【文献】
ZHAI, H. et al.,Hydration vs. skin permeability to nicotinates in man,Skin Research and Technology,Blackwell Munksgaard,2002年 2月,Vol.8/No.1,pp.13-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
皮膚のバリア機能の変化を確認するために、皮膚外部から内部への指標物質の浸透性がさらに測定され、指標物質の浸透性の結果から前記基準値が設定されたものである、請求項1に記載の方法。
前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量を皮膚静電容量測定手段により測定し、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量に対して、8(A.U.)以上の変化量で増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項8に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量を皮膚静電容量測定手段により測定し、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量に対して、16(A.U.)増加より小さい変化量の場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項8に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から所定の深さまでにおける、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布をラマン分光法により測定し、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、被験物質又は物品の接触により、初期の角層厚より深部における皮膚の水分量が増加した場合、バリア機能が低下した、と評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた被験物質又は物品の接触後の皮膚表面水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚表面水分量に対して、2.0倍以上に増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた被験物質又は物品の接触後の皮膚表面水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚表面水分量に対して、3.0倍増加より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、被験物質又は物品の接触後の初期の角層厚に相当する部位の水分量が、被験物質又は物品の接触前の初期の角層厚に相当する部位の水分量に対して、8%以上増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、被験物質又は物品の接触後の初期の角層厚に相当する部位の水分量が、被験物質又は物品の接触前の初期の角層厚に相当する部位の水分量に対して、14%増加より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、皮膚表面からの所定の深さまでにおける、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積を求め、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量の曲線下面積に対して1.4倍以上に増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、皮膚表面からの所定の深さまでにおける、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積を求め、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量の曲線下面積に対して1.8倍より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項11に記載の方法。
健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から所定の深さまでにおける、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布をラマン分光法により測定し、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、被験物質又は物品の接触により、初期の角層厚より深部における皮膚の水分量が増加した場合、バリア機能が低下した、と評価する、請求項19又は20に記載の方法。
ラマン分光法、皮膚静電容量測定手段、高周波電流測定手段、赤外分光法、及び近赤外分光法からなる群より選ばれる少なくとも1つに従い皮膚の水分量を測定する、請求項1〜7、19、22及び23のいずれか1項に記載の方法。
前記被験物質が、水若しくは水蒸気、皮膚化粧料、皮膚保湿剤若しくは皮膚外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、並びに生体由来の分泌物若しくは排泄物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、非侵襲的で、被験者に対して負担が少なく安全、簡便かつ短時間に、被験物質又は物品が皮膚バリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法を提供する。
【0012】
従来より、皮膚の最表層に位置する角層の水分による膨潤状態(水和状態)が皮膚のバリア機能に影響し、それに伴い皮膚への物質の透過性も変化することが考えられていた。よって、被験物質又は物品が皮膚と接触することによって生じる角層の水和状態を把握できれば、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能にどのような影響を与えるかを、被験者に負担が少なく、様々な要因による影響を受けずに評価できるものと期待される。
しかし、皮膚への物質透過性変化と、その際の皮膚の水分量の増減や皮膚の深さ方向における水分分布との関係性について、詳細には解明されていなかった。
【0013】
そこで本発明者らは、生きたヒト皮膚における物質の透過性と、皮膚の最表面に位置する角層の水分量や深さ方向における水分分布との間の関連性について検討を行った。その結果、角層の水分量や深さ方向における水分分布と、皮膚への物質の透過性との間で高い関連性があることを生きたヒトにおいて初めて見出した。そして、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させた前後での、非侵襲的に測定した生きたヒトにおける皮膚水分量や深さ方向における水分分布の変化から、被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価できることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0014】
本発明では、皮膚の水分量や水分分布と皮膚のバリア機能との関連性に基づき、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量や水分分布から、皮膚のバリア機能を評価する。よって本発明によれば、被験物質又は物品が皮膚に与える影響を安全、簡便かつ短時間に知ることができる。
【0015】
本発明では、
図1に示すように、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させ(S1)、被験物質又は物品の接触前後に測定した皮膚の水分分量又は水分分布の変化量や、接触後の皮膚の水分分布を、基準値又は基準水分分布と比較し(S2)、基準値又は基準水分分布との比較結果から、被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価する(S3)。ここで、皮膚のバリア機能に与える影響の解析と評価は、皮膚の水分量又は水分分布の変化量と、皮膚のバリア機能との関連性に基づいて行われる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本明細書において「バリア機能」とは、皮膚外部から内部への物質の浸透性を指す。
本明細書において「被験物質」とは、皮膚との接触や皮膚への適用により、皮膚内へ浸透する物質(例えば、化合物、化学物質、色素、生体由来の分泌物や排泄物、保湿剤、外用剤、化粧料)をいう。なお「被験物質」及び後述する「指標物質」には、水溶性成分や疎水性成分も包含される。物質の具体例としては、水若しくは水蒸気、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号(タートラジン)、赤色215号(ローダミンBステアレート)、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、尿、汗、経血、便、擬似尿、擬似経血、擬似便、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分が挙げられる。
