウェットエッチング時に、酸系エッチング液にさらされた酸化物半導体層は還元されたりCといったコンタミネーションが取り込まれたりする。これら還元やCといったコンタミネーションの取り込みにより、酸素欠損が生じ、この酸素欠損が原因で電子トラップが形成され、光ストレス耐性が劣化しやすくなる。しかし上記酸化処理を施すことによって、上記コンタミネーションが酸素や水酸基(OH)と置換、即ち、酸化物半導体表面が酸化されたりC等が除去されて、ウェットエッチング前の表面状態に回復(リカバリー)するため、BCE型のTFTであっても優れたストレス特性、特に優れた光ストレス耐性が得られる。
【0060】
本発明者らは、このことを、下記に示す通り、酸化物半導体層形成直後(as−deposited)、酸エッチング後、および酸化処理後の各段階での酸化物半導体層の表面をX線光電子分光分析(XPS、X−ray Photoelectron Spectroscopy)で観察することにより確認した。
【0061】
[XPSによる酸化物半導体層の表面分析]
下記表面分析では、上記酸系エッチング液にさらされる酸化物半導体層の表面分析を行った。該表面分析には、酸化処理として、350℃で60分間、大気雰囲気の条件で熱処理を行ったTFTを用いた。尚、前記TFTの酸化物半導体層は、本発明で規定の要件を満たすものである。また、評価に供したTFTは、酸化物半導体層の表面性状に対する酸化処理の影響のみを確認するため、保護膜の形成を行っていない。
【0062】
上記TFTの作製途中の、
(1)酸化物半導体層形成直後(as−deposited)の酸化物半導体層表面;
(2)酸化物半導体層の表面を、ウェットエッチング、具体的にはPAN系エッチング液を用いて酸エッチングした直後の酸化物半導体層の表面;および、
(3)前記(2)のウェットエッチング後に、前記酸化処理を施した後の酸化物半導体層の表面;
のそれぞれの状態を確認するため、XPSでO1sスペクトルピークの観察を行った。
【0063】
これらの観察結果を併せて
図10に示す。尚、
図10においてそれぞれ縦破線で示す、530.8eVは、酸素欠損なしの場合のO1sスペクトルピーク値、532.3eVは、酸素欠損ありの場合のO1sスペクトルピーク値、533.2eVは、OH基のスペクトルピーク値を示す。
【0064】
この
図10から次のことがわかる。即ち、実線で示した(1)as−deposited状態、即ち、酸化物半導体層形成直後のO1sスペクトルピーク;点線で示した(2)ウェットエッチング後のO1sスペクトルピーク、および破線で示した(3)酸化処理後のO1sスペクトルピーク;の位置を比較すると次のことがいえる。即ち、前記(1)as−deposited状態のO1sスペクトルピークは、ほぼ530.8eVにあるのに対し、前記(2)ウェットエッチング後のO1sスペクトルピーク、即ち、上記as−deposited状態の酸化物半導体層に対し、上記酸エッチングを施したが酸化処理は行っていない従来のTFT製造方法の場合に相当するO1sスペクトルピークは、532.3eV(酸素欠損あり)に近づいており、前記(1)as−deposited状態(ほぼ530.8eV)よりも左側へシフトしている。しかし前記ウェットエッチング後に酸化処理を施した場合、
図10の(3)の通りO1sスペクトルピークは、ほぼ530.8eV(530.8±0.5eVの範囲内)にあり、前記(1)as−deposited状態のピークとほぼ同じ位置にある。
【0065】
この
図10の結果から、上記酸化処理の有無が表面状態に及ぼす影響について、以下のことがわかる。ウェットエッチングによりO1sスペクトルピークは、as−deposited状態よりも左へシフトしている。これは、ウェットエッチングにより酸化物半導体層の表面にCといったコンタミが付着して、酸化物半導体層を構成する金属酸化物の酸素が、これらコンタミと結合し、酸化物半導体層を構成する酸素が欠損している状態を意味している。しかし上記ウェットエッチング後に、熱処理等の酸化処理を施すことにより、前記Cといったコンタミネーションが酸素と置換され、電子トラップとなりうるCが除去され、その結果、O1sスペクトルピークはas−deposited状態、即ち、ウェットエッチング前の表面状態に戻ったと考えられる。この様な現象は、酸化処理としてN
2Oプラズマ処理を行った場合にも確認できる。
【0066】
前記酸化処理後の酸化物半導体層は、後述する実施例に記載の方法で測定した比抵抗値が、2.1×10
2Ω・cm以上、1.0×10
5Ω・cm以下の範囲内にあることが好ましい。酸化物半導体層の比抵抗値を上記範囲内とすることによって、後述する実施例に示す通り、優れた光ストレス耐性、更には優れた静特性、特には低いS値を確保することができる。前記比抵抗値は、より好ましくは4×10
2Ω・cm以上であって、より好ましくは4.0×10
4Ω・cm以下、更に好ましくは9.0×10
3Ω・cm以下、より更に好ましくは7.0×10
3Ω・cm以下である。
【0067】
また本発明者らが、酸化処理前後のSiOx膜を確認したところ、酸化処理後はSiOx膜中の水素量が低減しており、3.5原子%以下であることを見出した。この様に酸化処理後のSiOx膜中の水素量が少なくなるほど、該SiOx膜と接する酸化物半導体層中の水素量も少なくなり、光ストレス耐性が良好になる。該水素量は、好ましくは3.4原子%以下、より好ましくは3.2原子%以下である。尚、該水素量は、少なければ少ないほど好ましいが、後述する酸化処理の条件等を考慮すると、その下限はおおよそ1.0原子%となる。
【0068】
以下、ソース・ドレイン電極のパターニング後に行う、本発明で規定の工程:「SiOx膜(第1保護膜)の形成」→「酸化処理」→「第2保護膜の形成」の各条件について説明する。
