(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6326462
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】マイクロメカニカル時計部品の装飾表面を形成する方法及び上記マイクロメカニカル時計部品
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20180507BHJP
【FI】
G04B19/06 A
G04B19/06 Z
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-173425(P2016-173425)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2017-53853(P2017-53853A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】15184187.1
(32)【優先日】2015年9月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ,フィリップ
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04725511(US,A)
【文献】
実開昭49−132188(JP,U)
【文献】
特表2009−508084(JP,A)
【文献】
特開平04−318491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 − 49/04
B44C 1/00 − 165
B44F 1/00 − 14
B81C 1/00 − 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系基板(1)を備えるマイクロメカニカル時計部品の装飾表面を形成する方法であって、
前記方法は、前記方法が、a)形成されることになる前記装飾表面に対応する、前記シリコン系基板(1)の少なくとも1つの領域全体に亘って、前記シリコン系基板(1)の表面上に細孔(2)を形成する、少なくとも1つのステップを含み、前記細孔は、前記マイクロメカニカル時計部品の外側表面において外向きに開口するように設計され、
極めて高い光吸収力を有する多孔性シリコンの前記領域を得るために、
前記細孔は、前記時計部品の平面内において、円形断面のオリフィスとして、直径が10nm〜1000nmであり、
前記細孔(2)の深さは100nm超である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記ステップa)の後に、b)前記装飾表面上に少なくとも1つのコーティングを堆積させるステップb)を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングは、金属化層を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングは、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2、Ta2O5、VO2からなる群から選択された透明酸化物コーティングを含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップa)は、電気化学エッチングによる方法、「ステインエッチング(Stain‐etch)」タイプの方法及び「MACエッチング(MAC‐Etch)」タイプの方法からなる群から選択された方法によって達成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップa)は、「MACエッチング」タイプの方法によって達成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記シリコン系基板(1)は、シリコンウェハ又はSOI(シリコン・オン・インシュレータ)ウェハである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
シリコン系基板(1)を備えるマイクロメカニカル時計部品であって、
前記マイクロメカニカル時計部品は、前記マイクロメカニカル時計部品が、前記シリコン系基板(1)の少なくとも1つの領域全体に亘って、前記シリコン系基板(1)の前記領域内に形成された、前記マイクロメカニカル時計部品の外側表面において外向きに開口した細孔(2)を有し、これにより前記領域全体に亘って装飾表面が形成され、
極めて高い光吸収力を有する多孔性シリコンの前記領域を得るために、
前記細孔は、前記時計部品の平面内において、円形断面のオリフィスとして、直径が10nm〜1000nmであり、
前記細孔(2)の深さは100nm超である、
ことを特徴とする、マイクロメカニカル時計部品。
【請求項9】
前記装飾表面は、金属化層及び/又はSiO2、TiO2、ZrO2、HfO2、Ta2O5、VO2からなる群から選択された透明酸化物層で被覆されることを特徴とする、請求項8に記載のマイクロメカニカル時計部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系基板を備えるマイクロメカニカル時計部品上に装飾表面を形成するための方法に関する。同様に本発明は、特に上述のようなプロセスによって得ることができる上述のような装飾表面を備えるマイクロメカニカル時計部品に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンは、マイクロメカニカル時計部品、特に部品がその上で機械加工されるシリコン系基板上に接続されたままとなる部品の製造において使用されることがますます多くなっている材料である。