【0017】
まず、被験物質又は物品の皮膚への接触前後で、バリア機能の評価を行う部位の皮膚水分量又は水分分布を測定する。皮膚水分量又は水分分布の測定は、非侵襲的に測定することが好ましい。この場合、被験者に対して負担が少なく、安全に皮膚のバリア機能を評価できる。
角層内の水分量又は水分分布を非侵襲的に測定する方法は、常法から適宜選択することができる。例えば、ラマン分光法、皮膚静電容量測定手段、高周波電流測定手段、赤外分光法、又は近赤外分光法などを用いる方法が挙げられる。
【0018】
本発明では、皮膚に対して被験物質又は物品を負荷した場合の皮膚水分量又は水分分布の変化を、ラマン分光法、皮膚静電容量測定手段などに従い皮膚水分量又は水分分布を測定できる装置を用いて測定する。そして、その変化量から、該物質又は物品が皮膚のバリア機能に及ぼす影響を評価する。
後述の実施例で示したように、ヒトの皮膚に過剰な水分を負荷すると物質透過性が亢進し、皮膚のバリア機能は低下する。
このような知見に対して、本発明者らは、皮膚に対して被験物質又は物品を負荷した場合の皮膚水分量又は水分分布の変化値や基準水分分布を基準に、皮膚のバリア機能を評価できることをはじめて見出した。後述の実施例でも示すように、皮膚の水分量がある一定値までは物質浸透性は亢進しない。しかし、皮膚の水分量が一定値以上増加すると、物質浸透性が亢進する。なお、後述の実施例では、指標物質の代表例として、水溶性物質であるニコチン酸メチルの浸透性の評価を行った。水溶性物質は皮膚の水分量が増えると皮膚内へ物質が分配されやすくなり、皮膚により浸透する可能性が考えられる。
【0019】
本発明において、被験物質又は物品が、皮膚バリア機能に与える影響を評価するための基準値や基準水分分布は適宜設定することができる。以下、本発明における基準値や基準水分分布の設定方法ついて、具体例に基づき説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
まず、水の負荷量を変えて皮膚への水負荷試験を行い、各水負荷量での皮膚の水分量又は水分分布を常法により測定する。次に、測定した皮膚の水分量又は水分分布と、皮膚のバリア機能との関連付けを行う。
【0020】
本発明の第1の実施態様において、皮膚の水分量又は水分分布と皮膚のバリア機能との関連付けは、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮膚の水分分量又は水分分布を「基準値」として設定することで行う。
「基準値」の設定方法としては、皮膚外部から内部への前記指標物質の浸透性から設定する方法が挙げられる。前述の皮膚への水負荷試験に続いて皮膚への指標物質の負荷試験を行って指標物質の浸透性を常法により測定し、指標物質の浸透性に変化がみられたときの皮膚の水分量又は水分分布を「基準値」とすることができる。なお、本実施態様においては、負荷した水分量と、指標物質の浸透性との間で関連に変化が確認されたときや、指標物質の浸透性が一定の状態に達したときを基準値とすることができる。
【0021】
本発明の第2の実施態様において、皮膚の水分量又は水分分布と皮膚のバリア機能との関連付けは、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性が変化したときの、ヒトの皮膚の深さ毎の水又は水溶液の負荷後の水分分布を、「基準水分分布」として設定することで行う。
本実施態様ではまず、水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷前に、ヒトの皮膚の深さ毎の水分量を測定して初期水分分布を取得する。
さらに、水又は水溶液をヒトの皮膚に一定時間負荷し、負荷終了直後にヒトの皮膚の深さ毎の水分量を測定して水又は水溶液の負荷後の水分分布を取得する。続けて指標物質を皮膚に適用して該指標物質の浸透度を測定する。
そして、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性が変化するまで、水又は水溶液の負荷量を増加又は減少させながら前記測定を繰り返す。この測定結果に基づいて、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性が変化したときのヒトの皮膚の深さ毎の水又は水溶液の負荷後の水分分布を、前記基準水分分布とすることができる。
【0022】
本発明の第1及び第2の実施態様において、皮膚への浸透性を評価するための指標物質は、適宜選択することができる。例えば、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分が挙げられる。
【0023】
本発明の第3の実施態様では、初期の角層厚よりも深部の水分量と、皮膚のバリア機能とを関連付ける。
本実施態様では、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる前と接触させた後の皮膚の深さ毎の水分量を測定して水分分布を取得する。そして、接触前後の水分分布を比較し、接触前の初期の角層厚よりも深部の水分量の差を指標として、被験物質又は物品の評価を行う。
【0024】
本発明では、角層表層から顆粒層に達するまでのいずれかの領域又は部位での水分量又は水分分布を測定してもよい。あるいは、本発明で用いる水分量又は水分分布の測定装置の特性、例えば皮膚の内部に照射した励起波長によるラマン散乱の強度などを考慮し、皮膚表面から所定の深さまでの領域の水分量若しくは水分分布、又は皮膚表面から所定の深さの部位の水分量を測定してもよい。例えば、皮膚のバリア機能を評価するために、皮膚表面から初期の角層厚における水分量又は水分分布を測定することが好ましい。
【0025】
なお本明細書において、「初期の角層厚」とは、水分、被験物質又は物品負荷前の角層の厚さを指す。なお、ラマンスペクトルからの初期の角層厚の測定は、IFSCC Magazine, 2009, vol. 12(1), p. 9-15に記載の方法に準じて行うことができる。常法に従い測定したラマンスペクトルから各深さにおける水分量を算出し、深さ方向に対して一定距離(例えば1μm)ごとに近似的に算出した水分量の数値をプロットしたグラフを作成し、水分分布プロファイルを取得する。そして、取得した水分プロファイルに対して2本の直線で近似し、その交点までの深さを、角層表層からの角層厚と定義することができる。
また、ラマンスペクトルで皮膚の水分量を測定する場合、タンパク質のCH伸縮振動由来の信号強度は、対物レンズの窓材と皮膚の境界よりやや皮膚側で最大値を示した後に、深部にいくほど信号強度が低下する。皮膚では深部にいくほど光の拡散などによる信号の減衰が生じるためである。窓材にはタンパク質のCH伸縮振動由来の信号は存在しないため、レーザーの焦点が窓材の内にあるときはCH伸縮振動由来の信号強度は0になる。一方、皮膚内にレーザーの焦点があるときのCH伸縮振動由来の信号強度を100とすると、窓材と皮膚の界面に焦点がきた場合、CH伸縮振動由来の信号強度は50となる。そこで、CH伸縮振動由来の信号強度が最大値の半値を示すところを皮膚と窓材の境界と定義している。ただし、実際には窓材にはCH伸縮振動由来の信号強度が弱いながらも検出されることがある。そのため、特開2012−50739号公報に記載の方法に従って水分量を計算、解析すると、高い水分量を示すことになり、皮膚と窓材の界面、すなわち皮膚の最表面の水分量に関しては適切ではないデータであるということが理論上明らかとなっている。さらに、本条件に用いた共焦点ラマン分光装置の深さ方向の空間分解能は2μmで、解析の際に1μm毎の水分量を補間して算出している。よって、皮膚表面の水分量は、データ解析からは省くことが好ましい。また、共焦点ラマンの装置によってそれぞれ分解能が異なることを考慮し、皮膚表面水分量を求める際には、本発明においては、実際の皮膚表面から最低5μmまでのデータを省き、皮膚表面から5μm以上の部位をデータ解析上の「皮膚表面」とすることが好ましく、実際の皮膚表面から最低2μmまでのデータを省き、皮膚表面から2μm以上の部位をデータ解析上の「皮膚表面」とすることがより好ましく、実際の皮膚表面から2μmまでのデータを省き、皮膚表面から2μmの部位をデータ解析上の「皮膚表面」とすることがさらに好ましい。
共焦点ラマン分光顕微鏡を用いた測定で得られたラマンスペクトルから水分量を近似的に算出する方法は、特開2012−50739号公報に記載の方法を参照して行うことができる。
【0026】
ラマン分光法にて測定した初期の角層厚は通常、およそ10μm〜20μm、平均で約13μmである。そこで、本発明において、皮膚の水分量は、実際の皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで、を測定し、解析するのが好ましい。
【0027】
後述の実施例でも示すように、ラマン分光法や皮膚静電容量測定手段などで測定した皮膚の水分量又は水分分布と、皮膚のバリア機能とは強い関連性を有する。具体的には、被験物質又は物品の接触により皮膚の水分量の変化量が一定値以上増加すると、ニコチン酸メチルなどの物質の皮膚への浸透性が亢進する。