【0069】
(SiOx膜(第1保護膜)の形成)
SiOx膜の形成自体は一般的な方法を採用することができる。例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等のCVD法やスパッタリング法で行うことができる。前記CVD法の場合、成膜パワー、成膜温度、SiH
4とN
2Oのガス比は一般的に行われている通り制御すればよい。前記SiOx膜の形成前には、後述する実施例に示す通り、前処理としてN
2Oガスによってプラズマ処理を行ってもよい。
【0070】
前記SiOx膜の膜厚は、30〜200nmとすることが好ましい。膜厚が薄いと、ソース・ドレイン電極に対するカバレッジが悪くなり、十分にSiOx膜で覆われない領域が生じやすくなる。この場合、後述の熱処理を大気雰囲気で行う際にソース・ドレイン電極(例えばMo系膜)の酸化が促進され、S値の上昇が生じやすくなる。この現象は、膜厚が薄いほど顕著になる。よって前記SiOx膜の膜厚は、後述する熱処理時の加熱温度にもよるが、30nm以上であることが好ましく、より好ましくは50nm以上である。尚、生産性の観点から、前記SiOx膜の膜厚の上限は300nm程度であり、より好ましくは200nm以下である。
【0071】
前記SiOx膜中の後述する酸化処理前の水素濃度は、5.0原子%以下であることが好ましい。上記水素濃度とすることにより、酸化処理によって容易に水素濃度:3.5原子%以下を達成できる。前述の通りSiOx膜中の水素量が少ないほど、このSiOx膜と接する酸化物半導体層中の水素量も少なくなり、光ストレス耐性が良好になると考えられる。前記SiOx膜中の水素濃度は、より好ましくは4.5原子%以下である。尚、0原子%にすることは難しい。上記SiOx膜中の水素濃度の低減は、SiOx膜の形成に用いるSiH
4の割合を低減することで実現できる。
【0072】
(酸化処理)
前記酸化処理としては、熱処理とN
2Oプラズマ処理のうちの1以上の処理が挙げられる。好ましくは熱処理およびN
2Oプラズマ処理の両方を行うことである。
【0073】
前記熱処理は、次の条件で行うことが挙げられる。即ち、加熱雰囲気は、例えば水蒸気雰囲気、酸素雰囲気とすることが挙げられる。好ましくは酸素雰囲気であり、より好ましくは大気雰囲気である。ちなみに窒素雰囲気であると、SiOx膜を介して酸化物半導体表面が還元されて光ストレス耐性改善が阻害される可能性があるため好ましくない。
【0074】
前記熱処理の加熱温度(熱処理温度)は、130℃以上とすることが好ましく、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは250℃以上である。該加熱温度が高くなるほど、酸素欠損の回復、具体低には酸化物表面の酸化が促進されて、光ストレス耐性が向上する。一方、上記加熱温度が高すぎると、ソース・ドレイン電極を構成する材料が変質しやすい。具体的には、ソース・ドレイン電極のMo端の酸化が促進されるためスイッチング特性が劣化しやすい。よって上記加熱温度は400℃以下とすることが好ましく、より好ましくは380℃以下であり、更に好ましくは350℃以下である。上記加熱温度での保持時間(加熱時間)は、5分以上とすることが好ましい。より好ましくは60分以上である。上記加熱時間が長すぎてもスループットが悪く、一定以上の効果は期待できないので、上記加熱時間は、120分以下とすることが好ましく、より好ましくは90分以下である。
【0075】
前記N
2Oプラズマ処理、即ち、N
2Oガスによるプラズマ処理は、例えば、パワー:100W、ガス圧:133Pa、処理温度:200℃、処理時間:10秒〜20分の条件で実施することが挙げられる。
【0076】
(第2保護膜の形成)
前記第2保護膜は、前記第1保護膜上の1層以上の保護膜であり、絶縁性化合物膜からなるか、樹脂膜と該絶縁性化合物膜との積層膜である。前記樹脂膜は、第1保護膜と前記絶縁性化合物膜の間に位置するのがよい。これらの膜は、絶縁膜として作用すると共に、水蒸気がTFT内部に侵入するのを抑制する水蒸気バリアの機能を有する。
【0077】
前記絶縁性化合物膜として、Si、Al、Ti、Ta、Ce、Ga、Hf、Nb、V、W、Y、およびZrよりなる群から選択される1種以上の元素を含む酸化物、窒化物、もしくは酸化窒化物よりなる膜;または、樹脂膜と前記絶縁性化合物膜、即ち、前記酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物よりなる膜との積層膜;を使用することができる。好ましくは、SiNx膜と前記酸化物よりなる膜、即ち絶縁性酸化物膜のうちの1以上の膜であり、より好ましくは絶縁性酸化物膜である。絶縁性酸化物膜は、上記SiNx膜と比較して水素濃度が少ないため、酸化物半導体層中への水素拡散を低減することができる。また絶縁性酸化物膜は、SiNx膜と同様に水蒸気バリア性を示すため良好な光ストレス耐性の確保に有効である。以下では、前記Si、Al、Ti、Ta、Ce、Ga、Hf、Nb、V、W、Y、およびZrよりなる群から選択される1種以上の元素を金属元素Xということがある。
【0078】
前記絶縁性酸化物膜として、Si、Al、Ti、Ta、Ga、Hf、Nb、V、W、Y、およびZrよりなる群から選択される1種以上の元素を含む酸化物からなる膜が挙げられる。例えば、SiOx、Al
2O
3、Ga
2O
3、HfO
2、Nb
2O
5、TiO
2,Ta
2O
5,V
2O
5,WO
3、Y
2O
3、ZrO
2等からなる膜が挙げられる。
【0079】
第2保護膜を構成する絶縁性化合物膜の形成方法として、一般的な方法を採用することができる。例えばプラズマCVD法等のCVD法やスパッタリング法で行うことができる。前記CVD法の場合、成膜パワー、成膜温度、ガス比は一般的に行われている通り制御すればよい。第2保護膜として例えばSiNx膜を形成する場合、前記ガス比として、SiH