【0003】
例えばシリコン系基板を用いて、文字盤を製造できる。
【0004】
腕時計の文字盤又は別の時計部品は、情報を提供すること又は文字盤を強調することを可能とする、刻印又は装飾表面を備える。これらの装飾は従来、様々な彫刻技術によって製造される。
【0005】
文字盤をシリコン基材で製造する場合、このような刻印又は装飾表面を製造するための、実装が容易な新規の技術を提案する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明は、シリコン系基板を備えるマイクロメカニカル時計部品上に装飾表面を形成するための方法に関する。
【0007】
本発明によると、上記方法は、a)形成されることになる装飾表面に対応する、シリコン系基板の領域全体に亘って、上記シリコン系基板の表面上に細孔を形成する、少なくとも1つのステップを含み、上記細孔は、マイクロメカニカル時計部品の外側表面において外向きに開口するように設計される。
【0008】
本発明は同様に、上述の方法によって得ることができる、マイクロメカニカル時計部品に関する。
【0009】
同様に本発明は、シリコン系基板を備えるマイクロメカニカル時計部品に関し、上記マイクロメカニカル時計部品は、上記シリコン系基板の少なくとも1つの領域全体に亘って、上記シリコン系基板の上記領域内に形成された、マイクロメカニカル時計部品の外側表面において外向きに開口した細孔を有し、これにより上記領域全体に亘って装飾表面を形成できる。
【0010】
本発明による方法により、マイクロメカニカル時計部品全体に亘って、装飾的で濃い暗色の多孔性シリコン表面を形成できる。多孔性シリコン全体に亘って塗布される金属化コーティングにより、干渉性の色を有する装飾表面を得ることができる。
【0011】
本発明の目的、利点、特徴は、単なる非限定的な例として挙げられ、添付の図面に図示されている、本発明の少なくとも1つの実施形態に関する以下の詳細な説明において、より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明による方法のあるステップの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明による方法の別のステップの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1、2を参照すると、本発明による、シリコン系基板1を備えるマイクロメカニカル時計部品上に装飾表面を形成する方法は、まずa)上記シリコン系基板1の表面から開始して、形成されることになる装飾表面に対応するシリコン系基板1の領域全体に亘って細孔2を形成するステップを含む。細孔2は、ユーザが視認可能な表面を形成するために、マイクロメカニカル時計部品の外側表面において外向きに開口するように設計される。シリコン系基板1は、形成されることになるマイクロメカニカル時計部品に応じて選択される。製造されることになるマイクロメカニカル時計部品に応じたシリコン系基板の最終形状は、本発明の方法の実装前又は後に与えられる。本発明では、表現「シリコン系基板(silicon‐based substrate)」は、基板内のシリコンの層及びシリコン製の基板両方を表す。好ましくは、
図1に示すように、シリコン系基板1はシリコンウェハ又はSOI(シリコン・オン・インシュレータ)ウェハである。
【0014】
有利には、このステップa)は、電気化学エッチングによる方法、「ステインエッチング(Stain‐etch)」タイプの方法及び「MACエッチング(MAC‐Etch)」タイプの方法からなる群から選択された方法によって達成できる。
【0015】
電気化学エッチングによる方法は、電気化学的陽極酸化処理による方法とすることができる。この方法の実装には、水溶液中の、又は濃度1〜10%のエタノールと混合されたフッ化水素酸を含有する電気化学浴を使用する必要がある。シリコンのエッチングを引き起こす電気化学的条件を生成するために、電流及び電極が必要である。上記電気化学的条件に従って、様々なタイプの細孔を得ることができる。このような方法は当業者には公知であり、本明細書において詳細な情報は不要である。
【0016】
「ステインエッチング」タイプの方法は、多孔性シリコンの形成が直接得られる、シリコンの湿式エッチングに基づく。典型的には、エッチングは、HF:HNO
3の比が50〜500:1であるHF/HNO
3/H
2O溶液を用いて行われる。本方法は、浴中における給電の必要がないという利点を有する。このような方法は当業者には公知であり、本明細書において詳細な情報は不要である。
【0017】
好ましくは、ステップa)は「MACエッチング」タイプの方法によって達成される。この方法は、局所的な化学エッチング反応を触媒するための貴金属の粒子の使用に基づく。典型的には、貴金属(金、銀、白金)の極薄層(10〜50nm)をランダムに、又はリフトオフ、エッチング、レーザ等によって堆積及び構造形成する。貴金属は好ましくは金である。より詳細には、金の粒子を、HF/H
2O