本発明では、上述のような皮膚の水分量又は水分分布と、バリア機能との関連性に基づいて、非侵襲的に測定した皮膚の水分量又は水分分布の変化量から、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に及ぼす影響を評価する。具体的には、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、所定の基準値以上の変化量で増加した場合、バリア機能を低下させる(例えば、皮膚外部から内部への物質の浸透性を亢進させる)と評価することができる。一方、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、基準値より小さい変化量で変化した場合、バリア機能は変化してないと評価することができる。
【0028】
例えば、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、皮膚静電容量測定装置(静電容量から計算された水分量の相対値(A.U.)を算出する装置)を用いて測定した、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量の変化量の基準値を、8(A.U.)、好ましくは12(A.U.)、より好ましくは16(A.U.)に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、前記基準値以上増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下したと評価することができる。これに対して、水分量の変化量が前記基準値より小さい場合、被験物質又は物品の接触によってもバリア機能は変化していないと評価できる。
【0029】
加えて、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、初期の角層厚を基準として、被験物質又は物品の接触により初期の角層厚よりも深いところの皮膚の水分量が増加した場合、皮膚外部から内部への物質の浸透性を亢進しやすくなり、バリア機能は低下したと評価できる。
具体的には、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、実際の皮膚表面から所定の深さまで(好ましくは皮膚表面からの深さ40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ20μmの深さまで)における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布をラマン分光法により測定する。そして、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、被験物質又は物品の接触により、初期の角層厚より深部における皮膚の水分量が増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下したと評価することができる。
【0030】
また、被験物質又は物品の接触前後の皮膚表面の水分量を測定し、被験物質又は物品の接触による、皮膚表面の水分量の変化量からも、バリア機能に及ぼす影響を評価できる。
具体的には、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、皮膚表面における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量をラマン分光法により測定し、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量を比較する。本発明においては例えば、ラマン分光法より得られた皮膚表面水分量の被験物質又は物品の接触前後の変化量の基準値を2.0倍、より好ましくは2.5倍、さらに好ましくは3.0倍に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の、皮膚の表面水分量が前記基準値以上に増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下したと評価することができる。これに対して、皮膚の表面水分量の変化量が前記基準値より小さい場合、被験物質又は物品の接触によってもバリア機能は変化していないと評価できる。
【0031】
また、被験物質又は物品の接触前後の初期の角層厚に相当する深さの水分量を測定し、被験物質又は物品の接触による、初期の角層厚に相当する深さの水分量の変化量からも、バリア機能に及ぼす影響を評価できる。
具体的には、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、初期の角層厚に相当する部位における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量をラマン分光法により測定し、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量を比較する。本発明においては例えば、ラマン分光法より得られた初期の角層厚に相当する部位の水分量の被験物質又は物品の接触前後の変化量の基準値を8%、好ましくは11%、さらに好ましくは14%に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の、初期の角層厚に相当する部位の水分量が前記基準値以上増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性を亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下したと評価することができる。これに対して、初期の角層厚に相当する部位の水分量の変化量が前記基準値より小さい場合、被験物質又は物品の接触によってもバリア機能は変化していないと評価できる。
【0032】
あるいは、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、ラマン分光法により測定した、皮膚表面からの所定の深さまで(好ましくは皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで)における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量の曲線下面積(Area under the curve of water profile)を求め、被験物質又は物品の接触前後の曲線下面積を比較する。本発明においては例えば、ラマン分光法より得られた被験物質又は物品の接触前後の曲線下面積の変化量の基準値を、1.4倍、好ましくは1.6倍、さらに好ましくは1.8倍に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の、皮膚表面から所定の深さまでにおける曲線下面積が前記基準値以上に増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下したと評価することができる。これに対して、曲線下面積の変化量が前記基準値より小さい場合、被験物質又は物品の接触によってもバリア機能は変化していないと評価できる。なお本明細書において「面積下曲線」は、角層における水分量を示すものであって、深さごとの水分量を深さ方向に積分することによって求められる。
【0033】
ラマン分光法による皮膚の水分量の測定は、特開2012−50739号公報に記載の方法を参照して行うことができる。本方法は、皮膚試料をタンパク質、水、および脂質の三成分系で近似し、脂質由来のラマンスペクトルの寄与分を、皮膚の実測ラマンスペクトルから差し引いた補正ラマンスペクトルを作成し、タンパク質由来のCH伸縮信号強度に対する水のOH伸縮振動由来の信号強度の比率に基づき皮膚水分量を測定する方法である。以下、ラマン分光法による皮膚の水分量の測定方法について詳細に説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
【0034】
まず、ベースラインの蛍光の補正をおこなう。測定した皮膚のラマンスペクトルから蛍光によるベースラインのゆがみを排除するため、2000〜2800cm
-1および3800〜4200cm
-1の波数領域のデータより、最小二乗法をもちいた三次関数近似に基づきベースラインを予測し、これを差し引く。
蛍光の影響を排除した補正後の皮膚のスペクトルを、特開2012−50739号公報記載の式(4)を用いて脱脂乾燥角層、モデル皮脂、モデル細胞間脂質及び水のラマンスペクトル4つの重ねあわせで近似する。すなわち、最小二乗法により前記式(4)における係数C
1〜C
4を決定する。このときC
2I
SEB(ω)が皮脂の寄与分、C
3I
CER(ω)が細胞間脂質の寄与分となる。以下に示すモデル脂質のラマンスペクトルにおけるモデル脂質の寄与量を最小二乗法で見積もる。
そして、皮脂の寄与分及び細胞間脂質の寄与分を差し引いた特開2012−50739号公報記載の式(5)で表される補正ラマンスペクトルを得る。次に、式(5)で表される補正ラマンスペクトルにおけるCH伸縮信号(波数領域:2800〜3030cm
-1)のピーク面積に対するOH伸縮振動のピーク面積(波数領域:3100〜3750cm
-1)の比率を算出する。そして、ラマンスペクトルにおけるタンパク質のCH伸縮振動由来の信号強度に対する水のOH伸縮振動由来の信号強度の比率と、該脱脂皮膚試料に含まれる水分量とタンパク質量の比とをプロットして得られる検量線(例えば、特開2012−50739号公報の