4、N
2およびNH
3のガス比を一般的に行われている通り制御すればよい。また前記スパッタリング法として、例えばマグネトロンスパッタ法で成膜できる。詳細には、例えばスパッタリングターゲットとして、前記金属元素Xを含む酸化物、窒化物、または酸化窒化物からなるスパッタリングターゲットを用い、DCスパッタリングまたはRFスパッタリングを行うことによって成膜できる。また、前記金属元素Xを含む純金属スパッタリングターゲットまたは合金スパッタリングターゲットを用い、酸素や窒素を含む雰囲気でスパッタリングを行うことによっても成膜できる。上記スパッタリング法における成膜パワー等の条件は、一般的に行われている通り制御すればよい。
【0080】
前記樹脂膜として、シリコーン系樹脂膜、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。前記シリコーン系樹脂膜は、液晶ディスプレイや発光ダイオード素子の保護材として一般に使用される。このシリコーン系樹脂膜自体は、バリア性が低い場合があるため、上述の通り、前記絶縁性化合物膜と組み合わせて使用することが好ましい。該シリコーン系樹脂膜は、スプレーコート、スピンコート、スリットコート、ロールコート等の方法で塗布、更に塗液に含まれる溶剤を蒸発させ、膜質を向上させるための熱処理(200℃程度)を施すことによって形成できる。上記樹脂膜の膜厚は、例えば数100nm〜数μmとすることができ、本発明では好ましくは500nm以上である。
【0081】
第2保護膜の形態として、絶縁性化合物膜の単層膜、2層以上の絶縁性化合物膜の積層膜、樹脂膜と1層の絶縁性化合物膜との積層膜、樹脂膜と2層以上の絶縁性化合物膜の積層膜が挙げられる。
【0082】
前記第2保護膜の膜厚は、前記樹脂膜を使用しない場合、合計で10〜500nmとすることが好ましい。この第2保護膜の膜厚が薄いと、膜厚分布が不均一になり、水蒸気のバリア性が低下して酸化物半導体層表面に水素が侵入し、TFT特性が変動する恐れがある。よって第2保護膜の膜厚は、合計で10nm以上であることが好ましく、より好ましくは合計で20nm以上である。尚、生産性の観点から、前記第2保護膜の膜厚の上限は、合計で約500nm以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で400nm以下である。
【0083】
また、前記第2保護膜の膜厚は、樹脂膜を使用する場合、合計で300nm〜5.0μmとすることが好ましい。上記第2保護膜における樹脂膜の膜厚が薄いと、大気または樹脂膜上に形成される保護膜中から水素や水蒸気が樹脂膜、第1保護膜を拡散して酸化物半導体表面に侵入し、TFT特性が変動する恐れがある。よって第2保護膜の膜厚は、合計で300nm以上であることが好ましく、より好ましくは合計で500nm以上である。尚、生産性の観点から、前記第2保護膜の膜厚の上限は、合計で約5.0μm以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で4.5μm以下である。
【0084】
(第2保護膜形成後の熱処理)
前記第2保護膜の形成後、更に熱処理を行うことによって、複数回スイープによるV
thしきい値のシフト量(ΔV
th(V))を低減することができる。以下、この熱処理を「ポストアニール」ということがある。このポストアニールの推奨される条件は次の通りである。加熱雰囲気として、窒素雰囲気、大気雰囲気、真空雰囲気とすることが挙げられる。加熱温度は上記効果を得るべく200℃以上とすることが好ましい。より好ましくは230℃以上である。一方、温度が高すぎても、前記第1保護膜や第2保護膜からの水素の脱離がさらに促進されることから、320℃以下とすることが好ましい。より好ましくは300℃以下である。上記加熱温度での保持時間(加熱時間)は、5分以上とすることが好ましい。より好ましくは60分以上である。上記加熱時間が長すぎてもスループットが悪く、一定以上の効果は期待できないので、上記加熱時間は、120分以下とすることが好ましく、より好ましくは90分以下である。例えば、窒素雰囲気にて250℃で30分間の熱処理を行うことが挙げられる。
【0085】
本発明のTFTは、ソース・ドレイン電極を保護する2層以上の保護膜と酸化物半導体層とが上述した要件を満たし、かつ、TFTの製造工程において、前記ソース・ドレイン電極のパターニング後、前記第1保護膜の形成→酸化処理→前記第2保護膜の形成の工程を含んでいればよく、TFTおよびその製造工程における他の構成については特に限定されない。
【0086】
以下、上記酸化処理を含む本発明のTFTの製造方法を、前記
図2を参照しながら説明する。前記
図2および以下の説明は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。即ち、前記
図2では、第2保護膜が単層膜の場合を示しているが、本発明はこれに限定されず、第2保護膜が積層膜の場合も本発明に含まれる。
【0087】
前記
図2では、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体層4が形成されている。更にその上にはソース・ドレイン電極5が形成され、その上に保護膜(絶縁膜)として第1保護膜6Aと第2保護膜6Bが形成され、コンタクトホール7を介して透明導電膜8がドレイン電極5に電気的に接続されている。
【0088】