2混合物中の溶液として使用できると有利である。粒子のサイズは5〜1000nmとすることができる。上記構造形成は、金のリソグラフィ、エッチング又はリフトオフによって得ることができる。別の選択肢は、極めて微細な非閉鎖層(5〜30nm)の蒸着又はカソード粉砕(スパッタリング)である。熱処理が金の島組織の形成に寄与できる。
【0018】
貴金属の層を有するシリコンをHF/H
2O
2混合物の水溶液中に含浸させると、貴金属は、シリコンの溶解を局所的に触媒する。このエッチング溶液は典型的には、4ml:1ml:8ml(48%HF:30%H
2O
2:H
2O)〜4ml:1ml:40ml(48%HF:30%H
2O
2:H
2O)を含むことができる。シリコンの溶解は、好ましくは金属の下側で発生し、その後この金属はシリコン内に漸進的に貫入する。この反応は、シリコン結晶の配向、表面の配列、ドーピング、浴の化学的性質によって本質的に影響される伝播モードに従って、相当な深さ(>100μm)に亘って継続させることができる。「MACエッチング」タイプの方法は、浴中における給電の必要がなく、その一方でシリコン中に極めて深い(>100μm)の細孔の形成が可能であるという利点を有する。従ってこの方法は、時計構成部品の製造のために一般的に使用される基板としてのSOIウェハと共に使用するために特に好適である。
【0019】
シリコン系基板に形成される細孔が好適なジオメトリ及びサイズを有するようにするために実装するべき、上述の方法のパラメータは、当業者には公知である。
【0020】
特に、時計部品の平面内の細孔を円形断面のオリフィスとして考えると、上記細孔の直径は好ましくは10nm〜1000nmとすることができる。
【0021】
有利には、細孔の深さは100nm超、好ましくは100nm〜10μm、より好ましくは100nm〜3μmとすることができる。
【0022】
細孔の好適なジオメトリ及びサイズにより、特に可視範囲において極めて高い光吸収力を有する、反射防止性の多孔性シリコンの領域を得ることができる。
図2に示すように、ある特定の深さに亘る、シリコン系基板1内の細孔2の形成により、細孔2の間に、同一の深さに亘るシリコン系柱3が形成される。好ましくは、シリコン系柱を、円形断面を有するものとして考える場合、細孔2は、接触するシリコン系柱が存在しない(これによって構造が剛性となる)よう、シリコン系柱3の突出表面が見かけの総表面の79%未満となるように形成される(これはパーコレーション閾値に対応する)。得られた着色領域は、マイクロメカニカル時計部品全体に亘る装飾表面として使用される。「装飾表面」とは、例えばデザイン、モチーフ又は刻印、例えば数字又は他のいずれの装飾を意味している。
【0023】
本発明による方法は任意に、ステップa)の後に、b)ステップa)によって得られた多孔性シリコン製の装飾表面全体に亘って少なくとも1つのコーティングを堆積させることからなる第2のステップを含むことができる。
【0024】
有利には、ステップb)において堆積されるこのコーティングは、Cr、Ti、Ag、Pt、Cu、Ni、Pd、Rhからなる群から選択された少なくとも1つの元素をベースとした金属化層を含むことができる。好ましくは、上記金属化層は、厚さ50nm未満の微細な層である。
【0025】
有利には、ステップb)において堆積されるコーティングは、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、HfO
2、Ta
2O
5、VO
2又はこれらの混合物からなる群から選択された酸化物のうちの1つ等の、透明酸化物コーティングを含むことができる。金属化層又は酸化物層は、単独で使用して、例えば多孔性Si全体に亘って直接堆積させることができ、又はこれら2つの層を組み合わせることができ、従って酸化物層が金属化層を被覆する。酸化物層の厚さは好ましくは100nm〜2000nmである。
【0026】
金属化層によって、及び透明酸化物層によって、多孔性シリコン製の装飾表面全体に亘ってコーティングを施すことにより、干渉性の色を有する装飾表面を得ることができる。
【0027】
本発明による方法は有利には、文字盤等のシリコン系時計部品の製造のために実装できる。
【0028】
同様に本発明は、上述の方法によって得ることができるマイクロメカニカル時計部品に関する。
【0029】
特に本発明は、シリコン系基板1を備えるマイクロメカニカル時計部品に関し、上記マイクロメカニカル時計部品は、上記シリコン系基板1の少なくとも1つの領域全体に亘って、シリコン系基板1の上記領域内に形成された、マイクロメカニカル時計部品の外側表面において外向きに開口した細孔2を有し、これにより上記領域全体に亘って、上述のように濃い暗色の装飾表面を形成できる。
【0030】
別の実施形態によると、多孔性シリコンの装飾層は、Cr、Ti、Ag、Pt、Cu、Ni、Pd、Rhからなる群から選択された少なくとも1つの元素をベースとした金属化層を含むコーティングで被覆される。
【0031】
別の実施形態によると、多孔性シリコンの装飾層は、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、HfO
2、Ta
2O
5、VO
2からなる群から選択された透明酸化物層を含むコーティングで被覆される。
【0032】
有利には、多孔性シリコンの装飾層は、透明酸化物層で被覆された金属化層を含むコーティングで被覆される。これにより、干渉性の色を有する装飾表面を形成できる。
【符号の説明】
【0033】
1 シリコン系基板
2 細孔