図5参照)に基づいて皮膚の水分量(質量%)を算出する。
【0035】
前述の脱脂乾燥角層、モデル皮脂、モデル細胞間脂質の調製方法の詳細を示す。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
脱脂乾燥角層
健常男性(40代)のかかとより角層片をナイフで切除後、クロロホルムーメタノール(1:1)に一昼夜浸漬する。その後角層片試料を取り出し、自然乾燥させることで、脂質等の油溶性成分と、アミノ酸などの水溶性成分を除去した脱脂乾燥角層を調製する。
モデル皮脂
下記成分を混合し、モデル皮脂を調製する。
オレイン酸(関東化学製):17.4質量%
トリオレイン酸(関東化学製):43.4質量%
オレイン酸デシル(和光純薬製):26.5質量%
スクワレン(関東化学製):12.7質量%
モデル細胞間脂質
シグマ社製non-hydroxy fatty cermaideをモデル細胞間脂質とする。
【0036】
本発明で用いる物品としては、例えば、吸収性物品(脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、吸収パットなど)、蒸気温熱具、創傷保護材(絆創膏、ガーゼ、包帯など)、マスク、ゴム手袋などが挙げられる。
また、前記被験物質としては、水若しくは水蒸気、化粧料、保湿剤若しくは外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及び生体由来の分泌物や排泄物である尿、汗、経血、便などが挙げられる。なお、本発明において、擬似尿、疑似汗、擬似経血、擬似便などは生体由来の分泌物や排泄物に含まれる。
さらに、皮膚への被験物質又は物品の接触時間も適宜設定することができる。例えば、前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間は、1時間以上6時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下、より好ましくは2.5時間以上3.5時間以下、さらに好ましくは3時間程度である。
【0037】
本発明の評価方法は前述のように、皮膚水分量又は水分分布を非侵襲的に測定し、物品又は被験物質の接触による皮膚の水分量又は水分分布の変化量と皮膚のバリア機能との関連性に基づいて、測定した皮膚の水分量の変化量から皮膚のバリア機能、特に物質の浸透性を評価する。
【0038】
また、前述の、被験物質又は物品の接触による皮膚の水分量又は水分分布の変化量とバリア機能との関連性に基づいて、非侵襲的に測定した皮膚の水分量又は水分分布の変化量から、角層の状態を評価することができる。
例えば、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、皮膚静電容量測定装置を用いて測定した、被験物質又は物品負荷前後の皮膚の水分量の変化量の基準値を、8(A.U.)、好ましくは12(A.U.)、より好ましくは16(A.U.)に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品負荷後の皮膚の水分量が、前記基準値以上増加した場合に、角層のバリア機能が低下したと評価することができる。
加えて、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、皮膚表面から所定の深さまで(好ましくは皮膚表面からの深さ40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ20μmの深さまで)における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布をラマン分光法により測定する。そして、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、被験物質又は物品の接触により、初期の角層厚より深部における皮膚の水分量が増加した場合に、角層のバリア機能は低下した、と評価できる。
また、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、皮膚表面からの深さ2μmにおける、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の表面水分量をラマン分光法により測定する。そして、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の表面水分量を比較する。そして、得られた皮膚表面水分量の被験物質又は物品の接触前後の変化量の基準値を2.0倍、より好ましくは2.5倍、さらに好ましくは3.0倍に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の皮膚の表面水分量が、前記基準値以上に増加した場合に、角層のバリア機能は低下した、と評価できる。
また、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、初期の角層厚に相当する部位における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量をラマン分光法により測定する。そして、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分量を比較する。そして、ラマン分光法より得られた初期の角層厚に相当する部位の水分量の被験物質又は物品の接触前後の変化量の基準値を8%、好ましくは11%、さらに好ましくは14%に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の初期の角層厚に相当する部位の水分量が、前記基準値以上増加した場合に、バリア機能は低下したと評価できる。
あるいは、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の前腕内側の皮膚を対象とし、ラマン分光法により測定した、皮膚表面からの所定の深さまで(好ましくは皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで)における、皮膚の水分量の曲線下面積(Area under the curve of water profile)を求める。被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量の曲線下面積に対する被験物質又は物品の一定時間接触後の皮膚の水分量の曲線下面積の変化量の基準値を、1.4倍、好ましくは1.6倍、さらに好ましくは1.8倍に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品負荷後の、皮膚表面から所定の深さまでにおける皮膚の水分量の曲線下面積が前記基準値以上に増加した場合に、角層のバリア機能は低下したと評価できる。
【0039】
本発明の評価方法を利用して、吸収性物品(脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、吸収パットなど)、皮膚化粧料若しくは外用剤、創傷保護材(絆創膏、ガーゼ、包帯など)、マスク若しくはゴム手袋、蒸気温熱具などの製品の性能を評価することができる。
例えば、吸収性物品、創傷保護材、並びにマスク若しくはゴム手袋については、これらの着用前後の皮膚のバリア機能を本発明の評価方法を利用して評価することで、これらの製品の性能(例えば、水分(濡れ)の吸収性、水蒸気(蒸れ)の外部への発散性、皮膚トラブルの起こしやすさ)を、安全で簡便に短時間で評価できる。なお、吸収性物品の評価の際には、生理食塩水や擬似尿などを含ませた吸収性物品を評価に用いてもよい。
本発明により物品の着用や適用後の皮膚の水分量又は水分分布を評価すれば、ヒトの皮膚に本実施例で使用したニコチン酸メチルなどの物質を塗布する必要なく、物質の透過性を評価することができる。具体的には、吸収性物品、創傷保護材、並びにマスク若しくはゴム手袋について、現行品と改良品との比較の際に、装着前後の皮膚の水分量又は水分分布から物質透過性を推し量ることができる。このようにすれば、吸収性物品などの開発を効率よく行うことができる。
また、皮膚の水和状態を利用して、化粧料、外用剤などに含まれる有効成分を皮膚に浸透させることができることが報告されている(例えば、J. Invest. Dermatol., 1963, vol. 41, p. 307-311参照)。よって、化粧料、外用剤、蒸気温熱具などの皮膚への塗布、貼付又は着用前後の皮膚のバリア機能を本発明の評価方法を利用して評価することで、これらの製品に含まれる有効成分などの皮膚への透過性を、安全で簡便に短時間で評価できる。
【0040】
本発明の、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステムは、被験物質又は物品の接触による皮膚の水分量又は水分分布の変化量と皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、関連性に関する情報に基づき、被験物質又は物品の接触による皮膚の水分量又は水分分布の変化量から、前記影響を評価する。