基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3を形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極2およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2として、電気抵抗率の低いAlやCuの金属や、耐熱性の高いMo、Cr、Tiなどの高融点金属や、これらの合金を好ましく用いることができる。更にゲート絶縁膜3としては、シリコン窒化膜(SiN)、シリコン酸化膜(SiO
2)、シリコン酸窒化膜(SiON)などが代表的に例示される。そのほか、Al
2O
3やY
2O
3などの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。
【0089】
次いで酸化物半導体層4を形成する。酸化物半導体層4は、スパッタリング法、例えばDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法等にて、スパッタリングターゲットを用いて成膜することが好ましい。以下、前記スパッタリングターゲットを単に「ターゲット」ということがある。スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できる。また、塗布法などの化学的成膜法によって酸化物を形成しても良い。
【0090】
スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述した元素を含み、所望の酸化物と同一組成のスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。これにより、組成ズレが少なく、所望の成分組成の薄膜を形成できる。
【0091】
具体的には、前記酸化物半導体層の成膜に用いるターゲットとして、Snと、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される1以上の金属元素の酸化物から構成され、所望の酸化物と同一組成の酸化物ターゲットを用いればよい。または、組成の異なる二つのターゲットを同時放電するコンビナトリアルスパッタリング法で成膜しても良い。上記ターゲットは、例えば粉末焼結法によって製造することができる。
【0092】
上記スパッタリングは、次の条件で行うことが挙げられる。基板温度は、おおむね室温〜200℃とすることが挙げられる。酸素添加量は、半導体として動作を示すよう、スパッタリング装置の構成やターゲット組成などに応じて適切に制御すればよい。酸素添加量は、半導体キャリア濃度がおおむね10
15〜10
16cm
-3となるように制御することが好ましい。
【0093】
またスパッタリング成膜時のガス圧は、おおむね1〜3mTorrの範囲内であることが好ましい。スパッタリングターゲットへの投入パワーは、おおむね200W以上に設定することが推奨される。
【0094】
上記の通り、酸化物半導体層4を成膜した後、該酸化物半導体層4に対してウェットエッチングを行い、パターニングする。前記パターニング後は、酸化物半導体層4の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましい。この熱処理により、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上する。プレアニールの条件として、例えば大気雰囲気下または水蒸気雰囲気下にて、例えば、加熱温度:約250〜400℃、加熱時間:約10分〜1時間とすること等が挙げられる。
【0095】
前記プレアニールの後、ソース・ドレイン電極5を形成する。本発明では、ソース・ドレイン電極形成のためのパターニングに酸系エッチング液を用いているので、ソース・ドレイン電極を構成する金属薄膜は、Mo系膜として純Mo膜とMo合金膜のうちの1以上の膜であるか、このMo系膜と、純Al膜、純Cu膜、Al合金膜およびCu合金膜よりなる群から選択される1種以上の膜との積層膜がよい。尚、前記Mo合金膜は、Moを50原子%以上含むものをいい、前記Al合金膜は、Alを50原子%以上含むものをいい、また前記Cu合金膜は、Cuを50原子%以上含むものをいう。
【0096】
前記積層膜の場合、前記純Mo膜とMo合金膜のうちの1以上の膜が、前記酸化物半導体層と直接接合するように形成するのがよい。尚、前記酸化物半導体層と直接接合する膜が、純Cu膜等のMo系膜以外の膜である場合、Cuが酸化物半導体表面に拡散したり、残渣が生じたりする等して、前記酸化物半導体層と前記Mo系膜が直接接合している場合と比較してスイッチング特性が悪くなる傾向にある。
【0097】
またソース・ドレイン電極5は、前記Mo系膜のみからなる場合よりも、Mo系膜と、純Al膜、純Cu膜、Al合金膜およびCu合金膜よりなる群から選択される1種以上の膜との積層膜の方が、酸化処理を受けた場合のMo端酸化の程度が小さくなるため好ましい。前記積層膜は、より好ましくは、Mo系膜と、純Al膜およびAl合金膜よりなる群から選択される1種以上の膜との積層膜である。
【0098】
ソース・ドレイン電極5は、例えばマグネトロンスパッタリング法によって金属薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィおよび酸系エッチング液を用いたウェットエッチングによりパターニングして形成することができる。前記ソース・ドレイン電極5の膜厚は、例えば50〜300nmの範囲とすることができる。ソース・ドレイン電極の膜厚が、50nmを下回って薄すぎると、後工程の例えばRIE装置で実施するコンタクトホールエッチングで膜が消失しやすくなる。また、膜厚が300nmを超えて厚すぎると、保護膜のカバレッジが悪くなりソース・ドレイン電極の酸化等の不具合が生じ易くなる。
【0099】
本発明では、前記ソース・ドレイン電極のパターニングを、燐酸、硝酸、および酢酸よりなる群から選択される1種以上が50体積%以上含まれる酸系エッチング液を用いて行う場合であっても、前述の通り酸化処理によって、この酸系エッチング液に曝された酸化物半導体層表面を回復させることができ、ストレス耐性に優れたTFTを得ることができる。
【0100】
次いで、上述した通りPV工程として、第1保護膜(SiOx膜)6Aの形成→酸化処理→第2保護膜6Bの形成の順に実施する。
【0101】
それから常法に基づき、コンタクトホール7を介して透明導電膜8をドレイン電極5に電気的に接続する。前記透明導電膜8の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。
【0102】
本発明のTFTの製造方法は、エッチストッパー層を含まないため、TFT製造工程で形成するマスク数が減る。そのため、コストを十分に削減することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0104】
[実施例1]
[本発明例のTFTの作製]
前述した方法に基づき、まず
図2に示す薄膜トランジスタを作製した。
【0105】
まず、ガラス基板1(コーニング社製イーグルXG、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極2としてMo薄膜を100nm、およびゲート絶縁膜3としてSiO
2膜(膜厚250nm)を順次成膜した。上記ゲート電極2は、純Moのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタリング法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrの条件で成膜した。また、上記ゲート絶縁膜3は、プラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH
4とN
2Oの混合ガス、成膜パワー:300W、成膜温度:350℃の条件で成膜した。
【0106】
次に、酸化物半導体層4(膜厚:40nm)を次の通り成膜した。即ち、上記ゲート絶縁膜3上に、酸化物半導体層4として、原子比がGa:In:Zn:Sn=16.8:16.6:47.2:19.4のGa−In−Zn−Sn−O膜を成膜した。
【0107】
前記酸化物半導体層4の成膜には、金属元素が上記比率のGa−In−Zn−Sn−Oスパッタリングターゲットを用いた。
【0108】
前記酸化物半導体層4は、DCスパッタリング法を用いて成膜した。スパッタリングに使用した装置は(株)アルバック社製「CS−200」であり、スパッタリング条件は下記のとおりである。
(スパッタリング条件)
基板温度:室温
成膜パワー:DC 200W
ガス圧:1mTorr
酸素分圧:100×O
2/(Ar+O
2)=10%
【0109】
上記のようにして酸化物半導体層4を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングによりパターニングを行った。前記ウェットエッチングでは、酸系エッチング液(ウェットエッチャント液)として、関東化学社製「ITO−07N」(シュウ酸と水の混合液)を使用し、液温を室温とした。本実施例では、実験を行った全ての酸化物薄膜について、前記ウェットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。
【0110】
上記の通り酸化物半導体層4をパターニングした後、酸化物半導体層4の膜質を向上させるため、プレアニール処理を行った。プレアニール処理は、大気雰囲気にて350℃で60分間行った。
【0111】
次にソース・ドレイン電極5を形成した。具体的には、表1および表2に示す通り、純Mo膜、またはこの純Mo膜と、純Al膜または純Cu膜との積層膜を形成した。尚、表1に示す積層膜は、表1に示す左から順に示された金属膜を、前記酸化物半導体層4上に積層した。これらの単層膜または積層膜を、前述したゲート電極と同様にDCスパッタリング法により成膜した。前記単層膜または積層膜の膜厚は合計で100nmとした。その後、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングによりパターニングを行った。酸系エッチング液として、燐酸:硝酸:酢酸:水=70:1.9:10:12(体積比)のPAN系の混酸であり、液温が室温のものを用いた。パターニングによりTFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。ソース・ドレイン電極5の短絡を防ぐためパターニングを確実に行うべく、ソース・ドレイン電極5の膜厚に対して50%相当の時間分更に、上記酸系エッチング液に浸漬(オーバーエッチ)させた。
【0112】
その後、保護膜としてまず第1保護膜6AとしてSiO
2膜を形成した。該SiO
2膜の形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法で行った。本実施例では、前処理としてN
2Oガスによってプラズマ処理を60秒行った後に前記SiO
2膜を形成した。この時のN
2Oガスによるプラズマ条件は、パワー:100W、ガス圧:133Pa、処理温度:200℃、処理時間:1分とした。SiO
2膜の形成にはSiH
4およびN
2Oの混合ガスを用いた。また成膜パワーを100W、成膜温度を230℃とした。前記SiH
4とN
2Oのガス比は、SiH
4:N
2O=40:100、20:100、または10:100とした。本実施例では40:100を標準とし、この場合SiO
2膜中の水素量は4.3原子%であった。また、SiO
2膜の膜厚は200nmを標準とし、膜厚が100nmまたは20nmのものも形成した。