本発明のシステムはいわゆるコンピュータであり、例えば、バスで相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力インタフェース等を有する。メモリは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、可搬型記憶媒体等である。入出力インタフェースは、表示装置や入力装置等のようなユーザインタフェース装置と接続される。入出力インタフェースは、ネットワークを介して他のコンピュータと通信を行う通信装置等と接続されてもよい。
【0041】
本発明の評価方法及び評価システムは、ヒトの皮膚、好ましくは、被験物質又は物品を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒト(健常者)の皮膚、を対象とすることが好ましい。
【0042】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の評価方法、及び評価システムを開示する。
【0043】
<1>被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させ、
接触前後の皮膚の水分量又は水分分布の変化量を、基準値と比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する、
被験物質又は物品の評価方法であって、
水の負荷量を変えての皮膚への水負荷試験により測定された、皮膚の水分量又は水分分布と、皮膚のバリア機能とが関連付けられ、
皮膚の水分量又は水分分布と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮膚の水分量又は水分分布が、前記基準値として設定されたものである、
被験物質又は物品の評価方法。
【0044】
<2>皮膚のバリア機能の変化を確認するために、皮膚外部から内部への指標物質の浸透性がさらに測定され、指標物質の浸透性の結果から前記基準値が設定されたものである、前記<1>項に記載の方法。
<3>前記被験物質又は物品の接触後の皮膚水分量が、基準値以上の変化量で増加した場合、バリア機能が低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<1>又は<2>項に記載の方法。
<4>前記被験物質又は物品の接触後の皮膚水分量の変化量が、基準値より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の方法。
【0045】
<5>被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させた後のヒトの皮膚の深さごとの水分量を測定して、被験物質又は物品の接触後の水分分布を取得し、
被験物質又は物品の接触後の水分分布と基準水分分布とを比較することで、被験物質又は物品が、ヒトの皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷前に、ヒトの皮膚の深さ毎の水分量を測定して初期水分分布を取得し、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷終了直後に、ヒトの皮膚の深さ毎の水分量の測定による水又は水溶液の負荷後の水分分布の取得と、指標物質を皮膚に適用して該指標物質の浸透度の測定を行い、
初期水分分布から水又は水溶液の負荷終了直後の水分分布への変化と、指標物質の浸透度から、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性を決定し、
前記関連性が変化したときのヒトの皮膚の深さ毎の水又は水溶液の負荷後の水分分布を、前記基準水分分布とする、
被験物質又は物品の評価方法。
【0046】
<6>被験物質又は物品の接触前と接触後のヒトの皮膚の所定の深さ位置の水分量を測定し、接触前の水分量と接触後の水分量との差を取得し、
取得した水分量の差と、前記基準水分分布とに基づき、皮膚バリア機能に与える影響を評価する、前記<5>項に記載の評価方法。
【0047】
<7>前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記<2>〜<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>皮膚の水分量を皮膚静電容量測定手段により測定し解析する、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9>健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量を皮膚静電容量測定手段により測定し、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量に対して、8(A.U.)以上、好ましくは12(A.U.)以上、より好ましくは16(A.U.)以上、の変化量で増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<8>項に記載の方法。
<10>健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量を皮膚静電容量測定手段により測定し、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量に対して、16(A.U.)増加より小さい変化量、好ましくは12(A.U.)増加より小さい変化量、より好ましくは8(A.U.)増加より小さい変化量、の場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<8>項に記載の方法。
<11>皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで、の水分量又は水分分布をラマン分光法により測定し解析する、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の方法。
<12>健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から所定の深さまで、好ましくは皮膚表面からの深さ40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ20μmの深さまで、における、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布をラマン分光法により測定し、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、被験物質又は物品の接触により、初期の角層厚より深部における皮膚の水分量が増加した場合、バリア機能が低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
<13>健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた被験物質又は物品の接触後の皮膚表面水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚表面水分量に対して、2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上、に増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
<14>健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた被験物質又は物品の接触後の皮膚表面水分量が、被験物質又は物品の接触前の皮膚表面水分量に対して、3.0倍増加より小さい場合、好ましくは2.5倍より小さい場合、より好ましくは2.0倍より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
<15>健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、被験物質又は物品の接触後の初期の角層厚に相当する部位の水分量が、被験物質又は物品の接触前の初期の角層厚に相当する部位の水分量に対して、8%以上、好ましくは11%以上、より好ましくは14%以上、増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
<16>健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、被験物質又は物品の接触後の初期の角層厚に相当する部位の水分量が、被験物質又は物品の接触前の初期の角層厚に相当する部位の水分量に対して、14%増加より小さい場合、好ましくは11%増加より小さい場合、さらに好ましくは8%増加より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
<17>健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、皮膚表面からの所定の深さまで、好ましくは皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで、における、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積を求め、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量の曲線下面積に対して1.4倍以上、好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上、に増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