【0113】
次いで大気雰囲気にて、加熱温度:120℃、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、または500℃で60分間の熱処理を実施した。
【0114】
その後、表1のNo.1〜18および表2のNo.19〜24では、第2保護膜6Bとして、SiNx膜(膜厚150nm)を形成した。該SiNx膜の形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行った。このSiNx膜の形成にはSiH
4、N
2およびNH
3の混合ガスを用いた。また成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0115】
また、第2保護膜6Bとして、表2のNo.25ではAl酸化物膜、No.26ではTa酸化物膜、No.27ではTi酸化物膜、No.28ではシリコーン樹脂膜とSiNx膜との積層膜をそれぞれ形成した。前記Al酸化物膜、前記Ta酸化物膜、前記Ti酸化物膜の形成には、Al酸化物からなるスパッタリングターゲット、Ta酸化物からなるスパッタリングターゲット、Ti酸化物からなるスパッタリングターゲットをそれぞれ使用し、前記第1保護膜上にRFスパッタリング法で形成した。成膜条件は、投入パワー密度:2.5W/cm
2、ガス圧:5mTorr、ガス流量比:Ar/O
2=80/20、膜厚:20nm、基板温度:室温とした。前記No.28では、前記シリコーン樹脂膜を、前記第1保護膜上に光硬化性シリコーン樹脂をスピンコートによって形成した。上記シリコーン樹脂膜の膜厚は1000nmとした。このシリコーン樹脂膜上に、前述の通りプラズマCVD法によりSiNx膜を形成した。
【0116】
次にフォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、保護膜6Aおよび6Bにトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホール7を形成してTFTを得た。
【0117】
比較例として表2のNo.24に示す通り、酸化物半導体層としてIGZO膜、具体的には原子比がIn:Ga:Zn=1:1:1でありSnを含まないIn−Ga−Zn−O膜の単層を形成したことを除き、前記本発明例と同様にして作製したTFTを用意した。また比較例として表1のNo.1に示す通り、前記酸化処理を行わなかったことを除き、前記本発明例と同様にして作製したTFTを用意した。更に比較例として表1のNo.2に示す通り、前記酸化処理を第1保護膜であるSiOx膜の形成前に実施、即ち、ソース・ドレイン電極の形成→酸化処理→第1保護膜の形成→第2保護膜の形成の順に実施したことを除き、前記本発明例と同様にして作製したTFTを用意した。
【0118】
上記得られたTFTを用いて、下記の通り静特性の評価とストレス耐性の評価を行った。
[静特性(電界効果移動度(移動度)、S値)の評価]
前記TFTを用いてId−Vg特性を測定した。Id−Vg特性は、ゲート電圧、ソース・ドレイン電極の電圧を以下のように設定し、プローバーおよび半導体パラメータアナライザ(Keithley4200SCS)を用いて測定を行った。
ゲート電圧:−30〜30V(ステップ0.25V)
ソース電圧:0V
ドレイン電圧:10V
測定温度:室温
【0119】
測定したId−Vg特性から、電界効果移動度(移動度)、S値を算出した。そして、前記移動度は7.00cm
2/Vs以上を合格とした。またS値については、下記の通り評価した。
○:S値が0.45V/dec以下
△:S値が0.45V/dec超1.00V/dec以下
×:S値が1.00V/dec超
【0120】
[ストレス耐性の評価]
次に、前記TFTを用い、以下のようにしてストレス耐性の評価を行った。
【0121】
ストレス耐性は、ゲート電極に負バイアスをかけながら光を照射するストレス印加試験を行って評価した。ストレス印加条件は以下のとおりである。
・ゲート電圧:−20V
・ソース/ドレイン電圧:10V
・基板温度:60℃
・光ストレス条件
ストレス印加時間:2時間
光強度:25000NIT
光源:白色LED
【0122】
そして、ストレス印加前後のしきい値電圧(V
th、ドレイン電流が10の−9乗流れるときのゲート電圧の値)の差を測定した。この差を以下「ΔV
th」と示す。このようにして算出されたΔV
thについて、下記判定基準で評価した。そして本実施例では○の場合をストレス耐性に優れると評価した。
(判定基準)
○:ΔV
th(絶対値)が4.50V以下
△:ΔV
th(絶対値)が4.50V超6.50以下
×:ΔV
th(絶対値)が6.50V超
【0123】
これらの結果を表1および表2に併記する。尚、表1および表2において一部の例では、酸化処理後の上記SiOx膜中の水素濃度を、後述する実施例3で示す二次イオン質量分析法(SIMS、Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて求めた。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
表1および表2より次のことがわかる。まず、SiOx膜形成後の熱処理について述べる。No.1のように酸化処理を行わない場合には、ストレス耐性が悪くなった。またNo.2のようにSiOx膜形成前に熱処理を行った場合には、S値が高くなった。
図11は、得られたTFTの断面の顕微鏡観察写真(FE−SEM観察写真)であり、
図11Aは上記No.2、
図11Bは本発明例であるNo.7の写真である。前記
図11Aにおいて、ソース・ドレイン電極端のMo酸化膜の厚さは、矢印で幅を示す通り20〜30nmであった。また前記
図11Bにおいて、ソース・ドレイン電極端のMo酸化膜の厚さは、矢印で幅を示す通り5nm以下であった。これらの対比から、従来の方法ではMo酸化物が厚く形成されているが、本発明の方法によればMo酸化物の形成が十分に抑えられていることがわかる。
【0127】
No.3〜9は、上記熱処理温度を120〜500℃の間で変えた例である。このうち、No.3のようにSiOx膜形成後に熱処理を行っているが、熱処理温度が低い場合は、No.1ほどではないがストレス耐性がやや劣った。また、No.9のように熱処理温度が高すぎる場合には、S値が高くなった。更に、No.4とNo.5の対比から、前記熱処理温度を250℃以上とより高めれば、光ストレス耐性がより改善されることがわかる。尚、表1のNo.5および6のTFTのId−Vg特性を、それぞれ
図12、
図13に示す。前記No.5および6はいずれも本発明例である。前記No.5の結果を示す
図12ではPV工程を、SiOx膜の形成→大気中250℃で60分間加熱する熱処理→SiNx膜の形成の順に行った。また、前記No.6の結果を示す
図13ではPV工程を、SiOx膜の形成→大気中300℃で60分間加熱する熱処理→SiNx膜の形成の順に行った。これらの対比から、熱処理温度をより高めることによって、ストレス耐性がより改善されることがわかる。
【0128】
更に、表2のNo.25の通り、第2保護膜としてアルミナを用いた場合のTFTのId−Vg特性を
図14に示す。この
図14と、SiNx膜を形成した
図12の結果とを対比すると、第2保護膜としてアルミナを用いた場合の方が、ΔVthが充分に小さくなっていることがわかる。
【0129】
また、No.7とNo.8の対比から、前記熱処理温度を400℃よりも低くすれば、ストレス耐性がより改善されることがわかる。
【0130】
表1のNo.5〜8、12〜15、17および18と、No.1とを比較すると、熱処理温度250℃以上で加熱、即ち酸化処理することによって、SiOx膜の水素量が4.3原子%から3.5原子%以下に低減している。良好な光ストレス耐性が確保できる要因の一つに、SiOx膜の水素量の低減が挙げられる。
【0131】
No.5と12、No.6と13、No.7と14、No.8と15とをそれぞれ対比すると、S/D電極が、Mo系膜のみからなる場合よりも、Mo/Al/Mo積層膜である方が、S値が低くなりやすい傾向にあることがわかる。これは、Mo/Al/Mo積層膜の方が、Mo系膜のみの場合よりもMo端酸化の体積が相対的に小さく、Mo端酸化による悪影響が小さいためと考えられる。
【0132】
No.12と17、No.13と18とをそれぞれ対比すると、S/D電極がCuを含む場合よりも、Mo/Al/Mo積層膜の方がS値は低い。これは、S/D電極がCuを含む場合、Cuが酸化物半導体表面に拡散したり、残さが生じたりする等して、スイッチング特性が劣化するためと考えられる。
【0133】
No.10および11は、酸化処理前のSiOx膜中の水素含有量がNo.6よりも少ない例である。このNo.10および11のストレス耐性は、No.6よりも優れている。これは、酸化処理前のSiOx膜中の水素含有量が少ないほど、酸化物半導体層中の水素量も少なくなり、優れた光ストレス耐性が得られたためと考えられる。
【0134】
No.19〜23は、SiOx膜の膜厚が、No.5やNo.6よりも薄い例であり、No.23は、SiOx膜の膜厚が特に薄い例である。No.5とNo.19、21および23との対比、ならびにNo.6とNo.20および22との対比から、SiOx膜の膜厚が薄くなるほどS値が上昇していることがわかる。このことは次の様に説明できる。即ち、No.23のように膜厚がかなり薄いと、S/D電極に対するカバレッジが悪くなり、S/D電極がSiOx膜で十分に覆われない領域が生じる。この場合、SiOx膜形成後の熱処理、特に大気熱処理を行うと、S/D電極の酸化が促進されて、S値の上昇が生じる。
【0135】
No.24は、酸化物半導体層がSnを含むものでないため、酸化物半導体層の膜べりが5%以上あり面内膜厚分布を招いたために、S値および光ストレス耐性が共に悪くなった。
【0136】
No.25〜28は、第2保護膜としてSiNx膜以外の膜を使用した例である。No.25、26、27は、それぞれAl酸化物膜、Ta酸化物膜、Ti酸化物膜を使用した例である。これらの膜を第2保護膜に使用した場合も、SiNx膜を使用した場合と同様に良好な静特性および光ストレス耐性が得られている。またNo.28は、シリコーン樹脂膜とSiNx膜の積層膜を使用した例であるが、この例でも良好な特性が得られている。No.25〜28の酸化処理後のSiOx膜の水素量は十分低減している。この結果から、第2保護膜としてSiNx膜の代わりに、またはSiNx膜と共に、水蒸気バリア性の高い材料からなる膜を用いても良好な特性が得られることがわかる。
【0137】
[実施例2]
SiO膜形成後の酸化処理を表3に記載の通りとし、更にSiNx膜形成後に熱処理、具体的には窒素雰囲気下250℃で30分保持するポストアニールを行った以外は、実施例1と同様にしてTFTを作製した。
【0138】
そして、前記ポストアニール前後のTFTを用い、3回のスイープ、具体的には電圧を−30Vから+30Vまでスイープさせ、その後、ふたたび、−30Vから+30Vまでのスイープを繰り返した場合のΔV
thを求めた。
【0139】
その結果を表3に併記する。尚、表3において一部の例では、酸化処理後の上記SiOx膜中の水素濃度を、後述する実施例3で示す二次イオン質量分析法を用いて求めた。
【0140】
【表3】
【0141】
表3より次のことがわかる。第2保護膜形成後に熱処理(ポストアニール)を施すことによって、V
thの変動、即ちΔV