<18>健常者の皮膚を評価対象とし、ラマン分光法より得られた、皮膚表面からの所定の深さまで、好ましくは皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで、における、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積を求め、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量の曲線下面積が、被験物質又は物品の接触前の皮膚の水分量の曲線下面積に対して1.8倍より小さい場合、好ましくは1.6倍より小さい場合、さらに好ましくは1.4倍より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<11>項に記載の方法。
【0048】
<19>被験物質又は物品が、ヒトの皮膚のバリア機能に与える影響を評価する方法であって、
被験物質又は物品のヒトの皮膚への接触前と接触後の皮膚の深さ毎の水分量を測定して水分分布を取得し、
接触前と接触後の水分分布における、接触前の初期の角層厚よりも深部の水分量の差を指標として、被験物質又は物品がヒトの皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、
被験物質又は物品の評価方法。
【0049】
<20>皮膚表面からの深さ2〜40μmの深さまで、好ましくは皮膚表面からの深さ2〜35μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ2〜20μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ9〜15μmの深さまで、より好ましくは皮膚表面からの深さ13μm程度の深さまで、の水分量をラマン分光法により測定し解析する、前記<19>項に記載の方法。
<21>健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から所定の深さまでにおける、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布をラマン分光法により測定し、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の水分分布を比較し、被験物質又は物品の接触により、初期の角層厚より深部における皮膚の水分量が増加した場合、バリア機能が低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<19>又は<20>項に記載の方法。
【0050】
<22>皮膚水分量又は水分分布を非侵襲的に測定する、前記<1>〜<21>のいずれか1項に記載の方法。
<23>被験物質又は物品を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒト(健常者)の皮膚で評価する、前記<1>〜<22>のいずれか1項に記載の方法。
<24>ラマン分光法、皮膚静電容量測定手段、高周波電流測定手段、赤外分光法、及び近赤外分光法からなる群より選ばれる少なくとも1つに従い皮膚の水分量を測定する、前記<1>〜<7>、<19>、<22>及び<23>のいずれか1項に記載の方法。
<25>前記被験物質が、水若しくは水蒸気、皮膚化粧料、皮膚保湿剤若しくは皮膚外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、並びに生体由来の分泌物若しくは排泄物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記<1>〜<24>のいずれか1項に記載の方法。
<26>前記物品が、吸収性物品(好ましくは脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、若しくは吸収パット)、蒸気温熱具、創傷保護材(好ましくは絆創膏、ガーゼ、若しくは包帯)、マスク、又はゴム手袋である、前記<1>〜<24>のいずれか1項に記載の方法。
<27>前記吸収性物品が生理食塩水又は擬似尿などを含有する、前記<26>項に記載の方法。
<28>前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間が、1時間以上6時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下、より好ましくは2.5時間以上3.5時間以下、さらに好ましくは3時間程度、である、前記<1>〜<27>のいずれか1項に記載の方法。
【0051】
<29>被験物質又は物品のヒトの皮膚への接触による皮膚の水分量又は水分分布の変化量と皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、関連性に関する情報に基づき、被験物質又は物品の接触後の皮膚の水分量又は水分分布から、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステム。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
試験例1 水分負荷前後のニコチン酸メチルの透過性と皮膚の水分量の変化の測定
(1)紅斑スコアの測定
健常な男性、女性10名(20代〜40代)を被験者とした。前腕内側に異なる量の水分を負荷し、水分負荷後のニコチン酸メチルの透過性を評価した。測定は、24〜25℃、相対湿度40〜50%の環境可変室で、20分順化した後に行った。
【0054】
2.5cm×2.5cmのメンバンカット綿(白十字社製)に、脱脂綿1cm
2当たりの水分負荷量が0mL(0mL/cm
2)、0.02mL(0.02mL/cm
2)、0.04mL(0.04mL/cm
2)、0.20mL(0.20mL/cm
2)となるように蒸留水を含ませ、これを前腕内側にのせ透湿性絆創膏(商品名:スキナゲート)で周囲を固定し3時間貼付した。メンバンカット綿から水分が漏れるのを防ぐため、メンバンカット綿の皮膚と接しない面はドレッシング材(商品名:テガダーム
TM トランスペアレント ドレッシング)で覆い、貼付中に皮膚が蒸れるのを防ぐためドレッシング材は注射針29G(TERUMO, Japan)で1cm
2当たり8個、穴をあけた。メンバンカット綿を貼付している間、試験参加者には運動や屋外での長時間の作業は禁止した。
【0055】
メンバンカット綿を除去した直後に、0.007質量%ニコチン酸メチル水溶液5.0μLを含ませた、直径5mmにくり抜いたろ紙(商品名:Advantec No2)を試験部位に15秒間負荷した。ニコチン酸メチルの負荷から30分後に、生じた紅斑を下記の評価基準に従い目視判定を行った。
目視判定により得られた紅斑スコアから、各水分負荷量でのニコチン酸メチルの透過性を評価した。統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
その結果を表1に示す。
(評価基準)
スコア0 :反応なし。
スコア0.5:若干紅い。
スコア1 :ろ紙の面積の半分以上紅い。
スコア2 :ろ紙を当てた面積がはっきり紅い。
スコア3 :ろ紙の面積より大きく紅い。
スコア4 :紅みがろ紙の面積より大きく、腫れている。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、水分の負荷量が0.00mL/cm
2又は0.02mL/cm
2の場合と比較して、0.04mL/cm
2又は0.20mL/cm
2の水分を負荷することで、ニコチン酸メチルによる紅斑スコアが有意に上昇した。すなわち、一定量以上の水分を皮膚に負荷することで、ニコチン酸メチルの皮膚への透過性が有意に亢進した。
本試験例の健常なヒトの前腕において、水分の負荷量が少なくとも0.04mL/cm
2の場合に皮膚バリア機能が低下していると判断することができる。よって、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合の皮膚の状態を、皮膚のバリア機能を評価するための基準状態とすることができる。
【0058】
負荷されたニコチン酸メチルが皮膚へ浸透又は通過し、末梢血管に働きかけ血管拡張作用を示すと、皮膚上で紅斑が観察される。表1に示すように、水分負荷前の皮膚(水分負荷量:0mL/cm
2)では、ニコチン酸メチルを負荷しても紅斑は観察されにくい。これは、ニコチン酸メチルが皮膚内へ浸透されにくく、末梢血管まで到達できないためと考えられる。すなわち、水分負荷前の皮膚では、バリア機能が維持されていると推察できる。一方、一定量以上の水分負荷後の皮膚では、ニコチン酸メチルの負荷によって紅斑が観察される。この結果から、水分を負荷することでニコチン酸メチルが皮膚へ浸透又は通過した、すなわち皮膚のバリア機能が低下したと判断できる。
【0059】
(2)皮膚静電容量測定装置を用いた皮膚水分量の測定
2.5cm×2.5cmのメンバンカット綿(白十字社製)に、脱脂綿1cm
2当たりの水分負荷量が0mL(0mL/cm
2)、0.01mL(0.01mL/cm
2)、0.02mL(0.02mL/cm
2)、0.03mL(0.03mL/cm
2)、0.04mL(0.04mL/cm
2)、0.06mL(0.06mL/cm
2)、0.10mL(0.10mL/cm