thが十分に小さくなることがわかる。これは、上記ポストアニールを施すことで、第2保護膜から水素が酸化物半導体層に拡散し、適度な水素終端効果によってV
thのばらつきが低減されたためと考えられる。また、酸化処理とし手行った熱処理の加熱温度が低いほど、このポストアニールによるΔV
thの低減効果が大きいことがわかる。
【0142】
[実施例3]
SiOx膜形成後の酸化処理を、大気雰囲気にて、加熱温度:250℃、300℃、350℃、400℃、または500℃で60分間の熱処理を行うか、熱処理を行わないことを除き、ソース・ドレイン電極がMo単層、かつ第2保護膜がSiNxの単層である実施例1と同様にしてTFTを作製した。
【0143】
5mm角の正方形にパターニングされた酸化物半導体層の四隅に数100μm角のMo電極パターンを形成した比抵抗測定専用の素子を用意した。該比抵抗値測定用素子を用い、比抵抗値測定手法として周知されているVan der Pauw法を用いて、酸化物半導体層の比抵抗値を測定した。また前記TFT素子を用い、静特性(S値)とストレス耐性の評価を実施例1と同様にして実施した。これらの結果を整理して
図15および
図16に示す。
図15は、熱処理の加熱温度とS値、比抵抗値との関係を示したグラフである。
図16は、熱処理の加熱温度とΔV
th、比抵抗値との関係を示したグラフである。尚、
図15および
図16では、前記熱処理の加熱温度を「酸化処理温度」と示している。また、
図15および
図16において縦軸の例えば「1.00E+06」は1.00×10
6を示す。更に、
図16においてΔV
thは絶対値を示す。
【0144】
更に、前記比抵抗測定に使用したTFT素子に対し、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、第2保護膜の第1保護膜と反対側の面(最表面)からゲート絶縁膜までの深さ方向の水素二次イオン相対強度分析を実施した。また、熱処理なしの場合の第1保護膜(SiOx膜)中の水素濃度を調べるべく、上記TFTと同一条件で形成した試料のSiOx膜に対して弾性反跳検出分析(Elastic Recoil Detection Analysis:ELDA)を用いた定量分析を実施し、4.3原子%であることを確認した。そしてこの熱処理なしの場合の第1保護膜(SiOx膜)中の水素濃度と、上記加熱温度が種々のサンプルの水素二次イオン相対強度から、上記加熱温度が種々のサンプルの第1保護膜(SiOx膜)中の水素濃度を見積もった。その結果を
図17に示す。
図17において、左側から順に6Bは第2保護膜として形成したSiNx単層、6Aは第1保護膜として形成したSiOx膜、4は酸化物半導体層、3はゲート絶縁膜を示す。
【0145】
図15および
図16より次のことがわかる。まず
図15において、S値(▲)は、加熱温度が250℃、300℃の場合に、0.45V/dec以下を達成できていることがわかる。また
図15から、このS値:0.45V以下を達成するには、酸化物半導体層の比抵抗値(●)が、2.1×10
2Ω・cm以上であることが好ましく、4.0×10
4Ω・cm以下であることが好ましい。
図15中の破線および縦矢印はこの好ましい範囲を示したものである。前記比抵抗値は、より好ましくは1.0×10
4Ω・cm以下である。尚、上記
図15では、加熱温度:350℃以上でS値が高くなっているが、ソース・ドレイン電極の種類を変更すれば、400℃程度であっても低いS値を実現することができる。
【0146】
尚、
図15の比抵抗値(●)は、加熱温度が上昇するにつれて増加するが、加熱温度が400℃を超えると減少する傾向にある。この様に400℃超で比抵抗値が減少した原因として、通常は、加熱温度が上昇すると酸化物半導体層の酸化が促進されて比抵抗値は増加するが、加熱温度が400℃超、
図15に示す通り例えば500℃では、酸化物半導体層中に微結晶形成など酸化以外の現象が支配的になったことが考えられる。
【0147】
また
図16においてΔV
th(■)は、加熱温度が250℃、300℃、350℃の場合に、4.50V以下を達成できていることがわかる。更に
図16から、このΔV
th:4.50V以下を達成するには、酸化物半導体層の比抵抗値(●)が、2.1×10
2Ω・cm以上であることが好ましく、1.6×10
5Ω・cm以下であることが好ましい。
図16中の破線および縦矢印はこの好ましい範囲を示したものである。前記比抵抗値は、より好ましくは1.2×10
5Ω・cm以下、更に好ましくは1.0×10
5Ω・cm以下である。
【0148】
つまり
図15および
図16の結果から、特にΔV
th(絶対値):4.50V以下を満たすには、酸化物半導体膜の比抵抗値を2.1×10
2Ω・cm以上、1.0×10
5Ω・cm以下の範囲内とすることが好ましい。上記の通り、上記比抵抗値を2.1×10
2Ω・cm以上とすることによって、S値:0.45V/dec以下も達成することができる。S値:0.45V/dec以下を確実に達成するには、上記比抵抗値の上限を4.0×10
4Ω・cm以下とすることがより好ましい。また、そのためには、熱処理の加熱温度を、好ましくは250℃以上、300℃以下とするのがよいこともわかる。
【0149】
次に
図17から、熱処理なし、つまり酸化処理なしの場合、SiOx膜中の水素濃度は4.3原子%であるのに対し、酸化処理を実施すると、SiOx膜中の水素濃度が3.5原子%以下に減少することがわかる。この結果と、前記
図15および
図16の結果から、静特性S値が合格条件である0.45V/dec以下、ストレス耐性のΔV
th(絶対値)が合格条件である4.50V以下の両方を満たすには、第1保護膜であるSiOx膜に対し酸化処理を施して、該SiOx膜中の水素濃度を3.5原子%以下にする必要があることがわかる。