2)、0.20mL(0.20mL/cm
2)となるように蒸留水を含ませ、これを前記被験者の前腕内側にのせ透湿性絆創膏(商品名:スキナゲート)で周囲を固定し3時間貼付した。メンバンカット綿から水分が漏れるのを防ぐため、メンバンカット綿の皮膚と接しない面はドレッシング材(商品名:テガダーム
TM トランスペアレント ドレッシング)で覆い、貼付中に皮膚が蒸れるのを防ぐためドレッシング材は注射針29G(TERUMO, Japan)で1cm
2当たり8個、穴をあけた。メンバンカット綿を貼付している間、試験参加者には運動や屋外での長時間の作業は禁止した。
【0060】
メンバンカット綿の貼付前と、メンバンカット綿の除去直後に、メンバンカット綿を貼付した部位の皮膚の水分量を皮膚静電容量測定装置(商品名:コルネオメーター CM-825、Courage+Khazaka Germany社製)で測定した。そして、メンバンカット綿の除去直後の値から、メンバンカット綿の貼付前の値を差し引いた値を算出し、角層水分量の変化量を測定した。統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、水分の負荷量が0mL/cm
2から0.06mL/cm
2までの間は、皮膚の水分量は水分の負荷量に依存的に増加した。特に、水分の負荷量が0.03mL/cm
2以上の場合、皮膚の水分量は有意に増加した。一方、水分の負荷量が0.06mL/cm
2以上の場合は、皮膚の水分量はほぼ一定の数値となった。
以上の結果から、水分の負荷量が一定量に達するまでは、皮膚の水分量は水分の負荷量に依存して増加する。特に、水分の負荷量が一定値以上増えると皮膚の水分量は有意に増加する。
さらに前述のように、水分の負荷量が少なくとも0.04mL/cm
2の場合に皮膚バリア機能が低下していると判断でき、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合の皮膚の状態を皮膚のバリア機能を評価するための基準状態とした。よって、この基準状態での皮膚水分量の変化量を、本発明の評価方法における基準値とすることができる。
【0063】
(3)共焦点ラマン分光顕微鏡を用いた皮膚水分量の測定
2.5cm×2.5cmのメンバンカット綿(白十字社製)に、脱脂綿1cm
2当たりの水分負荷量が0mL(0mL/cm
2)、0.02mL(0.02mL/cm
2)、0.04mL(0.04mL/cm
2)、0.20mL(0.20mL/cm
2)となるように蒸留水を含ませ、これを前記被験者の前腕内側にのせ透湿性絆創膏(商品名:スキナゲート)で周囲を固定し3時間貼付した。メンバンカット綿から水分が漏れるのを防ぐため、メンバンカット綿の皮膚と接しない面はドレッシング材(商品名:テガダーム
TM トランスペアレント ドレッシング)で覆い、貼付中に皮膚が蒸れるのを防ぐためドレッシング材は注射針29G(TERUMO, Japan)で1cm
2当たり8個、穴をあけた。メンバンカット綿を貼付している間、試験参加者には運動や屋外での長時間の作業は禁止した。
【0064】
メンバンカット綿の貼付前と、メンバンカット綿の除去直後に、メンバンカット綿を貼付した部位の皮膚の水分量を共焦点ラマン分光顕微鏡(商品名:ナノファインダー30、東京インスツルメンツ社製)で測定した。なお測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
励起波長:633nm
積算時間:3秒/1スペクトル
回析格子:150本/mm
対物レンズ:100倍、油浸、NA=1.3(ニコン)
深さ方向スキャン条件:2μm間隔で計21点
1部位あたり5回測定
【0065】
共焦点ラマン分光顕微鏡を用いた測定で得られたラマンスペクトルから水分量を近似的に算出する方法は、特開2012−50739号公報に記載の方法を参照して行った。
さらに、IFSCC Magazine, 2009, vol. 12(1), p. 9-15に記載の方法に準じて、ラマン分光法により取得した水分プロファイルを2本の1次直線で近似し、その交点までの深さを初期の角層厚(メンバンカット綿の貼付前の角層厚)として定義した。
【0066】
次に、深さ方向の皮膚内の水分量分布をグラフにプロットした。その結果を
図2(a)〜(d)に示す。
図2(a)〜(d)に示すグラフにおいて、X軸は皮膚の深さ(μm)、Y軸は水分量(%)を示す。
図2(a)に示すグラフより求められた水分負荷前の平均の角層厚は13μmであった。そして、
図2(b)に示すように、水分負荷量が0.02mL/cm
2の場合、水分負荷前と比較して、水分負荷前の角層厚に相当する13μmまでの領域で、皮膚の水分量の増加を確認したが、水負荷前の角層厚よりも深いところの水分量の増加は確認されなかった。
一方で、紅斑スコアに関する前述の実験結果において皮膚のバリア機能が低下し、物質の浸透性の亢進が観察された、水負荷量が0.04mL/cm
2以上の場合、水分負荷前の初期の角層厚よりも深いところの皮膚の水分量が増加した(
図2(c)及び(d)参照)。水分負荷前の角層厚よりも深いところの水分量が増加することは、角層が膨潤したためと推察でき、より物質が浸透しやすくなったと評価できる。
よって、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するための指標として、水分分布を用いて初期の角層厚よりも深部の水分量の差を用いることができる。
【0067】
表面水分量(深さ2μmにおける水分量)の変化量(Δ表面水分量)を算出した。
なお、対物レンズの窓材と皮膚の境界(皮膚のはじまり)を区別して皮膚の表面位置を決定するため、皮膚に含まれるタンパク質のCH伸縮振動由来の信号を目安にした。以下、その詳細を説明する。
ラマンスペクトルのタンパク質のCH伸縮振動由来の信号強度は、前述のように、対物レンズの窓材と皮膚の境界よりやや皮膚側で最大値を示した後に、深部にいくほど信号強度が低下する。窓材にはタンパク質のCH伸縮振動由来の信号は存在しないため、レーザーの焦点が窓材の内にあるときはCH伸縮振動由来の信号強度は0になる。一方、皮膚内にレーザーの焦点があるときのCH伸縮振動由来の信号強度を100とすると、窓材と皮膚の界面に焦点がきた場合、CH伸縮振動由来の信号強度は50となる。ただし、実際には窓材にはCH伸縮振動由来の信号強度が弱いながらも検出されることがある。よって、本発明で測定に用いた共焦点ラマン分光装置であるナノファインダーの空間分解能を考慮し、実際に測定した値である表面から深さ2μmの部位の水分量を「表面水分量」とした。
その結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、水負荷前後の表面水分量が変化した。具体的には、水負荷量が0.02mL/cm
2では、水分負荷後の表面水分量(%)は水分負荷前と比較して1.39倍に増加した。同様に、前述の基準状態とした、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合では、水分負荷後の表面水分量(%)は水分負荷前と比較して2.40倍に増加し、水分負荷量が0.20mL/cm
2では2.99倍に増加した。
よって、本発明の評価方法における基準値として、皮膚表面の水分量も用いることができる。
【0070】
さらに、水分負荷前後の、皮膚表面から深さ13μmの初期の角層厚に相当する深さの水分量の変化量(Δ深さ13μmの水分量)についても算出した。その結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示すように、負荷する水分量に応じて、水負荷前の角層の厚さに相当する深さ13μmにおける水分量が変化した。水負荷前後の深さ13μmの水分量を比較した場合も物質浸透性が亢進した水負荷量0.04mL/cm
2以降で増加し、すなわち、初期の角層厚に相当する部位の深さの水分量が増加したことがわかった。
よって、本発明の評価方法における基準値として、初期の角層厚に相当する深さの部位の水分量の変化量も用いることができる。
【0073】
次に、皮膚表面からの深さ1μmから水負荷前の初期の角層厚に相当する13μmの深さまでの水分量の曲線下面積(Area Under the Curve (AUC) of water profile 1−13μm)の結果を表5に示す。統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示すように、水負荷前後の皮膚表面からの深さ1μmから13μmまでの深さの水分量の曲線下面積が変化した。具体的には、水負荷量が0.02mL/cm
2では、水分負荷後の水分量の曲線下面積は水分負荷前と比較して1.20倍に増加した。同様に、前述の基準状態とした、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合では、水分負荷後の水分量の曲線下面積は水分負荷前と比較して1.59倍に増加し、水分負荷量が0.20mL/cm
2では1.83倍に増加した。
よって、本発明の評価方法における基準値として、皮膚表面からの所定の深さまでにおける皮膚の水分量の曲線下面積も用いることができる。
【0076】
表3〜5に示す結果より、物質の浸透性が亢進していない水負荷量0.02mL/cm
2の場合の表面水分量、深さ13μmの水分量又は水分量の曲線下面積の変化量と比べて、皮膚のバリア機能が低下し、物質浸透性が亢進した水負荷量0.04mL/cm
2以降では表面水分量、深さ13μmの水分量又は水分量の曲線下面積の変化量が大きく増加したことで、水溶性物質が分配されやすくなり、より浸透しやすくなった可能性が推察できた。
【0077】
以上のように、コルネオメーターやラマン分光法などで非侵襲的に測定した皮膚の水分量や水分分布から、水負荷量がある一定値以上増加すると物質の透過性が亢進することがわかった。すなわち、コルネオメーターやラマン分光法などで非侵襲的に測定した皮膚の水分量や水分分布から、基準状態における皮膚水分量又は水分分布との比較により、物質の透過性、すなわち皮膚のバリア機能を評価することができる。
【0078】
試験例2 吸収性物品の性能比較試験
(1)皮膚への水分の負荷
健常な女性1名(30代)を被験者とし、吸収性物品が前腕内側の皮膚へ与える影響を評価した。測定は24〜25℃、相対湿度40〜50%の環境可変室で、20〜30分順化した後に行った。
【0079】
(2)コルネオメーターを用いた皮膚水分量の測定
2種類の吸収性物品(吸収性物品A及び吸収性物品B)を5.0cm×5.0cmに切断して試験片を調製し、それぞれに生理食塩水3.0mLを注入し(0.12mL/cm
2試験片面積)、それらを前腕内側に3時間貼付した。なお、吸収性物品Aは市販の使い捨ておむつであり、吸収性物品Bは市販の綿製のおむつである。
試験片貼付前後の皮膚水分量を、試験例1と同様コルネオメーターで測定し、試験片貼付前後の皮膚水分量の変化量を算出した。その結果を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合、皮膚水分量が増加していた。
また、吸収性物品Aを貼付した場合の皮膚水分量の変化量は、試験例1において基準値とした、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合の皮膚水分量の変化量(19.8±8.6(A.U))よりも少なかった。よって、吸収性物品Aを貼付しても、バリア機能は変化していないと評価できる。一方、吸収性物品Bを貼付した場合の皮膚水分量の変化量は、前記基準値よりも多いので、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下すると評価できる。
【0082】
(3)共焦点ラマン分光顕微鏡を用いた皮膚水分量の測定
試験例1と同様に、皮膚表面から40μmまで、深さ方向に2μm間隔毎にラマンスペクトルを測定した。このようにして測定し特開2012−50739号公報に記載の方法に従って水分量を近似的に算出し、深さ方向の皮膚内の水分量分布の値をグラフにプロットした。その結果を
図3に示す。
【0083】
図3に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合、皮膚水分量が増加していた。また同様に、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合、水分負荷前の初期の角層厚よりも深いところの水分量が増加した。
よって、水分分布を用いて初期の角層厚よりも深部の水分量の差からも、吸収性物品Aを貼付してもバリア機能は変化しないのに対し、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下する、と評価できる。
【0084】
さらに、
図3に示す水分プロファイルから、表面水分量(皮膚表面からの深さ2μmの部位の水分量)を算出した。その結果を表7に示す。
【0085】
【表7】
【0086】
表7に示すように、水負荷前後の表面水分量(%)は吸収性物品Aの貼付後は貼付前と比較して、1.19倍増加した。これに対して吸収性物品Bの貼付後は貼付前と比較して、2.86倍増加した。
また、吸収性物品Aを貼付した場合の表面水分量は、試験例1において基準値とした、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合の表面水分量の増加分(2.40倍)よりも小さかった。よって、吸収性物品Aを貼付しても、バリア機能は変化していないと評価できる。一方、吸収性物品Bを貼付した場合の表面水分量の増加分は、前記基準値よりも大きいので、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下すると評価できる。
【0087】
次に、
図3に示す水分プロファイルから、皮膚表面から深さ13μmの初期の角層厚に相当する深さの水分量の変化量(Δ深さ13μmの水分量)を算出した。その結果を表8に示す。
【0088】
【表8】
【0089】
表8に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合、深さ13μmにおける水分量が大きく増加した。
また、吸収性物品Aを貼付した場合の初期の角層厚に相当する深さの水分量の変化量は、試験例1において基準値とした、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合の初期の角層厚に相当する深さの水分量の変化量(9.21±9.2(%))よりも少なかった。よって、吸収性物品Aを貼付しても、バリア機能は変化していないと評価できる。一方、吸収性物品Bを貼付した場合の初期の角層厚に相当する深さの水分量の変化量は、前記基準値よりも多いので、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下すると評価できる。
【0090】
さらに、
図3に示す水分分布から、試験片貼付前後の皮膚表面からの深さ1μmから13μmの深さまでの水分量の曲線下面積(AUC of water profile 1−13μm)を算出した。その結果を表9に示す。
【0091】
【表9】
【0092】
表9に示すように、水負荷前後の皮膚表面からの深さ1μmから13μmまでの深さの水分量の曲線下面積は吸収性物品Aの貼付後は貼付前と比較して、1.08倍増加した。これに対して吸収性物品Bの貼付後は貼付前と比較して、1.89倍増加した。
また、吸収性物品Aを貼付した場合の曲線下面積の変化量は、試験例1において基準値とした、水分負荷量が0.04mL/cm
2の場合の曲線下面積の増加分(1.59倍)よりも小さかった。よって、吸収性物品Aを貼付しても、バリア機能は変化していないと評価できる。一方、吸収性物品Bを貼付した場合の曲線下面積の増加分は前記基準値よりも大きいので、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下すると評価できる。
【0093】
(4)物質透過性の評価
試験片を除去した直後に、0.007質量%の濃度のニコチン酸メチル水溶液を15秒、試験片を貼付した皮膚に負荷し、ニコチン酸メチル処理から20分後の紅斑スコアを試験例1と同様にして目視判定した。
その結果を表10に示す。
【0094】
【表10】
【0095】
表10に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合紅斑スコアが上昇し、ニコチン酸メチルの透過性が亢進していた。
【0096】
上記結果に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合、コルネオメーターによる皮膚の水分量の増加、並びにラマン分光法で測定した皮膚の表面水分量の増加、深さ13μmにおける水分量の増加、及び皮膚表面からの深さ1μmから13μmまでの水分量の曲線下面積の増加はいずれも、基準とする水分分布に比べて小さいと評価できた。よって、皮膚の水分量吸収性物品Aを貼付した場合は、水溶性物質の透過性が低いと判断される。吸収性物品Aを貼付して水溶性物質の透過性を実際に判定したところ、皮膚の外側から内側への水溶性物質の透過性が低かった。すなわち吸収性物品Aは、上記結果から、水溶性物質の皮膚への透過性は亢進されず、皮膚トラブルを起こしにくい吸収性物品であると言える。
【0097】
一方、吸収性物品Bを貼付した場合、コルネオメーターによる皮膚の水分量の増加、並びにラマン分光法で測定した皮膚の表面水分量の増加、深さ13μmにおける水分量の増加、及び皮膚表面からの深さ1μmから13μmまでの水分量の曲線下面積の増加はいずれも、基準とする水分分布に比べて大きいと評価できた。よって、吸収性物品Bを貼付した場合は、水溶性物質の透過性が高いと判断される。吸収性物品Bを貼付して水溶性物質の透過性を実際に判定したところ、驚くべきことに皮膚の外側から内側への水溶性物質の透過性が上昇していたことがわかった。すなわち吸収性物品Bは、水溶性物質の皮膚への透過性が亢進され、皮膚トラブルを起こす可能性がある吸収性物品であると言える。
【0098】
以上より、本発明の方法に従って被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させ、接触前後の皮膚の水分量又は水分分布を測定した結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価する方法として有効であることが確認できた。
【0099】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
皮膚の水分量又は水分分布と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮膚の水分量又は水分分布が、前記基準値として設定されたものである、